説明

AlGaN酸化膜を有する半導体装置、及び、その製造方法

【課題】 AlGaN層上に容易に絶縁膜を形成することができる技術を提供する。
【解決手段】 AlGaN層と、AlGaN層の表面に形成されたAlGaN酸化膜とを備えている半導体装置の製造方法であって、アルカリ溶液48中にAlGaN層を有する基板40と陰極44とを浸した状態で、AlGaN層と陰極44との間にAlGaN層がプラスとなる電圧を印加するとともに、AlGaN層に紫外線を照射する酸化ステップを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
AlGaN層を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、AlGaN層と、AlGaN層上に形成されたSiOからなるゲート絶縁膜を有する半導体装置が開示されている。SiOの他にも、AlGaN層の表面に形成することができる絶縁膜として、Al、SiN等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−050280号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した材質の絶縁膜は、CVD法によりAlGaN層上に形成される。CVD法では、チャンバ内を真空引きする等の処理に時間がかかるため、絶縁膜を形成するのに長時間を要する。また、CVD法を行うためには大掛かりな装置が必要となる。このように、従来の方法では、AlGaN層上に絶縁膜を形成するのが容易ではなかった。したがって、本明細書では、AlGaN層上に容易に絶縁膜を形成することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書は、AlGaN層と、AlGaN層の表面に形成されたAlGaN酸化膜とを備えている半導体装置の製造方法を提供する。この製造方法は、アルカリ溶液中にAlGaN層を有する基板と陰極とを浸した状態で、AlGaN層と陰極との間にAlGaN層がプラスとなる電圧を印加するとともに、AlGaN層に紫外線を照射する酸化ステップを有している。
【0006】
AlGaN層に紫外線を照射すると、AlGaN層中にホールが生成される。すると、ホールと、アルカリ溶液中のOH基と、AlGaN層とが反応して、AlGaN層が酸化する。これによって、絶縁膜であるAlGaN酸化膜が形成される。この方法によれば、常温、常圧、またはこれに比較的近い条件下でAlGaN層を酸化させることができる。AlGaN層を酸化させるのに、大掛かりな装置が不要であり、また、短時間でAlGaN層を形成することができる。したがって、AlGaN層上に簡単に絶縁膜を形成することができる。
【0007】
上述した製造方法においては、酸化ステップ中に、陰極から基板に向かって流れる電流を積分することが好ましい。積分することにより得られる積分値は、AlGaN酸化膜の厚さと略比例する。したがって、積分値を算出することで、AlGaN酸化膜の厚さを容易に管理することができる。
【0008】
また、本明細書は、AlGaN層と、AlGaN層の表面に形成されたAlGaN酸化膜とを備えている半導体装置を提供する。この半導体装置は、上述した方法により容易に製造することができる。
【0009】
上述した半導体装置では、AlGaN酸化膜がゲート絶縁膜であってもよい。また、半導体装置がAlGaN層に接するGaN層をさらに有しており、GaN層とAlGaN層とAlGaN酸化膜が、HEMT(High Electron Mobility Transistor)の一部を構成していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】HEMT10の断面図。
【図2】PEC酸化処理前の半製品40の断面図。
【図3】PEC酸化処理の説明図。
【図4】PEC酸化処理において、電源52の印加電圧に応じた電流Iの変化を示すグラフ。
【図5】PEC酸化処理の時間を変更したときのドレイン電流−ドレイン電圧特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
図1に示すHEMT10は、半導体層12を備えている。半導体層12には、GaN層16と、AlGaN層18が形成されている。GaN層16は、i型のGaNにより構成されている。AlGaN層18は、GaN層16上に形成されている。AlGaN層18は、n型のAl0.25Ga0.75Nにより構成されている。AlGaN層18とGaN層16との境界には、ヘテロ接合部20が形成されている。ヘテロ接合部20の近傍のGaN層16内には、ヘテロ接合部20に沿って2次元電子ガスが形成されている。AlGaN層18上には、ソース電極22とドレイン電極24が形成されている。ソース電極22とドレイン電極24は、AlGaN層18と導通している。また、AlGaN層18上には、ゲート絶縁膜26が形成されている。ゲート絶縁膜26は、AlGaN酸化膜により形成されている。ゲート絶縁膜26は、ソース電極22とドレイン電極24の間の領域に形成されている。ゲート絶縁膜26上には、ゲート電極28が形成されている。
【0012】
ゲート電極28にゲート閾値電圧より高い電圧が印加されていると、ヘテロ接合部20の全体に2次元電子ガスが存在しており、ソース電極22とドレイン電極24の間に電流が流れる。すなわち、HEMT10はオン状態となっている。ゲート電極28にゲート閾値電圧より低い電圧が印加されていると、ゲート電極28の直下の2次元電子ガスが消失する。したがって、ソース電極22とドレイン電極24の間に電流が流れない。すなわち、HEMT10はオフ状態となる。
【0013】
次に、HEMT10の製造方法について説明する。まず、従来公知の方法によりGaN層16、AlGaN層18、ソース電極22及びドレイン電極24を形成することによって、図2に示す半製品40を製造する。なお、ゲート絶縁膜26を形成すべき範囲に開口部32が形成されるように、AlGaN層18、ソース電極22及びドレイン電極24上にフォトレジスト30を形成しておく。
【0014】
次に、PEC(Photo Electro Chemical)酸化処理によって、ゲート絶縁膜26を形成する。PEC酸化処理では、図3に示すように、ガラス基板42上に半製品40が固定される。半製品40は、GaN層16がガラス基板42に接触するように固定される。このとき、GaN層16に配線が接続される。次に、電源52のプラス端子に、半製品40に接続した配線を接続する。また、Pt(プラチナ)からなる陰極44を、電源52のマイナス端子に接続する。次に、半製品40と陰極44を、容器内に貯められた溶液48中に浸す。溶液48は、3%酒石酸とプロピレングリコールとを約1:2の割合で混合した溶液である。次に、電源52によって、半製品40と陰極44の間に半製品40がプラスとなる電圧を印加する。さらに、UVランプ54によって、開口部32内の半導体層に紫外線を照射する。紫外線はAlGaN層18及びGaN層16のバンドギャップより大きいエネルギーを有するので、紫外線によって励起されることによってAlGaN層18中及びGaN層16中にホールが生成される。生成されたホールは、AlGaN層18と陰極44の間に印加されている電圧によって、AlGaN層18の表面側(開口部32側)に移動する。すると、AlGaN層18の表面で、以下の化1、化2に示す反応が生じる。
(化1)2GaN+6h→2Ga3++N
(化2)2AlN+6h→2Al3++N
すなわち、AlGaN層18中のGaNがホール(h)と反応することでGa3+イオンが生成され、AlGaN層18中のAlNがホール(h)と反応することでAl3+イオンが生成される。Ga3+イオンとAl3+イオンは、AlGaN層18中のAlとGaの比率と略等しい比率で生成される。生成されたAl3+イオンとGa3+イオンは、以下の化3、化4に示すように、溶液48中のOH基と反応する。
(化3)2Ga3++6OH→Ga+3H
(化4)2Al3++6OH→Al+3H
すなわち、Ga3+イオンがOH基と反応することでGaが生成され、Al3+イオンがOH基と反応することでAlが生成される。これによって、AlGaN層18の表面に、AlGaN層18が酸化したAlGaN酸化膜(すなわち、GaとAlにより構成される膜)が形成される。形成されたAlGaN酸化膜が、図1のゲート絶縁膜26となる。上述したように、Ga3+イオンとAl3+イオンはAlGaN層18中のAlとGaの比率と略等しい比率で生成されるので、ゲート絶縁膜26中におけるGaとAlの比率はAlGaN層18中のGaとAlの比率と略等しい。
【0015】
なお、図3に示すように、半製品40と電源52の間には電流計60が設置されている。電流計60により、半製品40から陰極44に向かって流れる電流が検出される。電流計60は、検出された電流値を積分して、陰極44から半製品40に供給された電荷量を算出する。この電荷量は、上述した化1及び化2に示す反応において使用されるホールの量と略等しい。すなわち、電流計60で算出される電荷量は、形成中のゲート絶縁膜26の膜厚と略比例する。したがって、電流計60で算出される電荷量を基準としてPEC酸化処理を終了させることで、ゲート絶縁膜26の膜厚を正確に制御することができる。
【0016】
また、図3に示すように、溶液48中には、参照電極46が浸されている。参照電極46は、電圧計58を介して電源52のプラス端子に接続されている。電圧計58によって、溶液48の電位が検出される。
【0017】
ゲート絶縁膜26を形成したら、半製品40をガラス基板42から取り外す。次に、エッチングによりフォトレジスト30を除去する。これによって、図1に示すHEMT10が完成する。
【0018】
図4は、PEC酸化処理において、電源52の印加電圧と、電流計60で検出される電流Iの関係を示している。図4の横軸はPEC酸化処理の開始時点からの経過時間を示しており、縦軸は電流Iを示している。図4の横軸の0〜240secの期間内において電源52の印加電圧は−1Vから5Vまで徐々に増加しており、240sec以降は電源52の印加電圧は5Vに維持されている。電流Iは、ゲート酸化膜26の成長速度と略一致する。図4に示すように、200secを過ぎたところ(電源52の印加電圧が4.3Vを超えたところ)で、電流Iが急激に増加する。これは、以下のような現象が生じるためだと考えられる。すなわち、水溶液48中の電位は、陰極44の電位と略等しい。したがって、電源52の印加電圧が低い場合には、水溶液48とGaN層16の間に電位差があまり生じない。このため、電源52の印加電圧が低いと、ヘテロ接合部20には2次元電子ガスが高濃度に存在していると考えられる。したがって、紫外線照射によりホールが生成されても、生成されたホールが即座に2次元電子ガスと再結合して消滅してしまい、AlGaN層18の表面までホールが到達し難いと考えられる。このため、AlGaN層18の表面で、上記化1〜化4の反応が生じ難く、ゲート絶縁膜26の成長速度が遅いと考えられる。印加電圧が4.3Vを超えると、水溶液48の電位がGaN層16の電位よりも十分に低くなる。これによって、開口部32に近い位置の2次元電子ガスが減少し、ホールがAlGaN層18の表面に到達するようになり、ゲート絶縁膜26の成長速度が急に速くなると考えられる。したがって、電源52の印加電圧は4.3V以上であることが好ましい。
【0019】
また、図5は、PEC酸化処理の時間をそれぞれ異ならせてHEMTを製造したときの、各HEMTのドレイン電圧−ドレイン電流特性を示している。なお、図5の特性は、ゲート電極28を形成する前に測定されているので、ゲート電圧が印加されていないときの特性を示している。図5に示すように、PEC酸化処理時間を変化させることで、ドレイン電圧−ドレイン電流特性が変化することがわかる。このようにドレイン電圧−ドレイン電流特性が変化する理由は、PEC酸化処理時間に応じて、AlGaN層18の厚さが変化し、2次元電子ガスの濃度が変化するためである(すなわち、PEC酸化処理時間が長いほど、酸化されるAlGaNが多くなるので、ゲート絶縁膜26の下方のAlGaN層18は薄くなる。AlGaN層18が薄くなるほど、その下方の2次元電子ガスの濃度は低下する。)。この実験例では、PEC酸化処理時間が350secを超えると、HEMTがノーマリオフとなることが分かる。このように、本実施例のPEC酸化処理によれば、ゲート絶縁膜26の厚さを細かく制御することができる。これにより、HEMTの特性を細かく制御することができる。
【0020】
以上に説明したように、実施例の技術によれば、AlGaN酸化膜からなるゲート絶縁膜26を形成することができる。PEC酸化処理は、常温常圧に近い環境で実施することができるので、大掛かりな装置を用いることなく容易に、しかも、短時間でゲート絶縁膜26を形成することができる。なお、従来は、熱酸化法等によりAlGaN層を酸化させることが試みられていたが、熱酸化法ではAlGaN層全体が酸化してしまう。一方、PEC酸化処理によれば、AlGaN層の表面だけを酸化させることができる。このため、この方法によれば、AlGaN層上にAlGaN酸化層が形成された構造を実現することができる。そのうえ、PEC酸化処理によれば、AlGaN酸化膜の厚さを細かく制御することができる。したがって、HEMTの特性を制御することができる。
【0021】
また、AlGaN層上にSiO等のゲート絶縁膜が形成された従来のHEMTでは、AlGaN層とゲート絶縁膜との界面における界面準位密度を制御することが不可能であり、界面準位密度が極めて大きくばらつく。このため、従来のHEMTは、オン電圧のばらつきが大きいという問題を有していた。実施例の方法によれば、AlGaN層上に、AlGaN層と略同じ比率でAlとGaを含有するAlGaN酸化膜を形成することができる。すなわち、AlGaN層と近い組成の絶縁膜をAlGaN層上に形成することができる。このため、AlGaN層と絶縁膜との界面における界面準位密度が低減されることが期待される。これにより、HEMTのオン電圧やゲート閾値電圧のばらつきが抑制されることが期待される。
【0022】
なお、上述した実施例では、PEC酸化処理において、3%酒石酸とプロピレングリコールとを約1:2の割合で混合した溶液を用いたが、他のアルカリ溶液を用いてもよい。PEC酸化処理に用いる溶液としては、PEC酸化処理中にイオン濃度が変化し難いアルカリ溶液が適している。例えば、NaOH水溶液やKOH水溶液等を用いてもよい。
【0023】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0024】
10:HEMT
12:半導体層
16:GaN層
18:AlGaN層
20:ヘテロ接合部
22:ソース電極
24:ドレイン電極
26:ゲート絶縁膜
28:ゲート電極
30:フォトレジスト
40:半製品
42:ガラス基板
44:陰極
46:参照電極
48:溶液
52:電源
54:UVランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlGaN層と、AlGaN層の表面に形成されたAlGaN酸化膜とを備えている半導体装置の製造方法であって、
アルカリ溶液中にAlGaN層を有する基板と陰極とを浸した状態で、AlGaN層と陰極との間にAlGaN層がプラスとなる電圧を印加するとともに、AlGaN層に紫外線を照射する酸化ステップを有していることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
酸化ステップ中に、陰極から基板に向かって流れる電流を積分することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
AlGaN層と、AlGaN層の表面に形成されたAlGaN酸化膜とを備えている半導体装置。
【請求項4】
AlGaN酸化膜がゲート絶縁膜であることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
AlGaN層に接するGaN層をさらに有しており、
GaN層とAlGaN層とAlGaN酸化膜が、HEMTの一部を構成していることを特徴とする請求項3または4に記載の半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−60066(P2012−60066A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204479(P2010−204479)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】