説明

CVD−SiC成形体の洗浄方法

【課題】CVD−SiC成形体の加工面の傷や加工時に生じる不純物などを効果的に除去する洗浄方法を提供すること。
【解決手段】CVD法により作製したSiC成形体を所望の形状に加工した後、酸洗浄し、次いで、(1)該CVD−SiC成形体を陽極として2.0V以上の正電位を印加して表面に二酸化ケイ素の膜を形成する電解研磨処理、(2)引き続き、フッ化水素酸系の酸により二酸化ケイ素膜の溶解除去処理、を施した後、純水で洗浄し、乾燥することを特徴とするCVD−SiC成形体の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度で耐熱性、緻密性、耐食性、強度特性などに優れ、例えば、エピタキシャル成長、プラズマエッチング処理、CVD処理などの半導体製造用の各種部材をはじめとして種々の熱処理用の部材として有用されるCVD法により製造されるSiC成形体の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは耐熱性、耐食性、強度特性などの材質特性に優れており、各種工業用の部材として広く用いられている。特に、CVD法(化学的気相蒸着法)を利用して製造したSiC成形体(CVD−SiC成形体)は高純度で緻密なものが得られるので、半導体製造用の各種部材をはじめ高純度が要求される用途において好適に用いられている。
【0003】
CVD−SiC成形体は原料ガスを気相反応させて基材面上にSiCの結晶粒を析出させ、次いで結晶粒の成長によりSiC被膜を生成したのち基材を除去することにより製造され、材質的に高純度、緻密で組織の均質性が高いという特徴がある。
【0004】
このCVD−SiC成形体は用途に応じて必要な形状に加工して使用に供されるが、材質が緻密で硬質であるため、研削・研磨する機械加工、放電加工、超音波加工などにより加工処理されている。
【0005】
この際、加工面には加工による傷が発生したり、金属成分などの不純物が付着・残留し易く、半導体製造用の部材とするにはこれらの傷や不純物を除去する必要がある。不純物の除去は、通常はフッ酸やフッ硝酸などのフッ化水素酸系の酸溶液中に浸漬して洗浄する(例えば、特許文献1)が、十分なものではない。
【0006】
また、特許文献2にはSiCウエハの製造工程においてSiCウエハの表面に付着したCu、Feなどの不純物を除去する方法としてSiCからなるウエハの表層部を酸化したのち、前記表層部を除去することを特徴とするSiCウエハの表面汚染除去方法が、特許文献3には高温酸素雰囲気中で熱処理し、平滑化工程によって生成され、治具の表面に付着したSiCパーティクルをSiOに転化させる熱処理工程と、前記熱処理工程により転化されたSiOを溶解可能な溶液により洗浄する方法が提案されている。
【0007】
特許文献2,3の方法は、酸化してSiCの表面にSiOからなる酸化物層を形成し、酸化物層を酸洗浄などにより除去することによりSiCウエハの表面に付着した汚染物や合金部を酸化物層とともに除去するものである。
【0008】
しかしながら、例えばウエハ加工用の反応ガスをウエハ表面に供給するための多数の小さな穴が穿設加工されたプラズマエッチング電極板のような製品の場合には、穴内部に均一かつ十分に酸化物層を形成することが困難であり、結果的に十分な洗浄効果が期待できないことになる。一方、穴の内部にまで十分に酸化物層を形成させるために長時間酸化すると酸化物層の厚さが厚くなり、酸化物層を除去した後の穴周囲が円錐状にえぐられたような形状となり、穴の形状が不規則になる。その結果、エッチング用の反応ガスの流れも不規則となり、エッチング精度が低下する難点がある。
【0009】
なお、特許文献4にはSiC焼結体を洗浄液に浸漬させた状態で、該SiC焼結体に除去を目的とする金属元素の酸化還元電位よりも正の電位を印加する電位印加工程を含むことを特徴とするSiC焼結体の電解洗浄方法が開示されている。特許文献4は、CVD法により製造されたSiC成形体ではなく、焼結したSiC成形体を対象とし、SiC焼結体の表面および表面近傍に付着した金属不純物をイオン化させて除去するものである。
【特許文献1】特開平03−162593号公報
【特許文献2】特開平10−199848号公報
【特許文献3】特開平11−016993号公報
【特許文献4】特開2000−173968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術における上記の問題点を解決し、CVD−SiC成形体の加工面、特に除去が困難である微細な加工面の傷や加工時に生じる不純物などを効果的に洗浄除去することができ、半導体製造用の各種部材および電子部品に応用可能なCVD−SiC成形体の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明によるCVD−SiC成形体の洗浄方法は、CVD法により作製したSiC成形体を所望の形状に加工した後、酸洗浄し、次いで、
(1)該CVD−SiC成形体を陽極として2.0V以上の正電位を印加して表面に二酸化ケイ素の膜を形成する電解研磨処理、
(2)引き続き、フッ化水素酸系の酸により二酸化ケイ素膜の溶解除去処理、
を施した後、純水で洗浄し、乾燥することを構成上の特徴とする。
【0012】
なお、酸洗浄した加工面に電解研磨処理を施して形成する二酸化ケイ素の膜厚は0.1〜3μmであることが好ましく、また、電解研磨処理および溶解除去処理は2回以上の複数回繰り返すことが好ましく、より好ましくは5〜60回繰り返す。
【発明の効果】
【0013】
本発明のCVD−SiC成形体の洗浄方法によれば、CVD法により作製したSiC成形体を目的とする用途に応じて加工した加工面に生じる傷や金属不純物などの加工屑の付着・残留物を効果的に除去することができ、高純度が要求される半導体用の各種部材や電子部品などを製造する際の洗浄方法として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
CVD法によるSiC成形体の作製は、CVD法により原料ガスを気相反応させて基体面上にSiCを析出させたのち基体を除去して得られるもので、基体には炭素材やセラミック材などが用いられる。基体の除去は基体を切削あるいは研削して除去することができるが、燃焼することにより容易に除去可能な炭素材、例えば高純度黒鉛材などが基体として好ましく用いられる。
【0015】
基体はCVD装置の反応チャンバー内にセットされて加熱し、反応チャンバー内に原料ガスを導入して気相反応により基体面上にSiCを析出させ、所定の厚さにSiC膜を成膜した後、基体を除去することによりSiC成形体が作製される。
【0016】
原料ガスとしてはハロゲン化有機ケイ素化合物が用いられ、例えばCHSiCl、(CHSiCl、CHSiHClなどのハロゲン化有機ケイ素化合物を水素ガスなどのキャリアガスとともに加熱して気相還元熱分解させる方法、あるいはSiClなどのハロゲン化有機ケイ素化合物とCHなどの炭素化合物とを加熱反応させる方法により基体面上にSiCを析出、成膜させた後、基体を除去することによりSiC成形体が作製される。
【0017】
このSiC成形体は、用途に応じて所望の部材形状に加工されるが、CVD−SiC成形体は緻密で硬質であるため、研削・研磨する機械加工、放電加工、超音波加工などの方法により加工する。この際、CVD−SiC成形体の加工面には加工による傷や金属成分が付着し、残留するためこれらを除去する必要がある。
【0018】
この加工面を酸化して加工面に二酸化ケイ素の膜を形成する場合、加工面が微細で複雑な場合には、加工面を酸素ガスなどにより均一に酸化物被膜に転化することが難しい。例えば、プラズマエッチング電極板のようにエッチング用の反応ガスを供給するための微細な穴を多数穿設した場合には、微細な穴の内面を酸化して均一に二酸化ケイ素膜を形成させることが困難である。
【0019】
そこで、本発明は、先ず所望形状に加工したCVD−SiC成形体を酸洗浄して加工時に生成した酸化膜を除去する。酸洗浄は例えば1N以上のフッ化水素酸や硝酸との混酸が用いられる。
【0020】
酸洗浄したCVD−SiC成形体は、これを陽極とし、高純度黒鉛電極を陰極として、陽極に2.0V以上の直流正電位を印加して電解研磨処理する。電解液にはフッ化水素酸を除く硝酸、硫酸、燐酸、塩酸などの無機酸水溶液、あるいはギ酸、酢酸などの有機酸水溶液が用いられ、濃度は10N以下、好ましくは0.5〜1Nである。電解液の濃度が10Nを越えると陽極における酸素の生成反応が抑制されて二酸化ケイ素膜の形成が十分でなく、また濃度が低くなると電解反応が円滑に進行しないためである。
【0021】
印加する正電位が2.0V未満では電解研磨処理の効果が少なく、二酸化ケイ素膜の形成が不十分となり、好適な印加電圧は2.0〜30Vである。なお、この処理により加工面には0.1〜3μmの二酸化ケイ素膜を形成することが好ましい。
【0022】
加工面に形成する二酸化ケイ素の膜厚が0.1μmより薄いと、次の工程である溶解除去処理時に加工面に生じた傷や不純物の除去が不十分となり、また1回の処理で3μm以上の膜厚に形成すると、酸化膜により電解反応が著しく阻害され、電解に必要な時間が長時間となるため適当でない。
【0023】
電解研磨処理により加工面に形成した二酸化ケイ素膜は、次にフッ化水素酸やフッ硝酸などのフッ化水素酸系の酸により溶解除去処理をする。なお、この電解研磨処理および溶解除去処理は、加工面に生じた傷や不純物を完全に除去するために複数回繰り返すことが好ましく、例えば5〜60回繰り返し処理する。
【0024】
これらの処理を施した後、純水で十分に洗浄し、乾燥することによりCVD−SiC成形体の加工面に生じた傷や加工面に付着・残留した金属成分などの不純物を効果的に除去することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0026】
実施例
灰分が20ppm以下の直径420φ、厚さ10mmの黒鉛板(東海カーボン(株)製G330)を基体としてCVD装置の反応管内にセットして加熱した。原料ガスにはメチルトリクロロシラン(MTS)、キャリアガスには水素ガスを使用し、原料ガスの流量を200l/分、原料ガスの濃度を7.5vol%、また窒素ガスの流量は140l/分(窒素ガスの濃度70vol%)、原料ガスの滞留時間(反応時間)36.8秒、反応温度1400℃の条件に設定して、75時間CVD反応させてSiC膜を形成した。
【0027】
その後、黒鉛基体を除去し、研削・研磨加工して直径400φ、厚さ4mmの円板状のSiC成形体を作製した。なお、このCVD−SiC成形体の比重は3.20、電気抵抗率は1.4×10−4Ωmであった。
【0028】
次に、このCVD−SiC成形体を放電加工により穿設加工して、直径0.5φの貫通孔を240個設けた後、1Nのフッ化水素酸水溶液で酸洗浄したのち純水で洗浄し、乾燥した。洗浄処理を施した貫通孔の内壁面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した顕微鏡写真を図1に示した(倍率5000倍)。内壁面には、放電加工の熱衝撃による微小な突起や多数の亀裂が観察される。
【0029】
このCVD−SiC成形体を陽極、高純度黒鉛を陰極として、電解液に濃度の異なる硝酸あるいは硫酸を用い、陽極に印加する正電位を6Vあるいは12Vの条件で、1分間電解研磨処理して、加工面に二酸化ケイ素膜を形成した。
【0030】
次いで、電解研磨処理後のCVD−SiC成形体を、濃度1Nのフッ化水素酸水溶液中に入れて1分間処理して、二酸化ケイ素膜を溶解除去処理した。
【0031】
この電解研磨処理および溶解除去処理を繰り返し行った後、純水で洗浄し、乾燥してCVD−SiC成形体を洗浄した。
【0032】
この時の電気研磨条件を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
これらの洗浄処理を施した貫通孔の内壁面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して、内壁面の粒子構造の電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を図2(RunNo.1)および図3(RunNo.6)に示した。
【0035】
本発明による電解研摩を繰り返すことにより図2及び図3に示すように、貫通孔の内壁面は、放電加工による微小な突起や幅の狭い亀裂が消失することにより、不純物や微小粒子が取り除かれ、起伏の少なくなることが分かる。また、RunNo.1〜9の何れの場合においても貫通孔のエッジ部は、電解研磨後も穴径が拡大することなく、円錐状にえぐられた形状もなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】電解研摩を行う前の貫通孔の内壁面の粒子構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】RunNo.1の貫通孔の内壁面の粒子構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】RunNo.6の貫通孔の内壁面の粒子構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CVD法により作製したSiC成形体を所望の形状に加工した後、酸洗浄し、次いで、(1)該CVD−SiC成形体を陽極として2.0V以上の正電位を印加して表面に二酸化ケイ素の膜を形成する電解研磨処理、
(2)引き続き、フッ化水素酸系の酸により二酸化ケイ素膜の溶解除去処理、
を施した後、純水で洗浄し、乾燥することを特徴とするCVD−SiC成形体の洗浄方法。
【請求項2】
電解研磨処理で形成する二酸化ケイ素の膜厚が0.1〜3μmである請求項1記載のCVD−SiC成形体の洗浄方法。
【請求項3】
電解研磨処理および溶解除去処理を複数回繰り返す、請求項1又は請求項2記載のCVD−SiC成形体の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−13489(P2009−13489A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179645(P2007−179645)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】