説明

FRPの製造方法

【課題】材料収率の向上に寄与するFRPの製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂拡散媒体2を用いて強化繊維基材1に樹脂を注入する工程を有するFRPの製造方法において、前記樹脂拡散媒体2は、少なくとも一端部が密閉されており、かつ、該密閉されている部分の全部または一部を、前記強化繊維基材の一部と重ねて配置するFRPの製造方法に関するものである。また、樹脂拡散媒体2を用いて強化繊維基材1に樹脂を注入する工程を有するFRPの製造方法において、前記強化繊維基材1の少なくとも一端部には、前記樹脂拡散媒体2を配置せず、かつ、該一端部に板材を配置するFRPの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空Resin Transfer Molding(以下、真空RTMと言う)成形法による繊維強化プラスチック(以下、FRPと言う)の製造方法に関し、詳しくは、材料収率の向上に寄与するFRPの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FRPは軽量で高い力学特性を発揮できる材料であり、各種分野に使用されている。FRPの代表的な製造方法として、真空RTM成形法が知られている。真空RTM成形法は、型内に強化繊維基材を配置した後、その型内のキャビティを減圧して、減圧されたキャビティ内圧力と外部圧力との差圧を利用してキャビティ内に樹脂を注入し、注入した樹脂を強化繊維基材に含浸させた後、樹脂を硬化させ、硬化後に脱型してFRPを得る方法である。真空RTM成形法には、上下セットになった金型を使う成形法と、下金型の上に強化繊維基材を設置し、フィルムやゴムシートなどのバッグ材で覆って成形する方法等がある。
【0003】
特許文献1では、型内に強化繊維基材と樹脂拡散媒体を配置し、それら全体をバッグ材で覆って減圧して樹脂を注入・硬化させる方法が開示されている。しかしながら、この方法では、強化繊維基材全体に樹脂が含浸するのに時間がかかる場合、例えば、強化繊維基材の厚みが厚い場合などには、注入された樹脂が強化繊維基材全体に含浸する前に、正規の樹脂含浸経路から外れて、バッグ材のしわのようなキャビティ内の隙間をショートパスして減圧吸引口に到達して、減圧吸引経路を塞ぐなどの問題が生じる。その場合、強化繊維基材の減圧吸引を充分に行うことが出来なくなり、樹脂の未含浸部を残すという問題などがあった。
【0004】
特許文献2、3では、真空RTM成形法の改良方法として、強化繊維基材の端部に流動抵抗の高い領域(樹脂拡散媒体がない領域)を設けて、樹脂のショートパスを防ぐ技術が開示されている。しかしながら、該領域は品位が悪く、成形後のトリミングが必要なため材料収率が低下する問題があった。
【特許文献1】米国特許第4,902,215号明細書
【特許文献2】特開2005−271248号公報
【特許文献3】国際公開第03/101708号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、かかる従来の問題点を解決し、材料収率の向上に寄与するFRPの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明は、以下の構成を採用する。
【0007】
(1)樹脂拡散媒体を用いて強化繊維基材に樹脂を注入する工程を有するFRPの製造方法において、前記樹脂拡散媒体は、少なくとも一端部が密閉されており、かつ、該密閉されている部分の全部または一部を、前記強化繊維基材の端部と重ねて配置するFRPの製造方法。
【0008】
(2)前記樹脂拡散媒体が前記強化繊維基材の最大外形よりも大きいかもしくは略同形状である、(1)に記載のFRPの製造方法。
【0009】
(3)一端部を密閉する手段としてフィルム材または充填材が用いられている、(1)または(2)に記載のFRPの製造方法。
【0010】
(4)前記樹脂拡散媒体としてメッシュ材が用いられている、(1)〜(3)のいずれかに記載のFRPの製造方法。
【0011】
(5)樹脂拡散媒体を用いて強化繊維基材に樹脂を注入する工程を有するFRPの製造方法において、前記強化繊維基材の少なくとも一端部には、前記樹脂拡散媒体を配置せず、かつ、該一端部に板材を配置するFRPの製造方法。
【0012】
(6)前記板材が前記樹脂拡散媒体の厚みと同じである(5)に記載のFRPの製造方法。
【0013】
(7)前記樹脂拡散媒体の上にプレートを配置する、(1)〜(6)に記載のFRPの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記構成を採用することにより、材料収率を向上させることができ、かつ、品位の優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に示す実施態様に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明が、以下に説明する具体的な実施態様に限定される訳ではない。
【0016】
図1は本発明のFRPの製造方法に用いられる製造装置の一例を示す概略図であり、図2は図1のバッグ材内部を示す斜視図である。図1,2において、1は強化繊維基材、2は樹脂拡散媒体、4はピールプライ、9は通気材料、8は注入口、10は吸引口、12はシール材、11はバッグ材であり、それぞれツール板5上に配置されている。また、樹脂ポット6は注入ライン7で注入口8と、真空ポンプ14は吸引ライン13で吸引口10とそれぞれ接続されている。
【0017】
本発明のFRPの製造方法は、図1に示すように、まず、ツール板5上に強化繊維基材1を配置する。強化繊維基材1としては、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維やPBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維などの高強度繊維、高弾性率繊維が好ましい。中でも炭素繊維は、これらの繊維の中でも高強度、高弾性率な強化繊維であるため、優れた力学特性を有するFRPを得ることができるためより好ましい。また強化繊維基材1の断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば、図6に示す(a)矩形、(b)C型、(c)I型のほか、L型、Z型、T型、またはハット型のいずれでもよい。
【0018】
次に、マトリックス樹脂を注入するために必要な成形用副資材を配置する。ここでいう成形用副資材とは、真空RTM成形法において必要なピールプライ4や樹脂拡散媒体2、注入口8、吸引口10などのことである。該強化繊維基材1の上には、成形用副資材としてピールプライ4を配置する。ピールプライ4はナイロンやポリエステルなどの繊維からなる織布であることが好ましく、マトリックス樹脂の流路として配置する樹脂拡散媒体2などが、マトリックス樹脂を硬化した後に、成形品に接着一体化しないようにするために配置されるものである。
【0019】
また、ツール板5の一端側にはマトリックス樹脂の注入口8が設けられているとともに、該注入口8に対応する他端側には強化繊維基材1およびバッグ材11内部を真空吸引する吸引口10が設けられている。注入口8、吸引口10は開口している型材を使用することが好ましく、例えば、アルミ製のCチャンネルを使用することができる。また、樹脂ポット6を注入口8の近くに設置して、注入ライン7で接続させる。注入ライン7は特に限定するものでは無いが、圧力損失を小さくできることから内径が大きい方が好ましい。
【0020】
さらに、マトリックス樹脂を注入口8から強化繊維基材1に導く樹脂拡散媒体2がピールプライ4の上に配置されている。樹脂拡散媒体2としては、樹脂流動抵抗が強化繊維基材1より低ければ特に限定されるものではないが、ポリプロピレン・ナイロンなどの樹脂製や鉄・アルミなどの金属製のメッシュ材を使用することが好ましい。ここでいうメッシュ材とは、網状の形態をしているものであり、例えばメッシュクロス、樹脂網、金網などのことをいう。
【0021】
樹脂拡散媒体2としてメッシュ材を用いた場合、バッグ材11内部を真空吸引してバッグ材11を樹脂拡散媒体2に密着させても、樹脂の流路を確保し、注入されたマトリックス樹脂を強化繊維基材1の全体に導くことができる。また、図1では、強化繊維基材1の上にピールプライ4、樹脂拡散媒体2を配置しているが、含浸性や表面品位などの観点から、強化繊維基材1の下にピールプライ4、樹脂拡散媒体2を配置しても良い。なお、本発明に用いられる樹脂拡散媒体2は、後述のとおり、少なくとも一端部3が密閉されており、当該密閉された部分の全部または一部を、強化繊維基材1の端部3と重ねるように配置するが、強化繊維基材1の上にピールプライ4、樹脂拡散媒体2を配置する場合には、前記密閉された部分の全部または一部が、前記強化繊維基材1の端部3の上部に、また、強化繊維基材1の下にピールプライ4、樹脂拡散媒体2を配置する場合には、前記密閉された部分の全部または一部が、前記強化繊維基材1の端部3の下部に配置すると良い。
【0022】
また、樹脂拡散媒体として、図8に示すような溝を有した樹脂流路付きプレート17を使用したものを用いてもよい。樹脂流路付きプレート17に形成された樹脂流路用の溝18は、成形品に凹凸が転写されなければ特に限定されるものではなく、一方向やメッシュ状の溝を使用することができる。樹脂流路付きプレート17の材質は耐久性が高く再利用可能な点からアルミや鉄などの金属製のものやCFRP製のものが好ましい。
【0023】
また、上述のとおり、本発明の望ましい実施の形態の一つとして、樹脂拡散媒体2の少なくとも一端部3は密閉されていることが必要である。ここでいう密閉されているとは、図3に示すように、樹脂拡散媒体2を流れる樹脂が、樹脂拡散媒体2の端部3から強化繊維基材1に流れ出ないように構成されていることである。本発明のFRPの製造方法は、樹脂拡散媒体2の密閉された部分の全部または一部を、強化繊維基材1の端部3と重ねて配置するので、樹脂が樹脂拡散媒体2の端部3から強化繊維基材1に流れ出ること(ショートパス)を防ぐことができ、かつ、強化繊維基材1の厚み方向に効率よく樹脂を含浸させることが可能となり、成形品の未含浸発生を防止することができる。また、該樹脂拡散媒体2の端部3は、実質的に、樹脂拡散媒体2としての機能を有していないため、樹脂拡散媒体2が存在しない場合と同様に、強化繊維基材1の端部3の流動抵抗が高くなり、結果として樹脂のショートパスを防ぐことが可能になる。
【0024】
樹脂拡散媒体2の端部3を密閉する方法は、樹脂が樹脂拡散媒体2の端部3から強化繊維基材1に流れ出ないように構成されていれば特に限定されるものではないが、フィルム材やテープなどの密閉材15で樹脂拡散媒体2の端部3の表裏を覆って密閉することが好ましい。密閉材15の厚みは、成形品に段差が転写しにくいものであることが好ましく、かかる観点から、好ましくは0.15mm以下であり、より好ましくは0.1mm以下である。また密閉材15の材質は、樹脂に溶融しなければ特に限定されるものではないが、ナイロン製のものが好ましい。
【0025】
また、樹脂拡散媒体2の端部3を密閉する別の好ましい方法としては、図8に示すように充填材19で端部を密閉することが例示される。ここでいう充填材とは、成形品の表面品質に影響を与えず、かつ、樹脂が樹脂拡散媒体2の端部3から強化繊維基材1に流れ出ないように構成されていれば特に限定されるものではなく、ゴム状の詰め物(シーラントテープ、シリコンなど)や金属製のスペーサーを使用することができる。樹脂拡散媒体への充填材の充填は、強化繊維基材の大きさなどに応じて、後から行うのが好ましいが、前もって充填されたものを使用してもよい。
【0026】
また、ここでいう一端部とは、図2に示すように強化繊維基材1に配置された樹脂拡散媒体2の端部のことであり、強化繊維基材1への含浸性に応じて、適宜吸引口側、側面部側などを端部に設定し、密閉するのが望ましい。また、樹脂拡散媒体2の密閉された部分と強化繊維基材1の端部3とが重なっている部分の大きさ(強化繊維基材1のエッジから密閉材15の端部の距離D:図3−a、図3−b参照)は、成形品に未含浸が発生しなければ特に限定されるものではないが、効率良く端部の流動抵抗を高くして、強化繊維基材1の端部3まで効率よく樹脂を含浸させるとともに、樹脂のショートパスを防げる点から、好ましくは5〜35mmであり、より好ましくは15〜25mmである。
【0027】
また、その密閉された部分の全部または一部が、強化繊維基材1の端部3と重ねて配置された樹脂拡散媒体2は、強化繊維基材1の最大外形よりも小さくない(つまり、大きいかもしくは略同形状である)ことが好ましく、最大外形と略同形状であることがより好ましい。樹脂拡散媒体2を強化繊維基材1の最大外形よりも大きいか、もしくは略同形状にすることにより、成形品の表面全体に渡って凹凸のない均一な面を得ることができ、成形後に端部をトリミングする必要がないため、材料収率も向上させることができる。また、最大外形と略同形状とすることにより、これらの利点に加えて、樹脂拡散媒体2のハンドリング性や、樹脂拡散媒体2を配置する精度の向上が期待できる。
【0028】
また、本発明の望ましい別の実施の形態は、図7に示すように強化繊維基材1の少なくとも一端部3には、前記樹脂拡散媒体2を配置せず、かつ、該一端部に板材16を配置することである。
【0029】
ここでいう一端部とは、図7に示すように強化繊維基材1の端部のことであり、強化繊維基材1への含浸性に応じて、適宜吸引口側、側面部側などを端部に設定するのが望ましい。また、板材16と強化繊維基材1の端部3とが重なっている部分の大きさ(強化繊維基材1のエッジから板材16端部の距離)は、成形品に未含浸が発生しなければ特に限定されるものではないが、効率良く端部の流動抵抗を高くして、強化繊維基材1の端部3まで効率よく樹脂を含浸させるとともに、樹脂のショートパスを防げる点から、好ましくは5〜35mmであり、より好ましくは15〜25mmである。
【0030】
該端部に密閉された部分を有さない樹脂拡散媒体2を配置すると、樹脂が強化繊維基材1の端部3から流れ出し、樹脂がショートパスする点から好ましくない。また、該端部3に板材16を配置しないと、樹脂拡散媒体2の厚みの段差が成形品に転写されることから好ましくない。かかる観点から、本発明の望ましい別の実施の形態として、強化繊維基材1の少なくとも一端部3には、前記樹脂拡散媒体2を配置せず、かつ、該一端部に板材16を配置するのである。なお、板材16の厚みは、成形品の表面が平滑になれば特に限定されるものではないが、表面全体に均一な圧力がかかる点から、樹脂拡散媒体2の厚みと同じであることが好ましい。具体的には樹脂拡散媒体2の厚み±0.15mmの範囲であれば、板材16の厚みと樹脂拡散媒体2の厚みを同じと評価でき、本発明の効果をより発揮することができる。
【0031】
また、板材16は樹脂拡散媒体よりも樹脂流動抵抗が高ければ特に限定されるものではないが、耐久性が高く再利用可能な点からアルミや鉄などの金属製のものやCFRP製のものが好ましい。
【0032】
さらに、本発明にかかるFRPの製造方法においては、図9に示すように樹脂拡散媒体2の上にプレート(金属製またはCFRP製)を配置すると、プレートの平滑製を成形品表面に転写させることができ、また、強化繊維基材全体に均一に圧力をかけることができるため、端部の段差の影響もより小さくできるなど、本発明の効果(表面品位の向上)をより発現することができる。
【0033】
一方、強化繊維基材1の吸引口10側には、左側の一部を強化繊維基材1と接触させ、右側を吸引口10と接続させて減圧吸引できるように通気材料9を配置することが好ましい。また吸引口10は吸引ライン13で真空ポンプ14に接続させることが好ましい。
【0034】
通気材料9は、強化繊維基材1の減圧吸引が可能であれば、特に形態を限定するものではない。少なくとも一部が強化繊維基材1と接触していれば良く、強化繊維基材1の端部全体に渡って配置することもできる。通気材料9の材質としては、特に限定するものでは無いが、有機繊維布帛、無機繊維布帛、メッシュ材などを使用することができる。例えば、目付が低いガラス繊維織物あるいはマット材、合成繊維の不織布のような通気抵抗が低い材料が減圧吸引をする点からは好ましい。もしくは、樹脂拡散媒体2として使用されるメッシュ状のシート材やピールプライが、樹脂拡散抵抗、通気抵抗が低い点で好ましい形態である。通気材料9の上には、必要に応じて、マトリックス樹脂がショートパスを形成して、また強化繊維基材1に含浸する前に吸引口10から吸引されることを防ぐために、フィルム材を配置するのも好ましい形態の一つである。フィルム材はナイロン製のバッギングフィルムなどを使用することができる。
【0035】
次に、成形用副資材の周りにシール材12を配置して、バッグ材11で全体を覆う。バッグ材11は気密性、可撓性の高い材料であれば特に限定はしないが、例えば、ナイロン製のフィルム材を使用すると良い。シール材12としては、所望のシール性が得られれば特に限定されるものではないが、シール性と耐熱性を兼ねそろえたシーラントテープを使用することが好ましい。
【0036】
次に、吸引口10よりバッグ材11内を減圧する。強化繊維基材1内に空気を残存させないためには、10torr以下まで減圧することが好ましい。なお、バッグ材11内への空気のリークを防止するために、1重目のバッグをさらに2重にバッグしてキャビティ内を減圧しても良い。次に、樹脂ポット6の樹脂を、大気圧と強化繊維基材1内の真空度の差圧により注入口8から流入する。なお、使用する樹脂としては、エポキシ、不飽和ポリエステル、フェノール、ビニルエステルなどの熱硬化性樹脂が、成形性、コストの面で好ましい。
【0037】
強化繊維基材1への樹脂含浸が完了したら、注入側のライン7を閉鎖する。吸引側のライン13については、揮発性のガスを抜きたい場合や成形品の繊維体積含有率を上げたい場合には開放させたままで良いが、表面の平滑性が必要な場合は閉止しても良い。次に、必要に応じて強化繊維基材1の温度を硬化温度まで上げて硬化させる。硬化後、成形用副資材を取り除くことにより、成形品を得ることができる。
【0038】
そして、本発明により、上述のとおり、材料収率の高いFRPを製造することが可能となるのである。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例と比較例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0040】
(実施例1)
図1において、まず、表面に離型材が塗布されたアルミ製のツール板5上に、東レ株式会社製の強化繊維基材1(“トレカ”T800SC:190g/m目付)、サイズ300mm×300mm)を24ply配置した。次に、強化繊維基材1上に離型性のあるピールプライ4(ナイロン製)と樹脂拡散媒体2として、図2に示すように、注入口側を除く端部3をナイロン製フィルムで密閉した、ピッチ2.5mmのポリプロピレン製樹脂拡散媒体2を該密閉部分と前記強化繊維基材の端部が重なるように配置した(強化繊維基材1のエッジからフィルムの端部までの距離Dは20mm)。次に、樹脂拡散媒体2の左側に、アルミ製のCチャンネル材の開口部を下にした樹脂の注入口8を配置した。樹脂ポット6は樹脂注入口8の近くに設置して、ナイロン製の内径φ6mmの注入ライン7で接続した。一方、樹脂拡散媒体2の右側には、強化繊維基材1にナイロン繊維からピールプライを通気材料9として配置し、通気材料9の右側にアルミ製のCチャンネル材の開口部を下にした吸引口10を配置した。吸引口10は、ナイロン製の内径φ6mmのチューブを使用した減圧吸引ライン13で真空ポンプ14と接続させた。
【0041】
次に、セットした成形用副資材の周りにシール材12(シーラントテープ)を配置して、バッグ材11としてナイロン製フィルムで全体を覆った。吸引口よりバッグ材11内を1torrまで減圧した。
【0042】
次に、強化繊維基材1の温度を60℃まで加熱した後、樹脂ポット6の樹脂を樹脂注入口8より注入した。樹脂は、東レ製RTM用エポキシ樹脂TR−A36を使用した。樹脂は瞬時に樹脂注入口8に充填され、樹脂拡散媒体2内を5分あまりで拡散した後、強化繊維基材1の板厚方向に含浸して、30分で通気材料9に強化繊維基材1からの樹脂の流出(到達)を確認した。樹脂が強化繊維基材1全体に含浸を完了したため、注入ライン7と吸引ライン13を閉鎖した。次に、強化繊維基材1の温度を130℃まで上昇させて、強化繊維基材1内の樹脂を硬化させた。樹脂の硬化を確認した後に、成形品を脱型した。脱型した成形品は、樹脂の未含浸部がなく、表面全体に凹凸のない平滑面を有する良品が得られた。
【0043】
(比較例1)
樹脂拡散用媒体2の端部をナイロン製フィルムで密閉しない以外は、実施例1と同じ条件で成形した。成形品を脱型したところ、ツール面側に大きな未含浸が発生した。
【0044】
(比較例2)
図4は比較例2に用いられる製造装置の一例を示す概略図であり、図5は図4のバッグ材内部を示す斜視図である。図5に示すように、強化繊維基材1の端部3(吸引口側、両側面部側、エッジからの距離は20mm)に樹脂拡散媒体がない以外は実施例1と同じ条件で成形した。また、後の端部のトリムを考慮して、強化繊維基材1のサイズ340mm×320mmを用いた。成形品を脱型したところ、樹脂の未含浸がないものが得られたが、端部3には樹脂拡散媒体2の厚み分の段差が生じた。最後に段差の端部3をトリミングしてサイズ300×300mmの成形品を得た。つまり、段差分の40mm×20mmのロスを発生させたことになる。
【0045】
(実施例2)
樹脂拡散媒体に図8に示す樹脂流路付きプレート17を使用する以外は、実施例1と同じ条件で成形した。実施例1と同様に端部からの距離20mmを充填材(シーラントテープ)で樹脂流路を密閉(充填)し、その上からポリエステルテープで固定した。樹脂の未含浸がなく、表面全体に凹凸のない平滑面を有する良品が得られた。
【0046】
(実施例3)
図9に示すように、樹脂拡散媒体2の上にプレート20(金属製またはCFRP製)を配置する以外は実施例1と同じ条件で成形した。脱型した成形品は未含浸がなく、また、端部の段差もない表面平滑性の良好な成形品を得ることができた。成形品表面の凹凸を測定したところ、Ra=12であった(実施例1は、Ra=22)。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は自動車、航空機、船舶、産業用途のFRPの製造法に用いられるが、これに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のFRPの製造方法に用いられる製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】図1のバッグ材内部を示す斜視図である。
【図3−a】本発明の樹脂拡散媒体の端部(樹脂拡散媒体が強化繊維基材の最大外形よりも大きい場合)を説明する断面図である。
【図3−b】本発明の樹脂拡散媒体の端部(樹脂拡散媒体が強化繊維基材の最大外形と略同形状の場合)を説明する断面図である。
【図4】比較例のFRPの製造方法に用いられる製造装置の一例を示す概略図である。
【図5】図4のバッグ材内部を示す斜視図である。
【図6】強化繊維基材の断面形状の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の強化繊維基材の端部を説明する断面図である。
【図8】樹脂流路付きプレートの端部密閉を説明する斜視図である。
【図9】本発明の樹脂拡散媒体上に配置するプレートを説明する断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1:強化繊維基材
2:樹脂拡散媒体
3:端部
4:ピールプライ
5:ツール板
6:樹脂ポット
7:注入ライン
8:注入口
9:通気材料
10:吸引口
11:バッグ材
12:シール材
13:吸引ライン
14:真空ポンプ
15:密閉材
16:板材
17:樹脂流路付きプレート
18:樹脂流路用溝
19:充填材
20:プレート
D:強化繊維基材のエッジから密閉材の端部の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂拡散媒体を用いて強化繊維基材に樹脂を注入する工程を有するFRPの製造方法において、前記樹脂拡散媒体は、少なくとも一端部が密閉されており、かつ、該密閉されている部分の全部または一部を、前記強化繊維基材の端部と重ねて配置するFRPの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂拡散媒体が前記強化繊維基材の最大外形よりも大きいかもしくは略同形状である、請求項1に記載のFRPの製造方法。
【請求項3】
一端部を密閉する手段としてフィルム材または充填材が用いられている、請求項1または2に記載のFRPの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂拡散媒体としてメッシュ材が用いられている、請求項1〜3のいずれかに記載のFRPの製造方法。
【請求項5】
樹脂拡散媒体を用いて強化繊維基材に樹脂を注入する工程を有するFRPの製造方法において、前記強化繊維基材の少なくとも一端部には、前記樹脂拡散媒体を配置せず、かつ、該一端部に板材を配置するFRPの製造方法。
【請求項6】
前記板材が前記樹脂拡散媒体の厚みと同じである、請求項5に記載のFRPの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂拡散媒体の上にプレートを配置する、請求項1〜6に記載のFRPの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−a】
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【図3−b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−45924(P2009−45924A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176564(P2008−176564)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】