説明

IB−IIIA−VIA族四元合金又は五元合金以上の合金から成る半導体薄膜を製造するための方法

本発明は、IB−IIIA−VIA族四元合金又は五元合金以上の合金から成る半導体薄膜を製造するための方法であって、当該方法は、(i)IB族及びIIIA族金属の混合物を含む金属薄膜を配設するステップと、(ii)第1のVIA族元素(当該第1のVIA族元素は、これ以降、VIAと呼ばれる)の発生源が存在する中で、IB−VIA族合金及びIIIA−VIA族合金から成るグループから選択される少なくとも1つの二元合金と、少なくとも1つのIB−IIIA−VIA族三元合金との混合物を含む第1の薄膜を形成するための条件下で金属薄膜を熱処理するステップと、(iii)第2のVIA族元素(当該第2のVI族元素は、これ以降、VIAと呼ばれる)の発生源が存在する中で、第1の薄膜を、IB−VIA−VIA族合金及びIIIA−VIA−VIA族合金から成るグループから選択される少なくとも1つの合金と、ステップ(ii)の少なくとも1つのIB−IIIA−VIA族三元合金とを含む第2の薄膜に変換するための条件下で、オプションで、第1の薄膜を熱処理するステップと、(iv)第1の薄膜又は第2の薄膜のいずれかを熱処理して、IB−IIIA−VIA族四元合金又は五元合金以上の合金から成る半導体薄膜を形成するステップとを含む、IB−IIIA−VIA族四元合金又は五元合金以上の合金から成る半導体薄膜を製造するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は光/太陽電池において用いるのに適している半導体薄膜を製造するための方法に関し、詳細には、IB−IIIA−VIA族四元合金又は五元合金以上の合金から成る半導体薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
[定義]
本明細書において、用語「五元合金」は5つの異なる元素を有する合金を指している。そこで、たとえば、Cu(In,Ga)(S,Se)は、IB−IIIA−VIA族五元合金であり、その場合に、5つの異なる元素は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレニウム(Se)及び硫黄(S)である。同様に、用語「四元合金」は、4つの異なる元素を有する合金を指している。そこで、たとえば、Cu(In,Ga)Seは、IB−IIIA−VIA族四元合金である。同様に、三元合金は3つの異なる元素を有し、二元合金は2つの異なる元素を有する。
【0003】
用語「均一な」合金は、その合金を構成する種々の元素が、その合金内に均一に分布しており、その合金の格子パラメータ、格子面間隔(これ以降、d−間隔と呼ばれる)及びバンドギャップ値があらゆる部分において概ね一定であることを意味する。言い換えると、0.5°〜10°の視射角の場合のすれすれ入射のX線回折によって特徴付けられる合金[2θ(112)]の主回折ピークの絶対シフトは無視することができる。
【0004】
さらに、本明細書において、「不均一な」合金は、その合金のバンドギャップ構造が徐々に変化し、合金の構成元素のうちの1つ又は複数の元素の濃度が合金の中で変化していくように組成が徐々に変化することによって悪影響を及ぼされることを意味する。不均一な合金は結晶構造に関する格子不整合をさらに含み、それにより、合金の中の結晶構造の格子パラメータの変化によって悪影響を及ぼされる場合もある。
【0005】
便宜上、元素は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレニウム(Se)、硫黄(S)、アルゴン(Ar)、モリブデン(Mo)及びアルミニウム(Al)を含む、それらの一般的に受け入れられている化学記号によって指示される。また、ハイフンの使用(たとえば、Cu−In−Ga又はCu−In)は必ずしも化合物を指示するのではなく、ハイフンによって結び付けられる元素が共存する混合物を指示する。
【0006】
明確にするために、IB族に言及する場合、それはCu、Ag及びAuの元素から成る周期表内の元素族を指している。IIIA族に言及する場合、それは元素B、Al、Ga、In及びTiから成る周期表内の元素族を指している。さらに、VIA族に言及する場合、それは元素O、S、Se、Te及びPoから成る周期表内の元素族を指している。
【0007】
2つの元素間にコンマを用いること、たとえば(Se,S)、(In,Ga)は便宜的に用いられるだけであり、たとえば、(Se,S)は(Se1−y)の短縮形である。
【0008】
[半導体薄膜材料]
結晶性及び多結晶性シリコンは、現在まで、太陽電池モジュール/光電池を製造する際に用いられる主な材料である。この材料に関連する主な問題は、製造コストが高いことである。製造コストを削減し、且つ材料利用度を高めるために、半導体薄膜合金が集中的な調査対象になっている。この点で、CuInSe、CuGaSe及びCuInSのようなIB−IIIA−VIA族合金が、薄膜光電池又はデバイス内の吸収層のための有望な候補材料である。
【0009】
特に対象となるのはIB−IIIA−VIA族合金を含む半導体薄膜であり、そのような薄膜内にGaが存在する結果として、半導体薄膜がより高いバンドギャップ値を有するようになり、後に製造される太陽/光電池デバイスにおいて、開放電圧が高くなり、且つ短絡電流が小さくなるので、その合金は、別のIII族元素とともにGaを含む。その中でも特に対象となるのが、五元合金を含む半導体薄膜(五元合金半導体薄膜)である。
【0010】
一般的な化学式としてCu(In1−xGa)(Se1−yを有する五元合金を含む半導体薄膜に関して、太陽光スペクトルとの最適な整合を達成するために、バンドギャップを1.0eVと2.4eVとの間で意図的にシフトすることができる。この材料系を最適化する結果として、既に、実験室規模の太陽電池デバイスでは18%よりも高い変換効率が達成されている。
【0011】
[従来技術の工程]
IB−IIIA−VIA族半導体薄膜を製造するための多数の方法があり、2つの最も一般的な方法は、従来の2ステップ工程及び同時蒸着工程である。
【0012】
[従来の2ステップ工程]
上記の工程は通常、(i)多くの場合にモリブデンでコーティングされた基板上に、DCマグネトロンスパッタリングによってCu、In及びGaのような金属前駆体を堆積し、その後、(ii)Se及び/若しくはS蒸気又はHSe/Ar及び/若しくはHSe/Arガスを含む雰囲気内で、その前駆体が反応するようにアニールすることを含む。これらの技術は、V. Alberts、J. H. Schon及びE. Bucherによる論文(Journal of Appl. Phys. 84 (12), 1998, 6881)、並びにA. Gupta及びS. lsomuraによる論文(Sol. Energy Mater. Sol. Cells 53, 1998, 385)に開示される。
【0013】
理論によって縛られることは望まないが、J. Palm、V. Probst、W. Stetter等による論文(Thin Solid Films 451-452 (2004) 544-551)を参照すると、Cu−In−Ga金属前駆体をセレン化することにより、CuSe及びInSe、Cu2−xSe及びInSeのような二元合金が生成されると考えられる。その後、370℃よりも高い温度において、これらの二元合金前駆体相間で反応が生じる結果として、三元合金CuInSe(CIS)が形成される。セレン化中に、後者の合金だけが形成され、Gaのセレン化は運動学的に妨げられ、CIS形成中にGaはモリブデン基板に向かって追い出されるようになるものと考えられる。さらにアニールすると、Cu(In,Ga)Se(CIGS)の個別の層が形成され、結果として、背面電極と接触している、Gaを豊富に含む細粒のCIGS層と、その上にある良好に結晶化されたCIS層とを含む二重の層が形成されるものと考えられる。商業的には好ましくないが、アニールを延長する結果として、Gaが、その構造の背面電極から表面に拡散するようになる。
【0014】
ガリウムの大部分が薄膜の背面に存在する、分離された、又は徐々に変化する薄膜構造の影響として、光電池の活性化領域において吸収薄膜が低いバンドギャップ値を示し、最終的にはデバイスのVOCが制限される。太陽電池モジュール/光電池の開放電圧(VOC)及び短絡電流(JSC)は半導体材料のバンドギャップに直に関連する。1eVの低いバンドギャップ値を有するCuInSeの場合、VOC値は通常500mVに制限されるのに対して、1.65eVの高いバンドギャップ値を有するCuGaSe半導体薄膜を用いるときには、概ね1000mVの値を達成することができる)。
【0015】
さらに、極端に変化がある場合には、徐々に変化する吸収薄膜内の格子不整合によって、電気的に能動的な構造に欠陥が導入され、デバイス性能に悪影響が及ぼされる。
【0016】
従来の2ステップ工程によって形成される、低いバンドギャップの不均一なCu(In,Ga)Se合金半導体薄膜の不都合な点を克服するために、一般的に、それらの薄膜をHSと反応させる。
【0017】
現在の工業的な工程はポスト硫化ステップを含み、そのステップでは、薄膜の上側表面領域内にあるセレニウム種の或る一定の部分が硫黄で置き換えられる(K. Kushiya、M. Tachiyuki、T. Kase、I. Sugiyama、Y. Nagoya、D. Okumura、M. Satoh、O. Yamase及びH. Takeshita著「Sol. Energy Mater. Sol. Cells 49, 1997, 277」、R. Gay、M. Dietrich、C. Fredric、C. Jensen、K. Knapp、D. Tarrant及びD. Willett著「Proceedings of the International Conference on E. C. Photovoltaic Solar Energy, vol. 12(1), 1994, 935」、並びにT. Nakada、H. Ohbo、T. Watanabe、H. Nakazawa、M. Matsui及びA. Kunioka著「Solar Energy Materials and Solar Cells 49, 1997, 285」)。
【0018】
この手法の結果として、最終的には、結果として生成された徐々に変化するCu(In1−xGa)Se構造上に薄いCu(In,Ga)(Se,S)表面層が形成される。その表面層は、特性が急激に変化し、Cu(In,Ga)Se構造内への深さは約50nmである。
【0019】
工業規模において既に適用されている上記のポスト硫化ステップの不都合な点は、
(i)これらの薄膜内のセレニウム種と硫黄種との間の交換速度が遅いこと、
(ii)太陽電池デバイスにおいて達成される開放電圧の上昇がわずかしないこと、
(iii)Sを有効な度合いまで取り込むために、高い温度及び90〜120分の長い反応時間が必要とされ、最終的には、製造工程のコストが増加すること、及び
(iv)結果として形成される合金が不均一であり、格子パラメータ及びバンドギャップ値の実効的な制御が妨げられることである。
【0020】
M. Marudachalam、H. Hichri、R. Klenk、R.W. Birkmire、W.N. Schfarman及びJ.M. Schultz著による論文「Appl. Phys. Lett. 67(26), 1995, 3978」において、CuInSe及びCuGaSeの相分離した混合物を、アルゴンの中で、60〜120分間、500℃〜600℃の範囲の温度において、現場でアニールすることにより、均一性を改善されたCu(In,Ga)Se薄膜を製造できることも示唆されている。しかしながら、これらの特定の合金のオージェ深さ方向分析は依然として、In及びGa濃度が深さとともに大きく変化することを示しており、それは不均一な合金であることを指示する。
【0021】
さらに、不活性雰囲気内でポストアニールステップを実行する結果として、その薄膜からSeのかなりの量が失われたので、HSe/Ar内で第2のアニールステップが必要であった。不活性雰囲気及びHSe/Ar内での付加的なポストアニールステップは、その工程の再現性を落とすだけでなく、その工程の商業的な広がりを妨げる。
【0022】
[1ステージ同時蒸着技術]
均一な五元合金を製造するための別の試みとして、複雑な1ステージ技術が開発されている。この技術は、I. M. Kotschau、H. Kerber、H. Wiesner、G. Hanna及びH. W. Schock著による論文「Proceedings of the 16th European Photovoltaic Solar Energy Conference, 1-5 May 2000, Glasgow, UK, pp 724-727」に開示されており、全ての元素(Cu、In、Ga、Se及びS)が、高真空中で、個々の発生源から一定の流速で同時蒸着される。
【0023】
この技術によれば、ガリウム及び硫黄を薄膜内に制御しながら取り込むことができるようになり、それゆえ、合金の格子パラメータが減少する。その後、五元合金のバンドギャップ値が増加する結果として、最終的には、完成した太陽電池デバイスの開放電圧が増加した。しかしながら、0.4°〜5°の入射角におけるすれすれ入射角x線回折(GIXRD)は、材料の表面と本体との間の格子パラメータが著しくシフトすることを明らかにした。著者たちは、この現象が、層の表面における銅の枯渇に原因があると考えており、その合金が均一ではなく、組成が徐々に変化していくことが確認された。
【0024】
驚くべきことに、ここで本発明人は、二元合金が存在することなく、完全に反応した三元合金を形成するために、セレン化ステップにおいて、セレン化反応が最後まで進まないように三元合金の形成を制御することにより、先に説明されたかなりの問題を少なくとも部分的に克服又は緩和できることに気が付いた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
[発明の目的]
本発明の目的は、IB−IIIA−VIA族四元合金及び五元合金半導体薄膜を製造するための代替の方法を提供することである。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、先に述べられた不都合な点を少なくとも部分的に克服する、IB−IIIA−VIA族四元合金及び五元合金半導体薄膜を製造するための代替の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
[発明の概要]
本発明によれば、IB−IIIA−VIA族四元合金又は五元合金以上の合金から成る半導体薄膜を製造するための方法であって、当該方法は、
i.IB族及びIIIA族金属の混合物を含む金属薄膜を配設するステップと、
ii.第1のVIA族元素(当該第1のVIA族元素は、これ以降、VIAと呼ばれる)の発生源が存在する中で、IB−VIA族合金及びIIIA−VIA族合金から成るグループから選択される少なくとも1つの二元合金と、少なくとも1つのIB−IIIA−VIA族三元合金との混合物を含む第1の薄膜を形成するための条件下で金属薄膜を熱処理するステップと、
iii.第2のVIA族元素(当該第2のVI族元素は、これ以降、VIAと呼ばれる)の発生源が存在する中で、第1の薄膜を、IB−VIA−VIA族合金及びIIIA−VIA−VIA族合金から成るグループから選択される少なくとも1つの合金と、ステップ(ii)の少なくとも1つのIB−III−VIA族三元合金とを含む第2の薄膜に変換するための条件下で、オプションで、第1の薄膜を熱処理するステップと、
iv.第1の薄膜又は第2の薄膜のいずれかを熱処理して、IB−IIIA−VIA族四元合金又は五元合金以上の合金から成る半導体薄膜を形成するステップとを含み、VIAはVIA及び/又はVIAであってもよい、IB−IIIA−VIA族四元合金又は五元合金以上の合金から成る半導体薄膜を製造するための方法を提供する。
【0028】
第1の薄膜の混合物は、安定した混合物であることが好ましく、少なくとも1つのIB−IIIA−VIA族三元合金に対する全てのIB−VIA族合金及び/又はIIIA−VIA族合金のモル比は概ね一定に保持される。
【0029】
[ステップ(i)]
ステップ(i)の金属薄膜は、基板上に配設することができ、その基板は、上記の方法の反応条件及び熱処理ステップ下で不活性であることが好ましい。適当な基板は、ガラス、可撓性金属又はポリマー箔等を含む。その基板は、0.05mm〜3.0mm厚であることが好ましい。
【0030】
オプションでは、その基板に、金属層を、好ましくは0.5〜1.0 mの厚みを有するMo層をコーティングすることができる。金属薄膜は、その金属層上に配設されることが好ましい。その金属層は、光電池内の電気的コンタクト層としての役割を果たすこともできる。
【0031】
ステップ(i)の金属薄膜は金属の混合物を含み、一つの実施の形態では、少なくとも2つの異なるIIIA族金属を含むことが好ましい。
【0032】
本発明の好ましい実施の形態では、ステップ(i)の金属薄膜は、Cu、In及びGaから成るグループから選択された金属の混合物、好ましくはCu、In及びGaの組み合わせを含み、それらの金属は元素又は合金の形をとることが好ましい。Cu及びGaの発生源は合金であり、Cu0.75Ga0.25合金であることが好ましい。その金属薄膜はCu−In−Ga合金であることが好ましい。Ga及びInに加えて、対象となる他のIII族元素はAl及びThを含む。
【0033】
本発明の別の実施の形態では、ステップ(i)の金属薄膜はCu及びInだけの混合物を含み、Gaは存在しない。その薄膜はCu−In合金であることが好ましい。
【0034】
本発明の好ましい実施の形態では、基板上に堆積されるIIIA族元素は、IB族元素とIIIA族元素との或るモル比を与えるだけの十分な総量であり、たとえばCu/(In+Ga)は0.7〜1.0の範囲にあり、0.8〜1.0の範囲にあることが好ましく、0.90〜0.95の範囲にあることがさらに好ましい。
【0035】
直流(DC)マグネトロンスパッタリングのような、当該技術分野においてよく知られている技術によって、基板上に金属を堆積して、金属薄膜を形成することができ、その厚みは0.6〜1 mにすることができ、0.6 m厚であることが好ましい。たとえば、電着又は電子ビーム蒸着のような、基板上にIB族金属及びIIIA族金属、又はその合金を堆積することができる他の手段もあることは理解されよう。
【0036】
[ステップ(ii)]
ステップ(i)の金属薄膜は、VIAの発生源が存在する中で熱処理される。VIAはSeであることが好ましい。その発生源はHSeと好ましくは少なくとも1つの他の気体との気体混合物を含むことがより好ましく、その気体はArのような不活性ガスであることが好ましい。また、元素Seは蒸気の形でも用いることもできるものと考えられる。
【0037】
少なくとも1つの他の気体、好ましくはArに対するSeのモル濃度は、0.01〜15モル%にすることができ、0.1〜1.0モル%であることが好ましく、少なくとも1つの他の気体に対するSeの濃度は0.12%であることが最も好ましい。
【0038】
本発明の一つの実施の形態では、ステップ(ii)は、反応温度が300℃〜500℃、好ましくは350℃〜450℃である反応条件下で実行される。
【0039】
本発明の好ましい実施の形態では、ステップ(i)の金属薄膜は、5〜30分以内に、好ましくは10〜20分以内に、先に述べられた反応温度まで加熱される。
【0040】
ステップ(i)の金属薄膜は、10〜120分間、好ましくは15〜90分間、さらに好ましくは30〜60分間、VIA元素の発生源に曝露されることが好ましい。ステップ(ii)中の圧力は、10Pa〜10Paに、好ましくは5×10Pa〜9×10Paに保持される。
【0041】
本発明の一つの実施の形態では、ステップ(i)の金属薄膜は、Seの発生源が存在する中で熱処理され、CuSe、InSe及びGaSeを含む二元合金と、少なくとも1つのIB−IIIA−VIA族三元合金との安定した混合物を含む第1の薄膜が形成される。
【0042】
ステップ(ii)の第1の薄膜は、50原子パーセント未満のVIA元素を有することが好ましい。VIAがSeである場合に、第1の薄膜が50原子パーセント未満のSeを有するという点で、第1の薄膜ではSeが不足していることがより好ましい。第1の薄膜は、化学量論的に十分に反応した薄膜を得るために必要とされる50原子パーセントに対して、43〜47原子%のSe濃度を含むことが好ましい。Se/(Cu+Ga+In)比は1未満であることが好ましい。
【0043】
これまでに記載されたような方法の好ましい実施の形態では、そして本発明に従ってステップ(ii)を実行した後に、第1の薄膜を、二元合金と、少なくとも1つのIB−IIIA−VIA族三元合金との混合物が安定した状態を確実に保持するための条件下で、処理ステップにかけることができる。
【0044】
その条件は、VIA元素の発生源を除去し、それにより混合物を安定した状態に保持することを含むことが好ましい。好ましい実施の形態では、その条件は、5〜20分間、好ましくは10〜15分間、不活性雰囲気、好ましくはArに第1の薄膜を曝露することも含むことができる。第1の薄膜を、好ましくは200℃未満の温度まで冷却することもできる。
【0045】
[IB−IIIA−VIA族五元合金半導体薄膜を形成するための方法]
[ステップ(i)及び(ii)]
ステップ(i)及び(ii)は先に記載されたのと同じである。より詳細には、ステップ(i)は、少なくとも1つのIB族元素と、第1のIIIA族元素(第1のIIIA族元素は、これ以降、IIIAと呼ばれる)と、第2のIIIA族元素(第2のIIIA族元素は、これ以降、IIIAと呼ばれる)との混合物を含む金属薄膜を配設することを含む。ステップ(ii)は、VIAの発生源が存在する中で、IB−VIA族合金、IIIA−VIA族合金及びIIIA−VIA族合金から成るグループから選択される二元合金と、2つの三元合金、すなわちIB−IIIA−VIA族合金及びIB−IIIA−VIA族合金との混合物を含む第1の薄膜を形成するための条件下で、ステップ(i)の金属薄膜を熱処理することを含む。
【0046】
[ステップ(iii)]
本発明の一つの実施の形態では、好ましくは、第1の薄膜を、IB−VIA−VIA族合金並びにIIIA−VIA−VIA族合金、好ましくはIIIA−VIA−VIA族合金及びIIIA−VIA−VIA族合金から成るグループから選択される少なくとも1つの合金と、ステップ(ii)の少なくとも1つのIB−IIIA−VIA族三元合金とを含む第2の薄膜に変換するために、ステップ(ii)の第1の薄膜は、VIAの発生源が存在する中で熱処理される。
【0047】
VIAはSであることが好ましい。本発明の好ましい実施の形態では、Sの発生源は、HSと、少なくとも1つの不活性ガス、好ましくはArのような不活性ガスとの気体混合物を含む。
【0048】
本発明の好ましい実施の形態では、少なくとも1つの不活性ガス、好ましくはArに対するSのモル濃度は、0.1〜10モルパーセントにすることができ、0.3〜0.5モルパーセントであることが好ましく、少なくとも1つの他のガスに対するSの濃度は0.35%であることが最も好ましい。
【0049】
ステップ(iii)の熱処理は、5〜10分間、好ましくは5分間、100℃〜500℃、好ましくは400℃〜500℃、さらに好ましくは450℃で行うことができる。
【0050】
本発明の好ましい実施の形態では、IB族元素はCuであり、IIIAはInであり、IIIAはGaであり、VIAはSeであり、VIAはSである。
【0051】
第2の薄膜は、Cu(Se,S)、In(Se,S)及びGa(Se,S)から成るグループから選択される合金、好ましくはそれらの合金の3つ全てと、三元合金、すなわちCuGaSe及びCuInSe、好ましくはその両方との混合物を含むことが好ましい。
【0052】
[ステップ(iv)]
本発明の好ましい実施の形態では、ステップ(iii)の第2の薄膜は、好ましくはSの発生源が存在する中で、5〜10分間、好ましくは5分間、450℃〜600℃、好ましくは500℃〜550℃、さらに好ましくは500℃の温度でアニールされ、IB−VIA−VIA族合金、IIIA−VIA−VIA族合金及びIIIA−VI−VI族合金から成るグループから選択される合金のうちの少なくとも1つが、ステップ(ii)の少なくともIB−IIIA−VIA族三元合金と反応して、2つのIIIA族金属か、2つのVIA族元素、すなわちVIA及びVIAかのいずれかを含むIB−IIIA−VIA四元合金の混合物を含む第3の薄膜を形成することができる。
【0053】
第3の薄膜は、IB−IIIA−VI−VIA族合金及びIB−IIIA−VIA−VIA族合金から成るグループから選択される四元合金の混合物を含むことがさらに好ましい。第3の薄膜は、CuIn(Se,S)及びCuGa(Se,S)の混合物を含むことがさらに好ましい。CuIn(Se,S)及びCuGa(Se,S)の四元合金は概ね均一であることが好ましい。
【0054】
第3の薄膜は、15〜90分間、より好ましくは30分間、500℃〜600℃、好ましくは520℃〜580℃、さらに好ましくは550℃の温度でアニールされ、以下の一般的な化学式Iを有する五元合金を形成することが好ましい。
Cu(In1−xGa)(Se1−y (I)
【0055】
ただし、xは0から1まで変化し、xは0.1から0.5まで変化できることが好ましく、0.25から0.3まで変化できることがさらに好ましく、yは0から1まで変化し、0.05から0.8まで変化することが好ましい。
【0056】
その五元合金は均一であることが好ましく、さらに長い時間、好ましくはさらに15分間アニールされ、その合金の構造的な特性を最適化できるようにすることが好ましい。その均一な薄膜は1.5 m〜2.0 mの厚みを有することができる。
【0057】
[IB−IIIA−VIA族四元合金半導体薄膜を形成するための方法]
[Cu(In,Ga)Se四元合金半導体薄膜]
[ステップ(i)及びステップ(ii)]
ステップi及びステップiiは先に記載されたのと同じである。より詳細には、ステップ(i)は、少なくとも1つのIB族元素、IIIA元素及びIIIA元素の混合物を含む金属薄膜を配設することを含む。ステップ(ii)は、VIAの発生源が存在する中で、IB−VIA族合金、IIIA−VIA族合金及びIIIA−VIA族合金から成るグループから選択される二元合金と、IB−IIIA−VIA族合金である三元合金との混合物を含む第1の薄膜を形成するための条件下で、ステップ(i)の金属薄膜を熱処理することを含む。
【0058】
本発明の好ましい実施の形態では、ステップ(ii)は350℃〜450℃、好ましくは400℃の温度で実行され、第1の薄膜が、CuSe、InSe及びGaSeから成るグループから選択される二元合金(ただし、IBがCuであり、IIIAがInであり、IIIAがGaであり、VIAがSeである)と、1つの三元合金、すなわちCuInSeとの安定した混合物を含むようにする。CuGaSeの形成は妨げられることが好ましい。
【0059】
[ステップ(iv)]
本発明の一つの実施の形態では、ステップ(ii)の第1の薄膜が第1の熱処理ステップにかけられ、その後、第2の熱処理ステップにかけられて、IB−IIIA−IIIA−VIA族元素が形成されるようにする。
【0060】
本発明の好ましい実施の形態では、ステップ(iv)の第1の熱処理ステップは、ステップ(ii)の第1の薄膜を、不活性ガス、好ましくはArを含む雰囲気が存在する中で、100℃〜600℃の反応温度まで加熱することを含む。ステップ(ii)の第1の薄膜は、5分以内に反応温度まで加熱されることが好ましい。
【0061】
ステップ(iv)の第2の熱処理ステップは、最初に、不活性雰囲気、好ましくはArが存在する中で第1の薄膜をアニールすることを含む。ステップ(ii)の第1の薄膜は最初に、10〜60分間、好ましくは15〜30分間、好ましくは100℃〜600℃、好ましくは200℃〜550℃、さらに好ましくは500℃〜550℃の温度において、Arを含む雰囲気が存在する中でアニールされ、その後、VIA元素の発生源が存在する中でアニールされる。
【0062】
ステップiiと同様に、VIAはSeであることが好ましい。ステップ(ii)の第1の薄膜は、好ましくは10〜60分間、さらに好ましくは30分間、100℃〜600℃、好ましくは200℃〜550℃、さらに好ましくは550℃の温度においてSeが存在する中でアニールされ、化学式(II)の四元合金が形成される。ただし、IB金属はCuであり、IIIAはInであり、IIIAはGaであり、VIAはSeである。
Cu(In1−xGa)Se (II)
【0063】
ただし、xは0.25〜0.30まで変化することができる。
【0064】
Seの発生源はHSe、及び少なくとも1つの他のガス、好ましくはArのような不活性ガスから成る雰囲気であることが好ましい。少なくとも1つの他のガスに対するSeのモル濃度は0.12%であることが好ましい。
【0065】
本発明の好ましい実施の形態では、ステップ(ii)の第1の薄膜は、以下の一連のステップにかけられる。
(a)Arの不活性雰囲気内にある反応管内で、5分間、550℃の反応温度まで第1の薄膜を加熱するステップ。
(b)Arを含む雰囲気内にある反応管内で、少なくとも15分間、550℃で第1の薄膜をアニールするステップ。
(c)Ar内に0.12モルパーセントのHSeが存在する中で、30分間、500℃で第1の薄膜をアニールするステップ。
【0066】
化学式(II)の四元合金は均一であることが好ましい。
【0067】
[CuIn(Se,S)四元合金半導体薄膜]
[ステップ(i)及び(ii)]
ステップ(i)及び(ii)は先に記載されたのと同じである。より詳細には、ステップ(i)は、少なくとも1つのIB族元素、及びIIIA族元素の混合物を含む金属薄膜を配設することを含む。ステップ(ii)は、VIAの発生源が存在する中で、IB−VIA族合金及びIIIA−VIA族合金から成るグループから選択される二元合金と、IB−IIIA−VIA族合金である三元合金との混合物を含む第1の薄膜を形成するための条件下で、ステップ(i)の金属薄膜を熱処理することを含む。
【0068】
本発明の好ましい実施の形態では、IBはCuであり、IIIAはInであり、VIAはSeである。ステップ(i)の金属薄膜はCu−In合金であることが好ましい。
【0069】
本発明の好ましい実施の形態では、ステップ(ii)の第1の薄膜は、ステップ(ii)の二元合金及び三元合金の混合物が安定した状態を確実に保持するための処理ステップにかけられる。VIA元素の発生源は除去されることが好ましい。また、ステップ(ii)の第1の薄膜を200℃未満の温度まで冷却することもできる。
【0070】
[ステップ(iii)]
このステップは実行されない。
【0071】
[ステップ(iv)]
本発明の一つの実施の形態では、ステップ(ii)の第1の薄膜は、第1の熱処理ステップにかけられ、その後、第2の熱処理ステップにかけられて、ステップ(ii)の第1の薄膜はVIAの発生源が存在する中でアニールされ、IB−IIIA−VIA−VIA族元素が形成されるようにする。
【0072】
ステップ(iv)の第1の熱処理ステップは、ステップ(ii)の第1の薄膜を、10〜60分間、好ましくは15〜30分間、100℃〜600℃、好ましくは200℃〜550℃、さらに好ましくは500℃〜550℃の反応温度まで加熱することを含む。
【0073】
その後、ステップ(ii)の第1の薄膜は、VIAの発生源が存在する中でアニールされる。
【0074】
VIAはSであることが好ましい。ステップ(ii)の第1の薄膜は、Sの発生源が存在する中で、好ましくは10〜60分間、さらに好ましくは30分間、200℃〜600℃、好ましくは200℃〜550℃、さらに好ましくは550℃の温度でアニールされ、化学式(III)の四元合金が形成される。ただし、IBはCuであり、IIIAはInであり、VIAはSeであり、VIAはSである。
CuIn(Se1−y (III)
【0075】
ただし、yは0.1〜0.5まで変化することができる。
【0076】
Sの発生源は、HS、及び少なくとも1つの他のガス、好ましくはArのような不活性ガスから成る雰囲気であることが好ましい。少なくとも1つの他のガスに対するSのモル濃度は0.35%であることが好ましい。
【0077】
本発明の好ましい実施の形態では、第1の薄膜(ii)は以下の一連のステップにかけられる。
(a)反応管内にある第1の薄膜を、15〜30分以内に、500℃〜550℃の反応温度まで加熱するステップ。
(b)HS及びAr(g)の気体混合物が存在する中で第1の薄膜をアニールするステップ。ただし、化学式(III)の四元合金を形成するために、Ar(g)に対するSのモル濃度は0.35モルパーセントである。
【0078】
化学式(III)の四元合金は均一であることが好ましい。
【0079】
本発明のさらに別の態様によれば、以下のステップを含むIB−IIIA−VIA族五元合金半導体薄膜を製造するための方法が提供される。
(i)基板上にCu、In及びGaの混合物を含む金属薄膜を配設するステップ。
(ii)その金属薄膜を、Seの発生源が存在する中で、CuSe、InSe、GaSe、並びにCuInSe合金及びCuGaSe合金から成るグループから選択される少なくとも1つの三元合金の安定した混合物を含む第1の薄膜を形成するための条件下で熱処理するステップ。
(iii)第1の薄膜を、Sの発生源が存在する中で、合金すなわちCu(Se,S)、In(Se,S)及びGa(Se,S)、並びにステップ(ii)の少なくとも1つの三元合金の混合物を含む第2の薄膜に変換するための条件下で熱処理するステップ。
(iv)ステップ(iii)の第2の薄膜を熱処理して、CuIn(Se,S)合金及びCuGa(Se,S)合金の形の四元合金を含む第3の薄膜を形成し、それをさらにアニールして、化学式(I)の五元合金を形成するステップ。
【0080】
上記の方法によれば、第1の薄膜は、二元合金及び三元合金の混合物が安定した状態を確実に保持するための条件下で処理ステップにかけられることが好ましい。
【0081】
本発明の第3の態様によれば、以下のステップを含む、IB−IIIA−VIA族四元合金半導体薄膜を製造するための方法が提供される。
(i)基板上にCu、In及びGaの混合物を含む金属薄膜を配設するステップ。
(ii)Seの発生源が存在する中で、二元合金及び少なくとも1つの三元合金の安定した混合物を含む第1の薄膜を形成するための条件下で金属薄膜を熱処理するステップ。ただし、その二元合金はCuSe、InSe及びGaSeであり、三元合金はCuInSeである。
(iii)ステップ(ii)の第1の薄膜を以下の一連のステップにかけるステップ。
a.ステップ(ii)の第1の薄膜を、15〜30分間、500℃〜550℃の反応温度まで熱処理するステップ。
b.第1の薄膜を、Ar(g)の雰囲気内で、少なくとも15分間、500℃〜550℃の反応温度においてアニールするステップ。
c.第1の薄膜をHSe及びAr(g)の気体混合物が存在する中でアニールするステップ。ただし、Arに対するSeのモル濃度は、一般的な化学式(II)を有する四元合金を形成するために、0.12%である。
【0082】
本発明の第3の態様による方法では、ステップ(ii)は、約400℃の反応温度において実行され、第1の薄膜がステップ(ii)の二元合金とCuInSeとの安定した混合物を含むようにすることが好ましい。
【0083】
第1の薄膜は、二元合金及び三元合金の混合物が安定した状態を確実に保持するための条件下で処理ステップにかけられることが好ましい。
【0084】
本発明の第4の態様によれば、均一なIB−IIIA−VIA族四元合金半導体薄膜を製造するための方法が提供され、その方法は以下のステップを含む。
(ii)Cu及びInの混合物を元素又は合金の形で含む金属薄膜を配設するステップ。
(iii)第1の薄膜を、Seの発生源が存在する中で(ただし、少なくとも1つの不活性ガスに対するSeのモル濃度は0.05〜0.3%である)、30〜60分間、熱処理して、CuSe及びInSeから成るグループから選択される二元合金と、1つの三元合金、すなわちCuInSeとの混合物を形成するステップ。
(iv)ステップ(ii)の第1の薄膜を以下の一連のステップにかけるステップ。
a.ステップ(ii)の第1の薄膜を、15〜30分以内に500℃〜550℃の反応温度まで熱処理するステップ。
b.第1の薄膜をHS及びAr(g)の気体混合物が存在する中でアニールするステップ。ただし、Arに対するSのモル濃度は、一般的な化学式(III)を有する四元合金を形成するために、0.35%である。
【0085】
本発明の第5の態様によれば、本発明による方法によって製造される、概ね均一なIB−IIIA−VIA族四元合金また五元合金以上の合金から成る半導体薄膜が提供され、その合金は、x線回折パターン(XRD)が、40kVのCu放射の場合に26°〜28°の2θ角(2θ[112])において主[112]ピークを有することによって特徴付けられ、0.2°〜10°の視射角の場合のすれすれ入射x線回折パターン(GIXRD)は0.06°未満の2θ[112]角の絶対シフトを反映する。その合金はさらに、単位セルから成る格子を含む結晶構造を有し、全ての結晶面が0.01未満のd−間隔の分散を示すという特徴を有することができる。
【0086】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明による方法によって製造される、IB−IIIA−VIA族四元合金又は5元合金以上の合金から成る半導体薄膜を含む半導体薄膜が提供される。
【0087】
本発明のさらに別の態様によれば、一般的な化学式(I)を有するIB−IIIA−VIA族四元合金又は5元合金以上の合金が提供される。
A(B1−x)(D1−y ( )
【0088】
ただし、
AはIB族元素であり、
BはIIIA族元素であり、
CはIIIA族元素であるが、Bとは異なり、
Dは第1のVIA族元素(これ以降、VIと呼ばれる)であり、
Eは第2のVIA族元素(これ以降、VIと呼ばれる)であり、
x及びyはそれぞれ、x及びyが同時に0にはならないという条件で、個別に0から1まで変化することができる。
【0089】
また、その合金は、x線回折パターン(XRD)が、40kVのCu放射の場合に26°〜28°の2θ角(2θ[112])において主[112]ピークを有することによって特徴付けられ、0.2°〜10°の視射角の場合のすれすれ入射x線回折パターン(GIXRD)は0.06°未満の2θ[112]角の絶対シフトを反映する。
【0090】
その合金はさらに、単位セルから成る格子を含む結晶構造を有し、全ての結晶面が0.01未満のd−間隔の分散を示すという特徴を有することができる。
【0091】
本発明の好ましい実施の形態では、XPS深さ方向分析によって特徴付けられるような、合金のA、B、C、D及びEの元素濃度は、その合金の中で概ね一様である。
【0092】
[五元合金]
本発明の一つの実施の形態では、AはCuであり、BはIn又はAlであり、Inであることが好ましく、CがGaであり、DはSeであり、EはSである。x及びyはいずれも0よりも大きい。
【0093】
その五元合金は化学式(I)を有することが好ましい。
Cu(In1−xGa)(Se1−y (I)
【0094】
本発明の好ましい実施の形態では、xは0.25から0.3まで変化することができ、yは0.05から0.8まで変化することができる。
【0095】
その合金は、単位セルから成る格子を含む結晶構造を有することが好ましく、全ての結晶面が0.001未満のd−間隔の分散を示す。
【0096】
2θ(112)角の絶対シフトは0.01°未満であることが好ましい。
【0097】
Cu、In、Ga、Se及びSの濃度は、XPS深さ方向分析によって特徴付けられるように、合金の深さを通して一定であることが好ましい。
【0098】
本発明の好ましい実施の形態では、化学式(I)の合金は、x線回折パターン(XRD)が、40kVのCu放射の場合に26.9°〜28°の2θ角(2θ[112])において主[112]回折ピークを有し、対応するd−間隔が3.3117〜3.1840であるという特徴を有することができる。
【0099】
2θ(112)ピークは概ね対称であることが好ましい。本発明の好ましい実施の形態では、2θ(112)ピークは27.0°〜27.5°にすることができる。
【0100】
化学式(II)の合金はさらに、そのバンドギャップが1eVから2.4eVまで、好ましくは1.1eVから1.5eVまで連続してシフトできるという特徴を有することができる。
【0101】
本発明の好ましい実施の形態では、Se+Sに対するSの原子比、すなわちS/(S+Se)によって表される硫黄含有量は、0.05〜0.7である。
【0102】
本発明の好ましい実施の形態では、化学式(II)の合金は均一である。
【0103】
[四元合金]
[Cu(InGa)Se
本発明の別の実施の形態では、AはCuであり、BはInであり、CはGaであり、DはSeであり、y=0である。
【0104】
その四元合金は化学式(II)を有することが好ましい。
Cu(In1−xGa)(Se) (II)
【0105】
本発明の好ましい実施の形態では、xは0.25から0.3まで変化することができる。
【0106】
その合金は、単位セルから成る格子を含む結晶構造を有することが好ましく、全ての結晶面が0.06未満のd−間隔の分散を示す。2θ(112)角の絶対シフトは0.05°未満であることが好ましい。
【0107】
Cu、In、Ga及びSeの濃度は、XPS深さ方向分析によって特徴付けられるように、合金の深さを通して一定であることが好ましい。
【0108】
本発明の好ましい実施の形態では、化学式(II)の合金は、x線回折パターン(XRD)が、40kVのCu放射の場合に26.8°〜27°の2θ角(2θ(112))において主[112]ピークを有し、対応するd−間隔が3.3236〜3.2990であるという特徴を有することができる。
【0109】
2θ(112)ピークは概ね対称であることが好ましい。本発明の好ましい実施の形態では、2θ(112)ピークは26.85°〜26.9°にすることができる。
【0110】
化学式(II)の合金はさらに、そのバンドギャップが1.1eVから1.2eVまで、好ましくは1.15eVから1.18eVまでシフトできるという特徴を有することができる。
【0111】
本発明の好ましい実施の形態では、Ga+Inに対するGaの原子比、すなわちGa/(Ga+In)によって表されるガリウム含有量は、0.25〜0.3である。
【0112】
本発明の好ましい実施の形態では、化学式(II)の合金は概ね均一である。
【0113】
[CuIn(SeS)
本発明のさらに別の実施の形態では、AはCuであり、BはInであり、DはSeであり、EはSであり、x=0である。
【0114】
その四元合金は化学式(III)を有することが好ましい。
CuIn(Se1−ySy) (III)
【0115】
本発明の好ましい実施の形態では、yは0.1から0.5まで変化することができる。
【0116】
その合金は、単位セルから成る格子を含む結晶構造を有し、全ての結晶面が0.007未満のd−間隔の分散を示す。2θ(112)角のシフトは0.06°未満であることが好ましい。
【0117】
Cu、In、Se及びSの濃度は、XPS深さ方向分析によって特徴付けられるように、合金の深さを通して一定であることが好ましい。
【0118】
本発明の好ましい実施の形態では、化学式(III)の合金は、x線回折パターン(XRD)が、40kVのCu放射の場合に26.80°〜27.3°の2θ角(2θ(112))において主[112]回折ピークを有し、対応するd−間隔が3.236〜3.2640であるという特徴を有することができる。
【0119】
2θ(112)ピークは概ね対称であることが好ましい。本発明の好ましい実施の形態では、2θ(112)ピークは27.0°〜27.2°にすることができる。
【0120】
化学式(III)の合金はさらに、そのバンドギャップが1.05eVから1.23eVまで、好ましくは1.15eVから1.20eVまでシフトできるという特徴を有することができる。
【0121】
本発明の好ましい実施の形態では、S+Seに対するSの原子比、すなわちS/(S+Se)によって表されるS含有量は、0.1〜0.5である。
【0122】
本発明の好ましい実施の形態では、化学式(III)の合金は概ね均一である。
【0123】
本発明の別の態様によれば、化学式( )の合金を含む半導体薄膜が提供される。その半導体薄膜は、化学式(I)の合金のための支持体、好ましくは基板を含むことが好ましい。
【0124】
本発明の好ましい実施の形態では、その基板は、その上に金属層を含むことができる。その金属層はMo層であることが好ましい。
【0125】
化学式(I)の合金を含むその半導体薄膜は、1.5〜2.0μmの厚みを有することができる。
【0126】
本発明のさらに別の態様では、化学式( )の合金を含む半導体薄膜を含む光/太陽電池が提供される。本発明の好ましい実施の形態では、その光/太陽電池は、8〜15%の変換効率を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0127】
[発明の詳細な説明]
本発明の範囲を制限することなく、単なる例示として、ここで、本発明の実施の形態が以下に記載される例によって説明されることになる。それらの例では、添付の図面が参照される。
【0128】
以下の方法及びその個々の条件が、本発明のIB−IIIA−VIA族合金の特性を決定する際に用いられた。
1.XPS:サンプルの濃度プロファイルは、20WビームエネルギーでAl Kα放射を用いるPhysics Electronics (PHI) Quantum 2000 Scanning XPSシステムを用いて、X線光電子分光法(XPS)によって決定された。スポットサイズは100μmであり、アルゴンイオン源は2kVで動作する。
2.XRD:X線回折(XRD)走査が、40kV及び40mAでCu Kα放射(0.154056オングストローム)を用いるPhillips X' pert回折システムを用いて記録された。
3.SEM:薄膜のモルフォロジ及び組成をそれぞれ研究するために、20kVの垂直入射ビームを用いる20kVのNoran EDSを備えるJeol JSM 5600走査型電子顕微鏡(SEM)が用いられた。
4.GIXRD:サンプルの深さの関数としての格子パラメータが、40kV及び40mAでCu Kα放射(0.154056オングストローム)を用いるPhillips X' pert PW3040−MPDシステムにおいて、すれすれ入射角XRD(GIXRD)によって決定された。
5.太陽電池デバイスが25℃で標準的なA.M.1.5(100mWcm−2)条件下で測定された。個々のデバイスのスペクトル応答は、量子効率測定から決定された。吸収体薄膜の対応するバンドギャップ値は、スペクトル応答測定の長波長カットオフ値から導出された。
【0129】
[全般的な実験手順]
光電池が半導体薄膜、この場合にはIB−IIIA−VIA族合金半導体薄膜を支持するための基板を含むことは当業者にはよく知られている。通常、任意の適当な基板を用いることができるが、その基板は半導体薄膜と反応することはなく、また半導体特性を変化させない。適当な基板はガラス、可撓性金属又はポリマー箔等を含む。
【0130】
基板は0.05〜3.0mmの厚みを有することができ、結果として生成される半導体薄膜の基板への接着性を高めるために、且つ完成した光電池デバイス内のコンタクトとしての役割を果たすために、多くの場合にモリブデンから成る金属層でコーティングされる。
【0131】
Moコーティングの厚みは通常0.5〜1.0mであり、0.1〜0.8Paの使用圧力におけるDCマグネトロンスパッタリングによって基板上に堆積される。当該技術分野において、金属層の用途及び堆積に関連する数多くの他の技術が知られており、たとえば、2つ以上の層が存在する場合があるか、又はモリブデンの代わりにクロムが用いられる場合もあることは理解されよう。
【0132】
[ステップ(i)]
実験のために、2mm厚のソーダ石灰ガラス基板が用いられた。その基板は、超音波によって攪拌された石鹸液内で、ホルダ内に置かれた基板を緩やかに動かすことによって、10分間洗浄された。その後、基板は、その上にある余分な石鹸液を確実に除去するために、数分間、冷たい脱イオン水の給水栓の下に保持された。その後、基板は、超音波によって攪拌された熱い脱イオン水槽内で、基板ホルダを緩やかに動かすことにより洗浄された。最後に、基板は、120℃に保持されるオーブンにおいて、乾燥窒素内で10分間、乾燥された。
【0133】
一旦、乾燥したなら、Mo層が基板上に堆積された。その後、Cu(In1−xGa)Se合金半導体薄膜及びCu(In1−xGa)(Se1−y合金半導体薄膜を製造するために、Mo層上にCu、Ga及びInの金属薄膜が同時蒸着された。CuIn(Se1−y合金半導体薄膜を製造する場合、その基板上にCu及びInが同時蒸着された。Moの堆積及び同時蒸着は、3つの9インチ円形陰極(ターゲット)を収容する堆積チャンバから成るDCマグネトロンスパッタリングユニットにおいて実行された。その場合には、Mo、純粋なIn及びCu0.75Ga0.25合金ターゲットが用いられた。CuIn(Se1−y合金半導体薄膜を製造する場合には、ターゲットはMo、Cu及びInであった。
【0134】
堆積チャンバは、少なくとも3時間、5×10−5Paのベース圧力まで真空にされた。Mo層は、プラズマガスとしてArを用いて、0.5Pa〜0.7Paの使用圧力で、基板を故意に加熱することなく堆積された。Mo層の全厚は1μmであった。
【0135】
[例1:IB−IIIA−VIA族五元合金を製造するための実験手順]
図1は、IB−IIIA−VIA族五元合金半導体薄膜を製造するための本発明による方法の概略図である。
【0136】
[ステップi]
ステップ(i)は全般的な実験手順のもとで先に記載されたように行われた。より詳細には、Mo層を堆積した後に、真空状態を壊すことなく、0.3Paの使用圧力において、Cu0.75Ga0.25及びInの同時スパッタリングが行われた。金属Cu、In及びGaの同時スパッタリングも故意に基板を加熱することなく実行され、Cu−Ga−In合金の混合を促進するために、同時スパッタリング中に基板を回転させた。Cu−In−Ga合金の全厚は0.6μmであり、Cu/(In+Ga)及びGa/(Ga+In)の原子比はそれぞれ、0.9及び0.25に保持された。
【0137】
[ステップii]
ステップiの同時スパッタリングされた金属薄膜を有する基板は、水平石英管反応器(これ以降、反応器管と呼ばれる)内に置かれた。その基板は、グラファイト基板ホルダに載置され、反応器管内に置かれた。グラファイト基板ホルダを用いて、基板を一様に加熱できるようにした。
【0138】
反応器管は、ステップiiを実行する前に、少なくとも2時間、2.67×10−4Paの圧力まで真空にされた。その後、反応器管は加圧され、反応過程において、1300標準立方センチメートル毎分(これ以降、sccmと呼ばれる)の一定のAr流量が確立され、保持された。
【0139】
一旦、一定の不活性ガス流量が確立されたなら、金属薄膜を有する基板の温度は、5分間にわたって、以下の表1に記載される反応温度まで高められた。
【0140】
反応気体混合物(Ar内の0.12モル%HSe)が反応器管の中に通され、その間、基板は、表1に記載される反応時間にわたって、同じく表1に記載される反応温度まで加熱され、二元合金、すなわちCuSe、InSe及びGaSeと、三元合金、すなわちCuInSe及びCuGaSeとの安定した混合物を含む第1の薄膜が形成されるようにした。三元合金の一方が存在するか、両方が存在するかは、ステップiiの反応温度によって決まり、以下に示されるように、400℃では、CuGaSeは形成されない。
【0141】
サンプル200250−aの場合の表1に記載される反応条件下で製造された、ステップiiの第1の薄膜のXRDパターンである図2.1を参照すると、3つの二元合金及びCuInSeの混合物が存在することが明らかである。サンプル200250−aの場合の反応条件下では、400℃においてCuGaSeが形成された形跡はない。
【0142】
サンプル200251−aの場合の表1に記載される反応条件下で製造された、ステップiiの第1の薄膜のXRDパターンである図2.2を参照すると、反射[112]、[220/204]及び[312/116]が、(a)CuInSeに対応する相対的にはっきりと確認されるピーク位置と、(b)CuGaSe並びにCuSe及びGaSeの残りの二元合金の存在に起因する肩部分とを含む。
【0143】
表1に記載されるような反応時間の終了時に、それらのサンプルは、結果として生成された安定した混合物の安定性をさらに保持するための処理ステップにかけられた。これは、反応器管内のHSeの流れを停止することによって、且つサンプルを200℃未満の温度まで急冷することによって果たされた。サンプルは、15分間、上記の条件下に保持され、HSe種が反応器管から完全に除去されるようにした。
【0144】
図2.1及び図2.2はいずれも安定した混合物を示しており、以下の表1に記載される反応条件によって、反応が最後まで進行するのを防ぎ、それにより従来技術の場合のように、CuInSe及びCuGaSeの完全に反応した三元合金が形成され、CuSe、InSe及びGaSeが存在しないようになるのを防ぐ。
【0145】
本発明人は、セレン化反応が最後まで進み、完全に反応した三元合金を形成するのを防ぐために、極めて低い濃度を用いることによって、且つ低い温度を用いることによってSeの系を枯渇させるとき、図2.1及び図2.2に表されるような安定した混合物を達成することができるものと考える。
【0146】
【表1】

【0147】
[ステップiii]
その後、上記の表1の反応条件下で形成されたステップ(ii)の第1の薄膜が、反応器管内で、5分間、450℃の反応温度において、HS及びArの気体混合物(その気体混合物内のSのモルパーセントがArに対して概ね0.35%に保持される)の中で加熱され、二元合金がSと反応して、ステップiiの第1の薄膜が、スルホセレン化物、すなわちCu(Se,S)、In(Se,S)及びGa(Se,S)と、ステップ(ii)の三元合金との混合物を含む第2の薄膜に変換されるようにした。
【0148】
サンプル20051−aのXRDパターン、詳細にはステップ(iii)の場合のXRDである図3を参照すると、In(Se,S)の存在を確認することができるが、残りのスルホセレン化物Cu(Se,S)及びGa(Se,S)は、選択された2θ範囲において示されない。
【0149】
本発明人は、450℃付近の温度では、ステップ(iii)の場合のXRDにおいて示されるように、気体雰囲気内に存在するS種とステップ(ii)の三元合金(図3において26.71°にあるピーク1及び27.75°にあるピーク2によって示される)との間の反応がほとんど生じないものと考える。言い換えると、Sと三元合金との間の反応は、この特定の温度ではほとんど生じない。
【0150】
[ステップ(iv)]
その後、ステップ(iii)の第2の薄膜は、反応器管において、以下の熱処理ステップにかけられた。
【0151】
(a)スルホセレン化物が三元合金と反応して、CuIn(Se1−y及びCuGa(Se1−y(ステップ(iv)(a)の場合のXRDにおいて27.01°にあるピーク3及び28.05°にあるピーク4によって示される)の四元合金を含む第3の薄膜が生成されるように、ステップ(iii)の第2の薄膜を、5分間、約500℃の温度において熱処理するステップ。
【0152】
本発明人は、ステップiiが400℃において実行され、且つCuGaSeが存在しない場合に、このステップにおいて、スルホセレン化物が直に反応して、CuGa(Se1−yを形成することができるものと考える。しかしながら、そのような状況では、結果として生成された四元合金は、高いS濃度を含むことになり、その結果、ピーク4が、図3に示される値よりも高い2θ値にシフトするであろう。
【0153】
Sとステップ(ii)の三元合金との反応は、スルホセレン化物が存在しないこと、たとえば、CuInSeと反応してCuIn(Se,S)を形成したという事実を指示する、図3のステップ(iv)(a)の場合のXRDパターン内にIn(Se,S)ピークが存在しないことによって表される。
【0154】
図3のステップ(iii)の場合のXRDと図3のステップ(iv)(a)の場合のXRDとを比較すると、次に起こる2θシフトから、三元合金([112]ピーク1及び2によって表される)がスルホセレン化物と反応して、四元合金CuIn(Se1−y及びCuGa(Se,S)([112]ピーク3及び4によって表される)を含む第3の薄膜が形成されたことが明らかである。
【0155】
[112]ピークが位置1から3に、且つ位置2から4にシフトする度合いは、三元合金と反応するために利用することができるスルホセレン化物の体積の割合によって決定される。スルホセレン化物の体積の割合はさらに、ステップiiの第1の薄膜内に存在する二元合金の体積の割合に依存し、それはステップ(ii)の反応条件によって制御される。
【0156】
一旦、概ね500℃において、完全に反応した、安定した四元合金が形成されたなら、その反応過程は拡散を制限されるようになり、さらに長い時間にわたって500℃においてHS/Arとさらに反応させても、結晶状態及び複合合金のS含有量にほとんど影響を及ぼさなくなる。
【0157】
(b)CuIn(Se1−y及びCuGa(Se1−yの四元合金が反応して、Cu(In1−xGa)(Se1−y五元合金半導体薄膜を形成するように、15分間、550℃の温度で、ステップ(iv)(a)の第3の薄膜を反応器管においてアニールするステップ(ただし、xは0.1から0.5まで、好ましくは0.25から0.3まで変化することができ、yは0から1まで、好ましくは0.05から0.5まで変化することができる)。四元合金状態から五元合金状態(図3のステップ(iv)(b)の場合のXRDにおいて27.2°にあるピーク5によって示される)への遷移は、HSとの反応の10〜15分以内に生じるが、五元合金の構造的な特性を最適化するには、通常、さらに15分間アニールする必要がある。
【0158】
Cu(In1−xGa)(Se1−y五元合金内の硫黄含有量がCuIn(Se1−y及びCuGa(Se1−yの四元合金の硫黄含有量に依存すること、並びにx及びyの値がスルホセレン化物の体積の割合に依存することに留意することが重要である。実際には、この関係は、最終的な五元合金内の硫黄含有量(すなわち図1のzの値)が個々の四元合金内の硫黄の濃度(すなわち、図1のx及びyの値)によって決定されるように、図1に示されるように数学的に表すことができる。数学的には、この依存関係はz=x+y/2として表すことができる。zの値は最終的には、五元合金の[112]回折ピークの2θ−値を、したがって、その合金の格子パラメータ及びバンドギャップを決定する。
【0159】
実験のために、ステップ(iii)及び(iv)の両方が、HSの反応性気体混合物内で連続して実行され、その場合に、温度は450℃から550℃まで高められた。
【0160】
ステップ(iii)及びステップ(iv)の終了時に、反応器管は、少なくとも2時間、2.67×10−4Paの圧力まで真空にされ、毒性のガスが反応器管から完全に除去されるようにした。その後、反応器管は加圧され、サンプルが取り出された。
【0161】
本発明人は、先に記載されたような方法を実行することによって、従来技術の方法によって形成される半導体薄膜と比較して、改善された特性を有する概ね均一な五元合金半導体薄膜が形成されるものと考える。
【0162】
[本発明の方法に従って製造されたCu(In1−xGa)(Se1−y合金半導体薄膜の特徴の説明]
上記の表1に記載されるサンプルが、ステップ(iii)及び(iv)にかけられ、概ね均一な半導体五元合金が形成され、Cu/(In+Ga)、Ga/(Ga+In)及びS/(Se+S)原子比を参照してエネルギー分散型x線分光法(EDS)によって決定されるような、それらの対応する化学組成が、以下の表2に記載される。また、以下の表2には、サンプル毎、及び[112]回折ピークの位置毎のバンドギャップ値も示される。
【0163】
【表2】

【0164】
これらの研究は、Ar内で希釈された0.12%HSe及びAr内で希釈された0.35%HSの一定の流量において行われた。五元合金の[112]ピークの2θ−位置は、40kVでCu管を用いるGIXRDによって測定された。対応するバンドギャップ値は量子効率測定から計算された。ステップvi(b)にかかった時間は90分に延びた。
【0165】
表2の最初の4つのサンプルを比較することによって、その表のS/(S+Se)列によって例示される、硫黄を取り込む度合いへの本発明のステップiiの条件の影響が明確に示される。従って、ステップiiの条件を変更することにより、本発明のステップ(iii)中の後続の反応動力学が変更され、結果として、最終的なCu(In0.75Ga0.25)(Se1−y半導体薄膜内の硫黄の取込みにも変化が生じた。
【0166】
サンプル200250−a及び200251−aの比較によって、ステップiiの反応温度を400℃から450℃に高めることが、硫黄の取込みの大幅な減少に、それゆえ[112]回折ピークの低い角度へのシフトに如何に繋がるかが示される。
【0167】
最後の2つ(すなわち200251−a及び200252−a)の場合に、ステップiiの反応条件が一定に保持され、一方、上記のステップ(iv)(b)において、結果として生成された複合合金をアニールするための反応時間が30分から90分に延長さされた。
【0168】
これらのサンプルの比較によって、30分よりも長い時間にわたってHS/Ar雰囲気が存在する中でアニールすることが、硫黄を取り込む度合いにわずかな影響しか及ぼさないことが明確に示される。
【0169】
したがって、これは、550℃でHS/Ar内で30分だけアニールした後に、概ね均一な五元合金が形成されたことを指示する。さらに、一旦、完全に反応した均一な五元合金が製造されたなら、その反応過程は拡散を制限されることになり、さらに硫黄を取り込むには、セレン種を補充することによって行われる必要があることを暗示する。
【0170】
図4.1及び図4.2は、上記の表2に記載されるサンプル200251a及び200250aの[112]反射のすれすれ入射x線回折(GIXRD)パターンである。この特性判定方法では、入射角を小さくする結果として、x線ビームの侵入距離が減少する。0.2°と10°との間の散乱角がサンプルの表面と本体との間の格子パラメータに概ねシフトがないことを明らかにしており、それにより五元合金の均一性が確認されることに留意することが重要である。同じく重要なのは、ステップiiの条件が変動する結果として、[112]回折ピークの2θ−位置が大きくシフトしたことである。全ての複合合金においてガリウム含有量は概ね一定であるので、この相対的なシフトは、硫黄を取り込む度合いが変化することに起因する。以下の表3は、2つの角度の種々のシフトを示し、表4は、表2の五元合金のうちのいくつかの場合のd−間隔の対応するシフトを示す。
【0171】
表3は、種々の入射角における[112]反射の位置の一覧である。全ピークシフトは、サンプルの0.5°(表面付近)における[112]反射のピーク位置と10°(本体)における[112]反射のピーク位置との間の差として計算される。
【0172】
【表3】

【0173】
表4は、種々の入射角における[112]反射のd−間隔(オングストローム単位)の位置の一覧である。d−間隔の全シフトは、サンプルの0.5°(表面付近)において測定されたd−間隔と10°(本体)において測定されたd−間隔との間の差として計算される。
【0174】
【表4】

【0175】
d−間隔の全シフトは、本発明による方法によって製造されたサンプル合金半導体薄膜が単位セルから成る格子を含む結晶構造によって特徴付けられ、全ての結晶面が0.001未満のd−間隔の分散を示すことを示している。
【0176】
図5は、CuIn0.75Ga0.3前駆体の[112]回折ピークの位置を示しており、その前駆体は、サンプル2003078−aの場合の表2のステップ(iv)の条件下で、(i)最初にセレン化され、次に(ii)硫化された。セレン化/硫化中の実験条件は、高いS含有量(すなわち、S/Se+S=0.7)の五元合金(サンプル2003078−a)を製造するために操作された。26.60°にあるピーク(i)は、セレン化後のCuInSeの予想される[112]ピーク位置である。この処理段階におけるピークの非対称な挙動は、Gaが徐々に変化することに起因すると考えられる。
【0177】
しかしながら、硫化後に、[112]ピーク位置が、27.8°の角度までシフトしたことに留意することが重要である。ベガード則を使用し、且つ約25%のGa濃度を仮定すると、これは、約70%のS含有量に、それゆえ均一なCu(In0.7Ga0.3)(Se0.30.7合金に対応する。これらの組成はEDS測定によって確認された。ピーク(ii)は対称であり、組成の広がりの形跡はないことに留意することが特に重要である。QE測定から求められる、サンプル2003078−aのバンドギャップは1.4eVである(図7を参照)。このバンドギャップは、最適な変換効率を得るには大きすぎるかもしれないが、上記のことから、S含有量が高い薄膜の場合であっても、均一な材料を製造することができることは明らかである。
【0178】
図8は、上記の方法によって製造される種々の均一なCu(In,Ga)(Se,S)合金の[112]ピーク位置を、より詳細には、サンプル2003076−c、サンプル200251−a及びサンプル200250−aの場合の[112]ピーク位置を示す。再び、前駆体内のGa濃度は一定に保持され、表2に示されるように、セレン化/硫化反応条件を操作して、Sを取り込む度合いを、それゆえ格子パラメータを制御するものと仮定される。
【0179】
図8から、[112]ピークの位置が、サンプル2003076−c、サンプル200251−a及びサンプル200250−aの場合に表2に示されるように、0.05と0.4との間のS/Se+S原子比に対応する、26.9°と27.4°との間で変化することが明らかである。再び、後者の値は、均一な五元合金と0.25のGa/Ga+In比とを仮定して、ベガード則から推定される。これらの特定の合金の場合に、バンドギャップ値の対応するシフトは、1.1eVと1.3eVとの間にある。たとえば、図9は、概ね27.2°の[112]ピーク値を有する、均一なCu(In0.75Ga0.25)(Se0.750.25合金、すなわちサンプル200251−aの場合の一般的なQE曲線を示す。図10は、S/Se+S比の関数としてのバンドギャップ値のプロットを示す。
【0180】
図11、図12及び図13は、例1によって製造されたCu(In,Ga)(Se,S)合金半導体薄膜の一般的な表面モルフォロジを示しており、Sの含有量、それゆえバンドギャップが変化している。図11(サンプル200251−a)の例では、[112]ピークの位置は27.2°にあり、対応するバンドギャップは1.20eVにある(図9を参照)。図12(サンプル200250−a)の合金の[112]ピーク位置は27.4°にある。図13は、図7に示されるように、[112]ピーク位置が概ね27.8°にあり、対応するバンドギャップ値が1.4eVにある合金(サンプル2003078−a)の構造的な特徴を示す。
【0181】
図11、図12及び図13から、結果として生成された合金が、約1 mの一般的な粒径を有する相対的に一様な表面モルフォロジを有することが明らかである。
【0182】
図14は、サンプル200251−aの場合の元素Cu、In、Ga、Se及びSの濃度深さプロファイルである。そのプロファイルには、そのサンプルの概ね均一な性質が示されており、合金の中の元素の濃度は、Mo金属層まで概ね一定である。
【0183】
[本発明による方法によって製造された概ね均一な五元合金半導体薄膜を含む種々の太陽電池デバイスの場合の開放電圧の決定]
標準的な太陽電池製造手順に従って太陽電池デバイスが製造され、そのデバイスは50nmCdSバッファ層と、50nm真性ZnO/150nm酸化インジウムスズ(ITO)ウインドウ層とを含んだ。ガラス/Mo/Cu(In,Ga)(Se,S)/CdS/ZnOセル構造が、25℃の誘導A.M. 1.5条件下で測定された。概ね均一な五元合金のバンドギャップ値は、表2に示されるように、ステップiiの反応条件を変更することにより変更された。対応するセルパラメータが以下の表5に記載される。
【0184】
表5は、種々の光電池デバイスのセルパラメータの一覧であり、その半導体薄膜は種々のバンドギャップ値を有する概ね均一な五元合金半導体薄膜である。
【0185】
【表5】

【0186】
変換効率は、サンプル合金のバンドギャップに大きく関連し、8%から15%まで変化し、最も良いデバイスは最も小さなバンドギャップを有するデバイスであった(サンプル200375−b)。全てのデバイスが600mVよりも大きな開放電圧(VOC)を有した。同じく、サンプル200251−aの場合に先に記載された反応条件下で製造された五元合金半導体薄膜を含む24個の光電池が形成された。これらの電池のVOC値は、600〜640mVの範囲内の値に限られており(図6を参照)、本発明人は、これが本発明による方法の再現性の証拠であると考える。
【0187】
[例2:IB−IIIA−VIA族四元合金を製造するための実験手順]
[ステップ(i)]
ステップiは、全般的な実験手順のもとで記載されたのと同じである。より詳細には、Mo層を堆積した後に、真空状態を壊すことなく、0.3Paの使用圧力において、Cu0.75Ga0.25及びInの同時スパッタリングが行われた。金属Cu、In及びGaの同時スパッタリングも故意に基板を加熱することなく実行され、Cu−Ga−In合金の混合を促進するために、同時スパッタリング中に基板を回転させた。Cu−In−Ga合金の全厚は0.6μmであり、Cu/(In+Ga)及びGa/(Ga+In)の原子比はそれぞれ、0.9及び0.25に保持された。
【0188】
[ステップii]
この場合には、上記の実験1のステップiiにおいて記載されたのと同じ方法が行われるが、反応温度は400℃に保持され、二元合金及びCuInSeのみの安定した混合物を含む第1の薄膜が形成されるようにした。
【0189】
本発明人は、四元合金半導体薄膜を製造する場合に、均一な四元合金を得るために、第2の三元合金、すなわちCuGaSeが形成されるのを防ぐ必要があるものと考える。これは、反応温度を400℃に保持することにより達成された。
【0190】
上記のように、ステップiiの第1の薄膜は、その混合物の安定性を保持するための処理ステップにかけられ、HSe流が停止され、第1の薄膜は100℃未満の温度まで冷却される。この場合に、再び、HSe種を完全に除去できるようにするために、Ar流が少なくとも15分間保持された。
【0191】
[ステップ(iii)]
四元合金半導体薄膜を製造する場合に、このステップは実行されない。
【0192】
[ステップ(iv)]
第1の薄膜が以下の一連のステップにかけられる。
(a)反応器管内にあるステップ(ii)の第1の薄膜を、Arの不活性雰囲気において、5分間、500℃の反応温度で加熱するステップ。
(b)反応器管内にあるステップ(ii)の第1の薄膜を、Arを含む雰囲気において、少なくとも15分間、500℃でアニールするステップ。
(c)第1の薄膜を、Ar内に0.12モルパーセントのHSeが存在する中で、30分間、550℃でアニールし、均一なCu(In1−xGa)Se四元合金半導体薄膜を形成するステップ。ただし、xは0.25〜0.3である。
【0193】
五元合金を形成する場合と同様に、反応器管は、少なくとも2時間、2.67×10−4Paの圧力まで真空にされ、毒性のガスが反応器管から完全に除去されるようにした。その後、反応器管は加圧され、サンプルが取り出された。
【0194】
再び、本発明人は、例2のもとで記載された反応条件及び方法に従うことにより、概ね均一なCu(In1−xGa)Se半導体薄膜を形成することができるものと考える。
【0195】
3つのサンプルは実験2のもとで記載される条件下で製造され、Cu/(In+Ga)及びGa/(Ga+In)原子比を参照してエネルギー分散型x線分光法(EDS)によって決定されるような反応条件及び対応する化学組成が、以下の表6に記載される。
【0196】
【表6】

【0197】
これらの研究は、ステップ(ii)の場合にAr内で希釈された0.12%HSe、及びステップ(iv)(c)の場合にAr内で希釈された0.12%HSeの一定の流量において行われた。五元合金の[112]ピークの2θ−位置は、40kVでCu管を用いるGIXRDによって測定された。対応するバンドギャップ値は量子効率測定から計算された。
【0198】
以下の表7には、上記のサンプルの場合の全2θシフトが示されており、表8には、対応するd−間隔の全シフトも示される。
【0199】
表7は、種々の入射角における[112]反射の位置の一覧である。全ピークシフトは、サンプルの0.5°(表面付近)における[112]反射のピーク位置と10°(本体)における[112]反射のピーク位置との間の差として計算される。
【0200】
【表7】

【0201】
表8は、種々の入射角における[112]反射のd−間隔(オングストローム単位)の位置の一覧である。d−間隔の全シフトは、サンプルの0.5°(表面付近)において測定されたd−間隔と10°(本体)において測定されたd−間隔との間の差として計算される。
【0202】
【表8】

【0203】
d−間隔の全シフトは、本発明による方法によって製造されたサンプル合金半導体薄膜が単位セルから成る格子を含む結晶構造によって特徴付けられ、全ての結晶面が0.06未満のd−間隔の分散を示すことを示している。
【0204】
本発明による方法によって製造される四元合金の均一な特徴をさらに例示するために、従来技術のサンプルが製造され、その特徴が、例2に記載される方法によって製造されたサンプルと比較された。
【0205】
図15.1及び図15.2はXRDパターンを表し、組成が徐々に変化する一般的な四元合金(従来技術のサンプル)及び均一な四元合金(すなわちサンプル200259−a)のそれぞれの結晶の特徴を示しており、それらの合金は以下に記載されるようにして製造された。いずれの場合でも、40kVでのCu Kα放射で測定が行われた。
【0206】
組成が徐々に変化する四元合金(従来技術のサンプル)(図15.1のXRDパターンを参照)の場合には、その合金は、HSeが存在する中で、5分未満で500℃まで急速に加熱され、その後、Ar内に5モルパーセントのHSeがある中で、60分間、500℃においてアニールステップが行われた。この手順の結果として、Inを豊富に含む相とGaを豊富に含む相との間の相互拡散の度合いが大きくなり、XRD分析は、組成が徐々に変化するCu(InGa1−x)Se構造の存在を示した。この現象は、[112]、[220/204]及び[312/116]回折ピークの非対称な広がりによって表される。これに関して、26.65°にある[112]回折ピークの位置が依然として、純粋なCuInSe相の格子パラメータを表しており、一方、その肩部はGaの量が増加していることに起因し、それはCuGaSeのピーク位置まで途切れることなく延在する。それゆえ、吸収薄膜の表面が純粋なCuInSeを含み、ガリウムがMo背面コンタクトに向かって徐々に増加するものと仮定することが妥当である。
【0207】
第2のサンプル、すなわちサンプル200259−aは、例2、表6のもとで、ステップi、ii及び(iv)に記載される、既に説明された実験条件下で製造された。二元合金の反応速度を制御するために、Ar内の0.12モル%のHSeという極めて低い気体濃度を用いて、ステップiiが400℃において実行された。その反応時間は30分に固定された。反応区域からSe種を完全に除去した後に、第1の薄膜は、Arが存在する中で、15分間、500℃の温度においてアニールされ、その直後に、Ar内の0.12モルパーセントのHSeにおいて、30分間、アニールステップが行われた。
【0208】
図15.2によって表されるサンプル200259−aのXRD研究は、結果として生成された薄膜が均一であり、材料が分離している形跡がないことを明らかにした。鮮明で、明確な[112]、[220/204]及び[312/116]ピークは、高い結晶品質を指示する。[112]ピーク位置が純粋なCuInSe(図15.1に示される)の場合に典型的である約26.65°から26.85°の2θ値まで高められたことに留意することも重要である。このサンプルが、より大きな2θ値に向かって[112]ピークをシフトすることは、四元系内のGa含有量の増加に関連する格子パラメータが減少することに基づく。回折ピークのシフトが高い2θ値に向かうこの度合いは、厳密には、ベガード則に基づいており、均一な材料と、概ね0.25のGa/(Ga+In)原子比とが仮定される。
【0209】
図16は、0.5°と10°との間の入射角におけるサンプル200259−aの[112]ピークのGIXRDパターンを示す。再び、入射角が小さくなる結果として、x線ビームの侵入距離が短くなることが理解されるべきである。図16から、0.5°と10°との間の散乱角は、表面と本体材料との間の格子パラメータ内に概ねシフトがないことを明らかにしており、それは、その薄膜が組成的に徐々に変化するのではなく、一様であることを立証していることに留意することが重要である。
【0210】
その四元合金の深さ方向の組成の特徴はx線蛍光(XRF)によって研究された。この特性判定方法では、サンプルが臭素メタノールにおいて繰返しエッチングされ、その後、各エッチングステップの後に、残りの材料のXRF Kα1,2線強度が測定された。これらの分析から、概ね薄膜厚全体にわたって、従来技術のサンプル及びサンプル200259−aの化学組成を推定することができる。
【0211】
図17.1は図15.1の組成が徐々に変化する従来技術のCu(In0.75Ga0.25)Se合金薄膜の深さ方向の組成が一様であることを表す。図17.1から、薄膜の厚み全体を通して、Cu及びSe元素濃度が概ね一定に保持されることに留意することが重要である。さらに特筆すべきことに、一連のエッチングステップ後の残りの材料では、益々ガリウムが豊富になっており、一方、インジウムの場合には反対の傾向が見られることが明らかである。結果として生成されたGa/(Ga+In)原子比は、エッチング前のサンプルの場合の0.28の値から最後のエッチングステップ後の0.75まで増加した。サンプルの深さとともにGa/(Ga+In)原子比がこのように連続して増加することは、図15.1のXRD研究によって観測される、徐々に変化するCu(InGa1−x)Se相と一致する。
【0212】
図17.2は、サンプル200259−aの深さ方向の組成特性を表す。これらの特定の四元合金の層厚全体を通して、Cu、In、Ga及びSe濃度が概ね一定に保持されていることが明らかである。それゆえ、これらの結果は、図15.2において提示されるXRDデータと一致し、この成長過程によって、Cu(InGa1−x)Se相内のガリウム及びインジウムが徐々に変化することがなくなったこと、及びこの成長過程の結果として、均一な四元合金が生成されたことが確認される。
【0213】
サンプル200259−aの均一性が図18の濃度プロファイルによって例示され、その図によれば、元素Cu、In、Ga及びSeの濃度はサンプル合金の中で概ね一定である。
【0214】
[例3:IB−IIIA−VIA族四元合金−CuIn(Se1−yを製造するための実験手順]
[ステップi]
この場合、Gaも含まれていた以前の事例とは対照的に、Cu及びInのみを含む金属薄膜が製造される。より具体的には、Cu及びInの金属前駆体が、Leybold Z650 DCマグネトロンスパッタリングシステムを用いて、基板に同時にスパッタリングされた。そのシステムは3つの個別のターゲット(すなわち、Mo、Cu及びIn)を収容し、Cu及びInの混合を促進するために、堆積中に基板を絶えず回転させた。Mo背面コンタクト(約1μm厚)が、0.3Pa〜0.7Paの使用圧力で、5N純粋Moターゲットからスパッタリングされた。Mo薄膜は真空中で室温まで冷却され、その後、5N純粋Cu及びInターゲットから、Cu層及びIn層が同時スパッタリングされた。銅−インジウム合金の全厚は約0.6μmであり、個々の堆積過程において、Cu電力を0.72W.cm−2に保持しながら、In電力を1.0から1.4W.cm−2まで変化させることにより、0.85〜0.9の所望のCu/In原子比が達成された。全てのCu−In層は、0.5Paの使用圧力で堆積された。
【0215】
[ステップii]
この場合、例2のもとで記載されたのと同じような方法が用いられた。Cu及びIn前駆体を含む金属薄膜が反応器管内に置かれ、反応器管は、任意の大気残留物の全ての痕跡を除去するために、1×10−4Paの圧力まで真空にされた。反応気体混合物(すなわち、Ar内にある0.12%のHSe)が反応器管に通され、その間、基板は、10〜60分間、350℃〜450℃の温度まで加熱されて、InSe、CuSe及びCuInSeの安定した混合物を含む薄膜が形成された。
【0216】
金属薄膜をセレン化した直後に、第1の薄膜は急冷され、気体混合物の流れが停止され、安定した混合物が保持されるようにした。
【0217】
[ステップ(iii)]
四元合金半導体薄膜を製造する場合、このステップは実行されない。
【0218】
[ステップ(iv)]
ステップ(iv)の熱処理は最初に、ステップ(ii)の第1の薄膜を、少なくとも30分以内に、500〜550℃の所望の反応温度まで熱処理することを含んだ。
【0219】
その後、ステップ(ii)の第1の薄膜は次いで、Ar内にHSがある気体混合物(Ar内に0.35モル%のHS)が存在する中で、30分間、約550℃の温度においてアニールされる。
【0220】
上記のステップ中に、CuSe及びInSeの既存の二元合金がSと反応し、Cu(Se,S)及びIn(Se,S)のスルホセレン化物が形成され、そのスルホセレン化物がさらに、CuInSeの三元合金と反応して、CuIn(Se1−y合金半導体薄膜が形成される。
【0221】
五元合金を形成する場合と同様に、反応器管は、少なくとも2時間、2.67×10−4Paまで真空にされ、反応器管から毒性のガスが完全に除去されるようにした。その後、反応器管は加圧され、サンプルが取り出された。
【0222】
再び、本発明人は、例3のもとで記載される反応条件及び方法に従うことにより、概ね均一なCuIn(Se1−y合金半導体薄膜を形成することができるものと考える。
【0223】
3つのサンプルは実験3のもとで記載される条件下で製造され、その反応条件、並びにCu/In及びS/(Se+S)原子比を参照してエネルギー分散型x線分光法(EDS)によって決定されるような対応する化学組成が、以下の表9に記載される。
【0224】
【表9】

【0225】
以下の表10には、上記のサンプルの場合の全2θシフトが示されており、表11には、対応するd−間隔の全シフトも示される。
【0226】
表10は、種々の入射角における[112]反射の位置の一覧である。全ピークシフトは、サンプルの0.5°(表面付近)における[112]反射のピーク位置と10°(本体)における[112]反射のピーク位置との間の差として計算される。
【0227】
【表10】

【0228】
これらの研究は、ステップ(ii)の場合にAr内で希釈された0.12%HSe、及びステップ(iv)の場合にAr内で希釈された0.35%HSの一定の流量において行われた。五元合金の[112]ピークの2θ−位置は、40kVでCu管を用いるGIXRDによって測定された。対応するバンドギャップ値は量子効率測定から計算された。
【0229】
表11は、種々の入射角における[112]反射のd−間隔(オングストローム単位)の位置の一覧である。d−間隔の全シフトは、サンプルの0.5°(表面付近)において測定されたd−間隔と10°(本体)において測定されたd−間隔との間の差として計算される。
【0230】
【表11】

【0231】
d−間隔の全シフトは、本発明による方法によって製造されたサンプル合金半導体薄膜が単位セルから成る格子を含む結晶構造によって特徴付けられ、全ての結晶面が0.007未満のd−間隔の分散を示すことを示している。
【0232】
本発明による方法によって製造される四元合金の均一な特徴をさらに例示するために、従来技術のサンプルが製造され、その特徴が、例3のもとで記載される方法によって製造されたサンプル、より詳細には、サンプル200259−cと比較された。
【0233】
第1のサンプルが従来技術の条件下で製造され、Cu及びInを含む金属薄膜が、60分間、450℃においてセレン化され、完全に反応したCuInSe薄膜が製造された。その後、サンプルは、30分間、550℃において硫化された。
【0234】
図19は、サンプル200259−cのXRDパターンを示す。従来技術の反応過程の結果として、2つの個別の三元合金、すなわちCuInSe及びCuInSが形成されたことに留意することが重要である。26.68°にある[112]回折ピークの位置はCuInSeの格子パラメータを表し、一方、27.84°にあるピーク位置はCuInSの格子パラメータを表す。27°付近の弱い反射の存在は、四元CuIn(Se,S)相の形成を表す。この変則的な成長の挙動は、硫化中のサンプルからSeが制御されずに外方拡散され、結果としてSが急速に取り込まれることに関連する。この結果として、最終的には、概ね個別のCuInSe及びCuInS相を含む合金が形成された。60分間又はそれよりも長く硫化される極端な事例では、そのサンプルはSeを完全に使い果たし、結果として、CuInSe合金が形成された。SEM研究(図20)によって、不均一な合金の一様でない構造的な性質が予想通り明らかにされた。通常、これらの薄膜は、大きく、滑らかな平面の結晶と、その中に埋め込まれる細粒状の物質から構成された。
【0235】
図21は、CuIn(Se0.70.3合金(サンプル200259−c)のSEM顕微鏡写真である。その合金薄膜は、高密度で、比較的一様な構造によって特徴付けられ、一般的な粒径は約1μmである。図22は、サンプル200259−cの(112)反射を示す。比較するために、単相CuInSe及びCuInSの(112)反射の理論的に予想される2θ位置が、図22において破線によって示される。CuIn(Se,S)薄膜の(112)反射が、純粋なCuInSeの場合のおよそ26.63°から、Sを取り込んだ後の27.1°に増加したことに留意することが重要である。この現象は、S種がSeと均一に置き換わることに起因する、合金のd−間隔の減少に直に関連する。回折ピークも高い度合いの対称性を表しており、図19と同様に、組成の広がり又はピーク分割の形跡はない。
【0236】
図23は、サンプル200258−bの場合の濃度プロファイルであり、Cu、In、Se及びSの元素の濃度が、合金の深さを通してMo層に達するまで概ね一定であるという点で概ね均一であるという事実を指示する。
【0237】
図24は、サンプル200263−bの場合のGIXRDパターンであり、それは、そのサンプルが概ね均一であり、0.5°〜10°の視射角の場合に4.6%の絶対2θシフトを有することを示す。
【0238】
これまでの説明は本発明の実施の形態にすぎず、特許請求の範囲に規定されるような本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、細かい点において数多くの変形が可能であることは理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0239】
【図1】本発明によるIB−IIIA−VIA族五元合金半導体薄膜を製造するための方法の概略図である。
【図2.1】例1のステップiiに従って形成される第1の薄膜のX線回折スペクトルを示し、より詳細にはサンプル200250−aの第1の薄膜のXRDパターンを示すグラフである。
【図2.2】例1のステップiiに従って形成される第1の薄膜のX線回折スペクトルを示し、より詳細にはサンプル200251−aの第1の薄膜のXRDパターンを示すグラフである。
【図3】サンプル200251−aのための例1によるステップ(iii)、ステップ(iv)(a)及び(iv)(b)に対応し、そのサンプルの場合の三元合金状態から四元及び五元合金状態への遷移を示すX線回折スペクトルのグラフである。
【図4.1】例1のサンプル200251−aの五元合金半導体薄膜の[112]ピーク位置のGIXRDパターンを示すグラフである。
【図4.2】例1のサンプル200250−aの五元合金半導体薄膜の[112]ピーク位置のGIXRDパターンを示すグラフである。
【図5】例1のサンプル2003078−aのXRDパターンのグラフである。
【図6】サンプル200251−aの半導体薄膜を有する多数の光電池のための開放電圧(VOC)をプロットしたグラフである。
【図7】例1のサンプル200290−aのための量子効率(QE)のグラフである。
【図8】例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.950.05合金半導体薄膜(サンプル200376−c)、Cu(In0.75Ga0.25)(Se0.750.25)合金半導体薄膜(サンプル200251−a)及びCu(In0.75Ga0.25)(Se0.60.4合金半導体薄膜(サンプル200250−a)のXRDパターンのグラフである。
【図9】例1の均一なCu(In0.75Ga0.25)(Se0.750.25(サンプル200251−a)合金半導体薄膜の量子効率(QE)のグラフである。
【図10】例1に記載されるステップに従って製造された、一連の均一な五元合金の場合のS/(Se+S)比の関数としてのバンドギャップ値のプロットを示すグラフである。
【図11】例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.750.25合金半導体薄膜(サンプル200251−a)の表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図12】例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.60.4合金半導体薄膜(サンプル200250−a)の表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図13】例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.30.7合金半導体薄膜(サンプル200378−a)の表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図14】例1の五元合金のXPS濃度深さプロファイル、より詳細には、サンプル200251−aの濃度プロファイルのグラフである。
【図15.1】例2において規定される従来技術の条件下で製造された四元合金のXRDパターンのグラフである。
【図15.2】例2、具体的にはサンプル200259−aの四元合金のXRDパターンのグラフである。
【図16】例2のサンプル200259−aの[112]ピーク位置のGIXRDパターンのグラフである。
【図17.1】例2において規定される従来技術の条件下で製造された四元合金の深さ方向の組成特性を示すX線蛍光プロファイルのグラフである。
【図17.2】例2のサンプル200259−aの四元合金の深さ方向の組成特性を示すX線蛍光プロファイルのグラフである。
【図18】例2の四元合金のXPS濃度深さプロファイル、より詳細にはサンプル200259−aの濃度プロファイルを示すグラフである。
【図19】例3において記載される従来技術の条件下で製造された四元合金のXRDパターンのグラフである。
【図20】例3において記載される従来技術の条件下で製造された四元合金の表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図21】例3のサンプル200259−cの表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図22】例3のサンプル200259−cのXRDパターンのグラフである。
【図23】例3の四元合金のXPS濃度深さプロファイル、より詳細には、サンプル200258−bの濃度深さプロファイルのグラフである。
【図24】例3のサンプル200263−bの[112]ピーク位置のGIXRDパターンのグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IB−IIIA−VIA族四元合金又は五元合金以上の合金から成る半導体薄膜を製造するための方法であって、該方法は、
(i)IB族及びIIIA族金属の混合物を含む金属薄膜を配設するステップと、
(ii)第1のVIA族元素(該第1のVIA族元素は、これ以降、VIAと呼ばれる)の発生源が存在する中で、IB−VIA族合金及びIIIA−VIA族合金から成るグループから選択される少なくとも1つの二元合金と、少なくとも1つのIB−IIIA−VIA族三元合金との混合物を含む第1の薄膜を形成するための条件下で前記金属薄膜を熱処理するステップと、
(iii)第2のVIA族元素(該第2のVIA族元素は、これ以降、VIAと呼ばれる)の発生源が存在する中で、ステップ(ii)の前記第1の薄膜を、IB−VIA−VIA族合金及びIIIA−VIA−VIA族合金から成るグループから選択される少なくとも1つの合金と、前記ステップ(ii)の少なくとも1つのIB−IIIA−VIA族三元合金とを含む第2の薄膜に変換するための条件下で、オプションで、前記第1の薄膜を熱処理するステップと、
(iv)ステップ(ii)の前記第1の薄膜又は前記ステップ(iii)の前記第2の薄膜のいずれかを熱処理して、IB−IIIA−VIA族四元合金又は五元合金以上の合金から成る半導体薄膜を形成するステップとを含む、IB−IIIA−VIA族四元合金又は五元合金以上の合金から成る半導体薄膜を製造するための方法。
【請求項2】
ステップ(ii)の前記第1の薄膜の前記混合物は、全ての前記少なくとも1つのIB−IIIA−VIA族三元合金に対する全ての前記IB−VIA族合金及び/又は前記IIIA−VIA族合金のモル比が概ね一定に保持されるような安定した混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(i)の前記金属薄膜は、オプションとして金属層でコーティングされた基板上に配設される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属層はMo層である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(i)の前記金属薄膜は、Cu、In及びGaから成るグループから選択される金属の混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(i)の前記金属薄膜はCu−In−Ga合金金属薄膜である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記金属薄膜はCu−In合金金属薄膜である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記VIA族元素はSeである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記VIA族元素の発生源は、HSe及び少なくとも1つの不活性ガスの気体混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記不活性ガスはArである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの不活性ガスに対するSeのモル濃度は0.01ないし15モルパーセントである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの不活性ガスに対するSeのモル濃度は0.05ないし0.3モルパーセントである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(ii)は300ないし500℃の反応温度において実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(ii)は350ないし450℃の反応温度において実行される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(i)の前記金属薄膜は、5分以内に、300ないし500℃の反応温度まで急速に加熱される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記ステップ(ii)中に、前記ステップ(i)の前記金属薄膜は、10ないし120分間、前記VIAの前記発生源に曝露される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記ステップ(i)の前記金属薄膜は、30ないし60分間、前記VIAの前記発生源に曝露される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、50原子%未満の前記VIA元素を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、50原子%未満の前記Seを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項20】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、前記少なくとも1つの二元合金及び前記少なくとも1つのIB−IIIA−VIA族三元合金の前記混合物が安定した状態を確実に保持するための条件下で処理される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記VIA元素の前記発生源は、前記混合物の安定性を保持するために除去される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、5ないし20分間、不活性雰囲気に曝露される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、200℃未満の温度まで冷却される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、InSe、CuSe及びGaSeから成るグループから選択される少なくとも1つの二元合金と、CuInSe及びCuGaSeから成るグループから選択される少なくとも1つの三元合金との混合物を含み、前記VIAはSeである、請求項5に記載の方法。
【請求項25】
IB−IIIA−VIA族五元合金半導体薄膜を製造するための請求項1に記載の方法であって、
前記ステップ(i)は、少なくとも1つのIB族元素と、第1のIIIA族元素(第1のIIIA族元素は、これ以降、IIIAと呼ばれる)と、第2のIIIA族元素(第2のIIIA族元素は、これ以降、IIIAと呼ばれる)との混合物を含む金属薄膜を配設することを含み、
前記ステップ(ii)は、前記VIAの発生源が存在する中で、IB−VIA族合金、IIIA−VIA族合金及びIIIA−VIA族合金から成るグループから選択される二元合金と、2つの三元合金、すなわちIB−IIIA−VIA族合金及びIB−IIIA−VIA族合金との混合物を含む第1の薄膜を形成するための条件下で、前記ステップ(i)の前記金属薄膜を熱処理することを含み、
前記ステップ(iii)が実行され、前記VIAの発生源が存在する中で、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜を、IB−VIA−VIA族合金、IIIA−VIA−VIA族合金及びIIIA−VIA−VIA族合金から成るグループから選択される少なくとも1つの合金と、前記ステップ(ii)の前記三元合金とを含む第2の薄膜に変換するための条件下で、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜を熱処理することを含み、
前記ステップ(iv)は、前記ステップ(iii)の前記第2の薄膜を熱処理して、IB−IIIA−IIIA−VIA−VIA族五元合金半導体薄膜を形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、IB−VIA族合金、IIIA−VIA族合金及びIIIA−VIA族合金の形の二元合金と、IB−IIIA−VIA族合金及びIB−IIIA−VIA族合金の形の三元合金との混合物を含み、前記ステップ(iii)の前記第2の薄膜は、IB−VIA−VIA族合金、IIIA−VIA−VIA族合金及びIIIA−VIA−VIA族合金の形の合金と、前記ステップ(ii)の三元合金との混合物を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ステップ(iv)は、第1の熱処理ステップを含み、該ステップでは、前記ステップ(iii)の前記第2の薄膜が加熱され、IB−IIIA−VIA−VIA族合金及びIB−IIIA−VIA−VIA族合金から成るグループから選択される四元合金の混合物を含む第3の薄膜が形成され、その後、前記第3の薄膜を第2の熱処理ステップにかけて、該ステップでは、前記第3の薄膜がIB−IIIA−IIIA−VIA−VIA族五元合金半導体薄膜を形成するようにアニールされる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ステップ(iv)の前記第1の熱処理ステップは、前記VIAの発生源が存在する中で、前記ステップ(iii)の前記第2の薄膜を加熱して、前記第3の薄膜を形成することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ステップ(iii)の前記第2の薄膜は、5ないし10分間、前記VIAの前記発生源に曝露される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ステップ(iv)の前記第1の熱処理ステップは、450ないし600℃の温度において前記ステップ(iii)の前記第2の薄膜を加熱して、前記第3の薄膜を形成することを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ステップ(iv)の前記第1の熱処理ステップは、500ないし550℃の温度において前記ステップ(iii)の前記第2の薄膜を加熱することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ステップ(iv)の前記第2の熱処理ステップは、15ないし90分間、前記第3の薄膜をアニールすることを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
前記ステップ(iv)の前記第2の熱処理ステップは、500℃ないし600℃の温度において前記第3の薄膜をアニールすることを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ステップ(iv)の前記第2の熱処理ステップは、520℃ないし580℃の温度において前記第3の薄膜をアニールすることを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記IBはCuであり、前記IIIAはInであり、前記IIIAはGaであり、前記VIAはSeであり、前記VIAはSである、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項36】
前記ステップ(iv)の前記第2の熱処理ステップは、一般的な化学式II、
Cu(In1−xGa)(Se1−y (I)
を有する五元合金を形成するための条件下で、前記第3の薄膜をアニールすることを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
Sの発生源は、HS及び少なくとも1つの不活性ガスの気体混合物である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記少なくとも1つの不活性ガスに対するSのモル濃度は0.1ないし10モルパーセントである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記少なくとも1つの不活性ガスに対するSのモル濃度は0.3ないし0.5モルパーセントである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ステップ(iii)において、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は100ないし500℃の温度において熱処理される、請求項25に記載の方法。
【請求項41】
前記ステップ(iii)において、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は450℃の温度において熱処理される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記ステップ(iii)において、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は5ないし10分間、熱処理される、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
IB−IIIA−VIA族合金半導体薄膜を製造するための請求項25に記載の方法であって、
前記ステップ(i)はCu、In及びGaの混合物を含む金属薄膜を配設することを含み、
前記ステップ(ii)は、HSe及び少なくとも1つの不活性ガスの気体混合物であって、該少なくとも1つの不活性ガスに対するSeのモル濃度は0.05ないし0.3%である、該気体混合物が存在する中で、30ないし60分間、350℃ないし450℃の温度において前記金属薄膜を熱処理し、CuSe、InSe、GaSeの形の二元合金と、三元合金、すなわちCuInSe及びCuGaSeとの混合物を含む第1の薄膜を形成することを含み、
前記ステップ(iii)は、HS及び少なくとも1つの不活性ガスの気体混合物が存在する中で、5ないし10分間、400℃ないし500℃の温度において前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜を熱処理し、Cu(Se,S)、In(Se,S)及びGa(Se,S)の形のスルホセレン化物と、前記ステップ(ii)の三元合金との混合物を含む第2の薄膜を形成することを含み、
前記ステップ(iv)は、Ar内にHSが存在する中で、5ないし10分間、500℃ないし550℃の温度において、前記スルホセレン化物が前記ステップ(ii)の三元合金と反応するように前記ステップ(ii)の前記第2の薄膜を熱処理して、CuIn(Se,S)及びCuGa(Se,S)の混合物を含む第3の薄膜を形成し、その後、CuIn(Se,S)及びCuGa(Se,S)の前記混合物を、520℃ないし580℃の温度においてアニールし、前記一般的な化学式(I)を有する五元合金を形成することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項44】
IB−IIIA−VIA族四元合金半導体薄膜を製造するための請求項1に記載の方法であって、
前記ステップ(i)は、少なくとも1つのIB族元素と、第1のIIIA族元素(第1のIIIA族元素は、これ以降、IIIAと呼ばれる)と、第2のIIIA族元素(第2のIIIA族元素は、これ以降、IIIAと呼ばれる)との混合物を含む金属薄膜を配設することを含み、
前記ステップ(ii)は、前記VIAの発生源が存在する中で、IB−VIA族合金、IIIA−VIA族合金及びIIIA−VIA族合金から成るグループから選択される二元合金と、IB−IIIA−VIA族合金である三元合金との混合物を含む第1の薄膜を形成するための条件下で、前記ステップ(i)の前記金属薄膜を熱処理することを含み、
前記ステップ(iv)は、前記ステップ(iii)の前記第1の薄膜を熱処理して、IB−IIIA−IIIA−VIA族四元合金半導体薄膜を形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項45】
前記ステップ(ii)の前記熱処理は、400℃の反応温度において実行される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記ステップ(iv)は、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜が加熱される第1の熱処理ステップと、その後に、前記第1の薄膜が、IB−IIIA−IIIA−VIA族四元合金半導体薄膜を形成するためにアニールされる第2の熱処理ステップとを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記ステップ(iv)の前記第1の熱処理ステップは、100℃ないし600℃の反応温度において前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜を加熱することを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記ステップ(iv)の前記第2の熱処理ステップは、最初に、不活性ガスが存在する中で前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜をアニールし、その後、VIAの発生源が存在する中で前記第1の薄膜をアニールすることを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は最初に、前記不活性ガスが存在する中で、100ないし600℃の温度においてアニールされる、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は最初に、前記不活性ガスが存在する中で、500ないし550℃の温度においてアニールされる、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記第1の薄膜は最初に、前記不活性ガスが存在する中で、10ないし60分間、アニールされる、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、その後、VIAの発生源が存在する中で、少なくとも30分間、アニールされる、請求項48に記載の方法。
【請求項53】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、VIAの発生源が存在する中で、500℃の温度においてアニールされる、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
IBはCuであり、IIIAはInであり、IIIAはGaであり、VIAはSeである、請求項44又は46に記載の方法。
【請求項55】
前記四元合金は化学式(II)、
Cu(InGa)Se (II)
を有する、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
Seの発生源は、HSe及び少なくとも1つの不活性ガスの気体混合物である、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記少なくとも1つの不活性ガスに対するSeのモル濃度は0.12パーセントである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
IB−IIIA−VIA族四元合金半導体薄膜を製造するための請求項44に記載の方法であって、
前記ステップ(i)はCu、In及びGaの混合物を元素又は合金の形で含む金属薄膜を配設することを含み、
前記ステップ(ii)は、HSe及び少なくとも1つの不活性ガスの気体混合物であって、該少なくとも1つの不活性ガスに対するSeのモル濃度は0.05ないし0.3%である、該気体混合物が存在する中で、30ないし60分間、400℃の温度において前記金属薄膜を熱処理し、CuSe、InSe、GaSeの形の二元合金と、CuInSe合金だけの形の三元合金との混合物を形成することを含み、
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜を以下の一連の熱処理ステップにかけることを含み、
第1の熱処理ステップは、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜を、15ないし30分内に500℃ないし550℃の反応温度まで熱処理することを含み、
第2の熱処理ステップは、最初に、Ar(g)内で、少なくとも15分間、500℃ないし550℃の反応温度において前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜をアニールすること、及びその後、HSe及びAr(g)の気体混合物が存在する中で前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜をアニールすることを含み、Arに対するSeのモル濃度は、前記一般的な化学式(II)を有する四元合金を形成するために0.12%である、請求項44に記載の方法。
【請求項59】
IB−IIIA−VIA族四元合金半導体薄膜を製造するための請求項1に記載の方法であって、
前記ステップ(i)は、少なくとも1つのIB族元素と、IIIA族元素との混合物を含む金属薄膜を配設することを含み、
前記ステップ(ii)は、前記VIAの発生源が存在する中で、IB−VIA族合金、IIIA−VIA族合金から成るグループから選択される二元合金と、IB−IIIA−VIA族合金である三元合金との混合物を含む第1の薄膜を形成するための条件下で、前記ステップ(i)の前記金属薄膜を熱処理することを含み、
前記ステップ(iv)は、VIAの発生源が存在する中で、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜を熱処理して、IB−IIIA−VIA−VIA族四元合金半導体薄膜を形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項60】
前記ステップ(iv)は、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜が加熱される第1の熱処理ステップと、その後に、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜が、IB−IIIA−VIA−VIA族四元合金を形成するためにアニールされる第2の熱処理ステップとを含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記ステップ(iv)の前記第1の熱処理ステップは、100ないし600℃の反応温度まで、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜を加熱することを含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記ステップ(iv)の前記第2の熱処理ステップは、VIAの発生源が存在する中で、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜をアニールすることを含む、請求項60に記載の方法。
【請求項63】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、前記VIAの発生源が存在する中で、100℃ないし600℃の温度においてアニールされる、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、前記VIAの発生源が存在する中で、500℃ないし550℃の温度においてアニールされる、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、VIAの発生源が存在する中で、500℃の温度においてアニールされる、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜は、VIAの発生源が存在する中で、少なくとも30分間、アニールされる、請求項62に記載の方法。
【請求項67】
前記IBはCuであり、前記IIIA族元素はInであり、前記VIAはSeであり、前記VIAはSである、請求項59又は60に記載の方法。
【請求項68】
前記四元合金は化学式(III)
CuIn(Se1−y (III)
を有する、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
Sの発生源は、HS及び少なくとも1つの不活性ガスの気体混合物である、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
前記少なくとも1つの不活性ガスに対するSのモル濃度は0.35モルパーセントである、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
IB−IIIA−VIA族四元合金半導体薄膜を製造するための請求項59に記載の方法であって、
前記ステップ(i)はCu及びInの混合物を元素又は合金の形で含む金属薄膜を配設することを含み、
前記ステップ(ii)は、HSe及び少なくとも1つの不活性ガスの気体混合物であって、該少なくとも1つの不活性ガスに対するSeのモル濃度は0.05ないし0.3%である、該気体混合物が存在する中で、30ないし60分間、前記金属薄膜を熱処理し、CuSe及びInSeの形の二元合金と、三元合金、すなわちCuInSeとの混合物を形成することを含み、
前記ステップ(iv)は、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜を以下の一連の熱処理ステップにかけることを含み、
第1の熱処理ステップは、前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜を、15ないし30分内に500℃ないし550℃の反応温度まで熱処理することを含み、
第2の熱処理ステップは、HS及びAr(g)の気体混合物が存在する中で、500℃ないし550℃の温度において前記ステップ(ii)の前記第1の薄膜をアニールすることを含み、Arに対するSeのモル濃度は、前記一般的な化学式(III)を有する四元合金を形成するために0.35%である、請求項59に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2007−503708(P2007−503708A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523109(P2006−523109)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【国際出願番号】PCT/IB2004/051458
【国際公開番号】WO2005/017978
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(506051625)ユニヴァーシティ オブ ヨハネスバーグ (2)
【Fターム(参考)】