説明

III族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板

【課題】低抵抗化されたp型窒化ガリウム系半導体層を含むIII族窒化物半導体光素子を提供する。
【解決手段】支持体13の主面13aは、基準平面Scに対して40度以上140度以下の角度ALPHAを成しており、基準平面Scは該III族窒化物半導体のc軸の方向に延びる基準軸Cxに直交する。主面13aは半極性及び無極性のいずれか一方を示す。n型GaN系半導体層15は支持体13の主面13a上に設けられる。n型GaN系半導体層15、活性層19及びp型GaN系半導体層17は法線軸Nxの方向に配列されている。p型GaN系半導体層17にはp型ドーパントしてマグネシウムが添加されており、p型GaN系半導体層17はp型ドーパントとして炭素を含む。p型GaN系半導体層17の炭素濃度は2×1016cm−3以上1×1019cm−3以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体光素子、及びIII族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、シリコン基板上に(1−101)面GaNを一様に成長することが記載されている。このGaNは、7度オフの(001)面シリコン基板上にAlN中間層を介して選択有機金属気相成長法で成長されたストライプ状GaNの合体物上に成長された。3種類のサンプル(A)、(B)、(C)が作製された。サンプル(A)はLT−AlN中間層上に成長されたGaNを含む。サンプル(B)は、30nmのAl0.1Ga0.9N上層を含む。サンプル(C)はLT−AlN中間層無しに成長されたGaNを含む。3種類のサンプル(A)、(B)、(C)のホール測定を行った。サンプル(A)はp導電性を示し、サンプル(B)はn導電性を示した。サンプル(C)の導電性は、低温から高温への3つの温度領域(80K以下、80K〜200K、200K以上)においてそれぞれn型、p型及びn型を示した。非特許文献1には以下のように記載されている:サンプル(A)及び(B)は、GaN/AlN/Siヘテロ接合を含み、ヘテロ接合における伝導がサンプル(A)及び(B)における伝導性の主要なものであると推測される。
【0003】
非特許文献2には、シリコン基板上に(1−101)面GaNを一様に成長することが記載されている。このGaNは、7度オフの(001)面シリコン基板上にAlN中間層を介して選択有機金属気相成長法で成長されたストライプ状GaNの合体物上に成長された。(1−101)面GaNにはマグネシウムが添加された。マグネシウム添加のために、ドーパントガスEtCpMgが用いられた。ドーパントガス/ガリウム原料のモル比(EtCpMg/TMG)が2×10−3未満の添加領域では、ドーパントガスの添加量の増加に伴って、GaN膜中の正孔濃度は低下する。一方、モル比2×10−3を越える添加領域では、ドーパントガスの添加量の増加に伴って、正孔濃度は増加して、1×1018cm−3程度に飽和する。c面GaNの成長では、モル比2×10−3未満の添加領域における成長GaNは、n導電性を示したけれども、モル比2×10−3を越える添加領域においてp導電性を示した。非特許文献2では、この現象について、(1−101)面GaNは窒素面からなるけれども、c面GaNはGa面からなることで説明している。
【0004】
非特許文献3には、シリコン基板上に(1−101)面及び(11−22)面GaNを一様に成長することが記載されている。ドーパントガスCを用いて、GaNの成長において炭素を添加している。(11−22)面GaNへの炭素添加は、(1−101)面GaNへの炭素添加と異なる効果を与える。
【0005】
非特許文献1〜3の執筆者の一部は共通している。
【0006】
特許文献1には、炭素濃度を高めることで、GaN膜の電気抵抗を増加させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-21279号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】T. Hikosaka et al., Applied Physics Letters Vol. 84, No. 23 (2004)pp.4717-4719
【非特許文献2】Nobuhiro Sawaki et al., Journal of Crystal Growth 298 2007,pp.207-210
【非特許文献3】Nobuhiro Sawaki et al., Journal of Crystal Growth 311 2009,pp.2867-2874
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1〜3に記載されるように、7度オフの(001)面シリコン基板上にAlN中間層を介して選択有機金属気相成長法で成長されたストライプ状GaNの合体物には、ヘテロ接合が含まれることに加えて、GaNに高い密度で貫通転位が含まれる可能性が高い。これ故に、非特許文献1〜3に記載されるGaN合体物の結晶学的な構造は導電性が複雑である。
【0010】
一方、特許文献1では、GaN膜中への炭素添加により高抵抗を実現している。非特許文献1〜3及び特許文献1に示されるように、窒化ガリウム系半導体における炭素の振る舞いは、複雑である。しかしながら、発明者らの検討によれば、窒化ガリウム系半導体において炭素をp型ドーパントとして安定して利用できる。
【0011】
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、低抵抗化されたp型窒化ガリウム系半導体層を含むIII族窒化物半導体光素子を提供することを目的とし、またこのIII族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子は、(a)III族窒化物半導体からなり、該III族窒化物半導体のc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対して有限の角度をなす主面を有する支持体と、(b)前記支持体の前記主面上に設けられたn型窒化ガリウム系半導体層と、(c)前記支持体の前記主面上に設けられ、マグネシウム添加のp型窒化ガリウム系半導体層と、(d)前記支持体の前記主面上において前記n型窒化ガリウム系半導体層と前記p型窒化ガリウム系半導体層との間に設けられた活性層とを備える。前記有限の角度は40度以上140度以下の範囲にあり、前記主面は半極性及び無極性のいずれか一方を示し、前記p型窒化ガリウム系半導体層はp型ドーパントとして炭素を含み、前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は2×1016cm−3以上であり、前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は1×1019cm−3以下である。
【0013】
本発明の別の側面に係るIII族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板は、(a)III族窒化物半導体からなり、該III族窒化物半導体のc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対して有限の角度をなす主面を有するIII族窒化物半導体基板と、(b)前記III族窒化物半導体基板の前記主面上に設けられたn型窒化ガリウム系半導体層と、(c)前記III族窒化物半導体基板の前記主面上に設けられ、マグネシウム添加のp型窒化ガリウム系半導体層と、(d)前記III族窒化物半導体基板の前記主面上において前記n型窒化ガリウム系半導体層と前記p型窒化ガリウム系半導体層との間に設けられた活性層とを備える。前記有限の角度は40度以上140度以下の範囲にあり、前記主面は半極性及び無極性のいずれか一方を示し、前記p型窒化ガリウム系半導体層はp型ドーパントとして炭素を含み、前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は2×1016cm−3以上であり、前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は1×1019cm−3以下である。
【0014】
このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、p型窒化ガリウム系半導体層は、支持体又は基板の主面上に設けられており、この主面は、40度以上140度以下の範囲の角度でc面と有限な角度を成している。この角度範囲では、p型窒化ガリウム系半導体層に添加された炭素は安定してp型ドーパントして働く。また、p型窒化ガリウム系半導体層は、共にp型ドーパントして働く炭素及びマグネシウムを含むので、炭素及びマグネシウムの両方から正孔が提供される。また、所望の正孔濃度に得るために必要なマグネシウムの添加量を小さくできるので、マグネシウム添加に起因する結晶性の低下を避けることができる。また、所望の正孔濃度を得るために必要な炭素の添加を小さくできるので、炭素添加に起因するモフォロジの低下を抑制でき、またモフォロジ悪化による結晶品質の低下を避けることができる。
【0015】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記活性層は、前記支持体の前記主面の法線軸の方向に交互に配列された井戸層及び障壁層を含み、前記障壁層は、窒化ガリウム系半導体からなり、前記障壁層の厚さは前記井戸層の厚さより大きく、前記井戸層は、構成元素としてInを含む窒化ガリウム系半導体からなり、前記井戸層の炭素濃度は、1×1017cm−3以下であることができる。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、井戸層の炭素濃度が1×1017cm−3以下であるので、p型ドーパントとしての炭素は、活性層の発光特性に実質的に影響しない。
【0016】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記n型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度より小さく、前記n型窒化ガリウム系半導体層はn型ドーパントを含み、前記n型窒化ガリウム系半導体層のn型ドーパント濃度は、前記n型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度より大きい。
【0017】
このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、n型窒化ガリウム系半導体層のn型ドーパント濃度はn型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度より大きい。炭素がp型ドーパントとして作用するけれども、p型ドーパントとしての炭素は、n型窒化ガリウム系半導体層のn導電型に実質的に影響しない。
【0018】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記n型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は1×1018cm−3以下であることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、通常のn型ドーパントの添加濃度の下では、n型窒化ガリウム系半導体層の電子濃度は十分に大きい。
【0019】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記n型窒化ガリウム系半導体層はInAlGaN及びAlGaNの少なくともいずれか一方からなることができる。本III族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、これらの窒化ガリウム系半導体のn導電型に関して、p型ドーパントとしての炭素は実質的に影響しない。
【0020】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記n型窒化ガリウム系半導体層はInAlGaNなることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、適切な導電性と所望の歪みとをn型窒化ガリウム系半導体層に提供できる。
【0021】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記p型窒化ガリウム系半導体層における前記炭素濃度は前記p型窒化ガリウム系半導体層におけるマグネシウム濃度より大きいことができる。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、炭素の活性化エネルギはマグネシウムの活性化エネルギより小さいので、所望の正孔濃度を提供するために必要なマグネシウムの添加量が増加しない。
【0022】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板は、前記p型窒化ガリウム系半導体層と前記活性層との間に設けられ、窒化ガリウム系半導体からなる第1の光ガイド層と、前記n型窒化ガリウム系半導体層と前記活性層との間に設けられ、窒化ガリウム系半導体からなる第2の光ガイド層とを更に備える。前記第1の光ガイド層の少なくとも一部分はp型ドーパントとしてマグネシウムを含み、前記第1の光ガイド層の炭素濃度は1×1017cm−3以下であり、前記第1の光ガイド層におけるマグネシウム濃度は1×1017cm−3以下であり、前記第2の光ガイド層の炭素濃度は1×1017cm−3以下である。
【0023】
このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、炭素によるキャリア生成を小さくできるので、自由キャリアによる光吸収を低減できる。
【0024】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記活性層は、波長430nm以上600nm以下の光を発生するように設けられた量子井戸構造を含む。当該III族窒化物半導体光素子は、前記活性層と前記p型窒化ガリウム系半導体層との間に設けられた電子ブロック層を更に備えることができる。前記第1の光ガイド層は、前記電子ブロック層と前記活性層と間に設けられた第1のInGaN層を含み、前記第2の光ガイド層は、前記活性層と前記n型窒化ガリウム系半導体層との間に設けられた第2のInGaN層を含む。
【0025】
このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、比較的長波長の光を生成する発光素子に適切な導波路構造を提供できる。
【0026】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記n型窒化ガリウム系半導体層、前記活性層及び前記p型窒化ガリウム系半導体層は、前記支持体の前記主面の法線方向に配列されており、前記p型窒化ガリウム系半導体層は前記活性層の主面上に設けられ、前記活性層の前記主面は前記基準平面に対して40度以上140度以下の範囲にあり、前記活性層は前記n型窒化ガリウム系半導体層の主面上に設けられる。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、p型ドーパントとしての炭素の技術的寄与を得ることができる。
【0027】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板は、前記p型窒化ガリウム系半導体層の主面上に設けられ、p型窒化ガリウム系半導体からなるコンタクト層を更に備えることができる。前記コンタクト層の炭素濃度は2×1016cm−3以上であり、前記コンタクト層の炭素濃度は1×1019cm−3以下である。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、コンタクト層においても、p型ドーパントとしての炭素の技術的寄与を得ることができる。
【0028】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子は前記コンタクト層に接触を成す第1の電極とを更に備えことができる。このIII族窒化物半導体光素子によれば、コンタクト層がp型ドーパントとして炭素及びマグネシウムの両方を含むので、コンタクト層は電極と良好な電気的接触を成すことができる。
【0029】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記c軸方向に延びる基準軸は、前記支持基体のIII族窒化物半導体の<11−20>方向を基準に−15度以上+15度以下の範囲の向きに傾斜しており、前記支持体の主面とc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対してなす前記有限の角度は、59度以上121度以下の範囲であることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、p型ドーパントとして炭素が働くことができる確率をより高めることができる。
【0030】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記c軸方向に延びる基準軸は、前記支持基体のIII族窒化物半導体の<11−20>方向を基準に−15度以上+15度以下の範囲の向きに傾斜しており、前記支持体の主面とc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対してなす前記有限の角度は、70度以上80度以下又は100度以上110度以下の範囲であることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、p型ドーパントとして炭素が働くことができる確率をより高めることができる。
【0031】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記c軸方向に延びる基準軸は、前記支持基体のIII族窒化物半導体の<1−100>方向を基準に−15度以上+15度以下の範囲の向きに傾斜しており、前記支持体の主面とc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対してなす前記有限の角度は、63度以上117度以下の範囲であることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、p型ドーパントとして炭素が働くことができる確率をより高めることができる。
【0032】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記c軸方向に延びる基準軸は、前記支持基体のIII族窒化物半導体の<1−100>方向を基準に−15度以上+15度以下の範囲の向きに傾斜しており、前記支持体の主面とc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対してなす前記有限の角度は、70度以上80度以下又は100度以上110度以下の範囲であることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、p型ドーパントとして炭素が働くことができる確率をより高めることができる。
【0033】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記支持体の前記主面は、{11−22}、{11−21}、{11−20}、{11−2−1}及び{11−2−1}のいずれかの面から−4度〜+4度の範囲にあることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、p型ドーパントとして炭素が働くことができる確率をより高めることができる。
【0034】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記支持体の前記主面の面指数は、{11−22}、{11−21}、{11−20}、{11−2−1}及び{11−2−1}のいずれか一つであることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、これらの面指数は、p型ドーパントとして炭素が働くことができる確率をより高めることができる。
【0035】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記支持体の前記主面は、{10−11}、{20−21}、{10−10}、{20−2−1}及び{10−1−1}のいずれかの面から−4度〜+4度の範囲にあることができる。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、これらの角度範囲ではp型ドーパントとして炭素が働くことができる。
【0036】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記支持体の前記主面の面指数は、{10−11}、{20−21}、{10−10}、{20−2−1}及び{10−1−1}のいずれか一つであることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、これらの面指数では、p型ドーパントとして炭素が働くために適した構成原子の配列を有すると考えられる。
【0037】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記支持体の貫通転位密度は1×10cm−2以下であり、前記支持体はGaN、InGaN、AlGaN及びInAlGaNのいずれかからなることができる。本発明に係るエピタキシャル基板では、前記支持体の貫通転位密度は1×10cm−2以下であり、前記支持体はGaN、InGaN、AlGaN及びInAlGaNのいずれかからなることができる。
【0038】
このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、1×10cm−2以下の貫通転位密度の領域上に成長された窒化ガリウム系半導体層においては、貫通転位がp型ドーパント活性化に与える影響を小さくできる。
【0039】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記支持体はGaNからなることが好ましい。また、本発明に係るエピタキシャル基板では、前記基板はGaNからなることが好ましい。低転位なGaN基板を入手可能である。
【0040】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子は、前記支持体の裏面に接触を成す第2の電極を更に備えることができる。前記支持体は導電性を示す。このIII族窒化物半導体光素子によれば、支持体は、p型ドーパントとして炭素が作用可能なエピタキシャル領域を提供できると共に、良好な電気的に接触を提供できる。
【0041】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記p型窒化ガリウム系半導体層はInAlGaN及びAlGaNの少なくともいずれか一方からなることができる。本III族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、これらの窒化ガリウム系半導体のp導電型に関して、p型ドーパントとしての炭素は有効に作用する。
【0042】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記p型窒化ガリウム系半導体層はInAlGaNからなることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板によれば、適切な導電性と所望の歪みとを提供できる。
【0043】
本発明に係るIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板では、前記活性層は、前記支持体の前記主面の法線軸の方向に交互に配列された井戸層及び障壁層を含み、前記障壁層は、窒化ガリウム系半導体からなり、前記障壁層の厚さは前記井戸層の厚さより大きく、前記井戸層は、構成元素としてInを含む窒化ガリウム系半導体からなり、前記井戸層の炭素濃度は、1×1017cm−3以下であり、前記n型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度より小さく、前記n型窒化ガリウム系半導体層はn型ドーパントを含み、前記n型窒化ガリウム系半導体層のn型ドーパント濃度は、前記n型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度より大きい。
【0044】
このエピタキシャル基板によれば、p型ドーパントとして炭素による技術的寄与を得ることができると共に、n型窒化ガリウム系半導体層及び活性層においては、炭素による影響を低減できる。
【0045】
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
【発明の効果】
【0046】
以上説明したように、本発明によれば、低抵抗化されたp型窒化ガリウム系半導体層を含むIII族窒化物半導体光素子が提供される。また、本発明によれば、このIII族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係るIII族窒化物半導体光素子を示す図面である。
【図2】図2は、有機金属気相成長法を用いて様々な成長条件で半極性面GaN上に成長された窒化ガリウムの炭素濃度を二次イオン質量分析法で調べた炭素プロファイルを示す図面である。
【図3】図3は、図2おける窒化ガリウムの成長条件(1)〜(10)に用いられた成長条件と窒化ガリウムにおける炭素濃度との関係を示す図面である。
【図4】図4は、成長されたGaN膜中の炭素濃度と成長温度及びV/IIIとの関係を示す図面である。
【図5】図5は、III族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板を作製する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図6】図6は、III族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板を作製する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図7】図7は、III族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板を作製する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図8】図8は、本実施の形態に係るレーザダイオード構造(LD1)及びそのエピタキシャル基板を示す図面である。
【図9】図9は、エピタキシャル基板EPにおけるインジウム、炭素、アルミニウム及びマグネシウムの元素のSIMSプロファイルを示す図面である。
【図10】図10は、別のエピタキシャル基板におけるインジウム、炭素、アルミニウム及びマグネシウムの元素のSIMSプロファイルを示す図面である。
【図11】図11は、{10−11}面における原子配列を模式的に示す図面である。
【図12】図12は、{20−21}面における原子配列を模式的に示す図面である。
【図13】図13は、{1014}面における原子配列を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明のIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板、並びにIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板を作製する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0049】
図1は、本発明の実施の形態に係るIII族窒化物半導体光素子を示す図面である。III族窒化物半導体光素子は、例えば半導体レーザまたは発光ダイオード等の半導体発光素子であることができる。図1に示された半導体積層は、半導体発光素子のためのエピタキシャル基板の構造を示している。図1を参照すると、直交座標系Sが示されている。
【0050】
III族窒化物半導体光素子11は、支持体13と、n型窒化ガリウム系半導体層15と、p型窒化ガリウム系半導体層17と、活性層19とを備える。支持体13はIII族窒化物半導体からなる。III族窒化物半導体は、InAlGa1―S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、S+T≠1)からなり、また例えばGaN、InGaN、AlGaN、InAlGaN等であることができる。支持体13は主面13a及び裏面13bを有しており、主面13aの法線方向(法線ベクトルNVで示される向き)の法線軸Nxはz軸の正方向を向いている。主面13aは、基準平面Scに対して有限の角度ALPHAを成しており、基準平面Scは該III族窒化物半導体のc軸の方向(c軸ベクトルVCで示される向き)に延びる基準軸Cxに直交する。有限の角度ALPHAは40度以上であり、また140度以下である。主面13aは半極性及び無極性のいずれか一方を示す。n型窒化ガリウム系半導体層15は支持体13の主面13a上に設けられ、また主面13aを覆っている。p型窒化ガリウム系半導体層17は主面13a上に設けられている。支持体13の主面13a上において、n型窒化ガリウム系半導体層15、活性層19及びp型窒化ガリウム系半導体層17は法線軸Nxの方向に配列されている。活性層19は、n型窒化ガリウム系半導体層15とp型窒化ガリウム系半導体層17との間に設けられる。
【0051】
p型窒化ガリウム系半導体層17にはp型ドーパントして例えばマグネシウムが添加されており、n型窒化ガリウム系半導体層15にはn型ドーパントして例えばシリコンが添加されている。p型窒化ガリウム系半導体層17はp型ドーパントとして炭素を含む。p型窒化ガリウム系半導体層17の炭素濃度は2×1016cm−3以上であり、この濃度範囲により正孔を提供できる。また、炭素濃度は1×1019cm−3以下であり、この濃度範囲により、p型ドーパントとしての炭素を含む半導体の表面モフォロジの低下を低減できる。
【0052】
このIII族窒化物半導体光素子11によれば、p型窒化ガリウム系半導体層17は支持体13の主面13a上に設けられており、この主面13aは40度以上140度以下の範囲の角度でc面と傾斜している。この傾斜角の範囲では、主面13a上のp型窒化ガリウム系半導体層17が炭素を含むとき、添加された炭素は安定してp型ドーパントして働く。また、p型窒化ガリウム系半導体層17は、共にp型ドーパントして働く炭素及びマグネシウムを含む。これ故に、炭素及びマグネシウムの両方から正孔が提供される。また、所望の正孔濃度を提供するために必要なマグネシウムの添加量を小さくできるので、マグネシウム添加に起因する結晶性の低下を避けることができる。
【0053】
p型窒化ガリウム系半導体層17はInAlGaN層及びAlGaN層の少なくともいずれか一方からなることができる。これらの窒化ガリウム系半導体のp導電型に関して、p型ドーパントとしての炭素は有効に作用する。p型窒化ガリウム系半導体層17はInAlGaNなることが好ましい。InAlGaNによれば、適切な導電性と所望の歪みとを提供できる。
【0054】
III族窒化物半導体光素子11では、活性層19は、単一量子井戸構造又は多重量子井戸構造を有することができ、しかしながら、これらの構造に限定されることはない。活性層19は障壁層23a及び井戸層23bを含む。障壁層23a及び井戸層23bは、支持体13の主面13aの法線軸Nxの方向に交互に配列されている。障壁層23aは窒化ガリウム系半導体からなり、例えばGaN又はInGaN等からなる。また、井戸層23bは、構成元素としてInを含む窒化ガリウム系半導体からなり、例えばInGaNからなる。障壁層23aの厚さDBは井戸層23bの厚さDWより大きい。井戸層23bの炭素濃度は、1×1017cm−3以下であることができる。井戸層の炭素濃度が1×1017cm−3以下であるので、p型ドーパントとしての炭素は、活性層19の発光特性に実質的に影響しない。n型窒化ガリウム系半導体層15及び活性層19においては、炭素による影響を低減できる。
【0055】
また、n型窒化ガリウム系半導体層15の炭素濃度はp型窒化ガリウム系半導体層17の炭素濃度より小さい。n型窒化ガリウム系半導体層15はn型ドーパントを含み、n型窒化ガリウム系半導体層15のn型ドーパント濃度は、n型窒化ガリウム系半導体層15の炭素濃度より大きい。これ故に、n型窒化ガリウム系半導体層中の炭素がp型ドーパントとして作用するけれども、p型ドーパントとしての炭素は、n型窒化ガリウム系半導体層15のn導電型に実質的に影響しない。また、n型窒化ガリウム系半導体層15の炭素濃度は1×1018cm−3以下であることが好ましい。通常のn型ドーパントの添加濃度の下では、n型窒化ガリウム系半導体層は十分に大きい電子濃度を有する。
【0056】
n型窒化ガリウム系半導体層15はInAlGaN層及びAlGaN層の少なくともいずれか一方からなることができる。p型ドーパントとしての炭素は、これらの窒化ガリウム系半導体のn導電型に対して実質的に影響しない。n型窒化ガリウム系半導体層15がInAlGaNなるとき、適切な導電性と所望の歪みとをn型窒化ガリウム系半導体層15に提供できる。
【0057】
p型窒化ガリウム系半導体層17における炭素濃度はp型窒化ガリウム系半導体層17におけるマグネシウム濃度より大きいことができる。GaN、InAlGaN又はAlGaNといった窒化ガリウム系半導体において、炭素の活性化エネルギはマグネシウムの活性化エネルギより小さいので、p型窒化ガリウム系半導体層17において所望の正孔濃度を提供するために必要なマグネシウムの添加量が増加しない。
【0058】
III族窒化物半導体光素子11が半導体レーザであるときは、p型窒化ガリウム系半導体層17はクラッド層として働き、n型窒化ガリウム系半導体層15はクラッド層として働く。
【0059】
III族窒化物半導体光素子11が半導体レーザであるときは、III族窒化物半導体光素子11は第1の光ガイド層25を含み、この光ガイド層25は、GaN、InGaNといった窒化ガリウム系半導体からなる。第1の光ガイド層25は、p型窒化ガリウム系半導体層17と活性層19との間に設けられる。第1の光ガイド層25の炭素濃度は1×1017cm−3以下であることができる。この光ガイド層25によれば、炭素によるキャリア生成を小さくできるので、自由キャリアによる光吸収を低減できる。必要な場合には、第1の光ガイド層25の少なくとも一部分にマグネシウムを更に添加することができ、このマグネシウム濃度は1×1017cm−3以下である。なお、第1の光ガイド層25にマグネシウムを添加しなくてもよい。
【0060】
第1の光ガイド層25は一又は複数の窒化ガリウム系半導体層からなることができる。一実施例では、第1の光ガイド層25はInGaN層25a及びGaN層25bからなることができる。InGaN層25aは、GaN層25bと活性層19との間に位置する。また、電子ブロック層21がp型窒化ガリウム系半導体層17と活性層19との間に設けられており、図1では、電子ブロック層21は、InGaN層25aとGaN層25bとの間に位置する。電子ブロック層21の材料は、InGaN層25a及びGaN層25bのバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有し、電子ブロック層21の厚さはInGaN層25aの厚み及びGaN層25bの厚みより小さい。電子ブロック層21は、例えばAlGaN等からなることができる。
【0061】
III族窒化物半導体光素子11が半導体レーザであるときは、III族窒化物半導体光素子11は第2の光ガイド層27を含み、この光ガイド層27は、GaN、InGaNといった窒化ガリウム系半導体からなる。第2の光ガイド層27は、n型窒化ガリウム系半導体層15と活性層19との間に設けられる。第2の光ガイド層27の炭素濃度は1×1017cm−3以下である。炭素によるキャリア生成を小さくできるので、自由キャリアによる光吸収を低減できる。
【0062】
第2の光ガイド層27は一又は複数の窒化ガリウム系半導体層からなることができる。一実施例では、第2の光ガイド層27はInGaN層27a及びGaN層27bからなることができる。InGaN層27aは、GaN層27bと活性層19との間に位置する。
【0063】
III族窒化物半導体光素子11では、活性層19は、波長430nm以上600nm以下の光を発生するように設けられている。第1の光ガイド層25はInGaN層を含むと共に第2の光ガイド層27はInGaN層を含む。活性層19は、第1の光ガイド層25のInGaN層と第2の光ガイド層27のInGaN層とに接している。第1の光ガイド層25のInGaN層、活性層19、及び第2の光ガイド層27のInGaN層の積層は、比較的長波長の光を生成する発光素子に適切な導波路コア構造を提供できる。
【0064】
n型窒化ガリウム系半導体層15、発光層29及びp型窒化ガリウム系半導体層17は、支持体13の主面13aの法線軸Nxの方向に配列されている。発光層29は活性層19を含み、また必要な場合は光ガイド層25、27を更に含むことができる。
【0065】
p型窒化ガリウム系半導体層17(或いは半導体層21)は活性層19の主面19a上に設けられており、このp型窒化ガリウム系半導体層は発光層29の主面29a上に接している。発光層29の主面19a(同様に、活性層19の主面19a)は基準平面Scに対して40度以上140度以下の範囲の角度で傾斜している。p型窒化ガリウム系半導体層17は、半極性又は無極性を示す半導体領域上にエピタキシャル成長されたにエピタキシャル膜であるので、炭素の振る舞いが、極性を示すc面半導体領域上にエピタキシャル成長されたエピタキシャル膜における振る舞いと異なる。p型窒化ガリウム系半導体層17では、p型ドーパントとしての炭素の技術的寄与を得ることができる。また、p型窒化ガリウム系半導体層17の全体にわたって炭素がp型ドーパントとして働く。
【0066】
n型窒化ガリウム系半導体層15の主面15aは、基準平面Scに対して40度以上140度以下の範囲にあることができる。発光層29及び活性層19はn型窒化ガリウム系半導体層15の主面15a上に設けられているので、発光層29及び活性層19におけるピエゾ電界の強度は、下地の面方位による半極性及び無極性に起因して小さい。また、n型窒化ガリウム系半導体層15の主面15aの傾斜は、p型窒化ガリウム系半導体層17において炭素がp型ドーパントとして技術的寄与を提供できる下地層を提供できる。
【0067】
III族窒化物半導体光素子11は、コンタクト層31を更に備えることができる。コンタクト層31は、p型窒化ガリウム系半導体層17の主面17a上に設けられ、p型窒化ガリウム系半導体からなる。コンタクト層31の炭素濃度は2×1016cm−3以上であることができる。コンタクト層31においても、p型ドーパントとしての炭素の技術的寄与を得ることができる。また、コンタクト層31の炭素濃度は1×1019cm−3以下である。炭素の添加により、結晶品質の低下が生じる。
【0068】
必要な場合には、コンタクト層31、p型窒化ガリウム系半導体層17及び第1光ガイド層25にリッジ構造を設けることができる。リッジ構造は、レーザストライプの延在方向の軸Axの方向に延びる。
【0069】
III族窒化物半導体光素子11は、コンタクト層31上に設けられた第1の電極33を更に備えことができる。第1の電極33は、エピタキシャル積層の表面を覆う絶縁膜35の開口35aを介してコンタクト層31に接触を成す。このIII族窒化物半導体光素子11によれば、コンタクト層31がp型ドーパントとして炭素及びマグネシウムの両方を含むので、コンタクト層31は電極33と良好な電気的接触を成すことができる。
【0070】
III族窒化物半導体光素子11がリッジ構造を有するとき、絶縁膜35の開口35aは、リッジ構造の上面に位置し、絶縁膜35はリッジ構造の側面全体を覆う。
【0071】
上記の説明では、発光層29の主面29a(同様に、活性層19の主面19a)は基準平面Scに対して、40度以上140度以下の範囲の角度で傾斜している。支持体13の主面13を結晶方位<11−20>で示されるa軸の方向に傾斜させることができる。この傾斜角は、59度以上121度以下の範囲であることが好ましい。また、傾斜角が70度以上80度以下であることが特に好ましく、或いは傾斜角が100度以上110度以下であることが特に好ましい。これらの角度範囲では、p型ドーパントとして炭素が働くことができる。
【0072】
上記の説明では、発光層29の主面29a(同様に、活性層19の主面19a)は基準平面Scに対して、40度以上140度以下の範囲の角度で傾斜している。支持体13の主面13を結晶方位<1−100>で示されるm軸の方向に傾斜させることができる。この傾斜角は、63度以上117度以下の範囲であることが好ましい。また、傾斜角が70度以上80度以下であることが特に好ましく、或いは傾斜角が100度以上110度以下であることが特に好ましい。これらの角度範囲では、p型ドーパントとして炭素が働くことができる。
【0073】
支持体13の主面13を結晶方位<11−20>で示されるa軸の方向に傾斜させることができる。a軸方向への傾斜では、支持体13の主面13は、{11−22}、{11−21}、{11−20}、{11−2−1}及び{11−2−2}のいずれかの面から−4度〜+4度の範囲にあることが好ましい。これらの角度範囲では、p型ドーパントとして炭素が働くことができる。また、支持体13の主面13aの面指数は{11−22}、{11−21}、{11−20}、{11−2−1}及び{11−2−2}のいずれか一つであることが好ましい。これらの面指数は、p型ドーパントとして炭素が働くために適した構成原子の配列を有すると考えられる。
【0074】
或いは、支持体13の主面13を結晶方位<1−100>で示されるm軸の方向に傾斜させることができる。m軸方向への傾斜では、支持体13の主面13aは、{10−11}、{20−21}、{10−10}、{20−2−1}及び{10−1−1}のいずれかの面から−4度〜+4度の範囲にあることができる。これらの角度範囲では、p型ドーパントとして炭素が働くことができる。また、支持体13の主面13の面指数は、{10−11}、{20−21}、{10−10}、{20−2−1}及び{10−1−1}のいずれか一つであることが好ましい。これらの面指数は、p型ドーパントとして炭素が働くために適した構成原子の配列を有すると考えられる。
【0075】
支持体13の貫通転位密度は1×10cm−2以下であることができる。1×10cm−2以下の貫通転位密度の領域上に成長された窒化ガリウム系半導体層においては、貫通転位がp型ドーパント活性化に与える影響を小さくできる。支持体13はGaN、InGaN、AlGaN及びInAlGaNのいずれかからなることができる。
【0076】
1×10cm−2以下の貫通転位密度の領域は、支持体13の一部分において提供されることができる。この低転位領域においてp型ドーパント活性化への影響を小さくできる。これ故に、この低い貫通転位密度の領域は、半導体レーザに適用可能である。また、1×10cm−2以下の貫通転位密度の領域上に成長された窒化ガリウム系半導体層は貫通転位によるp型ドーパント活性化への影響を更に小さくできる。この貫通転位密度の領域は、実質的に無転位のレーザストライプを提供できる。低転位なGaNを入手可能であるので、支持体13はGaNからなることが好ましい。
【0077】
この支持体13は導電性を示すことができる。III族窒化物半導体光素子11は、支持体13の裏面13bに接触を成す第2の電極37を更に備えることができる。支持体13は、p型ドーパントとして炭素が作用可能なエピタキシャル領域を提供できると共に、n型への良好な電気的接触を提供できる。
【0078】
図2は、有機金属気相成長法を用いて様々な成長条件で半極性面GaN上に成長された窒化ガリウムの炭素濃度を二次イオン質量分析法で調べた炭素プロファイルを示す図面である。図2において、特性線C、Aは、それぞれ、炭素濃度のプロファイル及びアルミニウム濃度を表す。アルミニウムは、成長条件の変更位置を示すためにマーカーとして0.1%以下の組成になるように添加されている。図3は、図2おける窒化ガリウムの成長条件(1)〜(10)に用いられた成長条件と窒化ガリウムにおける炭素濃度との関係を示す図面である。なお、窒化ガリウムの成長において、有機ガリウム原料として、トリメチルガリウム(TMG)を用いた。図3において、温度の単位は「摂氏」であり、成長レートGRの単位は「μm/時」であり、アンモニア(NH)の流量の単位は「slm(標準状態おける毎分のリットル単位の流量)」であり、炭素濃度の単位は「cm−3」である。図3には、V/III(モル流量比)及び炭素濃度「C」が示されている。炭素濃度の表記において例えば「0.85E16」は0.86×1016を示す。
【0079】
図4は、成長されたGaN膜中の炭素濃度と成長温度及びV/IIIとの関係を示す図面である。図4(a)を参照すると、成長レート0.21μm/時の条件で、成長温度(摂氏740度〜780度〜820度)の範囲で、炭素濃度は温度の上昇と共に単調に減少する。図4(b)を参照すると、炭素濃度は、摂氏780度の成長温度の条件で、V/III比の上昇と共に単調に減少する。
【0080】
図2〜図4に示される実験から理解されるように、窒化ガリウム系半導体の半極性面(同様に無極性面)への窒化ガリウム系半導体の成長では、III族原料及びV族原料に加えて炭素ドーパントを供給しなくても、p型ドーパントの炭素の濃度を制御できる。なお、必要な場合には、炭素ドーパントを原料とは別に供給することができる。例えば、化学式CHで示されるメタンを成長中に供給することで、5×1018cm−3以上の比較的高濃度の炭素濃度を容易に実現することができる。
【0081】
図5〜図7を参照しながら、III族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板を作製する方法を説明する。また、図8は、本実施例における半導体レーザを概略的に示す図面である。この作製方法では、例えば半極性又は無極性の主面を有するGaN基板上に、図8に示されるレーザダイオード構造(LD1)のエピタキシャル基板を作製した。エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH)、シラン(SiH)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)を用いた。
【0082】
例えば63度から80度未満の傾斜角の範囲内の傾斜角に該当するGaN基板が準備された。図5(a)に示された結晶座標系CRにおいて、準備したGaN基板51は、例えば六方晶系GaNのc軸に直交する平面からm軸方向に75度の角度で傾斜した主面を有しており、この傾斜主面51aは{20−21}面として示される。この主面は鏡面研磨されている。GaN基板51上に以下の条件でエピタキシャル成長を行った。
【0083】
まず、GaN基板51を成長炉10内に設置した。工程S101では、例えば摂氏1050度の温度及び27kPaの炉内圧力において、図5(a)に示されるように、アンモニアと水素(H)を含む熱処理ガスG0を流しながら10分間熱処理を行った。この熱処理による表面改質によって、GaN基板51の表面に、オフ角によって規定されるステップ・アンド・テラス構造が形成される。
【0084】
この熱処理の後に、GaN系半導体領域が成長される。例えば、工程S102では、例えば摂氏1100度において、TMG、TMA、TMI、アンモニア、シランを含む原料ガスG1を成長炉10に供給して、図5(b)に示されるように、n型クラッド層53を成長した。n型クラッド層53は、例えばSiドープInAlGaN層である。InAlGaN層の厚さは例えば1.2マイクロメートルである。成長温度は例えば摂氏900度であり、そのAl組成は例えば0.14であり、そのIn組成は例えば0.03である。
【0085】
次いで、図5(c)に示されるように、工程S103では、n型クラッド層53上に光ガイド層55を成長した。光ガイド層55は、例えばSiドープGaN層55a及びアンドープのInGaN層55bを含み、そのインジウム組成は0.02であることができる。まず、TMG、アンモニア、シランを成長炉10に供給して、n型クラッド層53上にSiドープGaN層55aを摂氏840度の成長温度で成長する。次いで、TMG、TMI、アンモニアを成長炉10に供給して、SiドープGaN層55a上にアンドープのInGaN層55bを摂氏840度の成長温度で成長する。SiドープGaN層55aの厚さは例えば200nmであり、アンドープのInGaN層55bの厚さは例えば65nmである。
【0086】
次いで、図6(a)に示されるように、工程S104では、活性層57を成長する。摂氏870度の基板温度で、TMG、アンモニアを成長炉に供給して、この基板温度でGaN系半導体障壁層を成長する。障壁層は、例えばアンドープGaNであり、その厚さは15nmである。障壁層の成長後に、成長を中断して、摂氏870度から摂氏830度に基板温度を変更する。変更後の基板温度T2で、TMG、TMI、アンモニアを成長炉に供給して、アンドープInGaN井戸層を成長する。その厚さは3nmである。井戸層の成長後に、TMIの供給を停止すると共に、TMG、アンモニアを成長炉に供給しながら、摂氏830度から摂氏870度に基板温度を変更する。この変更中にも、アンドープGaN障壁層の一部が成長されている。温度の変更が完了した後に、アンドープGaN障壁層の残りを成長する。GaN障壁層の厚さは15nmである。続けて、障壁層の基板温度変更、井戸層の成長、を繰り返して、InGaN井戸層及びGaN障壁層を形成する。必要な場合には、障壁層はInGaNからなることができる。
【0087】
活性層57上に光ガイド層を成長する。光ガイド層のために、まず、工程S105では、TMG、TMI、アンモニアを成長炉10に供給して、図6(b)に示されるように、活性層57上にアンドープInGaN層59を摂氏840度の基板温度で成長する。そのIn組成は0.02である。次いで、本実施例では、光ガイド層のInGaN層59の成長後に、工程S106において、TMG及びTMIの供給を停止して、基板温度を摂氏1100度に上昇する。この温度で、TMG、TMA、アンモニア、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムを成長炉10に供給して、図6(c)に示されるように、電子ブロック層61を成長する。電子ブロック層61は例えばAlGaNである。電子ブロック層61のAl組成は0.12であった。基板温度を下げて摂氏840度の基板温度において、TMG、TMI、アンモニア、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムを成長炉に供給して、図7(a)に示されるように、工程S107において、電子ブロック層61上に光ガイド層のp型GaN層63を成長する。基板温度は例えば摂氏1000度である。このp型GaN層63の成長では、例えばn型GaN層55aの成長に比べて、炭素の取り込みを上昇させる成膜条件を使用できる。また、電子ブロック層61の成長でも、例えばn型GaN層55aの成長に比べて、炭素の取り込みを上昇させる成膜条件を使用できる。また、電子ブロック層61の炭素濃度は、後ほど成長されるp型クラッド層の炭素濃度に比べて小さいことが好ましい。アンドープのInGaN層59の厚さは例えば65nmであり、Mg及びCドープ電子ブロック層61の厚さは例えば20nmであり、Mg及びCドープGaN層63の厚さは例えば200nmである。
【0088】
次いで、光ガイド層63上に、GaN系半導体領域が成長される。光ガイド層63の成長後に、TMGの供給を停止して、TMG、TMA、TMI、アンモニア、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムを含むガスを成長炉に供給して、工程S108においてp型クラッド層65を成長した。p型クラッド層65の基板温度は例えば900度であり、その厚さが例えば400nmである。p型クラッド層65は例えばMg及びCドープInAlGaN、そのAl組成は例えば0.14であり、そのIn組成は0.03である。p型クラッド層65の成長では、例えばn型クラッド層53の成長に比べて、炭素の取り込みを上昇させる成膜条件を使用できる。
【0089】
この後に、TMAの供給を停止して、工程S109において、p型コンタクト層67を成長した。p型コンタクト層67は例えばMg及びCドープGaN、InGaN等からなり、その厚さ例えば50nmである。このp型コンタクト層67成長では、例えばn型GaN層55aの成長に比べて、炭素の取り込みを上昇させる成膜条件を使用できる。成膜後に、成長炉の温度を室温まで降温して、エピタキシャル基板EPを作製する。
【0090】
電極形成工程では、エピタキシャル基板EP上に電極を形成した。まず、フォトリソグラフィ及びエッチングによりコンタクト窓を形成したシリコン酸化膜といった絶縁膜69を形成する。コンタクト窓69aは例えばストライプ形状であり、その幅は例えば10マイクロメートルである。次いで、p型GaNコンタクト層67上にp電極(Ni/Au)71aを形成した。この後に、pパッド電極(Ti/Au)を形成した。必要な場合には、所望の厚さにGaN基板51の裏面を研磨した後に、n電極(Ti/Al)71bをエピタキシャル基板EPの裏面に形成する。アニール工程では、電極アニール(例えば、摂氏550度で1分)の手順で行って基板生産物を作製できる。
【0091】
(実施例1)
このエピタキシャル基板EPの形成では、p型窒化ガリウム系半導体の成長中におけるV/III比を高くした成長によって、炭素濃度を増加させた。一方、このエピタキシャル基板EPとは別に、p型窒化ガリウム系半導体の成長中におけるV/III比を低くした成長で作製された別のエピタキシャル基板を作製した。この別のエピタキシャル基板のp型クラッド層の炭素濃度は、エピタキシャル基板EPのp型クラッド層の炭素濃度に比べて低い。
【0092】
図8に示される半導体レーザを以下のように作製した。(0001)方向に成長されたGaNインゴットから75度の角度でGaN片を切り出して、{20−21}面を有するGaN基板を準備した。このGaN基板のGaN半導体領域の主面({20−21}面)上に以下の半導体層をエピタキシャル成長した。
75度オフGaN基板
n型クラッド層:SiドープInAlGaN、基板温度900度、厚さ2μm、Al組成0.14、In組成0.03;
光ガイド層:アンドープGaN、基板温度840度、厚さ250nm;
光ガイド層:アンドープInGaN、基板温度840度、厚さ100nm、In組成0.02;
活性層;
障壁層:アンドープGaN、基板温度730度、厚さ15nm;
井戸層:アンドープInGaN、基板温度730度、厚さ3nm、In組成0.30;
光ガイド層:アンドープInGaN、基板温度840度、厚さ50nm、In組成0.03;
光ガイド層:アンドープGaN、基板温度840度、厚さ250nm;
電子ブロック層:MgドープAlGaN、基板温度1000度、厚さ20nm、Al組成0.12;
p型クラッド層:MgドープInAlGaN、基板温度900度、厚さ400nm、Al組成0.14、In組成0.03;
p型コンタクト層:MgドープGaN、基板温度900度、厚さ50nm。
【0093】
図9は、エピタキシャル基板EPにおけるインジウム、炭素、アルミニウム及びマグネシウムの元素のSIMSプロファイルを示す図面である。図10は、別のエピタキシャル基板におけるインジウム、炭素、アルミニウム及びマグネシウムの元素のSIMSプロファイルを示す図面である。図9及び図10には、二次イオン質量分析によって測定されたプロファイルP1〜P4及びQ1〜Q4が示されている。SIMS測定において、磁場型SIMS装置を用いた。
P1、Q1:インジウムのプロファイル;
P2、Q2:炭素のプロファイル;
P3、Q3:アルミニウムのプロファイル;
P4、Q4:マグネシウムのプロファイル。
【0094】
SIMSプロファイルによれば、二次イオン質量分析によって求めた炭素濃度によれば、エピタキシャル基板EPのp型InAlGaN層の炭素濃度は1×1017cm−3であり、p型InAlGaN層のマグネシウム濃度は4×1018cm−3であった。また、別のエピタキシャル基板のp型InAlGaN層の炭素濃度は1×1016cm−3であり、p型InAlGaN層のマグネシウム濃度は6×1018cm−3であった。
【0095】
(実施例2)
エピタキシャル基板(高炭素濃度)EP及び別のエピタキシャル基板(低炭素濃度)を用いて、レーザダイオード(LD)を作製した。これらのエピタキシャル基板の表面にSiO絶縁膜を成膜した後に、この絶縁膜に幅10μmのストライプ窓をウエットエッチングにより形成した。Ni/Auから成るp側電極とTi/Alから成るパッド電極を蒸着した。各エピタキシャル基板の裏面を研磨してその厚みを100umにした。研磨された裏面にはTi/Al/Ti/Auから成るn側電極を蒸着した。このように作製された基板生産物からレーザバーを作製した。個々のレーザバーは共振ミラーを含む。レーザバーの端面に真空蒸着法によって誘電体多層膜をコーティングした。誘電体多層膜は、SiOとTiOを交互に積層して構成した。膜厚はそれぞれ、50〜100nmの範囲で調整して、反射率の中心波長が500〜530nmの範囲になるように設計した。片側の反射面を10周期とし、反射率の設計値を約95%に設計し、もう片側の反射面を6周期とし、反射率の設計値を約80%とした。次に、通電による評価を室温にて行った。電源には、パルス幅500ns、デューティ比0.1%のパルス電源を用い、表面電極に針を落として通電した。光出力測定の際には、レーザバー端面からの発光をフォトダイオードによって検出して、光出力−電流特性(L−I特性)を調べ、閾値電流密度を求めた。発光波長を測定する際には、レーザバー端面からの発光を光ファイバに通し、検出器にスペクトルアナライザを用いてスペクトル測定を行い、発振波長を求めた。電圧−電流特性(V−I特性)の測定には、四探針法を用いて行った。各ウエハで特性の良好な10個のLDの平均値を以下に示す。
試料名 閾値、 、閾値電圧、発振波長、素子抵抗
高C濃度のLD:5kA/cm、 5.2V、521nm、2Ω;
低C濃度のLD:15kA/cm、7.2V、520nm、6Ω。
高C濃度のLDでは、p型半導体領域の全体にわたって、2×1016cm−3以上であった。一方、低C濃度のLDでは、p型半導体領域の全体にわたって、2×1016cm−3未満であった。
【0096】
これらの結果から、半極性及び無極性のp型窒化ガリウム系半導体に所定濃度範囲の炭素を取り込ませることによって、p型半導体層の電気的特性を向上でき、この結果、素子特性が向上できた。
【0097】
次に、p型炭素ドーパントに対するGaN基板の転位密度の影響を説明する。Si基板、サファイア基板、SiC基板等上での半極性面上のGaNのヘテロエピタキシャル成長では、現在のところ、エピタキシャル膜の結晶品質は高くない。具体的には、上記の異種基板を用いたヘテロエピタキシャル成長膜では、その貫通転位密度が1×10cm−2以上である。紫色や青色といった発光波長の光を発する得InGaN活性層を有する発光素子では、キャリアの拡散長が0.2μm以下と小さいので、高い転位密度のInGaN活性層でも高効率の発光が観測される。しかしながら、緑色の光を発するInGaN活性層では、キャリアの拡散長が0.2μm以上になり、この活性層を形成するInGaN活性層の転位密度は、1×10cm−2以下であることが必要となる。発光素子がレーザダイオードであるとき、転位密度に関して更なる高品質が求められ、その値は1×10cm−2以下であることが望ましい。レーザダイオードのストライプが全く転位を含まないようにするためには、転位密度は1×10cm−2以下である必要がある。
【0098】
更に、エピタキシャル半導体領域に転位が存在するとき、成長中の表面モフォロジが局所的に変化する。具体的には、転位を中心に窪みが形成される。このため、エピタキシャル半導体領域に転位が存在せず半極性GaN面が一様に平坦に成長した半導体領域に比べて、転位近傍では窪みの影響で局所的に不純物の取り込み量が、その周囲と異なるものになる。これ故に、低い転位密度が望ましいけれども、一様な不純物分布を有する半導体層を成長することができる。具体的には、転位密度が1×10cm−2以下の貫通転位密度であれば、局所的な不純物分布の影響は、小さくできる。このため、窒化ガリウム系半導体基板は上記の転位密度以下の値を有することが好ましい。
【0099】
実施例で用いた{20−21}面は、先行技術において用いられた窒素面と異なり、本件の{20−21}面のGaN系成長機構は、面方位{10−11}面のGaN系成長機構と異なると考えられる。
【0100】
非特許文献によれば、{10−11}面GaNにおいて炭素がアクセプタとして振舞う根拠は、(1−101)が窒素終端面であることとして説明されている。図11は、この半極性{10−11}面における原子配列を模式的に示す図面である。図12は、半極性{20−21}面における原子配列を模式的に示す図面である。図13は、同様に半極性面である{1014}面における原子配列を模式的に示す図面である。図12に示されるように、{20−21}面の原子配列は、完全な窒素終端面ではない。
{10−11}面:最表面の原子は全て窒素であり、窒素終端面である。
{20−21}面:最表面の2/3はGa原子であり、窒素終端面ではない。
{10−14}面:最表面の3/5はGa原子であり、窒素終端面ではない。
図12に示されるように、{20−21}面は窒素終端面でなく、発明者らの実験によれば、{20−21}面や{10−10}面に係る窒化ガリウムにおいて、炭素が浅いアクセプタとして振舞う。このことから、本実施の形態に係る浅い炭素アクセプタによる技術的寄与は、窒素終端面に起因するものではない。
【0101】
参考のために{10−14}面の原子配列を参照すると、{10−14}面におけるGa/Nの比率は、{20−21}のGa/Nの比率に近い。しかしながら、{10−14}面近傍の角度範囲では、炭素は浅いアクセプタにはならない。
【0102】
発明者らの検討によれば、{20−21}面と{10−14}面との違いは、炭素を取り込む際の最表面におけるボンドの向きの違いに起因すると考えられる。{10−14}面には、c面{0001}から{10−11}面への微傾斜した際に現れるステップが出現する。これに対して、{20−21}面には、{10−11}面から{10−10}面への微傾斜した際に現れるステップが出現する。このステップの性質の違いによって、炭素と最表面におけるボンドとの結合により効率的に且つ優先的に炭素を取り込むことが可能となり、取り込まれた炭素は、浅いアクセプタを形成する。したがって、{20−21}面におけるステップと同一又は類似のステップを提供できる面方位及び傾斜角の範囲では、本実施の形態に係る技術的な利益が得られる。
【0103】
本実施の形態におけるp型窒化ガリウム系半導体では、炭素濃度の下限は2×1016cm−3以上であり、その上限は1×1019cm−3以下であることが好ましい。本実施の形態におけるアンドープ窒化ガリウム系半導体では、炭素濃度の上限は1×1017cm−3以下であることが好ましい。本実施の形態におけるn型窒化ガリウム系半導体では、炭素濃度の下限は2×1016cm−3以上であり、その上限は1×1018cm−3以下であることが好ましい。
【0104】
以上説明したように、本発明の実施の形態によれば、低抵抗化されたp型窒化ガリウム系半導体層を含むIII族窒化物半導体光素子が提供される。また、本発明の実施の形態によれば、このIII族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板が提供される。
【0105】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【符号の説明】
【0106】
11…III族窒化物半導体光素子、13…支持体、13a…支持体主面、13b…支持体裏面、15…n型窒化ガリウム系半導体層、17…p型窒化ガリウム系半導体層、19…活性層、19a…活性層主面、21…電子ブロック層、NV…法線ベクトル、Nx…法線軸、ALPHA…角度、VC…c軸ベクトル、Cx…基準軸、23a…障壁層、23b…井戸層、25、27…光ガイド層、25a…InGaN層、25b…GaN層、27a…InGaN層、27b…GaN層、29…発光層、29a…発光層主面、Sc…基準平面、31…コンタクト層、Ax…延在軸、33、37…電極、35…絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体光素子であって、
III族窒化物半導体からなり、該III族窒化物半導体のc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対して有限の角度をなす主面を有する支持体と、
前記支持体の前記主面上に設けられたn型窒化ガリウム系半導体層と、
前記支持体の前記主面上に設けられ、マグネシウム添加のp型窒化ガリウム系半導体層と、
前記支持体の前記主面上において前記n型窒化ガリウム系半導体層と前記p型窒化ガリウム系半導体層との間に設けられた活性層と
を備え、
前記有限の角度は40度以上140度以下の範囲にあり、
前記主面は半極性及び無極性のいずれか一方を示し、
前記p型窒化ガリウム系半導体層はp型ドーパントとして炭素を含み、
前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は2×1016cm−3以上であり、
前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は1×1019cm−3以下である、ことを特徴とするIII族窒化物半導体光素子。
【請求項2】
前記活性層は、前記支持体の前記主面の法線軸の方向に交互に配列された井戸層及び障壁層を含み、
前記障壁層は、窒化ガリウム系半導体からなり、
前記障壁層の厚さは前記井戸層の厚さより大きく、
前記井戸層は、構成元素としてインジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなり、
前記井戸層の炭素濃度は、1×1017cm−3以下である、ことを特徴とする請求項1に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項3】
前記n型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度より小さく、
前記n型窒化ガリウム系半導体層はn型ドーパントを含み、
前記n型窒化ガリウム系半導体層のn型ドーパント濃度は、前記n型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度より大きい、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項4】
前記n型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は1×1018cm−3以下である、ことを特徴とする請求項1〜請求項3に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項5】
前記n型窒化ガリウム系半導体層はInAlGaN又はAlGaNなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項6】
前記p型窒化ガリウム系半導体層における前記炭素濃度は前記p型窒化ガリウム系半導体層におけるマグネシウム濃度より大きい、ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項7】
前記p型窒化ガリウム系半導体層と前記活性層との間に設けられ、窒化ガリウム系半導体からなる第1の光ガイド層と、
前記n型窒化ガリウム系半導体層と前記活性層との間に設けられ、窒化ガリウム系半導体からなる第2の光ガイド層と
を更に備え、
前記第1の光ガイド層の少なくとも一部分はp型ドーパントとしてマグネシウムを含み、
前記第1の光ガイド層の炭素濃度は1×1017cm−3以下であり、
前記第1の光ガイド層におけるマグネシウム濃度は1×1017cm−3以下であり、
前記第2の光ガイド層の炭素濃度は1×1017cm−3以下である、ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項8】
前記活性層は、波長430nm以上600nm以下の光を発生するように設けられた量子井戸構造を含み、
当該III族窒化物半導体光素子は、前記活性層と前記p型窒化ガリウム系半導体層との間に設けられた電子ブロック層を更に備え、
前記第1の光ガイド層は、前記電子ブロック層と前記活性層と間に設けられた第1のInGaN層を含み、
前記第2の光ガイド層は、前記活性層と前記n型窒化ガリウム系半導体層との間に設けられた第2のInGaN層を含む、ことを特徴とする請求項7に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項9】
前記n型窒化ガリウム系半導体層、前記活性層及び前記p型窒化ガリウム系半導体層は、前記支持体の前記主面の法線方向に配列されており、
前記p型窒化ガリウム系半導体層は前記活性層の主面上に設けられ、
前記活性層の前記主面は、前記基準平面に対して40度以上140度以下の範囲にあり、
前記活性層は前記n型窒化ガリウム系半導体層の主面上に設けられる、ことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項10】
前記p型窒化ガリウム系半導体層の主面上に設けられ、p型窒化ガリウム系半導体からなるコンタクト層と、
前記コンタクト層に接触を成す第1の電極と
を更に備え、
前記コンタクト層はp型ドーパントとしてマグネシウムを含み、
前記コンタクト層の炭素濃度は2×1016cm−3以上であり、
前記コンタクト層の炭素濃度は1×1019cm−3以下である、ことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項11】
前記c軸方向に延びる基準軸は、前記支持基体のIII族窒化物半導体の<11−20>方向を基準に−15度以上+15度以下の範囲の向きに傾斜しており、前記支持体の主面とc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対してなす前記有限の角度は、59度以上121度以下の範囲である、ことを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項12】
前記c軸方向に延びる基準軸は、前記支持基体のIII族窒化物半導体の<1−100>方向を基準に−15度以上+15度以下の範囲の向きに傾斜しており、前記支持体の主面とc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対してなす前記有限の角度は、63度以上117度以下の範囲である、ことを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項13】
前記支持体の前記主面は、{11−22}、{11−21}、{11−20}、{11−2−1}及び{11−2−2}のいずれかの面から−4度〜+4度の範囲にある、ことを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項14】
前記支持体の前記主面の面指数は、{11−22}、{11−21}、{11−20}、{11−2−1}及び{11−2−2}のいずれか一つであることを特徴とする請求項1〜請求項10及び請求項13のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項15】
前記支持体の前記主面は、{10−11}、{20−21}、{10−10}、{20−2−1}及び{10−1−1}のいずれかの面から−4度〜+4度の範囲にある、ことを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項16】
前記支持体の前記主面の面指数は、{10−11}、{20−21}、{10−10}、{20−2−1}及び{10−1−1}のいずれか一つであることを特徴とする請求項1〜請求項12及び請求項15のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項17】
前記支持体の貫通転位密度は、1×10cm−2以下であり、
前記支持体はGaN、InGaN、AlGaN及びInAlGaNのいずれかからなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項16のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項18】
前記支持体の裏面に接触を成す第2の電極を更に備え、
前記支持体は導電性を示す、ことを特徴とする請求項1〜請求項17のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項19】
前記p型窒化ガリウム系半導体層はInAlGaN及びAlGaNの少なくともいずれかからなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項18のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項20】
前記p型窒化ガリウム系半導体層はInAlGaNなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項19のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項21】
III族窒化物半導体光素子のためのエピタキシャル基板であって、
III族窒化物半導体からなり、該III族窒化物半導体のc軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対して有限の角度をなす主面を有するIII族窒化物半導体基板と、
前記III族窒化物半導体基板の前記主面上に設けられたn型窒化ガリウム系半導体層と、
前記III族窒化物半導体基板の前記主面上に設けられ、マグネシウム添加のp型窒化ガリウム系半導体層と、
前記III族窒化物半導体基板の前記主面上において前記n型窒化ガリウム系半導体層と前記p型窒化ガリウム系半導体層との間に設けられた活性層と
を備え、
前記有限の角度は40度以上140度以下の範囲にあり、
前記主面は半極性及び無極性のいずれか一方を示し、
前記p型窒化ガリウム系半導体層はp型ドーパントとして炭素を含み、
前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は2×1016cm−3以上であり、
前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は1×1019cm−3以下である、ことを特徴とするエピタキシャル基板。
【請求項22】
前記活性層は、前記支持体の前記主面の法線軸の方向に交互に配列された井戸層及び障壁層を含み、
前記障壁層は、窒化ガリウム系半導体からなり、
前記障壁層の厚さは前記井戸層の厚さより大きく、
前記井戸層は、構成元素としてInを含む窒化ガリウム系半導体からなり、
前記井戸層の炭素濃度は、1×1017cm−3以下であり、
前記n型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度は前記p型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度より小さく、
前記n型窒化ガリウム系半導体層はn型ドーパントを含み、
前記n型窒化ガリウム系半導体層のn型ドーパント濃度は、前記n型窒化ガリウム系半導体層の炭素濃度より大きい、ことを特徴とする請求項21に記載されたエピタキシャル基板。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図2】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−23541(P2011−23541A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167177(P2009−167177)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】