説明

III族窒化物半導体成長用の下地基板およびIII族窒化物半導体の成長方法

【課題】表面状態や断面形状が良好なIII族窒化物半導体の厚膜結晶を成長させることができる下地基板を提供する。
【解決手段】第1結晶成長面110と第1結晶成長面110と同じ方向に面している第2結晶成長面109を有する下地基板112であって、第1結晶成長面110の周縁の50%以上または全周縁に下向きの段差を介して第2結晶成長面109が連接している。ここで、第1結晶成長面110は円形とし、第2結晶成長面109は環状であり、第1結晶成長面110と同心とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体成長用の下地基板および該下地基板を用いたIII族窒化物半導体の成長方法に関する。より具体的には、本発明は、結晶の表面状態や断面形状が良好なIII族窒化物半導体を成長することができる下地基板と、その下地基板を用いたIII族窒化物半導体の成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体は、高融点であり、しかも融点付近の窒素の解離圧が高いことから、融液からのバルク成長が困難である。一方、ハイドライド気相成長法(HVPE)や有機金属化学気相成長法(MOCVD)等の気相成長法を用いることによって、III族窒化物半導体基板を製造できることが知られている。窒化ガリウム半導体基板を製造する場合、例えば、サファイア等の下地基板を気相成長装置の成長室(リアクター)内にセットし、リアクター内に、ガリウム化合物を含有するガスと窒素化合物を含有するガスなどからなるIII族窒化物半導体形成用ガスを供給することにより、下地基板上に窒化ガリウム半導体を数μm〜数cmの厚さにまで成長させる。そして、その後、下地基板などの部分を研磨やレーザーを照射する方法を用いて除去することにより、所望のIII族窒化物半導体基板を得ることができる。前記の気相成長法のうち、HVPE法は他の成長方法に比べて高い成長速度が実現できる特徴をもつことから、III族窒化物半導体の厚膜成長が必要な場合や、十分な厚みを有するIII族窒化物半導体基板を得るための方法として有効である。
【0003】
従来は1枚の下地基板上に500μm〜1mm程度の厚さの単結晶窒化ガリウムを成長し、下地基板を取り除き、加工研磨を行うことにより1枚の窒化ガリウム単結晶基板を得ていた。これでは非常に製造の効率が悪く、安価な単結晶窒化ガリウム基板を供給することはできない。そこで下地基板上に数mm〜数cmの厚さの単結晶を成長し、その単結晶バルクをスライシングすることによって、1枚の下地基板から複数枚の窒化ガリウム単結晶基板を得る手法が注目されている。
【0004】
しかしながら、数mm以上の厚膜を成長させる上で新たな問題が発生する。数mm以上の厚膜成長を行うと基板周縁部に結晶が異常成長するため、基板中心部でのガスの流れが乱れ良好な結晶が得られない。また、基板周縁部の結晶の異常成長が加速され基板中心部の膜厚がほとんど増えないうえ、GaNの形成に伴って発生する塩酸ガスのエッチング作用の影響だと思われる表面荒れも発生する。
【0005】
このような基板端部における結晶の異常成長を防ぐために、端部をカバーで覆う技術が提案されている(特許文献1参照)。具体的には、成長面の外周から半径方向内側に向かって1mm以上の部分をカバーで覆うことが提案されている。
【特許文献1】特開2005−200250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、端部をカバーで覆うと結晶成長面におけるガスの流れが阻害され、表面性に優れた結晶を均一に成長させることが困難になるという問題がある。また、結晶成長面の一部を覆うことから成長面を効率よく利用することができず、サイズが大きな結晶を成長させるには不利であるという問題もある。
【0007】
本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、結晶成長面におけるガスの流れを阻害せずに、表面状態や断面形状が良好なIII族窒化物半導体の厚膜結晶を成長させることができる下地基板を提供することを本発明の目的として設定した。また、そのような下地基板を利用して表面状態や断面形状が良好なIII族窒化物半導体を成長させる方法を提供することも本発明の目的として設定した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、結晶成長面の周縁に段差をつけて別の結晶成長面を設けることによって従来技術の課題を解決しうることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0009】
[1] 第1結晶成長面と前記第1結晶成長面と同じ方向に面している第2結晶成長面を有する下地基板であって、前記第1結晶成長面の周縁の50%以上に下向きの段差を介して前記第2結晶成長面が連接していることを特徴とするIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
[2] 前記第1結晶成長面の全周縁に下向きの段差を介して前記第2結晶成長面が連接していることを特徴とする[1]に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
[3] 前記第1結晶成長面が円形であることを特徴とする[1]または[2]に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
[4] 前記第2結晶成長面が環状であり、円形の前記第1結晶成長面と同心であることを特徴とする[3]に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
[5] 前記第2結晶成長面の幅が0.5mm以上であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
[6] 前記段差の高さが0.1〜5mmであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
[7] 前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面が連続している単一部材内に存在することを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
[8] 前記第1結晶成長面を構成する部材と前記第2結晶成長面を構成する部材が異なっていることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
[9] 前記第1結晶成長面を構成する材料と前記第2結晶成長面を構成する材料がいずれもIII族窒化物半導体の単結晶からなることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
[10] 前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面を構成する部材が基礎基板上に形成されていることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
[11] 前記基礎基板がサファイア単結晶基板またはSiC単結晶基板であることを特徴とする[10]に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【0010】
[12] [1]〜[11]のいずれか一項に記載の下地基板上にIII族窒化物半導体形成用ガスを供給することにより前記下地基板上にIII族窒化物半導体を結晶成長させる工程を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体の成長方法。
[13] 前記下地基板が、結晶成長させるIII族窒化物半導体と同種の単結晶からなることを特徴とする[12]に記載のIII族窒化物半導体の成長方法。
[14] 前記III族窒化物半導体を厚み5mm以上で結晶成長させることを特徴とする[12]または[13]に記載のIII族窒化物半導体の成長方法。
[15] 前記結晶成長をハイドライド気相成長法(HVPE法)により行うことを特徴とする[12]〜[14]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体の成長方法。
[16] 前記下地基板から前記第2結晶成長面を分離する工程をさらに含むことを特徴とする[12]〜[15]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体の成長方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の下地基板は、第1結晶成長面の周縁に段差をつけて第2結晶成長面が設けられているため、第1結晶成長面の周縁部においてIII族窒化物半導体結晶が異常成長するのを抑えることができる。その結果、第1結晶成長面上に表面状態や断面形状が良好なIII族窒化物半導体を成長させることができる。また、本発明のIII族窒化物半導体の成長方法によれば、平坦で均一な厚膜結晶を作製することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、本発明の下地基板およびIII族窒化物半導体の成長方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(III族窒化物半導体成長用の下地基板)
本発明の下地基板は、第1結晶成長面と前記第1結晶成長面と同じ方向に面している第2結晶成長面を有する下地基板であって、前記第1結晶成長面の周縁の50%以上に下向きの段差を介して前記第2結晶成長面が連接していることを特徴とする。
【0014】
本発明の下地基板は少なくとも第1結晶成長面と第2結晶成長面を備えている。第1結晶成長面と第2結晶成長面は互いに同じ方向に面しているが、ここでいう「同じ方向に面している」とは、第1結晶成長面の法線と第2結晶成長面の法線の角度が20°以内であることを意味する。第1結晶成長面の法線と第2結晶成長面の法線の角度は10°以内であることが好ましく、5°以内であることがより好ましく、3°以内であることがさらに好ましく、1°以内であることが特に好ましい。
【0015】
第1結晶成長面は、表面状態や断面形状が良好なIII族窒化物半導体結晶を成長させる面である。第1結晶成長面の形状は特に制限されず、取得しようとしているIII族窒化物半導体結晶の形状にあわせて形状を決定することができる。通常は円形、楕円形または矩形であり、好ましくは円形である。第1結晶成長面のサイズも、取得しようとしているIII族窒化物半導体のサイズにあわせて決定することができる。第1結晶成長面が円形である場合の直径や第1結晶成長面が矩形である場合の最大径は、通常10〜300mmであり、20〜150mmであることが好ましく、50〜100mmであることがより好ましい。
【0016】
第2結晶成長面は、第1結晶成長面よりも低い位置でIII族窒化物半導体結晶を成長させる面であり、第2結晶成長面にIII族窒化物半導体結晶を成長させることによって第1結晶成長面の周縁部に結晶が異常成長するのを抑制する機能を有する面である。第2結晶成長面にIII族窒化物半導体結晶を成長させることによって、第1結晶成長面に表面状態や断面形状が良好なIII族窒化物半導体結晶を成長させることが可能になる。
【0017】
第2結晶成長面は、第1結晶成長面の周縁の50%以上に下向きの段差を介して連接している。すなわち、第1結晶成長面の周縁の長さの50%以上は、下向きの段差を介して第2結晶成長面につながっている。好ましくは第1結晶成長面の周縁の70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは100%が、下向きの段差を介して第2結晶成長面につながっていることが望ましい。下向きの段差を介して第2結晶成長面に連接している周縁を連接周縁部といい、連接していない周縁を非連接周縁部というとき、第1結晶成長面の周縁は連接周縁部と非連接周縁部が交互に現れるものであってもよい。好ましいのは、連接周縁部と非連接周縁部が規則性を持って交互に現れる態様であり、より好ましいのは下地基板が円形で連接周縁部と非連接周縁部が規則性を持って交互に現れる態様であり、さらに好ましいのは回転対称性を有する態様であり、特に好ましいのは周縁がすべて連接周縁部である態様である。好ましい態様を採用することによって、より均一な結晶を第1結晶成長面上に成長させることができる。
【0018】
第2結晶成長面は、第1結晶成長面の周縁に下向きの段差を介して連接していることから、第1結晶成長面が円形であるとき第2結晶成長面は環状であることが好ましい。このとき、環状の第2結晶成長面は円形の第1結晶成長面と同心であることがより好ましい。第2結晶成長面の幅は通常0.5〜20mmであり、1〜15mmであることが好ましく、2〜15mmであることがより好ましい。第2結晶成長面の幅は、本発明の下地基板全体にわたって一定であってもよいし、幅が広い部分と幅が狭い部分が混在していてもよい。下地基板全体にわたって幅が一定であれば、より均一なIII族窒化物半導体結晶を第1結晶成長面上に成長させることができるため好ましい。
【0019】
第1結晶成長面と第2結晶成長面の間に介在する段差は、高低差が通常0.1〜5mmであり、0.2〜2mmであることが好ましく、0.3〜1mmであることがより好ましい。第1結晶成長面と第2結晶成長面との間の高低差は、本発明の下地基板全体にわたって必ずしも一定でなくても構わないが、下地基板全体にわたって一定であることが好ましい。下地基板全体にわたって一定であれば、より均一なIII族窒化物半導体結晶を第1結晶成長面上に成長させることができる。
【0020】
第1結晶成長面と第2結晶成長面は、同一の結晶からなるものであってもよいし、異なる結晶からなるものであってもよい。いずれの場合であっても、III族窒化物半導体を成長させることができるものでなければならない。好ましいのは、第1結晶成長面と第2結晶成長面におけるIII族窒化物半導体結晶の成長速度がほぼ同じである態様である。したがって、第1結晶成長面と第2結晶成長面は、同一の結晶からなるものであることが好ましい。また、第1結晶成長面と第2結晶成長面は、いずれもIII族窒化物半導体の単結晶であることが好ましく、下地基板上に結晶成長させるIII族窒化物半導体と同じ種類の単結晶であることがより好ましい。
【0021】
第1結晶成長面と第2結晶成長面は、連続した単一部材内に存在していてもよいし、異なる部材内にそれぞれが存在していてもよい。連続した単一部材内に存在している態様として、例えば1つの単結晶内に第1結晶成長面と第2結晶成長面が設けられている場合を例示することができる。また、異なる部材内にそれぞれが存在している態様として、第1結晶成長面を有する単結晶と第2結晶成長面を有する単結晶とが、互いに接触して一体化している場合を例示することができる。後者の場合、2つの部材は互いに強固に連結していてもよいし、単に一方の部材が他方の部材の上に搭載されているだけでもよい。後者の場合は、搭載のタイミングは特に制限されない。例えば、反応容器内において下側の部材(第2結晶成長面を有する部材)上に上側の部材(第1結晶成長面を有する部材)を搭載してもよい。
【0022】
本発明の下地基板は、基礎基板上に形成されていてもよい。ここでいう基礎基板とは、一般に基板と呼ばれているもので、その上に化合物半導体を成長させることができる厚膜材料をいう。基礎基板としては、例えばサファイア単結晶基板、SiC単結晶基板、Si基板などを挙げることができる。好ましいのは、サファイア単結晶基板またはSiC単結晶基板である。本発明の下地基板は、このような基礎基板を備えたままIII族窒化物半導体結晶の成長に用いてもよいし、基礎基板を除去したうえでIII族窒化物半導体結晶の成長に用いてもよい。いずれにするかは、下地基板の安定性、作業性、成長させるIII族窒化物半導体の形状や用途などに応じて、適宜決定することができる。
【0023】
(III族窒化物半導体の成長方法)
本発明のIII族窒化物半導体の成長方法は、上記の本発明の下地基板上にIII族窒化物半導体形成用ガスを供給することにより、下地基板上にIII族窒化物半導体を結晶成長させる工程を含むことを特徴とする。結晶成長させるIII族窒化物半導体の種類は特に制限されない。例えばGaN、InN、AlN、InGaN、AlGaN、AlInGaNなどを挙げることができる。好ましいのはGaN、AlN、AlGaNであり、より好ましいのはGaNである。
【0024】
III族窒化物半導体形成用ガスは、本発明の下地基板の第1結晶成長面に供給されるようにする。具体的には、第1結晶成長面の法線方向に対して0〜45°の方向から供給することが好ましく、0〜30°の方向から供給することがより好ましく、0〜10°の方向から供給することがさらに好ましい。III族窒化物半導体形成用ガスは、第2結晶成長面に直接供給してもよいし、第1結晶成長面を経由して供給されるようにしてもよい。好ましいのは、第1結晶成長面を経由して供給される場合である。
【0025】
本発明のIII族窒化物半導体の成長方法において用いることが結晶成長法として、HVPE法、MOCVD法、MBE法、昇華法等を挙げることができる。好ましいのはHVPE法、MOCVD法であり、最も好ましいのはHVPE法である。
【0026】
次に、本発明の下地基板を用いてIII族窒化物半導体結晶を成長させる工程について説明する。
結晶成長に用いる装置の詳細は特に制限されない。例えば、図1に示すようなHVPE装置を用いることができる。図1のHVPE装置は、リアクター100内に、下地基板112を載置するための基板ホルダー(サセプター)107と、成長させるIII族窒化物半導体の原料を入れるリザーバー105とを備えている。また、リアクター100内にガスを導入するための導入管101〜104と、排気するための排気管108が設置されている。さらに、リアクター100を側面から加熱するためのヒーター106が設置されている。
【0027】
リアクター100の材質としては、石英、多結晶BN、ステンレス等が用いられる。好ましい材質は石英である。リアクター100内には、反応開始前にあらかじめ雰囲気ガスを充填しておく。雰囲気ガスとしては、例えばH2ガス、N2ガス、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。
【0028】
基板ホルダー107の材質としてはカーボンが好ましく、SiCで表面をコーティングしているものがより好ましい。基板ホルダー107の形状は、本発明の下地基板112を設置することができる形状であれば特に制限されないが、結晶成長する際に成長している結晶の上流側に構造物が存在しないものであることが好ましい。上流側に結晶が成長する可能性のある構造物が存在すると、そこに多結晶体が付着し、その生成物としてHClガスが発生して結晶成長させようとしている結晶に悪影響が及んでしまう。基板ホルダー107の下地基板載置面の大きさは、載置する下地基板112よりも小さいことが好ましい。すなわち、ガス上流側から見たときに、下地基板112の大きさで基板ホルダー107が隠れるくらいの大きさであることがさらに好ましい。
【0029】
下地基板112を基板ホルダー107に載置するとき、下地基板112の第1結晶成長面はガス流れの上流側(図1ではリアクターの上方)を向くように載置することが好ましい。すなわち、ガスが第1結晶成長面に向かって流れるように載置することが好ましく、ガスが第1結晶成長面に垂直な方向から流れるようにすることがより好ましい。このように下地基板112を載置することによって、より均一で結晶性に優れたIII族窒化物半導体結晶を得ることができる。
【0030】
リザーバー105には、III族源となる原料を入れる。そのようなIII族源となる原料として、Ga、Al、Inなどを挙げることができる。
【0031】
リザーバー105にガスを導入するための導入管103からは、リザーバー105に入れた原料と反応するガスを供給する。例えば、リザーバー105にIII族源となる原料を入れた場合は、導入管103からHClガスを供給することができる。このとき、HClガスとともに、導入管103からキャリアガスを供給してもよい。キャリアガスとしては、例えばH2ガス、N2ガス、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。キャリアガスは雰囲気ガスと同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0032】
導入管101からは、窒素源となる原料ガスを供給する。通常はNH3ガスを供給する。また、導入管102からは、キャリアガスを供給する。キャリアガスとしては、導入管103から供給するキャリアガスと同じものを例示することができる。導入管102から供給するキャリアガスと導入管103から供給するキャリアガスは同じものであることが好ましい。また、導入管102からは、ドーパントガスを供給することもできる。例えば、SiH4やSiH2Cl2等のn型のドーパントガスを供給することができる。
【0033】
導入管104からは、エッチングガスを供給することができる。エッチングガスとしては、塩素系のガスを挙げることができ、HClガスを用いることが好ましい。エッチングガスの流量を総流量に対して0.1%〜3%程度とすることによりエッチングを行うことができる。好ましい流量は総流量に対して1%程度である。ガスの流量はマスフローコントロラー(MFC)等で制御することができ、個別のガスの流量は常にMFCで監視することが好ましい。
【0034】
導入管101、102、104から供給する上記ガスは、それぞれ互いに入れ替えて別の導入管から供給しても構わない。また、V族源となる原料ガスとキャリアガスは、同じ導入管から混合して供給してもよい。さらに他の導入管からキャリアガスを混合してもよい。これらの供給態様は、リアクター100の大きさや形状、原料の反応性、目的とする結晶成長速度などに応じて、適宜決定することができる。
【0035】
ガス排出管108は、ガス導入のための導入管101〜104とは反対側のリアクター内壁から排出することができるように設置するのが一般的である。図1では、ガス導入のための導入管101〜104が設置されているリアクター上面とは反対に位置するリアクター底面にガス排出管108が設置されている。ガス導入のための導入管がリアクター右側面に設置されている場合は、ガス排出管はリアクター左側面に設置されていることが好ましい。このような態様を採用することによって、一定方向に向けて安定にガスの流れを形成することができる。
【0036】
HVPE法による結晶成長は、通常は900℃〜1070℃で行い、925℃〜1050℃で行うことが好ましく、950℃〜1030℃で行うことがより好ましく、975℃から1000℃で行うことがさらに好ましい。リアクター内の圧力は10kPa〜200kPaであるのが好ましく、30kPa〜150kPaであるのがより好ましく、50kPa〜120kPaであるのがさらに好ましい。エッチングを行うときのエッチング温度や圧力は、上記の結晶成長の温度や圧力と同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
結晶成長を行った後に得られるIII族窒化物半導体結晶は、結晶面の境界に多結晶体を有することがある。ここでいう多結晶体とは、例えば六方晶系の結晶格子を形成することができず、しかるべき位置に原子がいない状態の結晶を意味する。すなわち結晶方位が無秩序な微小な結晶の集合体をいい、非常に小さな単結晶粒の集まりを意味する。このような多結晶体を有する場合は、多結晶体を除去する工程を行った後に、さらに多結晶体を除去した結晶の表面にIII族窒化物半導体結晶を成長する工程を行う。そのようにして得られたIII族窒化物半導体結晶が、なお結晶面の境界に多結晶体を有するときは、再び多結晶体を除去する工程を行い、さらに表面にIII族窒化物半導体結晶を成長する工程を行う。このような操作を繰り返すことによって、多結晶体を有さないIII族窒化物半導体結晶を得ることができる。
【0038】
本発明の製造方法によって得られるIII族窒化物半導体の結晶系は、六方晶系であることが好ましい。また、得られるIII族窒化物半導体結晶は、単結晶であることが好ましい。下地基板の上に成長させるIII族窒化物半導体結晶の厚さは2mm〜10cmが好ましい。結晶成長後に研削、研磨、レーザ照射等を行う場合は、ある程度の大きさの結晶が必要になるため、下地基板の上に成長させるIII族窒化物半導体結晶の厚さは5mm〜10cmが好ましく、1cm〜10cmがより好ましい。
【0039】
本発明の製造方法によって得られたIII族窒化物半導体結晶は、そのまま用いてもよいし、研削やスライス加工などの処理を行ってから用いてもよい。ここでスライス加工とは、(1)成長した結晶を下地基板として使用できるようにC面表面の品質を均一にする加工や、(2)成長初期部分には内在する転位から発生するストレスがあることを考慮してその部分を切り捨てるために行う加工をいう。スライス加工は、具体的には内周刃スライサー、ワイヤーソースライサー等を用いて行うことができる。本発明では、スライス加工を行うことによって、形状がほぼ同じで、転位密度がより低く、かつ、表面欠陥が少ない結晶を製造することが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法によれば、表面粗さが1nm以下であるC面やM面を備えているIII族窒化物半導体結晶を得ることができる。特に、結晶成長後に研磨を行わなくても、表面粗さが1nm以下であるC面やM面をもつことを備えているIII族窒化物半導体結晶を製造することができる点で優れている。なお、本発明における表面粗さ(Rms)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて10μm角の表面粗さを測定したデータから自乗平均平方根で計算することにより求められる。
【0041】
本発明の製造方法により製造したIII族窒化物半導体結晶は、さまざまな用途に用いることができる。特に、紫外、青色又は緑色等の発光ダイオード、半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有用である。また、本発明の製造方法により製造したIII族窒化物半導体結晶を下地基板として用いて、さらに大きなIII族窒化物半導体結晶を得ることも可能である。
【実施例】
【0042】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお、以下の実施例および比較例では、図1に示すHVPE装置を用いて結晶成長を行った。
【0043】
(実施例1)
表面が(0001)面からなる厚さ430μm、直径76.2mm(3インチ)のサファイア基板上に、MOCVD装置により厚さ4μmのGaN層を成長させた。これを、直径80mm、厚さ20mmのSiCコーティングしたカーボン製の基板ホルダー上に置き、さらにGaN層の上に、表面が(0001)面からなる厚さ400μm、直径54mmのGaN自立基板を搭載し(図2)、HVPE装置のリアクター100内に図1に示すように配置した。
1050℃まで昇温した後、H2キャリアガスG1と、N キャリアガスG2と、GaとHClの反応生成物であるGaClガスG3と、NH3ガスG4とを、導入管101〜104からそれぞれ供給しながら、GaN層を26時間成長させた。このGaN層成長工程において、成長圧力を1.01×105Paとし、GaClガスG3の分圧を3.07×102Paとし、NH3ガスG4の分圧を1.27×104Paとした。GaN層成長工程終了後、室温まで降温し、厚さが約3.8mmのGaN単結晶厚膜を得た。
【0044】
(実施例2)
表面が(0001)面からなる厚さ430μm、直径60mmのサファイア基板上に、MOCVD装置により厚さ4μmのGaN層を成長させた。これを、直径75mm、厚さ20mmのSiCコーティングしたカーボン製の基板ホルダー上に置き、さらにGaN層の上に、表面が(0001)面からなる厚さ400μm、直径54mmのGaN自立基板を搭載し(図2)、HVPE装置のリアクター100内に図1に示すように配置した。
GaN層成長工程の温度、ガス分圧、成長時間は実施例1と同一とした。GaN層成長工程終了後、室温まで降温し、厚さが約4.0mmのGaN単結晶厚膜を得た。
【0045】
(実施例3)
表面が(0001)面からなる厚さ600μm、直径60mmのGaN自立基板の外周部全周にわたって幅約3mm、高さ400μmの段差をつける加工を施した(図3)。これを、直径75mm、厚さ20mmのSiCコーティングしたカーボン製の基板ホルダー上に置き(図4)、HVPE装置のリアクター100内に図1に示すように配置した。
GaN層成長工程の温度、ガス分圧、成長時間は実施例1と同一とした。GaN層成長工程終了後、室温まで降温し、厚さが約4.0mmのGaN単結晶厚膜を得た。
【0046】
(比較例1)
表面が(0001)面からなる厚さ400μm、直径50.8mm(2インチ)のGaN自立基板を、直径75mmのSiCコーティングしたカーボン製の基板ホルダー上に置き(図5)、HVPE装置のリアクター100内に図1に示すように配置した。
GaN層成長工程の温度、ガス分圧、成長時間は実施例1と同一とした。GaN層成長工程終了後、室温まで降温しGaN単結晶厚膜を得た。
【0047】
(比較例2)
表面が(0001)面からなる厚さ400μm、直径50.8mm(2インチ)のGaN自立基板を、直径30mmのSiCコーティングしたカーボン製の基板ホルダー上に置き(図6)、HVPE装置のリアクター100内に図1に示すように配置した。
GaN層成長工程の温度、ガス分圧、成長時間は実施例1と同一とした。GaN層成長工程終了後、室温まで降温し、GaN単結晶厚膜を得た。
【0048】
(試験例)
実施例1〜3、比較例1および2で得られたGaN結晶の表面状態を目視および光学顕微鏡により観察した。また、結晶断面形状をスライサーで切断後、目視により確認した。さらに、結晶中心部の厚みをマイクロメーターにより測定した。結果を以下の表に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1および実施例2では、周辺部の異常成長や、表面荒れがなく、断面形状が良好な良質のGaN単結晶厚膜が得られた。
実施例3では、最外周に結晶の異常成長が観察されたが、異常成長した結晶の高さは低く、中心部の直径約54mmの範囲では異常成長や表面荒れがない良質のGaN単結晶厚膜が得られた。
比較例1では、基板端部での異常成長が観察され、表面荒れが激しかった。また中心部の膜厚は約2.5mmであり、同一ガス流量、成長時間で成長した実施例1〜3の結晶よりも約1.3〜1.5mm程度薄かった。
また、比較例2でも、基板端部での異常成長が観察され、表面荒れが激しかった。また中心部の膜厚は約2.2mmであり、同一ガス流量、成長時間で成長した実施例1〜3の結晶よりも1.6〜1.8mm程度薄かった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の下地基板を用いてIII族窒化物半導体結晶を成長させれば、第1結晶成長面の周縁部においてIII族窒化物半導体結晶が異常成長するのを抑えることができる。その結果、第1結晶成長面上に表面状態や断面形状が良好なIII族窒化物半導体を成長させることができる。また、本発明のIII族窒化物半導体の成長方法によれば、平坦で均一な厚膜結晶を安価に作製することが可能である。得られた結晶は、発光ダイオード、半導体レーザー等の半導体発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有用である。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例および比較例で用いたHVPE装置の概略断面図である。
【図2】基板ホルダー上に設置した下地基板の概略断面図である(実施例1および2)。
【図3】外周に段差加工を施した種結晶基板の上面図および側断面図である(実施例3)。
【図4】基板ホルダー上に設置した外周に段差加工を施した種結晶基板の概略断面図である(実施例3)。
【図5】基板ホルダー上に設置した種結晶基板の概略断面図である(比較例1)。
【図6】基板ホルダー上に設置した種結晶基板の概略断面図である(比較例2)。
【符号の説明】
【0053】
100 リアクター
101〜104 導入管
105 リザーバー
106 ヒーター
107 基板ホルダー
108 排気管
109 第2結晶成長面を備えた結晶
110 第1結晶成長面を備えた結晶
111 外周に段差加工を施した種結晶基板
112 下地基板
G1 H2キャリアガス
G2 N2キャリアガス
G3 III族原料ガス
G4 V族原料ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1結晶成長面と前記第1結晶成長面と同じ方向に面している第2結晶成長面を有する下地基板であって、前記第1結晶成長面の周縁の50%以上に下向きの段差を介して前記第2結晶成長面が連接していることを特徴とするIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【請求項2】
前記第1結晶成長面の全周縁に下向きの段差を介して前記第2結晶成長面が連接していることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【請求項3】
前記第1結晶成長面が円形であることを特徴とする請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【請求項4】
前記第2結晶成長面が環状であり、円形の前記第1結晶成長面と同心であることを特徴とする請求項3に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【請求項5】
前記第2結晶成長面の幅が0.5mm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【請求項6】
前記段差の高さが0.1〜5mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【請求項7】
前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面が連続している単一部材内に存在することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【請求項8】
前記第1結晶成長面を構成する部材と前記第2結晶成長面を構成する部材が異なっていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【請求項9】
前記第1結晶成長面を構成する材料と前記第2結晶成長面を構成する材料がいずれもIII族窒化物半導体の単結晶からなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【請求項10】
前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面を構成する部材が基礎基板上に形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【請求項11】
前記基礎基板がサファイア単結晶基板またはSiC単結晶基板であることを特徴とする請求項10に記載のIII族窒化物半導体成長用の下地基板。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の下地基板上にIII族窒化物半導体形成用ガスを供給することにより前記下地基板上にIII族窒化物半導体を結晶成長させる工程を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体の成長方法。
【請求項13】
前記下地基板が、結晶成長させるIII族窒化物半導体と同種の単結晶からなることを特徴とする請求項12に記載のIII族窒化物半導体の成長方法。
【請求項14】
前記III族窒化物半導体を厚み5mm以上で結晶成長させることを特徴とする請求項12または13に記載のIII族窒化物半導体の成長方法。
【請求項15】
前記結晶成長をハイドライド気相成長法により行うことを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体の成長方法。
【請求項16】
前記下地基板から前記第2結晶成長面を分離する工程をさらに含むことを特徴とする請求項12〜15のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体の成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−290919(P2008−290919A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139839(P2007−139839)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】