ZnO系半導体素子
【課題】上述した課題を解決するために創案されたものであり、ZnO系半導体と有機物とを能動的な役割に用い、従来とは異なる全く新規な機能を有するZnO系半導体素子を提供する。
【解決手段】ZnO系半導体1上に有機物電極2が形成されており、有機物電極2の上にはAu膜3が形成されている。ZnO系半導体1の裏面には有機物電極2に対向するように、Ti膜4とAu膜5の多層金属膜で構成された電極が形成されている。有機物電極2とZnO系半導体1との接合界面は、pn接合のような状態となっており、これらの間で整流作用が発生する。
【解決手段】ZnO系半導体1上に有機物電極2が形成されており、有機物電極2の上にはAu膜3が形成されている。ZnO系半導体1の裏面には有機物電極2に対向するように、Ti膜4とAu膜5の多層金属膜で構成された電極が形成されている。有機物電極2とZnO系半導体1との接合界面は、pn接合のような状態となっており、これらの間で整流作用が発生する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnO系半導体に有機物の電極を形成したZnO系半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多機能物質として酸化物が注目されており、研究成果が次々と発表されているが、問題点もある。例えば、青色LEDに用いられる窒化物では、いくつか機能の違う薄膜を積層したりエッチングしたりすることにより、特異な機能を発現するデバイスを作製する
ことができるが、酸化物は薄膜形成法がスパッタかPLD(パルスレーザーデポジション)などに限られており、半導体素子のような積層構造を作製しにくい。スパッタは通常結晶薄膜を得るのが難しく、PLDは基本的に点蒸発であるので、2インチ程度であっても大面積化が困難である。
【0003】
酸化物で半導体素子のような構造が作れる手法としてプラズマを使った分子線エピタキシー法(Plasma assisted molecular beam epitaxy :PAMBE)が行われている。これを使った研究として最も注目されているものの一つがZnOである。ZnOを半導体デバイス材料として用いる場合の問題点は、アクセプタードーピングが困難で、p型ZnOを得ることができなかったことにある。
【0004】
ところが近年、非特許文献1や2に見られるように、技術の進歩により、p型ZnOを得ることができるようになり、発光も確認されるようになり、非常に研究が盛んである。また、同じく多機能物質として、応用、研究とも盛んな面白い物質として導電性ポリマーがある。有機材料は印刷技術などと融合させることで非常に簡便にデバイス作製できることもあり、次世代は有機物が電子デバイスの主役になるという声もある。電子デバイスを作るためには電気を通すものが必要でそのためにも導電性ポリマーは有効である。
【0005】
無機物質である半導体と有機物はそれぞれ独自に発展しており、いままであまり接点を持たなかったが近年、これらを融合していく研究が盛んである。有機物、酸化物とも材料が豊富であるため色んな種類のデバイスが作れる可能性があるだけでなく、材料が豊富なため安価に作れることが多く、有機物を使用すれば印刷技術等によりパターニングが出来るので、工程コストも下がる。
【0006】
先に示したZnO系材料は、酸化物結晶としては研究がもっとも進んでいるもののひとつであり、前述の発光特性だけでなく非常に多機能な物質であるため、有機物との融合が提案されている。ただし、ZnO系材料薄膜や基板と有機物の組み合わせでは、電極として受動的に使われることが主で、組み合わせた部分が何か能動的な機能を持つデバイスとして使われた例は非常に少ない。
【特許文献1】特開2005−277339号公報
【非特許文献1】A.Tsukazaki et al.,JJAP 44(2005)L643
【非特許文献2】A.Tsukazaki et al Nature Material 4(2005)42
【非特許文献3】Chi-Yane Chang et al.,Applied Physics Letters 88,173503(2006) “Electroluminescence from ZnO nanowire/polymer compsite p-n junction”
【非特許文献4】R.Konenkamp et al.,Applied Physics Letters 85,6004(2004) “Vertical nanowire light-emitting diode”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、非特許文献3や非特許文献4に開示されたデバイスはあるが、いずれもZnOのナノワイヤーという針状結晶を使ったものである。ナノワイヤーというのは低次元物質系であり、デバイス加工が非常にしにくいうえ、有機物/半導体界面を制御することもできないので、ZnO系材料と有機物とを組み合わせ、かつその界面の物理的状態を能動的にコントロールするデバイスを作製する場合は、基板や薄膜のように2次元的に平坦な拡がりを持つ形状とするのが最もデバイスを形成する上で簡単であり、かつ界面状態を制御するためには必要である。また、デバイス加工の精密度を上げることも簡単にできる。
【0008】
薄膜か基板が基本であれば、有機物は薄膜の上にスピンコート、蒸着、スプレー吹き付けといった簡便な方法で有機物を塗り広げて加工すればよく、現状の薄膜デバイス工程との親和性も良い。また、有機物の形成工程は簡単なものが多く、工程時間が短くなることによるコスト削減効果も大きい。
【0009】
一方、特許文献1にはZnO系材料薄膜や基板上に電極としての有機物である導電性ポリマーを形成する例が示されており、上記従来例のように、ZnOの針状結晶を用いたものではないが、トランジスターに電流を供給する電極として受動的に組み合わされたもので、有機物/半導体界面を制御するような能動的役割を果たすものではない。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、ZnO系半導体と有機物とを能動的な役割に用い、従来とは異なる全く新規な機能を有するZnO系半導体素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、ZnO系半導体に接して有機物電極が形成され、前記ZnO系半導体と有機物電極との間で整流特性を有することを特徴とするZnO系半導体素子である。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、前記有機物電極の仕事関数が前記ZnO系半導体の電子親和力よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のZnO系半導体素子である。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、前記ZnO系半導体の有機物電極と接する側の主面が+C面であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0014】
また、請求項4記載の発明は、前記有機物電極の法線は、前記主面の+c軸から少なくともm軸方向に傾斜していることを特徴とする請求項3記載のZnO系半導体素子である。
【0015】
また、請求項5記載の発明は、前記有機物電極の法線の傾斜角度は5度以下であることを特徴とする請求項4記載のZnO系半導体素子である。
【0016】
また、請求項6記載の発明は、前記ZnO系半導体の有機物電極と接する側の主面がM面又はA面であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0017】
また、請求項7記載の発明は、前記有機物電極の法線は、前記主面のm軸又はa軸から少なくともc軸方向に傾斜していることを特徴とする請求項6記載のZnO系半導体素子である。
【0018】
また、請求項8記載の発明は、前記有機物電極の少なくとも一部は導電性ポリマーで構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0019】
また、請求項9記載の発明は、前記有機物電極の抵抗率が1Ωcm以下であることを特徴とする請求項8記載のZnO系半導体素子である。
【0020】
また、請求項10記載の発明は、前記導電性ポリマーは、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリチオフェン誘導体の中の少なくとも一種から構成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9記載のZnO系半導体素子である。
【0021】
また、請求項11記載の発明は、前記導電性ポリマーは、キャリアドーパントを含むポリアニリン誘導体、キャリアドーパントを含むポリピロール誘導体、キャリアドーパントを含むポリチオフェン誘導体の中の少なくとも一種から構成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9記載のZnO系半導体素子である。
【0022】
また、請求項12記載の発明は、前記有機物電極は、紫外光領域で透光性を有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0023】
また、請求項13記載の発明は、前記有機物電極が正孔伝導体からなることを特徴とする請求項12記載のZnO系半導体素子である。
【0024】
また、請求項14記載の発明は、前記ZnO系半導体素子の有機物電極側に負電圧を印加する逆バイアス状態で3ボルト印加し、光の照射がない状態で、逆方向電流が1ナノアンペア以下であることを特徴とする請求項12又は請求項13のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0025】
また、請求項15記載の発明は、前記ZnO系半導体は、ZnO系基板のみで構成されていることを特徴とする請求項12〜請求項14のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0026】
また、請求項16記載の発明は、前記ZnO系半導体素子は、フォトダイオードであることを特徴とする請求項12〜請求項15のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0027】
また、請求項17記載の発明は、前記ZnO系半導体は、ZnO系基板上に少なくともZnO系薄膜が1層形成された積層体で構成され、前記有機物電極がショットキー型のゲート電極として作用し、トランジスタ機能を有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0028】
また、請求項18記載の発明は、前記積層体は、ZnO系基板上にZnO系薄膜が2層以上積層されており、ZnO系基板に近い側からMgXZnO(0≦X<1)、MgYZnO(0<Y<1)の順に積層された薄膜積層構造(X<Y)を少なくとも1組は備えていることを特徴とする請求項17記載のZnO系半導体素子である。
【0029】
また、請求項19記載の発明は、前記薄膜積層構造におけるMgXZnOとMgYZnOの界面に発生する電子蓄積領域をチャネル領域とする請求項17又は請求項18のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ZnO系半導体に接して有機物電極を形成することにより、ZnO系半導体と有機物電極との界面にポテンシャル障壁を形成し、エネルギーバンドの関係から、ZnO系半導体と有機物電極との間には整流作用が発生する。したがって、ダイオード等の新規なデバイスに応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は本発明によるZnO系半導体素子の断面構造の一例を示す。
【0032】
ZnO系半導体1上に有機物電極2が形成されており、有機物電極2の上にはワイヤーボンディング等のために用いられるAu膜3が形成されている。一方、ZnO系半導体1の裏面には有機物電極2に対向するように、Ti膜4とAu膜5の多層金属膜で構成された電極が形成されている。ZnO系半導体1は、ZnO又はZnOを含む化合物から構成されるものであり、具体例としては、ZnOの他、IIA族元素とZn、IIB族元素とZn、またはIIA族元素およびIIB族元素とZnのそれぞれの酸化物を含むものを意味する。一例として、ZnO系半導体1は、n型ZnO基板で構成される。
【0033】
一方、有機物電極2の一部は導電性ポリマーで構成されている。導電性ポリマーとしては、例えば、図14(b)に示されるポリチオフェン誘導体(PEDOT:ポリ(3,4)-エチレンジオキシチオフェン)、図15に示されるポリアニリン誘導体、図16(a)に示されるポリピロール誘導体等が用いられる。
【0034】
具体的には、上記の各誘導体に伝導特性等の電気特性を制御するための物質をドーピングした物質が用いられており、例えば、ポリチオフェン誘導体(PEDOT)に、図14(a)に示されるポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたものや、ポリピロール誘導体に図16(b)に示されるTCNAをドーピングしたものを用いる。
【0035】
図1では、Au膜3を直流電源の+側にAu膜5を直流電源の−側に接続している。これは、後述するように、図1のZnO系半導体素子がダイオードのように整流作用を有するのであるが、そのときの順方向バイアスを加えた状態を示すものである。したがって、有機物電極2は、pn接合でいうとp電極として、Ti膜4はn電極として機能する。
【0036】
図3は上記のように形成されたZnO系半導体素子の作用を説明するための図である。図3は、ZnO系半導体1をn型ZnO基板、有機物電極2をPEDOT:PSSで構成した場合のZnO系半導体1と有機物電極2との接合界面におけるエネルギーバンド図を示す。
【0037】
図3(a)は、ZnO系半導体素子にかかるバイアスが0の場合を、図3(b)は、バイアスが順方向の場合を、図3(c)はバイアスが逆方向の場合を示す。また、EFOは有機物電極2のフェルミ準位を、EFZはZnO系半導体1のフェルミ準位を、VLは真空準位を、φOは有機物電極2の仕事関数を、φZはZnO系半導体1の仕事関数を、ECは伝導帯の準位を、EVは価電子帯の準位を、χZはZnO系半導体1の電子親和力を表している。
【0038】
図3(a)のようにバイアスが0の場合、ZnO系半導体と有機物電極とのフェルミ準位は一致し、平衡状態になっており、ZnO系半導体から有機物電極への電子の流れに対する障壁(ビルトインポテンシャル)φO−φZと、有機物電極からZnO系半導体への電子の流れに対するショットキー障壁φO−χZを生じる。
【0039】
一方、図1のように、順方向バイアスを加えると、φO−φZを打ち消す向きであるので、図3(b)に示すように、ZnO系半導体側の障壁がqVだけ低くなり、有機物電極側の障壁は変わらないので、ZnO系半導体から有機物電極への電子流が増える。他方、図1の直流電源を逆方向に接続した場合は(逆方向バイアス)、図3(b)とは逆にZnO系半導体側の障壁がqVだけ高くなり、有機物電極側の障壁は変わらないので、図3(c)のようになる。したがって、ZnO系半導体から有機物電極への電子流がほとんど発生しない。
【0040】
以上のように、ZnO系半導体1と有機物電極2とが、φO>χZの関係で接合すると、pn接合と同様の整流作用が発生する。このように、本発明では、有機物電極2を有機物/半導体界面を制御するような能動的役割を果たす電極として構成している。図4、5は、ZnO系半導体1と有機物電極2と間のIV特性を示したものである。図4のX1と図5のX3は、図1の構成でZnO系半導体1をn型ZnO基板、有機物電極2をPEDOT:PSSで構成した場合のIV特性を示し、図4のX2と図5のX4は、比較のために、図1の構成における有機物電極2を、一般的にショットキー電極としてよく使われるPtに置き換えた場合のIV特性を示す。
【0041】
図4、5のいずれも電圧Vが0を境にして+側電圧が順方向バイアス(以下、順バイアスという)となり、−側電圧が逆方向バイアス(以下、逆バイアスという)となる。図4からもわかるように、X1及びX2ともに、逆バイアスを加えているときには、ほぼ一定の微電流が流れているが、順バイアスが加えられると、電流が急激に増加していくことがわかり、X1及びX2ともに整流特性を有している。しかし、本発明の構成によるX1の方が、一般的な金属電極とn型ZnO基板とのショットキー接合よりも、逆バイアス電圧での漏れ電流は非常に小さく、他方、順バイアスでの電流量は大きく伸びていくことがわかる。
【0042】
また、図5は、図4のX1、X2のような測定データを測定してX3、X4の曲線を描き、これらのグラフの目盛りを変えてY3、Y4の曲線を描いたものである。左側に示される縦軸の目盛り(1.0×10−3〜−0.6×10−3Aの範囲で表されている)で表示したグラフが、Y3(一点鎖線)、Y4(点線)であり、右側目盛りのlogIから左側目盛りの線形目盛りにX3を変換したものがY3に、X4を変換したものがY4に対応する。
【0043】
この図からわかるように、一般的な金属電極とn型ZnO基板とのショットキー接合を示すY4のグラフでは、逆バイアス時から順バイアス時にかけて流れる電流の大きさが正方向にも負方向にも増大しているのに対して、本発明の構成によるY3のグラフでは、逆バイアス時には、ほとんど電流が流れず、順バイアスになると、印加電圧の増加に伴って電流が増大しており、整流特性を示す。
【0044】
次に、図2は、図1と基本的には同じ構成であるが、特に負電極の構成が異なる構造を示す。図1と同じ符号を付したものは同じ構成を示す。図2(a)では、ZnO系半導体1の裏面に負電極を形成するのではなく、ZnO系半導体1の同一面側に正電極と負電極を形成し、負電極は有機物電極2とAu膜3で構成された積層体の周りを取り囲むように環状に形成されている。また、図2(b)は、図2(a)の構造に支持基板となる基板6を取り付けた構成としている。
【0045】
図1のZnO系半導体素子で、ZnO系半導体1にn型ZnO基板、有機物電極2にPEDOT:PSSを用いた場合製造工程の一例を図6に示す。まず、n型ZnO基板を1100℃程度の温度で加熱処理し、アセトンやエタノールの溶液中で超音波洗浄を行った後、UV−オゾン照射で親水処理を行う(図6(a))。次に、図6(b)のように、スピンコート法によりn型ZnO基板上に、PEDOT:PSSを塗布して形成し、200℃程度の温度でベーキングする。その後、図6(c)のようにAuメタルを蒸着してAu膜3を作製し、次に、レジスト11を図6(d)のように形成し、Ar+プラズマ等によるドライエッチングによりメサ構造を図6(e)のように形成する。アセトン溶液中で超音波洗浄を行ってレジスト剥離した後(図6(f))、Tiメタルを蒸着してTi膜4を、さらにAuメタルを蒸着してAu膜5を形成して図1のZnO系半導体素子が完成する。
【0046】
ところで、ZnO系半導体は、GaNと同様、ウルツァイトと呼ばれる六方晶構造を有する。そして、C面やa軸という表現は、いわゆるミラー指数により表すことができ、例えば、C面は(0001)面と表される。図7は、ZnO系半導体結晶の模式的構造図を示すもので、斜線を付した面がA面(11−20)であり、M面(10−10)は六方晶構造の柱面を示す。例えば{11−20}面や{10−10}面は、結晶のもつ対称性により、(11−20)面や(10−10)面と等価な面も含む総称であることを示している。また、a軸は図中のa1、a2、a3のことを表し、A面の垂直方向を、m軸はM面の垂直方向を、c軸はC面の垂直方向を示す。
【0047】
ZnO系半導体1上に有機物電極2を形成する場合には、ZnO系半導体1において有機物電極2を形成する側の結晶面をどのようにするかで、素子の特性が異なってくるので結晶面の選び方が重要になる。まず、ZnO系半導体1の+C面に有機物電極2を形成する場合と−C面に有機物電極2を形成する場合とでは、素子の安定性に違いが生じる。図8は、図1の構成において、ZnO系半導体1の+C面に有機物電極2を形成した場合と、−C面に有機物電極2を形成した場合とで、電圧−電流特性を比較したものである。この場合もZnO系半導体1にn型ZnO基板、有機物電極2にPEDOT:PSSを用いた。図8、9に表されているように、電流−電圧特性でいうと、どちらも同じようなものである。
【0048】
しかしながら、ZnO系半導体の−C面は+C面に比べて、酸やアルカリに弱く、加工も行いにくい。特に有機物電極2にPEDOT:PSSを用いた場合には、図14の構造式からもわかるようにPH2〜3程度の酸性を示すので、−C面では、若干のエッチングにより素子の特性が不安定になる現象が見られた。したがって、+C面上に有機物電極2を形成することが望ましい。
【0049】
上記のように、有機物電極2を形成するZnO系半導体1の主面については+C面が良いことがわかったが、実際には+C面ジャスト基板はバルクからの切り出しを行う限り、安定して作製できないので、半導体主面法線又は基板主面法線がc軸から少なくともm軸方向に傾斜した面を主面とするZnO系半導体1が用いられる。
【0050】
ZnO系材料層上にZnO系薄膜を成長させる場合には、通常C面(0001)面が行われるが、C面ジャスト基板を用いた場合、図10(a)のようにウエハ主面の法線方向がc軸方向と一致する。しかし、バルク結晶は、その結晶がもつ劈開面を使用しないかぎり、図10(a)のように法線方向Zがc軸方向と一致することがなく、C面ジャスト基板にこだわると生産性も悪くなる。また、C面ジャストZnO系基板上にZnO系薄膜を成長させても膜の平坦性が良くならないことが知られている。
【0051】
図17は、基板主面の法線Zが、基板結晶軸のc軸から角度Φ傾斜し、かつ法線Zを基板結晶軸のc軸m軸a軸の直交座標系におけるc軸m軸平面に射影(投影)した射影(投影)軸がm軸の方へ角度Φm、c軸a軸平面に射影した射影軸がa軸の方へ角度Φa傾斜している場合を示す。すなわち、ZnO系半導体1(ウエハ)の主面の法線方向をc軸方向と一致させずに、基板主面の法線Zが、基板結晶軸のc軸から傾き、オフ角を有するようにする。
【0052】
例えば、図10(b)に示されるように、主面の法線Zがc軸m軸平面内に存在し、かつ法線Zがc軸からm軸方向にのみθ度傾斜しているとすると、基板1の表面部分(例えばT1領域)の拡大図である図10(c)に表されるように、平坦な面であるテラス面1aと、法線Zが傾斜したことにより生じる段差部分に等間隔で規則性のあるステップ面1bとが生じる。
【0053】
ここで、テラス面1aがC面(0001)となり、ステップ面1bはM面(10−10)に相当する。図のように、形成された各ステップ面1bは、m軸方向にテラス面1aの幅を保ちながら、規則的に並ぶことになる。すなわち、テラス面1aと垂直なc軸と基板主面の法線Zとはθ度のオフ角を形成する。また、ステップ面1bのステップエッジとなるステップライン1eは、m軸方向と垂直の関係を保ちながら、テラス面1aの幅を取りながら並行に並ぶようになる。
【0054】
このように、ステップ面をM面相当面となるようにすれば、主面上に結晶成長させたZnO系半導体層においては平坦な膜とすることができる。主面上にはステップ面1bによって段差部分が発生するが、この段差部分に飛来した原子は、テラス面1aとステップ面1bの2面との結合になるので、テラス面1aに飛来した場合よりも原子は強く結合ができ、飛来原子を安定的にトラップすることができる。
【0055】
表面拡散過程で飛来原子がテラス内を拡散するが、結合力の強い段差部分や、この段差部分で形成されるキンク位置(図11参照)にトラップされて結晶に組み込まれることによって結晶成長が進む沿面成長により安定的な成長が行われる。このとき、ステップ面1bが熱的に安定であることが望ましく、それにはM面が優れている。このように、C面が少なくともm軸方向に傾斜した基板上に、ZnO系半導体層を積層させると、ZnO系半導体層はこのステップ面1bを中心に結晶成長が起こり、平坦な膜を形成することができる。
【0056】
すなわち、m軸方向にステップエッジが規則的に並んでいる状態になることが、平坦な膜を作製する上で必要なことであり、ステップエッジの間隔やステップエッジのラインが乱れると、前述した沿面成長が行われなくなるので、平坦な膜が作製できなくなる。したがって、平坦な膜となる条件としては、薄膜主面法線又は基板主面法線がc軸からm軸方向にオフ角を有することが必要となる。しかし、図10(b)で傾斜角度θを大きくしすぎると、ステップ面1bの段差が大きくなりすぎて、平坦に結晶成長しなくなる。したがって、その傾斜角度は5度以下とすることが望ましい。
【0057】
上記のようにZnO系半導体層上に平坦なZnO系半導体膜を形成することは、例えば、図13(b)のように、ZnO系半導体としてのn型MgZnO層11上にp型MgZnO層9を結晶成長させる場合に有効であるし、また、ZnO系半導体層の主面が上記のようなステップ構造を有していない場合は、その上に形成される有機物電極2の平坦性にも影響を与え、素子特性への影響も考えられる。
【0058】
次に、ZnO系化合物は、圧電体であるため、サファイア基板とZnO層、ZnO層とMgZnO系化合物層との積層などのようにヘテロ接合が形成されていると、その基板とZnO系化合物層間または積層される両半導体層間で格子定数の差に基づく歪みが発生し、その歪みに基づいてピエゾ電界(応力により発生する電界)が発生する。これは、ZnOのような六方晶系の結晶では、c軸方向に対称性がなく、C面成長のエピタキシャル膜には表裏が生じるというウルツ鉱構造のためである。このピエゾ電界は、キャリアにとって、新たに加えられたポテンシャル障壁になり、ダイオードなどのビルトイン(built-in)電圧を上昇させることにより、駆動電圧を上昇させる。
【0059】
したがって、図13(a)の構成では、ZnO基板8とn型MgZnO層11との間にピエゾ電界が発生して素子の駆動電圧が上昇することが考えられる。また、図13(b)の構成とした場合には、n型MgZnO層11とp型MgZnO層9との間でピエゾ電界が発生する。
【0060】
上記ピエゾ電界の影響を取り除くためには、界面応力により電荷が発生する面を素子に印加する電界の方向と平行になるように(ピエゾ電界が素子に印加する電界と垂直になるように)、ZnO系化合物半導体層を形成又は積層することにより、ピエゾ電界による問題を解決することができる。
【0061】
ピエゾ電界による問題を解決するために、ZnO系半導体1は、MgxZn1−xO(たとえばx=0のZnO)基板等から構成されており、図12(b)に示されるように、主面がA面またはM面から(有機物電極2の法線方向から)−c軸方向に傾斜した面となるように研磨されている。傾斜角θは0.1〜10°程度、より好ましくは0.3〜5°である。
【0062】
図12(a)に示されるのは、薄膜又は基板の主面をA面またはM面とし、主面法線がm軸又はa軸と一致しているZnO系半導体1の模式図である。このような半導体を用いると前述のように、界面応力により電荷が発生する面、すなわち+C面を素子に印加する電界の方向と平行になるように(ピエゾ電界が素子に印加する電界と垂直になるように)構成できるので、ピエゾ電界の問題を解決することができ、駆動電圧の上昇を防ぐことができる。
【0063】
一方、図12(a)に示されるようなA面またはM面ジャスト基板を形成しようとしても、実際には、完全なフラットな面を形成することができ、図12(b)のように、基板主面法線Zをm軸又はa軸から少なくともc軸方向に傾斜させるようにする。図12(b)の基板表面部分T1の拡大図である図12(c)に示されるように、基板主面法線をa軸又はm軸からc軸方向に傾斜させることで、主面上にはテラス面1aと、傾斜させることにより生じる段差部分に等間隔で規則性のあるステップ面1bが形成される。表面上の段差により生じるステップ面1bとその他の面であるテラス面1aが生じ、このステップ面を+c軸方向となるようにすることにより、p型層のキャリア濃度も向上させることができる。
【0064】
また、傾斜方向を−c軸方向とすることにより、ステップ面1bは常に+c軸配向した+C面が露出することになる。このような状態で、結晶成長させることにより、図10で説明したのと同様な理由で、沿面成長が起こり、安定的な成長が行われて平坦な膜を形成することができる。
【0065】
図13は、図1の基本的な構造を変形した例を示す。図1と同じ符号については同じ構成を表す。図13(a)は、n型ZnO基板8上に形成されたn型MgxZn1−xO(0≦x≦0.5)層11を、有機物電極2と接するZnO系半導体として用い、ドーピング濃度を変化させたものである。この製造方法を以下に説明する。
【0066】
n型ZnO基板8を薄い塩酸で処理し、加熱した後、例えばキャリア濃度が17乗以下のn型MgZnO層11を成長させる。Mgはバンドギャップを広げるために添加している。n型MgZnO層11の薄膜形成方法として、MBE(分子線エピタキシー法)を用いた。MBE以外に、CVD(化学気相成長法)、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、PLD(パルスレーザー堆積法)なども適用可能である。
【0067】
成長用基板にはn型ZnO基板8の+C面を使用した。他にもZnO基板の酸素極性面、M面も使用可能である。ZnO基板以外には、サファイア基板(C面、A面、R面)、ScAlMgO4基板なども使用可能であるが、結晶性の良いZnOを作製するためには、ZnOかScAlMgO4が望ましい。成長用基板は予備加熱室で250℃に20分間保持される。それから成長室に搬送され800℃に加熱された後、成長温度に保たれる。成長温度は300〜1000℃である。主原料はZn(純度99.99999%)と酸素ガス(純度99.99999%)を用いた。窒素ガスをp型のドーパントの原料として用いた。原料に用いるガスとして、他にオゾン(O3)、二酸化窒素(NO2)、一酸化二窒素(N2O)、一酸化窒素(NO)なども適する。
【0068】
ZnはKセルのルツボ内で、250〜350℃に加熱され、成長用基板表面に供給される。Mgを使用する場合は、Znと同様にKセルのルツボ内で300〜400℃に加熱され、成長用基板表面に供給される。酸素ガスはそれぞれのラジカルセルを通って、成長用基板表面に到達する。ラジカルセル内では高周波が印加され、ガスはプラズマ状態になり化学活性の高い状態になる。高周波の周波数は13.56MHz、出力は300〜400Wを適用したが、それ以外の周波数(2.4GHz)や出力(50W〜2kW)も適用可能である。酸素ガスは0.3〜3sccm、窒素ガスの流量は0.2〜1sccmとした。その後は、図6の製造方法と同様に、各層を形成する。
【0069】
次に、図13(b)は、図13(a)の構造に、p型MgZnO層9をn型MgZnO層11に接するように形成し、有機電極2の構造を少し変形させて、リーク電流を小さくしたものである。MgZnO層の製造方法は、図13(a)と同様であり、p型MgZnO層9を成膜した後、エッチングにより開口部を形成する。その後は図6と同じ工程で作製するが、有機物電極2がp型MgZnO層9の一部に乗っかるようにする。こうすることでリークを小さくすることができる。なお、p型MgZnO層9のようなp型ZnOを形成するためには、+C面が望ましい。なお、−C面でも非特許文献2に示された方法で作製することができる。
【0070】
以上説明したZnO系半導体素子の一例として、フォトダイオードを構成することができる。有機物電極2が紫外領域で透光性を有するものを用いる。ここで、紫外領域で透光性を有するとは、有機物電極2に光を照射したときに、光の400nm以下の波長領域で70%以上の透過率を有することを意味する。具体的には、有機物電極2aをPEDOT:PSSで構成し、その厚みを50nmとして、図18のZnO系半導体素子を作製した。ZnO系半導体1には、ZnO基板を用い、ZnO基板上にPEDOT:PSSを形成し、このPEDOT:PSS上にAu膜3を、ZnO基板の裏面に、順にTi膜4、Au膜5を形成した。図18は、ほぼ図1の構成と同じであるが、受光面積を大きくするために、有機物電極2aをZnO系半導体1の表面全面に渡って積層している。また、図18では、図1と異なり、直流電源の正負を逆にして逆バイアスとしている。
【0071】
有機物電極2aに用いたPEDOT:PSSには、図19のような性質がある。図19(a)は、酸化物であるサファイア基板の光の透過率、反射率とPEDOT:PSSの光の透過率、反射率とを比較したものである。同様に、図19(b)は、波長0〜2500nmまでの透過率と反射率を示したものである。すなわち、図19(a)は、図19(b)の波長範囲のうち、0〜800nmの範囲を拡大して示した図となっている。
【0072】
横軸は光の波長を、向かって左側の縦軸は光の透過率を、向かって右側の縦軸は、光の反射率を示す。また、図の上側に描かれている曲線は透過率曲線を、下側に描かれている曲線は、反射率曲線を表す。SAはサファイア基板を示しており、その他の曲線は、PEDOT:PSSの曲線を表す。このように、PEDOT:PSSは、波長400nm以下、特に、波長300nm〜400nmでは、80%以上の透過率を示しており、透光性に優れていることがわかる。一方、波長300nm〜400nmでの反射率は20%以下となっている。
【0073】
次に、図20(a)は、予備的な実験の図で、図18の構成のZnO系半導体素子のIV測定を行いながら、パルス状に光を照射した場合に発生する電圧(バイアス)−電流(光電流)の特性を示している。縦軸はZnO系半導体素子に流れる光電流の絶対値を、横軸はZnO系半導体素子に加える電圧を表わす。また、Aの領域がパルス状に光を照射したときの電流変化を示している。一方、図20(b)は、光を照射しない場合の暗電流特性を示す。図20(a)、(b)で、0ボルトを境にして、プラス側が順方向バイアス、マイナス側が逆方向バイアスを表わす。これらの図からわかるように、逆バイアス電圧での漏れ電流は非常に小さく、微弱な光でも反応することができる。また、逆バイアス時に、照射される光の強度に応じて電流が流れることがわかる。
【0074】
また、図21は、パルス状ではなく、光を連続して照射した場合の、電圧(バイアス)−電流(光電流)の特性を示している。図21(a)の縦軸は図18のZnO系半導体素子に流れる電流の絶対値を、横軸はZnO系半導体素子に加える電圧を表わす。図21(a)を見ると、光が照射されたときの特性曲線Pは、特にバイアスの0付近から−1Vにかけて電流が増大していることがわかる。図21(b)は、図21(a)におけるバイアス電圧の−0.5Vから+0.5Vの範囲を拡大したものであるが、縦軸は光電流の極性を持った値であり、絶対値ではないことに注意を要する。図21(b)では、光が照射されたときの特性曲線Pの電流値は、光を照射しない場合の特性曲線と比較して、マイナス側に0.5×10−8A程度増大していることがはっきりとわかる。
【0075】
このときの、有機物電極2とZnO基板(ZnO系半導体1)との界面付近の状態を示すのが、図23である。逆バイアスがかかっていると、有機物電極2とZnO基板とはショットキー接合しているために、ショットキー障壁が現われ、有機物電極2とZnO基板との界面には空乏層が広がっている。この空乏層付近に光が照射されると、図のように、電子は伝導帯に励起されて、価電子帯に正孔(ホール)が残る。電子は伝導帯の中で加速されて、図の矢印のようにエネルギーレベルの低い方(正極側)に流れ、正孔は逆方向(負極側)に流れる。したがって光電流の流れは、逆バイアス時の正極から負極に向かって流れる逆方向電流となる。すなわち、有機物電極2は正孔伝導体としての役割を果たす。
【0076】
なお、図24は、光を照射していない場合の、電圧−電流特性のデータを示す。逆バイアス電圧を−30V程度にしても、電流は極めて微弱であり、逆バイアス方向の耐圧は、十分に備わっていることがわかる。
【0077】
また、ZnOとPEDOT:PSSとの接触界面が、ショットキー接合となることが「M.Nakano et al.,Applied Physics Letters 91,142113(2007) “Schottky contact on a ZnO(0001) single crystal with conducting polymer”」の論文においても確認されたところである。
【0078】
図22は、光を図18のZnO系半導体素子に直接照射するのではなく、フィルターを通して照射した結果を示す。フィルターは、周波数ハイパスフィルターを用いた。すなわち、波長で言うと、光の短い波長成分を通すフィルターを用いた場合の、光照射時に流れている逆方向電流を測定した。
【0079】
図22(a)は、縦軸に逆方向電流(光電流)の絶対値を、横方向にフィルターの透過率を示す。また、λはフィルターがなく、光をそのまま照射した場合を、光の波長をλXとすると、λ1は、λX>380nmの波長を通過させるフィルターを、λ2は、λX>400nmの波長を通過させるフィルターを、λ3は、λX>420nmの波長を通過させるフィルターを、λ4は、λX>440nmの波長を通過させるフィルターを用いた場合の曲線を示す。
【0080】
このように、光の短い波長成分が除外されるほど、電流値が下がっている。検出感度は、波長400nm以下の成分が入るほど、フィルターがない状態のλに近づいている。一方、図22(a)を基に、横軸のフィルターの特定の透過率に対する各λ、λ1〜λ4についての電流値をプロットして作成したのが、図22(b)である。例えば、図22(a)の透過率100%に対する電流値はλ、λ1〜λ4について見ると、5個あるが、それを、λ、λ1〜λ4の各フィルターの通過波長の閾値を横軸(単位:nm)にとり、縦軸に電流値をとって示したのが、T1である。同様に、図22(a)の横軸の透過率80%の値をとってプロットしたのがT2、透過率60%の値をとってプロットしたのがT3、透過率40%の値をとってプロットしたのがT4、透過率20%の値をとってプロットしたのがT5、透過率0%の値をとってプロットしたのがT6である。
【0081】
図22(b)を見れば明らかなように、短い波長領域を透過させてZnO系半導体素子に入射させるほど、電流値が急激に上昇しており、とりわけ紫外光領域、すなわち400nm以下の波長成分を感度良く検出するには最適な構成であることがわかる。
【0082】
次に、前述したZnO系半導体素子をHEMT(高速電子移動度トランジスタ)に適用した例を以下に説明する。MgZnOとZnO界面で2次元電子ガスが発生することが知られているが、その電子移動度が絶対温度0.5ケルビンにおいて15000cm2V−1s−1を越えるような値をもつことを我々は見出した。この値は、通常作製されるAlGaN/GaN界面の2次元電子ガスに匹敵するものであり、GaNで盛んに研究されている高耐圧型のHEMTと同等のものをZnO系半導体を用いても十分作製することができる。
【0083】
ZnOは、電子親和力が約4.2V程度と、Siや殆どのIII−V族半導体より深い。金属の仕事関数は、およそ4〜5eV付近に集中し、ZnOの伝導帯底(CBM:Conduction Band Minimum)とほぼ同じであるため、ZnOは、金属とのショットキー接触がとりにくく、ZnOのドナー濃度NDが非常に小さいときに、かろうじてショットキー接触させることができる程度であった。しかし、有機物のうち、PEDOT:PSS等を用いると、ZnOのドナー濃度NDが17乗程度のオーダーになっても、ショットキー接触させることができ、ZnO系半導体にゲート電極としての有機物電極を用い、かつZnO系半導体にMgXZnO(0≦X<1)とMgYZnO(0<Y<1)の積層構造によって発生する2次元電子ガスを利用すれば、HEMTを構成することができる。
【0084】
まず、図25は、ZnO/MgZnO/ZnOの積層構造に発生する圧電効果を示したものである。点線は、フェルミ準位を、E1は、伝導帯の最低エネルギー部(Conduction Band Minimum:CBM)を、E2は電子濃度を示す。MgZnOはMg組成比率20%、ドナー濃度NDが2×1018cm−3を用い、これを厚み10nmでドナー濃度NDが1x1017cm−3のZnOで挟んだ積層構造とした場合のバンドプロファイルシミュレーションである。この程度のドナー濃度を有するZnOは、意図的にドープを行わなくても、意図しない不純物や真性欠陥(格子間Znなど)によって発生する典型的な値である。図25(a)のように対称的に双峰のピークが現われていたが、図25(b)に示すように、一方のピークが非常に大きくなっており、圧電効果が示されている。
【0085】
図26は、MgZnO/ZnOの接合界面における面電荷密度(Sheet charge density)とMgZnOのMg組成比率との関係を示す。横軸がMg組成比率、縦軸が面電荷密度を表す。図中のΔPspの曲線(●を繋いだ曲線)は自発分極差に由来するものを、Ppiezoの曲線(点線の曲線)は圧電効果によるピエゾ分極に由来するものを示す。また、ΔPsp−Ppiezoの曲線(実線の曲線)は、上記自発分極とピエゾ分極に関する2つの曲線の差を示している。ΔPspとPpiezoの曲線が上下入れ替わっているところを見るとMg組成比率が0.05(5%)程度の値になっている。したがって、ZnOのpiezo電場テンソルの値には幅があるため、断言はできないが、5%当たりでΔPsp−Ppiezoの符合の逆転が起こると考えられる。これによって何か違う現象が起こるとすれば、Mg組成比率5%程度が境界となるはずである。
【0086】
MgZnO/ZnOの接合界面では、圧縮歪をかけるとピエゾ分極は、自発分極の差を打ち消す方向に働く。しかし、図26の説明を考慮すると、Mg組成比率が約5%以下となるようなMgZnOを用いない場合は、自発分極の方が変化が大きく、自発分極の差を打ち消すほど大きなピエゾ分極は発生しない。したがって、ほとんどの場合、MgZnO/ZnOの界面には、2次元電子ガス領域(電子蓄積層)が形成される。
【0087】
図27(a)は、Mg組成比率が約5%を越える大きい値のMgZnOを用いて、+C面成長のZnO/MgZnO/ZnO/MgZnOの積層構造とし、横方向から圧縮歪を加えたときの分極差の方向と大きさを示す図である。Pspが自発分極、Ppeがピエゾ分極、σがヘテロ界面における電荷密度を表わす。他方、図27(b)は、Mg組成比率が約5%以下の小さい値のMgZnOを用いて、+C面成長のZnO/MgZnO/ZnO/MgZnOの積層構造とし、横方向から圧縮歪を加えたときの分極差の方向と大きさを示す図である。なお、図27(a)、(b)の積層体の右側に描かれている折れ線は、左側の折れ線が結晶歪みがないときの分極差の大きさを、右側の折れ線は圧縮歪を加えて結晶歪みが発生したときの分極差の大きさを示している。このように、Mg組成比率が極めて小さいMgZnOを用いると、図27(b)に示すように、圧縮歪を加える前後で、分極差の大きさやパターンが変わり、2次元電子ガスの発生にも影響を与えると考えられる。
【0088】
有機物電極にPEDOT:PSSを用い、PEDOT:PSS/MgZnO/ZnOの積層構造のZnO系半導体素子について、CV(容量−電圧)測定とIV(電流−電圧)測定を行った。MgZnOやZnOについては、+C面が成長面になるようにした。図28(a)は、CV測定の結果であり、PEDOT:PSS/MgZnOにおけるドナー濃度ND(左側縦軸)と深さ方向の距離(横軸)との関係及び、右側縦軸のD値(D value)と深さ方向の距離(横軸)との関係を示す。D値とは、通常使用されているように、インピーダンスZの逆数1/ZをG+iBとしたときに、D=G/|B|を表わす。ここで、MgZnOのMg組成比率は5.1%、測定周波数は1MHとした。また、黒丸のドットが測定値を表わしている。
【0089】
深さ100nm程度の位置がPEDOT:PSS/MgZnOの界面を表わすが、この界面でドナー濃度曲線が湾曲していることがわかる。また、CV測定が行えるということは、容量を測定できる空乏層が形成できているということを示している。図28(b)は、IV測定の結果を示し、横軸は電圧を、縦軸は電流を表わす。この図からわかるように、PEDOT:PSSとMgZnOとの間は良好なショットキー接触となっていることがわかる。
【0090】
次に、上記ZnO系半導体素子のMgZnO/ZnOのヘテロ界面での状態を示すのが図29(a)である。縦軸は2次元電子移動度(cm2V−1s−1)を、横軸は測定温度(単位は絶対温度ケルビン)を示す。これは、図29(b)に示すように、ZnO基板上にZnO薄膜をエピタキシャル成長させ、その上に、Mg0.11ZnOを成長させて、Mg0.11ZnO/ZnOのヘテロ界面でのホール(Hall)効果を測定することにより求めた。ヘテロ界面における2次元電子ガスの伝導特性は、界面の出来栄え、すなわち上下結晶の純度を反映している。
【0091】
図29(a)より、MgZnO/ZnOのヘテロ界面における2次元電子ガスの電子移動度は、1.4×104cm2V−1s−1にも達することがわかる。図30(b)は、図29(b)の構成において、MgZnO/ZnOの量子ホール効果の測定を行うための構成を示し、図30(a)は、図30(b)の構成による量子ホール効果の測定結果を示す。図30(a)の向かって左側の縦軸が縦抵抗Rxxを示し、向かって右側の縦軸がホール抵抗Rxyを表わす。また、横軸が磁場強度を示す。
【0092】
図30(b)で、50は、図29(b)に記載されたMg0.11ZnO/ZnO/ZnO基板の積層体を示し、50以外の部分はZnO薄膜までエッチングされている。また、51、52、53は、測定用電極を、54、55は印加用電極を示している。図に示された矢印のように、電極54から電極55の方向に電流を流して、電極51と電極52との間の電圧を測定すると、電極51、52間の抵抗が測定でき、これが縦抵抗Rxxである。一方、図のように、磁場Bを発生させると、電極51と電極53との間にホール起電圧が発生する。このとき、電極51、53間の抵抗が測定でき、これがホール抵抗Rxyとなる。測定条件は、測定温度が0.5ケルビン、電極54、55間の電流は、19Hzの交流電流を10nAとした。
【0093】
このようにして、測定された図30(a)の結果を見ると、MgZnO/ZnO界面の電子が2次元のときに特有な特性となっていることがわかる。電子の存在範囲が2次元に制限されていると、磁場Bが印加されたとき、図29(b)のように、電子は平面内で回転運動を行う。回転している間に一度も散乱されない綺麗な状態になると量子化が起こり、電子は離散的なエネルギーしか取れない状態になる。その離散的な局在準位に電子が留まる間、ホール抵抗Rxyは変動しなくなるので、図のように、量子数毎に一定の値を維持する領域が発生する。また、縦抵抗Rxxについては、局在準位の中心に位置する非局在準位も離散的になるので、図のように振動する。
【0094】
図31は、図29(b)の構成における2次元電子ガスの2次元性を示す図である。縦軸は縦抵抗(ρXX)を、横軸は磁場強度を示す。図のB⊥cは、MgZnO及びZnOのc軸方向と垂直な磁場成分を、B//cは、c軸方向と平行な磁場成分を示す。測定時の温度は2ケルビンである。
【0095】
図31のように、2次元電子ガスが真に2次元である場合には、磁場がc軸と垂直、すなわちMgZnO又はZnOの薄膜面に対して磁場が平行であるため、磁気抵抗の変化はない。電子の運動とは垂直方向の磁場成分のみ、磁気抵抗に影響を与えるためである。したがって、図31の測定結果より、この構造では、界面に存在する電子が確実に2次元であることがわかる。
【0096】
図32(a)は、有機物電極とZnO系基板とその上に形成されたMgXZnO(0≦X<1)、MgYZnO(0<Y<1)の薄膜積層構造(X<Y)を1組備えたHEMTの構造を示す。31はMgZZnO(0≦Z<1)基板、32はMgXZnO(0≦X<1)層、33はMgYZnO(0<Y<1)層を示す。ここで、X<Yと、上側のMgZnOの方がMg組成比率を高くしている。これは、図26、27のところで説明したように、2次元電子ガスの発生が行われるようにするためである。
【0097】
34は有機物電極であり、PEDOT:PSSで構成され、ゲート電極として作用する。また、36はソース電極、37はドレイン電極であり、いずれもInZn/Ti/Auの金属多層膜で形成され、35は金属層であり、Auで構成される。38は層間絶縁膜であり、SiO2で構成される。また、MgYZnO層33の一部はIn拡散が行われたドナードープ部33aを形成している。2DEGは、2次元電子ガス領域(電子蓄積層)を示し、MgXZnO層32とMgYZnO層33の界面と図の点線で挟まれた領域を示している。ここで、ソース電極36と直下のドナードープ部33aとでソース電極部を、ドレイン電極37と直下のドナードープ部33aとでドレイン電極部を、有機物電極34と金属層35とでゲート電極部を構成している。
【0098】
このトランジスタを実際に動作させたときのI−V特性測定結果を図32(b)に示す。測定温度は2ケルビンである。電子ガス領域(電子蓄積層)の2次元性をクリアに見るために低温度で測定している。VGはゲート電圧を、IDSはドレイン−ソース間電流を、VSDはドレイン−ソース間電圧を示す。明確なトランジスタ特性が見られる。また、VSDバイアスを0ボルトと1.5ボルト程度との間で往復させているが、著しい特徴として、ヒステリシスが全くない。
【0099】
図32(b)のデータを基に、IDS/VSDとVGとの関係を示したのが図33(b)である。白丸のドットデータが実測値であり、黒い実線部分がフィッティングカーブである。このフィッティングカーブは、ほぼ直線であり、界面状態は非常に良いことがわかる。図33(a)は、ゲート電圧VGと電界効果移動度μFE及びホール移動度μHallとの関係を示す。この図から、ホール移動度と電界効果移動度が殆ど同じであることがわかり、このことからも、界面状態は良好であることがわかる。電界効果移動度はホール移動度と違い、界面における散乱等の因子が入るため、通常ホール移動度より小さくなる。
【0100】
次に、HEMTの具体的構成例を示す。基本的構成例としては、図32(a)に示しているが、ここで、ソース電極36、ドレイン電極37のいずれも、InZn/Ti/Auの他に、InZn/Ti/Al、Ti/Pt/Au、Cr/Au、Cr/Pd/Auの金属多層膜で構成することもできる。また、金属層35についても、Auの他に、Al、Ti/Au、Ti/Al等で形成することができる。層間絶縁膜37についても、SiO2の他に、SiON、Al2O3等で構成することができる。ドナードープ部33aについては、In拡散の他に、Ga拡散、III族元素のイオンインプランテーション等を用いることができる。以下、図34〜図37まで、変形された構造の実施例を示すが、上記構成材料等の事項は、同様に適用される。
【0101】
ところで、有機物電極34直下のMgYZnO層33の厚みは、PEDOT:PSS/MgZnOのショットキー接触に起因する空乏層幅よりも厚くするとノーマリーオンとなり、薄くするとノーマリーオフにすることができる。なお、ノーマリーとは、ゲート電圧が0Vの状態においてと言う意味である。空乏層の幅は、直下のMgYZnO層のドナー濃度NDによっておよそ決まる。
【0102】
図34は、ゲート電極となる有機物電極34直下のMgYZnO層の膜厚を薄くしたリセスゲート構造を示す。この構造では有機物電極34直下部分の2次元電子ガスのキャリア濃度を薄くし、一方、抵抗を小さくすることが必要なソース電極部直下及びドレイン電極部直下の2次元電子ガスのキャリア濃度を濃くすることができ、電極の目的に応じた設計ができる。
【0103】
トランジスタでは、ソース−ゲート間抵抗が高いと、ゲート電圧を高く設定しないと所望のドレイン−ソース間電流が得られなくなる。したがって、ソース−ゲート間抵抗を低くすることがトランジスタでは重要である。そこで、図35のように、ソース電極部とゲート電極部の間の距離を縮めた構造として、ソース−ゲート間抵抗を低くするように構成することもできる。
【0104】
図36は耐圧を上げる構造としたものである。耐圧を上げる構造として用いられるフィールドプレート構造を使用した。層間絶縁膜38の一部にソース電極部と接続した電極36aを配置し、この電極36aとフィールドプレート40とを接続し、フィールドプレート40でゲート電極34の上部全体を覆うように層間絶縁膜38上に形成し、ドレイン側の電場をシールドして、ゲート電極34の端部分の破壊を防ぐ。
【0105】
図37では、ソース電極36直下のドナードープ部33bの長さを長くして、導電性のMgZZnO(0≦Z<1)基板41に電気的に接続するように構成している。このように、フィールドプレート構造を表面と裏面の両側で形成し、更に耐圧を上げる構造をとることができる。なお、MgZZnO41は、導電性の基板とするために、例えばアンドープもしくはGaドープのZnO基板を用いる。
【0106】
一方、図32(a)、図34〜図36に記載されているMgZZnO基板31は、絶縁性の基板であり、例えば、NiやCr等の遷移金属をドープをしたZnO基板で構成される。また、上記図32(a)、図34〜図37までの実施例の構造を目的に応じて適宜組み合わせた構造としても良い。
【0107】
図32(a)、図34〜図36に示されるHEMTの製造方法を以下に説明する。MgZZnO基板31、41上にMgZnO薄膜を形成する方法は、前述した通りであり、少なくとも1組のMgXZnO(0≦X<1)とMgYZnO(0<Y<1)の薄膜積層構造(X<Y)を形成する。
【0108】
次に、ドナーを拡散又はインプランテーションしてドナードープ部33aや33bを作製する。その後、ソース電極及びドレイン電極のパターニングを行い、蒸着又はスパッタで各電極を形成する。なお、インプランテーションによりドナードープ部を形成する場合は、インプランテーションを行った後、400〜800℃で焼き鈍しアニールした後、ソース電極及びドレイン電極のパターニングを行い、蒸着又はスパッタで各電極を形成する。電極にInZn系の合金を用いる場合は、200〜500℃でアニールを行う。
【0109】
次に、パターニングした後に、PEDOT:PSSを形成する。PEDOT:PSSの形成はオゾン処理して基板表面を親水化した後、スピンコートして窒素雰囲気化100〜200℃で乾燥させ、その後、有機溶剤でレジストを溶かす。このとき、PEDOT:PSSは溶剤に溶けずに残る。他の方法として、オゾン処理後に真空中で蒸着させるか、又は水に分散させたPEDOT:PSSを超音波でミスト上にして供給し、薄膜状に形成することもできる。
【0110】
次に、PEDOT:PSS上にゲート電極を蒸着、もしくはスパッタで形成する。その後、層間絶縁膜を形成する。次に、図36、37のように、フィールドプレートがある場合はフィールドプレートを形成する。
【0111】
なお、図37の場合は、ソース電極36側のドナードープ部33bを深くドープする必要があるので、インプランテーションによりドナードープ部を形成する場合、ドナードープ部33aと33bのフォトリソグラフィは別々に行い、ドナードープ部33bのインプランテーション後の焼き鈍しアニールの時間を長くする。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明のZnO系半導体素子における断面構造の一例を示す図である。
【図2】ZnO系半導体素子の他の断面構造を示す図である。
【図3】ZnO系半導体と有機物電極との接合界面領域におけるエネルギーバンドを示す図である。
【図4】本発明のZnO系半導体素子とショットキー接合素子との電圧−電流特性比較を示す図である。
【図5】本発明のZnO系半導体素子とショットキー接合素子との電圧−電流特性比較を示す図である。
【図6】本発明のZnO系半導体素子の製造工程を示す図である。
【図7】ZnO系化合物の結晶構造の概念図である。
【図8】有機物電極が接する側のZnO系半導体層の主面が+C面と−C面の場合における電圧−電流特性を比較した図である。
【図9】有機物電極が接する側のZnO系半導体層の主面が+C面と−C面の場合における電圧−電流特性を比較した図である。
【図10】c軸が有機物電極の法線方向に対してm軸方向にオフ角を有する場合のZnO系半導体層表面を示す図である。
【図11】結晶成長過程におけるウエハ上のキンク位置を示す図である。
【図12】m軸又はa軸が有機物電極の法線方向に対して−c軸方向にオフ角を有する場合のZnO系半導体層表面を示す図である。
【図13】ZnO系半導体素子の他の断面構造を示す図である。
【図14】ポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルホン酸の化学構造式を示す図である。
【図15】ポリアニリン誘導体の化学構造式を示す図である。
【図16】ポリピロール誘導体の化学構造式を示す図である。
【図17】基板主面法線と基板結晶軸であるc軸、m軸、a軸との関係を示す図である。
【図18】本発明のZnO系半導体素子を受光素子とした場合の断面構造を示す図である
【図19】PEDOT:PSSの光の透過率及び反射率の波長依存性を示す図である。
【図20】図18のZnO系半導体素子に光を照射したときの電流変化を示す図である。
【図21】図18のZnO系半導体素子に光を照射したときの電流−電圧特性を示す図である。
【図22】波長に依存するフィルターを通して光をZnO系半導体素子に照射した場合の逆方向電流の特性を示す図である。
【図23】有機物電極とZnOとの界面付近の状態を示す図である。
【図24】図18のZnO系半導体素子の逆方向電圧と電流との関係を示す図である。
【図25】MgZnO/ZnO界面の圧電効果を示す図である。
【図26】MgZnO/ZnO界面の面電荷密度とMg組成比率との関係を示す図である。
【図27】Mg組成の割合により、MgZnO/ZnO界面の分極状態が変わることを示す図である。
【図28】PEDOT/MgZnO/ZnOでのCV測定結果、IV測定結果を示す図である。
【図29】MgZnO/ZnO界面の2次元電子ガスの電子移動度の測定構成と測定結果を示す図である。
【図30】ゼロ縦抵抗と整数量子ホール効果の測定構成と測定結果を示す図である。
【図31】2次元電子ガスの2次元性を確認するための図である。
【図32】本発明のZnO系半導体素子をHEMTに適用した場合の基本構成と電流−電圧特性を示す図である。
【図33】電界効果移動度とホール移動度との比較を示す図である。
【図34】HEMTの一構成例を示す図である。
【図35】HEMTの一構成例を示す図である。
【図36】HEMTの一構成例を示す図である。
【図37】HEMTの一構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0113】
1 ZnO系半導体
2 有機物電極
3 Au膜
4 Ti膜
5 Au膜
6 基板
8 ZnO基板
9 p型MgZnO層
11 n型MgZnO層
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnO系半導体に有機物の電極を形成したZnO系半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多機能物質として酸化物が注目されており、研究成果が次々と発表されているが、問題点もある。例えば、青色LEDに用いられる窒化物では、いくつか機能の違う薄膜を積層したりエッチングしたりすることにより、特異な機能を発現するデバイスを作製する
ことができるが、酸化物は薄膜形成法がスパッタかPLD(パルスレーザーデポジション)などに限られており、半導体素子のような積層構造を作製しにくい。スパッタは通常結晶薄膜を得るのが難しく、PLDは基本的に点蒸発であるので、2インチ程度であっても大面積化が困難である。
【0003】
酸化物で半導体素子のような構造が作れる手法としてプラズマを使った分子線エピタキシー法(Plasma assisted molecular beam epitaxy :PAMBE)が行われている。これを使った研究として最も注目されているものの一つがZnOである。ZnOを半導体デバイス材料として用いる場合の問題点は、アクセプタードーピングが困難で、p型ZnOを得ることができなかったことにある。
【0004】
ところが近年、非特許文献1や2に見られるように、技術の進歩により、p型ZnOを得ることができるようになり、発光も確認されるようになり、非常に研究が盛んである。また、同じく多機能物質として、応用、研究とも盛んな面白い物質として導電性ポリマーがある。有機材料は印刷技術などと融合させることで非常に簡便にデバイス作製できることもあり、次世代は有機物が電子デバイスの主役になるという声もある。電子デバイスを作るためには電気を通すものが必要でそのためにも導電性ポリマーは有効である。
【0005】
無機物質である半導体と有機物はそれぞれ独自に発展しており、いままであまり接点を持たなかったが近年、これらを融合していく研究が盛んである。有機物、酸化物とも材料が豊富であるため色んな種類のデバイスが作れる可能性があるだけでなく、材料が豊富なため安価に作れることが多く、有機物を使用すれば印刷技術等によりパターニングが出来るので、工程コストも下がる。
【0006】
先に示したZnO系材料は、酸化物結晶としては研究がもっとも進んでいるもののひとつであり、前述の発光特性だけでなく非常に多機能な物質であるため、有機物との融合が提案されている。ただし、ZnO系材料薄膜や基板と有機物の組み合わせでは、電極として受動的に使われることが主で、組み合わせた部分が何か能動的な機能を持つデバイスとして使われた例は非常に少ない。
【特許文献1】特開2005−277339号公報
【非特許文献1】A.Tsukazaki et al.,JJAP 44(2005)L643
【非特許文献2】A.Tsukazaki et al Nature Material 4(2005)42
【非特許文献3】Chi-Yane Chang et al.,Applied Physics Letters 88,173503(2006) “Electroluminescence from ZnO nanowire/polymer compsite p-n junction”
【非特許文献4】R.Konenkamp et al.,Applied Physics Letters 85,6004(2004) “Vertical nanowire light-emitting diode”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、非特許文献3や非特許文献4に開示されたデバイスはあるが、いずれもZnOのナノワイヤーという針状結晶を使ったものである。ナノワイヤーというのは低次元物質系であり、デバイス加工が非常にしにくいうえ、有機物/半導体界面を制御することもできないので、ZnO系材料と有機物とを組み合わせ、かつその界面の物理的状態を能動的にコントロールするデバイスを作製する場合は、基板や薄膜のように2次元的に平坦な拡がりを持つ形状とするのが最もデバイスを形成する上で簡単であり、かつ界面状態を制御するためには必要である。また、デバイス加工の精密度を上げることも簡単にできる。
【0008】
薄膜か基板が基本であれば、有機物は薄膜の上にスピンコート、蒸着、スプレー吹き付けといった簡便な方法で有機物を塗り広げて加工すればよく、現状の薄膜デバイス工程との親和性も良い。また、有機物の形成工程は簡単なものが多く、工程時間が短くなることによるコスト削減効果も大きい。
【0009】
一方、特許文献1にはZnO系材料薄膜や基板上に電極としての有機物である導電性ポリマーを形成する例が示されており、上記従来例のように、ZnOの針状結晶を用いたものではないが、トランジスターに電流を供給する電極として受動的に組み合わされたもので、有機物/半導体界面を制御するような能動的役割を果たすものではない。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、ZnO系半導体と有機物とを能動的な役割に用い、従来とは異なる全く新規な機能を有するZnO系半導体素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、ZnO系半導体に接して有機物電極が形成され、前記ZnO系半導体と有機物電極との間で整流特性を有することを特徴とするZnO系半導体素子である。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、前記有機物電極の仕事関数が前記ZnO系半導体の電子親和力よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のZnO系半導体素子である。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、前記ZnO系半導体の有機物電極と接する側の主面が+C面であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0014】
また、請求項4記載の発明は、前記有機物電極の法線は、前記主面の+c軸から少なくともm軸方向に傾斜していることを特徴とする請求項3記載のZnO系半導体素子である。
【0015】
また、請求項5記載の発明は、前記有機物電極の法線の傾斜角度は5度以下であることを特徴とする請求項4記載のZnO系半導体素子である。
【0016】
また、請求項6記載の発明は、前記ZnO系半導体の有機物電極と接する側の主面がM面又はA面であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0017】
また、請求項7記載の発明は、前記有機物電極の法線は、前記主面のm軸又はa軸から少なくともc軸方向に傾斜していることを特徴とする請求項6記載のZnO系半導体素子である。
【0018】
また、請求項8記載の発明は、前記有機物電極の少なくとも一部は導電性ポリマーで構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0019】
また、請求項9記載の発明は、前記有機物電極の抵抗率が1Ωcm以下であることを特徴とする請求項8記載のZnO系半導体素子である。
【0020】
また、請求項10記載の発明は、前記導電性ポリマーは、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリチオフェン誘導体の中の少なくとも一種から構成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9記載のZnO系半導体素子である。
【0021】
また、請求項11記載の発明は、前記導電性ポリマーは、キャリアドーパントを含むポリアニリン誘導体、キャリアドーパントを含むポリピロール誘導体、キャリアドーパントを含むポリチオフェン誘導体の中の少なくとも一種から構成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9記載のZnO系半導体素子である。
【0022】
また、請求項12記載の発明は、前記有機物電極は、紫外光領域で透光性を有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0023】
また、請求項13記載の発明は、前記有機物電極が正孔伝導体からなることを特徴とする請求項12記載のZnO系半導体素子である。
【0024】
また、請求項14記載の発明は、前記ZnO系半導体素子の有機物電極側に負電圧を印加する逆バイアス状態で3ボルト印加し、光の照射がない状態で、逆方向電流が1ナノアンペア以下であることを特徴とする請求項12又は請求項13のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0025】
また、請求項15記載の発明は、前記ZnO系半導体は、ZnO系基板のみで構成されていることを特徴とする請求項12〜請求項14のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0026】
また、請求項16記載の発明は、前記ZnO系半導体素子は、フォトダイオードであることを特徴とする請求項12〜請求項15のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0027】
また、請求項17記載の発明は、前記ZnO系半導体は、ZnO系基板上に少なくともZnO系薄膜が1層形成された積層体で構成され、前記有機物電極がショットキー型のゲート電極として作用し、トランジスタ機能を有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0028】
また、請求項18記載の発明は、前記積層体は、ZnO系基板上にZnO系薄膜が2層以上積層されており、ZnO系基板に近い側からMgXZnO(0≦X<1)、MgYZnO(0<Y<1)の順に積層された薄膜積層構造(X<Y)を少なくとも1組は備えていることを特徴とする請求項17記載のZnO系半導体素子である。
【0029】
また、請求項19記載の発明は、前記薄膜積層構造におけるMgXZnOとMgYZnOの界面に発生する電子蓄積領域をチャネル領域とする請求項17又は請求項18のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ZnO系半導体に接して有機物電極を形成することにより、ZnO系半導体と有機物電極との界面にポテンシャル障壁を形成し、エネルギーバンドの関係から、ZnO系半導体と有機物電極との間には整流作用が発生する。したがって、ダイオード等の新規なデバイスに応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は本発明によるZnO系半導体素子の断面構造の一例を示す。
【0032】
ZnO系半導体1上に有機物電極2が形成されており、有機物電極2の上にはワイヤーボンディング等のために用いられるAu膜3が形成されている。一方、ZnO系半導体1の裏面には有機物電極2に対向するように、Ti膜4とAu膜5の多層金属膜で構成された電極が形成されている。ZnO系半導体1は、ZnO又はZnOを含む化合物から構成されるものであり、具体例としては、ZnOの他、IIA族元素とZn、IIB族元素とZn、またはIIA族元素およびIIB族元素とZnのそれぞれの酸化物を含むものを意味する。一例として、ZnO系半導体1は、n型ZnO基板で構成される。
【0033】
一方、有機物電極2の一部は導電性ポリマーで構成されている。導電性ポリマーとしては、例えば、図14(b)に示されるポリチオフェン誘導体(PEDOT:ポリ(3,4)-エチレンジオキシチオフェン)、図15に示されるポリアニリン誘導体、図16(a)に示されるポリピロール誘導体等が用いられる。
【0034】
具体的には、上記の各誘導体に伝導特性等の電気特性を制御するための物質をドーピングした物質が用いられており、例えば、ポリチオフェン誘導体(PEDOT)に、図14(a)に示されるポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたものや、ポリピロール誘導体に図16(b)に示されるTCNAをドーピングしたものを用いる。
【0035】
図1では、Au膜3を直流電源の+側にAu膜5を直流電源の−側に接続している。これは、後述するように、図1のZnO系半導体素子がダイオードのように整流作用を有するのであるが、そのときの順方向バイアスを加えた状態を示すものである。したがって、有機物電極2は、pn接合でいうとp電極として、Ti膜4はn電極として機能する。
【0036】
図3は上記のように形成されたZnO系半導体素子の作用を説明するための図である。図3は、ZnO系半導体1をn型ZnO基板、有機物電極2をPEDOT:PSSで構成した場合のZnO系半導体1と有機物電極2との接合界面におけるエネルギーバンド図を示す。
【0037】
図3(a)は、ZnO系半導体素子にかかるバイアスが0の場合を、図3(b)は、バイアスが順方向の場合を、図3(c)はバイアスが逆方向の場合を示す。また、EFOは有機物電極2のフェルミ準位を、EFZはZnO系半導体1のフェルミ準位を、VLは真空準位を、φOは有機物電極2の仕事関数を、φZはZnO系半導体1の仕事関数を、ECは伝導帯の準位を、EVは価電子帯の準位を、χZはZnO系半導体1の電子親和力を表している。
【0038】
図3(a)のようにバイアスが0の場合、ZnO系半導体と有機物電極とのフェルミ準位は一致し、平衡状態になっており、ZnO系半導体から有機物電極への電子の流れに対する障壁(ビルトインポテンシャル)φO−φZと、有機物電極からZnO系半導体への電子の流れに対するショットキー障壁φO−χZを生じる。
【0039】
一方、図1のように、順方向バイアスを加えると、φO−φZを打ち消す向きであるので、図3(b)に示すように、ZnO系半導体側の障壁がqVだけ低くなり、有機物電極側の障壁は変わらないので、ZnO系半導体から有機物電極への電子流が増える。他方、図1の直流電源を逆方向に接続した場合は(逆方向バイアス)、図3(b)とは逆にZnO系半導体側の障壁がqVだけ高くなり、有機物電極側の障壁は変わらないので、図3(c)のようになる。したがって、ZnO系半導体から有機物電極への電子流がほとんど発生しない。
【0040】
以上のように、ZnO系半導体1と有機物電極2とが、φO>χZの関係で接合すると、pn接合と同様の整流作用が発生する。このように、本発明では、有機物電極2を有機物/半導体界面を制御するような能動的役割を果たす電極として構成している。図4、5は、ZnO系半導体1と有機物電極2と間のIV特性を示したものである。図4のX1と図5のX3は、図1の構成でZnO系半導体1をn型ZnO基板、有機物電極2をPEDOT:PSSで構成した場合のIV特性を示し、図4のX2と図5のX4は、比較のために、図1の構成における有機物電極2を、一般的にショットキー電極としてよく使われるPtに置き換えた場合のIV特性を示す。
【0041】
図4、5のいずれも電圧Vが0を境にして+側電圧が順方向バイアス(以下、順バイアスという)となり、−側電圧が逆方向バイアス(以下、逆バイアスという)となる。図4からもわかるように、X1及びX2ともに、逆バイアスを加えているときには、ほぼ一定の微電流が流れているが、順バイアスが加えられると、電流が急激に増加していくことがわかり、X1及びX2ともに整流特性を有している。しかし、本発明の構成によるX1の方が、一般的な金属電極とn型ZnO基板とのショットキー接合よりも、逆バイアス電圧での漏れ電流は非常に小さく、他方、順バイアスでの電流量は大きく伸びていくことがわかる。
【0042】
また、図5は、図4のX1、X2のような測定データを測定してX3、X4の曲線を描き、これらのグラフの目盛りを変えてY3、Y4の曲線を描いたものである。左側に示される縦軸の目盛り(1.0×10−3〜−0.6×10−3Aの範囲で表されている)で表示したグラフが、Y3(一点鎖線)、Y4(点線)であり、右側目盛りのlogIから左側目盛りの線形目盛りにX3を変換したものがY3に、X4を変換したものがY4に対応する。
【0043】
この図からわかるように、一般的な金属電極とn型ZnO基板とのショットキー接合を示すY4のグラフでは、逆バイアス時から順バイアス時にかけて流れる電流の大きさが正方向にも負方向にも増大しているのに対して、本発明の構成によるY3のグラフでは、逆バイアス時には、ほとんど電流が流れず、順バイアスになると、印加電圧の増加に伴って電流が増大しており、整流特性を示す。
【0044】
次に、図2は、図1と基本的には同じ構成であるが、特に負電極の構成が異なる構造を示す。図1と同じ符号を付したものは同じ構成を示す。図2(a)では、ZnO系半導体1の裏面に負電極を形成するのではなく、ZnO系半導体1の同一面側に正電極と負電極を形成し、負電極は有機物電極2とAu膜3で構成された積層体の周りを取り囲むように環状に形成されている。また、図2(b)は、図2(a)の構造に支持基板となる基板6を取り付けた構成としている。
【0045】
図1のZnO系半導体素子で、ZnO系半導体1にn型ZnO基板、有機物電極2にPEDOT:PSSを用いた場合製造工程の一例を図6に示す。まず、n型ZnO基板を1100℃程度の温度で加熱処理し、アセトンやエタノールの溶液中で超音波洗浄を行った後、UV−オゾン照射で親水処理を行う(図6(a))。次に、図6(b)のように、スピンコート法によりn型ZnO基板上に、PEDOT:PSSを塗布して形成し、200℃程度の温度でベーキングする。その後、図6(c)のようにAuメタルを蒸着してAu膜3を作製し、次に、レジスト11を図6(d)のように形成し、Ar+プラズマ等によるドライエッチングによりメサ構造を図6(e)のように形成する。アセトン溶液中で超音波洗浄を行ってレジスト剥離した後(図6(f))、Tiメタルを蒸着してTi膜4を、さらにAuメタルを蒸着してAu膜5を形成して図1のZnO系半導体素子が完成する。
【0046】
ところで、ZnO系半導体は、GaNと同様、ウルツァイトと呼ばれる六方晶構造を有する。そして、C面やa軸という表現は、いわゆるミラー指数により表すことができ、例えば、C面は(0001)面と表される。図7は、ZnO系半導体結晶の模式的構造図を示すもので、斜線を付した面がA面(11−20)であり、M面(10−10)は六方晶構造の柱面を示す。例えば{11−20}面や{10−10}面は、結晶のもつ対称性により、(11−20)面や(10−10)面と等価な面も含む総称であることを示している。また、a軸は図中のa1、a2、a3のことを表し、A面の垂直方向を、m軸はM面の垂直方向を、c軸はC面の垂直方向を示す。
【0047】
ZnO系半導体1上に有機物電極2を形成する場合には、ZnO系半導体1において有機物電極2を形成する側の結晶面をどのようにするかで、素子の特性が異なってくるので結晶面の選び方が重要になる。まず、ZnO系半導体1の+C面に有機物電極2を形成する場合と−C面に有機物電極2を形成する場合とでは、素子の安定性に違いが生じる。図8は、図1の構成において、ZnO系半導体1の+C面に有機物電極2を形成した場合と、−C面に有機物電極2を形成した場合とで、電圧−電流特性を比較したものである。この場合もZnO系半導体1にn型ZnO基板、有機物電極2にPEDOT:PSSを用いた。図8、9に表されているように、電流−電圧特性でいうと、どちらも同じようなものである。
【0048】
しかしながら、ZnO系半導体の−C面は+C面に比べて、酸やアルカリに弱く、加工も行いにくい。特に有機物電極2にPEDOT:PSSを用いた場合には、図14の構造式からもわかるようにPH2〜3程度の酸性を示すので、−C面では、若干のエッチングにより素子の特性が不安定になる現象が見られた。したがって、+C面上に有機物電極2を形成することが望ましい。
【0049】
上記のように、有機物電極2を形成するZnO系半導体1の主面については+C面が良いことがわかったが、実際には+C面ジャスト基板はバルクからの切り出しを行う限り、安定して作製できないので、半導体主面法線又は基板主面法線がc軸から少なくともm軸方向に傾斜した面を主面とするZnO系半導体1が用いられる。
【0050】
ZnO系材料層上にZnO系薄膜を成長させる場合には、通常C面(0001)面が行われるが、C面ジャスト基板を用いた場合、図10(a)のようにウエハ主面の法線方向がc軸方向と一致する。しかし、バルク結晶は、その結晶がもつ劈開面を使用しないかぎり、図10(a)のように法線方向Zがc軸方向と一致することがなく、C面ジャスト基板にこだわると生産性も悪くなる。また、C面ジャストZnO系基板上にZnO系薄膜を成長させても膜の平坦性が良くならないことが知られている。
【0051】
図17は、基板主面の法線Zが、基板結晶軸のc軸から角度Φ傾斜し、かつ法線Zを基板結晶軸のc軸m軸a軸の直交座標系におけるc軸m軸平面に射影(投影)した射影(投影)軸がm軸の方へ角度Φm、c軸a軸平面に射影した射影軸がa軸の方へ角度Φa傾斜している場合を示す。すなわち、ZnO系半導体1(ウエハ)の主面の法線方向をc軸方向と一致させずに、基板主面の法線Zが、基板結晶軸のc軸から傾き、オフ角を有するようにする。
【0052】
例えば、図10(b)に示されるように、主面の法線Zがc軸m軸平面内に存在し、かつ法線Zがc軸からm軸方向にのみθ度傾斜しているとすると、基板1の表面部分(例えばT1領域)の拡大図である図10(c)に表されるように、平坦な面であるテラス面1aと、法線Zが傾斜したことにより生じる段差部分に等間隔で規則性のあるステップ面1bとが生じる。
【0053】
ここで、テラス面1aがC面(0001)となり、ステップ面1bはM面(10−10)に相当する。図のように、形成された各ステップ面1bは、m軸方向にテラス面1aの幅を保ちながら、規則的に並ぶことになる。すなわち、テラス面1aと垂直なc軸と基板主面の法線Zとはθ度のオフ角を形成する。また、ステップ面1bのステップエッジとなるステップライン1eは、m軸方向と垂直の関係を保ちながら、テラス面1aの幅を取りながら並行に並ぶようになる。
【0054】
このように、ステップ面をM面相当面となるようにすれば、主面上に結晶成長させたZnO系半導体層においては平坦な膜とすることができる。主面上にはステップ面1bによって段差部分が発生するが、この段差部分に飛来した原子は、テラス面1aとステップ面1bの2面との結合になるので、テラス面1aに飛来した場合よりも原子は強く結合ができ、飛来原子を安定的にトラップすることができる。
【0055】
表面拡散過程で飛来原子がテラス内を拡散するが、結合力の強い段差部分や、この段差部分で形成されるキンク位置(図11参照)にトラップされて結晶に組み込まれることによって結晶成長が進む沿面成長により安定的な成長が行われる。このとき、ステップ面1bが熱的に安定であることが望ましく、それにはM面が優れている。このように、C面が少なくともm軸方向に傾斜した基板上に、ZnO系半導体層を積層させると、ZnO系半導体層はこのステップ面1bを中心に結晶成長が起こり、平坦な膜を形成することができる。
【0056】
すなわち、m軸方向にステップエッジが規則的に並んでいる状態になることが、平坦な膜を作製する上で必要なことであり、ステップエッジの間隔やステップエッジのラインが乱れると、前述した沿面成長が行われなくなるので、平坦な膜が作製できなくなる。したがって、平坦な膜となる条件としては、薄膜主面法線又は基板主面法線がc軸からm軸方向にオフ角を有することが必要となる。しかし、図10(b)で傾斜角度θを大きくしすぎると、ステップ面1bの段差が大きくなりすぎて、平坦に結晶成長しなくなる。したがって、その傾斜角度は5度以下とすることが望ましい。
【0057】
上記のようにZnO系半導体層上に平坦なZnO系半導体膜を形成することは、例えば、図13(b)のように、ZnO系半導体としてのn型MgZnO層11上にp型MgZnO層9を結晶成長させる場合に有効であるし、また、ZnO系半導体層の主面が上記のようなステップ構造を有していない場合は、その上に形成される有機物電極2の平坦性にも影響を与え、素子特性への影響も考えられる。
【0058】
次に、ZnO系化合物は、圧電体であるため、サファイア基板とZnO層、ZnO層とMgZnO系化合物層との積層などのようにヘテロ接合が形成されていると、その基板とZnO系化合物層間または積層される両半導体層間で格子定数の差に基づく歪みが発生し、その歪みに基づいてピエゾ電界(応力により発生する電界)が発生する。これは、ZnOのような六方晶系の結晶では、c軸方向に対称性がなく、C面成長のエピタキシャル膜には表裏が生じるというウルツ鉱構造のためである。このピエゾ電界は、キャリアにとって、新たに加えられたポテンシャル障壁になり、ダイオードなどのビルトイン(built-in)電圧を上昇させることにより、駆動電圧を上昇させる。
【0059】
したがって、図13(a)の構成では、ZnO基板8とn型MgZnO層11との間にピエゾ電界が発生して素子の駆動電圧が上昇することが考えられる。また、図13(b)の構成とした場合には、n型MgZnO層11とp型MgZnO層9との間でピエゾ電界が発生する。
【0060】
上記ピエゾ電界の影響を取り除くためには、界面応力により電荷が発生する面を素子に印加する電界の方向と平行になるように(ピエゾ電界が素子に印加する電界と垂直になるように)、ZnO系化合物半導体層を形成又は積層することにより、ピエゾ電界による問題を解決することができる。
【0061】
ピエゾ電界による問題を解決するために、ZnO系半導体1は、MgxZn1−xO(たとえばx=0のZnO)基板等から構成されており、図12(b)に示されるように、主面がA面またはM面から(有機物電極2の法線方向から)−c軸方向に傾斜した面となるように研磨されている。傾斜角θは0.1〜10°程度、より好ましくは0.3〜5°である。
【0062】
図12(a)に示されるのは、薄膜又は基板の主面をA面またはM面とし、主面法線がm軸又はa軸と一致しているZnO系半導体1の模式図である。このような半導体を用いると前述のように、界面応力により電荷が発生する面、すなわち+C面を素子に印加する電界の方向と平行になるように(ピエゾ電界が素子に印加する電界と垂直になるように)構成できるので、ピエゾ電界の問題を解決することができ、駆動電圧の上昇を防ぐことができる。
【0063】
一方、図12(a)に示されるようなA面またはM面ジャスト基板を形成しようとしても、実際には、完全なフラットな面を形成することができ、図12(b)のように、基板主面法線Zをm軸又はa軸から少なくともc軸方向に傾斜させるようにする。図12(b)の基板表面部分T1の拡大図である図12(c)に示されるように、基板主面法線をa軸又はm軸からc軸方向に傾斜させることで、主面上にはテラス面1aと、傾斜させることにより生じる段差部分に等間隔で規則性のあるステップ面1bが形成される。表面上の段差により生じるステップ面1bとその他の面であるテラス面1aが生じ、このステップ面を+c軸方向となるようにすることにより、p型層のキャリア濃度も向上させることができる。
【0064】
また、傾斜方向を−c軸方向とすることにより、ステップ面1bは常に+c軸配向した+C面が露出することになる。このような状態で、結晶成長させることにより、図10で説明したのと同様な理由で、沿面成長が起こり、安定的な成長が行われて平坦な膜を形成することができる。
【0065】
図13は、図1の基本的な構造を変形した例を示す。図1と同じ符号については同じ構成を表す。図13(a)は、n型ZnO基板8上に形成されたn型MgxZn1−xO(0≦x≦0.5)層11を、有機物電極2と接するZnO系半導体として用い、ドーピング濃度を変化させたものである。この製造方法を以下に説明する。
【0066】
n型ZnO基板8を薄い塩酸で処理し、加熱した後、例えばキャリア濃度が17乗以下のn型MgZnO層11を成長させる。Mgはバンドギャップを広げるために添加している。n型MgZnO層11の薄膜形成方法として、MBE(分子線エピタキシー法)を用いた。MBE以外に、CVD(化学気相成長法)、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、PLD(パルスレーザー堆積法)なども適用可能である。
【0067】
成長用基板にはn型ZnO基板8の+C面を使用した。他にもZnO基板の酸素極性面、M面も使用可能である。ZnO基板以外には、サファイア基板(C面、A面、R面)、ScAlMgO4基板なども使用可能であるが、結晶性の良いZnOを作製するためには、ZnOかScAlMgO4が望ましい。成長用基板は予備加熱室で250℃に20分間保持される。それから成長室に搬送され800℃に加熱された後、成長温度に保たれる。成長温度は300〜1000℃である。主原料はZn(純度99.99999%)と酸素ガス(純度99.99999%)を用いた。窒素ガスをp型のドーパントの原料として用いた。原料に用いるガスとして、他にオゾン(O3)、二酸化窒素(NO2)、一酸化二窒素(N2O)、一酸化窒素(NO)なども適する。
【0068】
ZnはKセルのルツボ内で、250〜350℃に加熱され、成長用基板表面に供給される。Mgを使用する場合は、Znと同様にKセルのルツボ内で300〜400℃に加熱され、成長用基板表面に供給される。酸素ガスはそれぞれのラジカルセルを通って、成長用基板表面に到達する。ラジカルセル内では高周波が印加され、ガスはプラズマ状態になり化学活性の高い状態になる。高周波の周波数は13.56MHz、出力は300〜400Wを適用したが、それ以外の周波数(2.4GHz)や出力(50W〜2kW)も適用可能である。酸素ガスは0.3〜3sccm、窒素ガスの流量は0.2〜1sccmとした。その後は、図6の製造方法と同様に、各層を形成する。
【0069】
次に、図13(b)は、図13(a)の構造に、p型MgZnO層9をn型MgZnO層11に接するように形成し、有機電極2の構造を少し変形させて、リーク電流を小さくしたものである。MgZnO層の製造方法は、図13(a)と同様であり、p型MgZnO層9を成膜した後、エッチングにより開口部を形成する。その後は図6と同じ工程で作製するが、有機物電極2がp型MgZnO層9の一部に乗っかるようにする。こうすることでリークを小さくすることができる。なお、p型MgZnO層9のようなp型ZnOを形成するためには、+C面が望ましい。なお、−C面でも非特許文献2に示された方法で作製することができる。
【0070】
以上説明したZnO系半導体素子の一例として、フォトダイオードを構成することができる。有機物電極2が紫外領域で透光性を有するものを用いる。ここで、紫外領域で透光性を有するとは、有機物電極2に光を照射したときに、光の400nm以下の波長領域で70%以上の透過率を有することを意味する。具体的には、有機物電極2aをPEDOT:PSSで構成し、その厚みを50nmとして、図18のZnO系半導体素子を作製した。ZnO系半導体1には、ZnO基板を用い、ZnO基板上にPEDOT:PSSを形成し、このPEDOT:PSS上にAu膜3を、ZnO基板の裏面に、順にTi膜4、Au膜5を形成した。図18は、ほぼ図1の構成と同じであるが、受光面積を大きくするために、有機物電極2aをZnO系半導体1の表面全面に渡って積層している。また、図18では、図1と異なり、直流電源の正負を逆にして逆バイアスとしている。
【0071】
有機物電極2aに用いたPEDOT:PSSには、図19のような性質がある。図19(a)は、酸化物であるサファイア基板の光の透過率、反射率とPEDOT:PSSの光の透過率、反射率とを比較したものである。同様に、図19(b)は、波長0〜2500nmまでの透過率と反射率を示したものである。すなわち、図19(a)は、図19(b)の波長範囲のうち、0〜800nmの範囲を拡大して示した図となっている。
【0072】
横軸は光の波長を、向かって左側の縦軸は光の透過率を、向かって右側の縦軸は、光の反射率を示す。また、図の上側に描かれている曲線は透過率曲線を、下側に描かれている曲線は、反射率曲線を表す。SAはサファイア基板を示しており、その他の曲線は、PEDOT:PSSの曲線を表す。このように、PEDOT:PSSは、波長400nm以下、特に、波長300nm〜400nmでは、80%以上の透過率を示しており、透光性に優れていることがわかる。一方、波長300nm〜400nmでの反射率は20%以下となっている。
【0073】
次に、図20(a)は、予備的な実験の図で、図18の構成のZnO系半導体素子のIV測定を行いながら、パルス状に光を照射した場合に発生する電圧(バイアス)−電流(光電流)の特性を示している。縦軸はZnO系半導体素子に流れる光電流の絶対値を、横軸はZnO系半導体素子に加える電圧を表わす。また、Aの領域がパルス状に光を照射したときの電流変化を示している。一方、図20(b)は、光を照射しない場合の暗電流特性を示す。図20(a)、(b)で、0ボルトを境にして、プラス側が順方向バイアス、マイナス側が逆方向バイアスを表わす。これらの図からわかるように、逆バイアス電圧での漏れ電流は非常に小さく、微弱な光でも反応することができる。また、逆バイアス時に、照射される光の強度に応じて電流が流れることがわかる。
【0074】
また、図21は、パルス状ではなく、光を連続して照射した場合の、電圧(バイアス)−電流(光電流)の特性を示している。図21(a)の縦軸は図18のZnO系半導体素子に流れる電流の絶対値を、横軸はZnO系半導体素子に加える電圧を表わす。図21(a)を見ると、光が照射されたときの特性曲線Pは、特にバイアスの0付近から−1Vにかけて電流が増大していることがわかる。図21(b)は、図21(a)におけるバイアス電圧の−0.5Vから+0.5Vの範囲を拡大したものであるが、縦軸は光電流の極性を持った値であり、絶対値ではないことに注意を要する。図21(b)では、光が照射されたときの特性曲線Pの電流値は、光を照射しない場合の特性曲線と比較して、マイナス側に0.5×10−8A程度増大していることがはっきりとわかる。
【0075】
このときの、有機物電極2とZnO基板(ZnO系半導体1)との界面付近の状態を示すのが、図23である。逆バイアスがかかっていると、有機物電極2とZnO基板とはショットキー接合しているために、ショットキー障壁が現われ、有機物電極2とZnO基板との界面には空乏層が広がっている。この空乏層付近に光が照射されると、図のように、電子は伝導帯に励起されて、価電子帯に正孔(ホール)が残る。電子は伝導帯の中で加速されて、図の矢印のようにエネルギーレベルの低い方(正極側)に流れ、正孔は逆方向(負極側)に流れる。したがって光電流の流れは、逆バイアス時の正極から負極に向かって流れる逆方向電流となる。すなわち、有機物電極2は正孔伝導体としての役割を果たす。
【0076】
なお、図24は、光を照射していない場合の、電圧−電流特性のデータを示す。逆バイアス電圧を−30V程度にしても、電流は極めて微弱であり、逆バイアス方向の耐圧は、十分に備わっていることがわかる。
【0077】
また、ZnOとPEDOT:PSSとの接触界面が、ショットキー接合となることが「M.Nakano et al.,Applied Physics Letters 91,142113(2007) “Schottky contact on a ZnO(0001) single crystal with conducting polymer”」の論文においても確認されたところである。
【0078】
図22は、光を図18のZnO系半導体素子に直接照射するのではなく、フィルターを通して照射した結果を示す。フィルターは、周波数ハイパスフィルターを用いた。すなわち、波長で言うと、光の短い波長成分を通すフィルターを用いた場合の、光照射時に流れている逆方向電流を測定した。
【0079】
図22(a)は、縦軸に逆方向電流(光電流)の絶対値を、横方向にフィルターの透過率を示す。また、λはフィルターがなく、光をそのまま照射した場合を、光の波長をλXとすると、λ1は、λX>380nmの波長を通過させるフィルターを、λ2は、λX>400nmの波長を通過させるフィルターを、λ3は、λX>420nmの波長を通過させるフィルターを、λ4は、λX>440nmの波長を通過させるフィルターを用いた場合の曲線を示す。
【0080】
このように、光の短い波長成分が除外されるほど、電流値が下がっている。検出感度は、波長400nm以下の成分が入るほど、フィルターがない状態のλに近づいている。一方、図22(a)を基に、横軸のフィルターの特定の透過率に対する各λ、λ1〜λ4についての電流値をプロットして作成したのが、図22(b)である。例えば、図22(a)の透過率100%に対する電流値はλ、λ1〜λ4について見ると、5個あるが、それを、λ、λ1〜λ4の各フィルターの通過波長の閾値を横軸(単位:nm)にとり、縦軸に電流値をとって示したのが、T1である。同様に、図22(a)の横軸の透過率80%の値をとってプロットしたのがT2、透過率60%の値をとってプロットしたのがT3、透過率40%の値をとってプロットしたのがT4、透過率20%の値をとってプロットしたのがT5、透過率0%の値をとってプロットしたのがT6である。
【0081】
図22(b)を見れば明らかなように、短い波長領域を透過させてZnO系半導体素子に入射させるほど、電流値が急激に上昇しており、とりわけ紫外光領域、すなわち400nm以下の波長成分を感度良く検出するには最適な構成であることがわかる。
【0082】
次に、前述したZnO系半導体素子をHEMT(高速電子移動度トランジスタ)に適用した例を以下に説明する。MgZnOとZnO界面で2次元電子ガスが発生することが知られているが、その電子移動度が絶対温度0.5ケルビンにおいて15000cm2V−1s−1を越えるような値をもつことを我々は見出した。この値は、通常作製されるAlGaN/GaN界面の2次元電子ガスに匹敵するものであり、GaNで盛んに研究されている高耐圧型のHEMTと同等のものをZnO系半導体を用いても十分作製することができる。
【0083】
ZnOは、電子親和力が約4.2V程度と、Siや殆どのIII−V族半導体より深い。金属の仕事関数は、およそ4〜5eV付近に集中し、ZnOの伝導帯底(CBM:Conduction Band Minimum)とほぼ同じであるため、ZnOは、金属とのショットキー接触がとりにくく、ZnOのドナー濃度NDが非常に小さいときに、かろうじてショットキー接触させることができる程度であった。しかし、有機物のうち、PEDOT:PSS等を用いると、ZnOのドナー濃度NDが17乗程度のオーダーになっても、ショットキー接触させることができ、ZnO系半導体にゲート電極としての有機物電極を用い、かつZnO系半導体にMgXZnO(0≦X<1)とMgYZnO(0<Y<1)の積層構造によって発生する2次元電子ガスを利用すれば、HEMTを構成することができる。
【0084】
まず、図25は、ZnO/MgZnO/ZnOの積層構造に発生する圧電効果を示したものである。点線は、フェルミ準位を、E1は、伝導帯の最低エネルギー部(Conduction Band Minimum:CBM)を、E2は電子濃度を示す。MgZnOはMg組成比率20%、ドナー濃度NDが2×1018cm−3を用い、これを厚み10nmでドナー濃度NDが1x1017cm−3のZnOで挟んだ積層構造とした場合のバンドプロファイルシミュレーションである。この程度のドナー濃度を有するZnOは、意図的にドープを行わなくても、意図しない不純物や真性欠陥(格子間Znなど)によって発生する典型的な値である。図25(a)のように対称的に双峰のピークが現われていたが、図25(b)に示すように、一方のピークが非常に大きくなっており、圧電効果が示されている。
【0085】
図26は、MgZnO/ZnOの接合界面における面電荷密度(Sheet charge density)とMgZnOのMg組成比率との関係を示す。横軸がMg組成比率、縦軸が面電荷密度を表す。図中のΔPspの曲線(●を繋いだ曲線)は自発分極差に由来するものを、Ppiezoの曲線(点線の曲線)は圧電効果によるピエゾ分極に由来するものを示す。また、ΔPsp−Ppiezoの曲線(実線の曲線)は、上記自発分極とピエゾ分極に関する2つの曲線の差を示している。ΔPspとPpiezoの曲線が上下入れ替わっているところを見るとMg組成比率が0.05(5%)程度の値になっている。したがって、ZnOのpiezo電場テンソルの値には幅があるため、断言はできないが、5%当たりでΔPsp−Ppiezoの符合の逆転が起こると考えられる。これによって何か違う現象が起こるとすれば、Mg組成比率5%程度が境界となるはずである。
【0086】
MgZnO/ZnOの接合界面では、圧縮歪をかけるとピエゾ分極は、自発分極の差を打ち消す方向に働く。しかし、図26の説明を考慮すると、Mg組成比率が約5%以下となるようなMgZnOを用いない場合は、自発分極の方が変化が大きく、自発分極の差を打ち消すほど大きなピエゾ分極は発生しない。したがって、ほとんどの場合、MgZnO/ZnOの界面には、2次元電子ガス領域(電子蓄積層)が形成される。
【0087】
図27(a)は、Mg組成比率が約5%を越える大きい値のMgZnOを用いて、+C面成長のZnO/MgZnO/ZnO/MgZnOの積層構造とし、横方向から圧縮歪を加えたときの分極差の方向と大きさを示す図である。Pspが自発分極、Ppeがピエゾ分極、σがヘテロ界面における電荷密度を表わす。他方、図27(b)は、Mg組成比率が約5%以下の小さい値のMgZnOを用いて、+C面成長のZnO/MgZnO/ZnO/MgZnOの積層構造とし、横方向から圧縮歪を加えたときの分極差の方向と大きさを示す図である。なお、図27(a)、(b)の積層体の右側に描かれている折れ線は、左側の折れ線が結晶歪みがないときの分極差の大きさを、右側の折れ線は圧縮歪を加えて結晶歪みが発生したときの分極差の大きさを示している。このように、Mg組成比率が極めて小さいMgZnOを用いると、図27(b)に示すように、圧縮歪を加える前後で、分極差の大きさやパターンが変わり、2次元電子ガスの発生にも影響を与えると考えられる。
【0088】
有機物電極にPEDOT:PSSを用い、PEDOT:PSS/MgZnO/ZnOの積層構造のZnO系半導体素子について、CV(容量−電圧)測定とIV(電流−電圧)測定を行った。MgZnOやZnOについては、+C面が成長面になるようにした。図28(a)は、CV測定の結果であり、PEDOT:PSS/MgZnOにおけるドナー濃度ND(左側縦軸)と深さ方向の距離(横軸)との関係及び、右側縦軸のD値(D value)と深さ方向の距離(横軸)との関係を示す。D値とは、通常使用されているように、インピーダンスZの逆数1/ZをG+iBとしたときに、D=G/|B|を表わす。ここで、MgZnOのMg組成比率は5.1%、測定周波数は1MHとした。また、黒丸のドットが測定値を表わしている。
【0089】
深さ100nm程度の位置がPEDOT:PSS/MgZnOの界面を表わすが、この界面でドナー濃度曲線が湾曲していることがわかる。また、CV測定が行えるということは、容量を測定できる空乏層が形成できているということを示している。図28(b)は、IV測定の結果を示し、横軸は電圧を、縦軸は電流を表わす。この図からわかるように、PEDOT:PSSとMgZnOとの間は良好なショットキー接触となっていることがわかる。
【0090】
次に、上記ZnO系半導体素子のMgZnO/ZnOのヘテロ界面での状態を示すのが図29(a)である。縦軸は2次元電子移動度(cm2V−1s−1)を、横軸は測定温度(単位は絶対温度ケルビン)を示す。これは、図29(b)に示すように、ZnO基板上にZnO薄膜をエピタキシャル成長させ、その上に、Mg0.11ZnOを成長させて、Mg0.11ZnO/ZnOのヘテロ界面でのホール(Hall)効果を測定することにより求めた。ヘテロ界面における2次元電子ガスの伝導特性は、界面の出来栄え、すなわち上下結晶の純度を反映している。
【0091】
図29(a)より、MgZnO/ZnOのヘテロ界面における2次元電子ガスの電子移動度は、1.4×104cm2V−1s−1にも達することがわかる。図30(b)は、図29(b)の構成において、MgZnO/ZnOの量子ホール効果の測定を行うための構成を示し、図30(a)は、図30(b)の構成による量子ホール効果の測定結果を示す。図30(a)の向かって左側の縦軸が縦抵抗Rxxを示し、向かって右側の縦軸がホール抵抗Rxyを表わす。また、横軸が磁場強度を示す。
【0092】
図30(b)で、50は、図29(b)に記載されたMg0.11ZnO/ZnO/ZnO基板の積層体を示し、50以外の部分はZnO薄膜までエッチングされている。また、51、52、53は、測定用電極を、54、55は印加用電極を示している。図に示された矢印のように、電極54から電極55の方向に電流を流して、電極51と電極52との間の電圧を測定すると、電極51、52間の抵抗が測定でき、これが縦抵抗Rxxである。一方、図のように、磁場Bを発生させると、電極51と電極53との間にホール起電圧が発生する。このとき、電極51、53間の抵抗が測定でき、これがホール抵抗Rxyとなる。測定条件は、測定温度が0.5ケルビン、電極54、55間の電流は、19Hzの交流電流を10nAとした。
【0093】
このようにして、測定された図30(a)の結果を見ると、MgZnO/ZnO界面の電子が2次元のときに特有な特性となっていることがわかる。電子の存在範囲が2次元に制限されていると、磁場Bが印加されたとき、図29(b)のように、電子は平面内で回転運動を行う。回転している間に一度も散乱されない綺麗な状態になると量子化が起こり、電子は離散的なエネルギーしか取れない状態になる。その離散的な局在準位に電子が留まる間、ホール抵抗Rxyは変動しなくなるので、図のように、量子数毎に一定の値を維持する領域が発生する。また、縦抵抗Rxxについては、局在準位の中心に位置する非局在準位も離散的になるので、図のように振動する。
【0094】
図31は、図29(b)の構成における2次元電子ガスの2次元性を示す図である。縦軸は縦抵抗(ρXX)を、横軸は磁場強度を示す。図のB⊥cは、MgZnO及びZnOのc軸方向と垂直な磁場成分を、B//cは、c軸方向と平行な磁場成分を示す。測定時の温度は2ケルビンである。
【0095】
図31のように、2次元電子ガスが真に2次元である場合には、磁場がc軸と垂直、すなわちMgZnO又はZnOの薄膜面に対して磁場が平行であるため、磁気抵抗の変化はない。電子の運動とは垂直方向の磁場成分のみ、磁気抵抗に影響を与えるためである。したがって、図31の測定結果より、この構造では、界面に存在する電子が確実に2次元であることがわかる。
【0096】
図32(a)は、有機物電極とZnO系基板とその上に形成されたMgXZnO(0≦X<1)、MgYZnO(0<Y<1)の薄膜積層構造(X<Y)を1組備えたHEMTの構造を示す。31はMgZZnO(0≦Z<1)基板、32はMgXZnO(0≦X<1)層、33はMgYZnO(0<Y<1)層を示す。ここで、X<Yと、上側のMgZnOの方がMg組成比率を高くしている。これは、図26、27のところで説明したように、2次元電子ガスの発生が行われるようにするためである。
【0097】
34は有機物電極であり、PEDOT:PSSで構成され、ゲート電極として作用する。また、36はソース電極、37はドレイン電極であり、いずれもInZn/Ti/Auの金属多層膜で形成され、35は金属層であり、Auで構成される。38は層間絶縁膜であり、SiO2で構成される。また、MgYZnO層33の一部はIn拡散が行われたドナードープ部33aを形成している。2DEGは、2次元電子ガス領域(電子蓄積層)を示し、MgXZnO層32とMgYZnO層33の界面と図の点線で挟まれた領域を示している。ここで、ソース電極36と直下のドナードープ部33aとでソース電極部を、ドレイン電極37と直下のドナードープ部33aとでドレイン電極部を、有機物電極34と金属層35とでゲート電極部を構成している。
【0098】
このトランジスタを実際に動作させたときのI−V特性測定結果を図32(b)に示す。測定温度は2ケルビンである。電子ガス領域(電子蓄積層)の2次元性をクリアに見るために低温度で測定している。VGはゲート電圧を、IDSはドレイン−ソース間電流を、VSDはドレイン−ソース間電圧を示す。明確なトランジスタ特性が見られる。また、VSDバイアスを0ボルトと1.5ボルト程度との間で往復させているが、著しい特徴として、ヒステリシスが全くない。
【0099】
図32(b)のデータを基に、IDS/VSDとVGとの関係を示したのが図33(b)である。白丸のドットデータが実測値であり、黒い実線部分がフィッティングカーブである。このフィッティングカーブは、ほぼ直線であり、界面状態は非常に良いことがわかる。図33(a)は、ゲート電圧VGと電界効果移動度μFE及びホール移動度μHallとの関係を示す。この図から、ホール移動度と電界効果移動度が殆ど同じであることがわかり、このことからも、界面状態は良好であることがわかる。電界効果移動度はホール移動度と違い、界面における散乱等の因子が入るため、通常ホール移動度より小さくなる。
【0100】
次に、HEMTの具体的構成例を示す。基本的構成例としては、図32(a)に示しているが、ここで、ソース電極36、ドレイン電極37のいずれも、InZn/Ti/Auの他に、InZn/Ti/Al、Ti/Pt/Au、Cr/Au、Cr/Pd/Auの金属多層膜で構成することもできる。また、金属層35についても、Auの他に、Al、Ti/Au、Ti/Al等で形成することができる。層間絶縁膜37についても、SiO2の他に、SiON、Al2O3等で構成することができる。ドナードープ部33aについては、In拡散の他に、Ga拡散、III族元素のイオンインプランテーション等を用いることができる。以下、図34〜図37まで、変形された構造の実施例を示すが、上記構成材料等の事項は、同様に適用される。
【0101】
ところで、有機物電極34直下のMgYZnO層33の厚みは、PEDOT:PSS/MgZnOのショットキー接触に起因する空乏層幅よりも厚くするとノーマリーオンとなり、薄くするとノーマリーオフにすることができる。なお、ノーマリーとは、ゲート電圧が0Vの状態においてと言う意味である。空乏層の幅は、直下のMgYZnO層のドナー濃度NDによっておよそ決まる。
【0102】
図34は、ゲート電極となる有機物電極34直下のMgYZnO層の膜厚を薄くしたリセスゲート構造を示す。この構造では有機物電極34直下部分の2次元電子ガスのキャリア濃度を薄くし、一方、抵抗を小さくすることが必要なソース電極部直下及びドレイン電極部直下の2次元電子ガスのキャリア濃度を濃くすることができ、電極の目的に応じた設計ができる。
【0103】
トランジスタでは、ソース−ゲート間抵抗が高いと、ゲート電圧を高く設定しないと所望のドレイン−ソース間電流が得られなくなる。したがって、ソース−ゲート間抵抗を低くすることがトランジスタでは重要である。そこで、図35のように、ソース電極部とゲート電極部の間の距離を縮めた構造として、ソース−ゲート間抵抗を低くするように構成することもできる。
【0104】
図36は耐圧を上げる構造としたものである。耐圧を上げる構造として用いられるフィールドプレート構造を使用した。層間絶縁膜38の一部にソース電極部と接続した電極36aを配置し、この電極36aとフィールドプレート40とを接続し、フィールドプレート40でゲート電極34の上部全体を覆うように層間絶縁膜38上に形成し、ドレイン側の電場をシールドして、ゲート電極34の端部分の破壊を防ぐ。
【0105】
図37では、ソース電極36直下のドナードープ部33bの長さを長くして、導電性のMgZZnO(0≦Z<1)基板41に電気的に接続するように構成している。このように、フィールドプレート構造を表面と裏面の両側で形成し、更に耐圧を上げる構造をとることができる。なお、MgZZnO41は、導電性の基板とするために、例えばアンドープもしくはGaドープのZnO基板を用いる。
【0106】
一方、図32(a)、図34〜図36に記載されているMgZZnO基板31は、絶縁性の基板であり、例えば、NiやCr等の遷移金属をドープをしたZnO基板で構成される。また、上記図32(a)、図34〜図37までの実施例の構造を目的に応じて適宜組み合わせた構造としても良い。
【0107】
図32(a)、図34〜図36に示されるHEMTの製造方法を以下に説明する。MgZZnO基板31、41上にMgZnO薄膜を形成する方法は、前述した通りであり、少なくとも1組のMgXZnO(0≦X<1)とMgYZnO(0<Y<1)の薄膜積層構造(X<Y)を形成する。
【0108】
次に、ドナーを拡散又はインプランテーションしてドナードープ部33aや33bを作製する。その後、ソース電極及びドレイン電極のパターニングを行い、蒸着又はスパッタで各電極を形成する。なお、インプランテーションによりドナードープ部を形成する場合は、インプランテーションを行った後、400〜800℃で焼き鈍しアニールした後、ソース電極及びドレイン電極のパターニングを行い、蒸着又はスパッタで各電極を形成する。電極にInZn系の合金を用いる場合は、200〜500℃でアニールを行う。
【0109】
次に、パターニングした後に、PEDOT:PSSを形成する。PEDOT:PSSの形成はオゾン処理して基板表面を親水化した後、スピンコートして窒素雰囲気化100〜200℃で乾燥させ、その後、有機溶剤でレジストを溶かす。このとき、PEDOT:PSSは溶剤に溶けずに残る。他の方法として、オゾン処理後に真空中で蒸着させるか、又は水に分散させたPEDOT:PSSを超音波でミスト上にして供給し、薄膜状に形成することもできる。
【0110】
次に、PEDOT:PSS上にゲート電極を蒸着、もしくはスパッタで形成する。その後、層間絶縁膜を形成する。次に、図36、37のように、フィールドプレートがある場合はフィールドプレートを形成する。
【0111】
なお、図37の場合は、ソース電極36側のドナードープ部33bを深くドープする必要があるので、インプランテーションによりドナードープ部を形成する場合、ドナードープ部33aと33bのフォトリソグラフィは別々に行い、ドナードープ部33bのインプランテーション後の焼き鈍しアニールの時間を長くする。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明のZnO系半導体素子における断面構造の一例を示す図である。
【図2】ZnO系半導体素子の他の断面構造を示す図である。
【図3】ZnO系半導体と有機物電極との接合界面領域におけるエネルギーバンドを示す図である。
【図4】本発明のZnO系半導体素子とショットキー接合素子との電圧−電流特性比較を示す図である。
【図5】本発明のZnO系半導体素子とショットキー接合素子との電圧−電流特性比較を示す図である。
【図6】本発明のZnO系半導体素子の製造工程を示す図である。
【図7】ZnO系化合物の結晶構造の概念図である。
【図8】有機物電極が接する側のZnO系半導体層の主面が+C面と−C面の場合における電圧−電流特性を比較した図である。
【図9】有機物電極が接する側のZnO系半導体層の主面が+C面と−C面の場合における電圧−電流特性を比較した図である。
【図10】c軸が有機物電極の法線方向に対してm軸方向にオフ角を有する場合のZnO系半導体層表面を示す図である。
【図11】結晶成長過程におけるウエハ上のキンク位置を示す図である。
【図12】m軸又はa軸が有機物電極の法線方向に対して−c軸方向にオフ角を有する場合のZnO系半導体層表面を示す図である。
【図13】ZnO系半導体素子の他の断面構造を示す図である。
【図14】ポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルホン酸の化学構造式を示す図である。
【図15】ポリアニリン誘導体の化学構造式を示す図である。
【図16】ポリピロール誘導体の化学構造式を示す図である。
【図17】基板主面法線と基板結晶軸であるc軸、m軸、a軸との関係を示す図である。
【図18】本発明のZnO系半導体素子を受光素子とした場合の断面構造を示す図である
【図19】PEDOT:PSSの光の透過率及び反射率の波長依存性を示す図である。
【図20】図18のZnO系半導体素子に光を照射したときの電流変化を示す図である。
【図21】図18のZnO系半導体素子に光を照射したときの電流−電圧特性を示す図である。
【図22】波長に依存するフィルターを通して光をZnO系半導体素子に照射した場合の逆方向電流の特性を示す図である。
【図23】有機物電極とZnOとの界面付近の状態を示す図である。
【図24】図18のZnO系半導体素子の逆方向電圧と電流との関係を示す図である。
【図25】MgZnO/ZnO界面の圧電効果を示す図である。
【図26】MgZnO/ZnO界面の面電荷密度とMg組成比率との関係を示す図である。
【図27】Mg組成の割合により、MgZnO/ZnO界面の分極状態が変わることを示す図である。
【図28】PEDOT/MgZnO/ZnOでのCV測定結果、IV測定結果を示す図である。
【図29】MgZnO/ZnO界面の2次元電子ガスの電子移動度の測定構成と測定結果を示す図である。
【図30】ゼロ縦抵抗と整数量子ホール効果の測定構成と測定結果を示す図である。
【図31】2次元電子ガスの2次元性を確認するための図である。
【図32】本発明のZnO系半導体素子をHEMTに適用した場合の基本構成と電流−電圧特性を示す図である。
【図33】電界効果移動度とホール移動度との比較を示す図である。
【図34】HEMTの一構成例を示す図である。
【図35】HEMTの一構成例を示す図である。
【図36】HEMTの一構成例を示す図である。
【図37】HEMTの一構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0113】
1 ZnO系半導体
2 有機物電極
3 Au膜
4 Ti膜
5 Au膜
6 基板
8 ZnO基板
9 p型MgZnO層
11 n型MgZnO層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnO系半導体に接して有機物電極が形成され、前記ZnO系半導体と有機物電極との間で整流特性を有することを特徴とするZnO系半導体素子。
【請求項2】
前記有機物電極の仕事関数が前記ZnO系半導体の電子親和力よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のZnO系半導体素子。
【請求項3】
前記ZnO系半導体の有機物電極と接する側の主面が+C面であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項4】
前記有機物電極の法線は、前記主面の+c軸から少なくともm軸方向に傾斜していることを特徴とする請求項3記載のZnO系半導体素子。
【請求項5】
前記有機物電極の法線の傾斜角度は5度以下であることを特徴とする請求項4記載のZnO系半導体素子。
【請求項6】
前記ZnO系半導体の有機物電極と接する側の主面がM面又はA面であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項7】
前記有機物電極の法線は、前記主面のm軸又はa軸から少なくともc軸方向に傾斜していることを特徴とする請求項6記載のZnO系半導体素子。
【請求項8】
前記有機物電極の少なくとも一部は導電性ポリマーで構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項9】
前記有機物電極の抵抗率が1Ωcm以下であることを特徴とする請求項8記載のZnO系半導体素子。
【請求項10】
前記導電性ポリマーは、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリチオフェン誘導体の中の少なくとも一種から構成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9記載のZnO系半導体素子。
【請求項11】
前記導電性ポリマーは、キャリアドーパントを含むポリアニリン誘導体、キャリアドーパントを含むポリピロール誘導体、キャリアドーパントを含むポリチオフェン誘導体の中の少なくとも一種から構成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9記載のZnO系半導体素子。
【請求項12】
前記有機物電極は、紫外光領域で透光性を有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項13】
前記有機物電極が正孔伝導体からなることを特徴とする請求項12記載のZnO系半導体素子。
【請求項14】
前記ZnO系半導体素子の有機物電極側に負電圧を印加する逆バイアス状態で3ボルト印加し、光の照射がない状態で、逆方向電流が1ナノアンペア以下であることを特徴とする請求項12又は請求項13のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項15】
前記ZnO系半導体は、ZnO系基板のみで構成されていることを特徴とする請求項12〜請求項14のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項16】
前記ZnO系半導体素子は、フォトダイオードであることを特徴とする請求項12〜請求項15のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項17】
前記ZnO系半導体は、ZnO系基板上に少なくともZnO系薄膜が1層形成された積層体で構成され、前記有機物電極がショットキー型のゲート電極として作用し、トランジスタ機能を有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項18】
前記積層体は、ZnO系基板上にZnO系薄膜が2層以上積層されており、ZnO系基板に近い側からMgXZnO(0≦X<1)、MgYZnO(0<Y<1)の順に積層された薄膜積層構造(X<Y)を少なくとも1組は備えていることを特徴とする請求項17記載のZnO系半導体素子。
【請求項19】
前記薄膜積層構造におけるMgXZnOとMgYZnOの界面に発生する電子蓄積領域をチャネル領域とする請求項17又は請求項18のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項1】
ZnO系半導体に接して有機物電極が形成され、前記ZnO系半導体と有機物電極との間で整流特性を有することを特徴とするZnO系半導体素子。
【請求項2】
前記有機物電極の仕事関数が前記ZnO系半導体の電子親和力よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のZnO系半導体素子。
【請求項3】
前記ZnO系半導体の有機物電極と接する側の主面が+C面であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項4】
前記有機物電極の法線は、前記主面の+c軸から少なくともm軸方向に傾斜していることを特徴とする請求項3記載のZnO系半導体素子。
【請求項5】
前記有機物電極の法線の傾斜角度は5度以下であることを特徴とする請求項4記載のZnO系半導体素子。
【請求項6】
前記ZnO系半導体の有機物電極と接する側の主面がM面又はA面であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項7】
前記有機物電極の法線は、前記主面のm軸又はa軸から少なくともc軸方向に傾斜していることを特徴とする請求項6記載のZnO系半導体素子。
【請求項8】
前記有機物電極の少なくとも一部は導電性ポリマーで構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項9】
前記有機物電極の抵抗率が1Ωcm以下であることを特徴とする請求項8記載のZnO系半導体素子。
【請求項10】
前記導電性ポリマーは、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリチオフェン誘導体の中の少なくとも一種から構成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9記載のZnO系半導体素子。
【請求項11】
前記導電性ポリマーは、キャリアドーパントを含むポリアニリン誘導体、キャリアドーパントを含むポリピロール誘導体、キャリアドーパントを含むポリチオフェン誘導体の中の少なくとも一種から構成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9記載のZnO系半導体素子。
【請求項12】
前記有機物電極は、紫外光領域で透光性を有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項13】
前記有機物電極が正孔伝導体からなることを特徴とする請求項12記載のZnO系半導体素子。
【請求項14】
前記ZnO系半導体素子の有機物電極側に負電圧を印加する逆バイアス状態で3ボルト印加し、光の照射がない状態で、逆方向電流が1ナノアンペア以下であることを特徴とする請求項12又は請求項13のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項15】
前記ZnO系半導体は、ZnO系基板のみで構成されていることを特徴とする請求項12〜請求項14のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項16】
前記ZnO系半導体素子は、フォトダイオードであることを特徴とする請求項12〜請求項15のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項17】
前記ZnO系半導体は、ZnO系基板上に少なくともZnO系薄膜が1層形成された積層体で構成され、前記有機物電極がショットキー型のゲート電極として作用し、トランジスタ機能を有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項18】
前記積層体は、ZnO系基板上にZnO系薄膜が2層以上積層されており、ZnO系基板に近い側からMgXZnO(0≦X<1)、MgYZnO(0<Y<1)の順に積層された薄膜積層構造(X<Y)を少なくとも1組は備えていることを特徴とする請求項17記載のZnO系半導体素子。
【請求項19】
前記薄膜積層構造におけるMgXZnOとMgYZnOの界面に発生する電子蓄積領域をチャネル領域とする請求項17又は請求項18のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【公開番号】特開2008−211203(P2008−211203A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21953(P2008−21953)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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