説明

アイドルストップシステム

【課題】バッテリ上がりを抑制でき、かつエンジン再始動時の応答性を確保できるアイドルストップシステムを提供することを課題とする。
【解決手段】アイドルストップシステム1は、エンジンと動力授受するとともに、界磁コイル200を持つロータ20と、ステータコイル210を持つステータ21と、を有する電動発電機2と、電動発電機2とバッテリ4との間に配置され、界磁コイル200に流れる界磁電流を制御するインバータ3と、を備える。インバータ3は、アイドルストップ開始から所定時間経過後に、界磁コイル200に流れる界磁電流を遮断することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、信号待ちや渋滞などの際に一時的にエンジンを停止するアイドルストップシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】
特許文献1には、車両用発電機の制御装置が紹介されている。この制御装置によると、たとえキースイッチが閉じていても、エンジンが停止していれば、バッテリから発電機への界磁電流の供給が遮断される。したがって、同文献に記載の制御装置によると、バッテリ上がりを抑制することができる。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−252799号公報(第2頁−7頁、第1図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
アイドルストップシステムにおいても、バッテリ上がりを抑制する必要がある。しかしながら、同文献記載の制御装置を、そのままアイドルストップシステムに転用することはできない。
【0005】
図5に、アイドルストップシステムのブロック図を示す。図に示すように、アイドルストップシステム100は、電動発電機101とインバータ102とを備えている。電動発電機101は、インバータ102を介して、バッテリ104と接続されている。また、電動発電機101は、エンジン(図略)とベルト連結されている。電動発電機101は、モータおよび発電機としての機能を併有する。
【0006】
アイドルストップ終了後において、電動発電機101はモータとして機能し、エンジンを再始動させる。したがって、電動発電機101は、アイドルストップ終了後に、エンジンを速やかに再始動させ、車両を発進させる必要がある。すなわち、電動発電機101には、エンジン再始動時における応答性が要求される。
このため、電動発電機101の界磁コイル105には、アイドルストップ期間中(エンジン停止中)ずっと、4A〜5A程度の界磁電流が流されている。そして、界磁コイル105の磁極には、磁界が発生している。
【0007】
ここで、同文献記載の制御装置をそのままアイドルストップシステムに転用すると、アイドルストップ期間中ずっと、界磁コイルへの界磁電流の供給が遮断されることになる。したがって、エンジン再始動時の応答性が損なわれてしまう。
【0008】
一方、図5に示すアイドルストップシステム100のように、アイドルストップ期間中ずっと、4A〜5A程度の界磁電流を界磁コイル105に流していると、バッテリ104の蓄電容量(SOC)が減少してしまう。このため、電動発電機101を発電機として使用する場合における、電動発電機101つまりはエンジンの発電負荷が大きくなる。したがって、燃費が低下する。
【0009】
本発明のアイドルストップシステムは、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、バッテリ上がりを抑制でき、かつエンジン再始動時の応答性を確保できるアイドルストップシステムを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
(1)上記課題を解決するため、本発明のアイドルストップシステムは、エンジンと動力授受するとともに、界磁コイルを持つロータと、ステータコイルを持つステータと、を有する電動発電機と、該電動発電機とバッテリとの間に配置され、該界磁コイルに流れる界磁電流を制御するインバータと、を備えてなるアイドルストップシステムであって、前記インバータは、アイドルストップ開始から所定時間経過後に、前記界磁コイルに流れる界磁電流を遮断することを特徴とする。
【0011】
つまり、本発明は、界磁電流をアイドルストップ開始(エンジン停止)から所定時間経過後に遮断するものである。上述したように、アイドルストップ期間中ずっと、界磁電流を流し続けるとSOCが減少する。このため、バッテリ上がりを起こすおそれがある。また、電動発電機を発電機として使用する場合におけるエンジンの発電負荷が大きくなる。一方、アイドルストップ期間中ずっと、界磁電流を遮断し続けるとエンジン再始動時の応答性が損なわれてしまう。
【0012】
これは、界磁コイルが持つインダクタンス成分により、通電開始してから充分な電流が流れるまで、一般に100〜200mS程の時間がかかる。言い換えれば、電動発電機が充分な始動トルクを発生するまでには100〜200mS程の遅れが発生することに起因する。
【0013】
これに対し、本発明のアイドルストップシステムは、界磁電流をアイドルストップ開始から所定時間経過後に遮断するものである。アイドルストップ開始から界磁電流遮断までの所定時間は、バッテリ上がりを抑制でき、かつエンジン再始動時の応答性を確保できる適切な値に設定されている。
【0014】
本発明のアイドルストップシステムによると、バッテリ上がりを抑制することができる。また、アイドルストップ期間中におけるバッテリ流出電流を軽減することができる。このため、電動発電機を発電機モードで使用する際のエンジンの発電負荷を小さくすることができる。したがって、燃費を向上させることができる。また、本発明のアイドルストップシステムによると、エンジン再始動時の応答性を確保することができる。
【0015】
(2)好ましくは、前記インバータは、前記バッテリの蓄電容量に応じて前記所定時間を調整する構成とする方がよい。つまり、本構成は、アイドルストップ開始から界磁電流遮断までの所定時間を調整するものである。この調整は、SOCに応じて行われる。
【0016】
調整の一例として、SOCが大きい場合は、バッテリ上がりのおそれが小さい。このため、界磁電流は、比較的長い時間界磁コイルに流し続けてもよい。したがって、SOCが大きい場合は、所定時間を長く設定する。この場合、界磁電流を流した時間が長いため、エンジン再始動時の応答性は良好である。
【0017】
一方、SOCが小さい場合は、バッテリ上がりのおそれが大きい。このため、界磁電流は比較的短い時間だけ界磁コイルに流す方がよい。したがって、SOCが小さい場合は、所定時間は短く設定する。この場合、界磁電流を流した時間が短いため、エンジン再始動時の応答性は、SOCが大きい場合よりも若干悪くなる。
【0018】
本構成によると、より確実にバッテリ上がりを抑制することができる。また、バッテリ上がりを起こさないSOC範囲で、エンジン再始動時の応答性を確保することができる。
【0019】
(3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記インバータは、前記バッテリの蓄電容量が所定容量未満の場合、前記所定時間を0に設定する構成とする方がよい。
【0020】
つまり、本構成は、SOCが所定容量未満の場合、アイドルストップ開始とほぼ同時に、界磁電流を遮断するものである。そして、アイドルストップ期間中ずっと、界磁電流を遮断し続けるものである。本構成によると、さらに確実にバッテリ上がりを抑制することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のアイドルストップシステムの実施の形態について説明する。
【0022】
(1)第一実施形態
まず、本実施形態のアイドルストップシステムの構成について説明する。図1に、本実施形態のアイドルストップシステムのブロック図を示す。図に示すように、アイドルストップシステム1は、MG(モータジェネレータ)2とインバータ3とを備えている。
【0023】
MG2は、本発明の電動発電機に含まれる。MG2は、モータとしての機能と、発電機としての機能と、を併有している。MG2は、ロータ20とステータ21とを備えている。ロータ20は、界磁コイル200を備えている。ロータ20のロータシャフト(図略)は、エンジンのクランクシャフト(図略)とベルト連結されている。ステータ21は、三相のステータコイル210を備えている。
【0024】
インバータ3は、回転速度検出回路30とタイマー回路31と論理回路32と発電用IC33とドライバ回路34と界磁出力用FET(フィールドエフェクトトランジスタ)35とを備えている。回転速度検出回路30は、前記MG2に搭載されたホールセンサ5に接続されている。また、回転速度検出回路30は、タイマー回路31にも接続されている。タイマー回路31は、回転速度検出回路30の他、論理回路32に接続されている。論理回路32は、タイマー回路31の他、上位ECU(エレクトロニックコントロールユニット)6、発電用IC33、ドライバ回路34に、それぞれ接続されている。発電用IC33は、論理回路32の他、バッテリ4および界磁出力用FET35に、それぞれ接続されている。ドライバ回路34は、論理回路32の他、界磁出力用FET35に接続されている。界磁出力用FET35は、発電用IC33およびドライバ回路34の他、前記界磁コイル200に接続されている。また、パワーMOS(メタルオキサイドセミコンダクタ、図略)は、バッテリ4とステータコイル210との間で、双方向直交出力変換を行っている。
【0025】
次に、本実施形態のアイドルストップシステムの制御について説明する。図2に、本実施形態のアイドルストップシステムのフローチャートを示す。上位ECU6が、車両が完全に停止したと判断すると(S1)、エンジンが停止されアイドルストップ開始となる(S2)。エンジン停止は、ホールセンサ5を介して、MG2の回転速度を回転速度検出回路30が検出することにより判断される。アイドルストップ期間において、インバータ3は、上位ECU6から発信される始動開始信号を常にチェックしている(S3)。始動開始信号が発信されないまま、タイマー回路31においてエンジン停止から60秒がカウントされると(S7)、論理回路32において、タイマー回路31からの信号と、上位ECU6からの制御信号と、発電用IC33からの初期励磁信号と、が処理される。なお、60秒は、本発明の「所定時間」に相当する。そして、処理信号が論理回路32からドライバ回路34に伝達される。ドライバ回路34は、この処理信号を受け、界磁出力用FET35を停止させる。すなわち、全励磁モードから初期励磁モードに切り替えられる(S8)。このため、界磁コイル200に流れる界磁電流は遮断される。初期励磁モードの状態で、上位ECU6からインバータ3に、例えば運転者がブレーキペダルをリリースするなどの始動開始信号が発信されると(S3)、初期励磁モードから全励磁モードに再び切り替えられる。また、ステータコイル210にステータ電流が流れ始める(S4)。ステータ電流が流れ始めると、ロータ20が回転し始める。ここで、前述したようにロータシャフトとエンジンのクランクシャフトとは、ベルト連結されている。したがって、ロータ20の回転開始を受けて、エンジンが再始動を開始する。上位ECU6が、エンジンが自力回転できると判断すると、つまりエンジン再始動が完了したと判断すると(S5)、MG2は、モータモードから発電機モードに切り替えられる。そして、MG2はバッテリ4の蓄電に用いられる(S6)。
【0026】
次に、本実施形態のアイドルストップシステム1の効果について説明する。本実施形態のアイドルストップシステム1によると、アイドルストップ開始から60秒後に界磁電流が遮断される。このため、アイドルストップ期間中バッテリ4からインバータ3に流出する電流を、4〜5A(全励磁モード)から、0.5A(初期励磁モード)に減少させることができる。したがって、バッテリ4上がりを抑制することができる。また、MG2がモータモードから発電機モードに切り替えられた後の、MG2つまりはエンジンの発電負荷を小さくすることができる。このため、燃費を向上させることができる。
【0027】
また、本実施形態のアイドルストップシステム1によると、アイドルストップ開始から60秒間は、界磁コイル200に界磁電流が流される。このため、エンジン再始動時の応答性を確保することができる。
【0028】
(2)第二実施形態
本実施形態と第一実施形態との相違点は、第一実施形態において60秒に固定していた所定時間を、本実施形態ではSOCに応じて調整している点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0029】
図3に、本実施形態のアイドルストップシステムのフローチャートを示す。なお、図2と対応する部位については同じ符号で示す。本実施形態においては、車両停止後(S1)に、SOCがチェックされる(S9)。チェックの結果、SOCが50%以上の場合だけ、エンジンが停止されアイドルストップ開始となる(S2)。アイドルストップ期間において、インバータは、上位ECUから発信される始動開始信号を常にチェックしている(S3)。始動開始信号が発信されないと、SOCが検出され(S10)、その結果SOC<60%(つまり50%≦SOC<60%)だと(S11)、図4に示すマップから所定時間は0秒に設定される(S12)。また、SOC検出の結果60%≦SOC≦80%だと(S11)、図4に示すマップから所定時間は60秒に設定される(S13)。また、SOC検出の結果80%<SOCだと(S11)、図4に示すマップから所定時間は10分に設定される(S14)。このように設定された所定時間が、タイマー回路においてカウントされると(S15)、全励磁モードから初期励磁モードに切り替えられる(S8)。このため、界磁コイル200に流れる界磁電流は遮断される。初期励磁モードの状態で、上位ECUからインバータに、始動開始信号が発信されると(S3)、初期励磁モードから全励磁モードに再び切り替えられる。また、ステータ電流が流れ始める(S4)。上位ECUが、エンジン再始動が完了したと判断すると(S5)、MGは、モータモードから発電機モードに切り替えられる(S6)。
【0030】
本実施形態のアイドルストップシステムによると、マップ(図4参照)に基づいて、アイドルストップ開始から初期励磁モード切り替えまでの所定時間が制御されている。このため、より確実にバッテリ上がりを抑制することができる。また、バッテリ上がりを起こさないSOC範囲で、エンジン再始動時の応答性を確保することができる。
【0031】
また、本実施形態のアイドルストップシステムによると、前出の図3に示すように、SOCが50%以上60%未満の場合(S11)、所定時間は0秒に設定されている(S12)。このため、エンジン停止(S2)つまりアイドルストップ開始とほぼ同時に、界磁電流が遮断される(S8)。そして、始動開始信号があるまで(S3)、界磁電流は遮断され続ける。したがって、本実施形態のアイドルストップシステムによると、さらに確実にバッテリ上がりを抑制することができる。
【0032】
また、本実施形態のアイドルストップシステムによると、前出の図3に示すように、SOCが50%未満の場合(S9)、エンジン停止(S2)は行われない。すなわち、車両が停止してもアイドルストップは行われない。この点においても、バッテリ上がりを抑制することができる。
【0033】
(3)その他
以上、本発明のアイドルストップシステムの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は、上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0034】
例えば、上記実施形態においては、所定時間経過後に全励磁モードから初期励磁モードに切り替えた(図2、図3のS8参照)。そして、初期励磁モードにおいても、バッテリ4からインバータ3に0.5Aの電流が流出していた(図1参照)。
【0035】
しかしながら、全励磁モードから全停止モードに切り替えてもよい。全停止モードにおいては、バッテリ4からインバータ3に電流が全く流出しない。このため、さらにバッテリ上がりを抑制することができる。また、エンジンの発電負荷を、さらに小さくすることができる。
【0036】
【発明の効果】
本発明によると、バッテリ上がりを抑制でき、かつエンジン再始動時の応答性を確保できるアイドルストップシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第一実施形態のアイドルストップシステムのブロック図である。
【図2】第一実施形態のアイドルストップシステムのフローチャートである。
【図3】第二実施形態のアイドルストップシステムのフローチャートである。
【図4】第二実施形態のアイドルストップシステムのマップである。
【図5】従来のアイドルストップシステムのブロック図である。
【符号の説明】
1:アイドルストップシステム、2:MG(電動発電機)、20:ロータ、200:界磁コイル、21:ステータ、210:ステータコイル、3:インバータ、30:回転速度検出回路、31:タイマー回路、32:論理回路、33:発電用IC、34:ドライバ回路、35:界磁出力用FET、4:バッテリ、5:ホールセンサ、6:上位ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと動力授受するとともに、界磁コイルを持つロータと、ステータコイルを持つステータと、を有する電動発電機と、
該電動発電機とバッテリとの間に配置され、該界磁コイルに流れる界磁電流を制御するインバータと、
を備えてなるアイドルストップシステムであって、
前記インバータは、アイドルストップ開始から所定時間経過後に、前記界磁コイルに流れる界磁電流を遮断することを特徴とするアイドルストップシステム。
【請求項2】
前記インバータは、前記バッテリの蓄電容量に応じて前記所定時間を調整する請求項1に記載のアイドルストップシステム。
【請求項3】
前記インバータは、前記バッテリの蓄電容量が所定容量未満の場合、前記所定時間を0に設定する請求項2に記載のアイドルストップシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2004−140930(P2004−140930A)
【公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−303422(P2002−303422)
【出願日】平成14年10月17日(2002.10.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】