説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】 優れた接着性及び耐熱性とともに、良好なボイドレス性が達成できる熱硬化性のエポキシ樹脂組成物、このエポキシ樹脂組成物を用いた導電性接着剤、及びこの導電性接着剤より得られる異方導電膜を提供する。
【解決手段】
(A)直鎖型フッ素化エポキシ樹脂、(B)フェノキシ樹脂、及び(C)潜在性硬化剤を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物、このエポキシ樹脂組成物及び導電粒子を含有し、前記(A)直鎖型フッ素化エポキシ樹脂の含有量が、エポキシ樹脂の合計重量の0.5重量%以上30重量%以下であることを特徴とする導電性接着剤、及びこの導電性接着剤より得られ、導電粒子が磁場により配向されていることを特徴とする異方導電膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板上に素子等を実装するための実装材料として用いられるエポキシ樹脂組成物に関するものである。本発明は、又、このエポキシ樹脂組成物を用いる接着剤であって、素子や回路間等の電気的接続も行うことができる導電性接着剤に関するものである。本発明は、さらに、この導電性接着剤から形成される異方導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の製造において、素子等を配線基板上に接合する、接合部の隙間を硬化封止して補強する、等の目的に用いられる実装材料としては、熱硬化性のエポキシ樹脂組成物が知られている。実装材料には、高い接合信頼性を得るための優れた接着力、その経時安定性、半田リフロー等に必要な高温に耐えられる耐熱性が求められる。
【0003】
さらに実装材料には、接続時(加熱硬化時)におけるボイド発生の低減が求められる。すなわち、(1)接続時の流動性が低いと、狭い回路間或いは電極間の隙間を埋めることができない、(2)実装時の加熱により残留溶媒或いは水分等の低分子量成分が蒸発してガス(アウトガス)を発生する、(3)実装時の加熱によりエポキシ分子の一部が分解してガス(アウトガス)を発生する、等の原因により、ボイドが形成されるが、加熱硬化された実装材料中のボイドは、接続信頼性の低下の要因となるので、ボイド発生の低減(良好なボイドレス性)が求められている。
【0004】
特開2004−339246号公報(特許文献1)には、光学部品や光学部品組み立て用に使用される樹脂として、特定構造の直鎖型脂肪族エポキシ樹脂、特定構造の直鎖型フッ素化エポキシ樹脂、及び光重合開始剤を含有することを特徴とする紫外線硬化型エポキシ樹脂組成物が記載されており(請求項1)、直鎖型脂肪族エポキシ樹脂及び直鎖型フッ素化エポキシ樹脂の少なくとも一方の含有量を、エポキシ樹脂成分全体中の40重量%以上とすることにより、低分子量成分の蒸発や分解等により発生するアウトガスの量を低減できると記載されている(段落0017)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の紫外線硬化型エポキシ樹脂組成物は、全てが低分子量エポキシで構成されており、紫外線とともに100℃程度の加熱で硬化する組成物である。そのため、近年の実装時に通常採用されている約200℃以上で数十秒という厳しい条件下では、低分子量エポキシの蒸発が激しく、ボイド低減効果はほとんどない。このように、従来技術のエポキシ樹脂組成物によっては、ボイド発生の低減は未だ不十分であり、優れた接着性及び耐熱性とともに、良好なボイドレス性が達成できる熱硬化性エポキシ樹脂組成物の開発が急務であった。
【特許文献1】特開2004−339246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた接着性及び耐熱性とともに、良好なボイドレス性が達成でき、実装材料として好適な熱硬化性のエポキシ樹脂組成物を提供することを課題とする。
【0007】
熱硬化性のエポキシ樹脂組成物に導電粒子を混合して導電性を付与した組成物は、導電性接着剤として用いることができ、素子等の実装とともに、素子や基板上の回路等の間を電気的に接続することができる。本発明は、又、このような導電性接着剤を提供するものである。
【0008】
導電性接着剤を、膜状(フィルム状)に成形することにより導電膜が得られる。特に、導電性接着剤に含有されている導電粒子を膜の厚み方向に配向させた場合、膜の厚み方向の抵抗(接続抵抗)が小さく、膜の面方向の絶縁性が高い、との両特性(以下異方導電性と言うことがある。)を有する異方導電膜を得ることができる。本発明は、さらに、このような異方導電膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
優れた接着性及び耐熱性とともに、良好なボイドレス性が達成できる熱硬化性のエポキシ樹脂組成物を提供するとの課題は、
(A)下記一般式(1)で表される直鎖型フッ素化エポキシ樹脂
【0010】
【化1】


(式中、nは2〜10の整数を表わす。)
(B)フェノキシ樹脂、及び
(C)潜在性硬化剤
を、含有し、前記(A)直鎖型フッ素化エポキシ樹脂の含有量が、エポキシ樹脂の合計重量の0.5重量%以上30重量%以下であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物(請求項1)により達成される。
【0011】
このエポキシ樹脂組成物の最大の特徴は、式(1)で表わされる直鎖型のフッ素化エポキシ樹脂を含有する点にある。本発明者は、検討の結果、式(1)で表わされる直鎖型のフッ素化エポキシ樹脂を含有することにより、次に示す(a)、(b)及び(c)の特性が得られ、その結果ボイドレス性が良好になることを見出し、さらに種々の検討を加えて本発明を完成した。
【0012】
(a) 式(1)で表わされる直鎖型のフッ素化エポキシ樹脂は室温下で液体のため、エポキシ樹脂組成物の粘度を下げることが可能である。従って、エポキシ樹脂組成物の流動性が増して、実装時の封止性(埋まり性)が向上し、狭い回路間や電極間の隙間を埋めることが容易になる。
【0013】
(b) 式(1)で表わされる直鎖型のフッ素化エポキシ樹脂は、フッ素置換されているため、同程度の分子量の未置換の直鎖脂肪族エポキシ等に比べて沸点が高く、実装時の加熱により蒸発することもない。又、前記のように、この直鎖型のフッ素化エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物は流動性が高いので、流動性を増すため添加される溶媒量を低減することができる。従って、残留溶媒の蒸発量を低減することができる。
【0014】
(c) 式(1)で表わされる直鎖型のフッ素化エポキシ樹脂は、エーテル結合を有していないため分解しにくい。
【0015】
式(1)で表される直鎖型フッ素化エポキシ樹脂は、例えば、下記式(2)で表わされる両末端にビニル基を有する化合物を酸化することによって得ることができる。
CH=CHCH(CFCHCH=CH (2)
(式中、nは2〜10の整数を表わす。)
上記酸化反応は、過安息香酸等の有機過酸化物による直接酸化や、ヘテロポリ酸を触媒とした過酸化水素や気体酸素により行うこともできる。
【0016】
式(1)で表される直鎖型フッ素化エポキシ樹脂としては、1,4−ビス(2',3'−エポキシプロピル)−パーフルオロ−n−ブタン等が挙げられ、市販されている樹脂を使用することもできる。
【0017】
式(1)で表される直鎖型フッ素化エポキシ樹脂は、nが2以上10以下の範囲で、nの異なる2以上のエポキシ樹脂を含んでいてもよく、nの異なる2以上のエポキシ樹脂の混合物としても使用できる。なお、式(1)において、nが1の化合物では、沸点が低すぎるためボイド抑制効果が充分でない。又nが10を越える化合物を用いると、樹脂の流動性が低下し、ボイドは発生しやすくなる等の問題が生じる傾向がある。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物に含有される(B)フェノキシ樹脂とは、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のジフェノールと、エピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンに基づく高分子量熱可塑性ポリエーテル樹脂を言う。フェノキシ樹脂としては、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールFとビスフェノールAとの共重合体フェノキシ樹脂、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、これらの臭素化誘導体であり難燃性能が付与された臭素化フェノキシ樹脂、又はフェノール性水酸基等のエポキシ樹脂と反応する2つ以上の官能基を有する化合物と前記フェノキシ樹脂をあらかじめ反応させた誘導体等が挙げられる。
【0019】
(B)フェノキシ樹脂の重量平均分子量としては、3000〜60000程度が好ましい。分子量が低すぎると実装温度下(200℃)での流動性が高くなりすぎ、実装時に流れ出る量が増えるため効果的に電極間を封止しにくくなる。一方、分子量が高すぎると温度を上げても十分に流動しないため、ボイドの原因になる場合がある。
【0020】
このようなフェノキシ樹脂として、より具体的には、エピコート4250、エピコート4256、エピコート4275、エピコート1256、エピコート1255(ジャパンエポキシレジン製)、フェノトートYP70、フェノトートYP50、フェノトートYP50S、フェノトートYP55(東都化成製)、PKHH、PKHJおよびPKHM−30(インケム社製)等の商品名で市販されているものが例示される。これらのフェノキシ樹脂は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記の(A)式(1)で表される直鎖型フッ素化エポキシ樹脂及び(B)フェノキシ樹脂に加えて、他のエポキシ樹脂を、本発明の効果が得られる範囲で含有することができる。このような他のエポキシ樹脂としては、直鎖脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等を例示することができる。又式(1)において、nが1の直鎖型フッ素化エポキシ樹脂やnが10を越える直鎖型フッ素化エポキシ樹脂も、本発明の前記の効果が得られる範囲で含有することができる。
【0022】
(A)式(1)で表される直鎖型フッ素化エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂の合計重量の0.5重量%以上、30重量%以下である。エポキシ樹脂の合計重量とは、(A)式(1)で表される直鎖型フッ素化エポキシ樹脂、(B)フェノキシ樹脂、及び他のエポキシ樹脂の重量の合計を意味する。
【0023】
直鎖型フッ素化エポキシ樹脂の含有量が、エポキシ樹脂の合計重量の0.5重量%未満の場合は、ボイドが発生しやすく良好なボイドレス性が得られにくい。
【0024】
直鎖型フッ素化エポキシ樹脂の含有量が、エポキシ樹脂の合計重量の30重量%を越える場合は、接着力が低下する傾向があり、さらに接着力が経時的に低下する傾向がある。又、加熱硬化後の樹脂のTgが低く、耐熱性が低下する傾向がある。より好ましくは、1重量%以上、10重量%以下である。
【0025】
(B)フェノキシ樹脂の含有量は、好ましくは、エポキシ樹脂の合計重量の10重量%以上70重量%以下である。(B)フェノキシ樹脂の含有量が10重量%未満では、実装温度下(200℃)での流動性が高くなりすぎ、実装時に流れ出る量が増えるため効果的に電極間を封止しにくくなる。一方70重量%を越えると、温度を上げても十分に流動しないため、ボイドの原因になる場合がある。
【0026】
本発明のエポキシ樹脂組成物に含有される(C)潜在性硬化剤とは、エポキシ樹脂の硬化剤であり、加熱することにより、(A)直鎖型フッ素化エポキシ樹脂や、必要により添加される他のエポキシ樹脂等に硬化反応を起させるものであるが、室温では硬化反応を進行させないものである。
【0027】
(C)潜在性硬化剤としては、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤が、好ましく例示される。マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤は、イミダゾール系硬化剤を微小カプセルで包んだ硬化剤であり、室温では硬化剤はカプセル内に内包されているのでエポキシ樹脂と接触せず、硬化反応は進行しないが、加熱によりカプセルが溶融して硬化剤がエポキシ樹脂中に分散し、硬化反応を進行させるものである。マイクロカプセルにより硬化剤がエポキシ樹脂と隔離されているため、経時安定性が高い。
【0028】
マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤としては、例えば、特開2000−80146号公報に記載されている、壁膜がウレタン結合を有するものが挙げられる。内包されるイミダゾール系化合物としては、イミダゾール化合物のエポキシ樹脂との付加物が例示され、イミダゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−ドデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0029】
潜在性硬化剤としては、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤以外に、分散型、光分解型、モレキュラーシーブ封入型、湿気硬化型、熱分解型等の硬化剤を使用することができる。分散型硬化剤としては、ジシアンアミド、有機酸ヒドラジド、メラミン誘導体、ポリアミド類等を、光分解型硬化剤としては、アリルジアゾニウム塩、トリアリルスルフォニウム塩、ジアリルヨードニウム塩等を、湿気硬化型硬化剤としては、ケチミン、熱分解型硬化剤としては、アミンイミドを例示することができる。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、前記各成分の混合のみでは、ボイド発生を低減するための充分な流動性が得られない場合は、その流動性を増すために、希釈剤や前記各成分を溶解する溶媒をさらに含有することができる。希釈剤としては、低分子量の液状エポキシ樹脂が例示され、溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、安息香酸エステル、エチレングリコールエステル、プロピレングリコールエステル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒が例示される。溶媒の量は、樹脂組成物総重量の70重量%以下が好ましく、70重量%を越えると、残留溶媒の蒸発によりボイドが発生しやすくなる。なお、希釈剤として用いられる低分子量の液状エポキシ樹脂は、前記の他のエポキシ樹脂に含まれる。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、前記の成分の他に、本発明の効果が達成される範囲で、他の成分、例えば、接着性を高めるためのシラン系あるいはチタン系のカップリング剤、合成ゴムやシリコーン化合物等の可撓性付与剤、酸化防止剤、消泡剤、無機充填剤、有機充填剤等の添加剤を必要に応じて適宜に配合することができる。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記の各成分を、所定の割合で配合し、混合、溶解することにより製造することができる。
【0033】
本発明は、その第二の態様として、前記のエポキシ樹脂組成物及び導電粒子を含有することを特徴とする導電性接着剤を提供するものである(請求項2)。
【0034】
導電粒子としては、Fe、Ni、Co等の金属の粒子や、炭素の粒子が挙げられる。このような導電粒子を、エポキシ樹脂組成物に加え混合することにより、組成物は電気伝導性を有するようになり、基板の回路と素子の間、2以上の素子間等の電気的接続に用いることができる。
【0035】
導電粒子の含有量の範囲は、特に限定されず、導電粒子の種類や比重等により好ましい範囲は異なるが、FeやNi等の金属粒子を導電粒子とする場合は、異方導電性を有しない接着剤の場合は、5〜90体積%が通常好ましい。なお、異方導電膜を形成する異方導電性接着剤の場合は0.01〜30%体積%が通常好ましい。
【0036】
本発明の導電性接着剤は、エポキシ樹脂組成物を構成する各成分及び導電粒子を、所定の割合で配合し、混合することにより製造することができる。
【0037】
前記導電粒子として、微細な金属粒が直線状に繋がった形状、又は針状の形状を呈するものを用いると、導電粒子が膜の厚み方向に配向しやすくなり、その配向により、導電粒子の充てん密度を高くすることなしに、接続抵抗(この導電性接着剤により接続される膜の厚み方向の抵抗)を低下させることができるし、膜の面方向の抵抗を高く維持することができる。すなわち、異方導電性を得やすくなり、後述する異方導電膜の製造が容易になるので好ましい。請求項3は、この好ましい態様に該当する。
【0038】
前記導電粒子を形成する微細な金属粒子としては、粒径10〜500nm程度のものが好ましい。鎖状に繋がった形状又は針状の形状としては、平均長さ2〜20μm程度で、太さと長さの比が10〜100程度のものが好ましく用いられる。微細な金属粒子が鎖状に繋がった形状を呈する導電粒子は、金属のイオンを、3価のチタン化合物等の還元剤を含む溶液に加えることで、液中に析出させて形成することができる(いわゆる還元析出法)。
【0039】
異方導電膜の形成に用いられる導電粒子、例えば前記の鎖状に繋がった形状又は針状の導電粒子としては、磁性を有する材料、特に金属が好ましい。磁性を有する材料を用いると、それ自体が有する磁性により導電粒子が配向するし、又後述するように磁場を用いて導電粒子の配向を容易に行うことができるので好ましい。請求項4は、この好ましい態様に該当し、前記の導電性接着剤であって、導電粒子が、磁性を有することを特徴とする導電性接着剤を提供するものである。
【0040】
磁性を有する材料としては、Fe、Ni、Co等の強磁性を有する金属の単体又はこれらの強磁性を有する金属を含む複合体が挙げられる。ここで、強磁性を有する金属を含む複合体としては、強磁性を有する2種類以上の金属の合金、強磁性を有する金属と他の金属との合金、強磁性を有する金属を含むその他の複合体が例示される。
【0041】
本発明は、その第三の態様として、請求項3の導電性接着剤からなり、前記導電粒子が膜の厚み方向に配向されていることを特徴とする異方導電膜を提供する(請求項5)。導電性接着剤をフィルム状に成形することにより、導電性を有するフィルム、すなわち導電性膜が得られる。さらに、請求項3の導電性接着剤は、微細な金属粒子が鎖状に繋がった形状又は針状を呈する導電粒子を含有するが、この導電粒子を膜の厚み方向に配向することにより高い異方性が得られる。
【0042】
特に導電粒子が磁性を有する材料からなる場合、すなわち、請求項4の導電性接着剤であって、導電粒子が微細な金属粒子が鎖状に繋がった形状又は針状を呈する場合は、この導電性接着剤をフィルム状に成形する際に、磁場を加えて導電粒子を配向させることができ、優れた異方導電膜を容易に得ることができる。
【0043】
すなわち、導電性接着剤をフィルム状に成形する方法としては、例えば、導電性接着剤を溶媒に溶解して粘度の低い溶液とし、PET等の平板上に塗布した後、乾燥して溶媒を除去し、その後前記平板から剥がす方法が挙げられるが、この成膜工程において、導電性接着剤を溶媒に溶解する等により、導電粒子が流動性を有する状態にした後膜の厚み方向の磁場を加えると、導電粒子を膜の厚み方向に配向させることができる。導電粒子を配向させた後、溶媒を除去すれば、異方導電膜を容易に得ることができる。
【0044】
このようにして得られた異方導電膜は、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC)上の電極と液晶パネルのガラス基板上に形成されたITO端子との電気的接続、半導体素子の高密度実装を可能にするフリップチップ法における、回路基板とフリップチップとの電気的接続等に、使用することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、実装材料として、優れた接着性及び耐熱性とともに、良好なボイドレス性を達成できる。又、このエポキシ樹脂組成物と導電粒子を混合して導電性を付与した本発明の導電性接着剤は、優れた接着性、耐熱性及び良好なボイドレス性を有する実装材料であるとともに、素子間や素子と電極間等を電気的に接続することができる優れた導電性接着剤である。
【0046】
又本発明の異方導電膜は、優れた異方導電性を有し、フレキシブルプリント基板(FPC)上の電極と液晶パネルのガラス基板上に形成されたITO端子との電気的接続、半導体素子の高密度実装を可能にするフリップチップ法における、回路基板とフリップチップとの電気的接続等に好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
(A)式(1)で表わされる直鎖型のフッ素化エポキシ樹脂:1,4−ビス(2',3'−エポキシプロピル)−パーフルオロ−n−ブタン〔ダイキン化成品販売(株)製、n=4〕
(B)フェノキシ樹脂〔ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート4250、エポキシ当量:約9000g/eq、重量平均分子量(MW):約60000〕、
(D)ビスフェノールA型の固形エポキシ樹脂〔大日本インキ化学工業(株) エピクロン4050〕、
(E)ビスフェノールA型の液状エポキシ樹脂〔ジャパンエポキシレジン(株)製 エピコート828〕、及び
(C)潜在性硬化剤:マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤〔旭化成エポキシ(株)製ノバキュアHX3921〕を、
(A)/(B)/(D)/(E)/(C)=25/30/20/25/35の重量比で用い、これらをγ−ブチロラクトンに溶解した後、三本ロールによる混練を行って固形分75%のエポキシ樹脂組成物(樹脂溶液)を調製した。
【0049】
このようにして調製した樹脂溶液を、離型処理したPETフィルム上にドクターナイフを用いて塗布した後、60℃で30分間、乾燥、固化させることによって、厚みが30μmのエポキシ樹脂組成物のフィルムを得た。
【0050】
(比較例1)
(A)/(B)/(D)/(E)/(C)(重量比)を、0/30/20/50/35とした以外は実施例1と同様にして、厚みが30μmのエポキシ樹脂組成物のフィルムを得た。
【0051】
(比較例2)
(A)/(B)/(D)/(E)/(C)(重量比)を、40/30/20/10/35とした以外は実施例1と同様にして、厚みが30μmのエポキシ樹脂組成物のフィルムを得た。
【0052】
以上のようにして得られたエポキシ樹脂組成物のフィルムについて、下記の方法で、接着力評価、耐熱・耐湿試験(100時間経過後接着力)、ボイド数評価、Tg測定を行った。その結果を表1に示す。
【0053】
〔接着力評価〕
幅85μm、長さ85μmの、Auメッキバンプが15μm間隔で154個配列されたICチップと、全面にITOが蒸着されたガラス基板とを用意した。このICチップと回路基板との間に前記で得られたエポキシ樹脂組成物のフィルムを挟み、200℃に加熱しながら1バンプ当たり15gfの圧力で20秒間加圧して接着させた。その後、シェア強度テスター(デイジー製2400PC)を用いて接着力を測定した。測定値を表1において、初期接着力として示す。
【0054】
〔耐熱・耐湿試験〕
前記方法にて作製したIC−石英ガラス接合体を60℃−90%に設定した恒温恒湿槽内に投入し、100時間経過後に取り出して再び接着力を測定した。測定値を表1において、100時間後接着力として示す。
【0055】
〔ボイドレス性評価〕
前記方法にて作製したIC−石英ガラス接合体において、ガラス側から電極間の状態を光学顕微鏡により観察、撮像し、画像解析によりボイドの面積を計算してその占有率を求めた。なお、任意の10箇所について測定を行い、その平均値を採用した。
【0056】
〔Tg測定〕
前記エポキシ樹脂組成物のフィルムを200℃の恒温槽中で1時間加熱硬化させ、えられた硬化物のTgを示差走査熱量計(島津製作所製 DSC−60)により求めた。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1及び比較例1、2のいずれにおいても、(B)、(D)及び(C)の配合割合は同じであり、又液状のエポキシである(A)と(E)の合計の配合割合も同じである。ただし、(A)直鎖型のフッ素化エポキシ樹脂の配合割合を変え、それに応じて(E)の配合割合を変え、(A)と(E)の合計量が同じとなるようにした。
【0059】
表1の結果より明らかなように、(A)直鎖型のフッ素化エポキシ樹脂を用いた、実施例1では、ボイド占有率が低く、優れたボイドレス性が得られている。又、優れた初期接着力とともに、接着力の経時安定性(100時間後接着力)も高く、又Tgも高く、耐熱性に優れている。
【0060】
一方、(A)直鎖型のフッ素化エポキシ樹脂を用いていない比較例1では、ボイド占有率が高い。又(A)直鎖型のフッ素化エポキシ樹脂の含有量が、本発明の範囲を越えている比較例2では、初期接着力及び接着力の経時安定性(100時間後接着力)がともに低く、又Tgも低く、耐熱性も不十分である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される直鎖型フッ素化エポキシ樹脂
【化1】


(式中、nは2〜10の整数を表わす。)
(B)フェノキシ樹脂、及び
(C)潜在性硬化剤
を、含有し、前記(A)直鎖型フッ素化エポキシ樹脂の含有量が、エポキシ樹脂の合計重量の0.5重量%以上30重量%以下であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物、及び導電粒子を含有することを特徴とする導電性接着剤。
【請求項3】
前記導電粒子が、微細な金属粒が直線状に繋がった形状又は針状を呈することを特徴とする請求項2に記載の導電性接着剤。
【請求項4】
前記導電粒子が、磁性を有することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の導電性接着剤。
【請求項5】
請求項3に記載の導電性接着剤からなり、前記導電粒子が膜の厚み方向に配向されていることを特徴とする異方導電膜。

【公開番号】特開2006−299025(P2006−299025A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120510(P2005−120510)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】