説明

エレベータ用電源装置

【課題】交流電源停電時のバックアップ機能を備えたエレベータ電源で、1ユニットの蓄電池を用いた従来回路は、電力が通過する変換器の数が多く、蓄電池の利用率が低い。
【解決手段】交流電源停電時、電動機駆動用インバータを交流電源から切離し、制御システム等のバックアップ電源に用いている蓄電池を、電動機駆動用インバータの交流入力に接続し、コンバータ回路、インバータ回路を介して、交流電動機に電力を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータシステムにおけるエレベータの電動機駆動用インバータを動かすための制御関連の電源、ブレーキ回路を駆動するための電源などを交流電源停電時一括でバックアップするためのエレベータ用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータシステムにおいては、交流電源が停電した時、電動機駆動用インバータや、それを制御するシステムが停止してしまい、エレベータかごの中に人が閉じ込められてしまうのを回避するための対策が必要である。そこで、停電が発生した場合、エレベータを最寄りの階まで移動させるために、エレベータシステムを蓄電池を搭載した無停電電源装置(UPS)でバックアップすることで、閉じ込めを回避している。そのシステムとして特許文献1、特許文献2などがある。
【0003】
特許文献1は、エレベータ用電動機を駆動するための蓄電池と、エレベータの制御回路用交流電源をバックアップするためのUPSに内蔵された蓄電池を用いた従来例である。
停電が発生すると、これを検知して、サイリスタスイッチを点弧して電動機駆動用インバータ回路の直流中間回路に蓄電池を接続する構成である。蓄電池を2ユニット用いるため、装置構成及び管理が複雑になる欠点がある。
【0004】
また、特許文献2は、エレベータ用電動機を駆動するための蓄電池を昇降圧チョッパ回路を用いて電動機駆動用インバータの直流中間回路に接続する構成である。この構成では、エレベータの大きさ(電動機容量)に合わせて昇降圧チョッパ回路を準備する必要があり、装置の共通化ができず高価格になるなどの問題がある。また蓄電池から昇降圧チョッパ回路とインバータ回路を介して電動機に電力を供給するので電力ロスが大きく蓄電池の電力を効率よく利用できない。
【0005】
図4に、特許文献1及び特許文献2を改良したシステムを示す。蓄電池BATを1ユニットだけ使用した構成である。
エレベータ駆動用電動機ACMを駆動するためのインバータ回路INVは、交流電圧を直流に変換するダイオード整流器D1、平滑用コンデンサC3、直流電圧を電動機駆動用交流電圧に変換するインバータT1、開閉器RY3と抵抗R1からなる起動時の突入電流抑制回路、コンデンサC3の電圧と交流入力をダイオード整流器D2で整流した電圧を並列接続するダイオードD3、D4、平滑用コンデンサC4、制御電源CPSなどで構成される。
【0006】
また、停電時の電力を確保するためのバックアップ電源BUPは、蓄電池BATを直流入力として、開閉器RY1とRY2、昇降圧チョッパCHP、平滑コンデンサC1、ダイオードを逆並列したIGBTT11〜T14で構成された単相インバータ回路、リアクトルL1、L2及びコンデンサC2からなる交流フィルタなどで構成される。
交流入力と電動機駆動用インバータINVの交流入力との間には遮断器CBと開閉器51が、バックアップ電源BUPの出力と電動機駆動用インバータINVの交流入力との間には開閉器RY52が、各々接続される。また、バックアップ電源BUPの出力は制御システムCNT及び電動機駆動用インバータINVの制御電源用交流入力端子に、各々接続される。
【0007】
この様な構成において、交流電源が健全な場合は、開閉器RY51を閉、RY52を開、RY1を閉、RY2を閉とする。エレベータ用電動機を駆動する電動機駆動用インバータINVの電源は交流電源から直接供給され、エレベータを制御する制御システムCNTへは交流電源からバックアップ電源内の開閉器RY1を通して電源が供給される。この時、バックアップ電源のダイオードを逆並列したIGBTT11〜T14、コンデンサC1にて整流平滑された直流電圧から昇降圧チョッパ回路CHPにより蓄電池BATが充電される。
【0008】
エレベータシステムが交流電源の異常を検出すると、RY51及びRY1を開とし、エレベータ用バックアップ電源BUPは、蓄電池BATから昇降圧チョッパCHPで蓄電池電圧を昇圧し、IGBTT11〜T14で構成されるインバータ回路を通してエレベータの制御システムCNTをバックアップする。次にエレベータを最寄り階まで運転する準備ができると開閉器RY52を閉とし、電動機駆動用インバータINVへ電力を供給し、最寄りの階まで移動運転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−174229号公報
【特許文献2】特開2005−192298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、蓄電池を1ユニット使用したエレベータ用電源を実現できるが、このシステムでは、電力が通過する変換器の数が多くなる。即ち、蓄電池BATから昇降圧チョッパCHP、単相インバータ(T11〜T14で構成)、ダイオード整流回路D1及び電動機駆動用インバータT1を経由して、電動機ACMを駆動することになり、蓄電池の電力を効率よく利用することができない。また、特許文献と同じようにエレベータの規模に合わせた出力容量を持つバックアップ電源を準備する必要がある。
従って、本発明の課題は、蓄電池を1ユニットのみ使用し、電力が通過する変換回路の数が少なく、蓄電池電力を効率よく利用できるエレベータ用電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、第1の発明においては、三相交流電源を入力として、前記三相交流電源の交流を直流に変換するコンバータ回路と前記直流を三相交流に変換するインバータ回路とを有する電動機駆動用インバータと、蓄電池とこの蓄電池の直流電圧を単相交流出力電圧に変換又は単相交流電圧を直流に変換し前記蓄電池を充放電する単相電源回路と、を備えたエレベータ電源装置において、前記三相交流電源と前記コンバータ回路入力との間を開閉する第1の開閉器と、前記三相交流電源のいずれか2相と前記電源回路の単相交流出力との間を開閉する第2の開閉器と、前記蓄電池と前記コンバータ回路入力との間を開閉する第3の開閉器とを備え、前記三相交流電源が健全な時は、前記第1の開閉器を閉、前記第2の開閉器を閉、前記第3の開閉器を開とし、前記三相交流電源から、前記コンバータ回路と前記インバータ回路とを介して電動機に電力を供給し、前記三相交流電源が停電の時は、前記第1の開閉器を開、前記第2の開閉器を開、前記第3の開閉器を閉とし、前記蓄電池から前記コンバータ回路と前記インバータ回路とを介して電動機に電力を供給する。
【0012】
第2の発明においては、第1の発明における前記単相電源回路の単相交流出力の両方にリアクトルを備える。
【0013】
第3の発明においては、第1の発明における前記単相電源回路の単相交流出力と前記単相電源回路の直流回路との間にダイオードを接続する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、交流電源が停電時は蓄電池BATを電動機駆動用インバータINVのコンバータ回路D1の交流入力に接続し、コンバータ回路D1とインバータ回路T1を介して電動機ACMに電力を供給している。この結果、電力が通過する変換回路の数が減少し、蓄電池電力を効率よく利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施例を示す回路図である。
【図2】図1の電流動作を示す動作図である。
【図3】本発明の第2の実施例を示す回路図である。
【図4】従来の実施例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の要点は、従来交流電源停電時に制御システムバックアップ用に使用していた蓄電池を、交流電源停電時は電動機駆動用インバータINVのコンバータ回路D1の交流入力にも接続し、コンバータ回路D1とインバータ回路T1を介して電動機ACMに電力を供給し、蓄電池1ユニットで電源装置を構成している点である。
【実施例1】
【0017】
図1に、本発明の第1の実施例を示す。エレベータ駆動用電動機ACMを駆動するためのインバータ回路INVは、交流電圧を直流に変換するダイオードD11〜D16で構成したダイオード整流器、平滑用コンデンサC3、直流電圧を電動機駆動用交流電圧に変換するインバータT1、開閉器RY3と抵抗R1からなる起動時の突入電流抑制回路、コンデンサC3の電圧と交流入力をD21〜D24で構成したダイオード整流器で整流した電圧を並列接続するダイオードD3、D4、平滑用コンデンサC4、制御電源CPSなどで構成される。
【0018】
また、停電時の電力を確保するためのバックアップ電源BUPは、蓄電池BATを直流入力として、開閉器RY1とRY2、昇降圧チョッパCHP、平滑コンデンサC1、ダイオードを逆並列したIGBTT11〜T14で構成された単相インバータ回路、リアクトルL1、L2及びコンデンサC2からなる交流フィルタなどで構成される。
【0019】
図示されていない交流電源に接続される装置の交流入力(R、S、T)と電動機駆動用インバータINVの交流入力との間には遮断器CBと開閉器51が、バックアップ電源BUPの出力と装置の交流入力との間には開閉器RY1が、蓄電池BATと電動機駆動用インバータINVの交流入力との間には開閉器RY53が、各々接続される。また、バックアップ電源BUPの出力は制御システムCNT及び電動機駆動用インバータINVの制御電源用交流入力端子に、各々接続される。
【0020】
この様な構成において、交流電源が健全な場合は、開閉器RY51を閉、RY53を開、RY1を閉、RY2を閉とする。エレベータ用電動機を駆動する電動機駆動用インバータINVの電源は交流電源から供給され、エレベータを制御する制御システムCNTへは交流電源からバックアップ電源内の開閉器RY1を通して電源が供給される。この時、バックアップ電源内部のダイオードを逆並列したIGBTT11〜T14及びコンデンサC1にて整流平滑された直流電圧から昇降圧チョッパ回路CHPにより、開閉器RY2を介して蓄電池BATが充電される。
【0021】
エレベータシステムが交流電源の異常を検出すると、RY51及びRY1を開とし、エレベータ用バックアップ電源BUPは、蓄電池BATから昇降圧チョッパCHPで蓄電池電圧を昇圧し、IGBTT11〜T14で構成される単相インバータ回路を通してエレベータの制御システムCNT及び電動機駆動用インバータINVの制御電源をバックアップする。次にエレベータを最寄り階まで運転する準備ができるとRY53を閉とし、電動機駆動用インバータINVへ電力を供給し、最寄りの階まで移動運転する。
【0022】
この様な構成におけるIGBT11〜14で構成された単相インバータ回路の交流フィルタとして、L1、L2及びコンデンサC2から構成されるフィルタ回路を用いる必要性を説明する。交流電源停電時は、蓄電池BATの電圧を昇圧チョッパCHPで昇圧するが、この電圧は電動機駆動用インバータINVの制御電源CPSへ供給する直流電圧となるコンデンサC4の電圧より高い電圧となる。このため、単相インバータ回路のIGBTT13がオンすると、図2に示すように、電流はコンデンサC1→IGBTT13→リアクトルL2→ダイオードD21→コンデンサC4→ダイオードD4→ダイオードD16→開閉器53→昇降圧チョッパCHP→コンデンサC1の経路となる。また、単相インバータ回路のIGBTT11がオンすると、電流はコンデンサC1→IGBTT11→リアクトルL1→ダイオードD23→コンデンサC4→ダイオードD4→ダイオードD16→開閉器53→昇降圧チョッパCHP→コンデンサC1の経路となる。
【0023】
従って、これらの経路にはコンデンサC1の電圧とコンデンC4の電圧差で流れる電流を抑制するためのインピーダンスが必要となり、一般的なリアクトル1個とコンデンサ1個で構成する交流フィルタではなく、各出力に設けるリアクトル2個(L1、L2)とコンデンサ1個(C2)で構成する交流フィルタを用いる。
【実施例2】
【0024】
図3に、本発明の第2の実施例を示す。第1の実施例との違いは、バックアップ電源BUPのIGBTT11〜T14で構成された単相インバータ回路の出力に接続されたリアクトルL1、L2とコンデンサC2との各接続点と単相インバータ回路の直流ライン(P、N)との間にダイオードが接続されている点である。即ち、リアクトルL1とコンデンサC2との接続点とPラインとの間にはダイオードD5が、リアクトルL1とコンデンサC2との接続点とNラインとの間にはダイオードD6が、リアクトルL2とコンデンサC2との接続点とPラインとの間にはダイオードD7が、リアクトルL2とコンデンサC2との接続点とNラインとの間にはダイオードD8が、各々接続される。
【0025】
この様に構成することにより、リアクトルに過電流が流れた場合でもコンデンサ2のピーク電圧を直流ラインの電圧でクランプすることが可能となり、電動機駆動用インバータINVの制御電源CPSへ供給する直流電圧となるコンデンサC4や制御システムCNTに過電圧が印加されるのを抑制できる。ここでは、4個のダイオードD5〜D8を接続した例を示したが、単相インバータ回路の構成の違いや制御方式の違いにより、必ずしも4個用いる必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、エレベータ用電源に限らず、交流電源が停電した時にバックアップが必要な非常用ドア開閉装置、クレーン巻上装置などへの適用が可能である。
【符号の説明】
【0027】
CB・・・遮断器 ACM・・・交流電動機 BAT・・・蓄電池
RY1、RY2、RY3、RY51、RY52、RY53・・・開閉器
D1・・・コンバータ回路 T1・・・インバータ回路
INV・・・電動機駆動用インバータ D2・・・ダイオード整流器
R1・・・抵抗 CPS・・・制御電源 CNT・・・制御システム
BUP・・・バックアップ電源 CHP・・・昇降圧チョッパ
C1〜C4・・・コンデンサ T11〜T14・・・IGBT
D3〜D8、D11〜D16、D21〜D24・・・ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電源を入力として、前記三相交流電源の交流を直流に変換するコンバータ回路と前記直流を三相交流に変換するインバータ回路とを有する電動機駆動用インバータと、蓄電池とこの蓄電池の直流電圧を単相交流出力電圧に変換又は単相交流電圧を直流に変換し前記蓄電池を充放電する単相電源回路と、を備えたエレベータ電源装置において、
前記三相交流電源と前記コンバータ回路入力との間を開閉する第1の開閉器と、前記三相交流電源のいずれか2相と前記電源回路の単相交流出力との間を開閉する第2の開閉器と、前記蓄電池と前記コンバータ回路入力との間を開閉する第3の開閉器とを備え、
前記三相交流電源が健全な時は、前記第1の開閉器を閉、前記第2の開閉器を閉、前記第3の開閉器を開とし、前記三相交流電源から、前記コンバータ回路と前記インバータ回路とを介して電動機に電力を供給し、
前記三相交流電源が停電の時は、前記第1の開閉器を開、前記第2の開閉器を開、前記第3の開閉器を閉とし、前記蓄電池から前記コンバータ回路と前記インバータ回路とを介して電動機に電力を供給することを特徴とするエレベータ用電源装置。
【請求項2】
前記単相電源回路の単相交流出力の両方にリアクトルを備えることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用電源装置。
【請求項3】
前記単相電源回路の単相交流出力と前記単相電源回路の直流回路との間にダイオードを接続することを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−143056(P2012−143056A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293121(P2010−293121)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】