説明

エンジンの廃熱制御装置

【課題】熱利用要求に応じた廃熱制御を実施しつつ、廃熱制御の実施に伴うエンジン運転効率の低下等の不都合を最小限に抑える。
【解決手段】ECU40は、熱利用要求に基づいてエンジンの廃熱量を制御する。すなわち、ECU40は、エンジン10の吸気弁の開弁期間をエンジン運転状態に基づいて制御するとともに、都度のエンジン運転状態において最高燃費となる最高効率時期に基づいてエンジン10の点火時期を制御する。特に、ECU40は、点火時期を最高効率時期に対して進角側に変更するための進角余裕があるか否かをエンジン運転状態に基づいて判定し、該進角余裕がないと判定される場合に、吸気弁の閉タイミングを吸気下死点を基準に進角側又は遅角側に変更して前記エンジンの実圧縮比を低下させる実圧縮比低下制御と、点火時期を前記最高効率時期に対して進角側に変更する点火進角制御とを実施することによりエンジン廃熱量を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱利用要求に基づいてエンジンの廃熱量を制御するエンジンの廃熱制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載エンジンにおいて、燃料の燃焼に伴い発生する燃焼エネルギには、車両走行に用いられる運動エネルギ以外に熱エネルギが多く含まれており、その熱エネルギを利用して車室内の暖房や触媒暖機等が行われている。例えば、エンジン冷却水に含まれるエンジン廃熱を回収し、その回収した廃熱を利用して暖房を行う構成が知られている。
【0003】
また、エンジン運転中において、点火時期や吸排気バルブのバルブ開閉タイミングを制御することでエンジン廃熱量を増加させ、これによりエンジンや触媒の暖機を促進する技術が各種提案されている(例えば特許文献1や特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平2−96476号公報
【特許文献2】特許第2909219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、熱利用要求に伴いエンジン廃熱量を増加させるとき、そのときのエンジン運転状態にかかわらず点火時期やバルブタイミングを変更した場合には、廃熱増加に伴いエンジン運転効率が過剰に低下する等の不都合が生じることが考えられる。すなわち、例えば廃熱増加を効率よく実施可能なエンジン運転領域が所定領域に限られる場合、現在のエンジン運転状態がその所定領域以外に属しているときには、廃熱制御によってエンジン廃熱量を増大させることにより、エンジン運転効率が大きく低下してしまうことが懸念される。しかしながら、上記特許文献1や特許文献2では、廃熱増加に伴うエンジン運転効率の低下(燃費悪化)の抑制については考慮されていない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、熱利用要求に応じた廃熱制御を実施することができ、しかも廃熱制御の実施に伴うエンジン運転効率の低下等の不都合を最小限に抑えることができるエンジンの廃熱制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0008】
本発明は、エンジンの廃熱を再利用する廃熱再利用システムに適用され、熱利用要求による要求熱量に基づいて前記エンジンの廃熱量を制御するエンジンの廃熱制御装置に関するものである。そして、請求項1に記載の発明は、前記エンジンの吸気弁の開弁期間をエンジン運転状態に基づいて制御する吸気弁制御手段と、都度のエンジン運転状態において最高燃費となる最高効率時期に基づいて前記エンジンの点火時期を制御する点火制御手段と、前記点火時期を前記最高効率時期に対して進角側に変更するための進角余裕があるか否かをエンジン運転状態に基づいて判定する進角余裕判定手段と、前記進角余裕判定手段により前記進角余裕がないと判定される場合に、前記吸気弁制御手段により前記吸気弁の閉タイミングを吸気下死点を基準に進角側又は遅角側に変更して前記エンジンの実圧縮比を低下させる実圧縮比低下制御と、前記点火制御手段により前記点火時期を前記最高効率時期に対して進角側に変更する点火進角制御とを実施することにより前記廃熱量を増加させる廃熱制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
熱利用要求に伴いエンジン廃熱の要求熱量が増加した場合、廃熱増加に伴う燃費悪化をできるだけ抑制する等の観点から、点火時期を最高効率時期よりも進角側に変更することによって廃熱増加を行うことがある。一方、熱利用要求があったときのエンジン運転状態によっては、ノッキング発生のおそれがある等の理由から、点火時期を最高効率時期よりも進角側に変更できない場合がある。この場合、点火進角によるエンジン廃熱量の増加を実施することができず、廃熱増加に際し燃費悪化の抑制を好適に図ることができない等の不都合が生じることが懸念される。
【0010】
その点、本発明では、廃熱増加を実施するときに点火時期を最高効率時期よりも進角側に変更するための進角余裕がない場合、エンジンの吸気弁の閉タイミングを吸気下死点を基準に進角側又は遅角側に変更する。すなわち、吸気弁の閉タイミングを、吸気下死点を基準に遅角側又は進角側に変更することにより、エンジンの実圧縮比が低下され、この実圧縮比の低下によりノッキングの発生が抑制されて点火時期の進角余裕を確保することができる。その結果、エンジン廃熱量を増加させる場合に、点火時期を最高効率時期よりも進角側に変更することが可能になる。したがって、本発明によれば、熱利用要求に応じた廃熱制御を実施することができ、しかも廃熱制御の実施に伴うエンジン運転効率の低下等の不都合を最小限に抑えることができる。
【0011】
なお、吸気弁の閉タイミングを吸気下死点を基準に進角側に変更する場合には、実圧縮比の低下に加え、吸気弁の閉じ後における吸気の膨張により圧縮行程の気筒内温度が低下する。この実圧縮比の低下及び温度低下により、ノッキングの発生を抑制することが可能になる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、前記廃熱制御手段により実施される前記実圧縮比低下制御は、前記吸気弁の閉タイミングを遅角側に制御して実圧縮比を低下させる吸気弁閉タイミング遅角制御であり、前記要求熱量が増加した場合に、前記吸気弁の開弁期間と前記エンジンの排気弁の開弁期間とがオーバーラップするバルブオーバーラップ量を制御するオーバーラップ量制御手段を備え、前記進角余裕判定手段が、前記バルブオーバーラップ量の増大制御を前記吸気弁の開弁期間の変更によって実施するとした場合にそのバルブオーバーラップ量の変更後において前記点火時期を前記最高効率時期に対して進角側に変更するための進角余裕があるか否かをエンジン運転状態に基づいて判定する。
【0013】
エンジン廃熱量を増加させるには、エンジンの吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とのオーバーラップ量を増大させ、これにより、内部EGR量の増大や、実圧縮比の増加、膨張比の増加を図ることによって行うことがある。ここで、バルブオーバーラップ量を増大させるには、エンジン廃熱量を増加させたときの燃費等の観点からすると、基本的には吸気弁の開弁期間の変更によって実施するのが望ましい。その反面、バルブオーバーラップ量の増大を吸気弁の開弁期間の進角制御によって行うとき、その開弁期間の進角によって吸気バルブの閉タイミングが進角側に変更される場合には、吸気バルブの閉タイミングが吸気上死点に近付くことによりエンジンの実圧縮比が高くなる。そのため、エンジン運転状態によっては、実圧縮比が高くなるのに伴い耐ノック性の低下を招き、その結果、要求熱量を満足するのに十分な点火進角量を確保できない場合があると考えられる。したがって、上記構成のように、バルブオーバーラップ量の変更後における耐ノック性の変化を考慮して点火時期の進角余裕の有無を判断するとよい。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記進角余裕判定手段により前記進角余裕がないと判定される場合に、前記吸気弁閉タイミング遅角制御と前記点火進角制御とに加え、前記排気弁の開弁期間を変更することによる前記バルブオーバーラップ量の増大制御を実施して前記廃熱量を増加させる第1の廃熱増加手段と、該進角余裕があると判定される場合に、前記吸気弁の開弁期間を変更することによる前記バルブオーバーラップ量の増大制御と前記点火進角制御とを実施して前記廃熱量を増加させる第2の廃熱増加手段とを備えることを特徴とする。上記構成によれば、点火進角余裕の有無によってバルブオーバーラップ量の変更を吸気弁側で実施するか又は排気弁側で実施するかを切り替えるため、エンジン廃熱量を増加させるときに点火進角余裕がある場合において、燃費悪化抑制のための最適な制御を実施することができる。一方、点火時期の進角余裕がない場合には、吸気弁の閉タイミングを遅角側に制御して実圧縮比を低下させることにより点火時期の進角余裕を確保しつつ、バルブオーバーラップ量の調整を排気弁の開弁期間の変更によって実施することができ、これにより、要求熱量を満たしつつ燃費悪化を最小限に抑える手段による廃熱増加が実施可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明では、前記進角余裕判定手段により前記進角余裕がないと判定される場合、前記要求熱量に基づいて前記吸気弁の閉タイミングの変更量を設定し、該設定した変更量に基づいて前記吸気弁制御を実施する。この構成によれば、要求熱量に応じて吸気弁の閉タイミングの変更量を設定することにより、その変更量に合わせて点火時期の進角余裕を確保することができ、ひいては要求熱量に見合う熱量を点火時期の進角制御によって発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】廃熱制御システムの概要を示す構成図。
【図2】点火時期特性を示す図。
【図3】本廃熱制御を説明するための図。
【図4】廃熱制御の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、火花点火式の多気筒ガソリンエンジンを搭載した車両に本発明を具体化した実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の廃熱制御システム(廃熱再利用システム)の概要を示す構成図である。
【0018】
図1において、エンジン10には、吸気管11と排気管12とが接続されており、吸気管11には気筒内への吸入空気量を調整するためのスロットルバルブ13が設けられている。スロットルバルブ13は、モータ等からなるスロットルアクチュエータ14により電気的に開閉駆動される空気量調整手段である。スロットルアクチュエータ14にはスロットルバルブ13の開度(スロットル開度)を検出するためのスロットルセンサが内蔵されている。
【0019】
エンジン10は、同エンジン10の各気筒に燃料を噴射供給する燃料噴射手段としてのインジェクタ15と、気筒ごとに設けられた点火プラグ16に点火火花を発生させる点火手段としてのイグナイタ(点火装置)17と、吸排気の各バルブの開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整手段としての吸気側バルブ駆動機構18及び排気側バルブ駆動機構19とを備えている。本実施形態では、吸気ポート噴射式エンジンを採用しており、インジェクタ15が吸気ポート近傍に設けられる構成としているが、これに代えて、直噴式エンジンを採用し、インジェクタ15が各気筒のシリンダヘッド等に設けられる構成としてもよい。
【0020】
吸気側及び排気側の各バルブ駆動機構18,19は、エンジン10のクランク軸に対する吸気側及び排気側の各カム軸の進角量を調整するものである。吸気側バルブ駆動機構18によれば、吸気バルブの開閉タイミングが進角側又は遅角側に変更され、排気側バルブ駆動機構19によれば、排気バルブの開閉タイミングが進角側又は遅角側に変更される。また、吸排気バルブの開閉タイミングが変更されることにより、吸気バルブの開弁期間と排気バルブの開弁期間とがオーバーラップする際のバルブオーバーラップ量(以下、単にオーバーラップ量ともいう)が変更される。本実施形態では、吸気バルブ及び排気バルブの開弁期間は一定のままその開時期及び閉時期を進角側又は遅角側に変更することにより各バルブのバルブタイミングを変更している。
【0021】
排気管12には、排気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ21が設けられている。また、酸素濃度センサ21の下流側には、排気浄化装置としての触媒22が設けられている。触媒22は例えば三元触媒であり、排気が通過する際に排気中の有害成分等を浄化する。また、排気管12において触媒22よりも下流側には、排気に含まれる熱エネルギ(排気熱)を回収する熱回収装置23が設けられている。熱回収装置23は、排気が有する熱をエンジン冷却水に伝えることで回収し、例えば車室内の暖房を実施する場合の熱源として利用されるものとなっている。
【0022】
また、本システムには、排気の一部をEGRガスとして吸気系に導入するEGR装置(排気再循環装置)が設けられている。すなわち、吸気管11と排気管12との間には、一端が吸気管11のスロットルバルブ下流側に接続され、他端が排気管12の触媒下流側(上流側でも可)に接続されたEGR配管25が設けられている。また、EGR配管25の途中には、電磁式のEGR弁26が設けられており、そのEGR弁26の開度を調整することでEGRガス量が増減調整されるようになっている。
【0023】
次に、エンジン10の冷却系の構成について説明する。
【0024】
エンジン10のシリンダブロックやシリンダヘッドの内部にはウォータジャケット31が形成されており、このウォータジャケット31に冷却水が循環供給されることでエンジン10の冷却が行われるようになっている。ウォータジャケット31内の冷却水の温度(冷却水温)は水温センサ32により検出される。ウォータジャケット31には冷却水配管等からなる循環経路33が接続されており、その循環経路33には、冷却水を循環させるためのウォータポンプ34が設けられている。ウォータポンプ34は例えばエンジン10の回転に伴い駆動される機械式ポンプであるが、電動式ポンプであってもよい。また、ウォータポンプ34により冷却水量が調整できる構成であってもよい。
【0025】
循環経路33は、エンジン10(ウォータジャケット31)の出口側において熱回収装置23に向けて延び、熱回収装置23を経由して再びエンジン10に戻るようにして設けられている。循環経路33において、熱回収装置23の下流側にはヒータコア35が設けられている。ヒータコア35には、図示しないブロアファンから空調風が送り込まれるようになっており、空調風がヒータコア35又はその付近を通過することで、ヒータコア35からの受熱により空調風が加熱され、温風が車室内に供給される。
【0026】
循環経路33は、ヒータコア35の下流側で二方に分岐され、その一方の循環経路33Aに大気放熱部としてのラジエータ36が設けられている。また、循環経路33の分岐部には、冷却水温度に応じて作動することで冷却水の流路を変更するサーモスタット37が設けられている。したがって、冷却水が低温(サーモスタット作動温度未満)である場合には、ラジエータ36側への冷却水の流入がサーモスタット37により阻止され、冷却水はラジエータ36で放熱されることなく循環経路33内を循環する。例えば、エンジン10の暖機完了前(暖機運転時)にはラジエータ36での冷却水の冷却(放熱)が抑制される。また、冷却水が高温(サーモスタット作動温度以上)になると、ラジエータ36側への冷却水の流入がサーモスタット37により許容され、冷却水はラジエータ36で放熱されつつ循環経路33内を循環する。これにより、エンジン運転状態下において冷却水が適温(例えば80℃程度)で維持される。
【0027】
本制御システムは、エンジン制御の中枢をなすECU(電子制御装置)40を備えており、そのECU40によりエンジン10の運転に関する各種制御が実施される。すなわち、ECU40は、周知の通りCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。本システムでは、エンジン運転状態を検出するための運転状態検出手段として、エンジン回転速度を検出する回転速度センサ41、吸入空気量や吸気管負圧といったエンジン負荷を検出する負荷センサ42等を備えており、これら各センサ41,42や上述した酸素濃度センサ21、水温センサ32等の各検出信号がECU40に適宜入力される。
【0028】
ECU40は、上述した各種センサから各々検出信号を入力し、それらの各種検出信号に基づいてインジェクタ15による燃料噴射制御、イグナイタ17による点火時期制御、バルブ駆動機構18,19によるバルブタイミング制御、スロットルバルブ13(スロットルアクチュエータ14)による空気量制御等を実施する。上記の各種制御は、基本的には、都度のエンジン運転状態においてエンジン10の最高効率(最高燃費)が得られるようにして適合データ等に基づいて実施される。
【0029】
点火時期制御について具体的には、都度のエンジン回転速度やエンジン負荷等といったエンジン運転状態に関するパラメータに基づいて、トルクが最大となる点火時期(MBT:Minimum Advance for Best Torque)に最も近い点火時期を、ノック限界を超えない範囲において都度設定する。すなわち、ECU40は、基本的には都度のエンジン運転状態において最高燃費となる最高効率時期(最適点火時期)を都度の点火時期として設定しており、その最適点火時期としてMBT又はノック限界(トレースノック点火時期)のうち遅角側を設定している。
【0030】
また、バルブタイミング制御については、エンジン回転速度やエンジン負荷等をパラメータとしてバルブオーバーラップ量を可変に設定し、これにより、吸気通路への既燃ガスの吹き返し量(内部EGR量)を調整したり、実圧縮比の増加や膨張比の増加を図ったりしている。具体的には、例えば中負荷運転時において、必要に応じてバルブオーバーラップ量を増大させて内部EGRを実施することにより、燃焼温度を低下させてNOxの排出を低減させるようにしている。
【0031】
本制御システムでは、エンジン10において燃料の燃焼により生じる燃料燃焼エネルギのうち、熱損失分となる熱エネルギ(運動エネルギ以外のエネルギ)を再利用することで、システム全体としての燃費改善を図るようにしている。つまり、ECU40は、都度の熱利用要求及びエンジン運転状態に基づいてエンジン10の廃熱制御を実施する。
【0032】
廃熱制御について具体的には、ECU40は、エンジン10の熱エネルギ(熱損失)である廃熱量(発生熱量)を増加又は減少させる廃熱量調整手段を備えており、暖房要求や触媒暖機要求などの熱利用要求に応じて、同手段によりエンジン10の廃熱量を調整する。また特に、本廃熱制御では、エンジン10の点火時期制御とバルブタイミング制御とを適宜組み合わせることにより、廃熱増加に伴う燃費悪化を極力抑制しつつ要求熱量に見合う量のエンジン廃熱を創出することとしている。具体的には、本システムでは、
・点火時期をMBTに対して進角側に変更すると廃熱量が増加すること
・バルブオーバーラップ量を増大させると廃熱量が増加すること
の少なくともいずれかを利用して廃熱量の増加を図る構成としている。
【0033】
ここで、点火時期の変更によってエンジン廃熱量を増加させる場合、点火時期をMBTに対して遅角側に変更することによって実現することは可能である。ところが、本発明者らの知見によれば、点火時期をMBTに対して遅角側に変更するよりも進角側に変更する方が、エンジン廃熱量を増加させたときの燃費の悪化をより抑制することが可能である。そこで、本廃熱制御では、基本的には点火時期をMBTに対して進角側に変更することにより廃熱増加を行っている。
【0034】
図2は、点火時期特性を示す図である。図2のうち、(a)は点火時期とエンジン廃熱量との関係を示し、(b)は点火時期と燃料消費量との関係を示している。なお、図2では、バルブオーバーラップ量を一定とした場合について示してある。また、点火時期の進角限界がMBTよりも進角側に位置する場合を想定している。
【0035】
図2に示すように、点火時期をMBTで制御する場合に燃料消費量が最小値(極小値)となり、エンジン廃熱量が最小値(極小値)となる。また、点火時期をMBTに対して進角側又は遅角側に変更することにより、その変更量に応じてエンジン廃熱量が増大するとともに燃料消費量が増大する。特に、図2によれば、所定量Q1のエンジン廃熱量を発生させる場合、点火時期をMBTに対して遅角側に変更するよりも進角側に変更した方が燃料消費量が少なくて済む、つまり燃費悪化を極力抑制できることが分かる。
【0036】
ところが、エンジン廃熱量を増加させる場合、現在のエンジン運転状態によっては、点火時期をMBTに対して進角させる余裕がなく、かかる場合、点火進角による廃熱増加を実施することができない。
【0037】
そこで、本実施形態では、廃熱増加を実施するのにあたり、MBTに対して点火進角させるための進角余裕があるか否かを判定する。そして、点火時期の進角余裕があると判定される場合には、MBTに対する点火進角を実施する吸気進角制御によりエンジン廃熱量を増加させる。これに対し、上記進角余裕がないと判定される場合には、吸気バルブの閉タイミングを遅角側に制御して実圧縮比を低下させる実圧縮比低下制御と上記点火進角制御とを実施する。すなわち、点火時期について、MBTに対する進角余裕が存在しないときには、吸気バルブの開タイミングを吸気下死点に対して遅角側に変更することによりエンジン10の実圧縮比を低下させ、これにより点火時期の進角余裕を確保してエンジン廃熱量の増加を図る。
【0038】
ここで、エンジン廃熱量を増加させる場合のオーバーラップ量制御について、エンジン廃熱量を増加させたときの燃費悪化をできるだけ抑制する等の観点からすると、吸気バルブの開弁期間を変更することによって行うのが望ましい。ところが、吸気側の開弁期間の変更によってバルブオーバーラップ量を増大させる場合、吸気バルブの開弁期間の進角によってその閉タイミングが吸気下死点に近付くことによりエンジン10の実圧縮比が高くなり、これにより耐ノック性が低下することが考えられる。そのため、エンジン運転状態によっては、バルブオーバーラップ量の変更を吸気側で行うとした場合、点火時期を進角側に変更するための進角余裕が十分でなくなることが考えられる。
【0039】
上記に鑑み、本実施形態では、点火進角余裕の有無の判定をオーバーラップ量の変更に伴う耐ノック性の変化を考慮して行うこととしており、より詳細には、バルブオーバーラップ量の変更前においてそもそも点火時期の進角余裕がない場合だけでなく、バルブオーバーラップ量の変更に伴い耐ノック性が低下し、これに起因して点火進角余裕が十分でなくなる場合においても、吸気遅角制御により点火時期の進角余裕を確保することとしている。
【0040】
さらに、本実施形態では、エンジン廃熱量を増加させる場合のバルブオーバーラップ量制御として、点火進角余裕があると判定される場合には、吸気バルブの開弁期間を進角側に制御する吸気進角制御を実施する。これに対し、該点火進角余裕がないと判定される場合には、排気バルブの開弁期間を遅角側に制御する排気遅角制御を実施する。これにより、点火時期の進角余裕を確保しつつ、バルブオーバーラップ量の増大による廃熱増加を実施可能としている。
【0041】
以下、図3を用いて本廃熱制御を詳しく説明する。なお、図中の一点鎖線は最大トルクラインを示す。図3において、エンジントルクが比較的小さい低負荷領域S1では、MBTの方がノック限界(トレースノック点火時期)よりも遅角側に存在している。したがって、領域S1では、点火時期をMBTよりも進角側に変更することによりエンジン廃熱量を増加させることが可能である。また、低負荷領域S1ではノッキングが発生するおそれがさほど大きくなく、この場合には、オーバーラップ量の増大を吸気バルブ側で行ったとしても、MBTに対する点火進角がノック限界によって制限されるおそれが少ない。したがって、低負荷領域S1では、図3に示すように、点火時期をMBTに対して進角させるか又は吸気早開きにするかの少なくともいずれかによりエンジン廃熱量を増加させる進角余裕有り時廃熱制御(第2の廃熱増加制御に相当)を実施する。
【0042】
これに対し、エンジントルクが比較的大きい高負荷領域S2では、MBTの方がノック限界よりも進角側に存在しているか、又は吸気バルブ側でオーバーラップ量を増大させた場合にノック限界がMBTよりも遅角側に存在することになり、この場合、点火時期をMBTを超えて進角できないことが考えられる。そこで、図3に示すように、高負荷領域S2、具体的にはバルブオーバーラップ量の変更前又はその変更後において、MBTに対する点火進角を実施できない領域(トレースノック領域)では、吸気遅閉じにするとともに点火時期をMBTに対して進角させるか、又は排気遅閉じにするかの少なくともいずれかによりエンジン廃熱量を増加させる進角余裕なし時廃熱制御(第1の廃熱増加制御に相当)を実施する。
【0043】
なお、本実施形態では、低負荷領域S1において、点火進角制御及び吸気進角制御による廃熱増加に併せて、排気バルブの開弁期間を進角側に適宜変更することで、燃焼安定化を図っている。
【0044】
図4は、本システムの廃熱制御の処理手順を示すフローチャートである。この処理は、ECU40のマイコンにより所定周期毎に実行される。
【0045】
図4において、まずステップS101では、熱利用要求が生じているか否かを判定する。熱利用要求には、例えば暖房要求や触媒暖機要求などが含まれる。暖房要求は、車室内の暖房が開始される場合や、車室内温度を上昇させる場合に発生するものであり、車両搭載者の操作又は自動空調制御の制御指令に基づき発生する。また、触媒暖機要求は、排気管12の触媒22が低温状態にある場合に発生するものであり、エンジン10の冷間始動時や車両運転途中の一時的な温度低下時に発生する。このステップS101では、熱利用要求が生じていることを条件にステップS102へ進む。
【0046】
ステップS102では、熱利用要求に伴い発生させるべきエンジン廃熱量の要求値として要求熱量を算出する。要求熱量は、冷却水温Twや冷却水流量、ブロアファン回転速度、外気混入量、外気温、エアコン設定温度、エアコン噴出し温度等のうちの一つ又は複数のパラメータに基づいて算出する。
【0047】
ステップS103では、今現在のエンジン運転状態(例えば、燃費最良点にて実施される通常のエンジン制御)で要求熱量を満足できるか否か、すなわち廃熱調整手段による廃熱制御によりエンジン廃熱量を増加させる必要がないか否かを判定する。そして、今現在のエンジン運転状態で要求熱量を満足できる場合には、廃熱量の増加が不要であるとしてそのまま本処理を終了する。一方、要求熱量を満足できない場合には、以下のステップS104以降の処理を実行する。
【0048】
ステップS104では、エンジン運転状態(エンジン回転速度、エンジン負荷等)及び要求熱量をパラメータとしてバルブオーバーラップ量(VOL量)及び点火進角量を算出する。具体的には、本実施形態では、点火時期とVOL量とエンジン廃熱量との関係を示すマップ等がエンジン運転状態ごとに予め設定して記憶してあり、同マップ等を用いて、要求熱量を満足できるVOL量及び点火進角量をそれぞれ算出する。
【0049】
なお、エンジン廃熱量を増加させるのに際し、いずれの手段(点火進角制御、バルブオーバーラップ量制御)を用いるかは、要求熱量やエンジン運転状態等に基づいて、熱利用要求を満たす範囲でエンジン運転効率の良い手段を1つ又は複数選択し、その手段を用いて廃熱制御を実施する。これにより、廃熱制御の実施に伴い生じるエンジン運転効率の低下等の不都合を最小限に抑えるようにしている。
【0050】
続くステップS105では、算出した点火進角量を満足するだけの点火進角余裕がMBTに対して存在するか否かを判定する。このとき、算出したVOL量に基づきバルブタイミング制御を実施する場合には、そのバルブタイミング制御を吸気バルブ側で行った場合にMBTに対する点火進角余裕が存在するか否かを判定する。具体的には、例えばVOL量ごとに点火時期特性が定められており、同点火時期特性には、それぞれVOL量ごとの最進角位置(進角限界)が定められている。この点火時期特性を用いることにより、バルブタイミング変更後における進角限界を定めるとともに、その進角限界を、VOL量の変更を吸気バルブの開弁期間の進角によって実施した場合の耐ノック性の低下分を考慮して補正する。そして、その補正値に基づいてMBTに対する点火進角余裕があるか否かを判定する。
【0051】
MBTに対する進角余裕が存在する場合には、ステップS106へ進み、エンジン運転状態及び要求熱量をパラメータとして、吸気バルブの開弁期間の進角量及び排気バルブの開弁期間の進角量を算出する。一方、MBTに対する進角余裕がない場合には、ステップS107へ進み、エンジン運転状態及び要求熱量をパラメータとして、吸気バルブの開弁期間の遅角量及び排気バルブの開弁期間の遅角量を算出する。なお、算出値に基づくバルブタイミングの変更及び点火時期の変更は、図示しない別ルーチンにより実行される。
【0052】
その後、ステップS108において、スロットル開度の増量補正値を算出する。この算出処理は、上記のとおり廃熱制御が実施された場合にその廃熱制御により低下したエンジン出力を増補するための処理の一つである。これにより、空気量の増量補正が図示しない別ルーチンにより適宜実行される。そして本処理を終了する。
【0053】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0054】
廃熱増加を実施するときに、点火時期をMBTよりも進角側に変更するための進角余裕がない場合、吸気バルブの閉タイミングを吸気下死点を基準に遅角側に変更する構成としたため、エンジン10の実圧縮比の低下により耐ノック性を向上させることができる。これにより、点火時期の進角余裕を確保することができ、点火時期の進角制御による廃熱増加が実施可能となる。したがって、熱利用要求に応じた廃熱制御を実施することができ、しかも廃熱制御の実施に伴うエンジン運転効率の低下等の不都合を最小限に抑えることができる。
【0055】
また、要求熱量が増加した場合におけるバルブオーバーラップ量の変更を基本的には吸気バルブ側で実施する一方、オーバーラップ量の変更を吸気バルブ側で実施した場合には耐ノック性の低下により点火時期の進角余裕が十分でなくなることを考慮し、吸気バルブ側でオーバーラップ量を変更した場合の点火進角余裕の有無を判定し、進角余裕なしと判定される場合に、実圧縮比低下制御により点火時期の進角余裕を確保しつつ、点火進角制御により廃熱増加を行う構成としたため、バルブオーバーラップ量の変更後における耐ノック性の変化を考慮して、燃費悪化抑制の観点から最適とされる態様で廃熱増加を実施することができる。
【0056】
点火時期の進角余裕がある場合に、点火進角制御及び吸気バルブ側によるバルブオーバーラップ量の増大制御により廃熱増加を実施し、同進角余裕がない場合に、実圧縮比低下制御及び点火進角制御に加え、吸気バルブ側によるバルブオーバーラップ量の増大制御を実施する構成としたため、すなわち、点火進角余裕の有無によってバルブオーバーラップ量の変更を吸気弁側で実施するか又は排気弁側で実施するかを切り替える構成としたため、エンジン廃熱量を増加させるときに点火進角余裕がある場合には、燃費悪化抑制のために最適な制御を実施することができ、点火時期の進角余裕がない場合には、吸気バルブの閉タイミングを遅角側に制御して実圧縮比を低下させることにより点火時期の進角余裕を確保しつつ、バルブオーバーラップ量の調整を排気バルブの開弁期間の変更によって実施することができる。これにより、燃費悪化をできるだけ抑制しつつ熱利用要求に即した廃熱制御を実施することができる。
【0057】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0058】
・上記実施形態において、実圧縮比低下制御により点火進角量を確保して点火進角制御によりエンジン廃熱量を増加させる場合に、要求熱量に基づいて吸気バルブの閉タイミングの遅角量を設定する構成とする。吸気バルブの閉タイミングが吸気下死点を基準に遅角側になるほど実圧縮比を低下させることができ、これにより点火進角制御における点火進角量を大きくすることが可能と考えられる。また、点火進角制御では、点火進角量が大きいほどエンジン廃熱の発生熱量が大きくなる。したがって、要求熱量が大きいほど吸気バルブの閉タイミングの遅角量を大きくすることにより、熱利用要求を満たすのに十分なエンジン廃熱量を発生させることができる。
【0059】
・吸気側バルブ駆動機構18及び排気側バルブ駆動機構19を共に備える構成について説明したが、吸気側バルブ駆動機構18のみを備える構成に本発明を適用してもよい。この場合、第2の廃熱増加制御(点火進角制御、吸気進角制御)の実施が進角限界によって制限されるとき、すなわちMBTに対する点火時期の進角余裕がないときに、実圧縮比低下制御によって点火時期の進角余裕を確保するとともに、点火進角制御によって廃熱増加を図る。このとき、要求熱量に応じて吸気バルブの閉タイミングの遅角量及び点火進角量を設定することにより、廃熱増加に伴う燃費悪化を最小限に抑えるとよい。
【0060】
・第1の廃熱増加制御において、吸気バルブの閉タイミングを吸気下死点を基準に遅角側に変更することで点火時期の進角余裕を確保したが、これを変更し、吸気バルブの閉タイミングを吸気下死点を基準に進角側に変更することで点火時期の進角余裕を確保する構成としてもよい。この構成においてもエンジン10の実圧縮比を低下させることができ、その結果、耐ノック性を向上させることができる。よって、エンジン廃熱量を増加させる場合において、点火時期を最高効率時期よりも進角側に変更することが可能になる。なお、吸気バルブの閉タイミングを吸気下死点を基準に進角側に変更する場合、実圧縮比の低下により耐ノック性が向上されるとともに、吸気弁の閉じ後における吸気の膨張によって圧縮行程の気筒内温度が低下し、この温度低下により耐ノック性が向上される。すなわち、この構成によれば、実圧縮比の低下及び気筒内温度の低下によって点火時期の進角余裕を確保することが可能になる。
【符号の説明】
【0061】
10…エンジン、13…スロットルバルブ、15…インジェクタ、17…イグナイタ、18,19…バルブ駆動機構、23…熱回収装置、33…循環経路、35…ヒータコア、40…ECU(吸気弁制御手段、点火制御手段、進角余裕判定手段、廃熱制御手段、オーバーラップ量制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの廃熱を再利用する廃熱再利用システムに適用され、熱利用要求による要求熱量に基づいて前記エンジンの廃熱量を制御するエンジンの廃熱制御装置において、
前記エンジンの吸気弁の開弁期間をエンジン運転状態に基づいて制御する吸気弁制御手段と、
都度のエンジン運転状態において最高燃費となる最高効率時期に基づいて前記エンジンの点火時期を制御する点火制御手段と、
前記点火時期を前記最高効率時期に対して進角側に変更するための進角余裕があるか否かをエンジン運転状態に基づいて判定する進角余裕判定手段と、
前記進角余裕判定手段により前記進角余裕がないと判定される場合に、前記吸気弁制御手段により前記吸気弁の閉タイミングを吸気下死点を基準に進角側又は遅角側に変更して前記エンジンの実圧縮比を低下させる実圧縮比低下制御と、前記点火制御手段により前記点火時期を前記最高効率時期に対して進角側に変更する点火進角制御とを実施することにより前記廃熱量を増加させる廃熱制御手段と、
を備えることを特徴とするエンジンの廃熱制御装置。
【請求項2】
前記廃熱制御手段により実施される前記実圧縮比低下制御は、前記吸気弁の閉タイミングを遅角側に制御して前記実圧縮比を低下させる吸気弁閉タイミング遅角制御であり、
前記要求熱量が増加した場合に、前記吸気弁の開弁期間と前記エンジンの排気弁の開弁期間とがオーバーラップするバルブオーバーラップ量を制御するオーバーラップ量制御手段を備え、
前記進角余裕判定手段は、前記バルブオーバーラップ量の増大制御を前記吸気弁の開弁期間の変更によって実施するとした場合にそのバルブオーバーラップ量の変更後において前記点火時期を前記最高効率時期に対して進角側に変更するための進角余裕があるか否かをエンジン運転状態に基づいて判定する請求項1に記載のエンジンの廃熱制御装置。
【請求項3】
前記廃熱制御手段は、前記進角余裕判定手段により前記進角余裕がないと判定される場合に、前記吸気弁閉タイミング遅角制御と前記点火進角制御とに加え、前記排気弁の開弁期間を変更することによる前記バルブオーバーラップ量の増大制御を実施して前記廃熱量を増加させる第1の廃熱増加手段と、該進角余裕があると判定される場合に、前記吸気弁の開弁期間を変更することによる前記バルブオーバーラップ量の増大制御と前記点火進角制御とを実施して前記廃熱量を増加させる第2の廃熱増加手段とを備える請求項2に記載のエンジンの廃熱制御装置。
【請求項4】
前記廃熱制御手段は、前記進角余裕判定手段により前記進角余裕がないと判定される場合、前記要求熱量に基づいて前記吸気弁の閉タイミングの変更量を設定し、該設定した変更量に基づいて前記吸気弁制御を実施する請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエンジンの廃熱制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−163323(P2011−163323A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30450(P2010−30450)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】