説明

エンジン燃料系異常診断・フェールセーフ制御装置及び方法

【課題】
アイドルストップ機能を有する車両において、アイドルストップ制御中にエンジンの燃料系システムの機械的な異常で意図せぬ燃料供給が行われ、アイドルストップ制御解除時(エンジン再始動時)にエンジン構成部品が破損に至る可能性がある。
【解決手段】
アイドルストップ制御中にエンジン及び車両に設けられた各種センサ検出値に基づき、燃料系システムの機械的な異常を検出し、アイドルストップ制御解除を禁止することでエンジン構成部品破損の可能性を回避することができる。また、必要に応じて燃料系異常時に強制的にアイドルストップ制御を解除することで、排気性能確保を実現可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの自動停止,自動始動を行うアイドルストップ機能を有するエンジン制御装置に係り、アイドルストップ制御状態での燃料系故障等を検出する異常検出装置及び異常検出時のフェールセーフ制御及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費性能や排気性能向上を目的として、信号待ちなどで、一時的にエンジンを自動停止させ、その後、ドライバのアクセル操作などで自動再始動させるアイドルストップ機能付き車両が実用化されている。また、モータとエンジンを備えるハイブリット車両においても、運転者の要求駆動力及び運転状態に応じて、車両走行中においてもエンジンの自動停止,自動再始動を行い、運転性能と燃費・排気性能の両立を実現している。
【0003】
ハイブリット車両においては、走行中に運転者要求駆動力が所定値以下で、且つバッテリ充電のための発電運転が不要な場合等にはこれまで駆動力源として運転していたエンジンを自動停止させる。その後、運転者駆動力が所定値以上(例えばモータ発生トルク以上となったとき)、または、バッテリ充電が必要と判断されたときに、エンジン回転軸に回転力を与え、自動的にエンジン再始動させることが一般的に行われている。ここで、上述のような車両走行中でのエンジン自動停止・再始動もアイドルストップ制御中と称する。
【0004】
【特許文献1】特開2001−145210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アイドルストップ制御中において、エンジンに燃料を供給する燃料噴射弁の故障により燃料が噴きっ放しとなった場合、エンジンは非回転の状態であるため、その燃料は吸気管,シリンダ内に溜まることになり、この状態でアイドルストップ制御が解除されエンジン再始動を行うと、シリンダ内に圧縮容積以上の燃料が充填されていると圧縮工程でのピストン移動が妨げられ、エンジンまたは周辺システム構成部品の破損に至る可能性がある。さらには車両走行中の場合は、意図しないエンジンブレーキによる急減速が発生する可能性もある。
【0006】
このため、燃料噴射弁を駆動する電気的回路の天絡・地絡故障の検出・診断はアイドルストップ制御中においても継続的に実行され、故障検出されたときには、アイドルストップ制御の解除を禁止(エンジン再始動の禁止)することが行われている。
【0007】
しかし、燃料噴射弁等の燃料系システム全体の故障モードは電気的な駆動回路のみに限らず、例えば燃料噴射弁の弁部異物噛込み・構成部品の失陥等の機械的な故障によっても燃料が噴きっ放しとなってしまう可能性が懸念される。
【0008】
本発明の目的は、アイドルストップ制御中にエンジンの燃料系システム異常で意図せぬ燃料供給が行われ、アイドルストップ制御解除時(エンジン再始動時)にエンジン構成部品が破損に至る可能性があることに鑑みてなされ、アイドルストップ制御中に燃料噴射弁の機械的な異常・故障を検出し、エンジン破損を回避するフェールセーフ制御装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
アイドルストップ制御を行う車両のエンジン燃料系異常診断方法において、
前記車両がアイドルストップ制御状態にあるときに、エンジン燃料系異常診断を行うことを特徴とするエンジン燃料系異常診断方法である。
【発明の効果】
【0010】
アイドルストップ制御中にエンジン及び車両に設けられた各種センサ検出値に基づき、燃料系システムの機械的な異常を検出し、アイドルストップ制御解除を禁止することでエンジン構成部品破損の可能性を回避することができる。また、必要に応じて燃料系異常時に強制的にアイドルストップ制御を解除することで、排気性能確保を実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施例にかかるエンジン燃料系異常診断・フェールセーフ制御装置及び方法では、エンジン及び車両に設けられた各種センサ検出値に基づき、燃料系システムの機械的な異常を検出する燃料系異常判定手段、及びアイドルストップ制御領域であるか否かを判定するエンジン運転状態判定手段を有し、燃料系異常判定手段により、異常と判定されたときに、アイドルストップ実行手段にて現在のアイドルストップ制御状態に応じて、アイドルストップ解除,継続,禁止の判定を行う。上述の燃料系異常判定手段において、アイドルストップ制御中の機械的な燃料系の異常検出は、燃料圧力の低下量・速度、またはエンジン内の未燃ガス判定状態等を用いて判定を行う。
【0012】
これにより、アイドルストップ制御中に機械的な故障により、意図せぬ燃料供給が行われたときには、アイドルストップ制御を継続させることで、次回エンジン再始動によるエンジン破損を回避することができる。
【0013】
さらに、本来目的とは相反するが、意図せず供給された燃料は未燃ガス分として放置するより、エンジンで燃焼させた方が排気性能観点では望ましい場合もある。このようにアイドルストップ制御中に燃料系で異常判定したときに、アイドルストップ制御を強制的に解除してエンジン再始動を行わせることも可能である。これは、非アイドルストップ制御中(エンジン運転状態)において燃料系異常と判定したときにも同様であり、この場合には、アイドルストップ制御禁止とし、エンジンを継続運転することで意図せず供給された燃料を燃焼させて触媒浄化機能により排気性能の確保を図ることができる。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係るエンジン燃料系異常診断・フェールセーフ制御装置の一実施の形態を示す。エンジン制御ユニット216内には、車両及びエンジンに有する各センサ検出値及び運転状態を示す車両情報が入力される。燃料系異常判定手段a1では、前記センサ検出値に含まれる燃料圧力低下量・速度、またはエンジン未燃ガス状態を用いて、アイドルストップ制御中の燃料系異常判定を行う。燃料系異常と判定されたときには、警告灯a6を用いて運転者への異常報知を行う。
【0016】
エンジン運転状態判定手段a2では、各センサ検出値及び車両情報に含まれる運転者要求駆動力,車両速度,バッテリ含めた補機要求負荷等を用いて、アイドルストップ制御領域の判定を行う。アイドルストップ実行手段a3は、前記エンジン運転状態判定手段a2と、燃料系異常判定手段a1の判定結果に基づき、アイドルストップ制御の開始,解除,禁止要求の判定を行い、エンジン自動停止,自動再始動を実現するエンジン制御アクチュエータa4を駆動し、燃料・点火・空気量の制御を行うように構成する。さらにエンジン運転中に燃料系の異常を判定した場合には、アイドルストップ制御を禁止している状態であることを他の制御ユニットに対し報知する。
【0017】
これにより、アイドルストップ制御中に燃料系異常と判定された場合には、それ以後アイドルストップ制御解除を禁止(アイドルストップ制御継続)するように動作させることで、意図せぬ燃料供給状態でのエンジン再始動によるエンジン構成部品の破損を回避することが可能となる。また、軽度の燃料系異常においては、アイドルストップ制御を強制的に解除することでエンジン再始動を行い、意図せず供給された燃料を燃焼により消費させることも可能である。本動作は、非アイドルストップ制御状態において判定される公知の燃料系診断で異常と判定されたときにも有効であり、領域判定に依存してアイドルストップ制御に移行する方法に対し、アイドルストップ制御が禁止される(燃焼が継続的に行われる)ため、排気性能を確保することができる。
【0018】
図2は、本実施形態において筒内噴射エンジン213の制御システムを例にし、全体構成を示したものである。該システムは高圧燃料ポンプ201を備えている。シリンダ229に導入される吸入空気は、エアクリーナ220の入口部219から取り入れられ、エンジンの運転状態計測手段の一つである空気流量計(エアフローセンサ)218を通り、吸気流量を制御する電制スロットル弁224が収容されたスロットルボディ221を通ってコレクタ223に入る。前記エアフローセンサ218からは、前記吸気流量を表す信号がエンジン制御装置であるエンジン制御ユニット216に出力されている。
【0019】
また、前記スロットルボディ221には、電制スロットル弁224の開度を検出するエンジンの運転状態計測手段の一つであるスロットルセンサ217が取り付けられており、その信号もエンジン制御ユニット216に出力されるようになっている。エンジン制御ユニット216ではドライバのアクセル操作信号231や他の入力パラメータに基づき、スロットルボディ221に取り付けられたモータ222に駆動信号を出力し、スロットル弁224の開閉を行い、前記吸入空気量を制御する。
【0020】
前記コレクタ223に吸入された空気は、エンジン213の各シリンダ229に接続された各吸気管225に分配された後、前記シリンダ229の燃焼室228に導かれる。
【0021】
一方、ガソリン等の燃料は、燃料タンク205から燃料ポンプ204により一次加圧されて燃料圧力レギュレータ203により一定の圧力(例えば3kg/cm2)に調圧されるとともに、高圧燃料ポンプ201でより高い圧力に二次加圧(例えば50kg/cm2)されてコモンレールへ圧送される。
【0022】
前記高圧燃料は各シリンダ229に設けられているインジェクタ214からエンジン制御ユニット216の駆動信号に基づいて所定量・所定タイミングで燃焼室228に噴射される。該燃焼室228に噴射された燃料は、同様にエンジン制御ユニット216により制御されたタイミングに点火コイル211で高電圧化された点火信号により点火プラグ215で着火される。
【0023】
また、排気弁のカムシャフトに取り付けられたカム角センサ207は、カムシャフトの位相を検出するための信号をエンジン制御ユニット216に出力する。ここで、カム角センサは吸気弁側のカムシャフトの取り付けてもよい。また、エンジンのクランクシャフトの回転と位相を検出するためにクランク角センサ230をクランクシャフト軸上に設け、その出力をエンジン制御ユニット216に入力する。
【0024】
さらに、排気管209中の触媒210の上流に設けられたA/Fセンサ208は、排気ガスを検出し、その検出信号がエンジン制御ユニット216に入力する。本実施例では炭化水素(HC)センサを設けてもよい。
【0025】
該エンジン制御ユニット216の主要部は、図3に示すように、MPU302,ROM301,RAM303及びA/D変換器を含むI/O LSI 304等で構成され、エンジンの運転状態を計測(検出)する手段の一つであるクランク角センサ230,カム角センサ207,燃圧センサ206,スロットルセンサ217,アクセルセンサ231,空燃比センサ208,ノックセンサ226,エアフローセンサ218などの各種センサ等からの信号を入力として取り込み、所定の演算処理を実行し、この演算結果として算定された各種の制御信号を出力し、インジェクタ214,点火コイル211,電制スロットルモータ222及び高圧ポンプソレノイド201に所定の制御信号を供給して燃料噴射量制御,点火時期制御,吸入空気量制御及び高圧ポンプによる燃料圧力制御を実行するものである。
【0026】
このようにエンジン制御においては各種のアナログセンサが存在しており、それぞれが制御対象に合わせてフィルタ・マスク等の信号処理によって加工されて用いられている。
【0027】
また、エンジン制御ユニット216以外の制御ユニットにて検出された運転者操作によるシフトレンジ情報500、ハイブリット車両などでエンジン・モータ・バッテリ制御を統括する制御ユニットからのアイドルストップ実行要求501,エンジン制御としてアイドルストップ制御を禁止している状態を示すアイドルストップ禁止要求502などをCAN通信等のユニット間通信によりデータ送受信が行われる。
【0028】
図11に燃料系システムを構成するデバイスとして燃料噴射弁の構造概略一例を示す。この種の燃料噴射弁は弁座11gの上流に燃料通路を有し、固定コア11bと弁体11hを有する可動コア11fとがヨーク11c内で軸方向に配置されており、固定コア11bの周りには電磁コイル11dが設けてある。可動コア11fはリターンスプリング11aのばね力を受けて、電磁コイル11dの非通電時には弁体11hが弁座11gに接して閉弁状態となり、燃料は噴射されない。電磁コイル11dの通電により前記固定コア11b,ヨーク11c,可動コア11fが磁気回路を形成し、可動コア11fがリターンスプリング11aのばね力に抗して固定コア側に吸引,開弁状態となり燃料噴射が行われる。リターンスプリングのばね力と電磁コイルによる吸引力のバランスで弁駆動を行う。これらの構成部品の機械的失陥・異常が発生した場合に燃料噴きっ放しなど意図せず燃料供給してしまう可能性がある。本発明は、このような機械的な故障を検出し、アイドルストップ制御の解除を禁止する、または、強制的にアイドルストップ制御を解除することでエンジン構成部品の破損回避または排気性能の確保を実現するものである。
【0029】
図4にアイドルストップ制御中の燃料系異常検出及びフェールセーフ制御の実施例タイムチャート1を示す。駆動力源としてモータとエンジンを有するハイブリット車両を例に挙げ、以下チャート動作を説明する。また未燃ガス検出手段として空燃比(A/F)状態を一例として記載する。
【0030】
図中時間T0において、運転者のアクセル踏み込み操作によってモータが発生可能な駆動力以上の要求がなされ、要求駆動力を実現するためエンジン制御状態が運転モードに移行する。これにより燃料噴射弁(INJ)へ燃料噴射要求が成立し、エンジン始動が行われる。エンジンの空燃比状態は始動性を確保の増量補正等で一時的にリッチ空燃比となるが、その後は空燃比センサ等で検出された情報によって理論空燃比近傍に制御される。
【0031】
図中時間T1において、運転者のアクセル離しにより駆動力要求が減少すると、エンジンでの駆動力発生は不要となるため、制御状態はアイドルストップモードへ移行し、燃料噴射弁からの噴射を停止する(燃料カット状態)。噴射停止により燃焼トルクが無くなるためエンジンは自立運転ができずアイドルストップとなる。燃料噴射弁からの燃料供給が停止されるため、エンジンの空燃比状態は理論空燃比近傍からリーン空燃比となる。エンジンは非回転状態であるが、エンジン制御ユニット216への供給電源は切断されないため、ユニットへの各種センサ値入力及び他ユニットとの通信、エンジン制御アクチュエータへの出力は可能な状態にある。
【0032】
図中時間T2にて、再度運転者による駆動力要求が発生するか、もしくはモータ駆動用バッテリの充電が必要と判断されると、アイドルストップ制御解除となり、時間T0と同様にエンジン制御状態が再度運転モードへ遷移し、燃料噴射が開始され、エンジン再始動が行われる。
【0033】
ここで、アイドルストップ制御中(時間T1からT2までの間)に燃料系の故障が発生(例えば燃料噴射弁の弁閉じ機能の失陥で燃料漏れ発生)した場合、燃料噴射停止でリーン状態を判定しているエンジン空燃比は、図中の破線で示すように漏れた燃料の気化分を検出し徐々にリッチ空燃比側へと変化する。この空燃比状態を用いて燃料系の異常判定を行うことが可能であり、時間Taにてエンジン空燃比が所定の空燃比よりリッチとなったことで燃料系異常と判定する。燃料系異常の判定後はアイドルストップ制御解除を禁止し、時間T2での運転者もしくはバッテリ充電要求によるエンジン再始動を行わない。これにより、燃料が充填されたシリンダでの無理な圧縮行程動作が無くなり、エンジン構成部品の破損を回避することができる。
【0034】
図4のタイムチャートを実現する燃料系異常検出及びフェールセーフ制御フローチャートを図7に示す。処理c1にてアイドルストップ制御中であるかの判定を行う。次に処理c2にて意図的に燃料噴射を実行していない状態であることを判定するため燃料噴射要求有無の判定を行う。アイドルストップ制御中で且つ燃料カット中の状態において、燃料系の異常によって意図しない燃料供給が行われていることをエンジン空燃比状態が所定空燃比よりもリッチであるか否かによって処理c3にて判定をする。本例ではA/Fセンサ検出値を用いた空燃比状態を挙げたが、未燃ガス検出手段として、炭化水素(HC)センサ検出値を用いてアイドルストップ制御中のHCセンサ検出値の絶対値,変化量,変化速度等によって判定する方法でもよい。吸気管に燃料噴射を行うMPIエンジンでは、吸気弁が閉じた状態でエンジン停止している場合に、燃料噴射弁異常により噴射された燃料が吸気管内に留まることとなり、一般的に排気管経路に設けた空燃比センサで意図しない燃料供給を検出できない。このため、吸気管経路にエンジン空燃比を検出するセンサ(例えばA/Fセンサ,HCセンサ)を設けてもよい。
【0035】
処理c3での空燃比状態による異常判定は、空燃比の絶対値を用いた判定を限定するものではなく、例えばアイドルストップ制御開始時または、エンジン停止後の空燃比状態に対する空燃比変化量及び空燃比変化速度を用いた判定でもよい。
【0036】
処理c3にて空燃比状態が所定空燃比よりリッチ状態であると判定したときに処理c4にて燃料系異常と判定する。この判定結果により、運転者に異常を報知する警告灯の表示及び故障履歴の記憶等を行う。更にフェールセーフ制御として処理c5にてアイドルストップ制御の解除(エンジン再始動)を禁止し、エンジン構成部品の破損を回避する。ハイブリット車両を例にとると、本フェールセーフ制御発動後は、モータ駆動力のみによる車両走行となる。
【0037】
図5にアイドルストップ制御中の燃料系異常検出及びフェールセーフ制御の実施例タイムチャート2を示す。図4同様に駆動力源としてモータとエンジンを有するハイブリット車両を例に挙げ、以下チャート動作を説明する。また未燃ガス検出手段として空燃比(A/F)状態を一例として記載する。
【0038】
図中時間T0でのエンジン始動、時間T1におけるアイドルストップ制御開始によるエンジン自動停止、時間T2のアイドルストップ制御解除による自動的なエンジン再始動に係る各状態、信号の動きは図4と同様である。
【0039】
ここで、アイドルストップ制御中(時間T1からT2までの間)に燃料系の故障が発生(例えば燃料噴射弁の弁閉じ機能の失陥で燃料漏れ発生)した場合、燃料噴射停止でリーン状態を判定しているエンジン空燃比は、図中の破線で示すように漏れた燃料の気化分を検出し徐々にリッチ空燃比側へと変化するため、エンジン空燃比が所定の空燃比よりリッチとなったことで燃料系異常と判定する。図5では、燃料系異常の判定後は仮に現在の車両運転状態はアイドルストップ領域・状態であったとしても、アイドルストップ制御を強制的に解除することにより、意図せず供給された燃料をエンジン再始動させることで燃焼させ、排気性能の確保を実現するものである。エンジン再始動によるエンジン構成部品の破損を回避するため、上述の強制的なアイドルストップ制御解除は、空燃比状態の変化速度等を加味し、燃料系異常の初期に限定して行う必要がある。
【0040】
また、エンジン空燃比状態に応じて、所定空燃比よりリッチとなれば、図4に示すアイドルストップ制御解除の禁止とするが、前記所定空燃比よりリーン側においてアイドルストップ制御開始時の空燃比状態よりもリッチとなっている場合は、軽度の燃料系異常が発生していると判定し、アイドルストップ制御の強制解除を行うようにアイドルストップ制御解除禁止/強制解除を組み合わせて構成してもよい。
【0041】
図5のタイムチャートを実現する燃料系異常検出及びフェールセーフ制御フローチャートを図8に示す。処理d1,d2,d3,d4については、図7に示す処理c1,c2,c3,c4と同様であり、特にその具体的処理を限定するものではない。
【0042】
処理d4にて燃料系異常と判定されたときに、図8ではフェールセーフ制御として処理d5でアイドルストップ制御の強制解除(エンジン再始動要求)を行い、意図せず供給された燃料をエンジン始動により燃焼させ、排気性能の確保を図る。更には必要に応じて、処理d6で燃料系異常判定後のアイドルストップ制御の開始を禁止する(エンジン停止させない)。このように、燃料系異常で意図しない燃料が継続的に供給された場合に、アイドルストップ制御開始(エンジン停止)により未燃燃料の排出によって排気性能が悪化することを防止するように構成してもよい。
【0043】
図6にアイドルストップ制御中の燃料系異常検出及びフェールセーフ制御の実施例タイムチャート3を示す。図4と同様に駆動力源としてモータとエンジンを有するハイブリット車両を例に挙げ、以下チャート動作を説明する。
【0044】
図中時間T0でのエンジン始動、時間T1におけるアイドルストップ制御開始によるエンジン自動停止、時間T2のアイドルストップ制御解除による自動的なエンジン再始動に係る各状態、信号の動きは図4と同様であるが、本実施例は燃料圧力状態を用いて燃料系異常の判定を行うように構成したものである。
【0045】
エンジンへの燃料供給を行うため、エンジン運転中の燃料圧力は燃料ポンプ,燃料圧力レギュレータにより所定圧力に調圧・保持され、アイドルストップ制御開始によりエンジン停止した後、前記調圧された燃料圧力は燃料配管系の密閉度によって徐々に低下していく。
【0046】
アイドルストップ制御中(時間T1からT2までの間)に燃料系の故障が発生(例えば燃料噴射弁の弁閉じ機能の失陥で燃料漏れ発生)した場合、正常であれば所定の燃料圧力まで低下する時間が図中に示すB点であるのに対し、燃料漏れが発生すると図中A点において所定燃料圧力となってしまう。この燃料圧力の低下速度,低下量を用いて燃料系の異常を判定し、図4同様にアイドルストップ制御の解除禁止を行うように構成した例である。本例では、アイドルストップ制御の解除禁止を挙げたが、図5同様に軽度の燃料系異常と判定される場合は、アイドルストップ制御の強制解除とする構成でもよいし、また強制解除と解除禁止を組み合わせた構成としてもよい。
【0047】
図9にエンジン運転中に燃料系異常判定した際のフェールセーフ制御タイムチャート例を示す。
【0048】
図中時間T0でのエンジン始動、時間T1におけるアイドルストップ制御開始によるエンジン自動停止、時間T2のアイドルストップ制御解除による自動的なエンジン再始動に係る各状態、信号の動きは図4と同様である。本例では、エンジン運転中(時間T0からT1までの間)の時間Tbにて燃料系の故障を検出した場合を示す。正常時であれば、時間T1にてアイドルストップ制御開始によるエンジン停止の制御が行われるが、前述した燃料系異常時のエンジン停止による排気性能の悪化を防止するため、フェールセーフ制御としてアイドルストップ制御禁止を行うように構成する。エンジン運転・燃焼が継続されるため、未燃燃料の排出を回避することができ、排気性能の確保が可能となる。
【0049】
図10に図9を実現するエンジン運転中燃料系異常判定時フェールセーフ制御フローチャート例を示す。エンジン運転中での燃料系異常検出か否かを処理f1,f2にて判定を行い、処理f3にて現在運転状態がアイドルストップ領域であってもアイドルストップ制御開始を禁止するように構成する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係るエンジン燃料系異常診断・フェールセーフ制御装置の一実施の形態。
【図2】筒内噴射エンジン213の制御システム全体構成。
【図3】該エンジン制御ユニット216の主要部。
【図4】アイドルストップ制御中の燃料系異常検出及びフェールセーフ制御タイムチャート1。
【図5】アイドルストップ制御中の燃料系異常検出及びフェールセーフ制御タイムチャート2。
【図6】アイドルストップ制御中の燃料系異常検出及びフェールセーフ制御タイムチャート3。
【図7】図4タイムチャートを実現する制御フローチャート例。
【図8】図5タイムチャートを実現する制御フローチャート例。
【図9】エンジン運転中燃料系異常判定時フェールセーフ制御タイムチャート。
【図10】図9タイムチャートを実現する制御フローチャート例。
【図11】燃料噴射弁の構造概略一例。
【符号の説明】
【0051】
216 エンジン制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイドルストップ制御を行う車両のエンジン燃料系異常診断方法において、
前記車両がアイドルストップ制御状態に移行したときのエンジン未燃ガス判定状態を基準にして、少なくとも前記エンジン未燃ガス判定状態からの変化量または変化速度を用いて、前記車両がアイドルストップ制御状態にある間に、エンジン燃料系異常診断を行うことを特徴とするエンジン燃料系異常診断方法。
【請求項2】
エンジンに設けた炭化水素(HC)センサあるいはA/Fセンサの検出値を用いてエンジン未燃ガス判定を行うことを特徴とする請求項1記載のエンジン燃料系異常診断方法。
【請求項3】
エンジンの吸気管経路に設けた炭化水素(HC)センサあるいはA/Fセンサの検出値を用いてエンジン未燃ガス判定を行うことを特徴とする請求項1記載のエンジン燃料系異常診断方法。
【請求項4】
アイドルストップ制御を行う車両のエンジン燃料系フェールセーフ制御方法において、
前記車両がアイドルストップ制御状態にあるときに、前記車両がアイドルストップ制御状態に移行したときのエンジン未燃ガス判定状態を基準にして、少なくとも前記エンジン未燃ガス判定状態からの変化量または変化速度を用いて、エンジン燃料系異常診断を行い、燃料供給系が異常であると判定した場合には、アイドルストップ制御状態の解除を禁止することを特徴とするエンジン燃料系フェールセーフ制御方法。
【請求項5】
アイドルストップ制御を行う車両のエンジン燃料系異常診断装置において、
前記車両がアイドルストップ制御状態にあるときに、前記車両がアイドルストップ制御状態に移行したときのエンジン未燃ガス判定状態を基準にして、少なくとも前記エンジン未燃ガス判定状態からの変化量または変化速度を用いて、エンジン燃料系異常診断を行うエンジン燃料系異常診断手段を有することを特徴とするエンジン燃料系異常診断装置。
【請求項6】
アイドルストップ制御を行う車両のエンジン燃料系フェールセーフ制御装置において、
前記車両がアイドルストップ制御状態にあるときに、前記車両がアイドルストップ制御状態に移行したときのエンジン未燃ガス判定状態を基準にして、少なくとも前記エンジン未燃ガス判定状態からの変化量または変化速度を用いて、エンジン燃料系異常診断を行うエンジン燃料系異常診断手段と、
前記エンジン燃料系異常診断手段が燃料供給系の異常を判定したときに、アイドルストップ制御状態の解除を禁止するアイドルストップ解除禁止手段とを有することを特徴とするエンジン燃料系フェールセーフ制御装置。
【請求項7】
アイドルストップ制御を行う車両のエンジン燃料系フェールセーフ制御装置において、
アイドルストップ制御状態でエンジン燃料供給系の異常を判定したときに、アイドルストップ制御状態を強制的に解除して、エンジン始動を行うことを特徴とするエンジン燃料系フェールセーフ制御装置。
【請求項8】
アイドルストップ制御を行う車両のエンジン燃料系フェールセーフ制御方法において、
エンジン運転中にエンジン燃料供給系の異常を判定したときに、所定の運転条件及び状態が成立したときに行うアイドルストップ制御によるエンジンの自動停止を禁止することを特徴とするエンジン燃料系フェールセーフ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−203840(P2009−203840A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45390(P2008−45390)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】