説明

カーボンナノチューブの合成方法、カーボンナノチューブ、シリコン基板、電子源および電界放出型ディスプレイ

【課題】シリコン基板上へ触媒微粒子の粒径と分布を均一にし、配向したカーボンナノチューブを基板上に合成するカーボンナノチューブの合成方法を提供する。
【解決手段】オクタデセンなどの末端に不飽和結合を有する直鎖炭化水素でシリコン基板を表面処理して疎水性を持たせ、この上に界面活性剤で親水性表面を形成しておくと、触媒金属化合物の極性溶媒溶液の均一塗布が容易になる。このようにして得た触媒金属化合物が塗布されたシリコン基板を、乾燥、還元後、高温化で炭素源ガスを基板上に流すことで、配向したカーボンナノチューブを合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素源材料を熱分解して、触媒金属の作用によりカーボンナノチューブを合成するカーボンナノチューブの合成方法、その合成方法によって合成したカーボンナノチューブ、その合成方法によって表面にカーボンナノチューブを形成したシリコン基板、そのシリコン基板をカソード電極として使用した電子源およびその電子源を使用した電界放出型ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
高機能性カーボンの一種であるカーボンナノチューブは、電界放出型の電子源を用いた電界放出型ディスプレイ(FED)の電子放出素子材料としての応用が期待されている。FEDの断面構造の模式図を図8に示す。図8に示すように、カーボンナノチューブは、カソード電極上に形成される。カーボンナノチューブを別途合成し、それをカソード電極上へ印刷や塗布などをする手法も考えられる。しかし、カソード電極上へ直接合成することができれば、製造プロセスが簡略化できる。そこで、カーボンナノチューブをカソード電極上へ直接合成する方法が求められている。また、FEDでは、画面を構成するピクセルの間で輝度のばらつきを抑えるために、カーボンナノチューブの電子放出性能を均一にすることが望まれる。カソード電極に垂直に配向したカーボンナノチューブが得られれば、より好ましいものとなる。
【0003】
カーボンナノチューブをカソード電極などの基板上へ直接合成する方法として、以下に示す化学的気相合成法(CVD法)が一般的である。スパッタ法で鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの触媒金属の薄膜を基板上へ形成する。薄膜を形成した基板を加熱しながらプラズマにさらすことによって、薄膜より触媒微粒子が基板上に形成される。そして、500〜1000℃の高温環境下でメタン、エチレン、アセチレン、アルコール蒸気などの炭素源材料ガスを基板に流すと、触媒微粒子よりカーボンナノチューブが生成され、成長する。
【0004】
非特許文献1では、カーボンナノチューブが生成されるためには触媒微粒子の直径が100nmより小さいことが必要であることが報告されている。触媒微粒子の粒径とカーボンナノチューブの管径との間に正の相関があり、触媒微粒子の粒径が小さいほどカーボンナノチューブの管径が細くなる。また、CVD法によりカーボンナノチューブを成長させているときに電場を加えることによって、カーボンナノチューブを配向させる。しかし、触媒微粒子の粒径が均一で、均一に密集している場合は、電場を印加しなくても基板に対して垂直に立ったカーボンナノチューブを得ることができる。これは、カーボンナノチューブが密集しているため、互いに支え合って倒れないためであると考えられている(crowding効果)。 一方、触媒微粒子のサイズが揃っていない場合は、カーボンナノチューブが配向しないばかりか、条件によってはカーボンナノチューブが生成しない。したがって、管径が均一で配向したカーボンナノチューブを得るためには、CVD法によってカーボンナノチューブを生成および成長させる前に触媒微粒子の粒径を揃え、かつ触媒微粒子を基板表面に均一に分布させることが必要である。
【0005】
このような触媒微粒子の粒径制御を比較的容易に行う方法として、以下の触媒溶液塗布法が知られている。触媒金属化合物、あるいは触媒金属イオン、あるいはそれらを含むコロイドを含有した触媒溶液を基板上に塗布し、溶媒を揮散させた後に塗布残留物を分解して触媒微粒子を形成する(たとえば、非特許文献2、特許文献1など)。触媒微粒子を生成する金属化合物として、酢酸塩、硝酸塩、塩化物などのイオン性化合物が使用される。触媒溶液の溶媒として、これらのイオン性化合物を良く溶かす水、エチルアルコール、メチルアルコールなどの極性溶媒が使用される。 触媒溶液の塗布方法としてスピンコートによる方法が一般的であるが、パターニングを志向した場合にはスタンプ印刷による方法も今後発展すると期待される。
【特許文献1】特開2001−062299号公報
【非特許文献1】J.S. Gao , K. Umeda, K. Uchino, H. Nakashima, K. Muraoka,“Plasmabreaking of thin films into nano-sized catalysts for carbon nanotubesynthesis”,MATERIALS SCIENCE & ENGINEERING A, 352(1), pp.308-313 (2003)
【非特許文献2】C. Emmenegger, J.M. Bonard, P. Mauron, P. Sudan, A. Lepora, B. Grobety,A. Zutel, L.Schlapbach, “Synthesis of carbon nanotubes over Fe catalyst on aluminiumand suggested growth mechanism”, CARBON, 41(3), pp.539-547 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体産業の発展で微細加工技術が確立しているシリコン基板上へカーボンナノチューブを形成することができれば好都合であるので、FEDのカソード電極の候補として、シリコン基板が有望視されている。しかし、シリコン基板に上述の触媒溶液塗布法を適用しようとすると、シリコン基板に触媒溶液を均一に塗布することは難しい。なぜならば、触媒溶液の溶媒が親水性であるのに対し、シリコン基板の表面は疎水性だからである。また、均一に塗布できたとしても、塗布後に溶媒が揮散する途中で溶液が液滴となったり、塗りムラが顕在化したりするため、結果として触媒微粒子を均一に形成させることができない。そうすると、基板上にカーボンナノチューブが生成しない部位が発生したり、配向しなかったり、カーボンナノチューブ以外の炭素構成物が不純物として多量に生成される。本発明は、このような問題点を解決するため、シリコン基板上へ触媒微粒子の粒径と分布を均一にすることにより、配向したカーボンナノチューブを基板上に合成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)請求項1の発明のカーボンナノチューブの合成方法は、シリコン基板の表面を清浄化するシリコン基板清浄化工程と、シリコン基板清浄化工程で清浄化したシリコン基板の表面に炭化水素基を形成する炭化水素基形成工程と、炭化水素基形成工程で炭化水素基を形成したシリコン基板の表面に界面活性剤を含んだ界面活性剤層を形成する界面活性剤層形成工程と、界面活性剤層形成工程で界面活性剤層を形成したシリコン基板の表面に触媒金属イオンを含んだ触媒金属イオン層を形成する触媒金属イオン層形成工程と、触媒金属イオン層形成工程で形成した触媒金属イオン層より触媒金属化合物を析出させ、触媒金属化合物を還元して触媒微粒子を生成する触媒微粒子生成工程と、炭素源材料を導入し熱分解することによって、シリコン基板上の触媒微粒子よりカーボンナノチューブを生成ならびに成長させるカーボンナノチューブ形成工程とを含むことを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、シリコン基板清浄化工程では、シリコン基板の表面を水素終端化することを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、炭化水素基形成工程では、シリコン基板の表面に直鎖炭化水素の単分子膜を形成する。
(4)請求項4の発明は、請求項3に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、炭化水素基形成工程では、末端に不飽和結合を有する直鎖炭化水素を溶解した無水有機溶媒に清浄化したシリコン基板を浸漬することによって、シリコン基板の表面に直鎖炭化水素の単分子膜を形成すること特徴とする。
(5)請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、界面活性剤層形成工で程では、界面活性剤として非イオン性界面活性剤を使用することを特徴とする。
(6)請求項6の発明は、請求項5に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、触媒金属イオン層には、界面活性剤層の非イオン性界面活性剤が含まれていることを特徴とする。
(7)請求項7の発明は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、触媒微粒子生成工程では、シリコン基板の表面に1μg/cm以上、10μg/cm以下の密度で鉄の微粒子を生成することを特徴とする。
(8)請求項8の発明のシリコン基板は、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの合成方法によって表面にカーボンナノチューブを形成することを特徴とする。
(9)請求項9の発明の電子源は、請求項8に記載のシリコン基板をカソード電極として使用することを特徴とする。
(10)請求項10の発明の電界放出型ディスプレイは、請求項9に記載の電子源を使用することを特徴とする。
(11)請求項11の発明のカーボンナノチューブは、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの合成方法によって合成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリコン基板清浄化工程で清浄化したシリコン基板の表面に炭化水素基を形成し、炭化水素基を形成した面に界面活性剤を含んだ界面活性剤層を形成する。次に、界面活性剤層を形成した面に触媒金属イオンを含んだ触媒金属イオン層を形成し、触媒金属イオン層より触媒金属化合物を析出させ、触媒金属化合物を還元して触媒微粒子を生成する。そして、炭素源材料を熱分解することによって、シリコン基板上の触媒微粒子よりカーボンナノチューブを生成ならび成長させた。したがって、管径および成長方向が均一なカーボンナノチューブをシリコン基板上に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施形態におけるカーボンナノチューブの合成方法について、図1を参照に説明する。本発明の一実施形態におけるカーボンナノチューブの合成方法は、図1のように、シリコン基板清浄化工程と、炭化水素基形成工程と、界面活性剤層形成工程と、触媒金属イオン層形成工程と、触媒微粒子生成工程と、カーボンナノチューブ形成工程とを含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0010】
(a)シリコン基板清浄化工程
シリコン基板清浄化工程では、シリコン基板の表面を清浄化する。シリコン基板の表面に付着した有機物やシリコン基板の表面に形成された酸化膜を除去し、シリコン基板の表面に存在するシリコンの結合手を水素により終端する。シリコン基板の表面に存在するシリコンの結合手を水素によって終端すると、活性なダングリングボンドが存在しなくなるため、空気中で酸化されにくくなる。このため、有機物や酸化物を除去したシリコン基板の表面が再び酸化され、酸化膜が形成されるのを防止できる。具体的には、シリコン基板の表面をフッ化水素酸で処理することによってシリコン基板の表面を清浄化する。
【0011】
(b)炭化水素基形成工程
炭化水素基形成工程では、清浄化されたシリコン基板の表面に、炭化水素基を形成し、シリコン基板の表面を疎水性にする。シリコン基板の表面は、もともと疎水性であるが、後述する界面活性剤との間の親和性を高くするため、以下のようにして、シリコン基板の表面に炭化水素基を形成し、表面を疎水性にする。
【0012】
末端に不飽和結合を有する直鎖炭化水素を無水有機溶媒に溶解し、その無水有機溶媒にシリコン基板を浸漬する。そうすると、図2に示すように、炭化水素の不飽和結合とシリコンとが反応してSi−C結合が形成され、シリコン基板の表面に直鎖炭化水素の単分子膜が形成される。直鎖炭化水素のシリコンと反応した側と反対側の末端には炭化水素基が形成されているので、単分子膜の開放面側は疎水性となる。ここで、直鎖炭化水素を使用するのは、緻密な単分子膜を形成するためである。また、フラットな単分子膜を形成するためには、末端に不飽和結合を有する直鎖炭化水素として炭素数4〜18のオレフィン系炭化水素が好ましい。無水有機溶媒としては、炭化水素が溶解できれば特に限定されない。たとえば、無水のトルエンやメシチレン、トリメチルペンタンなどが挙げられる。
【0013】
(c)界面活性剤層形成工程
界面活性剤層形成工程は、シリコン基板に形成された炭化水素基に対して非イオン性界面活性剤を含む界面活性剤層を形成する。ここで、非イオン性界面活性剤を使用するのは、イオン性界面活性剤を使用すると、pHの影響を受け、後述する触媒微粒子の粒径を変えてしまうからである。非イオン性界面活性剤として、たとえば、ポリエチレングリコールモノ[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル]エーテル(Triton−X100)などを用いる。非イオン性界面活性剤を含むエタノールなどの溶媒にシリコン基板を所定時間浸漬した後、乾燥して、直鎖炭化水素の単分子膜上に界面活性剤層(界面活性剤の単分子膜)を形成する。このとき、図3に示すように、界面活性剤層のアルキル基などの親油性原子団は直鎖炭化水素の単分子膜側に向き、水酸基などの親水性原子団は解放面側に向く。
【0014】
(d)触媒金属イオン層形成工程
触媒金属イオン層形成工程では、界面活性剤層の上に触媒金属イオンを含む触媒金属イオン層を形成する。触媒金属イオンとしては、鉄族金属、白金族金属、希土類金属などの金属イオンが好ましいが、とくに、鉄(Fe)、Ni(ニッケル)、コバルト(Co)のイオンがより好ましい。触媒金属イオンは、触媒金属の水酸化物や硝酸化合物などの触媒金属化合物を溶媒に溶かして生成する。触媒金属イオン層の形成は、界面活性剤層上に触媒金属イオンを含んだ溶液(触媒溶液)を塗布することによって行う。触媒溶液の溶媒は、触媒金属化合物を溶解するものであればとくに限定されず、たとえば、エタノールがよい。触媒金属イオンを含んだ溶液をシリコン基板上に塗布する方法としては、スピンコート法、スプレー塗布法、ハケ塗り法などがある。
【0015】
界面活性剤層に含まれている非イオン性界面活性剤を上述の触媒溶液に含有させてもよい。このようにすると界面活性剤層との密着性が高まる。また、後述する触媒微粒子生成工程で析出する触媒金属化合物同士の合体を防止するので、触媒金属化合物の粒径を均一にすることができる。触媒金属イオンを生成しないで、触媒金属の微粒子、または触媒金属化合物の微粒子を溶媒中に分散させて触媒溶液を作製し、それを界面活性剤層上に塗布してもよい。
【0016】
(e)触媒微粒子生成工程
触媒微粒子生成工程では、触媒金属イオン層を乾燥して触媒金属化合物を析出させ、それを還元することによって触媒金属の微粒子を生成する。以下、この微粒子を触媒微粒子と呼ぶ。触媒金属化合物を還元させる方法としては、水素雰囲気中で熱処理する方法がある。
【0017】
(f)カーボンナノチューブ形成工程
カーボンナノチューブ形成工程では、CVD法によって、つまり炭素源材料を熱分解することによって、シリコン基板上の触媒微粒子よりカーボンナノチューブを生成ならびに成長させる。炭素源材料としては、メタン、アセチレン、エチレン、一酸化炭素、エタノールなどが用いられる。これらの炭素源材料を熱CVDやプラズマCVDなどにより分解して、カーボンナノチューブを生成させ、成長させる。炭素源材料は、水素やアルゴンで希釈されて真空容器や反応炉に供給される。
【実施例】
【0018】
次に、本発明の実施例と比較例とによって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、この実施例と比較例とによってなんら限定されるものではない。
【0019】
(実施例)
テフロン(登録商標)製シャーレ中で、4インチシリコン基板を10%フッ化水素酸水溶液に10分間浸漬する。このシリコン基板をシャーレより引き上げて純水で洗浄後、ガラス製シャーレに入れた。このガラス製シャーレに1−オクタデセンの1容量%トルエン溶液を投入し、シリコン基板を10分間浸漬した。乾燥した後、シリコン基板をガラス製のシャーレに入れ、このシャーレにトリトン−X100(Triton−X100)の1容量%エタノール溶液を投入し、シリコン基板を10分間浸漬した。
【0020】
乾燥後、5容量%のトリトン−X100および100mMol%/Lの硝酸第2鉄を含むエタノール溶液からなる触媒溶液をシリコン基板に塗布した。触媒溶液の塗布はスピンコート法によって行った。シリコン基板を2500rpmの回転速度で回転させ、触媒溶液を塗布した。触媒溶液を塗布した後、シリコン基板を乾燥した。乾燥したシリコン基板を、加熱、排気が可能な容量約4リットルの真空容器に入れ、流量100ml/minの水素ガスと、流量100ml/minのアルゴンガスを真空容器に導入した。そして、600℃、30torrで1時間熱処理し、硝酸鉄を還元して鉄の触媒微粒子を生成させた。
【0021】
以上のようにして得られた鉄の触媒微粒子の電子顕微鏡写真を図4に示す。約10nmの粒径の鉄の触媒微粒子がシリコン基板上に均一に密集して生成していることがわかる。 酸溶解してシリコン基板の単位面積当たりの鉄の質量を定量したところ、平均して1平方センチメートル当たり約4マイクログラムの鉄の触媒微粒子がシリコン基板上に固定されたことがわかった。この値は直径10nmの鉄(比重=7.8)の球を稠密に平面に敷き詰めたときの重量(4.7μg/cm)とほぼ一致する。したがって、このことからも、粒径が約10nmの鉄の触媒微粒子がシリコン基板上に均一に密集して分布していることがわかる。
【0022】
表面に鉄微粒子を生成したシリコン基板を、そのまま真空容器に入れた状態で、流量100ml/minの水素ガスおよび流量100ml/minのアルゴンガスに加えて流量5ml/minのアセチレンガスを真空容器に導入する。そして、600℃、30torrで1時間熱処理して、アセチレンガスを熱分解し、鉄微粒子からカーボンナノチューブを生成並びに成長させた。このようにして得られたカーボンナノチューブの電子顕微鏡写真を図5に示す。管径約10nmのカーボンナノチューブが配向しながら、約50μmの高さまで成長したことがわかる。
【0023】
シリコン基板上に固定される単位面積当たりの鉄の質量は、溶液の硝酸鉄の濃度、スピンコーターの回転数、あるいはトリトン−X100の添加量で粘度を調節することによって変えることができた。そして、シリコン基板上に固定される単位面積当たりの鉄の質量を変えてカーボンナノチューブを合成した結果、配向したカーボンナノチューブを得るには、シリコン基板上に固定される鉄の適正密度範囲がおおむね1〜10μg/cmであることがわかった。この密度範囲では、生成する鉄の微粒子の粒径は約10nmと変わらず、生成するカーボンナノチューブの管径も約10nmで一定していた。したがって、シリコン基板上に固定される単位面積当たりの鉄の質量を適正密度範囲内にすることによって、再現性良く配向カーボンナノチューブの合成が可能であることがわかった。
【0024】
(比較例)
次に、本発明の実施例に対する比較例について説明する。ここで、シリコン基板清浄化工程と、炭化水素基形成工程と、界面活性剤層形成工程とを行わない場合について説明する。
【0025】
上記の処理を行っていないシリコン基板に、実施例と同様の触媒溶液をスピンコート法によって塗布する。そうすると、触媒溶液はシリコン基板上にマダラ状に分布する。 マダラ状になった結果、触媒溶液の塗布された領域では過剰量の鉄が集積する。触媒溶液を乾燥し、還元して得られた鉄の微粒子の電子顕微鏡写真を図6に示す。これを見ると、粒径が100nmにも及ぶ鉄の巨大粒子と、粒径が10nm程度である鉄の微粒子とが混在していることがわかる。
【0026】
このようにして得られた鉄の微粒子より、カーボンナノチューブを合成すると、図7に示すようになる。配向したカーボンナノチューブの生成は確認されないばかりか、非配向のカーボンナノチューブも極わずかしか生成されなかった。これは、触媒溶液の塗布がマダラになった結果、前述の鉄の密度が、適正密度範囲から逸脱したためと考えられる。
【0027】
以上の本発明の実施形態によるカーボンナノチューブの合成方法は次のような作用効果を奏する。
(1)シリコン基板清浄化工程で清浄化したシリコン基板の表面に炭化水素基を形成し、炭化水素基を形成した面に界面活性剤を含んだ界面活性剤層を形成した。次に、界面活性剤層を形成した面に触媒金属イオンを含んだ触媒金属イオン層を形成し、触媒金属イオン層より触媒金属化合物を析出させ、触媒金属化合物を還元して触媒微粒子を生成した。そして、炭素源材料を熱分解することによって、シリコン基板上の触媒微粒子よりカーボンナノチューブを生成ならび成長させた。したがって、管径および成長方向が均一なカーボンナノチューブをシリコン基板上に形成することができる。
【0028】
(2)シリコン基板の表面を清浄化する際、シリコン基板の表面を水素終端化した。したがって、清浄化したシリコン基板の表面が再び酸化され、酸化膜が形成されるのを防止できる。
【0029】
(3)シリコン基板の表面に直鎖炭化水素の単分子膜を形成することによって、シリコン基板の表面に炭化水素基を形成した。したがって、直鎖状のため炭化水素基を緻密に形成することができ、界面活性剤との親和性が高くなる。
【0030】
(4)末端に不飽和結合を有する直鎖炭化水素を溶解した無水有機溶媒に、清浄化した基板を浸漬することによって、シリコン基板の表面に直鎖炭化水素の単分子膜を形成した。炭化水素の不飽和結合とシリコンとが反応してSi−C結合が形成されるので、直鎖炭化水素の単分子膜がシリコン基板から剥離するのを防止することができる。
【0031】
(5)界面活性剤層に含まれる界面活性剤に非イオン性界面活性剤を使用した。したがって、触媒金属イオン層から生成される触媒微粒子の粒径がpHの影響によって変わるのを防止することができる。
【0032】
(6)界面活性剤層に含まれている非イオン性界面活性剤を含有した触媒溶液を、界面活性剤層を形成した面上に塗布することによって触媒金属イオン層を形成した。したがって、界面活性剤層と触媒金属イオン層との間の密着性を高めることができ、また析出する触媒金属化合物の粒径を均一にすることができる。
【0033】
(7)シリコン基板の表面に1μg/cm以上、10μg/cm以下の密度で鉄の触媒微粒子を生成させた。したがって、鉄の触媒微粒子から再現性よく約10nmの管径の配向したカーボンナノチューブを合成することができる。
【0034】
以上の実施の形態の本発明の実施形態によるカーボンナノチューブの合成方法を次のように変形することができる。
(1)実施例では、オクタデセンを用いた場合について説明しているが、不飽和結合を持つ直鎖の不飽和炭化水素であり、シリコン基板の表面のSiと反応して単分子膜を作る化合物であれば、オクタデセンに限定されない。
【0035】
(2)界面活性剤としても種々の物質を用いることが考えられるが、触媒溶液中の触媒金属イオン、あるいは触媒金属イオン層から析出する触媒金属化合物と反応して分解しないものであれば、本発明の実施例に限定されない。
【0036】
(3)スピンコートでシリコン基板全体に触媒溶液を塗布したが、マスクパターンを用いたり、スタンプで塗布を行ったりして、シリコン基板上にパターニングを行って触媒溶液を塗布してもよい。パターニングの間隔が触媒微粒子のサイズ(100nm以下)よりはるかに大きければ(例えば1mm)、均質に塗布された部分と全く塗布されていない部分が並存することになり、シリコン基板全体を一様に塗布した場合と同様の効果が発揮される。
【0037】
(4)カーボンナノチューブを形成したシリコン基板の用途は、電界放出型ディスプレイの電子源に限定されない。たとえば、以下のような用途がある。パターニングで分画された所定領域上に、垂直に配向したカーボンナノチューブをシリコン基板上に形成する。そのシリコン基板上に他のシリコン基板を搭載する。これにより、複数の半導体デバイスを積層した立体的集積回路基板の実現が可能となる。この場合、カーボンナノチューブによってシリコン基板間の導通を得る。以上のように立体的集積回路を形成することによって、回路の集積度が大幅に向上する。
【0038】
(5)シリコン基板に形成したカーボンナノチューブを剥がして、そのカーボンナノチューブをバルク材料として使用してもよい。たとえば、複合材料の導電性フィラーとしての用途が考えられる。シリコン基板からカーボンナノチューブを剥がす前に、レーザ加工などの手段でカーボンナノチューブの長さをそろえることができるので、長さおよび管径のそろった均一なカーボンナノチューブを提供することができる。
【0039】
本発明は、その特徴的構成を有していれば、以上説明した実施の形態になんら限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態におけるカーボンナノチューブの合成方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】シリコン基板の表面のSiと、末端に不飽和結合を有する直鎖炭化水素との反応を説明するための図である。
【図3】界面活性剤層を説明するための図である。
【図4】本発明による実施例においてシリコン基板の表面に生成した鉄微粒粒子を説明するための電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明による実施例おいて生成したカーボンナノチューブを説明するための電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明による比較例においてシリコン基板の表面に生成した鉄微粒粒子を説明するための電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明による比較例おいて生成したカーボンナノチューブを説明するための電子顕微鏡写真である。
【図8】電界放出型ディスプレイの断面構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の表面を清浄化するシリコン基板清浄化工程と、
前記シリコン基板清浄化工程で清浄化したシリコン基板の表面に炭化水素基を形成する炭化水素基形成工程と、
前記炭化水素基形成工程で炭化水素基を形成したシリコン基板の表面に界面活性剤を含んだ界面活性剤層を形成する界面活性剤層形成工程と、
前記界面活性剤層形成工程で界面活性剤層を形成したシリコン基板の表面に触媒金属イオンを含んだ触媒金属イオン層を形成する触媒金属イオン層形成工程と、
前記触媒金属イオン層形成工程で形成した触媒金属イオン層より触媒金属化合物を析出させ、前記触媒金属化合物を還元して触媒微粒子を生成する触媒微粒子生成工程と、
炭素源材料を導入し熱分解することによって、前記シリコン基板上の触媒微粒子よりカーボンナノチューブを生成ならびに成長させるカーボンナノチューブ形成工程とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブの合成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、
前記シリコン基板清浄化工程では、前記シリコン基板の表面を水素終端化することを特徴とするカーボンナノチューブの合成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、
前記炭化水素基形成工程では、前記シリコン基板の表面に直鎖炭化水素の単分子膜を形成すること特徴とするカーボンナノチューブの合成方法。
【請求項4】
請求項3に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、
前記炭化水素基形成工程では、末端に不飽和結合を有する直鎖炭化水素を溶解した無水有機溶媒に前記清浄化したシリコン基板を浸漬することによって、前記シリコン基板の表面に前記直鎖炭化水素の単分子膜を形成すること特徴とするカーボンナノチューブの合成方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、
前記界面活性剤層形成工で程では、前記界面活性剤として非イオン性界面活性剤を使用することを特徴とするカーボンナノチューブの合成方法。
【請求項6】
請求項5に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、
前記触媒金属イオン層には、前記界面活性剤層の非イオン性界面活性剤が含まれていることを特徴とするカーボンナノチューブの合成方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの合成方法において、
前記触媒微粒子生成工程では、前記シリコン基板の表面に1μg/cm以上、10μg/cm以下の密度で鉄の微粒子を生成することを特徴とするカーボンナノチューブの合成方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの合成方法によって表面にカーボンナノチューブを形成することを特徴とするシリコン基板。
【請求項9】
請求項8に記載のシリコン基板をカソード電極として使用することを特徴とする電子源。
【請求項10】
請求項9に記載の電子源を使用することを特徴とする電界放出型ディスプレイ。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの合成方法によって合成することを特徴とするカーボンナノチューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−56529(P2008−56529A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235100(P2006−235100)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【Fターム(参考)】