説明

カーボンナノチューブ分散溶液、有機半導体コンポジット溶液、有機半導体薄膜ならびに有機電界効果型トランジスタ

【課題】インクジェット法に代表される塗布法で成膜可能であって、高い電荷移動度および高いオンオフ比を有する有機FETを提供することができるカーボンナノチューブ分散溶液および有機半導体コンポジット溶液を提供すること。
【解決手段】表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着したカーボンナノチューブおよび一種類以上の溶媒を含有するカーボンナノチューブ分散溶液であって、該カーボンナノチューブ分散溶液に含まれる各溶媒の双極子モーメントが3.5Debye以下であり、かつ、沸点が150℃以上である溶媒を全溶媒中50体積%以上含有するカーボンナノチューブ分散溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に共役系重合体が付着したカーボンナノチューブおよび溶媒を含有するカーボンナノチューブ分散溶液、該カーボンナノチューブ分散溶液と有機半導体を含有する有機半導体コンポジット溶液、該有機半導体コンポジット溶液から得られる有機半導体薄膜ならびに有機電界効果型トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、成形性に優れた有機半導体を半導体層として用いた有機電界効果型トランジスタ(以下、有機FETという)が提案されている。有機半導体をインクとして利用することで、インクジェット技術やスクリーニング技術等により、基板上に直接回路パターンを形成することが可能になることから、従来の無機半導体を用いた電界効果型トランジスタ(以下、FETという)にかわり、有機半導体を用いた有機FETが盛んに検討されている。
【0003】
FETの性能を示す重要な指標として、移動度とオンオフ比が挙げられる。移動度の向上は、すなわち、オン電流を増加させることを意味する。一方、オンオフ比の向上は、オン電流を増加させるとともにオフ電流を減少させることを意味する。これらはどちらもFETのスイッチング特性を向上させることであり、例えば液晶表示装置においては高階調を実現させることにつながる。例えば液晶表示装置の場合、移動度0.1cm/V・sec以上、オンオフ比10以上が求められる。
【0004】
これまでに、有機溶媒に可溶で塗布形成が可能な共役系ポリマーやポリチオフェンなどの有機高分子半導体、および可溶化したオリゴチオフェンなどの有機半導体材料を用いた有機FET(例えば、特許文献1〜3参照)が開示されている。しかし、これら有機半導体のみでは十分な移動度およびオンオフ比が得られていなかった。
【0005】
これに対し、移動度を向上させるための技術として、ポリ−3−ヘキシルチオフェンなどの有機高分子半導体のクロロホルム溶液中にカーボンナノチューブ(以下、CNTという)を分散させたコンポジット溶液から作製される有機FET(例えば、特許文献4〜5参照)が開示されている。しかし、これらに記載されたコンポジット溶液は、インクジェット法や印刷法などを用いた実プロセスでの薄膜作製には適さないという課題があった。
【特許文献1】特開2006−13483号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−24908号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2006−40934号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2005−89738号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2006−265534号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、インクジェット法に代表される塗布法で成膜可能であって、高い電荷移動度および高いオンオフ比を有する有機FETを提供することができるカーボンナノチューブ分散溶液および有機半導体コンポジット溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着したCNTおよび一種類以上の溶媒を含有するCNT分散溶液であって、該CNT分散溶液に含まれる各溶媒の双極子モーメントが3.5Debye以下であり、かつ、沸点が150℃以上である溶媒を全溶媒中50体積%以上含有するCNT分散溶液である。また、本発明は、上記CNT分散溶液と有機半導体を含有する有機半導体コンポジット溶液である。また、本発明は、前記有機半導体コンポジット溶液から塗布法を用いて得られる有機半導体薄膜である。また、本発明は、ゲート電極、絶縁層、半導体層、ソース電極およびドレイン電極を有する有機電界効果型トランジスタであって、該半導体層が前記有機半導体薄膜を含有する有機電界効果型トランジスタである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、インクジェット法のなどの塗布法で作製可能であって、高い移動度および高いオンオフ比を有する有機電界効果型トランジスタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のCNT分散溶液は、表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着したCNTおよび一種類以上の溶媒を含有し、該CNT溶液に含まれる各溶媒の双極子モーメントが3.5Debye以下であり、かつ、沸点が150℃以上である溶媒を全溶媒中50体積%以上含有する。
【0010】
これまでに、表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着したCNTをクロロホルム中に分散させる技術は開示されているが、溶媒であるクロロホルムの沸点が62℃と低いため、インクジェット等の実塗布プロセスに適用することができなかった。また、高いFET特性を得るためには、CNTが安定に分散したCNT分散溶液を用いて有機FETを作製する必要がある。そこで本発明では、溶媒の双極子モーメントを3.5Debye以下とし、かつ全溶媒の50体積%以上を沸点が150℃以上の溶媒とすることで、CNTが溶媒中に長時間安定に分散し、インクジェット等の実塗布プロセスで高い特性を有する有機FETを作製できることを見出した。
【0011】
双極子モーメントは溶媒の極性を表す指標である。本発明においては、双極子モーメント3.5Debye以下の低極性溶媒を用いることで、共役系重合体の溶解性を高め、共役系重合体が付着したCNTの分散性を向上できる。双極子モーメントが3.5Debyeを超える溶媒を含有すると、CNTが凝集するなど分散性が低下する。なお、溶媒を2種類以上含有する場合は、各溶媒の双極子モーメントがいずれも3.5Debye以下であることが必要である。すなわち、溶媒は実質的に低極性溶媒のみからなることが必要であり、全溶媒中99体積%以上は低極性溶媒である。
【0012】
また、沸点が150℃以上の溶媒を全溶媒中50体積%以上含有することで、塗布の際に低沸点溶媒が揮発した場合であっても固体成分の析出や溶媒の蒸発による塗布むらを防ぐことができる。その結果、塗布法による半導体薄膜の形成が可能となり、また、高い特性を有する有機FETを得ることができる。なお、沸点は大気圧下における値を指す。
【0013】
双極子モーメントが3.5Debye以下の溶媒としては、クロロベンゼン、トルエン、ベンゼン、キシレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどが挙げられる。また、沸点が150℃以上かつ双極子モーメントが3.5Debye以下の溶媒としては、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、p−シメン、1,2−ジヒドロナフタレン、o−ジエチルベンゼン、m−ジエチルベンゼン、p−ジエチルベンゼン、1,2,3−トリエチルベンゼン、1,3−ジイソプロピルベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、n−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、iso−ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、マロン酸ジエチル、o−トルイジン、m−トルイジンなどが挙げられる。これらの溶媒を2種以上組み合わせてもよい。
【0014】
本発明のCNT分散溶液は、表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着したCNTを含有する。これにより、有機FETの移動度およびオンオフ比を向上させることができる。本発明中において、CNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着した状態とは、CNTの表面の一部、あるいは全部を共役系重合体が被覆した状態を意味する。共役系重合体がCNTを被覆できるのは、それぞれの共役系構造に由来するπ電子雲が重なることによって相互作用が生じるためと推測される。CNTが共役系重合体で被覆されているか否かは、被覆されたCNTの反射色が被覆されていないCNTの色から共役系重合体の色に近づくことで判断できる。定量的にはX線光電子分光(XPS)などの元素分析によって、付着物の存在とCNTに対する付着物の重量比を同定することができる。上記の「表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着したCNT」を以下「CNT複合体」という。
【0015】
本発明に用いられる共役系重合体は、CNT複合体を形成することができ、さらに上記溶媒に安定して分散させることができれば特に限定されない。共役系重合体としては、チオフェン系重合体、ピロール系重合体、アニリン系重合体、アセチレン系重合体、p−フェニレン系重合体、p−フェニレンビニレン系重合体などが挙げられる。上記重合体の中でもCNTの共役構造とπ電子雲が重なりやすい共役構造を有していることが好ましく、チオフェン系重合体がより好ましい。チオフェン系重合体とはチオフェン骨格を繰り返し単位とした重合体である。具体例としては、ポリ−3−メチルチオフェン、ポリ−3−ブチルチオフェン、ポリ−3−ヘキシルチオフェン、ポリ−3−オクチルチオフェン、ポリ−3−ドデシルチオフェンなどのポリ−3−アルキルチオフェン、ポリ−3−メトキシチオフェン、ポリ−3−エトキシチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシチオフェンなどのポリ−3−アルコキシチオフェン、ポリ−3−メトキシ−4−メチルチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシ−4−メチルチオフェンなどのポリ−3−アルコキシ−4−アルキルチオフェン、ポリ−3−チオヘキシルチオフェンやポリ−3−チオドデシルチオフェンなどのポリ−3−チオアルキルチオフェンが挙げられ、1種もしくは2種以上を用いてもよい。好ましい分子量は重量平均分子量で800〜100000である。また、チオフェン系重合体は、CNTとチオフェンの相互作用を阻害しにくい短い側鎖構造を有していることが好ましく、CNTを溶媒中により長期間安定に分散させることができることから、下記一般式(1)で表されるチオフェン系重合体が特に好ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
ここで、Rは炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜5のアルコキシアルキル基、炭素数1〜5のアルキルカルボニル基、炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基または炭素数1〜5のアルキルカルボニルオキシ基を示す。それぞれのRは同じでも異なっていてもよい。nは10以上の整数を示す。
【0018】
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示す。また、アルキル基の炭素数は1以上5以下の範囲であり、より好ましくは2以上4以下の範囲である。
【0019】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など、エーテル結合の一方を脂肪族炭化水素基で置換した官能基を示す。アルコキシ基の炭素数は1以上5以下の範囲である。
【0020】
アルコキシアルキル基とは例えばメトキシエチル基、エトキシエチル基、n−プロポキシエチル基など、アルキル基の末端をアルコキシ基で置換した官能基を示す。アルコキシ基の炭素数は1以上5以下の範囲である。
【0021】
アルキルカルボニル基とは、例えば、アセチル基など、カルボニル結合の一方を脂肪族炭化水素基で置換した官能基を示し、この脂肪族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルカルボニル基の炭素数は2以上5以下の範囲である。
【0022】
アルコキシカルボニル基とは、例えば、メトキシカルボニル基など、カルボニル結合の一方をアルコキシ基で置換した官能基を示し、このアルコキシ基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルコキシカルボニル基の炭素数は2以上5以下の範囲である。
【0023】
アルキルカルボニルオキシ基とは、例えば、アセトキシ基など、エーテル結合の一方をアルキルカルボニル基で置換した官能基を示し、このアルキルカルボニル基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルカルボニルオキシ基の炭素数は2以上5以下の範囲である。
【0024】
nは10以上の整数を示す。また、溶解性を考慮して500以下が好ましい。それぞれのRは同じでも異なっていてもよい。
【0025】
上記のような一般式(1)で表されるチオフェン系重合体として、具体的には以下のような例が挙げられる。
【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
本発明で用いられる共役系重合体の合成には、公知の方法を使用することができる。たとえば重合性官能基を二つ有するモノマー同士を反応させる方法、異なる二つの重合性官能基を有するモノマー同士を鉄またはニッケル触媒下で反応させる方法が挙げられる。
【0029】
また、本発明で用いられる共役系重合体の不純物を除去する方法は特に限定されないが、基本的には合成過程で使用した原料や副生成物を除去する生成工程であり、再沈殿法、ソクスレー抽出法、ろ過法、イオン交換法、キレート法などを用いることができる。中でも低分子量成分を除去する場合には、再沈殿法、ソクスレー抽出法が好ましく用いられる。これらの方法を2種以上組み合わせてもよい。
【0030】
CNTとしては、1枚の炭素膜(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNT、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNT、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNTのいずれを用いてもよく、これらを2種以上用いてもよい。CNTは、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法等により得ることができる。
【0031】
本発明において、CNTの長さは、ソース電極とドレイン電極間の距離(チャネル長)よりも短いことが好ましい。CNTの平均長さは、チャネル長によるが、好ましくは2μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。一般に市販されているCNTは長さに分布があり、チャネル長よりも長いCNTが含まれることがあるため、CNTをチャネル長よりも短くする工程を加えることが好ましい。例えば、硝酸、硫酸などによる酸処理、超音波処理、または凍結粉砕法などにより短繊維状にカットする方法が有効である。またフィルターによる分離を併用することは、純度を向上させる点でさらに好ましい。
【0032】
また、CNTの直径は特に限定されないが、1nm以上100nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以下である。
【0033】
本発明では、CNTを溶媒中に均一分散させ、分散液をフィルターによってろ過する工程を設けることが好ましい。フィルター孔径よりも小さいCNTを濾液から得ることで、チャネル長よりも短いCNTを効率よく得られる。この場合、フィルターとしてはメンブレンフィルターが好ましく用いられる。ろ過に用いるフィルターの孔径は、チャネル長よりも小さければよく、0.5〜10μmが好ましい。
【0034】
他にCNTを短小化する方法として、酸処理、凍結粉砕処理などが挙げられる。
【0035】
CNT複合体を含有するCNT分散溶液の調製方法は、(I)溶融した共役系重合体中にCNTを添加して混合する方法、(II)共役系重合体を溶媒中に溶解させ、この中にCNTを添加して混合する方法、(III)CNTをあらかじめ超音波等で予備分散させておき、そこへ共役系重合体を添加し混合する方法、(IV)溶媒中に共役系重合体とCNTをいれ、この混合系へ超音波を照射して混合する方法などが挙げられる。本発明では、いずれの方法を用いてもよく、いずれかの方法を組み合わせてもよい。
【0036】
また、CNT複合体を良好に分散させるために、CNT分散溶液中のCNTの濃度は溶媒に対して0.005〜1g/lが好ましく、さらに好ましくは0.5g/l以下である。
【0037】
本発明の有機半導体コンポジット溶液は、上述のCNT分散溶液と有機半導体を含有する。本発明の有機半導体コンポジット溶液を用いて有機FETを作製することで、より高い移動度とオンオフ比を実現することが可能となる。
【0038】
本発明の有機半導体コンポジット溶液に用いられる有機半導体は、溶媒に可溶で半導体性を示す材料であれば分子量にかかわらず用いることができ、キャリア移動度の高い材料であれば好ましく用いることができる。有機半導体の種類は特に限定されないが、ポリ−3−ヘキシルチオフェン、ポリベンゾチオフェンなどのポリチオフェン類、ポリピロール類、ポリ(p−フェニレンビニレン)などのポリ(p−フェニレンビニレン)類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、ポリジアセチレン類、ポリカルバゾール類、ポリフラン、ポリベンゾフランなどのポリフラン類、ピリジン、キノリン、フェナントロリン、オキサゾール、オキサジアゾールなどの含窒素芳香環を構成単位とするポリヘテロアリール類、アントラセン、ピレン、ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン、ルブレンなどの縮合多環系の低分子半導体、フラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ピリジン、キノリン、フェナントロリン、オキサゾール、オキサジアゾールなどの複素芳香環を有する低分子半導体などが例として挙げられる。中でもチオフェン骨格を有する低分子半導体が移動度をより向上させることができるため好ましい。これは、チオフェン骨格が高い電荷輸送能力を有するためである。本発明における低分子半導体とは、分子量3000以下の化合物をいう。本発明における低分子半導体は、分子量分布のない単一の化合物として単離・同定できるものであり、ある単位骨格の繰り返しからなる重合体ではない。このような低分子半導体はカラム精製や再結晶、昇華精製などの方法により精製することができるため、高純度化が可能である。従って、上記のような単一かつ高純度化が可能な低分子半導体を有機半導体層として用いることにより、有機FETの移動度をより向上させることができる。なお、分子量は一般に使用されている質量分析装置で測定することができる。
【0039】
チオフェン骨格を有する低分子半導体としては、芳香族基としてチオフェン骨格のみを有するオリゴチオフェン類、チオフェン骨格またはオリゴチオフェン骨格を連結基で結合した連結型チオフェン類が好ましく用いられる。
【0040】
上記のようなチオフェン骨格を有する低分子半導体の好ましい例として、具体的には4,4’−ビス(5−(2−(2−ブトキシエトキシ)エチル)チオフェン−2−イル)スチルベン、4,4’−ビス(5−(2−(2−プロピロキシエトキシ)エチル)チオフェン−2−イル)スチルベン、4,4’−ビス(5−(2−(2−エトキシエトキシ)エチル)チオフェン−2−イル)スチルベン、4,4’−ビス(5−(2−(2−ヘキシルオキシエトキシ)エチル)チオフェン−2−イル)スチルベン、4,4’−ビス(5−(2−メトキシメトキシエチル)チオフェン−2−イル)スチルベン、4,4’−ビス(5−(2−ノニルオキシエチル)チオフェン−2−イル)スチルベン、4,4’−ビス(5−(2−ドデシルオキシエチル)チオフェン−2−イル)スチルベン、4,4’−ビス((2−(3−n−ヘキシル)チエニル)ビニル)ビフェニル、4,4’−ビス(4’’,3’’’’’−n−ヘキシル([5’’,2’’’;5’’’,2’’’’;5’’’’,2’’’’’]クオーターチオフェン−2’’−イル)スチルベン、4,4’−ビス(4’’,3’’’’’−n−ヘキシル([5’’,2’’’;5’’’,2’’’’;5’’’’,2’’’’’]クオーターチオフェン−2’’−イル)ジフェニルエーテルなどが挙げられる。本発明の有機半導体コンポジット溶液は上述の有機半導体を2種以上含有してもよい。また、絶縁性材料を含んでもよい。ここで用いられる絶縁性材料としては、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0041】
有機半導体コンポジット溶液を形成する方法としては、例えば、CNT分散溶液と有機半導体またはその溶液を混合する方法を挙げることができる。また、必要に応じて、混合を促進するための加熱または超音波照射の工程を加えてもよいし、ろ過等の固形成分を除去する工程を加えてもよい。
【0042】
有機半導体コンポジット溶液中のCNT複合体の含有量は、有機半導体100重量部に対して0.01重量部以上3重量部以下が好ましく、1重量部以下がより好ましい。
【0043】
本発明の有機半導体薄膜は上記有機半導体コンポジット溶液から塗布法を用いて作製される。塗布法としては、塗膜厚み制御や配向制御など、得ようとする塗膜特性に応じて選択でき、スピンコート法、ブレードコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、鋳型法、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法などが挙げられる。中でも、パターン加工や薄膜形成が容易なことから、インクジェット法が好ましく用いられる。なお、インクジェット法としてはピエゾジェット方式とサーマルジェット方式が挙げられる。ピエゾジェット方式では圧力室にノズルと圧電体素子とが備えられており、圧電体素子に電圧を印加すると圧力室に体積変化が生じ、ノズルから有機半導体コンポジット溶液の液滴が吐出される。サーマルジェット方式では、圧力室に発熱体が備えられており、発熱体を発熱させてノズル近辺の有機半導体コンポジット溶液を加熱し、気泡を発生させてその体積膨張により流動体を吐出するものである。加熱による有機半導体コンポジット溶液の変質が無い点でピエゾジェット方式が好ましい。このとき有機半導体コンポジット溶液の吐出量は得ようとする素子のサイズや膜厚によって選択できる。
【0044】
有機半導体薄膜の膜厚は5nm以上100nm以下が好ましい。この範囲の膜厚にすることにより、有機FETのオンオフ比をより高くすることができる。膜厚は、原子間力顕微鏡やエリプソメトリ法などにより測定できる。また、有機半導体薄膜は単層でも複数層でもよい。また、形成した塗膜に対して、大気下、減圧下または不活性ガス雰囲気下(窒素やアルゴン雰囲気下)でアニーリング処理を行ってもよい。
【0045】
次に、本発明の有機半導体薄膜を含有する有機FETについて説明する。本発明の有機FETは、ゲート電極、絶縁層、半導体層、ソース電極およびドレイン電極を有する有機電界効果型トランジスタであって、前記半導体層が本発明の有機半導体薄膜を含有する。
【0046】
図1および図2は、本発明の有機FETの例を示す模式断面図である。図1では、絶縁層3で覆われたゲート電極2を有する基板1上に、ソース電極5およびドレイン電極6が形成され、さらにその上に本発明の有機半導体薄膜を含有する半導体層4が形成されている。図2では、絶縁層3で覆われたゲート電極2を有する基板1上に本発明の有機半導体薄膜を含有する半導体層4が形成され、さらにその上にソース電極5およびドレイン電極6が形成されている。
【0047】
基板1に用いられる材料としては、例えば、シリコンウエハー、ガラス、アルミナ焼結体等の無機材料、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン等の有機材料が挙げられる。
【0048】
ゲート電極2、ソース電極5およびドレイン電極6に用いられる材料としては、例えば、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物、白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、パラジウム、モリブデン、アモルファスシリコンやポリシリコンなどの金属やこれらの合金、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体など、ヨウ素などのドーピングなどで導電率を向上させた導電性ポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。
【0049】
上記ゲート電極2、ソース電極5およびドレイン電極6の形成方法としては、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、スパッタリング、メッキ、CVD、イオンプレーティングコーティング、インクジェットおよび印刷などが挙げられるが、導通を取ることができれば特に制限されない。また電極パターンの形成方法としては、上記方法で作製した電極薄膜を公知のフォトリソグラフィー法などで所望の形状にパターン形成してもよいし、あるいは電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターン形成してもよい。
【0050】
絶縁層3(ゲート絶縁膜)に用いられる材料としては、特に限定されないが、酸化シリコン、アルミナ等の無機材料、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロライド、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリシロキサン、ポリビニルフェノール(PVP)等の有機高分子材料、あるいは無機材料粉末と有機高分子材料の混合物を挙げることができる。絶縁層3の膜厚は、好ましくは50nm〜3μm、より好ましくは100nm〜1μmである。絶縁層は単層でも複数層でもよい。また、1つの層を複数の絶縁性材料から形成してもよいし、複数の絶縁性材料を積層して複数の絶縁層を形成しても構わない。
【0051】
上記絶縁層3の形成方法としては、特に限定されず、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、スパッタリング、CVDなど乾式の方法を用いることも可能であるが、製造コストや大面積への適合の観点から塗布法を用いることが好ましい。塗布法としては、有機半導体薄膜の形成法として例示した方法が挙げられ、塗膜厚み制御や配向制御など、得ようとする塗膜特性に応じて塗布方法を選択できる。形成した塗膜に対して、大気下、減圧下または不活性ガス雰囲気下(窒素やアルゴン雰囲気下)でアニーリング処理を行ってもよい。
【0052】
本発明の有機FETにおいて、半導体層4は、本発明の有機半導体薄膜を含有する。
【0053】
半導体層4の膜厚は5nm以上100nm以下が好ましい。この範囲の膜厚にすることにより、均一な薄膜形成が容易になり、さらにゲート電圧によって制御できないソース・ドレイン間電流を抑制し、有機FETのオンオフ比をより高くすることができる。膜厚は、原子間力顕微鏡やエリプソメトリ法などにより測定できる。また、半導体層4は単層でも複数層でもよい。複数層の場合には、本発明の複数の有機半導体薄膜を積層してもよいし、本発明の有機半導体薄膜と既知の有機半導体を積層してもよい。既知の有機半導体としては上述の有機半導体と同じものを使用できる。また、形成した塗膜に対して、大気下、減圧下または不活性ガス雰囲気下(窒素やアルゴン雰囲気下)でアニーリング処理を行ってもよい。
【0054】
また、絶縁層3と半導体層4の間に配向性層を設けることもできる。本発明の有機半導体薄膜は配向性層がなくても高い移動度を奏するが、配向性層を設けることにより、さらに高い移動度が可能となるため好ましい。配向性層には、シラン化合物、チタン化合物、有機酸、ヘテロ有機酸など、公知の材料を用いることができ、中でも有機シラン化合物が好ましい。
【0055】
有機シラン化合物としては、特に限定されないが、具体的には、フェニルトリクロロシラン、ナフチルトリクロロシラン、アントラセントリクロロシラン、ピレントリクロロシラン、ペリレントリクロロシラン、コロネントリクロロシラン、チオフェントリクロロシラン、ピロールトリクロロシラン、ピリジントリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、ナフチルトリエトキシシラン、アントラセントリメトキシシラン、アントラセントリエトキシシラン、ピレントリメトキシシラン、ピレントリエトキシシラン、チオフェントリメトキシシラン、チオフェントリエトキシシラン、フェニルメチルトリクロロシラン、フェニルエチルトリクロロシラン、フェニルプロピルトリクロロシラン、フェニルブチルトリクロロシラン、フェニルヘキシルトリクロロシラン、フェニルオクチルトリクロロシラン、ナフチルメチルトリクロロシラン、ナフチルエチルトリクロロシラン、アントラセンメチルトリクロロシラン、アントラセンエチルトリクロロシラン、ピレンメチルトリクロロシラン、ピレンエチルトリクロロシラン、チオフェンメチルトリクロロシラン、チオフェンエチルトリクロロシラン、アミノフェニルトリクロロシラン、ヒドロキシフェニルトリクロロシラン、クロロフェニルトリクロロシラン、ジクロロフェニルトリクロロシラン、トリクロロフェニルトリクロロシラン、ブロモフェニルトリクロロシラン、フルオロフェニルトリクロロシラン、ジフルオロフェニルトリクロロシラン、トリフルオロフェニルトリクロロシラン、テトラフルオロフェニルトリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルトリクロロシラン、ヨードフェニルトリクロロシラン、シアノフェニルトリクロロシランなどが挙げられる。
【0056】
配向性層の抵抗を考慮すると、配向性層の膜厚は10nm以下が好ましく、さらに好ましくは単分子膜である。また配向性層は、例えば、上記有機シラン化合物と絶縁層表面とが化学結合して形成されたものも含む。シリル基と絶縁層表面が化学的に反応することで、緻密で強固な膜を形成することができる。反応後の強固な膜の上に、未反応のシラン化合物が積層している場合は、洗浄などをすることによって、未反応のシラン化合物を除去し、シリル基と絶縁層表とが化学結合して形成された単分子膜を得ることができる。
【0057】
配向性層の形成方法としては、特に限定されないが、CVD法などの気相法や、スピンコート法や浸漬引き上げ法などの液相を用いた方法が挙げられる。
【0058】
配向性層を形成する前に、その下地となる絶縁層表面をUVオゾン法や酸素プラズマ法などの方法を用いて親水化処理してもよい。これにより、シリル基と絶縁層表面の化学反応を容易にすることができる。
【0059】
また、有機半導体層4に対して絶縁層3と反対側に第2絶縁層を形成してもよい。これにより、しきい値電圧およびヒステリシスを低減された高性能な有機FETが得られる。第2絶縁層に用いられる材料としては特に限定されないが、具体的には酸化シリコン、アルミナ等の無機材料、ポリイミドやその誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロライド、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリシロキサンやその誘導体、ポリビニルフェノールやその誘導体等などの有機高分子材料、あるいは無機材料粉末と有機高分子材料の混合物や有機低分子材料と有機高分子材料の混合物を挙げることができる。これらの中でも、インクジェット等の塗布法で作製できる有機高分子材料を用いることが好ましい。特に、ポリフルオロエチレン、ポリノルボルネン、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリスチレン、ポリカーボネートまたはこれらの誘導体、ポリアクリル酸誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、またはこれらを含む共重合体を用いると、しきい値電圧およびヒステリシス低減効果がより大きくなるため好ましい。
【0060】
第2絶縁層の膜厚は、一般的には50nm〜10μm、好ましくは100nm〜3μmである。第2絶縁層は単層でも複数層でもよい。また、1つの層を複数の絶縁性材料から形成してもよいし、複数の絶縁性材料を積層して形成しても構わない。
【0061】
上記第2絶縁層の形成方法としては、特に限定されず、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、スパッタリング、CVDなど乾式の方法を用いることも可能であるが、製造コストや大面積への適合の観点から塗布法を用いることが好ましい。塗布法としては、有機半導体薄膜の形成法として例示した方法が挙げられ、塗膜厚み制御や配向制御など、得ようとする塗膜特性に応じて塗布方法を選択できる。また、形成した塗膜に対して、大気下、減圧下または不活性ガス雰囲気下(窒素やアルゴン雰囲気下)でアニーリング処理を行ってもよい。
【0062】
本発明の有機FETを集積することによって、表示装置や各種センサー用のFETアレイを作製することが可能である。
【0063】
このようにして形成された有機FETは、ソース電極とドレイン電極との間に流れる電流を、ゲート電圧を変化させることによって制御することができる。有機FETの移動度は、下記の(a)式を用いて算出することができる。
【0064】
μ=(δId/δVg)L・D/(W・ε・ε・Vsd) (a)
ただしIdはソース・ドレイン間の電流(A)、Vsdはソース・ドレイン間の電圧(V)、Vgはゲート電圧(V)、Dは絶縁層の厚み(m)、Lはチャネル長(m)、Wはチャネル幅(m)、εは絶縁層の比誘電率(ここではSiOの3.9またはPVPの3.8を使用)、εは真空の誘電率(8.85×10−12F/m)である。
【0065】
また、あるマイナスのゲート電圧におけるId(オン電流)の値と、あるプラスのゲート電圧におけるId(オフ電流)の値の比からオンオフ比を求めることができる。
【0066】
ヒステリシスは、Vgを正から負へと印加した際のId=10−8におけるゲート電圧Vgと、Vgを負から正へと印加した際のId=10−8におけるゲート電圧Vgとの差の絶対値|Vg−Vg|から求めることができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0068】
なお、H−NMR測定にはFT−NMR装置((株)日本電子製JEOL JNM−EX270)を用いた。
【0069】
合成例1(有機半導体OSC1の合成)
有機半導体OSC1を下記反応式(1)に示す方法で合成した。
【0070】
【化4】

【0071】
2−チオフェンエタノール(化合物(a))((株)和光純薬工業製)17gを0℃に冷却し、水素化ナトリウム(60%油性)7.1gをテトラヒドロフラン110mlに加えた懸濁液を滴下した。窒素雰囲気下0℃にて20分間撹拌し、化合物(b)27gを滴下した。その後90℃に昇温し、8時間加熱撹拌した。反応溶液に水100ml、ジクロロメタン100mlを加えて有機層を分取した。飽和食塩水300mlで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。得られた溶液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、溶離液:ヘキサン/ジクロロメタン)で精製し、化合物(c)を19.7g得た。
【0072】
上記化合物(c)12gをテトラヒドロフラン90mlに溶解し、−80℃に冷却した。ここに、n−ブチルリチウム溶液(1.6Mヘキサン溶液)34mlを滴下し、6時間撹拌した。−30℃まで昇温し、2−イソプロポキシ−4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン10gを滴下し、室温にて18時間撹拌した。得られた溶液に水100ml、ヘキサン100mlを加え、有機層を分取した。水300mlで洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液からロータリーエバポレーターを用いて溶媒を減圧留去し、化合物(d)を8.8g得た。
【0073】
4,4’−ジブロモスチルベン(化合物(e))0.21g、上記化合物(d)0.69g、トルエン20ml、エタノール4mlおよび2M炭酸ナトリウム水溶液5mlの混合溶液に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)67mgを加え、窒素雰囲気下、100℃にて10時間加熱撹拌した。得られた溶液にジクロロメタン70ml、水50mlを加えて有機層を分取した。水150mlで洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、溶離液:ヘキサン/ジクロロメタン)で精製し、有機半導体OSC1を80mg得た。有機半導体OSC1のH−NMR分析結果を示す。
H−NMR(CDCl(d=ppm)):0.89−0.94(t,6H),1.32−1.41(m,4H),1.54−1.60(t,4H),3.09−3.14(t,4H),3.44−3.49(t,4H),3.57−3.64(m,8H),3.69−3.74(t,4H),6.83−6.84(d,2H),7.08(s,2H),7.15−7.16(d,2H),7.48−7.55(dd,8H) 。
【0074】
実施例1
(1)CNT分散溶液の作製
共役系重合体であるポリ−3−ブチルチオフェン(アルドリッチ社製、レジオレギュラー、数平均分子量(Mn):13000、以下P3BTという)0.10gをクロロホルム5mlの入ったフラスコの中に加え、超音波洗浄機(井内盛栄堂(株)製US−2、出力120W)中で超音波撹拌することによりP3BTのクロロホルム溶液を得た。次いでこの溶液をスポイトにとり、メタノール20mlと0.1規定塩酸10mlの混合溶液の中に0.5mlずつ滴下して、再沈殿を行った。固体になったP3BTを0.1μm孔径のメンブレンフィルター(PTFE社製:4フッ化エチレン)によって濾別捕集し、メタノールでよくすすいだ後、真空乾燥により溶媒を除去した。さらにもう一度溶解と再沈殿を行い、90mgの再沈殿P3BTを得た。
【0075】
次に、CNT(CNI社製、単層CNT、純度95%、以下単層CNTという)1.5mgと、上記P3BT4.5mgを30mlのクロロホルム中に加え、氷冷しながら超音波ホモジナイザー(東京理化器械(株)製VCX−500)を用いて出力250Wで1時間超音波攪拌し、CNT複合体分散溶液A(溶媒に対するCNT濃度0.05g/l)を得た。
【0076】
上記分散溶液Aに1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(沸点207℃、双極子モーメント0.40Debye、以下THNという)30mlを加えた後、ロータリーエバポレーターを用いて、低沸点溶媒であるクロロホルムを留去し、溶媒をTHNで置換し、CNT複合体分散溶液Bを得た。次に分散液Bをメンブレンフィルター(孔径10μm、直径25mm、ミリポア社製オムニポアメンブレン)を用いてろ過を行い、長さ10μm以上のCNTを除去した。得られたろ液にTHNを加えて希釈し、CNT複合体分散溶液C(溶媒に対するCNT濃度0.008g/l)とした。作製したCNT複合体分散溶液Cを室温にて3ヶ月以上静置したところ、CNTの析出は目視で観察されなかった。
【0077】
上記CNT複合体分散溶液C中で、P3BTがCNTに付着しているかどうかを調べるため、CNT複合体分散溶液C5mlをメンブレンフィルターを用いてろ過を行い、フィルター上にCNTを捕集した。捕集したCNTを、溶媒が乾かないうちに素早くシリコンウエハー上に転写し、乾燥したCNTを得た。このCNTを、X線光電子分光法(XPS)を用いて元素分析したところP3BTに含まれる硫黄元素が検出された。従って、CNT複合体分散溶液C中のCNTにはP3BTが付着していることが確認できた。
【0078】
実施例2
THNのかわりに安息香酸エチル(沸点203℃、双極子モーメント2.0Debye)を用いた以外は実施例1と同様にしてCNT複合体分散溶液Cを作製した。実施例1と同様にCNT複合体分散溶液Cの状態を評価したところ、室温にて3ヶ月以上静置してもCNTの析出は目視で観察されなかった。詳細を表1に示した。
【0079】
実施例3
THNのかわりにo−ジクロロベンゼン(沸点180℃、双極子モーメント2.3Debye、以下o−DCBという)を用いた以外は実施例1と同様にしてCNT複合体分散溶液Cを作製した。実施例1と同様にCNT複合体分散溶液Cの状態を評価したところ、室温にて3ヶ月以上静置してもCNTの析出は目視で観察されなかった。詳細を表1に示した。
【0080】
実施例4
CNT複合体分散溶液Bの希釈溶媒としてTHNとo−DCBの1:1(体積比)混合溶媒を用いた以外は実施例1と同様にしてCNT複合体分散溶液Cを作製した。実施例1と同様にCNT複合体分散溶液Cの状態を評価したところ、室温にて3ヶ月以上静置してもCNTの析出は目視で観察されなかった。詳細を表1に示した。
【0081】
実施例5
P3BTのかわりにポリ−3−ヘキシルチオフェン(アルドリッチ社製、レジオレギュラー、数平均分子量(Mn):13000、以下P3HTという)を用いた以外は実施例4と同様にしてCNT複合体分散溶液Cを作製した。実施例1と同様にCNT複合体分散溶液Cの状態を評価したところ、このCNT複合体分散溶液Cは室温にて2ヶ月以上静置してもCNTの析出は目視で観察されなかった。詳細を表1に示した。
【0082】
実施例6
CNT複合体分散溶液Bの希釈溶媒としてクロロベンゼン(沸点131℃、双極子モーメント1.5Debye、以下CBという)とTHNの1:1(体積比)混合溶媒を用いた以外は実施例3と同様にしてCNT複合体分散溶液Cを作製した。実施例1と同様にCNT複合体分散溶液Cの状態を評価したところ、このCNT複合体分散溶液Cは室温にて3ヶ月以上静置してもCNTの析出は目視で観察されなかった。
【0083】
比較例1
THNのかわりにn−メチルピロリドン(沸点204℃、双極子モーメント4.9Debye、以下NMPという)を用いた以外は実施例1と同様にしてCNT分散溶液Cを作製したところCNT複合体の沈澱を生じた。詳細を表1に示した。
【0084】
比較例2
THNのかわりにγ−ブチロラクトン(沸点204℃、双極子モーメント4.1Debye、以下γ−BLという)を用いた以外は実施例1と同様にしてCNT分散溶液Cを作製したところCNT複合体の沈澱を生じた。詳細を表1に示した。
【0085】
比較例3
CNT複合体分散溶液Bの希釈溶媒としてNMPを用いた以外は実施例1と同様にしてCNT分散溶液Cを作製したところCNT複合体の沈澱を生じた。詳細を表1に示した。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例7
(1)有機半導体コンポジット溶液の作製
次に、半導体層4を形成するための有機半導体コンポジット溶液の調製を行った。実施例1のCNT複合体分散液C0.3mlに、有機半導体として化合物OSC11.20mgを加え、超音波洗浄機((株)井内盛栄堂製US−2、出力120W)を用いて30分超音波照射し、有機半導体コンポジット溶液を作製した。このとき、化合物OSC1の溶媒に対する濃度を4g/l、CNT複合体のOSC1に対する量を0.2重量部に調整した。
【0088】
(2)絶縁層用ポリマー溶液の作製
メチルトリメトキシシラン61.29g(0.45モル)、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン12.31g(0.05モル)、およびフェニルトリメトキシシラン99.15g(0.5モル)をプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点170℃)203.36gに溶解し、これに、水54.90g、リン酸0.864gを撹拌しながら加えた。得られた溶液をバス温105℃で2時間加熱し、内温を90℃まで上げて、主として副生するメタノールからなる成分を留出せしめた。次いでバス温130℃で2.0時間加熱し、内温を118℃まで上げて、主として水とプロピレングリコールモノブチルエーテルからなる成分を留出せしめた後、室温まで冷却し、固形分濃度26.0重量%のポリマー溶液Aを得た。
【0089】
得られたポリマー溶液Aを50gはかり取り、プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点170℃)16.6gを混合して、室温にて2時間撹拌し、ポリマー溶液B(固形分濃度19.5重量%)を得た。
【0090】
(3)有機FETの作製
図1に示す有機FETを作製した。ガラス製の基板1(膜厚0.7mm)上に、抵抗加熱法により、マスクを通してクロムを5nmおよび金を50nm真空蒸着し、ゲート電極2を形成した。次にポリマー溶液Bを上記ゲート電極が形成されたガラス基板上に塗布(2000rpm×30秒)し、窒素気流下200℃、1時間熱処理することによって、膜厚600nmのゲート絶縁層3を形成した。次に、抵抗加熱法により、マスクを通して金を膜厚50nmになるように真空蒸着し、ソース電極5およびドレイン電極6を形成した。
【0091】
これら両電極の幅(チャネル幅)は0.1cm、両電極の間隔(チャネル長)は100μmとした。電極が形成された基板上に(1)で作製した有機半導体コンポジット溶液をインクジェット法を用いて塗布し、有機半導体薄膜を作製した。ホットプレート上で窒素気流下、150℃、30分の熱処理を行い、有機FETを得た。この際、インクジェット装置としては簡易吐出実験セットPIJL−1(クラスターテクノロジー株式会社製)を用いた。
【0092】
次に、上記有機FETのゲート電圧(Vg)を変えたときのソース・ドレイン間電流(Id)−ソース・ドレイン間電圧(Vsd)特性を測定した。測定には半導体特性評価システム4200−SCS型(ケースレーインスツルメンツ株式会社製)を用い、大気中で測定した。Vg=+30〜−30Vに変化させたときのVsd=−5VにおけるIdの値の変化から線形領域の移動度を求めたところ、0.41cm/V・secであった。また、このときのIdの最大値と最小値の比からオンオフ比を求めたところ1.9×10であった。
【0093】
実施例8
CNT分散溶液として実施例2の分散溶液を用いた以外は実施例7と同様にして有機FETを作製し、特性を測定した。結果は表2に示した。
【0094】
実施例9
CNT分散溶液として実施例3のCNT分散溶液を用いた以外は実施例7と同様にして有機FETを作製し、特性を測定した。結果は表2に示した。
【0095】
実施例10
CNT分散溶液として実施例4のCNT分散溶液を用いた以外は実施例7と同様にして有機FETを作製し、特性を測定した。結果は表2に示した。
【0096】
実施例11
CNT分散溶液として実施例5のCNT分散溶液を用いた以外は実施例7と同様にして有機FETを作製し、特性を測定した。結果は表2に示した。
【0097】
実施例12
CNT分散溶液として実施例6のCNT分散溶液を用いた以外は実施例7と同様にして有機FETを作製し、特性を測定した。結果は表2に示した。
【0098】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のCNT分散溶液は、有機電界効果型トランジスタ、光起電力素子、スイッチング素子など、各種デバイスに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の一態様である有機FETを示す模式断面図
【図2】本発明の別の態様である有機FETを示す模式断面図
【符号の説明】
【0101】
1 基板
2 ゲート電極
3 絶縁層
4 半導体層
5 ソース電極
6 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着したカーボンナノチューブおよび一種類以上の溶媒を含有するカーボンナノチューブ分散溶液であって、該カーボンナノチューブ分散溶液に含まれる各溶媒の双極子モーメントが3.5Debye以下であり、かつ、沸点が150℃以上である溶媒を全溶媒中50体積%以上含有するカーボンナノチューブ分散溶液。
【請求項2】
前記共役系重合体がチオフェン系重合体である請求項1記載のカーボンナノチューブ分散溶液。
【請求項3】
前記チオフェン系重合体が下記一般式(1)で表される構造を有する請求項2記載のカーボンナノチューブ分散溶液。
【化1】

(Rは炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜5のアルコキシアルキル基、炭素数1〜5のアルキルカルボニル基、炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基または炭素数1〜5のアルキルカルボニルオキシ基を示す。それぞれのRは同じでも異なっていてもよい。nは10以上の整数を示す。)
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のカーボンナノチューブ分散溶液と有機半導体を含有する有機半導体コンポジット溶液。
【請求項5】
前記有機半導体が、チオフェン骨格を有する低分子有機半導体である請求項4記載の有機半導体コンポジット溶液。
【請求項6】
請求項4または5記載の有機半導体コンポジット溶液から塗布法を用いて得られる有機半導体薄膜。
【請求項7】
前記塗布法がインクジェット法である請求項6記載の有機半導体薄膜。
【請求項8】
ゲート電極、絶縁層、半導体層、ソース電極およびドレイン電極を有する有機電界効果型トランジスタであって、該半導体層が請求項6または7記載の有機半導体薄膜を含有する有機電界効果型トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−18696(P2010−18696A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179954(P2008−179954)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】