説明

ガス供給電極の製造方法

【課題】貫通穴を目詰まりさせることなく、ガス供給電極の表面に粗面化することができ、また、貫通穴を加工する際に、穴の位置がずれたり、ドリルが破損したりすることがなく、これにより、成膜を行う際に、電極の表面に堆積した成膜物が電極から剥離して基板に付着することを抑制でき、また、安定したガス供給を行なうことができ、高品質な膜を形成することができるガス供給電極の製造方法を提供する。
【解決手段】穴あけ加工を行なって、前記複数の貫通穴を形成する穴加工工程と、
前記穴加工工程の後に、プラズマの生成領域に対面する側の供給面に、プラズマ溶射処理によって、溶射膜を形成する溶射工程とを有することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD装置に用いられるガス供給電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池など、各種の装置に、ガスバリアフィルム、保護フィルム、光学フィルタや反射防止フィルム等の光学フィルムなど、各種の機能性フィルム(機能性シート)が利用されている。
また、これらの機能性フィルムの製造に、スパッタリングやプラズマCVD等の真空成膜法による成膜(薄膜形成)が利用されている。
【0003】
プラズマCVDによって成膜を行なう場合には、成膜対象である基板のみならず、成膜装置内の各部にも成膜物が堆積してしまう。特に、プラズマを形成するための成膜用の電極対の、基板と対向する側の電極の表面には成膜物が多く堆積する。成膜用の電極に堆積した成膜物は、電極から一部剥離して、基板や成膜した膜に付着してしまい、高品質な膜の形成ができないおそれがある。
【0004】
そのため、電極表面に堆積した成膜物が電極から剥離することを抑制するために、電極の表面を粗面化して、電極表面と堆積した成膜物との密着性を高めることが行なわれている。
例えば、特許文献1には、処理室の内部でプラズマを発生させるための、互いに対向配置された第1電極および第2電極を備え、堆積した成膜物の剥離を抑制するために、第1電極の第2電極側の表面が全面に亘って粗面化されているプラズマCVD装置が記載されている。この特許文献1には、粒体を吹き付けるブラスト処理を行なって粗面化することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−173343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、プラズマCVDの電極としては、電極としての機能に加えて、成膜を行なう際に、プラズマを形成するための電極間に、成膜用のガスを均一に供給するために、ガスを供給するための複数の貫通穴を有する電極(シャワー電極)が用いられている。このような電極は、複数の貫通穴を有する板状のガス供給電極(シャワープレート)と、一面が開放する筺体とを組み合わせて構成されている。成膜の際に、電極の筺体内に供給されたガスは、ガス供給電極の貫通穴から、電極間に供給される。
【0007】
しかしながら、ガスを供給するための複数の貫通穴を形成した後に、ガス供給電極の表面の粗面化のために、ブラスト処理を行なうと、ブラスト処理に用いられる粒体が、貫通穴に目詰まりしてしまうおそれがある。貫通穴が目詰まりしたガス供給電極を用いて成膜を行なうと、ガスの流量や圧力が不安定になり、高品質な膜の形成ができなかったり、あるいは、プラズマを適正に生成することができず、成膜することができないという問題が発生する。
【0008】
また、粗面化の方法として、アーク溶射処理によって、溶射膜を形成することも行なわれている。溶射膜を形成することにより、ブラスト処理による粗面化よりも、表面粗さを上げることができ、成膜物の剥離をより好適に抑制できる。しかしながら、アーク溶射では、溶射材料を吹き付けるときの溶射粒子の径が大きく、やはり、貫通穴が目詰まりしてしまうおそれがある。
【0009】
また、ガス供給電極の表面を粗面化した後に、貫通穴を形成する場合には、粗面化された面からドリルによる穴加工を行なうと、表面の凹凸により、穴の位置がずれたり、ドリルが偏心してドリルが破損したりしてしまうおそれがある。
また、溶射膜を形成して粗面化した後に、貫通穴を形成する場合には、溶射膜と母材との界面などで溶射膜が割れるおそれがある。溶射膜が割れて、母材の平滑な面が露出してしまうと、成膜の際に、堆積した成膜物の剥離を抑制することができない。
【0010】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解消し、貫通穴を目詰まりさせることなく、ガス供給電極の表面を粗面化することができ、また、貫通穴を加工する際に、穴の位置がずれたり、ドリルが破損したりすることがなく、これにより、プラズマCVD装置において成膜を行う際に、電極の表面に堆積した成膜物が電極から剥離して基板に付着することを抑制でき、また、安定したガス供給を行なうことができ、基板に高品質な膜を形成することができるガス供給電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、プラズマCVD装置に用いる、複数の貫通穴を有するガス供給電極の製造方法であって、穴あけ加工を行なって、前記複数の貫通穴を形成する穴加工工程と、前記穴加工工程の後に、プラズマの生成領域に対面する側の供給面に、プラズマ溶射処理によって、溶射膜を形成する溶射工程とを有することを特徴とするガス供給電極の製造方法を提供するものである。
【0012】
ここで、前記溶射工程の後に、少なくとも前記供給面および前記貫通穴の表面に酸化皮膜を形成する皮膜形成工程を有することが好ましい。
また、前記皮膜形成工程がプラズマ酸化処理を行なって酸化皮膜を形成するものであることが好ましい。
【0013】
また、前記溶射膜がアルミニウム、アルミニウム合金、チタン、マグネシウム、ステンレスのいずれかからなる金属溶射膜であることが好ましい。
あるいは、前記溶射膜がアルミナセラミクス溶射膜であることが好ましい。
また、前記供給面の中心線平均粗さが5μm以上であることが好ましい。
さらに、前記供給面の中心線平均粗さが10〜30μmであることが好ましい。
【0014】
また、ガス供給電極の母材がアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、チタンのいずれかからなることが好ましい。
また、前記貫通穴の穴径が0.7mm以下であることが好ましい。
【0015】
また、前記プラズマCVD装置が、長尺な基板を長手方向に搬送しつつ、プラズマCVDによって、前記基板に成膜を行なうものであることが好ましい。
また、前記プラズマCVD装置が、前記基板を円筒状のドラムの周面の所定領域に巻き掛けて搬送しつつ成膜を行なうものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、穴あけ加工を行なって、複数の貫通穴を形成する穴加工工程の後に、プラズマの生成領域に対面する側の供給面に、プラズマ溶射処理によって、溶射膜を形成するので、貫通穴を目詰まりさせることなく、粗面化することができ、また、穴の位置がずれたり、ドリルが破損したりすることがなく、これにより、プラズマCVD装置において成膜を行う際に、表面に堆積した成膜物が電極から剥離して基板に付着することを抑制でき、また、安定したガス供給を行なうことができ、基板に高品質な膜を形成することができるガス供給電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の製造方法で製造されるガス供給電極を用いる成膜装置の一例を概念的に示す図である。
【図2】(A)は、図1に示すガス供給電極を示す断面図であり、(B)は、(A)の部分拡大図である。
【図3】本発明の製造方法の一実施例を示すフローチャートである。
【図4】(A)〜(D)は、それぞれ図2に示すガス供給電極の製造方法を説明するための部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のガス供給電極の製造方法について、添付の図面を用いて、詳細に説明する。
【0019】
図1に、本発明の製造方法によって製造されたガス供給電極を用いる成膜装置の一例を概念的に示す。なお、図1においては、シャワー電極20の一部を断面にて示している。
なお、図1に示す成膜装置10は、図2に示す本発明の製造方法で製造されたシャワープレート22以外は、公知のCCP−CVDによるロール・ツー・ロールの成膜装置である。
【0020】
図示例の成膜装置10は、長尺な基板Z(フィルム原反)を長手方向に搬送しつつ、この基板Zの表面にプラズマCVDによって、目的とする機能を発現する膜を成膜(製造/形成)して、機能性フィルムを製造するものである。
また、この成膜装置10は、長尺な基板Zをロール状に巻回してなる基板ロール32から基板Zを送り出し、長手方向に搬送しつつ機能膜を成膜して、機能膜を成膜した基板Z(すなわち、機能性フィルム)をロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による成膜を行なう装置である。
【0021】
図1に示す成膜装置10は、基板Zに、プラズマCVDによる膜を成膜することができる装置であって、真空チャンバ12と、この真空チャンバ12内に形成される、巻出し室14と、成膜室18と、ドラム30とを有して構成される。
【0022】
成膜装置10においては、長尺な基板Zは、巻出し室14の基板ロール32から供給され、ドラム30に巻き掛けられた状態で長手方向に搬送されつつ、成膜室18において、成膜され、次いで、再度、巻出し室14において巻取り軸34に巻き取られる(ロール状に巻回される)。
【0023】
ドラム30は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材である。
ドラム30は、後述する巻出し室14のガイドローラ40aよって所定の経路で案内された基板Zを、周面の所定領域に掛け回して、所定位置に保持しつつ長手方向に搬送して、成膜室18内に搬送して、再度、巻出し室14のガイドローラ40bに送る。
【0024】
ここで、ドラム30は、後述する成膜室18のシャワー電極20の対向電極としても作用(すなわち、ドラム30とシャワー電極20とで電極対を構成する。)するものであり、アース(接地)されている。
【0025】
なお、必要に応じて、ドラム30には、ドラム30にバイアスを印加するためのバイアス電源を接続してもよい。あるいは、アースとバイアス電源とを切り替え可能に接続してもよい。
バイアス電源は、各種の成膜装置で利用されている、バイアスを印加するための高周波電源やパルス電源等の公知の電源が、全て利用可能である。
【0026】
巻出し室14は、真空チャンバ12の内壁面12aと、ドラム30の周面と、内壁面12aからドラム30の周面の近傍まで延在する隔壁36aおよび36bとによって構成される。
ここで、隔壁36aおよび36bの先端(真空チャンバ12の内壁面と逆端)は、搬送される基板Zに接触しない可能な位置まで、ドラム30の周面に近接し、巻出し室14と、成膜室18とを、略気密に分離する。
【0027】
このような巻出し室14は、前述の巻取り軸34と、ガイドローラ40aおよび40bと、回転軸42と、真空排気手段46とを有する。
【0028】
ガイドローラ40aおよび40bは、基板Zを所定の搬送経路で案内する通常のガイドローラである。また、巻取り軸34は、成膜済みの基板Zを巻き取る、公知の長尺物の巻取り軸である。
【0029】
図示例において、長尺な基板Zをロール状に巻回してなるものである基板ロール32は、回転軸42に装着される。また、基板ロール32が、回転軸42に装着されると、基板Zは、ガイドローラ40a、ドラム30、および、ガイドローラ40bを経て、巻取り軸34に至る、所定の経路を通される(挿通される)。
成膜装置10においては、基板ロール32からの基板Zの送り出しと、巻取り軸34における成膜済み基板Zの巻き取りとを同期して行なって、長尺な基板Zを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、成膜室18における成膜を行なう。
【0030】
真空排気手段46は、巻出し室14内を所定の真空度に減圧するための真空ポンプである。真空排気手段46は、巻出し室14内を、成膜室18の圧力(成膜圧力)に影響を与えない圧力(真空度)にする。
【0031】
基板Zの搬送方向において、巻出し室14の下流には、成膜室18が配置される。
成膜室18は、内壁面12aと、ドラム30の周面と、内壁面12aからドラム30の周面の近傍まで延在する隔壁36aおよび36bとによって構成される。
成膜装置10において、成膜室18は、一例として、CCP(Capacitively Coupled Plasma 容量結合型プラズマ)−CVDによって、基板Zの表面に成膜を行なうものであり、シャワー電極20と、原料ガス供給手段58と、高周波電源60と、真空排気手段62とを有する。
【0032】
シャワー電極20は、成膜装置10において、CCP−CVDによる成膜の際に、ドラムと共に電極対を構成するものであるとともに、シャワープレート22のガス供給面22aに形成された貫通穴22cから、ドラム30とシャワー電極20(シャワープレート22)との間に、原料ガスを供給するものである。シャワー電極20は、シャワープレート(ガス供給電極)22と、ベース24とを有する。
【0033】
ベース24は、導電性の部材で形成されており、1面が開放された筺体(箱体)であり、例えば、1面が開放された略直方体形状のものである。
また、ベース24の開放された面には、その開口部を覆うように、シャワープレート22が配置されており、シャワープレート22と共に、内部に中空部を形成する。また、ベース24とシャワープレート22とは電気的に接続されている。
【0034】
ベース24には、原料ガス供給手段58が接続されており、原料ガス供給手段58からの原料ガスが前記中空部に流入する。
また、ベース24には、高周波電源60が接続されている。
【0035】
ベース24の形成材料には、特に限定はなく、ステンレス、鉄、あるいは、メッキ処理品等の公知の導電体材料が、各種、利用可能である。
【0036】
図2(A)は本発明の製造方法で製造するシャワープレートの一例を概念的に示す断面図であり、図2(B)は、(A)に示すシャワープレートの一部を拡大した断面図である。
シャワープレート22は、アルミニウム製の板状部材で、1つの最大面であるガス供給面22aをドラム30の周面に対面して、ベース24に保持される。
ガス供給面22aには、貫通穴22cが、全面的に多数、形成されている。貫通穴22cは、中空部と連通している。また、ガス供給面22aは、ドラム30の周面に沿うように凹状に湾曲している。
【0037】
また、図2(B)に示すように、シャワープレート22のガス供給面22aには、アルミニウムの溶射膜22eが形成され、粗面化されている。ドラム30(基板Z)と対面するガス供給面22aに溶射膜22eを形成して粗面化することにより、成膜中に、ガス供給面22aに堆積した成膜物が剥離することを抑制することができる。
【0038】
また、溶射膜22eによる粗面化は、ブラスト処理による粗面化よりも表面粗さを上げやすい。したがって、ブラスト処理により粗面化したものよりも、より好適に成膜物の剥離を抑制することができる。
【0039】
また、図示例の成膜装置10のように、長尺な基板Zをドラム30に巻きかけて、長手方向に搬送しつつ、連続的に成膜を行なう成膜装置においては、シャワープレート22の表面に堆積する成膜物が多くなってしまうので、成膜物の剥離が発生しやすい。
これに対して、本発明の製造方法で製造したシャワープレート22は、表面に堆積した成膜物の剥離を好適に抑制できるので、図示例の成膜装置10のように、長尺な基板Zをドラム30に巻きかけて、長手方向に搬送しつつ、連続的に成膜を行なう成膜装置に好適に利用可能である。
【0040】
ここで、溶射膜22eとしては、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、マグネシウム、ステンレスのいずれかからなる金属溶射膜を用いることができる。
溶射膜22eとして、金属溶射膜を形成することは、セラミック溶射膜を形成することに比べ安価であり、コストを低減できる。また、溶射膜22eとして、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、マグネシウムのいずれかからなる金属溶射膜を形成することは、後述するプラズマ酸化処理によって、酸化皮膜を形成できる点で好ましい。
また、ステンレスの金属溶射膜は、耐腐食性を有するため、酸化皮膜22dを形成する必要がない点で好ましい。
【0041】
また、溶射膜22eとして、アルミナセラミクス溶射膜も用いることができる。
アルミナセラミクス溶射膜も、耐腐食性を有するため、酸化皮膜22dを形成する必要がなく、また、絶縁性であるためシャワープレートからの異常放電を抑制できる点で好ましい。
また、溶射膜22eは、プラズマ溶射処理によって形成される。そのため、貫通穴22cが目詰まりしてしまうことがない。この点に関しては、後に詳述する。
【0042】
また、シャワープレート22のガス供給面22aおよび貫通穴22cの表面には、アルミの酸化皮膜22dが形成されている。シャワープレート22の表面を絶縁性の酸化皮膜22dで覆うことにより、シャワープレート22から異常放電が発生することを防止することができる。また、シャワープレート22が原料ガスと接触し、シャワープレート22が腐食することを防止できる。
【0043】
本発明において、酸化皮膜22dは、アルマイト処理やアルミナセラミクスの溶射等の種々の公知の方法で、形成することができるが、好ましくは、プラズマ酸化処理によって、シャワープレート22の表面に酸化皮膜22dを形成する。
ここで、プラズマ酸化処理とは、プラズマを用いた陽極酸化処理であり、例えば、酸化皮膜22dを形成するシャワープレート22を珪酸塩あるいはジルコニウム塩を含有した電解液中に浸し、シャワープレート22を陽極とし、陽極に対面して配置した金属製のプレートを陰極として、陽極と陰極との間にパルス電圧を印加してプラズマ放電を発生させ、酸化皮膜(母材がアルミニウムの場合はアルミナセラミクス層、マグネシウムの場合は酸化マグネシウム層、チタンの場合は酸化チタン層)を形成する方法である。
【0044】
粗面化した面上に酸化皮膜を形成する場合は、粗さが大きいと酸化皮膜を均一に形成できず、欠陥が生じるおそれがある。酸化皮膜に欠陥があると、成膜の際に異常放電が発生するおそれがある。
これに対して、プラズマ酸化処理によって酸化皮膜22dを形成することにより、シャワープレート22の表面(ガス供給面22a)を粗面化した場合であっても、凹凸に沿って均一な厚みの皮膜を形成でき、また、貫通穴22cの内壁にも均一な厚みの皮膜を形成できる。
なお、図示例においては、シャワープレート22のガス供給面22aおよび貫通穴22cの表面に酸化皮膜22dを形成したが、本発明は、これに限定はされず、シャワープレート22の表面全面に酸化皮膜を形成してもよい。
【0045】
また、シャワープレート22の形成材料(母材)としては、導電性の材料であれば、特に限定はないが、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、チタンのいずれかが好ましい。これらの材料によりシャワープレート22を形成することにより、プラズマ酸化処理によって、表面に均一で欠陥のない酸化皮膜22dを形成することができるため、異常放電の発生を抑制できる点で好ましく、また、軽量で扱いやすい点で好ましい。
【0046】
また、ガス供給面22aの中心線平均粗さは、5μm以上であることが好ましい。ガス供給面22aの表面粗さを5μm以上とすることで、成膜物の剥離を抑制することができる。また、プラズマ酸化処理によって酸化皮膜22dを形成することにより、表面の粗さが5μm以上であっても、均一な厚みの皮膜を形成することができる。
【0047】
また、ガス供給面22aの中心線平均粗さは、10〜30μmであることがより好ましい。
ガス供給面22aの粗さを10μm以上とすることで、ガス供給面22aの表面に堆積した成膜物が剥離することをより好適に防止でき、これにより、剥離した成膜物が基板Zに付着し、基板Zに形成される膜に影響を与えることを防止することができる。
また、酸化皮膜22dをより均一に形成できる点で、ガス供給面22aの表面の粗さは、30μm以下が好ましい。
ガス供給面22aの表面粗さを粗くするほど堆積した成膜物の剥離を抑制できる。しかしながら、表面粗さを粗くしすぎると、酸化皮膜22dを均一に形成できず、欠陥が生じるおそれがあり、成膜の際の異常放電の原因となる場合がある。これに対して、ガス供給面22aの表面粗さを、30μm以下とすることで、成膜の際の異常放電を抑制することができる。
【0048】
また、貫通穴22cの直径は、0.7mm以下が好ましい。
貫通穴の直径を大きくすれば、ブラスト処理やアーク溶射による粗面化を行なっても、貫通穴が目詰まりすることはない。しかしながら、貫通穴を大きくすると、成膜の際に、貫通穴の中で放電が発生してしまうおそれがあり、成膜に影響を与える場合がある。
これに対して、貫通穴22cの直径を0.7mm以下とすることで、成膜の際に、貫通穴22cの中で放電が発生することをより確実に防止することができる。
また、貫通穴22cの直径は、原料ガスの安定供給のために、0.3mm以上とすることが好ましい。
【0049】
ここで、図3に示す本発明の製造方法の一実施形態を示すフローチャート、および、図4に示すシャワープレートの一部を拡大した断面図を用いて、本発明のガス供給電極の製造方法について、より詳しく説明する。
【0050】
図4(A)は、ガス供給面22aが粗面化される前のシャワープレート22を示す部分拡大断面図であり、図4(B)は、貫通穴22cを形成した後のシャワープレート22を示す部分拡大断面図である。
本実施形態においては、図3のSTEP1(S1)に示すように、図(A)に示すシャワープレート22のガス供給面22aにドリルによって穴あけ加工を行なって、貫通穴22cを形成する(図4(B))。
【0051】
ここで、図示例のシャワープレート22のように、ガス供給面22aが曲面に形成されている場合は、ガス供給面22a側から穴あけ加工をすると、穴の位置がずれたり、ドリルが偏心して破損するおそれがある。従って、ガス供給面22aとは反対側の面から穴あけ加工をすることが好ましい。
【0052】
次に、図3のSTEP2(S2)に示すように、図4(B)に示すシャワープレート22のガス供給面22aに、プラズマ溶射処理を行なって、溶射膜22eを形成する(図4(C))。
【0053】
ここで、プラズマ溶射処理は、電極の間にアルゴン等の不活性ガスを流して放電させることで生成されるプラズマを熱源として、溶射材料を加熱、溶解して、基材(シャワープレート22)に吹き付け、溶射膜22eを形成する。
前述のとおり、アーク溶射によって、溶射膜を形成する場合は、吹き付ける溶射粒子の径が大きいため、貫通穴を塞いでしまう。これは、溶射材料を溶解するための加熱温度が高くないため、溶射材料が十分に溶解しないためである。
これに対して、プラズマ溶射処理では、プラズマを熱源として、溶射材料を加熱するので、アーク溶射等の他の溶射と比べて、高温に加熱することができる。そのため、溶射材料は、十分に溶解されて、小さな溶射粒子となって基材に吹き付けられるので、貫通穴22cを塞いでしまうことがなく、また、溶射膜を緻密化することができる。
【0054】
次に、図3のSTEP3(S3)に示すように、図4(C)に示すシャワープレート22にプラズマ酸化処理を行なって、ガス供給面22aおよび貫通穴22cに酸化皮膜22dを形成する(図4(D))。
【0055】
このように、本発明においては、ドリルにより穴あけ加工を行なって多数の貫通穴22cを形成した後に、プラズマ溶射処理によって、ガス供給面22aに溶射膜を形成し粗面化し、その後、プラズマ酸化処理により、表面に酸化皮膜22dを形成して、シャワープレート22を製造する。
【0056】
前述のとおり、プラズマCVDによって成膜を行なう場合には、基板Zのみならず、成膜用の電極にも成膜物が堆積してしまうため、電極に堆積した成膜物の一部が電極から剥離して、基板Zに付着してしまうおそれがある。
そのため、例えば、特許文献1のように、電極の表面を粗面化して、電極と成膜物との密着性を高めることによって、電極に堆積した成膜物が電極から剥離することを抑制している。
【0057】
しかしながら、シャワープレートに貫通穴を形成した後に、ブラスト処理を行なうと、ブラスト処理に用いられる粒体が貫通穴に目詰まりしてしまうおそれがある。また、アーク溶射によって溶射膜を形成することで粗面化する場合でも、吹き付ける溶射粒体が貫通穴に目詰まりしてしまうおそれがある。
貫通穴が目詰まりしたシャワープレートを用いて、成膜を行なうと、ガスの流量や圧力が不安定になるので、高品質な膜の形成ができず、あるいは、プラズマを生成することができず、成膜できないという問題が発生する。
【0058】
また、シャワープレートの表面(ガス供給面)を粗面化した後に、貫通穴を形成する場合には、粗面化された面からドリルによる穴加工を行なうと、表面の凹凸により、穴の位置がずれたり、ドリルが偏心してドリルが破損したりするおそれがある。
また、溶射膜を形成して粗面化した後に、貫通穴を形成する場合には、溶射膜と母材との界面などで溶射膜が割れる(剥離する)おそれがある。溶射膜が割れると、母材の平滑な面が露出してしまうので、成膜の際に、堆積した成膜物の剥離を抑制することができない。
【0059】
これに対して、本発明の製造方法においては、ドリルにより穴あけ加工を行なって多数の貫通穴22cを形成した後に、プラズマ溶射処理によって、ガス供給面22aに溶射膜を形成し粗面化するので、貫通穴22cが目詰まりすることがなく、また、貫通穴22cを形成する際に、穴の位置がずれたり、ドリルが偏心して破損することもない。また、溶射膜が割れることもない。したがって、本発明の製造方法で製造したシャワープレート22を用いて成膜を行なう場合には、シャワープレート22のガス供給面22aに堆積した成膜物が剥離して、基板Zに付着することを抑制でき、また、安定して原料ガスを供給することができるので、基板Zに高品質な膜を形成することができる。
【0060】
原料ガス供給手段58は、プラズマCVD装置等の真空成膜装置に用いられる公知のガス供給手段であり、シャワー電極20の内部(中空部)に、原料ガスを供給する。
前述のように、シャワー電極20(シャワープレート22)のドラム30との対向面には、多数の貫通穴22cが形成されており、中空部と連通している。従って、シャワー電極20に供給された原料ガスは、貫通穴22cから、シャワー電極20とドラム30との間に導入される。
【0061】
高周波電源60は、シャワー電極20に、プラズマ励起電力を供給する電源である。高周波電源60も、各種のプラズマCVD装置で利用されている、公知の高周波電源が、全て利用可能である。
さらに、真空排気手段62は、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜のために、成膜室18内を排気して、所定の成膜圧力に保つものであり、真空成膜装置に利用されている、公知の真空排気手段である。
【0062】
なお、本発明のガス供給電極を用いる成膜装置において、CVD成膜室における成膜方法は、図示例のCCP−CVDに限定はされず、ICP(Inductively Coupled Plasma 誘導結合型プラズマ)−CVDやマイクロ波CVDなどの他のプラズマCVD、Cat(Catalytic 触媒)−CVD、熱CVD等、公知のCVDが、全て利用可能である。
また、本発明のガス供給電極を用いる成膜装置において、CVD成膜室が成膜する膜にも、特に限定はなく、CVDによって成膜可能なものが、全て、利用可能である。
【0063】
以上、本発明のガス供給電極の製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんのことである。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の具体的実施例を示すことにより、本発明を、より詳細に説明する。
[実施例1]
図2に示すシャワープレート22を製造した。
【0065】
シャワープレート22は、アルミニウム製で、厚みは、最薄部が10mmで、最厚部が40mmとした。
<STEP1>
シャワープレート22のガス供給面22aに、超鋼性のドリルで直径0.5mmの貫通穴22cを全面的に形成した。
【0066】
<STEP2>
プラズマ溶射処理により、ガス供給面22aに溶射膜22eを形成し粗面化した。溶射材料は、アルミニウムを用いた。
【0067】
<STEP3>
溶射膜22eを形成した後、シャワープレート22の全面にプラズマ酸化処理を行なって、30μmのA1203系の酸化皮膜22dを形成した。
加工後のガス供給面22aの表面粗さを、粗さ計(東京精密製 Surfcom)にて測定したところ、中心線平均粗さは、15μmであった。
【0068】
加工後に顕微鏡観察を行なって、貫通穴の状態および酸化皮膜の状態を評価した。
貫通穴
貫通穴の状態に関しては、全数の貫通穴に目詰まりがない場合を○;
半数以上の貫通穴に目詰まりが発生した場合を×; とした。
その結果、評価は○であった。
酸化皮膜
また、酸化皮膜の状態に関しては、酸化皮膜に欠陥がない場合を○;
酸化皮膜に若干の欠陥がある場合を△;
酸化皮膜に欠陥がある場合を×; とした。
その結果、評価は○であった。
【0069】
次に、製造したシャワープレートを図1の成膜装置10に装着し、成膜を行なった。
基板Zは、PETフィルム(東洋紡製 コスモシャインA4300 100μm厚)を用いた。
また、原料ガスとしては、シランガス(SiH)、アンモニアガス(NH)、および、窒素ガス(N)を用いた。
また、成膜圧力は100Paとした。
また、ドラム30として、直径1000mmのドラムを用いた。
さらに、シャワー電極20に接続される高周波電源60として、周波数13.56MHzの高周波電源を用い、シャワー電極20に供給したプラズマ励起電力は2kWとした。
また、成膜する機能膜(窒化珪素膜)の膜厚は50nmとした。
このような条件の下、成膜装置10において、60分間の基板Zに機能膜の成膜を行なった。
【0070】
成膜終了後、シャワープレート22のガス供給面22aを観察し、成膜物の剥離の状態を評価した(剥離)。
成膜物が密着して剥離していない場合を○;
成膜物の剥離が発生した場合を×; とした。
その結果、評価は○であった。
また、成膜後のガス供給面22aを観察して、異常放電の発生の有無を評価した(異常放電)。
異常放電が発生した形跡が見られない場合を○;
異常放電が若干、発生した形跡が見られる場合を△;
異常放電が発生した形跡が見られる場合を×; とした。
その結果、評価は○であった。
【0071】
[実施例2]
STEP3において、アルマイト処理によって酸化皮膜を形成した以外は、全て、前記実施例1と同様にして、シャワープレートを製造した。
実施例1と同様に、ガス供給面の表面粗さを観察したところ、中心線平均粗さは15μmであった。
また、実施例1と同様に、貫通穴の状態を評価したところ、評価は「○」であった。また、酸化皮膜の状態を評価したところ、若干、欠陥が見られ評価は「△」であった。
また、実施例1と同様に、製造したシャワープレートを成膜装置に装着して、成膜を行なった。
成膜終了後、実施例1と同様に、成膜物の剥離を評価したところ、評価は「○」であった。また、異常放電を評価したところ、若干、アーク放電が発生した形跡が見られ、評価は「△」であった。
【0072】
[比較例1]
STEP2において、プラズマ溶射に代えて、アーク溶射処理を行なって溶射膜を形成した以外は、全て、実施例1と同様にして、シャワープレートを製造した。
実施例1と同様に、ガス供給面の表面粗さを観察したところ、中心線平均粗さは20μmであった。
また、実施例1と同様に、貫通穴の状態を評価したところ、貫通穴のほぼ全数が溶射膜により目詰まりしており、評価は「×」であった。また、酸化皮膜の状態を評価したところ、評価は「○」であった。
また、実施例1と同様に、製造したシャワープレートを成膜装置に装着して、成膜を行なったところ、ガスの流量、圧力が調整できず、プラズマを生成することができず、成膜できなかった。
【0073】
[比較例2]
STEP2において、プラズマ溶射に代えて、ブラスト処理を行なって粗面化した以外は、全て、実施例1と同様にして、シャワープレートを製造した。ブラスト処理は、粒体として#80のアルミナビーズを用いて、粒体を6kgf/cmの圧縮空気で噴きつけて行なった。
実施例1と同様に、ガス供給面の表面粗さを観察したところ、中心線平均粗さは10μmであった。
また、実施例1と同様に、貫通穴の状態を評価したところ、貫通穴の約半数にアルミナビーズが目詰まりしており、評価は「×」であった。また、酸化皮膜の状態を評価したところ、評価は「○」であった。
また、実施例1と同様に、製造したシャワープレートを成膜装置に装着して、成膜を行なったところ、ガスの流量、圧力が調整できず、プラズマを生成することができず、成膜できなかった。
【0074】
[比較例3]
STEP1の溶射膜の形成(粗面化)を行なわない以外は、全て、実施例1と同様にして、シャワープレートを製造した。
実施例1と同様に、ガス供給面の表面粗さを観察したところ、中心線平均粗さは2μmであった。
また、実施例1と同様に、貫通穴の状態を評価したところ、評価は「○」であった。また、酸化皮膜の状態を評価したところ、評価は「○」であった。
また、実施例1と同様に、製造したシャワープレートを成膜装置に装着して、成膜を行なった。
成膜終了後、実施例1と同様に、剥離を評価したところ、成膜物の剥離が見られ、評価は「×」であった。また、異常放電を評価したところ、評価は「○」であった。
評価結果を、下記表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
上記表1に示されるように、穴加工を行なった後、プラズマ溶射により溶射膜を形成するという本発明の実施例1および2は、いずれも、堆積した成膜物の剥離がなかった。
また、酸化皮膜をプラズマ酸化処理によって形成することで、欠陥のない均一な酸化皮膜を形成することができ、異常放電の発生を防止できた。
【0077】
これに対して、アーク溶射により溶射膜を形成する比較例1、および、ブラスト処理により粗面化を行なう比較例2では、貫通穴に目詰まりが発生し、成膜を行なうことができなかった。また、粗面化を行なわない比較例3では、成膜の際に、堆積した成膜物が剥離していた。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
【符号の説明】
【0078】
10 成膜装置
12 真空チャンバ
12a 内壁面
14 巻出し室
18 成膜室
20 シャワー電極
22 シャワープレート
22a ガス供給面
22c 貫通穴
22d 酸化皮膜
22e 溶射膜
24 ベース
30 ドラム
32 基板ロール
34 巻取り軸
36 隔壁
40 ガイドローラ
42 回転軸
46、62 真空排気手段
58 原料ガス供給手段
60 高周波電源
Z 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマCVD装置に用いる、複数の貫通穴を有するガス供給電極の製造方法であって、
穴あけ加工を行なって、前記複数の貫通穴を形成する穴加工工程と、
前記穴加工工程の後に、プラズマの生成領域に対面する側の供給面に、プラズマ溶射処理によって、溶射膜を形成する溶射工程とを有することを特徴とするガス供給電極の製造方法。
【請求項2】
前記溶射工程の後に、少なくとも前記供給面および前記貫通穴の表面に酸化皮膜を形成する皮膜形成工程を有する請求項1に記載のガス供給電極の製造方法。
【請求項3】
前記皮膜形成工程がプラズマ酸化処理を行なって酸化皮膜を形成するものである請求項2に記載のガス供給電極の製造方法。
【請求項4】
前記溶射膜がアルミニウム、アルミニウム合金、チタン、マグネシウム、ステンレスのいずれかからなる金属溶射膜である請求項1〜3のいずれかに記載のガス供給電極の製造方法。
【請求項5】
前記溶射膜がアルミナセラミクス溶射膜である請求項1〜3のいずれかに記載のガス供給電極の製造方法。
【請求項6】
前記供給面の中心線平均粗さが5μm以上である請求項1〜5のいずれかに記載のガス供給電極の製造方法。
【請求項7】
前記供給面の中心線平均粗さが10〜30μmである請求項6に記載のガス供給電極の製造方法。
【請求項8】
ガス供給電極の母材がアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、チタンのいずれかからなる請求項1〜7のいずれかに記載のガス供給電極の製造方法。
【請求項9】
前記貫通穴の穴径が0.7mm以下である請求項1〜8のいずれかに記載のガス供給電極の製造方法。
【請求項10】
前記プラズマCVD装置が、長尺な基板を長手方向に搬送しつつ、プラズマCVDによって、前記基板に成膜を行なうものである請求項1〜9のいずれかに記載のガス供給電極の製造方法。
【請求項11】
前記プラズマCVD装置が、前記基板を円筒状のドラムの周面の所定領域に巻き掛けて搬送しつつ成膜を行なうものである請求項10に記載のガス供給電極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−228329(P2011−228329A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93836(P2010−93836)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】