説明

ガス検出装置

【課題】定電圧源の不安定性や周囲温度の変動等により影響を受けずに、高精度にガスを検出する。
【解決手段】第1のガス検出装置は、ガス検出部と基準信号出力部と差分検出部と加熱制御部とを備える。ガス検出部は、第1の半導体式ガスセンサと、第1の半導体式ガスセンサに電流を流す第1の定電圧電源と、加熱信号を入力して第1の半導体式ガスセンサを加熱する第1の加熱部と、第1の加熱部の温度を検出する第1の温度センサとを有する。基準信号出力部は、基準信号を出力する。差分検出部は、第1の半導体式ガスセンサを流れる電流値を表す感応信号と基準信号との差を検出する。加熱制御部は、差分検出部で差が検出されると第1の加熱部の発熱量を大きくするように加熱信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体式ガスセンサを用いてガスを検出するガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるようなショットキーダイオード型ガスセンサ素子では、従来、ショットキーダイオードのアノード−カソード間に一定の順方向電圧を印加し、検出ガスの有無による通電電流の変化量をセンサ出力としている。
【0003】
【特許文献1】米国特許第6291838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単一のショットキーダイオード型ガスセンサ素子からの出力は、定電圧源の不安定性や周囲温度の変動等により影響を受けやすいため、センサの出力精度及び感度を向上させるためには、これらのノイズを極力低減することが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、定電圧源の不安定性や周囲温度の変動等により影響を受けずに、高精度にガスを検出することができるガス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1のガス検出装置は、ガス検出部と基準信号出力部と差分検出部と加熱制御部とを備える。ガス検出部は、第1の半導体式ガスセンサと、第1の半導体式ガスセンサに電流を流す第1の定電圧電源と、加熱信号を入力して第1の半導体式ガスセンサを加熱する第1の加熱部と、第1の加熱部の温度を検出する第1の温度センサとを有する。基準信号出力部は、基準信号を出力する。差分検出部は、第1の半導体式ガスセンサを流れる電流値を表す感応信号と基準信号との差を検出する。加熱制御部は、差分検出部で差が検出されると第1の加熱部の発熱量を大きくするように加熱信号を出力する。
【0007】
第2のガス検出装置では、第1のガス検出装置の基準信号出力部が、第1の半導体式ガスセンサと同一構造をもつ第2の半導体式ガスセンサと、第1の半導体式ガスセンサがさらされている空間から第2の半導体式ガスセンサを遮蔽する遮蔽部材と、第2の半導体式ガスセンサに接続された第2の定電圧電源と、第2の半導体式ガスセンサを加熱する第2の加熱部と、第2の加熱部の温度を検出する第2の温度センサとを有する。加熱制御部は、第2の温度センサで検出される温度が、ガス未検出状態にある第1の温度センサで検出される温度となるように第2の加熱部を発熱させる。基準信号は、第2の半導体式ガスセンサを流れる電流値を表す。
【0008】
第3のガス検出装置では、第1又は第2のガス検出装置において、基準信号出力部が、基準信号を記憶する基準信号記憶部を有し、差分検出部が、基準信号記憶部に記憶された基準信号を入力する。
【0009】
第4のガス検出装置では、第1から第3のガス検出装置のいずれかにおいて、第1の加熱部が、電流により発熱し、加熱制御部が、加熱部に流れる電流値を可変させるとともに、加熱部に流れる電流の変化量を検出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガス検出装置によれば、定電圧源の不安定性や周囲温度の変動等により影響を受けずに、半導体式ガスセンサを用いて高精度にガスを検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の実施の形態のガス検出装置300は図1の回路図に示すように、ガス検出部301と基準信号出力部302と差分検出部303と加熱制御部304とセンスアウト端子305とを備える。
【0012】
ガス検出部301は、第1の半導体式ガスセンサ100と第1の加熱部101と第1の温度センサ102と感応信号出力アンプ103と、第1〜第6の抵抗104〜109と、第1の加熱信号出力アンプ110と第1の温度信号出力アンプ111と第1の定電圧電源112とを有する。第1の半導体式ガスセンサ100と第1の加熱部101と第1の温度センサ102とは第1のガスセンサチップ113として一体に形成されていることが好ましいが、これに限られるものではない。
【0013】
第1の定電圧電源112は、第1の半導体式ガスセンサ100と第1の加熱部101と第1の温度センサ102とを動作させる電源であり、定電圧+Vccを供給する。なお、第1の定電圧電源112は、第1の半導体式ガスセンサ100と第1の加熱部101と第1の温度センサ102とを動作させる複数の電源により構成されていてもよい。
【0014】
第1の半導体式ガスセンサ100は、ショットキーダイオードにより形成されている。ショットキーダイオードを用いた第1の半導体式ガスセンサ100は、ガス濃度が高いほど順方向の電流を通しやすい性質をもち、所定の温度において特に高い感度を示す。第1の半導体式ガスセンサ100は、第1の抵抗104を介して順方向に第1の定電圧電源112に接続され、第2の抵抗105を介してGNDに接続されている。感応信号出力アンプ103は、第1の半導体式ガスセンサ100の両端の電圧を入力して増幅し、感応信号として出力する。感応信号は第1の半導体式ガスセンサ100に流れる電流を表す信号である。
【0015】
第1の加熱部101は、電流により発熱する抵抗部材で構成されており、第3の抵抗106を介して第1の定電圧電源112に接続され、第4の抵抗107を介してGNDに接続され、第1の半導体式ガスセンサ100に近接して配置されている。第1の加熱部101は、第1の定電圧電源112から供給される電流により所定の発熱量で発熱するとともに、加熱信号としての電流を入力して発熱量を可変し、この発熱により第1の半導体式ガスセンサ100を加熱する。第1の加熱信号出力アンプ110は、加熱信号を増幅して第1の加熱部101に入力する。なお、第1の加熱部101は、加熱信号により発熱量を可変することができるものであれば抵抗部材に限られるものではない。
【0016】
第1の温度センサ102は、温度が高くなるほど抵抗値が大きくなる白金(Pt)測温抵抗体で構成されており、第1の加熱部101に近接して配置されている。第1の温度センサ102は、第5の抵抗108を介して第1の定電圧電源112に接続されるとともに、第6の抵抗109を介してGNDに接続されることにより、動作電圧の供給を受けている。第1の加熱部101の温度が高いほど第1の温度センサ102の両端の電圧が高くなる。第1の温度信号出力アンプ111は、第1の温度センサ102の電圧変化を温度信号として出力する。なお、第1の温度センサ102は、第1の加熱部101を兼ねた部材であってもよく、温度を検出して温度信号を出力するものであれば抵抗部材に限られるものではない。
【0017】
基準信号出力部302は、第2の半導体式ガスセンサ200と第2の加熱部201と第2の温度センサ202と基準信号出力アンプ203と、第7〜第12の抵抗204〜209と、第2の加熱信号出力アンプ210と第2の温度信号出力アンプ211と第2の定電圧電源212とを有しており、それぞれ、ガス検出部301が有する第1の半導体式ガスセンサ100と第1の加熱部101と第1の温度センサ102と感応信号出力アンプ103と、第1〜第6の抵抗104〜109と、第1の加熱信号出力アンプ110と第1の温度信号出力アンプ111と第1の定電圧電源112と同等の構成をもつ。第2の半導体式ガスセンサ200と第2の加熱部201と第2の温度センサ202とは第2のガスセンサチップ213として一体に形成されていることが好ましいが、これに限られるものではない。
【0018】
基準信号出力部302は、さらに、遮蔽部材214を有する。遮蔽部材214は、第1の半導体式ガスセンサ100がガス濃度を検出する空間から第2の半導体式ガスセンサ200を遮蔽する部材である。遮蔽部材214により遮蔽された第2の半導体式ガスセンサ200からは、ガス濃度に依存しない所定の大きさの基準信号が出力される。
【0019】
差分検出部303は、感応信号出力アンプ103から出力される感応信号と、基準信号出力アンプ203から出力される基準信号とを比較し、感応信号と基準信号との差を検出する。遮蔽部材214を除いてガス検出部301と基準信号出力部302とは同様の構成をもつことから、常時基準信号出力アンプ203から出力される基準信号は、第1の半導体式ガスセンサ100においてガスを検出していない初期状態で感応信号出力アンプ103から出力される感応信号と同じ信号となる。第1の半導体式ガスセンサ100がガスを検出すると、差分検出部303が感応信号と基準信号との差を検出する。
【0020】
加熱制御部304は、ガス検出装置300の起動時に、第1の温度センサ102からの温度信号と第2の温度センサ202からの温度信号とを入力し、第1の加熱部101の温度と第2の加熱部201の温度とが同じになるように、第1の加熱部101に出力する加熱信号としての電流及び第2の加熱部201に出力する加熱信号としての電流を調整する。これにより、初期状態の第1の半導体式ガスセンサ100及び第2の半導体式ガスセンサ200が、高感度の状態に維持される。
【0021】
ガス検出時には、加熱制御部304は、差分検出部303で差が検出されると加熱信号を出力して第1の加熱部101の発熱量を増加させる。具体的には、ガス濃度が高いほど第1の半導体式ガスセンサ100の抵抗が小さくなり電流が増加し、第1の半導体式ガスセンサ100を流れる電流を表す感応信号が大きくなる。感応信号が基準信号よりも大きくなると、差分検出部303で感応信号と基準信号との差が検出される。加熱制御部304は、差分検出部303で検出された差が大きいほど、第1の加熱部101に出力する加熱信号としての電流を大きくする。加熱信号を入力された第1の加熱部101は、電流の増加により発熱量を増し、第1の半導体式ガスセンサ100の温度を上昇させる。第1の半導体式ガスセンサ100は、温度が高くなって抵抗値が高くなり、流れる電流が減少する。第1の半導体式ガスセンサ100を流れる電流が減少すると感応信号が小さくなるため、加熱制御部304から出力される加熱信号の大きさが小さくなる。加熱制御部304は、感応信号と基準信号との差が検出されなくなるまで、すなわち、第1の半導体式ガスセンサ100に流れる電流と第2の半導体式ガスセンサ200に流れる電流とが一致するまで加熱信号を出力する。
【0022】
加熱制御部304は、第1の加熱部101に出力する加熱信号としての電流をセンスアウト端子305に出力する。なお、加熱制御部304は、第1の加熱部101に出力する加熱信号としての電流の変化量を示す時間微分値をセンスアウト端子305に出力するものであってもよい。
【0023】
本実施形態のガス検出装置300は、ガスを検出するガス検出部301の出力と、ガスを検出せずガス検出部301と同様な構成をもつ基準信号出力部302の出力とを比較することにより、ガス検出部301単独から出力する場合に比較して、第1の定電圧電源112の不安定性や周囲温度の変動等による影響を少なくすることができる。
【0024】
第2の実施の形態のガス検出装置306は図2の回路図に示すように、第1の実施の形態のガス検出装置300において基準信号出力部302を記憶部215で置き換えた構成をもつ。記憶部215は、第1の実施の形態の基準信号出力部302が出力する基準信号と同じ信号を記憶している。加熱制御部304は、記憶部215に記憶された基準信号を差分検出部303に入力する。他の構成要素及び動作は第1の実施の形態と同様である。
【0025】
記憶部215には、第1の実施の形態における第2の温度センサ202からの出力に応じて変動する基準信号の値を記憶しておき、加熱制御部304が第1の温度センサ102からの出力に応じて記憶部215から読み出す基準信号の値を可変することが望ましい。
【0026】
以下、第1及び第2の実施の形態の第1の半導体式ガスセンサ100として用いることのできる一実施例の半導体式ガスセンサについて図面を参照して具体的に説明する。特に、加熱信号として電流を使用するような第1の実施の形態に示すガス検出装置300は、以下に説明するような、低消費電力化が可能なSiCを用いた半導体ガスセンサを用いることが好ましい。
【0027】
図3乃至図5に示されるように、本発明の実施の形態によるガスセンサチップは、シリコン基板1、絶縁層2及びシリコン単結晶層3からなるSOI(Silicon−on−Insulator)基板を基材として加工して得られるものである。このうち、シリコン単結晶層3はSOI層とも呼ばれる。なお、本実施の形態におけるSOI基板は、絶縁層2として埋め込み酸化膜(BOX層)を有してなるものであり、シリコン基板1及びシリコン単結晶層3の導電型はp型である。また、シリコン単結晶層3の厚みは約1μmであり、抵抗率は10Ωcm程度である。
【0028】
本実施の形態におけるSOI基板の中央部には、シリコン基板1の裏面からシリコン単結晶層3まで通ずる穴が形成されている。より具体的には、シリコン基板1の裏面から絶縁層2に至るまで比較的大きな穴30が形成されており、その穴30と通ずるようにして2つの穴31,32が絶縁層2及びシリコン単結晶層3に形成されている。2つの穴31,32はSOI基板の中心を通る線(図3におけるII−II線)を挟んで略対称的に配置されており、穴31及び32間には前述の“中心を通る線(II−II線)”に沿うようにして穴30上に延びるヒータ4が設けられている。すなわち、本実施の形態によるガスセンサチップにおいて、ヒータ4は梁状構造を備えている。それゆえ、ヒータ4は、事実上、SOI基板から熱的に分離された状態にある。このヒータ4は、図1に示すガス検出装置300の第1の加熱部101に相当する。
【0029】
ヒータ4は、p型のシリコン単結晶層3内に形成されたn型領域を加工して得られるものであり、抵抗率は6Ωcm程度である。ヒータ4がn型であり、シリコン単結晶層3がp型であることから、ヒータ4に通電した状態においてはヒータ4とシリコン単結晶層3とはpn接合により空乏層分離される。
【0030】
ヒータ4内部には低抵抗領域5,6,7が形成されている。このうち、低抵抗領域5及び6はヒータ4の領域の端部近傍に位置しており、低抵抗領域7は中央に位置している。
【0031】
低抵抗領域5及び6上にはヒータ4に電流を流すための第1及び第2の電極9及び10が形成されている。換言すると、低抵抗領域5及び6は、第1及び第2の電極9及び10をヒータ4にオーミック接続するための領域である。
【0032】
低抵抗領域7上には、ガスセンサ素子部として機能するショットキーダイオードが形成される。このショットキーダイオード部分が、図1に示すガス検出装置300の第1の半導体式ガスセンサ100に相当する。本実施の形態においては、ショットキーダイオードの半導体側とヒータ4とは第2の電極10を共通に使用する。この際、低抵抗領域7は、ショットキーダイオードの半導体側と第2の電極10をオーミック接合する。なお、ショットキーダイオードの半導体側用の電極をヒータ4の第2の電極10とは別に形成することとしてもよい。
【0033】
詳しくは、低抵抗領域7上には、半導体薄膜部11が形成され、半導体薄膜部11上には半導体薄膜部11とショットキー接合を構成する第3の電極12が形成されている。本実施の形態における半導体薄膜部11は非金属酸化物系の単結晶、具体的にはSiC単結晶からなる。半導体薄膜部11全体の膜厚は、約0.5μmであり、導電型はn型である。本実施の形態における半導体薄膜部11は下層部及び上層部の2層構造となっている。下層部は約0.1μm厚の低抵抗率層(約0.02Ω)であり、上層部は高抵抗率層(約10Ωcm)である。下層部の抵抗率は第2の電極10とオーミック接合を形成するため0.1Ωcm以上0.01Ωcm以下であることが好ましく、上層部の抵抗率は、第3の電極12とショットキー接合を構成するため1Ωcm以上100Ωcm以下であることが好ましい。
【0034】
ここで、半導体薄膜部11の膜厚は、10nm以上500μm以下の範囲にあることが望ましい。半導体薄膜部11の膜厚が薄ければ薄いほど、ガスセンサ素子部を昇温させやすくなることから、消費電力を下げることができる。特に、電池駆動により長時間使用可能なガスセンサチップを構築しようとする場合、電力対昇温効率を鑑みて、半導体薄膜部11の膜厚は500μm以下であることが望ましい。一方、半導体薄膜部11の膜厚が10nmより小さいとトンネル効果によりセンサとして動作させることが不可能となってしまうので、半導体薄膜部11の膜厚は10nm以上でなければならない。
【0035】
半導体薄膜部11上に形成される第3の電極12は、被検知ガスの解離、酸化還元反応を促進する触媒金属からなる。本実施の形態における触媒金属、即ち、第3の電極12の材料はPtであり、第3の電極12の厚みは約30nmである。第3の電極12の材料(触媒金属)としては、Ptの他に、遷移金属であるPd、Ni又はそれらの混合物などを用いることができる。第3の電極12の厚みは、ガス検出感度を良好なものとするため、10nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0036】
本実施の形態においては、半導体薄膜部11と第3の電極12との間に、両者の密着性を高めるための下地膜が形成されている。本実施の形態における下地膜の材料は、Tiである。このTiは触媒金属としてNiを用いた場合にも下地膜材料として用いることができる。Tiに代えて、TiWを下地膜として用いることもできる。
【0037】
上述したガスセンサチップは、第1、第2及び第3の電極9,10,12並びに穴30,31,32を除き、上面、側面、底面のすべてを熱酸化膜(具体的にはSiO膜)8で覆われている。図3においては、この熱酸化膜8が省略されているが、第3の電極12に接続された引き出し線13及び電極パッド14は、この熱酸化膜8上に形成されている。なお、図を分かりやすくするため、図4及び図5では、引き出し線13及び電極パッド14は省略されている。
【0038】
上述したガスセンサチップにおいては、ガスセンサ素子部を構成する半導体薄膜部11がヒータ4上に直接的に形成されていることから、ヒータ4により効率よくガスセンサ素子部を加熱することができる。よって、ヒータ4を加熱するための電力によりガスセンサ素子部を昇温させる効率(電力対昇温効率)が優れている。
【0039】
加えて、半導体薄膜部11の膜厚は約0.5μmであり極めて薄いことから、ガスセンサ素子部の昇温に要する熱量を抑えることができ、その結果、更に優れた電力対昇温効率を達成することができる。
【0040】
その上、ガスセンサ素子部の半導体薄膜部11としてはバンドギャップも大きく高温動作が可能で強い酸化還元雰囲気中でも極めて安定した材料であるSiCを用いる一方、ヒータ4としては加工しやすく熱伝導率もSiCと比較して高い材料であるSiを用いたことから、比較的安価で高性能なガスセンサチップを得ることができる。
【0041】
なお、ガスセンサ素子とヒータとを備えるガスセンサチップにおいては、ガスセンサチップ動作時におけるヒータ4の温度の測定を行わなければならない。本実施の形態においては、ヒータ4の温度測定のための温度センサをヒータ4の抵抗体の温度依存性を利用して構成している。すなわち、物としてはヒータ4と温度センサとは同一であり、ヒータ4に通電して発熱させる一方、熱変化に応じて変化するヒータ4の抵抗値をチェックすることにより、ヒータ4の温度を特定することとしている。そのため、ヒータ4が図1に示すガス検出装置300の第1の温度センサ102にも相当する。このように、本実施の形態においては、ガスセンサシステムの主要構成要素のうち、ガスセンサ素子、ヒータ、及び温度センサが一体に構成されており、100μm□以下という非常に小型な素子を形成することができる。
【0042】
なお、温度センサを上述したものに代えて、Pt薄膜からなる抵抗測温体とすることもできる。その場合であっても、温度センサは少なくとも半導体薄膜部11近傍に設けられていることが好ましい。温度センサの他の例としては、例えば、ヒータ4内部であって半導体薄膜部11に近い領域にpn接合を形成し、そのpn接合部の電圧電流特性の温度依存性を利用する方法等がある。なお、温度センサの更なる応用としては、複数個の温度センサを配置してヒータ4の詳細な温度分布を測定し、昇温パターンの変化よりガス検出を行うことも可能である。
【0043】
上述した本実施の形態によるガスセンサチップにおいては、ガスセンサ素子部であるショットキーダイオードが電気的には抵抗体であるヒータ4の略中央部に接続されている。従って、ショットキーダイオード及びヒータ4の共通電極である第2の電極10とショットキーダイオードの間にはヒータ4が部分的に介在していることとなっている。しかし、ガス検知感度を更に良好なものとするためには、理論上は、第2の電極10とショットキーダイオードの間に電気的にヒータ4(抵抗体)を介在させないほうが良い。そこで、製造コスト等の条件に余裕がある場合には、ショットキーダイオードの半導体薄膜部11と第2の電極10を結ぶ経路からヒータ4を電気的に分離することとしても良い。分離の方法としては、例えば、pn分離や、半導体薄膜部11から熱酸化膜8上に線を引き出して、その引き出した線を熱酸化膜8上で第2の電極10に接続する方法などがある。
【0044】
以下、上述した実施の形態によるガスセンサチップの製造方法について図6乃至図15を更に用いて具体的に説明する。ここで、図6乃至図13は、図4と同様に図3におけるII−II線に沿った断面図であり、図14及び図15は、図5と同様に図3におけるIII−III線に沿った断面図である。
【0045】
まず、図6に示されるような面方位(100)のp型SOI基板(シリコン基板1、絶縁層2及びシリコン単結晶層3)に対して、図7に示されるように熱拡散法やイオン注入法によりn型のヒータ4領域を形成する。
【0046】
次いで、図8に示されるように、ヒータ4内にn型の高濃度領域を低抵抗領域7として形成する。この低抵抗領域7は、半導体薄膜部11としてのSiC単結晶薄膜のパターン化される領域より僅かに広い領域である。
【0047】
その後、図9に示されるように、ヒータ4上に、分子線エピタキシャル(MBE)法によりSiC単結晶薄膜11aを形成する。シリコン単結晶上にSiC単結晶薄膜を形成する技術としては、本発明の発明者の一人が開発した「シリコンカーバイト単結晶薄膜の形成方法(特開2000−264792)」に開示された技術がある。当該技術を研究した結果、他の方法では実現できなかったSiC単結晶の良質な極薄膜をシリコン単結晶上に直接形成することができることが分かったため、これを更に本発明用途に適するように変形した。
【0048】
具体的には、図8に示される基板を真空容器(反応槽)内に配置し、反応ガスとしてモノメチルシラン(MMS)を用いてSiC単結晶薄膜11aを成長させた。その際、SiC単結晶薄膜11aの主な成長条件として、モノメチルシランの分圧を約5×10−5Torrとし、基板温度を約950℃とした。また、成長時にn型の不純物ドーパントとして所定のタイミングで所定量の窒素ガスを真空容器内に導入し、SiC単結晶薄膜11aの下層部及び上層部の抵抗率を制御した。ここで、Si基板上に生成されたSiC単結晶薄膜11aは、立方晶系の3C−SiCであり、表面欠陥密度は約10/cm以下、表面荒さはRa:約100nm以下の単結晶薄膜であった。尚、SiC単結晶薄膜11aは、結晶構造が六方晶系の4H−SiCあるいは6H−SiCでも構わないが、リーク電流の要因となるマイクロパイプがない立方晶系の3C−SiCが好適である。
【0049】
成長条件に関し、例えば、基板温度は約600〜1100℃の範囲にあることが好ましい。また、モノメチルシランに代えて、例えば、テトラメチルシランやジメチルシランなどのような少なくとも炭素原子及び珪素原子を含有する化合物を用いることができる。更に、当該化合物の分圧としてはN×10−XTorr(1≦N<10、4≦X≦6(Xは自然数))を選択することができる。なお、不純物ドーパントの導入によるSiC単結晶薄膜11aの抵抗率制御の目的は、半導体薄膜部11の上層部及び下層部の抵抗率を前述した適性値にするためのものである。従って、SiC単結晶薄膜11aは、ヒータ4に近い位置においては低い抵抗率を有し且つ第3の電極12に近い位置においては高い抵抗率を有するように制御される。なお、本実施の形態におけるSiC単結晶薄膜11aは上層部及び下層部の2層構造であったが、ヒータ4との間でオーミック接合を構成し、第3の電極との間でショットキー接合を構成しうる限り、SiC単結晶薄膜11aは例えば抵抗率が徐々に変化するような構造を有していても良い。
【0050】
次いで、図10に示されるように、SiC単結晶薄膜11aから所望形状の半導体薄膜部11を得るために、フォトレジストで選択的にマスクを形成し、RIE(Reactive−Ion−Etching)により不要部分を除去する。エッチングガスとしてはSF6とO2の混合ガスを用いることができる。
【0051】
その後、図11に示されるように、WETやDRY酸素雰囲気中で熱処理を施し、0.1μm程度の熱酸化膜8を形成する。
【0052】
更に、図12に示されるように、第1及び第2の電極9,10を形成する。具体的には、まず、低抵抗領域5及び6上の熱酸化膜8をフォトレジストをマスクとしてHF等により除去する。次いで、熱酸化膜8に形成された穴を利用して、熱拡散法やイオン注入法により低抵抗領域5及び6を形成する。更に、真空蒸着法やマグネトロンスパッタリング法等により約0.5μm厚のアルミニウムあるいはニッケル薄膜等の電極材を堆積する。ここで、低抵抗領域5及び6を安定化するために450℃程度の熱処理を施すことが望ましい。その後、フォトレジストをマスクとして適切なエッチャントを用いて電極材のパターニングを行って、図12に示されるように第1及び第2の電極9及び10を得る。
【0053】
続いて、熱酸化膜8のうち、半導体薄膜部11上部をエッチングにより除去し、露出した半導体薄膜部11上に第3の電極12を形成する。詳しくは、まず半導体薄膜部11上に下地膜としてTiをマグネトロンスパッタリング法等により堆積し、次いで、触媒金属であるPt又はNiをマグネトロンスパッタリング法等により堆積する。その後、エッチングを行ってパターニングを行い、第3の電極12を形成する。
【0054】
ここで、第3の電極12のパターニング・形成に関してはいわゆるリフトオフ法を適用することもできる。すなわち、フォトレジストを予め所望のパターン化し、その上にPt薄膜を堆積し、その後、余分なPt薄膜をフォトレジストごと剥離する方法、つまりリフトオフ法を適用することも可能である。
【0055】
次に、ヒータ4とヒータ4の支持部材であるSOI基板とを熱的に分離するために、フォトレジストマスクを用いてHFにより熱酸化膜8の所望の領域を除去し、その熱酸化膜8をマスクとしてKOH等の湿式エッチング法やRIE等のドライエッチング法によりシリコン単結晶層3を除去する(図14参照)。
【0056】
続いて、図15に示されるように、HFにて絶縁層2を除去する。その後、シリコン基板1の裏面から絶縁層(SiO)2をエッチングストッパとしたSiの異方性エッチングを行い、図4及び図5に示されるような梁状構造のヒータ4を得る。
【0057】
上述した本実施の形態によるガスセンサチップにおいては、センサ基板内にPt/SiCからなるショットキーダイオード(ガス検知部:ガスセンサ素子)と、ヒータ4と、温度センサが作りこまれている。そのため、被検出ガスの脱離吸着反応が活性化する450℃以上の動作温度までガスセンサチップを昇温させるのに要する電力は数ミリワット程度であり、電池駆動で長期間使用可能な低消費電力のガスセンサチップを実現することができる。
【0058】
なお、ヒータの材料としては、例えば、Si、GaAs、SiGe、GaN、ZnO又はAlOを用いることができる。このうち、加工のし易さや熱伝導性を考慮すると、ヒータの材料としては、Siが好ましい。
【0059】
また、半導体薄膜部としては、例えば、SiC、GaAs、SiGe、GaN、ZnO又はAlを用いることができる。半導体薄膜部に求められる条件は、バンドギャップが大きく高温動作が可能で、且つ、化学的に安定していることである。より具体的には、2.0eV以上のバンドギャップを有し、300℃以上で使用可能で、NOやSOなどの検出ガスと母材自体が反応し組成変化を生じる金属酸化物と比べ、気体−固体間の反応が極表層に限定された単結晶であることが好ましい。また、加工性に優れたシリコン上に良質な反応膜となる単結晶膜が形成できるが望ましい。かかる条件を考慮すると、半導体薄膜部の材料としてはSiCが適切である。
【0060】
すなわち、ヒータと半導体薄膜部とは互いに同じ材料であっても良いが、本実施の形態の用途においては、ヒータと半導体薄膜部との組み合わせをSi及びSiCとするのが好ましい。
【0061】
図16に示されるように、第1の実施の形態における第1のガスセンサチップ113と第2のガスセンサチップ114とを一体に形成してもよい。この場合、第1のガスセンサチップ113が有する第3の電極12の周囲を囲う第1の壁33と、第2のガスセンサチップ213が有する第3の電極12を囲う第2の壁34と、さらに第2の壁34とともに第2のガスセンサチップ213が有する第3の電極12を密閉するマイクロカバー35とを設ける。第2の壁34及びマイクロカバー35は、被検出ガスが第2のガスセンサチップ213が有する第3の電極12に触れることを妨げる物理的な隔壁として機能する。マイクロカバー35は、半導体微細加工技術によりシリコン等により形成される。第1の壁33、第2の壁34及びマイクロカバー35は、陽極接合法、あるいは直接接合法等により接合される。密閉された空間にはアルゴンや窒素ガス等の不活性ガスを充填封止する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態によるガス検出装置の回路図である。
【図2】他のガス検出装置の回路図である。
【図3】本発明の実施の形態によるガスセンサチップを概略的に示す斜視図である。
【図4】図3に示されるガスセンサチップのII−II断面図である。
【図5】図3に示されるガスセンサチップのIII−III断面図である。
【図6】図3に示されるガスセンサチップの製造工程を示す、II−II断面図である。
【図7】図3に示されるガスセンサチップの製造工程を示す、II−II断面図である。
【図8】図3に示されるガスセンサチップの製造工程を示す、II−II断面図である。
【図9】図3に示されるガスセンサチップの製造工程を示す、II−II断面図である。
【図10】図3に示されるガスセンサチップの製造工程を示す、II−II断面図である。
【図11】図3に示されるガスセンサチップの製造工程を示す、II−II断面図である。
【図12】図3に示されるガスセンサチップの製造工程を示す、II−II断面図である。
【図13】図3に示されるガスセンサチップの製造工程を示す、II−II断面図である。
【図14】図3に示されるガスセンサチップの製造工程を示す、III−III断面図である。
【図15】図3に示される半導体式ガスセンサの製造工程を示す、III−III断面図である。
【図16】第1の実施形態の第1及び第2のガスセンサチップを一体に形成したガスセンサチップの図4と同一方向における断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 シリコン基板
2 絶縁層
3 シリコン単結晶層
4 ヒータ
5 低抵抗領域
6 低抵抗領域
7 低抵抗領域
8 熱酸化膜
9 第1の電極
10 第2の電極
11 半導体薄膜部
12 第3の電極
13 引き出し線
14 電極パッド
30 穴
31 穴
32 穴
33 第1の壁
34 第2の壁
35 マイクロカバー
100 第1の半導体式ガスセンサ
101 第1の加熱部
102 第1の温度センサ
103 感応信号出力アンプ
104〜109 第1〜第6の抵抗
110 第1の加熱信号出力アンプ
111 第1の温度信号出力アンプ
112 第1の定電圧電源
113 第1のガスセンサチップ
200 第2の半導体式ガスセンサ
201 第2の加熱部
202 第2の温度センサ
203 基準信号出力アンプ
204〜209 第7〜第12の抵抗
210 第2の加熱信号出力アンプ
211 第2の温度信号出力アンプ
222 第2の定電圧電源
213 第2のガスセンサチップ
214 遮蔽部材
300 ガス検出装置
301 ガス検出部
302 基準信号出力部
303 差分検出部
304 加熱制御部
305 センスアウト端子
306 ガス検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス検出部と基準信号出力部と差分検出部と加熱制御部とを備え、
前記ガス検出部は、
第1の半導体式ガスセンサと、
前記第1の半導体式ガスセンサに電流を流す第1の定電圧電源と、
加熱信号を入力して前記第1の半導体式ガスセンサを加熱する第1の加熱部と、
前記第1の加熱部の温度を検出する第1の温度センサと、を有し、
前記基準信号出力部は、基準信号を出力し、
前記差分検出部は、前記第1の半導体式ガスセンサを流れる電流値を表す感応信号と前記基準信号との差を検出し、
前記加熱制御部は、前記差分検出部で差が検出されると前記第1の加熱部の発熱量を大きくするように前記加熱信号を出力する、
ガス検出装置。
【請求項2】
前記基準信号出力部は、
前記第1の半導体式ガスセンサと同一構造をもつ第2の半導体式ガスセンサと、
前記第1の半導体式ガスセンサがさらされている空間から第2の半導体式ガスセンサを遮蔽する遮蔽部材と、
前記第2の半導体式ガスセンサに接続された第2の定電圧電源と、
前記第2の半導体式ガスセンサを加熱する第2の加熱部と、
前記第2の加熱部の温度を検出する第2の温度センサと、を有し、
前記加熱制御部は、前記第2の温度センサで検出される温度が、ガス未検出状態にある前記第1の温度センサで検出される温度となるように前記第2の加熱部を発熱させ、
前記基準信号は、前記第2の半導体式ガスセンサを流れる電流値を表す、
請求項1のガス検出装置。
【請求項3】
前記基準信号出力部は、前記基準信号を記憶する基準信号記憶部を有し、
前記差分検出部は、前記基準信号記憶部に記憶された前記基準信号を入力する、
請求項1又は請求項2のガス検出装置。
【請求項4】
前記第1の加熱部は、電流により発熱し、
前記加熱制御部は、前記加熱部に流れる電流値を可変させるとともに、前記加熱部に流れる電流の変化量を検出する、
請求項1から請求項3のいずれかのガス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−256472(P2008−256472A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97718(P2007−97718)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】