説明

ガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法及びガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生成型品

【課題】ガラス繊維強化ポリプロピレン材(FR−PP材)の成型品から再生成型品を成形する際の変色を抑制できて、良好な再生成型品を製造することができるようにする。
【解決手段】FR−PP材の成型品を粉砕し、この粉砕材を原料として再生成型品を成形する場合において、前記粉砕材を加熱溶融させてペレット化する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加したり、前記粉砕材をそのまま用いて射出成形する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加したりする。リサイクルする際の酸化防止剤にチオエーテル系酸化防止剤を用いた場合(実施例1〜3)は、酸化防止剤を用いない場合(比較例1,2)やフェノール系酸化防止剤を用いた場合(比較例3〜5)に比べて、黄変度を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維強化ポリプロピレン材の成型品を粉砕し、この粉砕材を原料として再生成型品を成形する際のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法、及びこの方法によって製造されたガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)が施行され、家電製品のリサイクル材、特に洗濯機等に大量に使用されているポリプロピレン材の再利用の取り組みが進んでいる。この中で、最近の洗濯機では乾燥機能を付加したものが多くなり、このため、温度が高い条件でも剛性を維持するために、ポリプロピレン材中に10〜25wt%程度のガラス繊維を混合したガラス繊維強化ポリプロピレン材(以下、FR−PPと称する)を使用する頻度が高くなっている。このため、一定以上のリサイクル率を維持するためには、このFR−PP材のリサイクルを行うことが必要となってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−329178号公報
【特許文献2】特開2006−335980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記FR−PP材には、一般にガラス繊維とポリプロピレン材の密着性を上げるための添加剤(マレイン酸変性ポリプロピレンやウレタン系添加剤)が添加されている。このようなFR−PP材をリサイクルして再生成型品を成形すると、成形時の熱によって茶褐色に変色を起こしてしまうという問題がある。また、強度低下も大きくなってしまい、このままでは使用することができない。このため、家電リサイクルでのリサイクル率の低下を招き、これらの材料は廃棄、埋め立てするか、燃料として燃焼させるしか使用方法が無く、環境への負荷が高くなるという課題が生じていた。
【0005】
なお、FR−PP材に酸化防止剤を添加する点については、例えば特許文献1,2に開示されている。
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、FR−PP材の成型品から再生成型品を成形する際の変色を抑制できて、良好な再生成型品を製造することができるガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法及び再生成型品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
FR−PP材の成型品を製造する際に、ポリプロピレンにガラス繊維を混合する場合の方法としては、一般的に、ガラス繊維を予め混合したペレットを使用して成形する場合(この場合、一般的にガラス繊維は短繊維になる)と、ガラス繊維の長繊維にポリプロピレンをコーティングして、ペレタイザーで切断してできたマスターバッチを、ガラス繊維が入っていないポリプロピレン材に混合して成形する場合(この場合は、一般的に長繊維になる)とがある。この際に、ガラス繊維とポリプロピレンとの密着性を上げるためにガラス繊維のシリコーンカップリング剤を入れ、さらにマレイン酸変性ポリプロピレンやウレタン系添加剤(イソシアネート化合物)を混合している。
【0007】
また、一般的にポリプロピレンへの酸化防止剤としては、最も安価で、効果が大きいフェノール系の酸化防止剤を添加することが多い。この酸化防止剤は、熱履歴によって消費されるために、そのままリサイクルした場合には、長期耐熱性が、バージン剤で成形した場合よりも低下する傾向がある。そのため、FR−PP材をリサイクルする際に、この消費され不足したフェノール系酸化防止剤を添加することによって、長期耐熱性を上げることができる。しかしながら、このようにしてリサイクルした場合、再生成型品が茶褐色に変色してしまうという問題が発生していた。
【0008】
そこで、本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、変色の原因を突き止めた。すなわち、FR−PP材をリサイクルする際には、フェノール系酸化防止剤とマレイン酸変性ポリプロピレンやウレタン系添加剤に、リサイクルの際の熱がさらに加わり、それらが反応すると、アミド結合を介して有色物質が生成され、茶褐色に変色するというものであった。
そして、本発明者らは、上記変色を抑制するために、FR−PP材をリサイクルする際に追加添加する酸化防止剤にチオエーテル系酸化防止剤を用いることが有効であることを突き止め、本発明を見出した。
【0009】
請求項1の発明は、ガラス繊維強化ポリプロピレン材(FR−PP材)の成型品を粉砕し、この粉砕材を原料として再生成型品を成形する際のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法において、前記粉砕材を加熱溶融させてペレット化する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加することを特徴とする。
この方法によれば、FR−PP材の粉砕材を加熱溶融させてペレット化する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加し、そのペレットを用いて再生成型品を成形することで、再生成型品の変色を抑制でき、良好な再生成型品を製造することが可能となる。
【0010】
チオエーテル系酸化防止剤を添加する別の方法としては、FR−PP材の成型品を粉砕した粉砕材を用いて射出成形機によって射出成形する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加する方法がある(請求項2の発明)。
また、チオエーテル系酸化防止剤を添加するさらに別の方法としては、FR−PP材の成型品を粉砕した粉砕材を用いて射出成形機によって成形する際に、チオエーテル系酸化防止剤を添加したペレット材を混合する方法がある(請求項3の発明)。
これら請求項2の発明及び請求項3の発明でも、請求項1の発明と同様な効果を得ることができる。
【0011】
上記請求項1〜3の発明において、チオエーテル系酸化防止剤の添加量は0.1〜0.5wt%とすることが好ましい(請求項4の発明)。
チオエーテル系酸化防止剤の添加量と黄変度との関係について実験を行った結果、チオエーテル系酸化防止剤の添加量が0.3wt%までは増加するごとに黄変度は低下するが、それ以上になっても黄変度は殆ど変化せず、添加量が0.5wt%以上になると、添加剤自体の色によって変色をきたすとともに、コストも高くなり、リサイクル材を使用するメリットが少なくなるという欠点が出てくる。また、添加量が0.1wt%以下では、変色抑制効果が低い。このため、リサイクルの際のチオエーテル系酸化防止剤の添加量としては0.1〜0.5wt%とすることが好ましく、より好ましくは0.3wt%前後である。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1の方法によって成形されたポリプロピレン材の再生成型品である。請求項6の発明は、請求項2の方法によって成形されたポリプロピレン材の再生成型品である。請求項7の発明は、請求項3の方法によって成形されたポリプロピレン材の再生成型品である。請求項8の発明は、請求項5〜7の発明において、チオエーテル系酸化防止剤の添加量を0.1〜0.5wt%としたことを特徴としている。
【0013】
ポリプロピレン材の酸化防止剤としては、上記したフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤のほかにリン酸系酸化防止剤がある。リン系の酸化防止剤は熱加工成形時の酸化防止能に優れ、加工安定剤としてよく使用される。このリン酸系酸化防止剤は過酸化物を除去する反応性が高いために加工安定剤として使用され、射出成形時の加熱による酸化を防止するのに適しているが、その反面、加熱時に生成する物質とマレイン酸変性ポリプロピレンやイソシアネートと反応を起こしやすく、黄変の原因になりやすい。
【0014】
そこで、請求項9の発明では、請求項1に記載のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法において、前記粉砕材を加熱溶融させてペレット化する際に、リン酸系酸化防止剤を0.2wt%以下添加することを特徴とする。
請求項9の発明においては、チオエーテル系酸化防止剤に加えて、リン酸系酸化防止剤を添加することでFR−PP材の再生成型品の変色を一層抑制でき、一層良好な再生成型品を製造することが可能となる。なお、リン酸系酸化防止剤の添加量が0.2wt%を越えると、黄変の原因になりやすく、好ましくない。
【0015】
リン酸系酸化防止剤を添加する別の方法としては、請求項2に記載のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法において、前記粉砕材を用いて射出成形機によって射出成形する際にリン酸系酸化防止剤を添加する方法がある(請求項10の発明)。このような方法によっても、請求項9の発明と同様な効果を得ることができる。
【0016】
請求項11の発明は、請求項9の方法によって成形されたポリプロピレン材の再生成型品である。請求項12の発明は、請求項10の方法によって成形されたポリプロピレン材の再生成型品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、FR−PP材の再生成型品の変色を抑制でき、良好な再生成型品を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】黄変度の測定結果を示す図
【図2】チオエーテル系酸化防止剤の添加量と黄変度との関係を示す特性図
【図3】リン酸系酸化防止剤の添加量と黄変度との関係を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
本発明の効果を確認するために、次のような実施例及び比較例を行った。
まず、本発明の実施例1〜3について図1を参照して説明する。
FR−PP材の再生成型品を製造するための原材料としては、市場から回収したFR−PP材の成型品(以下、市場回収品と称する)と、工場での産業廃棄物である端材(ランナーなど)や成形不良品(以下、工場産廃と称する)を用意し、これら原材料を粉砕機により細かく粉砕した。
【0020】
実施例1では、原材料として前記市場回収品を用い、この市場回収品を粉砕した粉砕材をそのまま射出成形機に投入するとともに、粉末状のチオエーテル系酸化防止剤を添加し、これらを均一になるように混合した。なお、粉砕材とチオエーテル系酸化防止剤は、射出成形機に投入する前に予め混合しておき、混合状態で射出成形機に投入するようにしてもよい。このときのチオエーテル系酸化防止剤の添加量は0.3wt%とした。射出成形機に投入された粉砕材は射出成形機において加熱溶融される。この射出成形機による射出成形により再生成型品を得た。
【0021】
実施例2では、原材料として市場回収品を用い、この市場回収品を粉砕した粉砕材を一旦ルーダーによってペレット化した。ペレット化する際に、チオエーテル系酸化防止剤を添加し混合した。粉砕材は、ペレット化する際に一旦加熱溶融される。このときのチオエーテル系酸化防止剤の添加量も0.3wt%とした。そして、これによってできたペレットを射出成形機に投入して射出成形し、再生成型品を得た。
【0022】
実施例3では、原材料として工場産廃を用い、この工場産廃を粉砕した粉砕材を一旦ルーダーによってペレット化した。ペレット化する際に、実施例2と同様にチオエーテル系酸化防止剤を添加し混合した。このときのチオエーテル系酸化防止剤の添加量も0.3wt%とした。そして、このペレットを射出成形機に投入して射出成形し、再生成型品を得た。
【0023】
次に比較例1〜5について説明する。
比較例1では、原材料として市場回収品を用い、この市場回収品を粉砕した粉砕材をそのまま射出成形機に投入して射出成形し、再生成型品を得た。この場合、酸化防止剤は添加していない。
比較例2では、原材料として工場産廃を用い、この工場産廃を粉砕した粉砕材を一旦ルーダーによってペレット化し、このペレットを射出成形機に投入して射出成形し、再生成型品を得た。この場合も、酸化防止剤は添加していない。
【0024】
比較例3は、添加するする酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤で、その添加量が0.2%であり、それ以外は実施例1と同様である。
比較例4も、添加するする酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤で、その添加量が0.2%であり、それ以外は実施例2と同様である。
比較例5も、添加するする酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤で、その添加量が0.2%であり、それ以外は実施例3と同様である。
ここで、今回の実施例1〜3で用いたチオエーテル系酸化防止剤は、CAS番号:123−28−4、化学名:3,3’−チオジプロピオン酸ジドデシルであり、その構造式を下記の(1)(2)に示す。その酸化防止機構については、下記の化学反応式(3)に示す。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
イオウ系の酸化防止剤は、プラスチック中に生成する過酸化物であるR−O−O−Hをこの化学反応式(3)のように分解する(なお、式中、Rはアルキル基を表す)。ただし、この場合の分解速度はそれほど速くなく、このため成形時の熱によって、生成する過酸化物による反応は少なく、このため、マレイン酸変性ポリプロピレンやウレタン系化合物と反応して変色(黄変)することを防止することができる。
なお、チオエーテル系酸化防止剤としては、上記したものの他に、例えば、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオプロピオネート、ジトリデシルチオプロピオネート等のアルキル(C8〜18)チオプロピオン酸エステルが挙げられる。
図1には、実施例1〜3のサンプルと、比較例1〜5のサンプルの黄変度を測定した結果を示している。黄変度は、色度Labから算出した値で、大きな値ほど黄色みを帯びている。
【0028】
図1を考察してみると、次のようなことがわかる。
まず、リサイクル時に酸化防止剤を添加していない比較例1の場合は、市場回収品を原材料とし、それを粉砕した粉砕材をそのまま射出成形機で射出成形したものもので、黄変度は0.61となっている。同じく酸化防止剤を添加していない比較例2の場合は、工場産廃を原材料とし、それを粉砕した粉砕材をペレット化し、それを射出成形機で射出成形したものもので、黄変度は0.55となっている。これら比較例1,2では、ともに黄変度は高くなっている。
【0029】
これに対して、比較例3の場合は、市場回収品を原材料とし、それを粉砕した粉砕材を用いて射出成形する際にフェノール系酸化防止剤を添加したものであり、この場合の黄変度は0.53で、比較例1よりは抑えられている。また、比較例4の場合は、市場回収品の粉砕材をペレット化する際にフェノール系酸化防止剤を添加し、そのペレットを用いて射出成形したもので、この場合の黄変度は0.59で、比較例1よりは抑えられている。また、比較例5の場合は、工場産廃を原材料とし、それを粉砕した粉砕材をペレット化する際にフェノール系酸化防止剤を添加し、そのペレットを用いて射出成形したもので、黄変度は0.48となっている。これら比較例3〜5の場合、酸化防止剤を添加しない場合(比較例1,2)よりも黄変度は改善されているものの、まだその程度は不足しており、酸化防止剤の添加比率をより高くすると、かえって反応が進み、黄変度が大きくなる欠点もあった。
【0030】
ここで、原材料として市場回収品の方が工場産廃よりも黄変度が高い理由としては、市場での紫外線ストレスや、長期使用による酸化による劣化が挙げられる。
一方、本発明の実施例である実施例1の場合には、市場回収品を原材料とし、それを粉砕した粉砕材を用いて射出成形する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加したものであり、この場合の黄変度は0.35で、比較例1、3よりも抑えられている。また、実施例2の場合は、市場回収品の粉砕材をペレット化する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加し、それによってできたペレットを用いて射出成形したもので、この場合の黄変度は0.42で、比較例4よりも抑えられている。また、実施例3の場合は、工場産廃を原材料とし、それを粉砕した粉砕材をペレット化する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加し、それによってできたペレットを用いて射出成形したもので、黄変度は0.31で、比較例5よりも抑えられている。これらの結果、チオエーテル系酸化防止剤を添加した実施例1〜3においては、比較例1〜5に比べて黄変度が抑えられていることがわかる。
【0031】
チオエーテル系酸化防止剤を添加する別の方法として、市場回収品または工場産廃を粉砕し、その粉砕材を用いて射出成形する際に、チオエーテル系酸化防止剤を直接添加することに代えて、チオエーテル系酸化防止剤を含んだペレット(マスターバッチ)を混合するようにすることもできる。このようにした場合には、添加する酸化防止剤の分散性が高くなり、より少ない添加量でその効果(黄変度の抑制)をあげることができる利点がある。
【0032】
チオエーテル系酸化防止剤の最適な添加量を求めるため、チオエーテル系酸化防止剤の添加量と黄変度の変化を測定した結果を図2に示す。この図2から次のようなことがわかる。すなわち、チオエーテル系酸化防止剤の添加量が0.3wt%までは、添加量が増加するごとに黄変度は次第に低下するが、添加量がそれ以上となっても黄変度は殆ど変化しない。添加量が0.5wt%を越えると、添加剤(チオエーテル酸化防止剤)自体の色によって変色を来たす。また、添加量が増えるとコストも大きくなり、リサイクル材を利用するメリットが少なくなるという欠点が出てくる。これらの結果から、FR−PP材をリサイクルする際のチオエーテル系酸化防止剤の添加量としては、0.1〜0.5wt%とすることが好ましく、より好ましくは0.3wt%前後である。
【0033】
(第2の実施形態)
酸化防止剤には、これまで説明したフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤の他にリン酸系酸化防止剤がある。そのリン酸系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−ターシャルブチルフェニル)フォスフェートがある。その構造式を下記の(4)に示す。他には、例えば、トリス[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン−6−イル]オキシ]エチル]アミンがある。その構造式を下記の(5)に示す。
【0034】
【化3】

【0035】
【化4】

【0036】
【化5】

【0037】
リン系の酸化防止剤は熱加工成形時の酸化防止能に優れ、加工安定剤としてよく利用される。その過酸化物を除去する反応機構を化学反応式(6)に示す。このリン酸系酸化防止剤の反応性は高いために、加工安定剤として使用され、射出成形時の加熱による酸化を防止するのに適しているが、その反面、加熱時に生成する物質とマレイン酸変性ポリプロピレンやイソシアネートと反応を起こしやすく、黄変の原因となりやすい。
【0038】
そこで、本実施形態においては、FR−PP材の再生成型品を製造する際に添加する酸化防止剤として、前記チオエーテル系酸化防止剤に加えて、リン系酸化防止剤を0.2wt%以下(0よりは多く)添加することを特徴としている。具体的には、原材料としてはFR−PP材の前記市場回収品や工場産廃を粉砕し、その粉砕材をそのまま用いて射出成形機で射出成形する際に、チオエーテル系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を添加して射出成形することで再生成型品を得た。このようにFR−PP材の再生成型品を製造する際に、チオエーテル系酸化防止剤に加えて、リン系酸化防止剤を0.2wt%以下添加することで、再生成型品の黄変を一層抑えることが可能となった。
【0039】
リン酸系酸化防止剤の最適な添加量を求めるため、リン酸系酸化防止剤の添加量と黄変度の変化を測定した結果を図3に示す。この図3においては、チオエーテル系酸化防止剤を3wt%添加したものをベースとしている。この図3から、リン酸系酸化防止剤の添加量は、0.2wt%以下が好ましいことがわかる。添加量が0.2wt%を越えると、黄変度が増加し、逆効果となってしまう。
【0040】
リン酸系酸化防止剤を添加して再生成型品を製造する際の方法としては、上記した方法とは別の方法として、前記市場回収品や工場産廃を粉砕した粉砕材をルーダーによって再度ペレット化する際に、チオエーテル系酸化防止剤に加えて、リン酸系酸化防止剤を添加し、これによってできたペレットを用いて射出成形することもできる。この場合のリン酸系酸化防止剤の添加量も0.2wt%以下とする。このようにしても、上述と同様な効果を得ることができる。
【0041】
粉砕材をそのまま用いて射出成形する場合には、再度ペレット化する場合に比べて熱履歴が一回少なくなるため、黄変が抑えられるとともに、コスト的にも安くできる利点があるが、酸化防止剤の分散性が、再度ペレット化する場合に比べて悪く、酸化防止剤の添加量に対する効率が悪くなるという欠点がある。
【0042】
リン酸系酸化防止剤としては、上記したものの他、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4−ジ−tert−プチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、トリノニルフェニルホスフェート、トリフェニルフォスフェートなどがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維強化ポリプロピレン材の成型品を粉砕し、この粉砕材を原料として再生成型品を成形する際のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法において、前記粉砕材を加熱溶融させてペレット化する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加することを特徴とするガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法。
【請求項2】
ガラス繊維強化ポリプロピレン材の成型品を粉砕し、この粉砕材を原料として再生成型品を成形する際のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法において、前記粉砕材を用いて射出成形する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加することを特徴とするガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法。
【請求項3】
ガラス繊維強化ポリプロピレン材の成型品を粉砕し、この粉砕材を原料として再生成型品を成形する際のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法において、前記粉砕材を用いて射出成形する際に、チオエーテル系酸化防止剤を添加したペレット材を混合することを特徴とするガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法。
【請求項4】
前記チオエーテル系酸化防止剤の添加量は0.1〜0.5wt%とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法。
【請求項5】
ガラス繊維強化ポリプロピレン材の成型品を粉砕し、この粉砕材を原料として成形されたガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生成型品において、前記粉砕材を加熱溶融させてペレット化する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加したことを特徴とするガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生成型品。
【請求項6】
ガラス繊維強化ポリプロピレン材の成型品を粉砕し、この粉砕材を原料として成形されたガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生成型品において、前記粉砕材を用いて射出成形する際にチオエーテル系酸化防止剤を添加したことを特徴とするガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生成型品。
【請求項7】
ガラス繊維強化ポリプロピレン材の成型品を粉砕し、この粉砕材を原料として成形されたガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生成型品において、前記粉砕材を用いて射出成形する際に、チオエーテル系酸化防止剤を添加したペレット材を混合したことを特徴とするガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生成型品。
【請求項8】
前記チオエーテル系酸化防止剤の添加量は0.1〜0.5wt%としたことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生成型品。
【請求項9】
前記粉砕材を加熱溶融させてペレット化する際にリン酸系酸化防止剤を0.2wt%以下添加することを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法。
【請求項10】
前記粉砕材を用いて射出成形する際にリン酸系酸化防止剤を0.2wt%以下添加することを特徴とする請求項2に記載のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生方法。
【請求項11】
前記粉砕材を加熱溶融させてペレット化する際にリン酸系酸化防止剤を0.2wt%以下添加したことを特徴とする請求項5に記載のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生成型品。
【請求項12】
前記粉砕材を用いて射出成形する際にリン酸系酸化防止剤を0.2wt%以下添加したことを特徴とする請求項6に記載のガラス繊維強化ポリプロピレン材の再生成型品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−173948(P2011−173948A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37201(P2010−37201)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】