説明

クランク室圧縮式内燃機関

【課題】車両の急制動時や急旋回時あるいは登坂,降坂時に油面が大きく傾斜しても空気を吸い込むことのないクランク室圧縮式内燃機関を提供する。
【解決手段】クランク室2aの外側で、かつシリンダヘッド4より下側に設けられた潤滑油貯留室38と、該潤滑油貯留室38と動弁装置15の被潤滑部とを連通する給油通路39と、該給油通路39に介在され、前記潤滑油貯留室38内の潤滑油を前記被潤滑部に供給する潤滑油ポンプ40とを備え、前記給油通路39のオイル吸込口39aは、最大傾斜状態にあるときの前記潤滑油貯留室38内の潤滑油の油面S′より下方に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク室圧縮式内燃機関に関し、詳細には、シリンダヘッド内に動弁装置を備えている場合の、該動弁装置の潤滑に関する。
【背景技術】
【0002】
クランク室圧縮式内燃機関として、ピストンの上昇,下降に伴って空気をクランク室内で一次圧縮しつつ掃気ポートを介して燃焼室内に供給するようにした2サイクル内燃機関や、クランク室をコンロッドで吸入室と加圧室とに区分けし、空気を加圧して燃焼室に過給するようにした4サイクル内燃機関がある。
【0003】
この種の内燃機関において、燃料あるいは空気供給用の弁や燃焼ガス排出用の弁と、これらの弁を開閉する駆動機構からなる動弁装置をシリンダヘッド内に備えている場合には、この動弁装置を潤滑するための動弁系潤滑装置を設ける必要がある。一方、この種のクランク室圧縮式内燃機関の場合、クランク室を加圧室として使用する構造上、クランク室の底部に潤滑油貯留室(オイルパン)を形成することができないため、クランク室の外側に潤滑油貯留室(オイルタンク)を設けることとなる(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−28351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の潤滑油貯留室をクランク室の外側に設けた内燃機関を車両に搭載した場合、その配置構造の如何によっては、車両の急制動時や急旋回時あるいは登坂,降坂時の油面の傾斜により、給油通路の吸込口から空気を吸入してしまう問題が懸念される。
【0005】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、車両の急制動時や急旋回時あるいは登坂,降坂時に油面が大きく傾斜しても空気を吸い込むことのないクランク室圧縮式内燃機関を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、燃焼室に開口するよう形成された弁開口を弁により開閉する動弁装置をシリンダヘッド内に備えたクランク室圧縮式内燃機関において、前記クランク室の外側で、かつ前記シリンダヘッドより下側に設けられた潤滑油貯留室と、該潤滑油貯留室と前記動弁装置の被潤滑部とを連通する給油通路と、該給油通路に介在され、前記潤滑油貯留室内の潤滑油を前記被潤滑部に供給する潤滑油ポンプとを備え、前記給油通路の吸込口は、最大傾斜状態にあるときの前記潤滑油貯留室内の潤滑油の油面より下方に位置していることを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のクランク室圧縮式内燃機関において、複数の気筒を備え、前記潤滑油貯留室は、シリンダブロックの隣接する気筒間部分に設けられていることを特徴としている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載のクランク室圧縮式内燃機関において、前記被潤滑部を潤滑した潤滑油を前記潤滑油貯留室に回収する潤滑油回収通路は、前記シリンダヘッドの隣接する気筒間部分に形成されていることを特徴としている。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1に記載のクランク室圧縮式内燃機関において、前記潤滑油貯留室は、シリンダブロックの側壁に形成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項5の発明は、請求項2ないし4の何れかに記載のクランク室圧縮式内燃機関において、前記被潤滑部を潤滑した潤滑油を前記潤滑油貯留室に回収する潤滑油回収通路は、シリンダヘッドのカム軸方向端部の側壁からシリンダブロックの側壁に沿うように形成されていることを特徴としている。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1に記載のクランク室圧縮式内燃機関において、前記潤滑油ポンプは、前記シリンダヘッド内で、かつカム軸と燃焼室との間に配置され、該カム軸により回転駆動されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係るクランク室圧縮式内燃機関によれば、潤滑油貯留室を、クランク室の外側で、かつシリンダヘッドより下側に設けるとともに、該潤滑油貯留室と動弁装置の被潤滑部とを連通する給油通路の吸込口を、最大傾斜状態にあるときの潤滑油貯留室内の潤滑油の油面より下方に位置させたので、車両の急制動時や急旋回時あるいは登坂,降坂時に油面が大きく傾斜しても吸込口が空気中に露出することはなく、従って空気を吸い込むことはない。
【0013】
請求項2の発明では、潤滑油貯留室をシリンダブロックの隣接する気筒間部分に設けたので、気筒間の空き空間を利用して潤滑油貯留室を形成できるとともに、潤滑油貯留室をシリンダヘッド内に設けられた被潤滑部に近接させることができる。
【0014】
請求項3の発明では、潤滑油回収通路を、前記シリンダヘッドの隣接する気筒間部分に形成したので、潤滑油回収通路が短くて済み、潤滑した後の潤滑油を速やかに潤滑油貯留室に回収して油面低下を素早く回復させることができ、この点からも空気の吸込みを防止できる。
【0015】
請求項4の発明では、潤滑油貯留室を、シリンダブロックの側壁に形成したので、該潤滑油貯留室の配設スペースの確保が容易である。
【0016】
請求項5の発明では、潤滑油回収通路を、シリンダヘッドのカム軸方向両端部に位置する側壁からシリンダブロックの側壁に沿うように形成したので、該内燃機関が左,右何れの方向に傾斜した場合や遠心力が作用した場合でも、潤滑した後の潤滑油を速やかに潤滑油貯留室に回収して油面低下を素早く回復させることができ、この点からも空気の吸込みを防止できる。
【0017】
請求項6の発明では、潤滑油ポンプを、前記シリンダヘッド内で、かつカム軸と燃焼室との間に配置したので、カム軸と燃焼室との間の空間を利用して潤滑油ポンプを配置でき、機関をコンパクトに構成できる。また、潤滑油ポンプを潤滑油貯留室に近づけて配置でき、より少ない動力で潤滑油を吸入,吐出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1ないし図7は、本発明の一実施形態によるクランク室圧縮式2サイクルガス燃料内燃機関を説明するための図である。
【0020】
図において、1はクランク室圧縮式2サイクル並列2気筒ガス燃料内燃機関であり、以下の概略構造を有する。上下分割式クランクケース2の上合面にシリンダブロック3が接続され、該シリンダブロック3の上合面にシリンダヘッド4が接続されており、さらに該シリンダヘッド4上にはヘッドカバー29が接続されている。
【0021】
前記クランクケース2の内部は2つの独立したクランク室2a,2aに画成されており、該クランクケース2内には各気筒共通のクランク軸5が収容配置されている。またシリンダブロック3に形成されたシリンダボア(気筒)3a,3a内にはピストン6,6が摺動自在に配置されており、該各ピストン6はピストンピン6b,コンロッド7を介して前記クランク軸5のクランクピン5aに連結されている。
【0022】
前記クランクケース2には、各クランク室2aに連通する各気筒独立の吸気通路2bが形成されている。該各吸気通路2bには、クランク室2a内に流入した空気の逆流を阻止するリード弁10が挿入配置されている。
【0023】
また前記各吸気通路2bには、スロットル弁11を内蔵するスロットルボディ12がジョイント部材12aを介して接続され、該スロットルボディ12の上流側には共通のエアクリーナ13が接続されている。
【0024】
前記シリンダブロック3には、排気ポート3bが、気筒軸線aを挟んで吸気通路2bの反対側に位置するように形成されている。図示してないが、前記排気ポート3bには、排気管が接続され、該排気管の下流端にはマフラが接続されている。
【0025】
前記シリンダブロック3には、前記ピストン6の下降によりクランク室2aで一次圧縮された空気を各シリンダボア3a内に導入する複数の掃気ポート3cが形成されている。この各掃気ポート3cのシリンダボア3a側開口3c′は、排気ポート3bの反対側部分を囲むように周方向に所定間隔をあけて配置されている。
【0026】
前記シリンダヘッド4の前記シリンダボア3aに対向する下合面部分には、燃焼凹部4aが形成されている。該燃焼凹部4aと、シリンダボア3aと、略上死点に位置するピストン6の頂面6aとで囲まれた空間が燃焼室8となっている。
【0027】
前記シリンダヘッド4には各気筒ごとに点火プラグ9が装着されており、該点火プラグ9の電極部9aは燃焼凹部4a内に位置している。この点火プラグ9は、クランク軸方向に見たとき、気筒軸線aより排気ポート3b側に位置し、かつ該点火プラグ9の軸線bが前記気筒軸線aに対して所定角度θで排気ポート側に傾斜するよう配置されている(図2参照)。
【0028】
前記ガス燃料内燃機関1は、前記燃焼室8にガス燃料を供給する燃料供給装置14と、該燃料供給装置14によるガス燃料の燃焼室への供給,遮断を実行する動弁装置15とを備えている。
【0029】
前記燃料供給装置14は、以下の概略構造を有する。各気筒当たり2つの燃焼室開口4b,4bが前記燃焼凹部4aに開口するように形成されている。該各開口4b,4bには燃料供給通路16,16が連通しており、該各燃料供給通路16,16の外側開口部にはガス燃料供給弁17,17が接続されている。また各燃料供給通路16には第1副連通路18を介して第1副蓄圧室19が連通している。また該第1副蓄圧室19には第2副連通路20を介して第2副蓄圧室21が連通している。なお、18aは、前記第1副連通路18の外部に開口する加工孔を閉塞するボールである。
【0030】
前記燃料供給通路16と第1副連通路18との接続部には、該第1副連通路18の燃料供給通路16への連通をオン・オフするスプール弁型の切換制御弁22が介設されている。また前記第2副連通路20には、該通路を開閉する開閉制御弁23が介設されている。
【0031】
また前記動弁装置15は以下の概略構造を有する。前記燃焼室開口4b,4bには、該開口を開閉するポペット弁24,24が配設されている。該各ポペット弁24は、棒状の弁軸24aと、該弁軸24aの下端に一体形成された円形かつ傘状の弁頭24bとを有する。この弁頭24bの裏面の周縁が前記燃焼室開口4bの周縁に当接し、又は離反することにより、燃焼室開口4bを閉じ、又は開く。
【0032】
前記各ポペット弁24はシリンダヘッド4に圧入されたをバルブガイド部材25により摺動自在に支持されている。なお、前記燃料供給通路16は、前記ポペット弁24の弁軸24a,弁頭24b及びバルブガイド部材25とで囲まれた空間である主蓄圧室26に連通している。
【0033】
前記弁軸24aの上端部にはリテーナ27が装着されており、該リテーナ27とシリンダヘッド4のばね受け座4cとの間には、ポペット弁24を常時閉方向に付勢するばね28が介在されている。
【0034】
前記シリンダヘッド4の上部には、カム収容部4dが、前記ポペット弁24の弁軸24aの上部を囲みつつ上方に延びるように形成されている。該カム収容部4dとこれに装着された前記ヘッドカバー29とで油密なカム室30が形成されている。前記ヘッドカバー29は、筒状のカバー本体29aとこれの上端開口を閉塞する蓋29bとで構成されている。前記カバー本体29aは、後述するカムキャップとしても機能している。
【0035】
前記カム室30内には、両気筒共通の1本のカム軸31がクランク軸5と平行に配置されている。このカム軸31は、気筒毎に2つのカムノーズ31aを有し、該カムノーズ31a,31aの両側にジャーナル部31bを有する。このジャーナル部31bは、シリンダヘッド4側に形成されたカムキャリア部4eと、該カムキャリア部4e上に着脱可能に装着されたカムキャップ部29cとで回転自在に軸支されている。なお、このカムキャップ部29cは前記ヘッドカバー29のカバー本体29aに形成されている。
【0036】
さらにまた前記カム軸31の一端部は前記カム室30から外方に突出しており、突出部31cにはカムプーリを取り付けるフランジ31dが形成されている。該カム軸31はフランジ部31dに固定されたカムプーリを介して前記クランク軸5により回転駆動される。
【0037】
前記カム軸31の下側には、前記ポペット弁24を軸方向に移動させるロッカアーム32が配設されている。該ロッカアーム32の先端部32aは前記ポペット弁24の弁軸24aの上端に装着されたパッド部材24cに摺接している。また、基部32bはラッシュアジャスタ33により支持されている。該ラッシュアジャスタ33は、前記ロッカアーム32の先端部32aとポペット弁24のパッド部材24cとの間に形成される弁隙間が常時零となるようロッカアーム32の基部32bを油圧により上方に付勢している。また前記ロッカアーム32にはカムローラ32cが回転自在に装着されており、該カムローラ32cは前記カム軸31のカムノーズ部31aに転接している。
【0038】
前記ガス燃料供給弁17から供給されたガス燃料は、燃料供給通路16から主蓄圧室26内に、さらに第1副連通路18を通って第1副蓄圧室19内に、さらに第2副連通路20を通って第2副蓄圧室21内に蓄えられる。このようにして蓄えられたガス燃料は、ポペット弁24が開くと燃焼室開口4bから燃焼室8内に噴射供給される。
【0039】
なお、前記ガス燃料供給弁17は、ポペット弁24が閉じている期間内にガス燃料を前記主蓄圧室26,あるいは第1,第2副蓄圧室19,21に供給する。また前記ポペット弁24は、排気ポート3bが全閉となる前に開き始め、全閉となった後に閉じる。具体的には、例えば排気ポート3bが全閉となるクランク角度位置の前後約35°、つまりポペット弁24はクランク角度で70°程度開くこととなる。
【0040】
また、前記各ポペット弁24の弁軸24aとバルブガイド部材25のガイド孔25aとの間に進入したガス燃料は、リークガス導入通路34を介して掃気ポート3cに導入される。このリークガス導入通路34の途中には、リード弁35が介設されており、該リード弁35は前記ポペット弁24側から掃気ポート3c側への流れのみを許容する。
【0041】
そして本実施形態内燃機関1は、前記クランク軸5に関する被潤滑部に2サイクルオイルを供給するクランク軸系潤滑装置36と、前記動弁装置15に関する被潤滑部に4サイクルオイルを供給する動弁系潤滑装置37とを備えている。
【0042】
前記クランク軸系潤滑装置36は、2サイクルオイルを貯留するオイルタンク36aと、該オイルタンク36aと前記吸気通路2bに接続されたジョイント部材12aのオイル供給口36cとを連通するオイル通路36dと、該オイル通路36での途中に介在されたオイルポンプ36bとを有する。
【0043】
オイルタンク36a内の2サイクルオイルは前記オイルポンプ36bによりオイル供給口36cに供給され、吸気通路2bに吸い込まれる空気に混合され、クランク室2a内でクランク軸5により撹拌されてミスト状になる。このミスト状の潤滑油によって、クランク軸5のジャーナル部5′,クランクピン5a,ピストンピン6a及びピストン6とシリンダボア3aとの摺動面等の潤滑が行われる。なお、潤滑後の潤滑油は、燃焼室内に導入され、燃料とともに燃焼し、排出される。
【0044】
前記動弁系潤滑装置37は、前記クランク室2aの外側で、かつ前記シリンダヘッド4より下側に設けられた潤滑油貯留室38と、該潤滑油貯留室38と前記動弁装置15の被潤滑部とを連通する給油通路39と、該給油通路39に介在され、前記潤滑油貯留室38内の潤滑油を前記被潤滑部に供給する潤滑油ポンプ40と、潤滑後の潤滑油を潤滑油貯留室38に回収する潤滑油回収通路43とを備えており、以下の構造を有する。
【0045】
前記潤滑油貯留室38は、シリンダブロック3の、左,右のシリンダボア3a,3a間部分に形成されており、縦長の大略長方形箱状をなしている。この潤滑油貯留室38は、前記気筒軸線a,aと直交する平面で断面して上方から見ると、図6に示すように、シリンダブロック3の、吸気側壁3dから排気側壁3eの略全体に渡る前後方向寸法を有する。またシリンダボア3aの外壁部に形成された円弧状の水冷ジャケット3fで挟まれた部分38cは少し絞り込まれている。また、前記潤滑油貯留室38は、クランク軸と直交し、かつ気筒軸線aと平行な平面で断面してクランク軸方向に見ると、図5に示すように、シリンダブロック3の高さ寸法Hの1/2より大きい高さ寸法hを有する。
【0046】
そして前記潤滑油貯留室38の底壁部38′の吸気側端部には、吸込室38aが形成されている。この吸込室38aはシリンダブロック3の吸気側壁3dより外方に少し突出するように形成され、該吸込室38aの底部にはドレンキャップ38bが着脱可能に螺挿されている。また前記潤滑油貯留室38には、オイルレベルゲージ42が挿入されている。このオイルレベルゲージ42の把持部42aはシリンダヘッド4の上壁から上方に突出するように配置されている。
【0047】
前記給油通路39は、前記潤滑油貯留室38の吸込室38a内に配置されたオイル吸込口39aと、該オイル吸込口39aと前記潤滑油ポンプ40の吸入口40aとを連通する吸込通路39b,39cと、該潤滑油ポンプ40の吐出口40bとメインオイルホール39fとを連通する吐出通路39d,39eとを有する。なお、39gはオイルストレーナである。
【0048】
前記オイル吸込み口39aは前記吸込通路39bの下端部に圧入され、前記吸込室38aの底面に向かって突出している。ここで、前記潤滑油貯留室38内の潤滑油の油面Sは、当該内燃機関1の停止状態では、潤滑油貯留室38の上端付近に位置している。一方、急制動時や急旋回時あるいは登坂時や降坂時には、最大傾斜状態油面S′となる。運転状況により前記吸込室38a側が低くなるよう傾斜する場合があるが、この場合でも前記オイル吸込み口39aは、前記油面S′より下方に位置している。
【0049】
また、前記吸込み通路39b,39cは、シリンダブロック3,シリンダヘッド4の吸気側壁寄り部分を立ち上がるように形成されている。
【0050】
さらにまた、前記吐出通路39dと39eとの間にはオイルフィルタ41が配設されている。このオイルフィルタ41は、シリンダヘッド4に一体形成されたケース本体部41a内にフィルタエレメント41bを配置し、該ケース本体部41aの開口に蓋41cを着脱可能に装着した構成となっている。前記吐出通路39d はケース本体部41aの底部に連通し、前記吐出通路39eは前記蓋41cに形成されたオイル出口41dに連通している。
【0051】
そして前記吐出通路39eはメインオイルホール39fに連通している。このメインオイルホール39fは、シリンダヘッド4のカム軸収容部4dの底壁部にカム軸31と平行に延びるように形成され、前記ラッシュアジャスタ33の保持孔33aの一部を横切るように配置されている。そのため潤滑油がメインオイルホール39fを介してラッシュアジャスタ33に供給される。この供給された潤滑油は、該ラッシュアジャスタ33を上方に付勢することとなるが、その一部は前記ロッカアーム32の基部32bに形成されたオイルジェット32dから、前記カムローラ32とカムノーズ31aとの転接部(被潤滑部)に向けて噴出する。
【0052】
さらにまた前記メインオイルホール39fの一端部は分岐ホール39gを介して、前記カム軸31の軸芯に形成されたカム軸オイルホール31eに連通している。このカム軸オイルホール31eは、前記カムジャーナル部31bに径方向に貫通するよう形成された連通孔31fを介してカムジャーナル部31bの摺動面(被潤滑部)に連通している。
【0053】
前記潤滑油ポンプ40は、前記カム軸31と燃焼室8との間、つまり該カム軸31の下側に位置している。この潤滑油ポンプ40の、ブロック状のポンプケース40cは、前記カム軸収容部4dの底壁部4fにボルト40dで締め付け固定されている。またポンプ軸40eの前記ポンプケース40cから突出する部分に入力ギヤ40fが固定されており、該入力ギヤ40fは、前記カム軸31に形成されポンプ駆動ギヤ31fに噛合している。
【0054】
そして前記潤滑油回収通路43は、縦孔43a,43a、横孔43b,43b及び合流孔43cを介して前記潤滑油貯留室38に連通するよう構成されている。前記縦孔43a,43aは、前記シリンダヘッド4の、カム軸収容部4dの底壁4fのカム軸方向両端部に気筒軸方向に延びるように形成されている。前記横孔43b,43bは、前記縦孔43aに続いて、シリンダブロック3のカム軸方向両端側壁部に気筒軸直角方向に延びるように形成されている。前記合流孔43は、前記横孔43b,43bに続いて、シリンダブロック3の吸気側壁部3dにカム軸と平行に延びるように形成されている。
【0055】
さらにまた、前記カム軸収容部4dの底壁4fの、前記潤滑油ポンプ40下方部分には、センタ孔43dが下方に延びるように形成されており、該センタ孔43dの下端部は前記潤滑油貯留室38の天井面に開口している。
【0056】
本実施形態に係る内燃機関1では、潤滑油貯留室38を、クランク室2aの外側で、かつシリンダヘッド4より下側に設けるとともに、該潤滑油貯留室38と動弁装置15の被潤滑部とを連通する給油通路39のオイル吸込口39aを、最大傾斜状態にあるときの潤滑油貯留室内の潤滑油の油面S′より下方に位置させたので、車両の急制動時や急旋回時あるいは登坂,降坂時に油面がS′で示すように大きく傾斜しても、該オイル吸込口39aが空中に露出することはなく、従って空気を吸い込むことはない。
【0057】
また、潤滑油貯留室38をシリンダブロック3の隣接するシリンダボア3a,3a間部分に設けたので、気筒間の空き空間を利用して潤滑油貯留室38を形成できるとともに、水冷ジャケット3fで潤滑油貯留室38を冷却でき、潤滑油の異常昇温を回避できる。
【0058】
また被潤滑部と潤滑油貯留室38とを近接させることができ、従って潤滑油回収通路43の一部を構成するセンタ孔43dを短縮できる。その結果、潤滑した後の潤滑油を速やかに潤滑油貯留室38に回収して油面Sの低下を素早く回復させることができ、この点からも空気の吸込みを防止できる。
【0059】
さらにまた、潤滑油回収通路43を、カム軸収容部4dの底壁4fのカム軸方向両端部から下方に延びるように形成したので、該内燃機関1が左,右何れの方向に傾斜した場合や遠心力が作用した場合でも、潤滑した後の潤滑油を速やかに潤滑油貯留室38に回収して油面Sの低下を素早く回復させることができ、この点からも空気の吸込みを防止できる。
【0060】
また潤滑油回収通路43をシリンダヘッド4,シリンダブロック4の側壁に沿うように形成したので、潤滑油回収通路43の配置スペースの確保が容易である。
【0061】
また、潤滑油ポンプ40を、シリンダヘッド4のカム室30内で、かつカム軸31と燃焼室8との間に配置したので、カム軸31と燃焼室8との間の空間を利用して潤滑油ポンプ40を配置でき、機関をコンパクトに構成できる。また、潤滑油ポンプ40を潤滑油貯留室38に近づけて配置でき、より少ない動力で潤滑油を吸入,吐出することができる。
【0062】
なお、前記実施形態では、潤滑油回収通路43を、シリンダヘッド4,シリンダブロック3の側壁に沿うように形成するとともに、カム軸収容部4dの底壁4fの気筒間部分にセンタ孔43dを潤滑油貯留室38に直接連通するように形成したが、本発明では、潤滑油回収通路を、シリンダヘッド、シリンダブロックの側壁か、中央部かの何れか一方のみで構成してもよい。
【0063】
また、前記実施形態では、潤滑油貯留室38をシリンダボア3a,3a間に形成したが、本発明では、潤滑油貯留室を、シリンダブロックの側壁に形成することもでき、このようにした場合は、該潤滑油貯留室の配設スペースの確保が容易である。
【0064】
なお、前記実施形態では、クランク室圧縮式2サイクル内燃機関の場合を説明したが、本発明はクランク室内で空気を加圧するようにした過給式の4サイクル内燃機関にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態によるガス燃料内燃機関の断面側面図である。
【図2】前記内燃機関の要部の断面図(図3のII-II線断面図)である。
【図3】前記内燃機関の吸気側から見た一部断面側面図である。
【図4】前記内燃機関のヘッドカバーを外した状態での平面図である。
【図5】前記内燃機関の動弁系潤滑装置の断面正面図(図3のV-V線断面図)である。
【図6】前記内燃機関の潤滑油回収通路の断面平面図(図3のVI-VI線断面図) である。
【図7】前記内燃機関の潤滑装置の系統図である。
【符号の説明】
【0066】
1 内燃機関
2a クランク室
3 シリンダブロック
3a シリンダボア(気筒)
4 シリンダヘッド
4b 弁開口
8 燃焼室
15 動弁装置
24 ポペット弁
31 カム軸
38 潤滑油貯留室
39 給油通路
39a オイルストレーナ(吸込口)
40 潤滑油ポンプ
43 潤滑油回収通路
S′最大傾斜状態にあるときの油面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に開口するよう形成された弁開口を弁により開閉する動弁装置をシリンダヘッド内に備えたクランク室圧縮式内燃機関において、
前記クランク室の外側で、かつ前記シリンダヘッドより下側に設けられた潤滑油貯留室と、
該潤滑油貯留室と前記動弁装置の被潤滑部とを連通する給油通路と、
該給油通路に介在され、前記潤滑油貯留室内の潤滑油を前記被潤滑部に供給する潤滑油ポンプとを備え、
前記給油通路の吸込口は、最大傾斜状態にあるときの前記潤滑油貯留室内の潤滑油の油面より下方に位置していることを特徴とするクランク室圧縮式内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載のクランク室圧縮式内燃機関において、
複数の気筒を備え、
前記潤滑油貯留室は、シリンダブロックの隣接する気筒間部分に設けられていることを特徴とするクランク室圧縮式内燃機関。
【請求項3】
請求項2に記載のクランク室圧縮式内燃機関において、
前記被潤滑部を潤滑した潤滑油を前記潤滑油貯留室に回収する潤滑油回収通路は、前記シリンダヘッドの隣接する気筒間部分に形成されていることを特徴とするクランク室圧縮式内燃機関。
【請求項4】
請求項1に記載のクランク室圧縮式内燃機関において、
前記潤滑油貯留室は、シリンダブロックの側壁に形成されていることを特徴とするクランク室圧縮式内燃機関。
【請求項5】
請求項2ないし4の何れかに記載のクランク室圧縮式内燃機関において、
前記被潤滑部を潤滑した潤滑油を前記潤滑油貯留室に回収する潤滑油回収通路は、シリンダヘッドのカム軸方向端部の側壁からシリンダブロックの側壁に沿うように形成されていることを特徴とするクランク室圧縮式内燃機関。
【請求項6】
請求項1に記載のクランク室圧縮式内燃機関において、
前記潤滑油ポンプは、前記シリンダヘッド内で、かつカム軸と燃焼室との間に配置され、該カム軸により回転駆動されることを特徴とするクランク室圧縮式内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−162079(P2009−162079A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340585(P2007−340585)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】