説明

サスペンション装置

【課題】ばね定数変更装置を備えたサスペンション装置において、ばね定数変更装置の異常に起因する不具合を抑制する。
【解決手段】車両が制動状態にある場合には、左右前輪のばね定数が大きくされ(S1,2)、ステアリングホイールの操舵角の絶対値が設定値以下である場合には、前輪側の左右連通弁が連通状態とされる(S3,4)。直進操舵状態にあり、かつ、制動状態にある場合に、左右前輪のばね定数が大きくされるとともに、左右の懸架シリンダが連通させられる。仮に、左右前輪のばね定数切換弁のいずれか一方が開固着異常であり、左右でばね定数が異なる大きさとなっても、それに起因する車高差を小さくすることができ、車両が偏向させられることを回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前後左右の各輪に対応して設けられた4つの流体シリンダの各々に関し、各流体シリンダに互いに並列に接続された複数のアキュムレータからなるアキュムレータ群に属する複数のアキュムレータのうちその流体シリンダと連通状態にあるものを変更することにより、そのアキュムレータ群のばね定数を変更するばね定数変更装置を備えたサスペンション装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上述のばね定数変更装置を備えたサスペンション装置の一例が記載されている。このサスペンション装置においては、車両が制動状態あるいは駆動状態にあり、かつ、悪路走行中でない場合に、ばね定数が大きくされる。
【特許文献1】特開平6−127249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、ばね定数変更装置を備えたサスペンション装置において、ばね定数変更装置が異常である場合の不具合を軽減することである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0004】
請求項1に記載のサスペンション装置は、(a)車両の前後左右の各輪に対応して、各々、車輪を保持する車輪保持装置と車体との間に設けられた4つの流体シリンダと、(b)前記車両の走行状態を検出する走行状態検出装置と、(c)前記車両の操舵部材の操作状態を検出する操舵状態検出装置と、(d)前記4つの流体シリンダの各々に関し、各流体シリンダに互いに並列に接続された複数のアキュムレータからなるアキュムレータ群に属する複数のアキュムレータのうちその流体シリンダと連通状態にあるものを変更することにより、そのアキュムレータ群のばね定数を変更するばね定数変更装置と、(e)前記車両の前輪側と後輪側との各々において、左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとを連通させる状態と遮断する状態とに切り換える左右連通装置とを含み、前記ばね定数変更装置が、前記走行状態検出装置によって、前記車両が制動状態あるいは駆動状態にあることが検出された場合に、少なくとも、前記車両の前輪側と後輪側とのうちのその車両の走行状態に起因して荷重が増加する側に属する左側輪、右側輪の流体シリンダの各々に接続されたアキュムレータ群のばね定数をそれぞれ大きくするばね定数増加部を含むとともに、前記左右連通装置が、前記走行状態検出装置によって、前記車両が制動状態あるいは駆動状態であることが検出され、かつ、前記操舵状態検出装置によって、前記操舵部材が直進走行を表す操舵状態であることが検出された場合に、前記ばね定数変更装置によってばね定数が大きくされた前輪側と後輪側との少なくとも一方の側の左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとを連通させる直進制動・駆動時左右連通部を含むものとされる。
【0005】
車両の制動状態においては、後輪の荷重が減少し、前輪の荷重が増加する。そのため、前輪側において車輪のばね定数を大きくすれば、制動に起因する姿勢変化を抑制することができる。制動状態にある場合に、前輪側、後輪側の両方において、車輪のばね定数を大きくすれば、より効果的に姿勢変化を抑制することが可能となる。
車両の駆動状態においては、前輪の荷重が減少し、後輪の荷重が増加する。そのため、後輪側において車輪のばね定数を大きくすれば、駆動に起因する姿勢変化を抑制することができる。後輪側、前輪側の両方において、車輪のばね定数を大きくすれば、姿勢変化の抑制効果は大きくなる。
また、操舵部材の操作状態が直進走行を表す操舵状態(以下、直進操舵状態と略称する)である場合には、車両は直進し、左側輪と右側輪との流体シリンダの液圧は、荷重が同じ場合等には、同じ高さになるはずである。この場合に、左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとを連通させても、左右の流体シリンダの間で作動液が流れることはなく、左側輪、右側輪の各々において、ばね定数が大きい状態は維持される。
一方、ばね定数変更装置の左側輪のばね定数を変更する部分と、右側輪のばね定数を変更する部分とのいずれか一方が異常である場合には、左側輪と右側輪とのいずれか一方のばね定数が大きくされて、他方のばね定数が大きくされない場合(小さいままの場合)がある。その結果、右側輪のばね定数と左側輪のばね定数とが異なり、左側輪の車高と右側輪の車高とが異なる。また、左側輪と右側輪とで、車高の変化量、変化速度等も異なる。
サスペンション装置において、車体に対する車輪の相対位置の変化(車高の変化)に伴ってサスペンションアーム、タイロッドが移動させられるが、車高の変化に伴うサスペンションアームとタイロッドとの相対位置関係の変化により、車輪のトー角が変化する。このことをロールステアと称するが、通常のサスペンション装置においては、車輪は、車輪保持装置と車体との間の距離が小さい場合はトーアウト側に傾き、距離が大きい場合はトーイン側に傾く。左側輪と右側輪とにおいて、車高が同じである場合には、トー角も同じになるため、直進操舵状態である場合には車両は直進する。それに対して、左側輪と右側輪とで車高が異なると、左側輪と右側輪とでトー角が異なり、直進操舵状態にあっても、車両が偏向するのである。そこで、左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとを連通させれば、左右のばね定数が同じとなり、これらの液圧が同じとなる。その結果、車高差が小さくなり、車両の偏向を抑制することができる。
左側輪と右側輪とでは、原則として、ばね定数は同じであるが、ばね定数変更装置によってばね定数が大きくなるようにされる場合において、異常である場合には、左側輪と右側輪とのいずれか一方においてばね定数が大きくならない場合がある。ばね定数変更装置が異常である場合には、左右輪において、ばね定数の差が生じ、車高差が生じる。そこで、本項に記載のサスペンション装置においては、前輪側と後輪側とのうち、ばね定数変更装置によってばね定数が大きくなるようにされた側において、左右の流体シリンダが連通させられるのである。
以上のことから、制動状態、かつ、直進操舵状態において、前輪側において、左側輪および右側輪についてのばね定数が大きくされるとともに、前輪側の左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとが連通させられる場合や、前輪側と後輪側との両方における左側輪および右側輪について(すなわち、前後左右のすべての車輪について)のばね定数が大きくされるとともに、前輪側、後輪側の両方において、それぞれ、左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとが連通させられる場合がある。駆動状態にある場合にも同様に、後輪側において、左右輪のばね定数が大きくされるとともに左右の流体シリンダが連通させられる場合と、後輪側と前輪側との両方のすべての車輪のばね定数が大きくされるとともに、後輪側、前輪側の各々において、左右輪の流体シリンダが連通させられる場合とがある。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組を、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
(1)車両の前後左右の各輪に対応して、各々、車輪を保持する車輪保持装置と車体との間に設けられた4つの流体シリンダと、
前記車両の走行状態を検出する走行状態検出装置と、
前記車両の操舵部材の操作状態を検出する操舵状態検出装置と、
前記4つの流体シリンダの各々に関し、各流体シリンダに互いに並列に接続された複数のアキュムレータからなるアキュムレータ群に属する複数のアキュムレータのうちその流体シリンダと連通状態にあるものを変更することにより、そのアキュムレータ群のばね定数を変更するばね定数変更装置と、
前記車両の前輪側と後輪側との各々において、左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとを連通させる状態と遮断する状態とに切り換える左右連通装置と
を含み、
前記ばね定数変更装置が、前記走行状態検出装置によって、前記車両が制動状態あるいは駆動状態にあることが検出された場合に、少なくとも、前記車両の前輪側と後輪側とのうちのその車両の走行状態に起因して荷重が増加する側に属する左側輪、右側輪の流体シリンダの各々に接続されたアキュムレータ群のばね定数をそれぞれ大きくするばね定数増加部を含むとともに、前記左右連通装置が、前記走行状態検出装置によって、前記車両が制動状態あるいは駆動状態であることが検出され、かつ、前記操舵状態検出装置によって、前記操舵部材が直進走行を表す操舵状態であることが検出された場合に、前記ばね定数変更装置によってばね定数が大きくされた前輪側と後輪側との少なくとも一方の側の左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとを連通させる直進制動・駆動時左右連通部を含むことを特徴とするサスペンション装置(請求項1)。
走行状態検出装置は、車両が制動状態にあるか否か、駆動状態にあるか否かを検出する制動・駆動状態検出部を含むものとすることが望ましい。走行状態検出装置は、前後加速度センサを含むものとしたり、ブレーキスイッチとアクセルスイッチとの少なくとも一方を含むものとしたりすることができる。走行状態検出装置は、ピッチ姿勢を検出するピッチ姿勢検出部を含むものとすることもでき、その場合には、車体の前後方向の傾斜角度を検出するものとしたり、前輪側の車高と後輪側の車高との差を検出するものとしたりすることができる。
操舵状態検出装置は、操舵部材の操作状態を検出するものであり、例えば、操舵部材としてのステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角検出部を含むものとすることができる。操舵角の絶対値が設定値以下である場合(直進操舵状態)には、直進走行を表す操舵状態であると考えることができる。
(2)当該サスペンション装置が、前記ばね定数変更装置の異常を検出する異常検出装置を含む(1)項に記載のサスペンション装置。
(3)前記直進制動・駆動時左右連通部が、前記異常検出装置によってばね定数変更装置の異常が検出された場合に、少なくとも、前記ばね定数増加部によってばね定数を増大不能なアキュムレータ群が接続された車輪の流体シリンダと、その車輪と左右反対側の車輪の流体シリンダとを連通させる異常時左右連通部を含む(2)項に記載のサスペンション装置(請求項2)。
本項に記載のサスペンション装置において、異常検出装置によって、ばね定数変更装置のうちの異常部分が、前後左右のいずれの位置の車輪のばね定数を変更する部分であるかが特定される場合には、少なくとも、その特定された異常部分が接続された車輪の流体シリンダとその車輪と左右反対側の車輪の流体シリンダとが連通させられる。また、異常検出装置によって、異常部分の位置が特定されなくても、左右前輪のいずれか一方のばね定数を変更する部分であるか左右後輪のいずれか一方のばね定数を変更する部分であるかが区別して検出される場合には、少なくとも、その異常部分が検出された側において、左右輪の流体シリンダが連通させられる。
それに対して、異常検出装置によって、異常は検出されるが異常部分が特定されない場合において、前輪側と後輪側とのいずれか一方の側において、左右輪のばね定数が大きくなるようにされた場合(ばね定数変更装置が正常である場合には、ばね定数が実際に大きくされるが、異常である場合には、ばね定数は小さいままである)には、少なくとも、その一方の側において、左右輪の流体シリンダが連通させられる。ばね定数変更装置によりばね定数が大きくなるようにされたにも係わらず、ばね定数が大きくされないことに起因して車両が偏向するからである。また、前輪側と後輪側とのすべての車輪のばね定数が大きくされた場合に、異常部分が特定されることなく異常が検出された場合には、前輪側と後輪側との両方において、左右輪の流体シリンダが連通させられるようにすることができる。
このように、本項に記載の異常時左右連通部は、異常検出装置によって、ばね定数変更装置の異常が検出された場合において、その異常部分の位置が特定された場合には、少なくとも、その異常部分が接続された車輪の流体シリンダを左右反対側の車輪の流体シリンダと連通させるが、異常部分の位置が特定されなくても、その場合のばね定数変更装置の状況に応じて決まる側の左右の流体シリンダを連通させるものである。
(4)前記ばね定数変更装置が、(a)前記前後左右の各車輪に対応して設けられた流体シリンダの各々に関し、各流体シリンダと、前記複数のアキュムレータのうちの1つ以上との間にそれぞれ設けられたアキュムレータ連通制御弁と、(b)それらアキュムレータ連通制御弁を、ソレノイドへの供給電流の制御により、少なくとも、開状態と閉状態とに切り換えることにより、前記流体シリンダと連通状態にあるアキュムレータを変更してばね定数を変更する電流制御部とを含む(1)ないし(3)項のいずれか1つに記載のサスペンション装置。
本項に記載のサスペンション装置において、1つの流体シリンダについて、閉状態にあるアキュムレータ連通制御弁の数が多い場合は少ない場合よりばね定数が大きくなる。この場合において、アキュムレータ連通制御弁のうちの1つ以上が閉状態となるようにされたにも係わらず、開状態のままである場合には、その車輪についてのばね定数は大きくされないことになる。
例えば、1つの流体シリンダに2つのアキュムレータが接続され、そのうちの1つのアキュムレータと流体シリンダとの間にアキュムレータ連通制御弁が設けられる場合において、アキュムレータ連通制御弁の開状態においては、流体シリンダに2つのアキュムレータが接続されるため、ばね定数は小さい状態とされ、アキュムレータ連通制御弁の閉状態においては流体シリンダに接続されるアキュムレータが1つとなるためばね定数が大きい状態となる。この場合において、アキュムレータ連通制御弁が開状態から閉状態に切り換わるようにソレノイドへの供給電流が制御されたにもかかわらず、アキュムレータ連通制御弁が閉状態に切り換わらない場合、アキュムレータ連通制御弁を閉状態に切り換える指令が出力されたにもかかわらず、それに応じてソレノイドへの供給電流が制御されない場合等には、その車輪についてのばね定数は小さいままとなる。これらを合わせて広義に開固着異常と称することができるが、本明細書において、ばね定数変更装置の異常は、ばね定数を大きくなるようにしたにも係わらず、ばね定数が大きくならないこと(ばね定数増大不能異常と称することができる)であり、本項に記載のサスペンション装置においては、広義の開固着異常(閉不能異常と換言することもできる)である。
(5)前記ばね定数変更装置が、(a)前記前後左右の各車輪に対応して設けられた流体シリンダの各々に関し、各流体シリンダと、互いにばね定数が異なる複数のアキュムレータとの間にそれぞれ設けられたアキュムレータ連通制御弁と、(b)それらアキュムレータ連通制御弁を、ソレノイドへの供給電流の制御により、少なくとも、開状態と閉状態とに切り換えることにより、前記流体シリンダと連通状態にあるアキュムレータを変更してばね定数を変更する電流制御部とを含む(1)ないし(4)項のいずれか1つに記載のサスペンション装置。
流体シリンダにばね定数が互いに異なる(容量が異なる)複数のアキュムレータが接続される場合において、流体シリンダに連通させられるアキュムレータを変更すればばね定数が変更される。この場合において、1つ以上のアキュムレータ連通制御弁の制御により、流体シリンダに連通させられるアキュムレータが変更され、ばね定数が変更される。本項に記載のサスペンション装置においては、アキュムレータ連通制御弁が指令通りに切り替わらない異常が該当する。
(6)前記異常検出装置が、(a)前記前後左右の各輪毎に対応してそれぞれ設けられ、前記車輪と前記車体のそれに対応する部分との相対位置である車高を、それぞれ検出する車高センサと、(b)前記操舵状態検出装置によって、前記操舵部材が直進走行を表す操舵状態であることが検出され、かつ、前記ばね定数増大部によってばね定数が大きくなるようにされた前記前輪側と前記後輪側との少なくとも一方の側に属する左側輪に対応して前記車高センサによって検出された車高と右側輪に対応して前記車高センサによって検出された車高との差の絶対値が設定値以上である場合に、前記ばね定数変更装置のうちのそれら左側輪と右側輪とのいずれか一方についてのばね定数を大きくするのに関連する部分が異常であると検出する左右差依拠異常検出部とを含む(2)ないし(5)項のいずれか1つに記載のサスペンション装置(請求項3)。
直進操舵状態にある場合において、左側輪、右側輪の車高の差の絶対値が大きい場合は、ばね定数が左右で異なることに起因して起きたと考えることができ、ばね定数変更装置の、左側輪と右側輪とのいずれか一方についてのばね定数を大きくするのに関連する部分が異常であるとすることができる。その部分には、例えば、(4)項、(5)項に記載のサスペンション装置においては、その車輪の流体シリンダに対応して設けられたアキュムレータ連通制御弁が該当すると考えたり、アキュムレータ連通制御弁および電流制御部のうちのそれらアキュムレータ連通制御弁のソレノイドへの供給電流を制御する部分等が該当すると考えたりすることができる。
なお、左右輪について、車高の変化量、変化速度も異なるため、車高の変化量、変化速度に基づいてばね定数変更装置の異常を検出することもできる。
(7)前記走行状態検出装置が、前記車両の旋回状態を検出する旋回状態検出部を含み、前記異常検出装置が、前記操舵状態検出装置によって、前記操舵部材が直進走行を表す操舵状態にあることが検出され、かつ、前記走行状態検出装置によって、車両が旋回状態にあると検出された場合に、前記ばね定数変更装置が異常であるとする旋回時異常検出部を含む(2)ないし(6)項のいずれか1つに記載のサスペンション装置(請求項4)。
直進操舵状態にある場合には、車両は直進するはずである。それに対して、車両が旋回するのは、サスペンション装置のロールステアに起因し、左右輪の間で車高が異なると考えられる。そこで、直進操舵状態にあり、かつ、車両が偏向する場合には、ばね定数変更装置が異常であるとすることができる。
この場合において、ばね定数変更装置によって、前輪側と後輪側とのいずれか一方の側の左右輪のばね定数が大きくなるようにされた場合には、ばね定数変更装置の、そのいずれか一方の側の左右輪のばね定数を大きくするのに関連する部分が異常であるとすることができる。それに対して、前輪側と後輪側との両方において、左右輪のばね定数が大きくなるようにされた場合(すなわち、すべての車輪のばね定数が大きくなるようにされた場合)には、前輪側と後輪側とのいずれの側のばね定数を大きくする部分に異常が生じたのか特定することはできない。
そこで、ばね定数変更装置によって、前輪側と後輪側とのいずれか一方の側の左右輪のばね定数が大きくなるようにされた場合に旋回時異常検出部によって異常が検出された場合には、その側の左右輪のいずれか一方のばね定数を大きくするのに関する部分に異常があると考えることができ、少なくとも、そのいずれか一方の側の左右の流体シリンダが連通させられるが、ばね定数変更装置によって、すべての車輪についてのばね定数が大きくされた場合に、旋回時異常検出部によって異常が検出された場合には、前輪側、後輪側の両方において、左右の流体シリンダが連通させられるようにすることもできる。
なお、旋回時異常検出部と、左右速度差異常検出部との両方によれば、後者の場合においても、ばね定数変更装置の異常部分が前輪側のばね定数を変更するのに関連する部分であるか後輪側のばね定数を変更するのに関連する部分であるかを特定することが可能となる。
(8)当該サスペンション装置が、前記4つの流体シリンダに接続され、それら4つの流体シリンダ各々の液圧の関係により作動するセンタシリンダを含む(1)ないし(7)項のいずれか1つに記載のサスペンション装置。
(9)前記左右連通装置が、(a)前記前輪側と前記後輪側との各々の側において、左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとを、前記センタシリンダをバイパスしてそれぞれ接続する液通路と、(b)それら液通路の各々に設けられ、ソレノイドへの供給電流の制御により、閉状態と開状態とに切り換え可能な左右連通弁と、(c)前記操舵状態検出装置によって、前記操舵部材が直進走行を表す操舵状態であることが検出され、かつ、前記走行状態検出装置によって、車両が制動状態あるいは駆動状態にあると検出された場合に、前記ばね定数増大部によってばね定数が大きくされた前輪側と後輪側との少なくとも一方の側に設けられた左右連通弁のソレノイドへの供給電流を制御することにより、前記連通制御弁を閉状態から開状態に切り換える電流制御部とを含む(8)項に記載のサスペンション装置(請求項5)。
左右連通弁の閉状態においては、センタシリンダは、各流体シリンダの液圧により作動させられる。左右連通弁の開状態においては、左右の流体シリンダはセンタシリンダをバイパスして連通させられるため、センタシリンダは、左右連通弁によって互いに連通させられる流体シリンダの液圧により作動させられることはない。このように、左右連通弁の開閉制御により、センタシリンダが左右の流体シリンダの液圧により作動させられる状態(以下、有効な状態と称する)とされたり、液圧によって作動させられない状態(以下、無効な状態と称する)とされたりする。
センタシリンダの作動が有効な状態において、前輪側と後輪側とのいずれか一方の側の、左側輪と右側輪とのばね定数の差に起因して、左右の流体シリンダにおいて液圧差が生じるが、これらの差は、センタシリンダの作動によって小さくされる。しかし、このセンタシリンダの作動による影響は、前輪側と後輪側との他方の側の流体シリンダに及び、他方の側において車高が変化するおそれがある。それに対して、ばね定数の差が生じた場合に、左右連通弁が開状態とされれば、センタシリンダが無効な状態とされることとなり、他方の側へ影響が及ぶことを回避することができる。
(10)車両の前後左右の各輪に対応して、各々、車輪を保持する車輪保持装置と車体との間に設けられた4つの流体シリンダと、
前記4つの流体シリンダの各々に関し、各流体シリンダに互いに並列に接続された複数のアキュムレータからなるアキュムレータ群に属する複数のアキュムレータのうちその流体シリンダと連通状態にあるものを変更することにより、そのアキュムレータ群のばね定数を変更するばね定数変更装置と、
前記ばね定数変更装置の異常を検出する異常検出装置と、
その異常検出装置によって前記ばね定数変更装置の異常が検出された場合に、前記車両の前輪側と後輪側との少なくとも一方において、左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとを連通させる左右連通装置と
を含むサスペンション装置。
ばね定数が前輪側と後輪側とのいずれか一方の側において大きくされた場合において、ばね定数変更装置の異常が検出された場合に、少なくとも、その一方の側の左右の流体シリンダが連通させられる。
ばね定数が前輪側と後輪側との両方の側において大きくされた場合において、ばね定数変更装置の異常が検出されるとともに、その異常部分が特定された場合には、その異常部分に関連する側において左右の流体シリンダが連通させられる場合、その異常部分に関連する側と反対側との両方の側において左右の流体シリンダが連通させられる場合がある。
本項に記載のサスペンション装置には、(1)ないし(9)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
【実施例】
【0008】
本発明の一実施例であるサスペンション装置を、以下、図を参照しつつ説明する。
本サスペンション装置において、図1に示すように、前後左右輪4FL、FR、RL、RRを保持する車輪保持装置6FL、FR、RL、RRと車体8との間に、それぞれ、流体シリンダとしての懸架シリンダ10FL、FR、RL、RRが、図示しないサスペンションスプリングとともに設けられる。懸架シリンダ10FL、FR、RL、RRは流体としての作動液により作動させられる。以下、懸架シリンダ10等を区別する必要がある場合に、車輪位置を表す符号FL、FR、RL、RRを付して使用し、区別する必要がない場合に符号を付さないで使用する。
懸架シリンダ10FL、FR、RL、RRは、互いに構造が同じものであり、それぞれ、ハウジング11と、ハウジング11の内部を相対移動可能に嵌合されたピストン12と、ピストンロッド14とを含み、ピストンロッド14が車輪保持装置6に、ハウジング11が車体8に、それぞれ上下方向に相対移動不能に連結される。ピストン12には、そのピストン12により仕切られた2つの液室16,18を連通させる連通路20が設けられ、連通路20には絞りが設けられる。絞りにより、ピストン12のハウジング11に対する相対移動速度(絞りを流れる作動液の流速)に応じた減衰力が発生させられる。懸架シリンダ10はショックアブソーバとして機能する。
なお、ハウジング11が車輪保持装置6に連結され、ピストンロッド14が車体に連結されるようにすることもできる。
【0009】
懸架シリンダ10FL、FR、RL、RRの液室16には、それぞれ、個別通路22FL、FR、RL、RRが接続される。
個別通路22FL、FR、RL、RRの各々には、懸架シリンダ10FL、FR、RL、RRの各々に対応して、互いに並列にアキュムレータ24FL、FR、RL、RRとアキュムレータ26FL、FR、RL、RRとが接続される。また、懸架シリンダ10FL、FR、RL、RRとアキュムレータ26FL、FR、RL、RRとの間には、それぞればね定数切換弁28FL、FR、RL、RRが設けられる。
【0010】
これらアキュムレータ24、26は、いずれもばねとしての機能を有するものであり、例えば、ハウジングとそのハウジングの内側を仕切る仕切部材とを含み、その仕切部材の一方の容積変化室に個別通路22が連通させられ、他方の容積変化室に弾性体が設けられたものであり、一方の容積変化室の容積の増加に起因して他方の容積変化室の容積が減少し、それによって弾性力を発生させるものとすることができる。アキュムレータ24,26は、ベローズ式のものとしたり、ブラダ式のものとしたり、ピストン式のものとしたりすること等ができる。
本実施例においては、アキュムレータ24の方がアキュムレータ26よりばね定数が大きいものとされており、以下、アキュムレータ24を高圧アキュムレータと称し、アキュムレータ26を低圧アキュムレータと称する。ばね定数切換弁28は、常開の電磁開閉弁である。
【0011】
個別通路22FL、FR、RL、RRには、それぞれ、可変絞り30FL、FR、RL、RRが設けられる。前述のように、車輪保持装置6の車体8に対する相対的な上下動により液室16において作動液が流入・流出させられるが、この場合に、可変絞り30によって個別通路22の流路面積が制御されることにより、懸架シリンダ10において発生させられる減衰力が制御される。本実施例においては、可変絞り30等により減衰力調整機構が構成される。
【0012】
懸架シリンダ10FL、FR、RL、RRの各々は、個別通路22FL、FR、RL、RRを介してセンタシリンダ48に接続される。センタシリンダ48は、3つのピストンが連結されて成るピストン組立体50と、そのピストン組立体50を液密かつ摺動可能に収容するシリンダハウジング51とを含む。ピストン組立体50は、図1の右側から順に、第一ピストン52,第二ピストン53および第三ピストン54を有し、第一ピストン52と第二ピストン53、第二ピストン53と第三ピストン54がそれぞれ連結ロッド56,58により直列に連結されている。
【0013】
シリンダハウジング51は大径部と小径部とを備えた段付き状のシリンダボアを備え、そのシリンダボアにピストン組立体50が嵌合されることにより、ハウジング51内に4つの液室が形成されている。シリンダボアの大径部に第二ピストン53が嵌合され、小径部にそれぞれ第一ピストン52,第三ピストン54が嵌合される。したがって、第一ピストン52,第三ピストン54の直径は、第二ピストン53の直径より小さい。また、第一ピストン52,第三ピストン54の直径は互いに同じである。
第一ピストン52の第二ピストン53とは反対側が第一液室60、第一ピストン52と第二ピストン53との間が第二液室61、第二ピストン53と第三ピストン54との間が第三液室62、第三ピストン54の第二ピストン53とは反対側が第四液室63とされる。また、第一ピストン52において、第一液室60側が外側受圧面65とされて、第二液室61側が内側受圧面66とされる。また、第二ピストン53において、第二液室61側が内側受圧面67とされ、第三液室62側が内側受圧面68とされるとともに、第三ピストン54において、第三液室62側が内側受圧面69とされ、第四液室63側が外側受圧面70とされる。
【0014】
第一液室60,第四液室63には、それぞれ、右前輪4FRの懸架シリンダ10FRの液室16,左前輪4FLの懸架シリンダ10FLの液室16が個別通路22FR、FLを介して接続される。その結果、ピストン組立体50の外側受圧面65は、右前輪4FRの懸架シリンダ10FRの液室16の液圧(以下、懸架シリンダの液圧と称する)を受け、外側受圧面70は左前輪4FLの懸架シリンダ10FLの液圧を受ける。本実施例においては、第一ピストン52と第三ピストン54との直径が等しく、外側受圧面65と外側受圧面70との受圧面積も等しい。
また、互いに隣接する第一ピストン52と第二ピストン53との間の第二液室61には、個別通路22RLにより左後輪4RLの懸架シリンダ10RLが接続され、第二ピストン53と第三ピストン54との間の第三液室62には個別通路22RRにより右後輪4RRの懸架シリンダ10RRが接続される。
それに対して、第二液室61の両側の互いに反対向きである第一ピストン52の内側受圧面66と第二ピストン53の内側受圧面67とは、左後輪4RLの懸架シリンダ10RLの液圧を受ける。しかし、2つのピストンのうち直径の小さい第一ピストン52に加える力は、直径の大きい第二ピストン53の内側受圧面67のうち第一ピストン52の内側受圧面66と等しい受圧面積の部分に加える力により相殺される。そのため、ピストン組立体50の第二液室61の液圧に対する有効受圧面積は、第二ピストン53の内側受圧面67の受圧面積から第一ピストン52の内側受圧面66の受圧面積を差し引いた大きさとなる。同様に、ピストン組立体50の第三液室62の液圧に対する有効受圧面積は、第二ピストン53の内側受圧面68の受圧面積から第三ピストン54の内側受圧面69の受圧面積を差し引いた大きさとなる。つまり、ピストン組立体50には、第二液室61,第三液室62の液圧と、上述した有効受圧面積との積で表される力がそれぞれ作用することになる。
【0015】
また、前述のように、第一ピストン52の直径と第三ピストン54の直径は等しいため、ピストン組立体50の第二液室61に対する有効受圧面積と第三液室62に対する有効受圧面積も等しい。さらに、本実施例においては、ピストン組立体50の第二液室61および第三液室62に対する有効受圧面積が、第一液室60および第四液室63に対する受圧面積と等しくなるように、第2ピストン53の直径が決定されている。
したがって、ピストン組立体50において、同じ側の2つの受圧面65,67にはそれぞれ、右前輪4FR、左後輪4RLの懸架シリンダ10FR,10RLの液圧に応じた力FFR、FRLを受け、2つの受圧面65,67とは反対側の2つの受圧面70,68には、それぞれ、左前輪4FL,右後輪4RRの懸架シリンダ10FL,10RRの液圧に応じた力を受ける。
また、センタシリンダ48において。ピストン組立体50の外側受圧面65とハウジング51の端面との間、外側受圧面70とハウジング51の端面との間には、それぞれ、リターンスプリング71,72が設けられる。
【0016】
本サスペンション装置には、車高調整装置74が設けられる。車高調整装置74は、高圧源76、低圧源78としてのリザーバ、個別制御弁装置80等を含む。
高圧源76は、ポンプ81とポンプモータ82とを備えたポンプ装置84、蓄圧用アキュムレータ86等を含む。ポンプ装置84,蓄圧用アキュムレータ86等は制御通路88に設けられる。ポンプ81によってリザーバ78の作動液が汲み上げられて吐出され、蓄圧用アキュムレータ86において加圧した状態で蓄えられる。蓄圧用アキュムレータ86は常閉の電磁開閉弁である蓄圧制御弁90を介して制御通路88に接続される。制御通路88には、流体圧センサ92が設けられる。流体圧センサ92によれば、ポンプ81の吐出圧やアキュムレータ圧を検出することができる。
制御通路88のポンプ81の吐出側には、逆止弁94,消音用アキュムレータ96が設けられる。また、ポンプ81の高圧側と低圧側とを接続する流出通路104が設けられ、流出通路104に流出制御弁106が設けられる。
流出制御弁106は、ポンプ81の吐出圧をパイロット圧とするメカ式の開閉弁である。ポンプ81の非作動時には連通状態にあるが、ポンプ81の作動により吐出圧が高くなると遮断状態とされる。ポンプ81は、ギアポンプである。
【0017】
個別制御弁装置80は、個別制御通路108FL、FR、RL、RRに設けられた個別制御弁110FL、FR、RL、RRを含む。個別制御通路108FL、FR、RL、RRは制御通路88と個別通路22FL、FR、RL、RRとをそれぞれ接続する通路である。また、個別制御通路108FL、FRを接続する前輪側左右連通路111に左右連通弁112が設けられ、個別制御通路108RL、RRを接続する後輪側左右連通路113に左右連通弁114が設けられる。なお、個別制御通路108と個別通路22とによって、懸架シリンダ10と制御圧通路88とがそれぞれ接続される。
これら個別制御弁110FL、FR、RL、RR、左右連通弁112,114は、常閉の電磁開閉弁であり、左右連通弁112,114の遮断状態において個別制御弁110FL、FR、RL、RRを個別に制御することにより、各車輪4FL、FR、RL、RRの各々において、車輪保持装置6FL、FR、RL、RRとそれに対応する車体8の部分(懸架シリンダ10FL、FR、RL、RRに対応する部分)との間の距離である車高が独立に制御可能とされる。
【0018】
本サスペンション装置は、コンピュータを主体とするサスペンションECU200によって制御される。サスペンションECU200は、実行部204,記憶部206,入出力部208等を含み、入出力部208には、ばね定数切換弁28、可変絞り30のコイル、車高調整装置74(蓄圧用制御弁90,個別制御弁110,左右連通弁112、114のコイル、ポンプモータ82等)が図示しない駆動回路を介して接続されるとともに、流体圧センサ92,前後左右の各輪毎に設けられ、車高をそれぞれ検出する車高センサ220,車両の走行状態を検出する走行状態検出装置222,車高調整モード選択スイッチ224,車高調整指示スイッチ226、操舵状態検出装置としてのステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ227等がそれぞれ接続される。
【0019】
走行状態検出装置222は、車両の走行状態を検出するものであり、制動状態にあることを検出するブレーキスイッチ228,ヨーレイトセンサ230等を含む。なお、ブレーキスイッチ228の代わりに前後加速度センサとし、ヨーレイトセンサの代わりに横加速度センサとすることもできる。また、アクセルスイッチを含むものとすることもできる。
車高調整モード選択スイッチ224は、運転者によって操作されるものであり、スイッチ224の操作により、自動モードとマニュアルモードとのいずれか一方が選択される。自動モードが選択された場合には、予め定められた条件が満たされた場合にそれに応じて車高が変化させられ、マニュアルモードが選択された場合には、車高調整指示スイッチ226の指示に応じて変化させられる。
車高調整指示スイッチ226は、車高を増大させる場合、車高を減少させる場合等に操作されるスイッチで、運転者のマニュアル操作によって切り換えられる。
記憶部206には、図2のフローチャートで表されるばね定数等変更プログラム等が記憶される。
【0020】
以上のように構成されたサスペンション装置における作動について説明する。
センタシリンダ48において、ピストン組立体50には、各車輪に設けられた懸架シリンダ10の液圧に応じた力(その液圧と、それに対応する受圧面の受圧面積との積で表される力)が作用し、原則として、静止状態においては、これらが釣り合っている。
車体にピッチング、例えば、車両の前側において車輪保持装置6と車体8との間の距離が減少して後側において増大した場合(例えば、制動した場合等)、左右前輪4FL,4FRの懸架シリンダ10FL,10FRの液圧が高くなり、左右後輪4RL,4RRの懸架シリンダ10RL,10RRの液圧が低くなる。そのため、第一ピストン52,第三ピストン54のそれぞれの外側受圧面65,70に作用する液圧が高くなり、第二ピストン52の内側受圧面67,68に作用する液圧が低くなる。この場合には、ピストン組立体50に作用する力の釣り合いの状態は変わらないため、ピストン組立体50の移動が抑制され、各懸架シリンダ10は、それぞれ独立しているに等しい状態となり、大きな減衰力が発生させられ、車両のピッチングが効果的に抑制される。
車体にローリング、例えば、車両の左側において車輪保持装置6と車体8との間の距離が増大して右側において減少した場合(例えば、左旋回時等の場合)、左前輪4FL、左後輪4RLの懸架シリンダ10FL,10RLの液圧が低くなり、右前輪4FR、右後輪4RRの懸架シリンダ10FR,10RRの液圧が高くなる。それに応じ、第三ピストン54の外側受圧面70および第二ピストン53の内側受圧面67に作用する液圧が低くなり、第一ピストン52の外側受圧面65および第二ピストン53の内側受圧面68に作用する液圧が高くなる。ローリング時にもピストン組立体50に作用する力の釣り合い状態が変わらない場合には、各懸架シリンダ10は、それぞれ独立しているに近い状態(極端に言えば、センタシリンダ48がなきに等しい状態)となり、ピストン20の移動に伴って懸架シリンダ10の各々において大きい減衰力が発生させられて、ローリングが効果的に抑制される。
【0021】
路面から、前後左右の車輪の1つに入力が加わった場合、例えば、左前輪4FLに設けられた懸架シリンダ10FLに車輪保持装置6と車体8との間の距離を小さくする力が加わった場合(例えば左前輪FLが路面の隆起に乗り上げたような場合)あるいは車体8の対角位置にある車輪にそれらを同相移動させる力、例えば、懸架シリンダ10FL,10RRに車輪保持装置6と車体8との間隔を小さくする力が加わった場合には懸架シリンダ10FL,10RRの液圧が高くなり、懸架シリンダ10FR,10RLの液圧が低くなる。これに伴い、第三ピストン54の外側受圧面70および第二ピストン52の内側受圧面68に作用する液圧が高くなり、第二ピストン52の内側受圧面67および第一ピストン52の外側受圧面65に作用する液圧が低くなる。それによって、ピストン組立体50は、図1において右方へ移動する。その結果、第四液室63および第三液室62の容積が大きくなり、第二液室61,第一液室60の容積が小さくなる。したがって、懸架シリンダ10FL,10RRから作動液が流出するとともに懸架シリンダ10FR,10RLに流入し、あたかも、センタシリンダ48を介して2つの懸架シリンダ10FL,10RRと2つの懸架シリンダ10FR,10RLとが連通させられ、それらの間で作動液の授受が行われるに等しい状態となる。
【0022】
4つの車輪4FL,FR,RL,RRに対応する車高が車高調整装置74により制御される。
左右連通弁112,114、個別制御弁110は、通常は、図示する原位置にある。例えば、左前輪4FLについて、車輪保持装置6FLと車体8の左前輪4FLに対応する部分との間の距離である車高を大きくする場合には、個別制御弁110FLが連通状態とされて、ポンプ81が作動させられる。ポンプ81の作動により流出制御弁106が遮断状態とされるため、ポンプ81から吐出された作動液が懸架シリンダ10FLに供給され、車高が大きくなる。実際の車高が目標値に達すると、個別制御弁110FLが遮断状態とされ、ポンプ81の作動が停止させられる。
車高を低くする場合は、個別制御弁110FLが連通状態とされる。ポンプ81は停止状態にあるため、流出制御弁106は連通状態にある。懸架シリンダ10FLからリザーバ78に作動液が流出させられる。実際の車高が目標値に達すると、個別制御弁110FLが遮断状態とされる。
また、左右連通弁112,114は、例えば、悪路走行中に連通状態に切り換えられる。それによって、前輪側、後輪側の各々における左右の懸架シリンダ間の作動液の流れが許容され、路面からの入力に起因する車体の振動を抑制することができる。
【0023】
懸架シリンダ10の各々において、減衰特性が可変絞り30の制御により制御される。
可変絞り30により個別通路22の流路面積が小さくされた場合には、サスペンションの硬さがハード(車輪と車体との上下方向の相対移動速度が同じ場合の減衰力が大きくなる状態)となり、流路面積が大きくされた場合にはソフト(相対移動速度が同じ場合の減衰力が小さくなる状態)となる。サスペンションの硬さは、図示しないモード選択スイッチの運転者による操作に応じて切り換えられるが、車両の走行状態に基づいて制御されるようにすることもできる。
【0024】
また、ばね定数切換弁28の制御によりばね定数が切り換えられる。
ばね定数切換弁28が連通状態とされた場合には、液室16に2つのアキュムレータ24,26が連通させられて、ばね定数が小さい状態とされ、ばね定数切換弁28が遮断状態とされた場合には、液室16から低圧アキュムレータ26が遮断されて高圧アキュムレータ24が連通させられるため、ばね定数が大きい状態とされる。
【0025】
本実施例においては、車両が制動状態にある場合に、ばね定数切換弁28FL,FRが連通状態から遮断状態に切り換わるように制御されることにより、左右前輪4FL,FRのばね定数が大きくされるとともに、操舵角センサ227による検出値θの絶対値が設定値θ0以下である場合に、左右連通弁112が遮断状態から連通状態に切り換えられることにより、左右前輪4FL,FRの懸架シリンダ10FL,FRが連通させられる。
制動状態においては、前輪側の荷重が増加し、後輪側の荷重が減少するため、前輪側のばね定数を大きくすれば、姿勢変化を抑制することができる。なお、この場合に、後輪側のばね定数も大きくすれば、より効果的にピッチ姿勢の変化を抑制することができる。
【0026】
ばね定数切換弁28FL,FRが連通状態から遮断状態に切り換わるように、ソレノイドに電流が供給されても、いずれか一方のばね定数切換弁において、それに応じて遮断状態に切り換わらない場合、また、サスペンションECU200から遮断状態に切り換える指令が出力されても、いずれか一方のばね定数切換弁のソレノイドに電流が供給されない場合等には、いずれか一方のばね定数切換弁28は連通状態のままとなり、ばね定数は小さいままとなる。この異常を、広義の開固着異常と称し、以下、ばね定数切換弁の開固着異常と称する。
このばね定数切換弁28FL,FRのいずれか一方に開固着異常が生じると、左前輪4FLと右前輪4FRとで、ばね定数が異なることになる。左前輪4FLと右前輪4FRとで車高差が生じ、ステアリングホイールが中立位置にあっても車両が偏向する。
サスペンション装置においては、ロールステアにより、車輪保持装置6と車体8との間の距離の変化に伴って車輪4のトー角が変化する。車高の変化に伴うサスペンションアームの軌跡とタイロッドの軌跡とが異なるため、これらの相対位置関係の変化するからである。この場合において、左側輪4FLと右側輪4FRとで車高が同じである場合には、トー角も同じであるため、車両が偏向することはないが、車高が異なると、トー角が異なり、偏向するのである。
それに対して、左右連通弁112を連通状態とすれば、左右のばね定数を同じにすることができ、左右の車高差を小さくすることができる。左右連通弁112を連通状態とすれば、連通状態のままであるばね定数切換弁28(異常であるばね定数切換弁)に対応するアキュムレータ26が左右の懸架シリンダ10FL,FRに対して共通とされる。その結果、左右の懸架シリンダ10FL,FRについてのばね定数が同じ大きさとなるのであり、大きい場合と小さい場合との中間の大きさとなる。
なお、ばね定数切換弁28の開固着異常の場合には、左右輪のばね定数を、両方とも小さくすることにより、同じ大きさにすることも考えられる。それに対して、本実施例におけるように、左右連通弁112が連通状態に切り換えられて、ばね定数が大きい場合と小さい場合との中間の大きさとされることにより、同じ大きさとされる。そのため、ばね定数が両方とも小さくされる場合よりばね定数を大きくすることができ、より効果的に姿勢変化を抑制することが可能となる。
なお、センタシリンダ48の作動により、左側輪4FLと右側輪4FRとの間のばね定数が異なることに起因する車高差は小さくされるのであるが、同じにされることはない。したがって、センタシリンダ48があっても、左側輪4FLと右側輪4FRとの間のトー角は同じになることなはく、車両が偏向する。車両の偏向の程度は、センタシリンダ48によって抑制されるが、解消されるわけではないのである。
【0027】
ばね定数等変更プログラムのフローチャートのステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、ブレーキスイッチ228がON状態にあるか否かが検出され、ON状態にある場合、すなわち、車両が制動状態にある場合には、S2において、前輪側の左右のばね定数切換弁28FL,FRを遮断状態に切り換える指令が出力される。そして、S3において、操舵角センサ227による検出値θの絶対値が設定値θ0以下であるか否か、すなわち、運転者によって車両を直進させる意図があるか否かが判定される。操舵角θの絶対値が設定値θ0以下である場合には、S4において、左右連通弁112を遮断状態に切り換える指令が出力される。設定値θ0は、運転者が車両を直進させるためにステアリングホイールを操舵している場合の操舵角であり、ステアリングホイールがほぼ中立位置にあるとみなし得る値である。
ばね定数切換弁28FL,FR等が正常である場合には、ばね定数切換弁28FL,FRはいずれも遮断状態に切り換えられて、左前輪4FL、右前輪4FRについてのばね定数は大きくされる。この場合において、左右の懸架シリンダ10FL,FRは左右連通弁112が連通状態とされることにより、連通させられるが、直進走行中においては、原則として、左右の懸架シリンダ10FL,FRの液圧は同じであるため、左右の懸架シリンダ10FL,FRの間で作動液が流れることはない。左側輪4FLにおいても右側輪4FRにおいてもばね定数が大きい状態が保たれる。
仮に、ばね定数切換弁28FL,FRのいずれか一方が開固着異常であり、左前輪4FL、右前輪4FRのいずれか一方の側において、ばね定数が大きく、他方の側において、ばね定数が小さい状態となることがある。しかし、左右連通弁112により左右の懸架シリンダ10FL,FRが互いに連通状態とされるため、これらのばね定数の差が小さくなり、車高の差が小さくなる。左前輪4FL、右前輪4FRのトー角の差が小さくなり、車両が旋回することを回避することができる。
【0028】
それに対して、制動状態にあるが、操舵角θの絶対値が設定値θ0より大きい場合には、S5において、左右連通弁112は遮断状態に保たれる。ばね定数切換弁28FL,FR等が正常である場合には、左右前輪4FL,FRにおいて、ばね定数が大きい状態とされ、それによって、制動に伴うピッチ姿勢を抑制することができ、旋回に伴うロール姿勢を抑制することができる。また、制動中でない場合には、ばね定数切換弁28FL,FRは連通状態に保たれ、左右連通弁112も連通状態に保たれる。
【0029】
このように、本実施例においては、ステアリングホイールの操舵角θの絶対値が設定値θ0以下であって、制動状態にある場合には、左右前輪4FL,FRのばね定数が大きくされるとともに左右の懸架シリンダ10FL,FRが連通させられる。それによって、制動に伴うピッチ姿勢を抑制し得、たとえ、ばね定数切換弁28FL,FRのいずれか一方が開固着異常であっても、車両の偏向を防止することができる。
また、左右連通弁112を連通状態としなくても、前述のように、センタシリンダ48の作動により、左右懸架シリンダ10FL,FRの液圧差が小さくなり、車高差が小さくなるのであるが、左右輪4FL,FRのばね定数の差に起因するセンタシリンダ48の作動により後輪側に影響が生じる。例えば、右前輪4FRのばね定数が大きく、左前輪4FLのばね定数が小さい場合には、左前輪4FLにおいて右前輪4FRにおける場合より車高が低くなるが、荷重は同じであるため、左前輪4FLにおける方が右前輪4FRにおけるより、サスペンションスプリングの変形量が大きくなり、懸架シリンダ10FLの液圧が低くなる。それによって、センタシリンダ48においては、液圧室63の液圧が液圧室60の液圧より低くなり、ピストン組立体50は、図1の左方へ移動する。それによって、右後輪4RRの懸架シリンダ10RRに作動液が供給されることにより、右後輪4RRにおいて車高が大きくなり、左後輪4RLの懸架シリンダ10RLから作動液が流出させられることにより、車高が小さくなる。車体8は左側が下になる向きに前後方向軸線に対して傾斜する。それに対して、前輪側において左右連通弁112を連通状態とすれば、左右前輪4FL,FRのばね定数の差に起因してセンタシリンダ48が作動しないようにすることができ、それによる後輪側への影響を小さくすることができ、車体の傾きを抑制することができる。
さらに、センタシリンダ48の作動によれば、左前輪4FLの懸架シリンダ10FLの液圧と右前輪4FRの懸架シリンダ10FRの液圧の差を小さくすることはできるが、これらを同じ大きさとすることはできない。それに対して、左右連通弁112を連通状態とすれば、左右前輪4FL,FRの懸架シリンダ10FL,FRの液圧を同じにすることができる。
【0030】
以上のように、本実施例においては、ばね定数切換弁28およびサスペンションECU200のばね定数切換弁28を制御する部分等によりばね定数変更装置が構成され、左右連通弁112およびサスペンションECU200の左右連通弁112を制御する部分等により左右連通装置が構成される。ばね定数変更装置のうちの、ばね定数切換弁28およびサスペンションECU200のS1,2を記憶する部分、実行する部分等によりばね定数増大部が構成され、左右連通装置のうちの左右連通弁112およびサスペンションECUのS3,4を記憶する部分、実行する部分等により直進制動・駆動時左右連通部が構成される。サスペンションECUのS3,4を記憶する部分、実行する部分等は電流制御部でもある。
【0031】
なお、上記実施例においては、制動状態にあり、かつ、直進操舵状態である場合に、左右前輪4FL,FRのばね定数が大きくされるとともに前輪側において左右の懸架シリンダ10FL,FRが連通させられるようにされていたが、制動状態において、前輪側と後輪側との両方において、すなわち、すべての車輪4FL,FR,RL,RRのばね定数が大きくされるとともに、左右連通弁112,114の両方を連通状態とすることにより、前輪側と後輪側との両方において、それぞれ、左右の懸架シリンダ10FL,FR、10RL,RRが連通させられるようにすることもできる。
また、ブレーキスイッチ228の代わりに前後加速度センサを設けた場合には、制動状態にあるか駆動状態にあるかを検出することが可能となる。そして、駆動状態にある場合には、左右後輪4RL,RRのばね定数を大きくし、直進操舵状態にある場合に、左右連通弁114を連通状態としたり、駆動状態にある場合に、前後左右のすべての車輪4FL,FR,RL,RRのばね定数を大きくし、直進操舵状態にある場合に、前輪側、後輪側の左右連通弁112,114の両方を連通状態とすることもできる。
【0032】
さらに、上記実施例においては、ばね定数切換弁28FL,FRのいずれか一方が開固着異常であるか否かを検出することなく、左右連通弁112が連通状態とされるようにされていたが、ばね定数切換弁28FL,FRのいずれか一方が開固着異常であると検出された場合に、左右連通弁112が連通状態とされるようにすることができる。その一例を図3のフローチャートに従って説明する。なお、本実施例においては、可変絞り30等を含む減衰力制御装置は正常であると予めわかっているものとする。
S21において、異常フラグがセット状態にあるか否かが判定される。異常フラグがセット状態にある場合には、ばね定数切換弁28FL,FRの制御、左右連通弁112の制御が行われることはない(S22)。
異常フラグがリセット状態にある場合には、S23において、ブレーキスイッチ228がON状態にあるか否かが判定され、ON状態にある場合には、S24において、前輪側のばね定数切換弁28FL,FRを遮断状態に切り換える指令が出力され、S25において、操舵角θの絶対値が設定値θ0以下であるか否かが判定される。操舵角θの絶対値が設定値θ0以下である場合には、S26において、異常検出が行われる。そして、S27において、異常フラグがセット状態にあるか否かが判定され、異常である場合には、S28において、左右連通弁112が連通状態とされ、異常でない場合には、S29において、左右連通弁112は遮断状態のままとされる。操舵角θの絶対値が設定値θ0より大きい場合にも左右連通弁112は遮断状態のままである。
【0033】
本実施例においては、ばね定数切換弁28FL,FRを遮断状態に切り換える指令が出力されているにも係わらず、左側輪4FLと右側輪4FRとで、車高HFL,HFRの差の絶対値|HFL−HFR|が設定値H0より大きい場合に、左右輪4FL,FRの間でばね定数が異なるとされ、異常フラグがセットされる。設定値H0は、ばね定数が異なり、左側輪4FL、右側輪4FRの間でトー角が異なり、車両が偏向すると考えられる大きさである。
図4のフローチャートのS61において、左右前輪4FL,FRの各々について車高HFL,FRが検出され、S62において、これら車高HFL、HFRの差の絶対値が設定値H0以下であるか否かが判定される。車高の差の絶対値が設定値以下である場合には、正常であるため、S63において、異常フラグがリセットされ、設定値より大きい場合には、異常であるため、S64において、異常フラグがセットされる。
このように、左右輪4FL,FRの車高差は、ばね定数が大きくされた側において検出される。前述のように、本実施例における異常は、広義の開固着異常だからである。
異常である場合には、S21における判定がYESとなり、S23以降が実行されないようにされているのであり、ばね定数切換弁28,左右連通弁112の制御が行われることはない。
【0034】
本実施例においては、車高センサ220,サスペンションECU200のS26を記憶する部分、実行する部分等により異常検出装置が構成され、サスペンションECU200のS28を記憶する部分、実行する部分等により異常時左右連通部が構成される。異常検出装置は、左右差依拠異常検出部でもある。
【0035】
なお、上記実施例においては、左右輪4FL,FRの車高差に基づいて異常が検出されたが、左右輪4FL,FRの車高の変化速度dHFL/dt,dHFR/dt、変化量ΔHFL,ΔHFRに基づいて検出されるようにすることもできる。車高の変化速度の差の絶対値|dHFL/dt−dHFR/dt|が設定値d0より大きい場合、変化量の差の絶対値|ΔHFL−ΔHFR|が設定値Δ0より大きい場合に、左右輪4FL,FRの間でばね定数が異なるとされ、異常フラグがセットされる。
【0036】
また、ばね定数等変更プログラムのS21,22は不可欠ではない。異常フラグのセット状態にかかわらず、S23以降が実行されるようにすることもできる。
さらに、ヨーレイトγの絶対値が設定値γ0より大きい場合に、ばね定数切換弁28FL,FRのいずれか一方が開固着異常であるとすることもできる。本実施例における場合のように、前輪側のばね定数が大きくなるようにされて後輪側のばね定数が大きくなるようにされない場合には、ばね定数変更装置の異常は前輪側において生じたと考えることができるからである。
図5のS71において、ヨーレイトセンサ230による検出値が取得され、S72において、ヨーレイトセンサ230による検出値の絶対値が設定値より大きいか否かが判定される。ヨーレイトγの絶対値が設定値γ0より大きい場合には、左右前輪4FL,FRにおいて車高差が大きいことに起因して生じたと考えられるため、左右前輪4FL,FRのばね定数切換弁28FL,FRのいずれか一方が異常であると考えられるのである。
本実施例において、S71,72を記憶する部分、実行する部分等により、旋回時異常検出部が構成される。
【0037】
また、左右前輪4FL,FRの車高HFL、HFRの差の絶対値等が設定値H0より大きく、かつ、ヨーレイトγの絶対値が設定値γ0より大きい場合に、ばね定数切換弁28FL,FRのいずれか一方が開固着異常であるとすることもできる。
図6のS76において、左右前輪4FL,FRの車高HFL,HFRが取得され、S77において、ヨーレイトセンサ230による検出値γが検出され、S78において、左右輪の車高差の絶対値が設定値より大きく、かつ、ヨーレイトγの絶対値が設定値より大きいか否かが判定される。判定がYESである場合には、S79において、異常フラグがセットされ、判定がNOである場合には、S80において異常フラグがリセットされる。
このように、ヨーレイトγの絶対値が設定値より大きく、かつ、左右の車高差の絶対値が設定値より大きい場合に異常であるとされるようにすれば、異常であるとの判定精度を向上させることができる。
【0038】
さらに、車両が制動状態にある場合に、左右前輪4FL,FRおよび左右後輪4RL,RRのばね定数が大きくされる場合には、ヨーレイトγの絶対値が設定値γ0より大きくても、開固着異常であるばね定数切換弁28が前輪側に属するものであるのか後輪側に属するものであるのか特定することができない。それに対して、異常であるばね定数切換弁28が前輪側に属するものであるか後輪側に属するものであるかを特定する必要は必ずしもなく、操舵角θの絶対値が設定値θ0以下であり、かつ、ヨーレイトγの絶対値が設定値γ0より大きい場合には、前輪側と後輪側との左右連通弁112,114の両方を連通状態とすることもできる。直進操舵状態においては、左右の懸架シリンダ同士を連通させても差し支えないからである。その場合の一例を図7に示す。
S82において、ブレーキスイッチ228がON状態にあることが検出された場合には、S83において、すべての車輪について、ばね定数切換弁28FL,FR,RL,RRを遮断状態とする指令が出力される。そして、S84において、操舵角θの絶対値が設定値θ0以下であるか否かが判定され、設定値θ0以下である場合には、S85、86において、ヨーレイトγの絶対値が設定値以下であるか否かが判定され、設定値以下である場合には、正常であるため、S87において、前輪側、後輪側の左右連通弁112,114は遮断状態のままとされる。また、ヨーレイトγの絶対値が設定値γ0より大きい場合には、前輪側、後輪側の少なくとも一方の側において、左右でばね定数が異なるとされ、S88において、左右連通弁112,114が連通状態とされる。
【0039】
なお、前後左右の各輪4FL,FR,RL,RRの車高Hを検出し、前輪側、後輪側のそれぞれにおいて、左右輪の車高の差の絶対値が設定値より大きいか否かが判定されるようにすることもできる。このようにすれば、前輪側、後輪側のいずれの側において、異常があるかを取得することができる。その一例を図8に示す。
S83において、すべてのばね定数切換弁28FL,FR,RL,RRを遮断状態とする指令が出力された後、S91において、すべての車輪4FL,FR,RL,RRについて、車高HFL,FR,RL,RRが検出され、S92において、前輪側において、左右輪4FL,FRの車高の差の絶対値が設定値以下(|HFL−HFR|≦H0)であるか否かが判定され、S93,94において、後輪側の左右輪4RL,RRの車高の差の絶対値が設定値以下(|HRL−HRR|≦H0)であるか否かが判定される。前輪側、後輪側のそれぞれにおいて開固着異常であるか正常であるかが判定されるのである。
前輪側、後輪側のいずれにおいても、正常である場合には、S95において、左右連通弁112,114はいずれも遮断状態のままとされる。それに対して、前輪側においては正常であるが、後輪側においてばね定数切換弁28RL,RRのいずれか一方が開固着異常であると判定された場合には、S96において、前輪側の左右連通弁112は遮断状態のままとされ、後輪側の左右連通弁114が連通状態とされる。また、前輪側において開固着異常であるが、後輪側においては正常であるとされた場合には、S97において、左右連通弁112が連通状態とされ、左右連通弁114が遮断状態のままとされる。さらに、前輪側においても後輪側においても開固着異常である場合には、左右連通弁112,114の両方が連通状態とされる。異常フラグがセット状態にあり、S81の判定がYESである場合、ブレーキスイッチ228がOFF状態であり、S82の判定がYESである場合、操舵角の絶対値が設定値より大きく、S84の判定がYESである場合には、S99において、ばね定数切換弁28は連通状態に保たれ、前輪側、後輪側の左右連通弁112,114は遮断状態に保たれる。
このように、ばね定数切換弁の開固着異常の位置が特定されるため、それに応じて、左右連通弁を制御することができる。
【0040】
さらに、センタシリンダ48は不可欠ではない。センタシリンダ48が設けられない場合においても、同様な効果を得ることができる。また、センタシリンダ48が設けられていない場合には、左右連通弁の遮断状態における左右輪のばね定数が異なることに起因する車高差が大きくなる。換言すれば、左右連通弁を連通状態に切り換えたことによる効果が顕著に現れる。
さらに、開固着異常が検出された側の左右連通弁を遮断状態に保ち、異常でない側の左右連通弁を連通状態とすることもできる。開固着異常である側については、センタシリンダの作動により左右差が小さくされ、異常でない側については、左右連通弁を連通状態とすることにより、センタシリンダの作動による影響を抑制することができる。
【0041】
以上のように、種々の態様について説明したが、その他、本発明は、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例であるサスペンション装置の全体を示す図である。
【図2】上記サスペンション装置のサスペンションECUの記憶部に記憶されたばね定数変更等プログラムを表すフローチャートである。
【図3】上記サスペンションECUの記憶部に記憶された別のばね定数変更等プログラムを表すフローチャートである。
【図4】上記ばね定数変更等プログラムの一部(異常検出)を表すフローチャートである。
【図5】上記車高調整プログラムの一部の別の態様を表すフローチャートである。
【図6】上記車高調整プログラムの一部のさらに別の態様を表すフローチャートである。
【図7】上記記憶部に記憶された別のばね定数変更等プログラムを表すフローチャートである。
【図8】上記記憶部に記憶された別のばね定数変更等プログラムを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
10:懸架シリンダ 24,26:アキュムレータ 28:ばね定数切換弁 48:センタシリンダ 50:ピストン組立体 112,114:左右連通弁 200:サスペンションECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後左右の各輪に対応して、各々、車輪を保持する車輪保持装置と車体との間に設けられた4つの流体シリンダと、
前記車両の走行状態を検出する走行状態検出装置と、
前記車両の操舵部材の操作状態を検出する操舵状態検出装置と、
前記4つの流体シリンダの各々に関し、各流体シリンダに互いに並列に接続された複数のアキュムレータからなるアキュムレータ群に属する複数のアキュムレータのうちその流体シリンダと連通状態にあるものを変更することにより、そのアキュムレータ群のばね定数を変更するばね定数変更装置と、
前記車両の前輪側と後輪側との各々において、左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとを連通させる状態と遮断する状態とに切り換える左右連通装置と
を含み、
前記ばね定数変更装置が、前記走行状態検出装置によって、前記車両が制動状態あるいは駆動状態にあることが検出された場合に、少なくとも、前記車両の前輪側と後輪側とのうちのその車両の走行状態に起因して荷重が増加する側に属する左側輪、右側輪の流体シリンダの各々に接続されたアキュムレータ群のばね定数をそれぞれ大きくするばね定数増加部を含むとともに、前記左右連通装置が、前記走行状態検出装置によって、前記車両が制動状態あるいは駆動状態であることが検出され、かつ、前記操舵状態検出装置によって、前記操舵部材が直進走行を表す操舵状態であることが検出された場合に、前記ばね定数変更装置によってばね定数が大きくされた前輪側と後輪側との少なくとも一方の側の左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとを連通させる直進制動・駆動時左右連通部を含むことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
当該サスペンション装置が、前記ばね定数変更装置の異常を検出する異常検出装置を含み、前記直進制動・駆動時左右連通部が、前記異常検出装置によってばね定数変更装置の異常が検出された場合に、少なくとも、前記ばね定数増加部によってばね定数を増大不能なアキュムレータ群が接続された車輪の流体シリンダと、その車輪と左右反対側の車輪の流体シリンダとを連通させる異常時左右連通部を含む請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
前記異常検出装置が、(a)前記前後左右の各輪毎に対応してそれぞれ設けられ、前記車輪と前記車体のそれに対応する部分との相対位置である車高を、それぞれ検出する車高センサと、(b)前記操舵状態検出装置によって、前記操舵部材が直進走行を表す操舵状態であることが検出され、かつ、前記ばね定数増大部によってばね定数が大きくなるようにされた前記前輪側と前記後輪側との少なくとも一方の側に属する左側輪に対応して前記車高センサによって検出された車高と右側輪に対応して前記車高センサによって検出された車高との差の絶対値が設定値以上である場合に、前記ばね定数変更装置のうちのそれら左側輪と右側輪とのいずれか一方についてのばね定数を大きくするのに関連する部分が異常であると検出する左右差依拠異常検出部とを含む請求項2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
前記走行状態検出装置が、前記車両の旋回状態を検出する旋回状態検出部を含み、前記異常検出装置が、前記操舵状態検出装置によって、前記操舵部材が直進走行を表す操舵状態にあることが検出され、かつ、前記走行状態検出装置によって、車両が旋回状態にあると検出された場合に、前記ばね定数変更装置が異常であるとする旋回時異常検出部を含む請求項2または3に記載のサスペンション装置。
【請求項5】
当該サスペンション装置が、前記4つの流体シリンダに接続され、それら4つの流体シリンダ各々の液圧の関係により作動するセンタシリンダを含み、前記左右連通装置が、(a)前記前輪側と前記後輪側との各々の側において、左側輪の流体シリンダと右側輪の流体シリンダとを、前記センタシリンダをバイパスしてそれぞれ接続する液通路と、(b)それら液通路の各々に設けられ、ソレノイドへの供給電流の制御により、少なくとも閉状態と開状態とに切り換え可能な左右連通弁と、(c)前記操舵状態検出装置によって、前記操舵部材が直進走行を表す操舵状態であることが検出され、かつ、前記走行状態検出装置によって、車両が制動状態あるいは駆動状態にあると検出された場合に、前記ばね定数増大部によってばね定数が大きくなるようにされた前記前輪側と後輪側との少なくとも一方の側に設けられた前記左右連通弁のソレノイドへの供給電流を制御することにより、前記左右連通弁を閉状態から開状態に切り換える電流制御部とを含む請求項1ないし4のいずれか1つに記載のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−22436(P2007−22436A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210218(P2005−210218)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】