説明

サスペンション装置

【課題】空圧緩衝器と気体バネのうち最適なものを選択して車高調整を行うことが可能なサスペンション装置を提供することである。
【解決手段】上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段におけるサスペンション装置Sは、車体と車軸との間に介装されて車体を弾性支持する気体バネAと、車体と車軸との間に気体バネAに並列に介装されて車体と車軸との相対振動を減衰する空圧緩衝器Dと、気体バネAと空圧緩衝器Dに気体を給排する給排手段Cとを備え、空圧緩衝器D内の気体温度Tに基づいて気体バネAと空圧緩衝器Dの一方を選択して選択された一方に対して気体を給排して車高調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サスペンション装置としては、車体と車軸との間に介装されて車体を弾性支持する気体バネと、車体と車軸との間に気体バネに並列に介装されて車体と車軸との相対振動を減衰する油圧緩衝器とを備えて構成されているものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなサスペンション装置にあっては、懸架バネを気体バネとしているため、気体バネ内の圧力を調節することによって、車高調節を行うことができ、それゆえ、気体バネに気体を給排することが可能な空圧回路を備えている場合がある。
【0004】
そして、空圧回路としては、たとえば、気体バネへ圧縮気体を供給するコンプレッサと、気体バネから排気される気体によって蓄圧される低圧タンクとを備えて構成されており、コンプレッサで気体バネへ気体を供給する際に低圧タンクから優先的に吸気してエネルギ消費を少なくて済むものが知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【0005】
転じて、緩衝器は、現在、作動流体を作動油とした油圧緩衝器が主流であるが、近年、作動流体を気体としてもロッドとシール部材との間の摺動部を潤滑して良好な摺動性を確保することによって、車両の車体と車軸との間の振動入力が頻繁に行われるサスペンション装置用途にも耐えうる空圧緩衝器が開発されており、サスペンション装置に空圧緩衝器を用いることが可能となってきた(たとえば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−332747号公報
【特許文献2】特開2002−87040号公報
【特許文献3】特開2006−349138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、空圧緩衝器と気体バネは、それぞれに求められる機能は、空圧緩衝器の減衰力の発生に対して気体バネでは車体の弾性支持であり、互いに相違するものの、双方とも内部に気体を充填しているため、これら機器の内部圧力を変更することで車高調整を行うことができる。
【0007】
ゆえに、気体バネのみならず空圧緩衝器へも気体の給排をすれば、気体バネのみならず空圧緩衝器によっても、車高を調整することができることになる。そして、車高をモニタしておき、車高が変化した場合に車高を調整するようにしておけば、実際の車高を狙った車高へ制御することができる。
【0008】
しかしながら、単に車高をモニタするだけでは、車高の変化原因を判断することができず、車高を調節することはできても、空圧緩衝器と気体バネのいずれを選択して車高調整を行うのが最適であるのかが不明であり、最適な車高調整を行うことができない虞がある。
【0009】
というのは、空圧緩衝器内の気体温度が上昇して車高が上昇するような場合、シリンダ内の圧力が上昇してシール部材にシリンダ内圧が作用してシール部材の緊迫力を高めてシール部材に大きな負荷がかかる事態となるが、車高を下降させるに当たり、空圧緩衝器ではなく気体バネを選択して気体バネ内の圧力を減少させることになって、ロッドがシリンダ内に侵入する分、空圧緩衝器内の圧力上昇を助長してしまうことになる。
【0010】
また、車両への積荷の積み下ろし等によって車高が変化する場合、空圧緩衝器内の圧力を変化させることによって車高を調整すると、空圧緩衝器の減衰特性(空圧緩衝器のピストン速度に対する発生減衰力の性質)が変化して、車両の乗り心地を悪化させてしまう場合もある。
【0011】
そこで、本発明は、上記不具合を解消するために創案されたものであって、その目的とするところは、空圧緩衝器と気体バネのうち最適なものを選択して車高調整を行うことが可能なサスペンション装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段におけるサスペンション装置は、車体と車軸との間に介装されて車体を弾性支持する気体バネと、車体と車軸との間に気体バネに並列に介装されて車体と車軸との相対振動を減衰する空圧緩衝器と、気体バネと空圧緩衝器に気体を給排する給排手段とを備え、空圧緩衝器内の気体温度に基づいて気体バネと空圧緩衝器の一方を選択して選択された一方に対して気体を給排して車高調整を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のサスペンション装置にあっては、車高調整を行う際に、気体バネと空圧緩衝器のうち、空圧緩衝器内の気体温度に基づいて一方を選択するようにしているので、車高変化が空圧緩衝器内の温度変化によるものか搭乗者の乗り降りや積荷の積み下ろし等による積載荷重の変化によるものかを把握して、気体バネと空圧緩衝器のうち最適なものを選択して車高調整を行うことができる。
【0014】
すなわち、空圧緩衝器内の気体温度が上昇して車高が上昇するような場合、シリンダ内の圧力が上昇してシール部材にシリンダ内圧が作用してシール部材の緊迫力を高めてシール部材に大きな負荷がかかる事態となるが、このような場合、本実施の形態のサスペンション装置にあっては、空圧緩衝器を選択して空圧緩衝器内から気体を排気することで車高を下降させることができ、空圧緩衝器内の圧力上昇を防止してシール部材への負担を軽減でき、また、車両への積荷の積み下ろし等によって車高が変化する場合、気体バネを選択して車高調整を行うので空圧緩衝器における減衰特性の変化を抑制し車両の乗り心地を悪化させずして車高調整を行うことができ、よって、気体バネと空圧緩衝器のうち最適なものを選択して車高調整を行うことができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、この発明の一実施の形態のおける空圧緩衝器を示した図である。図2は、車高と車高目標値との乖離を説明する図である。図3は、温度初期値と気体温度の乖離を説明する図である。
【0016】
以下、図に示した実施の形態に基づいて本発明のサスペンション装置Sを説明する。一実施の形態におけるサスペンション装置Sは、図1に示すように、図示しない車体と車軸との間に介装されて車体を弾性支持する気体バネAと、車体と車軸との間に気体バネAに並列に介装されて車体と車軸との相対振動を減衰する空圧緩衝器Dと、気体バネAと空圧緩衝器Dに気体を給排する給排手段Cと、給排手段Cを制御する制御部20とを備えて構成されている。
【0017】
そして、空圧緩衝器Dは、気体が充填されるシリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入したピストン2と、ピストン2に連結されるとともにシリンダ1内に移動自在に挿入されるロッド3とを備えるとともに、ピストン2は、シリンダ1内に区画した上室r1と下室r2とを連通する通路4を備え、当該通路4は、上室r1と下室r2とを行き来する気体の流れに対し抵抗を与えるようになっている。
【0018】
すなわち、この空圧緩衝器Dにあっては、シリンダ1に対してピストン2が図1中上方あるいは下方へ移動して、気体が圧縮される上室r1あるいは下室r2の一方から拡大する上室r1あるいは下室r2の他方へ移動する際に、当該気体の流れに通路4で抵抗を与えて車体と車軸との相対振動を減衰する減衰力を発生するようになっている。
【0019】
なお、この実施の形態の場合、ロッド3が車両の車体に連結されるとともに、シリンダ1が車軸に連結されて、この空圧緩衝器Dの場合、正立型の緩衝器に設定されている。
【0020】
また、空圧緩衝器Dは、この場合、車両の四箇所の車輪と車体との間のそれぞれに気体バネAと並列されて介装されており、給排手段Cによってシリンダ1内に気体を供給することでシリンダ1内の圧力を上昇させることができるとともに、シリンダ1内から気体を排気させることでシリンダ1内の圧力を減少させることができるようになっている。なお、図1中では、図が複雑となるため、気体バネAと空圧緩衝器Dを一つずつ記載し、他の三つについては記載を省略している。
【0021】
そして、このようにシリンダ1内の圧力を調節することで、シリンダ1内の圧力にピストン2の受圧面積差(ピストン2の下室r2に面する面積から上室r1に面する面積を減算して得られる面積差)を乗じた空圧緩衝器Dを伸長させる力(以下、「ロッド反力」という)を調節して車両の車高調節を行うことができるようになっている。
【0022】
さらに、気体バネAは、ロッド3に連結された有底筒状のチャンバ5と、チャンバ5の開口部と空圧緩衝器Dのシリンダ1の側部とに連結される筒状のダイヤフラム6とで空圧緩衝器Dの外周まわりに形成される気体室Gを備え、車体重量を支持する懸架バネとして機能している。したがって、上記した気体バネAにおける気体室G内の圧力を上記の給排手段Cから気体の供給によって気体室Gの容積を膨張させて上昇させると車体を上昇させることができ、逆に、給排手段Cを通じて気体室G内の気体をサスペンション装置S外部へ排気させて気体室Gの容積を減少させると車体を下降させることができる、すなわち、給排手段Cによって気体バネAにおける気体室G内の容積をコントロールすることで車高調節することが可能となっている。
【0023】
また、乗員や積荷によって車高が変化した場合には、重量変化に対して気体室G内の圧力をコントロールすることで、車高を一定に保つことも可能となっている。
【0024】
なお、図1に示したサスペンション装置Sでは、気体バネAと空圧緩衝器Dとが一体とされているが、気体バネAと空圧緩衝器Dとがそれぞれ独立して設置されてもよい。
【0025】
そして、一実施の形態における給排手段Cは、車両の四箇所の車輪と車体との間のそれぞれに介装される四つの気体バネAと空圧緩衝器Dに気体を給排するものであり、気体バネAと空圧緩衝器Dは、互いに協働してサスペンション装置Sを構成している。
【0026】
つづいて、給排手段Cは、コンプレッサ7と、コンプレッサ7の吐出口7aと気体バネAと空圧緩衝器Dとを結ぶ供給ライン8と、気体バネAと空圧緩衝器D内から気体を大気開放する排気ライン9と、供給ライン8と気体バネAとを連通および遮断するバネ側開閉弁10と、供給ライン8と空圧緩衝器Dとを連通および遮断する緩衝器側開閉弁11と、排気ライン9の途中に設けられて排気ライン9を開閉する排気弁12とを備えて構成されている。
【0027】
以下、給排手段Cについて詳細に説明すると、コンプレッサ7は、モータMによって駆動されると、吸込口7bから気体を吸込んで吐出口7aから大気側から吸込んだ気体を圧縮して供給ライン8に送り出すようになっている。なお、コンプレッサ7の駆動については、モータMによる以外にも、車両に搭載されるエンジンから動力を取り出して駆動させることもでき、さらに、車両が油圧ポンプを備えている場合には、モータMを電動モータではなく油圧モータとしてもよい。
【0028】
また、コンプレッサ7は、この実施の形態の場合、吸込口7bから大気を吸込んでシリンダ1へ供給するので、吸込口7bの上流側にはエアフィルタ13が設けられ、気体バネAや空圧緩衝器D内への埃や塵の侵入を防止している。
【0029】
供給ライン8は、一端がコンプレッサ7の吐出口7aに接続されると共に、他端が気体バネAに連通するバネ流路14と空圧緩衝器Dに連通する緩衝器流路15に接続されており、コンプレッサ7と気体バネAと空圧緩衝器Dとを連通している。
【0030】
なお、バネ流路14と緩衝器流路15は、四輪各輪に配置した各気体バネAと各空圧緩衝器Dへ気体供給可能なように、この場合、それぞれ四つずつ設けられており、緩衝器流路15は、車体側に連結される中空なロッド3の上端に連結されて、ロッド3の内部を介してシリンダ1内に連通されている。
【0031】
このように、ロッド3の上端に供給ライン8を連結してロッド3内を介してシリンダ1に連通するようにしているので、供給ライン8を含む給排手段Cの各部を車両の車体内方に配置することができ、供給ライン8を含む給排手段Cの各部を保護することができるとともに、供給ライン8の取り回しが複雑とならない利点がある。
【0032】
そして、供給ライン8の途中には、コンプレッサ7における吐出側となる上流から順に、コンプレッサ7から送り出される気体を乾燥させるドライヤ16、気体の流れに抵抗を与える絞り17および当該絞り17と並列に配置される上流側から下流へ向かう流れのみを許容する逆止弁18がそれぞれ配置されて設けられている。
【0033】
ドライヤ16は、この場合、吸着式を採用しており、内部に、シリカゲルや活性アルミナ等の水分を吸着する乾燥剤を収容しており、内部を通過する圧縮気体の水分を乾燥剤で吸着して当該圧縮気体を乾燥させることができるものである。
【0034】
また、ドライヤ16より下流であって絞り17と並列配置される逆止弁18は、コンプレッサ7が圧縮気体を供給する場合に、絞り17に優先して積極的に気体の通過を許容して、圧縮気体供給時に絞り17によるエネルギ損失を生じさせないように設けられる。
【0035】
さらに、この実施の形態の場合、気体バネAと空圧緩衝器Dの一方または両方から排気して気体を大気開放する場合に、供給ライン8の途中であってコンプレッサ7とドライヤ16との間に接続された排気ライン9を介して排気させる構成を採用して、気体バネAの気体室Gおよび空圧緩衝器Dのシリンダ1内に充填されていた乾燥した気体にドライヤ16を通過させるようにしている。
【0036】
そして、絞り17は、排気時の気体の流れに抵抗を与えて気体バネAと空圧緩衝器Dから排気される気体を急減圧して乾燥させる機能を果たすとともに、ドライヤ16にゆっくり気体を通過させるため、ドライヤ16を充分に燥効させることができる。
【0037】
なお、ドライヤ16の乾燥剤の乾燥には、上記したように乾燥気体の通過によっているが、これとは別に、乾燥剤を加熱する方法を採用するようにしてもよい。加熱して乾燥剤を乾燥させるようにして、特に、ドライヤ16の乾燥に気体通過を要しない場合、排気ライン9を供給ライン8の途中であって、ドライヤ16より下流側となる気体バネAおよび空圧緩衝器D側へ接続するようにしてもよい。
【0038】
つづいて、バネ側開閉弁10は、バネ流路14の途中に設けられており、バネ流路14を開放してコンプレッサ7と気体バネAとを連通する連通ポジション10aと、バネ流路14を閉じてコンプレッサ7と気体バネAとの連通を断つ遮断ポジション10bとを有し、一端に設けられて遮断ポジション10bを採るように附勢するバネ10cと、他端に設けられてバネ10cに対向するソレノイド10dとを備えており、このソレノイド10dを励磁すると、遮断ポジション10bから連通ポジション10aに切換わる、2ポート2位置の電磁切換式の開閉弁として構成されている。
【0039】
また、緩衝器側開閉弁11は、緩衝器流路15の途中に設けられており、緩衝器流路15を開放してコンプレッサ7と空圧緩衝器Dとを連通する連通ポジション11aと、緩衝器流路15を閉じてコンプレッサ7と空圧緩衝器Dとの連通を断つ遮断ポジション11bとを有し、一端に設けられて遮断ポジション11bを採るように附勢するバネ11cと、他端に設けられてバネ11cに対向するソレノイド11dとを備えており、このソレノイド11dを励磁すると、遮断ポジション11bから連通ポジション11aに切換わる、2ポート2位置の電磁切換式の開閉弁として構成されている。
【0040】
さらに、排気ライン9は、上述のように供給ライン8の途中であってコンプレッサ7とドライヤ16との間に接続されており、その途中には、当該排気ライン9を開閉する2ポート2位置の電磁切換式の排気弁12を設けてある。
【0041】
この排気弁12は、詳しくは、排気ライン9を開放する連通ポジション12aと、排気ライン9を遮断する遮断ポジション12bとを有し、一端に設けられて遮断ポジション12bを採るように附勢するバネ12cと、他端に設けられてバネ12cに対向するソレノイド12dとを備えており、このソレノイド12dを励磁すると、遮断ポジション12bから連通ポジション12aに切換わる、2ポート2位置の電磁切換式の開閉弁として構成されている。
【0042】
なお、上記したバネ側開閉弁10、緩衝器側開閉弁11および排気弁12には、スプール弁の使用も可能であるが、図示はしないが、環状の弁座と、当該弁座を塞ぐように離着座する円錐面や球面さらには上記弁座の軸方向端部を密閉可能な弾性体等を備えた弁体とで構成されるポペット弁を採用するとよく、ポペット弁とすることで、密封性が高く、気体漏れの心配がなく、また、コンタミにも強く、応答速度に優れる利点を享受することができる。
【0043】
そして、上記したバネ側開閉弁10を連通ポジション10aに切換えるとともに緩衝器側開閉弁11および排気弁12を遮断ポジション11b,12bに維持して、コンプレッサ7を駆動すると、コンプレッサ7から吐出される圧縮気体が気体バネAの気体室G内に供給され、気体室G内の圧力を高めて、圧力上昇見合で車高を上昇させることができる。
【0044】
さらに、上記した緩衝器側開閉弁11を連通ポジション11aに切換えるとともにバネ側開閉弁10および排気弁12を遮断ポジション10b,12bに維持して、コンプレッサ7を駆動すると、コンプレッサ7から吐出される圧縮気体が空圧緩衝器Dのシリンダ1内に供給され、シリンダ1内の圧力を高めてロッド反力を大きくし、ロッド反力上昇見合で車高を上昇させることができる。そして、シリンダ1内の圧力が上昇すると、気体密度が上昇し、気体が通路4を通過する際の抵抗が大きくなることから、シリンダ1内の圧力上昇によって空圧緩衝器Dにおけるピストン速度に対する減衰力を大きくすることができる。すなわち、シリンダ1内の圧力上昇によって空圧緩衝器Dの減衰特性(空圧緩衝器のピストン速度に対する発生減衰力の性質)をよりハードへ変更することができる。
【0045】
そしてまた、排気弁12を連通ポジション12aに切換えるとともに、バネ側開閉弁10あるいは緩衝器側開閉弁11を連通ポジション10a,11aに切換えると、気体バネAの気体室Gあるいは空圧緩衝器Dのシリンダ1から気体が排気されて、気体バネAの気体室Gあるいは空圧緩衝器Dのシリンダ1の圧力が減少し、圧力減少見合で車高を下降させることができ、特に、空圧緩衝器Dのシリンダ1内の圧力を減少させる場合には、空圧緩衝器Dにおけるピストン速度に対する減衰力を小さくする、すなわち、空圧緩衝器Dの減衰特性をよりソフトへ変更することができる。
【0046】
また、排気弁12の動作によらず、バネ側開閉弁10および緩衝器側開閉弁11を遮断ポジション10b,11bにしておくことで、気体バネAおよび空圧緩衝器Dは外部から隔絶されて、気体バネAおよび空圧緩衝器Dが密閉状態に維持される。
【0047】
このように、本実施の形態の空圧緩衝器Dでは、給排手段Cを備えて気体バネAおよび空圧緩衝器Dの圧力を調節することができるので、車高調節を行うことができるとともに、空圧緩衝器Dの減衰特性を調節することができる。
【0048】
また、本実施の形態の場合、バネ側開閉弁10、緩衝器側開閉弁11が、それぞれ、非通電時には各流路14,15を閉じて通電によって各流路14,15を開放するように設定されているので、万が一、給排手段Cにおけるシステムに通電不能となる事態が発生しても、気体バネAおよび空圧緩衝器Dを密閉状態に維持できるので、気体の温度変化によるもの以外の車高と減衰特性の変化を阻止でき、確実にフェールセーフモードに移行することが可能である。
【0049】
なお、上記した実施の形態の給排手段Cでは、気体バネAおよび空圧緩衝器Dへ気体供給時にはコンプレッサ7を駆動するようにしているが、供給ライン9の途中にアキュムレータを設置して、アキュムレータを蓄圧しておき、アキュムレータから気体バネAおよび空圧緩衝器Dへ気体供給するようにしてもよい。また、気体バネAおよび空圧緩衝器Dから排気された気体を上述したものとは別のアキュムレータへ溜めておいて、コンプレッサ7が大気に優先して当該アキュムレータ側から気体を吸込むようにして、気体圧縮率を低めてエネルギ消費が小さくなるようにしておく構成を採用してもよい。
【0050】
また、車高調節を行う気体バネAおよび空圧緩衝器Dが複数あって全てにおいて車高を上昇させる場合には、気体バネAおよび空圧緩衝器D内へ気体を供給するのみであるので、車高調節を行う気体バネAおよび空圧緩衝器Dの全てへ同時に気体を供給することができるが、気体バネAおよび空圧緩衝器Dへの気体の供給と気体バネAおよび空圧緩衝器Dからの気体の排気が混在する場合、気体バネAおよび空圧緩衝器Dから気体の排気する場合には、気体バネAおよび空圧緩衝器Dの一つずつ別々に車高調節作業を行うようにするとよい。この実施の場合、各輪における各気体バネAおよび各空圧緩衝器D内の圧力にバラつきがある場合があり、各気体バネAおよび各空圧緩衝器Dから同時排気すると内圧が低い各気体バネAおよび各空圧緩衝器Dに内圧が高い各気体バネAおよび各空圧緩衝器Dから気体が供給されてしまう場合があるからである。しかし、車高調節を行うに際して、同時排気することによる影響が軽微である場合には、各気体バネAおよび各空圧緩衝器Dから同時排気するようにしてもよい。
【0051】
このように、給排手段Cを備えたサスペンション装置Sは、上記の如くの車高調節および減衰特性調節を実現できるのであるが、車高調整の際に、気体バネAと空圧緩衝器Dのいずれか一方を選択して車高調整を行うため、給排手段Cを制御する制御部20を備えている。
【0052】
この実施の形態のサスペンション装置Sにあっては、具体的には、コンプレッサ7のモータM、バネ側開閉弁10、緩衝器側開閉弁11および排気弁12を制御する制御部20を備えており、当該制御部20が気体バネAおよび空圧緩衝器Dの圧力を調節して車高と減衰特性を制御するようになっている。
【0053】
以下、この制御部20について詳細に説明すると、制御部20は、車高を検知する車高センサ21と、空圧緩衝器Dのシリンダ1内の気体温度を検知する温度センサ22と、車速を検知する車速センサ23とを備えており、車速センサ23で検知した車速から車高目標値Xを設定し、当該車高目標値Xと車高センサ21で検知した車高Xから車高調整が必要な場合、温度センサ22が検知する気体温度に基づいて、コンプレッサ7のモータM、バネ側開閉弁10、緩衝器側開閉弁11および排気弁12を制御するようになっている。
【0054】
制御部20は、具体的にはたとえば、車速センサ23が検出した車速に基づいて車高目標値X*を決定する車高目標値設定部20aと、車高センサ21が出力する車高センサ信号に含まれる高周波成分を除去するローパスフィルタ20bと、高周波成分を除去した車高センサ信号から得られる車高Xが車高目標値X*の上下に設定される上限を規定する上方側の車高閾値α1と下限を規定する下方側の車高閾値α2を超えて乖離しているか否かを判断する車高判断部20cと、車高Xが前回車高調整時においてそのときの車高目標値Xに車高調整された時点における空圧緩衝器Dの気体温度を温度初期値Tiniとし、車高Xが車高目標値Xから上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離した時点における空圧緩衝器Dの気体温度Tが温度初期値Tiniの上下に設定される上限を規定する上方側の温度閾値β1と下限を規定する下方側の温度閾値β2を超えて乖離しているか否かを判断し、気体バネAと空圧緩衝器Dのいずれの機器によって車高調整を行うかを選択する温度判断部20dと、温度判断部20dによって選択された機器に気体を給排するべくコンプレッサ7のモータM、バネ側開閉弁10、緩衝器側開閉弁11および排気弁12を駆動する駆動部20eとを備えて構成されている。
【0055】
車高目標値設定部20aは、車両の走行速度(車速)から車高目標値X*を求める。車速から車高目標値X*を求めるのはマップ演算によってもよいし、車速変化に対して比例的、段階的に車高目標値X*を変化させるようにしてもよく、具体的には、たとえば、車速が高速となると、車高を下げて車両の重心を下げる方が走行が安定するため、車高目標値X*を下げる方向に誘導するとよく、車両に適するように車高目標値X*を決定するようにしておけばよい。
【0056】
つづいて、ローパスフィルタ20bは、車高センサ21が車高を検知して出力する車高センサ信号から高周波成分を除去する。このローパスフィルタ20bのカットオフ周波数は、車体への積載重量変化のみを検知する程度、たとえば、0.1Hz以下程度といった周波数に設定してあり、車高は車体が走行中に振動しても変化するが、ローパスフィルタ20bは、当該車体振動に起因する振動成分を車高センサ信号から除去するようになっている。
【0057】
なお、ローパスフィルタ20bは、車両の四輪各輪部分の設置された四つの車高センサ21から出力される信号を濾過するようになっており、ローパスフィルタ20bは、四輪各輪部分の車高Xn(n=1,2,3,4)を出力する。
【0058】
ここで、車高センサ21としては、路面に照射したレーザ光の反射光を検知して三角法で車高を求めるレーザ車高センサや、空圧緩衝器Dのストローク変位を検出して車高を得るストロークセンサや、サスペンションの車軸を保持すると共に車体に揺動可能なアームの車体に対する揺動角を検出して車高を求めるセンサ等といった各種センサを用いることができる。
【0059】
そして、車高判断部20cは、図2に示すように、ローパスフィルタ20bが出力した各車高Xnが車高目標値X*の上下に設定される上限と下限でなる上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離しているか否かを判断する。その結果を、温度判断部20dへ出力する。この車高判断部20cでの判断は、車高調整の要否を決するためのものであり、車高Xnが上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離している場合には車高調整が行われる。なお、車高調整の要否の判断は、四輪各輪のそれぞれについて行われ、たとえば、一箇所の車高Xnが上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離している場合には、当該乖離している車高Xnについて車高調整を行うようにする。
【0060】
そして、車高判断部20cは、車高Xnが上方側の車高閾値α1を上方に超えて乖離している場合には、車高を下降させる調整を必要と判断し、車高Xnが下方側の車高閾値α2を下方に超えて乖離している場合には、車高を上昇させる調整を必要と判断する。
【0061】
また、上方側の車高閾値α1は、任意の正の値を車高目標値X*に加算することで得られる値であり、車高上限を設定し、下方側の車高閾値α2は、任意の負の値を車高目標値X*に加算することで得られる値であり、車高下限を設定している。これら上方側および下方側の車高閾値α1,α2を決する上記正負の各値は、任意に設定されればよいが、たとえば、車両の走行に適した車高目標値X*に対して実際の車高Xnがそれ以上乖離すると乗り心地を害したり、走行安定性に影響を与えたりすると判断される値に設定される。しかし、これら値の絶対値があまりに小さいと車高調整が頻繁して却って乗り心地を損なったり、車両搭乗者に不安感や違和感を与えたりするところがあるので、経験的にあるいは実験的に車両に適する値に設定されればよい。
【0062】
温度判断部20dは、基本的には、図3に示すように、車高Xnが車高目標値Xから上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離した時点(図2中の時間tの時点)の気体温度Tが温度初期値Tiniの上下に設定される上限と下限でなる上方側および下方側の温度閾値β1,β2を超えて乖離しているか否かを判断する。
【0063】
この温度判断部20dにおける判断は、上記車高判断部20cで車高Xnが車高目標値Xから上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離した場合に行われればよく、温度判断部20dは、車高判断部20cが車高調整の要否を判断するのに対して、車高調整を気体バネAと空圧緩衝器Dのどちらを選択すればよいのかを判断する。なお、温度判断部20dは、四輪各輪のうち車高判断部20cで車高調整を要する車高調整を要するものについて、上記判断を行うようにすればよい。
【0064】
なお、温度センサ22は、この実施の形態の場合、空圧緩衝器D内の気体温度を直接計測するようになっているが、空圧緩衝器Dの外周に気体の温度が伝播するため、空圧緩衝器D自体の温度を計測することで気体温度を計測することに換えても良く、また、空圧緩衝器Dの外周側の温度と空圧緩衝器D内の気体温度の関連性を予めマップ化しておくなどして空圧緩衝器Dの外周温度を温度センサ22で計測して、この外周温度を補正して空圧緩衝器D内の気体温度を推定するようにしてもよい。したがって、空圧緩衝器D内の気体温度は、直接計測する他、推定によって求めるようしてもよい。
【0065】
詳しくは、温度初期値Tiniは、前回車高調整時において、車高Xnが車高目標値Xに車高調整された時点における空圧緩衝器Dの気体温度であり、今回車高調整を行うに当たり、空圧緩衝器Dの気体温度の変化を得るのに、前回車高調整時の空圧緩衝器Dの気体温度である温度初期値Tiniを基準としている。
【0066】
すなわち、前回車高調整時からの気体温度がどの程度変化したかによって、気体バネAと空圧緩衝器Dのどちらを選択すべきかを判断しており、車高Xnが車高目標値Xから上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離した時点の気体温度Tにおける温度初期値Tiniからの乖離幅が大きい場合、空圧緩衝器D内の気体温度変化による車高変化量の全車高変化量に占める割合が大きく、車両への積載重量変化による車高変化が少ないため、温度判断部20dは空圧緩衝器Dによって車高調整を行うことを選択する。
【0067】
そして、この実施の形態では、気体温度Tにおける温度初期値Tiniからの乖離幅が大きいことを認識するため、温度初期値Tiniの上下に上方側および下方側の温度閾値β1,β2を設け、この気体温度Tが上方側および下方側の温度閾値β1,β2を超える場合をもって乖離幅が大きいとしている。
【0068】
反対に、気体温度Tが温度初期値Tiniからの乖離が上方側および下方側の温度閾値β1,β2内である場合には、空圧緩衝器D内の気体温度変化による車高変化量の全車高変化量に占める割合が小さく、積載重量の変化による割合が大きいことから、車重変化についてはそもそも車体を支持している気体バネAで車高調整を行うほうが理に適っており、温度判断部20dは気体バネAによって車高調整を行うことを選択する。
【0069】
一般に、空圧緩衝器Dは、伸縮時に振動エネルギを熱エネルギに変換することで車体振動を減衰するため、車両走行によって伸縮を継続的に行うと、気体温度が上昇する傾向となるとともに、本実施の形態における供給手段は外気を取り込んで空圧緩衝器Dへ供給するようになっているから、温度初期値Tiniを一定値とする場合、車両走行時間や外気温によっては、空圧緩衝器Dへ気体を給排しても空圧緩衝器D内の気体温度が高止まりしてしまい、車高調整が常に空圧緩衝器Dによって行われる結果を招くおそれがあるが、前回車高調整時における気体温度を温度初期値Tiniとすることで、車高Xnが車高目標値Xに調整されたのちの車高変化量が空圧緩衝器D内の気体温度の変化に起因するものか否かを精度良く判断することができる。
【0070】
また、車高目標値設定部20aによって車高目標値Xが変更される場合、車高判断部20cで車高調整が必要とされる場合には、温度初期値Tiniが更新され、車高判断部20cで車高調整が必要とされない場合には、温度初期値Tiniが更新されない。車高目標値設定部20aによって車高目標値Xが変更される都度、温度初期値Tiniを更新していく場合、車高目標値Xが変更されても車高Xnが車高目標値Xから上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離せずに車高調整が行われないと、温度初期値Tiniが上昇し、いつまでたっても、空圧緩衝器Dによる車高調整が行われないといった事態が生じるが、実際に車高調整を行ったときに温度初期値Tiniを更新するので、温度初期値Tiniの上昇を防止することができ、車高調整時に空圧緩衝器Dが選択されず、空圧緩衝器D内の圧力が過上昇してしまう事態を防止することができる。
【0071】
そして、温度判断部20dは、車高判断部20cで車高を下降させる調整を行う判断がなされている場合、気体温度Tが上方側の温度閾値β1を上方に超えて乖離していると、空圧緩衝器D内から気体を排気して車高を下降させる調整を必要と判断し、反対に、気体温度Tが上方側の温度閾値β1から下方側の温度閾値β2の範囲内にあるときには気体バネAから気体を排気して車高を下降させる調整を必要と判断する。
【0072】
また、温度判断部20dは、車高判断部20cで車高を上昇させる調整を行う判断がなされている場合、気体温度Tが下方側の温度閾値β2を下方に超えて乖離していると、空圧緩衝器D内へ気体を供給して車高を上昇させる調整を必要と判断し、反対に、気体温度Tが上方側の温度閾値β1から下方側の温度閾値β2の範囲内にあるときには気体バネAへ気体を供給して車高を上昇させる調整を必要と判断する。
【0073】
なお、車高判断部20cで車高を下降させる調整を行う判断がなされている場合にあっても、気体温度Tが下方側の温度閾値β2を下方に超えて乖離している場合には、空圧緩衝器Dから気体を排気すると空圧緩衝器Dが発生する減衰力が小さくなってしまうことから、気体バネAを選択し、車高判断部20cで車高を上昇させる調整を行う判断がなされている場合にあっても、気体温度Tが上方側の温度閾値β1を上方に超えて乖離している場合には、空圧緩衝器Dへ気体を供給すると空圧緩衝器D内の圧力が過大となるので、気体バネAを選択するようにしている。
【0074】
なお、前回車高調整とは、車高判断部20cで車高調整を行う判断をして今回車高調整を行おうとする場合、その今回調整の直前の車高調整のことであり、前回と今回の関係では、車両が走行を継続していることを要しない。
【0075】
また、上方側の温度閾値β1は、任意の正の値を温度初期値Tiniに加算することで得られる値であり、温度上限を設定し、下方側の温度閾値β2は、任意の負の値を温度初期値Tiniに加算することで得られる値であり、温度下限を設定している。これら上方側および下方側の温度閾値β1,β2を決する上記正負の各値は、基本的には、それぞれ前回車高調整時には車高目標値Xにあった車高Xを車高目標値Xから上方側および下方側の車高閾値α1,α2だけ乖離させるのに見合った空圧緩衝器D内の気体温度変化量に設定されればよいが、空圧緩衝器D内の温度変化による圧力変化を抑制することを優先する場合、上方側および下方側の温度閾値β1,β2を上方側および下方側の車高閾値α1,α2見合いの気体温度変化量より小さくしておくとよい。
【0076】
上述したように、温度判断部20dは、車高判断部20cにおいて、車高調整の実施が必要な場合、気体バネAと空圧緩衝器Dのいずれかを選択し、選択された機器へ気体を給排するようにモータM、バネ側開閉弁10、緩衝器側開閉弁11および排気弁12を駆動すべく制御指令を駆動部20eへ入力する。なお、温度判断部20dは、車高判断部20cで車高調整を要しないと判断した場合には、モータM、バネ側開閉弁10、緩衝器側開閉弁11および排気弁12を駆動しないので、駆動部20eへ制御指令を入力しない。
【0077】
駆動部20eは、制御指令を受け取ると、制御指令通りにモータM、バネ側開閉弁10、緩衝器側開閉弁11および排気弁12を駆動して、四輪各輪に設置されている気体バネAあるいは空圧緩衝器Dのうち、車高判断部20cおよび温度判断部20dによって車高調節を行う必要があると判断された気体バネAの気体室Gあるいは空圧緩衝器Dにおけるシリンダ1へ気体を給排して、四輪各輪のうち車高調整が必要である車体部分の車高を調節する。なお、駆動部20eは、別途、ローパスフィルタ20bが出力する車高Xnをモニタしており、車高調節対象である車高Xnと車高目標値Xとを比較して車高調節対象である車高Xnが車高目標値Xとなるまで、モータM、バネ側開閉弁10、緩衝器側開閉弁11および排気弁12を駆動する。
【0078】
なお、本実施の形態の制御部20は、ハードウェア資源としては、図示はしないが、車高センサ21、温度センサ22および車速センサ23が出力するアナログの電圧でなる信号をデジタル信号に変換するA/D変換器と、これら信号を取り込み、上記各部の処理を実行するCPU(Central Processing Unit)と、上記CPUに記憶領域を提供するRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)と、上記各部の処理を行うためCPUが実行するアプリケーションやオペレーティングシステム等のプログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、モータMおよびソレノイド10d,11d,12dを駆動する駆動回路とを備えて構成されており、制御部20の各部における構成は、CPUが各部の処理を行うためアプリケーションプログラムを実行することで実現可能である。
【0079】
また、ローパスフィルタ20bは、この場合、CPUによる処理で実現されるとしているが、ローパスフィルタ20bが介装される手前までの処理がアナログ回路によって実行させるのであれば、ローパスフィルタ20bはアナログ信号を処理するフィルタとされてもよい。
【0080】
このように、本実施の形態の空圧緩衝器Dは、車高調整を行う際に、気体バネAと空圧緩衝器Dのうち、空圧緩衝器内の気体温度に基づいて一方を選択するようにしているので、車高変化が空圧緩衝器内の温度変化によるものか搭乗者の乗り降りや積荷の積み下ろし等による積載荷重の変化によるものかを把握して、気体バネAと空圧緩衝器Dのうち最適なものを選択して車高調整を行うことができる。
【0081】
すなわち、空圧緩衝器D内の気体温度が上昇して車高が上昇するような場合、シリンダ1内の圧力が上昇してシール部材にシリンダ内圧が作用してシール部材の緊迫力を高めてシール部材に大きな負荷がかかる事態となるが、このような場合、本実施の形態のサスペンション装置Sにあっては、空圧緩衝器Dを選択して空圧緩衝器D内から気体を排気することで車高を下降させることができ、空圧緩衝器D内の圧力上昇を防止してシール部材への負担を軽減でき、また、車両への積荷の積み下ろし等によって車高が変化する場合、気体バネAを選択して車高調整を行うので空圧緩衝器Dにおける減衰特性の変化を抑制し車両の乗り心地を悪化させずして車高調整を行うことができ、よって、気体バネAと空圧緩衝器Dのうち最適なものを選択して車高調整を行うことができるのである。
【0082】
さらに、このサスペンション装置Sにあっては、空圧緩衝器D内の気体温度Tが車高変化に見合って変化している場合に、空圧緩衝器Dを選択して車高調整を行うようにしているので、車高変化が空圧緩衝器Dの気体温度変化に起因しているか否かを判断して、気体バネAと空圧緩衝器Dのいずれにて車高調整を行うべきかを適切に判断できる。
【0083】
また、車高Xnが車高目標値Xに調整された時点における空圧緩衝器Dの気体温度を温度初期値Tiniとし、車高Xnが上記車高目標値Xから上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離した時点における空圧緩衝器Dの気体温度Tが上記温度初期値Tiniから上方側および下方側の温度閾値β1,β2を超えて乖離した場合、空圧緩衝器Dを選択して車高調整を行うようにしているので、車高変化が空圧緩衝器Dの気体温度変化に起因していることを精度良く判断することができ、空圧緩衝器D内の圧力が過上昇してしまう事態を防止することができる。
【0084】
なお、このサスペンション装置Sでは、車高Xnが車高目標値X*から上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離すると給排手段Cによって気体室Gあるいはシリンダ1内に気体を給排して車高を車高目標値X*となるように調節するようにしており、車高目標値X*と車高Xnのズレが大きくなると車高を調節することができるので、車高調節が頻繁となって車高が頻繁に制御によって変化してしまうことがなく、車両搭乗者に違和感を抱かせず、また、タイムリーに車高調節を行うことができる。
【0085】
さらに、この実施の形態の場合、四輪各輪において車高目標値X*を設定して、四輪における車高Xnが車高目標値X*から上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離する場合に、車高調節を行うようにしているが、四輪各輪における車高Xnの合計値Xallと四輪各輪における車高目標値Xallの合計値が車高目標値X*から上方側および下方側の車高閾値α1,α2を超えて乖離すると車高調節を行うようにしてもよく、このようにすることによっても、車高目標値X*と車高Xnのズレが大きくなると車高を調節することになるので、車高調節が頻繁となって車高が頻繁に制御によって変化してしまうことがなく、車両搭乗者に違和感を抱かせず、また、タイムリーに車高調節を行うことができる。さらに、四輪の車高Xnを加算するので車体が傾いた場合、たとえば、車両の右側車高が下降し左側車高が上昇するような場合、合計値Xallが変化しにくいので、車両が旋回や坂道を上り下りして車体が傾く状況となる場合に、これを車高変化として捉えて車高調節してしまうような事態を回避することができる。
【0086】
また、車高センサ21が出力する車高センサ信号を濾過して当該車高センサ信号に含まれる高周波成分を除去するローパスフィルタ20bを備えているので、車高センサ信号に重畳される車両走行時の振動による車高変化やノイズによって車高調節が行われることが阻止され、車高調節が頻繁に行われることを防止できる。
【0087】
なお、上記した給排手段Cの構成は一例であり、他の構成を用いて、気体バネAおよびシリンダ1へ気体の給排をしてもよいことは当然である。また、上述したところでは、制御部20へ車速センサ23で検出した車速を入力して制御部20にて車高目標値X*を設定するようにしているが、車速以外の情報を基に車高目標値X*を演算するようにしてもよく、また、制御部20は自身で車高目標値X*を求めるのではなく、上位の制御装置で演算した車高目標値X*の入力を受けてもよい。
【0088】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】この発明の一実施の形態のおけるサスペンション装置を示した図である。
【図2】車高と車高目標値との乖離を説明する図である。
【図3】温度初期値と気体温度の乖離を説明する図である。
【符号の説明】
【0090】
1 シリンダ
2 ピストン
3 ロッド
4 通路
5 チャンバ
6 ダイヤフラム
7 コンプレッサ
7a コンプレッサにおける吐出口
7b コンプレッサにおける吸込口
8 供給ライン
9 排気ライン
10 バネ側開閉弁
10a バネ側開閉弁における連通ポジション
10b バネ側開閉弁における遮断ポジション
10c バネ側開閉弁におけるバネ
10d バネ側開閉弁におけるソレノイド
11 緩衝器側開閉弁
11a 緩衝器側開閉弁における連通ポジション
11b 緩衝器側開閉弁における遮断ポジション
11c 緩衝器側開閉弁におけるバネ
11d 緩衝器側開閉弁におけるソレノイド
12 排気弁
12a 排気弁における連通ポジション
12b 排気弁における遮断ポジション
12c 排気弁におけるバネ
12d 排気弁におけるソレノイド
13 エアフィルタ
14 バネ流路
15 緩衝器流路
16 ドライヤ
17 絞り
18 逆止弁
20 制御部
20a 車高目標値設定部
20b ローパスフィルタ
20c 車高判断部
20d 温度判断部
20e 駆動部
21 車高センサ
22 温度センサ
23 車速センサ
A 気体バネ
C 給排手段
D 空圧緩衝器
G 気体室
r1 上室
r2 下室
S サスペンション装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と車軸との間に介装されて車体を弾性支持する気体バネと、車体と車軸との間に気体バネに並列に介装されて車体と車軸との相対振動を減衰する空圧緩衝器と、気体バネと空圧緩衝器に気体を給排する給排手段とを備え、空圧緩衝器内の気体温度に基づいて気体バネと空圧緩衝器の一方を選択して選択された一方に対して気体を給排して車高調整を行うことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
空圧緩衝器内の気体温度が車高変化に見合って変化している場合、空圧緩衝器を選択して車高調整を行うことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
車高が車高目標値に調整された時点における空圧緩衝器の気体温度を温度初期値とし、車高が上記車高目標値から上方側の車高閾値を超えて乖離した時点における空圧緩衝器の気体温度が上記温度初期値から上方側の温度閾値を超えて乖離している場合、空圧緩衝器を選択して車高調整を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
車高が車高目標値に調整された時点における空圧緩衝器の気体温度を温度初期値とし、車高が上記車高目標値から下方側の車高閾値を超えて乖離した時点における空圧緩衝器の気体温度が上記温度初期値から下方側の温度閾値を超えて乖離している場合、空圧緩衝器を選択して車高調整を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のサスペンション装置。
【請求項5】
車高を下降させる調整を行う際に気体温度が下方側の温度閾値を下方に超えている場合には、気体バネを選択して車高調整を行うことを特徴とする請求項3または4に記載のサスペンション装置。
【請求項6】
車高を上昇させる調整を行う際に気体温度が上方側の温度閾値を上方に超えている場合には、気体バネ選択して車高調整を行うことを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−196440(P2009−196440A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38309(P2008−38309)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】