説明

ステンレス鋼溶接継手の溶接金属およびその耐食性評価方法

【課題】フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板との異材溶接継手で、優れた耐食性を有する溶接金属および耐食性評価方法を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼異材溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.05質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値とその母相フェライト相のCr濃度差が10質量%以下、かつ粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相のCr濃度の差が5質量%以下。粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値とその母相フェライト相のCr濃度差、および/または粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相のCr濃度の差により耐食性を評価する耐食性評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プラント,建築材料,温水器,タンク,家電製品,自動車部品,厨房機器等の幅広い分野で利用可能なステンレス鋼の溶接継手に形成される溶接金属、およびその耐食性評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に広く使用されているステンレス鋼はオーステナイト系ステンレス鋼(たとえばSUS304等)とフェライト系ステンレス鋼(たとえばSUS430等)に大別される。オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304は、Feに約18質量%のCrと約8質量%のNiを添加したステンレス鋼であり、フェライト系ステンレス鋼であるSUS430は、Feに約17質量%のCrを添加したステンレス鋼である。
【0003】
SUS430とSUS304の耐食性を比べると、オーステナイト系ステンレス鋼(すなわちSUS304)の方が優れている。しかしながら、精錬技術の進歩に伴って溶鋼のCを低減する技術が確立され、フェライト系ステンレス鋼の耐食性を向上させることが可能となってきた。
【0004】
つまり、近年発達した技術を活用して製造したフェライト系ステンレス鋼やオーステナイト系ステンレス鋼は、いずれも耐食性に優れており、化学プラント,建築材料,温水器,タンク,家電製品,自動車部品,厨房機器等の様々な分野で使用されている。
【0005】
ステンレス鋼板を用いて所定の形状を有する製品を作製する際には、複数のステンレス鋼板を接合する必要が生じる。その接合技術としては、アーク溶接(たとえばティグ溶接,ミグ溶接,マグ溶接等)が広く採用される。
【0006】
アーク溶接で使用する溶接材料は、オーステナイト系ステンレス鋼板のアーク溶接では、308系および308L系(たとえばD308,D308L,Y308,Y308L等)などの溶接材料が使用され、低Cのフェライト系ステンレス鋼板のアーク溶接では、309L系(たとえばD309L,Y309L等)などの溶接材料が使用される。これらの溶接材料を使用すれば、溶接継手に形成される溶接金属の耐食性を確保する効果が得られる。
【0007】
ステンレス鋼板からなる製品を作製するにあたって、溶接施工の効率向上や溶接金属の健全性確保の観点から、フェライト系ステンレス鋼板同士の溶接あるいはオーステナイト系ステンレス鋼板同士の溶接が一般的である(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特許3190290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながらステンレス鋼板からなる製品の中には、各部位に応じて異なる特性が要求されるものがある。それぞれの部位に適した素材を用いて製品を作製するためには、フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板の溶接が必要になる場合がある。
【0009】
既に説明した通り、近年製造されるフェライト系ステンレス鋼板やオーステナイト系ステンレス鋼板は、いずれも耐食性に優れている。ところが、フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板の溶接によって形成される溶接金属は、耐食性が劣るという問題がある。
【0010】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板との溶接継手に、優れた耐食性を有する溶接金属を提供すること、およびその溶接金属の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記の課題を達成するために、フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板との溶接継手に形成される溶接金属の耐食性に及ぼす成分と組織の影響について鋭意検討を行なった。
【0012】
その結果、溶接金属の成分を制御することによって、溶接金属の耐食性を改善することが可能であるという知見を得た。さらに、溶接金属の組織を制御することによって、溶接金属の耐食性を一層向上できるという知見を得た。
【0013】
特に、溶接金属の耐食性に及ぼす組織の影響は、腐食が粒界で優先的に生じることが観察されたことから、粒界のCr欠乏層の形態と耐食性との相関について調査を行い、粒界およびその近傍でのCr欠乏量の形態を制御することで耐食性をコントロールできるという知見を得た。
【0014】
本発明は、これらの知見に、更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は、
1.フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.05質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値と、その母相フェライト相のCr濃度差が10質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
2.フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.05質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相Cr濃度の差が5質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
3.フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.05質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値とその母相フェライト相のCr濃度差が10質量%以下であり、かつ、粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相のCr濃度の差が5質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
4.フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.2質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値と、その母相フェライト相のCr濃度差が10質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
5.フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.2質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相Cr濃度の差が5質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
6.フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.2質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値とその母相フェライト相のCr濃度差が10質量%以下であり、かつ、粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相のCr濃度の差が5質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
7.前記フェライト系ステンレス鋼板が、C:0.030質量%以下、N:0.030質量%以下を含有し、CとNの合計含有量が0.050質量%以下であり、かつSi:0.60質量%以下、Mn:0.50質量%以下、P:0.040質量%以下、S:0.010質量%以下、Cr:20.5〜22.5質量%、Cu:0.001〜1.00質量%、Ni:1.00質量%以下、Al:0.10質量%以下を含有し、さらにNb:0.10〜1.00質量%およびTi:0.10〜1.00%の中から選ばれる1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする1乃至6の何れか一つに記載のステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
8.前記フェライト系ステンレス鋼板が、さらにV:0.01〜0.5質量%、W:0.01〜5質量%およびB:0.0002〜0.0030質量%の中から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする7に記載のステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
9.フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接する異材継手における溶接金属の耐食性評価方法であって、粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値とその母相フェライト相のCr濃度差、および/または粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相のCr濃度の差により耐食性を評価するステンレス鋼溶接継手の溶接金属の耐食性評価方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板を溶接する異材継手における溶接金属の耐食性が向上し、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明では、1.溶接金属の成分、2.ミクロ組織、3.ミクロ組織中のCrの分布状態を規定する。
[溶接金属の成分]
Cr:18〜21質量%
Crは、溶接金属の耐食性を向上させるために不可欠な元素であり、溶接に用いるステンレス鋼板や溶接ワイヤから溶接金属に供給される。ただし、Cr含有量が18質量%未満では、溶接金属の耐食性を向上させる効果が得られない。一方、21質量%を超えると、ステンレス鋼板の靭性が低下する。したがって、Crは18〜21質量%の範囲内とする。
【0017】
Mo:0.1質量%以下
Moは、溶接金属の耐食性を向上させる元素であり、溶接に用いるステンレス鋼板や溶接ワイヤから溶接金属に供給される。しかしMoは高価であるから、過剰に含有させると、ステンレス鋼板の製造コスト(あるいはステンレス鋼板を溶接して作製する製品の製造コスト)の上昇を招く。したがって、Moは0.1質量%以下とする。Moは不可避的不純物程度に含有していても効果がある。そのため、Moは0.001〜0.1質量%の範囲内が好ましい。
【0018】
Cu:0.5質量%以下
Cuは、Moと同様に、溶接金属の耐食性を向上させる元素であり、溶接に用いるステンレス鋼板や溶接ワイヤから溶接金属に供給される。しかしCuを過剰に含有させると、ステンレス鋼板の熱間加工性が低下する。したがって、Cuは0.5質量%以下とする。Cuは不可避的不純物程度に含有していても効果がある。そのため、Cuは0.001〜0.5質量%の範囲内が好ましい。
【0019】
Nb:0.03〜0.25質量%
Nbは、優先的に炭窒化物を形成する元素であり、ステンレス鋼板の溶接時に溶接金属中のCrがCやNと結合するのを防止し、粒界腐食を抑制する効果を有する。Nb含有量が0.03質量%未満では、その効果が得られない。一方、0.25質量%を超えると、溶接時の高温割れが発生し易くなる。しかしながらNb含有量を0.03〜0.25質量%とし、Tiを添加することによって、高温割れを防止できる。したがって、Nbは0.03〜0.25質量%の範囲内とする。
【0020】
Ti:0.05質量%以下あるいは0.2質量%以下
Tiは、Nbと同様に、優先的に炭窒化物を形成する元素であり、ステンレス鋼板の溶接時に溶接金属中のCrがCやNと結合するのを防止し、粒界腐食を抑制する効果を有する。しかし、後述するオーステナイト相のC含有量が0.08質量%以下である場合は、Ti含有量が0.05質量%を超えると、溶接時に高温割れが発生し易くなる。しかしながらTi含有量を0.05質量%以下とし、Nbを添加することによって、高温割れを防止できる。したがって、Tiは0.05質量%以下とする。Tiは不可避的不純物程度に含有していても効果がある。そのため、Tiは0.001〜0.05質量%の範囲内が好ましい。
【0021】
あるいは、後述するオーステナイト相のC含有量が0.06質量%以下である場合は、Ti含有量が0.2質量%を超えると、オーステナイトの生成が阻害される。したがって、Tiは0.2質量%以下とする。ただし、好ましくは0.03〜0.2質量%である。
【0022】
N:0.04質量%以下
Nは、Crと結合してCr窒化物を形成する元素である。溶接金属にCr窒化物が析出すると、溶接金属の耐食性を向上するCrの効果が得られない。N含有量が0.04質量%を超えると、溶接金属にCr窒化物が析出し易くなる。したがって、Nは0.04質量%以下とする。ただしN含有量が0.0050質量%未満では、溶接金属でのオーステナイト相の生成量が少なくなってしまう。そのため、Nは0.0050〜0.04質量%の範囲内が好ましい。
【0023】
上記した溶接金属の成分は基本成分であり、本発明では、その他の元素も適宜含有させることができる。たとえばP,S,Al,Cu,Ni,V,W,B,Ca等である。
[ミクロ組織]
オーステナイト相の分率:20%以上
溶接金属は、オーステナイトとフェライトの2相組織である。ただし、溶接に用いるステンレス鋼板や溶接ワイヤの成分あるいは溶接の条件によっては、オーステナイトの一部がマルテンサイトとなる。
【0024】
オーステナイト相の分率が20%未満では、溶接金属に耐食性を付与することは困難である。したがって、オーステナイト相の分率は20%以上とする。ただし、オーステナイト相の分率が80%を超えると、溶接金属の耐食性は向上するが、一般的な溶接方法で80%を超えるオーステナイト相分率を得ることは困難である。
【0025】
したがって、オーステナイト相の分率は20〜80%の範囲内が好ましい。なお上記した値は、溶接金属の組織を観察することによってオーステナイト相の分率を求める方法、あるいはシェフラー状態図に基づいて溶接金属の成分からオーステナイト相の分率を求める方法で得られる。
【0026】
オーステナイト相のC含有量:0.08質量%以下あるいは0.06質量%以下
Cは、Crと結合してCr炭化物を形成する元素である。溶接金属にCr炭化物が析出すると、溶接金属の耐食性を向上するCrの効果が得られない。
【0027】
溶接金属のTi含有量が0.05質量%以下の場合は、オーステナイト相のC含有量が0.08質量%を超えると、溶接金属にCr炭化物が析出し易くなる。したがって、Cは0.08質量%以下とする。
【0028】
ただしオーステナイト相のC含有量が0.005質量%未満では、溶接金属でのオーステナイト相の生成量が少なくなってしまう。そのため、Cは0.005〜0.08質量%の範囲内が好ましい。
【0029】
あるいは、溶接金属のTi含有量が0.2質量%以下の場合は、オーステナイト相のC含有量が0.06質量%を超えると、溶接金属にCr炭化物が析出し易くなる。したがって、Cは0.06質量%以下とする。
【0030】
ただしオーステナイト相のC含有量が0.005質量%未満では、溶接金属でのオーステナイト相の生成量が少なくなってしまう。そのため、Cは0.005〜0.06質量%の範囲内が好ましい。
【0031】
なおオーステナイト相のC含有量は、溶接金属のC含有量を、溶接金属のオーステナイト相(マルテンサイト相を含む)の分率で除した値である。
【0032】
以上に説明したミクロ組織とする場合、上述した溶接金属の成分において、更にCr当量、Ni当量を規定することが好ましい。
【0033】
Cr当量:18〜25,Ni当量:3〜17
Cr当量は、フェライト安定化元素を用いた下記の(1)式で算出される値であり、Ni当当量はオーステナイト安定化元素を用いた下記の(2)式で算出される値である。
【0034】
Cr当量=[%Cr]+[%Mo]+1.5[%Si]+0.5[%Nb] ・・・(1)
Ni当量=[%Ni]+30[%C]+0.5[%Mn] ・・・(2)
[%Cr]:溶接金属のCr含有量(質量%)
[%Mo]:溶接金属のMo含有量(質量%)
[%Si]:溶接金属のSi含有量(質量%)
[%Nb]:溶接金属のNb含有量(質量%)
[%Ni]:溶接金属のNi含有量(質量%)
[%C]:溶接金属のC含有量(質量%)
[%Mn]:溶接金属のMn含有量(質量%)
溶接金属をオーステナイトとフェライトの2相組織とするために、Cr当量を18〜25,Ni当量を3〜17の範囲内とする。したがって、溶接金属に含有されるCr,Mo,Si,Nb,Ni,C,Mnは、Cr当量とNi当量が所定の範囲内を満足するように調整する。たとえば、好適な成分を有するステンレス鋼板やステンレス溶接ワイヤを選択して溶接する等の方法で、溶接金属のCr,Mo,Si,Nb,Ni,C,Mnの含有量を調整する。
[ミクロ組織中のCr分布状態]
ミクロ組織中のCr分布状態を、粒界または粒界近傍のフェライト相側のCr濃度の最小値とその母相フェライト相のCr濃度差が10質量%以下、および/または、粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相のCr濃度の差が5質量%以下に規定する。好ましくは、フェライト母相との濃度差が5質量%以下、オーステナイト相との差が3質量%以下である。
【0035】
上記規定において、粒界または粒界近傍のフェライト相側(オーステナイト相側)は、1)オーステナイト相(γ相)とフェライト相(α相)の界面、2)フェライト相−炭化物界面もしくはオーステナイト相−炭化物界面の直上、ならびに、3)界面から数10nm以内の界面近傍、の何れかとする。尚、Cr濃度の最小値は、これらにおいてもっともCrが欠乏した箇所のCr濃度である。
【0036】
図2に、異材継手溶接金属のフェライト−オーステナイト粒界におけるCrの濃度分布を、表1に分析で得られた各点の分析値を示す。
【0037】
異材継手は、表2の記号Aで示す成分のフェライト系ステンレス鋼(0.010C−0.30Si−0.20Mn−0.023P−0.003S−0.020Al−21.5Cr−0.07Cu−0.20Ni−0.08Mo−0.21Nb−0.15Ti−0.010N)と、表3の記号aで示すオーステナイト系の鋼(0.068C−0.42Si−1.25Mn−0.022P−0.003S−0.01Al−18.0Cr−0.24Cu−8.12Ni−0.09Mo−0.01Nb−0.01Ti−0.035N;SUS304)をミグ溶接で溶接して作成した。供試材の板厚はいずれも1.5mmで、ミグ溶接は、溶接材料をY308、溶接電流100〜110A,溶接電圧18〜20V,溶接速度640mm/分で行った。
【0038】
【表1】

【0039】
測定は図1に示すフェライト−オーステナイト粒界(透過電子顕微鏡写真)のライン分析個所をエネルギー分散型X線分光法にて行い、粒界から各相の内部にかけて行い、1〜2nmの間隔で組成の分析を行った。
【0040】
図2および表1から、粒界近傍ではCr濃度の減少が生じ、Crの減少量はフェライト相(α相)では母相21.5質量%に対して、もっとも減少量の大きな粒界2nmの点では11.8質量%で、その減少量は9.7質量%だった。
【0041】
一方、オーステナイト相(γ相)側は、母相が17.5質量%に対し最も減少した点が粒界2nmの点で14.4質量%で、その減少量は3.1質量%であった。
【0042】
図3は、同様の測定を複数の異材継手について行った結果を示し、Crの濃度分布と試料の耐食性の相関を示す。フェライト相(α相)側とオーステナイト相(γ相)側ではCrの濃度差(以下、欠乏量とも呼ぶことがある)の形態に違いがあり、また、Crの濃度差(欠乏量)が存在していても一定以上の値であれば耐食性に問題ないことがわかった。
【0043】
異材継手の耐食性は溶接ビードの余盛を除去した後、溶接金属部の複合サイクル腐食試験を行って評価した。試験は塩水噴霧(35℃、2時間、5質量%NaCl)→乾燥(60℃、4時間)→湿潤(50℃、2時間)を1サイクルとして、繰り返し30サイクルを行った。
【0044】
以上より、粒界または粒界近傍のフェライト相(α相)側のCr濃度の最小値とその母相フェライト相のCr濃度差が10質量%以下、好ましくは、5質量%以下、および/または、粒界近傍のオーステナイト相(γ相)側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相のCr濃度の差が5質量%以下、好ましくは3質量%以下に規定する。
【0045】
尚、Cr欠乏層の形態は、透過電子顕微鏡、走査透過電子顕微鏡、三次元アトムプローブにより評価を行うこと可能である。定量性および装置の汎用性が高い、電界放出型電子銃を備えた透過電子顕微鏡および走査透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光分析を用いることが好ましい。
【0046】
エネルギー分散型X線分光分析で行うCr欠乏層の評価は、ナノレベルでの分析が必要であるため、分析は電界放出型電子銃を用いた装置で、電子線直径を1〜2nmの直径に収束させ、粒界および粒界近傍の組成分析を行うことが望ましい。
【0047】
また、エネルギー分散型X線分光分析では、Cr組成の分析を行うために、測定による統計誤差を小さくするために、一点当たりの測定時間を10秒以上、望ましくは30秒程度行うことが望ましい。
【0048】
分析では、他の炭化物や粒界のオーバーラップによる組成の重なりを防ぐために、電子線に対して粒界を垂直にして分析を行う必要がある。また、定量分析ではCrの欠乏量を評価することが目的のため、微量添加元素によるCr組成分析誤差の影響を防ぐために、Fe−Crの2成分もしくはFe−Cr−Niの三成分で定量計算を行う。
【0049】
また、定量分析は、透過電子顕微鏡のEDX分析で通常よく使用される薄膜近似法を用いて計算を行えばよい。母相のCr濃度については、粒界から100nm以上内部に入った領域について3点測定を行い、その平均値とする。
【0050】
組織観察用試料の作製は、溶接金属部から電解研摩による試料作製や、集束イオンビーム(FIB)加工によるピンポイントで試料作製法で行えばよい。
【0051】
本発明に係る溶接金属を形成するために好適なフェライト系ステンレス鋼板の成分について、以下に説明する。尚、オーステナイト系ステンレス鋼板はJIS規格適合材であれば良い。
【0052】
C:0.030質量%以下,N:0.030質量%以下,CとN:合計0.050質量%以下
CとNは、溶接時にCrと結合してCr炭化物,Cr窒化物を形成する。溶接金属にCr炭化物,Cr窒化物が析出すると、Cr欠乏層が生じて粒界腐食を助長する。
【0053】
したがって、C,Nが少ないほど、溶接金属の粒界腐食を抑制できる。このような理由で、C含有量を0.030質量%以下,N含有量を0.030質量%以下とし、かつCとNの合計含有量を0.050質量%以下とする。
【0054】
好ましくは、C含有量を0.015質量%以下,N含有量を0.015質量%以下とし、かつCとNの合計含有量を0.030質量%以下である。ただしC含有量が0.0050質量%未満では、溶接金属でのオーステナイト相の生成量が少なくなってしまう。
【0055】
そのため、Cは0.0050〜0.030質量%の範囲内が好ましい。またN含有量が0.0050質量%未満では、溶接金属でのオーステナイト相の生成量が少なくなってしまう。そのため、Nは0.0050〜0.030質量%の範囲内が好ましい。CとNの合計含有量は0.0050〜0.030質量%の範囲内が好ましい。
【0056】
Si:0.60質量%以下
Siは、溶接金属の強度を増加させる元素であり、強度の増加に伴って加工性,靭性を低下させる。したがって、Siは可能な限り低減することが望ましいが、溶接金属の耐酸化性を向上する作用を有する。
【0057】
このような理由で、Si含有量を0.60質量%以下とする。好ましくは0.20質量%以下である。ただしSi含有量が0.01質量%未満では、強度を確保することが困難になる。そのため、Siは0.01〜0.60質量%の範囲内がより好ましい。0.05〜0.20質量%の範囲内が一層好ましい。
【0058】
Mn:0.50質量%以下
Mnは、溶接時にSと結合してMnSを形成する。このMnSは可溶性硫化物であり、溶接金属の耐食性に悪影響を及ぼす。このような理由で、Mn含有量を0.50質量%以下とする。好ましくは0.30質量%以下である。
【0059】
ただしMn含有量が0.01質量%未満では、強度を確保することが困難になる。そのため、Mnは0.01〜0.50質量%の範囲内がより好ましい。0.05〜0.30質量%の範囲内が一層好ましい。
【0060】
P:0.040質量%以下
Pは、熱間加工性と耐食性に有害な元素である。特に、ステンレス鋼板のPが0.040質量%を超えると、溶接金属の耐食性が著しく低下する。したがって、Pは0.040質質量%以下とする。ただし、Pは不可避的不純物程度に含有していてもかまわない。
【0061】
S:0.010質量%以下
Sは、熱間加工性と耐食性に有害な元素である。特に、ステンレス鋼板のSが0.010質量%を超えると、溶接金属の耐食性が著しく低下する。したがって、Sは0.010質量%以下とする。好ましくは0.005質量%以下である。ただし、Sは不可避的不純物程度に含有していてもかまわない。
【0062】
Cr:20.5〜22.5質量%
Crは、耐食性を向上させる元素であり、特にフェライト系ステンレス鋼板では不可欠の元素である。SUS304に相当する耐食性を得るためには、Crを20.5質量%以上含有する必要がある。
【0063】
一方、22.5質量%を超えると、ステンレス鋼板の靭性が著しく低下し、その製造に支障をきたす。したがって、Crは20.5〜22.5質量%の範囲内とする。
【0064】
Cu:0.001〜1.00質量%
Cuは、耐食性を向上させる元素である。Cu含有量が0.001質量%未満では、溶接金属の耐食性を向上する効果が得られない。一方、1.00質量%を超えると、熱間加工性が劣化するのでステンレス鋼板の製造に支障をきたす。したがって、Cuは0.001〜1.00質量%の範囲内とする。好ましくは0.40〜0.70質量%である。
【0065】
Ni:1.00質量%以下
Niは、耐食性を向上させる元素である。またCuに起因する熱間加工性の劣化を抑制する効果も有する。ただしNiは高価であるので、ステンレス鋼板の製造コストを削減する観点から、1.00質量%以下とする。Niは不可避的不純物程度に含有していても効果がある。そのため、Niは0.001〜1.00質量%の範囲内が好ましい。
【0066】
Al:0.10質量%以下
Alは、溶接時に溶接金属の脱酸剤として作用するとともに、Nと結合して固溶Nの低減に寄与する元素である。Al含有量が0.10質量%を超えると、脱酸効果と固溶N低減効果のさらなる向上が期待できない。
【0067】
したがって、Alは0.10質量%以下とする。ただしAl含有量が0.005質量%未満では、脱酸効果が得られない。そのため、Alは0.005〜0.10質量%の範囲内が好ましい。
【0068】
Nb:0.10〜1.00質量%とTi:0.10〜1.00質量%の中から選ばれる1種または2種
NbとTiは、いずれも溶接時に炭窒化物を形成して固溶C,固溶Nを低減することによって、Crの炭窒化物の形成を抑制し、溶接金属の延性,靭性,耐食性を高める作用を有する。
【0069】
またNbは、溶接金属の高温強度を向上させる作用も有する。NbとTiは、いずれもその含有量が0.10質量%未満では、これらの効果が得られない。一方、いずれもその含有量が1.00質量%を超えると、溶接金属の延性が低下する。
【0070】
したがって、Nb:0.10〜1.00質量%,Ti:0.10〜1.00質量%の範囲内とする。好ましくは、Nb:0.30〜0.50質量%,Ti:0.15〜0.45質量%である。なおNbとTiは、いずれか片方を添加しても良いし、あるいは両方を併用しても良い。
【0071】
更に、所望する特性に応じて下記の成分を含有しても良い。
【0072】
V:0.01〜0.5質量%,W:0.01〜5質量%,B:0.0002〜0.0030質量%の中から選ばれる1種または2種以上
VとWは、いずれも溶接熱影響部の溶接割れ感受性を改善する作用を有する。またNbは、溶接金属の高温強度を向上させる作用も有する。VとWは、いずれもその含有量が少な過ぎると、これらの効果が得られない。
【0073】
一方、いずれもその含有量が過大であれば、溶接熱影響部の靭性が低下する。したがって、V:0.01〜0.5質量%,W:0.01〜5質量%の範囲内とする。
【0074】
好ましくは、V:0.05〜0.3質量%,W:0.1〜3質量%である。なおVとWは、いずれか片方を添加しても良いし、あるいは両方を併用しても良い。
【0075】
B:0.0002〜0.0030質量%
Bは、焼入れ性を向上させる元素であり、溶接熱影響部の靭性を改善する効果を有する。B含有量が0.0002質量%未満では、その効果が得られない。一方、0.0030質量%を超えると、溶接熱影響部の強度が過剰に上昇して、靭性と加工性が損なわれる。したがって、Bは0.0002〜0.0030質量%の範囲内とする。好ましくは0.0005〜0.0010質量%である。
【0076】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物は、ステンレス鋼を溶製する段階や圧延する段階で不可避的に混入する。
【0077】
不可避的不純物としては、たとえばO,Mg,Mo,Ca等が挙げられる。これらの元素の含有量は、たとえばO:0.015質量%以下,Mg:0.0020質量%以下,Ca:0.0020質量%以下が許容できる。望ましい製造方法は以下のようである。
【0078】
転炉,電気炉,真空溶解炉等で1次精錬を行ない、次いで強攪拌真空酸素脱炭処理(いわゆるVOD)法,アルゴン酸素脱炭処理(いわゆるAOD)法等で2次精錬を行ない、所定の成分を有する溶鋼を溶製する。得られた溶鋼を連続鋳造あるいは造塊に供してスラブとする。
【0079】
スラブを1100〜1250℃に加熱して熱間圧延を行ない、熱延コイル(厚さ2.0〜6.0mm程度)とし、さらに800〜1100℃で焼鈍した後、酸洗を行なう。焼鈍温度が800℃未満では、熱間圧延によって発生した歪が残留して熱延コイルが硬くなり、表面に疵が生じ易くなる。
【0080】
一方、焼鈍温度が1100℃を超えると、粗粒化に起因して熱延コイルの靭性が低下する。なお熱延コイルとは、熱延鋼板を巻き取ったものを指す。
【0081】
酸洗した熱延コイルを冷間圧延し、さらに仕上げ焼鈍と酸洗を施して冷延コイル(厚さ0.03〜5.00mm程度)とする。冷間圧延の圧下率は、靭性,加工性等の機械的性質を良好に保つために、25%以上が好ましい。
【0082】
より好ましくは50%以上である。また冷間圧延から酸洗に至る工程は、繰り返し行なっても良い。仕上げ焼鈍として、光輝焼鈍を行なっても良い。なお冷延コイルとは、冷延鋼板を巻き取ったものを指す。
【0083】
異材継手を溶接する場合、溶接法は、不活性ガス雰囲気で溶接材料(たとえば溶接ワイヤ,溶加材等)を用いて行なうティグ溶接,ミグ溶接,マグ溶接等が好ましい。
【0084】
ただし、溶接して得た溶接金属に炭化物が析出する1000℃から600℃までの温度域における冷却速度が10℃/秒未満では、Cr炭化物が多量に析出して、溶接金属の耐食性が著しく低下する。したがって、1000℃から600℃までの範囲を10℃/秒以上の冷却速度で冷却する。
【実施例】
【0085】
表2に示すステンレス鋼を小型溶解炉で溶解し、50kgの鋼塊とした。得られた鋼塊を1150℃に加熱し、仕上げ温度750℃、巻き取り温度650℃の条件で熱間圧延を行い、厚さ4mmの熱延鋼板とした。
【0086】
得られた熱延鋼板を800℃で焼鈍し、さらに酸洗した後、冷間圧延を施して厚さ1.5mmの冷延鋼板とした。次いで、冷延鋼板を950℃で仕上げ焼鈍を行い、さらに冷却,酸洗を行なった。
【0087】
【表2】

【0088】
その冷延鋼板を、表3に示す鋼記号aの成分を有するステンレス鋼板(SUS304相当,厚さ1.5mm)と組み合わせてミグ溶接にて突合せ溶接を行い、溶接継手を作製した。開先形状はI開先とし、ギャップは種々調整して鋼板の希釈率を変更した。ミグ溶接の条件は下記の通りである。
【0089】
溶接電圧 :18〜20V
溶接電流 :90〜110A
溶接速度 :600〜800mm/分
シールドガス成分:Ar−2体積%O
シールドガス流量:15 liter/分
溶接ワイヤ :Y308,Y308L,
ワイヤ径 :1.2mm
得られた溶接継手の溶接ビードを中心にして、幅60mm,長さ80mmの試験片を採取し、溶接ビードの余盛を機械加工で除去した後、#600番の研磨紙で研磨して、溶接によるテンパーカラーを除去した。
【0090】
【表3】

【0091】
次に、溶接継手の耐食性を調査するため、複合サイクル腐食試験を行なった。複合サイクル腐食試験は、塩水噴霧(35℃,2時間,5質量%NaCl)→乾燥(60℃,4時間)→湿潤(50℃,2時間)を1サイクルとして、繰り返し30サイクルを行った。
【0092】
複合サイクル腐食試験が終了した後、溶接金属の外観を目視で観察し、発錆状況を調査した。発錆状況は、赤錆なしをA,赤錆面積10%未満をB,赤錆面積10%以上30%未満をC,赤錆面積30%以上70%未満をD,赤錆面積70%以上をEとして評価した。
【0093】
組織観察は、ビード部中心から幅10mmの領域から透過電子顕微鏡用試料を作製した。今回の分析では、直径3mmの薄膜試料を電解研摩により作製した。オーステナイト相の分率は、15〜40%程度であった。
【0094】
Crの濃度差は、粒界および粒界から2nm、5nm離れた箇所を電界放出型電子顕微鏡を用いて、2nm直径のビームを用いてエネルギー分散型X線分光により評価した。測定は、一点辺り15秒(分析実時間)で行った。また、母相については、粒界から200nm離れた領域について3点測定した。このときの分析時間も前記と同様に一点辺り15秒で行った。Cr濃度の計算は、Fe,Cr,Niの三元素を用いて定量計算を行い、母相と粒界近傍でのCr濃度の差の最大値をCrの濃度差として評価した。
【0095】
表4に結果を示す。得られた結果から、継ぎ手記号2,3,4では、Crの濃度差、即ち欠乏量、の違いが本発明範囲内であるために、耐食性が優れ、1.5では耐食性に問題があることがわかった。
【0096】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】透過電子顕微鏡によるフェライト−オーステナイト粒界を示す図。
【図2】図1中に線で示したフェライト−オーステナイト粒界における、Crの組成分布を示す図。
【図3】Crの濃度分布と試料の耐食性との相関関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.05質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値と、その母相フェライト相のCr濃度差が10質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
【請求項2】
フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.05質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相Cr濃度の差が5質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
【請求項3】
フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.05質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値とその母相フェライト相のCr濃度差が10質量%以下であり、かつ、粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相のCr濃度の差が5質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
【請求項4】
フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.2質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値と、その母相フェライト相のCr濃度差が10質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
【請求項5】
フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.2質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相Cr濃度の差が5質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
【請求項6】
フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接して形成されるステンレス鋼溶接継手の溶接金属であって、Cr:18〜21質量%、Mo:0.1質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Nb:0.03〜0.25質量%、Ti:0.2質量%以下、N:0.04質量%以下を含有し、粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値とその母相フェライト相のCr濃度差が10質量%以下であり、かつ、粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相のCr濃度の差が5質量%以下であることを特徴とするステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
【請求項7】
前記フェライト系ステンレス鋼板が、C:0.030質量%以下、N:0.030質量%以下を含有し、CとNの合計含有量が0.050質量%以下であり、かつSi:0.60質量%以下、Mn:0.50質量%以下、P:0.040質量%以下、S:0.010質量%以下、Cr:20.5〜22.5質量%、Cu:0.001〜1.00質量%、Ni:1.00質量%以下、Al:0.10質量%以下を含有し、さらにNb:0.10〜1.00質量%およびTi:0.10〜1.00%の中から選ばれる1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一つに記載のステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
【請求項8】
前記フェライト系ステンレス鋼板が、さらにV:0.01〜0.5質量%、W:0.01〜5質量%およびB:0.0002〜0.0030質量%の中から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項7に記載のステンレス鋼溶接継手の溶接金属。
【請求項9】
フェライト系ステンレス鋼板とオーステナイト系ステンレス鋼板とを溶接する異材継手における溶接金属の耐食性評価方法であって、粒界または粒界近傍フェライト相側のCr濃度の最小値とその母相フェライト相のCr濃度差、および/または粒界近傍のオーステナイト相側のCr濃度の最小値と、その母相オーステナイト相のCr濃度の差により耐食性を評価するステンレス鋼溶接継手の溶接金属の耐食性評価方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−23106(P2010−23106A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190439(P2008−190439)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】