説明

ステージ装置、露光装置及びデバイス製造方法

【課題】 レチクルのような板部材を強固に保持すると共に、板部材の上面、下面又は板部材を保持する部材に異物が付着していても板部材を歪ませることのないステージ装置を提供する。
【解決手段】 ステージ装置は、ステージと、前記ステージに設けられていて、前記板部材の下面に当接して前記板部材の面に垂直な方向における前記板部材を位置決めする第1位置決め部材と、前記ステージに設けられていて、前記板部材の上面に当接して前記第1位置決め部材と共に前記板部材の面に垂直な方向における前記板部材を位置決めする第2位置決め部材と、前記第1位置決め部材の周囲に第1密閉空間を形成する弾性を有する第1密閉部材と、前記第2位置決め部材の周囲に第2密閉空間を形成する弾性を有する第2密閉部材と、前記第1密閉空間と前記第2密閉空間とに前記板部材を真空吸着させるように、前記第1密閉空間及び前記第2密閉空間から空気をそれぞれ吸引する第1吸引機構及び第2吸引機構と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ装置、露光装置及びデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置における従来のレチクルステージでは、真空パッド上にレチクル下面のパターンの無い限られた部分を真空吸着しているだけであったため、真空パッドによるレチクルの吸着力が不十分であることがあった。したがって、レチクルステージの加速度を上げて生産性を向上させようとすると、真空吸着によるレチクル保持力(摩擦力)をレチクルの慣性力が上回り、レチクルとレチクルステージとの間で滑りが生じる可能性があった。このような滑りによって、レチクルの位置がずれると、アライメント精度が低下し、アライメントが不可能になりうるという重大な問題点があった。このため、レチクルステージの走査駆動加速度に限界があり、デバイスの生産性の向上を阻害していた。
【0003】
特許文献1には、このような課題を解決するために、レチクルの下面と上面とを真空吸着することによってレチクルを保持する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−299370号公報
【特許文献2】特開2005−235890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、レチクルの上面又は下面に異物が付着した場合、レチクル面上のパターンをウエハ上に投影する際に、パターン面内でデフォーカスが悪化し、ウエハ上に形成されるパターンの精度が悪化するという問題があった。また、レチクルの上面、下面とレチクルを保持する部材の構成する面との間の平坦度差から、レチクルをクランプする時にレチクルを変形させ歪ませることがあった。
【0006】
本発明は、レチクルのような板部材を強固に保持すると共に、板部材の上面、下面又は板部材を保持する部材に異物が付着していても板部材を歪ませることのないステージ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、板部材を保持するステージ装置であって、ステージと、前記ステージに設けられていて、前記板部材の下面に当接して前記板部材の面に垂直な方向における前記板部材を位置決めする第1位置決め部材と、前記ステージに設けられていて、前記板部材の上面に当接して前記第1位置決め部材と共に前記板部材の面に垂直な方向における前記板部材を位置決めする第2位置決め部材と、前記第1位置決め部材の周囲に第1密閉空間を形成する弾性を有する第1密閉部材と、前記第2位置決め部材の周囲に第2密閉空間を形成する弾性を有する第2密閉部材と、前記第1密閉空間と前記第2密閉空間とに前記板部材を真空吸着させるように、前記第1密閉空間及び前記第2密閉空間から空気をそれぞれ吸引する第1吸引機構及び第2吸引機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レチクルのような板部材を強固に保持すると共に、板部材の上面、下面又は板部材を保持する部材に異物が付着していても板部材を歪ませることのないステージ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】露光装置の概略構成図
【図2】実施例1に係るレチクル保持機構を搭載したレチクルステージを示す平面図
【図3】図2のレチクル保持機構がレチクルを保持している状態、レチクルを解放している状態を示す断面図
【図4】図3のレチクル保持機構の拡大図
【図5】実施例2のレチクル保持機構がレチクルを保持している状態、レチクルを解放している状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
[露光装置]
図1は走査型露光装置を示す概略構成図である。この露光装置は、光源である水銀灯やレーザ光源からの露光光をスリット状光束にする照明系1と、このスリット状光束で照明されたレチクル(原版)2のパターンを基板(ウエハ)3上に縮小投影する投影光学系4とを有する。レチクル2は、横方向に移動可能なレチクルステージ5に設けられたレチクル保持装置によって真空吸着されている。レチクルステージ5上には、反射鏡6が搭載され、この反射鏡6を介してレチクルステージ5の位置は、レーザ干渉計7により計測されている。ウエハ3は、基板ステージ(ウエハステージ)8に搭載された基板チャック(ウエハチャック)9に真空吸着されている。ウエハステージ8にはバーミラー10が設けられており、このバーミラー10を介してウエハステージ8の位置はレーザ干渉計11により計測されている。レチクル2とウエハ3との相対位置を検出するためのアライメント検出系12がレチクル2の上部に配置されている。露光装置は、アライメント検出系12を用いてレチクル2とウエハ3との相対位置を検出する。その後、露光装置は、レチクルステージ5及びウエハステージ8の位置を計測するレーザ干渉計7,11を用いてレチクル2とウエハ3との間の位置の同期をとりつつ走査露光を行う。露光装置全体は、除振台13上に搭載された本体フレーム14により支持されており、レチクルステージ5はこの本体フレーム14上に配置された構造体15上を移動する。レチクル2にはパターンが形成されており、当該パターンが投影光学系4を介してウエハ3に投影され、ウエハ3が露光される。図1において符号16、17は、レチクル2を保持するレチクルステージ装置をステージ(レチクステージ)5とともに構成する保持機構のうちの下部保持機構、上部保持機構である。
【0011】
以下、本願発明に係るレチクルを保持するレチクルステージ装置について実施例で説明する。以下の実施例においてレチクルは板部材を構成し、レチクルステージ装置は板部材を保持するステージ装置を構成している。
【0012】
[実施例1]
図2は実施例1のレチクル保持機構を搭載した走査型露光装置のレチクルステージ装置を示す平面図である。図2において、レチクル2は、ステージ(レチクルステージ)5に保持される。レチクルステージ5は、固定部である構造体15の上に配置される。レチクルステージ5はレチクル2の面と平行な方向(図2中、上下方向)に移動可能である。
【0013】
図3のAに、レチクルステージ装置の構成と、上面保持機構としての上面クランプ18と下面保持機構としての下面チャック19とによるレチクル2の保持状態の断面図を示す。上面クランプ18にはレチクル2の上面に接する面に真空溝(第2密閉空間)18aが設けられており、下面チャック19にはレチクル2の下面に接する面に真空溝(第1密閉空間)19aが設けられている。上面クランプ18及び下面チャック19の真空溝18a、19aの真空空間は、その近傍を通る吸引管20によって連通し、さらに、レチクルステージ5外の真空バルブ制御装置とこれに連通接続された吸引管20とを介して真空源に連通可能である。吸引管20は、レチクル2を真空溝18a,19aに真空吸着させるために、真空溝18a,19aから空気を吸引する第1吸引機構及び第2吸引機構の一部を構成している。
【0014】
上面クランプ18及び下面チャック19がレチクル2の上面及び下面に当接する際、レチクル2の上面又は下面に異物が付着しているとする。そうすると、レチクル2のパターンをウエハ3の上に投影する際に、パターン面内におけるデフォーカスが悪化し、ウエハ上のパターン精度が悪化するという問題が発生する。また、レチクル2の上面及び下面と上面クランプ18及び下面チャック19の構成する面との間の平坦度の差から、レチクル2の面をクランプ時に変形させ歪ませてしまう懸念がある。
【0015】
これを解決する為に、本発明では、下面チャック19は、位置決め決めピン(第1位置決め部材)19Bと薄板の弾性体(第1密閉部材)19Aとを含む。第1位置決め部材である位置決め決めピン19Bは、レチクルステージ5に固定して配置され、レチクル2の下面に当接してレチクル2の面に垂直な方向におけるレチクル2を位置決めする。第1密閉部材である薄板の弾性体19Aは、位置決め決めピン19Bの周囲に第1密閉空間(真空溝)19aを形成する(図4参照)。薄板の弾性体19Aの周辺外周部には、突出部19Dが設けられ、突出部19Dの上面はレチクル2と当接する面となる。また、真空溝19a内の一部には、図4Bに示すように、複数の小径のピン19Eが設けられ、それらの先端部がレチクル2に当接するように構成されている。同様に、上面クランプ18は、位置決め決めピン(第2位置決め部材)18Bと薄板の弾性体(第2密閉部材)18Aとを含む。位置決め決めピン18Bは、レチクルステージ5に配置され、レチクル2の上面に当接してレチクル2の面に垂直な方向におけるレチクル2を位置決めする。第2密閉部材である薄板の弾性体18Aは、位置決め決めピン18Bの周囲に第2密閉空間(真空溝)18aを形成する。薄板の弾性体18Aの周辺外周部には、突出部18Dが設けられ、突出部18Dの下面はレチクル2と当接する面となる。また、真空溝18a内の一部には、図4Bに示すように、複数の小径のピン18Eが設けられ、それらの先端部がレチクル2に当接するように構成されている。
【0016】
上面クランプ18及び下面チャック19のレチクル2との当接面には吸引管20,20が配設され、吸引管20,20の作動によって真空溝18a,19aに真空空間をつくりレチクル2を真空吸着可能にしている。このような薄板の弾性体19Aについては、特許文献2に詳細に説明されている。
【0017】
以上の構成において、複数の薄板の弾性体18A、19Aが、レチクル2の辺に倣う状態で当接することにより、レチクル2をクランプする場合にレチクル2に歪が発生することを抑え得る。また同時に、真空溝18a、19a内の複数部位に異物が付着できない小径のピン18E、19Eを設けることにより、レチクル2との当接面に異物が付着するのを低減し、異物の付着に起因する歪の発生を低減することが可能になる。
【0018】
次に上面クランプ18をレチクル2の上面に対向する位置(作動位置)から当該上面に対向しない位置(退避位置)に移動させる移動機構について説明する。上面クランプ18はレチクル2を交換する際にレチクル2の上面に対向しない位置退避させる必要がある。図2に上面クランプ18の移動機構、図3Aに上面クランプ18がレチクル2を吸着保持している状態の断面図、図3Bに上面クランプ18の退避状態の断面図を示す。図2において、上面クランプ18は駆動部21(エアシリンダ等)によってレチクル2の面と平行な方向(図の左右方向)に移動され得る。図3Bのように上面クランプ18がレチクル2の上から退避後、レチクル2に対し、上方、又は、紙面の直交方向手前側若しくは奥側からレチクルの搬送機構がアクセスし、レチクル2を回収する。この為、上面クランプ18はレチクル2が可動するだけのガタ部分を有している。しかし、上面クランプ18がレチクル2をクランプしているときに、上面クランプ18がレチクルステージ5の移動する方向に動いてしまうとレチクルずれを起こし、ウエハ3の上に投影されたパターンが悪化する原因となる。そこで上面クランプ18をレチクル2の上面に対向する作動位置に位置決めする第3位置決め部材が必要となる。上面クランプ18が駆動部21によってレチクルを吸着する位置に移動した後、上面クランプ18はエアシリンダ等の固定装置22によってレチクルステージ5に固定のストッパ23に押し当てられて位置決めされる。固定装置22、ストッパ23は、上面クランプ18を作動位置に位置決めする第3位置決め部材を構成している。固定装置22は上面クランプ18とレチクル2の下面を吸着している下面チャック19とが相対的に変位させないような働きをもっている。これにより、レチクル保持機構は、レチクルステージ5の移動する方向には剛体として機能する。
【0019】
[実施例2]
図5に上面クランプ18の別の移動機構の形態を示す。図5Aは、上面クランプ18がレチクル2を吸着し保持している状態の断面図である。図5Bは、上面クランプ18が退避されレチクルを回収する状態の断面図である。実施例2では、固定部である構造体15上に駆動部21(エアシリンダ等)が配置され、上面クランプ18を下方から突き上げて回動させ、その回動によって上面クランプ18を作動位置から退避位置へ移動させる。上面クランプ18がレチクル2上から退避した後、レチクル2に対し、上方あるいは図の手前側又は奥側からレチクルの搬入出機構がアクセスし、レチクルの回収を行う。このとき上面クランプ18の駆動部21はレチクルの周辺にない為、熱や振動の影響を受けることは無い
実施例1,2においては、上面クランプ18の駆動部をレチクルステージ5又は構造体15に別途設置した。しかし、図示しないレチクルの搬入出機構によって上面クランプ18を移動させることもできる。
【0020】
[デバイス製造方法]
次に、上述の露光装置を利用したデバイス製造方法の実施例を説明する。デバイスは、前述の実施例1、2の露光装置を使用して、感光剤が塗布された基板を露光する工程と、該工程で露光された基板を現像する工程と、他の周知の工程とを経ることにより製造する。デバイスは、半導体集積回路素子、液晶表示素子等でありうる。基板は、ウエハ、ガラスプレート等でありうる。当該周知の工程は、例えば、酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等の各工程である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板部材を保持するステージ装置であって、
ステージと、
前記ステージに設けられていて、前記板部材の下面に当接して前記板部材の面に垂直な方向における前記板部材を位置決めする第1位置決め部材と、
前記ステージに設けられていて、前記板部材の上面に当接して前記第1位置決め部材と共に前記板部材の面に垂直な方向における前記板部材を位置決めする第2位置決め部材と、
前記第1位置決め部材の周囲に第1密閉空間を形成する弾性を有する第1密閉部材と、
前記第2位置決め部材の周囲に第2密閉空間を形成する弾性を有する第2密閉部材と、
前記第1密閉空間と前記第2密閉空間とに前記板部材を真空吸着させるように、前記第1密閉空間及び前記第2密閉空間から空気をそれぞれ吸引する第1吸引機構及び第2吸引機構と、
を備える、ことを特徴とするステージ装置。
【請求項2】
前記第2位置決め部材及び前記第2密閉部材を前記板部材の上面に対向する位置から当該上面に対向しない位置へ移動させる駆動部をさらに備える、ことを特徴とする請求項1に記載のステージ装置。
【請求項3】
前記第2位置決め部材及び前記第2密閉部材を前記板部材の上面に対向する位置に位置決めする第3位置決め部材をさらに備え、
前記駆動部は、前記第2位置決め部材及び前記第2密閉部材を、前記板部材の上面に対向する位置と当該上面に対向しない位置との間で前記板部材の面と平行な方向に移動させる、ことを特徴とする請求項2に記載のステージ装置。
【請求項4】
前記第2位置決め部材及び前記第2密閉部材は、それらの回動によって前記板部材の上面に対向する位置から当該上面に対向しない位置へ移動するように構成され、
前記駆動部は、前記第2位置決め部材及び前記第2密閉部材を下方から突き上げて回動させる、ことを特徴とする請求項2に記載のステージ装置。
【請求項5】
レチクルのパターンを基板に投影して基板を露光する露光装置であって、
前記レチクルは、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のステージ装置によって保持されている、ことを特徴とする露光装置。
【請求項6】
デバイスを製造する方法であって、
請求項5に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
前記露光された基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−23425(P2011−23425A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165048(P2009−165048)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】