説明

センサ付軸受

【課題】センサを保持する樹脂製のセンサホルダを、芯金を用いることなく、静止側軌道輪の径面に対して簡単に脱落しないように支持させる。
【解決手段】センサホルダ40を熱硬化性樹脂からなる環状の一体射出成形品とし、センサホルダ40の外径面にねじ部41aを形成し、静止側軌道輪11の内径面に、ねじ部11bとこのねじ部11bに対して径差を設けてねじ止め端部11cとを形成し、センサホルダ40のねじ部41aを静止側軌道輪11のねじ部11bに一側方から螺合し、ねじ止め端部11cにセンサホルダ40を突き当てて締め付けることにより、センサホルダ40を静止側軌道輪11に固定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受と、回転検出、回転速度検出、回転方向検出、温度検出、振動検出等のためのセンサとを備えたセンサ付軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の転がり軸受の代表的なものとして、モータ軸、自動車の車軸の回転速度制御、回転方向制御、回転角度制御等に利用される回転センサ付き軸受がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
従来の回転センサ付き軸受は、転がり軸受を構成する一方の軌道輪を、モータハウジングや自動車の懸架装置のような静止部材側に嵌合される静止側軌道輪とし、他方の軌道輪を、回転軸側に嵌合される回転側軌道輪とし、ロータリエンコーダを構成するセンサとパルスリングのうち、センサを静止側軌道輪の径面に支持させ、パルスリングを回転側軌道輪に一体回転するように支持させたものとなっている。
上記ロータリエンコーダは、潤滑剤が軸受内部にあることから、光学エンコーダよりも磁気エンコーダが一般的である。
【0004】
上記センサは、樹脂製の環状センサホルダに保持されており、そのセンサホルダが環状の芯金に嵌合固定され、センサと金属製の軌道輪及び芯金の間がセンサホルダの肉部で、場合によっては樹脂モールドを付加することで絶縁されている。センサホルダに保持されたセンサは、環状の芯金を上記の静止側軌道輪の径面に一側方から圧入嵌合することにより静止側軌道輪に支持されている。
樹脂製のセンサホルダを静止側軌道輪に圧入嵌合すると、径方向クリープで嵌合緩みが生じ、簡単に脱落する。芯金のクリープ特性は、樹脂製のセンサホルダより優れる。このため、芯金と静止側軌道輪間の締め代を比較的にきつく設定することが可能になり、これにより、芯金を介してセンサホルダを静止側軌道輪にしっかりと支持させられる。
【0005】
なお、上記芯金の内周に、断面逆L字状のカバー部材が嵌合されており、センサホルダは、芯金、カバー部材及びパルスリングで囲まれた内側に位置し、外部から保護されている。静止側軌道輪にシール溝を形成し、そこにシールを取り付けることが困難なことから、上記芯金、カバー部材、パルスリング、及びセンサホルダは、ラビリンスすき間を形成するように設けられている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−249545号公報(図1、段落0013、0015〜0018)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前掲の特許文献1に記載されたようなセンサ付軸受は、センサを静止側軌道輪に支持させるのに環状の芯金と、樹脂製のセンサホルダの2部品の組み立てを要しており、低コスト化の要求に応える上で改良の余地がある。
【0008】
そこで、この発明の課題は、センサを保持する樹脂製のセンサホルダを、芯金を用いることなく、静止側軌道輪の径面に対して簡単に脱落しないように支持させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、この発明は、静止側軌道輪と回転側軌道輪との間に複数の転動体を介在させ、前記静止側軌道輪の径面に、センサを保持する樹脂製のセンサホルダを支持させたセンサ付軸受において、前記センサホルダを環状の一体成形品とし、前記静止側軌道輪の径面と前記センサホルダとにねじ部を形成し、前記センサホルダのねじ部を前記静止側軌道輪のねじ部に一側方から螺合する締め付けによりこのセンサホルダをこの静止側軌道輪に固定した特徴的構成を採用したものである。
【0010】
上記の特徴的構成によれば、センサホルダは、静止側軌道輪に対して螺合による締め付け力で固定される。螺合で固定すれば、円筒面同士で圧入嵌合する場合と比して強い固定を得ることができる。静止側軌道輪にセンサホルダが螺合されるので、軸回転による緩みの心配はない。クリープで螺合が緩んだとしても、センサホルダは、静止側軌道輪に螺合しているため、圧入嵌合の場合のように軸方向に直ちに変位することができず、簡単には脱落しない。
したがって、この発明は、センサを保持する樹脂製のセンサホルダを、芯金を用いることなく、静止側軌道輪の径面に対して簡単に脱落しないように支持させることができる。
【0011】
ここで、前記センサの検出方向が径方向である構成を採用することが好ましい。前記センサホルダのクリープは、螺合による固定のため、ねじ軸方向で主に生じ、圧入嵌合の場合と比して径方向で小さく生じる。したがって、センサの検出方向が径方向であれば、センサホルダのクリープがセンサの検出に影響し難くなる。
【0012】
前記センサホルダの成形に利用する樹脂は、所望の機械的強度、絶縁性、クリープ特性等を満足するように適宜に選択することができる。
ここで、熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂と比して温度上昇に対する機械的強度に優る。このため、前記センサホルダが熱硬化性樹脂からなる構成を採用すれば、センサホルダのクリープが低減し、より安定した支持を得ることができる。
【0013】
前記静止側軌道輪の径面に、前記センサホルダがねじ軸方向に突き当るねじ止め端部を形成した構成を採用すれば、センサホルダがねじ止め端部に突き当たるため、センサホルダに頭部がなくとも、螺合位置を決めることができる。
したがって、この構成によれば、センサホルダに頭を形成し、その頭と静止側軌道輪の一側方側の側面とを突き合わせる構成の場合と比して頭部が不要になり、センサホルダのコンパクト化を図ることができる。
【0014】
ここで、前記の頭部が不要になることを利用し、前記センサホルダを、前記静止側軌道輪の一側方側の側面と対向する部分がないものとした構成を採用すれば、静止側軌道輪を静止部材に対して軸方向に位置決めするための部材、例えば、軸受箱の蓋、スペーサ、間座等を、静止側軌道輪の一側方側の側面に突き当てる空間を容易に得ることができる。
【0015】
上記特徴的構成においては、前記センサホルダを、回転側軌道輪側に延びる鍔部を有するものとし、前記回転側軌道輪に、前記鍔部と共にラビリンスすき間を形成するシール部を設けた構成を採用することができる。
この構成によれば、鍔部が上記従来例のカバー部材の代わりとなり、センサ付軸受の組み立て部品数をより減らすことができる。
【0016】
前記鍔部に係る構成を採用する場合、前記センサホルダのうち、前記ラビリンスすき間の出口より内側となる部分に、前記センサを封止するセンサ入れ部を形成し、そのセンサ入れ部に、前記センサの配線を外部に取り出すライン口を開放させ、そのライン口を封止剤で塞いだ構成を採用することが好ましい。
センサホルダのうち、前記ラビリンスすき間の出口より内側となる部分に、前記センサを封止するセンサ入れ部を形成すれば、ラビリンスすき間で外部から保護された部分にセンサが位置するため、センサまで水や異物が達し難い。
そのような位置にセンサを位置させても、前記センサに接続された配線は、センサ入れ部に連通するライン口から外部に取り出すことができる。
センサ入れ部にセンサを封止する封止剤でライン口が塞がれるため、水や異物がライン口を通じてセンサに達することも防止される。
したがって、この構成を採用すれば、上記センサを外部から保護することができる。
【0017】
前記封止剤は、機械的強度を優先する場合、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を採用することが好ましく、前記センサを振動から保護することを優先する場合、振動吸収性を有する充填剤、例えば、シリコーン系樹脂、シリコーンゴムを採用することが好ましい。なお、絶縁性、防水性を有する封止剤が好ましいことは勿論である。
【0018】
前記センサと共にロータリエンコーダを構成するパルスリングを前記回転側軌道輪に備える場合、前記パルスリングと前記回転側軌道輪の径面とにねじ部を形成し、前記パルスリングのねじ部を前記回転側軌道輪のねじ部に一側方から螺合する締め付けによりこのパルスリングをこの回転側軌道輪に固定した構成を採用することができる。
【0019】
前記パルスリングは、樹脂製のものに限定されず、金属製、芯金上に樹脂成形したものを採用することができる。
前記ロータリエンコーダは、回転側軌道輪が軸と一体回転すると、回転角度に応じた出力信号を発生する装置である。前記ロータリエンコーダとしては、インクリメンタル形、アブソリュート形のいずれでもよく、検出方式として光学式、磁気式等の適宜のものを採用することができる。
【0020】
前記パルスリングを回転側軌道輪に螺合により固定すれば、パルスリングは、回転側軌道輪に螺合しているため、圧入嵌合の場合のように軸方向に直ちに変位することができず、簡単には脱落しない。
【0021】
前記パルスリングは、回転側軌道輪に螺合されるので、螺合が緩む方向に回転する回転軸に回転側軌道輪が装着される場合、緩み止め手段を採用することが好ましい。簡単な緩み止め手段としては、ねじ部に接着剤を塗布することが挙げられる。
【0022】
前記回転側軌道輪の径面に、前記パルスリングがねじ軸方向に突き当るねじ止め端部を形成した構成を採用すれば、上記センサホルダの場合と同様、パルスリングの頭を回転側軌道輪の一側方側の側面に突き合わせる構成の場合と比して、パルスリングのコンパクト化を図ることができる。
前記パルスリングを、前記回転側軌道輪の一側方側の側面と対向する部分がないものとした構成を採用することも、勿論可能である。
【0023】
前記ねじ止め端部を採用する場合、前記ねじ止め端部を、このねじ止め端部を形成する軌道輪のねじ部に対して全周に亘る径差を設けることで形成し、このねじ止め端部とこの軌道輪のねじ部とを隅ぬすみを介して繋いだ構成を採用することが好ましい。
軌道輪の径面に全周に亘る径差を設けることでねじ止め端部を形成すれば、軌道輪の旋削でねじ止め端部を簡単に形成することができる。全周に亘ってねじ止め端部を形成しても、ねじ部との間に隅ぬすみがあり、ねじ加工を行う工具とねじ止め端部との干渉が防止されるので、ねじ加工が容易になる。
また、センサホルダやパルスリングを、ねじ止め端部まで確実に螺合する事ができる。
【発明の効果】
【0024】
上述のように、この発明は、上記特徴的構成の採用により、センサを保持する樹脂製のセンサホルダを、芯金を用いることなく、静止側軌道輪の径面に対して簡単に脱落しないように支持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1aは、実施形態に係るセンサ付軸受の全体構成を図1b中のA−A切断線で示し、図1bは、実施形態に係るセンサ付軸受の外観を一側方から示している。
【0026】
図1a、bに示すように、実施形態に係るセンサ付軸受は、静止側軌道輪11と回転側軌道輪12との間に複数の転動体13を介在させ、各転動体13を保持器14に保持させた転がり軸受を備えている。
【0027】
静止側軌道輪11は、外輪とされ、静止部材20側に嵌合されている。静止側軌道輪11の内径面の一側方側の端部に、センサ30を保持する樹脂製のセンサホルダ40が支持させられる。
【0028】
回転側軌道輪12は、内輪とされ、図示省略の回転軸側に嵌合されている。回転側軌道輪12の外径面の一側方側の端部に、センサ30と共にロータリエンコーダを構成するパルスリング50が支持させられる。
【0029】
この転がり軸受は、グリース潤滑用となっている。静止側軌道輪11と回転側軌道輪12との間のグリース(図示省略)は、軌道の一側方において、センサホルダ40とパルスリング50とで構成されたラビリンスすき間60でシールされ、軌道の他側方において、静止側軌道輪11のシール溝に取り付けられたシール15でシールされる。
【0030】
図2は、センサ30、センサホルダ40、パルスリング50を各取り付け対称部品から取り外し、センサホルダ40、パルスリング50の周方向一部を図1b中の切断面が視えるように部分的に破断させた状態で示している。
図3aは、図1aのセンサ部分を拡大して示し、図3bは、センサ部分を図3a中のB−B切断線で示している。
【0031】
図2、図3に示すセンサ30とパルスリング50とは、ロータリエンコーダの一種である磁気エンコーダを構成している。
【0032】
センサ30は、基板31上に磁気センサ32を実装し、基板31に磁気センサ32の配線33を接続したものとなっている。このセンサ30は、A相及びB相の2相出力方式で、A相出力信号とB相出力信号の電気的な位相差が90度になっている。
【0033】
上記の磁気センサ32としては、例えば、磁界を検出し、検出した磁界に基づくアナログ信号を出力するホール素子、ホール素子とアナログ−デジタル信号変換回路とを1パッケージ化し、検出した磁界に基づくデジタル信号を出力するホールIC、ホール素子と増幅回路を1パッケージ化したリニアホールIC、磁気抵抗効果のためにその抵抗値が磁界によって変化するMR素子、MR素子とアナログ−デジタル信号変換回路とを1パッケージ化し、検出した抵抗値に基づくデジタル信号を出力するMR−IC等が挙げられる。
【0034】
パルスリング50は、外径面にN極とS極を周方向に交互に多極着磁した多極着磁磁石、外径面の半周にN極を、残り半周にS極を着磁した単極着磁磁石を利用することができる。
【0035】
なお、パルスリング50には、例えば、磁性体からなる歯車、磁性体からなる円板にパルスを発生させる窓抜きを施したもの等、他の構成のものを利用することもできる。
【0036】
このパルスリング50は、環状の芯金51と、芯金51の外径面の一側方側の端部上に一体化された着磁磁石52とからなる。
【0037】
芯金51は、磁性材料からなる。このため、芯金51は、多極着磁磁石52の外径部を径方向に取り囲む磁気シールドとして機能する。
【0038】
なお、芯金51は、板材のプレス成形品となっている。芯金51の板材は、磁性材料であればよく、例えば、SPCC材を利用することができる。
【0039】
多極着磁磁石52は、ゴムに磁性粉を練り込んだ磁性材料と芯金51とを加硫成形金型で加硫接着したものが利用されている。
【0040】
なお、上記のゴムには、耐熱ニトリルゴム(HNBR)、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(VMQ)などを所要に応じて使用することができる。
【0041】
上記磁性粉には、フェライト系、希土類系、アルニコ系等のものを所要に応じて使用することができる。希土類系(ネオジウム系、サマリウム系)や、アルニコ系を用いることが望ましい。これらの希土類系又はアルニコ系磁性材料は従来のフェライト系のものより強い磁力が得られるので、モータ等に組み込んで用いる際にモータ等から発生する漏洩磁界の影響を受け難くなり、センサ30の誤動作を避けることができる。
【0042】
また、希土類系磁性粉又はアルニコ系磁性粉を用いる場合、多極着磁磁石52を焼結製のリングにすることができる。
また、多極着磁磁石52は、射出成形によって成形されるプラスチックマグネット製のリングにすることも可能である。
多極着磁磁石52を、焼結製のリング、又はプラスチックマグネット製のリングにする場合、芯金51に対する圧入、又は接着剤により外嵌状態に固定された多極着磁磁石52とすることができる。
【0043】
上記センサ30の検出方向は、径方向であり、パルスリング50と径方向に対向している。より具体的には、センサ30の検出部である磁気センサ32は、非接触式であり、多極着磁磁石52と径方向すき間をもって対向している。
【0044】
上記センサ30を保持するセンサホルダ40は、環状の一体成形品とされている。
【0045】
センサホルダ40は、熱硬化性樹脂からなり、射出成形されている。
【0046】
なお、センサホルダ40は、他の樹脂、ポリマーアロイ、繊維強化プラスチックから構成することもできる。例えば、センサホルダ40は、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE、変性PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレート・ガラス樹脂入り(PET−G)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)などを使用して成形することができる。
【0047】
このセンサホルダ40は、静止側軌道輪11と同心のねじ軸部41と、回転側軌道輪12側に延びる鍔部42とを有している。
【0048】
ねじ軸部41は、回転軸を通せる筒状になっており、この外径面の他側方側の端部にねじ部41aが形成されている。
【0049】
一方、静止側軌道輪11の内径面に、一側方側の側面11aの内周縁から幅中央側に向かってねじ部11bが形成されている。
ねじ軸方向は、軸方向に一致するように設定されている。静止側軌道輪11への平行な螺合として支持固定を容易にするためである。
【0050】
ねじ軸部41は、ねじ部41aより一側方に延長されており、この延長部分において回転トルクを付与することができる。これにより、センサホルダ40のねじ部41aを静止側軌道輪11のねじ部11bに一側方から螺合することができる。
鍔部42は、ねじ軸部41の延長部分の一側方端部から回転側軌道輪12側に延長されている。ねじ軸部41への回転トルク付与に対する強度は、鍔部42の形成により高められている。
【0051】
静止側軌道輪11の内径面に、センサホルダ40がねじ軸方向に突き当るねじ止め端部11cが形成されている。このねじ止め端部11cは、静止側軌道輪11の内径面に、ねじ部11bに対して全周に亘る径差を設けることで形成されている。ねじ止め端部11cは、内径面の一側方側の端部を軌道一側縁に比して大径に旋削することで形成されている。
【0052】
このねじ止め端部11cとねじ部11bとは、隅ぬすみ11dを介して繋がれている。隅ぬすみ11dのねじ軸方向の開放幅は、ねじ部11bの1ピッチ以上の長さを有し、その径方向深さは、谷径より深くなっており、ねじ部11bのねじ加工を行う工具を1ピッチ余分に送ることができる。したがって、工具とねじ止め端部11cとの干渉が防止される。
また、センサホルダ40を、ねじ止め端部11cまで確実に螺合する事ができる。
【0053】
螺進するセンサホルダ40は、静止側軌道輪11のねじ止め端部11cに突き当り、螺合位置が決まる。螺合位置が決まった状態からの回転トルク付与に応じて、互いのねじ部41a、11bの螺合による締め付けが得られる。この締め付けにより、センサホルダ40は、静止側軌道輪11の内径面に支持された状態に固定される。
【0054】
センサホルダ40を螺合による締め付けで固定したため、静止側軌道輪11の内径面と円筒面同士で圧入嵌合した場合と比して、軸方向に強く固定されている。
また、静止側軌道輪11にセンサホルダ40が螺合されるので、軸回転による螺合緩みの心配はない。クリープで螺合が緩んだとしても、センサホルダ40は、静止側軌道輪11に螺合しているため、圧入嵌合の場合のように軸方向に直ちに変位することができず、簡単には脱落しない。
したがって、この実施形態に係るセンサ付軸受は、センサ30を保持する樹脂製のセンサホルダ40を、芯金を用いることなく、静止側軌道輪11の内径面に対して簡単に脱落しないように支持させることができる。
【0055】
センサホルダ40は、静止側軌道輪11に固定された状態で、静止側軌道輪11及び回転側軌道輪12の一側方側の側面11a、12aと軸方向に対向する部分がないものとなっている。したがって、静止側軌道輪11及び回転側軌道輪12の一側方側の側面11a、12aに対し、軌道輪の軸方向位置決め用の部材を一側方から支障なく突き合わせることができる。
【0056】
一方、パルスリング50の回転側軌道輪12に対する固定においても、上記センサホルダ40と同様の螺合構造が採用されている。
【0057】
すなわち、芯金51の内径面の他側方側の端部に、ねじ部51aが形成されている。芯金51へのねじ部51aの形成において、芯金51のプレス成形と同時に転造すれば、後加工する場合よりも製造工程の簡略化を図ることができる。
【0058】
一方、回転側軌道輪12の内径面の一側方側の端部に、一側方側の側面12aの外周縁から幅中央側に向かってねじ部12bが形成されている。
ねじ軸方向は、軸方向に一致するように設定されている。回転側軌道輪12への平行な螺合として支持固定を容易にするためである。
【0059】
芯金51は、ねじ部51aより一側方に延長されており、この延長部分において回転トルクを付与することができる。これにより、パルスリング50のねじ部51aを回転側軌道輪12のねじ部12bに一側方から螺合することができる。なお、芯金51の延長部分はねじ部51aとの間で外径側に屈曲されており、これにより芯金51の回転トルク付与に対する強度が高められている。着磁磁石52は、その延長部分の外径面上に一体化されており、回転トルク付与に伴う変形が防止されている。
【0060】
回転側軌道輪12の外径面に、パルスリング50がねじ軸方向に突き当るねじ止め端部12cが形成されている。このねじ止め端部12cは、回転側軌道輪12の外径面に、ねじ部51bに対して全周に亘る径差を設けることで形成されている。ねじ止め端部12cは、外径面の一側方側の端部を軌道一側縁に比して小径に旋削することで形成されている。
【0061】
このねじ止め端部12cとねじ部12bとは、隅ぬすみ12dを介して繋がれている。隅ぬすみ12dのねじ軸方向の開放幅は、ねじ部12bの1ピッチ以上の長さを有し、その径方向深さは、谷径より深くなっており、ねじ部12bのねじ加工を行う工具を1ピッチ余分に送ることができる。したがって、工具とねじ止め端部12cとの干渉が防止される。
また、パルスリング50を、ねじ止め端部12cまで確実に螺合する事ができる。
【0062】
螺進するパルスリング50は、回転側軌道輪12のねじ止め端部12cに突き当り、螺合位置が決まる。螺合位置が決まった状態からの回転トルク付与に応じて、互いのねじ部51a、12bの螺合による締め付けが得られる。この締め付けにより、パルスリング50は、回転側軌道輪12の外径面に支持された状態に固定される。
【0063】
螺合による固定支持の採用に伴う副次的効果として、センサホルダ40やパルスリング50を螺着脱可能にすれば、これらの交換性を容易に実現することができる。
【0064】
センサホルダ40やパルスリング50の確実な螺着を優先する場合、緩み止めのため、ねじ部11b、12b、41a、51aに適宜に接着剤を塗布することができる。
【0065】
上記の接着剤としては、被着材の表面に多小の油分があっても接着可能なものを採用すれば、軌道輪11、12や樹脂製のセンサホルダ40の接着面の脱脂作業を省くことができる。
この種の接着剤としては、例えば、ウレタンメタクリレートを主原料とするものが挙げられ、その市販接着剤としては、例えば、日本ロックタイト社の商品「ロックタイト603」が挙げられる。
【0066】
パルスリング50は、回転側軌道輪12に固定された状態で、回転側軌道輪12の一側方側の側面12aと軸方向に対向する部分がないものとなっている。したがって、回転側軌道輪12の一側方側の側面12aに対し、軌道輪の軸方向位置決め用の部材を一側方から支障なく突き合わせることができる。
【0067】
パルスリング50は、センサホルダ40より先に回転側軌道輪12に固定される。その後、静止側軌道輪11にセンサホルダ40が固定されると、パルスリング50の着磁磁石52の外径面が、センサホルダ40のねじ軸部41の内径面と径方向に対向し、パルスリング50の一側方端部がセンサホルダ40の鍔部42と軸方向に対向し、パルスリング50の芯金51の延長部分の内径面がセンサホルダ40の鍔部42の内径端部と径方向に対向するようになっている。
【0068】
上記の対向空間は一連の狭小路を生じ、その狭小路が上記ラビリンスすき間60となる。すなわち、この実施形態に係るセンサ付軸受は、パルスリング50が鍔部42と共にラビリンスすき間60を形成するシール部を兼ねており、これにより、部品数の増加を抑えている。
【0069】
ラビリンスすき間60は、グリース漏れを抑制するための非接触型シールとして機能し、狭小路を屈曲させることで生じる圧力損失により、外部への漏れ量を減少させている。
【0070】
なお、ラビリンスすき間は、センサホルダ40の他側方側の端部を内径側に延長し、回転側軌道輪12の外径面乃至パルスリング50の外径面との間を狭めることで形成することも可能である。
【0071】
センサホルダ40のうち、ラビリンスすき間60の出口より内側となる部分に、上記センサ30を封止するセンサ入れ部43が形成されている。センサ入れ部43は、封止により保持させられたセンサ30がパルスリング50の着磁磁石52と径方向に対向する位置にある。
そのような位置にセンサ入れ部43を形成しても、センサホルダ40が螺合により固定されるので、センサ30をセンサホルダ40に予め保持させることができる。
【0072】
図4は、センサ30をセンサ入れ部43に保持させる様子を示している。
図3、図4に示すように、センサ入れ部43は、封止剤の充填空間となっている。センサ入れ部43の内壁面は、センサ30を検出に必要な範囲で検出方向に向くように位置決めするように形成されている。
【0073】
センサ入れ部43は、配線33を施したセンサ30を外部から挿入可能なライン口44が開放されている。そのライン口44は、封止剤により塞がれている。
【0074】
このライン口44は、センサホルダ40の一側面に開放しており、配線33を一側方に取り出すことができる。
静止側軌道輪11が静止部材の内周に対しクリープを生じた場合でも、一側方から配線33を取り出しておけば、クリープによる回転の影響は、径方向に取り出した場合よりも配線33に作用し難くなり、断線を防止することができる。
【0075】
ライン口44は、センサ30の挿入口を兼ねており、センサ30を検出方向に向けた姿勢で挿入することができる。
センサ入れ部43の内壁面は、センサ30の挿入を検出方向に向けたまま、挿入方向に案内し、挿入されるセンサ30が挿入方向に突き当たり、その挿入位置が決まるようになっている。センサ30の封止を容易にするためである。
【0076】
ここで、磁気センサ32のような非接触式センサでは、検出対象との間に障害物がない方が好ましい。また、センサ30を封止する封止剤は、ラビリンスすき間60の路幅の減少を防止するため、センサ入れ部43から食み出ない方が好ましい。このため、センサ入れ部43に、センサ30の検出方向に開放するセンサ窓45が開放されている。センサ30の磁気センサ32は、センサ窓45から露出するように封止されている。
【0077】
なお、センサをセンサホルダ40に保持する構成は、センサの種類に応じて適宜に変更すればよい。例えば、非接触センサでは、センサホルダ40にインサート成形により保持することができる。検出精度に問題ない場合は、センサ入れ部を検出方向に開放させる必要はなく、センサ保護のため、センサホルダの肉部や封止剤で覆うこともできる。
【0078】
なお、以上の実施形態は内輪回転型のセンサ付軸受について説明したが、外輪回転型の軸受にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】aは、実施形態に係るセンサ付軸受をアキシアル平面の切断面で示した断面図、bは、aのセンサ付軸受の側面図
【図2】図1のセンサ付軸受のセンサ部分の分解斜視図
【図3】aは、図1aのセンサ部分の拡大図、bは、aのB−B線の切断面の拡大図
【図4】aは、図2のセンサ入れ部を内径側から示した部分斜視図、bは、aの状態からセンサ入れ部にセンサを入れた状態を示した部分斜視図
【符号の説明】
【0080】
11 静止側軌道輪
11a、12a 側面
11b、12b、41a、51a ねじ部
11c、12c ねじ止め端部
11d、12d 隅ぬすみ
12 回転側軌道輪
13 転動体
14 保持器
15 シール
20 静止部材
30 センサ
31 基板
32 磁気センサ
33 配線
40 センサホルダ
41 ねじ軸部
42 鍔部
43 センサ入れ部
44 ライン口
45 センサ窓
50 パルスリング
51 芯金
52 着磁磁石
60 ラビリンスすき間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止側軌道輪と回転側軌道輪との間に複数の転動体を介在させ、前記静止側軌道輪の径面に、センサを保持する樹脂製のセンサホルダを支持させたセンサ付軸受において、
前記センサホルダを環状の一体成形品とし、前記静止側軌道輪の径面と前記センサホルダとにねじ部を形成し、前記センサホルダのねじ部を前記静止側軌道輪のねじ部に一側方から螺合する締め付けによりこのセンサホルダをこの静止側軌道輪に固定したことを特徴とするセンサ付軸受。
【請求項2】
前記センサの検出方向が径方向である請求項1に記載のセンサ付軸受。
【請求項3】
前記センサホルダが熱硬化性樹脂からなる請求項1又は2に記載のセンサ付軸受。
【請求項4】
前記静止側軌道輪の径面に、前記センサホルダがねじ軸方向に突き当るねじ止め端部を形成した請求項1から3のいずれかに記載のセンサ付軸受。
【請求項5】
前記センサホルダを、前記静止側軌道輪の一側方側の側面と対向する部分がないものとした請求項4に記載のセンサ付軸受。
【請求項6】
前記センサホルダを、回転側軌道輪側に延びる鍔部を有するものとし、前記回転側軌道輪に、前記鍔部と共にラビリンスすき間を形成するシール部を設けた請求項1から5のいずれかに記載のセンサ付軸受。
【請求項7】
前記センサホルダのうち、前記ラビリンスすき間の出口より内側となる部分に、センサを封止するセンサ入れ部を形成し、そのセンサ入れ部に、前記センサの配線を外部に取り出すライン口を開放させ、そのライン口を封止剤で塞いだ請求項6に記載のセンサ付軸受。
【請求項8】
前記センサと共にロータリエンコーダを構成するパルスリングを前記回転側軌道輪に備え、前記パルスリングと前記回転側軌道輪の径面とに螺合するねじ部を形成し、前記パルスリングのねじ部を前記回転側軌道輪のねじ部に一側方から螺合する締め付けによりこのパルスリングをこの回転側軌道輪に固定した請求項1から7のいずれかに記載のセンサ付軸受。
【請求項9】
前記回転側軌道輪の径面に、前記パルスリングがねじ軸方向に突き当るねじ止め端部を形成した請求項8に記載のセンサ付軸受。
【請求項10】
前記パルスリングを、前記回転側軌道輪の一側方側の側面と対向する部分がないものとした請求項9に記載のセンサ付軸受。
【請求項11】
前記ねじ止め端部を、このねじ止め端部を形成する軌道輪のねじ部に対して全周に亘る径差を設けることで形成し、このねじ止め端部とこの軌道輪のねじ部とを隅ぬすみを介して繋いだ請求項4又は9に記載のセンサ付軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−36233(P2009−36233A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198742(P2007−198742)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】