説明

チャージポンプ回路

【課題】残留電荷によって、チャージポンプ回路を構成する素子(容量素子や電荷転送素子)が劣化する問題や残留電荷による誤動作の問題を解消することを目的とする。
【解決手段】入力端子INと出力端子OUTの間に、ゲートとドレインを短絡させたNチャネル型電荷転送MOSトランジスタT〜Tが直列接続されている。各電荷転送MOSトランジスタの接続点(ノードA〜X)には、容量素子C〜Cの一方の端子が接続されている。また、ノードA〜Xは、ゲートとソースが短絡されたNチャネル型MOSトランジスタN〜Nを介して降圧回路30と接続されている。つまり、チャージポンプ回路の昇圧動作を終了させた際、ノードA〜Xから残留電荷を外部へ積極的に逃がすための経路が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い電圧から高い電圧を発生させるチャージポンプ回路(Charge Pump Circuit)に関し、特に降圧回路を備えたチャージポンプ回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばEEPROM(Electrically Programmable Read Only Memory)等の不揮発性半導体記憶装置では、電源電圧よりも高い正の高電圧(または負の高電圧)をメモリセルに供給する必要がある。このように高電圧が必要な場合、チャージポンプ回路を装置に内蔵する方法が広く用いられている。
【0003】
図3は従来例に係るチャージポンプ回路の回路図である。このチャージポンプ回路は、入力端子INに入力された入力電圧Vin(=VCC)を昇圧して、出力端子OUTから出力電圧Voutとして高電圧HVを出力するものである。入力端子INと出力端子OUTの間に、ゲートとドレインを短絡させたNチャネル型電荷転送MOSトランジスタT〜T(Mは任意)が直列接続されている。各電荷転送MOSトランジスタT〜Tの接続点をノードA〜Xとする。
【0004】
各ノードA〜Xには、容量素子C〜Cの一方の端子が接続されている。容量素子C〜Cの他方の端子には、第1のクロック信号CLK及び第2のクロック信号*CLK(第1のクロック信号と逆相の信号)の一方が交互に印加される構成になっている。
【0005】
上記構成において、入力端子INに電源電圧VCCが印加され、第1及び第2のクロック信号CLK,*CLKが容量素子C〜Cに印加されると、最終段のMOSトランジスタTのソース(出力端子OUT)から出力電圧Voutとして入力電圧VCCよりも高い高電圧HVを得ることができる。チャージポンプ回路の段数をMとすると、HV=(M+1)×VCCで表される。但し、電荷転送素子MOSトランジスタT〜Tの電圧ロスを無視する。
【0006】
また、チャージポンプ回路の出力端子OUTは降圧回路100に接続されている。降圧回路100は、第1及び第2のクロック信号CLK,*CLKを停止させることでチャージポンプ回路による昇圧動作が終了した後に、出力端子OUTに生じた高電圧(HV)を電源電圧VCCレベルに降圧させるための回路である。
【0007】
本発明に関連した技術は、例えば以下の特許文献に記載されている。
【特許文献1】特開2006−229755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したチャージポンプ回路において、昇圧動作を終了させると、電流の経路が閉じるため、各ノードA〜Xには電荷がある程度残ることになる。この残留電荷は、時間の経過とともに自然放電される。しかしながら、この残留電荷によって主として以下の2点の問題が起きることが判った。
【0009】
第1の問題について説明する。残留電荷が大きい場合には、自然放電されにくい。そして、ノードA〜Xの残留電荷が大きいことは、容量素子C〜C及び各電荷転送MOSトランジスタT〜Tに高電圧の負荷が生じていることを意味する。チャージポンプ回路では後段ほど高い電圧に昇圧されるため、特に後段の素子に対して高電圧の負荷が大きいと考えられる。そのため、容量素子C〜C及び各電荷転送MOSトランジスタT〜Tが残留電荷によって劣化するという問題があった。
【0010】
第2の問題について説明する。チャージポンプ回路による昇圧動作を一旦終了させ、その後直ぐに動作を開始させる場合がある。例えば、瞬間的な停電が起きた場合等である。このような場合には、上記自然放電が間に合わず、残留電荷が外部に逃げ切らない。そうすると、初期化されていない不安定な状態でチャージポンプ回路の動作が開始されることになる。そして、その結果としてチャージポンプ回路が誤動作し、所望のレベルの高電圧が出力されないという問題があった。
【0011】
なお、これらの問題は、上述した入力電圧を昇圧するチャージポンプ回路に限られず、入力電圧を降圧するチャージポンプ回路においても同様に発生し得ることである。
【0012】
そこで本発明は、残留電荷によってチャージポンプ回路を構成する素子(容量素子や電荷転送素子)の劣化の問題、及び残留電荷による誤動作の問題を解消できるチャージポンプ回路を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その主な特徴は以下のとおりである。すなわち、本発明のチャージポンプ回路は、入力端子と出力端子との間に直列接続された複数の電荷転送素子と、前記複数の電荷転送素子の接続点のそれぞれに一方の端子が接続され、他方の端子にクロック信号が印加される複数の容量素子と、前記クロック信号の印加が停止されたときに前記出力端子の電圧を降圧する降圧回路と、前記接続点と前記出力端子の間に接続された降圧用の整流素子とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のチャージポンプ回路は、前記降圧回路が、制御信号に応じてオンあるいはオフする第1のトランジスタと、前記第1のトランジスタに直列に接続され、前記出力端子の電圧から所定の電圧まで降下したときにオフする第2のトランジスタとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のチャージポンプ回路によれば、電荷転送素子と出力端子との接続点に整流素子を設けたので、接続点の電荷を積極的に降圧回路へと逃がすことができる。そのため、残留電荷が過大になることはなく、従来あった残留電荷による素子の劣化や誤動作の問題を解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
本実施形態に係るチャージポンプ回路は、入力端子INに入力された入力電圧Vin=VCC(例えば3ボルト)を昇圧して、出力端子OUTから出力電圧Voutとして高電圧HV(例えば約20ボルト)を出力するものである。図1に示すように、入力端子INと出力端子OUTの間に、ゲートとドレインを短絡させたNチャネル型電荷転送MOSトランジスタT〜T(Mは任意)が直列接続されている。各電荷転送MOSトランジスタT〜Tの接続点をノードA〜Xとする。
【0018】
各ノードA〜Xには、容量素子C〜Cの一方の端子が接続されている。つまり、電荷転送MOSトランジスタと容量素子から成るブロックの単位が複数直列接続された構成となっている。容量素子C〜Cの他方の端子には、第1のクロック信号CLK1と第2のクロック信号*CLK1(第1のクロック信号CLK1と逆相の信号)の一方が印加される構成になっている。より詳しく言えば、容量素子C,C,・・中略・・,CM−1には第1のクロック信号CLK1が印加され、容量素子C,C,・・中略・・,Cには第2のクロック信号*CLK1が印加される。
【0019】
NAND回路10は、チャージポンプ回路の動作を制御する回路であり、第1入力端子にクロック信号CLKが印加され、第2入力端子にイネーブル信号ENBが印加されている。クロック信号CLKは、容量素子C〜Cの充放電を制御するための信号である。イネーブル信号ENBは、チャージポンプ回路全体としてのオン及びオフを制御するための信号である。イネーブル信号ENBがハイレベル(H)のとき、クロック信号CLKはNAND回路10を通して容量素子C〜Cに印加されることによりチャージポンプ回路は動作する。イネーブル信号ENBがロウレベル(L)のとき、NAND回路10の出力はハイレベル(H)に固定され、チャージポンプ回路の動作は停止する。
【0020】
すなわち、イネーブル信号ENBがハイレベル(H)のとき、NAND回路10の出力端子からは、上記第1のクロック信号CLK1が出力される。また、NAND回路10の出力端子からインバータ11を介して上記第2のクロック信号*CLK1が出力される。
【0021】
チャージポンプ回路の出力端子OUTは、レギュレータ回路20に接続されている。レギュレータ回路20は、昇圧された高電圧HV(例えば約20ボルト)を所望の電圧(例えば約10〜12ボルト)に調節するための回路である。レギュレータ回路20としては、例えばツェナーダイオードを用いることができる。レギュレータ回路20によって調節された電圧はメモリセル等の不図示の負荷に供給される。
【0022】
また、チャージポンプ回路の出力端子OUTは、降圧回路30に接続されている。降圧回路30は、クロック信号CLKの印加が停止されてチャージポンプ回路による昇圧動作が終了した後に、制御信号(コントロール信号Ctrl)に応じて出力端子OUTに生じた高電圧HVを所定のレベル(例えば電源電圧VCCレベル)に降圧させるための回路である。
【0023】
降圧回路30は、例えば図1に示すように、出力端子OUTと接地端子(GND)との間に直列接続されたPチャネル型MOSトランジスタ31及びNチャネル型MOSトランジスタ32とから構成される。Pチャネル型MOSトランジスタ31のゲートには、電源電圧VCCの値からPチャネル型MOSトランジスタ31のしきい値電圧Vtpの値を引いた分の電圧(VCC−Vtp)が印加され、出力端子OUTの電圧がVCC以下になるとオフするように構成されている。また、Nチャネル型MOSトランジスタ32のゲートには、当該降圧回路30を制御するためのコントロール信号Ctrlが印加されている。
【0024】
また、各ノードA〜Xは、ゲートとソースが短絡されたNチャネル型MOSトランジスタN〜Nを介して出力端子OUTと接続されている。このMOSトランジスタN〜Nは、ノードA〜Xから降圧回路30側に電流を流す整流素子であり、チャージポンプ回路の動作終了後に、各ノードA〜Xの残留電荷を外部に逃がす経路となるものである。
【0025】
ここで、MOSトランジスタN〜Nのトランジスタサイズは、電荷転送MOSトランジスタT〜Tのトランジスタサイズよりも小さいことが好ましい。ここでいうトランジスタサイズとは、ゲート幅をW,ゲート長をLとしたときのW/Lを意味する。また、MOSトランジスタN〜Nの寄生容量は、電荷転送MOSトランジスタT〜Tの寄生容量及び容量素子C〜Cの容量よりも非常に小さいことが好ましい。MOSトランジスタN〜Nの寄生容量に電荷が保持されることによって、チャージポンプ回路の昇圧動作の効率が落ちることを回避するためである。なお、ここでいうMOSトランジスタの寄生容量とは、ゲート容量やソース・ドレイン層と基板間のPN接合による接合容量等の総和である。
【0026】
なお、MOSトランジスタN〜Nのソースは、図1に示すように、降圧回路30に接続することが好ましい。出力端子OUTに生じた高電圧を電源電圧VCCレベルに降圧させることと、各ノードA〜Xの残留電荷を逃がすことを一つの降圧回路30で実現することで、回路構成を簡素にすることができるからである。なお、MOSトランジスタN〜Nの整流性によって、出力端子OUT側から各ノードA〜Cに対して電流が流れることはない。なお、MOSトランジスタN〜Nに換えて、PN接合ダイオード等の整流素子を用いることもできるが、装置の微細化を図る観点からはMOSトランジスタ構造を採用することが好ましい。
【0027】
次に、上記構成のチャージポンプ回路の動作について、図2に示す動作タイミング図を参照して説明する。
【0028】
まず、イネーブル信号ENBがロウレベルの期間は、チャージポンプ回路の昇圧動作は行われておらず、出力端子OUTの出力電圧VoutはVCCレベルである(図2(a),(b)参照)。
【0029】
次に、イネーブル信号ENBがハイレベルに変化すると、クロック信号CLKに対応する第1のクロック信号CLK1がNAND回路10から出力され、容量素子C,C,・・・,CM−1に印加される(図2(d)参照)。また、第1のクロック信号CLK1が反転された第2のクロック信号*CLK1が容量素子C,C,・・・,Cに印加される。
【0030】
これにより、電荷転送MOSトランジスタT〜Tはオンとオフを交互に繰り返すとともに、容量素子C〜Cは充電及び放電を交互に繰り返す。そして、後段のMOSトランジスタに向かって電荷が転送され、出力端子OUTからは昇圧された高電圧HVが出力電圧Voutとして出力される(図2(a)参照)。
【0031】
次に、イネーブル信号ENBがロウレベルに変化すると、第1のクロック信号CLK1はハイレベルに維持され、チャージポンプ回路の昇圧動作は終了する(図2(b),(d)参照)。
【0032】
次に、コントロール信号Ctrlがハイレベルに変化すると、Nチャネル型MOSトランジスタ32がオンし、降圧回路30が動作を開始する。そして、出力端子OUTから接地端子側に電流が流れる。出力端子OUTの電圧が高電圧HVから電源電圧VCCに降圧するまで、Pチャネル型MOSトランジスタ31はオンし続ける。出力端子OUTの電圧が電源電圧VCCに降下すると、Pチャネル型MOSトランジスタ31はオフし、降圧回路30の動作は終了する。
【0033】
また、ノードA〜Xが、MOSトランジスタN〜Nを介して降圧回路30と接続されている。そのため、各ノードA〜Xの残留電荷はMOSトランジスタN〜Nを介して降圧回路30側へ移動し、降圧回路30で降圧(放電)される。この各ノードA〜Xの残留電荷を逃がすことは、各ノードA〜Xの電圧がVCCレベルになるまで行われる。
【0034】
このように本実施形態では、チャージポンプ回路の昇圧動作を終了させた際、ノードA〜Xから残留電荷を外部(降圧回路30)へ積極的に逃がすための経路を有している。そのため、従来あった残留電荷による素子の劣化や誤動作の問題を解消できる。
【0035】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなくその要旨を逸脱しない範囲で設計変更が可能であることは言うまでも無い。例えば、上記実施形態では、MOSトランジスタを電荷転送素子として用いていたが、バイポーラトランジスタを用いることも可能である。また、降圧回路30は、電源電圧VCCレベルまで降圧させる回路であったが、構成を変える事によって別のレベルに降圧させるものであってもよい。また、上記実施形態では、入力電圧を昇圧するチャージポンプ回路について説明したが、入力電圧を降圧するチャージポンプ回路においても同様である。本発明はチャージポンプ回路に広く適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係るチャージポンプ回路を説明する回路図である。
【図2】本発明の実施形態に係るチャージポンプ回路の動作を説明する図である。
【図3】従来のチャージポンプ回路を説明する回路図である。
【符号の説明】
【0037】
10 NAND回路 11 インバータ 20 レギュレータ回路
30 降圧回路 31 Pチャネル型MOSトランジスタ
32 Nチャネル型MOSトランジスタ 100 降圧回路
〜T 電荷転送MOSトランジスタ N〜N MOSトランジスタ
A〜X ノード IN 入力端子 OUT 出力端子
Vin 入力電圧 VCC 電源電圧 Vout 出力電圧
Vtp Pチャネル型MOSトランジスタ31のしきい値電圧
HV 高電圧 C〜C 容量素子 CLK クロック信号
CLK1 第1のクロック信号 *CLK1 第2のクロック信号
ENB イネーブル信号 Ctrl コントロール信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と出力端子との間に直列接続された複数の電荷転送素子と、
前記複数の電荷転送素子の接続点のそれぞれに一方の端子が接続され、他方の端子にクロック信号が印加される複数の容量素子と、
前記クロック信号の印加が停止されたときに前記出力端子の電圧を降圧する降圧回路と、
前記接続点と前記出力端子の間に接続された降圧用の整流素子とを備えることを特徴とするチャージポンプ回路。
【請求項2】
前記降圧回路は、制御信号に応じてオンあるいはオフする第1のトランジスタと、
前記第1のトランジスタに直列に接続され、前記出力端子の電圧から所定の電圧まで降下したときにオフする第2のトランジスタとを備えることを特徴とする請求項1に記載のチャージポンプ回路。
【請求項3】
前記電荷転送素子は、ゲートとドレインとが接続された第1のMOSトランジスタから成り、
前記整流素子は、ゲートとドレインとが接続された第2のMOSトランジスタから成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチャージポンプ回路。
【請求項4】
前記第2のMOSトランジスタのトランジスタサイズは、前記第1のMOSトランジスタのトランジスタサイズよりも小さいことを特徴とする請求項3に記載のチャージポンプ回路。
【請求項5】
前記第2のMOSトランジスタの寄生容量は、前記容量素子の容量及び前記第1のMOSトランジスタの寄生容量よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載のチャージポンプ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−113269(P2008−113269A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295100(P2006−295100)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(506227884)三洋半導体株式会社 (1,155)
【Fターム(参考)】