説明

トラクタの変速装置

【課題】副変速を有した多段変速走行のトラクタにおいて、路上走行等の高速走行を安全に行なわせると共に、簡単で的確な変速操作を行なわせることを目的とする。
【解決手段】主変速装置26と、副変速装置27と、前後進切替装置A、及び自動変速操作可能のアクセルペダル40を有すると共に、このアクセルペダル40による変速域を、後進側最高速位置が前進側最高速位置よりも低い低速域に設定する。アクセルペダル40による自動変速操作の低速域は、副変速レバー41の路上速位置への操作によって設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アクセルペダルによりアクセル操作と同時に自動的変速操作をも行なうもので、このとき後進側の最高速位置を前進側最高速位置よりも低速域に設定して、走行変速を自動的に行わせるトラクタの変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタの多段変速においては、アクセルペダルで主変速操作する技術や、モード設定器の操作で、このアクセルペダルによる主変速が可能とするように切替る技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003ー219707号公報(6頁、図15)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
副変速を有した多段変速走行のトラクタにおいて、路上走行等の高速走行を安全に行なわせると共に、簡単で的確な変速操作を行なわせるものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、主変速装置26と、副変速装置27、前後進切替装置22、23、及び自動変速操作可能のアクセルペダル40を有すると共に、このアクセルペダル40による変速域を、後進側最高速位置が前進側最高速位置よりも低い低速域にして設定したことを特徴とするトラクタの変速装置の構成とする。この前後進切替装置を前進位置、又は後進位置に切替て、主変速と副変速の操作で走行することができる。又、アクセルペダル40を踏込むことによって、エンジンの回転を上げることができ、出力を増すことができる。この走行において副変速レバー41を高速位置に操作して路上走行することができるが、このようなときはアクセルペダル40の操作によって高速域を変速できるように切替ることによって、このアクセルペダル40の踏み込みによってエンジンの回転が上昇されると共に、主変速位置が高速側へ変速される。このアクセルペダル40による変速域は、前記前後進切替装置が前進位置に切替られている前進走行のときは自由に変速されるが、後進位置に切替られている後進走行のときは、比較的低速の低速域において主変速されて走行できるもので、前進走行時の最高速位置までには上げて走行することはできない。
【0006】
請求項2記載の発明は、前記アクセルペダル40により自動変速操作される低速域は、副変速レバー41の路上速HF位置への操作によって設定されることを特徴とするものである。前記路上速等で高速走行するため、副変速レバー41を路上速HF位置へ操作すると、この操作によって主変速の自動変速域が低速域に切替設定される。このためアクセルペダル40によってエンジン回転を昇降すると、これに応じて主変速が増減速される。しかも、前後進切替装置が後進位置にあって後進走行するときは、低速位置において主変速されて、後進走行速を制限することができる。
【0007】
請求項3に記載の発明は、前記副変速レバー41を路上速HF位置からこれ以外の位置へ操作することにより、主変速レバー41による変速位置に自動変速することを特徴とするものである。前記のような路上速HF位置での走行においては、アクセルペダル40による主変速の自動変速操作が行なわれ、この後進走行では路上速HF変速が比較的低い低速域に制限される。ここで、副変速レバー41を路上速HF以外の位置へ操作すると、主変速操作による変速位置へ自動的に操作される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明は、アクセルペダル40の操作による高速域の主変速操作は、後進側最高速位置が前進側最高速位置よりも適宜低い位置に設定された低速域において行なわれるように制限されるものであるから、後進側車速を制限して安全な走行を行なわせると共に、操作性、操作感覚を良好に維持できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、アクセルペダル40により自動変速操作される路上速HF位置の低速域は、副変速レバー2をこの路上速HF位置への操作によって自動的に切替設定されるため、切替のための特別の操作具を要せず誤操作をなくして、構成及び操作を簡単にすることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、副変速レバー2を路上速HF位置へ操作したり、又この路上速HF以外の位置へ操作することによって、アクセルペダル40による主変速の自動変速操作が行なわれたり、主変速操作へ切替ることができ、特別の操作具を設けることなく、簡単な構成、及び操作を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】アクセルペダルによる変速制御のフローチャート。
【図2】その制御ブロック図。
【図3】その変速段数を示す表と、各レバーガイド部の平面図。
【図4】その伝動機構の線図。
【図5】そのトラクタの側面図。
【図6】その一部別実施例を示す変速制御部のブロック図と、レバーガイド部の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図例に基づいて説明する。図5に示すように、トラクタは、前車輪1と後車輪2を有して、車体3前部のボンネット4下に搭載のエンジン5の駆動によって、伝動回転して走行する四輪駆動走行形態の構成とし、この車体3の後側にトップリンク6とロワリンク7を介してロータリ耕耘装置8を連結し、リフトアーム9の上下回動によって、リフトロッド10を介して連結のロワリンク7を昇降できる構成としている。11はダッシュボード、12はステアリングハンドル、13はミッションケース、14はフェンダー、15は運転席である。又、耕耘装置8の耕耘爪軸16は、ミッションケース13のPTO軸17から得た動力により耕耘フレーム18内の伝動機構を介して伝動される。
【0013】
前記ミッションケース13の伝動機構を主として図4において説明する。エンジン5から主クラッチ21を経て、湿式多盤形態の前、後進切替クラッチ22、23からなる前後進切替装置Aへ連動し、更に、パワーシンクロメッシュ形態の第1主変速としての四段変速ギヤクラッチ24と、湿式多盤形態の第2主変速としての二段変速ギヤクラッチ25とからる合計八段変速のノークラッチ形態の主変速装置26を連動する。この後側には、低速L、中速M、高速Hの三段のクラッチギヤに切替できるコンスタントメッシュ等の手動式副変速装置27が連動されて、この出力軸28がリヤアクスルハウジングの後輪デフギヤ29、後輪ブレーキ30等を介して、後車輪2の後車軸31へ連動する。又、出力軸28からは、前輪出力ギヤ32、二WDと四WDとの切替えを行う前輪駆動切替クラッチ33、フロントアクスルハウジングの前輪デフギヤ34、及びこの左右両側部の操向ギヤ35等を経て前車輪1の前車軸36を連動する構成としている。この他、前記PTO軸17の連動機構は、前記主クラッチ21から、PTOクラッチ37、PTO変速ギヤ38等を介して連動される。
【0014】
これら前、後進切替クラッチ22、23や、四段変速ギヤクラッチ24、二段変速ギヤクラッチ25、副変速装置27、前輪駆動切替クラッチ33、及びPTOクラッチ37等は、油圧回路の切替弁や油圧シリンダ等のアクチュエータ等を介して操作される。主変速装置26について詳しく述べると第1主変速装置はシンクロメッシュ式で常時噛合する4組のギヤ群で構成され、これを2個のアクチュエータ24b,24bで切換える。第2主変速装置25は2個の油圧クラッチで構成される。
【0015】
また、前記副変速装置27の変速を行う副変速レバー41は、運転席15の左側に設けられて、レバーガイド42に沿って案内させて操作できる。
レバーガイド42の前端から後端にわたって、主変速の低速L、中立N、中速M、高速H、及び路上速HFの各副変速位置が形成される。これらレバーガイド42の各位置には副変速レバー41の操作位置を検出する副変速レバー位置センサ43、44、45、46が設けられて、コントローラ47に入力される。又、副変速レバー41の把持部には押ボタン形態の増速スイッチ48と、減速スイッチ49が設けられ、各スイッチ48、49を押す毎に一速毎に1速から8速の範囲で主変速装置を増速、又は減速することができる。
【0016】
又、前記コントローラ47の入力側にはアクセルペダル40による自動変速を行なわせるための自動スイッチ50や、前、後進クラッチ22、23の入りを検出する前、後進位置センサ51、主変速位置を検出する主変速位置センサ52、エンジン5の回転を検出するエンジン回転センサ53、PTO軸17の回転を検出するPTO軸回転センサ54、後車軸31の回転を検出する車軸回転センサ55、及びリフトアーム9の昇降位置を検出するリフトアームセンサ56等を配置する。
【0017】
また、出力側には、主変速の各ギヤクラッチ24、25を切換える主変速切換えバルブ24a,25aや、前、進クラッチ22、23を切換える切換バルブ59、主変速装置26を切換える際に圧力を徐々に高めるクラッチ昇圧バルブ60等を配置する。
【0018】
前記変速装置によって操作される変速位置は、図3の表に示すように(第1主変速:4段)×(第2主変速:2段)×(副変速:3段)=24段となり、合計24段の多段変速形態となる。即ち、各副変速の低速L、中速M、及び高速H位置毎に、各々主変速8速に切替えられる。このうち通常の作業速は副変速L〜Mの変速位置1速〜16速の領域が一般的であるが、高速Hの副変速位置は、高速走行であるため、作業速としては特別の作業に限定されることが多く、高速位置17速〜20速の領域に選択される。又、路上走行時は高速走行が一般的であるから変速位置18速〜24速の領域に選択されることが多い。主変速装置26は副変速レバー41に設けた増速スイッチ48と減速スイッチ49を操作して1速から8速までの間を切換えるがスイッチに代えてレバーで切換えるようにしても良い。その場合、四段変速ギヤクラッチ24と二段変速ギヤクラッチ25を操作して八段変速に切替操作できる。この主変速レバー19はレバーガイド20に案内される。このレバーガイド20には、この変速レバー19の操作位置を検出する主変速レバー位置センサ39が設けられて、この検出をコントローラ47に入力する。又、前記前後進クラッチ22、23を切替る前後進切替レバー58が設けられて、この切替レバー58によってコントローラ47を介して前後進切替バルブ59を出力することにより前後進クラッチ22、23を作動する。60はクラッチ昇圧バルブである。61は自動スイッチ50がONになっていることを点灯表示するオート入りランプである。62はアクセルペダル40の踏み込み位置を検出するアクセルペダルセンサで、前記スロットルセンサ57と共用することもできる。
【0019】
前記のように、主変速は、主変速レバー19を直線状形態のレバーガイド20に沿わせて操作することにより、主変速装置26をノークラッチ形態に八段に切替操作でき、副変速は、副変速レバー41により直線状形態のレバーガイド42に沿わせて操作することにより、副変速装置27を複数段の中立N、低速L、中速M、高速H、及び路上速HFの各位置に切替操作できる。この副変速レバー41がレバーガイド42内の路上速HF位置に操作されたときは、副変速は高速H位置で変わらないが、前記副変速レバー19等による操作だけではなく、アクセルペダル40の踏み込み操作によっても連動して行なわれるように構成される。このアクセルペダル40による主変速の操作形態は、前記主変速レバー19、或は副変速レバー41の把持部等に自動変速スイッチを設けて、この自動変速スイッチのONによってアクセルペダル40による自動変速を可能となるように構成することもできる。そのように構成すると作業者がペダルによる変速を必要とするとき簡単に自動ペダル変速モードに入っていける。又、このアクセルペダル40による自動変速操作は、これら自動変速スイッチや、前記自動スイッチ50等に関係なく、単に副変速レバー41を路上速HF位置に操作することによって自動的に操作可能の構成とすることもできる。
【0020】
又、前記のような副変速の路上速HF位置への切替操作は、主クラッチ21を切るクラッチペダルの操作を必要とするように構成することもできる。クラッチセンサ63が、主クラッチ21が切りになったことを検出して、路上速HF位置の副変速レバー位置センサ46が検出しうるもので、これによってアクセルペタル40による自動変速が行なわれることとなる。
【0021】
前記副変速レバー41によって操作される高速H域は、図3の表のように、主変速によって変速位置18速〜24速の範囲の八段変速となるが、このうち比較的低速域の変速位置18速〜20速の範囲の四段変速が作業可能な作業域Aとして設定される。又、路上走行するのに適する路上速HF位置では、路上域Bが変速位置18速〜24速の範囲の七段変速、更に後進走行では後進域Cとして変速位置18速〜21速の範囲の四段変速に設定している。
【0022】
ここに副変速の路上速HF位置の変速制御を図1を参照して説明する。自動スイッチ50をONにして、副変速レバー41を高速Hから路上速HF位置に操作する。このとき前後進切替レバー58が前進位置にあり、前後進位置センサ51が前進位置を検出しているときは、フローチャートのメインルーチンのようにアクセルペダル40による自動変速操作が可能となる。これによりこのアクセルペタル40の踏み込み位置によるアクセルセンサ62と、エンジン5の回転センサ53による回転数により、主変速を自動変速することができる。このときの主変速は、変速位置18速〜24速の領域で行なわれる。又、前後進切替レバー58が後進位置に操作されているときは、フローチャートのサブルーチンのようにして同様のペダル変速を行なうことができるが、このときは変速位置22速〜24速の比較的低速域で変速される。
【0023】
前記副変速を路上速HF位置に変速したときは、フローチャートのサブルーチンにようにこの副変速したときの主変速レバー19の位置には関係なく、主変速がこの路上速HF域での主変速の最高速よりも遅い低速側の主変速位置に自動的に変速されて、その後にアクセルペダル40の操作による自動主変速で増減速されるように構成することもできる。このとき、アクセルペダル40による主変速が、一旦自動変速された低速側の主変速位置と同じであれば、その変速位置が一致することとなり、この低速側の主変速位置よりも高速位置であれば、主変速が自動的に増速される。これによって自動変速が円滑に行なわれる。
【0024】
又、前記副変速を路上速HF位置からそれ以外の位置へ変速操作するときは、フローチャートのサブルーチンのように前記副変速レバー位置センサ46による路上速HF位置の検出は行なわれなくなって、アクセルペダル40による自動的主変速も行なわれない。このときは、この副変速レバー40、及び主変速レバー19で指示している副変速位置での主変速位置に自動的に復帰変速されることとなる。
【0025】
次に、主として図6に基づいて上例と異なる点は、レバー式のノークラッチ変速形態において、変速レバー66の操作位置にオートマAT位置を設け、このオートチックAT位置をレバーガイド67に設けたレバーセンサ68で感知して、自動変速モードとして自動変速する構成としたものである。レバーガイド67は前後方向に沿う形態で、オートマチックAT位置は、中立N位置の後側横寄りの位置に設けられて、クランク状に形成される。変速レバー66は中立N位置から前側へ操作するに伴って1速〜9速までの変速域を設定し、このうち最高位置の8速と9速位置は、レバーガイド位置を横側へ偏位させている。
【0026】
このような変速レバー66をレバーガイド67に沿わせて操作することによって各操作位置の変速が行なわれるが、オートマチックAT位置では自動変速モードとして、例えば、前例のようにアクセルペダル40による自動変速操作を行なわせる場合がある。
【0027】
又、このオートマチックAT位置のレバーセンサ68に代えて、オートマチックスイッチ69を設けることもできる。この場合は、オートマチックスイッチ69をONすることにより自動変速を行なわせることができる。この形態では、変速レバー66自体を自動操作させる形態で、レバーセンサ68で変速レバー66の現在位置を検出してコントローラ47に入力しながら、自動変速モードのソフトに従って油圧シリンダ等のレバーアクチュエータ70を出力して変速レバー66を操作し、所定の自動変速を行なわせるものである。
【符号の説明】
【0028】
22 前進クラッチ
23 後進クラッチ
26 主変速装置
27 副変速装置
40 アクセルペダル
41 副変速レバー
47 コントローラ
50 自動スイッチ
L 低速
M 中速
H 高速
HF 路上速

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主変速装置26と、副変速装置27と、前後進切替装置A、及び自動変速操作可能のアクセルペダル40を有すると共に、このアクセルペダル40による変速域を、後進側最高速位置が前進側最高速位置よりも低い低速域にして設定したことを特徴とするトラクタの変速装置。
【請求項2】
前記アクセルペダル40により自動変速操作される低速域は、副変速レバー41の路上速HF位置への操作によって設定されることを特徴とする請求項1に記載のトラクタの変速装置。
【請求項3】
前記副変速レバー41を路上速HF位置からこれ以外の位置へ操作することにより、主変速レバー41による変速位置に自動変速することを特徴とする請求項1、又は2に記載のトラクタの変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−75108(P2011−75108A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3201(P2011−3201)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【分割の表示】特願2003−419740(P2003−419740)の分割
【原出願日】平成15年12月17日(2003.12.17)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】