説明

ナビゲーション装置、道路勾配演算方法および高度演算方法

【課題】ブレーキ操作中にも道路勾配演算の継続を可能にし、かつ、演算される自車位置の高度の精度を向上させる。
【解決手段】 平坦路加速度演算部1はエンジン出力トルクと車両重量とに基づいて平坦路加速度を演算し、推定加速度演算部2は車速に基づいて推定加速度を演算し、道路勾配演算部3は平坦路加速度および前記推定加速度に基づいて道路勾配を演算し、高度演算部6は道路勾配を用いて高度を演算する。このとき、道路勾配演算部3は、ブレーキSWがONになったときには、それ以降ブレーキSWがOFFになるまで、自車が走行する道路の勾配を、ブレーキSWがONになる直前に演算した道路勾配またはその道路勾配の変化率に基づいて予測演算する。また、車両重量学習部7は、推定加速度の微分値と自車の駆動力微分値とに基づき現在の車両重量を演算するともに、過去の車両重量を用いて、適宜その車両重量を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のナビゲーション装置ならびにそのナビゲーション装置で用いられる道路勾配演算方法および高度演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のナビゲーション装置では、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)や自律航法により自車位置を検出するが、その検出された自車位置は、その自車位置周辺の地図上に明示された位置として、その地図とともに表示装置に表示される。その場合、ドライバは、表示される自車位置が実際の自車位置に近いほど、つまり、自車の位置検出精度が高いほど、より適切に道路情報を把握することができる。すなわち、ドライバにとっては、ナビゲーション装置利用の快適性が向上する。
【0003】
従来、ナビゲーション装置は、自車位置の高度を取得しようとする場合には、地図情報に含まれる所定の基準地点の高度とその基準地点からの走行距離とその道路の道路勾配とを用いて、自車位置の高度を演算する必要がある。そのとき、自車位置の高度を精度よく演算するには、ナビゲーション装置は、さらに、道路勾配を取得する必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、エンジン出力トルクに基づき算出される平坦路を基準とする基準加速度と、車速に基づき算出される実加速度とを比較して、道路勾配を推定して自動変速機の変速パターンを変更する車両の変速制御装置の例が開示されている。
【特許文献1】特開2007−183004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1によれば、ドライバのブレーキ操作中には道路勾配の推定は中止されてしまう。これは、基準加速度をエンジン出力トルクに基づいて演算しているためであり、ブレーキ操作により制動トルクが作用すると、道路勾配の推定が困難となるからである。なお、制動トルクも利用して基準加速度を求めるようにすれば、道路勾配の推定は可能となるが、現状では制動トルクの検出は困難である。
【0006】
また、この方法を用いて道路勾配を推定する際には、車両重量がばらつくと道路勾配の推定結果に誤差が発生する。一般的なセダンタイプの乗用車において、1人乗車の荷物無しから4人乗車の荷物満載まで使用すると考えると、車両重量としては300〜400kgの変動がありうる。さらに、車両重量の変動は、人の乗り降りだけでも発生するので、無視することはできない。
【0007】
本発明の目的は、ブレーキ操作中にも道路勾配の演算を継続することが可能で、かつ、その道路勾配を用いて演算される自車位置の高度の精度を向上させることが可能なナビゲーション装置、道路勾配演算方法および高度演算方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明のナビゲーション装置は、自車のエンジン出力トルクと前記自車の車両重量とに基づいて平坦路走行状態での平坦路加速度を演算する平坦路加速度演算部と、自車の車速に基づいて推定加速度を演算する推定加速度演算部と、平坦路加速度および前記推定加速度に基づいて道路勾配を演算する道路勾配演算部と、を備える。そして、その道路勾配演算部は、自車のブレーキ操作信号が入力されたときには、そのとき以降、ブレーキ操作信号が入力されなくなるまで、自車が走行する道路に沿ってその道路の道路勾配を、ブレーキ操作信号が入力される前に演算した道路勾配およびその道路勾配の変化率の少なくとも一方に基づいて予測演算する。
【0009】
従って、本発明のナビゲーション装置は、ブレーキ操作信号が入力されているとき、すなわち、ブレーキ操作がされているときであっても、その予測演算された勾配を積分することにより、自車位置の高度を得ることができる。
【0010】
さらに、本発明のナビゲーション装置は、推定加速度演算部により演算した推定加速度を時間微分した推定加速度微分値と、自車のエンジン出力トルクを用いて演算した自車の駆動力を時間微分した駆動力微分値と、に基づき現在の車両重量を演算するとともに、過去に演算した車両重量に基づき現在の車両重量を補正する車両重量学習部を備える。
【0011】
従って、本発明のナビゲーション装置は、現在の車両重量を精度よく演算することができる。車両重量は、平坦路加速度演算に用いられるパラメータであるので、さらに、その平坦路加速度を用いて演算される道路勾配および自車位置の高度の精度が向上する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブレーキ操作中にも道路勾配の演算の継続が可能で、かつ、その道路勾配を用いて演算される自車位置の高度の精度を向上させることが可能なナビゲーション装置、道路勾配演算方法および高度演算方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0014】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るナビゲーション装置の構成の例を示した図である。図1に示すように、ナビゲーション装置100は、平坦路加速度演算部1、推定加速度演算部2、道路勾配演算部3、道路勾配記憶部4、勾配変化率演算部5、高度演算部6、車両重量学習部7、自車位置検出部8、地図情報記憶部9、自車周辺地図情報取得部10、自車位置補正部11などの機能ブロックを含んで構成される。なお、これらの機能ブロックは、道路勾配演算および高度演算など自車位置の補正機能に係る機能ブロックであり、図1では、経路探索や経路誘導など周知の機能についての機能ブロックの記載を省略している。
【0015】
なお、ナビゲーション装置100は、図示しないCPU(Central Processing Unit)と記憶装置とからなるコンピュータによって構成される。図1に示した各機能ブロックの動作は、そのCPUが記憶装置に記憶された所定のプログラムを実行することによって実現される。なお、ここでいう記憶装置は、高速の半導体メモリなどで構成されるほか、大容量のハードディスク装置などを含んでもよい。
【0016】
次に、図1を参照して、ナビゲーション装置100の各機能ブロックの概略の動作について説明する。
【0017】
平坦路加速度演算部1は、車内LAN(Local Area Network)などの通信手段を介して各種センサから入力されるエンジン出力トルク、エンジン回転数、車速などの情報を用いて、推定駆動力Fおよび平坦路加速度αfを演算する。なお、推定駆動力Fおよび平坦路加速度αfは、周知の式(1)および式(2)により求めることができる。
F=エンジントルク×変速機ギア比/タイヤ径 (1)
M×αf=F−ころがり抵抗−速度抵抗 (2)
ここで、Mは、車両重量であり、その車両重量は、車両重量学習部7により学習した値を利用する。
【0018】
推定加速度演算部2は、車内LANなどの通信手段を介して車速センサなどから入力される車速を時間微分することで推定加速度αsを演算する。ただし、車速を単純に微分すると、ノイズが大きくなるので、適宜、車速をフィルタリングした後、微分するのが好ましい。
【0019】
道路勾配演算部3は、平坦路加速度演算部1により演算された平坦路加速度αfおよび推定加速度演算部2により演算された推定加速度αsを用いて、周知の式(3)に従って演算し、演算した道路勾配を道路勾配記憶部4に記憶する。
道路勾配=tanθ≒sinθ=(αf−αs)/g (3)
ここで、θは道路の傾斜角、gは重力の加速度である。
【0020】
さらに、道路勾配演算部3は、ブレーキスイッチ(以下、ブレーキSWと記載)のON/OFF情報を車内LANなどの通信手段を介して入力し、勾配変化率演算部5により演算された勾配変化率を用いてブレーキSWがONのときの道路勾配を予測する。
【0021】
車両重量学習部7は、平坦路加速度演算部1により演算された推定駆動力F、および、車内LANなどの通信手段を用いて入力した車速を時間微分した加速度を利用して、現在の車両重量を推定し、平坦路加速度演算部1で利用する車両重量を補正する。
【0022】
自車位置検出部8は、GPSからの信号に基づき自車位置を検出するほか、車内LANなどの通信手段を介して入力される車速、ジャイロセンサからの情報などを組み合わせて車両の移動ベクトルを生成し、積分することにより自車位置を演算してもよい。さらには、GPSからの信号に基づき検出される自車位置と車両の移動ベクトルの積分値とを組み合わせて自車位置を演算してもよい。
【0023】
地図情報記憶部9は、ノード情報、リンク情報などからなる道路の地図情報を記憶し、そのリンク情報は、少なくとも高度情報を含む。地図情報記憶部9は、ナビゲーション装置100を構成する記憶装置に含まれて構成されるが、その場合の記憶装置としては、ハードディスク装置が利用されるほか、CD−ROM、DVD−ROMなどの可搬記憶メディアのドライブ装置を利用してもよい。また、ナビゲーション装置100は、地図情報センタから提供される地図情報を、CD−ROM、DVD−ROMなどの可搬記憶メディアを介して地図情報記憶部9に取り込むものとするが、地図情報センタとの通信により地図情報を取得してもよい。
【0024】
自車周辺地図情報取得部10は、自車位置検出部8により検出された自車位置に基づいて地図情報記憶部9にアクセスし、自車位置周辺の地図情報を取得する。
【0025】
自車位置補正部11は、高度演算部6により演算された高度と自車周辺地図情報取得部10により取得された高度を比較して自車位置を補正する。
【0026】
次に、図2を参照して、本実施形態のナビゲーション装置100における全体の処理、すなわち、自車位置の検出から高度補正を含む自車位置の補正までの処理の内容について説明する。ここで、図2は、本実施形態に係るナビゲーション装置100の全体の処理内容を示すフローチャートの例である。なお、この処理は、所定の時間周期で繰り返して実行される。
【0027】
ナビゲーション装置100のCPU(以下、単に、CPUという)は、まず、処理300において、自車位置を検出するとともに自車位置の周辺の地図情報を取得する(自車位置検出部8および自車周辺地図情報取得部10の処理)。なお、処理300の詳細については、別途、図3を用いて説明する。
【0028】
次に、CPUは、処理201において、平坦路走行状態での平坦路加速度αfを演算する(平坦路加速度演算部1の処理)。具体的には、エンジン回転数と車速から現在のギア比を推定し、推定したギア比とエンジン出力トルクとタイヤ半径とに基づき車両に働く駆動力Fを推定する。そして、推定した駆動力Fと平坦路での走行抵抗、車両重量から平坦路加速度αfを演算する。
【0029】
次に、CPUは、処理202において、車速を時間微分することにより推定加速度αsを演算する(推定加速度演算部2の処理)。ただし、単純に車速を微分するとノイズ成分が大きいため、ローパスフィルタや変化量制限を用いて演算値をフィルタリングする。
【0030】
次に、CPUは、処理203において、処理201で演算された平坦路加速度αfと処理202にて演算された推定加速度αsを用いて、現在走行中の道路の勾配を演算する。具体的には、平坦路加速度と推定加速度の差を演算し、この加速度差に係数を乗じることで道路の勾配値(単位:%)を得る。
【0031】
ただし、処理203によって得られる勾配は、ブレーキが操作されていないとき(ブレーキSWのOFF信号が入力されているとき)には有効であるが、ブレーキが操作されているとき(ブレーキSWのON信号が入力されているとき)には無効となる。
【0032】
そこで、CPUは、処理204、処理205および処理206において、ブレーキが操作されたか否かにより、場合分けを行い、ブレーキが操作されているとき(ブレーキSWがONのとき)の勾配を予測する。
【0033】
すなわち、CPUは、ブレーキSWがOFFからONに切り替わった場合には(処理204でYES)、処理400に進み、ブレーキSWがONを継続している場合には(処理205でYES)、処理500に進む。なお、詳細は後記するが、処理400および処理500では、CPUは、ブレーキSWがONに切り替わる直前の勾配に基づき、そのときの勾配を予測し、さらに、高度を予測する。
【0034】
また、ブレーキSWがONからOFFに切り替わった場合には(処理206でYES)、処理600に進み、それら以外の場合つまり、ブレーキSWがOFFを継続している場合には(処理206でNO)、処理207に進む。なお、詳細は後記するが、処理600では、CPUは、予測した勾配を処理203によって得た勾配に一致させるとともに高度を補正する。また、CPUは、処理207において、処理203で演算された道路勾配を積分演算して高度を得る。
【0035】
なお、以上の処理203〜処理207、処理400、処理500および処理600は、道路勾配演算部3および高度演算部6の処理に相当する。
【0036】
次に、CPUは、処理208において、処理400、処理500、処理600、処理207にて演算された高度と処理300にて地図情報から取得した高度を比較して自車位置の補正を行う(自車位置補正部11の処理)。その詳細については、別途、図10を用いて説明する。
【0037】
次に、図3を参照して、図2における処理300(自車周辺地図情報取得処理)の具体的処理内容について説明する。図3は、自車周辺地図情報取得処理の処理内容を示すフローチャートの例である。
【0038】
CPUは、まず、処理301において、GPSから受信した自車位置の情報(緯度、経度など)、車速、ジャイロセンサからの情報などを用いて自車位置を検出し、処理302において、地図情報記憶部9から自車位置の周辺の地図情報を読み込む。ここで、CPUが情報を読み込むとは、例えば、ハードディスク装置など低速の記憶媒体から読み出した情報を、高速の半導体のRAM(Random Access Memory)などからなるメインメモリに格納することを意味するものとする。
【0039】
次に、CPUは、処理303において、処理301にて検出された自車位置の情報を用いて、処理302にて読み込まれた地図情報に自車位置をマッチングする処理を行う。マッチング処理の一例としては、地図上にメッシュを作成し、自車位置(緯度、経度)とその地図に含まれる道路上のメッシュ格子点の位置とを比較して、自車位置の最も近傍にあるメッシュ格子点に自車位置をマッチングするマップマッチングが一般的である。
【0040】
次に、CPUは、処理304において、処理303で実行したマッチング処理の結果に応じて自車位置の更新を行い、処理305において、更新された自車位置に基づいた地図情報を出力する。ここで、出力される地図情報には、少なくとも自車が走行中の道路および近傍の分岐路などの自車が走行する可能性のある道路の高度情報を含む。
【0041】
以上、自車位置検出部8および自車周辺地図情報取得部10による処理により、CPUは、自車周辺付近の地図情報を得る。
【0042】
次に、図4を参照して、図2における処理400(ブレーキ対応処理1:ブレーキSWがOFFからONに切り替わったときの道路勾配および高度の予測演算処理)の具体的処理内容について説明する。図4は、ブレーキ対応処理1の処理内容を示すフローチャートの例である。
【0043】
CPUは、まず、処理401において、道路勾配記憶部4により記憶された道路勾配の情報を用いて道路勾配の変化率を演算する(勾配変化率演算部5の処理)。この道路勾配の変化率の演算方法としては、道路勾配を時間微分する方法があるが、この方法では演算結果にノイズが多く含まれる可能性が高いため、適宜フィルタリングを実施するか、過去の数サンプルを用いて最小二乗法により傾きを求めてこれを変化率とする方法を採用することが望ましい。
【0044】
次に、CPUは、処理402において、ブレーキSWがONになる直前の勾配変化率が所定の閾値より小さいか否かを判定し、小さい場合(つまり、ほぼ一定の勾配を有する坂道の場合:処理402でYES)には処理409に進み、大きい場合(つまり、勾配が変化する道路部分で、例えば、勾配のない平坦道路と坂道との接続部分の道路の場合:処理402でNO)には処理403に進む。
【0045】
次に、CPUは、処理403において、ブレーキON時の勾配予測の演算モードを「予測モード」にセットするとともに、処理404において、勾配下限値を演算する。この勾配下限値は、後記のリミッタ処理に必要な値であり、自車周辺地図情報取得部10により取得した自車周辺道路(自車が走行している道路、および、自車の進行路上に分岐路がある場合には、その分岐路のうち顕著に高度変化が見られる道路)の高度を用いて道路勾配を演算し、自車の近傍で最も小さい値の道路勾配を勾配下限値とする。
【0046】
次に、CPUは、処理405において、その時点での道路勾配を予測する。具体的には、ブレーキON直前の勾配変化率のまま勾配を変化させ続け、これを予測勾配とする。さらに、CPUは、処理406において、処理405にて求めた予測勾配が処理404で求めた勾配下限値を超えた否かを判定し、勾配下限値を超えた場合には、処理407においてリミッタ処理(すなわち、予測勾配に勾配下限値を代入)して処理408に進み、勾配下限値を超えていない場合には、そのまま処理408に進む。
【0047】
また、CPUは、処理409において、ブレーキON時の勾配予測の演算モードを「ホールドモード」にセットし、処理410において、勾配ホールド処理を行い、処理408に進む。この勾配ホールド処理は、ブレーキON直前の勾配をその後も継続して使用するする処理である。
【0048】
最後に、CPUは、処理408において、処理405、処理407または処理410にて演算された勾配を積分して高度を演算し、元の処理に復帰する。
【0049】
次に、図5を参照して、図2における処理500(ブレーキ対応処理2:ブレーキSWのON状態が継続しているときの道路勾配および高度の予測演算処理)の具体的処理内容について説明する。図5は、ブレーキ対応処理2の処理内容を示すフローチャートの例である。
【0050】
CPUは、まず、処理501において、ブレーキON時の演算モードが「予測モード」であるか否かを判定し、「予測モード」である場合には処理405に進み、「ホールドモード」の場合(つまり、「予測モード」でない場合)には処理410に進む。なお、処理405以降の処理および処理410については、図4で説明した処理と同じであるので、その説明を割愛する。
【0051】
次に、図6を参照して、図2における処理600(ブレーキ対応処理3:ブレーキSWがONからOFFに切り替わったときの道路勾配および高度の予測演算処理)の具体的処理内容について説明する。図6は、ブレーキ対応処理3の処理内容を示すフローチャートの例である。
【0052】
CPUは、まず、処理601において、前回の演算周期で演算された勾配(すなわち、ブレーキSWがON時の処理により予測された勾配)s1と、今回の演算周期の処理203(図2参照)で演算された勾配(すなわち、ブレーキSWがONからOFFになったとき演算された勾配)s2とから、勾配差s(=s2−s1)を演算し、その勾配差sが所定の正の閾値s0以上であった場合は、処理602に進み、その勾配差sが所定の正の閾値s0未満であった場合は処理604に進む。なお、s2,s1は、上り勾配のとき、正、下り勾配のとき、負であるとする。
【0053】
次に、CPUは、処理602において、予測された勾配s1が実際より小さかったため低く予測された高度を実際に近い高度に戻す(不足分を加える)ための高度補正量を演算する。この具体的な方法に関しては、図8および図9を用いて詳細に説明する。
【0054】
また、CPUは、処理604において、処理601で演算した勾配差s(=s2−s1)を用いて、その勾配差が所定の負の閾値以下(−s0)であった場合は処理605に進み、差が所定の負の閾値(−s0)以下でなかった場合は処理603に進む。なお、s0は、正であるとする。
【0055】
次に、CPUは、処理605において、予測された勾配s1が実際より大きかったため高く予測された高度を実際に近い高度に戻す(過剰分を差し引く)ための高度補正量を演算する。この具体的な方法に関しては、図8および図9を用いて詳細に説明する。
【0056】
最後に、CPUは、処理603において、処理602もしくは処理605により演算された高度補正量、または図2の処理203にて演算された勾配を用いて高度を演算し、元の処理に復帰する。
【0057】
続いて、図7ないし図9を参照して、以上に説明した勾配演算および高度演算の処理を実際の道路状況に当てはめて説明する。
【0058】
ここで、図7ないし図9においては、高い位置にある高速道路701、低い位置にある一般道路703および両者を接続する取付道路702(分岐路)により構成される道路を想定し、さらに、車両700が高速道路701から取付道路702へ進入し、一般道路703へ合流することを想定する。
【0059】
図7は、車両700が高速道路701⇒取付道路702⇒一般道路703の順に走行したときの実際の高度および勾配の変化の例を示した図である。図7に示すように、車両700が高速道路701から取付道路702へ分岐して地点Aに到達すると、取付道路702が下り坂であるため、その勾配(実線720)は、マイナスの方向に大きくなり始めるとともに、高度(実線710)も下がり始める。その後、勾配(実線720)は、ある値に安定した後に、徐々に小さくなるとともに0に近付き、高度(実線710)は、一般道路703と同じ高度に収束し始める。そして、地点Bに到達すると、勾配(実線720)は0、高度(実線710)は、一般道路703と同じになり、車両700は取付道路702から一般道路703に合流する。
【0060】
図8および図9は、それぞれ、ブレーキ操作タイミングが異なる場合について、車両700が高速道路701⇒取付道路702⇒一般道路703の順に走行したときに演算される高度および勾配の変化の例を、ブレーキSWの状態と併せて示した図である。ここで、図8および図9において、実線800および実線900はブレーキSWの状態を、実線810および実線910は演算高度を、実線820および実線920は図2の処理203にて演算された道路勾配(演算勾配)を、破線821および破線921は図4または図5の処理405から処理407により演算された予測勾配を示している。
【0061】
まず、図8について説明する。車両700が高速道路701から取付道路702に分岐して地点Aを通過後、地点Cで車両700のブレーキ操作がされると、ブレーキSWがONとなるが、車両700がこの地点Cに到達したときには、既に勾配(実線820)が変化し始めている。そして、ブレーキSWがONになると制動力が働くため、図2に示した処理203では正常な勾配を演算することが不可能になる。そこで、CPUは、ブレーキSWがONになる直前に演算した勾配変化率を用い、その勾配変化率に応じて、予測勾配(破線821)を求める。
【0062】
次に、CPUは、図4の処理404により、地図情報から得られた取付道路702の高度の情報を用いて勾配下限値Sdを演算し、予測勾配(破線821)に対して下限値Sdでリミッタ処理を施す。その後、地点BにおいてブレーキSWがOFFになると、図2の処理203による道路勾配の演算結果が正常に出力されるようになり、この例の場合には、平坦路の勾配(勾配0)が出力される。
【0063】
このとき、地点Bでは、予測勾配(破線821)と処理203による演算勾配との間には、大きな段差が生じる。従って、CPUが予測勾配(破線821)を用いて高度を演算すると、その高度の演算結果は、実線810で示すように、実際の高度より低くなる(高度を下げ過ぎてしまう)。そこで、CPUは、その高度差を補正するため、勾配を点線822で示すように徐々に変化させて実線820につないだとしたときに得られる斜線領域823で示した領域の面積分の高度(勾配を距離で積分すると高度になる)を、演算高度(実線810)に足し合わせる。
【0064】
ただし、演算高度(実線810)に斜線領域823の面積分の高度を足し合わせる際には、演算高度(実線810)が急激な変化しないようにするため、変化量制限またはローバスフィルタ演算を施す。その場合には、演算高度(実線810)は、地点B付近で、点線で囲んだ領域811のように滑らかに変化する。
【0065】
次に、図9について説明する。車両700が高速道路701から取付道路702に分岐を始める地点Cでブレーキ操作がされて、ブレーキSWがONとなる。この地点Cではまだ勾配の変化がないため、予測勾配は、前回値にホールドされ、破線921のように表される。その後、車両700が地点Aを通過して下り始めた頃の地点DにおいてブレーキSWがOFFになると、図2の処理203による道路勾配の演算結果が正常に出力されるようになる。
【0066】
このとき、予測勾配(破線921)と処理203による演算勾配(実線920)との間には段差が生じる。従って、CPUがこの予測勾配(破線921)を用いて高度を演算すると、その高度の演算結果は、実線910で示すように、実際の高度より高くなる。そこで、CPUは、その高度差を補正するため、勾配を点線922で示すように徐々に変化させて実線920につないだとしたときに得られる斜線領域923で示した領域の面積分の高度を、演算高度(実線910)から差し引く。
【0067】
ただし、演算高度(実線910)から斜線領域923の面積分の高度を差し引く際には、演算高度(実線910)が急激な変化しないようにするため、変化量制限またはローバスフィルタ演算を施す。その場合には、演算高度(実線910)は、地点D付近で、点線で囲んだ領域911のように滑らかに変化する。
【0068】
また、図9において、車両700が取付道路702を走行中に地点Eでブレーキ操作がされ、ブレーキSWがONになると、図8で説明した破線821と同様に予測勾配(破線921)を演算する。さらに、地点FにおいてブレーキSWがOFFになると、再び図2の処理203による道路勾配の演算結果が正常に出力されるようになる。
【0069】
このとき、地点Fでは、予測勾配(破線921)と処理203による演算勾配(実線920)との間に差が生じ、その差のためにさらに生じた高度差を補正するため、図8で説明した場合と同様にして、斜線領域927の面積分の高度を演算高度(実線910)に足し合わせる。
【0070】
ただし、演算高度(実線910)に斜線領域927の面積分の高度を足し合わせる際には、演算高度(実線910)が急激な変化しないようにするため、変化量制限またはローバスフィルタ演算を施す。その場合には、演算高度(実線910)は、地点B,F付近の点線で囲んだ領域912のように滑らかに変化する。
【0071】
以上説明したように、ブレーキ操作中で道路勾配を図2の処理203により正常に演算できない状態においても、ブレーキ操作をする直前の道路勾配やその変化率を利用することにより、ブレーキ操作中の道路勾配を予測することが可能となる。また、予測した勾配の情報を用いて高度を演算することで、マップマッチングを実施するための十分な情報を出力することが可能になる。
【0072】
続いて、図10を参照して、自車位置補正部11による自車位置補正処理について説明する。ここで、図10は、車両が高速道路701⇒取付道路702⇒一般道路703の順に走行したとき、ナビゲーション装置100の表示画面に表示されるカーマーク1000の移動の様子の例を示した図である。
【0073】
図10の例では、車両は、高速道路701から取付道路702へ分岐し一般道路703に進入するが、ナビゲーション装置100の表示画面では、車両が取付道路702へ分岐しても、車両の現在位置を示すカーマーク1000は、すぐには分岐せず、しばらく高速道路701に残ったままになる(地点B)。これは、高速道路701が優先道路であり、また、車両の横方向の微小な移動を検出することが困難なために発生する現象である。
【0074】
しかしながら、車両が取付道路702をさらに走行すると、高速道路701との高度差が次第に大きくなってくる。本実施形態のナビゲーション装置100では、CPUは、自車位置補正部11の処理によって、その高度差がある所定の高度差以上になったところで(地点C)、自車位置を取付道路702にマッチングさせる。従って、カーマーク1000の表示位置は、地点Cで取付道路702側に移動するので、その時点で、車両が実際に走行中の道路に一致することになる。その後、カーマーク1000は、車両の走行とともに、取付道路702の地点Dから一般道路703の地点Fへと順次移動していく。
【0075】
すなわち、CPUは、自車位置補正処理において、取付道路702などの分岐路を検出した場合には、自車の演算高度情報と走行しているとしている高速道路701の高度情報とを比較し、その高度差が所定の高度差以上になったときには、自車が高速道路701から外れたことを認識し、そのカーマーク1000の表示位置を高速道路701から取付道路702などの分岐路へ移動させる。
【0076】
以上のように、本実施形態によれば、ブレーキが操作され、ブレーキSWがONとなったときでも、自車の高度を滑らかに演算することができるので、元々走行していた道路と自車との高度差を演算することが可能になり、その結果、高速道路の取り付け道路などの分岐路などにおいても、自車位置を走行中の道路側に補正することが可能となる。
【0077】
次に、車両重量学習部7の処理内容に関して説明する。走行中の車両の運動方程式は、車両重量M、加速度α、車両に働く駆動力F、ころがり抵抗Rr、速度抵抗Rv、勾配抵抗Riを用いることにより、次の式(4)により表される。
M×α=F−Rr−Rv−Ri (4)
なお、ここでいう駆動力Fは、エンジン出力トルクなどを演算して得られる推定駆動力であり、また、加速度αは、車速を微分演算して得られる推定加速度である。
【0078】
ここで、式(4)の両辺を時間で微分して抵抗の項を消すことを考える。まず、ころがり抵抗Rrは時間変化しないため、この項の時間微分は0となる。また、速度抵抗Rvに関しては、短時間であれば大きな速度差が生じないものとして、無視することができる。同様に、勾配抵抗Riに関しても、短時間であれば大きな差が生じないものとして無視することができる。すると、M×(dα/dt)=dF/dtなる関係が得られる。
【0079】
すなわち、駆動力Fの微分値と加速度αの微分値の比から現在の車両重量Mを演算することが可能となる。ただし、どちらも時間微分するとノイズが大きくなるため、適宜フィルタリングして演算することが望ましい。
【0080】
そこで、フィルタリングを考慮して車両重量Mを演算する一方法として、車両が所定の条件で加減速したとき、その駆動力および加速度の時間変化を記憶装置に記憶し、最小二乗法により駆動力および加速度それぞれの傾きを求め、その比をとるという方法がある。
【0081】
図11は、車両が過去に加減速したときに得られた推定駆動力および推定加速度の関係の例を示した図である。図11において、破線1101は、推定加速度を最小二乗近似した直線で、一点鎖線1102は、推定駆動力を最小二乗近似した直線である。両者の傾きの比から現在の車両重量を推定することができる。なお、前記したように推定駆動力は、ギア比とエンジン出力トルクとタイヤ半径とに基づき演算される量であり、推定加速度は車速から演算される量である。
【0082】
従って、CPUは、車両重量学習部7の処理として、所定の車速や所定の推定加速度が得られたときには、そのときの推定加速度および推定駆動力の時間変化を記憶装置に記憶しておき、その後、推定加速度および推定駆動力それぞれについて時間変化の最小二乗近似によりその傾きを演算し、さらに、その両者の比を演算することにより、自車の車両重量を推定する。CPUは、以上のような車両重量の推定を、適宜、繰り返し行って、自車の車両重量を学習する。
【0083】
なお、前記の式(4)の両辺を微分したときに無視した項を考慮し、加減速が急である場合、勾配変化が著しい場合などには、車両重量推定の学習を実施しない。また、ブレーキSWがOFFの場合にも、正常な推定駆動力が得られないので、学習を実施しない。すなわち、CPUが、車両重量を学習するには、加速度の傾きが第1の所定値以上かつ第2の所定値以下、車速が第1の所定速度以上かつ第2の所定速度以下、ブレーキSWがOFFなどの条件がある。従って、CPUは、車両の走行状態がそれらの条件を満たすことを確認したうえで、車両重量の学習を実施する。
【0084】
以上、本実施形態によれば、ドライバのブレーキ操作中にも道路勾配の演算を継続し、また、適宜、車両重量を演算するとともに、その学習が実施されるので、車両重量のばらつきに対する道路勾配誤差を抑制することができ、高精度な自車位置を出力することが可能となる。さらに、従来のシステムでは加速度センサを用いて勾配を推定する方式もあるが、本実施形態では、加速度センサは不要であるので、装置製造コストが低減される効果も期待することができる。
【0085】
<第2の実施形態>
図12は、本発明の第2の実施形態に係るナビゲーション装置の構成の例を示した図である。図12に示すように、本実施形態に係るナビゲーション装置100aの高度演算部6aにおいては、第1の実施形態に係るナビゲーション装置100の高度演算部6(図1参照)に、自車高度記憶部12および自車高度補正部13が追加された構成となっている。なお、以下の説明では、第1の実施形態の場合と同じ構成要素には同じ符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0086】
自車高度記憶部12は、道路勾配演算部3により演算された道路勾配を積分することによって得られる自車の高度を時系列で記憶する。また、自車高度補正部13は、自車高度記憶部12により記憶された自車の高度を実際の道路形状に近い値に補正する。
【0087】
次に、図13を参照して、第2の実施形態における高度演算部6の演算方法に関して説明する。図13は、図7で説明した道路構成と同じ状況で、車両700が高速道路701⇒取付道路702⇒一般道路703の順に走行したときに演算される高度および勾配の変化の例を、ブレーキSWの状態と併せて示した図である。
【0088】
なお、図13において、実線800はブレーキSWの状態を、実線1300および点線1301は高度の演算結果を、実線820は図2の処理203により演算された道路勾配を、破線821が図4または図5の処理405から処理407により演算された予測勾配を示す。
【0089】
車両700が高速道路701から取付道路702に分岐して地点Aを通過後、地点Cで車両700のブレーキ操作がされると、ブレーキSWがONとなるが、車両700がこの地点Cに到達したときには、既に勾配(実線820)が変化し始めている。そして、ブレーキSWがONになると制動力が働くため、図2に示した処理203では正常な勾配を演算することが不可能になる。そこで、CPUは、ブレーキSWがONになる直前に演算した勾配変化率を用い、その勾配変化率に応じて、予測勾配(破線821)を求める。
【0090】
次に、CPUは、図4の処理404により、地図情報から得られた取付道路702の高度の情報を用いて勾配下限値Sdを演算し、予測勾配(破線821)に対して下限値Sdでリミッタ処理を施す。その後、地点BにおいてブレーキSWがOFFになると、図2の処理203による道路勾配の演算結果が正常に出力されるようになり、ここでは、平坦路の勾配(勾配0)が出力される。
【0091】
このとき、地点Bでは、予測勾配(破線821)と処理203による演算勾配(実線820)との間には、段差が生じる。従って、CPUが予測勾配(破線821)を用いて高度を演算すると、その高度の演算結果は、実線1300で示すように、実際の高度より低くなる(高度を下げ過ぎてしまう)。そこで、CPUは、その高度差を補正するため、勾配を点線822で示すように徐々に変化させて実線820につないだとしたときに得られる斜線領域823で示した領域の面積分の高度(勾配を距離で積分すると高度になる)を、演算高度に足し合わせる。
【0092】
その場合、演算高度は、実線1300で示すように、地点Bにおいて段差が生じるため、自車位置補正部11による自車位置補正の際に支障をきたす恐れがある。そこで、CPUは、点線1301で示すように、演算した高度を点線822の始点である地点Dから緩やかに一般道路703の高度Hgに収束するように補正する。
【0093】
具体的には、CPUは、実線1300を自車高度記憶部12により記憶し、自車高度補正部13の処理として、例えば、一般道路703の高度Hgより所定の高さだけ高い地点Dから地点Bまで、その勾配が点線822のように変化すると仮定して、その高度を演算することにより、点線1301のような高度を得る。ただし、実際には、その勾配および高度を演算する時点では、ブレーキSWがOFFになる地点Bがどこになるかは予測がつかないのであるが、ここでは、勾配の変化率が点線822のように一定値であるとし、その勾配が0となる地点を地点Bと定めるものとする。
【0094】
以上説明したように、ブレーキ操作中で道路勾配を図2の処理203により正常に演算できない状態においても、ブレーキ操作をする直前の道路勾配やその変化率を利用することにより、ブレーキ操作中の道路勾配を予測することが可能となる。また、予測した勾配の情報を用いて高度を演算することで、マップマッチングを実施するための十分な情報を出力することが可能になる。
【0095】
続いて、図14を参照して、自車位置補正部11による自車位置補正処理について説明する。ここで、図14は、車両が高速道路701⇒取付道路702⇒一般道路703の順に走行したとき、ナビゲーション装置100aの表示画面におけるカーマーク1000の移動の様子の例を示した図である。また、図14では、高度の演算結果も併せて示している。
【0096】
図14の例では、車両は、高速道路701から取付道路702へ分岐し一般道路703に進入するが、ナビゲーション装置100aの表示画面では、車両が取付道路702へ分岐しても、車両の現在位置を示すカーマーク1000は、すぐには分岐せず、しばらく高速道路701に残ったままになる(地点B)。これは、高速道路701が優先道路であり、また、車両の横方向の微小な移動を検出することが困難なために発生する現象である。
【0097】
しかしながら、車両が取付道路702をさらに走行すると、高速道路701との高度差が次第に大きくなってくる。本実施形態のナビゲーション装置100aでは、CPUは、自車位置補正部11の処理によって、その高度差がある所定の高度差(矢印1402)以上になったところで(地点C)、自車位置を取付道路702にマッチングさせる。従って、カーマーク1000の表示位置は、地点Cで取付道路702側に移動するので、その時点で、車両が実際に走行中の道路に一致することになる。その後、カーマーク1000は、車両の走行とともに、取付道路702の地点Dから一般道路703の地点Fへと順次移動していく。
【0098】
以上のように、本実施形態によれば、ブレーキが操作され、ブレーキSWがONとなったときでも、自車の高度を滑らかに演算することができるので、元々走行していた道路と自車との高度差を演算することが可能になり、その結果、高速道路の取り付け道路などの分岐路などにおいても、自車位置を走行中の道路側に補正することが可能となる。
【0099】
また、自車位置をマップマッチングするとき、高度さだけを利用するのではなく、図14に示した高度情報(実線1400)の形状と地図情報の高度情報から得られると形状を比較して、相関性の高い道路に対してマッチングする方法も考えられ、起伏の多い道路の場合にはマッチングの精度向上に効果を期待することができる。
【0100】
<第3の実施形態>
図15は、本発明の第3の実施形態に係るナビゲーション装置に含まれる車両重量学習部の構成の例を示した図である。第3の実施形態に係るナビゲーション装置100bの構成は、車両重量学習部7bの構成が第1(第2)の実施形態に係るナビゲーション装置100(100a)における車両重量学習部7の構成と相違することを除き、第1(第2)の実施形態に係るナビゲーション装置100(100a)の構成と同じである。そこで、以下の説明では、第1(第2)の実施形態の場合と同じ構成要素には同じ符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0101】
図15に示すように、本実施形態に係る車両重量学習部7bの構成は、第1(第2)の実施形態の場合の車両重量学習部7の構成(図1(図12)参照)に、着座センサ情報取得部14、ドア開閉情報取得部15、トランクルーム開閉情報取得部16が追加された構成となっている。
【0102】
着座センサ情報取得部14は、車両の座席に設置され、人が着座していることを検知する着座センサからの情報を、車内LANなどの通信手段を介して取得し、さらに、車両に乗車している乗車人数を取得する。
【0103】
ドア開閉情報取得部15は、車両のドアの開閉状態を検知するセンサからの情報を車内LANなどの通信手段を介して取得し、ドアの開閉日時情報などを記憶する。
【0104】
トランクルーム開閉情報取得部16は、車両のトランクルームの開閉状態を検知するセンサからの情報を車内LANなどの通信手段を介して取得し、トランクルームの開閉日時情報などを記憶する。
【0105】
続いて、図16を参照して、第3の実施形態に係る車両重量学習部7bにおける演算方法に関して説明する。図16は、車両重量学習部7bの処理内容を示すフローチャートの例である。
【0106】
CPUは、まず、処理1601において、推定車両重量(現在の車両重量)を演算する。すなわち、現在の車両重量は、第1の実施形態で説明したように、式(4)の両辺を微分して得られる式に基づき取得することができる。具体的には、図11を用いて説明したように、所定の車速や所定の推定加速度が得られたとき、推定加速度および推定駆動力それぞれについて時間変化の最小二乗近似によりその傾きを演算し、さらに、その両者の比を演算することにより、自車の車両重量を推定する。
【0107】
次に、CPUは、処理1602において、着座センサ情報取得部14により取得した乗車人数に変化があったか否かを判定し、乗車人数に変化があった場合には処理1603に進み、変化がなかった場合には処理1604に進む。
【0108】
次に、CPUは、処理1603において、基準車両重量を演算し、処理1604に進む。ここで、基準車両重量は、車のカタログなどに記載されている“車両重量(燃料満タン、潤滑油・冷却水といった必要な液体を充填し、スペアタイヤおよび工具を積んでいる状態での重量)”に乗車人数分の人の重量を足した値である。なお、通常は乗員1人を55kgで計算する。例えば、車両重量が1500kgの車両に2人乗車していた場合には、基準車両重量は、1500+55×2=1610kgとなる。ただし、乗員1人あたりの重量は55kg以外にも設定可能であり、また、着座センサにより重量が推定可能な場合には、その推定された重量を採用してもよい。その場合には、車両重量の精度を上げることが可能である。
【0109】
次に、CPUは、処理1604において、ドア開閉情報取得部15またはトランクルーム開閉情報取得部16により取得された情報により、推定車両重量または基準車両重量が演算された以降、所定時間内にドアまたはトランクルームが開閉されたか否かを判定し、ドアまたはトランクルームが開閉された場合には処理1605に進み、開閉されていない場合には処理1607に進む。
【0110】
次に、CPUは、処理1605および処理1607において、車両重量を学習する際のパラメータ設定を行う。すなわち、処理1604において、所定時間内にドアまたはトランクルームが開閉されたと判定された場合には、乗車人数の変更や荷物の出し入れが行われた可能性が高く、車両重量が大きく変化している可能性が高いため、CPUは、処理1605において、学習の収束時間を短くするために学習時間を優先したパラメータを設定する。一方、処理1604において、所定時間内にドアまたはトランクルームが開閉されていないと判定された場合には、車両重量の変化は小さいと考えられるため、処理1607において、学習精度を優先したパラメータを設定する。なお、パラメータに関しては、処理1606の中で説明する。
【0111】
次に、CPUは、処理1606において、車両重量学習値を演算する。車両重量学習値MLは、車両重量学習値の前回値MLz、推定車両重量(現在の車両重量)M、学習係数A(0≦A≦1)を用いて、次の式(5)式で表される。
ML=A×MLz+(1−A)×M (5)
【0112】
ここで、学習係数Aは、学習時間と学習精度を左右するパラメータであり、Aの値を大きくすると収束に時間がかかるが変動(ばらつき)に対しては強くなり、逆にAの値を小さくすると早く収束するが変動に対して弱くなるという特性がある。すなわち、処理1605で設定する学習時間を優先したパラメータは、Aの値を小さくし、処理1607で設定する学習精度を優先したパラメータは、Aの値を大きくすればよい。
【0113】
また、処理1602で乗車人数に変化があったと判定され、処理1603で基準車両重量MBが演算された場合には、式(5)において、車両重量学習値の前回値MLzに基準車両重量MBを置き換えた式(6)を用いて車両重量学習値MLを演算する。
ML=A×MB+(1−A)×M (6)
【0114】
以上のように、着座センサ、ドア開閉センサおよびトランクルーム開閉センサの情報を利用して、車両重量に大きな変化があったことが予測される場合には、車両重量の学習条件(パラメータ:学習係数A)を変更することにより、学習時間と学習精度のバランスを保つことが可能となる。これにより、道路勾配の演算に必要不可欠である車両重量の情報を学習しながら常に最新の値を保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るナビゲーション装置の構成の例を示した図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るナビゲーション装置の全体の処理内容を示すフローチャートの例。
【図3】自車周辺地図情報取得処理の処理内容を示すフローチャートの例。
【図4】ブレーキ対応処理1の処理内容を示すフローチャートの例。
【図5】ブレーキ対応処理2の処理内容を示すフローチャートの例。
【図6】ブレーキ対応処理3の処理内容を示すフローチャートの例。
【図7】車両が高速道路⇒取付道路⇒一般道路の順に走行したときの実際の高度および勾配の変化の例を示した図。
【図8】車両が高速道路⇒取付道路⇒一般道路の順に走行したときに演算される高度および勾配の変化の第1の例を示した図。
【図9】車両が高速道路⇒取付道路⇒一般道路の順に走行したときに演算される高度および勾配の変化の第2の例を示した図。
【図10】車両が高速道路⇒取付道路⇒一般道路の順に走行したとき、ナビゲーション装置の表示画面に表示されるカーマークの移動の様子の例を示した図。
【図11】車両が過去に加減速したときに得られた推定駆動力および推定加速度の関係の例を示した図。
【図12】本発明の第2の実施形態に係るナビゲーション装置の構成の例を示した図。
【図13】図7の道路構成と同じ状況で、車両が高速道路⇒取付道路⇒一般道路の順に走行したときに演算される高度および勾配の変化の例を、ブレーキSWの状態と併せて示した図。
【図14】本発明の第2の実施形態において、車両が高速道路⇒取付道路⇒一般道路の順に走行したとき、ナビゲーション装置の表示画面に表示されるカーマークの移動の様子の例を示した図。
【図15】本発明の第3の実施形態に係るナビゲーション装置に含まれる車両重量学習部の構成の例を示した図。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る車両重量学習部の処理内容を示すフローチャートの例。
【符号の説明】
【0116】
1 平坦路加速度演算部
2 推定加速度演算部
3 道路勾配演算部
4 道路勾配記憶部
5 勾配変化率演算部
6,6a 高度演算部
7,7b 車両重量学習部
8 自車位置検出部
9 地図情報記憶部
10 自車周辺地図情報取得部
11 自車位置補正部
12 自車高度記憶部
13 自車高度補正部
14 着座センサ情報取得部
15 ドア開閉情報取得部
16 トランクルーム開閉情報取得部
100,100a,100b ナビゲーション装置
700 車両
701 高速道路
702 取付道路
703 一般道路
1000 カーマーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車の位置検出手段を備え、その位置検出手段により検出した自車位置とその自車位置を含む道路地図とを併せて表示装置に表示するナビゲーション装置であって、
前記自車のエンジン出力トルクと前記自車の車両重量とに基づいて平坦路走行状態での平坦路加速度を演算する平坦路加速度演算部と、
前記自車の車速に基づいて推定加速度を演算する推定加速度演算部と、
前記平坦路加速度および前記推定加速度に基づいて道路勾配を演算する道路勾配演算部と、を備え、
前記道路勾配演算部は、前記自車のブレーキ操作信号が入力されたときには、そのとき以降、前記ブレーキ操作信号が入力されなくなるまで、前記自車が走行する道路に沿ってその道路の道路勾配を、前記ブレーキ操作信号が入力される前に演算した道路勾配およびその道路勾配の変化率の少なくとも一方に基づいて予測演算すること
を特徴とするナビゲーション装置。
【請求項2】
前記道路勾配演算部は、前記自車が走行する道路に沿って前記道路勾配を予測し、前記予測した道路勾配が所定の閾値を超えたときには、そのとき以降、遅くとも前記ブレーキ操作信号が入力されなくなるまで、前記道路勾配演算部が予測する道路勾配を前記所定の閾値に固定すること
を特徴とする請求項1に記載のナビゲーション装置。
【請求項3】
前記道路勾配演算部により演算された道路勾配に基づいて前記自車位置の高度を演算する高度演算部を、さらに、備えること
を特徴とする請求項1に記載のナビゲーション装置。
【請求項4】
前記高度演算部は、前記自車が走行する道路に沿って前記高度を演算し、前記演算した高度が、前記自車が走行する前方の道路の勾配が0となる地点の高度と所定の関係を有する高度になったときには、そのとき以降、前記ブレーキ操作信号が入力されなくなるまで、前記高度演算に用いる前記道路勾配として、前記道路勾配演算部で予測した道路勾配を補正して用いること
を特徴とする請求項3に記載のナビゲーション装置。
【請求項5】
前記位置検出手段により検出された自車位置がマップマッチングされた道路の高度と前記高度演算部により演算された高度との高度差が、所定の高度差よりも大きくなった場合には、前記道路地図を参照して、前記自車位置がマップマッチングされた道路の前記自車位置の後方から分岐する他の道路を抽出するとともに、前記抽出した他の道路の高度と前記高度演算部により演算された高度との高度差が前記所定の高度差よりも小さい場合には、前記自車位置を前記他の道路にマップマッチングし直す自車位置補正部を、さらに、備えること
を特徴とする請求項3に記載のナビゲーション装置。
【請求項6】
前記推定加速度演算部により演算した推定加速度を時間微分した推定加速度微分値と、前記自車のエンジン出力トルクを用いて演算した前記自車の駆動力を時間微分した駆動力微分値と、に基づき現在の車両重量を演算するとともに、過去に演算した車両重量に基づき前記現在の車両重量を補正する車両重量学習部を、さらに、備えること
を特徴とする請求項1に記載のナビゲーション装置。
【請求項7】
前記車両重量学習部は、前記車両重量の学習を開始する前に、前記自車の座席への人の着座を検知する着座センサから入力される乗車人数に基づいて基準車両重量を演算すること
を特徴とする請求項6に記載のナビゲーション装置。
【請求項8】
前記車両重量学習部は、前記車両重量の学習を開始する前に、前記自車のドア開閉センサおよびトランクルーム開閉センサの少なくとも一方からの開閉信号を検知したときには、前記車両重量の学習における学習条件を速く収束するように切替えること
を特徴とする請求項6に記載のナビゲーション装置。
【請求項9】
自車の位置検出手段を備え、その位置検出手段により検出した自車位置とその自車位置を含む道路地図とを併せて表示装置に表示するナビゲーション装置における道路勾配予測演算方法であって、
前記ナビゲーション装置は、
前記自車のエンジン出力トルクと前記自車の車両重量とに基づいて平坦路走行状態での平坦路加速度を演算する平坦路加速度演算部と、
前記自車の車速に基づいて推定加速度を演算する推定加速度演算部と、
前記平坦路加速度および前記推定加速度に基づいて道路勾配を演算する道路勾配演算部と、を備え、
前記道路勾配演算部が、前記自車のブレーキ操作信号が入力されたときには、そのとき以降、前記ブレーキ操作信号が入力されなくなるまで、前記自車が走行する道路に沿ってその道路の道路勾配を、前記ブレーキ操作信号が入力される前に演算した道路勾配およびその道路勾配の変化率の少なくとも一方に基づいて予測演算すること
を特徴とする道路勾配予測演算方法。
【請求項10】
前記道路勾配演算部は、前記自車が走行する道路に沿って前記道路勾配を予測し、前記予測した道路勾配が所定の閾値を超えたときには、そのとき以降、遅くとも前記ブレーキ操作信号が入力されなくなるまで、前記道路勾配演算部が予測する道路勾配を前記所定の閾値に固定すること
を特徴とする請求項9に記載のナビゲーション方法。
【請求項11】
自車の位置検出手段を備え、その位置検出手段により検出した自車位置とその自車位置を含む道路地図とを併せて表示装置に表示するナビゲーション装置における高度演算方法であって、
前記ナビゲーション装置は、
前記自車のエンジン出力トルクと前記自車の車両重量とに基づいて平坦路走行状態での平坦路加速度を演算する平坦路加速度演算部と、
前記自車の車速に基づいて推定加速度を演算する推定加速度演算部と、
前記平坦路加速度および前記推定加速度に基づいて道路勾配を演算する道路勾配演算部と、
前記道路勾配演算部により演算された道路勾配に基づいて前記自車位置の高度を演算する高度演算部と、
を備え、
前記道路勾配演算部が、前記自車のブレーキ操作信号が入力されたときには、そのとき以降、前記ブレーキ操作信号が入力されなくなるまで、前記自車が走行する道路に沿ってその道路の道路勾配を、前記ブレーキ操作信号が入力される前に演算した道路勾配およびその道路勾配の変化率の少なくとも一方に基づいて予測演算すること
を特徴とする高度演算方法。
【請求項12】
前記高度演算部は、前記自車が走行する道路に沿って前記高度を演算し、前記演算した高度が、前記自車が走行する前方の道路の勾配が0となる地点の高度と所定の関係を有する高度になったときには、そのとき以降、前記ブレーキ操作信号が入力されなくなるまで、前記高度演算に用いる前記道路勾配として、前記道路勾配演算部で予測した道路勾配を補正して用いること
を特徴とする請求項11に記載の高度演算方法。
【請求項13】
前記ナビゲーション装置は、
前記位置検出手段により検出された自車位置がマップマッチングされた道路の高度と前記高度演算部により演算された高度との高度差が、所定の高度差よりも大きくなった場合には、前記道路地図を参照して、前記自車位置がマップマッチングされた道路の前記自車位置の後方から分岐する他の道路を抽出するとともに、前記抽出した他の道路の高度と前記高度演算部により演算された高度との高度差が前記所定の高度差よりも小さい場合には、前記自車位置を前記他の道路にマップマッチングし直すこと
を特徴とする請求項12に記載の高度演算方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2009−162740(P2009−162740A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97375(P2008−97375)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(591132335)株式会社ザナヴィ・インフォマティクス (745)
【Fターム(参考)】