説明

ナビゲーション装置

【課題】加速度センサのオフセット誤差を補正することができ、それにより加速度センサを用いた測位を精度良く行うことが可能なナビゲーション装置を提供する。
【解決手段】GPS部11より求められた位置PGPSおよび速度VGPSと、加速度センサ12および磁気センサ13により求められた位置PINSおよび速度VINSと、に基づいて現在の最も確からしい位置に関する最良値δPを推定する最良値推定部102と、推定された最良値δPに基づき、位置PINSの誤差が加速度センサ12のオフセット誤差に起因したものであるとして該オフセット誤差の分だけ加速度を補正するための加速度オフセット値を算出する加速度オフセット算出部104手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現在位置の案内を行うナビゲーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の位置を計測し走行案内を行うナビゲーション装置には、車内に配線等を行って設置する据え置き型のものと、PND(Personal Navigation Device)と呼ばれる持ち運び自在の携帯型のものとがある。近年、据え置き型のナビゲーション装置(例えば、特許文献1参照)では、GPS信号に基づき取得される位置情報の他、内蔵するジャイロセンサまたは地磁気センサより得られる方位や車両が備える車速計より得られる車速の情報も併用することによって、車両の現在位置を高精度に求める機能を搭載したものが実用化されている。このような機能は、特に、GPS信号が取得できないか、又はGPS信号の精度が良くない場合に有用となる。
【0003】
一方、携帯型のナビゲーション装置では、車速の情報を車両の計器盤等の内部に設置された車速計から得ることが簡単でないため、GPS信号が取得できない等の場合のための補助的手段として、従来、内蔵する加速度センサを用いて計測した加速度を積分することにより車速を得、これにより位置を求めるという方法が採用されている。
【特許文献1】特開平9−42979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、加速度センサは一般にオフセット誤差を有するため、位置の計測において十分に良好な精度が得られないという重大な問題がある。ここで、オフセット誤差とは、本来加速度運動による加速度がゼロであるにもかかわらずある有限の加速度値が加速度センサから出力されてしまう誤差のことであり、オフセット誤差には、個々の加速度センサに固有の電気的なオフセット(つまり個体差によるもの)の他、計測時において加速度センサの向きが鉛直方向に対して所望の向きからずれていることにより重力加速度を車両に加えられた加速度と誤認してしまうことによるオフセットがある。前者のオフセット誤差は、加速度センサを選別すればその影響を比較的簡単に小さくできる。
【0005】
ところが、後者のオフセット誤差については、従来それを測定する有効な方法が存在していなかった。例えば、水平な道路上で停車時に出力される加速度センサの出力値を上記オフセット誤差であるとみなすこともできるが、坂道など水平面から傾いた場所ではオフセット誤差の値は変化してしまうので、リアルタイムで正確なオフセット誤差がいくらであるかを知ることはできない。なお、オフセット誤差がもたらす測位精度への影響の一例として、加速度センサが角度0.1°傾いていると、100秒後にはおよそ100メートルの位置の誤差となるので、オフセット誤差をなくすことは非常に重要である。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、加速度センサのオフセット誤差を補正することができ、それにより加速度センサを用いた測位を精度良く行うことが可能なナビゲーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、GPSにより位置を求めるとともに該求めた異なる時刻における複数の位置から移動速度を求める第1の計測手段と、加速度センサから得られる加速度を加速度オフセット値を用いて補正し、該補正された加速度と方位センサから得られる方位とに基づいて移動速度および位置を求める第2の計測手段と、を備え、位置案内を行うナビゲーション装置において、前記第1の計測手段により求められた位置および移動速度と、前記第2の計測手段により求められた位置および移動速度と、をカルマンフィルタに入力して現在の最も確からしい位置に関する最良値を推定する最良値推定手段と、前記最良値推定手段によって推定された最良値に基づき、前記第2の計測手段により求められた位置の誤差が前記加速度センサのオフセット誤差に起因したものであるとして該オフセット誤差の分だけ加速度を補正するための前記加速度オフセット値を算出する加速度オフセット算出手段と、を備えることを特徴とするナビゲーション装置である。
【0008】
この発明において、加速度センサと方位センサから得られる位置および移動速度と、GPSから得られる位置および移動速度とに基づいて位置に関する最良値を求め、求めた最良値を用いて加速度オフセット値を算出し、この加速度オフセット値により加速度センサからの加速度が補正されるようにした。したがって、実際に走行中であっても走行中に計測されるデータ(加速度センサ、方位センサ、GPSからの位置および移動速度)から加速度オフセット値が算出されるので、常時、加速度センサのオフセット誤差を補正することが可能である。これにより、加速度センサを用いた測位を精度良く行うことが可能となる。
【0009】
また、本発明は、上記のナビゲーション装置において、前記最良値推定手段は、前記第1の計測手段により求められた位置と前記第2の計測手段により求められた位置との差分、および前記第1の計測手段により求められた移動速度と前記第2の計測手段により求められた移動速度との差分から、これらの差分の最良値を推定することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、第1の計測手段と第2の計測手段の各計測データの差分から最良値を推定するので、各計測データをそれぞれ独立に取り扱うのと比べて、最良値を推定する際の演算量を削減することができる。
【0011】
また、本発明は、上記のナビゲーション装置において、前記第1の計測手段による計測結果の精度を判定する精度判定手段を備え、前記加速度オフセット算出手段は、前記精度判定手段により精度が所定の良好な範囲内であると判定された場合にのみ、前記最良値に基づいて前記加速度オフセット値を算出することを特徴とする。
【0012】
この発明において、GPSによる計測結果の精度が良好であれば加速度オフセット値を算出し、精度が良好でない場合は加速度オフセット値を算出しないようにした。これにより、GPSによる計測結果の精度が良好な場合にのみ、加速度の補正が行われる。通常、GPSによる計測結果は例えば移動速度などによって精度に差が出るが、この精度が悪い場合には、推定される最良値の精度も悪くなり、ひいては加速度オフセット値の精度も悪くなってしまう。したがって、GPSの精度が良好な場合、即ち精度の良い加速度オフセット値が得られる場合にのみ加速度が補正されるようにすることで、加速度の補正を信頼性あるものにすることができる。
【0013】
また、本発明は、上記のナビゲーション装置において、前記精度判定手段は、前記第1の計測手段により求めた移動速度が所定値以上である場合に精度が良好であると判定することを特徴とする。
【0014】
この発明において、移動速度が遅い場合(極端な場合として、止まっている場合)はGPSによる位置の計測誤差の速度誤差に対する影響が大きく出るのに対し、移動速度が速い場合はGPSによる位置の計測誤差の速度誤差に対する影響が相対的に薄まることを考慮し、移動速度が速い場合にGPSの精度が良好であると判定して、この場合にのみ加速度オフセット値を算出するようにした。したがって、精度の良い加速度オフセット値に基づいて加速度が補正されるので、加速度の補正を信頼性あるものにすることができる。
【0015】
また、本発明は、上記のナビゲーション装置において、前記精度判定手段は、前記第1の計測手段により求めた異なる時刻における複数の位置から進行方向の変化する角度を算出し、該算出した角度が所定値以下である場合に精度が良好であると判定することを特徴とする。
【0016】
この発明において、GPSによる位置の計測誤差が大きい場合には測位された位置から求まる進行方向が急激に変化することを考慮し、進行方向の変化する角度が小さい場合にGPSの精度が良好であると判定して、この場合にのみ加速度オフセット値を算出するようにした。したがって、精度の良い加速度オフセット値に基づいて加速度が補正されるので、加速度の補正を信頼性あるものにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加速度センサのオフセット誤差を補正することができ、それにより加速度センサを用いた測位を精度良く行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるナビゲーション装置1の構成図である。ナビゲーション装置1は、CPU10と、GPS部11と、加速度センサ12と、磁気センサ13と、メモリ14と、外部記憶装置15と、通信部16と、表示装置17と、音声出力装置18と、を含んで構成され、各部はバスライン19によって接続されている。ナビゲーション装置1のこれら各部は一つの筐体内に収容されており、ナビゲーション装置1が携帯可能であるとともに車両内の任意の位置に取付け可能になっている。以降、ナビゲーション装置1は車両内に取り付けられているものとする。
【0019】
CPU(中央処理装置)10は、メモリ14に格納されたプログラムを読み込み、該読み込んだプログラムに従って、ナビゲーション装置1の各部を統括し制御するとともに、GPS部11や加速度センサ12、磁気センサ13より取得されるデータから現在の位置を推定し、また推定結果を用いて加速度センサ12の出力を補正する後述(図2〜図4)の演算処理や、ユーザに現在位置を案内するナビゲーション機能を実現する情報処理を実行する。
【0020】
GPS部11は、GPS(全地球測位システム)方式によって車両の位置(緯度経度)を測位するとともに、測位された最新の位置とその直前の位置とに基づいて車両の速度を算出し、得られた位置および速度を表す情報をCPU10へ出力する。GPS方式では、GPS衛星からのGPS信号を受信し、該GPS信号を受信した受信時刻(図示しない計時手段により計時される)のデータを用いた演算処理によって、位置を測位する。
【0021】
加速度センサ12は、車両(即ちナビゲーション装置1)の加速度を測定し、その測定結果を表す加速度情報をCPU10へ出力する。測定される加速度は、車両が加速運動を行ったことによる加速度以外に、車両が坂道などで傾いたことによる重力加速度も含んでいる。加速度センサ12としては、互いに直角な異なる二方向の加速度成分を検出する2軸加速度センサを用いるものとし、本実施形態においては、加速度センサ12は、その一方の軸が車両の前後方向(車両正面をy軸正方向とする)を向き、他方の軸が車両の左右方向(車両右側をx軸正方向とする)を向くようにして配置するものとする。CPU10へ出力される加速度情報は、各軸方向の加速度成分、即ち、車両の前後方向の加速度成分と車両の左右方向の加速度成分である。各成分には、重力加速度が測定されてしまうことに起因するオフセットや加速度センサ12の電気的オフセットからなるオフセット誤差が含まれている。
【0022】
磁気センサ13は、車両(即ちナビゲーション装置1)における地磁気を測定し、磁気センサ13に定められた所定の基準軸が向けられている方位を算出してその方位を表す方位情報をCPU10へ出力する。本実施形態において、磁気センサ13は、この基準軸が車両正面方向を向くようにして配置するものとする。磁気センサ13としては、互いに直角な異なる二方向の磁気成分を検出する2軸磁気センサ、または互いに直角な異なる三方向の磁気成分を検出する3軸磁気センサ、のいずれかを用いるものとする。例えば2軸磁気センサの場合には、磁気の大きさを検出する2つの素子(磁気抵抗素子)が異なる二方向を向いて配置されており、それぞれの素子が検出する地磁気の大きさに基づいて上記基準軸(車両正面)の方位を算出する。
なお、加速度センサ12のy軸と磁気センサ13の基準軸は、それぞれが互いに平行即ち同方向となるようにする必要があるが、その方向は上記のように車両正面方向でなくともよく、他の方向としてもよい。
【0023】
メモリ14は、ROM(読出し専用メモリ)とRAM(随時書込み読出しメモリ)からなる。ROMには、CPU10で実行されるプログラムが記憶されている。RAMは、プログラム実行時に一時データを記憶する記憶領域として使用される。
外部記憶装置15は、例えばハードディスクドライブなどの大容量記憶装置であり、ナビゲーションに必要な地図情報等を記憶している。
通信部16は、例えば無線通信等によってインターネットと接続し、最新の地図情報等をインターネットを介して取得する。取得した地図情報等は、外部記憶装置15に記憶される。
【0024】
表示装置17は、CPU10によって実現するナビゲーション機能による走行案内を、例えば地図上に車両の現在位置と方位が分かるような形でグラフィカルに表示する。
音声出力装置18は、必要なタイミングで例えば交差点を曲がる等の音声案内用の音声を発生してスピーカから音声案内を行う。
【0025】
次に、ナビゲーション装置1がGPS部11、加速度センサ12、および磁気センサ13より取得されるデータから現在の位置を推定するとともに推定結果を用いて加速度センサ12の出力を補正する処理について説明する。図2は、ナビゲーション装置1の当該処理にかかる機能ブロックを示す図であり、当該処理は、INS系測位部101(加速度センサ12と磁気センサ13をINS(Inertial Navigation System)系と称する)と、最良値推定部102と、位置補正部103と、加速度オフセット算出部104と、精度判定部105とによって実現される。なお、これら各部の機能は、前述したように、メモリ14に格納されたプログラムをCPU10が読み出して実行することにより実現される。
【0026】
INS系測位部101へは、加速度センサ12からオフセット誤差を含んだ加速度a=(ax,ay)が入力される(axはx軸成分、ayはy軸成分)とともに、磁気センサ13から車両の正面が向いている方向を示す方位θが入力される。加速度aと方位θの入力は、所定の時間間隔(例えば、1秒間に数回程度)で逐次行われる。更に、INS系測位部101へは、加速度オフセット算出部104から、加速度センサ12からの加速度aに含まれるオフセット誤差を補正するための加速度オフセット値b=(bx,by)が所定の時間間隔(以下に述べる更新が行われる時間間隔であり、例えば1秒毎)で入力される(bxはx軸成分、byはy軸成分)。
【0027】
INS系測位部101は、上記の入力された各データを用い次式に従って車両の位置PINSおよび速度VINSを計算するとともに、その計算結果を最良値推定部102と位置補正部103へ出力する。
aN=−(ax+bx)・sinθ+(ay+by)・cosθ
aE= (ax+bx)・cosθ+(ay+by)・sinθ
VNINS=VN0INS+aN・Δt
VEINS=VE0INS+aE・Δt
PNINS=PN0INS+sin−1[(VNINS×Δt)/R]
PEINS=PE0INS+sin−1[(VEINS×Δt)/{R×cos(PN0INS)}]
但し、aN,aEはそれぞれ加速度a+bの緯度および経度方向成分、VNINS,VEINSはそれぞれ速度VINSの緯度および経度方向成分、PNINS,PEINSはそれぞれ位置PINSの緯度および経度成分である。また、VN0INS,VE0INS,PN0INS,PE0INSはそれぞれ前回計算されたVNINS,VEINS,PNINS,PEINSの値、Δtは前回の計算から今回の計算までの経過時間である。
【0028】
ここで、上記の式に示されるように、INS系測位部101は、加速度aと加速度オフセット値bとの加算を行うことによって、加速度センサ12からの加速度aを加速度オフセット算出部104から得られる加速度オフセット値bを用いて補正している。この補正に用いる加速度オフセット値bは、加速度オフセット算出部104において、最良値推定部102からの新たな入力がある度に更新されるものである。したがって、加速度センサ12からの加速度aは、随時更新されていく加速度オフセット値bにより常に適正に補正されることとなる。
【0029】
最良値推定部102へは、INS系測位部101から上記計算された位置PINSおよび速度VINSが入力されるとともに、GPS部11から所定の時間間隔(例えば1秒毎)で位置PGPSおよび速度VGPSが入力される。INS系測位部101によって計算される位置PINSおよび速度VINSと、GPS部11から得られる位置PGPSおよび速度VGPSとは、それぞれの測定原理が違うので互いの値には差があり、また各値は固有の誤差を持っている。最良値推定部102はこのような入力値から最も確からしい値を推定するために用いられる。
【0030】
最良値推定部102は、GPS部11からの入力がある度に、入力された位置の差分δP’=PGPS−PINSと入力された速度の差分δV’=VGPS−VINSを計算し、この差分δP’およびδV’に基づいてそれらの最も確からしい値(最良値)であるδPとδVを推定する。このδPとδVの推定は、カルマンフィルタを用いた演算によって行うものとする。演算の詳細については後述する。最良値推定部102は、推定により得られた最良値δPとδVを位置補正部103および加速度オフセット算出部104へ出力する。
【0031】
位置補正部103は、INS系測位部101から入力される車両の位置PINSと最良値推定部102から入力される位置の差分の最良値δPとに基づいて、次式に従って位置PINSを補正することにより現在の最も確からしい位置Pを計算する。
P=PINS+δP
また位置補正部103は、精度判定部105からの指示に応じて、GPS部11による計測の精度が十分に良好である場合には上記計算した位置Pをナビゲーションソフト(CPU10)への出力とし、GPS部11による計測の精度が十分に良好でない場合にはINS系測位部101から入力された位置PINSをそのままナビゲーションソフト(CPU10)への出力とする。
【0032】
なお、本実施形態のナビゲーション装置1においては、INS系による測位の結果から車両の(最終的な)現在の位置を求めることを基本とし、GPS部11による計測結果はINS系から得られる加速度aや位置PINSを補正する目的で用いている。そのため、上記のように、GPS部11の精度が良好な場合は位置PINSも良好な精度で補正されるので位置Pを出力し、GPS部11の精度が良好でない場合は補正を行うことなく位置PINSをそのまま出力するようにしている。
【0033】
加速度オフセット算出部104は、最良値推定部102から入力される位置の差分の最良値δPに基づいて、加速度センサ12から出力される加速度aに含まれるオフセット誤差を補正するための補正値である加速度オフセット値bを算出する。ここで、位置の差分の最良値δPから加速度オフセット値bを求めるための算出式は、次のような仮定に基づいて定めることとする。
【0034】
即ち、INS系測位部101において前回、加速度センサ12からの加速度aが完全に(つまりオフセット誤差がなくなるように)補正されていたとすれば、最良値推定部102によって得られる位置の差分の最良値δPはゼロになるはずである。一方、加速度aの補正が不完全である(つまりオフセット誤差が残っている)ならば、その不完全な分の加速度(これをb’とする)によってINS系測位部101で計算される位置PINSに誤差が生じ、この誤差に対応する値を持った位置の差分の最良値δPが最良値推定部102から得られることになるはずである。故に、最良値推定部102の出力δPは、加速度b’での等加速度運動によって生じる位置の誤差であり、次式
δP=(1/2)・b’・ΔT
が成り立つ。
【0035】
したがって、加速度オフセット算出部104が加速度オフセット値bを算出するための算出式を
b=b0+2・δPxy/ΔT
とする。但し、ここでb0はINS系測位部101での前回の加速度の補正に用いられた加速度オフセット値、ΔTは前回の加速度の補正から今回までの経過時間である。また、δPxyは、最良値推定部102から得られる緯度経度で表された最良値δPを車両に固定されたxy座標系に変換(方位θの回転)したものである。
【0036】
加速度オフセット算出部104は上記の式に従って、最良値推定部102から最良値δPが入力される度に加速度オフセット値bを算出し、算出した加速度オフセット値bをINS系測位部101へ出力する。このようにして加速度オフセット値bは随時更新されていき、この更新された加速度オフセット値bにより、INS系測位部101において加速度センサ12の加速度aが補正される。この結果、加速度aの補正は常に適正な状態で行われることとなる。
【0037】
精度判定部105は、GPS部11による計測の精度が十分に良好であるか否かを判定し、その結果を位置補正部103および最良値推定部102へ通知する。最良値推定部102では、この通知に従って、GPS部11による計測の精度が十分に良好であると判定された場合にのみ最良値δPとδVの推定を行い、精度が良好でない場合にはこの推定を中止する。GPS部11の計測精度が良好な場合のみ最良値δPを求めて加速度オフセット算出部104へ出力することで、精度の良い最良値δPから精度の良い加速度オフセット値bを得ることができる。
【0038】
精度判定部105が精度の判定を行う際には、GPS部11から得られる位置PGPSに基づいて計算される速度Vや進行方向の変化する角度αを利用する。GPSによる位置の計測には一般に所定の大きさの誤差をともなうが、速度が遅い場合は位置の計測誤差の速度誤差に対する影響が大きく出るのに対し、速度が速い場合はその影響が相対的に薄まるので、精度判定部105は、速度Vが所定値以上である場合に、GPS部11による計測の精度が十分に良好であると判定するものとする。また、GPSによる位置の計測誤差が大きい場合には位置PGPSから求まる進行方向が急激に変化するので、精度判定部105は、進行方向の変化する角度αが所定値以下である場合に、GPS部11による計測の精度が十分に良好であると判定するものとする。
【0039】
次に、ナビゲーション装置1の動作の具体例を説明する。図3は、ナビゲーション装置1の動作例を示すフローチャートである。
【0040】
まず、CPU10は、GPS部11から車両の位置PGPSと速度VGPSを取得してメモリ14に格納し(ステップS1)、更に、加速度センサ12からオフセット誤差を含んだ加速度aを取得するとともに磁気センサ13から車両の正面方向を示す方位θを取得して、それぞれをメモリ14に格納する(ステップS2)。次いでINS系測位部101は、上記取得した加速度aをメモリ14に保持している加速度オフセット値bにより補正するとともに、補正後の加速度a+bと上記取得した方位θに基づいて車両の位置PINSおよび速度VINSを計算する(ステップS3)。加速度オフセット値bは、ステップS3の初回実行時は初期値b=(0,0)であり、以下説明するステップS11を実行した後は当該ステップS11で算出された値であり、適宜、メモリ14にこれらが記憶されている。
【0041】
次に、CPU10は、位置PGPSと速度VGPSが更新されたか否かを判断する(ステップS4)。後述するように上記ステップS1は時間ΔtGPS間隔で繰り返され、上記ステップS2は時間ΔtINS(<ΔtGPS)間隔で繰り返されるが、まだ時間ΔtGPSが経過していない時は位置PGPSと速度VGPSは更新されないので、ステップS4の判断はNOとなる。
【0042】
この場合、位置補正部103は、ステップS3で計算された位置PINSをメモリ14に保持している最新の最良値δPを用いて補正することにより現在の最も確からしい車両の位置Pを計算する(ステップS5)。なお、最良値δPは、以下説明するステップS10の前回の実行時に算出されてメモリ14に記憶されている。こうして、位置補正部103から、INS系測位部101で計算された位置PINSを補正した位置Pがナビゲーションソフトへ出力される(ステップS6)。
【0043】
続いて、CPU10は、時間ΔtGPSが経過したか否かを判断し(ステップS7)、時間ΔtGPSが経過すると再びステップS1からの処理を繰り返す。時間ΔtGPSがまだ経過していなければ、CPU10は、次に時間ΔtINSが経過したか否かを判断し(ステップS8)、時間ΔtINSが経過すると再びステップS2からの処理を繰り返す。このようにして、GPS部11からのデータは時間ΔtGPS間隔で更新されるとともにINS系のデータは時間ΔtINS間隔で更新されていき、GPS部11からのデータが更新されるまでの間、時間ΔtINS間隔で位置Pの出力が行われる。なお、一例として、ΔtGPS=1秒、ΔtINS=0.2秒とする。
【0044】
GPS部11からのデータが更新されると、ステップS4の判断はYESとなる。この場合、精度判定部105は、GPS部11による計測の精度が十分に良好であるか否かを判定する(ステップS9)。この判定処理については後で図4を用いて説明する。精度が十分に良好であると判定された場合、最良値推定部102は、ステップS1,S3で得られた位置および速度から計算される差分δP’=PGPS−PINSとδV’=VGPS−VINSに基づいて、それらの最良値δPとδVを推定する(ステップS10)。この推定結果はメモリ14に記憶される。
【0045】
次いで加速度オフセット算出部104は、上記得られた最良値δPから加速度オフセット値bを算出する(ステップS11)。こうして、GPS部11から精度が十分に良好な新たなデータが得られる度に、加速度オフセット値bが更新されていく。ここで算出された加速度オフセット値bは、上述したように、メモリ14に記憶されステップS3において加速度aを補正するために使用される。したがって、順次更新される加速度オフセット値bを用いて補正を行うので、加速度センサ12から取得されるオフセット誤差を含んだ加速度aを常に適正に補正していくことができる。
【0046】
ステップS11の後、位置補正部103はステップS10で推定された最良値δPを用いて現在の最も確からしい車両の位置Pを計算する(上記ステップS5)。位置補正部103からは、このようにGPS部11から精度が十分に良好なデータが得られた時にも、INS系測位部101で計算された位置PINSを補正した位置Pが出力される(上記ステップS6)。
【0047】
一方、ステップS9においてGPS部11による計測の精度が十分に良好でないと判定された場合には、ステップS10における最良値δPとδVの推定およびステップS11における加速度オフセット値bの算出を行うことなく、位置補正部103からはステップS3で計算された位置PINSがそのままナビゲーションソフトへ出力される(ステップS12)。このため精度の悪い加速度オフセット値bが求まることがないので、INS系測位部101での加速度aの補正が信頼性あるものとなる。
【0048】
次に、上述したステップS9の具体的な処理を説明する。図4は、精度判定部105が実行する処理の例を示すフローチャートである。
【0049】
最初に、精度判定部105は、GPS部11から取得された位置PGPSが位置不定であることを示すデータであるか否かを判断する(ステップS91)。ここで、GPS部11からは、GPS信号を受信できている時は緯度と経度を示すデータが位置PGPSとして出力され、GPS信号を受信できない時は位置不定であることを示すデータが位置PGPSとして出力されるものとする。位置PGPSが位置不定であることを示すデータである場合、精度判定部105は、メモリ14に格納されているその位置PGPSをクリアし、GPS部11による計測の精度が十分に良好でないと判断する(ステップS98)。
【0050】
位置PGPSが緯度と経度を示すデータであれば、精度判定部105は、次に、GPS部11から取得された位置PGPSがメモリ14に所定数(例えば3個)記憶されているか否かを判断する(ステップS92)。ここで、図3のフローチャートにおいて、ステップS1が実行されるごとに位置PGPSが順次更新され、最新の3個の位置PGPSとその測定時刻情報がメモリ14に記憶されるものとする。記憶数がまだ3個になっていない場合、精度判定部105は、GPS部11による計測の精度が十分に良好でないと判断する(上記ステップS98)。
【0051】
位置PGPSの記憶数が3個であれば、精度判定部105は、位置PGPS(2)と位置PGPS(1)を結ぶベクトルと、位置PGPS(1)と位置PGPS(0)を結ぶベクトルのなす角度αを計算し(ステップS93)、更に、位置PGPS(1)から位置PGPS(0)までの移動速度Vを計算する(ステップS94)。ここで、位置PGPS(0)は現在の測定で測定された位置、位置PGPS(1)は1つ前の測定で測定された位置、位置PGPS(2)は2つ前の測定で測定された位置である。角度αは、進行方向の変化する角度を表す。移動速度Vは、位置PGPS(1)から位置PGPS(0)への移動距離をそれぞれの測定時刻の差で除することにより求められる。
【0052】
次いで精度判定部105は、角度αが所定値(例えば90度)以下であるか否かを判断する(ステップS95)。角度αが所定値より大きい場合、進行方向が急激に変化していることを意味するので、精度判定部105は、GPS部11による計測の精度が十分に良好でないと判断する(上記ステップS98)。角度αが所定値以下の場合、更に精度判定部105は、移動速度Vが所定値(例えば時速20km)以上であるか否かを判断する(ステップS96)。移動速度Vが所定値より小さい場合、精度判定部105は、GPS部11による計測の精度が十分に良好でないと判断する(上記ステップS98)。
【0053】
そして角度αが所定値以下であり移動速度Vが所定値以上である場合には、精度判定部105は、GPS部11による計測の精度が十分に良好であると判断する(ステップS97)。
【0054】
次に、最良値推定部102が最良値δPとδVを推定する演算処理の詳細について説明する。
最良値推定部102の演算処理にはカルマンフィルタを適用し、本実施形態では、カルマンフィルタへの入力となる測定ベクトルz、その出力である状態ベクトルx、状態ベクトルxの時間変化を表す状態方程式を次のように定義する。
【0055】
【数1】

【0056】
ここで、PNGPS,PEGPSはそれぞれGPS部11から得られる位置PGPSの緯度および経度成分、VNGPS,VEGPSはそれぞれGPS部11から得られる速度VGPSの緯度および経度方向成分である。また、δPN,δPEはそれぞれ最良値δPの緯度および経度成分、δVN,δVEはそれぞれ最良値δVの緯度および経度方向成分である。なお添字INSの変数はINS系のものである(既述)。
【0057】
このような定義の下、カルマンフィルタの出力である状態ベクトルxは、次式のように表される。但し、k(=1,2,…)は最良値の推定がk回目であることを示す添字であり、時間に対応している。
【0058】
【数2】

【0059】
ここで、Kはカルマンゲインであり、次式で計算される。
【0060】
【数3】

【0061】
但し、Δtは前回(k−1回目)推定した最良値δPに基づき算出される加速度オフセット値bによって加速度の補正を行ってから今回(k回目)までの経過時間であり、各行列R,P,Qの初期値は次のとおりとする。
【0062】
【数4】

【0063】
最良値推定部102は、これらの式に従って測定ベクトルzから状態ベクトルxを計算する。この計算により求められる状態ベクトルxが、最良値δP(の緯度および経度成分)とδV(の緯度および経度方向成分)である。
【0064】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図5は、本発明の第2の実施形態によるナビゲーション装置1の機能ブロックを示す図である。この第2の実施形態によるナビゲーション装置1は、上述した第1の実施形態とは最良値推定部102の演算処理が異なり、またそれにともなって加速度オフセット算出部104および位置選択出力部106が異なっているが、それ以外の部分は共通であるので説明を省略する。
【0065】
最良値推定部102は、位置および速度の差分δP’=PGPS−PINS,δV’=VGPS−VINSを計算することなく、これらの位置PGPSおよびPINSと速度VGPSおよびVINSから直接、位置の最良値Pと速度の最良値Vを推定する。この推定を行うためのカルマンフィルタの演算は、入力となる測定ベクトルzおよび出力である状態ベクトルxが次式のように定義される点を除いて第1の実施形態での説明と同じである。
【0066】
【数5】

【0067】
加速度オフセット算出部104は、最良値推定部102から入力される位置の最良値PとINS系測位部101から入力される位置PINSとに基づいて、次式に従って加速度オフセット値bを算出する。
b=b0+2・(P−PINS)/ΔT
位置選択出力部106は、精度判定部105からの指示に応じて位置の最良値Pと位置PINSのいずれかを選択的に出力する。具体的には、位置選択出力部106は、GPS部11による計測の精度が十分に良好である場合には最良値推定部102から入力される位置の最良値Pをナビゲーションソフト(CPU10)への出力とし、GPS部11による計測の精度が十分に良好でない場合にはINS系測位部101から入力された位置PINSをナビゲーションソフト(CPU10)への出力とする。
【0068】
このように、最良値推定部102の演算処理方法は様々な形をとることができ、最良値推定部102から出力される最良値に合わせて加速度オフセット算出部104や位置補正部103(位置選択出力部106)の処理を適宜修正すれば、全体としては加速度センサ12から得られる加速度aの補正や現在位置Pの計算などのナビゲーション装置1の動作は同じになる。
【0069】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、本発明は携帯型のナビゲーション装置に用いて好適であるが、据え置き型のナビゲーション装置にも同様に適用可能である。また、上記実施形態において、車両とは自動車、自動二輪車、自転車等を含むものであるとする。
【0070】
また、加速度オフセット算出部104が加速度オフセット値bを算出するための算出式は、次式
b=b0+2・δPxy/ΔT・r
のようにしてもよい。ここで、rは加速度オフセット値を前回の値b0から更新する際の変更の度合を調節するための係数であり、例えばr=0.03のように適宜設定する。
また、加速度オフセット算出部104が加速度オフセット値bを算出するための算出式は、最良値推定部102から得られる速度の最良値δVを用いて、次式
b=b0+δVxy/ΔT
のようにしてもよい。但し、δVxyは緯度経度で表された最良値δVを車両に固定されたxy座標系に変換(方位θの回転)したものである。
【0071】
また、磁気センサ13に代えてジャイロセンサなどの他の方位センサを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態によるナビゲーション装置の構成図である。
【図2】第1の実施形態によるナビゲーション装置の機能ブロックを示す図である。
【図3】ナビゲーション装置の動作例を示すフローチャートである。
【図4】精度判定部が実行する処理の例を示すフローチャートである。
【図5】第2の実施形態によるナビゲーション装置の機能ブロックを示す図である。
【符号の説明】
【0073】
10…CPU 11…GPS部 12…加速度センサ 13…磁気センサ 14…メモリ 15…外部記憶装置 16…通信部 17…表示装置 18…音声出力装置 19…バスライン 101…INS系測位部 102…最良値推定部 103…位置補正部 104…加速度オフセット算出部 105…精度判定部 106…位置選択出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPSにより位置を求めるとともに該求めた異なる時刻における複数の位置から移動速度を求める第1の計測手段と、
加速度センサから得られる加速度を加速度オフセット値を用いて補正し、該補正された加速度と方位センサから得られる方位とに基づいて移動速度および位置を求める第2の計測手段と、を備え、位置案内を行うナビゲーション装置において、
前記第1の計測手段により求められた位置および移動速度と、前記第2の計測手段により求められた位置および移動速度と、をカルマンフィルタに入力して現在の最も確からしい位置に関する最良値を推定する最良値推定手段と、
前記最良値推定手段によって推定された最良値に基づき、前記第2の計測手段により求められた位置の誤差が前記加速度センサのオフセット誤差に起因したものであるとして該オフセット誤差の分だけ加速度を補正するための前記加速度オフセット値を算出する加速度オフセット算出手段と、
を備えることを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項2】
前記最良値推定手段は、前記第1の計測手段により求められた位置と前記第2の計測手段により求められた位置との差分、および前記第1の計測手段により求められた移動速度と前記第2の計測手段により求められた移動速度との差分から、これらの差分の最良値を推定することを特徴とする請求項1に記載のナビゲーション装置。
【請求項3】
前記第1の計測手段による計測結果の精度を判定する精度判定手段を備え、
前記加速度オフセット算出手段は、前記精度判定手段により精度が所定の良好な範囲内であると判定された場合にのみ、前記最良値に基づいて前記加速度オフセット値を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナビゲーション装置。
【請求項4】
前記精度判定手段は、前記第1の計測手段により求めた移動速度が所定値以上である場合に精度が良好であると判定することを特徴とする請求項3に記載のナビゲーション装置。
【請求項5】
前記精度判定手段は、前記第1の計測手段により求めた異なる時刻における複数の位置から進行方向の変化する角度を算出し、該算出した角度が所定値以下である場合に精度が良好であると判定することを特徴とする請求項3に記載のナビゲーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−79928(P2009−79928A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247782(P2007−247782)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】