説明

ナリンジン組成物、その製造方法及び用途

【課題】ナリンジンの呈味、溶解性、吸収性および代謝性を改善する、簡便かつ効率的な手法を提供することを目的とする。
【解決手段】ナリンジンおよびα−グルコシルプルニンを含有するナリンジン組成物を用いることにより、ナリンジンの呈味、溶解性、吸収性および代謝性などは顕著に向上する。このナリンジン組成物は、ナリンジン含有物にα-1,2-ラムノシダーゼ活性を有する
酵素を作用させ、その後、糖供与体の共存下にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、効率的に製造することができる。上記ナリンジン含有物としては、柑橘抽出物を好ましく用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナリンジンの呈味、水への溶解性、体内での吸収性およびナリンゲニンへの代謝のされやすさ(代謝性)などを改善した、α−グルコシルプルニンを含有するナリンジン組成物に関する。また、このようなナリンジン組成物の酵素処理を用いた効率的な製造方法、およびナリンジン組成物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フラボノイドの一種であるナリンジン(ナリンギンともいう。)は、柑橘類の未熟な果皮に多く含まれ、苦みを呈する物質であり、少量使うことで食品の呈味を改善する作用(食味改善作用)がある外、紫外線吸収作用、抗酸化作用などを有することが知られている。また、ナリンジンは体内で代謝されナリンゲニンになるが、このナリンゲニンは毛細血管の強化、出血予防、血圧調整、コレステロール低下などの生理活性作用を有する。このため、ナリンジンには、苦味料、食味改善剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤としての利用の外その生理活性作用を期待し、飲食物、医薬品等の有効成分などの様々な用途への利用が提案されている。
【0003】
しかし、このナリンジンは苦味が強いため飲食物、飼料等への利用は極めて低濃度で使用されており、その用量では上記の各種の作用についての有意な機能性を発揮するに至らず、また残存する苦味が食味改善作用を抑制していた。
【0004】
また、このナリンジンは、アルカリ性水溶液には可溶であるが水および酸性水溶液に難溶であり、例えば室温では1Lの水に0.1g程度(約0.01w/v%)しか溶けない
ため、飲食物や化粧品の配合する場合のハンドリングに課題を抱えていた。
【0005】
さらに、ナリンジンは腸管から吸収されにくく、肝臓や腸内などでナリンゲニンに代謝されにくい。このため、ナリンジンを飲食物、医薬品類などに添加して経口摂取する場合に、いかに効率的に吸収されるようにするか、あるいはナリンゲニンへと代謝されやすくするかが問題とされる。
【0006】
上記のようなナリンジンの苦味、溶解性または吸収性を改善するための方法に関して、これまでにいくつかの提案がなされている。例えば、特開平2―112665号公報(特許文献1)には、ナリンジンに糖転移酵素を作用させてα−グルコシルナリンジンを生成させ、溶解性を高める方法が記載されている。特開平10−101705号公報(特許文献2)には、フラボノイドにサイクロデキストリン合成酵素を作用させ該フラボノイドの糖転移物を生成させることにより、フラボノイドの溶解性を改良する発明が記載されている。特開2000−78955号公報(特許文献3)には、生理活性フラボノイドと、その誘導体あるいは別の生理活性フラボノイドもしくは別の生理活性フラボノイドの誘導体とを共存させ、体内における吸収性を向上させる発明が記載されている。
【0007】
このような提案がこれまでになされているものの、ナリンジンの呈味の改善、溶解性、体内での吸収性および代謝性を高めるための、より簡便かつ効率的な手法が求められている。
【特許文献1】特開平2−112665号公報
【特許文献2】特開平10−101705号公報
【特許文献3】特開2000−78955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、ナリンジンの呈味、溶解性、吸収性および代謝性を改善する、簡便かつ効率的な手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ナリンジンに対し特定量のα−グルコシルプルニンを含有するナリンジン組成物は、水に対する溶解性が向上し、また、体内で吸収、代謝されやすいことなどを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
上記のα−グルコシルプルニンは、ナリンジンを酵素処理することにより生成させることが好適であり、ナリンジン含有物にα-1,2-ラムノシダーゼ活性を有する酵素を作用
させ、その後、糖供与体の共存下にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、上記ナリンジン組成物を製造することができる。原料となるナリンジン含有物としては、柑橘抽出物を好ましく用いることができる。なお、このような酵素処理により得られるナリンジン組成物には、実質的にα−グルコシルナリンジンが含有されない。
【0011】
ナリンジン組成物の苦味の程度、溶解性、体内での吸収や代謝のされやすさ、後述するような酵素処理により製造する際のコストなどバランスの点からは、ナリンジン組成物中に、ナリンジン100重量部に対して40〜400重量部の割合(ナリンジン換算量)のα−グルコシルプルニンが配合されていることが望ましい。このようなナリンジン組成物は、例えば、上記酵素処理において、上記ナリンジン含有物中のナリンジンの30〜90重量%をα-1,2-ラムノシダーゼ活性を有する酵素の作用により加水分解し、さらに、得
られるナリンジン分解物中のプルニンの30〜90重量%をシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼの作用により糖付加することにより、製造することが可能である。
【0012】
以上のようなナリンジン組成物は、飲食物、医薬品類、化粧品または飼料に添加して好適に用いることができ、その際に従来よりも改善された効果が期待される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のナリンジン組成物は、従来のナリンジンと比較し、苦味が少なく、溶解性、体内での吸収性および代謝性、さらに呈味などが同時に改善されるという、多面的に優れた特性を有する。また、本発明のナリンジン組成物の製造方法においては、原料に、フラボノイド化合物としてナリンジンさえ含有されていればよく、このナリンジンの一部を酵素処理しα−グルコシルプルニンに変換することにより、効率的に上記ナリンジン組成物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のナリンジン組成物、酵素処理によるナリンジン組成物の製造方法、ならびにナリンジン組成物の用途などについて、順次説明する。
ナリンジン組成物
本発明のナリンジン組成物には、少なくともナリンジンおよびα−グルコシルプルニンが含有され、また、通常は、後述する酵素処理における中間生成物であるプルニンも含有される。
【0015】
ナリンジンは、下記構造式[1]に示すとおり、ナリンゲニン(5,7,4'-トリヒドロキシフラバノン)の7位の水酸基にL−ラムノシル−(α1→2)−グルコースがβ結合した構造を有する、フラボノイドの一種である。なお、ナリンジンなどのフラボノイド化合物において、ナリンゲニンなどの非糖部分は「アグリコン」とよばれる。
【0016】
【化1】

【0017】
本発明におけるナリンジンとしては、例えばグレープフルーツやユズの果皮、果汁または種子から抽出、精製して製造されたものを使用できる。また、例えば東京化成(株)製の商品「ナリンギン」など、上市されているものを容易に入手することもできる。
【0018】
プルニンは、下記構造式[2]に示すとおり、ナリンゲニンの7位の水酸基にβ-グル
コースが結合した、すなわち上記ナリンジンからラムノース単位が外れた構造を有する。
【0019】
【化2】

【0020】
後述するように、前記構造式[1]で示されるナリンジンにα1−2ラムノシダーゼ活性を有する酵素を作用させると、グルコシル基に結合したラムノシル基が外れ、プルニンが生成される。
【0021】
α−グルコシルプルニンは、下記の構造式[3]に示すとおり、プルニンのグルコシル基に、α−1,4結合でグルコースが1個以上結合した化合物である。
【0022】
【化3】

【0023】
このα−グルコシルプルニンは、後述するように、デキストリンなどの糖供与体の共存下でプルニンに糖転移酵素(例えばシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ)を作用させることにより得られ、プルニンのグルコシル基の4位にさらにグルコースが1個以上、通常1〜20個程度結合した構造を有している。
【0024】
上記のナリンジン、プルニン、α−グルコシルプルニン以外にも、本発明のナリンジン組成物には、本発明による効果を阻害しない限り各種の成分が含有されていてもよい。
詳細は後述するが、この組成物において、ナリンジンの含有量が少なく、α−グルコシルプルニンの含有量が多い場合、すなわち酵素処理を受けたナリンジンの割合が高い場合ナリンジン組成物水溶液の苦みは弱まる傾向があり、ナリンジン組成物の溶解性、体内での吸収性や代謝性は高まる。逆に、ナリンジンの含有量が多く、α−グルコシルプルニンの含有量が少ない場合、ナリンジン組成物水溶液の苦みが強くなり、ナリンジン組成物の溶解性等はあまり高まらない傾向がある。
【0025】
本発明のナリンジン組成物において、ナリンジンと、α−グルコシルプルニンとの配合比は、後述するような様々な用途に応じて適宜調整すればよい。例えば、ナリンジン100重量部に対して40重量部以上、好ましくは60重量部以上の割合(ナリンジン換算量)のα−グルコシルプルニンが配合されているナリンジン組成物は、同じナリンジン換算量でナリンジンと比較した場合、苦味を大きく低減できる点で望ましい。なお、「ナリンジン換算量」とは、化学量論的な計算に従って求める。例えばHPLCにおいて、α−グルコシルプルニンのピーク面積と、濃度が既知の標準ナリンジン(試薬)のピーク面積とを比較することにより求められる。
【0026】
また、一例として、ナリンジン100重量部に対して40〜400重量部、好ましくは60〜400重量部の割合(ナリンジン換算量)のα−グルコシルプルニンが配合されているナリンジン組成物は、溶解性、体内での吸収や代謝のされやすさ、呈味、あるいは後述するような酵素処理により製造する際のコストなどがバランス良く優れる点で望ましい。
【0027】
ナリンジン組成物の製造方法
本発明のナリンジン組成物は、ナリンジン含有物にα-1,2-ラムノシダーゼ活性を有
する酵素を作用させ、その後、糖供与体の共存下にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させα-グルコシルプルニンを生成させることにより、効率的に製造す
ることができる。以下、このような製造方法について、製造工程の一態様である下記工程1〜4に沿って説明する。
【0028】
・工程1
原料となるナリンジン含有物を用意し、その水溶液または懸濁液(以下「ナリンジン含有物水溶液」とよぶ。)を調製する。例えば、ナリンジン含有物に10〜100重量倍程度の水を加え、60〜100℃程度の温度で5〜60分間程度攪拌すればよい。このとき、完全にナリンジン含有物が溶けきらなくとも以下の工程に支障はない。また、溶液をアルカリ性にし、ナリンジン含有物の溶解性を向上させてもよい。
【0029】
本発明で用いられるナリンジン含有物は、精製されたナリンジンであってもよいし、ナリンジンと他のフラボノイド化合物などとの混合物であってもよい。例えば、ナリンジンと、ヘスペリジン、ルチンなどの他のフラボノイド化合物との混合物、あるいは、ナリンジンを含有している柑橘類(例えばグレープフルーツ、柚子など)から得られる「柑橘抽出物」を用いることが可能である。前述のように、柑橘類の果実、果皮、種子などにはナリンジンが豊富に含まれており、従来公知の方法を適宜用いて、所望の割合でナリンジンを含有する柑橘抽出物を得ることができる。この柑橘抽出物は、液体のまま下記工程に用いてもよく、また、一旦乾燥粉末にした後、下記工程を行う際に水に溶解させて用いてもよい。
【0030】
・工程2
上記工程1により得られたナリンジン含有物水溶液にα-1,2-ラムノシダーゼ活性を
有する酵素を添加すると、ナリンジンの一部が酵素処理されてプルニンを生成させることができる。このようにして、未反応のナリンジンとプルニンとを含有する溶液(以下「ナリンジン分解物水溶液」とよぶ。)を調製する。なお、この酵素の作用により、一部のナリンジンからナリンゲニンが生成されることもある。
【0031】
この工程におけるα-1,2-ラムノシダーゼ活性を有する酵素としては、例えば田辺製
薬(株)製「ナリンギナーゼ」など、従来公知のものを使用することが可能である。
本工程の酵素処理においては、目的とするプルニン含有率や経済性、用いられる酵素の活性などに応じて、酵素の添加量や反応時間を適宜調整することができる。例えば、前述したような、ナリンジン100重量部に対して40〜400重量部の割合(ナリンジン換
算量)のα−グルコシルプルニンが配合されているナリンジン組成物を得るために、ナリ
ンジン含有物水溶液中のナリンジンの30〜90重量%程度をプルニンに変換させる場合は、上記酵素をナリンジン含有物水溶液中のナリンジン1gあたり10〜20単位の割合で添加し、2〜48時間かけて反応させればよい。
【0032】
また、この酵素処理は、用いる酵素に応じて好適な反応条件下に行えばよい。例えば、上記「ナリンギナーゼ」を用いる場合は、適切な試薬類を用いてpHを4〜5の範囲に調整し、50〜70℃の範囲の温度で反応を行うことが好ましい。酵素処理後は、例えば溶液のpHを3に調製し80℃以上で1時間加温するなど、公知の適切な手法を用いて酵素を失活させる。
【0033】
・工程3
上記工程2により得られたナリンジン分解物水溶液に、糖供与体およびシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを添加すると、プルニンのみが酵素処理されて、α−グルコシルプルニンを生成させることができる。このようにして、未反応のナリンジンと、未反応のプルニンと、α−グルコシルプルニンとを含有するナリンジン組成物(以下「酵素処理ナリンジン組成物」とよぶ)の水溶液を調製する。
【0034】
糖転移酵素としてのシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.19)
は、バチルス属、クレプシーラ属などの細菌により生産される何れの起源の酵素を用いることができるが、好適には市販のバチルス属菌を培養して得られたCGT-ase(天野製薬(
株)製 商品名「コンチザイム」)を用いることができる。本発明において、糖転移酵素として上記シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを用いることにより、プルニンにのみグルコースを付加し、ナリンジンには実質的に付加しないことが可能となる。本発明では、上記シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを用いることにより、α−グルコシルプルニンのみを選択的に生成させることが可能となり、前述したような効果を奏するナリンジン組成物が得られる。
【0035】
糖供与体は、プルニンに付加されるグルコースの原料となるものである。この糖供与体としては、例えばデンプン、デンプン部分分解物(デキストリン、アミロース、アミロペクチン、マルトースなど)、シクロデキストリンなどを用いることができ、中でも、糖鎖が比較的長くしかも分岐構造の少ないデキストリンが好ましい。この糖供与体の添加量は、ナリンジン原料またはナリンジン分解物水溶液中のプルニンの量などに応じて適宜調節することが可能であるが、例えば、ナリンジン分解物水溶液中のプルニンの重量の1〜10倍量の割合が好ましい。
【0036】
本工程の酵素処理においても、目的とするα−グルコシルプルニン含有量や経済性などに応じて、酵素の添加量や反応時間を適宜調整することができる。上記工程2と同様、例えば、前述したような、ナリンジン100重量部に対して40〜400重量部の割合のα−グルコシルプルニンが配合されているナリンジン組成物を得るために、ナリンジン分解物水溶液中のプルニンの30〜90重量%程度をα−グルコシルプルニンに変換させる場合は、上記酵素を添加するデキストリン1gあたり10〜20単位の割合で添加し、2〜48時間かけて反応させればよい。
【0037】
また、この酵素処理は、適切な試薬類を用いてpHを5〜6の範囲に調整し、50〜60℃の範囲の温度で行うことが好ましい。酵素処理後は、例えば90℃以上で1時間加温するなど、公知の適切な手法を用いて酵素を失活させる。
【0038】
・工程4
上記工程3により得られる酵素処理ナリンジン組成物水溶液には、α−グルコシルプルニンの他、未反応のプルニンおよび未反応のナリンジンが含まれている。また、原料として柑橘抽出物を使用した場合には、ヘスペリジンなどの他のフラボノイド化合物や柑橘類の風味に関与している各種の成分なども含有されている。本発明のナリンジン組成物は、この反応溶液を濾過し、濾液を濃縮または乾燥粉末化した態様で使用することが、取り扱い性などの面で好適である。また、必要に応じて、吸着樹脂、イオン交換樹脂などを従来公知の方法を用いて精製を行い、所望の配合組成のナリンジン組成物とすることもできる。
【0039】
以上のような工程にて製造される本発明のナリンジン組成物は、通常、未反応のナリンジン、未反応のプルニンおよびα−グルコシルプルニンを少なくとも含有する。ナリンジン組成物におけるこれらの配合比は、各工程において、例えば酵素処理による化合物の変換割合などの操作を適宜調整することにより、所望のものとすることが可能である。
【0040】
ナリンジン組成物の用途
本発明のナリンジン組成物は、他の飲食物、医薬品類、化粧品および飼料などに配合して用いてもよく、その場合には、これら「他の飲食物」等の製造工程において、これらに添加すればよい。また、乾燥粉末状のナリンジン組成物は、例えば賦形剤や増量剤などと混合し、顆粒状、球状、キューブ、タブレット状などに成形し、これ自体を飲食物として供することも可能である。濃縮液状のナリンジン組成物は、例えば、適切な濃度の希釈した後に各種の添加物を配合し、ドリンク剤として供することもできる。
【0041】
本発明のナリンジン組成物に含まれるナリンジンが強い苦みを呈するのに対し、プルニンは苦味が少なく、α−グルコシルプルニンは苦みを呈しない。そのため、ナリンジンと共にα−グルコシルプルニンを含有する(さらにプルニンを含有していてもよい)本発明のナリンジン組成物は、同等のナリンジン換算量で精製されたナリンジンと比較した場合、あるいはナリンジン‐プルニン組成物と比較した場合、苦味の強さが大きく低減し、苦みの後引きも少なくなるなど、苦みに関する呈味が改善されている。
【0042】
このような苦みの低減は、ナリンジン組成物による食味改善の効果を解りやすくすることにも繋がる。あるいは、許容できる苦みの範囲内でより多くのナリンジン組成物を添加できるようになり、食味改善効果をより一層期待できる。そのため、本発明のナリンジン組成物を飲食物等に含有させることにより、効果的に、例えば柑橘飲料であれば酸味や渋味がを低減させ、また野菜飲料であれば渋味や青臭味を低減させることができる。さらに生薬含有飲料であれば薬味臭の改善が図れる。
【0043】
また、ナリンジンにα−グルコシルプルニンを配合することにより、ナリンジンのみの場合よりも溶解性を高めることが可能となり、食品類、医薬品類、化粧品または飼料などの製造工程においても、溶解性の高い本発明のナリンジン組成物は有用である。
【0044】
このようなことから本発明のナリンジン組成物は、苦味料、食味改善剤として、また後述するようなその生理活性作用を期待した用途においても好適であり、食品類(一般飲食物、健康食品や機能性食品などを含む。特に一般の飲食物としては、例えば果実飲料、ウーロン茶、緑茶、紅茶、ココア、野菜ジュース、青汁、豆乳、乳飲料、乳酸飲料、ニアウォーター、スポーツドリンク、栄養ドリンク等の飲料類、ゼリー、プリン、ヨーグルト等の洋菓子類、和菓子、調味料、魚肉、魚肉加工品、畜産加工品等の他、甘味料としての天然高甘味度甘味料のステビア抽出物、酵素処理ステビア、羅漢果抽出物、合成高甘味度甘味料のL‐アスパラチルフェニアラニンメチルエステルなどのアミノ酸系甘味料、アセスルファムK、スクラロース、砂糖、ブドウ糖、水あめ、マルトース、パラチノース、トレハロース、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、パラチニットなどが挙げられる。)、医薬品類(医薬品および医薬部外品)、化粧品および飼料に添加するなどして利用することができる。
【0045】
フラボノイド化合物は多様な構造を有するが、そのアグリコンが体内において生理活性作用を示すと考えられている。本発明におけるナリンジン、プルニンおよびα−グルコシルプルニンは、ナリンゲニンを共通のアグリコンとして有する。このナリンゲニンに関しては様々な生理活性作用が報告されており、例えば、毛細血管の強化、出血予防、血圧調整(低下作用)、血中脂質の改善(中性脂肪の低減、コレステロール低下、抗アレルギーなど)が挙げられる。
【0046】
ところが、ナリンジン(α−グルコシルナリンジンを含む)は、腸管から血中に吸収されにくい。さらに、肝臓や腸内などの体内でナリンゲニンに代謝されにくく、その理由の一つは、ナリンジンの有するラムノシル基にあると考えられている。これらの理由により、ナリンジンを経口摂取しても、血中のナリンゲニン濃度は上昇しにくくなっている。
【0047】
一方、本発明のナリンジン組成物を経口摂取した場合、ナリンジンを経口摂取した場合と比較して、血中のナリンゲニン濃度は速やかに、しかも高濃度にまで上昇する。その理由は明確ではないが、例えば、ナリンジンの酵素処理によって生成されるプルニンまたはα−グルコシルプルニンはラムノシル基が外れており、ナリンジンよりもナリンゲニンに代謝されやすいことが理由の一つとして考えられる。また、アグリコンであるナリンゲニンは、その配糖体であるナリンジンなどよりも腸管から早く、しかも多く吸収されると考えられている。
【0048】
したがって、含まれているナリンジンの一部をプルニンまたはα−グルコシルプルニンに変換した本発明のナリンジン組成物を経口摂取した場合、これとナリンジン換算量が等しい量のナリンジンを経口摂取した場合よりも、体内においてナリンゲニンを効率的に利用することが可能となり、例えば血中脂質の改善など、生理活性作用に対する効果をより一層期待することができるようになる。
【0049】
また、本発明のナリンジン組成物を例えば生理活性成分として上記の飲食物や医薬品類などに添加する場合、ナリンジン組成物中のナリンジンに対するプルニンおよびα−グルコシルプルニンの配合割合によって、前述のような苦みに関する呈味を調整することができる。そのため、例えば、ナリンジンに対するプルニンおよびα−グルコシルプルニンの配合割合を高くすることで、苦味を抑えて経口摂取しやすくしつつ、体内で代謝されるナリンゲニンの量を確保できるという利用が可能になる。
【0050】
この他にも、ナリンジンは抗酸化作用や紫外線吸収作用などを有していることが知られている。本発明のナリンジン組成物を飲食物、化粧品、医薬品および飼料などに添加することにより、例えばこれらに含有される脂質、香料または着色料などの酸化による変質を抑えることや、着色料などの色素(特に植物由来の天然色素)の褪色を防止することができるなど、多面的な品質の保持に効果が発揮される。さらに、人体に塗布する化粧品などにナリンジン組成物を添加することにより、その皮膚吸収を通じて各種酵素活性抑制を図ることも可能である。本発明のナリンジン組成物は水への溶解性が高いため、これらのナリンジンなどが均一に混合された化粧品などを容易に調製できる。
【0051】
以上のように、本発明のナリンジン組成物は、従来のナリンジンに代えて、飲食物、医薬品、化粧品または飼料に添加して利用することが可能であり、より改善された効果を期待することができるようになる。このような添加の際には、浸漬、散布、混合など従来公知の様々な方法を用いることができる。
【0052】
実施例・試験例など
以下、実施例、試験例などに基づき、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例等におけるプルニン、αGプルニンおよびナリンゲニンの量(重量)は、いずれもナリンジン換算量である。
【実施例1】
【0053】
[調製例1a:ナリンジン分解物水溶液]
ナリンジン含量が95重量%であるナリンジン含有物(ナリンジン原料)50gを950mLのイオン交換水に懸濁させた。この懸濁液を67℃にまで加温した後、20%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9以上にし、ナリンジンを完全に溶解させた水溶液を調製した。
【0054】
次に、この水溶液に20%硫酸水溶液を加えてpHを4.2に調整し、α-1,2-ラムノシダーゼ活性を有する酵素「ナリンギナーゼ」(田辺製薬株式会社製)を1.5g添加し
た。そして、67℃で攪拌を続けて酵素処理を行う際に、処理時間を2時間(A)、24時間(B)、48時間(C)と変えることにより、ナリンジンとプルニンとの量比の異なる3種類の「ナリンジン分解物」A,B,Cの水溶液を得た。
【0055】
この酵素処理後、それぞれ80℃で1時間加温することにより、酵素を失活させた。
上記ナリンジン分解物水溶液および原料としたナリンジン含有物水溶液の成分を、高速液体クロマトグラフィー(以下「HPLC」と略す。)を用いて測定した。ナリンジン含有物水溶液中のナリンジンのピーク面積を基準(100.0)として、得られたナリンジ
ン分解物水溶液A〜Cに含まれるナリンジン、プルニンおよびナリンゲニンの量比を求めた。
【0056】
その結果を表1に示す。なお、上記HPLCの測定条件は下記の通りである。
(HPLC条件1)
使用機器 : HITACHI L-4200形 UV-VIS検出器
使用カラム : YMC-Pak ODS-C18 AQ(250mm×4.6mm I.D.)
カラム温度 : 40℃
検出波長 : UV 280nm
移動相 : 水/アセトニトリル/酢酸=70/30/0.1
流速 : 1.0 mL/min
注入量 : 10 μL
【0057】
【表1】

【0058】
[調製例1b:酵素処理ナリンジン組成物]
調製例1aにより調製したナリンジン分解物A,B,Cの水溶液のそれぞれに、HPLCにより求めたプルニン量の約2倍量(重量%)となるデキストリン、すなわち8.4g
、41.6g、51.2gのデキストリンを加えて溶解させた。次いで、液温を55℃に保持し、20%水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHを5.5に調整した。そして、市販の
バチルス・マセランス由来のシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ「コンチザイム」(天野エンザイム株式会社製)を、デキストリン1gあたり15単位添加した。22時間の反応後、90℃以上で1時間加温し酵素を失活させ、濾過をした。濾液を凍結乾燥し、未反応のナリンジン、未反応のプルニンおよびα−グルコシルプルニン(「αGプルニン」と表記することもある。)を含有する「酵素処理ナリンジン組成物」AG、BG、CGを得た。これらの水溶液に含まれる成分の量比を、前記調製例1aと同様にHPLCにより測定した結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
[HPLCによるプルニンへの糖転移の確認]
(1)実施例1と同様にして、原料であるナリンジン含有物水溶液からナリンジン41重量%、プルニン52重量%、ナリンゲニン7重量%の組成のナリンジン分解物水溶液(図1:クロマトグラム1参照)を調製した。この水溶液にプルニン量の2倍量(重量%)となるデキストリンを加え溶解し、市販のバチルス属菌を培養して得られたCGT-ase(天
野製薬(株)製 商品名「コンチザイム」)をデキストリン1g当り15単位添
加し、作用させ、酵素処理ナリンジン組成物水溶液(図2:クロマトグラム2参照)を調製した。上記ナリンジン分解物水溶液および酵素処理ナリンジン組成物水溶液のHPLCを用いた成分測定において、プルニンのピークに変化が確認され、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(「コンチザイム」)によりプルニンの糖転移が行われたことが推測された。一方、ナリンジンのピーク面積には変化がなかった。
【0061】
(2)上記酵素処理ナリンジン組成物水溶液を乾燥して得られた酵素処理ナリンジン組成物1gを100mLのイオン交換水に溶解し、60℃に加温した後、グルコアミラーゼの一種である「グルクザイムNL4.2」(天野コンチザイム(株)製)を32単位加え、
1時間反応させ、「酵素処理ナリンジン分解物」水溶液を調製した。この溶液のクロマトグラムを確認したところ、クロマトグラムのピークパターンは糖転移反応前のものに戻り、一旦プルニンに付加した糖鎖がグルコアミラーゼにより容易に切断されたことが確認された(図3:クロマトグラム3参照)。
【0062】
(3)上記ナリンジン分解物、上記酵素処理ナリンジン組成物、および上記酵素処理ナリンジン分解物水溶液から得られた酵素処理ナリンジン分解物の各試料を用いて、ナリンジン換算濃度が等しくなるようにした水溶液を調製し、HPLCによりこれらの水溶液の成分分析を行った。この結果を表3に示す。ナリンジンのHPLCピーク面積に変化は認められなかったことから、実質的に、ナリンジン分解物中のプルニンにのみ糖が付加し、ナリンジンには糖が付加しないことが推測された。
【0063】
なお、上記(1)〜(3)におけるHPLCの測定条件は下記の通りである。また、上記「ナリンジン換算濃度」は、試料中のナリンゲニン、ナリンジン、プルニンおよびα−グルコシルプルニンのナリンジン換算量の総計に基づくものであり、以下の実施例等においても同様である。
【0064】
(HPLC条件2)
使用機器 : HITACHI L-4200形 UV-VIS検出器
使用カラム : YMC-Pak ODS-C18 AQ(250mm×4.6mm I.D.)
カラム温度 : 40℃
検出波長 : UV 280nm
移動相 : 水/アセトニトリル/酢酸=80/20/0.1
流速 : 1.5 mL/min
注入量 : 10 μL
【0065】
【表3】

【0066】
[試験例1a:呈味の改善効果]
酵素処理ナリンジン組成物の苦みの強さ、苦みの立ち上がり、苦みの後引きをナリンジンと比較する評価試験を行った。
【0067】
調製例1bで製造した酵素処理ナリンジン組成物試料BGおよびCGを用いて、それぞれナリンジン換算濃度が200ppmである水溶液を調製した。また、苦みの対照として、調製例1aで用いたナリンジン原料を使用し、同じくナリンジン換算濃度として200ppmであるナリンジン水溶液を調製した。
【0068】
これらの水溶液の苦みの強さ、苦みの立ち上がり、苦みの後引きを、表4に示す評価法(5点法)の基準に従い、10人の専門パネラーによって室温で評価した。
その評価結果を表5に示す。表5によれば、試料中のプルニンの比率が高くなるほど、特に苦みの強さが低減し、ナリンジン/プルニン比(ナリンゲニン換算量比)が86.3/11.8(AG)に較べ、40.5/58.5(BG)では著しく低減していた。更に、ナリンジン/プルニン比を改善した(ナリンジンに対しプルニンを多くしたもの)CGでは更なる苦味の低減が見られた。また、相対的にBG,CGでは苦みの後引きが少なくなる傾向が確認された。
【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
[試験例1b:溶解性の改善効果]
調製例1aで用いたナリンジン含有物、調製例1aで調製したナリンジン分解物B及び
調製例1bで調製した酵素処理ナリンジン組成物BGについてナリンジンに換算し、0.1重量%、1.0重量%、2.5重量%となるようイオン交換水で調整した。これを室温にてスターラーで20分間攪拌した後、その溶状を目視判定した。
【0072】
表6によれば、ナリンジン原料では0.1重量%でも溶解しないが、ナリンジン分解物Bでは0.1重量%程度までは溶解する。これに対し、酵素処理ナリンジン分解物BGでは2.5重量%でも溶解し、濁りや沈殿は認められなかった。
【0073】
【表6】

【実施例2】
【0074】
[調製例2a:柑橘抽出物分解物]
八朔の未熟果実を圧搾し、ジュースを絞った後の残渣を乾燥・粉砕した。これを60〜70℃の温水で3〜5時間抽出し、得られた抽出液をろ過・濃縮・乾燥して柑橘抽出物原料を得た。
【0075】
この柑橘抽出物原料(ナリンジン20重量%、ネオヘスペリジン20重量%含有)50gを950mLのイオン交換水に懸濁させた後、67℃以上で加温することにより柑橘抽出物を完全に溶解した。
【0076】
次に、この水溶液に希硫酸を加えてpHを4.2に調整し、α-1,2-ラムノシダーゼ活性を有する酵素「ナリンギナーゼ」(田辺製薬株式会社製)を1.5g添加した。そして
、67℃で攪拌を続けて酵素処理を行う際に、処理時間を3時間(D)、24時間(E)、48時間(F)と変えることにより、ナリンジンとプルニンとの量比の異なる3種類の
「柑橘抽出分解物」D,E,Fの水溶液を得た。
【0077】
この酵素処理後、それぞれの水溶液のpHを3に調整し、80℃で1時間加温することにより、酵素を失活させた。
上記柑橘抽出分解物水溶液および原料とした柑橘抽出物水溶液の成分を、HPLCを用いて測定した。柑橘抽出物水溶液中のナリンジンのピーク面積を基準(100.0)とし
て、得られた柑橘抽出分解物水溶液D〜Fに含まれるナリンジン、プルニンおよびナリンゲニンの量比を求めた。
【0078】
その結果を表7に示す。なお、上記HPLCの測定条件は下記の通りである。
(HPLC条件3)
使用機器 : HITACHI L-4200形 UV-VIS検出器
使用カラム : YMC-Pak ODS-C18 AQ(250mm×4.6mm I.D.)
カラム温度 : 40℃
検出波長 : UV 280nm
移動相 : 水/アセトニトリル/酢酸=70/30/0.1
流速 : 1.0 mL/min
注入量 : 10 μL
【0079】
【表7】

【0080】
[調製例2b:酵素処理柑橘抽出組成物]
調製例2aにより調製した柑橘抽出分解物D,E,Fの水溶液のそれぞれに、ナリンギナーゼを作用させる前の柑橘抽出物の2倍量(重量%)となるデキストリンを加えて溶解させた。次いで、液温を55℃に保持し、20%水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHを5.5に調整した。そして、市販のバチルス・マセランス由来のシクロデキストリングル
カノトランスフェラーゼ「コンチザイム」(天野エンザイム株式会社製)を、デキストリン1gあたり15単位添加した。24時間の反応後、90℃以上で1時間加温し酵素を失活させ、濾過をした。濾液を凍結乾燥し、未反応のナリンジン、未反応のプルニンおよびα−グルコシルプルニンを含有する「酵素処理柑橘抽出組成物」DG、EG、FGを得た。これらの水溶液に含まれる成分の量比を、前記調製例1bと同様にHPLCにより測定した結果を表8に示す。
【0081】
【表8】

【0082】
[試験例2a:呈味の改善効果]
αGプルニンを含有する酵素処理柑橘抽出組成物の苦みの強さ、苦みの立ち上がり、苦みの後引き、苦み以外の異味・雑味を柑橘抽出物と比較する評価試験を行った。
【0083】
調製例2bで製造した酵素処理柑橘抽出組成物試料EGおよびFGを用いて、それぞれナリンジン換算濃度が200ppmである水溶液を調製した。また、苦みの対照として、調製例2aで用いた柑橘抽出物原料を使用し、同じくナリンジン換算濃度として200ppmである柑橘抽出物水溶液を調製した。
【0084】
これらの水溶液の苦みの強さ、苦みの立ち上がり、苦みの後引き、異味・雑味を、前出の表4に示す評価法(5点法)の基準に従い、10人の専門パネラーによって室温で評価した。
【0085】
その評価結果を表9に示す。表9によれば、プルニンの比率が高く、柑橘抽出物中のフラボノイドのナリンギナーゼによる分解反応が進んでいる試料ほど、苦みの後引きが少なくなる傾向が確認された。
【0086】
【表9】

【0087】
[試験例2b:溶解性の改善効果]
調製例2aで用いた柑橘抽出物原料、及び柑橘抽出分解物E、調製例2bで調製した酵
素処理柑橘抽出組成物EGについてナリンジンに換算し、0.1重量%、1.0重量%、5.0重量%となるようにイオン交換水で調整した。これを室温にてスターラーで20分間攪拌した後、その溶状を目視判定した。
【0088】
表10によれば、柑橘抽出物原料では0.1%でも溶解しないが、柑橘抽出分解物Eで
は0.1%重量程度までは溶解する。これに対し、酵素処理柑橘抽出組成物EGでは5.0重量%でも溶解し、濁りや沈殿は認められなかった。
【0089】
【表10】

【0090】
[試験例3a:高甘味度甘味料の食味改善剤]
高甘味度甘味料として、スクラロース(Tate&Lyle(株)製)、アセスルファムK(ニュ
ートリノヴァ社製、商品名:サネット)、アスパルテーム(味の素(株)製、商品名:パルスイート)、ステビア抽出物(東洋精糖(株)製、商品名:ステビロース90)、および酵素処理ステビア(東洋精糖(株)製、商品名:αGスイートPX)を1種ずつ用いて、ショ糖2%水溶液と同等の甘味をもつ高甘味度甘味料の水溶液を調製した。
【0091】
次いで、各水溶液ごとに、調製例1bにより製造した酵素処理ナリンジン組成物BGの粉末を10mg/kg添加したもの(添加試料)と、無添加の対照品(無添加試料)とを準備した。それらの食味(味質、異味)について訓練されたパネラー10名で官能検査を行い、添加試料の食味と無添加試料の食味を対比し、酵素処理ナリンジン組成物の添加による食味改善効果を評価した。
【0092】
結果を表11に示す。なお、この表に記載された評価は表12に示す評価基準に基づく。酵素処理ナリンジン組成物BGを10mg/kgの量で添加した高甘味度甘味料水溶液では、酵素処理ナリンジン組成物BG無添加の対照品に比べて相対的に異味が減少し甘味の質が向上する(味質の改善)とともに、甘味の後引きの減少(呈味の改善)が見られた。
【0093】
【表11】

【0094】
【表12】

【0095】
[試験例3b:柑橘飲料の食味改善と機能性強化]
グレープフルーツ(フロリダ産)の皮をむき、搾汁して100%グレープフルーツジュース(飲料)を調製した。この飲料について、調製例1bにより製造した酵素処理ナリンジン組成物BGの粉末を50mg/kg添加した試料と、無添加の対照品の試料を準備し、訓練されたパネラー10名で官能検査を行い、柑橘飲料への酵素処理ナリンジン組成物の添加による食味改善効果を評価した。
【0096】
結果を表13に示す。なお、この表に記載された評価は前出の表12に示す評価基準に基づく。グレープフルーツジュースに酵素処理ナリンジン組成物BGを添加した柑橘飲料(本発明品)では、酵素処理ナリンジン組成物BG無添加の対照品に比べて酸味や渋み(植物抽出物にみられるエグミ、イヤミ)が緩和されて飲みやすくなる傾向が見られ(食味改善効果)、また、本発明品は、対照品よりもナリンジン(ナリンジン換算量)が大幅に強化された機能性飲料である。
【0097】
【表13】

【0098】
[試験例3c:野菜飲料の食味改善と機能性強化]
トマト搾汁液(80重量%)、ニンジン搾汁液(15重量%)、セロリ搾汁液(3重量%)、およびパセリ搾汁液(2重量%)からなる野菜飲料(合計100重量%)を調製した。この飲料について、調製例1bにより製造した酵素処理ナリンジン組成物BGの粉末を50mg/kg添加した試料と、無添加の対照品の試料を準備し、訓練されたパネラー10名で官能検査を行い、野菜飲料への酵素処理ナリンジン組成物の添加による食味改善効果を評価した。
【0099】
結果を表14に示す。なお、この表に記載された評価は前出の表12に示す評価基準に基づく。酵素処理ナリンジン組成物BGを添加した野菜飲料(本発明品)では、酵素処理ナリンジン組成物BGを添加しなかった対照品に比べて、酸味が緩和され、また野菜由来の青臭みが低下し、飲みやすくなる傾向が見られた。
【0100】
【表14】

【0101】
[試験例4:吸収性試験]
3週齢のWistar系の雄ラット(体重範囲:35〜45g)42匹を日本クレア株式会社より購入し、14日間の検疫を行い、検疫期間終了後に試験に用いた。
【0102】
ラットは室温22±2℃、相対湿度50±10%、換気回数10回以上/時間(オールフレッシュエアー方式)、照明12時間/日(午前6時より午後6時まで照明)に設定した飼育室で、ステンレス製のラット飼育用ブラケットゲージに1ゲージあたり1匹ずつ収容し、飼育した。
【0103】
飼料は、精製飼料「AIN−93G組成飼料」をガラス製給餌皿により与え、飼育開始時から自由摂取させた。また、飲料水は自家用水道水をポリカーボネイト製給水瓶により与え、自由摂取させた。
【0104】
ラットの群分けは、ラットの健康状態を評価し、健康な個体について体重の層別無作為化法により3群に配分し、各群の平均体重はできるだけ等しくなるようにして行った。投与日のラットの週齢は5週齢、体重範囲は98〜118gであった。
【0105】
被験物質の群分けは、調製例1aで用いたナリンジン原料投与群、調製例1aより得られたナリンジン分解物B投与群、調製例1bより得られた酵素処理ナリンジン組成物BG投与群の3群構成とした。
【0106】
18時間の絶食を行ったラットに、ラット体重kgあたりナリンゲニンとして50μmolとなるように2〜2.5mLのイオン交換水に溶解または懸濁した被験物質を、ラット用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。投与24時間後での採血および尿の回収まで、給餌は行わず給水のみとした。
【0107】
被験物質投与前(以下、0時間とする)および投与から0.5、1、2、4、8、12
、24時間後に頚静脈より採血し、それぞれをプラスチックチューブに入れ、ハイキャパシティ冷却遠心機「KUBOTA 3615」(株式会社久保田製作所製)により遠心分離(350
0×g、4℃、10分間)を行い、血漿を分離した。また、24時間尿を回収して尿量を測定し、血液と同様に遠心分離した。
【0108】
得られた血漿および24時間尿の上澄みは、分析の前処理をするまで「サンヨー超低温フリーザー」(三洋電機株式会社製)にて−80℃で冷凍保存した。
血漿0.5mLまたは尿0.5mLと、1M酢酸ナトリウム水溶液(pH4.5)0.5mLを2.0mLのプラスチックチューブに取り、十分に攪拌した後に37℃で2分間、プ
レインキュベーションした。
【0109】
次に、β−グルクロニダーゼ/スルファターゼ(シグマ社製、Type−H−2;10
500units/mL,4300units/mL)を、β−グルクロニダーゼ活性5500units添加し、37℃で20分間インキュベーションした。
【0110】
その後、直ちに氷冷し、0.01Mシュウ酸0.5mLを加えて攪拌し、8000rpm、4℃で5分間遠心分離した。得られた上清をあらかじめメタノールにて活性化させておいた「Sep-Pack C18 Cartridge」(ウォーターズ社製)に注入し、通液後、0.01Mシ
ュウ酸1mL、イオン交換水10mLを順次流して洗浄した。
【0111】
次いで、上記「Sep-Pack C18 Cartridge」への吸着物を100%メタノールで溶出し、試験管に採取した。これをロータリーエバポレーター(EYELAN−2,東京理科器械株式会社製)を用いて減圧乾固し、分析直前まで「サンヨー超低温フリーザー」(三洋電機株式会社製)にて−80℃で冷凍保存した。
【0112】
HPLC分析は、得られた減圧乾固残留物に100%メタノール100μlを加えて溶解し、15000rpm、0℃で2分間、遠心分離機「KUBOTA 3615」(株式会社久保田
製作所製)にて遠心分離したものを試料とし、表15に示すHPLC条件にて測定を行った。
【0113】
本分析では、標準物質としてナリンゲニン(東京化成工業株式会社製)を使用した検量線を作製し、試料中のナリンゲニン濃度(ナリンゲニンおよびナリンゲニン抱合体の総量)を定量した。
【0114】
本試験で得られた測定結果について、異なる群間で有意差があるかどうかを検討するために、MachintoshのGraphPad Instant Software Ver. 2.03を使用し、Analysis of variance(ANOVA)を行った。ANOVAによって、異なる群間に何らかの有意差があることが確認
された場合は、Student-Newman-Keuls Multiple Comparison Testにより、さらに詳しく
どの群間に有意差があるのかを検討した。
【0115】
その結果を、図4および表16に示す。図4および表16から分かるとおり、本発明の酵素処理ナリンジン組成物は、ナリンジンおよびナリンジン分解物と比較して体内への吸収量が多かった。

【0116】
【表15】

【0117】
【表16】

【0118】
[試験例5:脂質代謝試験]
3週齢のSprague Dawley系の雄ラット(体重範囲:42〜53g)30匹を日本クレア株式会社より購入し、7日間の検疫を行い、検疫期間終了後に試験に用いた。
【0119】
ラットは室温22±2℃、相対湿度50±10%、換気回数10回以上/時間(オールフレッシュエアー方式)、照明12時間/日(午前6時より午後6時まで照明)に設定した飼育室で、ステンレス製のラット飼育用ブラケットゲージに1ゲージあたり1匹ずつ収容し、飼育した。
【0120】
飼料は、精製飼料「AIN−93G組成飼料」をガラス製給餌皿により与え、飼育開始時から自由摂取させた。また、飲料水は自家用水道水をポリカーボネイト製給水瓶により与え、自由摂取させた。
【0121】
ラットの群分けは、ラットの健康状態を評価し健康な個体を用いて、体重の層別無作為化法により各群の平均体重をできるだけ等しくなるようにし、表17に示す6群に配分して行った。投与日のラットの週齢は4週齢、体重範囲は59〜70gであった。
【0122】
前記「AIN−93G組成飼料」を通常飼料として用い、対照群用の飼料とした。また、「AIN−93G組成飼料」中のマグネシウム含有量を低下させた「ミネラル混合物」(オリエンタル酵母株式会社製)を使用し、低マグネシウム飼料を調製した。これらの飼
料に、調製例1aで用いたナリンジン原料、または調製例1aより得られたナリンジン分解物Bを1%添加した飼料を調製した。また、調製例1bより得られた酵素処理ナリンジン組成物CGを2%(ナリンジン原料換算として1%)添加した飼料を調製した。
【0123】
飼料の摂取は、ある試験日において飼料摂取量の最も低かった群の飼料摂取量を翌日の全群への飼料投与量とし、飼料摂取量ができるだけ等しくなるようにした。水はイオン交換水を使用し、自由摂取とした。
【0124】
試験開始から5週間後にラットを屠殺し、大静脈より採血し、それぞれをプラスチックチューブに入れ、ハイキャパシティ冷却遠心機「KUBOTA 3615」(株式会社久保田製作所
製)により遠心分離(3500×g、4℃、10分間)を行い、血清を分離した。
【0125】
この血清中の中性脂肪量を「トリグリセライド E−テストワコー」(和光純薬株式会社)、総コレステロール量を「コレステロール E−テストワコー」(和光純薬株式会社)により測定した。
【0126】
本試験で得られた測定結果について、異なる群間で有意差があるかどうかを検討するために、MachintoshのGraphPad Instant Software Ver. 2.03を使用し、Analysis of variance(ANOVA)を行った。ANOVAによって、異なる群間に何らかの有意差があることが確認
された場合は、Student-Newman-Keuls Multiple Comparison Testにより、さらに詳しく
どの群間に有意差があるのかを検討した。
【0127】
その結果を表18および表19に示す。この試験結果より、通常飼料に酵素処理ナリンジン組成物CGを2%添加した場合(#2群)、酵素処理ナリンジン組成物を摂取しなかった場合(#1群)よりも血清中の中性脂肪および総コレステロール値が低下する傾向が認められた。また、体内のミネラルバランスが崩れたモデルとして低マグネシウム飼料を摂取した場合(#3群)、通常飼料を摂取した場合と比較して血清中の中性脂肪および総コレステロールが著しく上昇したが、ナリンジン、ナリンジン分解物または酵素処理ナリンジン組成物の摂取により、これらの値は大きく低下することが認められた(#4,5,6群)。特に、総コレステロール値は、酵素処理ナリンジン組成物の摂取により通常飼料だけを摂取した場合よりも低い値にまで下がることが確認された(#6群)。
【0128】
【表17】

【0129】
【表18】

【0130】
【表19】

【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】図1は、ナリンジン41%、プルニン52%、ナリンゲニン7%の組成のナリンジン分解物のクロマトグラムである(クロマトグラム1)。
【図2】図2は、上記ナリンジン分解物にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させたもののクロマトグラムである(クロマトグラム2)。
【図3】図3は、酵素処理ナリンジン組成物水溶液にグルコアミラーゼを作用させたもののクロマトグラムである(クロマトグラム3)。
【図4】図4は、ナリンジンを投与した場合(図中■で表示)、ナリンジン分解物を投与した場合(図中◆で表示)および酵素処理ナリンジン組成物を投与した場合(図中●で表示)の、ラットの血中ナリンゲニン濃度(nmol/mL)と、投与からの経過時間(h)との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナリンジンおよびα-グルコシルプルニンを含有することを特徴とするナリンジン組成
物。
【請求項2】
ナリンジン100重量部に対してα-グルコシルプルニンを40〜400重量部の割合(ナリンジン換算量)で含有することを特徴とする請求項1に記載のナリンジン組成物。
【請求項3】
ナリンジン含有物にα-1,2-ラムノシダーゼ活性を有する酵素を作用させ、その後、
糖供与体の共存下にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、α-グルコシルプルニンを生成させることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか
に記載のナリンジン組成物の製造方法。
【請求項4】
上記ナリンジン含有物中のナリンジンの30〜90重量%をα-1,2-ラムノシダーゼ
活性を有する酵素の作用により加水分解し、さらに、得られるナリンジン分解物中のプルニンの30〜90重量%をシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼの作用により糖付加することを特徴とする、請求項3に記載のナリンジン組成物の製造方法。
【請求項5】
上記ナリンジン含有物が、柑橘抽出物であることを特徴とする請求項3または4に記載のナリンジン組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のナリンジン組成物を含むことを特徴とする、飲食物、医薬品類、化粧品または飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−284393(P2007−284393A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114788(P2006−114788)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(591061068)東洋精糖株式会社 (17)
【Fターム(参考)】