説明

ハイブリッド自動車

【課題】走行モードが切換えられる際のトルクショックを低減し、切換え後の変速制御を排除できるハイブリッド車を提供する。
【解決手段】車両1に搭載されるエンジン2と、走行用モータ4と、バッテリ12と、発電機3と、車速検出手段se1、se2と、バッテリの残容量Eqを検出する残容量検出手段16とを備え、残容量Eqが第1閾値Eq1以上の場合に第1走行モードEV、第2走行モードMs、第3走行モードMpのいずれかで走行するよう選択するモード選択手段A1を備え、モード選択手段A1は、残容量Eqが第1閾値未満の状況下では第1速度Sc1より小さい第2速度Sc2以上の場合に第3走行モード域Mpを選択し、所定の第2速度Sc2未満の場合に第2走行モードMsを選択し、第3速度未満Sc3の場合に第1走行モードEV又は第2走行モードMsを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転をエネルギーとして走行するシリーズ式ハイブリッド車としても、エンジン回転をエネルギーとして走行するパラレル式ハイブリッド車としても走行できるハイブリッド自動車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、エンジンに駆動される発電機の発電出力及びバッテリの放電出力によりモータを駆動し、モータにより車輪を駆動するシリーズ式ハイブリッド車と、エンジンの機械出力によって車輪を駆動するパラレル式ハイブリッド車と、これら車両の走行モードであるシリーズ式ハイブリッドモードとパラレル式ハイブリッドモードでの走行を共に可能としたシリーズパラレル式ハイブリッド車が知られている。
シリーズ式ハイブリッド車が電動機により車輪を駆動するのに対し、パラレル式ハイブリッド車はエンジンの機械出力によって車輪を駆動するが、発進、加速、制動等の際には、要求出力に対するエンジンの機械出力の差をエンジンの軸上に設けた回転機により補うよう駆動できる。この場合、回転機を電動機として動作させることにより加速が、発電機として動作させることにより減速が実現され、その際、車載のバッテリは回転機(電動機)に電力を供給し、又は回転機(発電機)から電力を回生する。
【0003】
ここで、車載されるバッテリの容量(SOC)は、回転機の回生電力や外部電源からの電力の他に、エンジン駆動による発電機の発電出力によっても充電される。特に、走行時に所定バッテリ容量を下回るとエンジン駆動の発電機の電力により充電制御が繰り返され、バッテリ容量(SOC)の過度の低下を抑制している。
ところで、シリーズパラレル式ハイブリッド車は、発電機と電動機の間がクラッチ等の機構にて断続可能に機械連結される。このシリーズパラレル式ハイブリッド車をシリーズ式ハイブリッド車として走行させる際には、クラッチを切って発電機と電動機の機械連結を切り離す。すると、エンジンにより駆動される発電機の発電出力が、バッテリを介して、電動機に供給される。この状態では、シリーズ式ハイブリッド車として走行できる。逆に、パラレル式ハイブリッド車として走行させる際には、クラッチを結合して発電機と電動機を機械連結させる。すると、エンジンの機械出力が発電機、クラッチ及び電動機を介して駆動輪に機械的に伝達される状態となり、また発電機や電動機を用いて加減速可能な状態となる。この状態ではパラレル式ハイブリッド車として走行できる。
【0004】
このようなシリーズパラレル式ハイブリッド車の一例が特許文献1(特開2000−209706号公報)に開示される。このシリーズパラレル式ハイブリッド車は、エンジン出力軸と駆動輪側の駆動軸との間に発電機及び電動機として切換え駆動できる2つのモータを配し、その間にはクラッチ及びブレーキを備えている。ここでシリーズ式ハイブリッドモードでの走行時にはクラッチを切り、前段のモータを発電機とし、後段のモータを電動機として作動させ、パラレル式ハイブリッドモードでの走行時にはクラッチを接合し、エンジン回転で走行し、あるいは前後のモータを駆動して加減速を容易化している。
【0005】
ところで、シリーズパラレル式ハイブリッド車に搭載されるモータの運転域は、シリーズ式ハイブリッドモード域(エンジン停止、モータ走行のEVモード域を含む)とパラレル式ハイブリッドモード域とに区分され、両モード域の切り換えは制御手段が制御するクラッチの切り換えにより行われる。
【0006】
たとえば、特許文献1には、モータ運転域設定マップを用いて制御手段がモード切換え制御を行うようにしている。ここで、制御手段には車速センサから得られる車速と、アクセルペダルポジション及び車速に基づいて算出する要求トルクと、残容量センサから得られるバッテリの残容量との各情報が入力されている。その上で、制御手段は基本的に、エンジンが始動および停止を行う運転状態にあるとシリーズモードを選択し、バッテリの残容量が所定値以下になった場合にはエンジンを始動し発電機で発電してバッテリの充電を行い、バッテリの残容量が所定値以上になった場合にはエンジンの運転を停止し発電機での発電を停止してバッテリの過充電を防ぐよう制御している。更に、要求トルクの低い領域をシリーズ式ハイブリッドモード域とし、要求トルクが高い領域をパラレル式ハイブリッドモード域に設定している。制御手段は走行モード域を判定し、その上で、現走行モード域が判定された目標の走行モード域となるようにクラッチ切換え制御や、モータの機能が発電機や電動機の機能を成すようインバータを介して切換え制御している。
【0007】
更に、特許文献2(特開平4−297330号公報)にはエンジン側の発電機と駆動輪側のモータとの間に無段変速機とクラッチを直列状に接続した駆動系を有するシリーズ、パラレル複合ハイブリッドカーシステムが開示される。ここでは通常はモータ走行のシリーズ走行モードを採り、パワー不足域ではクラッチを結合してパラレル走行モードとし、かつ、無段変速機の変速比を制御して、燃料効率のよい運転域でエンジンを駆動している。また、回生制動時における高速回転域での回生トルクを変速比を制御することでエンジンフリクションにより吸収するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−209706号公報
【特許文献2】特開平4−297330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1、2に開示するシリーズパラレル式ハイブリッドモードで走行するハイブリッド自動車では、シリーズモードでの走行から車両の運転情報の変動、例えば、バッテリ容量(SOC)の低下や走行負荷が急増し出力アップが要求される高負荷走行に入るような場合、要求トルクが急増し、車両の駆動系をパラレル式ハイブリッドモード域に移行するよう制御している。
この場合、エンジン側の駆動軸と駆動輪側である出力軸(モータ側出力軸)とは分離状態であったクラッチを接合状態に切換える。
【0010】
この際、特に、低速運転域にあると、エンジン側の駆動軸の回転が比較的高く、駆動輪側の出力軸の回転が比較的低く、回転差が比較的大きいことより、クラッチ接合の際に駆動輪側の出力軸にトルクショックが生じやすく、変速機を高変速比に切換え回転差を低減させる必要があった。更に、パラレル式ハイブリッドモードで低速域で増減変動を繰り返す運転域では変速比を切換える必要があり、更に、低車速運転から高車速に増速する場合には、車速の増加変動に応じて、変速機の変速比を切換える必要があり、変速制御が複雑化しやすい。
【0011】
本発明は以上のような課題に基づきなされたもので、目的とするところは、走行モードが切換えられる際のトルクショックを低減し、パラレル式ハイブリッドモード域への切換え後の変速制御を排除できるハイブリッド自動車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の請求項1は、車両1に搭載されるエンジンと、走行用モータと、前記走行用モータに電力を供給するバッテリと、前記バッテリに電力を供給する発電機と、前記車両の速度を検出する車速検出手段と、前記バッテリの残容量を検出する残容量検出手段と、を具備し、前記エンジンを停止して前記走行用モータの駆動により走行する第1走行モードと、前記エンジンの駆動により前記発電機を作動させると共に前記走行用モータの駆動により走行する第2走行モードと、前記エンジンの駆動及び前記走行用モータの駆動により走行する第3走行モードとを有するハイブリッド自動車において、前記残容量が所定の第1閾値以上の状況下では前記車速検出手段により検出された速度が所定の第1速度未満の場合に前記第1走行モード又は前記第2走行モードで走行し、前記所定の第1速度以上の場合に前記第3走行モードで走行するように走行モードを選択するモード選択手段を備え、前記モード選択手段は、前記残容量が前記所定の第1閾値未満の状況下では前記車速検出手段により検出された速度が前記所定の第1速度より小さい所定の第2速度以上の場合に前記第3走行モードを選択し、前記所定の第2速度未満の場合であって前記所定の第2速度より更に小さい所定の第3速度以上の場合に前記第2走行モードを選択し、前記所定の第3速度未満の場合に前記第1走行モード又は第2走行モードを選択する、ことを特徴とする。
【0013】
この発明の請求項2は、請求項1記載のハイブリッド自動車において、前記車両の走行に要求される要求駆動力を検出する要求駆動力検出手段を更に備え、
前記モード選択手段は、前記残容量が所定の第1閾値以上の状況下で、前記車速検出手段により検出された速度が所定の第1速度より小さい所定の第4速度未満の場合において、前記検出された要求駆動力が所定の第1の駆動力境界以下の領域で前記第1走行モードを選択し、前記車速検出手段により検出された速度が所定の第4速度以上であって前記所定の第1速度未満の場合において、前記検出された要求駆動力が前記所定の第1の駆動力境界から前記車速が増加するにつれて減少する第2の駆動力境界以下の領域で前記第1走行モードを選択し、前記第2の駆動力境界より大きい領域で前記第2走行モードを選択する、ことを特徴とする。
【0014】
この発明の請求項3は、請求項2に記載のハイブリッド自動車において、前記モード選択手段は、前記残容量が所定の第1閾値未満の状況下で、前記車速検出手段により検出された速度が前記所定の第3速度未満の場合において、前記検出された要求駆動力が前記第1の駆動力境界より小さい第3の駆動力境界以下の領域で前記第1走行モードを選択し、前記第3の駆動力境界より大きい領域で前記第2走行モードを選択することを特徴とする。
【0015】
この発明の請求項4は、請求項1乃至3のいずれか一つに記載のハイブリッド自動車において、前記モード選択手段は、前記残容量が所定の第1閾値より小さい所定の第2閾値より更に小さい状況下では前記車速検出手段により検出された速度が前記所定の第3速度より小さい所定の第5速度より大きい場合に前記第3走行モードを選択し、前記所定の第5速度より小さい場合に前記第1走行モードを選択することを特徴とする。
【0016】
この発明の請求項5は、請求項1乃至4のいずれか一つに記載のハイブリッド自動車において、前記モード選択手段は、前記残容量が前記所定の第2閾値より小さい所定の第3閾値より更に小さい状況下では前記車両の発進と同時に前記第3走行モードを選択することを特徴とする。
【0017】
この発明の請求項6は、請求項1乃至5のいずれか一つに記載のハイブリッド自動車において、前記車両は駆動輪が設けられた駆動軸と、前記エンジンの動力を前記駆動軸に伝達する伝達経路と、前記伝達経路を断接する摩擦契合手段とを備え、前記第1走行モード又は第2走行モードと第3走行モードとの切替えは、前記摩擦契合手段が前記伝達経路を断接することにより行われることを特徴とする。
【0018】
この発明の請求項7は、請求項1乃至6のいずれか一つに記載のハイブリッド自動車において、前記第3走行モードにおける前記エンジンの駆動力は固定比の減速機により前記駆動輪に伝達されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、残容量が第1閾値を上回るか否かに応じ、それぞれの場合に、第1速度、第2速度、第3速度に応じて、第1走行モード、第2走行モード、第3走行モードのいずれかで走行するように走行モードを選択して走行するので、残容量が定常値である第1閾値を上回るか否かに区分し、各領域において容易にシリーズパラレル式ハイブリッドモードで走行でき、特に、各モードにおいてエンジン2の出力を固定比のままで駆動輪に伝えるので、モードの切換え制御時及びその後の高速域側での変速制御を行う必要がなく、走行制御が容易化される。
【0020】
請求項2の発明によれば、残容量が所定の第1閾値以上で、速度が第4速度未満の場合に、第1の駆動力境界以下の領域で第1走行モードを選択し、第4速度以上で第1速度未満の場合に、第2の駆動力境界以下の領域で前記第1走行モードを選択し、第2の駆動力境界より大きい領域で第2走行モードを選択するので、第1走行モードの運転域を拡大すると共に第2走行モードでの走行を行うことができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、残容量が第1閾値未満で、第2速度未満で、第3の駆動力境界以下の領域であると、車載しているバッテリの低容量状態と見做し、第1走行モードを狭め、バッテリの残容量を回復を早期に図るようにして、第2走行モードで走行を継続することができる。
【0022】
請求項4の発明は、残容量が第2閾値より更に小さい状況下であって、第3速度より小さい第5速度より大きい場合、非常走行時と見做し、エンジンのみでの走行である第3走行モードを選択し、第5速度より小さい走行開始時には第1走行モードを選択し、モータ発進後エンジン走行に速やかに移行してエンジン駆動の第3走行モードへ切替え、発電不能等の緊急状態を回避するメンテナンスを受ける場所に速やかにエンジン駆動により走行移動する状態を確保できる。
【0023】
請求項5の発明は、残容量が第3閾値より更に小さい状況下では、緊急走行時と見做し、第3走行モードを選択するので、停車状態で直ちに、クラッチを分離した状態でのエンジン始動が成され、車両の発進と同時に摩擦契合手段を接合することによりエンジンの機械出力が駆動軸に伝達可能な第3走行モードに切替え、発電不能等の緊急状態を回避するメンテナンスを受ける場所へエンジン駆動のみで走行することができる。
【0024】
請求項6の発明は、第1走行モード又は第2走行モードと第3走行モードとの切替え時に、摩擦契合手段が伝達経路を断接するので、伝達経路が固定比を採用しているとしても、モード切換え時のショックを緩和できる。
【0025】
請求項7の発明は、第3走行モードにおけるエンジン2の駆動力は固定比の減速機により駆動輪に伝達されるので、伝達経路が固定変速比を採用しているとしても、モード切換え時のショックを緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1のハイブリッド自動車の構成図である。
【図2】図1のハイブリッド自動車の駆動系の機能説明図で、(a)はシリーズハイブリッドモード状態を、(b)はパラレルハイブリッドモード状態を示す。
【図3】図1のハイブリッド自動車で用いる定常時の走行モード設定マップの特性説明図を(a)に、定常時のバッテリ容量説明図を(b)に示した。
【図4】図1のハイブリッド自動車で用いるバッテリ残容量が定常判定容量を下回る時の走行モード設定マップの特性説明図を(a)に、バッテリ容量説明図を(b)に示した。
【図5】図1のハイブリッド自動車で用いるバッテリ残容量が緊急判定容量を下回る時の走行モード設定マップの特性説明図を(a)に、バッテリ容量説明図を(b)に示した。
【図6】図1の走行制御装置で用いるバッテリ残容量が限界判定容量を下回る時の走行モード設定マップの特性説明図を(a)に、バッテリ容量説明図を(b)に示した。
【図7】図1のハイブリッド自動車で用いる走行制御ルーチンのフローチャートである。
【図8】図1のハイブリッド自動車で用いる走行モード切換えルーチンのフローチャートである。
【図9】図1のハイブリッド自動車で用いる結合車速設定ルーチンのフローチャートである。
【図10】図1の走行制御装置で用いる始動、停止処理ルーチンのフローチャートである。
【図11】図1の走行制御装置で用いるパラレル走行制御ルーチンのフローチャートである。
【図12】図1のハイブリッド自動車で用いるエンジンの運転域特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1にはこの発明の一実施形態としてのハイブリッド自動車(以後、単に車両と記す)1の概略図を示す。
この車両1はエンジン2とモータ4の両駆動源からの回転出力を伝達経路11を用いて駆動輪である後輪wrに伝達して走行するもので、モータ4のみで走行する第1走行モードと、シリーズ式ハイブリッドモード(以下第2走行モードと記す)と、パラレル式ハイブリッドモード(以下第3走行モードと記す)、との両モードでの走行を可能とする。
【0028】
この車両1の伝達経路11はエンジン2と、同エンジンの出力軸J1に連結された発電機3と、後輪wr側に減速機であるデファレンシャルギア(以後単にデフと記す)8を介して連結された車輪側の駆動軸J2と、駆動軸J2に連結されたモータ4と、出力軸J1とモータ4側の駆動軸J2’を備えた伝達経路11を断続する摩擦契合手段としてのクラッチ6とを有する。しかも、エンジン2の出力軸J1は、不図示の増速機を介して発電機3に連結され、これにより回転数を発電機3への入力に適する回転数領域まで高めている。
【0029】
また、発電機3とモータ4の間のクラッチ6はオフ(切断状態)では発電機3の軸である出力軸J1とモータ4側の駆動軸J2’は互いに独立し、クラッチ6がオン(接合状態)では連結する。
ここで、クラッチ6は接合力調整手段付602の湿式多板クラッチ6aである。
この湿式多板クラッチ6aは、クラッチオフ(切断)にあると(図2(a)参照)、エンジン側の出力軸J1の複数の回転板(不図示)に対する車輪側の駆動軸J2の複数の回転板(不図示)の相対回転を許容し、クラッチオン(接合)にあると(図2(b)参照)、両軸J1,J2’の相対回転を無くして、エンジン側の出力軸J1と駆動軸J2’、車輪wfを直結する。しかも、湿式多板クラッチ6aはその接合力を接合力調整手段602により調整する。接合力調整手段602は電磁ソレノイドの働きで両軸J1,J2’の各回転板相互の相対間隔を接離操作することで、切断状態より半クラッチ状態、直結状態へと段階的に接合の状態を切り換えでき、このクラッチ用ソレノイドは後述の制御手段であるECU9により駆動制御される。
【0030】
なお、上述の接合力調整手段602付の湿式多板クラッチ6aに代えて、不図示の単板のクラッチ6を油圧アクチュエーターによる油圧制御により切換える接合調整手段(不図示)を用いてもよい。
ここでECU9に制御されるクラッチ6aはモード切換え時にクラッチを滑り接合から完全結合への切換えを行う。特に、第1走行モード(EV走行モード)での走行域EVや第2走行モード(シリーズモード)での走行域Msより、第3走行モード(パラレルモード)での走行域Mpへの切換えが開始された際に、車速Svが結合車速Scより所定量(たとえば、5%程度)増加するまでの間はクラッチを接合力調整手段602により半クラッチ接合に保持し、滑り接合から徐々に完全結合に切換え、結合車速が所定量増加するとクラッチを完全結合させるようクラッチ制御を行う。これによって、伝達経路11が固定変速比(固定比)を採用していても、中速以上での切換えにもかかわらず、モード切換え時のショックを緩和できる。
【0031】
次に、発電機3及びモータ4には後述のECU9に切換え制御されるインバータ501及び502を介してバッテリ12が接続されている。ここで回転機である発電機3及び/又はモータ4が発電機として機能する運転域にあると、インバータ501、502を介して充電電力がバッテリ12に入力され、電動機として機能する運転域にあると、発電機3及び/又はモータ4に対しインバータ501又は502を介して放電電力が供給される。 車両1には同車両1の伝達経路11の走行制御を行う制御手段であるECU9が配備される。
ECU9は内部にCPU、ROM、RAM等を有するマイクロコンピュータであり、ROMに記録されたプログラムに従いCPUがエンジン2の燃料噴射量その他の制御を実行する。
【0032】
これらの制御を可能とするために、ECU9にはエンジン2の運転状態を示す種々のセンサが接続され、しかも、車両の制御ユニット17とも電気的に接続され、制御ユニット17との間で種々の情報を、通信によってやりとりしている。更に、ECU9は制御ユニット17からエンジン2の運転状態に関する種々の指令値を受けてエンジン2を制御している。なお、符号13は燃料タンクを示す。
このようなECU9には、車両操縦者からの加速要求を示すアクセル開度θaを出力するアクセル開度センサ15、減速要求を示す踏力bp情報を出力するブレーキセンサ14、左右の前輪wfの各車速センサse1、左右後輪wrの各車速センサse2が接続される。ここで、ECU9は前後車輪速ssf、ssrの各情報よりそれらの単位時間ごとの平均値より車速Svを算出している。更に、ECU9には、発電機3の回転数Ngを出力する回転数センサ18、モータ4の回転数Ndを出力する回転数センサ19、バッテリ12の残容量Eqを出力するSOCセンサ(残容量検出手段)16、バッテリ12の電圧sbvを出力する電圧センサ21がそれぞれ接続される。
【0033】
ECU9は、発電機3及びモータ4を発電機として動作させるかそれとも電動機として動作させるかを決定し、インバータ501及び502のスイッチング動作を制御することにより発電機3及びモータ4のトルクを制御する。エンジン2はスロットル全開(WOT)運転を基本としているが、ECU9は、スロットル開度を操作したほうが効率が良くなる領域ではエンジン2のスロットル開度を制御する。ECU9は、また、不図示のブレーキ装置の制動制御をすることにより、前後輪wf、wrに作用する油圧制動力を要求制動力の範囲内で制御する。
【0034】
次に、第一実施形態としての車両1の走行制御の特徴を説明する。
第1の特徴は、ECU9がモード選択手段A1としての機能を備える。
なお、ここで、車両1の運転域は、例えば、図3(a)に示すように、エンジンを停止して走行用モータの駆動により走行する第1走行モード(EVモード)域EVと、エンジンの駆動により前記発電機を作動させると共に走行用モータの駆動により走行する第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msと、エンジンの駆動及び走行用モータの駆動により走行する第3走行モード(パラレル式ハイブリッドモード)域Mpとに区分され、設定され、これらいずれかのモード域で車両1は走行する。
【0035】
モード選択手段A1はバッテリ12の残容量Eqに応じて走行モードを設定する機能を備える。この設定処理に用いる車両の車速「km/h」―駆動力「Nm」線図である走行モード域設定マップ(一例を図3〜図6に示した)を予め複数記憶処理されている。各マップはECU9内のROMに記憶されている。ECU9は車速Svおよび駆動力Nm(要求トルク)に基づいてかかるマップを参照して、車両の運転モードを設定する。
ここで、走行モード域設定マップは、車載のエンジン2、モータ4及び発電機3の駆動特性に沿って予め設定されており、図中の曲線LIMは車両が走行可能な限界領域を示している。
【0036】
モード選択手段A1は、まず、残容量Eqが所定の第1閾値Eq1(図3(b)参照)以上の定常時状況下においては、車速検出手段se1、se2により検出された速度Svが所定の第1速度Sc1未満の場合に、図3に示すように、第1走行モード域EV又は第2走行モード域Msで走行し、所定の第1速度Sc1以上の場合に,第3走行モード域Mpで走行するように走行モードを選択するもので、図3に定常走行マップとして示した。
【0037】
更に、モード選択手段A1は、残容量が所定の定常判定容量である第1閾値Eq1(図3(b)参照)未満の低容量状況下においては、車速検出手段se1、se2により検出された速度が所定の第1速度Sc1(図3参照)より小さい所定の第2速度Sc2(図4参照)以上の場合に第3走行モード域Mpを選択し(図4参照)、所定の第2速度Sc2未満の場合であって所定の第2速度Sc2より更に小さい所定の第3速度Sc3(図4参照)以上の場合に第2走行モードMsを選択し、所定の第3速度Sc3未満の場合に第1走行モード域EV又は第2走行モードMsを選択するもので、図4に非低容量走行マップとして示した。
【0038】
更に、ECU9は要求駆動力Nmを検出する要求駆動力検出手段A2としての機能を備える。
要求駆動力検出手段A2はECU9内で走行時に車両操縦者からの加速要求を示すアクセル開度θa(アクセル開度センサ15が出力)から要求駆動力NmをECU9が算出し、得られた最新の要求駆動力Nmが所定の第1の駆動力境界R1のライン(図3中のR1ライン)以下の領域で第1走行モードEVを選択し、速度Svが所定の第4速度Sc4以上であって所定の第1速度Sc1未満の場合において、検出された要求駆動力が第1の駆動力境界R1から車速Svが増加するにつれて減少する第2の駆動力境界R2(図3中のR2のライン)以下の領域で第1走行モードEVを選択し、第2の駆動力境界R2より大きい領域で第2走行モードMsを選択する。
【0039】
更に、第1走行モード域EV、第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msより第3走行モード(パラレル式ハイブリッドモード)域Mpへの切換え時において、クラッチ6aを切断より接合へ切換え、その切換えは車速Svが結合車速Sc(Sc1,Sc2)を上回る際に行うようにしている。
ここで結合車速Scは車載のバッテリ12の最大容量SOC(100%)に応じて予め設定する。即ち、基本的には車載されているバッテリ12の最大容量SOCが大きいほど、結合車速Scを大きな値に設定する。これによりバッテリ12の電力エネルギーによる第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msでの走行域を拡大させ、環境保全に好ましい無公害走行域の拡大を図るようにしている。
【0040】
更に、バッテリ12がフル充電により最大容量SOC(100%)を保持する状態より、第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msでの走行を続けた場合には、バッテリ12の残容量Eqが低下し、定常走行状態で回復充電を必要とする定常判定容量である第1閾値Eq1(図3(b)参照)を下回らない間は、図3(a)の定常走行用マップに示すように、定常時の定常結合車速Sc1を車両の中速以上の値に設定する。
この中速とは、クラッチ6aの接合時に出力軸J1に対する車輪側である駆動軸J2の回転が低すぎることによる接合ショックを防止できる下限値、たとえば40[km/h]以上の値とする。逆に、車輪側である駆動軸J2の回転速度が高すぎることによる接合ショックを防止できる上限値、たとえば60[km/h]以下の値が設定される。なお、この中速値は一例であり、車両に応じて予め設定され、ここでは、図3(a)に示すように、50[km/h]に設定され、この値が定常結合車速Sc1として設定される。
【0041】
このように、定常判定容量(第1閾値)Eq1を下回らない間、定常結合車速Sc1を車両の中速度近傍の値に設定することで、低速域側である第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msを比較的拡大することができ、この第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msでの変速処理を排除できるので、走行制御を容易化できる。しかも、定常結合車速Sc1でのクラッチ切換えが中速度近傍で行われるので、出力軸J1とモータ側の駆動軸J2’との回転差が比較的小さい運転域であり、変速ショックの発生を抑制できる。
次に、車両が低車速での走行を続け、定常結合車速Sc1を上回る運転域が少なかった場合、残容量Eqが定常判定容量(第1閾値)Eq1(図4(b)参照)を所定量dq1下回って非常時判定容量Eq2との間に達する。
【0042】
この場合、回復充電する運転域を拡大する必要性が高いことより、図4(a)の非常時走行用マップに示すように、定常結合車速Sc1(中速度)より所定量dv1低い低容量時結合車速Sc2が設定される。
このように、低容量時結合車速Sc2を車両の中速度より低く比較的低速側にずらして設定することで、第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msで低速走行が続く運転域であっても、低容量時結合車速Sc2を上回る場合が多くなり、この際クラッチ6aを接合させ、第3走行モード(パラレル式ハイブリッドモード)域Mpに切換え、エンジン2の駆動域を拡大させ、バッテリ12の残容量Eqを比較的早期に増加側に変移させることができる。
【0043】
更に、残容量Eqが第1閾値Eq1未満の状況下で、速度Svが所定の第3速度Sc3未満の場合において、要求駆動力検出手段A2により検出された要求駆動力が第1の駆動力境界R1より小さい第3の駆動力境界R3以下の領域(図4(a)参照)で第1走行モード域EVを選択し、第3の駆動力境界R3より大きい領域で第2走行モードMsを選択するように設定する。
なお、図4(a)の低容量時走行用マップにおいて、エンジン非作動の第1走行モード域EVは、図3(a)の定常走行用マップに示す第1走行モード域EVよりも低速側に狭めて設定され、これによりバッテリ12の残容量Eqを早期に回復するようにしている。
【0044】
次に、車両が低車速での走行を続けている際に、発電機側の発電回路が異常状態に陥っているような場合、バッテリ12の残容量Eqが過度に低下し、非常時判定容量Eq2を所定量dq2下回り、緊急時判定容量Eq3(図5(b)参照)との間に達するとする。 この場合、発電機側の発電回路が異常状態に陥っていると見做され、モータ発進(EV走行)後、エンジン駆動である第3走行モード(パラレル式ハイブリッドモード)域Mpに速やかに移行する必要がある。
そこで、図5(a)の非常時走行用マップに示すように、バッテリの残容量Eqが非常時判定容量Eq2を下回るような場合には、低容量時結合車速Sc2より所定量dv2低い値である非常時結合車速Sc5が設定される。
【0045】
このように、発電機側の発電回路が異常状態に陥って定常の発電機能が働かない緊急状態と見做される場合は、第1走行モード域EVより速やかにクラッチ6aを切ってエンジン2を始動して、クラッチを接合させてパラレルモード域Mpの運転に入る。これにより、発電不可による緊急状態を回避するためメンテナンスを受ける工場等に速やかにエンジン駆動により走行移動することを可能としている。
次に、バッテリ12の残容量Eqが過度に低下し、緊急時判定容量Eq3を下回ると、そのような残容量EqnではEV走行も行わず、停止車速Sc0(図6参照)の状態を判断して、クラッチを切って、残容量Eqnを使ってエンジン2を始動する。その上でクラッチを半クラッチ接合より完全接合に制御して発進し、すなわち、エンジン駆動の第3走行モード(パラレル式ハイブリッドモード)域Mpで発進し、発電不能等の故障状態を回避するメンテナンスを受ける工場等に速やかに走行移動する状態を確保する。
【0046】
このように、クラッチを切断より接合に切換える判定値を結合車速Scにより設定し、しかもバッテリの残容量Eqが低くなるとモータの発生トルクが低下するため、エンジン駆動の第3走行モード域Mpへの切換えを早めて残容量Eqの回復を図るようにする。すなわち、結合車速Scをバッテリの残容量Eqの低下に応じて低い値、即ち、Sc1>Sc2>Sc5>Sc0に設定した。これにより、バッテリの残容量Eqの低下に応じてモータ駆動域を狭め、エンジン駆動および発電機駆動域を拡大し、発電機3の運転域を拡大してバッテリの残容量Eqの回復を早期に図ることができる。
次に、車両1の駆動系の作動を図7の走行制御ルーチンと共に説明する。
図7は走行制御処理のフローチャートである。この処理が開始されると、ECU9はまず走行モード切換え処理を実行する(ステップa1)。走行モード切換え処理のフローチャートを図8に示す。
【0047】
走行モード切換え処理ルーチンでECU9は車両の運転状態に関与する種々のパラメータを読み込む(ステップs1)。ここでのパラメータとしては、車輪速ssr、ssf(車速Sv)、要求駆動力検出手段A2により検出された駆動力Nm、バッテリの残容量Eqn、バッテリ電圧sbv、アクセルペダルポジションθa,ブレーキ踏み操作bp、シフトポジション、エンジン運転情報、などがある。
車速Svは4車軸wf、wrの車輪速ssr、ssfの平均値に応じて検出される。駆動力Nmは、アクセルペダルポジションセンサ15により検出されたアクセルペダルポジションθaと車速Svに基づいて算出することができる。バッテリ12の残容量Eqnは、SOC(残容量)センサ16により、バッテリ12の電圧sbvは電圧センサ21により検出される。
【0048】
更に、シフトポジションはシフトレバー(不図示)のシフト位置センサ22によりリバースR,走行D,パーキングPkの各情報を受ける。更に、エンジン運転状態とは、エンジン2が現在運転されているか否かを意味しており、車両の制御ユニット17との通信により検出することができる。
こうして検出された運転情報に基づき、予め設定された条件に従ってECU9は走行モードを順次切換える。
まず、走行モード切換えルーチンのステップs2に達すると、モード切換のため行うクラッチ6aをオンする結合車速Scの設定処理に入る。
ここで結合車速設定ルーチンを図9に示す。
【0049】
この結合車速設定ルーチンのステップb1ではバッテリ12の残容量Eqnが図3(b)に示す定常判定容量(第1閾値)Eq1を上回るか判断し、下回るとステップb3に、上回るとステップb2で中速値である結合車速Sc1を設定しステップs3にリターンする。ここでの定常判定容量(第1閾値)Eq1はバッテリ12の回復充電によりバッテリの全容量(100%)に近い回復を定常の充電処理で容易に行えるレベルの放電時の容量として設定される。中速値である結合車速Sc1はここでは60「km/h」に設定されている。
【0050】
ステップb3ではバッテリ12の残容量Eqnが図4(b)に示す非常判定容量Eq2を上回るか判断し、下回るとステップb5に、上回るとステップb4で低容量用結合車速Sc2を設定し、走行モード切換えルーチンのステップs3にリターンする。ステップb5ではバッテリ12の残容量Eqnが図5(b)に示す緊急判定容量Eq3を上回るか判断し、下回るとステップb7に、上回るとステップb6で非常用結合車速Sc3を設定し、走行モード切換えルーチンのステップs3にリターンする。ステップb7ではバッテリ12の残容量Eqnが緊急判定容量Eq3を下回る場合であり、停車車速Sc4=0を設定しステップs3にリターンする。
このように、図9の結合車速設定ルーチンでは、バッテリ12の残容量Eqnが低下するほど低い値の結合車速Scが設定され、次いで、走行モード切換えルーチンのステップs3に進む。
【0051】
図8の走行モード切換えルーチンのステップs3に達すると、ここでは、現シフト位置がリバースRか否か判断され、リバースRでは、モータ4の回転を逆転すべくインバータ502の切換えを行う。その上でステップs6に、そうでないとステップs4に進み、現走行モードが第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msか判断する。第2走行モード域Msではステップs6に、そうでないとステップs5に進み、エンジン始動中か判断し、始動中であるとステップs6に、そうでないと、ステップs7に進む。
第2走行モード域Ms継続中において、ステップs6に達するとする。ここで、第1走行モード域EVにない間は第2走行モード域Msを設定し、ステップs8に進む。
【0052】
ステップs8で現モードが第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msで走行モードの変更が必要と判断するとステップs9に進み、必要ないとそのまま、図7に示す走行制御ルーチンのステップa2に進む。
【0053】
ステップs9では、湿式多板クラッチ6aの接合力調整手段602(図1参照)をクラッチオフ(切断)状態に切換え、エンジン側の出力軸J1と車輪側の駆動軸J2の相対回転を許容する。ここでは電動機であるモータ4をそのときのアクセル開度θa相当の駆動力Nmを出力するように駆動する。このモータ4出力により、駆動輪である後輪wrをデフ8を介して駆動する。
【0054】
更に、走行域が第1走行モード域EVに入るとエンジン2を停止し、第1走行モード域EVを外れると第2走行モード域Msではエンジンを高効率運転域において、所定の回転数Nenで、所定のスロットル開度θs(たとえば、全開)で駆動するよう制御する。このステップs9の処理の後は、図7に示す走行制御ルーチンのステップa2に進む。
図8の走行モード切換えルーチンにおいて、エンジン始動中でなく、通常走行ではステップs7に進む。
【0055】
ここでは車速Svがステップs2で設定された結合車速Sc(Sc1、Sc2、Sc4、Sc5)に達したか判断し、達しないと第2走行モード域Msに保持すべくステップs9に進む。達するとステップs10に進み、ここで、現走行モードを第3走行モード(パラレル式ハイブリッドモード)域Mpと設定し、次いで、ステップs11で現モードがすでに第3走行モード域Mpでは図7に示す走行制御ルーチンのステップa2に、第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msではステップs12に進む。
ステップs12では、結合車速Sc(Sc1、Sc2、Sc4、Sc5)に達するのを待ち、達すると第3走行モード域Mpへの切換えに進む。
【0056】
ステップs13では、湿式多板クラッチ6aの接合力調整手段602を操作し、エンジン側の出力軸J1と車輪側の駆動軸J2を半クラッチに切換え、エンジン2を駆動し、インバータ502を介しモータ4を駆動に制御する。更に、ステップs13では所定経過時間Tdの経過を待ち、経過後にはステップs14に進む。ここでは接合力調整手段602を操作し、クラッチオン(完全接合)状態に切換え(図2(b)参照)、違和感のないモード切換えを達成した上で、図7に示す走行制御ルーチンのステップa2に進む。
上述のステップs12での第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msより第3走行モード域Mpへの切換えは結合車速Sc(Sc1、Sc2、Sc4、Sc5)の大小により切換え時点が異なる。
【0057】
即ち、第3走行モード域Mpへの切換えは、定常判定容量(第1閾値)Eq1以上であると中速近傍のSc1で、非常判定容量Eq2以上であると中速近傍より所定量dv1低速側の非常時Sc2で、緊急判定容量Eq3以上であるとSc2でより所定量dv2低速側のSc5で、緊急判定容量Eq3以下では停車車速Sc4=0で、それぞれ行われる。 これにより、基本的には、定常判定容量(第1閾値)Eq1以上の定常運転時は、定常判定車速Sc1を中速近傍の値に設定して、モータ駆動域(第2走行モード域Ms)を比較的拡大して、即ち、環境保持を優先した走行域を拡大する。
一方、バッテリの残容量Eqnが低速運転域が続き、バッテリの残容量Eqnが定常判定容量(第1閾値)Eq1を下回り、非常時判定容量Eq2との間に達した場合は、低容量時結合車速Sc2を定常時結合車速Sc1より低下させ、発電域を拡大し、バッテリの残容量Eqnが定常判定容量(第1閾値)Eq1を上回るようにする。
【0058】
更に、発電回路系が故障のような場合に、バッテリの残容量Eqnが低容量時結合車速Sc2を下回り、緊急時判定容量Eq3との間に達した場合は、非常時結合車速Sc3を非常時結合車速Sc2より更に低下させ、EV走行に入ると速やかにエンジン駆動を行い、故障回避のメンテナンスを受けるように、工場へのエンジン駆動での走行を可能とした。
特に、発電回路系が故障で、バッテリの残容量Eqnが緊急時判定容量Eq3を下回る場合は、EV走行無しに、直接、クラッチ切断のままエンジン始動を行い、始動後にエンジン駆動により故障回避のメンテナンスを受ける工場への走行を可能とした。
次に、図8の走行制御ルーチンのステップa2に戻るとする。
【0059】
ここでは、エンジン2が駆動中か否か判断し、駆動前ではステップa3の始動、停止処理ルーチンに進み、駆動中にあると、ステップa4に進む。
ここで、図10に示すように、始動、停止処理ルーチンでは、始動及びEV走行、停止の運転時の出力制御を行う。ステップc1では、車速Scが所定値より小さく車両が停止しているとみなせる場合であると、電圧センサ21により検出されるバッテリ12の電圧sbvが所定値(始動可能な電圧)より大きい点と、始動指令が入力されていることを確認する。次いで、モータ4発進すべく,ECU9は、発進用の駆動出力Pdsを所定の発進出力マップ(不図示)より算出し、ステップc2でモータ4での発進制御をする。この発進の後,第1走行モード域EVにある間は、ステップc1、c2において、アクセル踏み込み量θaに基づき目標加速トルクTacを、ブレーキ踏力bpに基づき目標制動トルクTbpを、それぞれ演算する。更に、これら目標加速トルクTac、目標制動トルクTbpのトータルトルクTt=Tac+Tbpを求める。ここで、トータルトルクTtと駆動軸J2の目標回転数Ndの積より駆動出力Pd「kW」が定まる点より、予め設定されている図3の定常走行マップに沿い(バッテリ残容量Eqnによりその他の図4〜図6に示す走行マップを採用する)、車速Svあたりの駆動力Tv「Nm」を求める。この場合の駆動力Tv「Nm」は、アクセル踏み込み量θaに比例して適宜設定する。
【0060】
ここでは、駆動出力Pd「kW」をトータルトルクTtにより除算して、駆動軸J2の目標回転数Ndを求め、その目標回転数Ndが得られるように、モータ4を制御し、これにより運転者の要求に沿った走行を可能としている。なお、ステップc2において、EV走行以外の第2走行モード(シリーズ式ハイブリッドモード)域Msの運転点に達した時点においては、エンジン始動が成されていないと、エンジン始動が成される。この際、エンジン始動は、湿式多板クラッチ6aの接合力調整手段602をクラッチオフ(切断)状態に切換え、エンジン2に機械連結されている発電機3を電動機として動作させることで行われ、その際のエンジン始動制御は高効率でエンジン駆動を行えるよう予め設定された制御モードで行われる。
【0061】
一方、第1走行モード域以外の第2走行モード域Msや第3走行モード域Mpでは、エンジン駆動中にあることより、図7の走行制御ルーチンのステップs4に進む。ここでエンジン駆動時で第1走行モード域以外の第2走行モード域Msで駆動時にはステップa3の始動、停止処理ルーチに戻り、第3走行モード域Mpでのエンジン駆動中にあると、図11に示すパラレル走行制御ルーチンのステップd1に進む。
図11に示すパラレル走行制御ルーチンでのステップd1においては、ステップc1の場合のように、アクセル踏み込み量θaに基づき目標加速トルクTacを、ブレーキ踏力bpに基づき目標制動トルクTbpを、それぞれ演算する。更に、これら目標加速トルクTac、目標制動トルクTbpのトータルトルクTt=Tac+Tbpを求める。ここで、トータルトルクTtと駆動軸J2の目標回転数Ndの積より駆動出力Pd「kW」が定まる点より、予め設定されている図3の定常走行マップに沿い(バッテリ残容量Eqnによりその他の図4〜図6に示す走行マップを採用する)、車速Svあたりの駆動力Tv「Nm」を求める。この場合の駆動力Tv「Nm」は、アクセル踏み込み量θaと図3の定常走行マップの値に沿い適宜設定する。
【0062】
次いで、充放電電力Pbおよび補機駆動エネルギーPhを算出する(ステップd2、d3)。充放電電力Pbとは、バッテリ12の充放電に要するエネルギーであり、バッテリ12を充電する必要がある場合には正の値、放電する必要がある場合には負の値を取る。補機駆動エネルギーPhとは、エアコンなどの補機を駆動するために必要となる電力である。こうして算出された電力の総和が要求駆動力POとなる(ステップs4)。
次に、ECU9は、こうして設定された要求駆動力POに基づいてエンジン2の運転ポイントを成すエンジン回転数Ne(Nea>Neb>Nec),エンジントルクTe(Tea>Teb>Tec)を予め設定されているエンジン2の運転マップ(図12)より設定する(ステッd5)。
【0063】
なお、図12はエンジンの回転数Neを横軸に、トルクTeを縦軸に取り、エンジン2の運転状態を示している。図中の曲線Mはエンジン2の運転が可能な限界範囲を示している。曲線α1からα6まではエンジン2の運転効率が一定となる運転ポイントを示している。α1からα6の順に運転効率は低くなっていく。また、曲線ηaからηcはそれぞれエンジン2から出力される動力(回転数×トルク)が一定となるライン(ηa>ηb>ηc)を示している。
エンジン2は図12に示す通り、回転数およびトルクに応じて、運転効率が大きく相違する。ここでは、エンジン回転数の上昇変化に応じて常に運転効率が高くなる各トルクの変化軌跡を、例えば、図12中の曲線Ln(回転数の変動域により相違する)として示した。このような、運転マップはECU9のROMに記憶される。
【0064】
そこで、現在のエンジン2の運転ポイントを運転効率が高くなる運転ポイントとして設定する。即ち、現在のアクセル開度θa相当の運転効率が高くなる運転ポイントとしての目標とするエンジントルクTeを得る上で、目標とするエンジン効率の良い回転数Neoをマップより求める。
ここでは、クランク軸の回転数が目標とするエンジン回転数Neoに収束するように燃料供給量を制御する。この場合、エンジン2への燃料噴射量Qtは運転情報に応じた基準噴射量Qbと、これにエンジン回転数のずれに応じて増減する補正量(+dq,あるいは−dq)を加えて制御することで、実エンジン回転数を目標エンジン回転数Neoに収束させるように制御することとなる(ステップd6)。
【0065】
このような、第3走行モード域Mpにおいて、モータ4はエンジン運転域が急加速時や、所定レベルを上回る高負荷運転時に達していると判断された場合に駆動する。
この過渡運転時が検出されると、ECU9は予め設定された所定の駆動モードに沿って所定のモータ駆動力を発揮して、車両の運転域の変動に対する応答性の改善を図るよう制御することとなる。
このようにして駆動するハイブリッド自動車では、車速Svが低速側にあると第2走行モード域Msで、車速が所定の結合車速Scを上回り高速域側に達するとクラッチ6aを接合して第3走行モード域Mpへ切換え、そのモードの切換え制御時及びその後の高速域側で、固定変速比(固定比)を保持するので変速制御を行う必要がなく、走行制御が容易化される。特に、バッテリ12の残容量Eqが定常回復充電を繰り返す定常判定容量(第1閾値)Eq1以上にある場合は、クラッチ切換えが中速度近傍で行われるので、出力軸J1と駆動軸J2’との回転差が比較的小さくなり、変速ショックの発生を抑制できる。
【0066】
しかも、結合車速Scはバッテリ12の最大容量SOCが大きいほどを大きく設定して電力エネルギーによる第2走行モード域Msでの走行域を拡大させ、無公害化を促進できる。
更に、バッテリの残容量Eqが低くなるとモータの発生トルクが低下するため、エンジン駆動の第3走行モード域Mpへの切換えを早めるよう結合車速Scを低く、たとえば、定常時結合車速Sc1より低い低容量時結合車速Sc2や、低容量時結合車速Sc2より低い非常時結合車速Sc5や、停止車速Sc4=0を設定し、これらバッテリ12の残容量Eqに応じて設けた閾値となる結合車速を下回ると、発電機3の運転域を拡大してバッテリの残容量Eqの回復を早期に図ることができ、しかも、発電不能等の緊急状態を回避するメンテナンスを受ける場所に速やかにエンジン駆動により走行移動することができ、安定した走行を確保できる。
【0067】
更に、第2走行モード域Msより第3走行モード域Mpへの切換えが開始された際に、車速Svが結合車速Scを上回る時点より所定経過時間Tdが経過する間は半クラッチを保持し、経過すると完全結合に切換えるので、回転伝達経路11が固定変速比(固定比)を採用しているとしても、モード切換え時のショックを確実に緩和できる。
図1のハイブリッド自動車では、湿式多板クラッチ6aの接合力を接合力調整手段602により調整することで、モード切換え時にクラッチを滑り接合から完全結合への切換えを容易化できる。
上述のところにおいて、クラッチは湿式多板クラッチ6aとして説明したが、単板のクラッチを用いてもよく、流体クラッチを用いてもよく、いずれの場合も図1の湿式多板クラッチ6aに近い作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0068】
1 車両
2 エンジン
3 発電機
4 モータ
501 インバータ
502 インバータ
6 クラッチ(摩擦契合手段)
6a 湿式多板クラッチ
602 接合力調整手段
8 デファレンシャルギア(減速機)
9 制御手段
11 伝達経路
12 バッテリ
13 燃料タンク
14 ブレーキセンサ
15 アクセル開度センサ
16 SOCセンサ(残容量検出手段)
17 制御ユニット
18 回転数センサ
19 回転数センサ
21 電圧センサ
22 シフト位置センサ
se1、se2 車速センサ(車速検出手段)
ssf 車輪速(前輪)
ssr 車輪速(後輪)
wf 車輪(前輪)
wr 車輪(後輪)
A1 モード選択手段
A2 要求駆動力検出手段
Eq 残容量
Eqn 残容量(現在値)
Eq1 定常判定容量(第1閾値)
Eq2 緊急判定容量(第2閾値)
Eq3 限界容量(第3閾値)
EV 第1走行モード(EVモード)域
J1 エンジン出力軸
J2 駆動軸(駆動輪側)
J2’ 駆動軸(モータ側)
Ms 第2走行モード(シリーズハイブリッドモード)域
Mp 第3走行モード(パラレルハイブリッドモード)域
Nen エンジン高効率運転域時の回転数
R1 第1の駆動境界線
R2 第2の駆動境界線
R3 第3の駆動境界線
Sc 結合車速
Sc1 第1速度
Sc2 第2速度
Sc3 第3速度
Sc4 第4速度
Sc5 第5速度
Sc0 停止速度
Sv 車速
SOC バッテリ容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両1に搭載されるエンジンと、走行用モータと、前記走行用モータに電力を供給するバッテリと、前記バッテリに電力を供給する発電機と、前記車両の速度を検出する車速検出手段と、前記バッテリの残容量を検出する残容量検出手段と、を具備し、前記エンジンを停止して前記走行用モータの駆動により走行する第1走行モードと、前記エンジンの駆動により前記発電機を作動させると共に前記走行用モータの駆動により走行する第2走行モードと、前記エンジンの駆動及び前記走行用モータの駆動により走行する第3走行モードとを有するハイブリッド自動車において、前記残容量が所定の第1閾値以上の状況下では前記車速検出手段により検出された速度が所定の第1速度未満の場合に前記第1走行モード又は前記第2走行モードで走行し、前記所定の第1速度以上の場合に前記第3走行モードで走行するように走行モードを選択するモード選択手段を備え、前記モード選択手段は、前記残容量が前記所定の第1閾値未満の状況下では前記車速検出手段により検出された速度が前記所定の第1速度より小さい所定の第2速度以上の場合に前記第3走行モードを選択し、前記所定の第2速度未満の場合であって前記所定の第2速度より更に小さい所定の第3速度以上の場合に前記第2走行モードを選択し、前記所定の第3速度未満の場合に前記第1走行モード又は第2走行モードを選択する、ことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項2】
前記車両の走行に要求される要求駆動力を検出する要求駆動力検出手段を更に備え、
前記モード選択手段は、前記残容量が所定の第1閾値以上の状況下で、前記車速検出手段により検出された速度が所定の第1速度より小さい所定の第4速度未満の場合において、前記検出された要求駆動力が所定の第1の駆動力境界以下の領域で前記第1走行モードを選択し、前記車速検出手段により検出された速度が所定の第4速度以上であって前記所定の第1速度未満の場合において、前記検出された要求駆動力が前記所定の第1の駆動力境界から前記車速が増加するにつれて減少する第2の駆動力境界以下の領域で前記第1走行モードを選択し、前記第2の駆動力境界より大きい領域で前記第2走行モードを選択する、ことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド自動車。
【請求項3】
前記モード選択手段は、前記残容量が所定の第1閾値未満の状況下で、前記車速検出手段により検出された速度が前記所定の第3速度未満の場合において、前記検出された要求駆動力が前記第1の駆動力境界より小さい第3の駆動力境界以下の領域で前記第1走行モードを選択し、前記第3の駆動力境界より大きい領域で前記第2走行モードを選択することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド自動車。
【請求項4】
前記モード選択手段は、前記残容量が所定の第1閾値より小さい所定の第2閾値より更に小さい状況下では前記車速検出手段により検出された速度が前記所定の第3速度より小さい所定の第5速度より大きい場合に前記第3走行モードを選択し、前記所定の第5速度より小さい場合に前記第1走行モードを選択することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のハイブリッド自動車。
【請求項5】
前記モード選択手段は、前記残容量が前記所定の第2閾値より小さい所定の第3閾値より更に小さい状況下では前記車両の発進と同時に前記第3走行モードを選択することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のハイブリッド自動車。
【請求項6】
前記車両は駆動輪が設けられた駆動軸と、前記エンジンの動力を前記駆動軸に伝達する伝達経路と、前記伝達経路を断接する摩擦契合手段とを備え、前記第1走行モード又は第2走行モードと第3走行モードとの切替えは、前記摩擦契合手段が前記伝達経路を断接することにより行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のハイブリッド自動車。
【請求項7】
前記第3走行モードにおける前記エンジンの駆動力は固定比の減速機により前記駆動輪に伝達されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載のハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−225034(P2011−225034A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94391(P2010−94391)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】