説明

ハイブリッド車両の駆動装置

【課題】ハイブリッド車両の駆動装置において、第1モータジェネレータの振動及び騒音を抑制する。
【解決手段】第1モータジェネレータ(第1MG)12のロータコア20がステータコア21に対し、中空軸19のスラストと逆方向にずれている。第1MG12が発電機として機能するとき、ロータコア20に電磁吸引力が発生する。電磁吸引力は、ロータコア20がステータコア21に対してずれた方向と逆方向、すなわちスラストと同じ方向に発生する。スラストと電磁吸引力により中空軸19が軸受23に押さえ付けられる。よって、中空軸19は軸線方向において安定し、第1MG12の振動及び騒音を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の駆動装置、特にモータジェネレータの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両は、エンジンと電動機という異なる動力源の原動機を有する駆動装置を搭載し、これら原動機の出力により走行する車両である。
【0003】
ハイブリッド車両の駆動装置としては、従来から種々提案されている。下記特許文献1には、エンジンと、第1及び第2モータジェネレータと、これら原動機が接続されている動力分配統合装置を備えたものが駆動装置の一例として記載されている。第1モータジェネレータは、主に発電機として機能し、エンジンのスタータモータとしても機能する。第2モータジェネレータは、主に電動機として機能し、車両の減速時には、発電機としても機能する。動力分配統合装置は、遊星歯車機構からなり、エンジンと第1及び第2モータジェネレータとの間で動力の分配及び統合を行う。
【0004】
エンジンと第1及び第2モータジェネレータは、遊星歯車機構の3要素、すなわちプラネタリキャリア、サンギアそしてリングギアに接続され、また、第2モータジェネレータは、減速機構を介して駆動輪に接続されている。3つの原動機を制御することにより、駆動装置は、第2モータジェネレータ単独で走行するモード、エンジンと第2モータジェネレータを協調して走行するモード、またエンジンの動力の一部で第1モータジェネレータによる発電を行うモードなど、各種のモードによる走行を行う。
【0005】
下記特許文献2には、ハイブリッド車両の駆動装置に用いる遊星歯車に、はす歯歯車(ヘリカルギア)を採用することが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−212494号公報
【特許文献2】国際公開第00/32433号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
動力分配統合装置の遊星歯車は、はす歯歯車を使用しているため、動力分配統合装置に接続する第1モータジェネレータの軸にスラストが発生する。このため、駆動装置は、スラストが働く方向に対しこの軸を支持することができる軸受を有している。
【0008】
しかしながら、スラストは、エンジンの回転変動により変動する。これに伴い、軸及び軸に固定されているロータコアが軸線方向に変動し、第1モータジェネレータから振動及び騒音が発生してしまう。
【0009】
本発明の目的は、簡易な構造によりモータジェネレータ、特に発電機として主に機能する第1モータジェネレータの振動及び騒音を抑制するハイブリッド車両の駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のハイブリッド車両の駆動装置は、エンジンと、 第1および第2モータジェネレータと、これらの原動機が接続され、原動機間で動力の分配、統合を行う動力分配統合装置とを有するハイブリッド車両の駆動装置であって、前記第1モータジェネレータは、前記動力分配統合装置に接続する軸に固定されているロータコアと、前記ロータコアと所定の間隔をもって相対し、励磁コイルが巻かれたステータコアとを有し、前記ロータコアと前記ステータコアとが前記軸の軸線方向にずれており、前記軸に発生するスラスト力と同じ方向に電磁吸引力を発生させることを特徴とする。
【0011】
また、前記ハイブリッド車両の駆動装置は、前記第1モータジェネレータは、前記ロータコアを前記ステータコアに対し前記軸線方向にずらすために、前記軸の軸線方向の位置を調整する調整部材を有することが好適である。
【0012】
さらに、前記ハイブリッド車両の駆動装置は、前記軸線方向における前記ロータコアの長さは、前記ステータコアの長さと異なる長さであり、前記軸線方向における前記ロータコアの中点と前記ステータコアの中点とが前記軸線方向にずれていることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハイブリッド車両の駆動装置によれば、簡易な構造によりモータジェネレータ、特に発電機として主に機能する第1モータジェネレータの騒音及び振動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るハイブリッド車両の駆動装置の実施形態について図1を用いて説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るハイブリッド車両の駆動装置10の概略構成を示す図である。図1に示す駆動装置10は、FR車両、すなわち車両の前部にエンジンを搭載し、エンジンの動力が後部の駆動輪に伝達される車両等に適用するよう構成された装置の一例である。駆動装置10は、異なる動力源の原動機であるエンジン11と発電機能を有する第1及び第2モータジェネレータ12,13と、遊星歯車機構からなる動力分配統合装置14を有する。
【0016】
エンジン11と第1モータジェネレータ(以下、第1MGと記す)12は、動力分配統合装置14が有する遊星歯車機構の3要素のうち2要素に接続されている。すなわち、エンジン11がエンジン出力軸30、ダンパ装置31そしてインプットシャフト32を介して遊星歯車機構のプラネタリキャリア16に接続され、第1MG12が中空軸19を介して遊星歯車機構のサンギア17に接続されている。遊星歯車機構の残り1要素には、駆動輪37が接続されている。すなわち、遊星歯車機構のリングギア18には、アウトプットシャフト33、差動機構35そしてドライブシャフト36を介して駆動輪37が接続されている。アウトプットシャフト33には、第2モータジェネレータ(以下、第2MGと記す)13が減速機構15を介して接続されている。これにより、各原動機の動力がアウトプットシャフト33で統合され、駆動輪37へ伝達される。
【0017】
駆動装置10は、各種のモードにより走行を行う。すなわち、駆動装置10は、エンジン11または第2MG13のどちらか一方で走行するモード、エンジン11と第2MG13を協調して走行するモード、またエンジン11の動力の一部で第1MG12による発電を行うモードなど、各種のモードによる走行を行う。また、駆動装置10は、減速時において、駆動輪37から入力される車両の運動エネルギーを用いて第2MG13による発電を行う。
【0018】
駆動装置10は、各種のモードに対応してエンジン11、第1MG12、第2MG13および動力分配統合装置14等の動作を制御する電子制御装置(図示せず)を有している。この電子制御装置は、各種センサ(図示せず)からの信号に基づき、運転者の要求出力とバッテリ(図示せず)の充電要求値を算出する。これら算出結果により、電子制御装置は、各種のモードを選択し、エンジン11、第1MG12、第2MG13および動力分配統合装置14等の動作を制御する。
【0019】
第1MG12について図1および図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係るハイブリッド車両の駆動装置10の一部を示す断面図である。
【0020】
第1MG12は、中空軸19に固定されたロータコア20と、ロータコア20を囲うように駆動装置10のケース24に固定され、励磁コイル22が巻かれたステータコア21とを有している。ロータコア20は、ステータコア21に僅かなすき間をもって相対しており、中空軸19の軸線を中心に回転する。第1MG12は、例えば永久磁石を用いた同期モータである。このため、ロータコア20には、永久磁石25が設けられている。
【0021】
中空軸19は、ケース24が有する軸受23により回転可能に支持されている。中空軸19の軸線方向に延びる孔にインプットシャフト32が貫通している。インプットシャフト32と中空軸19は、相対的に回転可能となっている。インプットシャフト32の先端には、プラネタリキャリア16が接続されている。このプラネタリキャリア16は、中空軸19の先端に接続されているサンギア17に噛合うよう配置されている。つまり、インプットシャフト32は、プラネタリキャリア16、サンギア17そして中空軸19を介してロータコア20に接続されている。これにより、エンジン11の動力は、インプットシャフト32、動力分配統合装置14そして中空軸19を介してロータコア20に伝達される。
【0022】
第1MG12は、発電機として機能する。エンジン11の動力が、インプットシャフト32と動力分配統合装置14を介して中空軸19に伝達されると、中空軸19と同期してロータコア20が回転する。ロータコア20が有する永久磁石25により磁界が発生し、励磁コイル22に交流電流が発生する。発電した電力は、インバータ装置(図示せず)により直流電流に変換され、バッテリ(図示せず)に蓄えられる。この電力は、主に第1MG12および第2MG13の駆動電力として使用される。
【0023】
動力分配統合装置14の遊星歯車機構の各歯車は、はす歯歯車(ヘリカルギア)を採用している。このため、動力分配統合装置14内の動力伝達時において、軸線方向に力、すなわちスラストが発生する。第1MG12が発電機として機能するとき、サンギア17に接続されている中空軸19にスラストが発生する。中空軸19がこのスラストにより軸線方向に移動しないよう、例えば軸受23には、発生するスラストを許容する深溝玉軸受が採用されている。この深溝玉軸受は、軸線方向の両方向のスラストを受けることができる。第1MG12が発電機として機能しているとき、本実施形態の遊星歯車機構の各歯車の歯面形状より、中空軸19のスラストは、第1MG12から動力分配統合装置14に向かって発生する。このスラストにより軸受23に押さえ付けられる中空軸19は、軸線方向において安定する。
【0024】
第1MG12は、主にエンジン11に駆動される発電機として機能する。このとき、エンジン11の回転変動を受けて、中空軸19の回転が変動する。この回転変動は、動力分配統合装置14のはす歯歯車による動力伝達時において、スラストの変動を発生させる。このスラストの変動により、中空軸19が振動する。通常のモータジェネレータでは、この振動が、ロータコア20に伝達し、振動及び騒音が発生する原因となる。特に、中空軸19に伝達される動力が小さいとき、スラストの大きさがスラストの変動分に対して小さくなる場合がある。このとき、中空軸19は、スラストによって軸受23に押さえ付けられる力がなくなり、振動しやすくなる。
【0025】
本実施形態の第1MG12は、振動及び騒音を抑制する構造を採用している。以下、第1MG12の特徴的な構造について説明する。通常のモータジェネレータは、軸線方向においてロータコアの長さとステータコアの長さが等しく、ロータコアとステータコアが両端を揃え相対している構造である。この構造により、回転する上記モータジェネレータは、軸線方向において、電磁的なバランスをとっている。すなわち、電磁的なずれを発生させない。しかし、本実施形態において、ロータコア20は、軸線方向において中空軸19のスラストと逆方向に、ステータコア21に対しずれている。第1MG12が発電機として機能しているとき、中空軸19のスラストは、上述したように第1MG12から動力分配統合装置14に向かって発生する。よって、本実施形態の第1MG12は、ロータコア20がステータコア21に対しエンジン側にずれている構造を採用している。
【0026】
ロータコア20をずらす簡易な方法として、駆動装置10の組み付け時における軸線方向の調整手段がある。すなわち、中空軸19を軸受23に支持させ軸線方向に固定する際、ケース24と軸受23のすき間にシム26を挿入する。これにより、軸受23がエンジン11側に向かい軸線方向に移動して取付けられる。つまり、軸受23に支持されている中空軸19とこの中空軸19に固定されているロータコア20とがエンジン11側に向かい軸線方向に移動して取付けられる。
【0027】
この構造を採用することにより、第1MG12が発電機として機能するとき、軸線方向の電磁的なずれが発生する。このため、ロータコア20には、電磁的なずれをなくす方向に電磁吸引力が発生する。つまり、電磁吸引力は、中空軸19のスラストと同じ方向に発生する。これにより、スラストが変動しても、電磁吸引力により中空軸19が軸受23に押さえ付けられ、軸線方向において安定する。よって、第1MG12の振動及び騒音を抑制することができる。なお、電磁吸引力の大きさは、ロータコア20の位置、すなわちロータコア20がステータコア21に対しずれる距離による。よって、予めこのずれる距離に対応する電磁吸引力を測定し、第1MG12の振動および騒音の発生を抑制することができる距離をシム26で調整することが可能である。
【0028】
本実施形態では、駆動装置10の組み付け時に、シム26にてロータコア20をステータコア21に対しずらす場合について説明したが、この構成に限定されるものではない。第1MG12は、発電機として機能するとき、軸線方向において電磁的なずれを発生させ、スラストと同じ方向に電磁吸引力を発生させる構造であればよい。このためには、軸線方向に垂直なロータコア20の対称軸がステータコア21の対称軸に対しスラストと逆方向にずれていればよい。これにより、第1MG12が発電機として機能するとき、軸線方向において電磁的なバランスが崩れ、スラストと同じ方向に電磁吸引力が発生する。本実施形態では、ロータコア20の対称軸は、軸線方向におけるロータコア20の長さの中点を通り、ステータコア21の対称軸は、軸線方向におけるステータコア21の長さの中点を通る。つまり、ロータコア20の長さの中点がステータコア21の長さの中点に対しスラストと逆方向にずれていればよい。これにより、軸線方向におけるロータコア20の長さとステータコア21の長さが異なる構成であっても、スラストと同じ方向に電磁吸引力を発生させることができる。
【0029】
例えば、軸線方向におけるロータコア20の長さをステータコア21の長さより短くし、ロータコア20とステータコア21のエンジン側の端部を揃える構成とする。これにより、軸線方向におけるロータコア20の長さの中点がステータコア21の長さの中点に対しスラストと逆方向にずれ、スラストと同じ方向に電磁吸引力を発生させることができる。また、軸線方向におけるロータコア20の長さをステータコア21の長さより長くし、ロータコア20とステータコア21の動力分配統合装置14側の端部を揃える構成とする。これにより、軸線方向におけるロータコア20の長さの中点がステータコア21の長さの中点に対しスラストと逆方向にずれ、スラストを同じ方向に電磁吸引力を発生させることができる。なお、ロータコア20の長さの中点がステータコア21の長さの中点に対しスラストと逆方向にずらす構成は、ロータコア20とステータコア21との端部を揃える構成に限られない。すなわち、本実施形態と同様に、軸線方向においてロータコア20がステータコア21に対しスラストと逆方向にずれていてもよい。これら第1MG12の構成は、シム26による調整にかかわらず、例えば、第1MG12を収容するケース24の軸線方向の大きさ、軸受23の位置、中空軸19の形状を変更することにより、容易に電磁吸引力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態に係るハイブリッド車両の駆動装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態に係るハイブリッド車両の駆動装置の一部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 駆動装置、11 エンジン、12 第1MG、13 第2MG、14 動力分配統合装置、16 プラネタリキャリア、17 サンギア、18 リングギア、19 中空軸、20 ロータコア、21 ステータコア、32 インプットシャフト、33 アウトプットシャフト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
第1および第2モータジェネレータと、
これらの原動機が接続され、原動機間で動力の分配、統合を行う動力分配統合装置と、
を有するハイブリッド車両の駆動装置において、
前記第1モータジェネレータは、
前記動力分配統合装置に接続する軸に固定されているロータコアと、
前記ロータコアと所定の間隔をもって相対し、励磁コイルが巻かれたステータコアと、
を有し、
前記ロータコアと前記ステータコアとが前記軸の軸線方向にずれており、前記軸に発生するスラスト力と同じ方向に電磁吸引力を発生させる、
ことを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド車両の駆動装置において、
前記第1モータジェネレータは、前記ロータコアを前記ステータコアに対し前記軸線方向にずらすために、前記軸の軸線方向の位置を調整する調整部材を有する、
ことを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項3】
請求項1記載のハイブリッド車両の駆動装置において、
前記軸線方向における前記ロータコアの長さは、前記ステータコアの長さと異なる長さであり、
前記軸線方向における前記ロータコアの中点と前記ステータコアの中点とが前記軸線方向にずれている、
ことを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−320382(P2007−320382A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150861(P2006−150861)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】