説明

バイアス層を有する磁気抵抗素子

【課題】磁気ランダムアクセスメモリのセルとして用いられる磁気抵抗素子の自由磁気構造の動作窓を最大化する。書き込み誤りを防止する。
【解決手段】磁気抵抗素子106は、ピン磁気構造102と、自由磁気構造106と、ピン磁気構造と自由磁気構造との間に結合されているスペーサ層104とを含み、自由磁気構造は、2つ以上の反強磁性結合されている強磁性層を含む合成反強磁性構造(SAF)108と、2つ以上の反強磁性結合されている強磁性層のデカップリングを妨げる、SAFに結合されている第1のバイアス層110とを含む。第1のバイアス層は反強磁性層であり、SAFに弱結合される。自由磁気構造は、2つ以上の反強磁性結合されている強磁性層のデカップリングをさらに妨げるための、SAFに結合されている第2のバイアス層と、第1のバイアス層とSAFとの間の結合強度を制御する、第1のバイアス層とSAFとの間に結合されている非磁性層を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子に関し、より詳細には、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)に使用される磁気抵抗素子に関する。
なお、米国政府は、米国海軍戦略システム計画/トライデント(United States Navy Strategic Systems Program/Trident)により認められた契約番号N00030−06−C−003/SC001−0000000064/D50497に基づき、本発明における一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
MRAMは、コンピュータ市場において人気を得ている不揮発性メモリ技術である。データを電荷または電流として格納する他のメモリ技術(例えば、SRAM、DRAM、FLASH等)とは異なり、MRAMは、データを磁気抵抗記憶素子(すなわち、MRAMセル)における磁性状態として格納する。通常、MRAMセルは2つの磁気構造を含み、そのそれぞれは、2つのあり得る極性のうちの1つを有する磁界を保持することができる。MRAMセルの一例は、磁気トンネル接合(MJT)であり、それは、非磁性絶縁障壁層によって分離される、データ格納のための自由磁気構造と、基準のためのピン(pinned)磁気構造とを含む。
【0003】
好ましくは、MRAMセルにおける磁気構造の極性として可能な極性は、MRAMセルの容易軸に対して平行か又は反平行に走る。そして、MRAMセルの論理状態は、磁気構造の極性によって決めることができる。たとえば、磁気構造が同じ極性を有する場合、MRAMセルは「0」を格納している。一方、磁気構造が反対の極性を有する場合、MRAMセルは「1」を格納している。デバイスは、MRAMセルに検知電流を通した後、磁気構造の極性に関連するセルの電気抵抗を測定することによって、MRAMセルの論理状態を確定することができる。これに関して、高い方の抵抗Rmaxは、通常、磁気構造が反対の極性を有することを示し、低い方の抵抗Rminは、通常、磁気構造が同じ極性を有することを示す。
【0004】
デバイスは、自由磁気構造の極性を変化させることができ、そのため、MRAMセルの自由磁気構造に結合する磁界を印加することによって、MRAMセルにデータを書き込むことができる。この書込みプロセスは、(i)印加磁界の大きさ及び方向、及び(ii)自由磁気構造を切り換えるために必要な磁界(すなわち、自由磁気構造の「スイッチング磁界」)の大きさとに依拠する可能性がある。たとえば、デバイスは、印加磁界の大きさが自由磁気構造のスイッチング磁界を越えない場合、自由磁気構造の極性を変化させることができない。別の例として、デバイスは、印加磁界の方向が自由磁気構造の極性に一致する場合、自由磁気構造の極性を変化させることができない。したがって、デバイスは、印加磁界の方向が自由磁気構造の極性に対して反対であり、且つ印加磁界の大きさが自由磁気構造のスイッチング磁界を超過する場合にのみ、自由磁気構造の極性を変化させることができ、それによってMRAMセルにデータを書き込むことができる。
【0005】
上述した磁界を、MRAMセルに隣接して配置される電流線を流れる双方向電流又は単方向電流によって生成することができる。たとえば、MRAMは、一方向に配置されるワード線と、第1の方向に対して垂直な第2の方向に配置されるビット線とを含む。この構成を使用して、MRAMは、1つのワード線及び1つのビット線を活性化し、それによってワード線及びビット線の交差部分に位置するMRAMセルにおいて合成磁界を生成することによって、単一のMRAMセルに選択的にデータを書き込むことができる。
【0006】
近年、上述したMRAMセル及びMRAMセルに関連する書込みプロセスに対する改良もまた現れてきた。新たなMRAMセルは、自由磁気構造として合成反強磁性体(SAF)を使用することができ、それは、反(アンチ)強磁性的に結合される複数の強磁性自由層を含む。たとえば、米国特許第6,531,723号を参照されたい。この構成によれば、印加磁界がない状態で、各強磁性自由層は、隣接する強磁性自由層の磁気モーメントベクトルから反平行である磁気モーメントベクトルを有することができる。そして、SAF自由磁気構造を有するMRAMセルに対して、米国特許第6,545,906号に記載されているような「トグル書込み」方法を用いて書き込みを行うことができる。有利には、新たなMRAMセル及び書込み方法は、MRAMセルがワード線電流又はビット線電流のいずれかで切り換わる可能性を低減することにより、MRAMの選択性を向上させることができる。
【0007】
トグル書込み方法は、「スイッチング」現象に依存し、ワード線及び/又はビット線からの印加磁界のタイミングがとられたスイッチングパルスシーケンスを使用して、SAF自由磁気構造の極性を変化させる。たとえば、時点tにおいて、トグル書込み方法は、ワード線磁気電流またはビット線電流を印加せず、そのため、自由磁気構造にゼロ合成磁界がもたらされる。時点tにおいて、トグル書込み方法は、ワード線電流を活性化することができ、それによって、強磁性自由層の磁気モーメントベクトルが、ワード線電流によって生成された磁界の方向に回転し始めることができる。この時点で、強磁性自由層の反強磁性結合は分離し始めることができる。
【0008】
時点tにおいて、その後、トグル書込み方法は、ビット線電流を活性化することができ、それによって、ワード線及びビット線に対して45度で合成磁界を生成することができる。そして、その合成磁界により、強磁性自由層の磁気モーメントベクトルが、時点tにおける回転と同じ方向に回転を続けることができ、その結果、磁気モーメントベクトルは合成磁界に対して名目上直交する。
【0009】
時点tにおいて、トグル書込み方法は、ワード線電流を不活性化することができ、それによって、結果的に強磁性自由層の磁気モーメントベクトルはビット線磁界によってのみ回転することができる。この時点で、トグル書込み方法によって、磁気モーメントベクトルはすでにそれらのハード軸不安定点を過ぎて回転している可能性がある。最後に、時点tにおいて、トグル書込み方法は、ビット線電流を不活性化することができ、それによって、ゼロ合成磁界がもたらされる。この時点で、強磁性自由層の磁気モーメントベクトルは、初期状態と比較して180度回転した状態において好ましい異方性軸(容易軸)に沿って整合することができる。したがって、トグル書込み方法は、自由磁気構造の極性を変化させており、このため、MRAMセルにデータを書き込んでいる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
SAF自由磁気構造を有するMRAMセルを適切に切り換えるために、電流線によって生成される磁界は、強磁性自由層間の反強磁性結合が分離を開始し、且つ強磁性自由層の磁化が切り換えを開始する磁界である、スイッチング磁界より大きくなければならない。これに関して、磁界がスイッチング磁界に達しない場合、SAF自由磁気構造は極性を変化させない可能性がある。さらに、電流線によって生成される磁界は、強磁性自由層間の反強磁性結合が完全に無効になると共に強磁性層の磁化が平行になる磁界である、飽和磁界より小さくなければならない。これに関して、磁界が飽和磁界を超え、且つ強磁性層の磁化が平行になる場合、SAF自由磁気構造が不安定になり、書き込み誤りが発生する可能性がある。したがって、スイッチング磁界及び飽和磁界は、磁気抵抗素子におけるSAF自由磁気構造に対する動作窓を画定し、この動作窓を最大化することが有利である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
MRAMセルとして使用され得る改良された磁気抵抗素子について説明する。
本発明の一例は、改良された磁気抵抗素子の形態をとることができる。磁気抵抗素子は、(A)ピン磁気構造と、(B)自由磁気構造と、(C)ピン磁気構造と自由磁気構造との間に結合されているスペーサ層とを含むことができ、自由磁気構造は、(1)2つ以上の反強磁性結合されている強磁性層を含む合成反強磁性構造(SAF)と、(2)SAFの2つ以上の反強磁性結合されている強磁性層の分離(デカップリング)を妨げる、SAFに結合されている第1のバイアス層とを含む。
【0012】
第1のバイアス層は、鉄・マンガン層、ニッケル・マンガン層又はプラチナ・マンガン層等の反強磁性層とすることができる。さらに、第1のバイアス層を、SAFに弱く結合することができる。たとえば、第1のバイアス層とSAFとの間の結合強度は、SAFの反強磁性結合強度を下回ることができる。
自由磁気構造はまた、2つ以上の反強磁性結合されている強磁性層の分離をさらに妨げる、SAFに結合されている第2のバイアス層を含むことができる。さらに、自由磁気構造は、第1のバイアス層とSAFとの間の結合強度を制御する、第1のバイアス層とSAFとの間に結合されている非磁性層を含むことができる。
【0013】
自由磁気構造のSAFは、(a)第1の磁気モーメントベクトルを有する第1の自由強磁性層と、(b)第2の磁気モーメントベクトルを有する第2の自由強磁性層と、(c)第1の自由強磁性層と第2の自由強磁性層との間に結合されている交換層とを含むことができ、第1の自由強磁性層及び第2の自由強磁性層は、交換層を通じて反強磁性結合される。この例では、第1のバイアス層を第1の自由強磁性層に結合することができ、さらに第1のバイアス層は、第1の磁気モーメントベクトルの回転を妨げることができる。さらに、自由磁気構造は、第2の磁気モーメントベクトルの回転を妨げる第2の自由強磁性層に結合されている第2のバイアス層を含むことができる。またさらに、自由磁気構造は、第1のバイアス層と第1の自由強磁性層との間の結合強度を制御する、第1のバイアス層と第1の自由強磁性層との間に結合される非磁性層を含むことができる。
【0014】
磁気抵抗素子のスペーサ層は、ピン磁気構造と自由磁気構造との間に磁気抵抗トンネル結合を形成する絶縁障壁とすることができる。さらに、磁気抵抗素子のピン磁気構造は、(1)磁気モーメントベクトルを有する強磁性構造と、(2)磁気モーメントベクトルをピン留めする(pin)反強磁性構造とを含むことができる。これに関して、強磁性構造はSAFとすることができる。
本発明の別の例は、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の形態をとることができる。MRAMは、(A)第1の方向に配置されるワード線と、(B)第1の方向に対して垂直な第2の方向に配置されるビット線と、(C)ワード線及びビット線の交差部分に配置されるMRAMセルとを含むことができ、MRAMセルは、上述した磁気抵抗素子である。この例では、ワード線を、MRAMセルに隣接して且つMRAMセルの上方に配置することができ、ビット線を、MRAMセルに隣接して且つMRAMセルの下方に配置することができる。さらに、MRAMセルは、ワード線とMRAMセルとの間の第1の絶縁空間と、ビット線とMRAMセルとの間の第2の絶縁スペーサとを含むことができる。
【0015】
これらの態様及び利点並びに他の態様及び利点は、当業者には、添付図面を参照して以下の詳細な説明を読むことにより明らかとなろう。さらに、この要約は単に一例であり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図面を参照すると、図1は、本発明の一例による磁気抵抗素子100の断面図である。図示するように、磁気抵抗素子100は、ピン磁気構造102、スペーサ層104及び自由磁気構造106を含む。図示するように、ピン磁気構造102と自由磁気構造106との間にスペーサ層104を結合することができ、その際、ピン磁気構造102はスペーサ層104の第1の側に結合され、自由磁気構造106はスペーサ層104の第2の側に結合される。
【0017】
ピン磁気構造102は、磁気モーメントベクトルを有する強磁性構造と、磁気モーメントベクトルを既知の極性に固定する反強磁性構造とを含むことができる。一例として、ピン磁気構造102は、厚さが約2nmのニッケル・鉄・コバルト(NiFeCo)の強磁性層と、厚さが約5〜10nmの鉄・マンガン(FeMn)の反強磁性層とを含むことができる。さらに、ピン磁気構造102の強磁性構造及び/又は反強磁性構造は、単層構造とは対照的に多層構造とすることができる。たとえば、ピン磁気構造102の強磁性構造は、自由磁気構造106に関して後述するもの等の多層合成反強磁性構造(SAF)とすることができる。同様に他の例も採用することができる。
【0018】
スペーサ層104は、ピン磁気構造102と自由磁気構造106とを分離する非磁性層とすることができる。たとえば、スペーサ層104は、ピン磁気構造102と自由磁気構造106との間の電荷キャリアのトンネリングを可能にし、それによってピン磁気構造102と自由磁気構造106との間に磁気トンネル接合(MTJ)を形成するために十分に薄い、電気的絶縁層とすることができる。これに関して、スペーサ層は、酸化アルミニウム(AlOx)又は窒化アルミニウム(AlNi)等の誘電体材料の層とすることができる。このようにする代わりに、スペーサ層104は、スピンバルブ構造を形成する導電層であってもよい。これに関して、スペーサ層104は、銅(Cu)の層であってもよい。他の例も採用可能である。
【0019】
図示のように、自由層構造106は、反強磁性結合される2つ以上の強磁性層を含むことができるSAF108を含むことが好ましい。さらに、自由層構造106は、SAF108のいずれの側に位置することができる、SAF108に結合されている少なくとも1つのバイアス層110を含むことが好ましい。少なくとも1つのバイアス層110は、SAF108の少なくとも1つの強磁性層の磁気回転を妨げること等により、SAF108の反強磁性結合のデカップリングを妨げることができる。さらに、少なくとも1つのバイアス層110をSAF108に弱く結合することができ、それによって、バイアス層110はSAF108のスイッチング磁界を大幅に変化させない。たとえば、バイアス層110とSAF108との間の結合強度は、SAF108の反強磁性結合強度を下回ることができる。これに関して、バイアス層110とSAF108との間の結合強度は、SAF108の反強磁性結合強度の1/10とすることができる。この結合強度を、バイアス層110及びSAF108の材料、処理及び/又は寸法によって制御することができる。
【0020】
たとえば、バイアス層110は、FeMn層、ニッケル・マンガン(NiMn)層及び/又はプラチナ・マンガン(PtMn)層等の反強磁性層とすることができる。別の例として、バイアス層110は、酸化鉄(FeO)層等の反強磁性層であってもよい。さらに、少なくとも1つのバイアス層110は、厚さを10Å〜500Åの範囲とすることができる。このように、多くの例の1つとして、少なくとも1つのバイアス層110は、厚さが50ÅのFeMn層とすることができる。
【0021】
自由磁気構造106に少なくとも1つのバイアス層110を追加することにより、SAF108の飽和磁界が増大することができ、このため、自由磁気構造106の動作窓が拡大する。さらに、自由磁気構造106にバイアス層110を追加することにより、トグル書込みプロセス中の温度係数の影響を補償することによって自由磁気構造106の温度範囲を増大させることができる。いずれの場合も、バイアス層110を有する自由磁気構造106は、極度(最大)の電流及び/又は温度において書込みプロセス安定性を向上させることができる。他の利点も生じる。
【0022】
図2は、図1の磁気抵抗素子100の自由層構造106の第1の例示的な実施形態の断面図である。図示のように、第1の例示的な自由層構造106は、第1の自由強磁性層204、交換層206及び第2の自由強磁性層208からなる3層SAF202を含む。図示のように、交換層206を、第1の自由強磁性層と第2の自由強磁性層との間に結合し、その際、第1の自由強磁性層204は交換層206の第1の側に結合され、第2の自由強磁性層208は交換層208の第2の側に結合される。
【0023】
第1の自由強磁性層204及び第2の自由強磁性層208は、コバルト(Co)合金、鉄(Fe)合金、ニッケル(Ni)合金及び/又はそれらの組合せを含むさまざまな強磁性材料から形成することができる。さらに、第1の自由強磁性層204及び第2の自由強磁性層208は、SAF202の設計に応じてさまざまな寸法を有することができる。一例として、第1の自由強磁性層及び第2の自由強磁性層は、厚さが約1nmのニッケル・鉄・コバルト(NiFeCo)層とすることができる。第1の自由強磁性層204は第1の磁気モーメントベクトルを有することができ、第2の自由強磁性層208は第2の磁気モーメントベクトルを有することができ、そのそれぞれは磁界の印加の下で自由に回転することができる。そして、SAF202は、第1の磁気モーメントベクトルと第2の磁気モーメントベクトルとの間の差に基づく結果としての磁気モーメントベクトルを有することができる。
【0024】
交換層206は、第1の自由強磁性層204と第2の自由強磁性層208とを反強磁性結合することにより、印加磁界がない状態でSAF202の自由強磁性層間に反平行配向をもたらす、あらゆる非磁性層である。したがって、交換層206は、ルテニウム、オスミウム、レニウム、クロム、ロジウム、銅及び/又はそれらの組合せを含むさまざまな材料から構成されることができる。さらに、交換層206は、SAF202の設計に応じてさまざまな寸法を有することができる。一例として、交換層は、厚さが1nmのルテニウム(Ru)の層とすることができる。
【0025】
そして、第1の例示的な自由層構造106は、実質的にバイアス層110と同様のバイアス層210を含む。図示のように、バイアス層210は、SAF202の第1の自由強磁性層204に結合される。しかしながら、代替的に、バイアス層210を、SAF202の第2の自由強磁性層208に結合してもよい。バイアス層210は、第1の自由強磁性層204の第1の磁気モーメントベクトルの回転を妨げることができる。そして、バイアス層210は、SAF202の自由強磁性層間の反強磁性結合のデカップリングを妨げることができ、それによって、第1の例示的な自由磁気構造106の飽和磁界が拡大する。
【0026】
さらに、バイアス層210は、第1の自由強磁性層204のスイッチング磁界、したがってSAF202のスイッチング磁界を大幅に変化させないように、第1の自由強磁性層204に弱く結合されることが好ましい。好ましい例では、バイアス層210と第1の自由強磁性層204との間の結合強度は、SAF202の第1の自由強磁性層204と第2の自由強磁性層208との間の反強磁性結合強度を下回る。この結合強度を、バイアス層210及びSAF202の材料、処理及び/又は寸法によって制御することができる。
【0027】
図3は、図1の自由層構造106の第2の例示的な実施形態の断面図である。図示のように、第2の例示的な自由層構造106は、図2の3層SAF202と実質的に同様の3層SAF302を含む。したがって、SAF302は、第1の自由強磁性層304と第2の自由強磁性層308との間に結合される交換層306からなり、第1の自由強磁性層及び第2の自由強磁性層は、交換層306を通じて反強磁性結合される。この構成では、第1の自由強磁性層304は第1の磁気モーメントベクトルを有することができ、第2の自由強磁性層308は第2の磁気モーメントベクトルを有することができ、SAF302は、第1の磁気モーメントベクトルと第2の磁気モーメントベクトルとの間の差に基づく結果としての磁気モーメントベクトルを有することができる。
【0028】
そして、第2の例示的な自由層構造106は、第1のバイアス層310及び第2のバイアス層312を含み、それらは共にバイアス層110及びバイアス層210と実質的に同様である。図示のように、第1のバイアス層310は、SAF302の第1の自由強磁性層304に結合され、第2のバイアス層312は、SAF302の第2の自由強磁性層308に結合される。したがって、第1のバイアス層310は、第1の磁気モーメントベクトルの回転を妨げることができ、第2のバイアス層312は、第2の磁気モーメントベクトルの回転を妨げることができる。そして、第1のバイアス層及び第2のバイアス層は、SAF302の反強磁性結合のデカップリングを妨げることができ、それによって第2の例示的な自由磁気構造106の飽和磁界が拡大する。
【0029】
第1のバイアス層310は、第1の自由強磁性層304に弱く結合されることが好ましく、第2のバイアス層312は、第2の自由強磁性層308に弱く結合されることが好ましく、それによって、第1のバイアス層及び第2のバイアス層は、自由強磁性層のスイッチング磁界、したがってSAF302のスイッチング磁界を大幅に変化させない。好ましい例では、第1のバイアス層310と第1の自由強磁性層304との間の結合強度と、第2のバイアス層312と第2の自由強磁性層308との間の結合強度とは、第1の自由強磁性層304と第2の自由強磁性層308との間のSAF302の反強磁性結合強度を下回る。上述したように、これら結合強度を、バイアス層310及びバイアス層312並びにSAF302の材料、処理及び/又は寸法によって制御することができる。
【0030】
図4は、図1の自由層構造106の第3の例示的な実施形態の断面図である。図示のように、第3の例示的な自由層構造106は、図2の3層SAF202及び図3の3層SAF302と実質的に同様の3層SAF402を含む。したがって、SAF402は、第1の自由強磁性層404と第2の自由強磁性層408との間に結合されている交換層406からなり、第1の自由強磁性層及び第2の自由強磁性層は、交換層406を通じて反強磁性結合される。この構成では、第1の自由強磁性層404は第1の磁気モーメントベクトルを有することができ、第2の自由強磁性層408は第2の磁気モーメントベクトルを有することができ、SAF402は、第1の磁気モーメントベクトルと第2の磁気モーメントベクトルとの間の差に基づく結果としての磁気モーメントベクトルを有することができる。
【0031】
そして、第3の例示的な自由層構造106は、バイアス層110、210、310及び312と実質的に同様のバイアス層410を含む。さらに、第3の例示的な自由層構造106は非磁性層412を含み、それを通じてバイアス層410はSAF402に結合される。このため、図示のように、バイアス層410を、非磁性層412を通じてSAF402の第1の自由強磁性層404に結合する。しかしながら、代替的に、バイアス層410を、非磁性層412を通じてSAF402の第2の自由強磁性層408に結合してもよい。上述したように、バイアス層410は、第1の磁気モーメントベクトルの回転を妨げることができる。そして、バイアス層410は、SAF402の反強磁性結合のデカップリングを妨げることができ、そのため、第3の例示的な自由磁気構造106の飽和磁界が拡大される。
【0032】
さらに、上述したように、バイアス層410は、第1の自由強磁性層404のスイッチング磁界、したがってSAF402のスイッチング磁界を大幅に変化させないように、第1の自由強磁性層404に弱く結合されることが好ましい。これに関して、非磁性層412は、バイアス層410と第1の自由強磁性層404との間の結合強度を制御し、これにより結合強度を弱めることができる。
【0033】
非磁性層412は、タンタル、ルテニウム、ニオブ、バナジウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、銅、銀、金、プラチナ、クロム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、マグネシウム、シリコン、イットリウム、セリウム、パラジウム及び/又はレニウムを含む、ほぼ任意の非磁性材料で構成することができる。実際の使用では、結合を安定して弱めるためには、上に列挙した非磁性素子の酸化物、窒化物又は炭化物の使用がより好ましい。さらに、非磁性層の厚さは、0.5nm〜1.5nmの間とすることができる。SAF402、バイアス層410及び非磁性層412は、バイアス層410と第1の自由強磁性層404との間の結合強度がSAF402の反強磁性結合強度を下回るように設計されることが好ましい。
【0034】
図5は、本発明の一例による磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)500の断面図である。図示のように、MRAM500は、少なくとも1つのワード線502、少なくとも1つのビット線504及び少なくとも1つのMRAMセル506を含む。
【0035】
図示するように、ワード線502を、MRAMセル506に隣接して且つその上方に配置し、ビット線504を、MRAMセル506に隣接して且つその下方に配置する。これに関して、ワード線502及びビット線504を、絶縁スペーサ(図示せず)によってMRAMセル506から分離する。さらに、ワード線504を第1の方向に配置し、ビット線506を第2の方向に配置する。第1の方向と第2の方向とは直交している。そして、MRAMセル506が、ワード線502及びビット線504の交差部分に配置される。この構成では、ワード線502及び/又はビット線506を流れる電流は、MRAMセル506に作用する可能性のある印加電界を生成し、上述したトグル書込み方法に従って、データをMRAMセル506に書き込むことができる。
【0036】
MRAMセル506は、図1の磁気抵抗素子100であることが好ましい。したがって、MRAMセル506は、第1の例示的な自由磁気構造、第2の例示的な自由磁気構造及び第3の例示的な自由磁気構造を含む、本明細書で説明した自由磁気構造106のうちのいずれを含むことができる。これに関して、MRAM500は、自由磁気構造106の動作窓が改良されるため、誤り率を低減して動作することができる。
【0037】
例示した実施形態は、単なる例であり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことが理解されるべきである。特許請求の範囲は、特に効果が明示されない限り、説明した順序又は要素に限定されるものとして読まれるべきではない。したがって、特許請求の範囲及びその均等の範囲の技術的思想内にあるすべての実施形態が本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一例による磁気抵抗素子の断面図である。
【図2】図1の磁気抵抗素子の自由層構造の第1の例示的な実施形態の断面図である。
【図3】図1の磁気抵抗素子の自由層構造の第2の例示的な実施形態の断面図である。
【図4】図1の磁気抵抗素子の自由層構造の第3の例示的な実施形態の断面図である。
【図5】本発明の一例による磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗素子であって、
ピン磁気構造と、
自由磁気構造と、
前記ピン磁気構造と前記自由磁気構造との間に結合されているスペーサ層と
を備え、
前記自由磁気構造は、
2つ以上の反強磁気結合されている強磁性層を含む合成反強磁性構造と、
前記合成反強磁性構造に結合されている第1のバイアス層であって、前記2つ以上の反強磁性結合されている強磁性層のデカップリングを妨げる第1のバイアス層と
を備える
ことを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
請求項1記載の磁気抵抗素子において、前記第1のバイアス層は反強磁性層を含むことを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項3】
請求項1記載の磁気抵抗素子において、前記第1のバイアス層と前記合成反強磁性構造との間の結合強度は、前記合成反強磁性構造の反強磁性結合強度を下回ることを特徴とする磁気抵抗素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−38343(P2009−38343A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−144627(P2008−144627)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】