説明

パイプラインの形状計測評価方法及びその装置

【課題】 長距離の計測においても精度の高い線形計測が可能なパイプラインの形状計測評価方法及びその装置を提供する。
【解決手段】 パイプラインの始点及び終点におけるピグ本体の姿勢を予め取得しておき、始点におけるピグ本体の姿勢に対して、ピグ本体の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して始点から終点までの順方向の姿勢データを求めるとともに、終点におけるピグ本体の姿勢に対して、ピグ本体の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して終点から始点までの逆方向の姿勢データを求め、順方向の姿勢データと逆方向の姿勢データとを用いて姿勢誤差を低減した姿勢データを再計算し、再計算後の姿勢データを用いてパイプラインの線形形状を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ガス導管等の埋設パイプラインの管内検査ピグによる検査・評価に関するものであり、特に、パイプラインの敷設形状を高精度で計測する検査ピグによるパイプライン形状計測評価方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長距離パイプラインにおいては、施工後の地理、環境状況等の変化に伴い、初期の施工時の位置から微妙な変化が生じる場合がある。これらは、短期間でのパイプラインの破損劣化に結びつくものではないが、長期的には、パイプラインを構成する各要素に不要な応力等が印加されることになるため、パイプラインの線形形状(パイプラインを構成する配管の中心の軌跡の形状)を計測、把握することは、パイプラインの維持管理において非常に重要である。また、地震などの災害が生じた場合には、パイプラインの線形形状が大きく変化する可能性があり、この点からもパイプライン線形形状計測は重要である。
【0003】
パイプラインでも地表や共同溝等内で露出してるものに関しては測量等を行うことにより比較的簡易に線形形状の計測を行うことが可能であるが、地下、海底に埋設されているパイプラインに関しては、外部から正確な線形形状を計測することは不可能であり、従来より管内検査ピグを利用した線形計測技術の開発が行われている。
【0004】
管内検査ピグによるパイプライン線形形状計測においては、パイプラインを走行する際のピグの絶対位置或いは、相対位置の変化を計測することにより線形計測を行うが、ピグ本体はパイプライン配管(金属管)内部に配置されるため、外部からの信号(地磁気や外部からの電磁気、電磁波信号等)を検出して、計測を行うことは困難であり、自律位置計測システムが必要となる。これに対して、従来からピグ本体内部にジャイロユニットを配置することにより走行時の地球座標に対するジャイロ(ピグ本体)の姿勢を計測し、ピグ本体の走行による移動距離とジャイロの姿勢から地球座標に対する位置を算出する方法が開発されていた(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、パイプラインに対するピグ本体の姿勢が一定でないために生じる誤差を補正する方法が提案されており(特許文献2参照)、線形形状計測の精度が年々向上している。
【特許文献1】特許第2851657号公報
【特許文献2】特開2004−45374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、比較的短距離(たとえば5km以下)もしくは短時間(たとえば1時間以下)の計測においては、誤差の累積程度が少なく、十分な精度(たとえば1/2000以下(2km走行時に1m以下の誤差))で線形算出が可能であっても、より長距離(たとえば数十km)もしくは長時間(たとえば数時間)の場合には、誤差が累積し、これまで以上に小さい誤差要因までが影響を及ぼし、精度が悪化してしまう。
【0007】
本発明は、上記のような点に鑑みなされたもので、長距離の計測においても精度の高い線形計測が可能なパイプラインの形状計測評価方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るパイプラインの形状計測評価方法は、ピグ本体をパイプライン内に走行させてピグ本体の姿勢変化角と走行距離とを逐次検出し、姿勢変化角から求められる姿勢データと走行距離とからピグ本体の走行軌跡を求めることによってパイプラインの線形形状を計測するパイプラインの形状計測評価方法であって、パイプラインの始点及び終点におけるピグ本体の姿勢を予め取得しておき、始点におけるピグ本体の姿勢に対して、ピグ本体の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して始点から終点までの順方向の姿勢データを求めるとともに、終点におけるピグ本体の姿勢に対して、ピグ本体の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して終点から始点までの逆方向の姿勢データを求め、順方向の姿勢データと逆方向の姿勢データとを用いて姿勢誤差を低減した姿勢データを再計算し、再計算後の姿勢データを用いてパイプラインの線形形状を求めるものである。
【0009】
また、本発明に係るパイプラインの形状計測評価方法は、順方向の姿勢データと逆方向の姿勢データとにおいて同一地点毎の姿勢角の平均値を求めることにより姿勢誤差を低減した姿勢データを得るものである。
【0010】
本発明に係るパイプライン形状計測評価装置は、角速度計及び走行距離計を有するセンサユニットを装着したピグ本体をパイプライン内を走行させ、角速度計及び走行距離計によってピグ本体の姿勢変化角と走行距離とを逐次検出し、姿勢変化角から求められる姿勢データと走行距離とからピグ本体の走行軌跡を求めることによってパイプラインの線形形状を計測する計測処理手段を備えたパイプライン形状計測評価装置であって、計測処理手段は、パイプラインの始点及び終点におけるピグ本体の姿勢を予め取得しておき、始点におけるピグ本体の姿勢に対して、ピグ本体の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して始点から終点までの順方向の姿勢データを求めるとともに、終点におけるピグ本体の姿勢に対して、ピグ本体の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して終点から始点までの逆方向の姿勢データを求める順逆方向姿勢データ算出手段と、順方向の姿勢データと逆方向の姿勢データとを用いて姿勢誤差を低減した姿勢データを再計算する姿勢データ再計算手段とを備え、再計算後の姿勢データを用いてパイプラインの線形形状を求めるものである。
【0011】
本発明に係るパイプライン形状計測評価装置は、姿勢データ再計算手段が、順方向の姿勢データと逆方向の姿勢データとにおいて同一地点毎の姿勢角の平均値を求めることにより姿勢誤差を低減した姿勢データを得るものである。
【0012】
また、本発明に係るパイプライン形状計測評価装置は、角速度計が3軸ジャイロであるものである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、順方向の姿勢データと逆方向の姿勢データとを用いて誤差を低減した姿勢データを再計算し、再計算後の姿勢データを用いて形状計測処理を行うので、様々な要因により誤差が累積することによる、長距離計測における精度低下を抑えて高精度な計測結果を得ることが可能となる。再計算の具体的内容としては、順方向演算及び逆方向演算のそれぞれで得た姿勢データにおいて同一地点毎の姿勢角の平均値を求めるものであるので、誤差が平均化され全体としての誤差を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を図1を用いて説明する。図1は、本発明の形態において用いるパイプラインの検査ピグの概要を示す図である。
ピグ本体1の外周部にはシールカップ3が配置されており、ピグ本体1が配管内に装入されると、シールカップ3の外周は配管内面と密着し、シールカップ3前後の配管内の差圧によりピグ本体1に駆動力が発生し、配管内を走行する。シールカップ3はピグ本体1の前後2カ所に設置されているが、これはシールカップ3が1カ所では走行時のシールカップ3の変形等により配管内面との間に空隙が生じ、走行に支障が出る可能性があるので、これを防止するためである。
【0015】
ピグ本体1の外部には、走行距離計測手段17,18が配置されている。走行距離計測手段17,18は本体外面に回転軸を有し、多端に車輪を有するロッドであり、ロッド先端の車輪が常に配管内面と接触する機構を有している。先端部の車輪は配管内の走行に伴って回転するので、車輪の回転数を計測すれば、車輪の外周長からピグ本体1の走行距離を算出できる。
【0016】
この実施の形態においては、走行距離計測手段17,18は対向する位置に2個設置しているが、これは、パイプラインのベンド部の通過時には車輪の配管円周方向の接触位置により(配管ベンドの外側か内側により)計測される距離が異なるので、異なる走行距離を平均化し、ピグ本体の走行距離を算出するためである。より精度を向上させるためには走行距離計測手段の数を増やすことも可能である。走行距離計測手段の計測値はケーブル22を介して本体2に設置される信号処理・記録装置19に伝送され、記録される。
【0017】
ピグ本体1内のバッテリ20は、走行距離計測手段17,18への電源を供給するとともに、ケーブル22を介して、ピグ本体2に設置される機器への電源を供給する。
【0018】
ピグ本体2は連結部21を介して本体1と接続されており、本体1が駆動されると連動して配管内を走行する。ここで、本体1と2は分離されているが、これはパイプラインのベンド部の通過性を確保する(本体筐体の配管内面への接触を避ける)ためであり、配管の内径とベンドの曲率から決まる条件が許せば、ピグ本体を1つとすることも可能である。
【0019】
ピグ本体2内には、3軸ジャイロ(角速度計)と3次元加速度計とがそれらの計測軸が一致するようにして一体化されたセンサユニット4が、その計測軸とピグ本体の中心軸とが平行となるように設置され、走行時にセンサユニット4とピグ本体2との相対位置がずれないように固定されている。ピグ本体2の外周には、前後方向(走行方向)2カ所にそれぞれ、円周方向に等分された方向に6方向距離計測手段5〜10、11〜16が設置されている。
【0020】
距離計測手段5〜10、11〜16は、配管の中心軸方向と、センサユニット4が積載されたピグ本体2の中心軸方向とのズレを算出するために必要な距離計測手段であり、ピグ筐体から配管内面までの距離を測定するためのものである。ここで、距離計測手段5〜10、11〜16は、配管内面に接触する接触用車輪が先端に設けられたロットを有している。該ロットは、ピグ本体側に設けられた図示紙面に垂直な方向に延びる回転軸を中心に回転するもので、配管内面の凹凸形状に応じてロットが回転軸を中心に回転し、その回転角度から、ピグ筐体から配管内面までの距離が測定できるようになっている。かかる構成の距離計測手段5〜10により、ピグ本体2の前部の配管中心軸からのズレを算出し、距離計測手段11〜16により、ピグ本体2の後部の配管中心軸からのズレを算出する。前部と後部のズレから、配管中心軸とピグ本体2の中心軸のズレが算出され、後述のパイプラインの線形評価に際し、ピグ本体2の配管内での姿勢変化による誤差補正が可能となっている。
【0021】
センサユニット4、走行距離計測手段17,18、距離計測手段5〜16の各計測データは信号処理・記録装置19に入力される。この実施の形態においては、信号処理・記録装置19に、データを一定周期で記録保存し、ピグ本体2の走行終了後に保存データを読み出し、保存データからパイプラインの線形算出を行っているが、信号処理装置によりリアルタイムに線形計測を行って、記録装置19に線形のデータを記録することも可能である。
【0022】
このように構成されたパイプラインの形状計測評価装置においては、まず、ピグ搭載の全ての機器を起動し、各計測手段(センサユニット4、距離計測手段5〜10,11〜16、走行距離計測手段17,18)による計測を開始させてデータ記録を開始する。その後、例えば約30分間、静止状態(移動、振動の極力無い状態)を保ち、静止状態における計測データを取得する。そして、ピグ本体1及びピグ本体2をパイプラインに挿入する。これにより、ピグ本体1及びピグ本体2は、パイプライン内を通過する流体圧力によって走行を開始する。ピグ本体2内では、静止状態で記録開始が指示されてから終点に到着し、パイプラインから取り出されてデータ記録が停止されるまでの間、所定のサンプリングタイム(例えば200Hz)で計測が行われる。そして、各計測手段により得られた計測データは、順次、信号処理・記録装置19に記録される。
【0023】
以上のようにしてピグ本体2を静止状態として得られた計測データ(以下、静止計測データという)と、ピグ本体2を走行させて得られた計測データ(以下、走行計測データという)とに基づき、パイプラインの形状計測処理を行う。この形状計測処理は、パソコンなどのコンピュータで構成されるデータ処理装置で行われるもので、記録装置19を接続することによりデータ処理装置内で処理が行われるようになっている。データ処理装置内には、予めパイプラインの形状計測処理を行うプログラムがインストールされており、このプログラムと、CPUとによって本発明の計測処理手段、順逆方向姿勢データ算出手段及び姿勢データ再計算手段が構成される。
【0024】
ここで、本発明は、様々な誤差要因により誤差が累積することによる長距離計測での精度低下を防止することを目的としたもので、以下、累積誤差の低減方法の説明に先だって、まず、パイプラインの形状計測処理について説明する。なお、このパイプラインの形状計測処理は、データ処理装置においてパイプラインの形状計測処理を行うプログラムが起動され、所定のパラメータ(タイムチャート及び緯度)が入力された後に開始される。なお、タイムチャートとは、静止状態において記録開始されてからピグ走行終了して記録終了されるまでの間において記録装置19内に時系列に記憶されている計測データのうち、どの部分が静止状態における静止計測データで、どの部分が走行計測データかを特定するためのものである。
【0025】
図2は、パイプラインの形状計測処理の流れを示したフローチャートである。
データ処理装置では、まず、静止状態で得られた静止計測データのうち3次元加速度計から得られた加速度データから重力方向を求め、この重力方向と外部から入力された緯度とに基づいて加速度計が装着されたピグ本体2の初期姿勢角(α、β、γ)を算出する。静止状態で得られた加速度は、地上のその計測地点における重力加速度に相当し、この重力加速度から重力方向が求められる。
【0026】
そして、この初期姿勢角と、予めGPSにより計測したパイプラインの始点(初期位置)の座標と、記録装置19内に記憶されたサンプリングタイム毎の角速度データによる姿勢変化角(Δα、Δβ、Δγ)及び走行距離データとから通過座標を順次算出する。これによりパイプラインの線形形状データが得られる。すなわち、初期姿勢角に対して、サンプリングタイム毎の姿勢変化角(Δα、Δβ、Δγ)を累積してピグ本体2の姿勢(進行方向)を順次更新するとともに、その各姿勢で進んだ距離を走行距離計測手段17,18から得られた走行距離データに基づいて順次更新することで通過座標を順次算出し、パイプラインの線形を得る。ここで、3軸ジャイロから得られた角速度に基づく姿勢変化角は、ジャイロ本体に設定されたZ軸(たとえばピグ筐体進行方向)、X軸(たとえば進行方向に垂直な面上の一方向)、Y軸(たとえばZ、Xと垂直な方向)とのなす角であるため、この3軸ジャイロ本体の座標系を、先に求めた初期姿勢角に対応する座標系に変換した上で進行方向の更新演算を行う。
【0027】
なお、この通過座標算出の際には各種補正も行う。各種補正として、まず、サンプリングタイム毎に得られた角速度データには、ピグ本体2の移動による角速度の他に地球の自転による自転角速度変化分も含まれているので、この変化分による補正を行う。この地球自転角速度による補正は、予めGPSにより地球自転角速度に起因する補正量を求めておき、その補正量に基づいて行う。また、他の補正としては、ピグ本体2の配管内での姿勢変化による誤差補正である。これらの補正には、従来公知の方法を用いることができる。
【0028】
以上の処理により、パイプラインの線形形状が得られる。続いて、このようにして得られた線形形状の始点又は終点を、参照点(GPS計測値)に合わせる始点終点合わせ処理(図2参照)を行う。本例では上述したように初期位置として始点をGPS計測値に合わせているため、ここでは、初期位置として与えていない終点側をGPS計測値にあわせる処理を行うことになる。具体的には、始点を中心として水平面上で全線形状を回転、収縮させて終点をGPS計測値に一致させるものである。以上の処理により最終的な線形形状データが得られる。なお、終点を初期位置としてもよく、この場合、始点終点合わせ処理の際には始点側をGPS計測値にあわせる処理を行うことになる。
【0029】
図3は、ピグの実際の走行ルート(すなわちパイプラインの線形状)と、走行ルートにピグ本体を走行させて得た走行計測データによる線形形状計測結果との比較図で、図3(a)は、初期位置として始点をGPS計測値に合わせた場合の順方向線形形状計測結果との比較図を示しており、図3(b)は、初期位置として終点をGPS計測値に合わせた場合の逆方向線形形状計測結果との比較図を示している。図3(a)及び図3(b)のどちらも、終点又は始点の合わせ込み処理を行う前の形状計測結果を示している。なお、図3(a)(b)において実線がパイプラインの線形状、点線が線形形状計測結果を示しており、実線で示したパイプラインの線形における始点及び終点は参照点として予めGPSにより計測されている。
【0030】
図3に示した走行ルートは走行距離が10kmを超える長距離で、ここでは全長12kmである。また、走行ルートのほぼ中間地点には測量評価点が設けられている。(a)の順方向演算では、始点はGPS計測値に合わせているため一致しているが、終点では様々な要因により誤差が累積して位置誤差が大きくなりGPS計測値から大きく離れている。図示されているように測量評価点において5mの誤差が生じており、この位置にて既に許容誤差範囲の1/2000(2kmで1mのずれ)を超えている。
【0031】
(b)の逆方向演算では、上記(a)の場合とは逆に、終点についてはGPS計測値に合わせているため一致しているが、始点では、上記と同様に様々な要因により誤差が累積して誤差が大きくなりGPS計測値から大きく離れている。この例では測量評価点において5.5mの誤差が生じており、この位置にて既に許容誤差範囲の1/2000を超えている。なお、逆方向演算としては、各種補正、走行距離、姿勢更新についてそれぞれ該当データを逆演算するものである。例えば、順方向演算にて行列式を用いている場合には、逆行列を求めて行列積を求めるなどの方法である。
【0032】
ここで、順方向演算の場合も逆方向演算の場合も、記録装置19内に記憶された同一データを用いているにもかかわらず異なった誤差値となるのは、順方向の計算を進めていく際に、その点より後の誤差は加算され得ないし、逆方向の計算を進めていく際に、その点より前の誤差は加算され得ないからである。そこで、本発明では、順方向の演算結果と逆方向の演算結果の平均を求めることにより、各地点での誤差を平均化するようにしている。本発明の処理の詳細については後述の図4で説明する。
【0033】
ところで、線形形状は、上述したように初期姿勢角と、予めGPSにより計測したパイプラインの初期位置の座標と、サンプリングタイム毎の姿勢変化角(Δα、Δβ、Δγ)及び走行距離データとから通過座標を順次算出することで求めている。ここで、走行距離データが正しいとすると、図3に示した位置誤差は姿勢の誤差によるものである。そこで、本発明では姿勢誤差を低減するための処理を行う。
【0034】
図4は、姿勢誤差低減処理の流れを示すフローチャートである。
まず、パイプラインの始点及び終点におけるピグ本体2の姿勢(初期姿勢角)を予め取得する(S1)。始点における初期姿勢角の取得は上述した通りであるが、終点における初期姿勢角も、始点の場合と同様に静止計測により取得する。そして、始点におけるピグ本体2の姿勢(初期姿勢角)に対して、ピグ本体2の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して始点から終点までの順方向の姿勢データを求めるとともに、パイプラインの終点におけるピグ本体2の姿勢に対して、ピグ本体2の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して終点から始点までの逆方向の姿勢データを求める(S2)。ついで、ステップS2で求めた順方向の姿勢データと逆方向の姿勢データとを用いて姿勢誤差を低減した姿勢データを再計算する(S3)。再計算後の姿勢データを用いて上述の形状計測処理を行ってパイプラインの線形形状を求める(S4)。
【0035】
図5は、姿勢誤差低減の説明図で、図5により図4のステップS3における再計算の内容を説明する。
図5において、aは順方向演算にて求められたP点におけるピグ本体の姿勢(走行方向)、bは逆方向演算にて求められたP点におけるピグの姿勢(走行方向)を示している。この両方向からの計算による姿勢の平均を取ることにより、P点における姿勢は、一点鎖線に示すパイプラインの方向に、より近づき、姿勢誤差を低減することができる。このことから、姿勢誤差低減のための再計算では、順方向の姿勢データと逆方向の姿勢データとにおいて同一地点毎の姿勢角の平均値を求める演算を行う。これにより誤差が平均化され姿勢誤差を低減した姿勢データを得ることができる。このようにして得られた再計算後の姿勢データを用いて形状計測処理を行うことにより、高精度な線形形状結果を得ることができる。
【0036】
図6は、図3(a)に示した順方向演算結果と図3(b)に示した逆方向演算結果とを用いて再計算した姿勢データを用いて形状計測処理(図2の通過座標算出処理以降の処理)を行った結果を示している。
図6より明らかなように、全体的に誤差が平均化され、走行ルートのほぼ中間地点に設けた測量評価点では位置誤差が3mとなっている。ここで、この線形形状結果における誤差について測量評価点で評価すると、上述したように3mの誤差となっており、全長12kmに対して誤差3mであることから1/2000以下の精度(2kmで1m以下のずれ)となっている。この測量評価点は、走行ルートのほぼ中間地点に設けられており、始点及び終点が始点終点合わせ処理によってGPS計測値に一致させていることを鑑みると、最も誤差が大きい地点であるが、この地点の誤差が1/2000以下の精度であることから全体としてもこの精度を維持することができる。
【0037】
このように本実施の形態によれば、順方向演算及び逆方向演算のそれぞれで得た姿勢データとを用いて誤差を低減した姿勢データを再計算し、再計算後の姿勢データを用いて形状計測処理を行うので、様々な要因により誤差が累積することによる、長距離計測における精度低下を抑えて高精度な計測結果を得ることが可能となる。再計算の具体的内容としては、順方向演算及び逆方向演算のそれぞれで得た姿勢データにおいて同一地点毎の姿勢角の平均値を求めるものであるので、誤差が平均化され全体としての誤差を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施の形態のピグを示す断面図である。
【図2】パイプラインの形状計測処理の流れを示したフローチャートである。
【図3】パイプラインの線形状と線形形状計測結果との比較図である。
【図4】姿勢誤差低減処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】姿勢誤差低減の説明図である。
【図6】図3(a)に示した順方向演算結果と図3(b)に示した逆方向演算結果とを用いて再計算した姿勢データを用いて形状計測処理を行った結果を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
2 ピグ本体、4 センサユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピグ本体をパイプライン内に走行させてピグ本体の姿勢変化角と走行距離とを逐次検出し、前記姿勢変化角から求められる姿勢データと前記走行距離とからピグ本体の走行軌跡を求めることによってパイプラインの線形形状を計測するパイプラインの形状計測評価方法であって、
パイプラインの始点及び終点におけるピグ本体の姿勢を予め取得しておき、前記始点におけるピグ本体の姿勢に対して、前記ピグ本体の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して始点から終点までの順方向の姿勢データを求めるとともに、前記終点におけるピグ本体の姿勢に対して、前記ピグ本体の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して終点から始点までの逆方向の姿勢データを求め、前記順方向の姿勢データと前記逆方向の姿勢データとを用いて姿勢誤差を低減した姿勢データを再計算し、再計算後の姿勢データを用いてパイプラインの線形形状を求めることを特徴とするパイプラインの形状計測評価方法。
【請求項2】
前記順方向の姿勢データと前記逆方向の姿勢データとにおいて同一地点毎の姿勢角の平均値を求めることにより姿勢誤差を低減した姿勢データを得ることを特徴とする請求項1記載のパイプラインの形状計測評価方法。
【請求項3】
角速度計及び走行距離計を有するセンサユニットを装着したピグ本体をパイプライン内を走行させ、前記角速度計及び走行距離計によってピグ本体の姿勢変化角と走行距離とを逐次検出し、前記姿勢変化角から求められる姿勢データと前記走行距離とからピグ本体の走行軌跡を求めることによってパイプラインの線形形状を計測する計測処理手段を備えたパイプライン形状計測評価装置であって、
前記計測処理手段は、
パイプラインの始点及び終点におけるピグ本体の姿勢を予め取得しておき、前記始点におけるピグ本体の姿勢に対して、前記ピグ本体の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して始点から終点までの順方向の姿勢データを求めるとともに、前記終点におけるピグ本体の姿勢に対して、前記ピグ本体の走行によって得られた姿勢変化角を順次累積して終点から始点までの逆方向の姿勢データを求める順逆方向姿勢データ算出手段と、前記順方向の姿勢データと前記逆方向の姿勢データとを用いて姿勢誤差を低減した姿勢データを再計算する姿勢データ再計算手段とを備え、再計算後の姿勢データを用いてパイプラインの線形形状を求めることを特徴とするパイプライン形状計測評価装置。
【請求項4】
前記姿勢データ再計算手段は、前記順方向の姿勢データと前記逆方向の姿勢データとにおいて同一地点毎の姿勢角の平均値を求めることにより姿勢誤差を低減した姿勢データを得ることを特徴とする請求項3記載のパイプライン形状計測評価装置。
【請求項5】
前記角速度計は3軸ジャイロであることを特徴とする請求項3又は請求項4記載のパイプライン形状計測評価装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−118972(P2006−118972A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306817(P2004−306817)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】