説明

パターン溝の形成方法及びそれを用いたガラス導波路型光回路の製造方法

【課題】 溝幅が80μm以下の狭いパターン溝であっても容易に溝形成が可能なパターン溝の形成方法及びそれを用いたガラス導波路型光回路の製造方法を提供するものである。
【解決手段】 本発明に係るパターン溝の形成方法は、
石英ガラス基板11上にメタル層12を形成する工程、
そのメタル層12に幅がW1のギャップパターン13を形成し、石英ガラス基板11の一部をギャップパターン13から露出させる工程、
ビームスポット径がW2(≧W1)のCO2レーザビームLをギャップパターン13に沿って照射、走査し、石英ガラス基板11の表面に溝幅W1のパターン溝23を形成する工程、
を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝幅が80μm以下の狭いパターン溝を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信用のガラス導波路構造として、図11(c)に示す構造のものがすでに実用化されている。図11(c)に示すように、ガラス導波路110は、基板101の上に下部クラッド層102を設け、その下部クラッド層102の上に断面矩形状のコアパターン103aを設け、そのコアパターン103a及び下部クラッド層102全面を覆うように低屈折率(nb)の上部クラッド層114を設けた構造である。
【0003】
ガラス導波路110は、例えば、以下に示す方法で製造される。
【0004】
先ず、図10(a)に示すように、基板(例えば、石英ガラス基板)101上に低屈折率(nb)の下部クラッド層102が設けられ、その下部クラッド層102上に高屈折率(np)のコアガラス層103が設けられる。
【0005】
次に、図10(b)に示すように、コアガラス層103の上にメタル層104が設けられる。そのメタル層104の上にフォトレジスト膜105を塗布、加熱した後、そのフォトレジスト膜105の上にフォトマスク106が載置される。フォトマスク106は、紫外線を透過させない領域(パターン部106a)と、紫外線を透過させる領域(本体部106b)とで構成される。
【0006】
次に、図10(c)に示すように、フォトマスク106の上から紫外線UVを照射し、フォトマスク106の本体部106bを透過した紫外線UVがフォトレジスト膜105に照射される。ここで、図10(d)に示すように、フォトレジスト膜105の、紫外線UVが未照射の部分がフォトレジストパターン105a、紫外線UVが照射された部分が領域105bとなる。その後、フォトリソグラフィ工程においてフォトレジスト膜105を現像することで、領域105bが除去されてフォトレジストパターン105aだけが残る。
【0007】
次に、図10(e)に示すように、フォトレジストパターン105aをマスクとし、メタル層104をドライエッチングしてパターニングを行うことで、メタルパターン104aが形成される。その後、領域104bを除去することで、メタルパターン104aだけが残る。
【0008】
次に、図11(a)に示すように、メタルパターン104aをマスクとし、コアガラス層103をドライエッチングしてパターニングを行うことで、図11(b)に示すように、断面矩形状のコアパターン103aが形成される。
【0009】
最後に、図11(c)に示すように、コアパターン103a及び下部クラッド層102全面を、低屈折率(nb)の上部クラッド層114で覆うことで、ガラス導波路110が得られる。
【0010】
ガラス導波路におけるコアパターンの製造方法として、この他にも、例えば、石英ガラス基板上に、直接、パターン溝を形成し、そのパターン溝内を高屈折率ガラスで埋めてコアパターンを形成し、そのコアパターン及び石英ガラス基板全面を低屈折率のクラッド層で覆うものがある。
【0011】
ここで、石英ガラス基板のような軟化温度の高いガラス基板に溝幅の狭いパターン溝を形成する方法として、レーザマーキング装置を用いてガラス基板にCO2レーザビームを照射する方法(以下、レーザ照射溝形成法という)がある(例えば、特許文献1参照)。また、レーザ照射溝形成法の他に、石英ガラス基板上に、フォトリソグラフィ技術によりフォトレジストパターンを形成した後、ドライエッチングにより石英ガラス基板上にパターン溝を形成する方法(以下、ドライエッチング溝形成法という)がある。
【0012】
【特許文献1】特開平6−183783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の溝形成法を用いて、溝幅が80μm以下の狭いパターン溝を形成する場合、次のような課題が存在していた。
【0014】
レーザ照射溝形成法は、CO2レーザビームのビーム径が最小でも80μm程度であるため、溝幅がビーム径以上、すなわち約80μm以上のパターン溝しか形成できない。このため、この方法を用い、石英ガラス基板のような軟化温度の高いガラス基板に溝幅40μm以下のパターン溝を形成することは困難であった。
【0015】
ドライエッチング溝形成法は、溝幅40μm以下のパターン溝を形成することが可能である。しかし、この方法の場合、パターン溝の深さが深くなるにつれてエッチング時間が長くなることから、ガラス導波路の製造スループットが低く(例えば、製造に100時間程度の時間がかかる)、低コスト化及び量産化に難点があった。
【0016】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、溝幅が80μm以下の狭いパターン溝であっても容易に溝形成が可能なパターン溝の形成方法及びそれを用いたガラス導波路型光回路の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成すべく本発明に係るパターン溝の形成方法は、石英ガラス基板の表面に、溝幅の狭いパターン溝を形成する方法であって、
石英ガラス基板上にメタル層を形成する工程、
そのメタル層に幅がW1のギャップパターンを形成し、石英ガラス基板の一部をギャップパターンから露出させる工程、
ビームスポット径がW2(≧W1)のCO2レーザビームを上記ギャップパターンに沿って照射、走査し、石英ガラス基板の表面に溝幅W1のパターン溝を形成する工程、
を備えたものである。
【0018】
ここで、CO2レーザビームは、パワと走査移動速度の積を5×104W・mm/s〜1.6×105W・mm/sの範囲に制御した状態で照射、走査することが好ましい。
【0019】
メタル層は、Cu、Al、W、Cr、Ni、WSi、及びSiの群から選択される1種で構成することが好ましい。また、メタル層の層厚は5μm以下が好ましい。
【0020】
CO2レーザビームは、ガルバノミラーを用いて走査させることが好ましい。
【0021】
一方、本発明に係るガラス導波路型光回路の製造方法は、石英ガラス基板上にガラス導波路型光回路を製造する方法であって、
屈折率がnsの石英ガラス基板上にメタル層を形成する工程、
そのメタル層に幅がW1のギャップパターンを形成し、石英ガラス基板の一部をギャップパターンから露出させる工程、
ビームスポット径がW2(≧W1)のCO2レーザビームを上記ギャップパターンに沿って照射、走査し、石英ガラス基板の表面に溝幅W1のパターン溝を形成する工程、
そのパターン溝に、任意の屈折率nx(≠ns)の材料を埋設する工程、
を備えたものである。
【0022】
また、本発明に係るガラス導波路型光回路の製造方法は、石英ガラス基板上にガラス導波路型光回路を製造する方法であって、
屈折率がnsの石英ガラス基板上に、屈折率がnw(≠ns)のガラス層を形成する工程、
そのガラス層上にメタル層を形成する工程、
そのメタル層に幅がW1のギャップパターンを形成し、ガラス層の一部をギャップパターンから露出させる工程、
ビームスポット径がW2(≧W1)のCO2レーザビームを上記ギャップパターンに沿って照射、走査し、ガラス層の表面に溝幅W1のパターン溝を形成する工程、
そのパターン溝に、任意の屈折率nx(≠nw)の材料を埋設する工程、
を備えたものである。
【0023】
ここで、材料の任意の屈折率nxは、nx>ns、又はnx<nsである。また、材料の任意の屈折率nxは、nx>nw、又はnx<nwである。
【0024】
石英ガラス基板の表面全面を、クラッド層で覆設する工程を備えていてもよい。また、ガラス層の表面全面を、クラッド層で覆設する工程を備えていてもよい。
【0025】
ガラス層の形成工程の前段に、石英ガラス基板上に屈折率がnb(<nw)の中間ガラス層を形成する工程を備えていてもよい。
【0026】
CO2レーザビームは、パワと走査移動速度の積を5×104W・mm/s〜1.6×105W・mm/sの範囲に制御した状態で照射、走査することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高い生産性で、溝幅の調整が自在なパターン溝を形成することができるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(第1の実施形態)
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0029】
本発明の好適一実施の形態に係るパターン溝の形成方法を図1に、パターン溝が形成された図1の石英ガラス基板の横断面図を図2に示す。図1(a)は上面図、図1(b)は図1(a)の1a−1a線断面図である。
【0030】
従来、CO2レーザビームを用いて、石英ガラス基板のような軟化温度の高いガラス基板に溝幅が40μm以下のパターン溝を形成することは困難であった。
【0031】
そこで、本実施の形態に係るパターン溝の形成方法においては、以下の手順によってパターン溝を形成している。
【0032】
先ず、図1(a)に示すように、石英ガラス基板(例えば、厚さが1mm、幅が50mm、長さが90mm)11上にメタル層(例えば、厚さが1μmのWSi層)12が設けられる。このメタル層12にドライエッチング法を用いてパターニングを行い、パターン幅がW1(例えば、40μm)、所定形状(図1(a)中では直線状)のギャップパターン13が形成される。ここで、ギャップパターン13は、メタル層12の上面から下面まで貫通した溝パターンのことを言うものである。
【0033】
次に、図1(b)に示すように、このギャップパターン13を有するメタル層12の上から、CO2レーザビームLが石英ガラス基板11の基板面(図1(b)中では上面)に対して垂直に照射され、ガルバノミラーによってギャップパターン13に沿って走査される。ビームスポット径W2はパターン幅W1よりも大きく、例えば、約80μmとされる。ここで、CO2レーザビームLのパワPとビームの走査移動速度Vが重要であり、CO2レーザビームLのパワPとビームの走査移動速度Vの積(以下、積PVという)は5×104W・mm/s〜1.6×105W・mm/sの範囲に制御される。
【0034】
CO2レーザビームLの照射時、ギャップパターン13のパターン幅W1はCO2レーザビームLのビームスポット径W2よりも小さいため、CO2レーザビームLのビーム外縁部はギャップパターン13からはみ出し、メタル層12によってマスキングされる。よって、石英ガラス基板11の基板面にはギャップパターン13を通過したCO2レーザビームLだけが照射され、石英ガラス基板11の基板面がビーム加工される。この時、CO2レーザビームLの積PVを上述した範囲で制御していることから、ギャップパターン13からはみ出したCO2レーザビームLが、メタル層12に損傷を与えるおそれはほとんど全くない。
【0035】
その結果、図2に示すように、石英ガラス基板11の基板面に、溝幅がW1で、ギャップパターン13と同形状のパターン溝23が形成される。パターン溝23の溝幅W1は、ギャップパターン13のパターン幅W1を調整することで、5〜80μmの範囲で自在に調整することができる。また、パターン溝23の溝深さDは、CO2レーザビームLの積PVを制御することで、1μm〜数十μmの範囲で自在に調整することができる。さらに、パターン溝23の形成は、ガルバノミラーを用いて高速度でCO2レーザビームLを走査せることによってなされるため、生産性は非常に良好である。その結果、低コストで、かつ、量産性よく、パターン溝23を形成することができる。
【0036】
パターン溝23の形成の一例として、WSiからなるメタル層12の厚さを1μm、ギャップパターン13のパターン幅W1を40μmとし、CO2レーザビームLのビームスポット径W2を約80μm、パワPを55W、走査移動速度Vを1000mm/s〜3000mm/sの範囲に調整した状態で、CO2レーザビームLを照射、走査させた。その結果、石英ガラス基板11上にパターン溝23が形成された。溝幅が40μmのパターン溝23の溝深さDは1〜4.5μmの範囲で自在に調整することができた。また、この時、CO2レーザビームLの照射によるメタル層12へのダメージはほとんど全くなかった。
【0037】
また、メタル層12のギャップパターン13のパターン幅W1を10μmとする以外は前述の一例と同じ条件で、石英ガラス基板11上にパターン溝23の形成を行った。その結果、走査移動速度Vが1000mm/sの場合に、メタル層12にわずかにダメージが生じることがわかった。そこで、メタル層12の厚さを2倍の2μmにした結果、メタル層12に全くダメージを与えることなく、パターン溝23を形成することができた。
【0038】
以上より、CO2レーザビームLの積PVが5×104W・mm/s〜1.6×105W・mm/sの範囲において、パターン幅W1が小さい時(例えば、40μm未満の時)は、パターン幅W1が十分に大きい時(例えば、40μm以上の時)よりもメタル層12の厚さを厚くすることが好ましい。また、パターン幅W1が小さい時、メタル層12の厚さが薄い時(例えば、2μm未満の時)は、それ以外の時よりも、走査移動速度Vを速くすることが好ましく、その結果、CO2レーザビームLの積PVも比較的大きくなる。さらに、CO2レーザビームLのパワPが大きい時(例えば、60W以上の時)は、それ以外の時よりも、走査移動速度Vを速くする(例えば、2000mm/s以上)ことが好ましく、その結果、CO2レーザビームLの積PVも比較的大きくなる。
【0039】
ここで、CO2レーザビームLの積PVを5×104W・mm/s〜1.6×105W・mm/sと限定したのは、積PVが5×104W・mm/s未満だと、パワPを一定とした場合では、走査移動速度Vが遅すぎてパターン溝23の形成に長時間を要してしまい、一方、走査移動速度Vを一定とした場合では、パワPが小さすぎてパターン溝23を形成すること自体が困難となってしまう。また、積PVが1.6×105W・mm/sを超えると、パワPを一定とした場合では、走査移動速度Vが速すぎてギャップパターン13に沿って安定して走査を行うことが困難となり、一方、走査移動速度Vを一定とした場合では、パワPが大きすぎてメタル層12が損傷を受けてしまう。
【0040】
メタル層12は、CO2レーザビームLのエネルギーによってダメージを受けず、かつ、CO2レーザビームLを反射させるような材質が好ましく、例えば、Cu、Al、W、Cr、Ni、WSi、Siなどが挙げられる。また、メタル層12の厚さは、厚い方が好ましいが、あまり厚いと、パターン溝23の寸法精度が低下するおそれがあるため、好ましくは5μm以下、特に好ましくは4μm以下とされる。メタル層12の形成方法としては、特に限定するものではなく、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、CVD法などが挙げられる。
【0041】
ギャップパターン13の形成方法としては、ドライエッチング法に限定するものではなく、メタル層12にパターン幅5〜80μmのギャップパターン13を形成することができる既存の溝形成法が全て適用可能である。
【0042】
CO2レーザビームLをガルバノミラーで走査させる方法としては、例えば、パーソナルコンピュータに予めインストールしておいたソフトウェアを用い、CO2レーザビームLのスキャナーの動作制御を行うという方法が挙げられる。
【0043】
尚、本実施の形態においては、直線状のギャップパターン13を例に挙げて説明を行ったが、ギャップパターンの形状は特に限定するものではない。例えば、図3(a)に示すように、屈曲部34a,34b及び直線部34cを有する溝34,34がほぼX字型に配置されたギャップパターン33であってもよい。溝34,34の各直線部34cは近接、かつ、並行に配置されており、各直線部34cによって光結合領域が形成される。このようなギャップパターン33を有するメタル層12の上から、ビームスポット径がW2のCO2レーザビームLが、石英ガラス基板11の基板面(図3(b)中では上面)に対して垂直に照射され、ガルバノミラーによってギャップパターン33に沿って走査される。例えば、ギャップパターン33のパターン幅W1及びメタル層12の厚さはそれぞれ5μmとし、走査移動速度Vは800mm/sとする。これによって、図4に示すように、石英ガラス基板11の基板面にほぼX字型のパターン溝43(例えば、パターン幅W1が5μm)を形成することができる。
【0044】
次に、本発明の他の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0045】
(第2の実施形態)
本発明の好適一実施の形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法は、第1の実施形態に係るパターン溝の形成方法におけるパターン溝形成工程までは同じである。よって、パターン溝形成工程以降の工程のみを図2(又は図4)を参照しながら説明する。
【0046】
パターン溝形成工程後、屈折率がnsの石英ガラス基板11の基板面上に形成されたパターン溝23(又は43)に、プラズマCVD法などを用いて任意の屈折率nx(≠ns)の材料を埋設し、光信号処理回路パターンが形成される。これによって、本実施の形態に係るガラス導波路型光回路が得られる。パターン溝23を埋める材料の屈折率nxは、nx>ns、nx<nsのいずれであってもよい。
【0047】
本実施の形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法によれば、前述した第1の実施形態に係るパターン溝の形成方法を用いることで、パターン幅の狭い光信号処理回路パターンを容易に、かつ、生産性よく得ることができる。
【0048】
本実施の形態に係る製造方法によれば、CO2レーザビームLをガルバノミラーを用いて超高速(例えば、1000mm/sから2000mm/s程度の速度)に走査させることにより、所望のパターン形状、幅W1、及び深さDを有するパターン溝23(又は43)を非常に短い時間で形成することができる。その結果、光信号処理回路パターンを低コストで製造することが可能となる。しかも、得られたパターン溝23(又は43)の表面形状は非常に滑らかであり、パーソナルコンピュータなどで設計されたデータ(光信号処理回路パターン)を忠実に再現することができるため、低損失なガラス導波路型光回路が実現可能である。特に、図4に示したパターン溝43を有する石英ガラス基板11を用いてガラス導波路型光回路を製造することで、低損失な光方向性結合器を得ることができる。
【0049】
本実施の形態に係る製造方法において、石英ガラス基板11の基板面全面を、適宜、クラッド層で覆設してもよい。ここで、パターン溝23(又は43)を埋める材料の屈折率nxがnx>nsの場合、クラッド層の構成材料の屈折率はnxよりも小さくされる。逆に、パターン溝23(又は43)を埋める材料の屈折率nxがnx<nsの場合、クラッド層の構成材料の屈折率はnxよりも大きくされる。
【0050】
(第3の実施形態)
本発明の他の好適一実施の形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法を図5に示す。本実施の形態におけるパターン溝の形成手順は、第1の実施形態に係るパターン溝の形成方法と同じとされる。
【0051】
先ず、図5(a)に示すように、屈折率がnsの石英ガラス基板51上に、プラズマCVD法などを用いて屈折率がnw(>ns)のガラス層(例えば、波長0.63μmでの屈折率が1.485、層厚5μmのSiO2−GeO2ガラス層)52が設けられる。その後、ガラス層52に高温(例えば、1000℃)の安定化熱処理を施した後、ガラス層52上に、スパッタリング法などを用いてメタル層(例えば、層厚1.5μmのWSi層)53が設けられる。
【0052】
次に、メタル層53にドライエッチング法を用いてパターニングを行い、図5(b)に示すように、パターン幅がW1、所定形状のギャップパターン54が形成される。
【0053】
次に、図5(c)に示すように、このギャップパターン54を有するメタル層53の上から、CO2レーザビームLが石英ガラス基板51の基板面(図5(c)中では上面)に対して垂直に照射され、ガルバノミラーによってギャップパターン54に沿って走査される。ビームスポット径W2はパターン幅W1よりも大きく、例えば、約80μmとされる。また、CO2レーザビームLの走査移動速度Vは1000mm/sとされ、積PVは5×104W・mm/s〜1.6×105W・mm/sの範囲に制御される。
【0054】
CO2レーザビームLの照射時、ギャップパターン54のパターン幅W1はCO2レーザビームLのビームスポット径W2よりも小さいため、CO2レーザビームLのビーム外縁部はギャップパターン54からはみ出し、メタル層53によってマスキングされる。よって、ガラス層52にはギャップパターン54を通過したCO2レーザビームLだけが照射され、ガラス層52がビーム加工される。この時、CO2レーザビームLの積PVを上述した範囲で制御していることから、ギャップパターン54からはみ出したCO2レーザビームLが、メタル層53に損傷を与えるおそれはほとんど全くない。
【0055】
CO2レーザビームLの照射によって、図5(d)に示すように、ガラス層52に溝幅がW1で、ギャップパターン54と同形状のパターン溝55が形成される。パターン溝55の溝幅W1は、ギャップパターン54のパターン幅W1を調整することで、5〜80μmの範囲で自在に調整することができる。また、パターン溝55の溝深さは、CO2レーザビームLの積PVを制御することで、1μm〜数十μmの範囲で自在に調整することができる。
【0056】
次に、図5(e)に示すように、メタル層53を剥離させる。例えば、リアクテイブイオンエッチング装置を用い、RFパワを10Wとし、CHF3を3sccm、SF6を6sccm流しながら反応容器内の圧力を2Paに保つことで、25分でメタル層53を剥離させることができる。
【0057】
その後、図5(f)に示すように、パターン溝55に、プラズマCVD法などを用いて任意の屈折率nxの材料を埋設し、光信号処理回路パターン56が形成される。これによって、本実施の形態に係るガラス導波路型光回路が得られる。
【0058】
本実施の形態に係る製造方法においても、前述した第2の実施形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法と同様の作用効果が得られる。
【0059】
本実施の形態に係る製造方法においては、屈折率がnsの石英ガラス基板51とメタル層53の間に屈折率がnw(>ns)のガラス層52を形成し、そのガラス層52に溝幅がW1のパターン溝55を形成することにより、光通信用の光部品に応用することが可能なガラス導波路型光回路を得ることができる。例えば、ガラス層52に光信号処理回路パターン用のパターン溝55を形成し、そのパターン溝55内に、ガラス層52の屈折率nwよりも高屈折率の材料を埋め込むことにより、導波路構造の光信号処理回路を実現することができる。
【0060】
また、本実施の形態に係る製造方法を用いれば、ギャップパターン54のパターン形状やパターン溝55の溝深さを調整するだけで、シングルモードの導波路型光信号処理回路の他に、マルチモードの導波路型光信号処理回路も容易に、短時間及び低コストで製造することが可能である。
【0061】
本実施の形態に係る製造方法において、ガラス層52の上面全面を、適宜、クラッド層で覆設してもよい。ここで、クラッド層の構成材料の屈折率は、nx>nwの場合、nxより小さくされ、nx<nwの場合、nxより大きくされる。
【0062】
また、本実施の形態に係る製造方法において、石英ガラス基板51とガラス層52の間に屈折率がnb(<nw)の中間ガラス層を設けてもよい。
【0063】
(第4の実施形態)
本発明の別の好適一実施の形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法を図6に示す。本実施の形態における基本的な製造手順は、第3の実施形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法と同じとされる。尚、図5(a)〜図5(f)と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については説明を省略する。
【0064】
先ず、図6(a)に示すように、屈折率がnsの石英ガラス基板51上に、プラズマCVD法などを用いて屈折率がnw(<ns)のガラス層(例えば、波長0.63μmでの屈折率が1.440、層厚12μmのFドープSiO2層)62が設けられる。その後、ガラス層62に高温(例えば、1000℃)の安定化熱処理を施した後、ガラス層62上に、スパッタリング法などを用いてメタル層(例えば、層厚1.5μmのWSi層)53が設けられる。
【0065】
次に、メタル層53にドライエッチング法を用いてパターニングを行い、図6(b)に示すように、パターン幅がW1(例えば、5μm)、所定形状のギャップパターン64が形成される。
【0066】
次に、図6(c)に示すように、このギャップパターン64を有するメタル層53の上から、CO2レーザビームLが石英ガラス基板51の基板面(図6(c)中では上面)に対して垂直に照射され、ガルバノミラーによってギャップパターン64に沿って走査される。ビームスポット径W2はパターン幅W1よりも大きく、例えば、約80μmとされる。また、CO2レーザビームLの積PVは5×104W・mm/s〜1.6×105W・mm/sの範囲に制御される。
【0067】
CO2レーザビームLの照射によって、図6(d)に示すように、ガラス層62に溝幅がW1で、ギャップパターン64と同形状のパターン溝65が形成される。パターン溝65の溝幅W1は、ギャップパターン64のパターン幅W1を調整することで、5〜80μmの範囲で自在に調整することができる。また、パターン溝65の溝深さは、CO2レーザビームLの積PVを制御することで、1μm〜数十μmの範囲で自在に調整することができる。
【0068】
次に、図6(e)に示すように、メタル層53をドライエッチング法などを用いて剥離させる。その後、図6(f)に示すように、パターン溝65に、プラズマCVD法などを用いて任意の屈折率nx(>nw)の材料(例えば、波長0.63μmでの屈折率が1.485のSiO2−GeO2ガラス)を埋設し、光信号処理回路パターン66が形成される。これによって、本実施の形態に係るガラス導波路型光回路が得られる。
【0069】
本実施の形態に係る製造方法においても、前述した第2及び第3の実施形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法と同様の作用効果が得られる。
【0070】
また、本実施の形態に係る製造方法によれば、石英ガラス基板51の屈折率nsよりも屈折率が小さいガラス層62にパターン溝65を形成し、そのパターン溝65に光信号処理回路パターン66を形成しているため、図5(f)に示した第3の実施形態に係るガラス導波路型光回路よりも、ガラス層と光信号処理回路パターンの屈折率差の自由度が大きいガラス導波路型光回路を得ることができる。
【0071】
本実施の形態に係る製造方法において、ガラス層62の上面全面を、適宜、クラッド層67で覆設してもよい。ここで、クラッド層67の構成材料の屈折率はnxよりも小さく、好ましくはnwと同じとされる。
【0072】
(第5の実施形態)
本発明のさらに別の好適一実施の形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法を図7に示す。本実施の形態における基本的な製造手順は、第3の実施形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法と同じとされる。尚、図5(a)〜図5(f)と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については説明を省略する。
【0073】
先ず、図7(a)に示すように、屈折率がnsの石英ガラス基板51上に、順に、屈折率がnw(>ns)のガラス層(例えば、波長0.63μmでの屈折率が1.485、層厚5μmのSiO2−GeO2ガラス層)52、メタル層(例えば、層厚1.5μmのWSi層)53が設けられる。
【0074】
次に、図7(b)に示すように、メタル層53にパターン幅がW1(例えば、5μm)、所定形状のギャップパターン74が複数個(図7(b)中では3個)形成される。各ギャップパターン74は、所定の間隔を設けて(例えば、等間隔に)形成、配置される。
【0075】
次に、図7(c)に示すように、各ギャップパターン74に対してそれぞれCO2レーザビームLが照射され、走査される。
【0076】
CO2レーザビームLの照射によって、図7(d)に示すように、ガラス層52に溝幅がW1で、各ギャップパターン74と同形状のパターン溝75が形成される。
【0077】
次に、図7(e)に示すように、メタル層53を剥離させた後、図7(f)に示すように、各パターン溝75に、プラズマCVD法などを用いて任意の屈折率nx(<nw)の材料(例えば、波長0.63μmでの屈折率が1.440のFドープSiO2層)を埋設し、光信号処理回路パターン76が形成される。これによって、本実施の形態に係るガラス導波路型光回路が得られる。
【0078】
本実施の形態に係る製造方法においても、前述した第2及び第3の実施形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法と同様の作用効果が得られる。
【0079】
また、本実施の形態に係る製造方法によれば、ガラス層52に所定の間隔を設けて形成された各パターン溝75内に、ガラス層52の構成材とは屈折率の異なる材料を埋め込むことで、所定の波長の光を取り出す(又は取り除く)ことが可能な光フィルタを実現することができる。
【0080】
本実施の形態に係る製造方法において、ガラス層52の上面全面を、適宜、クラッド層77で覆設してもよい。ここで、クラッド層77の構成材料の屈折率はnwよりも小さく、好ましくはnxと同じとされる。
【0081】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0082】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
図8に示すように、石英ガラス基板81上に、3枚のWSiメタル板(厚さ1μm)82を5μmの間隔を設けて配置し、各WSiメタル板82間に直線状のギャップパターン83を形成した。
【0084】
次に、各WSiメタル板82間に設けたギャップパターン83を横断するように、CO2レーザビーム(パワP=65W)84をガルバノミラーで走査しながら照射した。この時、CO2レーザビーム84の走査移動速度が、WSiメタル板82にダメージを与える影響を評価すべく、走査移動速度をV1=1000,V2=1500,V3=2000,V4=2500,V5=3000(mm/s)と変えて照射を行った。
【0085】
その結果、図9(a)に示すように、走査移動速度がV1=1000mm/sの場合、CO2レーザビーム84が照射された部分のWSiメタル板82が溶断され、ダメージ(溶断部91)が生じた。これは、CO2レーザビーム84の積PVは6.5×104W・mm/sと規定範囲内(5×104W・mm/s〜1.6×105W・mm/s)であるものの、WSiメタル板82の厚さが1μmと薄いことから、走査移動速度が1000mm/sでは遅すぎたことに起因していた。
【0086】
これに対して、図9(b)〜図9(d)に示すように、走査移動速度がV3,V4,V5のように2000mm/s以上になると、WSiメタル板82にダメージはほとんど生じなかった。
【0087】
以上より、メタル層の厚さが薄い場合には、積PVを、特に1.2×105W・mm/s〜1.6×105W・mm/sの範囲に調整した状態でCO2レーザビームを照射、走査することが好ましいことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の好適一実施の形態に係るパターン溝の形成方法を説明するための図である。
【図2】パターン溝が形成された図1の石英ガラス基板の横断面図である。
【図3】図1の一変形例である。
【図4】パターン溝が形成された図3の石英ガラス基板の横断面図である。
【図5】本発明の他の好適一実施の形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法を説明するための図である。
【図6】本発明の別の好適一実施の形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法を説明するための図である。
【図7】本発明のさらに別の好適一実施の形態に係るガラス導波路型光回路の製造方法を説明するための図である。
【図8】[実施例]におけるCO2レーザビームの照射状態を説明するための図である。
【図9】図8の要部を拡大した写真観察図である。図9(a)、図9(b)、図9(c)、及び図9(d)は、図8の要部9A、要部9B、要部9C、及び要部9Dの写真観察図である。
【図10】従来のガラス導波路型光回路の製造方法を説明するための図である。
【図11】従来のガラス導波路型光回路の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0089】
11 石英ガラス基板
12 メタル層
13 ギャップパターン
23 パターン溝
L CO2レーザビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス基板の表面に、溝幅の狭いパターン溝を形成する方法であって、
石英ガラス基板上にメタル層を形成する工程、
そのメタル層に幅がW1のギャップパターンを形成し、石英ガラス基板の一部をギャップパターンから露出させる工程、
ビームスポット径がW2(≧W1)のCO2レーザビームを上記ギャップパターンに沿って照射、走査し、石英ガラス基板の表面に溝幅W1のパターン溝を形成する工程、
を備えたことを特徴とするパターン溝の形成方法。
【請求項2】
上記CO2レーザビームを、パワと走査移動速度の積を5×104W・mm/s〜1.6×105W・mm/sの範囲に制御した状態で照射、走査する請求項1記載のパターン溝の形成方法。
【請求項3】
上記メタル層を、Cu、Al、W、Cr、Ni、WSi、及びSiの群から選択される1種で構成した請求項1又は2記載のパターン溝の形成方法。
【請求項4】
上記メタル層の層厚が5μm以下である請求項1から3いずれかに記載のパターン溝の形成方法。
【請求項5】
上記CO2レーザビームをガルバノミラーを用いて走査させる請求項1から4いずれかに記載のパターン溝の形成方法。
【請求項6】
石英ガラス基板上にガラス導波路型光回路を製造する方法であって、
屈折率がnsの石英ガラス基板上にメタル層を形成する工程、
そのメタル層に幅がW1のギャップパターンを形成し、石英ガラス基板の一部をギャップパターンから露出させる工程、
ビームスポット径がW2(≧W1)のCO2レーザビームを上記ギャップパターンに沿って照射、走査し、石英ガラス基板の表面に溝幅W1のパターン溝を形成する工程、
そのパターン溝に、任意の屈折率nx(≠ns)の材料を埋設する工程、
を備えたことを特徴とするガラス導波路型光回路の製造方法。
【請求項7】
石英ガラス基板上にガラス導波路型光回路を製造する方法であって、
屈折率がnsの石英ガラス基板上に、屈折率がnw(≠ns)のガラス層を形成する工程、
そのガラス層上にメタル層を形成する工程、
そのメタル層に幅がW1のギャップパターンを形成し、ガラス層の一部をギャップパターンから露出させる工程、
ビームスポット径がW2(≧W1)のCO2レーザビームを上記ギャップパターンに沿って照射、走査し、ガラス層の表面に溝幅W1のパターン溝を形成する工程、
そのパターン溝に、任意の屈折率nx(≠nw)の材料を埋設する工程、
を備えたことを特徴とするガラス導波路型光回路の製造方法。
【請求項8】
上記材料の任意の屈折率nxがnx>nsである請求項6記載のガラス導波路型光回路の製造方法。
【請求項9】
上記材料の任意の屈折率nxがnx<nsである請求項6記載のガラス導波路型光回路の製造方法。
【請求項10】
上記材料の任意の屈折率nxがnx>nwである請求項7記載のガラス導波路型光回路の製造方法。
【請求項11】
上記材料の任意の屈折率nxがnx<nwである請求項7記載のガラス導波路型光回路の製造方法。
【請求項12】
上記石英ガラス基板の表面全面を、クラッド層で覆設する工程を備えた請求項6,8,9いずれかに記載のガラス導波路型光回路の製造方法。
【請求項13】
上記ガラス層の表面全面を、クラッド層で覆設する工程を備えた請求項7,10,11いずれかに記載のガラス導波路型光回路の製造方法。
【請求項14】
上記ガラス層の形成工程の前段に、石英ガラス基板上に屈折率がnb(<nw)の中間ガラス層を形成する工程を備えた請求項7,10,11,13いずれかに記載のガラス導波路型光回路の製造方法。
【請求項15】
上記CO2レーザビームを、パワと走査移動速度の積を5×104W・mm/s〜1.6×105W・mm/sの範囲に制御した状態で照射、走査する請求項6から14いずれかに記載のガラス導波路型光回路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−243158(P2006−243158A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56109(P2005−56109)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノガラス技術」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】