説明

パワープラント支持構造

【課題】ロール慣性主軸マウントとされたパワープラント2を備える車両において、乗り心地感を良好にしつつ、パワープラント2の大きな変位を抑制するとともに、併せて、衝突時のパワープラント2の後退量を十分に確保して衝撃吸収性を高める。
【解決手段】 パワープラント2のロール慣性主軸Xの近傍をマウント部材60、61によってフロントサイドフレーム11、12に支持する。サブフレーム32の前端部及び後端部を、それぞれフロントサイドフレーム11、12に対してパワープラント2よりも車体前方側及び車体後方側で連結し、該サブフレーム32を衝突時に下方に向かって折れ曲がるように構成する。パワープラント2の下部とその後方のサスペンションクロスメンバ38とを連結するトルクロッド70を設け、このトルクロッド70を傾斜させかつロール慣性主軸Xに対し周方向へ向くように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワープラントを車体に支持する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種のパワープラント支持構造として、例えば、特開平8−332858号公報に開示されるように、エンジンの出力軸が車幅方向を指向するようにパワープラントを車体のエンジンルーム内に横置きに搭載するものにおいて、該パワープラントの車幅方向両端部をロール慣性主軸の近傍に位置する一対のマウント部材によってそれぞれ支持するとともに、そのパワープラントを車体前後方向に延びるトルクロッドによって、車体に連結するようにしたものが知られている。
【0003】
前記トルクロッドのパワープラント側は、パワープラントの重心直下近傍に設けられたパワープラント連結部に連結される一方、該トルクロッドの車体側は、該パワープラント連結部と同じ高さとなるようにその後方のクロスメンバに設けられた車体側の連結部に連結されている。そして、ロール慣性主軸の近傍に設けられた2つのマウント部材によって、主にパワープラントが発生する上下方向の振動を減衰させる一方、トルクロッドによって、前記ロール慣性主軸周りのパワープラントの揺動を規制することができる。
【0004】
ところで、エンジンのアイドル時等には、パワープラントはロール慣性主軸を中心として揺動し、該パワープラントの下部のパワープラント連結部はロール慣性主軸に対し周方向に変位することになる。これに対し、前記従来例では、パワープラント連結部をパワープラントの重心直下近傍に配置してトルクロッドをロール慣性主軸の周方向に指向させているので、パワープラントの揺動によってトルクロッドへ作用する荷重が主に該トルクロッドの長手方向の成分のみとなり、このことで、パワープラントの揺動による上下方向の振動がトルクロッドを介して車体側へ伝達されることを防止して、乗員の乗り心地感を向上させることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−332858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記従来例のような構造では、車両の発進時等にパワープラント上部の変位が大きくなるという問題がある。すなわち、車両の発進時等には、駆動輪側から作用する反力によってパワープラント全体にリングギヤ周りのモーメントが生じ、パワープラントは全体として上方に変位しつつ、特にその上部が車体後方へ大きく変位しようとする。このとき、前記従来例の如く水平に配置されているトルクロッドは、パワープラントと共に回動して該パワープラントの上部の車体後方への変位を助長する傾向があり、このため、前記したパワープラントの大きな変位によって、補機類等と車体側の部材とが接触することを回避するために、両者の間隙を広くしたり、あるいは、マウント部材の弾性係数を高くして、該マウント部材によってパワープラントの変位を規制する等の対策をしなければならない。
【0007】
そしてそのように、パワープラントの補機類等と車体側の部材との間隙を広くすると、エンジンルームのスペース効率が悪化するという不具合が生じる。また、マウント部材の弾性係数を高くするとパワープラントが発生する振動を十分に減衰することができなくなり、乗員の乗り心地感が悪化するという問題が生じる。
【0008】
さらに、前記従来例のトルクロッドは、車体が前面衝突したときに、トルクロッドのパワープラント側が下方へ変位してパワープラントを下向きに引っ張るという作用を有するものの、そのようなトルクロッド自体がパワープラントの後退を妨げて、該パワープラントの車体後方への移動による衝撃吸収性を損なうことがある。
【0009】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、パワープラントと車体とを連結するトルクロッドの配設構造に工夫を凝らし、乗員の乗り心地感を良好に維持しつつ、パワープラントの大きな変位を抑制するとともに、併せて、衝突時のパワープラントの車体後方への移動量を十分に確保できるようにして、衝撃吸収性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明では、パワープラントをエンジンルーム内にロール慣性主軸の近傍で支持するとともに、揺動を抑えるためのトルクロッドを、長手方向がロール慣性主軸に対し周方向を向き、かつ前端部が後端部よりも低くなるように傾斜した状態で配置した。
【0011】
具体的には、請求項1の発明では、車室の車体前方側に設けられたエンジンルーム内に、エンジンの出力軸が車幅方向を指向するように配設されたパワープラントを3つの部材を介して支持したパワープラント支持構造を前提とする。そして、前記パワープラントの車幅方向両端部におけるロール慣性主軸の近傍をそれぞれ前記エンジンルーム構成部材に対して支持する一対のマウント部材と、車体前後方向に延びるように配設され、前端部がパワープラント連結部に回動自在に連結される一方、後端部が車体に回動自在に連結されたトルクロッドとを備え、このトルクロッドを、その長手方向が前記ロール慣性主軸に対し周方向となるように、かつ該トルクロッドの前端部が後端部よりも車体下方に位置するように傾斜した状態で設ける構成とする。
【0012】
この構成により、パワープラントのロール慣性主軸の近傍に配設するマウント部材によりパワープラントの振動を減衰しつつ、トルクロッドによりロール方向の揺動を規制して、パワープラントを支持することができる。
【0013】
また、例えばアイドル時には、パワープラントの揺動によってパワープラント連結部がロール慣性主軸に対し周方向に変位することになるが、この変位を受けるトルクロッドが、その長手方向をロール慣性主軸の周方向に向けて設けられているので、該トルクロッドには主に長手方向の引張及び圧縮荷重が作用するのみとなる。従って、パワープラントの揺動による上下振動がトルクロッドを介して車体側へ伝達されることはない。
【0014】
一方、例えば車両の発進時には、パワープラントは駆動輪からの反力を受けてリングギヤ周りに大きく公転しようとする。すなわち、パワープラントは全体として上方に変位しつつ、特にその上部が車体後方へ大きく変位しようとするが、このとき、前記の如く傾斜した状態とされているトルクロッドは、その前端部がパワープラントとともに上方に変位することによって、車体前方にも変位することになる。言い換えると、トルクロッドがパワープラント全体を車体前方へ変位させることになり、これにより、前記したパワープラント上部の車体後方への変位を抑制することができる。つまり、この発明では、トルクロッドの傾斜配置によって車両の発進時等におけるパワープラント上部の大きな変位を抑制することができ、その分、マウント部材の弾性係数を低くして乗員の乗り心地感を向上させることが可能になる。
【0015】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、前記トルクロッドの前端部と後端部とが、車体上下方向から見て、パワープラントの重心を通る車体前後方向の直線上に配置されているものとする。
【0016】
この構成では、車体上下方向から見て、パワープラントの重心を通る直線上にトルクロッドの前端部と後端部とを位置させたので、このトルクロッドからの反力によってパワープラントに新たにヨーイング方向の振動が発生することを防止できる。
【0017】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、前端部が前記パワープラントよりも車体前方側に所定量オフセットした位置でエンジンルーム構成部材に連結され、後端部が前記パワープラントよりも車体後方側の位置でエンジンルーム構成部材に連結されたサブフレーム部材が設けられていて、前記トルクロッドの後端部は、前記サブフレーム部材に設けられたサブフレーム連結部に回動自在に連結されている。そして、前記サブフレーム部材を、車体前後方向の衝撃を受けて変形するときに車体下方に折れ曲がり、前端部が前記オフセット分、車体後方に変形してパワープラントが後退し始める前に、前記サブフレーム連結部を前記パワープラント連結部よりも車体下方に位置付けるように構成する。
【0018】
このことで、パワープラントとサブフレームとを連結するトルクロッドが車両の衝突時等にパワープラントの後退を妨げないようになるので、このパワープラントの後退による衝撃吸収性を十分に高めることができる。
【0019】
請求項4の発明では、請求項3の発明において、前記サブフレーム部材が、前記エンジンルームの下部に設けられているものとする。このことで、例えば車両の衝突時には、エンジンルーム下部に設けられたサブフレーム部材が車体下方に向かって折れ曲がり、トルクロッドを介してパワープラントが車室の下方へ導かれるようになる。これにより、パワープラントは、エンジンルームの車室側の壁部の下に潜り込んで、より大きく後退できるようになる。
【0020】
請求項5の発明では、請求項3又は4の発明において、前記パワープラント連結部とサブフレーム連結部とのうちの少なくとも一方の近傍には、トルクロッドを取り付けるときに、該トルクロッドの前端部あるいは後端部を前記パワープラント連結部あるいはサブフレーム連結部に案内する案内部が設けられているものとする。
【0021】
このものによると、トルクロッドをパワープラントと車体とに取り付けるときに、該トルクロッドの前端部又は後端部が、パワープラント及びサブフレームの連結部のうち少なくとも一方に対して案内部により案内されるため、トルクロッドの取り付けを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明に係るパワープラント支持構造によると、パワープラントをロール慣性主軸マウントとする場合に、トルクロッドをロール慣性主軸に対し周方向を向くように配置して、アイドル時のパワープラントからの上下振動の伝達を抑制して、乗員の乗り心地感を向上できる。さらに、前記トルクロッドを傾斜させて配置したことにより、例えば車両の発進時に、パワープラント上部の車体後方への変位を抑制することができ、ひいては乗員の乗り心地感をさらに向上できる。
【0023】
請求項2の発明によると、トルクロッドを車体上下方向から見て、パワープラントの重心を通る直線上に位置させることで、パワープラントに新たにヨーイング方向の振動が発生することを防止できる。
【0024】
請求項3の発明によると、車両の衝突時にトルクロッドが反転可能となることで、衝撃の吸収性を十分に高めることができる。
【0025】
請求項4の発明によると、サブフレーム部材をエンジンルームの下部に設けたので、衝突時にはパワープラントを車室の下方へ導いて、エンジンルームの車室側の壁部の下に潜り込ませ、より大きく後退させることができる。
【0026】
請求項5の発明によると、連結部の近傍に設けた案内部によりトルクロッドの取り付けが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る車体の前部構造を示す側面図である。
【図2】車体の前部構造を示す斜視図である。
【図3】車体の右側のフロントサイドフレーム等を省略した状態で車体の前部構造を示す側面図である。
【図4】車体の前部構造を示す正面図である。
【図5】車体の前部構造を示す平面図である。
【図6】トルクロッドの取り付け構造を示す斜視図である。
【図7】サブフレームブラケットの構造を示す斜視図である。
【図8】サブフレームブラケットの構造を示す正面図である。
【図9】衝突後の車体前部の状態を示す図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
図1及び図2は、本発明の実施形態に係る車両1の前部構造を示すものである。この車両1は、前側にパワープラント2を搭載し該パワープラント2によって前輪3を駆動するようにした、いわゆるフロントエンジンフロントドライブの車両である。すなわち、図1に示すように、車両1の略中央部に位置する車室4の前方に該車室4と隣接してエンジンルーム5が設けられ、該エンジンルーム5内に前記パワープラント2を搭載している。図2に示すように、このパワープラント2は、エンジンルーム5に搭載された状態で、車体後方から前方へ向かって見て、車体右側にエンジン6、車体左側に変速装置及び差動装置を収容したミッションケース7が配置されている。
【0030】
前記エンジンルーム5は、車室4の前側を仕切るように設けられたダッシュパネル10の前側に位置し、かつ該ダッシュパネル10の車体左右方向の両側からそれぞれ前方へ延びる一対のフロントサイドフレーム11、12に挟まれている。このダッシュパネル10は、車室4のフロアパネル13の前端縁部から上方へ延びるように形成され、その上端部は図示しないフロントウインドウ下部のカウル14に接続されている。また、前記一対のフロントサイドフレーム11、12は、それぞれ略矩形状の閉断面を有し、ダッシュパネル10の下端部から前方へ向かって上方へ傾斜して延び、該ダッシュパネル10の上下方向の略中央部に対応する位置まで達した後に、そこから略水平にパワープラント2の前端部よりも前方へ延びるように形成されている。さらに、この一対のフロントサイドフレーム11、12のそれぞれの前端部には、ラジエータを支持するラジエータサポート15が取り付けられている。また、エンジンルーム5の上部は、ボンネット17により覆われる一方、下部は開放されている。
【0031】
また、前記一対のフロントサイドフレーム11、12のそれぞれの前端部には、衝突時の衝撃により車体前後方向の圧縮荷重を受けて変形して、このことにより衝撃を吸収するクラッシュボックス18、19が取り付けられている。さらに、この左右両側のクラッシュボックス18、19の前端部には、フロントバンパー20の内部に位置するバンパーレインフォースメント21の車体左右方向の両端部がそれぞれ固定されている。
【0032】
さらに、前記一対のフロントサイドフレーム11、12の上方には、左右前輪3の車体内方側の上方を覆うようにそれぞれフェンダエプロン25、26が配設されている。このフェンダエプロン25、26は、下端部が前記フロントサイドフレーム11、12の上面に接続されており、このフロントサイドフレーム11、12の上面から上方へ延びるように形成されるとともに、後端部がダッシュパネル10の前面に接続されている。さらに、このフェンダエプロン25、26の上部には、左右前輪3を支持するサスペンション装置27(車体右側のみ図示する)の上端部が固定されるサスペンションタワー30、31がそれぞれ形成されている。
【0033】
次に、前記フロントサイドフレーム11、12の下方に位置するサブフレーム32について、図3〜図5に基づいて説明する。尚、図3は、車体16の前部側面図を示すものであり、また、図4及び図5は、それぞれ車体16の前部正面図及び平面図を示すものである。前記サブフレーム32は、鋼板製とされパワープラント2やサスペンションアーム33(車体右側のみ図示する)等を支持するものであり、図5に示すように全体として略矩形状の一体構造とされている。このサブフレーム32は、車体前後方向に延びる一対のサイドメンバ部35、36と、該一対のサイドメンバ部35、36のそれぞれの前端部に連続しかつ車体左右方向に略水平に延びるフロントメンバ部37とからなる。さらに、このサブフレーム32は、その後側に前記一対のサイドメンバ部35、36のそれぞれの後端側と接続されて車体左右方向に略水平に延びるサスペンションクロスメンバ部38を備えている。
【0034】
図3及び図5に示すように、前記サブフレーム32のサイドメンバ部35、36の前端は、前記パワープラント2よりも前方側に所定量オフセットした位置で前記一対のフロントサイドフレーム11、12にそれぞれ連結されている。一方、該サブフレーム32のサイドメンバ部35、36の後端は、前記パワープラント2よりも後方側の位置で前記一対のフロントサイドフレーム11、12にそれぞれ連結されている。
【0035】
前記サブフレーム32のフロントサイドフレーム11、12への取り付けについて、詳しくは、前記サブフレーム32の前側の左右の隅部には、該隅部の上面から車体外方へかつ前方へ向かって緩やかに傾斜しながら、上方へ突出するように取付ブラケット40、41が設けられている。この取付ブラケット40、41の下端部は、前記サブフレーム32に溶接される一方、上端部には、軸線が上下方向に延びる円筒部42、43が設けられ、この円筒部42、43の内側には円筒状のゴムブッシュ(図示せず)が嵌合されている。さらに、このゴムブッシュには、前記円筒部42、43と同軸に位置するようにパイプ部材(図示せず)が固着されており、そのパイプ部材を軸線方向に貫通するボルト48、49によって該パイプ部材の上端部がフロントサイドフレーム11、12に締結されるようになっている。
【0036】
一方、サブフレーム32の後側には、該サブフレーム32をフロントサイドフレーム11、12に取り付けるための取付部50、51が、サブフレーム32の車体左右方向の両側においてそれぞれサスペンションクロスメンバ部38の後端部より後方へ突出するように設けられている。この取付部50、51にも、前記したサブフレーム32の前側の取付ブラケット40、41の上端部と同様に円筒部52、53が設けられ、この円筒部52、53の内側にゴムブッシュ54、55が嵌合されている。そして、該ゴムブッシュ54、55にパイプ部材56、57が固着されていて、このパイプ部材56、57の上端部がフロントサイドフレーム11、12の下面に締結されるようになっている。
【0037】
また、図3に示すように、前記サブフレーム32のサイドメンバ部35、36は、それぞれ、後端部から車体前後方向の略中央部まで略水平に延びるように形成された後側の部材と、この後側の部材に溶接された前側の部材とからなり、この前側の部材は、溶接部分から略水平に延びてそこから前方へ向かって上方へ傾斜するように屈曲してさらにその傾斜方向に沿って前端まで延びている。
【0038】
次に、この車両1のパワープラント2の構成について説明する。このパワープラント2のエンジン6は、クランク軸が延びる方向に4つのシリンダが直線的に並ぶ直列4気筒のガソリンエンジンである。また、このエンジン6は、クランク軸が略車幅方向を向くように車体16に対して横置きとされ、図示しないが、エンジン6の出力は、クランク軸から変速装置の入力軸へ伝達され、該変速装置の出力軸から、左右のドライブシャフトに駆動力を伝えるリングギヤへと伝達される。該左右のドライブシャフトの車体内方側の端部とリングギヤとの間には差動装置が配設され、また、該左右のドライブシャフトの車体外方の端部には、それぞれ左右前輪3が配置されている。前記変速装置と差動装置とを収容したミッションケース7は、エンジン6のシリンダブロックの左側面に締結されている。
【0039】
このように構成されたパワープラント2は、エンジンルーム5においていわゆるロール慣性主軸マウントとされている。このロール慣性主軸は、図4及び図5に符号Xとして示すように、パワープラント2の重心Gを通り略車体左右方向に延びるものである。前記ロール慣性主軸マウントについて、詳しくは、パワープラント2の車体左右方向の両端部におけるロール慣性主軸Xの近傍をそれぞれ前記フロントサイドフレーム11、12に対して、一対のマウント部材60、61を介して弾性支持することにより、主にパワープラント2が発生する上下方向の振動を減衰させている。
【0040】
この一対のマウント部材60、61のうちの車体右側に位置するマウント部材61は、エンジン6のチェーンケースに固定されるエンジン側ブラケット62と、車体右側のフロントサイドフレーム12の上部に固定される車体側ブラケット63と、該エンジン側及び車体側ブラケット62、63の間に介在され、例えばゴム等の振動を減衰する部材とを備えるものである。一方、車体左側に位置するマウント部材60は、ミッションケース7の上面に固定されるミッション側ブラケット65と、車体左側のフロントサイドフレーム11の上面及び車体内方の側面に固定される車体側ブラケット66と、該ミッション側及び車体側ブラケット65、66の間に介在され、振動を減衰する部材とを備えるものである。
【0041】
一方、前記パワープラント2の下部には、該パワープラント2のロール慣性主軸X周りの揺動を規制するためのトルクロッド70が連結されている。このトルクロッド70の前端部は、前記パワープラント2のミッションケース7の下部に連結される一方、後端部は前記サブフレーム32のサスペンションクロスメンバ部38に連結されるようになっている。
【0042】
前記トルクロッド70の連結構造について、図6〜図8に基づいて詳しく説明する。尚、図6は、トルクロッド70の取り付け構造を示す斜視図であり、また、図7及び図8は、それぞれ、サブフレーム32のサスペンションクロスメンバ部38におけるトルクロッド70の連結部位近傍の斜視図及び正面図を示したものである。
【0043】
図6に示すように、前記パワープラント2のミッションケース7の下部には、前記ロール慣性主軸Xよりも後方の部位に、トルクロッド70の前端部を連結するパワープラントブラケット75が設けられている。このパワープラントブラケット75は、車体左右方向から見て、略三角形状とされた2枚の板状部材73,73と、該2枚の板状部材73,73の間に配置され、該2枚の板状部材73,73を互いに車体左右方向に所定距離だけ離間させるカラー部材74,74とを備えている。前記2枚の板状部材73,73は、1つの頂部が下方へ位置するように配置され、その状態で上側に位置する2つの頂部近傍が、該板状部材73,73と前記カラー部材74,74とを一緒に貫通する固定ボルト76,76によって、ミッションケース7のエンジン6側の側面部に設けられた固定部78に締結されている。
【0044】
そして、前記パワープラントブラケット75の2枚の板状部材73,73の下側に位置する頂部近傍には、車体左右方向から見て、略同心となるように形成された連結孔(パワープラント連結部)73a,73aがそれぞれ設けられ、詳細は後述するが、この2つの連結孔73a,73aとトルクロッド70の前端部とを一緒に貫通するボルト79によって、該トルクロッド70の前端部がパワープラントブラケット75に連結されている。この状態で、トルクロッド70の前端部は、車体上下方向から見て、パワープラント2の重心Gを通る直線上に配置されている(図5参照)。言い換えると、ミッションケース7の固定部78の形状は、トルクロッド70の前端部を前記重心Gを通る直線上に配置するように決定されている。
【0045】
一方、前記サブフレーム32のサスペンションクロスメンバ部38には、図6〜図8に示すように、トルクロッド70の後端部と連結するとともに前側が開放した略コ字形状のサブフレームブラケット80が設けられている。このサブフレームブラケット80の後面部80aは、前記サブフレーム32のサスペンションクロスメンバ部38の車体左右方向略中央部に取り付けられ、その後面部80aの車体左右方向の両端部からは、それぞれ前方へ向かって延びるとともに互いに平行な一対の側面部80b,80bが形成されている。その一対の側面部80b,80bには、それぞれ前記パワープラントブラケット75の連結孔73a,73aと略同形状の連結孔(サブフレーム連結部)80c,80cがそれぞれ設けられ、詳細は後述するが、このサブフレームブラケット80の連結孔80c,80cとトルクロッド70の後端部とを一緒に貫通するボルト81によって、該トルクロッド70の後端部がサブフレームブラケット80に連結されている。
【0046】
さらに、サブフレームブラケット80の一対の側面部80bの上部は、図8に示すように、それぞれ上端部に向かうほど互いに大きく離れるように傾斜した傾斜部が形成されている。また、図7に示すように、前記側面部80bは、前記連結孔80cの下側から前記傾斜部の下縁部に亘って、車体外方へ向かって窪んで、上方ほど車体前後方向の幅が広くなるように形成された浅い凹部80dを備えている。
【0047】
前記したサブフレームブラケット80との連結状態で、トルクロッド70の後端部は、車体上下方向から見て、パワープラント2の重心Gを通る直線上に配置されている(図5参照)。言い換えると、サブフレームブラケット80のサスペンションクロスメンバ部38に対する車体左右方向の配設位置は、トルクロッド70の後端部を前記重心Gを通る直線上に配置するように決定されている。
【0048】
また、前記サブフレームブラケット80の連結孔80c,80cは、前記パワープラントブラケット75の連結孔73a,73aよりも上方に位置しており、このことで、図3に示すように、トルクロッド70は、前記パワープラント2のロール慣性主軸2に対し周方向を指向し、かつ前端部が後端部に比べ下方に位置するように傾斜した状態で配置されるようになる。言い換えると、前記各連結孔73a、80cの位置は、トルクロッド70を前記の如く配置できるように決定されている。
【0049】
また、前記トルクロッド70の前傾の度合は、詳細については後述する車両1の衝突時に、前記サブフレーム32が下方に向かって折れ曲がって、パワープラントブラケット75が下方に変位することにより、パワープラント2に直接的に衝撃が作用する前に該トルクロッド70の前端部が後端部に比べて上方に位置する程度の傾斜状態とされている。
【0050】
次に、前記トルクロッド70の構造について詳細に説明すると、該トルクロッド70は、互いに直径の異なる2つの円筒部材82、85と、この両円筒部材82、85を軸線が車体左右方向に延びるように位置付けかつ互いに車体前後方向に所定距離だけ離して、一体的に連結する2枚のプレート部材90,90とからなる。該プレート部材90,90は、トルクロッド70の左側と右側とにそれぞれ設けられ、互いに車体左右方向に離間して略平行となるように配置され、その前端部に相対的に小径の円筒部材82が、また後端部に相対的に大径の円筒部材85がそれぞれプレート部材90,90を貫通して取り付けられている。また、この2つの円筒部材82、85のそれぞれの軸線の離間距離は、前記パワープラントブラケット75の連結孔73a,73a及び前記サブフレームブラケット80の連結孔80c,80cのそれぞれの中心部の離間距離と略同じとされている。
【0051】
前記2つの円筒部材82、85の内側には、それぞれ円筒状のゴムブッシュ86(円筒部材85のもののみ図示)が嵌合され、さらに該ゴムブッシュ86の中心部には、車体左右方向に貫通するようにそれぞれ略同形状のパイプ部材87(円筒部材85のもののみ図示)が固着されている。このパイプ部材87は、車体左右方向の長さがサブフレームブラケット側面部80b,80bの凹部80d,80dの車体左右方向の離間距離よりも若干、短くされ、内径は該両側面部80b,80bの連結孔80c,80cと略同径とされている。
【0052】
次に、このように構成されたトルクロッド70の組み付けについて説明する。まず、トルクロッド70の前端部をパワープラントブラケット75に連結する場合には、該パワープラントブラケット75の2枚の板状部材73、73の間にトルクロッド70の前端部を位置付け、このトルクロッド70前端部のパイプ部材の軸線と板状部材73,73の連結孔73a,73aの中心とを略一致させる。そして、該連結孔73a,73a及びパイプ部材を一緒に貫通する連結ボルト79とナット(図示せず)とによって、該パイプ部材を前記2枚の板状部材73,73に対して回動自在に連結する。
【0053】
また、トルクロッド70の後端部をサブフレームブラケット80に連結する場合には、まず、トルクロッド70の後端部をサブフレームブラケット80の両側面部80b,80b間の上方に位置付ける。そして、該トルクロッド70の後端部を下方へ移動させて、該側面部80b,80bの連結孔80c,80cの中心とパイプ部材87の軸線とを略一致させる。
【0054】
この際、前記したようにサブフレームブラケット80の側面部80b,80bの上部が車体外方へ開くように傾斜しているので、トルクロッド70後端部のパイプ部材87が前記連結孔80c,80cに対して相対的に車体左右方向へずれていても、前記連結孔80c,80cに対応する位置へ案内される。さらに、該側面部80b,80bの凹部80d,80dが上方ほどに幅広に形成されているので、トルクロッド70後端部のパイプ部材87が前記連結孔80c,80cに対して相対的に前後方向へずれていても、前記連結孔80c,80cに対応する位置へ案内される。つまり、サブフレームブラケット80の側面部80b,80bの傾斜部と凹部80d,80dとが、トルクロッド70後端部をサブフレーム連結部80c,80cに対応する位置へ案内する案内部となる。そして、前記連結孔80c,80c及び前記トルクロッド70の後端部のパイプ部材87を一緒に貫通する連結ボルト81とナット(図示せず)とによって、該パイプ部材87を前記サブフレームブラケット80の側面部80b,80bに対して回動自在に連結する。
【0055】
以上説明したように、この車両1では、パワープラント2のロール慣性主軸Xの近傍に配設した一対のマウント部材60、61によりパワープラント2の振動を減衰させ、かつトルクロッド70によりパワープラント2のロール方向の揺動を規制して、パワープラント2を支持することができる。
【0056】
すなわち、前記エンジン6のアイドル時には、トルク変動によりパワープラント2全体がロール慣性主軸Xの周りに揺動するが、この車両1ではトルクロッド70をロール慣性主軸Xに対し周方向へ向けているため、該パワープラント2の揺動に伴う上下方向の振動がトルクロッド70を介して車体16へ伝達されることはない。また、トルクロッド70の前端部と後端部とを、車体上下方向から見て、パワープラント2の重心Gを通る直線上に位置付けているので、該トルクロッド70からの反力によってパワープラント2に新たにヨーイング方向の振動が発生することもない。
【0057】
また、この車両1の発進時には、パワープラント2全体が上方へ変位しつつ、そのパワープラント2の上部が後方へ大きく変位しようとし、このときトルクロッド70の前端部はパワープラント2とともに上方に変位することになる。ここで、上述したように、トルクロッド70は前端側ほど下方へ傾斜するように配置されているので、該トルクロッド70の前端部は、上方への変位に伴い前方へも変位することになり、このようなトルクロッド70の前端部の変位によって、パワープラント全体が前方へ変位する。つまり、車両1の発進時には、トルクロッド70によりパワープラント2の上部の後方への変位を抑制することができるので、その分、マウント部材60、61の弾性係数を低くして乗員の乗り心地感を向上できる。
【0058】
次に、この車両1が正面衝突したときのトルクロッド70の作用について、図9に基づいて説明する。尚、図9は、衝突後の車体16の前部の状態を概略的に示す図3に相当するものである。
【0059】
まず、衝突時の衝撃により、クラッシュボックス(この図には示さない)が車体前後方向に変形して、その後、フロントサイドフレーム11、12はその中間部分が上側へ変位するように折れ曲がり、これに伴い、前記サブフレーム32のサイドメンバ部35、36はその前側部材と後側部材との溶接部分を起点として、該溶接部分が下側へ変位するように折れ曲がる。ここで、サブフレーム32の前側が上方へ傾斜しているので、サイドメンバ部35、36の溶接部分を確実に下側へ変位させることができる。
【0060】
そして、そのようにフロントサイドフレーム11、12とサブフレーム32
のサイドメンバ部35、36とが折れ曲がることにより、それらの車体前側の連結部分がパワープラント2とのオフセット分、後方へ変位して、前記した衝突による直接的な衝撃がパワープラント2に作用するよりも早く、前記サブフレームブラケット80の連結孔80c,80cが前記パワープラントブラケット75の連結孔73a,73aよりも下側に位置するようになる。このことで、パワープラント2が前記した衝突による直接的な衝撃を受けて後退するときには、トルクロッド70がその後端部周りに回動して、車体前後方向で反転する。つまり、トルクロッド70がパワープラント2の後退を妨げることがなくなり、このパワープラント2の後退による衝撃吸収性を十分に高めることができる。しかも、このときに、パワープラント2はトルクロッド70を介して下方へ導かれるため、ダッシュパネル10の下方に潜り込むことになり、該パワープラント2の後退量をより大きくできる。
【0061】
(他の実施形態)
尚、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他の種々の実施形態を包含するものである。すなわち、前記実施形態では、パワープラントブラケット75をミッションケース7に設けるようにしているが、これに限らず、例えばエンジン6のシリンダブロック等に設けるようにしてもよい。
【0062】
また、前記実施形態では、サブフレーム32の前側の部材と後側の部材との溶接部分を起点として該サブフレーム32が折れ曲がるようにしているが、これに限らず、この折れ曲がりの起点としては、例えば前記したサブフレーム32の屈曲部や、切り欠き等の脆弱部であってもよい。
【0063】
また、前記実施形態では、サブフレームブラケット80の側面部80b,80bに、トルクロッド70の後端部を連結孔80c,80cに対応する位置へ案内する案内部を設けているが、パワープラントブラケット75に、トルクロッド70の前端部を連結孔73a,73aに対応する位置へ案内する案内部を設けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明にかかるパワープラント支持構造は、例えば、車両のパワープラントを支持する場合に適用できる。
【符号の説明】
【0065】
2 パワープラント
4 車室
5 エンジンルーム
6 エンジン
11、12 フロントサイドフレーム
16 車体
32 サブフレーム
60、61 マウント部材
70 トルクロッド
73a 連結孔(パワープラント連結部)
80c 連結孔(サブフレーム連結部)
80d 凹部(案内部)
X ロール慣性主軸
G 重心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の車体前方側に設けられたエンジンルーム内に、エンジンの出力軸が車幅方向を指向するように配設されたパワープラントを3つの部材を介して支持したパワープラント支持構造において、
前記パワープラントの車幅方向両端部におけるロール慣性主軸の近傍をそれぞれ前記エンジンルーム構成部材に対して支持する一対のマウント部材と、
車体前後方向に延びるように配設され、前端部がパワープラント連結部に回動自在に連結される一方、後端部が車体に回動自在に連結されたトルクロッドとを備え、
前記トルクロッドは、その長手方向が前記ロール慣性主軸に対し周方向となるように、かつ該トルクロッドの前端部が後端部よりも車体下方に位置するように傾斜した状態で設けられていることを特徴とするパワープラント支持構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記トルクロッドの前端部と後端部とが、車体上下方向から見て、パワープラントの重心を通る車体前後方向の直線上に配置されていることを特徴とするパワープラント支持構造。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前端部が前記パワープラントよりも車体前方側に所定量オフセットした位置でエンジンルーム構成部材に連結され、後端部が前記パワープラントよりも車体後方側の位置でエンジンルーム構成部材に連結されたサブフレーム部材が設けられ、
前記トルクロッドの後端部は、前記サブフレーム部材に設けられたサブフレーム連結部に回動自在に連結され、
前記サブフレーム部材は、車体前後方向の衝撃を受けて変形するときに車体下方に折れ曲がり、前端部が前記オフセット分、車体後方に変形してパワープラントが後退し始める前に、前記サブフレーム連結部を前記パワープラント連結部よりも車体下方に位置付けるように構成されていることを特徴とするパワープラント支持構造。
【請求項4】
請求項3において、
前記サブフレーム部材は、前記エンジンルームの下部に設けられていることを特徴とするパワープラント支持構造。
【請求項5】
請求項3又は4において、
前記パワープラント連結部とサブフレーム連結部とのうちの少なくとも一方の近傍には、トルクロッドを取り付けるときに、該トルクロッドの前端部あるいは後端部を前記パワープラント連結部あるいはサブフレーム連結部に案内する案内部が設けられていることを特徴とするパワープラント支持構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−274912(P2010−274912A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153059(P2010−153059)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【分割の表示】特願2000−401070(P2000−401070)の分割
【原出願日】平成12年12月28日(2000.12.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】