説明

パワーモジュール用基板、パワーモジュール用基板の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール

【課題】熱サイクル負荷時において、回路層の表面にうねりやシワが発生することを抑制でき、かつ、セラミックス基板と回路層との接合界面に熱応力が作用することを抑制でき、熱サイクル信頼性に優れたパワーモジュール用基板を提供する。
【解決手段】セラミックス基板11の一面に、アルミニウムからなる回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10であって、回路層12は、本体層12Bと、前記一方の面側に露呈するように配置された表面硬化層12Aと、を有しており、回路層12の前記一方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm以上200mgf/μm以下の範囲内に設定され、このインデンテーション硬度Hsの80%以上の領域が表面硬化層12Aとされており、本体層12Bのインデンテーション硬度Hbが、前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体素子等の電子部品が搭載される回路層を備えたパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワー素子は発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、特許文献1に示すように、AlN(窒化アルミ)からなるセラミックス基板上に、回路層となるAl(アルミニウム)の金属板がAl−Si系のろう材を介して接合されたパワーモジュール用基板が広く用いられている。
また、例えば特許文献2−4に示すように、セラミックス基板の上にアルミニウム合金部材を溶湯接合法によって接合して回路層を形成したパワーモジュール用基板が提案されている。
このようなパワーモジュール用基板においては、回路層の上に、はんだ層を介してパワー素子としての半導体素子が搭載され、パワーモジュールとして使用される。
【0003】
ここで、上述のパワーモジュールにおいては、使用時に熱サイクルが負荷されることになる。すると、セラミックス基板とアルミニウムとの熱膨張係数の差による応力がセラミックス基板と回路層との接合界面に作用し、接合信頼性が低下するおそれがある。そこで、従来は、純度が99.99%以上の4Nアルミニウム等の比較的変形抵抗の小さなアルミニウムで回路層を構成して熱応力を回路層の変形によって吸収することで、接合信頼性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−328087号公報
【特許文献2】特開2002−329814号公報
【特許文献3】特開2005−252136号公報
【特許文献4】特開2007−092150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回路層を純度が99.99%以上(4Nアルミニウム)等の比較的変形抵抗の小さなアルミニウムで構成した場合、熱サイクルを負荷した際に、回路層の表面にうねりやシワが発生してしまうといった問題があった。このように回路層の表面にうねりやシワが発生すると、はんだ層にクラックが発生してしまうため、パワーモジュールの信頼性が低下することになる。
特に、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、半導体素子等の電子部品からの発熱量が大きくなっているため、熱サイクルの温度差が大きく、回路層の表面にうねりやシワが発生するおそれがある。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、熱サイクル負荷時において、回路層の表面にうねりやシワが発生することを抑制でき、かつ、セラミックス基板と回路層との接合界面に熱応力が作用することを抑制でき、熱サイクル信頼性に優れたパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板は、セラミックス基板の一面に、アルミニウムからなる回路層が配設され、この回路層の一方の面上に電子部品が配設されるパワーモジュール用基板であって、前記回路層は、本体層と、前記一方の面側に露呈するように配置された表面硬化層と、を有しており、前記回路層の前記一方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm以上200mgf/μm以下の範囲内に設定され、前記回路層のうち、前記インデンテーション硬度Hsの80%以上のインデンテーション硬度を有する領域が前記表面硬化層とされており、前記表面硬化層は、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、前記本体層のインデンテーション硬度Hbが、前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされていることを特徴としている。
【0008】
なお、本発明におけるインデンテーション硬度Hとは、バーコビッチ圧子と呼ばれる稜間角が114.8°以上115.1°以下の三角錐ダイヤモンド圧子を用いて試験荷重を5000mgfとして負荷をかけた際の荷重―変位の相関を計測し、
H=37.926×10−3×(荷重〔mgf〕÷変位〔μm〕
の式で定義されるものである。
【0009】
この構成のパワーモジュール用基板によれば、回路層のうち、はんだ層が形成される回路層の一方の面側に表面硬化層が形成されており、この表面硬化層のインデンテーション硬度が、前記回路層の前記一方の面におけるインデンテーション硬度Hs(50mgf/μm以上200mgf/μm以下)の80%以上に設定されているので、回路層の一方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。
なお、前記表面硬化層がZr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しているので、これらの添加元素によってアルミニウムを硬化させることで前記表面硬化層を形成することが可能となる。
【0010】
また、回路層は、インデンテーション硬度Hbが、前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた本体層を有しているので、この本体層では、変形抵抗が比較的小さくなる。よって、熱サイクル負荷時の熱応力をこの本体層の変形によって吸収することが可能となり、セラミックス基板と回路層との接合信頼性を向上させることができる。
【0011】
ここで、前記表面硬化層の厚さが1μm以上300μm以下とされており、前記本体層の厚さが100μm以上1500μm以下とされていることが好ましい。
この場合、表面硬化層の厚さが1μm以上300μm以下とされていることから、回路層の一方の面にうねりやシワが発生することを確実に防止することができる。また、本体層の厚さが100μm以上1500μm以下とされているので、熱サイクル負荷時の熱応力を本体層で確実に吸収することができる。
【0012】
また、前記表面硬化層における前記添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされていることが好ましい。
この場合、表面硬化層が、上述の添加元素を合計で0.2atom%以上10atom%以下含有していることから、これらの添加元素によって確実にアルミニウムを硬化させることができ、前述のインデンテーション硬度を有する表面硬化層を形成することが可能となる。
【0013】
さらに、前記セラミックス基板がAlN,Si又はAlで構成されていることが好ましい。
この場合、セラミックス基板が絶縁性に優れていることから、絶縁信頼性の高いパワーモジュール用基板を提供することができる。
【0014】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、前述のパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記回路層となる金属板の前記一方の面に、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、前記回路層を加熱して、前記回路層の内部に向けて前記添加元素を拡散させることにより、前記回路層の前記一方の面に表面硬化層を形成する加熱工程と、を備えていることを特徴としている。
【0015】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、加熱工程において、回路層の一方の面に形成された固着層に含有されるZr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を回路層の内部へと拡散させることにより、回路層の一方の面側の添加元素濃度が高く、一方の面から離れるに従い添加元素濃度が低くなる。そして、この添加元素の濃度分布によって、回路層の一方の面側に表面硬化層が形成され、この表面硬化層に積層するように本体層が形成されることになる。よって、表面硬化層と本体層とを備えたパワーモジュール用基板を製造することができる。
【0016】
また、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、前述のパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記回路層となる金属板の一方の面に、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、前記金属板の他方の面側に、ろう材を介して前記セラミックス基板を積層する積層工程と、積層された前記セラミックスと前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、前記固着層の前記添加元素を、前記回路層の内部に向けて拡散させることにより、前記回路層の前記一方の面に表面硬化層を形成することを特徴としている。
【0017】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、前記金属板と前記セラミックス基板とをろう付けするための加熱工程において、金属板の一方の面側に固着されたZr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を拡散させて表面硬化層を形成することができる。よって、表面硬化層を形成するために別途加熱処理を行う必要がなく、このパワーモジュール用基板の製造コストを削減することができる。
【0018】
さらに、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、前述のパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記回路層となる金属板の一方の面に、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、前記金属板の他方の面又は前記セラミックス基板の一面のうちの少なくとも一方に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca及びLiから選択される1種又は2種以上の第2添加元素を固着して第2固着層を形成する第2固着工程と、前記第2固着層を介して、前記セラミックス基板と前記金属板とを積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、前記固着層の前記添加元素を、前記回路層の内部に向けて拡散させることにより、前記回路層の前記一方の面に表面硬化層を形成することを特徴としている。
【0019】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、加熱工程によってSi,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca及びLiから選択される1種又は2種以上の第2添加元素を拡散させて溶融金属領域を形成し、前記金属板と前記セラミックス基板とを接合することで回路層を形成することができる。また、この加熱工程において、金属板の一方の面側に固着されたZr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を拡散させて表面硬化層を形成することができる。よって、表面硬化層を形成するために別途加熱処理を行う必要がなく、このパワーモジュール用基板の製造コストを削減することができる。
【0020】
また、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、前述のパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記回路層となる金属板の一方の面に、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、前記金属板の他方の面又は前記セラミックス基板の一面のうちの少なくとも一方に、Si,Cu,Ag及びGeから選択される1種又は2種以上の第2添加元素と、Ti,Zr,Hf,Ta,Nb及びMoから選択される1種又は2種以上の活性元素と、を固着し、これら第2添加元素及び活性元素を含有する第2固着層を形成する第2固着工程と、前記第2固着層を介して、前記セラミックス基板と前記金属板とを積層する積層工程と、積層された前記セラミックスと前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、前記金属板に前記添加元素を拡散させることにより、前記金属板の表層に金属硬化層を形成することを特徴としている。
【0021】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、加熱工程によって、Si,Cu,Ag及びGeから選択される1種又は2種以上の第2添加元素と、Ti,Zr,Hf,Ta,Nb及びMoから選択される1種又は2種以上の活性元素とを拡散させて溶融金属領域を形成し、前記金属板と前記セラミックス基板とを接合することで回路層を形成することができる。特に、前記第2添加元素は、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、比較的低温条件において、金属板とセラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成することができる。
また、この加熱工程において、金属板の一方の面側に固着されたZr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を拡散させて表面硬化層を形成することができる。よって、表面硬化層を形成するために別途加熱処理を行う必要がなく、このパワーモジュール用基板の製造コストを削減することができる。
【0022】
ここで、前記固着工程では、前記添加元素とともにAlを固着させることが好ましい。
この場合、前記添加元素とともにAlを固着させているので、添加元素を確実に固着されることができる。なお、前記添加元素とともにAlを固着させるには、前記添加元素とAlとを同時に蒸着してもよいし、前記添加元素とAlの合金をターゲットとして用いてスパッタリングを行ってもよい。
【0023】
また、前記固着工程は、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、前記添加元素を含有する粉末が分散されたペースト若しくはインクの塗布によって前記添加元素を固着し、前記固着層を形成することが好ましい。
この場合、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、前記添加元素を含有する粉末が分散されたペースト若しくはインクの塗布によって、前記添加元素を前記金属板の一方の面に確実に固着でき、前述の固着層を形成することができる。また、前記添加元素の固着量を精度良く調整することが可能となる。
【0024】
また、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、前述のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴としている。
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板によれば、パワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクを備えているので、パワーモジュール用基板に発生した熱をヒートシンクによって効率的に冷却することができる。
【0025】
さらに、本発明のパワーモジュールは、前述のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴としている。
この構成のパワーモジュールによれば、セラミックス基板と回路層との接合強度が高く、かつ、回路層と半導体素子との間に形成されたはんだ層におけるクラックの発生を抑制できるので、使用環境が厳しい場合であっても、その信頼性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、熱サイクル負荷時において、回路層の表面にうねりやシワが発生することを抑制でき、かつ、セラミックス基板と回路層との接合界面に熱応力が作用することを抑制でき、熱サイクル信頼性に優れたパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図5】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図6】図5における金属板とセラミックス基板との接合界面近傍を示す説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板を示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層(金属層)とセラミックス基板との接合界面を示す拡大説明図である。
【図10】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図11】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図12】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板を示す説明図である。
【図13】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図14】本発明の第4の実施形態であるパワーモジュール用基板を示す説明図である。
【図15】本発明の第4の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図16】本発明の第5の実施形態であるパワーモジュール用基板を示す説明図である。
【図17】本発明の第5の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク40とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0029】
パワーモジュール用基板10は、図1及び図2に示すように、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一面(図1及び図2において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他面(図1及び図2において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0030】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。なお、本実施形態では、図1及び図2に示すように、セラミック基板11の幅は、回路層12及び金属層13の幅より広く設定されている。
【0031】
回路層12は、図5に示すように、セラミックス基板11の一面(図5において上面)に、導電性を有する金属板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板22がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
【0032】
金属層13は、図5に示すように、セラミックス基板11の他面(図5において下面)に、金属板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、回路層12と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0033】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、図1に示すように、天板部41と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路42とを備えている。ヒートシンク40(天板部41)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
また、本実施形態においては、ヒートシンク40の天板部41と金属層13との間には、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層15が設けられている。
【0034】
そして、図2に示すように、回路層12は、その一方の面(図2おいて上面)側に配設された表面硬化層12Aと、この表面硬化層12Aの他方の面側に位置する本体層12Bと、を備えている。
表面硬化層12Aは、回路層12の一方の面に露呈し、この一方の面から他方の面側(図2において下側)に向けて延在しており、回路層12の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsに対して80%以上のインデンテーション硬度を有する領域である。ここで、本実施形態では、回路層12の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm以上200mgf/μm以下の範囲内に設定されている。
本体層12Bは、そのインデンテーション硬度Hbが前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた領域となる。
【0035】
なお、本実施形態では、回路層12のうちセラミックス基板11との接合界面近傍には、そのインデンテーション硬度Hcが本体層12Bのインデンテーション硬度Hbよりも高くされた界面近傍層12Cが形成されている。
ここで、本実施形態では、表面硬化層12Aの厚さtsが1μm以上300μm以下とされ、本体層12Bの厚さtbが100μm以上1500μm以下、界面近傍層12Cの厚さtcが50μm以上300μm以下とされている。
【0036】
また、表面硬化層12Aは、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされている。なお、本実施形態では、添加元素としてZrを0.2atom%以上10atom%以下含有している。
回路層12においては、図3に示すように、その一方の面が最も添加元素の含有量が高くなっており、他方の面側に向かうにしたがい含有量が低くなるように構成されている。この添加元素によって回路層12の一部が硬化され、上述の表面硬化層12Aが形成されているのである。
【0037】
一方、本体層12Bでは、図3に示すように、添加元素の含有量が少ないことからAlの純度が高く、変形抵抗が小さいままである。
なお、セラミックス基板11側に位置する界面近傍層12Cにおいては、セラミックス基板11と金属板22との接合において利用される元素が拡散することで、本体層12BよりもAlの純度が低くなっている。
【0038】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板10の製造方法について、図4から図6を参照して説明する。
【0039】
(固着工程S01)
まず、図5に示すように、回路層12となる金属板22の一方の面に、スパッタリングによって、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層22Aを形成する。
本実施形態では、添加元素としてZrを固着しており、その固着量を0.002mg/cm以上0.15mg/cm以下に設定している。
【0040】
(積層工程S02)
次に、図5に示すように、セラミックス基板11の一面側に、回路層12となる金属板22(4Nアルミニウムの圧延板)が、厚さ5〜50μm(本実施形態では14μm)のろう材箔24を介して積層され、セラミックス基板11の他面側に、金属層13となる金属板23(4Nアルミニウムの圧延板)が厚さ5〜50μm(本実施形態では14μm)のろう材箔25を介して積層される。このとき、金属板22は、固着層22Aが形成された面とは反対の面がセラミックス基板11側を向くように積層される。このようにして積層体20を形成する。
なお、本実施形態においては、ろう材箔24、25は、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系のろう材とされている。
【0041】
(加熱工程S03)
次に、積層工程S02において形成された積層体20を、その積層方向に加圧(圧力1〜5kgf/cm)した状態で加熱炉内に装入して加熱する。この加熱工程S03によって、ろう材箔24、25と金属板22、23の一部とが溶融し、図6に示すように、金属板22、23とセラミックス基板11との界面にそれぞれ溶融金属領域26、27が形成される。ここで、加熱温度は550℃以上650℃以下、加熱時間は30分以上180分以下とされている。
また、この加熱工程S03により、金属板22の固着層22Aに含有された添加元素(本実施形態ではZr)が金属板22の他方の面側に向けて拡散していく。
【0042】
(凝固工程S04)
次に、積層体20を冷却することによって溶融金属領域26、27を凝固させ、セラミックス基板11と金属板22及び金属板23とを接合する。このとき、ろう材箔24、25に含まれる融点降下元素(Si)が金属板22、23側へと拡散していくことになる。
【0043】
このようにして、回路層12及び金属層13となる金属板22、23とセラミックス基板11とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
また、回路層12においては、固着層22Aに含有された添加元素が拡散することで表面硬化層12A及び本体層12Bが形成される。また、ろう材箔24に含まれるSiが拡散することで接合近傍層12Cが形成される。
【0044】
そして、このパワーモジュール用基板10の金属層13の他方の面側に、緩衝層15を介してヒートシンク40がろう付け等によって接合され、ヒートシンク付パワーモジュール用基板が形成される。また、回路層12の表面にはんだ層2を介して半導体チップ3を搭載することで本実施形態であるパワーモジュール1が製出される。
【0045】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10及びパワーモジュール用基板の製造方法においては、回路層12の一方の面側に、表面硬化層12Aが形成されており、回路層12の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm以上200mgf/μm以下の範囲内に設定され、このインデンテーション硬度Hsの80%以上の領域が表面硬化層12Aとされているので、回路層12の一方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。
【0046】
また、回路層12は、インデンテーション硬度Hbが前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた本体層12Bを有しているので、この本体層12Bでは変形抵抗が比較的小さく、熱サイクル負荷時の熱応力をこの本体層12Bの変形によって吸収することが可能となる。よって、セラミックス基板11と回路層12との接合信頼性を向上させることができる。
【0047】
さらに、表面硬化層12Aの厚さが1μm以上300μm以下とされていることから、回路層12の一方の面にうねりやシワが発生することを確実に防止することができる。さらに、本体層12Bの厚さが100μm以上1500μm以下とされているので、熱サイクル負荷時の熱応力を本体層12Bで確実に吸収することができる。
よって、熱サイクル負荷時において、回路層12の表面のうねりやシワの発生を抑制でき、はんだ層2におけるクラックの発生を抑制できる。また、セラミックス基板11と回路層12との接合界面に熱応力が作用することを抑制でき、熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0048】
この表面硬化層12Aにおいては、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされており、本実施形態では、添加元素としてZrを0.2atom%以上10atom%以下含有しているので、この添加元素によって金属板22を硬化させることができ、回路層12の一方の面におけるインデンテーション硬さHsを50mgf/μm以上200mgf/μm以下の範囲内にすることができる。
【0049】
また、回路層12となる金属板22の一方の面に、スパッタリングによって、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素(本実施形態ではZr)を含有する固着層22Aを形成し、この金属板22(回路層12)を加熱することで添加元素を拡散させているので、回路層12の一方の面側において添加元素の含有量が高くなり、上述した表面硬化層12Aを形成することができる。また、添加元素の含有量は、一方の面から離れるに従い低くなることから、表面硬化層12Aに積層されるように、上述の本体層12Bが形成されることになる。
【0050】
ここで、本実施形態では、セラミックス基板11と金属板22、23をろう付けする加熱工程S03において固着層22Aの添加元素を拡散させているので、特別な熱処理工程を行う必要がなく、このパワーモジュール用基板10の製造コストを低く抑えることができる。
【0051】
次に、本発明の第2の実施形態について図7から図11を参照して説明する。
このパワーモジュール101は、回路層112が配設されたパワーモジュール用基板110と、回路層112の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク140とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層112とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0052】
パワーモジュール用基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(図7において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(図7において下面)に配設された金属層113とを備えている。
セラミックス基板111は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものである。本実施形態では、セラミックス基板111は絶縁性の高いAl(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板111の厚さは、0.2〜0.8mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0053】
図11に示すように、回路層112は、セラミックス基板111の一方の面に導電性を有する金属板122が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層112は、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板122がセラミックス基板111に接合されることにより形成されている。
また、金属層113は、セラミックス基板111の他方の面に金属板123が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113は、回路層112と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板123がセラミックス基板111に接合されることで形成されている。
【0054】
ヒートシンク140は、前述のパワーモジュール用基板110を冷却するためのものであり、図7に示すように、パワーモジュール用基板110と接合される天板部141を備えている。本実施形態では、この天板部141の下方側に、コルゲートフィン146と底板部145とが配設されており、これら天板部141、コルゲートフィン146及び底板部145によって、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路142が画成されている。
なお、ヒートシンク140(天板部141)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A3003(アルミニウム合金)で構成されている。
【0055】
そして、図8に示すように、回路層112は、その一方の面(図8おいて上面)側に配設された表面硬化層112Aと、この表面硬化層112Aの他方の面側に位置する本体層112Bと、を備えている。
表面硬化層112Aは、回路層112の一方の面に露呈し、この一方の面から他方の面側(図8において下側)に向けて延在しており、回路層112の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsに対して80%以上のインデンテーション硬度を有する領域である。ここで、本実施形態では、回路層112の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm以上200mgf/μm以下の範囲内に設定されている。
本体層112Bは、そのインデンテーション硬度Hbが前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた領域となる。
【0056】
なお、本実施形態では、回路層112のうちセラミックス基板111との接合界面近傍には、そのインデンテーション硬度Hcが本体層112Bのインデンテーション硬度Hbよりも高くされた界面近傍層112Cが形成されている。
ここで、本実施形態では、表面硬化層112Aの厚さtsが1μm以上300μm以下とされ、本体層112Bの厚さtbが100μm以上1500μm以下、界面近傍層112Cの厚さtcが50μm以上300μm以下とされている。
【0057】
また、表面硬化層112Aは、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされている。なお、本実施形態では、添加元素としてZrを0.2atom%以上10atom%以下含有している。
【0058】
回路層112においては、その一方の面が最も添加元素の含有量が高くなっており、他方の面側に向かうにしたがい含有量が低くなるように構成されている。この添加元素によって回路層112の一部が硬化され、上述の表面硬化層112Aが形成されているのである。
一方、本体層112Bでは、上述の添加元素の含有量が少ないことからAlの純度が高く、変形抵抗が小さいままである。
【0059】
なお、セラミックス基板111側に位置する界面近傍層112Cにおいては、セラミックス基板111と金属板122との接合において利用される元素が拡散することで、本体層よりもAlの純度が低くなっている。
詳述すると、界面近傍層112Cにおいては、Si、Cu、Ag及びGeから選択される1種又は2種以上の第2添加元素が固溶している。ここで、この界面近傍層112Cの接合界面側の前記第2添加元素濃度の合計が、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
【0060】
本実施形態では、CuとGeを第2添加元素として用いており、界面近傍層112CのCu濃度が0.05質量%以上1質量%以下、Ge濃度が0.05質量%以上1質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、界面近傍層112Cの前記第2添加元素濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)で、接合界面から50μmまでの範囲内を5点測定した平均値である。このEPMA分析では、スポット径の全体が接合界面から50μmまでの範囲内に入るようにして分析を実施した。
【0061】
また、セラミックス基板111と回路層112(金属板122)との接合界面130には、Ti,Zr,Hf,Ta,Nb及びMoから選択される1種又は2種以上の活性元素が介在している。なお、本実施形態では、活性元素としてHfが介在している。
ここで、接合界面130部分には、図9に示すように活性金属であるHfと酸素とを含む酸素化合物からなる酸化物層132が形成されている。この酸化物層132は、活性金属であるHfとAlからなるセラミック基板111の酸素とが反応することによって生じたものである。この酸化物層132の厚さHは、例えば0.1μm以上5μm以下とされている。
【0062】
なお、本実施形態では、金属層113となる金属板123とセラミックス基板111との接合についても、回路層112となる金属板122とセラミックス基板111と同様に行われており、接合界面部分に酸化物層が形成されており、金属層113の接合界面近傍にも第2添加元素が固溶している。
【0063】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板110の製造方法について、図10及び図11を参照して説明する。
【0064】
(第1固着工程S11)
まず、図11に示すように、回路層112となる金属板122の一方の面に、スパッタリングによって、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層122Aを形成する。
本実施形態では、添加元素としてZrを固着しており、その固着量を0.002mg/cm以上0.15mg/cm以下に設定している。
【0065】
(第2固着工程S12)
次に、金属板122、123のそれぞれの接合面に、スパッタリングによって、第2添加元素であるCu及びGe、並びに、活性元素であるHfを固着し、第2固着層124、125を形成する。
本実施形態では、第2固着層124、125におけるCu量は0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下、Ge量は0.002mg/cm以上2.5mg/cm以下、Hf量は0.1mg/cm以上6.7mg/cm以下に設定されている。
【0066】
(積層工程S13)
次に、金属板122をセラミックス基板111の一方の面側に積層し、かつ、金属板123をセラミックス基板111の他方の面側に積層する。このとき、図11に示すように、金属板122、123のうち第2固着層124、125形成された面がセラミックス基板111を向くように積層する。すなわち、金属板122、123とセラミックス基板111との間に第2固着層124、125を介在させているのである。このようにして積層体120を形成する。
【0067】
(加熱工程S14)
次に、積層工程S13において形成された積層体120を、その積層方向に加圧(圧力1〜5kgf/cm)した状態で加熱炉内に装入して加熱し、金属板122、123とセラミックス基板111との界面にそれぞれ溶融金属領域を形成する。この溶融金属領域1は、第2固着層124、125のCu及びGeが金属板122、123側に拡散することによって、金属板122、123の第2固着層124、125近傍のCu濃度、Ge濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
【0068】
このとき、活性金属であるHfは、セラミックス基板111を構成するAlと反応し、Hfと酸素とを含む酸素化合物(例えばHfO)が生成し、酸化物層132が形成されることになる。
また、この加熱工程S14により、金属板122の固着層122Aに含有された添加元素(本実施形態ではZr)が金属板122の他方の面側に向けて拡散していく。
なお、本実施形態では、加熱炉内の雰囲気をNガス雰囲気としており、加熱温度は、550℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0069】
(凝固工程S15)
次に、溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域中のCu、Geが、さらに金属板122、123側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域であった部分のCu濃度、Ge濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、セラミックス基板111と金属板122、123とは、いわゆる等温拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0070】
このようにして、回路層112及び金属層113となる金属板122、123とセラミックス基板111とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板110が製造される。
また、回路層112においては、固着層122Aに含有された添加元素が拡散することで表面硬化層112A及び本体層112Bが形成される。また、第2固着層124に含まれるCu及びGeが拡散することで接合近傍層112Cが形成される。
【0071】
そして、このパワーモジュール用基板110の金属層113の他方の面側に、ヒートシンク140がろう付け等によって接合され、ヒートシンク付パワーモジュール用基板が形成される。また、回路層112の表面にはんだ層2を介して半導体チップ3を搭載することで本実施形態であるパワーモジュール101が製出される。
【0072】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板110及びパワーモジュール101においては、回路層112の一方の面に表面硬化層112Aが形成されているので、回路層112の一方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。また、回路層112に、前述の表面硬化層112Aよりもインデンテーション硬度が低い本体層112Bを有しているので、熱サイクル負荷時の熱応力をこの本体層112Bの変形によって吸収することが可能となる。よって、セラミックス基板111と回路層112との接合信頼性を向上させることができる。
【0073】
また、本実施形態では、金属板122、123の接合面に第2添加元素としてCu、Geを固着させる第2固着工程S12を備えているので、金属板122、123とセラミックス基板111の接合界面130には、Cu及びGeが介在することになる。
そして、セラミックス基板111がAlで構成されており、金属板122,123とセラミックス基板111との接合界面130に、活性元素としてHfが介在しており、より具体的には、接合界面130にHfと酸素とを含む酸素化合物からなる酸化物層132が形成されているので、この酸化物層132によってセラミックス基板111と金属板122,123との接合強度の向上を図ることができる。なお、この酸化物層132は、活性元素であるHfとセラミックス基板111の酸素との反応によって生成していることからセラミックス基板111との接合強度は極めて高い。
【0074】
また、本実施形態では、セラミックス基板111と金属板122、123との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程S14において、固着層122Aの添加元素を拡散させているので、特別な熱処理工程を行う必要がなく、このパワーモジュール用基板110の製造コストを低く抑えることができる。
【0075】
次に、本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板について図12及び図13を用いて説明する。
本実施形態であるパワーモジュール用基板210は、セラミックス基板211と、このセラミックス基板211の一方の面(図12において上面)に配設された回路層212と、セラミックス基板211の他方の面(図12において下面)に配設された金属層213とを備えている。
【0076】
セラミックス基板211は、回路層212と金属層213との間の電気的接続を防止するものである。本実施形態では、セラミックス基板211は絶縁性の高いSi(窒化珪素)で構成されている。また、セラミックス基板211の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0077】
回路層212は、セラミックス基板211の一方の面に導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層212は、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板がセラミックス基板211に接合されることにより形成されている。
金属層213は、セラミックス基板211の他方の面に金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層213は、回路層212と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板がセラミックス基板211に接合されることで形成されている。
【0078】
そして、図12に示すように、回路層212は、その一方の面(図12おいて上面)側に配設された表面硬化層212Aと、この表面硬化層212Aの他方の面側に位置する本体層212Bと、を備えている。
表面硬化層212Aは、回路層212の一方の面に露呈し、この一方の面から他方の面側(図12において下側)に向けて延在しており、回路層212の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsに対して80%以上のインデンテーション硬度を有する領域である。ここで、本実施形態では、回路層212の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm以上200mgf/μm以下の範囲内に設定されている。
本体層212Bは、そのインデンテーション硬度Hbが前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた領域となる。
【0079】
なお、本実施形態では、回路層212のうちセラミックス基板211との接合界面近傍には、そのインデンテーション硬度Hcが本体層212Bのインデンテーション硬度Hbよりも高くされた界面近傍層212Cが形成されている。
ここで、本実施形態では、表面硬化層212Aの厚さtsが1μm以上300μm以下とされ、本体層212Bの厚さtbが100μm以上1500μm以下、界面近傍層212Cの厚さtcが50μm以上300μm以下とされている。
【0080】
また、表面硬化層212Aは、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされている。なお、本実施形態では、添加元素としてZrを0.2atom%以上10atom%以下含有している。
【0081】
回路層212においては、その一方の面が最も添加元素の含有量が高くなっており、他方の面側に向かうにしたがい含有量が低くなるように構成されている。この添加元素によって回路層212の一部が硬化され、上述の表面硬化層212Aが形成されているのである。
一方、本体層212Bでは、上述の添加元素の含有量が少ないことからAlの純度が高く、変形抵抗が小さいままである。
【0082】
なお、セラミックス基板211側に位置する界面近傍層212Cにおいては、セラミックス基板211と金属板との接合において利用される元素が拡散することで、本体層212BよりもAlの純度が低くなっている。
詳述すると、界面近傍層212Cにおいては、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca及びLiから選択される1種又は2種以上の第2添加元素が固溶している。ここで、この界面近傍層212Cの前記第2添加元素濃度の合計が、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
【0083】
本実施形態では、Si及びCuを第2添加元素として用いており、界面近傍層212CのSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下、Cu濃度が0.05質量%以上1質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、界面近傍層212Cの前記第2添加元素濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)で、接合界面から50μmまでの範囲内を5点測定した平均値である。このEPMA分析では、スポット径の全体が接合界面から50μmまでの範囲内に入るようにして分析を実施した。
【0084】
なお、本実施形態では、金属層213となる金属板とセラミックス基板211との接合についても、回路層212となる金属板とセラミックス基板211と同様に行われており、金属層213の接合界面近傍にも第2添加元素が固溶している。
【0085】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板210の製造方法について、図13のフロー図を参照して説明する。
【0086】
(第1固着工程S21)
まず、回路層212となる金属板の一方の面に、スパッタリングによって、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する。
本実施形態では、添加元素としてZrを固着しており、その固着量を0.002mg/cm以上0.15mg/cm以下に設定している。
【0087】
(第2固着工程S22)
次に、回路層212となる金属板及び金属層213となる金属板のそれぞれの接合面に、スパッタリングによって、第2添加元素であるSi,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca及びLiから選択される1種又は2種以上の第2添加元素を固着し、第2固着層を形成する。
本実施形態では、第2添加元素としてCu及びSiを用いており、第2固着層におけるCu量は0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下、Si量は0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下に設定されている。
【0088】
(積層工程S23)
次に、セラミックス基板211と金属板を積層する。このとき、金属板のうち第2固着層が形成された面がセラミックス基板211を向くように積層する。すなわち、金属板とセラミックス基板211との間に第2固着層を介在させているのである。このようにして積層体を形成する。
【0089】
(加熱工程S24)
次に、積層工程S23において形成された積層体を、その積層方向に加圧(圧力1〜5kgf/cm)した状態で加熱炉内に装入して加熱し、金属板とセラミックス基板211との界面にそれぞれ溶融金属領域を形成する。この溶融金属領域は、第2固着層のCu及びSiが金属板側に拡散することによって、金属板の第2固着層近傍のCu濃度、Si濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
そして、この加熱工程S24により、回路層212となる金属板の固着層に含有された添加元素(本実施形態ではZr)が金属板の他方の面側に向けて拡散していく。
なお、本実施形態では、加熱炉内の雰囲気をNガス雰囲気としており、加熱温度は、550℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0090】
(凝固工程S25)
次に、溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域中のCu、Siが、さらに金属板側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域であった部分のCu濃度、Si濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、セラミックス基板211と金属板とは、いわゆる等温拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0091】
このようにして、回路層212及び金属層213となる金属板とセラミックス基板211とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板210が製造される。
また、回路層212においては、固着層に含有された添加元素が拡散することで表面硬化層212A及び本体層212Bが形成される。また、第2固着層に含まれるCu及びSiが拡散することで接合近傍層212Cが形成される。
【0092】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板210においては、回路層212の一方の面に表面硬化層212Aが形成されているので、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。また、回路層212は、表面硬化層212Aよりも硬度が低い本体層212Bを有しているので、熱サイクル負荷時の熱応力をこの本体層212Bの変形によって吸収することが可能となる。
【0093】
また、本実施形態では、セラミックス基板211と金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程S24において、回路層212となる金属板に形成された固着層の添加元素を拡散させているので、特別な熱処理工程を行う必要がなく表面硬化層212Aを形成することができ、このパワーモジュール用基板210の製造コストを低く抑えることができる。
【0094】
次に、本発明の第4の実施形態であるパワーモジュール用基板について図14及び図15を用いて説明する。
本実施形態であるパワーモジュール用基板310は、セラミックス基板311と、このセラミックス基板311の一方の面(図14において上面)に配設された回路層312と、セラミックス基板311の他方の面(図14において下面)に配設された金属層313とを備えている。
【0095】
セラミックス基板311は、回路層312と金属層313との間の電気的接続を防止するものである。本実施形態では、セラミックス基板311は絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板311の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0096】
回路層312は、セラミックス基板311の一方の面に導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層312は、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板がセラミックス基板311に接合されることにより形成されている。
金属層313は、セラミックス基板311の他方の面に金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層313は、回路層312と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板がセラミックス基板311に接合されることで形成されている。
【0097】
そして、図14に示すように、回路層312は、その一方の面(図14おいて上面)側に配設された表面硬化層312Aと、この表面硬化層312Aの他方の面側に位置する本体層312Bと、を備えている。
表面硬化層312Aは、回路層312の一方の面に露呈し、この一方の面から他方の面側(図14において下側)に向けて延在しており、回路層312の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsに対して80%以上のインデンテーション硬度を有する領域である。ここで、本実施形態では、回路層312の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm以上200mgf/μm以下の範囲内に設定されている。
本体層312Bは、そのインデンテーション硬度Hbが前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた領域となる。
【0098】
なお、本実施形態では、回路層312のうちセラミックス基板311との接合界面近傍には、そのインデンテーション硬度Hcが本体層312Bのインデンテーション硬度Hbよりも高くされた界面近傍層312Cが形成されている。
ここで、本実施形態では、表面硬化層312Aの厚さtsが1μm以上300μm以下とされ、本体層312Bの厚さtbが100μm以上1500μm以下、界面近傍層312Cの厚さtcが50μm以上300μm以下とされている。
【0099】
また、表面硬化層312Aは、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされている。なお、本実施形態では、添加元素としてZrを0.2atom%以上10atom%以下含有している。
【0100】
回路層312においては、その一方の面が最も添加元素の含有量が高くなっており、他方の面側に向かうにしたがい含有量が低くなるように構成されている。この添加元素によって回路層312の一部が硬化され、上述の表面硬化層312Aが形成されているのである。
一方、本体層312Bでは、上述の添加元素の含有量が少ないことからAlの純度が高く、変形抵抗が小さいままである。
【0101】
なお、セラミックス基板311側に位置する界面近傍層312Cにおいては、セラミックス基板311と金属板との接合において利用される元素が拡散することで、本体層312BよりもAlの純度が低くなっている。
詳述すると、界面近傍層312Cにおいては、Al−Si系のろう材に含まれるSiが固溶している。
【0102】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板310の製造方法について、図15のフロー図を参照して説明する。
【0103】
(積層工程S31)
まず、セラミックス基板311の一面側に、回路層312となる金属板を、厚さ15〜30μm(本実施形態では20μm)のろう材箔を介して積層し、セラミックス基板311の他面側に、金属層13となる金属板を厚さ15〜30μm(本実施形態では20μm)のろう材箔を介して積層して、積層体を形成する。なお、本実施形態においては、ろう材箔は、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系のろう材とされている。
【0104】
(接合加熱工程S32)
次に、積層工程S31において形成された積層体を、その積層方向に加圧(圧力1〜5kgf/cm)した状態で加熱炉内に装入して加熱し、金属板とセラミックス基板311との界面にそれぞれ溶融金属領域を形成する。
なお、本実施形態では、加熱炉内の雰囲気をNガス雰囲気としており、加熱温度は、550℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0105】
(凝固工程S33)
次に、積層体を冷却することによって溶融金属領域を凝固させ、セラミックス基板311と金属板とを接合する。このようにして、回路層312及び金属層313となる金属板とセラミックス基板311とが接合される。このとき、ろう材箔に含まれるSiが拡散することで、回路層312には、接合近傍層312Cが形成される。
【0106】
(固着工程S34)
次に、回路層312の一方の面に、スパッタリングによって、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する。
本実施形態では、添加元素としてZrを固着しており、その固着量を0.002mg/cm以上0.15mg/cm以下に設定している。
【0107】
(加熱工程S35)
そして、固着層が形成された回路層312を、接合されたセラミックス基板311及び金属層313とともに、加熱炉によって加熱する。このときの加熱温度は、上述の接合加熱工程S32よりも低い温度とされる。
この加熱工程S35により、金属板の固着層に含有された添加元素(本実施形態では )が金属板の他方の面側に向けて拡散していく。これにより、回路層312には、固着層に含有された添加元素が拡散することで表面硬化層312A及び本体層312Bが形成され、本実施形態であるパワーモジュール用基板310が製出される。
【0108】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板310においては、回路層312の一方の面に表面硬化層312Aが形成されているので、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。また、回路層312は、表面硬化層312Aよりも硬度が低い本体層312Bを有しているので、熱サイクル負荷時の熱応力をこの本体層312Bの変形によって吸収することが可能となる。
【0109】
次に、本発明の第5の実施形態であるパワーモジュール用基板について図16及び図17を用いて説明する。
本実施形態であるパワーモジュール用基板410は、セラミックス基板411と、このセラミックス基板411の一方の面(図16において上面)に配設された回路層412と、セラミックス基板411の他方の面(図16において下面)に配設された金属層413とを備えている。
【0110】
セラミックス基板411は、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されており、その厚さが0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
回路層412は、セラミックス基板411の一方の面に導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層412は、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板がセラミックス基板411に接合されることにより形成されている。
金属層413は、セラミックス基板411の他方の面に金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層413は、回路層412と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板がセラミックス基板411に接合されることで形成されている。
【0111】
そして、図16に示すように、回路層412は、その一方の面(図16おいて上面)側に配設された表面硬化層412Aと、この表面硬化層412Aの他方の面側に位置する本体層412Bと、を備えている。
表面硬化層412Aは、回路層412の一方の面に露呈し、この一方の面から他方の面側(図16において下側)に向けて延在しており、回路層412の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsに対して80%以上のインデンテーション硬度を有する領域である。ここで、本実施形態では、回路層412の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm以上200mgf/μm以下の範囲内に設定されている。
本体層412Bは、そのインデンテーション硬度Hbが前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた領域となる。
【0112】
なお、本実施形態では、回路層412のうちセラミックス基板411との接合界面近傍には、そのインデンテーション硬度Hcが本体層412Bのインデンテーション硬度Hbよりも高くされた界面近傍層412Cが形成されている。
ここで、本実施形態では、表面硬化層412Aの厚さtsが1μm以上300μm以下とされ、本体層412Bの厚さtbが100μm以上1500μm以下、界面近傍層412Cの厚さtcが50μm以上300μm以下とされている。
【0113】
また、表面硬化層412Aは、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされている。なお、本実施形態では、添加元素としてZrを0.2atom%以上10atom%以下含有している。
【0114】
回路層412においては、その一方の面が最も添加元素の含有量が高くなっており、他方の面側に向かうにしたがい含有量が低くなるように構成されている。この添加元素によって回路層412の一部が硬化され、上述の表面硬化層412Aが形成されているのである。
一方、本体層412Bでは、上述の添加元素の含有量が少ないことからAlの純度が高く、変形抵抗が小さいままである。
【0115】
なお、セラミックス基板411側に位置する界面近傍層412Cにおいては、セラミックス基板411と金属板との接合において利用される元素が拡散することで、本体層412BよりもAlの純度が低くなっている。本実施形態では、界面近傍層412Cには、Al−Si系のろう材に含まれるSiが固溶している。
【0116】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板410の製造方法について、図17のフロー図を参照して説明する。
【0117】
(固着工程S41)
まず、固着層となる金属板の一方の面に、スパッタリングによって、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する。
本実施形態では、添加元素としてZrを固着しており、その固着量を0.002mg/cm以上0.15mg/cm以下に設定している。
【0118】
(加熱工程S42)
次に、固着層が形成された金属板を加熱炉によって加熱する。このときの加熱温度は、550℃〜650℃に設定されている。
この加熱工程S42により、金属板の固着層に含有された添加元素(本実施形態ではZr)が金属板の他方の面側に向けて拡散していく。これにより、回路層となる金属板には、表面硬化層412A、本体層412Bが形成されることになる。
【0119】
(積層工程S43)
次に、セラミックス基板411の一面側に、添加元素を拡散させた金属板を、厚さ15〜30μm(本実施形態では20μm)のろう材箔を介して積層し、セラミックス基板311の他面側に、金属層413となる金属板を厚さ15〜30μm(本実施形態では20μm)のろう材箔を介して積層して、積層体を形成する。なお、本実施形態においては、ろう材箔は、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系のろう材とされている。
【0120】
(接合加熱工程S44)
次に、積層工程S43において形成された積層体を、その積層方向に加圧(圧力1〜5kgf/cm)した状態で加熱炉内に装入して加熱し、金属板とセラミックス基板411との界面にそれぞれ溶融金属領域を形成する。
なお、本実施形態では、加熱炉内の雰囲気をNガス雰囲気としており、加熱温度は、550℃以上650℃以下の範囲内に設定している。すなわち、前述の加熱工程S42よりも低い温度とされているのである。
【0121】
(凝固工程S45)
次に、積層体を冷却することによって溶融金属層を凝固させ、セラミックス基板411と金属板とを接合する。このようにして、回路層412及び金属層413となる金属板とセラミックス基板411とが接合される。このとき、ろう材箔に含まれるSiが拡散することで、回路層412には、接合近傍層412Cが形成される。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板410が製出される。
【0122】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板410においては、回路層412の一方の面に表面硬化層412Aが形成されているので、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。また、回路層412は、表面硬化層412Aよりも硬度が低い本体層412Bを有しているので、熱サイクル負荷時の熱応力をこの本体層412Bの変形によって吸収することが可能となる。
【0123】
そして、本実施形態では、回路層412となる金属板に固着層を形成して加熱し、表面硬化層412A及び本体層412Bを形成した後に、金属板をセラミックス基板411と接合させているので、金属板とセラミックス基板411との接合温度よりも高い温度条件で添加元素を拡散させることが可能となる。よって、添加元素として、アルミニウム中の拡散速度が遅い元素(例えばHf)を使用することができる。
【0124】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素をスパッタによって固着するものとして説明したが、これに限定されることはなく、めっき、蒸着、CVD、コールドスプレー、又は、前記添加元素を含有する粉末が分散されたペースト若しくはインクの塗布によって添加元素を固着させてもよい。
【0125】
また、Alとともに添加元素、第2添加元素、活性元素を固着してもよい。この場合、Ca及びLi等の酸化しやすい元素であっても確実に固着させることが可能となる。なお、前記添加元素とともにAlを固着させるには、前記添加元素とAlとを同時に蒸着してもよいし、前記添加元素とAlの合金をターゲットとして用いてスパッタリングを行ってもよい。
【0126】
また、ヒートシンクをアルミニウムで構成したものとして説明したが、アルミニウム合金、又はアルミニウムを含む複合材等で構成されていてもよい。さらに、ヒートシンクとして冷却媒体の流路を有するもので説明したが、ヒートシンクの構造に特に限定はなく、種々の構成のヒートシンクを用いることができる。
【0127】
また、第2、第3の実施形態において、セラミックス基板と金属板との接合を、N雰囲気の加熱炉を用いて行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、真空炉を用いてセラミックス基板と金属板との接合を行ってもよい。この場合の真空度は、10−6〜10−3Paの範囲内とすることが好ましい。
【0128】
さらに、第2の実施形態において、セラミックス基板としてAlを使用し、セラミックス基板と金属板との接合界面に活性元素を含む酸化物層を形成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板としてAlNやSiを使用し、セラミックス基板と金属板との接合界面に活性元素を含む窒化物層を形成したものであってもよい。
【実施例】
【0129】
本発明の有効性を確認するために行った比較実験について説明する。
まず、厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなる金属板の一方の面に、表1に示す添加元素を固着し、加熱することで表面硬化層及び本体層を形成した。表1に、添加元素の固着量、加熱条件を示す。
【0130】
【表1】

【0131】
金属板に形成された表面硬化層及び本体層について、表面硬化層の一方の面におけるインデンテーション硬度Hs、表面硬化層の厚さ、本体層のインデンテーション硬度Hb、本体層の厚さを評価した。なお、本体層のインデンテーション硬度Hbは、金属板の面中央における金属板の厚さ方向中央部を測定した。
また、表面硬化層を形成しない4Nアルミニウムからなる金属板を比較例1とした。さらに、Siを1質量%含むアルミニウム合金からなる金属板を比較例2とした。これら比較例1A、2Aについても、上述の表面硬化層の一方の面に相当する位置、及び、本体層に相当する位置で、それぞれインデンテーション硬度を測定した。結果を表2に示す。
結果を表2に示す。
【0132】
【表2】

【0133】
試料1−4について、いずれも金属板の表面に表面硬化層が形成され、その表面硬化層に積層するように、表面硬化層よりも硬度の低い本体層が形成された。
【0134】
次に、厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板に、回路層として、厚さ0.6mmの金属板、及び、金属層として厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなる金属板を、Al−Si系のろう材を用いて接合し、パワーモジュール用基板を製作した。
ここで、表1及び表2の試料1、2の金属板を用いて回路層を形成したものを本発明例1、2とした。
また、表2の比較例1Aの金属板を用いて回路層を形成したものを比較例1Bとした。さらに、表2の比較例2Aの金属板を用いて回路層を形成したものを比較例2Bとした。
【0135】
そして、これらの試験片を用いて熱サイクル試験を実施した。具体的には、冷熱サイクル(−45℃−125℃)を2000回繰り返した後に、試験片を観察し、回路層表面のうねり状態、セラミックス基板と回路層との間の接合率を評価した。結果を表3に示す。
なお、うねりについては、半径が2μmの球状先端を有し、テーパ角が90°の円錐を触針として用い、2.5(mm/基準長さ)×5区間の距離を、荷重4mN,速度1mm/sで表面を走査して区間平均の粗さ曲線を測定し、その十点平均粗さRz(JIS B0601−1994)を算出した。
また、接合率は、以下の式で算出した。ここで、「初期接合面積」とは、接合前における接合すべき面積のことである。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0136】
【表3】

【0137】
比較例1Bでは、接合率は高いものの回路層の表面にうねりが確認された。一方、比較例2Bでは、回路層表面のうねりは抑制されたが、接合率が低く接合信頼性に劣っていた。
これに対して、表面硬化層を形成した本発明例1、2においては、回路層表面のうねりが抑制され、かつ、接合率も高かった。
【符号の説明】
【0138】
1、101 パワーモジュール
3 半導体チップ(電子部品)
10、10、210、310、410 パワーモジュール用基板
11、111、211、311、411 セラミックス基板
12、112、212、312、412 回路層
12A、112A、212A、312A、412A 表面硬化層
12B、112B、212B、312B、412B 本体層
40、140 ヒートシンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一面に、アルミニウムからなる回路層が配設され、この回路層の一方の面上に電子部品が配設されるパワーモジュール用基板であって、
前記回路層は、本体層と、前記一方の面側に露呈するように配置された表面硬化層と、を有しており、
前記回路層の前記一方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm以上200mgf/μm以下の範囲内に設定され、
前記回路層のうち、前記インデンテーション硬度Hsの80%以上のインデンテーション硬度を有する領域が前記表面硬化層とされており、
前記表面硬化層は、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、
前記本体層のインデンテーション硬度Hbが、前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記表面硬化層の厚さが1μm以上300μm以下とされており、前記本体層の厚さが100μm以上1500μm以下とされていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記表面硬化層における前記添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項4】
前記セラミックス基板がAlN,Si又はAlで構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載されたパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記回路層となる金属板の前記一方の面に、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、
前記回路層を加熱して、前記回路層の内部に向けて前記添加元素を拡散させることにより、前記回路層の前記一方の面に表面硬化層を形成する加熱工程と、
を備えていることを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載されたパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記回路層となる金属板の一方の面に、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、
前記金属板の他方の面側に、ろう材を介して前記セラミックス基板を積層する積層工程と、
積層された前記セラミックスと前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、前記固着層の前記添加元素を、前記回路層の内部に向けて拡散させることにより、前記回路層の前記一方の面に表面硬化層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載されたパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記回路層となる金属板の一方の面に、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、
前記金属板の他方の面又は前記セラミックス基板の一面のうちの少なくとも一方に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca及びLiから選択される1種又は2種以上の第2添加元素を固着して第2固着層を形成する第2固着工程と、
前記第2固着層を介して、前記セラミックス基板と前記金属板とを積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、前記固着層の前記添加元素を、前記回路層の内部に向けて拡散させることにより、前記回路層の前記一方の面に表面硬化層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載されたパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記回路層となる金属板の一方の面に、Zr,Hf,Ta及びNbから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、
前記金属板の他方の面又は前記セラミックス基板の一面のうちの少なくとも一方に、Si,Cu,Ag及びGeから選択される1種又は2種以上の第2添加元素と、Ti,Zr,Hf,Ta,Nb及びMoから選択される1種又は2種以上の活性元素と、を固着し、これら第2添加元素及び活性元素を含有する第2固着層を形成する第2固着工程と、
前記第2固着層を介して、前記セラミックス基板と前記金属板とを積層する積層工程と、
積層された前記セラミックスと前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記金属板に前記添加元素を拡散させることにより、前記金属板の表層に金属硬化層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項9】
前記固着工程では、前記添加元素とともにAlを固着させることを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項10】
前記固着工程は、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、前記添加元素を含有する粉末が分散されたペースト若しくはインクの塗布によって前記添加元素を固着し、前記固着層を形成することを特徴とする請求項5から請求項9のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項12】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−181846(P2011−181846A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47114(P2010−47114)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】