説明

パワー半導体素子の評価方法および評価装置

【課題】 自己発熱していない状態のパワー半導体素子の電流・電圧特性を、比較的簡易な手法により精度良く得ることのできるパワー半導体素子の評価方法および評価装置を実現する。
【解決手段】 自己発熱状態の評価対象LDMOS4の電流・電圧特性を測定し(S1)、自己発熱していない状態におけるドレイン電流値をId0、S1により測定されたドレイン電流値をId、S1における測定開始時のパワー半導体素子の絶対温度をTo、ドレイン電圧(Vd)を上昇させたときの温度上昇分をΔT、n=1.5〜2とした場合に、次式、Id0=Id×((To+ΔT)/To)を用いて自己発熱していないときの電流値Id0を求め、評価対象LDMOS4の自己発熱していない状態における電流・電圧特性を演算する(S2)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パワー半導体素子の自己発熱していないときの電流電圧特性を推定することができるパワー半導体素子の評価方法および評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図11は、パワー半導体素子の一例であるpチャネルのLDMOSFET(Lateral Diffused Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:以下、LDMOSと略す)の要部を示す縦断面図である。
【0003】
LDMOS4は、SOI(Silicon On Insulator)基板40に形成されている。SOI基板40は、厚さ数百μmの支持基板41と、その表面領域に形成された埋め込み酸化膜(酸化シリコン)42と、その表面領域に形成された素子形成層43とを有する。さらに、素子形成層43は、埋め込み酸化膜42の表面領域に形成されたp層4aと、その中に形成されたpウェル4bと、その中に形成されたp型拡散層4iと、p層4aの中に形成されたチャネルnウェル4hと、そのチャネルnウェル4hの電位を取るためのn型拡散層4eと、チャネルnウェル4hの中に形成されたp型拡散層4fと、pウェル4bの表面領域に形成されたLOCOS(Local Oxidation of Silicon)酸化膜4jとを有する。
【0004】
さらに、素子形成層43は、チャネルnウェル4hの表面領域に形成されたゲート酸化膜4kと、このゲート酸化膜4kの上に形成されたゲート電極4gと、p型拡散層4fおよびn型拡散層4eの表面領域に形成されたソース電極4sと、p型拡散層4iの表面領域に形成されたドレイン電極4dとを有する。このように、LDMOS4は、各電極を横方向に配置した構造を有する。
そして、LDMOS4は、p型拡散層4fをソース領域、p型拡散層4iをドレイン領域とし、LOCOS酸化膜4j下のpウェル4bをドリフト領域として動作する。
【0005】
図12は、図11に示したLDMOSが発熱していないとき(無発熱)および発熱しているとき(発熱あり)のソース・ドレイン間電流(以下、ドレイン電流ともいう)(Id)・ソース・ドレイン間電圧(以下、ドレイン電圧という)(Vd)特性を示すグラフである。また、図示しないが、図11に示したLDMOSには、発熱していないとき(無発熱)および発熱しているとき(発熱あり)のドレイン電流(Id)・ゲート・ソース間電圧(以下、ゲート電圧ともいう)(Vg)特性も存在する。
なお、以下の説明において単に電流・電圧特性という場合は、ドレイン電流−ドレイン電圧特性およびドレイン電流−ゲート電圧特性の両特性のことを指すものとする。
図示のように、ドレイン電流Idは、ドレイン電圧Vdの上昇に伴って増加し、やがて飽和状態になる。
【0006】
しかし、図12に示すように、LDMOSが発熱している場合は、発熱していない場合と比較して、ドレイン電流Idが大幅に減少している。また、その減少の度合いは、ドレイン電圧Vdによって異なり、特にドレイン電圧Vdが高いときに減少の度合いが大きい。また特に、ゲート・ソース間電圧(以下、ゲート電圧という)Vgが高いほど、発熱によるドレインId電流の落ち込みが大きい。
【0007】
特に、図11に示したLDMOS4のように、SOI基板に形成されたLDMOSの場合は、埋め込み酸化膜42を有するため、LDMOS4にて発生した熱が基板内部にこもり易く、温度が上昇し易いため、前述したドレイン電流Idの減少の度合いが、より一層大きくなってしまう。
【0008】
従って、自己発熱した状態のLDMOSの電流・電圧特性を測定しても、その測定結果は、発熱していない状態における電流・電圧特性から大きくずれているため、そのデータは回路設計に用いることができない。具体的には以下に示す通りである。
【0009】
自己発熱によるLDMOSの温度上昇分ΔTは、ドレイン電圧Vdを所定電圧ずつ上昇させて行う測定の各測定点におけるドレイン電流Idおよびドレイン電圧Vdを用いて、ΔT=Id×Vd×Rth(RthはLDMOSの熱抵抗)と近似的に表すことができる。
【0010】
上記の式は、一見、(Id×Vd)と温度上昇分ΔTとが1:1に対応しているので、自己発熱状態の電流・電圧特性を回路設計に用いても問題ないようにも見える。しかし、実際には、熱抵抗Rthは、測定(動作)する速度、つまりドレイン電圧Vdを上昇させる速度によって変わる値であるため、電流・電圧特性の測定時の発熱温度と、実際の動作時の発熱温度とは対応していない。特に、熱抵抗Rthは、測定速度が高速であるほど小さくなる。このため、発熱した状態で測定した電流・電圧特性は意味をなさない。
【0011】
さらに、回路設計する上では、回路シミュレーションが多用されるが、上記のような変形した電流・電圧特性に基づいて回路シミュレーション用のデバイスモデルのパラメータを抽出することは意味がない。
【0012】
そこで、従来、上記の問題を解決するための手法として、特許文献1(特開2006−278360号公報)に記載の手法が提案されている。これは、LDMOSが発熱する領域(測定条件Vd,Vg)を検出し、発熱する領域ではドレイン電圧Vdをかけた状態でドレインへ電極の印加パルス幅よりも短いパルスをゲート電極へ印加し、ゲート電極への印加時間を短くすることにより(例えば、ゲート電極への印加パルス幅が10μs)、自己発熱を抑制して電流・電圧特性を測定するという手法である。
【特許文献1】特開2006−278360号公報(第19〜22段落、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記従来の手法では、自己発熱していないと判定された領域でも、実際には温度上昇によってドレイン電流値が変わっているおそれがある。また、放熱効率が高いヒートシンクが取付けられたディスクリートのLDMOSでは自己発熱の影響は小さいが、SOI基板に形成したLDMOSでは熱抵抗が大きく、電流・電圧特性の殆どが発熱領域におけるものであるため、発熱する領域を判定する意味がない。
【0014】
さらに、自己発熱しない状態で測定するためには、ゲートへの印加パルス幅は10μsでは不十分で、1μs以下にする必要がある。しかし、印加パルス幅を短くすると、測定系のインダクタンスなどの影響により、測定波形なまりやリンギングが発生し、精度良く測定することが困難である。また、印加パルス幅が1μsでも、周波数的には高調波は非常に高い周波数を含むため、測定系の高周波対策が必要である。
【0015】
これに対し、自己発熱していない状態(無発熱状態)で測定する方法としては、微細MOS(SOI)を主対象とした高速パルス測定法がある。これは、高周波を前提に測定回路系を組んだものであるが、測定対象物(TEG)もそれ専用に設計したものが必要となる。また、特性インピーダンスを、高周波系の標準である50Ωにマッチングさせることが必須条件であるなど、複雑な構成となる。また、一般的には測定可能な電流が数十mAまでの構成となっており、対象とする0.1A〜数十Aのパワー半導体素子の電流・電圧特性の測定には適さない。
【0016】
そこでこの発明は、自己発熱していない状態のパワー半導体素子の電流・電圧特性を、比較的簡易な方法および構成により精度良く得ることのできるパワー半導体素子の評価方法および評価装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明の第1の特徴は、パワー半導体素子(4)の自己発熱していない状態における電流・電圧特性を推定するためのパワー半導体素子の評価方法において、自己発熱状態のパワー半導体素子(4)の電流・電圧特性を測定する第1ステップ(S1)と、自己発熱していない状態におけるドレイン電流値をId0、前記第1ステップにより測定されたドレイン電流値をId、ドレイン・ソース間電圧をVd、前記第1ステップにおける測定開始時のパワー半導体素子の絶対温度をTo、前記ドレイン・ソース間電圧(Vd)を上昇させたときの温度上昇分をΔT、n=1.5〜2とした場合に、次式、Id0=Id×((To+ΔT)/To)を用いて自己発熱していないときのドレイン電流値Id0を求める第2ステップ(S2)と、を有するパワー半導体素子の評価方法にある。
【0018】
また、この発明の第2の特徴は、パワー半導体素子(4)の自己発熱していない状態における電流・電圧特性を推定するためのパワー半導体素子の評価装置において、自己発熱状態のパワー半導体素子の電流・電圧特性を測定する測定装置(21)と、自己発熱していない状態におけるドレイン電流値をId0、前記測定装置により測定されたドレイン電流値をId、ドレイン・ソース間電圧をVd、前記測定装置による測定開始時のパワー半導体素子の絶対温度をTo、前記ドレイン・ソース間電圧(Vd)を上昇させたときの温度上昇分をΔT、n=1.5〜2とした場合に、次式、Id0=Id×((To+ΔT)/To)を用いて自己発熱していないときのドレイン電流値Id0を求める演算装置(11,12,14)と、を備えたパワー半導体素子の評価装置(1)にある。
【0019】
パワー半導体素子に流れるドレイン電流は素子中のキャリアの移動度に比例し、移動度は絶対温度Tのマイナスn乗に比例する。つまり、移動度をμとすると、ドレイン電流=a×μ、μ=μ×T−nの関係が成立する(a、μは比例定数)。パワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流値をId0、自己発熱した状態において測定されたドレイン電流値をId、絶対温度をTo、自己発熱によるパワー半導体素子の温度上昇分をΔTとすると、
【0020】
Id0=a×μ×To−n ・・・(A)式
【0021】
Id=a×μ×(To+ΔT)−n ・・・(B)式
【0022】
が成立する。(B)式より、
【0023】
a×μ=Id/(To+ΔT)−n ・・・(C)式
【0024】
が求まる。この(C)式を(A)式に代入すると、
【0025】
Id0=(Id/(To+ΔT)−n)×To−n
=Id×((To+ΔT)/To)・・・(D)式
【0026】
が求まる。
つまり、パワー半導体素子の自己発熱した状態におけるドレイン電流値Id、絶対温度をToおよび自己発熱による温度上昇分ΔTを測定すれば、パワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流値Id0を求めることができる。
従って、自己発熱していない状態のパワー半導体素子の電流・電圧特性を、比較的簡易な手法により精度良く得ることができる。
【0027】
この発明の第3の特徴は、パワー半導体素子(4)の自己発熱していない状態における電流・電圧特性を推定するためのパワー半導体素子の評価方法において、評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱状態における電流・電圧特性と、自己発熱による温度上昇が十分小さいパワー半導体素子の電流・電圧特性とを測定する第1ステップ(S10、S11)と、前記第1ステップにおいて測定され、前記自己発熱による温度上昇が十部小さいパワー半導体素子のドレイン電流ードレイン・ソース間電圧特性におけるドレイン電流(Idref)の変化分をΔIdref、ドレイン・ソース間電圧(Vd)の変化分をΔVdとした場合に、ドレイン電流(Idref)・ドレイン・ソース間電圧(Vd)特性の飽和領域における勾配(ΔIdref/ΔVd)に基づいて、その勾配を規格化した規格化勾配((ΔIdref/ΔVd)/Idref)とドレイン・ソース間電圧(Vd)との関係を求める第2ステップ(S12)と、前記評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流値をId0、前記第1ステップにより測定されたドレイン電流値をId、前記第1ステップにおける測定開始時のパワー半導体素子の絶対温度をTo、前記ドレイン・ソース間電圧(Vd)を上昇させたときの温度上昇分をΔT、n=1.5〜2、前記評価対象となるパワー半導体素子の熱抵抗をRthとした場合に、ΔT=Id×Vd×Rth ・・・(1)式においてRtに所定値を代入してΔTを求め、さらに、Id0=Id×((To+ΔT)/To) ・・・(2)式に上記求めたΔTを代入してドレイン電流値Id0を求めることにより、前記評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態における仮の電流・電圧特性を求める第3ステップ(S13)と、前記第3ステップにより求めた仮の電流・電圧特性におけるドレイン電流(Id0)の変化分をΔId0、ドレイン・ソース間電圧(Vd)の変化分をΔVdとした場合に、前記第3ステップにより求めた仮のドレイン電流(Id0)・ドレイン・ソース間電圧(Vd)特性の飽和領域における勾配(ΔId0/ΔVd)に基づいて、その勾配を規格化した規格化勾配((ΔId0/ΔVd)/Id0)とドレイン・ソース間電圧Vdとの関係を求める第4ステップ(S14)と、前記熱抵抗Rthを変化させながら前記第3および第4ステップを実行し、前記第4ステップにより求めた関係が前記第2ステップにおいて求めた関係に最も近くなる熱抵抗Rthを求める第5ステップ(S15、S16)と、を有するパワー半導体素子の評価方法にある。
【0028】
この発明の第4の特徴は、パワー半導体素子(4)の自己発熱していない状態における電流・電圧特性を推定するためのパワー半導体素子の評価装置において、評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱状態における電流・電圧特性と、自己発熱による温度上昇が十分小さいパワー半導体素子の電流・電圧特性とを測定する測定装置(21)を備え、前記測定装置により測定され、自己発熱による温度上昇が十分小さいパワー半導体素子のドレイン電流ードレイン・ソース間電圧特性におけるドレイン電流(Idref)の変化分をΔIdref、ドレイン・ソース間電圧(Vd)の変化分をΔVdとした場合に、ドレイン電流(Idref)・ドレイン・ソース間電圧(Vd)特性の飽和領域における勾配(ΔIdref/ΔVd)に基づいて、その勾配を規格化した規格化勾配((ΔIdref/ΔVd)/Idref)とドレイン・ソース間電圧(Vd)との関係を求める第1演算処理(S12)と、前記評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流値をId0、前記測定装置により測定されたドレイン電流値をId、前記測定装置による測定開始時のパワー半導体素子の絶対温度をTo、前記ドレイン・ソース間電圧(Vd)を上昇させたときの温度上昇分をΔT、n=1.5〜2、前記評価対象となるパワー半導体素子の熱抵抗をRthとした場合に、ΔT=Id×Vd×Rth ・・・(1)式においてRthに所定値を代入してΔTを求め、さらに、Id0=Id×((To+ΔT)/To) ・・・(2)式に上記求めたΔTを代入してドレイン電流値Id0を求めることにより、前記評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態における仮の電流・電圧特性を求める第2演算処理(S13)と、前記第2演算処理により求めた仮の電流・電圧特性におけるドレイン電流(Id0)の変化分をΔId0、ドレイン・ソース間電圧(Vd)の変化分をΔVdとした場合に、前記第2演算処理により求めた仮の電流・電圧特性の飽和領域における勾配(ΔId0/ΔVd)に基づいて、その勾配を規格化した規格化勾配((ΔId0/ΔVd)/Id0)と電圧Vdとの関係を求める第3演算処理(S14)と、前記熱抵抗Rthを変化させながら前記第2および第3演算処理を実行し、前記第3演算処理により求めた関係が前記第1演算処理において求めた関係に最も近くなる熱抵抗Rthを求める第4演算処理(S15、S16)と、を実行する演算装置(11,12,13,14)をさらに備えたパワー半導体素子の評価装置にある。
【0029】
つまり、自己発熱による温度上昇が十分小さいパワー半導体素子の電流・電圧特性を利用して、評価対象となるパワー半導体素子の熱抵抗Rthを求めることができる。
まず、評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱状態における電流・電圧特性と、自己発熱による温度上昇が十分小さいパワー半導体素子の電流・電圧特性とを測定する(第1ステップ)。
【0030】
次に、第1ステップにおいて測定され、自己発熱による温度上昇が十分小さいパワー半導体素子の電流・電圧特性におけるドレイン電流(Idref)の変化分をΔIdref、ドレイン・ソース間電圧(Vd)の変化分をΔVdとした場合に、ドレイン電流(Idref)・ドレイン・ソース間電圧(Vd)特性の飽和領域における勾配(ΔIdref/ΔVd)に基づいて、その勾配を規格化した規格化勾配((ΔIdref/ΔVd)/Idref)とドレイン・ソース間電圧(Vd)との関係を求める(第2ステップ、第1演算処理)。
【0031】
発熱の影響は飽和領域の勾配に顕著に表れるため、その勾配(ΔIdref/ΔVd)を演算する。この勾配は、発熱がない場合を例に考えると、素子のサイズが大きいほどドレイン電流Idrefが大きくなるため(例えば、サイズが2倍になると勾配も2倍になる)、勾配をドレインIdrefで除すことにより規格化する。次に、規格化勾配((ΔIdref/ΔVd)/Idref)とドレイン・ソース間電圧(Vd)との関係を求める。
【0032】
次に、評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流値をId0、第1ステップにより測定されたドレイン電流値をId、第1ステップにおける測定開始時のパワー半導体素子の絶対温度をTo、ドレイン・ソース間電圧(Vd)を上昇させたときの温度上昇分をΔT、n=1.5〜2、評価対象となるパワー半導体素子の熱抵抗をRthとした場合に、ΔT=Id×Vd×Rth ・・・(1)式においてRthに所定値を代入してΔTを求める。
つまり、ドレイン・ソース間電圧(Vd)を上昇させたときの評価対象となるパワー半導体素子の温度は、自己発熱しているときのドレイン電流Id、ドレイン・ソース間電圧Vdおよび熱抵抗Rthに比例するため、パワー半導体素子の温度上昇分ΔTは、ΔT=Id×Vd×Rth・・・(1)式により求まる。
【0033】
この段階では熱抵抗Rthは未知であるため、(1)式のRthに適当な所定値を仮の値として代入し、温度上昇分ΔTを求める。そして、前述の第1の特徴において記載したId0=Id×((To+ΔT)/To) ・・・(2)式に上記の(1)式により求めたΔTを代入してドレイン電流値Id0を求めることにより、評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態における仮の電流・電圧特性を求める(第3ステップ、第2演算処理)。
【0034】
次に、第3ステップまたは第2演算処理により求めた仮の電流・電圧特性におけるドレイン電流(Id0)の変化分をΔId0、ドレイン・ソース間電圧(Vd)の変化分をΔVdとした場合に、第3ステップまたは第2演算処理により求めた仮の電流・電圧特性の飽和領域における勾配(ΔId0/ΔVd)に基づいて、その勾配を規格化した規格化勾配((ΔId0/ΔVd)/Id0)とドレイン・ソース間電圧Vdとの関係を求める(第4ステップ、第3演算処理)。
【0035】
次に、熱抵抗Rthを変化させながら第3および第4ステップを実行し、第4ステップにより求めた関係が第2ステップにおいて求めた関係に最も近くなる熱抵抗Rthを求める(第5ステップ、第4演算処理)。例えば、第4ステップまたは第3演算処理において求めた関係を示す曲線が、第2ステップまたは第1演算処理において求めた関係を示す曲線に最も近くなる熱抵抗Rthを求める。
つまり、第2の特徴によれば、評価対象となるパワー半導体素子の温度を測定しなくても、評価対象となるパワー半導体素子の熱抵抗Rthを求めることができる。
【0036】
これにより、自己発熱していない状態における評価対象となるパワー半導体素子の電流・電圧特性を求めることが可能となる。
【0037】
この発明の第5の特徴は、前述の第3の特徴において、第5ステップにより求めた熱抵抗Rthおよび(1)式および(2)式を用いて評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流(Id0)を求める第6ステップを有することにある。
【0038】
この発明の第6の特徴は、前述の第4の特徴において、演算装置(11,12,13,14)は、第4演算処理(S15、S16)により求めた熱抵抗Rthおよび(1)式および(2)式を用いて評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流(Id0)を求める第5演算処理(S18)を実行することにある。
【0039】
つまり、第5ステップまたは第4処理により求めた熱抵抗Rthを(1)式に代入して温度上昇分ΔTを求め、さらにその温度上昇分ΔTを(2)式に代入して評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流(Id0)を求める。
従って、評価対象となるパワー半導体素子の温度を測定しなくても、自己発熱していない状態のパワー半導体素子の電流・電圧特性を、比較的簡易な手法により精度良く得ることができる。
【0040】
この発明の第7の特徴は、前述の第3または第5の特徴において、評価対象となるパワー半導体素子(4)のチャネル幅をWeffとした場合に、第4ステップ(S14)では規格化勾配として((ΔId0/ΔVd)/Weff)を求めることにある。
【0041】
この発明の第8の特徴は、前述の第4または第6の特徴において、評価対象となるパワー半導体素子(4)のチャネル幅をWeffとした場合に、第3演算処理(S14)では規格化勾配として((ΔId0/ΔVd)/Weff)を求めることにある。
【0042】
つまり、素子のサイズが大きいほどチャネル幅Weffが大きくなるため、勾配(ΔId0/ΔVd)をチャネル幅Weffで除すことにより規格化することができる。
【0043】
なお、上記括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
<第1実施形態>
この発明に係る第1実施形態について図を参照して説明する。図1は、この実施形態に係るパワー半導体素子の評価装置(以下、評価装置という)の主要な電気的構成をブロックで示す説明図である。
【0045】
[評価装置の主要電気的構成]
図1に示すように、評価装置1は、データ処理装置10および計測装置20を備える。データ処理装置10は、計測制御部11と、判定部12と、熱抵抗算出部13と、均一温度I−V特性算出部14と、パラメータ抽出部15とを備える。計測制御部11には入力装置2が接続されており、パラメータ抽出部15には出力装置3が接続されている。
【0046】
計測装置20は、LDMOS4の電流・電圧特性(I−V特性)を測定するI−V特性測定装置21を備える。また、図示するように、LDMOS4の温度を測定する温度測定装置22とを備えることもできる。I−V特性測定装置21および温度測定装置22はLDMOS4に接続されている。
データ処理装置10は、コンピュータなどから構成されており、入力装置2は、キーボード、マウスなどから構成されている。入力装置2は、LDMOS4をどういう測定条件(電圧、温度)で測定するか、どういう条件でパラメータを抽出するかなどを入力する。
【0047】
計測制御部11は、入力装置2により入力された測定条件をI−V特性測定装置21に与えてLDMOS4の電流・電圧特性を測定させる。また、計測制御部11は、入力装置2により入力された測定条件を温度測定装置22に与えてLDMOS4の温度を測定させる。また、計測制御部11は、I−V特性測定装置21および温度測定装置22から測定データを取り込む。
【0048】
温度測定装置22としては、熱によって測定対象物から放射される赤外線をセンサで検知して温度を測定する赤外線温度測定装置を用いることができる。また、レーザ光を測定対象物に照射し、その反射光強度の位相の変化から測定対象物の表面温度を測定する装置を用いることもできる。
【0049】
判定部12は、温度測定装置22により測定されたLDMOS4の温度を示す温度データが、計測制御部11に取り込まれて存在するか否かを判定する。熱抵抗算出部13は、判定部12が否定判定した場合、つまりLDMOS4の温度データが存在しない場合に、図4に示す流れに従ってLDMOS4の熱抵抗Rthを算出する。
【0050】
均一温度I−V特性算出部14は、判定部12が肯定判定した場合、つまりLDMOS4の温度データが存在する場合は、その温度データを用いて図2に示す流れに従い、LDMOS4が自己発熱していないとき(均一温度のとき)の電流・電圧特性を算出する。また、均一温度I−V特性算出部14は、LDMOS4の温度データが存在しない場合に、熱抵抗算出部13が算出した熱抵抗を用いて図4に示す流れに従い、LDMOS4が自己発熱していないとき(均一温度のとき)の電流・電圧特性を算出する。
【0051】
パラメータ抽出部15は、均一温度I−V特性算出部14により算出された電流・電圧特性に基づいて、LDMOS4を用いた回路のシミュレーション用のモデルパラメータを抽出する。例えば、ドレイン電圧Vdおよびゲート電圧Vgを変化させたときに回路に流れる電流を表す関数I=f(Vd、Vg)を規定するモデルパラメータ群(10〜数百個)を抽出する。
【0052】
出力装置3は、プリンタ、モニタ、記憶装置(例えば、ハードディスクメモリ、USB(Universal Serial Bus)メモリなど)から構成される。
【0053】
[評価方法1]
評価対象となるLDMOS(以下、評価対象LDMOSという)の温度を測定することにより、評価対象LDMOSの自己発熱していない状態における電流・電圧特性を求める評価方法1について図2を参照して説明する。図2は、評価方法1を実行するためにデータ処理装置10が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【0054】
まず、データ処理装置10の計測制御部11は、評価対象LDMOS4に対して一定のゲート電圧Vgを印加し、ドレイン電圧Vdを変化させながらドレイン電流Idの値を測定し、LDMOS4の自己発熱状態におけるドレイン電流(Id)・ドレイン電圧(Vd)特性をI−V特性測定装置21に測定させる(ステップ(以下、Sと略す)1)。これを複数のゲート電圧について行う。また、ゲート電圧Vgを変化させた場合のドレイン電流(Id)・ゲート電圧(Vg)特性をI−V特性測定装置21に測定させる(S1)。これを複数のドレイン電圧について行う。
【0055】
また、計測制御部11は、上記特性の測定と同時進行で各測定点(Vd、Vg)における評価対象LDMOS4の絶対温度を温度測定装置22に測定させる(S1)。続いて、判定部12は、温度測定装置22により測定された評価対象LDMOS4の温度を示す温度データが、計測制御部11に取り込まれて存在すると判定する。
続いて、均一温度I−V特性算出部14は、自己発熱していない状態(均一温度の状態)の評価対象LDMOS4のドレイン電流(Id0)・ドレイン電圧(Vd)特性およびドレイン電流(Id0)・ゲート電圧(Vg)特性を次の(1)式を用いて演算する(S2)。
【0056】
Id0=Id×((To+ΔT)/To)・・・(1)式
【0057】
ここで、Idは先のS1において測定した自己発熱状態における評価対象LDMOS4のドレイン電流、Toは、測定開始時の評価対象LDMOS4の絶対温度、ΔTは、ドレイン電圧Vdを上昇させたときのLDMOS4の温度上昇分をそれぞれ示す。また、nは、1.5〜2であり、評価対象LDMOS4を構成するp層およびn層の濃度分布に依存する値である。この実施形態では、n=1.5である。
【0058】
続いて、パラメータ抽出部15は、S2において演算した各特性に基いて、回路シミュレーション用のモデルパラメータを抽出する(S3)。このパラメータの抽出は、公知のモデルパラメータ抽出用ソフト(コンピュータプログラム)を用いて行うことができる。
【0059】
図3は、LDMOSのドレイン電流(Id)・ドレイン電圧(Vd)特性を示すグラフである。図中、破線で示す曲線は、自己発熱状態のグラフ(シミュレーション結果)であり、一点鎖線で示す曲線は、S1〜S3により求めた自己発熱していない状態(無発熱状態)のグラフであり、実線で示す曲線は、自己発熱していない状態(無発熱状態)(シミュレーション結果)のグラフである。
【0060】
一点鎖線で示す曲線と実線で示す曲線とを比較すると、両者には数%の誤差しか存在しないことが分かる。つまり、この実施形態の評価方法1によれば、自己発熱していない状態における評価対象LDMOS4のドレイン電流(Id)・ドレイン電圧(Vd)特性およびドレイン電流(Id)・ゲート電圧(Vg)特性を高精度で求めることができる。
【0061】
また、従来の高速パルス測定法のように、専用に設計した測定対象物(TEG)が不要である。さらに、特性インピーダンスを、高周波系の標準である50Ωにマッチングさせる必要もない。
従って、上記の評価方法1によれば、自己発熱していない状態の評価対象LDMOSの電流・電圧特性を、比較的簡易な方法および構成により精度良く得ることができる。
【0062】
[評価方法2]
評価方法2について図4を参照して説明する。図4は、評価方法2を実行するためにデータ処理装置10が実行する処理の流れを示すフローチャートである。この評価方法は、評価対象LDMOSの温度を直接測定することなく、評価対象LDMOSの自己発熱していない状態における電流・電圧特性を求めることができることを特徴とする。なお、この評価方法2は、前述の評価方法1において使用した評価装置1(図1)を用いて行う。
【0063】
まず、データ処理装置10の計測制御部11は、前述の評価方法1のS1と同様にして評価対象LDMOS4の自己発熱状態におけるドレイン電流(Id)・ドレイン電圧(Vd)特性およびドレイン電流(Id)・ゲート電圧(Vg)特性をI−V特性測定装置21に測定させる(S10)。続いて、小サイズのLDMOSのドレイン電流(Idref)・ドレイン電圧(Vd)特性を測定する(S11)。
【0064】
殆ど自己発熱しない小サイズのLDMOS(例えば、1〜数セルのLDMOS)は、それよりもサイズの大きいLDMOSが自己発熱していない状態(無発熱状態)における電流・電圧特性を求めるための基準とすることができる。
【0065】
図5は、各種サイズのLDMOSにおいて、ゲート電圧Vg=−4.5Vで、ドレイン電圧Vdを0〜ー12Vに変化させたときのドレイン電流(Id)・ドレイン電圧(Vd)特性(実測値)をセル当たりの電流で示す特性図である。図中、細い実線で示す曲線は、1×1個のセルからなるLDMOS(以下、LDMOS−Aという)、細い一点鎖線で示す曲線は、1×3個のセルからなるLDMOS(以下、LDMOS−Bという)、破線で示す曲線は、3×3個のセルからなるLDMOS(以下、LDMOS−Cという)、太い実線で示す曲線は、0.01mm(セル数126個)のLDMOS(以下、LDMOS−Dという)、太い一点鎖線で示す曲線は、0.1mm(セル数1116個)のLDMOS(以下、LDMOS−Eという)の各特性図をそれぞれ示す。
【0066】
自己発熱の影響は、飽和領域(図5では、−4V以下の比較的フラットな領域)の勾配に顕著に表れ、この勾配が負であれば、自己発熱の影響が明確に出ていることになる。図5に示すように、サイズの大きいLDMOSほど、勾配が負になっている。また、図5のグラフの左側ほど消費パワーが大きく、温度上昇が大きい。また、温度が高いほどドレイン電流値Idの絶対値は小さくなる。この実施形態では、最小サイズのLDMOS−Aを自己発熱のない基準のLDMOSに設定し、それよりも大きいサイズの他のLDMOS−B〜Eが評価対象LDMOSであるとする。
【0067】
均一温度I−V特性算出部14は、S11において測定した小サイズのLDMOS−Aのドレイン電流(Idref)・ドレイン電圧(Vd)特性に基づいて((ΔIdref/ΔVd)/Idref)とドレイン電圧(Vd)との関係を演算する(S12)。ここで、(ΔIdref/ΔVd)は、ドレイン電流(Idref)・ドレイン電圧(Vd)特性の飽和領域における勾配であり、((ΔIdref/ΔVd)/Idref)は、その勾配を規格化した規格化勾配である。
【0068】
つまり、自己発熱がない場合は、LDMOSのサイズが大きいほどドレイン電流値Idrefが大きくなるため(例えば、サイズが2倍になると勾配も2倍になる)、勾配(ΔIdref/ΔVd)をドレイン電流値Idrefで除して規格化する。
なお、規格化勾配は、((ΔIdref/ΔVd)/Weff)によって演算することもできる。ここで、WeffはLDMOS−Aのチャネル幅である。
【0069】
図6の実線Aは、S12において演算した規格化勾配((ΔIdref/ΔVd)/Idref)とドレイン電圧Vdとの関係を示すグラフである。
熱抵抗算出部13(図1)は、次の(1)式により、S10における評価対象LDMOSの各電圧(Vd,Vg)での温度上昇分ΔTを演算する(S13)。
【0070】
ΔT=Id×Vd×Rth ・・・(1)
【0071】
ここで、IdおよびVdは、それぞれS10において測定したドレイン電流値およびドレイン電圧値であり、Rthは熱抵抗である。例えば、ドレイン電流値Idおよびドレイン電圧値Vdは、それぞれ図5に示すように、ゲート電圧(Vg)が−4.5Vのときのドレイン電流(Id)・ドレイン電圧(Vd)特性の一部を使用して求める。また、熱抵抗Rthは未知であるため、熱抵抗Rthとして所定値を代入する。なお、(1)式に代えて次の(1a)式により、温度上昇分ΔTを演算することもできる。
【0072】
ΔT=Id×Vd×(rth0/Weff) ・・・(1a)
【0073】
ここで、rth0=Rth×Weffである。rth0は規格化熱抵抗であり、WeffはLDMOS−Aのチャネル幅である。LDMOSの面積が大きい場合は、rth0が一定の値になるため、そのような場合は、(1a)式を用いればΔTを容易に演算できる。
【0074】
続いて、均一温度I−V特性算出部14(図1)は、次の(2)式により、自己発熱していない状態(無発熱状態)における評価対象LDMOSのドレイン電流値Id0を演算する(S13)。
【0075】
Id0=Id×((To+ΔT)/To) ・・・(2)
【0076】
ここで、IdはS10において測定した評価対象LDMOSの自己発熱状態におけるドレイン電流値であり、ToはS10における測定開始時の評価対象LDMOSの絶対温度であり、ΔTは先に演算した温度上昇分である。この実施形態では、n=1.5である。
また、上記の演算されたドレイン電流値Id0に基づいて、自己発熱していない状態における評価対象LDMOSの仮のドレイン電流(Id0)・ドレイン電圧(Vd)特性およびドレイン電流(Id0)・ゲート電圧(Vg)特性を演算する(S13)。
【0077】
続いて、S13において演算したドレイン電流(Id0)・ドレイン電圧(Vd)特性に基づいて、自己発熱していない状態における評価対象LDMOSの規格化勾配((ΔId0/ΔVd)/Id0)とドレイン電圧Vdとの関係を演算する(S14)。
続いて、S12において演算した規格化勾配((ΔIdref/ΔVd)/Idref)とドレイン電圧Vdとの関係と、S14において演算した規格化勾配((ΔId0/ΔVd)/Id0)とドレイン電圧Vdとの関係を比較する(S15)。つまり、基準となる小サイズLDMOS−Aの規格化勾配とドレイン電圧との関係と、評価対象LDMOSの規格化勾配とドレイン電圧との関係を比較する。
【0078】
続いて、上記の関係が、ほぼ一致するか否かを判定し(S16)、一致しないと判定した場合は(S16:No)、熱抵抗Rthの値を変更し(S17)、再度、S13〜S15を実行する。つまり、図6に示すグラフにおいて、評価対象であるLDMOS−B〜Eの曲線が、基準となるLDMOS−Aの曲線とほぼ一致するように熱抵抗Rthの値を変更する。上記の関係が、ほぼ一致するか否かの判定は、図5において飽和領域の始まるドレイン電圧から、実際の使用ドレイン電圧(ここでは−6〜−12Vに相当)での誤差が最小となったときに、ほぼ一致すると判定する。例えば、その誤差の絶対値が概ね10%程度以内であれば、ほぼ一致すると判定する。
【0079】
図7は、熱抵抗Rthの値を変更することにより、LDMOS−B〜Eの曲線が、基準となるLDMOS−Aの曲線とほぼ一致した状態を示すグラフである。この実施形態では、LDMOS−Aの規格化熱抵抗rth0は、0.001mK/Wであり、図7に示すように、LDMOS−Aの曲線とほぼ一致した状態になったときのLDMOS−B〜Eの規格化熱抵抗rth0は、順に0.004、0.01、0.042、0.1mK/Wであった。また、LDMOS−B〜Eのチャネル幅は、順に3.48e-5、1.04e-4、1.462e-3、1.295e-2mであり、Rth=rth0/Weffであるため、LDMOS−B〜Eの熱抵抗Rthは、順に115、95.8、28.7、7.72である。
【0080】
続いて、S16において肯定判定した場合は(S16:Yes)、その肯定判定を行った直前の処理サイクル(S13〜S17)のS17において変更した熱抵抗Rthを用いて自己発熱していない状態(無発熱状態)における評価対象LDMOSのドレイン電流(Id0)・ドレイン電圧(Vd)特性と、ドレイン電流(Id0)・ゲート電圧(Vg)特性とを演算する(S18)。続いて、パラメータ抽出部15は、S18において演算した各特性に基いて、回路シミュレーション用のモデルパラメータを抽出する(S19)。
【0081】
以上のように、この実施形態の評価方法2によれば、評価対象LDMOSの温度を測定しなくても、小サイズのLDMOSの電流・電圧特性に基づいて、評価対象LDMOSの自己発熱していない状態における電流・電圧特性を求めることができる。
また、従来の高速パルス測定法のように、専用に設計した測定対象物(TEG)が不要である。さらに、特性インピーダンスを、高周波系の標準である50Ωにマッチングさせる必要もない。
従って、評価方法2によれば、自己発熱していない状態のLDMOSの電流・電圧特性を、比較的簡易な手法により精度良く得ることができる。
【0082】
<第2実施形態>
次に、この発明の第2実施形態について図を参照して説明する。
図8は、LDMOSの温度を測定するためのダイオードの配置を示す説明図であり、(a)はダイオードを1個配置した状態、(b)はダイオードを3個配置した状態、(c)はダイオードをLDMOS上に配置した状態である。図9はデータ処理装置10が実行する処理の流れを示すフローチャートである。図10はダイオードの順方向電圧とLDMOSの温度との関係を示すグラフである。
【0083】
この実施形態は、評価対象LDMOSの近傍に配置した温度検出用ダイオードの順方向電圧に基づいて評価対象LDMOSの温度を測定することを特徴とする。
図8(a)に示すように、評価対象LDMOS4が配置されており、その近傍には温度検出用ダイオードDが配置されている。評価対象LDMOS4および温度検出用ダイオードDは、同じSOI基板上に配置されている。
【0084】
データ処理装置10の計測制御部11(図1)は、温度検出用ダイオードDの順方向電圧−温度特性を測定させる(図9のS30)。温度を徐々に変えながら、順方向電圧−温度特性は、計測装置20に備えられた順方向電圧−温度特性測定装置(図示せず)が測定する。
温度検出用ダイオードDの順方向電圧と温度との間には、図10に示すように、評価対象LDMOS4の温度が上昇すると、ダイオードDの順方向電圧Vfが低下する関係がある。
【0085】
続いて、計測制御部11は、評価対象LDMOS4の自己発熱状態におけるドレイン電流(Id)・ドレイン電圧(Vd)特性およびドレイン電流(Id)・ゲート電圧(Vg)特性をI−V特性測定装置21に測定させる(S31)。また、その測定を行うときに、ドレイン電圧Vdの各測定点における評価対象LDMOS4の近傍に配置した温度測定用ダイオードDの順方向電圧を前記の順方向電圧−温度特性測定装置(図示せず)に測定させる(S31)。
【0086】
続いて、均一温度I−V特性算出部14は、S31において測定された各測定点での温度検出用ダイオードDの順方向電圧から各測定点での評価対象LDMOS4の絶対温度Toを演算する(S32)。
続いて、評価対象LDMOS4の自己発熱していない状態(無発熱状態)におけるドレイン電流値Id0を次の(2)式により演算する(S33)。
【0087】
Id0=Id×((To+ΔT)/To) ・・・(2)
【0088】
ここで、IdはS31において測定した自己発熱状態における評価対象LDMOS4のドレイン電流値であり、Toは測定開始時の絶対温度であり、To+ΔTはS32において演算された各測定点での評価対象LDMOS4の絶対温度であり、ΔTは各測定点間における評価対象LDMOS4の温度上昇分であり、nは1.5〜2である。この実施形態では、n=1.5である。
【0089】
これにより、自己発熱していない状態(無発熱状態)における評価対象LDMOS4のドレイン電流(Id0)・ドレイン電圧(Vd)特性およびドレイン電流(Id0)・ゲート電圧(Vg)特性が算出される(S33)。続いて、パラメータ抽出部15は、S34において演算した各特性に基いて、回路シミュレーション用のモデルパラメータを抽出する(S34)。
【0090】
以上のように、第2実施形態の評価装置および評価方法によれば、評価対象LDMOS4の近傍に配置した温度検出用ダイオードDの順方向電圧を測定することにより、自己発熱していない状態における評価対象LDMOS4の電流・電圧特性を得ることができる。
つまり、自己発熱していない状態における評価対象LDMOS4の電流・電圧特性を、比較的簡易な方法および構成により精度良く得ることができる。
【0091】
[変更例1]
図8(b)に示すように、評価対象LDMOS4からの距離が異なる3個の温度検出用ダイオードD1,D2,D3を評価対象LDMOS4の近傍に配置する。そして、各温度検出用ダイオードの各順方向電圧を測定し、その測定した値から1次関数または2次関数を算出し、評価対象LDMOS4の平均温度を求める。LDMOSの温度は、中央部ほど高く、LDMOSから離れるほど低下するが、このように、温度分布を関数化することで、より精度よく温度を計測できる。なお、配置する温度検出用ダイオードの数は、複数であればよく、2個または4個以上でもよい。
【0092】
[変更例2]
図8(c)に示すように、評価対象LDMOS4の表面に温度検出用ダイオードDを直接配置する。そして、温度検出用ダイオードDの順方向電圧を測定し、その測定値に基づいて評価対象LDMOS4の中央部の温度を求める。温度検出用ダイオードDが評価対象LDMOS4の表面に直接配置するため、評価対象LDMOS4の中央部の温度を温度検出用ダイオードDの順方向電圧に高精度に反映させることができるため、評価対象LDMOS4の電流・電圧特性を高精度で演算することができる。
【0093】
[変更例3]
図8(a)に示すように、評価対象LDMOS4の近傍にダイオードDを1個配置する。そして、2つの異なる電流をダイオードDに流したときの各順方向電圧を測定し、その測定値の差分ΔVに基づいて評価対象LDMOS4の温度を算出する。
例えば、第1の順方向電流Ifを流したときのダイオードDの第1の順方向電圧Vf1と、それのN倍の第2の順方向電流N・Ifを流したときのダイオードDの第2の順方向電圧Vf2とをそれぞれ測定する。そして、第1の順方向電圧Vf1と第2の順方向電圧Vf2との差分ΔVは次の(3)式で表される。
【0094】
ΔV=η(kT/q)ln(N) ・・・(3)
【0095】
ここで、qは電子の電荷量(1.6×10-19C)、kはボルツマン定数(1.38×10-23J/K)、Tは絶対温度(K)、ηは理想因子である。理想因子はダイオードのpn接合が理想的な条件からどの程度ずれているかを示し、この値は製造プロセスに依存する。ただし、η≒1(±1%程度)である。上記の(3)式を変形すると、次の(4)式を得る。
【0096】
T=ΔV・q/η・k・ln(N) ・・・(4)
【0097】
ここで、(4)式の右辺においてη以外は既知であるため、ηが分かれば温度Tを求めることができる。ηは任意の温度(例えば室温)でΔVを計測すれば算出することができる。
従って、変更例3によれば、事前にダイオードDの順方向電圧と温度との関係を測定しておく必要がない。
【0098】
<他の実施形態>
(1)第2実施形態のS13では、評価対象LDMOSの温度上昇分ΔTを計算式によって推定したが、第1実施形態のように評価対象LDMOSの温度を測定することにより、温度上昇分ΔTを算出し、熱抵抗Rthを求めることもできる。
【0099】
(2)前述の各実施形態では、SOI基板上形成されたLDMOSを評価対象としたが、バルクウエハ上に形成されたLDMOSを評価対象とすることもできる。
【0100】
(3)前述の各実施形態では、LDMOSを評価対象としたが、電流の温度特性がキャリアの移動度の温度特性により支配的に決まるデバイスであって、電流・電圧特性測定時に自己発熱により温度が上昇して特性が変わってしまうデバイスを評価対象とすることもできる。例えば、縦型パワーMOSFETやアップドレイン型のパワーMOSFETなどを評価対象とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】パワー半導体素子の評価装置の主要な電気的構成をブロックで示す説明図である。
【図2】評価方法1を実行するためにデータ処理装置10が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】LDMOSのドレイン電流(Id)−ドレイン電圧(Vd)特性を示す特性図である。
【図4】評価方法2を実行するためにデータ処理装置10が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】各種サイズのLDMOSにおいて、ゲート電圧Vg=ー4.5Vで、ドレイン電圧Vdを0〜ー12Vに変化させたときのドレイン電流(Idref)・ドレイン電圧(Vd)特性(実測値)を示す特性図である。
【図6】S12において演算した規格化勾配((ΔIdref/ΔVd)/Idref)とVdとの関係を示すグラフである。
【図7】熱抵抗Rthの値を変更することにより、LDMOS−B〜Eの曲線が、基準となるLDMOS−Aの曲線とほぼ一致した状態を示すグラフである。
【図8】LDMOSの温度を測定するためのダイオードの配置を示す説明図であり、(a)はダイオードを1個配置した状態、(b)はダイオードを3個配置した状態、(c)はダイオードをLDMOS上に配置した状態である。
【図9】データ処理装置10が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】ダイオードの順方向電圧とLDMOSの温度との関係を示すグラフである。
【図11】pチャネルのLDMOSの要部を示す縦断面図である。
【図12】図11に示したLDMOSが発熱していないとき(無発熱)および発熱しているときのドレイン電流(Id)・ドレイン電圧(Vd)特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0102】
1・・評価装置、2・・入力装置、3・・出力装置、4・・評価対象LDMOS、
10・・データ処理装置、11・・計測制御部、13・・熱抵抗算出部、
14・・均一温度I−V特性算出部、15・・パラメータ抽出部、20・・計測装置、
21・・I−V特性測定装置、22・・温度測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流ードレイン・ソース間電圧特性およびドレイン電流ーゲート・ソース間電圧特性(以下、両特性を電流・電圧特性という)を推定するためのパワー半導体素子の評価方法において、
自己発熱状態のパワー半導体素子の電流・電圧特性を測定する第1ステップと、
自己発熱していない状態におけるドレイン電流値をId0、前記第1ステップにより測定されたドレイン電流値をId、ドレイン・ソース間電圧をVd、前記第1ステップにおける測定開始時のパワー半導体素子の絶対温度をTo、前記ドレイン・ソース間電圧(Vd)を上昇させたときの温度上昇分をΔT、n=1.5〜2とした場合に、次式、
Id0=Id×((To+ΔT)/To)
を用いて自己発熱していないときのドレイン電流値Id0を求める第2ステップと、
を有することを特徴とするパワー半導体素子の評価方法。
【請求項2】
パワー半導体素子の自己発熱していない状態における電流・電圧特性を推定するためのパワー半導体素子の評価方法において、
評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱状態における電流・電圧特性と、自己発熱による温度上昇が十分小さいパワー半導体素子の電流・電圧特性とを測定する第1ステップと、
前記第1ステップにおいて測定され、前記自己発熱による温度上昇が十分小さいパワー半導体素子のドレイン電流ードレイン・ソース間電圧特性におけるドレイン電流(Idref)の変化分をΔIdref、ドレイン・ソース間電圧(Vd)の変化分をΔVdとした場合に、ドレイン電流(Idref)・ドレイン・ソース間電圧(Vd)特性の飽和領域における勾配(ΔIdref/ΔVd)に基づいて、その勾配を規格化した規格化勾配((ΔIdref/ΔVd)/Idref)とドレイン・ソース間電圧(Vd)との関係を求める第2ステップと、
前記評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流値をId0、前記第1ステップにより測定されたドレイン電流値をId、前記第1ステップにおける測定開始時のパワー半導体素子の絶対温度をTo、前記ドレイン・ソース間電圧(Vd)を上昇させたときの温度上昇分をΔT、n=1.5〜2、前記評価対象となるパワー半導体素子の熱抵抗をRthとした場合に、
ΔT=Id×Vd×Rth ・・・(1)式
においてRtに所定値を代入してΔTを求め、さらに、
Id0=Id×((To+ΔT)/To) ・・・(2)式
に上記求めたΔTを代入してドレイン電流値Id0を求めることにより、前記評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態における仮の電流・電圧特性を求める第3ステップと、
前記第3ステップにより求めた仮の電流・電圧特性におけるドレイン電流(Id0)の変化分をΔId0、ドレイン・ソース間電圧(Vd)の変化分をΔVdとした場合に、前記第3ステップにより求めた仮の電流・電圧特性の飽和領域における勾配(ΔId0/ΔVd)に基づいて、その勾配を規格化した規格化勾配((ΔId0/ΔVd)/Id0)とドレイン・ソース間電圧Vdとの関係を求める第4ステップと、
前記熱抵抗Rthを変化させながら前記第3および第4ステップを実行し、前記第4ステップにより求めた関係が前記第2ステップにおいて求めた関係に最も近くなる熱抵抗Rthを求める第5ステップと、
を有することを特徴とするパワー半導体素子の評価方法。
【請求項3】
前記第5ステップにより求めた熱抵抗Rthおよび前記(1)式および(2)式を用いて前記評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流(Id0)を求める第6ステップを有することを特徴とする請求項2に記載のパワー半導体素子の評価方法。
【請求項4】
前記評価対象となるパワー半導体素子のチャネル幅をWeffとした場合に、前記第4ステップでは前記規格化勾配として((ΔId0/ΔVd)/Weff)を求めることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のパワー半導体素子の評価方法。
【請求項5】
パワー半導体素子の自己発熱していない状態における電流・電圧特性を推定するためのパワー半導体素子の評価装置において、
自己発熱状態のパワー半導体素子の電流・電圧特性を測定する測定装置と、
自己発熱していない状態におけるドレイン電流値をId0、前記測定装置により測定されたドレイン電流値をId、前記測定装置による測定開始時のパワー半導体素子の絶対温度をTo、前記電圧(Vd)を上昇させたときの温度上昇分をΔT、n=1.5〜2とした場合に、次式、
Id0=Id×((To+ΔT)/To)
を用いて自己発熱していないときのドレイン電流値Id0を求める演算装置と、
を備えたことを特徴とするパワー半導体素子の評価装置。
【請求項6】
パワー半導体素子の自己発熱していない状態における電流・電圧特性を推定するためのパワー半導体素子の評価装置において、
評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱状態における電流・電圧特性と、自己発熱による温度上昇が十分小さいパワー半導体素子の電流・電圧特性とを測定する測定装置を備え、
前記測定装置により測定され、自己発熱による温度上昇が十分小さいパワー半導体素子のドレイン電流ードレイン・ソース間電圧特性におけるドレイン電流(Idref)の変化分をΔIdref、ドレイン・ソース間電圧(Vd)の変化分をΔVdとした場合に、ドレイン電流(Idref)・ドレイン・ソース間電圧(Vd)特性の飽和領域における勾配(ΔIdref/ΔVd)に基づいて、その勾配を規格化した規格化勾配((ΔIdref/ΔVd)/Idref)とドレイン・ソース間電圧(Vd)との関係を求める第1演算処理と、
前記評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流値をId0、前記測定装置により測定されたドレイン電流値をId、前記測定装置による測定開始時のパワー半導体素子の絶対温度をTo、前記ドレイン・ソース間電圧(Vd)を上昇させたときの温度上昇分をΔT、n=1.5〜2、前記評価対象となるパワー半導体素子の熱抵抗をRthとした場合に、
ΔT=Id×Vd×Rth ・・・(1)式
においてRthに所定値を代入してΔTを求め、さらに、
Id0=Id×((To+ΔT)/To) ・・・(2)式
に上記求めたΔTを代入してドレイン電流値Id0を求めることにより、前記評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態における仮の電流・電圧特性を求める第2演算処理と、
前記第2演算処理により求めた仮の電流・電圧特性におけるドレイン電流(Id0)の変化分をΔId0、ドレイン・ソース間電圧(Vd)の変化分をΔVdとした場合に、前記第2演算処理により求めた仮の電流・電圧特性の飽和領域における勾配(ΔId0/ΔVd)に基づいて、その勾配を規格化した規格化勾配((ΔId0/ΔVd)/Id0)とドレイン・ソース間電圧Vdとの関係を求める第3演算処理と、
前記熱抵抗Rthを変化させながら前記第2および第3演算処理を実行し、前記第3演算処理により求めた関係が前記第1演算処理において求めた関係に最も近くなる熱抵抗Rthを求める第4演算処理と、を実行する演算装置をさらに備えたことを特徴とするパワー半導体素子の評価装置。
【請求項7】
前記演算装置は、前記第4演算処理により求めた熱抵抗Rthおよび前記(1)式および(2)式を用いて前記評価対象となるパワー半導体素子の自己発熱していない状態におけるドレイン電流(Id0)を求める第5演算処理を実行することを特徴とする請求項6に記載のパワー半導体素子の評価装置。
【請求項8】
前記評価対象となるパワー半導体素子のチャネル幅をWeffとした場合に、前記第3演算処理では前記規格化勾配として((ΔId0/ΔVd)/Weff)を求めることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のパワー半導体素子の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−71112(P2009−71112A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239068(P2007−239068)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】