説明

ブラシレスDCモータの駆動制御装置

【課題】ブラシレスDCモータを、非相補的なPWMスイッチング出力を用いて高効率に駆動し、アナログ電流検出回路を用いず、高精度に電流制御する駆動制御装置を実現する。
【解決手段】PWM比決定器5で、駆動中のモータから検出される軸角度及び回転角速度と、モータの駆動に必要な目標電流のみを入力して、各相に流す電流に係る最も効率の良い駆動制御モード及びPWMデューティー比を求め、この駆動制御モード及びPWMデューティー比に基づいてPWM信号発生器4で各相のPWM信号を発生し、このPWM信号に基づき、駆動回路3を構成するハーフブリッジ回路7においてオープン状態を含む状態でモータの各相に駆動電流を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスDCモータの駆動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、産業機械や家電製品など多くの技術分野でブラシレスDCモータが使用されるようになった。ロボティクス分野では、無人搬送台車やレスキューロボットなどの自立移動ロボットの原動機として、小型大出力、長寿命、防爆の性質を持つブラシレスDCモータが使用されている。
【0003】
一般に、ブラシレスDCモータの高精度な駆動制御には、アナログ電流検出回路を用いた、パルス幅変調(PWM)スイッチング出力による電流フィードバック制御手段が使用されている(例えば、特許文献1参照)。このアナログ電流検出回路は、駆動制御回路を複雑とする上、大電流のスイッチング環境下で動作するため、高精度な電流制御を行う場合には、十分な雑音対策を施す必要がある。
【0004】
しかし、移動ロボットに代表される多くの機器の制御系おいては、モータの回転速度及び回転角度の制御を行い、ロボット等の速度や位置を制御することが目的であり、特に高精度なモータ電流の制御は要求されない。従って、フィードバック電流制御を、目的電流値からPWMデューティー比を計算によって求めてモータに与えるフィードフォワード電流制御で置き換えても問題ないことが多い。
【0005】
この考え方を用いた、ブラシ付きDCモータのフィードフォワード電流制御法が、本発明者らにより、すでに報告されている(特許文献2、非特許文献1参照)。
【0006】
図7にブラシレスDCモータの駆動制御装置の従来例を示す。このブラシレスDCモータ31の駆動制御装置32は、主に、ブラシレスDCモータの駆動制御器33と、ブラシレスDCモータ31に接続されている駆動回路35とから成る。ブラシレスDCモータの駆動制御器33は、モータ駆動回路のスイッチ素子を制御するためのPWM信号を生成するPWM信号発生器34と、FB(フィードバック)コントローラ40とを備えている。そして、ブラシレスDCモータ31には、角度センサ36と、角速度センサ37と、各相毎に設けられたアナログ電流検出回路38とが付設されている。
【0007】
ブラシレスDCモータの駆動制御器33のFBコントローラ40は、各相の目標電流決定部39に接続されている。目標電流決定部39は、ブラシレスDCモータ31の組み込まれる機器(例えば、ロボット)本体の動作に必要なトルク(機器動作に必要なトルク)或いはモーターの目標回転数の値を入力し、また、角度センサ36と角速度センサ37の測定値を入力する構成として、ブラシレスDCモータ31が、機器本体の動作に必要なトルクを発生するための瞬時の目標電流の値を決定する。
【0008】
FBコントローラ40は、目標電流決定部39で決定された目標電流と各相のアナログ電流検出回路38により検出された電流とに基づいて、モータの各相に加えるべき目標等価電圧を決定し、これに基づきPWMデューティー比を決定する手段である。PWM信号発生器34は、上記目標等価電圧に基づいて、モータ駆動回路35の各々のスイッチ素子を制御する信号を生成する。
【0009】
駆動回路35は、各相毎のハーフブリッジ回路41から成り、PWM信号に基づいてスイッチングにより電源電圧と接地電圧を相補的に印加して、ブラシレスDCモータ31に駆動電流を与え駆動制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平07−111792号公報
【特許文献2】特許第2605067号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】飯田重喜、油田信一、DCモータのソフトウェアサーボ系におけるフィードフォワード電流制御、電気学会論文誌D Vol.109−D、No.4、pp289−296、1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のとおり、従来、多くのブラシレスDCモータの駆動制御においては、モータの端子をPWM信号により相補的に電源電圧又は接地電圧と接続することで、モータに与えるPWMの各周期中の平均電圧を制御しモータを駆動制御している。
【0013】
この相補的なPWM駆動方法では、モータ各相に与えるPWM比と、PWMの1周期中に加えられる平均電圧又は平均電流の関係が比較的簡単な計算式で得られる。従って、例えば、モータの各相に与える電圧又は電流をモータ回転部の軸角度に応じた正弦波とすることによりモータをスムースに制御する正弦波駆動制御方式のDCモータ駆動装置には多く利用されている。
【0014】
一方、このような駆動制御では、PWMの各周期中に目標平均電流と逆方向に過渡電流が流れて、電気エネルギーの損失が発生することがある。特に小型でインダクタンスの小さなモータでは、この損失が顕著に生じる。また、このような駆動制御では、モータの回生エネルギーが全て熱として消費されるため損失が無視できない。
【0015】
ところで、例えば、搭載可能な電力量が限られる自立移動ロボットでは特に、消費電力を減らし、原動機を高効率に駆動することが重要である。
【0016】
また、上記のとおり、従来のブラシレスDCモータの駆動制御においては、各相の電流値を制御するために電流検出回路を用い、各相に流れる電流値を測定して、それをフィードバック信号として用いる方式が多く利用されている。しかし、この方式は、駆動制御回路の構成を複雑とする問題があり、アナログ電流検出回路を用いない駆動制御手段が利用できれば、制御系のハードウェア設計が容易となる。
【0017】
本発明は、ブラシレスDCモータの駆動制御において、簡単な回路構成によって上記電気エネルギーの損失を低減し、効率を高めることを目的とし、ブラシレスDCモータを、その駆動回路において非相補的なPWMスイッチングを用いて高効率に駆動し、また、アナログ電流検出回路を用いず、高精度にフィードフォワード電流制御するブラシレスDCモータの駆動制御装置を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記課題を解決するために、駆動制御モード及びPWMデューティー比決定器(以下、本明細書及び本発明において、単に「PWM比決定器」という。)と、PWM信号発生器と、駆動回路とを備えたブラシレスDCモータの駆動制御装置であって、前記PWM比決定器は、駆動中のモータから検出される軸角度及び回転角速度と、モータの駆動に必要な各相の目標電流値を入力して、各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を求めるものであり、前記PWM信号発生器は、PWM比決定器によって求められた各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を入力して、各相の前記駆動回路のスイッチ素子を制御する信号を発生するものであり、前記駆動回路は、各相毎に電源と接地間に直列に設けられた2つのスイッチ素子と、該2つのスイッチ素子にそれぞれ並列に設けられたダイオードを備えたハーフブリッジ回路から構成されており、前記各相のPWM信号を入力して、モータの対応する端子に駆動電流を流すものであり、駆動時には、前記2つのスイッチ素子が共にオフとなるオープン状態を含む構成であることを特徴とするブラシレスDCモータの駆動制御装置を提供する。
【0019】
前記ブラシレスDCモータの駆動制御装置は、その各相に流れる電流を検出する回路を有さず、前記PWM比決定器が前記各相に流れる電流をフィードバック信号として利用することなく、フィードフォワード方式でモータ各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を決めることにより各相の電流を制御することが好ましい。
【0020】
前記PWM比決定器は、マイクロコンピュータが使用され、駆動中のモータから検出される軸角度及び回転角速度と、モータの駆動に必要な各相の目標電流値を入力すると、該マイクロコンピュータに搭載されたプログラムにより、各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を求める構成であることが好ましい。
【0021】
前記PWM比決定器は、マイクロコンピュータが使用され、該マイクロコンピュータのプログラムには、予めモータ定数(モータの抵抗、インダクタンスなどの値)、電源電圧及びPWM基本周期が予め設定されており、該マイクロコンピュータに搭載されたプログラムにより、各相の駆動制御モード算出手段及びPWMデューティー比算出手段を備え、前記駆動制御モード算出手段とPWMデューティー比算出手段は、駆動中のモータから検出される軸角度及び回転角速度と、各相の目標電流値、モータ定数、電源電圧及びPWM基本周期から、各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を算出して求める構成であることが好ましい。
【0022】
前記PWM比決定器は、マイクロコンピュータが使用され、駆動中のモータから検出される軸角度及び回転角速度と、モータの駆動のための目標電流値を入力すると、該マイクロコンピュータのメモリに搭載されたテーブルを用いて各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を求める構成であり、前記テーブルは、モータの軸角度及び回転角速度と、モータ各相の駆動制御モード及びPWMデューティー比と、該駆動制御モード及びPWMデューティー比に対応してモータの各相に流れる電流の関係を示すものであることが好ましい。
【0023】
前記PWM比決定器は、マイクロコンピュータが使用され、駆動中のモータから検出される軸角度及び回転角速度と、モータの駆動のための目標電流値を入力すると、該マイクロコンピュータのプログラムに準備された近似関数式に従って、各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を求める構成であり、前記近似関数式は、駆動中のモータの軸角度、回転角速度及び各相の目標電流値に対して、駆動制御モードとPWMデューティー比を与えるように予め作られているものとしても良い。
【0024】
前記目標電流決定部は、各相に流れる駆動電流が正弦波となるように各相の目標電流値を算出する機能を有することが好ましい。
【0025】
前記ブラシレスDCモータの温度の変化を検出する温度検出器を設け、該温度検出器で検出された温度を、軸角度及び回転角速度と、モータの駆動に必要な目標電流に加えて、前記マイクロコンピュータに入力し、該検出された温度に対応し、予め設定したモータ定数を逐次更新する構成としても良い。
【0026】
前記ブラシレスDCモータは、三相ブラシレスDCモータ又は多相ブラシレスDCであることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るブラシレスDCモータの駆動制御装置によれば、次のような効果が生じる。
(1)ブラシレスDCモータを、非相補的なPWMスイッチング出力を用いることで、電気エネルギーの損失を低減して高効率に駆動することができる。このように、原動機(ブラシレスDCモータ)を高効率に駆動することができるから、搭載可能な電力量が限られる自立移動ロボット等比較的小型のバッテリー駆動の装置に、特に有用である。
(2)アナログ電流検出回路を用いないで高精度にフィードフォワード電流制御することができ、駆動制御装置のハードウェアが簡単となり、またその設計が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るブラシレスDCモータの駆動制御装置の実施例の全体構成を示す図である。
【図2】(a)本発明に係るブラシレスDCモータの駆動制御装置の駆動回路を示す図であり、(b)は本発明におけるブラシレスDCモータと駆動制御装置の駆動回路の等価回路を説明する図である。
【図3】(a)〜(c)は、本発明の1周期における各相のモータ端子電圧Vu、Vv、Vwの時間経過における変動を示す図であり、(d)は、各タイミングにおける各相に流れる電流の波形を示す図である。
【図4】(a)〜(c)は、従来例の1周期における各相のモータ端子電圧Vu、Vv、Vwの時間経過における変動を示す図であり、(d)は、各タイミングにおける各相に流れる電流の波形を示す図である。
【図5】本発明のPWM比決定器の構成、機能を説明するデータフロー図である。
【図6】本発明の駆動制御モード及びPWMデューティー比の算出に用いるテーブルの例を示す図である。
【図7】ブラシレスDCモータの駆動制御装置の従来例の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係るブラシレスDCモータの駆動制御装置を実施するための形態を実施例に基づき図面を参照して、以下説明する。
【実施例】
【0030】
(全体構成)
図1は、本発明に係るブラシレスDCモータの駆動制御装置2の全体構成を示す図である。駆動制御装置2は、主に、ブラシレスDCモータ1に接続されている駆動回路3と、ブラシレスDCモータ駆動制御器12とから成り、ブラシレスDCモータ駆動制御器12は、駆動回路3の各相毎のスイッチ素子を制御するための駆動制御信号を生成するPWM信号発生器4と、PWM比決定器5(駆動制御モード及びPWMデューティー比決定器)と、を備えている。
【0031】
駆動制御器12は目標電流決定部11に接続されている。この目標電流決定部11は、ブラシレスDCモータ1に求められる出力トルク(目標トルク)或いは目標回転速度と、各時刻のモータの軸角度及びモータ回転角速度から、その瞬間のモータの各相に与えるべき目標電流を決定するものである。
【0032】
本発明に係るブラシレスDCモータの駆動制御装置2で駆動制御されるブラシレスDCモータ1には、軸角度及び回転角速度を計測する検出器6が取り付けられている。検出器6の構成は、具体的には、例えば、エンコーダをモータに取り付け、エンコーダによる検知された回転軸の回転角変位から軸角度を検知する軸角度センサ13、さらに回転角変位からカウンタで単位時間あたり回転角速度を得る回転角速度センサ14である。
【0033】
駆動回路3は、図2(a)に詳細に示すが、ブラシレスDCモータ1のU相、V相、W相の各相に対応して設けられたハーフブリッジ回路7から構成されている。各相のハーフブリッジ回路7は、互いに並列に設けられた第1スイッチ素子Su1、Sv1、Sw1及び第1ダイオードDu1、Dv1、Dv1の第1の組と、互いに並列に設けられた第2スイッチ素子Su1、Sv1、Sw1及び第2ダイオードDu2、Dv2、Dv2の第2の組が、電源電圧Vccと接地電圧間に直列に設けられている。
【0034】
第1の組と第2の組の途中にそれぞれ接続された結線8、9、10は、それぞれブラシレスDCモータ1のU相、V相、W相の端子に接続されている。
【0035】
従来例の多くは、図7に示すように、この各相の結線にアナログ電流検出回路38が設けられているが、本発明に係るブラシレスDCモータ1の駆動制御装置2では、このようなアナログ電流検出回路は設けられていない。なお、本願発明のブラシレスDCモータ1、駆動回路3、ハーフブリッジ回路7、目標電流決定部11、軸角度センサ13、回転角速度度センサ14、は、それぞれ図7に示す従来例のブラシレスDCモータ31、駆動回路35、ハーフブリッジ回路41、目標電流決定部39、軸角度センサ36、回転角速度度センサ37と同じ機能を備えている。
【0036】
PWM比決定器5は、本発明では、例えばマイクロコンピュータを使用し、このマイクロコンピュータに、目標電流、軸角度及び回転角速度が入力される構成となっており、目標電流、軸角度及び回転角速度に基づいて電流制御の周期毎に、各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を求め、これらをPWM信号発生器4に与える構成とされている。
【0037】
なお、PWM比決定器5は、本発明ではマイクロコンピュータが使用され、そのマイクロコンピュータに搭載されるプログラムによって、マイクロコンピュータがPWM比決定器5としての一連のデータ処理動作(機能)を行う。図5は、詳細は後記するが、この一連のデータ処理動作(機能)の流れの一例を説明するデータフロー図である。
【0038】
ここで、目標電流は、その時刻におけるPWM周期の間で平均としてモータの各相に流すべき電流であり、例えば、ブラシレスDCモータ1の組み込まれる機器(例えば、ロボット)本体における、動作に必要な目標トルク(機器動作に必要なトルク)が与えられる場合にはその値から、例えば、ブラシレスDCモータ1を正弦波電流により駆動する場合はその正弦波の振幅が算出され、その値とその時点のブラシレスDCモータ1の軸角度等から、算出される。
【0039】
また、ブラシレスDCモータ1の組み込まれる機器本体から目標とする回転数が与えられる場合は、例えば、その目標回転数から求められる目標回転角速度と、ブラシレスDCモータ1に取り付けられた回転角速度センサ14より与えられるブラシレスDCモータ1の現在の回転角速度の差等を用いてブラシレスDCモータ1が発生すべき目標トルクを算出した上で、前記と同様にその時刻のブラシレスDCモータ1の各相に与えるべき目標電流が求められる。
【0040】
なお、この目標電流決定部11は、図1に想像線(2点鎖線)で示すように、PWM比決定器5と共に1つのマイクロコンピュータ15に組み込んでおくことができ、それにより駆動制御装置全体を簡単化することができる。
【0041】
この目標電流、モータの軸角度、モータの回転角速度、モータ定数、電源電圧及びPWM基本周期から、PWM決定器として働くマイクロコンピュータに準備するプログラムにより、モータの各相の駆動制御モードとPWMデューティー比が求められる。なお、モータに固有なパラメータ(モータの抵抗、インダクタンス等の値)、電源電圧、及びPWM基本周期は、予めマイクロコンピュータ内のプログラムに設定しておく。
【0042】
ブラシレスDCモータ1を駆動する際の3相への電流の付与の態様には、共通流入駆動モード、共通流出駆動モード及びブレーキモードがある。後記する図2(b)に示す等価回路において、電流iuとiwの流れる方向に対してivのみ異なる(符号が異なる)とすると、各モードの概要は次のとおりである。
【0043】
(1)共通流入駆動モード
各相の電流がiu、iw<0、iv>0となるモードである。Sv2、Su1、Sw1は常閉とし、Sv1、Su2、Sw2をPWM信号に基づき開閉する。
(2)共通流出駆動モード
各相の電流がiu、iw>0、iv<0となるモードである。Sv1、Su2、Sw2は常閉とし、Sv2、Su1、Sw1をPWM信号に基づき開閉する。
(3)ブレーキモード
逆起電力(モータの回転に比例してコイル中の界磁が変化することにより発生する誘起電力)のみを用いて電流を流すモードである。Sv1、Su1、Sw1は常閉とし、Sv2、Su2、Sw2をPWM信号に基づき開閉する。若しくは、Sv2、Su2、Sw2は常閉とし、Sv1、Su1、Sw1をPWM信号に基づき開閉する。
【0044】
また、上記(1)〜(3)の各モードは、さらに、電流の符号が異なる、次の3つのモードに分けられ、合計9つのモードの組み合わせとなる。次の3つのモードのそれぞれの概要は次の通りである。
(i)電流iuとiwの流れる方向に対してivのみ異なる(符号が異なる)
(ii)電流ivとiwの流れる方向に対してiuのみ異なる(符号が異なる)
(iii)電流iuとivの流れる方向に対してiwのみ異なる(符号が異なる)
【0045】
PWM信号発生器4は、PWM比決定器5で得られたPWMデューティー比から、所定のPWM信号を生成し、駆動回路3に送る。このPWM信号に基づき、駆動回路3(ハーフブリッジ回路7)において下記に説明するようなスイッチング動作により、ブラシレスDCモータ1の各相に電圧を印加してブラシレスDCモータ1を駆動する制御を行っている。
【0046】
図2(b)は、ブラシレスDCモータ1と駆動回路3の等価回路を示す。ブラシレスDCモータ1は、各相について、インダクタL、抵抗器R、逆起電力源Eu、Ev、Ewの直列回路が等価的に接続されており、電流iu、iv、iwが流れる。Vccは、各相の電源電圧であり、Vu、Vv、Vwは各相の端子電圧である。ここでの逆起電力とは、モータの回転によって、モータの回転角速度に比例してコイル中の界磁が変化することにより発生する誘起電力である。
【0047】
図3(a)〜(c)は、1PWM基本周期における各相のモータ端子電圧Vu、Vv、Vwの時間経過における変動を示す図であり、説明の都合上、V相を接地電圧に固定し(Sv2を常時ONとする)、U相及びW相にPWM信号を与えて駆動している。また、逆起電力は、W相からV相、W相からU相、U相からV相に向かって電流を流すように発生している状態として説明する。
【0048】
図2(b)に示す1PWM基本周期における各相の動作を、図3(a)〜(c)のタイミング(ア)〜(エ)さらに(オ)毎に説明する。
【0049】
なお、比較、参考のために従来の制御装置で通常採用していたハーフブリッジ型の駆動回路による相補的な動作、即ち、電源電圧と接地電圧を相補的にPWMスイッチングにより印加して、ブラシレスDCモータに、図3で示した本発明の動作によって流れるPWM基本周期中の平均電流と同値の平均電流が流れるように駆動電流を与えて駆動制御する動作の場合についても、図4(a)〜(c)のタイミング(ア)〜(エ)さらに(オ)毎に併記する。
【0050】
(ア)
本発明:
Su1:OFF Sv1:OFF Sw1:OFF
Su2:OFF Sv2:ON Sw2:OFF
電流iu、iv、iwは流れない。
従来例:
Su1:OFF Sv1:OFF Sw1:OFF
Su2:ON Sv2:ON Sw2:ON
逆起電力によってスイッチ素子を通して、モータ内部で主にV相からW相に向かって電流が流れる。
【0051】
(イ)
本発明:
Su1:OFF Sv1:OFF Sw1:ON
Su2:OFF Sv2:ON Sw2:OFF
電源電圧と逆起電力源によって、スイッチ素子を通してW相からV相に電流が流れ、U相には流れない。
従来例:
Su1:OFF Sv1:OFF Sw1:ON
Su2:ON Sv2:ON Sw2:OFF
電源電圧と逆起電力源によって、スイッチ素子を通してW相、V相からU相に電流が流れる。
【0052】
(ウ)
本発明:
Su1:ON Sv1:OFF Sw1:ON
Su2:OFF Sv2:ON Sw2:OFF
電源電圧と逆起電力源によって、スイッチ素子を通してU相からV相、W相に電流が流れる。なお、U相端子とW相端子は等電位となる。
従来例:
Su1:ON Sv1:OFF Sw1:ON
Su2:OFF Sv2:ON Sw2:OFF
電源電圧によって、スイッチ素子を通してU相からV相、W相に電流が流れる。
【0053】
(エ)
本発明:
Su1:OFF Sv1:OFF Sw1:ON
Su2:OFF Sv2:ON Sw2:OFF
電源電圧と逆起電力源によって、スイッチ素子を通してW相からV相に電流が流れ、U相には流れない。インダクタンスの作用でSu2のスイッチ素子と並列に接続されたダイオードを通して、接地電圧からU相を通してV相に向かって電流が流れる。
従来例:
Su1:OFF Sv1:OFF Sw1:ON
Su2:ON Sv2:ON Sw2:OFF
電源電圧と逆起電力源によって、スイッチ素子を通してW相、V相からU相には電流が流れる。
【0054】
(オ)
本発明:
Su1:OFF Sv1:OFF Sw1:OFF
Su2:OFF Sv2:ON Sw2:OFF
インダクタンスの作用でSu2のスイッチ素子と並列に接続されたダイオードを通して、接地電圧からU相を通してV相に向かって電流が流れる。また、インダクタンスの作用でSw2のスイッチ素子と並列に接続されたダイオードを通して、接地電圧からW相を通してV相に向かって電流が流れる。
従来例:
Su1:OFF Sv1:OFF Sw1:OFF
Su2:ON Sv2:ON Sw2:OFF
逆起電力によって、スイッチ素子を通して主にV相からW相に向かって電流が流れる。
【0055】
なお、各タイミングにおいて各相に流れる電流は、インダクタの作用により、前のタイミングにおいて各相に流れる電流に対して連続的に変化するため、過渡的に逆向きの電流が流れる場合がある。
【0056】
以上の動作の結果、各タイミングにおける各相に流れる電流の波形は図3(d)に示すようになる。なお、従来例については図4(d)に示す。
【0057】
本発明では動作例である図3(d)に電流の波形を示すように、U相及びV相には一方向にのみ電流が流れる。これに対して、従来例では、例えば図4(c)の(イ)のタイミングで、U相及びV相に逆方向の電流が流れ、更に、この逆方向の電流を相殺するために、図4(c)の(ウ)の区間のU相及びV相に流れる電流が増大する。従って、本発明は、従来例と比較して、過渡電流の二乗積分値が低減されており、これに比例して発生する発熱によるエネルギー損失が低減される。
【0058】
(本発明の特徴的構成)
以上において、本発明に係る駆動制御装置2の全体的な構成について説明したが、上記構成を前提として、さらに本発明に係る駆動制御装置2のきわめて特徴的な構成を説明する。
【0059】
その第1は、従来例の制御装置では、各相をPWMスイッチングにより相補的に電源電圧か接地電圧に接続して、駆動する構成を採用していたが、本発明に係る駆動制御装置2では、そのように相補的には動作させず、各相を電源電圧又は接地電圧とする他に、その相がいずれにも接続されない開放状態となる時間を有する構成となっており、非相補的にPWMスイッチングにより印加駆動する構成である。その第2は、従来例の制御装置では、モータの各相毎に電流を検出する電流センサを設けていたが、本発明に係る駆動制御装置2では、このような電流センサは不要とする構成としている。
【0060】
第1の特徴的構成:
上記作用の説明で併記した従来例では、ハーフブリッジ回路41を構成する2つのスイッチ素子について、常にいずれか一方がON、他方はOFFにする構成としている。このような構成とすることで、各相にPWMスイッチングにより相補的に電源電圧か接地電圧を、印加して駆動しているが、この構成によると目標とする平均電流(与えたい平均電流)の方向と逆方向の過渡電流が生じて電流脈動が発生し、電流の2乗積分値に比例して熱が発生し、電気エネルギーの損失が生じる。
【0061】
そこで、本発明では、各相に電源電圧と接地電圧を相補的にPWMで印加する駆動をせずに、各相の電源電圧側のスイッチ素子をONしてモータ端子に印加してから該スイッチ素子をOFFした際に、接地電圧側のスイッチ素子もOFFしておく、要するにハーフブリッジ回路7をオープン状態にする。そのようにすることにより、これに接続されたモータ端子の電流は、スイッチ素子に並列して設けたダイオード(フリーホイリングダイオード)を通して絶対値が減少するように流れ、逆方向の過渡電流が流れない。
【0062】
例えば従来例の動作例では、図4の(d)に示したように、U相に流れる電流は正負に脈動する。これに対し同値の平均電流を流す本発明の動作例では、図3の(d)における(ア)(イ)(エ)(オ)のタイミングにおいて、U相に接続されたハーフブリッジ回路のスイッチ素子Su1、Su2がどちらもOFFしているため、絶対値が減少するようにのみ電流が流れ、電流の向きは、常に(ウ)のタイミングで流れる向きと同じになり、電流の脈動が減少する。これにより、電流の脈動による損失を抑制でき、エネルギー損失を抑制できる。
【0063】
本発明の駆動制御装置2は、そのPWM比決定器5及びPWM信号発生器4が、各相について電源電圧と接地電圧を相補的にPWMスイッチングによりモータに印加して駆動するようなことなく、電源電圧側と接地電圧側の2つのスイッチ素子両方がOFFの動作をするタイミングを設けるように駆動回路3のスイッチングを制御するPWM信号を生成する構成とした。
【0064】
第2の特徴的構成:
モータにおける各相の逆起電力は、モータの逆起電力係数及びモータの軸角度と回転角速度から計算で求まる。従って、モータの逆起電力係数関数が既知の場合、モータの軸角度と回転角速度を測定することで、ブラシレスDCモータ1の各相の逆起電力が求まる。
【0065】
この逆起電力と、モータ定数(モータの抵抗、インダクタンス等の値)、電源電圧、PWM基本周期を用いて、ブラシレスDCモータ1と駆動回路3の等価回路(図2(b)参照)を、回路解析することで、電流について解析すると、非相補的なスイッチングの場合であっても、与えるPWMデューティー比に対してモータに流れる電流波形が計算により求まる。また、その電流波形の時間関数をPWM周期間で積分することで、モータ各相に流れる電流のPWM周期平均値が求まる。
【0066】
上記回路解析は、具体的には、図2(b)の等価回路から回路中の電流を表す回路方程式(連立微分方程式)をたてて、この連立微分方程式を解き、電流の時間関数を求める。この回路解析は、市販の回路シミュレーションソフトウェア等を用いて行うこともできる。
【0067】
この計算(PWMデューティー比に対して、モータ各相に流れる電流をPWM周期平均した値の計算)の逆計算をすることで、各相の目標電流が与えられた時のこれに対応する各相に必要なデューティー比が求まる。これにより、アナログ電流検出回路を用いない、ブラシレスDCモータ1の電流制御が実現できる。
【0068】
この原理に基づき、本発明に係る駆動制御装置2では、具体的には、図1において、電流制御周期ごとに、PWM比決定器5で、モータの軸角度及び回転角速度と、目標電流から、ブラシレスDCモータ1の各相の端子に与えるべき駆動制御モード及びPWMデューティー比を求め、これをPWM信号発生器4に与える。すなわち、本発明に係る駆動制御装置2は、ブラシレスDCモータ1の各相に対応してアナログ電流検出回路及びその電流フィードバック回路を設ける必要がなく、ブラシレスDCモータ1の電流制御が可能となる。
【0069】
図1に示すPWM比決定器5は、マイクロコンピュータを用いて、モータの軸角度及び回転角速度から、駆動制御モード及びPWMデューティー比を求め、PWM信号発生器4に与える構成とする。マイクロコンピュータは、CPUとメモリを備えているが、このメモリに駆動制御モードとPWMデューティー比を求めるプログラムが搭載されており、このプログラムに従って、CPUが、モータの軸角度及び回転角速度と、目標電流から、PWMデューティー比を求める演算動作を行う。
【0070】
前記のとおり、本発明では、PWM比決定器5として、マイクロコンピュータが使用され、マイクロコンピュータに搭載されるプログラム(「PWMデューティー比決定用プログラム」という)によって、PWM比決定器5としての動作が行われる(機能が発揮される)。図5は、PWMデューティー比決定用プログラムによって、マイクロコンピュータを中心に行われるデータ処理の流れの一例を説明するデータフロー図である。
【0071】
このPWMデューティー比決定用プログラムは、その特徴として、駆動制御モード計算手順及びPWMデューティー比計算手順を含み、これらの手順や、計算式に基づき、駆動制御モードの算出及びPWMデューティー比が算出される。
【0072】
即ち、このPWMデューティー比決定用プログラムは、マイクロコンピュータ5を、駆動制御モードの算出及びPWMデューティー比算出の各手順をそれぞれ行う手段を有する(発揮させる)ように、動作(機能)させるものである。これらの手順を、図5を参照して以下説明する。
【0073】
(駆動制御モード及びPWMデューティー比の算出)
マイクロコンピュータ5は、モータの軸角度、回転角速度及び目標電流と、予め、解析されたモータ定数(モータの抵抗、インダクタンス等の値)、電源電圧及びPWM基本周期と、駆動制御モード、PWMデューティー比及びモータ各相の電流の関係を表す式又はテーブルより、駆動制御モードとPWMデューティー比を算出し、PWM信号発生器4に出力する。
【0074】
モータの駆動制御モードとPWMデューティー比と実際にモータに流れる電流は複雑な非線形の関係があり、その関係を厳密に式で与えることは困難である。しかし、モータの軸角度、回転角速度、モータの駆動制御モード及びPWMデューティー比が与えられれば、モータに流れるPWM1周期間の平均電流は一意に決定され、その値は、回路のシミュレーションで求めることができる。
【0075】
従って、あらかじめ各相の各々の軸角度、回転角速度毎に各モータ駆動制御モードおよび各相各々のPWMデューティー比に対する電流を求めて、これをテーブルとして準備しておくことができる。従って、モータを制御するための各相に与える適切なモータ駆動制御モード、PWMデューティー比、その時刻の軸角度及び回転速度に対するテーブルを用いて求められる各相の電流からそのテーブルを逆引きし補間することにより計算することができる。
【0076】
以下、上記のモータの駆動制御モード及びPWMデューティー比の算出手段の1つの具体例を説明する。ここでは、段落0047で説明しているスイッチングパターンと同様の、モータの1相を常に電源電圧若しくは接地電圧に固定する駆動の場合の例を示す。
【0077】
(テーブルの準備)
図6は、ブラシレスDCモータの軸角度、回転角速度、モータに与えるPWMデューティー比の組に対して、ブラシレスDCモータに流れる電流を示す、四次元テーブルを模式的に表したものである。
【0078】
テーブル群の行のインデックス値が回転角速度、テーブル群の列のインデックス値が軸角度、各テーブルの行及び列のインデックス値がモータの2相に与えるPWMデューティー比を表すとする。また、各テーブル要素の値はPWMを与えた2相に流れる電流および、消費電力Pを表す。
【0079】
このテーブルは、スイッチ素子Sv2が接地電圧に固定されている状態に対して、共通流出駆動モードについて求めたものであるが、他のスイッチ素子Su2又はSw2が接地電圧に固定されるべき場合については、角速度をその±120に置き換え、またこのテーブルの各相を入れ替えて読み替えればよい。
【0080】
このテーブルは、段落0043の共通流出駆動モード、共通流入駆動モード、ブレーキモードごとに、計3つ用意し、各テーブルの全要素はあらかじめ、対応する回転角速度、軸角度、モータの2相に与えるPWMデューティー比を、段落0064で示した回路解析結果の式に代入することで、PWM周期中の平均電流及び消費電力を求めて設定しておく。
【0081】
図6はv相が段落0044の(i)で示した電流iuとiwの流れる方向に対してivのみ異なる場合の、共通流出駆動モードにおけるテーブルの例である。段落0044の(ii)の場合には、uをwに、wをvに、vをuにそれぞれ読み替え、軸角度を120度加えて読むことで、同じテーブルを利用することができる。また、段落0044の(iii)の場合には、uをvに、wをuに、vをwにそれぞれ読み替え、軸角度を240度加えて読むことで、同じテーブルを利用することができる。なお、テーブル中の「…」記載の欄は省略している意味である。
【0082】
(補間による精度の確保を伴うテーブル逆引き)
モータ制御時における各相の駆動制御モード及び各相に与えるPWMデューティー比の決定は、以下の通り行う。まず、各相の目標電流について上記のテーブルを利用するための軸角度の±120度の変換及び各相の読み替えを行う。
【0083】
例えば、共通流出駆動モードで目標電流の符号が段落0044の(i)の関係を満たす場合であれば、検出器6から取得したモータの軸角度及び回転角速度の近傍の4テーブルを参照し、それぞれのテーブルにおいて、探索アルゴリズムを用いて、目標電流Iuref、Iwrefに最も近いIu、Iwをもつ要素とその近傍の計4要素より補間により目標電流Iuref、Iwrefを実現する、スイッチ素子Su1に与えるPWMデューティー比、スイッチ素子Sw1に与えるべきPWMデューティー比及びその時のPWM1周期間の消費電力Pを求められる。
【0084】
テーブルにおいては、軸角度、回転角速度も離散的に与えられるので、これらについても現時刻の軸角度及び回転角速度の近傍の上下の値を表している4つのテーブルを用いて、その各々に対して、上記手順により各相に与えるべきPWMデューティー比及び消費電力を求め、この4つのテーブルに対するそれらの値を更に補間することで、スイッチ素子Su1に与えるPWMデューティー比、スイッチ素子Sw1に与えるPWMデューティー比及び消費電力Pを求める。
【0085】
(駆動制御モードの選択とPWMデューティー比の決定)
共通流出駆動モード又は共通流入駆動モードのうち目標電流と電流の向きが等しいモードと、ブレーキモードそれぞれについて、上記方法により求めた消費電力Pを比較し、Pが最も小さな駆動制御モードを選択する。その駆動制御モードにおける上記手順により求めたスイッチ素子Su1に与えるPWMデューティー比、スイッチ素子Sw1に与えるPWMデューティー比を、最終的にスイッチ素子Su1に与えるPWMデューティー比、スイッチ素子Sw1に与えるPWMデューティー比とする。
【0086】
(他の手段:近似関数式を用いた駆動制御モードとPWMデューティー比の決定)
上記では、各パラメータについてあらかじめテーブルを作っておく方法を説明したが、その一部または全部を近似関数式として表現しておくことも可能であり、それによって計算量及び必要な記憶量の削減を図れる可能性がある。
【0087】
すなわち、前記駆動制御モード及びPWMデューティー比算出において、図2(b)の等価回路電流に関する回路方程式よりシミュレーション等により算出した結果である、各々のモータ軸角度及び回転角速度に対する各駆動制御モード毎の、各相のPWMデューティー比とモータ各相の電流及びその時のPWMの1周期中の消費電力の関係を示すテーブルより予め、それらの各変数の関係を表す、例えば多変数の多項式で表される近似関数を予め作成しておき、これを前記テーブルの代わりに利用することもできる。
【0088】
また、この近似関数式を前記テーブルの逆関数関係のものとし、モータの軸角度および回転角速度と各相の電流を入力変数とし、最も少ない消費電力でその各相の電流を与える、各相の駆動制御モードと各相のPWMデューティー比を出力変数とする近時間数式としておくことも有効である。この場合、この近似関数式はモータの軸角度および回転角速度と各相の目標電流から、そのための各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を直接算出するものである。
【0089】
上記実施例では、各相の目標電流が決定された後に、それを実現するための各相の駆動制御モード及びPWMデューティー比を算出する手段について説明したが、この機能に加え、ブラシレスDCモータに与えられる目標トルクや目標回転数から、その時刻のモータの回転角速度や角速度から各相の目標電流を決定する目標電流決定部を内蔵し、その目標電流決定部が、各相の目標電流が、例えば正弦波となるように決定する機能をも有するブラシレスDCモータの駆動制御装置を構成することも容易である。
【0090】
以上、本発明に係る駆動制御装置を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【0091】
例えば、上記実施例の構成において、特に図示はしないが、さらに、ブラシレスDCモータ1の温度の変化を検出する温度検出器を設け、この温度検出器で検出された温度を、軸角度及び回転角速度と、モータの駆動に必要な目標電流値に加えて、PWM比決定器(マイクロコンピュータ)5に入力し、該検出された温度に対応し、予め設定したモータ定数を逐次更新する構成としてもよい。
【0092】
ブラシレスDCモータの定数(抵抗、インダクタンス等の値)は、ブラシレスDCモータの温度が変化すると変化するが、温度検出器検出された温度に対応し、予め設定したモータ定数を逐次更新するこのような構成とすると、温度変化に対応してきめ細かく電流制御が可能なり、精度を向上することができる。
【0093】
また、上記実施例では、三相ブラシレスDCモータを例に説明したが、実際には、ほぼ同様の構成で、多相のブラシレスDCモータにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る駆動制御装置は上記のような構成であるから、三相ブラシレスDCモータだけでなく、多相のブラシレスDCモータにも適用できる。また、用途としては、ロボットの駆動用モータ、産業機械、家電製品(CD、DVD等)等、高い回転性能の要求される機器のモータに適用可能である。
【符号の説明】
【0095】
(本発明)
1 ブラシレスDCモータ
2 ブラシレスDCモータの駆動制御装置
3 駆動回路
4 PWM信号発生器
5 PWM比決定器
6 検出器
7 ハーフブリッジ回路
8、9、10 結線
11 目標電流決定部
12 ブラシレスDCモータ駆動制御器
13 軸角度センサ
14 回転角速度センサ
15 マイクロコンピュータ
(従来例)
31 ブラシレスDCモータ
32 ブラシレスDCモータの駆動制御装置
33 ブラシレスDCモータの駆動制御器
34 PWM信号発生器
35 駆動回路
36 軸角度センサ
37 回転角速度センサ
38 アナログ電流検出回路
39 目標電流決定部
40 FB(フィードバック)コントローラ
41 ハーフブリッジ回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWM比決定器と、PWM信号発生器と、駆動回路とを備えたブラシレスDCモータの駆動制御装置であって、
前記PWM比決定器は、駆動中のモータから検出される軸角度及び回転角速度と、モータの駆動に必要な各相の目標電流値を入力して、各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を求めるものであり、
前記PWM信号発生器は、PWM比決定器によって求められた各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を入力して、各相の前記駆動回路のスイッチ素子を制御する信号を発生するものであり、
前記駆動回路は、各相毎に電源と接地間に直列に設けられた2つのスイッチ素子と、該2つのスイッチ素子にそれぞれ並列に設けられたダイオードを備えたハーフブリッジ回路から構成されており、前記各相のPWM信号を入力して、モータの対応する端子に駆動電流を流すものであり、駆動時には、前記2つのスイッチ素子が共にオフとなるオープン状態を含む構成であることを特徴とするブラシレスDCモータの駆動制御装置。
【請求項2】
前記ブラシレスDCモータの駆動制御装置は、その各相に流れる電流を検出する回路を有さず、前記PWM比決定器が前記各相に流れる電流をフィードバック信号として利用することなく、フィードフォワード方式でモータ各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を決めることにより各相の電流を制御することを特徴とする請求項1記載のブラシレスDCモータの駆動制御装置。
【請求項3】
前記PWM比決定器は、マイクロコンピュータが使用され、駆動中のモータから検出される軸角度及び回転角速度と、モータの駆動に必要な各相の目標電流値を入力すると、該マイクロコンピュータに搭載されたプログラムにより、各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を求める構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載のブラシレスDCモータの駆動制御装置。
【請求項4】
前記PWM比決定器は、マイクロコンピュータが使用され、該マイクロコンピュータには、予めモータ定数、電源電圧及びPWM基本周期が予め設定されており、該マイクロコンピュータに搭載されたプログラムにより、各相の駆動制御モード算出手段及びPWMデューティー比算出手段を備え、
前記駆動制御モード算出手段とPWMデューティー比算出手段は、駆動中のモータから検出される軸角度及び回転角速度と、各相の目標電流値、モータ定数、電源電圧及びPWM基本周期から、各相の駆動制御モードとPWMデューティー比を算出して求める構成であることを特徴とする請求項3に記載のブラシレスDCモータの駆動制御装置。
【請求項5】
前記PWM比決定器は、マイクロコンピュータが使用され、駆動中のモータから検出される軸角度及び回転角速度と、モータの駆動のための目標電流値を入力すると、該マイクロコンピュータのメモリに搭載されたテーブルを用いて各相に流す電流に係る駆動制御モードとPWMデューティー比を求める構成であり、
前記テーブルは、モータの軸角度及び回転角速度と、モータ各相の駆動制御モード及びPWMデューティー比と、該駆動制御モード及びPWMデューティー比に対応してモータの各相に流れる電流の関係を示すものであることを特徴とする請求項3又は4に記載のブラシレスDCモータの駆動制御装置。
【請求項6】
前記PWM比決定器は、マイクロコンピュータが使用され、駆動中のモータから検出される軸角度及び回転角速度と、モータの駆動のための目標電流値を入力すると、該マイクロコンピュータのプログラムに準備された近似関数式に従って、各相に流す電流に係る駆動制御モードとPWMデューティー比を求める構成であり、
前記近似関数式は、駆動中のモータの軸角度、回転角速度及び各相の目標電流値に対して、駆動制御モードとPWMデューティー比を与えるように予め作られていることを特徴とする請求項3又は4に記載のブラシレスDCモータの駆動制御装置。
【請求項7】
前記目標電流決定部は、各相に流れる駆動電流が正弦波となるように各相の目標電流値を算出する機能を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のブラシレスDCモータの駆動制御装置。
【請求項8】
前記ブラシレスDCモータの温度の変化を検出する温度検出器を設け、該温度検出器で検出された温度を、軸角度及び回転角速度と、モータの駆動に必要な目標電流に加えて、前記マイクロコンピュータに入力し、該検出された温度に対応し、予め設定したモータ定数を逐次更新する構成としたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のブラシレスDCモータの駆動制御装置。
【請求項9】
前記ブラシレスDCモータは、三相ブラシレスDCモータ又は多相ブラシレスDCであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のブラシレスDCモータの駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−130611(P2011−130611A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287932(P2009−287932)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】