説明

ブレーキ制御装置

【課題】制御弁の作動音を低減する。
【解決手段】ブレーキ制御装置は、車両に付随して設けられている少なくとも1つのセンサを含む検出系と、該車両に付与される制動力を制御するための液圧回路に設けられた電磁制御弁と、検出系からの出力を受信可能に検出系と接続され、要求される制御応答性で電磁制御弁を開閉することが保証される第1の電流プロファイルに従って制御電流を与えて電磁制御弁を開閉する制御部と、を備える。制御部は、検出系からの出力に基づいて電磁制御弁の制御応答性の低下が許容されるか否かを判定し、制御応答性の低下が許容されると判定した場合に、第1の電流プロファイルよりも電磁制御弁の作動音を低減するよう調整された第2の電流プロファイルに従って電磁制御弁に制御電流を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた車輪に付与される制動力を制御するブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、停車時のブレーキ操作においてポンプからの騒音を低減する車両の制動制御装置が記載されている。この装置においては、目標制動力の微分値と車両状態に基づいて演算された所定の微分値の閾値とを比較し、目標制動力の微分値がその閾値を超過する場合にポンプの駆動力または目標制動力の微分値を制限する。
【特許文献1】特開2005−289290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、ブレーキ操作に伴って生じる騒音はポンプ作動音には限られない。例えば制御弁の作動音も運転者に不快感を与えることがある。制御弁作動音の低減により運転者の不快感を軽減することができるが、作動音低減がブレーキ性能に与える影響は極力小さくすることが好ましい。
【0004】
そこで、本発明は、ブレーキ応答性への影響を抑えつつ制御弁作動音の低減を可能とするブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様のブレーキ制御装置は、車両に付随して設けられている少なくとも1つのセンサを含む検出系と、該車両に付与される制動力を制御するための液圧回路に設けられた電磁制御弁と、検出系からの出力を受信可能に検出系と接続され、要求される制御応答性で電磁制御弁を開閉することが保証される第1の電流プロファイルに従って制御電流を与えて電磁制御弁を開閉する制御部と、を備える。制御部は、検出系からの出力に基づいて電磁制御弁の制御応答性の低下が許容されるか否かを判定し、制御応答性の低下が許容されると判定した場合に、第1の電流プロファイルよりも電磁制御弁の作動音を低減するよう調整された第2の電流プロファイルに従って電磁制御弁に制御電流を与える。
【0006】
この態様によれば、使用される電流プロファイルを切り替えることによって電磁制御弁の作動音が低減される。制御応答性の低下が許容される場合に限り作動音低減用の電流プロファイルを使用することにより、ブレーキ応答性と作動音低減との両立を図ることができる。
【0007】
第2の電流プロファイルは、電磁制御弁への通電開始時に与える初期電流が第1の電流プロファイルよりも小さく調整され、電磁制御弁の開閉状態を変更することが保証される規定の起動電流に到達させるまでの所要時間が第1の電流プロファイルよりも長く調整されていてもよい。
【0008】
このようにすれば、通常の電流プロファイルに比べて制御弁の開閉速度を遅くした作動音低減用の電流プロファイルを得ることが可能となる。
【0009】
第2の電流プロファイルの初期電流は、電磁制御弁の開閉状態を変更しないことが保証される大きさに調整されていてもよい。
【0010】
このようにすれば、初期電流から規定の起動電流へと制御電流を増加させているときに通常の電流プロファイルに比べて緩やかに制御弁が開閉される作動音低減用の電流プロファイルを得ることができる。
【0011】
検出系は、運転者の動作を検出する少なくとも1つのセンサを含んでもよい。制御部は、検出系の検出結果に基づいて電磁制御弁の作動音に対する運転者の感度を取得し、取得された感度に応じて第1の電流プロファイルを調整してもよい。制御部は例えば第1の電流プロファイルの初期電流を調整してもよい。
【0012】
検出系は、車両の環境音を検出する少なくとも1つのセンサを含んでもよい。制御部は、検出系の検出結果に基づいて車両の環境音を取得し、取得された環境音に応じて第1の電流プロファイルを調整してもよい。制御部は例えば第1の電流プロファイルの初期電流を調整してもよい。
【0013】
液圧回路に供給される高圧の作動液を貯留するアキュムレータと、制御部からの制御指令に応じて該アキュムレータの作動液を加圧するポンプと、をさらに備えてもよい。検出系は、運転者の動作を検出する少なくとも1つのセンサを含んでもよい。制御部は、検出系の検出結果に基づいて電磁制御弁の作動音に対する運転者の感度が基準よりも悪いか否かを判定し、感度が悪いと判定した場合にポンプを作動させてもよい。
【0014】
液圧回路に供給される高圧の作動液を貯留するアキュムレータと、制御部からの制御指令に応じて該アキュムレータの作動液を加圧するポンプと、をさらに備えてもよい。検出系は、車両の環境音を検出する少なくとも1つのセンサを含んでもよい。制御部は、検出系の検出結果に基づいて車両の環境音が基準を超える状態であるか否かを判定し、基準を超えると判定した場合にポンプを作動させてもよい。
【0015】
本発明の別の態様は、ブレーキ制御装置である。この装置は、車両に付随して設けられている少なくとも1つのセンサを含む検出系と、作動液圧に応じて車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、動力の供給により作動液を蓄圧する動力液圧源と、収容された作動液をブレーキ操作入力に応じて加圧するマスタシリンダと、動力液圧源を高圧源として該マスタシリンダの作動液圧に合わせて作動液を調圧するレギュレータと、を含むマニュアル液圧源と、レギュレータからホイールシリンダへの作動液流路に設けられ、制動要求により該作動液流路を遮断するレギュレータカット弁と、検出系からの出力に基づいてレギュレータカット弁の閉弁速度を調整する制御部と、を備える。
【0016】
マスタシリンダからホイールシリンダへの作動液流路に設けられ、制動要求により該作動液流路を遮断するマスタカット弁をさらに備えてもよい。制御部は、マスタカット弁よりもレギュレータカット弁が緩やかに閉弁されるようにレギュレータカット弁の閉弁速度を調整してもよい。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、制御装置である。この装置は、車両に付随して設けられている少なくとも1つのセンサを含む検出系と、該車両に設けられた作動液流路を開閉する電磁制御弁と、電磁制御弁の作動音を低減すべきか否かを検出系の検出結果に基づいて判定し、作動音を低減をすべきと判定した場合に、規定の電流プロファイルよりも電磁制御弁の作動音を低減するよう調整された電流プロファイルに従って電磁制御弁に制御電流を与える制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、制御弁の作動音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施形態においては、制御電流を緩やかに変化させて開閉状態を変更する電磁制御弁の開閉制御方法が提供される。電磁制御弁の起動電流は同一仕様の制御弁であっても例えば使用環境や個体差によって多少のばらつきがある。よって一般に起動電流はある範囲に含まれると想定される。その起動電流範囲において緩やかに電流を変動させることで制御弁の開閉作動音を低減することができる。
【0020】
一実施形態においては、制御部は電磁制御弁の開閉に際して「電流なまし制御」を実行する。電流なまし制御では、電磁制御弁の開閉状態を変更することが保証される規定の目標起動電流を通電開始とともに与えるのではなく、目標起動電流に到達させるまでにある時間をかける。この時間を以下では「なまし時間」と称することがある。また、通電開始時には目標起動電流に満たない初期電流を与える。この初期電流を以下では「なまし電流」とも称することがある。制御弁に与える制御電流プロファイルは、調整可能なパラメタとして少なくともなまし電流となまし時間とを有する。
【0021】
電流なまし制御においては、通電開始とともになまし電流を与え、なまし時間が経過するまでに目標起動電流へと増加させる起動電流プロファイルに従って電磁制御弁に制御電流が供給される。なまし時間を比較的大きく設定することにより目標起動電流への電流増加勾配を小さくすることができる。その結果、制御弁作動音を低減することができる。また、通電開始とともになまし電流を与えることも目標起動電流への電流増加勾配を小さくすることに寄与する。
【0022】
目標起動電流は例えば、上述の起動電流範囲の上限値またはそれよりも大きい値に設定される。したがって、目標起動電流は実際の起動電流よりも大きな値であり、目標起動電流が与えられると(正確には目標起動電流へと電流が増加されている途中で)電磁制御弁は開閉される。また、なまし電流は例えば、起動電流範囲の下限値またはそれよりも小さい値に設定される。この場合、なまし電流は、電磁制御弁の開閉状態を変更しないことが保証される大きさであるといえる。起動電流範囲は電磁制御弁の仕様として与えられてもよいし、実験的または経験的に取得されてもよい。なまし時間は例えば、電磁制御弁の通常制御における開閉所要時間よりも長く設定してもよい。
【0023】
電流なまし制御の電流プロファイルは例えば、なまし電流を与えてから目標起動電流に到達させるまで電流を直線的に増加させるようになっていてもよいし、非直線的に増加させるようになっていてもよい。また、制御電流が起動電流範囲よりも小さいときには相対的に高速に電流を増加し、起動電流範囲では相対的に低速に電流を増加するように電流プロファイルが設定されていてもよい。起動電流範囲を超えたら相対的に高速に電流を増加してもよい。あるいは、なまし時間が経過するまでは相対的に低速に電流を増加し、なまし時間が経過した時点で目標起動電流を与えるように電流プロファイルが設定されていてもよい。
【0024】
一実施形態においては、制御部は、車両環境を検出し、検出結果に基づいて制御弁作動音低減制御を実行すべきか否かを判定する。制御部は、作動音低減制御を実行すべきと判定したときには作動音低減用の電流プロファイルに従って制御弁に制御電流を与える。一方、作動音低減制御を実行すべきでないと判定したときには通常の電流プロファイルに従って制御弁に制御電流を与える。そのために、車両環境を検出する検出系が車両に付随して設けられている。車両環境には例えば、車両の運転状況や、車両の環境音、ドライバの状況等が含まれる。
【0025】
制御弁は、車両に付与される制動力を制御するためのブレーキ液圧回路に設けられている電磁制御弁であってもよい。通常の電流プロファイルは例えば、要求される制御応答性で制御弁を開閉することが保証されるように設定されている。これにより、通常は所望のブレーキ応答性が実現される。
【0026】
この場合、制御部は、検出系からの出力に基づいて電磁制御弁の制御応答性の低下が許容されるか否かを判定してもよい。制御部は、制御応答性の低下が許容されると判定した場合に作動音低減制御を実行し、制御応答性の低下が許容されないと判定した場合に通常の開閉制御を実行するようにしてもよい。制御応答性の低下が許容される場合に限り作動音低減制御を実行することにより、ブレーキ応答性と運転者の不快感軽減との両立を図ることができる。
【0027】
図1及び図2を参照して、一実施形態において使用される電流プロファイルの一例を説明する。図1は、要求される制御応答性を制御弁に実現する規定の電流プロファイルの一例を示す図である。図2は、制御弁の作動音を低減するための電流プロファイルの一例を示す図である。
【0028】
図1には、規定の電流プロファイルの一例としてプロファイルP1、P2が示されている。プロファイルP1を実線で示し、プロファイルP2を破線で示している。この規定の電流プロファイルは、制御弁の通常制御に使用される。2つのプロファイルP1、P2においてはいずれも、制動オンとともに通電が開始され、制動オンから所定時間T1が経過するまでに目標起動電流Azに達する。時間T1以降は目標起動電流Azの供給が継続される。時間T1は、通常制御において開閉動作に許容される所要時間であり、制御弁に要求される制御応答性に基づいて設定される。
【0029】
プロファイルP1とプロファイルP2とは、通電開始から開閉動作完了時間T1までの電流変動が異なっている。プロファイルP1においては制動オンとともに目標起動電流Azが与えられるのに対し、プロファイルP2においては制動オンから時間T1へと直線的に目標起動電流Azまで制御電流が増加される。
【0030】
図1に示される電流Atは制御弁の実際の起動電流値である。制御弁に供給される制御電流が実起動電流Atを超えたときに、制御弁の開閉状態が変更される。すなわち、制御電流が実起動電流Atを超えたときに、例えば常開型の制御弁であれば閉弁され、常閉型の制御弁であれば開弁される。なお、実起動電流Atは上述のように、制御弁の個体差や経時的変化、使用環境等のさまざまな要因により生じるばらつきを有する。
【0031】
プロファイルP1においては制動オンと実質的に同時に制御電流が実起動電流Atを超えて開閉作動音が生じる。プロファイルP2においては、制御電流が実起動電流Atを超えた時点で開閉作動音が生じる。いずれの場合にも、要求される応答性を満たすよう設定されている時間T1が経過するまでに制御電流を目標起動電流Azに到達させるので電流増加勾配が比較的大きい。このため、制御弁の作動音も大きくなりがちである。
【0032】
一方、図2には、作動音低減用の電流プロファイルの一例としてプロファイルQ1が示されている。プロファイルQ1は、制動オンとともになまし電流Aaを通電し、制動オンからなまし時間T2をかけて目標起動電流Azへと制御電流を増加させるように設定されている。時間T2以降は目標起動電流Azの供給が継続される。なまし時間T2は、通常制御の電流プロファイルにおける開閉動作完了時間T1よりも長く設定される。このため、実起動電流Atにおける電流勾配を小さくして開閉作動音を低減することができる。
【0033】
また、なまし電流Aaは、実起動電流Atよりも小さく設定される。これにより、上述のプロファイルP1のように通電開始時に大きな作動音が生じるのを回避しつつ、実起動電流Atにおける電流勾配を一層小さくすることができる。よって、制御弁の開閉作動音をより低減することができる。
【0034】
なまし電流Aaは例えば、事前に計測した実起動電流Atの平均値を基準として、制御部(例えばブレーキECU)が与える制御電流のばらつきや、制御弁の特性のばらつき、環境温度変化などを考慮して設定される。目標起動電流Azも同様に設定することができる。これにより、制御弁の開閉状態を変更しないことを保証する大きさになまし電流Aaを設定し、制御弁の開閉状態を変更することを保証する大きさに目標起動電流Azを設定することができる。なお、実起動電流Atは確率的に変動するから、設定されたなまし電流Aaよりも例外的に小さくなったり、あるいは目標起動電流Azよりも例外的に大きくなるという状況も生じうる。なまし電流Aa及び目標起動電流Azは、このような例外的状況は許容するように設定されてもよいことに留意されたい。
【0035】
本発明の一実施形態においては、制御部は、制御弁の制御応答性を優先すべきと判定した場合には例えば図1に示される通常の電流プロファイルを選択し、制御弁作動音低減を優先すべきと判定した場合には例えば図2に示される電流プロファイルを選択する。制御部は、選択された電流プロファイルに従って制御弁に制御電流を与える。よって、制御弁の応答性と作動音低減との両立を図ることができる。
【0036】
図3は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
【0037】
ブレーキ制御装置20は、図3に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、ブレーキアクチュエータ40とを含む。
【0038】
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。ブレーキアクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
【0039】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、およびブレーキアクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介してブレーキアクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
【0040】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23にブレーキアクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
【0041】
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
【0042】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
【0043】
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびブレーキポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ブレーキポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ブレーキポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
【0044】
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれブレーキアクチュエータ40に接続される。
【0045】
ブレーキアクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
【0046】
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0047】
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
【0048】
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
【0049】
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0050】
また、ブレーキアクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
【0051】
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0052】
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0053】
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
【0054】
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0055】
ブレーキアクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
【0056】
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
【0057】
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
【0058】
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
【0059】
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30およびブレーキアクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のブレーキポンプ36や、ブレーキアクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
【0060】
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
【0061】
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
【0062】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサ26(図4参照)や、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
【0063】
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
【0064】
その結果、ブレーキ制御装置20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。
【0065】
ブレーキバイワイヤ方式の制動力制御を行う場合には、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。ブレーキ回生協調制御中は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。
【0066】
なお、本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、当然ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御することができる。ブレーキ回生協調制御を実行しているか否かにかかわらず、ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御する制御モードを以下では適宜「リニア制御モード」と称する。あるいは、ブレーキバイワイヤによる制御と呼ぶ場合もある。
【0067】
図4は、本発明の一実施形態に係る制御システムの構成を模式的に示す図である。この制御システムは、制御部としてのブレーキECU70と、車両に設けられている各種センサを含む検出系と、を含んで構成される。ブレーキECU70は、検出系の検出結果に基づいてブレーキポンプ36及びブレーキアクチュエータ40を制御する。
【0068】
検出系は例えば、車両の走行状態を検出するためのセンサ群、運転者の動作を検出するためのセンサ群、環境音を検出するためのセンサ群、を含む。車両の走行状態を検出するためのセンサ群は例えば、車速センサ81、シフトセンサ84を含む。運転者の動作を検出するためのセンサ群は例えば、ブレーキペダルストロークセンサ25、ブレーキペダル踏力センサ26、ステアリングセンサ86、マイク87を含む。環境音を検出するためのセンサ群は例えば、ウインカーセンサ82、ウインドウ開閉スイッチ83、雨滴センサ85、スピーカ88を含む。
【0069】
ブレーキペダルストロークセンサ25及びブレーキペダル踏力センサ26はそれぞれ、運転者によるブレーキペダル24のストローク及び踏力を検出する。車速センサ81は車両速度を検出する。ウインカーセンサ82は、車両の方向指示器の点灯状態すなわち点灯しているか否かを検出する。ウインドウ開閉スイッチ83は、車両の各ウインドウの開閉状態を検出する。シフトセンサ84は、シフトレバーのポジションを検出する。雨滴センサ85は、降雨量を検出する。ステアリングセンサ86は、操舵角及び操舵角速度を検出する。各センサは、検出結果をブレーキECU70に送信可能に接続されている。各センサは周期的に(例えばブレーキECU70の演算周期で)検出結果をブレーキECU70に送信する。
【0070】
マイク87及びスピーカ88はマルチメディアECU80に接続されている。マルチメディアECU80はブレーキECU70と信号を送受信可能に接続されている。マイク87は運転者の発話音量レベルを検出する。マルチメディアECU80は、運転者の発話音量レベルを示す信号をブレーキECU70に送信する。また、マイク87は、走行中のロードノイズ等の環境音を検出する。マルチメディアECU80は、環境音を示す信号をブレーキECU70に送信する。また、マルチメディアECU80は、スピーカ88から出力されている音量レベルを示す信号をブレーキECU70に送信する。スピーカ88は例えば、車両に設けられているオーディオシステムのスピーカである。
【0071】
図3に示されるブレーキ制御装置においては、レギュレータカット弁65が主たる作動音の発生源の1つとなり得る。その理由の1つは、アキュムレータ35がレギュレータ33に高圧源として接続されているからである。このため、レギュレータ33の下流のレギュレータカット弁65にもアキュムレータ35の高圧が作用するという状況が生じうる。また、例えば急制動時においてレギュレータ33からの作動液供給を利用するブレーキアシストを採用する場合には、レギュレータカット弁65の流量を大きくすることが好ましい。これらの結果としてレギュレータカット弁65の目標起動電流Azは大きくなる傾向にあり、通常の閉弁電流プロファイルを用いた場合にはレギュレータカット弁65の閉弁時の作動音が大きくなるおそれがある。そこで、この実施形態では、レギュレータカット弁65についてのみ判定結果に応じて作動音低減用の電流プロファイルを選択する。
【0072】
図5は、本発明の一実施形態に係る制御処理を説明するためのフローチャートである。この処理においては、ブレーキECU70は、ブレーキ応答性を要求仕様よりも緩和することが許容されるか否かを判定し、判定結果に応じて第1電流プロファイル及び第2電流プロファイルのいずれかを選択する。ブレーキECU70は、選択した電流プロファイルに従ってレギュレータカット弁65に制御電流を供給する。マスタカット弁64を含む他の制御弁については、ブレーキECU70は、制御弁ごとに調整されている個別の電流プロファイルに従って制御電流を供給する。
【0073】
ブレーキECU70は例えば、マスタカット弁64よりもレギュレータカット弁65が緩やかに閉弁されるようにレギュレータカット弁65の閉弁速度を調整してもよい。この場合例えば、ブレーキECU70は、マスタカット弁64及びレギュレータカット弁65の双方に電流なまし制御を実行してもよい。レギュレータカット弁65の第2電流プロファイルのなまし時間はマスタカット弁64のなまし時間よりも長く設定されていてもよい。レギュレータカット弁65の第1電流プロファイルのなまし時間はマスタカット弁64のなまし時間に等しく設定されていてもよい。このようにすれば、通常はレギュレータカット弁65の制御応答性がマスタカット弁64と等しくされる一方、作動音低減を優先すべき場合にはレギュレータカット弁65を緩やかに閉弁することができる。
【0074】
図5に示される電流プロファイル選択処理において、第1電流プロファイルは、ブレーキ応答性の要求仕様に適合する閉弁所要時間以内にレギュレータカット弁65を閉弁するように調整されている電流プロファイルである。第2電流プロファイルは、レギュレータカット弁65の閉弁時の作動音を第1電流プロファイルよりも低減するように調整されている電流プロファイルである。第1電流プロファイルは例えば図1に示される電流プロファイルであってもよい。第2電流プロファイルは例えば図2に示される電流プロファイルであってもよい。第1電流プロファイル及び第2電流プロファイルはそれぞれ予め設定されてブレーキECU70に記憶されている。
【0075】
第1電流プロファイル及び第2電流プロファイルはそれぞれ、例えば上述の検出系の検出結果を含む車両環境に応じて変更される可変パラメタを含んでもよい。この可変パラメタには例えば上述のなまし電流及びなまし時間が含まれる。第1電流プロファイル及び第2電流プロファイルはそれぞれ、後述の図7に示される電流プロファイルであってもよい。
【0076】
ブレーキECU70は、ブレーキ応答性を要求仕様よりも緩和することが許容されると判定した場合には、第2電流プロファイルを選択し、第2電流プロファイルに従った制御電流をレギュレータカット弁65に供給する。一方、ブレーキECU70は、要求仕様を満たすブレーキ応答性を実現すべきと判定した場合には、第1電流プロファイルを選択し、第1電流プロファイルに従った制御電流をレギュレータカット弁65に供給する。言い換えれば、ブレーキECU70は通常は第1電流プロファイルに従って制御電流を供給し、制御応答性の低下が許容されると判定した場合に限り第1の電流プロファイルに代えて第2の電流プロファイルに従って制御電流を供給する。
【0077】
図5に示される処理は、ブレーキECU70が制動要求の発生を検出したときに開始される。例えば、運転者によるブレーキペダル24の操作を検出したときにブレーキECU70は図5に示される処理を開始する。ブレーキECU70は、例えば制動中はこの処理を周期的に(例えばブレーキECU70の演算周期で)実行する。ブレーキECU70は、少なくともレギュレータカット弁65の閉弁が確認されるまで本処理を繰り返し実行するようにしてもよい。
【0078】
この処理が開始されると、ブレーキECU70は、車両が停車中か否かを判定する(S10)。ブレーキECU70は例えば車速センサ81の出力に基づいて車両が停止しているか否かを判定する。車両が移動しているときには高いブレーキ応答性を実現することを優先すべきであるが、車両が停止している場合には高度なブレーキ応答性は必ずしも要求されないからである。
【0079】
よって、ブレーキECU70は、車両が停止していると判定した場合には(S10のYes)、上述の第2電流プロファイルを選択する(S12)。この場合、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65の制御応答性の低下が許容されると判定したことになる。この場合、ブレーキECU70は、選択された第2電流プロファイルに従ってレギュレータカット弁65に制御電流を与える。
【0080】
一方、ブレーキECU70は、車両が移動していると判定した場合には(S10のNo)、第1電流プロファイルを選択する(S14)。この場合、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を通常の制御応答性で閉弁すべきと判定したことになる。本実施形態では、第1電流プロファイルのなまし電流値が検出系の検出結果を利用して調整される可変パラメタとされている。よって、ブレーキECU70は、検出系の各センサ(図4参照)からの入力に基づいて第1電流プロファイルのなまし電流を調整する(S16)。なまし電流の調整処理については図6を参照して後述する。そして、ブレーキECU70は、第1電流プロファイルに従ってレギュレータカット弁65に制御電流を与える。
【0081】
レギュレータカット弁65に適用する電流プロファイルが上述のように選択されると、図5に示される電流プロファイル選択処理は終了する。ブレーキECU70は次の実行タイミングで電流プロファイル選択処理を再度行う。よって、例えば初回の電流プロファイル選択処理で第2電流プロファイルが選択された後に車両が移動を開始した場合には、2回目の電流プロファイル選択処理では第1電流プロファイルが選択されることになる。すなわち、第2電流プロファイルが選択された後に車両が移動を開始した場合には、ブレーキECU70は、第2電流プロファイルから第1電流プロファイルへと切り替えることになる。このように電流なまし制御中に車両が移動した場合には通常制御へと切り替えられるので、ブレーキ応答性が確保される。
【0082】
図6は、電流プロファイルの可変パラメタ調整処理の一例を説明するためのフローチャートである。図6には、第1プロファイルのなまし電流を調整する処理を一例として示す。第2プロファイルのなまし電流を同様にして調整することも可能であるし、第1及び第2プロファイルそれぞれのなまし時間を同様にして調整することも可能である。
【0083】
図6に示されるなまし電流調整処理は、図5に示されるように第1電流プロファイルが選択された後にブレーキECU70により実行される(図5のS16)。まずブレーキECU70は、車速に基づくなまし電流調整を行う(S20)。ブレーキECU70は、車速に対応する電流加算量を算出し、なまし電流の初期値に加算することにより、車速に基づくなまし電流調整を行う。なまし電流の初期値は例えば、第2電流プロファイルのなまし電流値に等しくてもよい。高速走行中は走行音により制御弁作動音を運転者が感知しにくい。よって、車速が大きくなるにつれてなまし電流値を大きくして、高速走行時の制御弁応答性を作動音低減よりも優先してもよい。
【0084】
ブレーキECU70は、例えば次式により車速に基づくなまし電流調整値A1を求める。
A1=A0+(Az−A0)α
ここで、A0はなまし電流の初期値であり、Azは制御弁の目標起動電流であり、αは0以上1以下の係数である。係数αに応じた電流加算量が初期値A0に加算され、調整済のなまし電流値A1が得られる。
【0085】
係数αは例えば次式のように車速に応じて変動する。
α=1−(X−V)/X
ここで、Vは車速であり、Xは基準上限速度である。車速V=0のとき係数α=0となり、車速V=Xのとき係数α=1となり、車速VがゼロからXまで増えるにつれて係数αは直線的に0から1まで増加する。車速Vが基準上限速度Xを超える場合には係数αを1とする。このようにすれば、車速が大きくなるにつれてなまし電流値を大きくすることができる。
【0086】
車速に基づくなまし電流調整の次に、ブレーキECU70は、環境音に基づくなまし電流調整を行う(S22)。ブレーキECU70は、検出系からの入力を用いて環境音に基づく電流加算量を算出し、なまし電流の初期値に加算することにより、環境音に基づくなまし電流調整を行う。ここで、なまし電流の初期値は例えば、車速に基づくなまし電流調整値A1であってもよい。環境音が大きい場合には制御弁作動音を運転者が感知しにくい。よって、環境音が大きいほどなまし電流値を大きくして、制御弁応答性ひいてはブレーキ応答性を作動音低減よりも優先してもよい。
【0087】
ブレーキECU70は例えば次式により環境音に基づくなまし電流調整値A2を求める。
A2=A1+β・S
ここで、係数βは重み係数であり、Sは環境音の大きさを表す量である。両者の積β・Sが環境音に基づく電流加算量を表す。環境音の大きさを表す量Sは検出系の出力に基づいてブレーキECU70により演算される。
【0088】
環境音の大きさを表す量Sは例えば、スピーカ88の出力音量レベルSa、ウインドウの開閉度Sb、ウインカーの点灯状態Sc、降雨量Sdを用いて、次式のように算出する。
S=a・Sa+b・Sb+c・Sc+d・Sd
ここで、係数a、b、c、dはそれぞれ重み係数である。
【0089】
スピーカ出力音量レベルSaは例えば、音量レベルが所定閾値を下回る場合に(例えば無音の場合に)Sa=0とし、所定閾値を上回る場合にSa=1とし、その間は線型補間とするようにしてもよい。ウインドウ開閉度Sbは、個別のウインドウの開閉度をウインドウ開閉スイッチ83の出力から求め、得られた各ウインドウの開閉度を合計または平均して算出するようにしてもよい。各ウインドウの開閉度は、ウインドウが完全に閉じている状態を0とし、完全に開いている状態を1とし、その間は線型補間とするようにしてもよい。また、ウインカー点灯状態Scは、ウインカーセンサ82の出力から求める。例えば点灯中であればSc=1とし、消灯中であればSc=0とする。降雨量Sdは雨滴センサ85の出力から求める。雨量が所定閾値を下回る場合にSd=0とし、所定閾値を上回る場合にSd=1とし、その間は線型補間とするようにしてもよい。このようにすれば、環境音が大きくなるにつれて値Sも大きくなり、なまし電流値を大きくすることができる。
【0090】
さらにブレーキECU70は、運転者の異音感度に基づくなまし電流調整を行う(S24)。ブレーキECU70は、検出系により測定された運転者の動作を運転者の異音感度として数値化する。ブレーキECU70は、運転者の異音感度に基づく電流加算量を算出し、なまし電流の初期値に加算する。こうして、運転者の異音感度に基づくなまし電流調整を行う。ここで、なまし電流の初期値は例えば、環境音に基づくなまし電流調整値A2であってもよい。運転者が運転操作中である場合には異音に鈍感となり制御弁作動音を運転者が感知しにくい。よって、運転者の異音への感度が悪いほどなまし電流値を大きくして、制御弁応答性ひいてはブレーキ応答性を作動音低減よりも優先してもよい。
【0091】
ブレーキECU70は例えば次式により運転者の異音感度に基づくなまし電流調整値A3を求める。
A3=A2+γ・F
ここで、係数γは重み係数であり、Fは運転者の異音感度を表す量である。両者の積γ・Fが運転者の異音感度に基づく電流加算量を表す。
【0092】
運転者の異音感度を表す量Fは検出系の出力に基づいてブレーキECU70により演算される。運転者の異音感度を表す量Fは、運転者が異音に鈍感であるほど値が大きくなり、運転者が異音に敏感であるほど値が小さくなるように数値化される。ここでは、運転者の操作量またはその変化速度が大きいほど運転者が異音に鈍感であるとして、運転者の操作量またはその変化速度に基づいて運転者の異音感度を数値化する。
【0093】
運転者の異音感度を表す量Fは例えば、運転者の発話音量レベルFa、運転者のステアリング速度Fb、運転者の制動操作速度Fcを用いて、次式のように算出する。
F=a・Fa+b・Fb+c・Fc
ここで、係数a、b、cはそれぞれ重み係数である。これらの重み係数は、環境音の大きさを表す量Sを求めるときの係数とは当然異なる値であってよい。
【0094】
発話音量レベルFaは例えば、音量レベルが所定閾値を下回る場合に(例えば無音の場合に)Fa=0とし、所定閾値を上回る場合にFa=1とし、その間は線型補間とするようにしてもよい。ステアリング速度Fbは例えば、ステアリングセンサ86が検出する操舵角速度から求める。ステアリング速度Fbは、操舵角速度が所定閾値を下回る場合にFb=0とし、所定閾値を上回る場合にFb=1とし、その間は線型補間とするようにしてもよい。制動操作速度Fcは、ペダル踏力センサ26及びストロークセンサ25の出力から求める。運転者がブレーキペダル24を急踏みしていると判定される場合にはFc=1とし、急踏みではないと判定される場合にはFc=0とする。このようにすれば、運転者の異音への感度が悪いほどなまし電流値を大きくすることができる。
【0095】
このようにして、ブレーキECU70は、検出系の検出結果を利用して運転者に作動音が感知されにくい場合になまし電流値を嵩上げする。その結果、制御弁応答性及びブレーキ応答性を高くすることができる。なお、なまし電流値を嵩上げする代わりに、またはなまし電流値を嵩上げするとともに、検出系の検出結果を利用してなまし時間を長くするようにしてもよい。
【0096】
この嵩上げ処理は例えば次のようにも表現される。検出系は、第1のセンサと、該第1のセンサとは異なる測定対象を有する第2のセンサと、を含んでもよい。制御部は、第1のセンサの測定結果に基づいて第1の電流プロファイルの初期電流を調整し、調整された初期電流を第2のセンサの測定結果に基づいて嵩上げしてもよい。このように初期電流を嵩上げすることにより制御弁をより迅速に開閉することができる。
【0097】
なお、図6においては、車速に基づく調整、環境音に基づく調整、異音感度に基づく調整の順になまし電流を調整しているが、これとは異なる順序で調整してもよい。この場合、上述のように、調整されたなまし電流値が順次嵩上げされるようにしてもよい。また、図6においては3段階のなまし電流調整をしているが、このうち1段階または2段階の調整を省略してもよい。
【0098】
図7は、第1電流プロファイル及び第2電流プロファイルの一例を示す図である。図7に示される第1電流プロファイルは、上述のなまし電流調整処理によってなまし電流が調整されている。図7に示される第2電流プロファイルは、例えば図2に示される作動音低減用電流プロファイルである。図7においては、第1電流プロファイルを実線で示し、第2電流プロファイルを破線で示している。
【0099】
第1電流プロファイルにおいては、制動オンとともに通電が開始され、上述の調整済のなまし電流A3が与えられる。その後、開閉動作完了時間T1まで直線的に目標起動電流Azへと制御電流が増加される。時間T1は、通常制御において開閉動作に許容される所要時間であり、制御弁に要求される制御応答性に基づいて設定される。時間T1以降は、目標起動電流Azの通電が制動中は継続される。
【0100】
図示されるように、調整済のなまし電流A3は、実起動電流Atよりも大きくてもよい。この場合、制動オンとともに制御電流が実起動電流Atを超えて制御弁の開閉状態が変更される。これとは異なって、調整済のなまし電流が実起動電流Atよりも小さい場合もありうる。この場合、開閉動作完了時間T1まで目標起動電流Azへと直線的に制御電流が増加されている間に制御弁の開閉状態が変更される。いずれにしても、開閉動作完了時間T1までに制御弁の開閉状態が変更される。このように第1電流プロファイルが選択された場合には時間T1までに制御弁の開閉状態が変更され、作動音低減に優先して要求ブレーキ応答性が実現されることになる。
【0101】
以上のように本実施形態によれば、制動オン時にレギュレータカット弁65を閉弁するために通常はブレーキ応答性を優先した第1の電流プロファイルが選択される。ブレーキ応答性を低下させてもよい場合には、作動音低減を優先した第2の電流プロファイルが選択される。これにより、ブレーキ応答性への影響を最小限に留めつつ、レギュレータカット弁65の閉弁時の作動音を低減して運転者の不快感を軽減することができる。
【0102】
第1の電流プロファイルにおいては、要求される応答性に基づいてなまし時間が設定されているとともに、車速、車両環境音、及び運転者異音感度によりなまし電流値が初期値から嵩上げされる。このため、遅くともなまし時間が経過するまでにレギュレータカット弁65が閉弁され、良好なブレーキ応答性が実現される。また、なまし電流値が嵩上げされることにより、さらにブレーキ応答性を高くすることができる。一方、車速、車両環境音、及び運転者異音感度が比較的小さい場合には、なまし電流の嵩上げ量も小さくなる。この場合、なまし電流値が制御弁の実起動電流よりも小さければ、比較的小さい電流増加勾配で電流を増加させているときに制御弁が開閉されることになるため、開閉作動音は小さくなる。このように、良好なブレーキ応答性を実現するだけでなく、状況に合わせて作動音の低減も実現される。
【0103】
第2の電流プロファイルにおいては、第1電流プロファイルよりもなまし時間が長く設定されている。このため、第2の電流プロファイルは第1の電流プロファイルよりも電流増加勾配が小さくなり、開閉時に作動音を低減することができる。また、通電開始とともになまし電流を与えることも目標起動電流への電流増加勾配を小さくすることに寄与する。第2の電流プロファイルは停車中に選択されるようにしているので、作動音低減に最大限配慮した電流プロファイルに調整することができる。
【0104】
ところで、ブレーキECU70は、上述の環境音や運転者異音感度を利用して、ブレーキポンプ36の作動タイミングを調整してもよい。図8は、ブレーキポンプ36の作動タイミングの調整処理の一例を説明するためのフローチャートである。この処理は、上述の制御弁開閉制御とは独立に実行することができる。
【0105】
図8に示される処理は、例えば車両の始動とともに開始され周期的に繰り返される。処理が開始されると、ブレーキECU70は、アキュムレータ圧Paccが所定圧よりも小さいか否かを判定する(S30)。この所定圧は、ブレーキポンプ36の作動を開始させるべき値として設定されているアキュムレータ下限圧であってもよいし、そのアキュムレータ下限圧に所定のマージンを加えて設定される値であってもよい。アキュムレータ下限圧に所定のマージンを加えて設定される値よりもアキュムレータ圧が低くなった場合にブレーキポンプ36の作動を許容することにより、アキュムレータ圧が充分に低くなる前に余裕をもってアキュムレータ圧を加圧して所定範囲に維持することが可能となるという点で好ましい。
【0106】
判定基準となる所定圧よりもアキュムレータ圧が大きいと判定された場合には(S30のNo)、ブレーキECU70は処理を終了する。この場合には、アキュムレータ圧が充分に高圧でありブレーキポンプ36を作動させる必要がないからである。
【0107】
一方、アキュムレータ圧が所定圧よりも小さいと判定された場合には(S30のYes)、ブレーキECU70は、運転者のポンプ音許容度Rを算出する。ポンプ音許容度Rは、例えば上述の車速、環境音、及び運転者の異音感度を利用して算出される。
【0108】
ポンプ音許容度Rは例えば次式により算出される。
R=e・F+f・S+g・V
ここで、e、f、gはそれぞれ重み係数であり、Fは運転者の異音感度であり、Sは車両の環境音であり、Vは車速である。
【0109】
この作動タイミング調整処理が上述の作動弁開閉制御処理とともに実行される場合には、作動弁開閉制御処理において取得された運転者の異音感度F、車両の環境音S、及び車速Vを用いればよい。作動タイミング調整処理のみが実行される場合には、運転者の異音感度F、車両の環境音S、及び車速Vを例えば上述の手法でそれぞれ算出すればよい。
【0110】
ブレーキECU70は、算出されたポンプ音許容度Rが判定基準となる所定値よりも大きいか否かを判定する(S34)。この判定基準値は、ポンプ作動音が運転者に与える不快感を考慮して、例えば適宜実験的に定めることができる。ポンプ音許容度Rが基準を超えると判定された場合には(S34のYes)、ブレーキECU70は、ブレーキポンプ36を作動させる(S36)。また、ポンプ音許容度Rが基準に満たないと判定された場合には(S34のNo)、ブレーキECU70は処理を終了する。
【0111】
このように、このポンプ作動タイミング調整処理によれば、アキュムレータ圧が低圧となったときに運転者のポンプ音許容度Rが基準よりも高いことを条件としてブレーキポンプ36を作動させる。このため、ポンプ作動音が運転者に与える不快感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の一実施形態に係る制御電流プロファイルの一例を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る制御電流プロファイルの一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る制御システムの構成を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る制御処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係る処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態に係る第1電流プロファイル及び第2電流プロファイルの一例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るブレーキポンプ作動タイミング調整処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0113】
20 ブレーキ制御装置、 23 ホイールシリンダ、 27 マスタシリンダユニット、 31 液圧ブースタ、 32 マスタシリンダ、 33 レギュレータ、 34 リザーバ、 60 分離弁、 64 マスタカット弁、 65 レギュレータカット弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 71 レギュレータ圧センサ、 72 アキュムレータ圧センサ、 73 制御圧センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に付随して設けられている少なくとも1つのセンサを含む検出系と、
該車両に付与される制動力を制御するための液圧回路に設けられた電磁制御弁と、
前記検出系からの出力を受信可能に前記検出系と接続され、要求される制御応答性で前記電磁制御弁を開閉することが保証される第1の電流プロファイルに従って制御電流を与えて前記電磁制御弁を開閉する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記検出系からの出力に基づいて前記電磁制御弁の制御応答性の低下が許容されるか否かを判定し、制御応答性の低下が許容されると判定した場合に、前記第1の電流プロファイルよりも前記電磁制御弁の作動音を低減するよう調整された第2の電流プロファイルに従って前記電磁制御弁に制御電流を与えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記第2の電流プロファイルは、前記電磁制御弁への通電開始時に与える初期電流が前記第1の電流プロファイルよりも小さく調整され、前記電磁制御弁の開閉状態を変更することが保証される規定の起動電流に到達させるまでの所要時間が前記第1の電流プロファイルよりも長く調整されていることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記第2の電流プロファイルの初期電流は、前記電磁制御弁の開閉状態を変更しないことが保証される大きさに調整されていることを特徴とする請求項2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記検出系は、運転者の動作を検出する少なくとも1つのセンサを含み、
前記制御部は、前記検出系の検出結果に基づいて前記電磁制御弁の作動音に対する運転者の感度を取得し、取得された感度に応じて前記第1の電流プロファイルを調整することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記検出系は、車両の環境音を検出する少なくとも1つのセンサを含み、
前記制御部は、前記検出系の検出結果に基づいて車両の環境音を取得し、取得された環境音に応じて前記第1の電流プロファイルを調整することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記液圧回路に供給される高圧の作動液を貯留するアキュムレータと、前記制御部からの制御指令に応じて該アキュムレータの作動液を加圧するポンプと、をさらに備え、
前記検出系は、運転者の動作を検出する少なくとも1つのセンサを含み、
前記制御部は、前記検出系の検出結果に基づいて前記電磁制御弁の作動音に対する運転者の感度が基準よりも悪いか否かを判定し、感度が悪いと判定した場合に前記ポンプを作動させることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記液圧回路に供給される高圧の作動液を貯留するアキュムレータと、前記制御部からの制御指令に応じて該アキュムレータの作動液を加圧するポンプと、をさらに備え、
前記検出系は、車両の環境音を検出する少なくとも1つのセンサを含み、
前記制御部は、前記検出系の検出結果に基づいて車両の環境音が基準を超える状態であるか否かを判定し、基準を超えると判定した場合に前記ポンプを作動させることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項8】
車両に付随して設けられている少なくとも1つのセンサを含む検出系と、
作動液圧に応じて車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、
動力の供給により作動液を蓄圧する動力液圧源と、
収容された作動液をブレーキ操作入力に応じて加圧するマスタシリンダと、前記動力液圧源を高圧源として該マスタシリンダの作動液圧に合わせて作動液を調圧するレギュレータと、を含むマニュアル液圧源と、
前記レギュレータから前記ホイールシリンダへの作動液流路に設けられ、制動要求により該作動液流路を遮断するレギュレータカット弁と、
前記検出系からの出力に基づいて前記レギュレータカット弁の閉弁速度を調整する制御部と、を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項9】
前記マスタシリンダから前記ホイールシリンダへの作動液流路に設けられ、制動要求により該作動液流路を遮断するマスタカット弁をさらに備え、
前記制御部は、前記マスタカット弁よりも前記レギュレータカット弁が緩やかに閉弁されるように前記レギュレータカット弁の閉弁速度を調整することを特徴とする請求項8に記載のブレーキ制御装置。
【請求項10】
車両に付随して設けられている少なくとも1つのセンサを含む検出系と、
該車両に設けられた作動液流路を開閉する電磁制御弁と、
前記電磁制御弁の作動音を低減すべきか否かを前記検出系の検出結果に基づいて判定し、作動音を低減をすべきと判定した場合に、規定の電流プロファイルよりも前記電磁制御弁の作動音を低減するよう調整された電流プロファイルに従って前記電磁制御弁に制御電流を与える制御部と、を備えることを特徴とする制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−42702(P2010−42702A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206199(P2008−206199)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】