説明

ブレーキ装置

【課題】リザーバに仕切り壁が設けられている場合であっても適切なブレーキ制御が行えるブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】マスタシリンダ14とホイルシリンダ48を連通する流路をマスタカット弁20、22により遮断してポンプ36の油圧によってブレーキ制御を行うブレーキ装置において、マスタシリンダ14に供給するブレーキ液を蓄積し内部を仕切る仕切り壁281、282を形成してなるリザーバ28を備え、リザーバ28に蓄積されるブレーキ液が所定量より少ない状態でブレーキ制御が実行された場合にマスタシリンダ14を通じて流路に流出したブレーキ液をリザーバ28に戻すブレーキ液戻し制御を行う。これにより、ブレーキ制御の際にリザーバ28からマスタシリンダ14に流出したブレーキ液をマスタシリンダ14に接続されるリザーバ区域に戻すことができ、適切なブレーキ制御が行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に制動力を与えるブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に制動力を与えるブレーキ装置として、例えば車輪に付与する制動力を調整して、車輪のスリップやロックを抑制し加速時や減速時の車両挙動を安定させる技術が知られている。一方、ブレーキ装置に用いられるリザーバタンクにおいて、例えば特開平6−199225号公報に記載されるように、リザーバタンク内部を仕切る隔壁を設けるものが知られている。このリザーバタンクは、二つの油圧系統においてそれぞれ供給できるブレーキ液を確保するなどのために内部を隔壁により仕切ったものである。
【特許文献1】特開平6−199225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このようなリザーバタンクを用いたブレーキ装置にあっては、適切なブレーキ動作が行えないおそれがある。例えば、リザーバタンク内において隔壁の高さよりブレーキ液の液位が低下している場合には、隔壁によってブレーキ液が自由に移動することができない。このため、隔壁の高さよりブレーキ液の液位が低下しており、ブレーキ動作が開始される際にリザーバタンクからブレーキ液が流出していくと、リザーバタンク内にブレーキ液が残存しない状態となるおそれがある。特に、ポンピングブレーキなどによって運転者がブレーキペダルの操作を繰り返すと、それに応じてブレーキ液がホイルシリンダ側へ流出し、リザーバタンク内のブレーキ液が減少していき、適切なブレーキ制御が行えないこととなる。
【0004】
そこで本発明は、リザーバに仕切り壁が設けられている場合であっても適切なブレーキ制御が行えるブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明に係るブレーキ装置は、マスタシリンダとホイルシリンダを連通する流路をマスタカット弁により遮断してポンプの油圧によってブレーキ制御を行うブレーキ装置であって、前記マスタシリンダに供給するブレーキ液を蓄積し、内部を仕切る仕切り壁を形成してなるリザーバと、ブレーキペダルの操作に応じて前記マスタカット弁を閉弁させ前記流路を遮断してポンプの油圧によってブレーキ制御を実行するブレーキ制御手段と、前記リザーバに蓄積されるブレーキ液が所定量より少ない状態で前記ブレーキ制御が実行された場合に、前記マスタシリンダを通じて前記流路に流出したブレーキ液を前記リザーバに戻すブレーキ液戻し制御を行うブレーキ液戻し制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
この発明によれば、リザーバに蓄積されるブレーキ液が所定量より少ない状態でブレーキ制御が実行された場合にマスタシリンダを通じて流路に流出したブレーキ液をリザーバに戻すブレーキ液戻し制御を行うことにより、ブレーキ制御の際にリザーバからマスタシリンダに流出したブレーキ液をマスタシリンダに接続されるリザーバ区域に戻すことができる。このため、マスタシリンダへ供給するブレーキ液が不足することを抑制でき、適切なブレーキ制御が行える。
【0007】
また本発明に係るブレーキ装置において、前記ブレーキ液戻し制御手段は、前記ブレーキ制御の実行の際におけるブレーキペダルの操作回数が多いほど前記ブレーキ液の戻し量を多くすることが好ましい。
【0008】
この発明によれば、ブレーキ制御の実行の際におけるブレーキペダルの操作回数が多いほどブレーキ液の戻し量を多くすることにより、ブレーキ制御の際にリザーバから流出した液量に応じてブレーキ液をリザーバに戻すことができ、適切な戻し制御が行える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リザーバに仕切り壁が設けられている場合であっても、仕切り壁により仕切られた区域にブレーキ液を戻すことができ、リザーバ内のブレーキ液が不足することを抑制でき、適切なブレーキ制御が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には可能な限り同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
図1は本発明の実施形態に係るブレーキ装置に用いられる制動系の液圧系統図であり、図2は本実施形態に係るブレーキ装置の構成概略図である。このブレーキ装置は、電子制御によって、運転者の操作力に応じた制動力を各輪に付与する通常のブレーキ操作を行うことが可能である。
【0012】
図1に示すように、ブレーキ装置1は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み操作に応答して作動油を圧送するマスタシリンダ14を有している。このブレーキペダル12には、ブレーキペダルの踏み込み量、すなわちペダルストロークを検出するペダルストロークセンサ13が取り付けられている。
【0013】
マスタシリンダ14からは油圧供給導管15、17が延びており、このうち油圧供給導管15には、ストロークシミュレータ18が通常開弁されているシミュレータカット弁16をはさんで接続されている。このストロークシミュレータ18は、運転者のブレーキペダル12の操作踏力に応じたペダルストロークを発生させるものである。油圧供給導管15、17の延長上には通常閉弁されているマスタカット弁20、22が配置されており、これらマスタカット弁20、22より上流側(マスタシリンダ14側)には、油圧供給導管15、17内の液圧を検出するマスタ圧センサ24、26がそれぞれ配置されている。以下、ストロークセンサ13とマスタ圧センサ24、26をあわせて操作検出部2と称する。
【0014】
リザーバ28には油圧排出導管32の一端が接続されており、油圧排出導管32から分岐する油圧供給導管30の途中にはモータ34により駆動されるポンプ36が配置されるとともに、ポンプ36の駆動により昇圧された油圧を貯えるアキュムレータ38が接続されている。さらに油圧供給導管30の途中にはアキュムレータ38の内圧を検出するためのアキュムレータ圧センサ40が配置される。また、油圧供給導管30と油圧排出導管32との間には、油圧供給導管30内の圧力が高くなった場合に作動油をリザーバ28に戻すためのリリーフバルブ44が設けられている。以下、これらのモータ34、ポンプ36、アキュムレータ38、アキュムレータ圧センサ40、リリーフバルブ44をあわせて加圧源4と称する。
【0015】
油圧供給導管30の他端は、4つに分岐され、各車輪(以下、左右前輪をそれぞれ符号FL、FRで、左右後輪をそれぞれ符号RL、RRで表し、これに対応する構成要素にはこれらの符号をそれぞれ付す。なお、符号FL〜RRを付した場合には、4輪全てを含むものとする。)に配置される制動装置(図示は省略する。)を駆動するホイルシリンダ48FL〜RRへ接続される。以下、これらの接続路を油圧供給導管46FL〜RRと称する。同様に油圧排出導管32の他端も4つに分岐され、各車輪用のホイルシリンダ48FL〜RRへと接続されている油圧供給導管46FL〜RRの途中に接続されている。以下、油圧供給導管46FL〜RRに至るこれらの接続路を油圧排出導管50FL〜RRと称する。また、各車輪には、車輪の回転数を検出する車輪速センサ60FL〜RRが取り付けられている。
【0016】
各油圧供給導管46FL〜RRの途中の油圧排出導管50FL〜RRとの接続部より上流側(ポンプ36側)には、それぞれ電磁流量制御弁(増圧弁)52FL〜RRが配置され、接続部より下流側(ホイルシリンダ48FL〜RR側)には、ホイルシリンダ48FL〜RRへ付与される液圧を検出するためのホイルシリンダ(W/C)圧センサ56FL〜RRが配置される。油圧排出導管50FL〜RRの途中、つまり、各油圧供給導管46FL〜RRとの接続部より下流側(リザーバ28側)にはそれぞれ電磁流量制御弁(減圧弁)54FL〜RRが配置される。以下、これらの増圧弁52FL〜RR、減圧弁54FL〜RR、W/C圧センサ56FL〜RR部分を液圧制御部6と称する。
【0017】
油圧供給導管46FL、46FRは、増圧弁52FL、52FRより下流側で、それぞれマスタカット弁20、22をはさんで油圧供給導管15、17に接続されている。これにより、マスタカット弁20、22をはさんでマスタシリンダ14とホイルシリンダ48FL、48FRが接続される。
【0018】
図2において、ブレーキ装置1の制御部(制御手段)であるブレーキECU8は、CPU、メモリ等からなり、格納されているブレーキ制御プログラムを実行することにより、制動装置の制御を行う。ブレーキECU8には、マスタ圧センサ24、26の出力信号であるマスタシリンダ14内の圧力を示す信号、アキュムレータ圧センサ40の出力信号であるアキュムレータ38内の圧力を示す信号、W/C圧センサ56FL〜RRの出力信号であるホイルシリンダ48FL〜RRに付与される液圧を示す信号、車輪速センサ60FL〜RRの出力信号である車輪速を示す信号、ペダルストロークセンサ13の出力信号であるブレーキペダル操作量を示す信号がそれぞれ入力される。
【0019】
さらに、図示を省略しているが、エンジン制御ECUからエンジン回転数、変速比等の駆動系の運転状態を示す信号も入力されている。また、ブレーキECU8は、上述したシミュレータカット弁16、マスタカット弁20、22、電磁流量制御弁52FL〜RR,54FL〜RR、モータ34の作動を制御する制御信号を出力する。
【0020】
このブレーキ装置1においては、ブレーキ制御が実行される。制御が実行されていない場合には、マスタカット弁20、22は開弁されており、シミュレータカット弁16は閉弁されている。このため、ブレーキ制御を実行しないときに、マスタシリンダ14の液圧を直接ホイルシリンダ48FL〜RRに伝達することができ、電子制御でないブレーキ操作(バックアップのブレーキ操作)が行える。
【0021】
ブレーキペダル12が操作されると、そのブレーキペダル12の操作に応じてマスタカット弁20、22が閉弁されてマスタシリンダ14とホイルシリンダ48を連通する流路が遮断され、ポンプ36の油圧によってブレーキ制御が実行される。
【0022】
すなわち、ブレーキペダル12が操作されて制御開始されると、マスタカット弁20、22が閉弁され、シミュレータカット弁16が開弁される。運転者のブレーキペダル12の操作により、マスタシリンダ14は操作量に応じた液圧を発生する。一方、作動油の一部が油圧供給導管15からシミュレータカット弁16を経由してストロークシミュレータ18へと流れ込むため、ブレーキペダル12の踏力に応じてブレーキペダル12の操作量が調整される。すなわち、操作踏力に応じたペダル操作量(ペダルストローク)が生成される。ペダルストロークは、ペダルストロークセンサ13で検出されるほか、マスタ圧センサ24、26によっても検出可能である。三者が一致しない場合には、センサの異常あるいはマスタシリンダ14、油圧供給導管15、17の異常と判定し得る。
【0023】
ブレーキECU8は、検出したペダルストロークに応じて車両の目標減速度を設定し、各車輪に付与する制動力配分を決定し、そのために各ホイルシリンダ48FL〜RRへ付与すべき液圧配分を設定する。アキュムレータ38には、所定の液圧が蓄えられているが、アキュムレータ圧センサ40で検出した液圧が不足する場合には、モータ34を駆動してポンプ36を作動させて昇圧を行う。一方、液圧が高すぎる場合には、リリーフバルブ44を開弁して液圧をリザーバ28へと解放する。
【0024】
各ホイルシリンダ48FL〜RRに付与される液圧は、各流量制御弁52FL〜RR,54FL〜RRの作動状態を変更することで調整することができる。ホイルシリンダ48FLの場合を例にとると、ブレーキECU8は、W/C圧センサ56FLで検出されたホイルシリンダ圧を目標液圧と比較し、加圧を要する場合には、減圧弁54FLを閉弁した状態で増圧弁52FLを開く。これにより、アキュムレータ38で増圧された作動油が、油圧供給導管30、46FLを経由してホイルシリンダ48FLへと供給されるため、ホイルシリンダ48FLの液圧が増圧し、制動力が強められる。
【0025】
このブレーキ装置1で加圧源4や液圧制御部6の構成要素に異常が発生した場合、適切な制動力配分が行えず、制動力制御によって車両挙動をかえって不安定にするおそれがある。このような異常が検出された場合には、ブレーキECU8は、マスタカット弁20、22を開弁してシミュレータカット弁16を閉弁し、マスタシリンダ14で生成した液圧を油圧供給導管15、17を経由して直接ホイルシリンダ48FL〜RRへと導くことにより、手動による制動操作を行わせる。
【0026】
図3に本実施形態に係るブレーキ装置のリザーバの断面図を示す。
【0027】
図3に示すように、リザーバ28は、ブレーキ液である作動油を蓄えておくためのタンクであって、内部が仕切り壁281、282によって仕切られて構成されている。仕切り壁281は、ポンプ36側と接続される開口部283と、マスタシリンダ14側と接続される開口部284、285とを仕切るための壁体であり、例えば板体を垂直に向け所定の高さとしてリザーバ28内を仕切るように構成される。
【0028】
また、仕切り壁282は、マスタシリンダ14のセカンダリ系統側と接続される開口部284と、マスタシリンダ14のプライマリ系統側と接続される開口部285とを仕切るための壁体であり、例えば板体を垂直に向け所定の高さとしてリザーバ28内を仕切るように構成される。マスタシリンダ14のセカンダリ系統の室内は、油圧供給導管15と接続されている。また、マスタシリンダ14のプライマリ系統の室内は、油圧供給導管17と接続されている。
【0029】
仕切り壁281、282は、リザーバ28の内部を完全に仕切るものではなく、仕切り壁281、282の上方でリザーバ28の内部空間が連通している。このため、仕切り壁281、282の高さより多く作動油が収容されている場合には、仕切り壁281、282を越えて作動油が移動できるようになっている。
【0030】
一方、仕切り壁281、282の高さより作動油の液位が低下している場合には、仕切り壁281、282によって作動油が自由に移動することができない。このため、仕切り壁281、282の高さより作動油の液位が低下しており、ブレーキ制御が開始される際に開口部284、285から作動油が流出していくと、作動油が残存しない状態となるおそれがある。例えば、運転者がブレーキペダル12を操作することにより、マスタカット弁20、22が閉弁されてブレーキ制御が開始される際、マスタカット弁20、22が完全に閉じるまでに作動油がホイルシリンダ48FL〜RR側へ流出する。このため、ポンピングブレーキなどによって運転者がブレーキペダル12の操作を繰り返すと、それに応じて作動油がホイルシリンダ48FL〜RR側へ流出し、リザーバ28内の作動油が減少していき、適切なブレーキ制御が行えないおそれがある。
【0031】
そこで、本実施形態に係るブレーキ装置おいては、ブレーキ制御の終了後にマスタカット弁20、22を経由しホイルシリンダ48と連通される流路を通じて作動油をリザーバ28に戻すことにより、リザーバ28内の作動油の減少を抑制して適切なブレーキ制御を行うものである。
【0032】
図4、5は、本実施形態に係るブレーキ装置のブレーキ液戻し制御処理のフローチャートを示すものである。この制御処理は、例えばブレーキECU8によってブレーキ制御の終了後に実行される。
【0033】
図4のS10に示すように、まずペダル操作状態判定処理が行われる。ペダル操作状態判定処理は、ブレーキペダル12の操作状態を判定する処理である。ブレーキペダル12の操作が行われていると判定された場合にはペダル操作フラグがオンとされ、ブレーキペダル12の操作が行われていないと判定された場合にはペダル操作フラグがオフとされる。このペダル操作状態判定処理では、例えばペダルストロークセンサ13の検出信号に基づいてブレーキペダル12の操作が行われているか否かが判定される。その際、マスタ圧センサ24、26の検出信号に基づいてブレーキペダル12の操作が行われているか否かが判定してもよい。また、ペダルストロークセンサ13とマスタ圧センサ24、26の双方の検出信号に基づいてブレーキペダル12の操作が行われているか否かが判定してもよい。
【0034】
そして、S12に移行し、ブレーキ液量判定処理が行われる。ブレーキ液量判定処理は、リザーバ28内の作動油の液量を判定する処理であり、例えば液量検出センサを用いてリザーバ28内の作動油の液量が所定の液量よりも少ないか否かを判定する。液量検出センサとしては、例えばリザーバ28内の作動油の液面が仕切り壁281、282の高さより低いか否かによってオンオフの出力を行うものが用いられる。
【0035】
そして、S14に移行し、リザーバ28に蓄えられる作動油が所定量よりも少ないか否かが判断される。この判断は、S12にて判定した結果に基づいて判断すればよい。例えば、S12にてブレーキ液量が所定の液量より少ないと判断された場合にはリザーバ28に蓄えられる作動油が少ないと判断され、S12にてブレーキ液量が所定の液量より少なくないと判断された場合にはリザーバ28に蓄えられる作動油が少なくないと判断される。
【0036】
S14にてリザーバ28に蓄えられる作動油が所定量よりも少ないと判断された場合には、ブレーキペダル操作が行われたか否かが判断される(S16)。ブレーキペダル操作が行われたか否かが判断は、ブレーキペダル操作が開始されたか否かを判断する処理であり、例えばS10のペダル操作状態判定処理の判定結果に基づいて行えばよい。今回のペダル操作フラグがオンであって、前回のペダル操作フラグがオフである場合には、ブレーキペダル操作が行われたと判断される。今回のペダル操作フラグがオンであって、前回のペダル操作フラグがオンである場合には、ブレーキ操作中であり、ブレーキペダル操作が行われてないと判断される。また、今回のペダル操作フラグがオフである場合には、ブレーキペダル操作が行われてないと判断される。このS16にてブレーキペダル操作が行われてないと判断された場合には、S22に処理が移行する。
【0037】
一方、S16にてブレーキペダル操作が行われたと判断された場合には、目標制御時間設定処理が行われる(S18)。目標制御時間設定処理は、作動油をリザーバ28へ戻すための戻し制御の実行時間、すなわち目標制御時間を設定する処理である。目標制御時間は、ブレーキペダル12の操作回数が多いほど長くなるように設定することが好ましい。例えば、基本目標制御時間が予め設定され、この基本目標制御時間に対しブレーキペダル12の操作回数に応じた制御延長時間を加算して目標制御時間が設定される。この目標制御時間に従って作動油の戻し制御を実行することにより、制動制御の際にリザーバ28から流出した液量に応じて作動油をリザーバ28に戻すことができ、適切な戻し制御が行える。
【0038】
ところで、S14にてリザーバ28に蓄えられる作動油が所定量よりも少なくないと判断された場合には、目標制御時間にゼロが設定される(S20)。そして、S22に処理が移行する。S22では、目標制御時間がゼロであるか否かが判断される。S22にて目標制御時間がゼロでないと判断された場合には、ブレーキペダル操作が行われているか否かが判断される(S24)。ブレーキペダル操作が行われているか否かが判断は、S10のペダル操作状態判定処理の判定結果に基づいて行えばよい。例えば、今回のペダル操作フラグがオンである場合には、ブレーキペダル操作が行われていると判断される。一方、今回のペダル操作フラグがオフである場合には、ブレーキペダル操作が行われていないと判断される。このS24にてブレーキペダル操作が行われていると判断された場合には、S32に移行する。
【0039】
一方、S24にてブレーキペダル操作が行われていないと判断された場合には、作動油戻し制御の制御中フラグがオンとされ(S26)、作動油の戻し制御が実行される(S28)。すなわち、マスタカット弁20、22が開弁され、増圧弁52FL、52FRが開弁され、減圧弁54FL、54FRが閉弁される。このため、アキュムレータ38の油圧が増圧弁52FL、52FR、マスタカット弁20、22及びマスタシリンダ14を通じてリザーバ28に伝達され、作動油がリザーバ28に戻される。
【0040】
その際、アキュムレータ圧力と目標ホイルシリンダ圧力との差圧が大きいほど増圧弁52FL、52FRの通電電流を小さく設定することが好ましい。このようにすることにより、アキュムレータ圧力と目標ホイルシリンダ圧力との差圧が大きい場合にホイルシリンダ48に油圧が多く加わることを抑制できる。このため、運転者の意図しないブレーキ動作を抑制でき、走行中に戻し制御を実行しても走行に与える影響を低減できる。
【0041】
このように、マスタシリンダ14からホイルシリンダ48へ通じる作動油の流路を用いて作動油をリザーバ28に戻すことにより、仕切られたリザーバ28内の必要な区域に対し適切に作動油を戻すことができる。そして、S30に移行して目標制御時間がデクリメントされ、S40に移行する。
【0042】
一方、S22にて目標制御時間がゼロであると判断された場合には、S32に移行し、戻し制御中であるか否かが判断される。S32にて作動油の戻し制御中であると判断された場合には、制御中フラグがオフされる(S34)。一方、S32にて作動油の戻し制御中でないと判断された場合には、マスタカット弁20、22が開弁中であるか否かが判断される(S36)。S36にてマスタカット弁20、22が開弁中であると判断された場合には、マスタカット弁20、22の開弁動作が終了される(S38)。
【0043】
一方、S36にてマスタカット弁20、22が開弁中でないと判断された場合には、S40に移行し、記録処理が行われる。記録処理は、フラグ情報記録の更新を行う処理であり、例えば今回のフラグの情報が前回のフラグの情報として記録される。
【0044】
そして、S42に移行し、制御中フラグがオンであるか否かが判断される。S42にて制御中フラグがオンであると判断された場合には、マスタ圧判定値が増加される(S46)。すなわち、ブレーキペダル12を操作しているか否かの判定に用いられるマスタ圧判定値が増加される。これにより、S10におけるペダル操作状態判定処理における誤判定を抑制することができる。一方、S42にて制御中フラグがオンでないと判断された場合には、マスタ圧判定値が元の値に戻される(S44)。すなわち、増加されたマスタ圧判定値が元の値に戻される。そして、図4、5の一連の制御処理が終了される。
【0045】
以上のように、本実施形態に係るブレーキ装置1によれば、リザーバ28に蓄積されるブレーキ液が所定量より少ない状態でブレーキ制御が実行された場合にマスタシリンダ14を通じて流路に流出したブレーキ液をリザーバ28に戻すブレーキ液戻し制御を行うことにより、ブレーキ制御の際にリザーバ28からマスタシリンダ14に流出したブレーキ液をマスタシリンダに接続されるリザーバ区域に戻すことができる。このため、マスタシリンダへ供給するブレーキ液が不足することを抑制でき、適切なブレーキ制御が行える。
【0046】
また、ブレーキ制御の実行の際におけるブレーキペダル12の操作回数が多いほどブレーキ液の戻し量を多くすることにより、ブレーキ制御の際にリザーバ28から流出した液量に応じてブレーキ液をリザーバ28に戻すことができ、適切な戻し制御が行える。
【0047】
なお、上述した実施形態は本発明に係るブレーキ装置の一例を示すものである。本発明に係るブレーキ装置は、このようなものに限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しないように実施形態に係るブレーキ装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係るブレーキ装置に用いられる液圧系統の説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るブレーキ装置の構成概要図である。
【図3】図2のブレーキ装置のリザーバの断面図である。
【図4】図1のブレーキ装置におけるブレーキ液戻し制御処理を示すフローチャートである。
【図5】図1のブレーキ装置におけるブレーキ液戻し制御処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
1…ブレーキ装置、2…操作検出部、4…加圧源、6…液圧制御部、8…ブレーキECU、12…ブレーキペダル、13…ペダルストロークセンサ、14…マスタシリンダ、15…油圧供給導管、16…シミュレータカット弁、18…ストロークシミュレータ、20…マスタカット弁、24…マスタ圧センサ、28…リザーバ、30…油圧供給導管、32…油圧排出導管、34…モータ、36…ポンプ、38…アキュムレータ、40…アキュムレータ圧センサ、44…リリーフバルブ、46FL〜RR…油圧供給導管、48FL〜RR…ホイルシリンダ、50FL〜RR…油圧排出導管、52FL〜RR、54FL〜RR…電磁流量制御弁、56FL〜RR…ホイルシリンダ圧センサ、60FL〜RR…車輪速センサ、281…仕切り壁、282…仕切り壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダとホイルシリンダを連通する流路をマスタカット弁により遮断してポンプの油圧によってブレーキ制御を行うブレーキ装置であって、
前記マスタシリンダに供給するブレーキ液を蓄積し、内部を仕切る仕切り壁を形成してなるリザーバと、
ブレーキペダルの操作に応じて前記マスタカット弁を閉弁させ前記流路を遮断してポンプの油圧によってブレーキ制御を実行するブレーキ制御手段と、
前記リザーバに蓄積されるブレーキ液が所定量より少ない状態で前記ブレーキ制御が実行された場合に、前記マスタシリンダを通じて前記流路に流出したブレーキ液を前記リザーバに戻すブレーキ液戻し制御を行うブレーキ液戻し制御手段と、
を備えたことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記ブレーキ液戻し制御手段は、前記ブレーキ制御の実行の際におけるブレーキペダルの操作回数が多いほど前記ブレーキ液の戻し量を多くすることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−190521(P2009−190521A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32022(P2008−32022)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】