説明

プラスチック成形品の製造方法

【課題】家電製品のキャビネットに多用されているポリスチレン等のプラスチックを簡易に低コストで成形品に成形可能な製造方法を提供する。
【解決手段】
プラスチックPLを粉砕して粒状とし、この粒状のプラスチック破砕物に揮発性の溶剤30を混合し、溶剤30が混合されたプラスチック破砕物を成形し、成形品PAを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビジョン受像機等の家電製品では、キャビネットにポリスチレンを用いていることが多く、製品を廃棄、解体したときに大量のポリスチレンが発生する。
環境保護や省資源化の観点から、家電製品ら発生するポリスチレン等の大量のプラスチックのリサイクル技術が種々提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開平6−178615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、テレビジョン受像機等のキャビネットを再度成形材に戻すリサイクルでは、キャビネットに付着したラベルやテープなどの異物や材質の異なるプラスチックを完全に取り除く必要がある。このため、リサイクルのためには多大な労力が必要となり、克服すべき大きな障害となっている。
一方、ポリスチレン等のプラスチックは、燃料としての用途もあるが、現在のところプラスチックの発生量に対して処理できる量が限られている。また、資源の有効利用の点から見ると、低価格の燃料の代替に使用するのは無駄が多い。
【0004】
本発明は、上記した問題に鑑みてなされたものであって、家電製品のキャビネットに多用されているポリスチレン等のプラスチックを簡易に低コストで成形品に成形可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のプラスチック成形品の製造方法は、粒状のプラスチック破砕物に揮発性の溶剤を混合する混合工程と、前記溶剤が混合されたプラスチック破砕物を成形する成形工程とを有する。
【0006】
好適には、前記プラスチック破砕物に、ポリススチレンを用い、前記溶剤にd−リモネンを用いる。
【0007】
さらに好適には、前記成形工程は、前記溶剤が混合されたプラスチック破砕物を加熱する工程を有する。
【0008】
また、前記成形工程は、前記溶剤が混合されたプラスチック破砕物を減圧下に置く工程を有する構成とすることも可能である。
【0009】
本発明では、プラスチック破砕物に適量の溶剤を混合すると、粒状のプラスチック破砕物の表面部のみが溶け、プラスチック破砕物間が接着される。この状態で成形する。このとき、プラスチック破砕物に混合された溶剤は、表面から外部に気化するとともに、プラスチック破砕物の内部に溶剤が浸透する。このため、プラスチック破砕物の表面部における溶剤の濃度が急速に低下する。溶剤の濃度が急速に低下すると、溶けることによって互いに接着されたプラスチック破砕物の表面が硬化し、成形品ができあがる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、家電製品のキャビネットに多用されているポリスチレン等のプラスチックを簡易に低コストで再利用可能な成形品に成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明のプラスチック成形品の製造方法の一実施形態に係る製造工程を説明するための図である。
図1に示すように、まず、家電製品等から排出された廃棄すべきプラスチックPLを破砕機10を用いて粒状に粉砕する。たとえば、テレビジョン受像機のキャビンネットではポリスチレンが多用されており、本実施形態ではプラスチックPLとしてポリスチレンを用いた場合について説明する。
破砕機10では、ポリスチレンを、たとえば、数ミリ角程度に粉砕する。ポリスチレンの粒の寸法が、可能なかぎり均等であることが好ましい。
【0012】
次いで、粉砕した粒状のポリスチレンと所定量に溶剤とを混合する。
粒状のポリスチレンに溶剤を適用加えることにより、ポリスチレンの表面のみを溶かし粒間を接着する。
粒状のポリスチレンと溶剤との混合には、たとえば、コンクリートの製造に用いるミキサー20を使用することができる。
【0013】
溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサン等のケトン系溶剤、酢酸イソアミル、プロピオン酸ベンジル、酢酸エチル等のエステル系溶剤、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、リモネン、ピネン、シトラール、ゲラニオール、リナロール等のテルペン系溶剤等が使用できる。また、これらは単独でも混合しても使用できる。
【0014】
本実施形態では、溶剤としてd−リモネンを使用した。
d−リモネンは、柑橘類の皮に含まれるオレンジ油の主成分であり、化学式はC1016である。融点−74.35℃、比重0.844(20℃)、沸点175.5℃、引火点48℃である。
d−リモネンは、たとえば、10〜20%(重量比)注入し、混合する。
【0015】
ポリスチレンの粒子にd−リモネンを適量混合すると、図2に示すように、ポリスチレンの粒子PLaの表面部Mpのみが溶ける。
このため、図2に示すように、粒子PLaの溶けた表面部Mpが接触することにより、互いに接着される。
【0016】
次いで、d−リモネンと粒状のポリスチレンとの混合物を成形型40に収容し、錘Wtをのせて圧縮して成形する。
成形型40には、たとえば、アルミニウム等の金属製のものを用いる。成形型40は、最終的な成形品の形状の型面を備えている。
d−リモネンと粒状のポリスチレンとの混合物を、たとえば、2〜3時間放置すると、この混合物が固化し、成形型40から取り出すと成形品PAが得られる。
【0017】
ここで、d−リモネンを混合したポリススチレンが固化する原理について説明する。
ポリスチレンの粒子に溶剤としてのd−リモネンを滴下するとポリスチレンの粒表面のみ溶解し、放置しておくと再び表面は固化する。
これは、ポリスチレンの粒子の表面からd−リモネンから揮発すると同時にポリスチレンの粒内部へd−リモネンが拡散、浸透するので、粒子の表面のd−リモネンの濃度が低下するためである。
たとえば、図3に示すように、ポリスチレンの粒子PLaの表面部Mpが溶けることで、ポリスチレンの粒子PLa間が接着された状態では、ポリスチレンの粒子の表面から外部へ向けてd−リモネンが揮発するとともに、d−リモネンが粒子PLaの内部へ浸透する。
このとき、ポリスチレンの粒子PLaの表面部Mpのd−リモネンの濃度が低下し、表面部Mpが再び硬化すると、ポリスチレンの粒子PLa間の位置関係が固定され、所望形状の成形品が得られる。
本実施形態では、複数のポリスチレンの粒子に溶剤としてのd−リモネンを作用させて表面を溶解し、d−リモネンが揮発、拡散し硬化する前に複数のポリスチレンの粒を接触させることにより成形する。
【0018】
なお、d−リモネンの量が多すぎてポリスチレンの粒に拡散しきれない場合には、ポリスチレンの粒子PLaの表面部Mpが再び硬化しにくくなる。このため、d−リモネンの使用量を適切に調整することが重要である。
【0019】
成形型から取り出した、ポリスチレンの成形品PAは、内部に溶剤としてのd−リモネンが含まれている。
しかし、d−リモネンの濃度があるレベル以下ならばこのままでも、ポリスチレンの成形品PAにあまり強度が要求されない用途に使用できる。
ポリスチレンの成形品PAは、粒子間に隙間が多く有り通気性がある。このため、さらに放置すれば、d−リモネンが気化し強度が高くなる。
【0020】
強度向上
ポリスチレンの成形品PAの強度を向上させるには、d−リモネンと粒状のポリスチレンとの混合物を圧縮して、粒子間の密着性を高くすることと、ポリスチレンの粒子に浸透したd−リモネンをできるだけ気化させて排出し、各粒子の硬度を高めることとが考えられる。
たとえば、成形型40内にあるd−リモネンと粒状のポリスチレンとの混合物を加熱してd−リモネンの気化を促進する。
また、成形型40内にあるd−リモネンと粒状のポリスチレンとの混合物を減圧下に置いて、d−リモネンの気化を促進することも可能である。
さらに、成形型40内にあるd−リモネンと粒状のポリスチレンとの混合物を加熱するとともに、減圧下に置いてd−リモネンの気化を促進することも可能である。
【0021】
また、成形型40から取り出した成形品PAを加熱してd−リモネンの気化を促進することもできる。
成形型40から取り出した成形品PAを減圧下に置いて、d−リモネンの気化を促進することも可能である。
さらに、成形型40から取り出した成形品PAを減圧下に置いて、かつ、加熱してd−リモネンの気化を促進することもできる。
【0022】
成形品の応用例
成形品PAを構成する各粒子は完全に密着することなく隙間が多数存在する。このため、通気性や透水性がある。この性質を利用して、各種フィルター、マフラー、濾過剤、建材などに使用できる。
また、成形品PAは、比較的早く内部まで硬化するため、成形材のみならず充填材としても使用できる。
また、歩道等のあまり強度が求められない場所であれば、アスファルトの代わりにポリスチレンとd−リモネン混合物で舗装できる。この場合、通常のアスファルト舗装と違い透水性が有るため雨水がたまらない利点がある。
【0023】
以上のように、本実施形態によれば、テレビジョン受像機などの家電製品のキャビネットに多用されているポリスチレンを低コストでポリスチレン製の製品としてリサイクルすることが可能となる。
また、本実施形態によれば、常温で成形および硬化させることができるため安全であり、また、成形型の材質も木またはこれに類似する製品でも良く、安価に製造することができる。
また、粉砕したポリスチレンの中にある程度の異物、たとえば、テープやラベル、別の種類のプラスチック等が混入しても成形するうえで大きな支障はない。
また、ポリスチレン成形品は、粒状のポリスチレンの一部しか溶解しないので、成形前後の収縮、膨張が少なく、厚みが厚い成形品でも容易に成形することができる。
【0024】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。
上述した実施形態では、プラスチックとしてポリスチレンの場合について説明したが、ポリスチレン以外のプラスチックでもそれぞれのプラスチックを溶かすことができる溶剤を選択すれば同様に実施することができる。
【0025】
また、図4に示すように、粒状のポリスチレンPLaとd−リモネンとの混合物を成形型に投入した後、その投入口に、たとえば、ゴム製のシート200等の可撓性部材で覆い、成形型40の内部に空気が入らない状態にする。すなわち、粒状のポリスチレンPLaとd−リモネンとの混合物をゴム製のシート200で密封する。
この状態で、成形型40の内部をポンプPによって排気して減圧しこれを一定時間保持する。成形型40の内部を減圧すると、大気圧と成形型内の圧力差でゴム製のシート200が変形し、ゴム製のシート200がポリスチレンとd−リモネンの混合物を圧縮する。 ポリスチレンとd−リモネンの混合物が圧縮されると、ポリスチレンの粒子間の密着がよくなり、成形品の強度が向上する。
また、成形型40内を減圧することにより、d−リモネンの気化も促進されるため、高い強度の成形品が製作できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のプラスチック成形品の製造方法の一実施形態に係る製造工程を説明するための図である。
【図2】ポリスチレンの粒子PLaの表面が溶けて互いに接着した状態を示す図である。
【図3】d−リモネンが気化するとともにポリスチレンの粒子の内部に浸透する状態を示す図である。
【図4】本発明の他の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0027】
10…破砕機、20…ミキサー、30…溶剤、40…成形型、PL…プラスチック、PA…成形品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状のプラスチック破砕物に揮発性の溶剤を混合する混合工程と、
前記溶剤が混合されたプラスチック破砕物を成形する成形工程と
を有するプラスチック成形品の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程は、成形型を用いて成形する
請求項1に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項3】
前記プラスチック破砕物に、ポリスチレンを用い、
前記溶剤にd−リモネンを用いる
請求項1に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程は、前記溶剤が混合されたプラスチック破砕物を加熱する工程を有する
請求項1に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程は、前記溶剤が混合されたプラスチック破砕物を減圧下に置く工程を有する
請求項1に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項6】
前記成形工程は、前記溶剤が混合されたプラスチック破砕物を圧縮する圧縮工程を有する
請求項1に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項7】
前記圧縮工程は、成形型内に収容された前記溶剤が混合されたプラスチック破砕物を可撓性部材で密封し、密封された密封空間内を減圧し、大気圧と前記密封空間内の圧力差により前記溶剤が混合されたプラスチック破砕物を圧縮する
請求項6に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項8】
成形されたプラスチック成形品を加熱する工程を有する
請求項1に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項9】
成形されたプラスチック成形品を減圧下に置く工程を有する
請求項1に記載のプラスチック成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2005−59498(P2005−59498A)
【公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−295220(P2003−295220)
【出願日】平成15年8月19日(2003.8.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】