説明

プラズマ耐蝕性材料およびそれを含んでなる部材

【課題】希土類窒化物は、イットリア以上の耐蝕性を持つ半導体製造装置用部材を作製できると期待されるが、希土類窒化物単体では酸化しやすい性質であり、例えば大気中では希土類酸化物に変化してしまう問題があった。
【解決手段】希土類窒化物からなるプラズマ耐蝕性材料であって、金属元素としてTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Au、Al、Ga、Inの中から少なくとも1種類の元素を金属元素の割合として0.1〜20原子%含有することを特徴とするプラズマ耐蝕性材料は、プラズマに対する耐性が高く、このようなプラズマ耐蝕性材料は、希土類窒化物粉末に金属を混合した粉末を使用して溶射膜を形成することで製造することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の製造における、プラズマ処理装置(プラズマエッチング装置、プラズマクリーニング装置、アッシング装置)等に用いる部材に係るものであり、特にプラズマに対する耐蝕性が高く、大気中での酸化に対して抵抗を持つ希土類窒化物を使用した部材を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
Sc、Yとランタノイド、アクチノイドで構成される希土類元素であるが、この酸化物は、半導体素子等の製造工程におけるプラズマエッチングや、CVD装置のクリーニング用途に用いられるフッ素系や塩素系ガス・プラズマに対する耐蝕性が高いことから、半導体製造装置の部材として実用化されている。
【0003】
例えば、Yの酸化物であるイットリアの焼結体は半導体製造装置のウエハ保持具等として用いられている。また、所望の形状の部材の耐蝕性を向上させるため、半導体製造装置の部材表面にイットリアの溶射膜を形成することで、耐蝕性を向上させることも行われている(例えば非特許文献1参照)。しかし、これら希土類酸化物もプラズマエッチングに対して十分な耐蝕性を保持してはおらず、更なる耐蝕性の向上が望まれている。
【0004】
一方、希土類元素の化合物としては、酸化物の他に窒化物が知られている。このような希土類窒化物としては、例えば、飽和磁化の増加した磁石である鉄と希土類合金系の窒化物の検討が、また、希土類窒化物のもつ半導体又は半金属導体の特性を活用して窒化アルミニウム焼結体の粒界相に存在させることで導電率を上昇させる等の検討がなされている。
【0005】
このような特性を持つ希土類窒化物は、単体としてはプラズマに対する耐蝕性が高いと考えられ、実際に使用すればイットリア以上のプラズマ耐蝕性材料を作製できると期待され開発もされているが(例えば特許文献1参照)、希土類窒化物単体では酸化しやすい性質があり、例えば大気中では希土類酸化物に変化してしまうため、耐酸化性を持つ希土類窒化物を使用したプラズマ耐蝕性材料が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開平10−004083号公報参照
【非特許文献1】水野宏昭、伊部博之、青木功、北村順也「粉体特性を制御したイットリア溶射皮膜の耐プラズマエロージョン特性」2005年度溶射合同講演大会講演論文集,10(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上説明した様に、希土類窒化物は、半導体製造工程にてイットリア以上のプラズマ耐蝕性を持つと考えられるが、その易酸化性のために単体での使用が難しく、耐酸化性の向上が望まれていた。
【0008】
本発明の目的は、耐酸化性の高い希土類窒化物を用いたプラズマ耐蝕性材料およびそれを含んでなる部材を与えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述のような現状に鑑み、鋭意検討を行った結果、4族(Ti、Zr、Hf)、5族(V、Nb、Ta)、6族(Cr、Mo、W)、9族(Co、Rh、Ir)、10族(Ni、Pd、Pt)、11族(Au)、13族(Al、Ga、In)の少なくともいずれか1つを混合した希土類窒化物は、耐酸化性が高いことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
以下、本発明のプラズマ耐蝕性材料およびそれを含んでなる部材について詳細に説明する。
【0011】
本発明は、希土類窒化物からなるプラズマ耐蝕性材料であって、金属元素としてTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Au、Al、Ga、Inの中から少なくとも1種類の元素を金属元素の割合として0.1〜20原子%含有することを特徴とするプラズマ耐蝕性材料である。
【0012】
本発明のプラズマ耐蝕性材料は、希土類窒化物のほかにTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Au、Al、Ga、Inを添加することで、これらの添加元素が酸素を吸収する。そのため、希土類窒化物が酸化することなく、大気中でもその特性を得ることが出来ると考えるが、このような考えは何ら本発明を限定するものではない。この添加する元素の量としては、金属元素の量として0.1から20原子%が好ましい。この添加量が0.1%よりも少ないと十分な耐酸化性が得られずに空気中にて酸化してしまう。また、添加量が20%よりも多いと希土類窒化物の耐蝕性を十分に得ることが出来ない。複数の元素を添加する場合には、添加する金属元素の合計量を0.1から20原子%とすることが好ましい。
【0013】
本発明における希土類窒化物の希土類元素としては、Sc、Yとランタノイド、アクチノイドを挙げることが出来る。その中でも、イットリウムは、原料を比較的安価で容易に入手できるので好ましい。
【0014】
本発明におけるプラズマ耐蝕性材料の形態としては、焼結体や、PVD(Physical Vapor Deposition)や溶射膜が挙げられる。焼結体としては、希土類窒化物粉末に対してTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Au、Al、Ga、Inの中から少なくとも1種類の金属を所定量混合した混合物を、窒素雰囲気によるガス圧焼結やHIPを行うことで得られる。
【0015】
また、プラズマ耐蝕性材料を膜の形態とすることで、基材の形状に合った耐酸化性の希土類窒化物を表面に形成した部材を作成することが出来る。この膜の厚さとしては、0.1μm〜1mmが好ましい。膜の厚さが0.1μmよりも薄いとプラズマに対する耐蝕性を十分に保持できず、1mmよりも厚いと膜と基材との応力により膜がはがれやすくなる。
【0016】
このプラズマ耐蝕性材料の膜の形態としては、特に溶射膜が好ましい。溶射法はPVD等の成膜法と比較して短時間で厚い膜を生成することが出来るためプラズマ耐蝕性膜の生成には適する。
【0017】
この溶射膜としては希土類窒化物とTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Au、Al、Ga、Inの中から少なくとも1種類の金属を所定量混合した溶射粉末をプラズマ溶射することにより形成することが出来る。窒化物の溶射では、溶射中の高温によって窒化物が酸化・分解することがあるので、プラズマ溶射としては、特に、高出力・高ガス流量のプラズマを使用することが好ましい。高出力とは、50kW以上、高ガス流量とは120SLM(Standard Litter Per Minute)以上のプラズマを挙げることが出来る。出力・ガス流量を上げる事の効果は定かではないが、ガス流量を上げる事で、窒化物粉末がプラズマに滞在する時間が短くなり、酸化・分解が抑制されるものと考えられる。
【0018】
高出力、高ガス流量のプラズマガンとしては、例えば、カナダNorthwest Mettech社製の商品名「Axial III」が挙げられる。この溶射ガンでは、3個のプラズマ電極が溶射粉末供給ノズルの周囲に120度の間隔で配置されていることから、プラズマ中心に溶射粉末が投入されるため、プラズマがNやH等の還元雰囲気である場合には、溶射粉末が酸素に触れることによる酸化を防ぐことが出来る。
【0019】
図1にプラズマ内部への粉末供給方式のプラズマ溶射装置の概念図を示す。プラズマ溶射装置は3つのアノード11とカソード10との間に流れたプラズマガス12がアーク放電にすることによって形成されるプラズマジェットをコンバージェンス14で集合させる。この集合したプラズマジェットを熱源として、その中央に溶射粉末13が投入されて溶融し、溶融した溶射粉末はプラズマガスの流速で基材16にぶつかり堆積するものである。
【0020】
本発明のプラズマ耐蝕性材料を膜の形態で用いるときの基材としては、特に指定は無いが、アルムニウム合金、ステンレス等の金属や、石英ガラス、ボロシリケートガラス等の耐熱ガラス、アルミナ、ムライト等のセラミックが挙げられる。溶射では、基材の温度が100℃以上の温度になるため、この温度上昇によって割れ、変質、変形等が発生しないことが必要である。
【0021】
本発明のプラズマ耐蝕性材料による溶射膜の製造条件として、プラズマ溶射の場合、基材温度としては、基板の種類にもよるが、ガラスやセラミックスの場合、100〜800℃が好ましい。基材温度が100℃より低いと溶射粉末が十分に溶けないため、溶射膜が付着しない場合があり、基材温度が800℃よりも高い場合、基板と溶射膜の熱膨張率の違いから溶射膜に亀裂が発生することで耐蝕性が低下することや、窒素を含む溶射膜を作成する場合、溶射材である窒化物の分解によって窒素の消失が発生する場合がある。また、金属基材の場合、50〜400℃が好ましい。
【0022】
本発明のプラズマ耐蝕性材料による溶射膜の製造条件として、常圧下での溶射ガン先端と基板との間の距離である溶射距離は、40〜150mmが好ましい。溶射距離が150mmをこえると基板に溶射粉末が付着するまでに冷却されてしまい、基板上に溶射膜が堆積されない場合があり、溶射距離が40mmより短いと基材、溶射膜両方の温度が上昇してしまい、溶射膜や基材の割れの原因となることがあり、さらに窒素を含む溶射膜を作成する場合には溶射粉末中の窒化物の分解によって窒素の消失が発生する場合がある。
【0023】
本発明のプラズマ耐蝕性材料による溶射膜の製造条件として、溶射フレームを基材に溶射する際の投入する溶射パワーは用いる装置によっても異なるが、例えば図1に示すようなプラズマ溶射装置の場合、溶射パワーを50kW以上とするような条件が例示できる。
【0024】
このプラズマ耐蝕性材料の溶射膜の厚さについては、1から500μm、特に3から300μmが好ましい。溶射膜の膜厚が1μmよりも薄いと、基材保護の機能が十分ではないため、基材がエッチングされてしまうことで、基材からのパーティクルによる汚染が発生しやすくなる。膜厚が500μmを超えると、溶射膜と基材との熱膨張率の違いによる溶射膜の剥がれが発生しやすくなる。溶射膜の膜厚は、部材の断面を顕微鏡で観察するか、溶射前後の部材の厚さを測定することで知ることが出来る。
【0025】
本発明のプラズマ耐蝕性材料をその表面に設けた部材は、プラズマ処理装置用部材として用いることが出来る。プラズマ処理装置用部材とは、例えば、成膜装置等で用いられるインシュレーター、プレクリーンシールド等の部材や、プラズマエッチング装置、クリーニング装置に用いる部材が挙げられる。
【0026】
これら部材に対して表面にプラズマ耐蝕性材料の希土類窒化物が存在すると、希土類窒化物が腐食性ガスであるフッ素や塩素系ガスやプラズマと反応して希土類のフッ化物が形成され、この希土類フッ化物が表面の耐蝕層となり、腐蝕の進行を防止する。この効果は、希土類の酸化物を用いても発生するが、窒化物がより腐蝕速度が遅くなる。この理由は定かではないが、酸化イットリウムYと腐蝕ガスであるCFでは、反応物としてYFの他にCOが発生するが、窒化イットリウムYNとCFでは、反応物としてYFの他にはCとNの化合物が発生すると思われ、このCとNの化合物の反応が発生しにくいためと考える。
【0027】
このプラズマ耐蝕性材料をプラズマ処理装置用部材として用いる方法としては、部材表面へのプラズマ耐蝕性材料の膜の形成や、焼結体を所望の形状に加工することで作製される。
【発明の効果】
【0028】
本発明のプラズマ耐蝕性材料は、構成する希土類窒化物がプラズマに対する耐蝕性が高く、また、希土類窒化物の欠点であった酸化に対しての抵抗が高いために、大気中での使用が可能である。そのため、このプラズマ耐蝕性材料をその表面に設けた部材を半導体等の製造における成膜装置、プラズマ処理装置(プラズマエッチング装置、プラズマクリーニング装置、アッシング装置)等プラズマを用いる装置に使用することができ、この部材を使用した成膜装置、プラズマ処理装置は、高い製品留まりで連続運転が可能である。
【実施例】
【0029】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
実施例1
市販の窒化イットリウム粉末に対して別々にZr、Cr、Al粉末を金属元素として5原子%添加し混合した粉末をそれぞれ作製した。この粉末を金型による成型後、ガス圧焼結にて窒素圧力0.9MPa、1700℃、2時間の焼結を行った。
【0031】
得られた焼結体に対してX線回折法による構成相の同定を行ったところ、それぞれYNとZr、Cr、Alであった。この焼結体を大気中に3日間放置し、3日後にX線回折法によって構成相を同定したところ、構成相はYNとZrO、Cr、Alであり、YNに変化は無かった。希土類窒化物の大気による酸化は発生していなかった。
【0032】
実施例2
市販の窒化イットリウム粉末に対してZr粉末を金属元素として5原子%添加し混合した粉末をNorthwest Mettech社製商品名「Axial III」溶射装置を用いて石英ガラス基材上に溶射を行った。
【0033】
溶射に用いた石英ガラス基板は、ブラストにより表面粗さRaを5μmとした後、5%フッ酸水溶液で2時間処理して表面粗さRaを8μmとしたものを使用した。
【0034】
このときの予熱、溶射条件としては、まず、常圧にて、溶射距離100mm、プラズマパワーを100kW、溶射ガスとしてArとNとHガス合わせて200SLM流し、粉末を供給することなく、基板の予熱を行った。次に、窒化イットリウムとZrの混合粉末を6g/分の供給量で流し、溶射ガンを400mm/秒の速度で移動させながら、5パス溶射を行った。溶射の際の溶射距離、プラズマパワー、溶射ガスの条件は予熱と同様である。
【0035】
この成膜した溶射膜の膜厚は100μmであり、X線回折法による構成相の解析では、YNとZrのピークが観察された。
【0036】
この溶射膜を大気中に3日間放置し、3日後にX線回折法によって構成相を同定したところ、構成相はYNとZrOであり、YNに変化は無かった。希土類窒化物の大気による酸化は発生していなかった。
【0037】
実施例3
実施例2で作成した溶射膜をアルバック社製プラズマエッチング装置商品名「NLD−800」にて、Ar−CFガスを用い、アンテナパワー1500W、バイアスパワー400Wによる160分間のエッチングを行った。エッチングされた深さを接触式段差測定器にて測定したところ、エッチング深さは、5.9μmであり、高い耐蝕性が確認された。
【0038】
比較例1
市販の窒化イットリウム粉末を金型による成型後、ガス圧焼結にて窒素圧力0.9MPa、1700℃、2時間の焼結を行った。
【0039】
得られた焼結体をX線回折法によって構成相を同定したところ、YNであった。この焼結体を大気中に3日間放置し、3日間後にX線回折法によって構成相を同定したところ、YNの他に多量のYの相が観察された。大気による酸化が発生していた。
【0040】
比較例2
酸化イットリウム粉末をエアロプラズマ社製プラズマ溶射装置、商品名「APS7050」にて、出力30kw、溶射ガスとしてAr-空気を使用した以外は実施例2と同様の条件で酸化イットリウム溶射膜を作成した。この溶射膜を実施例3と同様の条件でプラズマエッチング試験を実施したところ、エッチング深さは7.4μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】プラズマ溶射装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10:カソード
11:アノード
12:プラズマガス
13:溶射粉末(供給口)
14:コンバージェンス
15:溶射距離
16:基材
17:溶射膜
18:電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類窒化物からなるプラズマ耐蝕性材料であって、金属元素としてTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Au、Al、Ga、Inの中から少なくとも1種類の元素を金属元素の割合として0.1〜20原子%含有することを特徴とするプラズマ耐蝕性材料。
【請求項2】
表面の少なくとも一部が厚さ0.1μm〜1mmの希土類窒化物膜で被覆されてなるプラズマ耐蝕性部材であって、当該希土類窒化物膜が、金属元素としてTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Au、Al、Ga、Inの中から少なくとも1種類の元素を金属元素の割合として0.1〜20原子%含有することを特徴とするプラズマ耐蝕性部材。
【請求項3】
希土類窒化物膜が溶射膜であることを特徴とする請求項2に記載のプラズマ耐蝕性部材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−274342(P2008−274342A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118181(P2007−118181)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】