説明

ヘテロ接合型電界効果トランジスタ

【課題】リーク電流が少なくて高耐圧のヘテロ接合型電界効果トランジスタを提供する。
【解決手段】ヘテロ接合型電界効果トランジスタは、絶縁性基板上に順次積層されたAlNバッファ層、AlGaN組成傾斜層、GaNチャネル層、およびAlGaN障壁層を含み、AlGaN組成傾斜層はその下面から上面に向かってAl濃度が低減されており、AlGaN障壁層はAlGaN組成傾斜層の上面におけるAl濃度よりも15%以上大きなAl濃度を有しており、AlGaN組成傾斜層中において自発分極およびピエゾ効果によって得られる擬似的なp型シートキャリア濃度が3x1012cm−2以上4x1012cm−2以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2次元電子ガスを生じるヘテロ接合型電界効果トランジスタ(HFET)に関し、特に、絶縁性基板上に形成された複数の窒化物半導体層を含むHFETのリーク電流の低減と耐圧性の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GaN、AlGaNなどの窒化物半導体においては、バンドギャップが大きく、絶縁破壊電圧が高く、電子のドリフト速度が大きく、さらにヘテロ接合による2次元電子ガスを利用することができる。例えばアンドープGaN層上にAlGaN層を積層した場合に、自発分極とピエゾ分極との両作用によってヘテロ界面に2次電子ガスが生じる。そして、このような2次電子ガスをチャネルとして利用するHFETが知られている。このように窒化物半導体を利用したHFETは、大きな電流を制御するためのパワーデバイスに好ましく適用することができる。
【0003】
ところで、従来では、典型的な絶縁性基板であるサファイア基板上に作製したHFETにおいて、パンチスルー耐圧の向上とリーク電流の低減のためには、チャネル層の下方におけるバッファ層などの高抵抗化またはp型化が必要不可欠と考えられている(例えば、特許文献1の特開2005−85852号公報参照)。
【0004】
しかし、通常では、アンドープの窒化物半導体自身は、1015〜1016cm−3のキャリア濃度を有するn型半導体になっている。特に、サファイア基板上に結晶成長した窒化物半導体層は、一般的に比較的良好な結晶性を有することから、これを高抵抗化することが容易ではない。
【0005】
他方、高抵抗の窒化物半導体層を得るためには、MgやCなどのp型不純物をドーピングすることによってn型キャリアを補償する方法や、Feなどの深いエネルギ準位を形成する不純物をドーピングすることによってキャリアをトラップする方法が用いられている(例えば、特許文献2の特開2007−184379号公報参照)。なお、窒化物半導体層のp型化のためには、典型的にはMgのドーピングが有効であることが周知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−85852号公報
【特許文献2】特開2007−184379号公報
【特許文献3】特開2009−10142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、HFETにおいて、チャネル層下の窒化物半導体層に一般的なp型不純物をドープすることは、電流コラプス(HFETの動作中にドレイン電流が急激に低下する現象)の原因になると考えられている。例外的に、p型不純物としてCをドーピングするによってチャネル層下の窒化物半導体層を高抵抗化する場合のみにおいて、HFETが電流コラプスに関して大きな影響を受けないと考えられている。しかし、チャネル層下の窒化物半導体層においてさらなる転位密度の低減などによって結晶性がさらに向上した場合に、その窒化物半導体層のp型化または高抵抗化が容易でなくなるという問題が生じる可能性も残る。
【0008】
以上のような従来技術の状況に鑑みれば、HFETにおいてリーク電流を低減してパンチスルー耐圧を向上させなおかつ電流コラプスを低減するためには、チャネル層下の窒化物半導体層における不純物ドーピングによる高抵抗化またはp型化を可能な限り回避することが望まれる。
【0009】
そこで、本発明は、チャネル層下の窒化物半導体層を不純物ドーピングでp型化することなく、HFETのリーク電流の低減や耐電圧の向上などを可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意検討を重ねた結果、HFET中でチャネル層下の窒化物半導体層構造を最適化することによって、その窒化物半導体層構造が不純物ドーピングなしに擬似的にp型化することが可能になることが見出された。その擬似的なp型化の結果として、HFETにおけるリーク電流の低減による高耐圧化と電流コラプスの抑制が可能となる。
【0011】
すなわち、本発明によるヘテロ接合型電界効果トランジスタは、絶縁性基板上に順次積層されたAlNバッファ層、AlGaN組成傾斜層、GaNチャネル層、およびAlGaN障壁層を含み、AlGaN組成傾斜層はその下面から上面に向かってAl濃度が低減されており、AlGaN障壁層はAlGaN組成傾斜層の上面におけるAl濃度よりも15%以上大きなAl濃度を有しており、AlGaN組成傾斜層中において自発分極およびピエゾ効果によって得られる擬似的なp型シートキャリア濃度が3×1012cm−2以上4×1012cm−2以下であることを特徴としている。
【0012】
なお、AlGaN障壁層上にはソース電極、ゲート電極およびドレイン電極が配置され、AlGaN組成傾斜層とソース電極とが電気的に接続されていることが好ましい。また、絶縁性基板としては、サファイア基板またはノンドープSiC基板を好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、HFET中のGaNチャネル層下のAlGaN組成傾斜層が不純物のドーピングなしに擬似的にp型化され得て、HFETのリーク電流の低減による高耐圧化および電流コラプスの低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態によるHFETを示す模式的断面図である。
【図2】本発明のもう1つの実施形態によるHFETを示す模式的断面図である。
【図3】本発明によるHFETにおけるAlGaN組成傾斜層中の擬似的p型シートキャリア濃度とパンチスルー耐圧との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述のように、本発明によるヘテロ型電界効果トランジスタは、絶縁性基板上に順次積層されたAlNバッファ層、AlGaN組成傾斜層、GaNチャネル層、およびAlGaN障壁層を含み、AlGaN組成傾斜層はその下面から上面に向かってAl濃度が低減されており、AlGaN障壁層はAlGaN組成傾斜層の上面におけるAl濃度よりも15%以上大きなAl濃度を有しており、AlGaN組成傾斜層中において自発分極およびピエゾ効果によって得られる擬似的なp型シートキャリア濃度が3×1012cm−2以上4×1012cm−2以下であることを特徴としている。
【0016】
絶縁性の基板材料としては、サファイアやアンドープSiCなどのように可動キャリアを含まない基板が望ましい。すなわち、基板中の可動キャリアの存在は、その上の窒化物半導体層中の電界を補償するように作用するので、HFETの高耐圧化のためには望ましくない。
【0017】
AlGaN組成傾斜層は、AlGaN障壁層上に配置されたソース電極、ゲート電極およびドレイン電極のうちのソース電極に電気的に接続されていることが好ましい。すなわち、擬似的p型層であるAlGaN組成傾斜層がソース電極に接続されていない場合、HFETの動作がオフからオンに切り替わった時にその擬似的p型層中の過剰なホールが抜けにくく、チャネル層中の実効的2次元電子ガス濃度がns−ps(n型シートキャリア濃度−p型シートキャリア濃度)となってオン抵抗の増大を招く。したがって、擬似的p型層中のpsの値は、HFETの耐電圧を維持し得る限りにおいて、可能な限り小さな値とすることが好ましい。
【0018】
図3は、AlGaN組成傾斜層中の擬似的p型シートキャリア濃度とHFETのパンチスルー耐圧(ドレインリーク電流密度が1μA/mmになる電圧と定義)との関係を求めたシミュレーション結果を示すグラフである。すなわち、このグラフの横軸はAlGaN組成傾斜層中の擬似的p型シートキャリア濃度(×1012cm−2)を表し、縦軸はパンチスルー耐圧(V)を表している。
【0019】
図3のシミュレーション結果から分かるように、HFETのパンチスルー耐圧は擬似的なp型シートキャリア濃度(ps)の増加と共に増大し、ps=3×1012cm−2のシートキャリア濃度の場合に540Vの耐圧が得られ、ps=4×1012cm−2のシートキャリア濃度の場合に1200Vの耐圧が得られると計算される。
【0020】
上述のAlGaN組成傾斜層中の擬似的p型シートキャリア濃度(ps)を得るためには、その組成傾斜層の下面側と上面側とにおけるIII族元素中のAl原子組成比の差をΔx(下面側でAl原子組成比が大きい)としたときに、経験的に
ps=2.6×1013Δx〜4.8×1013Δx
で求めることが可能であり、
(1)ps=3×1012cm−2にする場合には、0.06≦Δx≦0.12
(2)ps=4×1012cm−2にする場合には、0.08≦Δx≦0.15
の範囲にΔxを設定すればよいと考えられる。
【0021】
なお、AlGaN組成傾斜層中で所定の擬似的p型シートキャリア濃度(ps)を得ることに関して、その組成傾斜層の厚さにおいて特定の制限が生じることはない。
【0022】
ところで、本発明におけるAlGaN組成傾斜層に類似したグレーデッドAlGaN層が、特許文献3の特開2009‐10142号公報においても開示されている。しかし、特許文献3におけるグレーデッドAlGaN層は、AlN層とGaN層との間の格子不整合による歪みを抑制するために設けられており、格子歪みの抑制に適したAl組成範囲を教示しているだけである。また、引用文献3においては、本発明によるAlGaN組成傾斜層中におけるような擬似的p型シートキャリア濃度について全く何らの教示も示唆も存在していない。
【0023】
すなわち、本発明では、AlGaN組成傾斜層中のAl濃度を変化させることによって擬似的p型シートキャリア濃度を所定の範囲内に限定して設定することによってパンチスルー耐圧を向上させており、特許文献3の発明が利用する格子歪み抑制の原理と異なる電子的原理によって発明の効果を得ている。また、特許文献3の場合には基板の如何に拘らずにAlN層とGaN層との間の格子歪みがグレーデッドAlGaN層によって抑制される効果が得られるが、本発明におけるAlGaN組成傾斜層では絶縁性基板が用いられた場合のみに効果が発揮され、導電性のSiCやSi基板を用いる場合にはその効果が発揮されない。
【0024】
また、本発明によるより好ましい態様のHFETにおいては、AlGaN組成傾斜層がソース電極に電気的に接続されている。これは、以下の理由による。すなわち、HFETを動作させる場合、オン/オフ動作時に正孔の流出/流入をスムーズに行なうためには、AlGaN組成傾斜層とソース電極とを電気的に接続することによって電気的なパスを設けることが望まれる。また、AlGaN組成傾斜層とソース電極とが電気的に接続されていない場合、HFETの動作条件によっては新たなコラプスの原因となる可能性がある。この観点からも、AlGaN組成傾斜層とソース電極とが電気的に接続されていることが好ましい。さらに、擬似的p型層がソース電極に接続されている場合、チャネル近傍から過剰なホールを迅速に抜き取ることができるので、HFETのオン抵抗の増大を生じることがない。
【0025】
他方、AlGaN組成傾斜層中のΔxを増大させて擬似的p型シートキャリア濃度(ps)を増大させれば、その結果として容量成分の増加によるスイッチング速度の低下とアバランシェ耐圧の低下を招くので、AlGaN組成傾斜層がソース電極と接続されている場合でもpsを高めるほど好ましいと言うわけではない。
【0026】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1によるHFETを模式的断面図で図解している。なお、本願の図面においては、長さ、厚さ、幅などの寸法関係は図面の明瞭化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。
【0027】
図1のHFETは、以下のようにして作製することができる。まず、MOCVD(有機金属気相堆積)装置の反応室内にサファイア基板1を導入し、基板温度1150℃にて流量3slmのアンモニアを用いて、基板1の表面窒化を行なう。
【0028】
次に、基板温度を550℃に下げて、流量54.2sccmのトリメチルアルミニウム(TMA)と流量3slmのアンモニアを反応室内に導入し、13.3kPaの圧力下で厚さ30nmのAlNバッファ層2を成長させる。
【0029】
引き続いて、基板温度を1150℃に昇温した後、反応室内圧力13.3kPaとアンモニア流量12.5slmを設定し、堆積時間20分の間にトリメチルガリウム(TMG)流量を57.9sccmから103.3sccmに変化させるとともに、TMA流量を60.2sccmから22.7sccmに変化させることによって、AlGaN組成傾斜層3を成長させる。このとき、成長する厚さ2μmのAlGaN組成傾斜層3の下面から上面までの間で、III族元素中のAl原子組成比が0.2から0.05まで変化させられる。
【0030】
さらに、基板温度1100℃と反応室内圧力100kPaの条件のもとで、流量13.0sccmのTMGと流量12.5slmのアンモニアを反応室内に導入し、AlGaN組成傾斜層3上に厚さ40nmのGaNチャネル層4を成長させる。
【0031】
最後に、基板温度1100℃と反応室内圧力100kPaの条件のもとで、流量9.1sccmのTMG、流量16.5sccmのTMA、および流量12.5slmのアンモニアを反応室内に導入し、厚さ20nmのAl0.3Ga0.7N障壁層5を成長させる。
【0032】
以上のようにして作製された窒化物半導体積層構造を含むウエハのAlGaN障壁層5上において、例えばHf/Al/Hf/Auの積層を真空蒸着またはスパッタリングなどで形成し、その後に800℃で1minのアニールを施すことによって、ソース電極6とドレイン電極7が形成される。このとき、Hf/Al/Hf/Auのそれぞれの厚さは、例えば13nm/85nm/13nm/60nmであり得る。同様に、AlGaN障壁層5上において、例えばWN/W/Auを真空蒸着またはスパッタリングなどで積層して、ゲート電極8が形成される。このとき、WN/W/Auのそれぞれの厚さは、例えば60nm/10nm/100nmであり得る。
【0033】
以上のようにして作製されたHFETにおいては、サファイア基板上に順次積層されたAlNバッファ層、厚さ2μmのGaNチャネル層、および厚さ20nmのAl0.25Ga0.75N障壁層を含む従来のHFETに比べて、リーク電流の低減、耐電圧の向上、および電流コラプスの低減の効果を得ることができる。
【0034】
なお、本実施例1では厚さ2μmのAlGaN組成傾斜層中のAl組成比が0.2〜0.05の範囲で変化させられたが、上述の式(1)で与えられるキャリア濃度を1×1016cm−3〜3×1016cm−3の範囲内で変化させ得る条件を満たす限りにおいて、Al組成比を任意の変化範囲に設定することができる。
【0035】
ただし、自発分極とピエゾ分極との両作用によってGaNチャネル層4内における最低限必要な2次元電子ガス濃度を得るためには、AlGaN障壁層5のAl組成比はAlGaN組成傾斜層の上面側のAl組成比よりも15%以上大きくする必要がある。
【0036】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2によるHFETを模式的断面図で図解している。実施形態2によるHFETの作製においては、実施形態1の場合と同様にして、サファイア基板1上にAlNバッファ層2、AlGaN組成傾斜層3、GaNチャネル層4、およびAlGaN障壁層5が順次積層される。
【0037】
しかしその後に、本実施形態2においては、AlGaN障壁層5とGaNチャネル層4の一部を塩素ガスによるエッチングで除去し、AlGaN組成傾斜層3の一部が露出される。
【0038】
そして、本実施形態2においても実施形態1の場合と同様にしてAlGaN障壁層5上にソース電極6、ドレイン電極7およびゲート電極8が形成されるが、本実施形態2ではさらにAlGaN組成傾斜層3の露出部上にp型用オーミック電極9が付加的に形成される。
【0039】
このp型用オーミック電極9は、例えばPd/Auを真空蒸着またはスパッタリングなどで積層し、その後に550℃で10minのアニールを施すことによって形成することができる。このとき、Pd/Auのそれぞれの厚さは、例えば10nm/100nmであり得る。そして、このように形成されたp型用オーミック電極9は、ソース電極6と電気的に接続される。
【0040】
本実施形態2によるHFETにおいては、実施形態1のHFETに比べて、リーク電流の低減に関しては大きな違いがないが、高電圧動作時または高速動作時における電流コラプスの低減に関してより改善が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明によれば、チャネル層下の窒化物半導体層を不純物ドーピングでp型化することなく、HFETのリーク電流の低減や耐電圧の向上などを可能にすることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 サファイア基板、2 AlNバッファ層、3 AlGaN組成傾斜層、4 GaNチャネル層、5 AlGaN障壁層、6 ソース電極、7 ドレイン電極、8 ゲート電極、9 p型用電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板上に順次積層されたAlNバッファ層、AlGaN組成傾斜層、GaNチャネル層、およびAlGaN障壁層を含み、
前記AlGaN組成傾斜層はその下面から上面に向かってAl濃度が低減されており、
前記AlGaN障壁層は前記AlGaN組成傾斜層の上面におけるAl濃度よりも15%以上大きなAl濃度を有しており、
前記AlGaN組成傾斜層中において自発分極およびピエゾ効果によって得られる擬似的なp型シートキャリア濃度が3x1012cm−2以上4x1012cm−2以下であることを特徴とするヘテロ接合型電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記AlGaN障壁層上にはソース電極、ゲート電極およびドレイン電極が配置されており、前記AlGaN組成傾斜層と前記ソース電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項1記載のヘテロ接合型電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記絶縁性基板がサファイア基板またはノンドープSiC基板であることを特徴とする請求項1または2に記載のヘテロ接合型電界効果トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−187643(P2011−187643A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50712(P2010−50712)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】