ベルト駆動制御装置及び画像形成装置
【課題】 本発明は変動の大きな用紙やクリーニングブレード等による負荷変動に対してもロバスト安定で高精度ベルト駆動が可能で、かつベルト寄りを制御できる。
【解決手段】 本発明のベルト駆動制御装置は、ベルト機構を駆動する第1の電動機と、所定の目標速度もしくは目標位置に応じて第1の電動機を制御する第1の制御部と、該第1の制御部からの出力に応じて第1の電動機を駆動する第1のドライバ部とを有する第1の制御系と、ベルト機構に第1の電動機とは異なる駆動力を伝達する第2の電動機と、第2の電動機を制御する第2の制御部と、該第2の制御部からの出力に応じて第2の電動機を駆動する第2のドライバ部と有する第2の制御系とを具備し、第2の制御部は、第2の電動機によるベルト駆動方向の所定目標速度もしくは目標位置に応じて第2の電動機を制御するベルト駆動補償部と、第2の電動機の定常トルクを調整するトルク駆動補償部と含んで構成する。
【解決手段】 本発明のベルト駆動制御装置は、ベルト機構を駆動する第1の電動機と、所定の目標速度もしくは目標位置に応じて第1の電動機を制御する第1の制御部と、該第1の制御部からの出力に応じて第1の電動機を駆動する第1のドライバ部とを有する第1の制御系と、ベルト機構に第1の電動機とは異なる駆動力を伝達する第2の電動機と、第2の電動機を制御する第2の制御部と、該第2の制御部からの出力に応じて第2の電動機を駆動する第2のドライバ部と有する第2の制御系とを具備し、第2の制御部は、第2の電動機によるベルト駆動方向の所定目標速度もしくは目標位置に応じて第2の電動機を制御するベルト駆動補償部と、第2の電動機の定常トルクを調整するトルク駆動補償部と含んで構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベルト駆動制御装置及び画像形成装置に関し、詳細には電子写真方式のプリンタや複写機の中間転写ベルト、電子写真方式のプリンタや複写機の熱定着ベルト、紙やテープの巻き取り装置に用いられるベルトに発生する蛇行や寄りを調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の回転体で支持されたベルトを駆動するベルト駆動装置では、一般的にベルトが駆動方向に搬送されるのが理想的であるが、駆動系を構成している回転体の傾き、ベルトにおける左右の張力差、無端ベルトであればベルト自身の両側周囲長の差、電子写真方式の中間転写ベルトや熱定着ベルトでは紙の突入などによる外部負荷の変動などにより、ベルトが蛇行したり、駆動方向とは異なる方向に寄ってしまう現象があることが知られている。
【0003】
このようなベルトの寄りの現象は、非特許文献1〜3において2軸で支持された無端ベルトについての解析が行われている。非特許文献1〜3では、従動ローラを面内傾斜させた場合と、面外傾斜させた場合のベルトの寄り現象(ベルトのスキュー)を有限要素解析と実験結果から説明している。しかし、画像形成装置等の複数のローラから構成された複雑な構造体のベルト寄り現象については、詳細な解析は未だなされていない。
【0004】
上記のようなベルト寄りを防止するための構成が従来よりいくつか提案されている。特許文献1や特許文献2には、ローラを面内傾斜もしくは面外傾斜させてベルトの蛇行を防止する方法が提案されている。また、特許文献3ではキャスティング機に展開して提案されている。更に、特許文献4では、ローラ端部に検知リングを取り付け、検知リングがベルトによって回転するとベルトを戻す力を発生させる機構を提案している。また、特許文献5や特許文献6では装置の回転体の形状やレイアウトを工夫することによってベルト寄りを防止することを提案している。簡単で安価な方法としては、特許文献7にあるように、ベルトの両端に寄り止めと呼ばれる段差を設けることが提案されている。
【0005】
ここでは、画像形成装置を例に、特許文献1〜3のローラを傾ける方法と特許文献7の寄り止めを設ける方法について図面を用いて説明する。
図14は4連タンデム方式のフルカラー画像形成装置における作像・転写機構部の構成を示す概略断面図である。同図に示すように、4連タンデム方式のフルカラー画像形成装置における作像・転写機構部では、感光体101上に静電像が形成され、トナーによって可視像となる。このトナー像は、感光体101と中間転写ベルト102の第1の転写部103にて中間転写ベルト102に転写される。中間転写ベルト102は駆動ローラ104及び2つの従動ローラ105によって保持・駆動される。そして、中間転写ベルト102に転写されたトナー像は、第2の転写部106にて用紙107に転写され、用紙上に画像を形成することになる。4連タンデム方式のフルカラー画像形成装置では、感光体101が4つあり、各感光体101では異なる色画像を形成している。この色画像が中間転写ベルト102上で重ね合わせられて、フルカラー画像を形成し、最終的に用紙107に転写されることになる。中間転写ベルト102上に各色の色画像の重ね合わせを行うときに、ベルトの寄り現象が発生すると、中間転写ベルト102が駆動方向とは異なる両側どちらかに移動する。その結果、4つの色の重ね合わせ位置が不定期にずれてしまうことになる。例えば、第1の感光体でのベルトへの転写位置から第4の感光体の転写位置まで300mmあったとして、0.1%(走行距離に対する寄り量の割合)のベルトの寄りがあったとすると、300μmの色ずれとなってしまい、画像品質上許されない値となってしまう。
【0006】
そこで、図15に示すように、中間転写ベルト102の両端部に段差の寄り止め部材108を形成し、これを駆動系において複数個のガイド付きローラ109を設け、このガイド付きローラ109と寄り止め部材108が接触することで、これ以上ベルトが寄らないよう制限する。
【0007】
また、図16に示すように、駆動系を構成するうちの1つのローラをステアリングローラ110とする。ステアリングローラ110は、中間転写ベルト102の進行方向に対して任意の角度で傾ける(面内傾斜させる)ことができ、中間転写ベルト102の寄り方向を制御できる。また、ベルト寄り検出手段111が中間転写ベルト102の寄り状態や寄り量を検出し、ステアリングローラ110を制御することでベルトの寄りを防止できる。
【非特許文献1】日本機械学会論文集(C編)66巻647号(2000-7)論文No.99-1427 P.2128-P.2134
【非特許文献2】日本機械学会論文集(C編)67巻658号(2001-6)論文No.00-0510 P.1749-P.1755
【非特許文献3】日本機械学会論文集(C編)70巻695号(2004-7)論文No.03-1151 P.2013-P.2020
【特許文献1】特許第2,788,683号明細書
【特許文献2】特許第3,082,452号明細書
【特許文献3】特許第3,649,487号明細書
【特許文献4】特開平11−208841号公報
【特許文献5】特許第3,419,513号明細書
【特許文献6】特許第3,720,765号明細書
【特許文献7】特開2006−119473号公報
【特許文献8】特開2006−001688号公報
【特許文献9】特開2006−042483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図15に示すように、特許文献7のような寄り止めと呼ばれる段差を使用した寄り防止機構によれば、簡単な構造で、かつ安価に構築できる利点があるものの、寄り止め部材の耐久性が問題となる場合がある。つまり、ベルト寄りを防止するために寄り止め部材が常時ガイド付きローラのガイド面に接している可能性があり、寄り止め部材が経時的に劣化してしまい、ベルト寄り防止の機能が低下したり、調整不良により寄り力が大きくなって寄り止め部材がガイド面を乗り上げてしまったりする可能性がある。このような点は画像形成装置の低速機ではあまり問題とならないが、高速機ではベルト速度が大きくなることからベルトに伝達される力も大きくなり、画像品質や耐久性から問題となる。
【0009】
また、図16に示すように、特許文献1〜3のような所定の回転軸を傾けることによるステアリングローラ方式では、上記の寄り止めにおける耐久性や性能の問題は解決できるが、ローラ自体を傾けるため複雑な機構が必要となる。特にローラの傾け角を常時制御する制御装置となると、一般的に回転アクチュエータによってリンク機構等を動かしてローラの傾け角を制御することとなり、部品点数も多く機構的に複雑で高価なものとなってしまう。更に、上記特許文献4で提案されている検知リングを使用する機構も構造的に複雑になり高価となってしまうと共に、機械的な寄り防止機構であるため、機械の特性だけで決まってしまい性能を向上させることは難しい。また、特許文献5や特許文献6のような回転軸の構造やレイアウトで寄りを防止する機構の場合、経時的な変化に対して弱く、また初期の調整が難しいという問題点がある。
【0010】
一方、特許文献8では、複数の電動機を使用して、駆動系に加わる負荷トルクを第2の電動機をトルク制御することによって負荷トルクを安定化させ、装置の安定性や性能を向上させる提案がなされている。また、特許文献9は、特許文献8の発明に加えて、新たな機能追加や効果を明確にするために装置構成を詳細に限定したものである。ところが、装置の高性能化を目指して線形で安定な領域で稼動させるために、0V近傍のモータドライバ特性や伝達系のバックラッシ等の電気系、機械系の非線形領域を回避する必要がある。一般に、テンショナー等の機構によってベルト機構の負荷変動(張力変動)には対応しているが、テンショナーでは、用紙の入出力のような速い応答には反応しきれない。そのため、ショックジターと呼ばれる画像不良が発生してしまう。また、テンショナーだけでは、電気系の非線形領域を回避するための詳細な調整は難しい。
【0011】
本発明はこれらの問題点を解決するためのものであり、変動の大きな用紙やクリーニングブレード等による負荷変動に対してもロバスト安定で高精度ベルト駆動が可能で、かつベルト寄りを制御できるベルト駆動制御装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記問題点を解決するために、本発明のベルト駆動制御装置は、ベルト機構を駆動する第1の電動機と、所定の目標速度もしくは目標位置に応じて第1の電動機を制御する第1の制御部と、該第1の制御部からの出力に応じて第1の電動機を駆動する第1のドライバ部とを有する第1の制御系と、ベルト機構に第1の電動機とは異なる駆動力を伝達する第2の電動機と、第2の電動機を制御する第2の制御部と、該第2の制御部からの出力に応じて第2の電動機を駆動する第2のドライバ部と有する第2の制御系とを具備している。そして、本発明のベルト駆動制御装置において、第2の制御部は、第2の電動機によるベルト駆動方向の所定目標速度もしくは目標位置に応じて第2の電動機を制御するベルト駆動補償部と、第2の電動機の定常トルクを調整するトルク駆動補償部と含んで構成することに特徴がある。よって、ベルト駆動方向の制御性能を向上させ、かつベルト駆動機構の非線形性をベルト寄りの定常的特性を調整可能となる。
【0013】
また、第2の制御部のベルト駆動補償部は、第1の制御部によって設定されるベルト駆動方向の応答周波数よりも、ベルト駆動方向の応答周波数が高くなるように設定する。よって、ベルト駆動制御システムに冗長性を持たせ、外乱抑圧効果を向上させることができ、ベルト駆動方向の制御性能が向上する。
【0014】
更に、第2の制御部のベルト駆動補償部は、所定の定常的な目標速度もしくは目標位置に対して0型となるように設定されることにより、2つの電動機の制御システムの干渉を防止し、よりベルト駆動方向の制御性能を向上させることができる。
【0015】
また、第2の制御部の出力に対して所定のフィルタを乗算するフィルタ乗算部と、フィルタ乗算部の出力を第1の制御部の入力に加算する加算部とを備えたことにより、第2の電動機の制御システムで生じる、ベルト駆動方向への悪影響を低減し、過渡特性を向上することができる。
【0016】
更に、第2の制御部のトルク駆動補償部は、ベルトの進行方向と直角となるベルト寄り方向の位置もしくは速度を検出するベルト寄り検出部の出力であるベルト寄り位置と目標ベルト寄り位置、もしくはベルト寄り速度と目標ベルト寄り速度を比較し、位置偏差もしくは速度偏差に対して、所定の演算を行いベルト寄り位置もしくはベルト寄り速度を制御するように第2の電動機のトルクを制御する。よって、第2の電動機の発生するトルクをベルト寄り位置もしくはベルト寄り速度に基づいて、制御することによって、ベルト駆動方向の性能の向上と、ベルト寄り制御を単純な構成で実現させたベルト駆動制御装置を提供できる。
【0017】
また、第2の制御部のトルク駆動補償部は、ベルト寄り方向の応答周波数が第1の制御部によって設定されるベルト駆動方向の応答周波数よりも十分に低くなるように設定されることにより、ベルト寄り制御がベルト駆動方向の制御に干渉しない構成を実現したベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0018】
更に、別の発明としての画像形成装置は、上記ベルト駆動制御装置を備えたことに特徴がある。よって、画像品質が向上する画像形成装置を提供できる。
【0019】
また、第1の電動機で中間転写ベルトを駆動する駆動ローラを駆動し、第2の電動機で中間転写ベルト上のトナー画像を用紙に転写する2次転写部にある2次転写ローラを駆動することにより、現状の画像形成装置の構成を大幅に変更することなく実現可能な画像形成装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のベルト駆動制御装置によれば、2つの電動機と制御部を備え、ベルト駆動方向の制御性能を向上させ、かつベルト駆動機構の非線形性をベルト寄りの定常的特性を調整可能となる機構を備えたベルト駆動制御装置を提供できる。これによって、機械系電気系の非線形性によって不安定化することなく、ベルト駆動制御装置の安定性を向上できる。また、第2の電動機の制御システムの応答周波数(制御帯域)を広げることによって、ベルト駆動制御システムに冗長性を持たせ、外乱抑圧効果を向上させる。これによってベルト駆動方向の制御性能(外乱抑圧性能)が向上したベルト駆動制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明のベルト駆動制御装置を適用するベルト駆動装置の構成を示す概略図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は側面図である。なお、3本のローラで支持された無端ベルトを駆動するベルト駆動装置に基づいて説明する。
【0022】
同図において、本発明のベルト駆動制御装置を適用するベルト駆動装置10における無端ベルト11は、駆動ローラ12、従動ローラ13,14の3本のローラで支持されている。駆動ローラ12には第1の電動機として駆動用のモータ15が取り付けられ無端ベルト11に駆動力を伝達し、無端ベルト11を所定の目標速度で駆動したり、所定の目標位置まで位置決めを行ったりする。従動ローラ13は無端ベルト11によってモータ15による駆動力が伝達され回転する。また、従動ローラ13には第2の電動機として駆動補正用のモータ16が取り付けられている。更に、従動ローラ14は、図示されていないが、バネで支持することによって、無端ベルト11に所定の張力を加えるテンションローラとして機能し、張力を調整することによって無端ベルト11と各ローラ間の滑りを抑えて効率良く駆動力を伝達することができる。また、テンションローラとしての従動ローラ14が機能することによって、無端ベルト11の駆動時の過渡的な動作時や無端ベルト11に外乱が加わったときの無端ベルト11の変動(伸縮)を吸収する。
【0023】
なお、図1において駆動補正用のモータ16は従動ローラ13に取り付けられているが、従動ローラ14に取り付けてもよい。また、モータ15,16は、ローラに直接取り付けられているように図示されているが、一般的には各ローラ端面を支持する側板に取り付けられ、継ぎ手等によって偏心や傾きや取り付け誤差等を吸収し、各ローラと連結されている。更に、駆動ローラ12とモータ15との間、また従動ローラ13とモータ16との間には、ギアやタイミングベルト等も減速機構を有する場合もある。
【0024】
また、ベルト駆動系を構成する駆動用のモータ15は、所定の目標速度や目標位置に対して、ベルトを正確に駆動できるモータであれば良く、サーボモータでもステッピングモータで良い。一般的に制御性が良いとされ、フィードバック制御に使用されるDCモータやDCブラシレスモータ、ACモータが図1の駆動補正用のモータ16に使用される。モータ15,16のモータトルクは、モータ電流に比例するため、モータドライバとして電流制御ドライバを使用し、任意の電流で駆動することによって、任意のトルク負荷をベルト駆動制御装置に与えることができる。モータ駆動電流とモータトルクの関係を示す図2からわかるように、線の傾きがモータのパラメータであるトルク定数(Nm/A)である。
【0025】
ここで、電流制御ドライバとは、モータ電流を検出し、フィードバックし目標電流値と比較した後、PI等の所定のフィルタ演算した後、モータ電圧を設定するものである。演算部はデジタルやアナログがあるが、電流ループは高い応答周波数を確保する必要があるため、高速演算が必要となる。駆動方式はリニア駆動でもスイッチング駆動(PWM駆動)でも良いが、高精度な制御が要求される場合は、駆動効率が落ちるがリニア駆動が良い。
【0026】
図3は本発明の第1の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。同図に示す本実施の形態のベルト駆動制御装置は、サーボモータを使用した場合のベルトを駆動方向に制御を行うベルト駆動制御系20と、ベルト駆動制御系20の補正と負荷を制御する駆動補正制御系30とを含んで構成されている。ここでは、速度制御系を例として説明する。なお、位置制御系の場合も基本的構成は同じであり、フィードバックされる検出値と、補償器の構成が変わるだけである。
【0027】
そして、ベルト駆動制御系20では、目標ベルト速度設定部21によって設定された第1の目標ベルト速度と、フィードバックされる駆動軸速度とが比較器22で比較されて速度偏差が算出される。算出された速度偏差はベルト駆動補償部23に入力され、制御系が安定化するような所定のフィルタ演算が実行される。その演算結果である電圧指令値がモータドライバ24に供給される。モータドライバ24は電圧指令値に応じた電圧を駆動用モータ25に流して図1の駆動ローラ12を駆動しベルト機構26を駆動する。ここでは、モータドライバ24を電圧制御ドライバとしたが、任意のモータ電流を流すことができる電流制御ドライバでも良い。
【0028】
一方、駆動補正制御系30では、目標ベルト速度設定部31によって設定された第2の目標ベルト速度と、フィードバックされる従動軸速度とが比較器32で比較されて速度偏差が算出される。算出された速度偏差はベルト駆動補償部33に入力され制御系が安定化するような所定のフィルタ演算が実行される。加えて、駆動系に加わる負荷トルクを設定する目標負荷トルク設定部34によって設定された目標負荷トルクは、トルク/電流変換部35によって、トルク相当の電流指令値に変換される。変換された電流指令値とベルト駆動補償部33の出力は加算器36によって加算され、操作量である電流指令値として電流制御ドライバ37に供給される。電流制御ドライバ37は操作量に応じた電流を駆動補正モータ38に流して図1の従動ローラ13を駆動しベルト機構26を駆動する。このように、第2の目標ベルト速度を制御するパスがベルト駆動補償部で、目標負荷トルクを制御するパスがトルク補償部である。
【0029】
なお、第1の制御部として、駆動軸速度をフィードバックする構成としたが、従動軸速度やベルト表面速度や、ベルト速度を検出するための回転体からの速度やモータ軸からの速度信号でも良い。また、複数のセンサを用いた多重フィードバックループで構成されていても良い。第2の制御部のベルト駆動補償部のフィードバックも第1の制御部と同様に従動軸速度以外で検出される速度でも良い。また、速度信号はエンコーダ信号の差分をとったり、エンコーダパルスの間隔を基準クロックでカウントしたり、回転軸に取り付けられたタコジェネレータ等で検出することで取得可能である。更に、第2の制御部のトルク補償部では、目標負荷トルクを設定する説明であるが、負荷トルク相当の目標電流値を設定する構成で良い。また、目標負荷トルクは、大きすぎるとエネルギ効率が悪くなるため、機械系、電気系の非線形特性を回避できる範囲で小さな値を設定する。また、クリーニングブレード等のON/OFFのように負荷変動が既知である場合、既知の負荷変動に合わせて目標負荷トルクを変化させても良い。
【0030】
次に、負荷トルクを変化させることによってベルト寄りを調整することについて概説する。
図4は負荷トルクとベルト寄り速度の関係を示す特性図である。同図に示すように、ベルト寄り速度0近傍において負荷トルクとベルト寄り速度は線形関係にあるものとして考える。図5が実際の装置で測定した結果であり、ベルト寄り速度0mm/s近傍で負荷トルクとベルト寄り速度が比例することがわかる。負荷トルクをBIAS分(ゼロクロスとなる負荷トルク)に対して正負することによって、ベルト寄り速度を正負に振ることが可能となる。図4及び図5のようなベルト寄り速度と負荷トルクの関係を得るには、所定の機構の設定が必要となる。
【0031】
次に、ベルト寄り速度の初期状態の設定方法について図6を用いて説明する。図6はテンションローラの水平面内傾斜(面内傾斜)と垂直面内傾斜(面外傾斜)を変化させ、負荷トルクをかけたときに発生するベルト寄り速度の方向とゲイン(寄り易さ)を示す。図1に示すよう無端ベルトを支持する複数のローラのうちの1つで調整するものとする。ここでは、図1のテンションローラ14で調整するものとする。
【0032】
先ず、ローラを面内傾斜させて、図3の駆動補正用モータ38が発生する負荷トルク0のときのベルト寄り方向と速度を調整する。0点は設計上の平行度0の点であり、0’点は調整上寄り速度が0となる点である。図6では平行度(面内傾斜)を正にしていくと、平行度とほぼ比例して寄り速度は負方向に変化する。平行度を正にしていくと、同様に寄り速度は正方向に変化する。次に、ローラを面外傾斜させて、上記発生したベルト寄り速度を打ち消して、ベルトの寄り方向が反転するようにベルト寄り速度を設定する。図6では垂直傾斜(面外傾斜)を正にしていくと、寄り速度を正方向に変化させようとするため、上記で設定したベルト寄り速度を打ち消すように働く。初期状態で、寄り速度が正となるように垂直傾斜を設定する。上記のように設定されたベルト駆動装置において、図1の従動ローラ13に取り付けられた駆動補正用のモータ16で負荷トルクを大きくしていくと、上記の設定で設定した垂直傾斜の設定の効果が小さくなるように働き、ベルト寄り速度は、正方向からゼロクロスし、負方向へと変化する。このように負荷トルクを大きくしていくことによって、ベルトとローラの接触状態が変化し、垂直方向の設定の効果が低下する方向に、ローラに対するベルト進入角度が変化していくために、ベルト寄りが変化するものと考えている。
【0033】
このように負荷トルクによってベルト寄り速度を調整できることから、図3に示す目標負荷トルク設定部34で負荷トルクを調整することによって、定常的なベルトの寄り速度を調整することが可能となる。
【0034】
ここで、図3の駆動補正制御系30(第2の制御部)内でベルト駆動補償部33によって補償されるベルト駆動補償部の応答周波数を、ベルト駆動補償部23によって補償されるベルト駆動制御系20(第1の制御部)の応答周波数を高く設定する。
【0035】
具体的な例として、古典的な設計方法である一巡伝達特性で説明する。図7は従動軸速度をフィードバックする構成の一巡伝達特性を示す特性図である。図中で0dBと交差する周波数(図7中破線で囲むA部分)のように、図3の駆動補正制御系30(第2の制御部)の交差周波数をベルト駆動制御系20(第1の制御部)の交差周波数よりも高く設定することによって実現できる。これによって、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)のみを備えたベルト駆動制御装置では抑えきれなかった、速い周波数成分を含む応答を駆動補正制御系30(第2の制御部)によって、抑圧することが可能となる。例えば、画像形成装置では、用紙突入による急峻な負荷変動が、中間転写ベルト上にトナー画像を描く領域に悪影響を及ぼし、ショックジターと呼ばれる画像不良を発生させる。通常はベルト駆動制御系20(第1の制御部)のみで前記負荷変動を抑圧しようとするが、抑えきれてない。そこで、応答周波数の高い駆動補正制御系30(第2の制御部)を備えることによって、まず、速い応答を駆動補正制御系30(第2の制御部)で補償し、遅れてベルト駆動制御系20(第1の制御部)で補償を行う。これによって、従来よりも負荷変動を抑圧する性能が向上し、画像不良も低減できる。急峻な負荷変動は用紙突入だけでなく、クリーニングブレードのON/OFF等いろいろな原因が考えられる。
【0036】
ベルト駆動制御系20(第1の制御部)と駆動補正制御系30(第2の制御部)どちらも定常的な速度偏差や位置偏差がなくなるように1型の制御系としてしまうと、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)からなる制御系と駆動補正制御系30(第2の制御部)からなる制御系の間に干渉が発生し、駆動系に大きな負荷がかかってしまったり、ベルトに大きな張りと緩みが発生したり、ベルトとローラ間ですべりが発生してしまったりする可能性がある。上記のような制御系の干渉を抑えるために、どちらか一方の制御系に定常偏差を許容し、従動的な動作となるようにする。ここでは、駆動補正制御系30(第2の制御部)内で図3のベルト駆動補償部33によって補償されるベルト駆動補償部を0型の制御系となるようにする。図7に示される速度制御系の一巡伝達関数の破線で囲むB部分のように、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)では低域において積分特性を持たせてゲインを大きくしている。位相をみても積分特性によって遅れている事がわかる。一方、駆動補正制御系30(第2の制御部)では、低域に積分特性を持たせていないため、低域では−20dB/decのゲインの傾きと、−90degの位相となっている。これによって、駆動補正制御系30(第2の制御部)は過渡状態では、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)よりも速く動き、定常状態では、定常速度偏差を持つが、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)に対して従動的に動くことができる。上記のように、応答周波数が高い領域は駆動補正制御系30(第2の制御部)、低い領域はベルト駆動制御系20(第1の制御部)と帯域分離することによって、ベルト駆動制御系の性能を向上できる。
【0037】
上記では、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)と駆動補正制御系30(第2の制御部)と帯域分離し、かつ、干渉を抑える方法を提案した。これに加えて、急峻な負荷変動を抑圧する性能をより向上させるために、駆動補正制御系30(第2の制御部)内でベルト駆動補償部33によって補償される値を、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)に加算する。これによって、急峻な負荷変動にベルト駆動制御系20(第1の制御部)も応答できる。しかし、そのまま加算すると不具合がでてしまうため、所定のフィルタ演算を行って加算を行う。
【0038】
図8は本発明の第2の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。同図において、図3と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。ベルト駆動制御系20では、目標ベルト速度設定部21によって設定された目標ベルト速度とフィードバックされる駆動軸速度が比較器22で比較され、速度偏差が算出される。算出された速度偏差はベルト駆動補償部23に入力され、制御系が安定化するような所定のフィルタ演算が実行されて演算結果である電流指令値が出力され、電流制御ドライバ28に供給される。電流制御ドライバ28は電流指令値に応じた電流を駆動用モータ25に流して図1の駆動ローラ12を駆動しベルト機構26を駆動する。
【0039】
一方、駆動補正制御系30では、目標負荷トルク設定部34によって設定された目標負荷トルク相当の電流指令値とベルト駆動補償部33の出力である電流指令値が加算器36によって加算され、電流制御ドライバ37に入力され、電流制御ドライバ37は駆動補正用モータ38を駆動し、ベルト機構26を駆動する。ベルト機構26の従動軸速度は比較器32にフィードバックされる。そして、駆動補正制御系30の電流制御ドライバ37への入力である電流指令値に対し、バンドパスフィルタ39で演算を行い、所定の帯域制限を行った電流指令値を、加算器27においてベルト駆動制御系20のベルト駆動補償器23の出力である電流指令値に加算して電流制御ドライバ28に供給し、駆動用モータ25を駆動する。一般的に、バンドパスフィルタ39の上限の通過周波数は、駆動補正制御系30の応答周波数よりも低く設定する。あまり高く取りすぎるとノイズの影響や機械共振の影響が出やすくなってしまう。また、下限の通過周波数は、目標負荷トルク設定部34によって設定された目標負荷トルクの変動がフィルタ出力に出ないように設定する。目標負荷トルクが0である場合は、バンドパスフィルタ39はローパスフィルタとしても良い。また、バンドパスフィルタ39の出力は、ベルト駆動制御系20の駆動用モータ25のトルク定数Kt1と、駆動補正制御系30の駆動補正用モータ38のトルク定数Kt2の違いや減速比の違いを考慮して、駆動補正制御系30がベルト機構26に与えるトルクT2が伝達されるように、変換係数が乗算された電流指令値となる。簡単化のためそれぞれの減速比は1として、バンドパスフィルタの演算を表すと、下記の(1)式となる。
【0040】
I2^=(I2×Kt2/Kt1)×BPF(s) (1)
I2^:バンドパスフィルタ出力の第2の制御部の電流指令値
I2:第2の制御部の電流制御ドライバに入る電流指令値
Kt1:第1の制御部のモータトルク定数
Kt2:第2の制御部のモータトルク定数
BPF(s):バンドパスフィルタの伝達関数
【0041】
図3及び図8に示したベルト駆動制御装置は、2つの制御システムによる冗長システムで応答周波数を広げ、かつ定常的な負荷トルクを第2の制御部で与えられる構成であった。これによって、外乱抑圧性能の向上と、機械系電気系が持つ非線形領域を回避することが可能となったり、定常的なベルト寄りを補正したりすることが可能となる。
【0042】
次に、図9は本発明の第3の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。同図に示す本実施の形態のベルト駆動制御装置は、図8に示す第2の実施の形態のベルト駆動制御装置にアクティブにベルト寄りを制御する機構を加えたものである。図9に示すように、駆動補正制御系30には、ベルト寄り補償部42が付加されている。以下では図8の差異部分について説明する。ここでは、ベルト寄り補償部42はベルトの寄り位置を制御するものとする。要求仕様によってはベルト寄り速度を制御する制御系構成でも良い。ベルト機構26には、ベルトの寄り方向の位置を検出するベルト寄り位置を検出するセンサが取り付けられているものとする。ここでは、ベルトの寄り位置を検出するセンサとしたが、速度を検出するセンサでも良い。検出されたベルト寄り位置は比較器41にフィードバックされ、目標ベルト寄り位置設定部40によって設定された目標ベルト寄り位置と比較されて位置偏差が出力される。ベルト寄り位置の位置偏差はベルト寄り補償部42に入力され、ベルト寄り補償部42は位置偏差に応じた電流指令値を加算器36に出力する。加算器36において、ベルト駆動補償部側のベルト駆動補償部33の出力である電流指令値と加算され、電流制御ドライバ37に入力される。電流制御ドライバ37は、電流指令値に応じて駆動補正用モータ38を駆動し、ベルト機構26を制御し、ベルト駆動の補正とベルト寄りの制御を実現する。ベルト寄り補償部42は、図4及び図5で示される負荷トルクとベルト寄り速度が線形と近似できる特性を利用して設計される。
【0043】
また、ベルト寄り位置はベルトの端面の形状やセンシング用のマーカー等の形状から周期的な変動が重畳されるため、一般的にはフィルタ処理等によってベルト寄り位置のみが抽出される。そのため、フィルタ処理による遅れが大きく、フィードバック制御による速い応答は不可能である。更に、ベルト寄りそのものの応答も非常に遅く、つまり時定数が大きく、速い応答の性能は要求されない。そのため、次のような考え方で、動作帯域を分離することによって、図9に示す制御系は設計できる。
【0044】
極低周波数:駆動補正制御系(第2の制御部)のベルト寄り補償部による応答周波数
中低周波数:ベルト駆動制御系(第1の制御部)の応答周波数
高域周波数:駆動補正制御系(第2の制御部)のベルト駆動補償部による応答周波数
よって、(駆動補正制御系(第2の制御部)のベルト寄り補償部による応答周波数)≪(ベルト駆動制御系(第1の制御部)の応答周波数)<(駆動補正制御系(第2の制御部)のベルト駆動補償部による応答周波数)となる。
【0045】
なお、複数の回転体に支持されて駆動される無端ベルトには、電子写真方式のプリンタや複写機の中間転写ベルト、感光体ベルト、用紙搬送ベルト、熱定着ベルトや、インクジェット方式のプリンタや複写機の用紙搬送ベルト等、多々ある。これらは、画像品質向上のために高精度に所定速度で駆動される要求がある。ここでは、電子写真方式のプリンタや複写機において、トナー画像を複数回重ね合わせるために使用されている中間転写ベルト駆動機構を例として説明する。
【0046】
例えば、一般的に使用されている4色(シアン、マジェンタ、イエロー、ブラック)のトナーを使用する電子写真方式のプリンタや複写機の中間転写ベルトにおいて、中間転写ベルトの表面速度に速度変動が生じてしまうと、4色のドナー画像の重ね合わせ位置がずれてしまったり、トナー画像が伸び縮みしてしまったりする。これによって、色ずれや色の濃淡等の画像の不具合が生じてしまう。そのため、従来のモノクロ機以上の送り速度の精度が要求されるようになってきた。
【0047】
ここで、中間転写ベルトの表面速度を変化させる原因として、摩擦負荷、回転体の偏心や負荷変動、中間転写ベルトの厚み変動、ロータリエンコーダの取り付け偏心、減速機構の取り付け偏心や負荷変動、モータの回転ムラ、用紙突入やクラッチのON/OFFによるトルク変動等が考えられる。これらを外乱と考えると、摩擦負荷は定常的もしくは非常に低い周波数成分であるためフィードバック制御を行うことによって抑圧しやすい。中間転写ベルトの厚み変動も他の回転体と比較して低い周波数成分であるため、直接ベルト表面速度が検出できれば、これを使用したフィードバック制御を行うことにより抑圧できる。一方、回転体の変動成分の中でも減速機構の偏心やモータの回転ムラは、回転体と中間転写ベルトの剛性や駆動軸と減速機構の連結部の剛性によって生じる機械共振周波数(以下中間転写ベルト機構の機械共振周波数)に近い周波数となってしまう。そのため、単純にベルト表面速度をフィードバックする制御系を構築しただけでは、中間転写ベルト機構の機械共振周波数以下の応答周波数の制御系となり、ゲイン不足により外乱を抑圧できず、所望の要求仕様を達成できない。
【0048】
そこで、駆動軸にロータリエンコーダを取り付けると、制御系に影響のある機械共振周波数は、モータの慣性モーメントと中間転写ベルト機構の慣性モーメントと減速機構の剛性によって生じるもの(以下、駆動軸の機械共振周波数)となり、中間転写ベルト機構の機械共振周波数よりも高い機械共振周波数となる(例えば、50Hzに対して200Hz)。駆動軸のロータリエンコーダの値をフィードバックし、減速機構の偏心やモータの回転ムラによって生じる変動成分よりも高く応答周波数を設定できれば、駆動軸のロータリエンコーダよりも前段で発生する変動成分を抑圧できる。
【0049】
加えて、ベルト表面の速度を検出するためにベルト上にエンコーダパターンを取り付け、ベルト表面速度をフィードバックする制御系を構築すると、前記駆動軸のロータリエンコーダ以降で発生する比較的低い周波数の変動成分を抑圧できる。よって、駆動軸等の回転体の偏心や負荷変動、中間転写ベルトの厚み変動、ロータリエンコーダの取り付け偏心等の変動成分を抑圧できる。
【0050】
なお、ベルト表面のエンコーダパターンに代えて、従動軸等に副エンコーダを取り付けて速度をフィードバックする制御系を構築しても良い。これにより、前記駆動軸のロータリエンコーダ以降で発生する比較的低い周波数の変動成分を抑圧できる。この場合、機構だけでは中間転写ベルトの厚み変動は抑圧できないが、構成によっては、駆動軸等の回転体の偏心や負荷変動、ロータリエンコーダの取り付け偏心等の変動成分を抑圧できる。ベルト厚み変動に関しても、所定の信号処理によって抽出可能である。
【0051】
以上の考え方に基づいたベルト駆動制御機構が、図10に示す画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構である。これは、複数(例えば、シアン、マジェンタ、イエロー、ブラック用)の感光体を備え、1回の工程で複数個の画像を中間転写ベルト上に重ね合わせる電子写真方式の画像形成装置である。
【0052】
図10の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構について説明する。ベルト駆動用モータ51の回転は、モータ軸に切られた歯車52と減速歯車53で構成された減速機構によって減速される。なお、入力側の歯車はモータ軸に取り付けられた構成でも良く、2つの歯車からなる減速機構であるが複数の歯車からなる構成や遊星歯車機構でも良い。そして、減速機構の出力軸にはロータリエンコーダのコードホイール54が取り付けられており、コードホイール54のスリットをエンコーダセンサ55が読み取る。エンコーダセンサ55からコードホイールの動きに応じて2値化信号が出力される。なお、エンコーダセンサ55の出力は、90度位相の異なる2相の2値化信号でも、単相アナログ信号、2相アナログ信号でも良い。
【0053】
本発明の画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構では、単一方向にしか駆動されない構成であるため、正転、逆転の制御を行う必要がないため、必ずしも2相出力は必要とならないが、等速性能と停止性能が要求されるような装置(例えば、1つの感光体を使用して、複数回の工程で画像を形成する画像形成装置)では、2相出力が必要となる場合がある。減速機構の出力軸は、駆動ローラ56を駆動する。減速機構の出力軸と駆動ローラ56は、一体で構成されていても良いが、整備性を考えて継ぎ手機構等で連結されていても良い。駆動ローラ56はエンドレス状の中間転写ベルト57を駆動する。中間転写ベルト57は、複数の従動ローラ58、59、60に支持されている。例えば、従動ローラ59はベルトの張力調整機構が付いたり、従動ローラ60は中間転写ベルト57上に作像された画像を用紙に転写する転写軸の機能を併せ持っている。中間転写ベルト57の表面もしくは裏面にはエンコーダパターン61が刻まれており、このエンコーダパターン61をベルトエンコーダセンサ62で読み取ることによって、ベルト表面速度を検出する。図10では従動ローラ58と従動ローラ59の間にベルトエンコーダセンサ62を設置しているが、ベルト表面速度を正しく測定するために、平坦な部分であれば良い。例えば、駆動ローラ56と従動ローラ58の間や、駆動ローラ56と従動ローラ60の間でも良い。また、回転軸上にベルトエンコーダセンサをレイアウトしてしまうと、軸の曲率の影響が出てしまい、ベルトの製造上の厚み変動や環境変化による変動によって、エンコーダパターン61の間隔が変化してしまい、正しいベルト表面速度ではなくなってしまうために、避ける必要がある。エンコーダパターン61はシート状のエンコーダパターンを貼り付けたり、ベルト上に直接パターン加工したり、中間転写ベルトの製造工程で一体加工したりと、製作方法はどのような方法でも良い。ここでは、ベルトエンコーダセンサ62は等間隔のスリットを備えた反射式の光学センサを想定しているが、エンコーダパターン61からベルト表面位置を正確に検出できるセンサであれば良く、例えばCCDカメラ等を使用し、画像処理によって表面位置を検出するものでも良い。また、ドップラー方式やベルト表面の凹凸から画像処理によって表面位置を検出できるセンサ方式であれば、エンコーダパターン61を無くすことも可能となる。
【0054】
そして、ロータリエンコーダのエンコーダセンサ55の出力及びベルトエンコーダセンサ62の出力は、駆動制御装置63に入力され、それぞれの信号を使用して駆動軸速度、ベルト表面速度が演算され、所定の制御演算が行われ、制御演算結果である指令値はモータドライバに渡され、モータドライバは指令値に応じてモータ51を駆動する。このモータ51はブラシ付きモータでもブラシレスモータでも良いが、モータの形式に応じてモータドライバの駆動回路も変わってくる。また、モータドライバは電圧制御方式でも電流制御方式でも良い。電流制御方式のドライバであれば、経時変化や環境変化に対してロバストとなる。ドライバへの指令値は、アナログ値、デジタル値、PWM等、何でも良く、指令値に対して比例した出力の出せるモータドライバであれば良い。モータドライバはPWM駆動でもリニア駆動でも良い。制御演算は、アナログ、デジタルのどちらでも良いが、現在では、CPUやDSP等のデジタル演算器が一般的であり、制御演算はソフトウェアで記述される。単純な制御演算や動作ロジックであって、パラメータ変更が無いのであればハードウェアロジックで制御演算を行わせても良い。
【0055】
上記の構成では、周期的な負荷変動を抑圧して、中間転写ベルトを高精度に駆動することは可能である。しかし、ベルト上エンコーダパターンをフィードバックする外側の制御ループの応答周波数が低いため、用紙突入やクラッチのON/OFFによる急峻なトルク変動に対して弱く、ショックジターと呼ばれる画像不良が発生してしまう。
【0056】
そこで、従動ローラの1つに駆動補正用モータを取り付けて、図3、図8及び図9に示した制御系を構築し、画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構の応答周波数を向上させる。加えて、定常負荷を掛けることによって、機械系電気系の非線形領域を避けた駆動が可能となり、制御系の安定性を図ることができたり、初期状態のベルト寄りを調整したりすることができる。加えて、負荷によるベルト寄り制御系を構築すれば、ベルト寄りもアクティブに制御できる。
【0057】
図10では、中間転写ベルト57上に描かれたトナー画像を用紙64に転写する2次転写ローラ65の軸に駆動補正用モータ66を取り付けた例である。従動ローラ60は2次転写ローラ65の対向ローラであり、2次転写ローラ65と対向ローラの従動ローラ60の間には所定の圧力が加わるようになっている。図10では2次転写ローラ65は駆動補正用モータ66で直接駆動されるように描かれているが、減速機構が入っても良い。また、2次転写ローラ65ではなく、対向ローラの従動ローラ60を駆動しても良い。駆動補正用モータ66によって駆動されるローラは、負荷トルク外乱が入る部分に近いほうが外乱抑圧の制御性能を良くできる。そのため、クリーニング機構が取り付けられた軸を駆動しても良い。図10では、用紙64が2次転写ローラ65に入った時及び出た時に急峻な負荷トルクの変動が発生する。それを、駆動補正用モータ軸上に取り付けられたロータリエンコーダ(不図示)、または2次転写ローラ軸や対向ローラ軸と同軸上に取り付けられたロータリエンコーダで速度変動として検出する。駆動補正制御装置67では、ロータリエンコーダのパルス間隔から速度が算出され、目標ベルト速度とフィードバックされた速度が比較され、速度偏差に所定の補償演算が行われ、電流指令値が出力される。これに定常負荷トルク用の電流指令値もしくはベルト寄り制御用の電流指令値が加算され電流制御ドライバに入力され、駆動補正用モータ66は駆動される。図8や図9で示すように急峻な負荷トルクが入ったときの応答をより改善するために、電流制御ドライバに渡される電流指令値に所定のフィルタ演算を行い、駆動制御装置63に渡される。駆動制御装置63では、駆動補正制御装置67からのフィルタ演算後の電流指令値を、駆動制御装置63側の電流指令値に加算し、ベルト駆動用モータ51を駆動する。駆動補正制御装置67から駆動制御装置63に渡される電流指令値は使用されるモータのトルク定数と減速比を考慮して、中間転写ベルト57に対して同じトルクを発生できる電流指令値に変換する必要がある。なお、駆動補正制御装置67のフィードバックはロータリエンコーダとしているが、ベルト表面の動きを検出できるエンコーダパターン61とベルトエンコーダセンサ62からの信号でも良い。
【0058】
図10に示す画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構には、図示されていないが、ベルトの寄り位置を検出するセンサを取り付け、図9の第3の実施の形態のベルト駆動制御装置を構成することによって、同時にアクティブなベルト寄り制御も可能となる。この構成では、一般的なベルト寄り制御に使用されるステアリングローラと呼ばれるベルト寄り制御専用のローラや、ローラ軸の傾け機構等の複雑な機構が不要となる。
【0059】
また、図10に示す画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構における機械的非線形要素には、減速機構等に使用される歯車やカップリング等で発生するバックラッシュや、締結部や軸や歯車の歯等で発生する微小領域のねじれ等がある。電気的非線形要素には、モータドライバにおける0V近傍の電圧の不連続性等がある。これらは、機構の負荷が0近傍となる領域で現れる現象である(負荷の正負関係無い)。そこで、本発明のように、定常的に所定負荷を与えることによって、これら非線形要素の領域を回避して高精度に装置を駆動することが可能となる。また、機械系電気系および環境が安定しており、電圧と電流の関係が既知で変動が小さい条件である場合は、定常負荷トルク用の電流指令値もしくはベルト寄り制御用の電流指令値に代えて、電圧指令値とし、駆動補正制御装置67は、電流制御ドライバに代えて電圧制御ドライバを使用することもできる。
【0060】
次に、本発明のベルト駆動制御装置を実現するためのシステム構成について図11を用いて説明をする。ここではホストCPU71の命令をホストインタフェース72を介してDSP73が受けて、DSP73によってベルト駆動制御系(第1の制御部)と駆動補正制御系(第2の制御部)を行うものとする。DSP73の内部バス74には、制御プログラムが記憶されているROM75や制御プログラムを実行させたり、一時的に値を蓄えるRAM76が接続されている。また、ADC77にはベルト寄り位置検出部やベルト寄り速度検出部等のセンサ78が接続され、検出された検出値のアナログ信号をデジタル変換し、内部バス74を介してDSP73に入力される。DSP73で所定の補償器によって制御演算された結果は、DAC79によってデジタル−アナログ変換され、電流ドライバ80へアナログ値で電流指令値として入力される。ここでは、センサ入力をアナログで扱っているがデジタルIOやDSP73のメモリ空間にセンサを配置したり、シリアル通信等によって直接デジタル信号として取得してもよい。また、補償器演算の結果をDAC79でアナログ出力しているが、PWMやDSP73のメモリ空間にデジタル入力のドライバを配置したり、シリアル通信等によって直接デジタル信号として出力してもよい。また、演算器をDSPとしているが、マイコンやCPUとしてもよい。簡単な補償演算であればアナログ回路でもよい。
【0061】
また、カウンタ81にはベルト駆動方向のロータリエンコーダ82等のセンサが接続され、DSP73に入力される。DSP73で所定の補償器によって制御演算された結果は、DAC83からデジタル−アナログ変換され、電流ドライバ84へアナログ値で電流指令値として入力される。ここでは、センサ入力をロータリエンコーダのパルス出力を想定して扱っているが、タコジェネレータ等のアナログ信号でも良い。また、パルス間隔を基準クロックで測定するハードウェア的な速度カウンタでなく、演算器への割込み処理とソフトウェアの処理によって速度を算出しても良い。また、エンコーダ用のアップダウンカウンタの値の差分から速度を算出しても良い。また、補償器演算の結果をDAC83でアナログ出力しているが、PWMやDSP73のメモリ空間にデジタル入力のドライバを配置したり、シリアル通信等によって直接デジタル信号として出力しても良い。図11では、駆動方向の検出系を1つのロータリエンコーダで示しているが、図10に示すような複数の制御ループを実現するために、複数の速度もしくは位置検出系があっても良い。また、演算器をDSPとしているが、マイコンやCPUとしても良い。簡単な補償演算であればアナログ回路でも実現できる。
【0062】
図12はベルト駆動制御系のみ場合とベルト駆動制御系及び駆動補正制御系の2つの制御系の場合における速度偏差の各変化を示す特性図である。横軸0のところでステップ的に負荷トルクが変化した時の応答である。従来相当のベルト駆動制御系単体の駆動と比較して、本発明のベルト駆動制御系と駆動補正制御系の駆動によって、過渡的な速度偏差が大幅に低減できる。また、駆動補正制御系の応答周波数が高いことにより、ベルト駆動制御系のみで発生している定常部の周期的な微小速度変動も抑える効果がある。
【0063】
図13はベルト寄り制御を加えた場合の効果を示す特性図である。同図の横軸の時間10のところでステップ的に負荷トルクが変化したときの応答である。同図からわかるように、負荷トルクが変化するとベルト駆動速度とベルト寄り位置が変化する。応答の帯域が分離されていることから、ベルト速度変化は短時間で補償され、ベルト寄り位置はゆっくりと0に収束されるように補償される。
【0064】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内の記載であれば多種の変形や置換可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明のベルト駆動制御装置を適用するベルト駆動装置の構成を示す概略図である。
【図2】モータ駆動電流とモータトルクの関係を示す特性図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】負荷トルクとベルト寄り速度の関係を示す特性図である。
【図5】実測による負荷トルクとベルト寄り速度の関係を示す特性図である。
【図6】テンションローラの水平面内傾斜と垂直面内傾斜に対するベルト寄り速度の方向とゲインを示す図である。
【図7】従動軸速度をフィードバックする構成の一巡伝達特性を示す特性図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図10】画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構の構成を示す概略斜視図である。
【図11】本発明のベルト駆動制御装置を実現するためのシステム構成を示すブロック図である。
【図12】ベルト駆動制御系のみ場合とベルト駆動制御系及び駆動補正制御系の2つの制御系の場合における速度偏差の各変化を示す特性図である。
【図13】ベルト寄り制御を加えた場合の効果を示す特性図である。
【図14】4連タンデム方式のフルカラー画像形成装置における作像・転写機構部の構成を示す概略断面図である。
【図15】従来のベルト寄り防止機構の構成を示す図である。
【図16】従来のベルト寄り防止機構の別の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
10;ベルト駆動装置、11;無端ベルト、12;駆動ローラ、
13,14;従動ローラ、15,16;モータ、
20;ベルト駆動制御系、21;目標ベルト速度設定部、
22,32,41;比較器、23,33;ベルト駆動補償部、
24;モータドライバ、25;駆動用モータ、26;ベルト機構、
27,36;加算器、28,37;電流制御ドライバ、
30;駆動補正制御系、31;目標ベルト速度設定部、
34;目標負荷トルク設定部、35;トルク/電流変換部、
38;駆動補正モータ、39;バンドパスフィルタ、
40;目標ベルト寄り位置設定部、42;ベルト寄り補償部。
【技術分野】
【0001】
本発明はベルト駆動制御装置及び画像形成装置に関し、詳細には電子写真方式のプリンタや複写機の中間転写ベルト、電子写真方式のプリンタや複写機の熱定着ベルト、紙やテープの巻き取り装置に用いられるベルトに発生する蛇行や寄りを調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の回転体で支持されたベルトを駆動するベルト駆動装置では、一般的にベルトが駆動方向に搬送されるのが理想的であるが、駆動系を構成している回転体の傾き、ベルトにおける左右の張力差、無端ベルトであればベルト自身の両側周囲長の差、電子写真方式の中間転写ベルトや熱定着ベルトでは紙の突入などによる外部負荷の変動などにより、ベルトが蛇行したり、駆動方向とは異なる方向に寄ってしまう現象があることが知られている。
【0003】
このようなベルトの寄りの現象は、非特許文献1〜3において2軸で支持された無端ベルトについての解析が行われている。非特許文献1〜3では、従動ローラを面内傾斜させた場合と、面外傾斜させた場合のベルトの寄り現象(ベルトのスキュー)を有限要素解析と実験結果から説明している。しかし、画像形成装置等の複数のローラから構成された複雑な構造体のベルト寄り現象については、詳細な解析は未だなされていない。
【0004】
上記のようなベルト寄りを防止するための構成が従来よりいくつか提案されている。特許文献1や特許文献2には、ローラを面内傾斜もしくは面外傾斜させてベルトの蛇行を防止する方法が提案されている。また、特許文献3ではキャスティング機に展開して提案されている。更に、特許文献4では、ローラ端部に検知リングを取り付け、検知リングがベルトによって回転するとベルトを戻す力を発生させる機構を提案している。また、特許文献5や特許文献6では装置の回転体の形状やレイアウトを工夫することによってベルト寄りを防止することを提案している。簡単で安価な方法としては、特許文献7にあるように、ベルトの両端に寄り止めと呼ばれる段差を設けることが提案されている。
【0005】
ここでは、画像形成装置を例に、特許文献1〜3のローラを傾ける方法と特許文献7の寄り止めを設ける方法について図面を用いて説明する。
図14は4連タンデム方式のフルカラー画像形成装置における作像・転写機構部の構成を示す概略断面図である。同図に示すように、4連タンデム方式のフルカラー画像形成装置における作像・転写機構部では、感光体101上に静電像が形成され、トナーによって可視像となる。このトナー像は、感光体101と中間転写ベルト102の第1の転写部103にて中間転写ベルト102に転写される。中間転写ベルト102は駆動ローラ104及び2つの従動ローラ105によって保持・駆動される。そして、中間転写ベルト102に転写されたトナー像は、第2の転写部106にて用紙107に転写され、用紙上に画像を形成することになる。4連タンデム方式のフルカラー画像形成装置では、感光体101が4つあり、各感光体101では異なる色画像を形成している。この色画像が中間転写ベルト102上で重ね合わせられて、フルカラー画像を形成し、最終的に用紙107に転写されることになる。中間転写ベルト102上に各色の色画像の重ね合わせを行うときに、ベルトの寄り現象が発生すると、中間転写ベルト102が駆動方向とは異なる両側どちらかに移動する。その結果、4つの色の重ね合わせ位置が不定期にずれてしまうことになる。例えば、第1の感光体でのベルトへの転写位置から第4の感光体の転写位置まで300mmあったとして、0.1%(走行距離に対する寄り量の割合)のベルトの寄りがあったとすると、300μmの色ずれとなってしまい、画像品質上許されない値となってしまう。
【0006】
そこで、図15に示すように、中間転写ベルト102の両端部に段差の寄り止め部材108を形成し、これを駆動系において複数個のガイド付きローラ109を設け、このガイド付きローラ109と寄り止め部材108が接触することで、これ以上ベルトが寄らないよう制限する。
【0007】
また、図16に示すように、駆動系を構成するうちの1つのローラをステアリングローラ110とする。ステアリングローラ110は、中間転写ベルト102の進行方向に対して任意の角度で傾ける(面内傾斜させる)ことができ、中間転写ベルト102の寄り方向を制御できる。また、ベルト寄り検出手段111が中間転写ベルト102の寄り状態や寄り量を検出し、ステアリングローラ110を制御することでベルトの寄りを防止できる。
【非特許文献1】日本機械学会論文集(C編)66巻647号(2000-7)論文No.99-1427 P.2128-P.2134
【非特許文献2】日本機械学会論文集(C編)67巻658号(2001-6)論文No.00-0510 P.1749-P.1755
【非特許文献3】日本機械学会論文集(C編)70巻695号(2004-7)論文No.03-1151 P.2013-P.2020
【特許文献1】特許第2,788,683号明細書
【特許文献2】特許第3,082,452号明細書
【特許文献3】特許第3,649,487号明細書
【特許文献4】特開平11−208841号公報
【特許文献5】特許第3,419,513号明細書
【特許文献6】特許第3,720,765号明細書
【特許文献7】特開2006−119473号公報
【特許文献8】特開2006−001688号公報
【特許文献9】特開2006−042483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図15に示すように、特許文献7のような寄り止めと呼ばれる段差を使用した寄り防止機構によれば、簡単な構造で、かつ安価に構築できる利点があるものの、寄り止め部材の耐久性が問題となる場合がある。つまり、ベルト寄りを防止するために寄り止め部材が常時ガイド付きローラのガイド面に接している可能性があり、寄り止め部材が経時的に劣化してしまい、ベルト寄り防止の機能が低下したり、調整不良により寄り力が大きくなって寄り止め部材がガイド面を乗り上げてしまったりする可能性がある。このような点は画像形成装置の低速機ではあまり問題とならないが、高速機ではベルト速度が大きくなることからベルトに伝達される力も大きくなり、画像品質や耐久性から問題となる。
【0009】
また、図16に示すように、特許文献1〜3のような所定の回転軸を傾けることによるステアリングローラ方式では、上記の寄り止めにおける耐久性や性能の問題は解決できるが、ローラ自体を傾けるため複雑な機構が必要となる。特にローラの傾け角を常時制御する制御装置となると、一般的に回転アクチュエータによってリンク機構等を動かしてローラの傾け角を制御することとなり、部品点数も多く機構的に複雑で高価なものとなってしまう。更に、上記特許文献4で提案されている検知リングを使用する機構も構造的に複雑になり高価となってしまうと共に、機械的な寄り防止機構であるため、機械の特性だけで決まってしまい性能を向上させることは難しい。また、特許文献5や特許文献6のような回転軸の構造やレイアウトで寄りを防止する機構の場合、経時的な変化に対して弱く、また初期の調整が難しいという問題点がある。
【0010】
一方、特許文献8では、複数の電動機を使用して、駆動系に加わる負荷トルクを第2の電動機をトルク制御することによって負荷トルクを安定化させ、装置の安定性や性能を向上させる提案がなされている。また、特許文献9は、特許文献8の発明に加えて、新たな機能追加や効果を明確にするために装置構成を詳細に限定したものである。ところが、装置の高性能化を目指して線形で安定な領域で稼動させるために、0V近傍のモータドライバ特性や伝達系のバックラッシ等の電気系、機械系の非線形領域を回避する必要がある。一般に、テンショナー等の機構によってベルト機構の負荷変動(張力変動)には対応しているが、テンショナーでは、用紙の入出力のような速い応答には反応しきれない。そのため、ショックジターと呼ばれる画像不良が発生してしまう。また、テンショナーだけでは、電気系の非線形領域を回避するための詳細な調整は難しい。
【0011】
本発明はこれらの問題点を解決するためのものであり、変動の大きな用紙やクリーニングブレード等による負荷変動に対してもロバスト安定で高精度ベルト駆動が可能で、かつベルト寄りを制御できるベルト駆動制御装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記問題点を解決するために、本発明のベルト駆動制御装置は、ベルト機構を駆動する第1の電動機と、所定の目標速度もしくは目標位置に応じて第1の電動機を制御する第1の制御部と、該第1の制御部からの出力に応じて第1の電動機を駆動する第1のドライバ部とを有する第1の制御系と、ベルト機構に第1の電動機とは異なる駆動力を伝達する第2の電動機と、第2の電動機を制御する第2の制御部と、該第2の制御部からの出力に応じて第2の電動機を駆動する第2のドライバ部と有する第2の制御系とを具備している。そして、本発明のベルト駆動制御装置において、第2の制御部は、第2の電動機によるベルト駆動方向の所定目標速度もしくは目標位置に応じて第2の電動機を制御するベルト駆動補償部と、第2の電動機の定常トルクを調整するトルク駆動補償部と含んで構成することに特徴がある。よって、ベルト駆動方向の制御性能を向上させ、かつベルト駆動機構の非線形性をベルト寄りの定常的特性を調整可能となる。
【0013】
また、第2の制御部のベルト駆動補償部は、第1の制御部によって設定されるベルト駆動方向の応答周波数よりも、ベルト駆動方向の応答周波数が高くなるように設定する。よって、ベルト駆動制御システムに冗長性を持たせ、外乱抑圧効果を向上させることができ、ベルト駆動方向の制御性能が向上する。
【0014】
更に、第2の制御部のベルト駆動補償部は、所定の定常的な目標速度もしくは目標位置に対して0型となるように設定されることにより、2つの電動機の制御システムの干渉を防止し、よりベルト駆動方向の制御性能を向上させることができる。
【0015】
また、第2の制御部の出力に対して所定のフィルタを乗算するフィルタ乗算部と、フィルタ乗算部の出力を第1の制御部の入力に加算する加算部とを備えたことにより、第2の電動機の制御システムで生じる、ベルト駆動方向への悪影響を低減し、過渡特性を向上することができる。
【0016】
更に、第2の制御部のトルク駆動補償部は、ベルトの進行方向と直角となるベルト寄り方向の位置もしくは速度を検出するベルト寄り検出部の出力であるベルト寄り位置と目標ベルト寄り位置、もしくはベルト寄り速度と目標ベルト寄り速度を比較し、位置偏差もしくは速度偏差に対して、所定の演算を行いベルト寄り位置もしくはベルト寄り速度を制御するように第2の電動機のトルクを制御する。よって、第2の電動機の発生するトルクをベルト寄り位置もしくはベルト寄り速度に基づいて、制御することによって、ベルト駆動方向の性能の向上と、ベルト寄り制御を単純な構成で実現させたベルト駆動制御装置を提供できる。
【0017】
また、第2の制御部のトルク駆動補償部は、ベルト寄り方向の応答周波数が第1の制御部によって設定されるベルト駆動方向の応答周波数よりも十分に低くなるように設定されることにより、ベルト寄り制御がベルト駆動方向の制御に干渉しない構成を実現したベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0018】
更に、別の発明としての画像形成装置は、上記ベルト駆動制御装置を備えたことに特徴がある。よって、画像品質が向上する画像形成装置を提供できる。
【0019】
また、第1の電動機で中間転写ベルトを駆動する駆動ローラを駆動し、第2の電動機で中間転写ベルト上のトナー画像を用紙に転写する2次転写部にある2次転写ローラを駆動することにより、現状の画像形成装置の構成を大幅に変更することなく実現可能な画像形成装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のベルト駆動制御装置によれば、2つの電動機と制御部を備え、ベルト駆動方向の制御性能を向上させ、かつベルト駆動機構の非線形性をベルト寄りの定常的特性を調整可能となる機構を備えたベルト駆動制御装置を提供できる。これによって、機械系電気系の非線形性によって不安定化することなく、ベルト駆動制御装置の安定性を向上できる。また、第2の電動機の制御システムの応答周波数(制御帯域)を広げることによって、ベルト駆動制御システムに冗長性を持たせ、外乱抑圧効果を向上させる。これによってベルト駆動方向の制御性能(外乱抑圧性能)が向上したベルト駆動制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明のベルト駆動制御装置を適用するベルト駆動装置の構成を示す概略図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は側面図である。なお、3本のローラで支持された無端ベルトを駆動するベルト駆動装置に基づいて説明する。
【0022】
同図において、本発明のベルト駆動制御装置を適用するベルト駆動装置10における無端ベルト11は、駆動ローラ12、従動ローラ13,14の3本のローラで支持されている。駆動ローラ12には第1の電動機として駆動用のモータ15が取り付けられ無端ベルト11に駆動力を伝達し、無端ベルト11を所定の目標速度で駆動したり、所定の目標位置まで位置決めを行ったりする。従動ローラ13は無端ベルト11によってモータ15による駆動力が伝達され回転する。また、従動ローラ13には第2の電動機として駆動補正用のモータ16が取り付けられている。更に、従動ローラ14は、図示されていないが、バネで支持することによって、無端ベルト11に所定の張力を加えるテンションローラとして機能し、張力を調整することによって無端ベルト11と各ローラ間の滑りを抑えて効率良く駆動力を伝達することができる。また、テンションローラとしての従動ローラ14が機能することによって、無端ベルト11の駆動時の過渡的な動作時や無端ベルト11に外乱が加わったときの無端ベルト11の変動(伸縮)を吸収する。
【0023】
なお、図1において駆動補正用のモータ16は従動ローラ13に取り付けられているが、従動ローラ14に取り付けてもよい。また、モータ15,16は、ローラに直接取り付けられているように図示されているが、一般的には各ローラ端面を支持する側板に取り付けられ、継ぎ手等によって偏心や傾きや取り付け誤差等を吸収し、各ローラと連結されている。更に、駆動ローラ12とモータ15との間、また従動ローラ13とモータ16との間には、ギアやタイミングベルト等も減速機構を有する場合もある。
【0024】
また、ベルト駆動系を構成する駆動用のモータ15は、所定の目標速度や目標位置に対して、ベルトを正確に駆動できるモータであれば良く、サーボモータでもステッピングモータで良い。一般的に制御性が良いとされ、フィードバック制御に使用されるDCモータやDCブラシレスモータ、ACモータが図1の駆動補正用のモータ16に使用される。モータ15,16のモータトルクは、モータ電流に比例するため、モータドライバとして電流制御ドライバを使用し、任意の電流で駆動することによって、任意のトルク負荷をベルト駆動制御装置に与えることができる。モータ駆動電流とモータトルクの関係を示す図2からわかるように、線の傾きがモータのパラメータであるトルク定数(Nm/A)である。
【0025】
ここで、電流制御ドライバとは、モータ電流を検出し、フィードバックし目標電流値と比較した後、PI等の所定のフィルタ演算した後、モータ電圧を設定するものである。演算部はデジタルやアナログがあるが、電流ループは高い応答周波数を確保する必要があるため、高速演算が必要となる。駆動方式はリニア駆動でもスイッチング駆動(PWM駆動)でも良いが、高精度な制御が要求される場合は、駆動効率が落ちるがリニア駆動が良い。
【0026】
図3は本発明の第1の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。同図に示す本実施の形態のベルト駆動制御装置は、サーボモータを使用した場合のベルトを駆動方向に制御を行うベルト駆動制御系20と、ベルト駆動制御系20の補正と負荷を制御する駆動補正制御系30とを含んで構成されている。ここでは、速度制御系を例として説明する。なお、位置制御系の場合も基本的構成は同じであり、フィードバックされる検出値と、補償器の構成が変わるだけである。
【0027】
そして、ベルト駆動制御系20では、目標ベルト速度設定部21によって設定された第1の目標ベルト速度と、フィードバックされる駆動軸速度とが比較器22で比較されて速度偏差が算出される。算出された速度偏差はベルト駆動補償部23に入力され、制御系が安定化するような所定のフィルタ演算が実行される。その演算結果である電圧指令値がモータドライバ24に供給される。モータドライバ24は電圧指令値に応じた電圧を駆動用モータ25に流して図1の駆動ローラ12を駆動しベルト機構26を駆動する。ここでは、モータドライバ24を電圧制御ドライバとしたが、任意のモータ電流を流すことができる電流制御ドライバでも良い。
【0028】
一方、駆動補正制御系30では、目標ベルト速度設定部31によって設定された第2の目標ベルト速度と、フィードバックされる従動軸速度とが比較器32で比較されて速度偏差が算出される。算出された速度偏差はベルト駆動補償部33に入力され制御系が安定化するような所定のフィルタ演算が実行される。加えて、駆動系に加わる負荷トルクを設定する目標負荷トルク設定部34によって設定された目標負荷トルクは、トルク/電流変換部35によって、トルク相当の電流指令値に変換される。変換された電流指令値とベルト駆動補償部33の出力は加算器36によって加算され、操作量である電流指令値として電流制御ドライバ37に供給される。電流制御ドライバ37は操作量に応じた電流を駆動補正モータ38に流して図1の従動ローラ13を駆動しベルト機構26を駆動する。このように、第2の目標ベルト速度を制御するパスがベルト駆動補償部で、目標負荷トルクを制御するパスがトルク補償部である。
【0029】
なお、第1の制御部として、駆動軸速度をフィードバックする構成としたが、従動軸速度やベルト表面速度や、ベルト速度を検出するための回転体からの速度やモータ軸からの速度信号でも良い。また、複数のセンサを用いた多重フィードバックループで構成されていても良い。第2の制御部のベルト駆動補償部のフィードバックも第1の制御部と同様に従動軸速度以外で検出される速度でも良い。また、速度信号はエンコーダ信号の差分をとったり、エンコーダパルスの間隔を基準クロックでカウントしたり、回転軸に取り付けられたタコジェネレータ等で検出することで取得可能である。更に、第2の制御部のトルク補償部では、目標負荷トルクを設定する説明であるが、負荷トルク相当の目標電流値を設定する構成で良い。また、目標負荷トルクは、大きすぎるとエネルギ効率が悪くなるため、機械系、電気系の非線形特性を回避できる範囲で小さな値を設定する。また、クリーニングブレード等のON/OFFのように負荷変動が既知である場合、既知の負荷変動に合わせて目標負荷トルクを変化させても良い。
【0030】
次に、負荷トルクを変化させることによってベルト寄りを調整することについて概説する。
図4は負荷トルクとベルト寄り速度の関係を示す特性図である。同図に示すように、ベルト寄り速度0近傍において負荷トルクとベルト寄り速度は線形関係にあるものとして考える。図5が実際の装置で測定した結果であり、ベルト寄り速度0mm/s近傍で負荷トルクとベルト寄り速度が比例することがわかる。負荷トルクをBIAS分(ゼロクロスとなる負荷トルク)に対して正負することによって、ベルト寄り速度を正負に振ることが可能となる。図4及び図5のようなベルト寄り速度と負荷トルクの関係を得るには、所定の機構の設定が必要となる。
【0031】
次に、ベルト寄り速度の初期状態の設定方法について図6を用いて説明する。図6はテンションローラの水平面内傾斜(面内傾斜)と垂直面内傾斜(面外傾斜)を変化させ、負荷トルクをかけたときに発生するベルト寄り速度の方向とゲイン(寄り易さ)を示す。図1に示すよう無端ベルトを支持する複数のローラのうちの1つで調整するものとする。ここでは、図1のテンションローラ14で調整するものとする。
【0032】
先ず、ローラを面内傾斜させて、図3の駆動補正用モータ38が発生する負荷トルク0のときのベルト寄り方向と速度を調整する。0点は設計上の平行度0の点であり、0’点は調整上寄り速度が0となる点である。図6では平行度(面内傾斜)を正にしていくと、平行度とほぼ比例して寄り速度は負方向に変化する。平行度を正にしていくと、同様に寄り速度は正方向に変化する。次に、ローラを面外傾斜させて、上記発生したベルト寄り速度を打ち消して、ベルトの寄り方向が反転するようにベルト寄り速度を設定する。図6では垂直傾斜(面外傾斜)を正にしていくと、寄り速度を正方向に変化させようとするため、上記で設定したベルト寄り速度を打ち消すように働く。初期状態で、寄り速度が正となるように垂直傾斜を設定する。上記のように設定されたベルト駆動装置において、図1の従動ローラ13に取り付けられた駆動補正用のモータ16で負荷トルクを大きくしていくと、上記の設定で設定した垂直傾斜の設定の効果が小さくなるように働き、ベルト寄り速度は、正方向からゼロクロスし、負方向へと変化する。このように負荷トルクを大きくしていくことによって、ベルトとローラの接触状態が変化し、垂直方向の設定の効果が低下する方向に、ローラに対するベルト進入角度が変化していくために、ベルト寄りが変化するものと考えている。
【0033】
このように負荷トルクによってベルト寄り速度を調整できることから、図3に示す目標負荷トルク設定部34で負荷トルクを調整することによって、定常的なベルトの寄り速度を調整することが可能となる。
【0034】
ここで、図3の駆動補正制御系30(第2の制御部)内でベルト駆動補償部33によって補償されるベルト駆動補償部の応答周波数を、ベルト駆動補償部23によって補償されるベルト駆動制御系20(第1の制御部)の応答周波数を高く設定する。
【0035】
具体的な例として、古典的な設計方法である一巡伝達特性で説明する。図7は従動軸速度をフィードバックする構成の一巡伝達特性を示す特性図である。図中で0dBと交差する周波数(図7中破線で囲むA部分)のように、図3の駆動補正制御系30(第2の制御部)の交差周波数をベルト駆動制御系20(第1の制御部)の交差周波数よりも高く設定することによって実現できる。これによって、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)のみを備えたベルト駆動制御装置では抑えきれなかった、速い周波数成分を含む応答を駆動補正制御系30(第2の制御部)によって、抑圧することが可能となる。例えば、画像形成装置では、用紙突入による急峻な負荷変動が、中間転写ベルト上にトナー画像を描く領域に悪影響を及ぼし、ショックジターと呼ばれる画像不良を発生させる。通常はベルト駆動制御系20(第1の制御部)のみで前記負荷変動を抑圧しようとするが、抑えきれてない。そこで、応答周波数の高い駆動補正制御系30(第2の制御部)を備えることによって、まず、速い応答を駆動補正制御系30(第2の制御部)で補償し、遅れてベルト駆動制御系20(第1の制御部)で補償を行う。これによって、従来よりも負荷変動を抑圧する性能が向上し、画像不良も低減できる。急峻な負荷変動は用紙突入だけでなく、クリーニングブレードのON/OFF等いろいろな原因が考えられる。
【0036】
ベルト駆動制御系20(第1の制御部)と駆動補正制御系30(第2の制御部)どちらも定常的な速度偏差や位置偏差がなくなるように1型の制御系としてしまうと、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)からなる制御系と駆動補正制御系30(第2の制御部)からなる制御系の間に干渉が発生し、駆動系に大きな負荷がかかってしまったり、ベルトに大きな張りと緩みが発生したり、ベルトとローラ間ですべりが発生してしまったりする可能性がある。上記のような制御系の干渉を抑えるために、どちらか一方の制御系に定常偏差を許容し、従動的な動作となるようにする。ここでは、駆動補正制御系30(第2の制御部)内で図3のベルト駆動補償部33によって補償されるベルト駆動補償部を0型の制御系となるようにする。図7に示される速度制御系の一巡伝達関数の破線で囲むB部分のように、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)では低域において積分特性を持たせてゲインを大きくしている。位相をみても積分特性によって遅れている事がわかる。一方、駆動補正制御系30(第2の制御部)では、低域に積分特性を持たせていないため、低域では−20dB/decのゲインの傾きと、−90degの位相となっている。これによって、駆動補正制御系30(第2の制御部)は過渡状態では、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)よりも速く動き、定常状態では、定常速度偏差を持つが、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)に対して従動的に動くことができる。上記のように、応答周波数が高い領域は駆動補正制御系30(第2の制御部)、低い領域はベルト駆動制御系20(第1の制御部)と帯域分離することによって、ベルト駆動制御系の性能を向上できる。
【0037】
上記では、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)と駆動補正制御系30(第2の制御部)と帯域分離し、かつ、干渉を抑える方法を提案した。これに加えて、急峻な負荷変動を抑圧する性能をより向上させるために、駆動補正制御系30(第2の制御部)内でベルト駆動補償部33によって補償される値を、ベルト駆動制御系20(第1の制御部)に加算する。これによって、急峻な負荷変動にベルト駆動制御系20(第1の制御部)も応答できる。しかし、そのまま加算すると不具合がでてしまうため、所定のフィルタ演算を行って加算を行う。
【0038】
図8は本発明の第2の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。同図において、図3と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。ベルト駆動制御系20では、目標ベルト速度設定部21によって設定された目標ベルト速度とフィードバックされる駆動軸速度が比較器22で比較され、速度偏差が算出される。算出された速度偏差はベルト駆動補償部23に入力され、制御系が安定化するような所定のフィルタ演算が実行されて演算結果である電流指令値が出力され、電流制御ドライバ28に供給される。電流制御ドライバ28は電流指令値に応じた電流を駆動用モータ25に流して図1の駆動ローラ12を駆動しベルト機構26を駆動する。
【0039】
一方、駆動補正制御系30では、目標負荷トルク設定部34によって設定された目標負荷トルク相当の電流指令値とベルト駆動補償部33の出力である電流指令値が加算器36によって加算され、電流制御ドライバ37に入力され、電流制御ドライバ37は駆動補正用モータ38を駆動し、ベルト機構26を駆動する。ベルト機構26の従動軸速度は比較器32にフィードバックされる。そして、駆動補正制御系30の電流制御ドライバ37への入力である電流指令値に対し、バンドパスフィルタ39で演算を行い、所定の帯域制限を行った電流指令値を、加算器27においてベルト駆動制御系20のベルト駆動補償器23の出力である電流指令値に加算して電流制御ドライバ28に供給し、駆動用モータ25を駆動する。一般的に、バンドパスフィルタ39の上限の通過周波数は、駆動補正制御系30の応答周波数よりも低く設定する。あまり高く取りすぎるとノイズの影響や機械共振の影響が出やすくなってしまう。また、下限の通過周波数は、目標負荷トルク設定部34によって設定された目標負荷トルクの変動がフィルタ出力に出ないように設定する。目標負荷トルクが0である場合は、バンドパスフィルタ39はローパスフィルタとしても良い。また、バンドパスフィルタ39の出力は、ベルト駆動制御系20の駆動用モータ25のトルク定数Kt1と、駆動補正制御系30の駆動補正用モータ38のトルク定数Kt2の違いや減速比の違いを考慮して、駆動補正制御系30がベルト機構26に与えるトルクT2が伝達されるように、変換係数が乗算された電流指令値となる。簡単化のためそれぞれの減速比は1として、バンドパスフィルタの演算を表すと、下記の(1)式となる。
【0040】
I2^=(I2×Kt2/Kt1)×BPF(s) (1)
I2^:バンドパスフィルタ出力の第2の制御部の電流指令値
I2:第2の制御部の電流制御ドライバに入る電流指令値
Kt1:第1の制御部のモータトルク定数
Kt2:第2の制御部のモータトルク定数
BPF(s):バンドパスフィルタの伝達関数
【0041】
図3及び図8に示したベルト駆動制御装置は、2つの制御システムによる冗長システムで応答周波数を広げ、かつ定常的な負荷トルクを第2の制御部で与えられる構成であった。これによって、外乱抑圧性能の向上と、機械系電気系が持つ非線形領域を回避することが可能となったり、定常的なベルト寄りを補正したりすることが可能となる。
【0042】
次に、図9は本発明の第3の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。同図に示す本実施の形態のベルト駆動制御装置は、図8に示す第2の実施の形態のベルト駆動制御装置にアクティブにベルト寄りを制御する機構を加えたものである。図9に示すように、駆動補正制御系30には、ベルト寄り補償部42が付加されている。以下では図8の差異部分について説明する。ここでは、ベルト寄り補償部42はベルトの寄り位置を制御するものとする。要求仕様によってはベルト寄り速度を制御する制御系構成でも良い。ベルト機構26には、ベルトの寄り方向の位置を検出するベルト寄り位置を検出するセンサが取り付けられているものとする。ここでは、ベルトの寄り位置を検出するセンサとしたが、速度を検出するセンサでも良い。検出されたベルト寄り位置は比較器41にフィードバックされ、目標ベルト寄り位置設定部40によって設定された目標ベルト寄り位置と比較されて位置偏差が出力される。ベルト寄り位置の位置偏差はベルト寄り補償部42に入力され、ベルト寄り補償部42は位置偏差に応じた電流指令値を加算器36に出力する。加算器36において、ベルト駆動補償部側のベルト駆動補償部33の出力である電流指令値と加算され、電流制御ドライバ37に入力される。電流制御ドライバ37は、電流指令値に応じて駆動補正用モータ38を駆動し、ベルト機構26を制御し、ベルト駆動の補正とベルト寄りの制御を実現する。ベルト寄り補償部42は、図4及び図5で示される負荷トルクとベルト寄り速度が線形と近似できる特性を利用して設計される。
【0043】
また、ベルト寄り位置はベルトの端面の形状やセンシング用のマーカー等の形状から周期的な変動が重畳されるため、一般的にはフィルタ処理等によってベルト寄り位置のみが抽出される。そのため、フィルタ処理による遅れが大きく、フィードバック制御による速い応答は不可能である。更に、ベルト寄りそのものの応答も非常に遅く、つまり時定数が大きく、速い応答の性能は要求されない。そのため、次のような考え方で、動作帯域を分離することによって、図9に示す制御系は設計できる。
【0044】
極低周波数:駆動補正制御系(第2の制御部)のベルト寄り補償部による応答周波数
中低周波数:ベルト駆動制御系(第1の制御部)の応答周波数
高域周波数:駆動補正制御系(第2の制御部)のベルト駆動補償部による応答周波数
よって、(駆動補正制御系(第2の制御部)のベルト寄り補償部による応答周波数)≪(ベルト駆動制御系(第1の制御部)の応答周波数)<(駆動補正制御系(第2の制御部)のベルト駆動補償部による応答周波数)となる。
【0045】
なお、複数の回転体に支持されて駆動される無端ベルトには、電子写真方式のプリンタや複写機の中間転写ベルト、感光体ベルト、用紙搬送ベルト、熱定着ベルトや、インクジェット方式のプリンタや複写機の用紙搬送ベルト等、多々ある。これらは、画像品質向上のために高精度に所定速度で駆動される要求がある。ここでは、電子写真方式のプリンタや複写機において、トナー画像を複数回重ね合わせるために使用されている中間転写ベルト駆動機構を例として説明する。
【0046】
例えば、一般的に使用されている4色(シアン、マジェンタ、イエロー、ブラック)のトナーを使用する電子写真方式のプリンタや複写機の中間転写ベルトにおいて、中間転写ベルトの表面速度に速度変動が生じてしまうと、4色のドナー画像の重ね合わせ位置がずれてしまったり、トナー画像が伸び縮みしてしまったりする。これによって、色ずれや色の濃淡等の画像の不具合が生じてしまう。そのため、従来のモノクロ機以上の送り速度の精度が要求されるようになってきた。
【0047】
ここで、中間転写ベルトの表面速度を変化させる原因として、摩擦負荷、回転体の偏心や負荷変動、中間転写ベルトの厚み変動、ロータリエンコーダの取り付け偏心、減速機構の取り付け偏心や負荷変動、モータの回転ムラ、用紙突入やクラッチのON/OFFによるトルク変動等が考えられる。これらを外乱と考えると、摩擦負荷は定常的もしくは非常に低い周波数成分であるためフィードバック制御を行うことによって抑圧しやすい。中間転写ベルトの厚み変動も他の回転体と比較して低い周波数成分であるため、直接ベルト表面速度が検出できれば、これを使用したフィードバック制御を行うことにより抑圧できる。一方、回転体の変動成分の中でも減速機構の偏心やモータの回転ムラは、回転体と中間転写ベルトの剛性や駆動軸と減速機構の連結部の剛性によって生じる機械共振周波数(以下中間転写ベルト機構の機械共振周波数)に近い周波数となってしまう。そのため、単純にベルト表面速度をフィードバックする制御系を構築しただけでは、中間転写ベルト機構の機械共振周波数以下の応答周波数の制御系となり、ゲイン不足により外乱を抑圧できず、所望の要求仕様を達成できない。
【0048】
そこで、駆動軸にロータリエンコーダを取り付けると、制御系に影響のある機械共振周波数は、モータの慣性モーメントと中間転写ベルト機構の慣性モーメントと減速機構の剛性によって生じるもの(以下、駆動軸の機械共振周波数)となり、中間転写ベルト機構の機械共振周波数よりも高い機械共振周波数となる(例えば、50Hzに対して200Hz)。駆動軸のロータリエンコーダの値をフィードバックし、減速機構の偏心やモータの回転ムラによって生じる変動成分よりも高く応答周波数を設定できれば、駆動軸のロータリエンコーダよりも前段で発生する変動成分を抑圧できる。
【0049】
加えて、ベルト表面の速度を検出するためにベルト上にエンコーダパターンを取り付け、ベルト表面速度をフィードバックする制御系を構築すると、前記駆動軸のロータリエンコーダ以降で発生する比較的低い周波数の変動成分を抑圧できる。よって、駆動軸等の回転体の偏心や負荷変動、中間転写ベルトの厚み変動、ロータリエンコーダの取り付け偏心等の変動成分を抑圧できる。
【0050】
なお、ベルト表面のエンコーダパターンに代えて、従動軸等に副エンコーダを取り付けて速度をフィードバックする制御系を構築しても良い。これにより、前記駆動軸のロータリエンコーダ以降で発生する比較的低い周波数の変動成分を抑圧できる。この場合、機構だけでは中間転写ベルトの厚み変動は抑圧できないが、構成によっては、駆動軸等の回転体の偏心や負荷変動、ロータリエンコーダの取り付け偏心等の変動成分を抑圧できる。ベルト厚み変動に関しても、所定の信号処理によって抽出可能である。
【0051】
以上の考え方に基づいたベルト駆動制御機構が、図10に示す画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構である。これは、複数(例えば、シアン、マジェンタ、イエロー、ブラック用)の感光体を備え、1回の工程で複数個の画像を中間転写ベルト上に重ね合わせる電子写真方式の画像形成装置である。
【0052】
図10の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構について説明する。ベルト駆動用モータ51の回転は、モータ軸に切られた歯車52と減速歯車53で構成された減速機構によって減速される。なお、入力側の歯車はモータ軸に取り付けられた構成でも良く、2つの歯車からなる減速機構であるが複数の歯車からなる構成や遊星歯車機構でも良い。そして、減速機構の出力軸にはロータリエンコーダのコードホイール54が取り付けられており、コードホイール54のスリットをエンコーダセンサ55が読み取る。エンコーダセンサ55からコードホイールの動きに応じて2値化信号が出力される。なお、エンコーダセンサ55の出力は、90度位相の異なる2相の2値化信号でも、単相アナログ信号、2相アナログ信号でも良い。
【0053】
本発明の画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構では、単一方向にしか駆動されない構成であるため、正転、逆転の制御を行う必要がないため、必ずしも2相出力は必要とならないが、等速性能と停止性能が要求されるような装置(例えば、1つの感光体を使用して、複数回の工程で画像を形成する画像形成装置)では、2相出力が必要となる場合がある。減速機構の出力軸は、駆動ローラ56を駆動する。減速機構の出力軸と駆動ローラ56は、一体で構成されていても良いが、整備性を考えて継ぎ手機構等で連結されていても良い。駆動ローラ56はエンドレス状の中間転写ベルト57を駆動する。中間転写ベルト57は、複数の従動ローラ58、59、60に支持されている。例えば、従動ローラ59はベルトの張力調整機構が付いたり、従動ローラ60は中間転写ベルト57上に作像された画像を用紙に転写する転写軸の機能を併せ持っている。中間転写ベルト57の表面もしくは裏面にはエンコーダパターン61が刻まれており、このエンコーダパターン61をベルトエンコーダセンサ62で読み取ることによって、ベルト表面速度を検出する。図10では従動ローラ58と従動ローラ59の間にベルトエンコーダセンサ62を設置しているが、ベルト表面速度を正しく測定するために、平坦な部分であれば良い。例えば、駆動ローラ56と従動ローラ58の間や、駆動ローラ56と従動ローラ60の間でも良い。また、回転軸上にベルトエンコーダセンサをレイアウトしてしまうと、軸の曲率の影響が出てしまい、ベルトの製造上の厚み変動や環境変化による変動によって、エンコーダパターン61の間隔が変化してしまい、正しいベルト表面速度ではなくなってしまうために、避ける必要がある。エンコーダパターン61はシート状のエンコーダパターンを貼り付けたり、ベルト上に直接パターン加工したり、中間転写ベルトの製造工程で一体加工したりと、製作方法はどのような方法でも良い。ここでは、ベルトエンコーダセンサ62は等間隔のスリットを備えた反射式の光学センサを想定しているが、エンコーダパターン61からベルト表面位置を正確に検出できるセンサであれば良く、例えばCCDカメラ等を使用し、画像処理によって表面位置を検出するものでも良い。また、ドップラー方式やベルト表面の凹凸から画像処理によって表面位置を検出できるセンサ方式であれば、エンコーダパターン61を無くすことも可能となる。
【0054】
そして、ロータリエンコーダのエンコーダセンサ55の出力及びベルトエンコーダセンサ62の出力は、駆動制御装置63に入力され、それぞれの信号を使用して駆動軸速度、ベルト表面速度が演算され、所定の制御演算が行われ、制御演算結果である指令値はモータドライバに渡され、モータドライバは指令値に応じてモータ51を駆動する。このモータ51はブラシ付きモータでもブラシレスモータでも良いが、モータの形式に応じてモータドライバの駆動回路も変わってくる。また、モータドライバは電圧制御方式でも電流制御方式でも良い。電流制御方式のドライバであれば、経時変化や環境変化に対してロバストとなる。ドライバへの指令値は、アナログ値、デジタル値、PWM等、何でも良く、指令値に対して比例した出力の出せるモータドライバであれば良い。モータドライバはPWM駆動でもリニア駆動でも良い。制御演算は、アナログ、デジタルのどちらでも良いが、現在では、CPUやDSP等のデジタル演算器が一般的であり、制御演算はソフトウェアで記述される。単純な制御演算や動作ロジックであって、パラメータ変更が無いのであればハードウェアロジックで制御演算を行わせても良い。
【0055】
上記の構成では、周期的な負荷変動を抑圧して、中間転写ベルトを高精度に駆動することは可能である。しかし、ベルト上エンコーダパターンをフィードバックする外側の制御ループの応答周波数が低いため、用紙突入やクラッチのON/OFFによる急峻なトルク変動に対して弱く、ショックジターと呼ばれる画像不良が発生してしまう。
【0056】
そこで、従動ローラの1つに駆動補正用モータを取り付けて、図3、図8及び図9に示した制御系を構築し、画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構の応答周波数を向上させる。加えて、定常負荷を掛けることによって、機械系電気系の非線形領域を避けた駆動が可能となり、制御系の安定性を図ることができたり、初期状態のベルト寄りを調整したりすることができる。加えて、負荷によるベルト寄り制御系を構築すれば、ベルト寄りもアクティブに制御できる。
【0057】
図10では、中間転写ベルト57上に描かれたトナー画像を用紙64に転写する2次転写ローラ65の軸に駆動補正用モータ66を取り付けた例である。従動ローラ60は2次転写ローラ65の対向ローラであり、2次転写ローラ65と対向ローラの従動ローラ60の間には所定の圧力が加わるようになっている。図10では2次転写ローラ65は駆動補正用モータ66で直接駆動されるように描かれているが、減速機構が入っても良い。また、2次転写ローラ65ではなく、対向ローラの従動ローラ60を駆動しても良い。駆動補正用モータ66によって駆動されるローラは、負荷トルク外乱が入る部分に近いほうが外乱抑圧の制御性能を良くできる。そのため、クリーニング機構が取り付けられた軸を駆動しても良い。図10では、用紙64が2次転写ローラ65に入った時及び出た時に急峻な負荷トルクの変動が発生する。それを、駆動補正用モータ軸上に取り付けられたロータリエンコーダ(不図示)、または2次転写ローラ軸や対向ローラ軸と同軸上に取り付けられたロータリエンコーダで速度変動として検出する。駆動補正制御装置67では、ロータリエンコーダのパルス間隔から速度が算出され、目標ベルト速度とフィードバックされた速度が比較され、速度偏差に所定の補償演算が行われ、電流指令値が出力される。これに定常負荷トルク用の電流指令値もしくはベルト寄り制御用の電流指令値が加算され電流制御ドライバに入力され、駆動補正用モータ66は駆動される。図8や図9で示すように急峻な負荷トルクが入ったときの応答をより改善するために、電流制御ドライバに渡される電流指令値に所定のフィルタ演算を行い、駆動制御装置63に渡される。駆動制御装置63では、駆動補正制御装置67からのフィルタ演算後の電流指令値を、駆動制御装置63側の電流指令値に加算し、ベルト駆動用モータ51を駆動する。駆動補正制御装置67から駆動制御装置63に渡される電流指令値は使用されるモータのトルク定数と減速比を考慮して、中間転写ベルト57に対して同じトルクを発生できる電流指令値に変換する必要がある。なお、駆動補正制御装置67のフィードバックはロータリエンコーダとしているが、ベルト表面の動きを検出できるエンコーダパターン61とベルトエンコーダセンサ62からの信号でも良い。
【0058】
図10に示す画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構には、図示されていないが、ベルトの寄り位置を検出するセンサを取り付け、図9の第3の実施の形態のベルト駆動制御装置を構成することによって、同時にアクティブなベルト寄り制御も可能となる。この構成では、一般的なベルト寄り制御に使用されるステアリングローラと呼ばれるベルト寄り制御専用のローラや、ローラ軸の傾け機構等の複雑な機構が不要となる。
【0059】
また、図10に示す画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構における機械的非線形要素には、減速機構等に使用される歯車やカップリング等で発生するバックラッシュや、締結部や軸や歯車の歯等で発生する微小領域のねじれ等がある。電気的非線形要素には、モータドライバにおける0V近傍の電圧の不連続性等がある。これらは、機構の負荷が0近傍となる領域で現れる現象である(負荷の正負関係無い)。そこで、本発明のように、定常的に所定負荷を与えることによって、これら非線形要素の領域を回避して高精度に装置を駆動することが可能となる。また、機械系電気系および環境が安定しており、電圧と電流の関係が既知で変動が小さい条件である場合は、定常負荷トルク用の電流指令値もしくはベルト寄り制御用の電流指令値に代えて、電圧指令値とし、駆動補正制御装置67は、電流制御ドライバに代えて電圧制御ドライバを使用することもできる。
【0060】
次に、本発明のベルト駆動制御装置を実現するためのシステム構成について図11を用いて説明をする。ここではホストCPU71の命令をホストインタフェース72を介してDSP73が受けて、DSP73によってベルト駆動制御系(第1の制御部)と駆動補正制御系(第2の制御部)を行うものとする。DSP73の内部バス74には、制御プログラムが記憶されているROM75や制御プログラムを実行させたり、一時的に値を蓄えるRAM76が接続されている。また、ADC77にはベルト寄り位置検出部やベルト寄り速度検出部等のセンサ78が接続され、検出された検出値のアナログ信号をデジタル変換し、内部バス74を介してDSP73に入力される。DSP73で所定の補償器によって制御演算された結果は、DAC79によってデジタル−アナログ変換され、電流ドライバ80へアナログ値で電流指令値として入力される。ここでは、センサ入力をアナログで扱っているがデジタルIOやDSP73のメモリ空間にセンサを配置したり、シリアル通信等によって直接デジタル信号として取得してもよい。また、補償器演算の結果をDAC79でアナログ出力しているが、PWMやDSP73のメモリ空間にデジタル入力のドライバを配置したり、シリアル通信等によって直接デジタル信号として出力してもよい。また、演算器をDSPとしているが、マイコンやCPUとしてもよい。簡単な補償演算であればアナログ回路でもよい。
【0061】
また、カウンタ81にはベルト駆動方向のロータリエンコーダ82等のセンサが接続され、DSP73に入力される。DSP73で所定の補償器によって制御演算された結果は、DAC83からデジタル−アナログ変換され、電流ドライバ84へアナログ値で電流指令値として入力される。ここでは、センサ入力をロータリエンコーダのパルス出力を想定して扱っているが、タコジェネレータ等のアナログ信号でも良い。また、パルス間隔を基準クロックで測定するハードウェア的な速度カウンタでなく、演算器への割込み処理とソフトウェアの処理によって速度を算出しても良い。また、エンコーダ用のアップダウンカウンタの値の差分から速度を算出しても良い。また、補償器演算の結果をDAC83でアナログ出力しているが、PWMやDSP73のメモリ空間にデジタル入力のドライバを配置したり、シリアル通信等によって直接デジタル信号として出力しても良い。図11では、駆動方向の検出系を1つのロータリエンコーダで示しているが、図10に示すような複数の制御ループを実現するために、複数の速度もしくは位置検出系があっても良い。また、演算器をDSPとしているが、マイコンやCPUとしても良い。簡単な補償演算であればアナログ回路でも実現できる。
【0062】
図12はベルト駆動制御系のみ場合とベルト駆動制御系及び駆動補正制御系の2つの制御系の場合における速度偏差の各変化を示す特性図である。横軸0のところでステップ的に負荷トルクが変化した時の応答である。従来相当のベルト駆動制御系単体の駆動と比較して、本発明のベルト駆動制御系と駆動補正制御系の駆動によって、過渡的な速度偏差が大幅に低減できる。また、駆動補正制御系の応答周波数が高いことにより、ベルト駆動制御系のみで発生している定常部の周期的な微小速度変動も抑える効果がある。
【0063】
図13はベルト寄り制御を加えた場合の効果を示す特性図である。同図の横軸の時間10のところでステップ的に負荷トルクが変化したときの応答である。同図からわかるように、負荷トルクが変化するとベルト駆動速度とベルト寄り位置が変化する。応答の帯域が分離されていることから、ベルト速度変化は短時間で補償され、ベルト寄り位置はゆっくりと0に収束されるように補償される。
【0064】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内の記載であれば多種の変形や置換可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明のベルト駆動制御装置を適用するベルト駆動装置の構成を示す概略図である。
【図2】モータ駆動電流とモータトルクの関係を示す特性図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】負荷トルクとベルト寄り速度の関係を示す特性図である。
【図5】実測による負荷トルクとベルト寄り速度の関係を示す特性図である。
【図6】テンションローラの水平面内傾斜と垂直面内傾斜に対するベルト寄り速度の方向とゲインを示す図である。
【図7】従動軸速度をフィードバックする構成の一巡伝達特性を示す特性図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図10】画像形成装置の中間転写ベルトのベルト駆動制御機構の構成を示す概略斜視図である。
【図11】本発明のベルト駆動制御装置を実現するためのシステム構成を示すブロック図である。
【図12】ベルト駆動制御系のみ場合とベルト駆動制御系及び駆動補正制御系の2つの制御系の場合における速度偏差の各変化を示す特性図である。
【図13】ベルト寄り制御を加えた場合の効果を示す特性図である。
【図14】4連タンデム方式のフルカラー画像形成装置における作像・転写機構部の構成を示す概略断面図である。
【図15】従来のベルト寄り防止機構の構成を示す図である。
【図16】従来のベルト寄り防止機構の別の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
10;ベルト駆動装置、11;無端ベルト、12;駆動ローラ、
13,14;従動ローラ、15,16;モータ、
20;ベルト駆動制御系、21;目標ベルト速度設定部、
22,32,41;比較器、23,33;ベルト駆動補償部、
24;モータドライバ、25;駆動用モータ、26;ベルト機構、
27,36;加算器、28,37;電流制御ドライバ、
30;駆動補正制御系、31;目標ベルト速度設定部、
34;目標負荷トルク設定部、35;トルク/電流変換部、
38;駆動補正モータ、39;バンドパスフィルタ、
40;目標ベルト寄り位置設定部、42;ベルト寄り補償部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト機構を駆動する第1の電動機と、所定の目標速度もしくは目標位置に応じて前記第1の電動機を制御する第1の制御部と、該第1の制御部からの出力に応じて第1の電動機を駆動する第1のドライバ部とを有する第1の制御系と、前記ベルト機構に第1の電動機とは異なる駆動力を伝達する第2の電動機と、前記第2の電動機を制御する第2の制御部と、該第2の制御部からの出力に応じて第2の電動機を駆動する第2のドライバ部と有する第2の制御系とを具備するベルト駆動制御装置において、
前記第2の制御部は、前記第2の電動機によるベルト駆動方向の所定目標速度もしくは目標位置に応じて前記第2の電動機を制御するベルト駆動補償部と、前記第2の電動機の定常トルクを調整するトルク駆動補償部と含んで構成することを特徴とするベルト駆動制御装置。
【請求項2】
前記第2の制御部の前記ベルト駆動補償部は、前記第1の制御部によって設定されるベルト駆動方向の応答周波数よりも、ベルト駆動方向の応答周波数が高くなるように設定することを特徴とする請求項1記載のベルト駆動制御装置。
【請求項3】
前記第2の制御部の前記ベルト駆動補償部は、所定の定常的な目標速度もしくは目標位置に対して0型となるように設定されることを特徴とする請求項2記載のベルト駆動制御装置。
【請求項4】
前記第2の制御部の出力に対して所定のフィルタを乗算するフィルタ乗算部と、前記フィルタ乗算部の出力を前記第1の制御部の入力に加算する加算部とを備えたことを特徴とする請求項3記載のベルト駆動制御装置。
【請求項5】
前記第2の制御部の前記トルク駆動補償部は、ベルトの進行方向と直角となるベルト寄り方向の位置もしくは速度を検出するベルト寄り検出部の出力であるベルト寄り位置と目標ベルト寄り位置、もしくはベルト寄り速度と目標ベルト寄り速度を比較し、位置偏差もしくは速度偏差に対して、所定の演算を行いベルト寄り位置もしくはベルト寄り速度を制御するように前記第2の電動機のトルクを制御することを特徴とする請求項1記載のベルト駆動制御装置。
【請求項6】
前記第2の制御部の前記トルク駆動補償部は、ベルト寄り方向の応答周波数が前記第1の制御部によって設定されるベルト駆動方向の応答周波数よりも十分に低くなるように設定されることを特徴とする請求項5記載のベルト駆動制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のベルト駆動制御装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
第1の電動機で中間転写ベルトを駆動する駆動ローラを駆動し、第2の電動機で中間転写ベルト上のトナー画像を用紙に転写する2次転写部にある2次転写ローラを駆動することを特徴とする請求項7記載の画像形成装置。
【請求項1】
ベルト機構を駆動する第1の電動機と、所定の目標速度もしくは目標位置に応じて前記第1の電動機を制御する第1の制御部と、該第1の制御部からの出力に応じて第1の電動機を駆動する第1のドライバ部とを有する第1の制御系と、前記ベルト機構に第1の電動機とは異なる駆動力を伝達する第2の電動機と、前記第2の電動機を制御する第2の制御部と、該第2の制御部からの出力に応じて第2の電動機を駆動する第2のドライバ部と有する第2の制御系とを具備するベルト駆動制御装置において、
前記第2の制御部は、前記第2の電動機によるベルト駆動方向の所定目標速度もしくは目標位置に応じて前記第2の電動機を制御するベルト駆動補償部と、前記第2の電動機の定常トルクを調整するトルク駆動補償部と含んで構成することを特徴とするベルト駆動制御装置。
【請求項2】
前記第2の制御部の前記ベルト駆動補償部は、前記第1の制御部によって設定されるベルト駆動方向の応答周波数よりも、ベルト駆動方向の応答周波数が高くなるように設定することを特徴とする請求項1記載のベルト駆動制御装置。
【請求項3】
前記第2の制御部の前記ベルト駆動補償部は、所定の定常的な目標速度もしくは目標位置に対して0型となるように設定されることを特徴とする請求項2記載のベルト駆動制御装置。
【請求項4】
前記第2の制御部の出力に対して所定のフィルタを乗算するフィルタ乗算部と、前記フィルタ乗算部の出力を前記第1の制御部の入力に加算する加算部とを備えたことを特徴とする請求項3記載のベルト駆動制御装置。
【請求項5】
前記第2の制御部の前記トルク駆動補償部は、ベルトの進行方向と直角となるベルト寄り方向の位置もしくは速度を検出するベルト寄り検出部の出力であるベルト寄り位置と目標ベルト寄り位置、もしくはベルト寄り速度と目標ベルト寄り速度を比較し、位置偏差もしくは速度偏差に対して、所定の演算を行いベルト寄り位置もしくはベルト寄り速度を制御するように前記第2の電動機のトルクを制御することを特徴とする請求項1記載のベルト駆動制御装置。
【請求項6】
前記第2の制御部の前記トルク駆動補償部は、ベルト寄り方向の応答周波数が前記第1の制御部によって設定されるベルト駆動方向の応答周波数よりも十分に低くなるように設定されることを特徴とする請求項5記載のベルト駆動制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のベルト駆動制御装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
第1の電動機で中間転写ベルトを駆動する駆動ローラを駆動し、第2の電動機で中間転写ベルト上のトナー画像を用紙に転写する2次転写部にある2次転写ローラを駆動することを特徴とする請求項7記載の画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−20195(P2010−20195A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182150(P2008−182150)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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