説明

ポリ(アルキニルチオフェン)類およびそれから作製された電子デバイス

【課題】安定性がありかつ溶液処理可能でもあり、また周囲酸素によってその性能に悪影響を及ぼさない半導体材料を含む電子デバイスを提供する。
【解決手段】式(I)の半導体材料を含む電子デバイスである。


(I)
(式中、Rは炭化水素またはヘテロ原子含有基であり、nは反復単位の数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦政府から委託された研究または開発に関する記述)
この電子デバイスおよびその特定の成分は、米国標準技術局(NIST)により付与された米国政府共同契約番号70NANBOH3033によって補助されたものである。米国政府は、以下に示すデバイスおよび特定の半導体成分に関連する特定の権利を有する。
【0002】
本開示は、一般にポリ(3−アルキニルチオフェン)類、置換ポリ(3−アルキニルチオフェン)類およびその使用を対象とする。より具体的には、実施形態において、本開示は、薄膜トランジスタなどの有機電子デバイスにおいて溶液処理性のある実質的に安定したチャンネル半導体として選択されるポリ(アルキニル置換チオフェン)類の部類を対象とする。
【背景技術】
【0003】
溶液処理が可能であり、そのデバイスが、プラスチック基板上に柔軟な薄膜トランジスタ(TFT)を加工するのに望ましい機械的耐久性および構造的柔軟性の特徴を有する優れた溶媒溶解性を有するポリ(3−アルキニルチオフェン)類で加工されたTFTなどの所望の電子デバイスが存在する。柔軟なTFTによって、構造的柔軟性および機械的耐久性の特徴を有する電子デバイスの設計が可能になる。プラスチック基板をポリ(3−アルキニルチオフェン)成分と一緒に用いると、従来の剛性のシリコンTFTを、機械的により耐久性があり構造的により柔軟なTFT設計物に変えることができる。これは、大面積イメージセンサ、電子ペーパおよび他のディスプレイメディアなどの大面積デバイスにおいて特に価値が高い。また、スマートカード、無線IC(RFID)タグおよびメモリ/ストレージ素子などの低価格マイクロエレクトロニクス用の集積回路論理素子のためにポリ(3−アルキニルチオフェン)TFTを選択することによって、機械的耐久性を向上させ、したがってその耐用年数を向上させることもできる。
【0004】
多くの半導体材料は、空気に曝露された場合、周囲酸素によって酸化的にドーピングされて伝導度が増大する結果となるので不安定であると考えられている。これらの材料から加工されたデバイスでは、オフ電流が大きくなり、電流オン/オフ比が小さくなるという結果となる。したがって、これらの材料の多くについて、環境酸素を排除し酸化的ドーピングを回避するかまたはそれを最少にするために、通常材料処理およびデバイス加工の際に厳密な予防措置が施される。これらの予防手段は製造コストを増大させ、したがって特に大面積デバイスのためのアモルファスシリコン技術に対する、経済性のある代替策としてのある種の半導体TFTの魅力を相殺することになる。本開示の実施形態では、上記および他の欠点を回避または最少化する。
【0005】
薄膜トランジスタ(TFT)用の半導体層として選択された場合、位置選択性ポリチオフェン類は、空気に対して敏感であり、酸素、すなわち空気中における光誘発の酸化的ドーピングに曝露されると不安定である。本開示の薄膜トランジスタでは、この欠点が回避または最少化される。
【0006】
ペンタセン類およびヘテロアセン類などのアセン類は、TFTにおけるチャンネル半導体として用いられる場合、満足できる高い電界効果移動度を有することが知られている。しかし、この材料は、例えば、光線のもとでの大気酸素によって急速に酸化され、そうした化合物は周囲条件下で処理可能であるとは考えられていない。さらに、TFT用に選択された場合、アセン類は、薄膜形成特性が劣っており、実質的に不溶性であり、これらは本質的に溶液処理が不可能である。したがってそうした化合物は、ほとんど真空蒸着法によって処理されており、その結果製造コストが高くなる。この欠点は、本明細書で示すポリ(アルキニルチオフェン)類で作製されたTFTを用いれば最少化される。
【0007】
電界効果TFTで使用するための多くの有機半導体材料が記載されている。そうした材料には、ペンタセンなどの有機小分子(例えば、D.J.グントラッハ(Gundlach)ら、「Pentacene organic thin film transistors molecular ordering and mobility」、IEEE Electron Device Lett.、Vol.18、87頁(1997年)を参照)、セキシチオフェン類(sexithiophene)またはその変形体などのオリゴマ(例えば文献、F.ガルニエール(Garnier)ら、「Molecular engineering of organic semiconductors:Design of self assembly properties in conjugated thiophene oligomers」、J.Amer.Chem.Soc.、Vol.155、8716頁(1993年)を参照)、およびポリ(3−アルキルチオフェン)(例えば文献、Z.バオら、「Soluble and processable regioregular poly(3−hexylthiophene) for field−effect thin film transistor application with high mobility」、Appl Phys Lett Vol.69、4108頁(1996年)を参照)が含まれる。有機材料をベースとしたTFTは一般に、シリコン結晶またはポリシリコン結晶TFTなどの従来のそのシリコン系対応物より低い性能特性をもたらすが、それでもこれらは、高い移動度が必要とされない分野の用途では十分に有用である。
【0008】
また、多くの既知の小分子またはオリゴマをベースとしたTFTデバイスは、加工のために困難な真空蒸着技術をあてにしている。真空蒸着は主に、これらの材料が不溶性であるか、あるいは、スピンコーティング、溶液キャスト法またはスタンププリンティングによるその溶液プロセスが一般に均一な薄膜をもたらさないという理由で選択される。
【0009】
【非特許文献1】D.J.グントラッハ(Gundlach)ら、「Pentacene organic thin film transistors molecular ordering and mobility」、IEEE Electron Device Lett.、Vol.18、87頁(1997年)
【非特許文献2】F.ガルニエール(Garnier)ら、「Molecular engineering of organic semiconductors:Design of self assembly properties in conjugated thiophene oligomers」、J.Amer.Chem.Soc.、Vol.155、8716頁(1993年)
【非特許文献3】Z.バオら、「Soluble and processable regioregular poly(3−hexylthiophene) for field−effect thin film transistor application with high mobility」、Appl Phys Lett Vol.69、4108頁(1996年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
さらに、真空蒸着は、大面積様式のための安定した薄膜品質を実現するのに困難も伴う。溶液プロセスにより、例えば位置選択性ポリ(3−アルキルチオフェン−2,5−ジイル)の位置選択性成分から加工されたものなどのポリマTFTは、いくらかの移動度はもたらすが、空気中で酸化的ドーピングを受けるという問題点がある。周囲条件でこれらの材料から加工されたTFTは一般に、非常に大きなオフ電流と非常に低い電流オン/オフ比を示し、その性能特性は急速に低下すると考えられている。したがって、優れた特性を有する低コストのTFT設計のためには、安定性がありかつ溶液処理可能でもあり、また周囲酸素によってその性能に悪影響を及ぼされない半導体材料、例えば本明細書で示すポリ(3−アルキニルチオフェン)類で作製されたTFT、を有することは非常に価値があることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、式(I)の半導体材料を含む電子デバイスである。
【化1】


(I)
(式中、Rは適切な炭化水素またはヘテロ原子含有基であり、nは反復単位の数を表す。)
【0012】
また、前記電子デバイスにおいて、Rがアルキル、アリールまたはアルキルアリールの炭化水素であることが好ましい。
【0013】
また、前記電子デバイスにおいて、Rが1〜約30の炭素原子を有するアルキル、6〜約48の炭素原子を有するアリールまたは7〜約37の炭素原子を有するアルキルアリールの炭化水素であることが好ましい。
【0014】
また、前記電子デバイスにおいて、Rが炭化水素アルキルであり、nが約2〜約5,000の数を表すことが好ましい。
【0015】
また、前記電子デバイスにおいて、前記炭化水素が、フェニル、メチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、トリデシルフェニル、テトラデシルフェニル、ペンタデシルフェニル、ヘキサデシルフェニル、ヘプタデシルフェニルまたはオクタデシルフェニルのアリールであることが好ましい。
【0016】
また、前記電子デバイスにおいて、Rがアルコキシであり、前記電子デバイスが薄膜トランジスタであることが好ましい。
【0017】
また、前記電子デバイスにおいて、Rが約1〜約12個の炭素原子を有するアルキルであることが好ましい。
【0018】
また、前記電子デバイスにおいて、Rが1〜約50個の炭素原子を有する炭化水素であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、基板と、ゲート電極と、ゲート誘電体層と、ソース電極と、ドレイン電極と、前記ソース及び/又はドレイン電極およびゲート誘電体層と接触している式(I)の半導体層とを含む薄膜トランジスタデバイスである。
【化2】


(I)
(式中、Rは適切な炭化水素またはヘテロ原子含有基であり、nは反復単位の数を表す。)
【0020】
また、前記薄膜トランジスタデバイスにおいて、前記炭化水素が、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルまたはエイコサニルのアルキルであることが好ましい。
【0021】
また、前記薄膜トランジスタデバイスにおいて、前記半導体が以下の式で表されることが好ましい。
【0022】
【化3】


(1)
【0023】
【化4】


(2)
【0024】
【化5】


(3)
【0025】
【化6】


(4)
【0026】
【化7】


(5)
【0027】
【化8】


(6)
【0028】
【化9】


(7)
【0029】
【化10】


(8)
(式中、R’はメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコサニル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル、ヒドロキシヘキシル、ヒドロキシヘプチル、ヒドロキシオクチル、ヒドロキシノニル、ヒドロキシデシル、ヒドロキシウンデシル、ヒドロキシドデシル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル、メトキシペンチル、メトキシオクチル、トリフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロペンチル、ペルフルオロヘキシル、ペルフルオロヘプチル、ペルフルオロオクチル、ペルフルオロノニル、ペルフルオロデシル、ペルフルオロウンデシルまたはペルフルオロドデシルであり、nは約2〜約5,000、約10〜約200または約20〜約100である。)
【0030】
また、前記薄膜トランジスタデバイスにおいて、前記炭化水素が1〜約12の炭素原子を有するアルキル、あるいは6〜約24の炭素原子を有するアリールであり、nが10〜約100であることが好ましい。
【0031】
また、前記薄膜トランジスタデバイスにおいて、前記半導体が以下の式で表されることが好ましい。
【0032】
【化11】


(1a)
【0033】
【化12】



(2a)
【0034】
【化13】


(2b)
(式中、nは約20〜約100である。)
【0035】
また、前記薄膜トランジスタデバイスにおいて、前記半導体がポリ(3−デシニルチオフェン)であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本開示の様々な代表的実施形態を図1から図4に示す。ここでは、ポリ(3−デシニルチオフェン)などのポリ(3−アルキニルチオフェン)が薄膜トランジスタ(TFT)構造体におけるチャンネルまたは半導体材料として選択されている。
【0037】
本開示の特徴は、TFTデバイスなどのマイクロエレクトロニクスデバイスの用途に有用な半導体であるポリ(3−アルキニルチオフェン)を提供することである。
【0038】
本開示の他の特徴は、薄膜の吸収スペクトルで測定して約1eV〜約3eVのバンドギャップを有し、TFT半導体チャンネル層材料として用いるのに適したポリ(3−アルキニルチオフェン)を提供することである。
【0039】
本開示のさらに他の特徴では、マイクロエレクトロニクス成分として有用であるポリ(3−アルキニルチオフェン)類であって、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン等の一般的な有機溶媒に例えば少なくとも約0.1重量%〜約95重量%の溶解度を有するポリ(3−アルキニルチオフェン)類を有し、したがって、これらの成分が、スピンコーティング、スクリーンプリンティング、スタンププリンティング、ディップコーティング、溶媒キャスト法、ジェットプリンティング等の溶液プロセスによって経済的に加工することができるポリ(3−アルキニルチオフェン)類を提供する。
【0040】
また、本開示の他の特徴では、新規なポリ(アルキニルチオフェン)およびそのデバイスであって、そのデバイスが、酸素の悪影響に対して向上した抵抗性を示す、すなわち、これらのデバイスが比較的高い電流オン/オフ比を示すと考えられ、その性能が、位置選択性ポリ(3−アルキルチオフェン−3,5−ジイル)またはアセン類で加工された類似のデバイスほど急速には低下しないデバイスを提供する。
【0041】
実施形態では、ポリ(3−アルキニルチオフェン)類およびその電子デバイスを開示する。実施形態では、エチニルなどのアルキニルは、例えばポリ(3−アルキニルチオフェン)類中の置換エチニル基を指す。実施形態では、ポリ(3−アルキニルチオフェン)は、例えば、エチニル基などの少なくとも1対の任意選択で置換されたアルキニルを有するチオフェンである反復単位を含むポリマを指す。
【0042】
より具体的には、本開示は式(I)で示されるかまたは包含されるポリ(アルキニルチオフェン)類に関する。
【0043】
【化14】


(I)
(式中、Rはアルキル、アリール等の適切な炭化水素であり、nは反復単位の数を表し、例えば、nは約2〜約5,000、より具体的には約10〜約1,000、約10〜約500または約20〜約100の数である。)
【0044】
実施形態では、反復単位はポリマ中の重要な繰り返し単位と考えることができる。ポリマ中の反復単位の結合は、主に方向性の面に関して、位置選択性ポリマの場合のように同一であっても、あるいは位置ランダムポリマの場合のように異なっていてもよい。ポリマ中に反復単位Aと反復単位Bが存在する場合、反復単位Aが、他の反復単位Bと同一のタイプであるか、またはそれと異なるタイプであるということは、方向性の面または意味で関係がない。例えば、位置ランダムポリ(3−ヘキシルチオフェン)はただ1つのタイプの反復単位しか有していないと考えられる。
【0045】
実施形態では、位置選択性ポリ(3−アルキニルチオフェン)類の具体的な部類は上記(1)〜(8)の式で表される。
(式中、R’は、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコサニル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル、ヒドロキシヘキシル、ヒドロキシヘプチル、ヒドロキシオクチル、ヒドロキシノニル、ヒドロキシデシル、ヒドロキシウンデシル、ヒドロキシドデシル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル、メトキシペンチル、メトキシオクチル、トリフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロペンチル、ペルフルオロヘキシル、ペルフルオロヘプチル、ペルフルオロオクチル、ペルフルオロノニル、ペルフルオロデシル、ペルフルオロウンデシルまたはペルフルオロドデシルの炭化水素であり、nは約2〜約5,000、約10〜約200または約20〜約100である。)
【0046】
実施形態では、例えば以下の反応スキーム(スキーム1)によるポリ(3−アルキニルチオフェン)類の調製方法を開示する。
スキーム1 ポリ(3−アルキニルチオフェン)の合成
【化15】

【0047】
より具体的には、2,5−ジブロモ−3−ヨードチオフェンを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中、室温、約23℃〜約26℃、最大で約50℃までの温度で、約2モル当量のN−ブロモスクシンイミド(NBS)を用いて3−ヨードチオフェン(Aldrichから入手できる)を臭素化して調製する。続いて、2,5−ジブロモ−3−デシニルチオフェンまたは2,5−ジブロモ−3−(4−ペンチルフェニル)チオフェンなどの2,5−ジブロモ−3−エチニルチオフェンを、トリエチルアミン(EtN)中で室温で、触媒量のジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(Pd(PPh)Clおよびヨウ化銅(II)(CuI)の存在下、2,5−ジブロモ−3−ヨードチオフェンを対応するエチニル化合物(5%未満すなわち0〜5%のデシン化合物)または1−エチニル−4−ブチルベンゼンと反応させて調製する。続いて、還流下のテトラヒドロフラン(THF)中で、[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ジクロロニッケル(II)(Ni(dppp)Cl)の存在下、シクロヘキシルマグネシウムクロリド(C11MgCl)などの約1モル当量のグリニャール試薬を加えて、ポリ(3−デシニルチオフェン)(1a)またはポリ(3−(4−ペンチルフェニル)エチニルチオフェン)(2a)などのポリ(3−エチニルチオフェン)を生成させる。
【0048】
R置換基の例には、約1〜約12個の炭素原子、約4〜約18個の炭素原子(範囲内の数、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17および18はすべて含まれる)を含む約1〜約30個の炭素原子を有するアルキル、例えばエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルまたはエイコサニル等;約6〜約54個の炭素原子、約6〜約48個の炭素原子、約6〜約36個の炭素原子、約6〜約24個の炭素原子、約6〜約18個の炭素原子、を有するアリール、例えばチエニル、フェニル、メチルフェニル(トリル)、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、トリデシルフェニル、テトラデシルフェニル、ペンタデシルフェニル、ヘキサデシルフェニル、ヘプタデシルフェニル、オクタデシルフェニル等が含まれる。本明細書で具体的に記載されていない他の適切な炭化水素も含まれるものとする。
【0049】
具体的なヘテロ原子含有基は知られており、例えば、ポリエーテル類、トリアルキルシリル類、ヘテロアリール類等、より具体的には、チエニル、フリルおよびピリジニル等のピリジアリールが含まれる。ヘテロ成分は、イオウ、酸素、窒素、ケイ素、セレン等の複数の周知の原子から選択することができる。
【0050】
ポリ(3−アルキニルチオフェン)の具体的な例は、上記式(1a)、(2a)、(2b)(式中、nはポリマ中の反復単位の数を表し、nは約20〜約100である。)である。
【0051】
実施形態では、ポリ(3−アルキニルチオフェン)類は、一般的なコーティング溶媒中に可溶性であるかまたは実質的に可溶性である。例えば、実施形態では、それらは、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の溶媒中で少なくとも約0.1重量%、より具体的には約0.5重量%〜約95重量%の溶解度を有する。さらに、TFTデバイスの半導体チャンネル層として加工した場合、本開示のポリ(3−アルキニルチオフェン)類または置換チオフェン類は、通常の四プローブ型導電率測定法で測定して、例えば約10−9S/cm〜約10−4S/cm、より具体的には約10−8S/cm〜約10−5S/cmの安定した導電率を提供できると考えられる。
【0052】
例えば、約10ナノメータ〜約500ナノメータまたは約100〜約300ナノメータの厚さの薄膜として溶液から加工した場合、本明細書で示したポリ(3−アルキニルチオフェン)類は、ペンタセンまたはある種のポリ(アルキルチオフェン)類等のアセン類から加工した類似のデバイスより、周囲条件下でより安定であると考えられる。保護されていない場合、上記ポリ(3−アルキニルチオフェン)材料およびデバイスは、一般に、周囲酸素に曝露後、ポリ(3−アルキルチオフェン−2,5−ジイル)の場合のように数日または数時間ではなく数週間安定であると考えられる。したがって、本開示の実施形態において、ポリ(3−アルキニルチオフェン)から加工されたデバイスは、より高い電流オン/オフ比を提供することができ、材料調製、デバイス加工および評価の際に周囲酸素を排除するための厳密な手順上の予防措置をとらない場合、その性能特性はペンタセンまたはポリ(3−アルキルチオフェン−2,5−ジイル)ほど急速に実質的に変化しない。実施形態では、本開示のポリ(3−アルキニルチオフェン)類の酸化的ドーピングに対する安定性によって、特に低コストのデバイス製造のためには、通常不活性雰囲気下で取り扱う必要がなく、したがってそのプロセスはより簡単であり、かつより費用効率が高く、その加工を大規模な製造プロセスに適用することができる。
【0053】
本開示の態様は、式(I)(式中、Rは適切な炭化水素またはヘテロ原子含有基であり、nは反復単位の数を表す)の半導体材料を含む電子デバイス;
【0054】
基板と、ゲート電極と、ゲート誘電体層と、ソース電極と、ドレイン電極と、そのソース/ドレイン電極およびゲート誘電体層と接触している式(I)の半導体層とを含む薄膜トランジスタデバイス、ここで、半導体材料は上記式(1)〜(8)の化合物からなる群から選択される(式中、R’はアルキル、アリール等の炭化水素であり、より具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコサニル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル、ヒドロキシヘキシル、ヒドロキシヘプチル、ヒドロキシオクチル、ヒドロキシノニル、ヒドロキシデシル、ヒドロキシウンデシル、ヒドロキシドデシル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル、メトキシペンチル、メトキシオクチル、トリフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロペンチル、ペルフルオロヘキシル、ペルフルオロヘプチル、ペルフルオロオクチル、ペルフルオロノニル、ペルフルオロデシル、ペルフルオロウンデシルまたはペルフルオロドデシルであり、nは約2〜約200である。);
【0055】
式(I)のポリマ;
【0056】
基板が、ポリエステル、ポリカーボネートまたはポリイミドを含むプラスチックシートであり、ゲート、ソースおよびドレイン電極がそれぞれ独立に、銀、金、ニッケル、アルミニウム、クロム、白金、インジウムチタン酸化物または導電性ポリマを含み、ゲート誘電体が窒化ケイ素または酸化ケイ素を含む誘電体層であるTFTデバイス;
【0057】
基板がガラスまたはプラスチックシートであり、前記ゲート、ソースおよびドレイン電極がそれぞれ金を含み、ゲート誘電体層が有機ポリマであるポリ(メタクリレート)またはポリ(ビニルフェノール)を含むTFTデバイス;
【0058】
基板がガラスまたはプラスチックシートであり、前記ゲート、ソースおよびドレイン電極がそれぞれ銀、金、クロムを含み、ゲート誘電体層が有機ポリマであるポリ(メタクリレート)、ポリシロキサンまたはポリ(ビニルフェノール)を含むTFTデバイス;
【0059】
ポリ(3−アルキニルチオフェン)層が、スピンコーティング、スタンププリンティング、スクリーンプリンティングまたはジェットプリンティングの溶液プロセスにより形成されるデバイス;
【0060】
ゲート、ソースおよびドレイン電極、ゲート誘電体および半導体層が、スピンコーティング、溶液キャスト法、スタンププリンティング、スクリーンプリンティングまたはジェットプリンティングの溶液プロセスにより形成されるデバイス;
【0061】
ならびに、基板がポリエステル、ポリカーボネートまたはポリイミドを含むプラスチックシートであり、ゲート、ソースおよびドレイン電極が有機導電性ポリマであるポリスチレンスルホネート−ドーピングされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、あるいはポリマバインダ中のコロイダルシルバーディスパージョンを含む導電性インク/ペーストから加工され、ゲート誘電体層が有機ポリマまたは無機酸化物粒子−ポリマ複合材であるTFTデバイスに関し、1つまたは複数のデバイスはTFTなどの電子デバイスを含む。
【0062】
図1は、基板16、それと接触している金属接点18(ゲート電極)および絶縁用誘電体層14の層を含むTFT構造体10であって、そのゲート電極の一部またはゲート全体が誘電体層14と接触しており、その層14の頂部に2つの金属接点20および22(ソースおよびドレイン電極)が固着されているTFT構造体の概略を示す図である。金属接点20および22の上およびその間に、ポリ(3−デシニルチオフェン)などの半導体ポリマ層12が存在する。ゲート電極は、基板や誘電体層等の中に完全に含めることができる。
【0063】
図2は、基板36と、ゲート電極38と、ソース電極40と、ドレイン電極42と、絶縁用誘電体層34と、ポリ(3−デシニルチオフェン)半導体層32とを含む他のTFT構造体30の概略を示す図である。
【0064】
図3は、ゲート電極として動作できる高度にn−ドーピングされたシリコンウエハ56と、熱的に成長した酸化ケイ素誘電体層54と、ポリ(3−デシニルチオフェン)半導体層52と、ソース電極60と、ドレイン電極62と、ゲート電極接点64とを含む他のTFT構造体50の概略を示す。
【0065】
図4は、基板76と、ゲート電極78と、ソース電極80と、ドレイン電極82と、ポリ(3−デシニルチオフェン)半導体層72と、絶縁用誘電体層74とを含むTFT構造体70の概略を示す図である。
【0066】
また、例えば既知のTFTデバイスを参照して、開示されていない他のデバイス、特にTFTデバイスも考えられる。
【0067】
本開示のいくつかの実施形態では、任意選択の保護層を、図1、図2、図3および図4のトランジスタ構造体のそれぞれの頂部に組み込むことができる。図4のTFT構造体では、絶縁用誘電体層74は保護層として機能することもできる。
【0068】
実施形態において、さらに本開示および図を参照して、基板層は一般に、目的の用途に応じて適切な様々な形態のシリコン、ガラス板、プラスチックフィルムまたはシート等を含むシリコン材料であってよい。構造的に柔軟なデバイスのためには、例えばポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドシート等のプラスチック基板を選択することができる。基板の厚さは、例えば約10ミクロン〜10mm超であってよく、特に柔軟なプラスチック基板のためには具体的な厚さは約50〜約100ミクロンであり、ガラスまたはシリコンなどの剛性の基板のためには約1〜約10mmであってよい。
【0069】
ソースおよびドレイン電極からゲート電極を隔てさせることができ、かつ半導体層と接触している絶縁用誘電体層は、一般に、無機材料フィルム、有機ポリマフィルムまたは有機−無機複合膜であってよい。誘電体層の厚さは、例えば約10ナノメータ〜約1ミクロンであり、より具体的な厚さは約100ナノメータ〜約500ナノメータである。誘電体層に適した無機材料の例には、酸化ケイ素等の無機酸化物、窒化ケイ素等の無機窒化物、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム等が含まれ、誘電体層用の有機ポリマの例には、ポリエステル類、ポリカーボネート類、ポリ(ビニルフェノール)、ポリイミド類、ポリスチレン、ポリ(メタクリレート)類、ポリ(アクリレート)類、エポキシ樹脂等が含まれ、無機−有機複合材料の例には、ポリエステル、ポリイミド、エポキシ樹脂等のポリマ中に分散されたナノサイズの金属酸化物粒子が含まれる。絶縁用誘電体層は一般に、使用する誘電体の誘電定数に応じて約50ナノメータ〜約500ナノメータの厚さのものである。より具体的には、誘電体は、例えば少なくとも約3の誘電定数を有し、したがって適切な約300ナノメータの誘電体厚さは、例えば約10−9〜約10−7F/cmの望ましい電気容量を提供することができる。
【0070】
例えば、誘電体層と、ソース/ドレイン電極との間にあり、かつそれらに接触して位置して本明細書で示すポリ(3−アルキニルチオフェン)類を含むアクティブ半導体層が配置されており、その場合、この層の厚さは通常、例えば約10ナノメータ〜約1μmまたは約40〜約100ナノメータである。この層は一般に、本開示のポリ(3−アルキニルチオフェン)類の溶液プロセスによって加工することができる。
【0071】
ゲート電極は、薄い金属フィルム、導電性ポリマフィルム、導電性インクまたはペーストで作製された導電性フィルムまたは基板自体(例えば高度にドーピングされたシリコン)であってよい。ゲート電極材料の例には、これらに限定されないが、アルミニウム、金、クロム、インジウムスズ酸化物、ポリスチレンスルホネート−ドーピングされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PSS/PEDOT)などの導電性ポリマ、Acheson Colloids Companyから入手可能なElectrodagなどの、ポリマバインダ中に含まれたカーボンブラック/グラファイトまたはコロイダルシルバーディスパージョンを含む導電性インク/ペースト、ならびにNoelle Industries等から入手可能な銀を充てんした導電性熱可塑性インクが含まれる。ゲート層は、金属または導電性金属酸化物の蒸着、スパッタリング、導電性ポリマ溶液または導電性インクからのコーティング、あるいはスピンコーティング、キャスティングまたはプリンティングによる分散によって作製することができる。ゲート電極層の厚さは、例えば約10ナノメータ〜約10ミクロンであり、具体的な厚さは、金属フィルムについては例えば約10〜約200ナノメータであり、ポリマ導体については約1〜約10ミクロンである。
【0072】
ソース電極層およびドレイン電極層は、半導体層に抵抗性の低いオーム接触を提供する材料から加工することができる。ソース電極およびドレイン電極としての使用に適した一般的な材料には、金、ニッケル、アルミニウム、白金、導電性ポリマおよび導電性インクなどのゲート電極材料からなるものが含まれる。この層の一般的な厚さは、例えば約40ナノメータ〜約1ミクロンであり、より具体的な厚さは約100〜約400ナノメータである。TFTデバイスは幅Wと長さLを有する半導体チャンネルを含む。半導体チャンネル幅は、例えば約10ミクロン〜約5mmであってよく、より具体的なチャンネル幅は約100ミクロン〜約1mmであってよい。半導体チャンネル長さは、例えば約1ミクロン〜約1mmであってよく、より具体的なチャンネル長さは約5ミクロン〜約100ミクロンであってよい。
【0073】
一般に約+10ボルト〜約−80ボルトの電圧をゲート電極に印加する場合、ソース電極は接地され、一般に、例えば約0ボルト〜約−80ボルトのバイアス電圧をドレイン電極に印加して半導体チャンネル間に担持された電荷担体を集める。
【0074】
本明細書で説明しなかった他の既知の材料も、本開示のTFTデバイスの様々な成分のために、実施形態において選択することができる。
【0075】
理論に拘泥するわけではないが、エチニル基などのアルキニルは、酸素への曝露の際に不安定性を最少にするかまたはそれを回避するように主に機能し、それによって、周囲条件下、溶液中でのポリ(3−アルキニルチオフェン)類の酸化安定性を増大させ、アルキルなどのR置換基は、塩化エチレン、テトラヒドロフラン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の一般的溶媒中におけるこれらのポリマの溶解を可能にすると考えられる。
【実施例】
【0076】
生成した生成物の特定は、CDCl中でのHNMRを含むいくつかの周知の方法で実施することができる。
【0077】
(実施例1)
<ポリ(3−デシニルチオフェン)(1a)の合成>
1)2,5−ジブロモ−3−ヨードチオフェン
3−ヨードチオフェン(4.20g、20ミリモル)を、アルゴン雰囲気下、室温でDMF(50mL)中に溶解した。DMF(50mL)中のN−ブロモスクシンイミド(NBS)(7.83g、40ミリモル)を撹拌しながら上記溶液に加えた。次いで、得られた混合物を室温で1時間撹拌し、反応温度を50℃に上げ、この温度でさらに3〜4時間保持した。DMF溶媒を除去した後、得られた液を酢酸エチル中に溶解し、水で3回洗浄した。生成した有機相を無水硫酸マグネシウム(MgSO)で脱水し、溶媒を除去した。溶離液としてヘキサンを用いたシリカゲルでのカラムクロマトグラフィによってさらに精製を実施した。2,5−ジブロモ−3−ヨードチオフェンを無色液体として得た。収量:7g(95%)。
【0078】
2)2,5−ジブロモ−3−デシニルチオフェン
上記調製の2,5−ジブロモ−3−ヨードチオフェン(3.43g、9.3ミリモル)と1−デシン(1.45g、10.5ミリモル)のトリエチルアミン(50mL)中の溶液に、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(0.28g、0.4ミリモル)とヨウ化銅(I)(38mg、0.2ミリモル)をアルゴン雰囲気下、0℃で加えた。反応混合物を、アルゴン雰囲気下で、0℃で6時間、室温で20時間撹拌した。溶媒を蒸発させた後、生成物を、溶離液としてヘキサンを用いたシリカゲルでのカラムクロマトグラフィによって精製した。2,5−ジブロモ−3−デシニルチオフェンを無色液体として得た。収量:3.32g(94%)。
【0079】
H NMR(CDCl中):6.88(s,1H)、2.41(t,J=7.0Hz,2H)、1.60(m,2H)、1.45(m,2H)、1.29(br,10H)、0.88(t,J=6.4Hz,3H)。
【0080】
3)ポリ(3−デシニルチオフェン)(1a)
乾燥した100mL三ッ口フラスコに、上記調製の2,5−ジブロモ−3−デシニルチオフェン(1.89g、5ミリモル)と無水THF(50mL)を仕込んだ。次いで、そのフラスコにシリンジで、ジエチルエーテル(2.5mL、5ミリモル)中の2Mシクロヘキシルマグネシウムクロリドを加えた。反応混合物を室温で30分間撹拌し、続いて、Ni(dppp)Cl(41mg、0.075ミリモル)を加えた。次いで、反応混合物を12時間還流させた。次いで反応混合物を室温に冷却し、メタノール(200mL)中で沈澱させ、濾過した。得られたポリマを、メタノール(48時間)、アセトン(24時間)およびヘキサン(24時間)で逐次ソックスレー抽出して精製した。最後に、残留固形物をクロロホルムに溶解させた。溶媒を除去した後、濃い紫色の固形物を真空下で乾燥して、ポリ(3−デシニルチオフェン)(1a)を得た。収量:0.50g(46%)。
【0081】
H NMR(CDCl中):7.09〜7.33(br)、2.56、1.73、1.51、1.29、0.87。
【0082】
GPC(標準としてポリスチレンを用いて):数平均分子量(M)=10,300、重量平均分子量/数平均分子量(M/M)=2.18。
【0083】
<デバイスの加工および評価>
例えば図3に概略を示した頂部接触型の薄膜トランジスタ構造体を選択した。デバイスは、約110ナノメータの厚さの熱的に成長させた酸化ケイ素層をその上に有するn−ドーピングしたシリコンウエハを含む。ウエハはゲート電極として機能し、他方、酸化ケイ素層はゲート誘電体として動作し、キャパシタメータで測定して約30nF/cm(ナノファラッド/平方cm)の電気容量を有していた。シリコンウエハを、先ず、イソプロパノール、アルゴンプラズマおよび乾燥空気で清浄化した。次いで清浄な基板を、トルエン中のオクチルトリクロロシラン(OTS8)の0.1M溶液に60℃で20分間浸漬させた。続いて、ウエハをトルエン、イソプロパノールおよび乾燥空気で洗浄した。0.3重量%の濃度でジクロロベンゼン中に溶解したポリ(3−デシニルチオフェン)(1a)を用いて、半導体層を固着させた。溶液を先ず1μmシリンジフィルタで濾過し、次いで室温で、1,000rpmで120秒間、OTS8シリコン基板にスピンコーティングして約20〜約50ナノメータの厚さの薄膜を得た。真空オーブン中、80℃で5〜10時間乾燥した後、約50ナノメータの金のソースおよびドレイン電極を、種々のチャンネル長さと幅を有するシャドーマスクを介して真空蒸着により半導体層の頂部に蒸着させ、それによって種々の寸法の一連のトランジスタを作製した。
【0084】
作製した電界効果トランジスタの性能の評価を、Keithley4200SCS半導体評価システムを用いて、周囲条件下、ブラックボックス中で実施した。キャリア移動度μを、式(1)
SD=Cμ(W/2L)(V−V (1)
(式中、ISDは飽和レジーム(saturated regime)でのドレイン電流であり、WおよびLはそれぞれ半導体チャンネルの幅および長さであり、Cはゲート誘電体層の単位面積あたりの電気容量であり、VおよびVはそれぞれゲート電圧およびしきい電圧である。)により、飽和レジーム(ゲート電圧V<ソース−ドレイン電圧VSD)でのデータから算出した。デバイスのVは、飽和レジームでのISDの平方根とデバイスのVとの関係から、測定データをISD=0まで外挿して決定した。
【0085】
電界効果トランジスタの他の特性はその電流オン/オフ比である。これは、蓄積レジーム(accumulation regime)での飽和ソース−ドレイン電流と、空乏レジーム(depletion regime)でのソース−ドレイン電流の比である。
【0086】
デバイスの移動特性およびアウトプット特性は、ポリ(3−デシニルチオフェン)(1a)がp型半導体であることを示した。W=5,000μmとL=90μmの寸法を有する約5個のトランジスタを評価して、約1〜約3、より具体的には0.001〜約0.008cm/Vs(1秒あたりのボルト)の移動度の結果であった。
移動度: 0.008cm−1−1
オン/オフ比: 10
【0087】
(実施例2)
<ポリ(3−(4−ペンチルフェニル)エチニルチオフェン)(2a)の合成>
1)2,5−ジブロモ−3−(4−ペンチルフェニル)エチニルチオフェン
トリエチルアミン(50mL)中の2,5−ジブロモ−3−ヨードチオフェン(3.52g、9.57ミリモル)と1−エチニル−4−ペンチルベンゼン(1.65g、9.57ミリモル)の溶液に、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(0.28g、0.4ミリモル)とヨウ化銅(I)(38mg、0.2ミリモル)をアルゴン雰囲気下、0℃で加えた。得られた反応混合物を、アルゴン雰囲気下0℃で6時間、室温で20時間拌した。溶媒を蒸発させた後、得られた生成物を、溶離液としてヘキサンを用いたシリカゲルでのカラムクロマトグラフィによって精製した。2,5−ジブロモ−3−(4−ペンチルフェニル)エチニルチオフェンを無色液体として得た。収量:3g(73%)。
【0088】
H NMR(CDCl中):7.44(d,J=8.3Hz,2H)、7.16(d,J=8.3Hz,2H)、7.00(s,1H)、2.61(t,J=7.7Hz,2H)、1.61(m,2H)、1.32(m,4H)、0.89(t,J=6.8Hz,3H)。
【0089】
2)ポリ(3−(4−ペンチルフェニル)エチニルチオフェン)(2a)
乾燥した100mL三ッ口フラスコに、上記調製の2,5−ジブロモ−3−(4−ペンチルフェニル)エチニルチオフェン(2.06g、5ミリモル)と無水THF(50mL)を仕込んだ。次いで、そのフラスコにシリンジで、ジエチルエーテル(2.5mL、5ミリモル)中の2Mシクロヘキシルマグネシウムクロリドを加えた。得られた反応混合物を室温で30分間撹拌し、続いて、Ni(dppp)Cl(41mg、0.075ミリモル)を加えた。次いで、反応混合物を12時間還流させた。次いで反応混合物を室温に冷却し、メタノール(200mL)中で沈澱させ、濾過した。生成したポリマを、メタノール(48時間)、アセトン(24時間)およびヘキサン(24時間)で逐次ソックスレー抽出して精製した。最後に、残留固形物をクロロホルムに溶解させた。溶媒を除去した後、濃い紫色の固形物を真空下で乾燥して、ポリ(3−(4−ペンチルフェニル)エチニルチオフェン)(2a)を得た。収量:0.20g(16%)。
【0090】
H NMR(CDCl中):7.41、7.02、2.51、1.56、1.32、0.90。
【0091】
GPC(標準としてポリスチレンを用いて):M=3,600、M/M=1.41。
【0092】
<デバイスの加工および評価>
半導体層としてポリ(3−(4−ペンチルフェニル)エチニルチオフェン)(2a)を用いたOTFTデバイスを加工し、実施例1のデバイス加工を繰り返して同様に評価した。デバイスの移動特性およびアウトプット特性は、ポリ(3−(4−ペンチルフェニル)エチニルチオフェン)(2a)がp型半導体であることを示した。W=5,000μmとL=90μmの寸法を有する5個(5)のトランジスタを評価して、実施例1のデバイスと同じような望ましい特性が得られた。
移動度: 0.001cm−1−1
オン/オフ比: 10
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施形態に係るTFT構造体の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る他のTFT構造体の概略を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る他のTFT構造体の概略を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る他のTFT構造体の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
10,30,50,70 TFT構造体、12 半導体ポリマ層、14,34,74 絶縁用誘電体層、16,36,76 基板、18,38,78 ゲート電極、20,22 金属接点、32,52,72 ポリ(3−デシニルチオフェン)半導体層、40,60,80 ソース電極、42,62,82 ドレイン電極、54 誘電体層、56 シリコンウエハ、64 ゲート電極接点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の半導体材料を含むことを特徴とする電子デバイス。
【化1】


(I)
(式中、Rは炭化水素またはヘテロ原子含有基であり、nは反復単位の数を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の電子デバイスであって、
Rが炭化水素アルキルであり、nが約2〜約5,000の数を表すことを特徴とする電子デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載の電子デバイスであって、
前記炭化水素が、フェニル、メチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、トリデシルフェニル、テトラデシルフェニル、ペンタデシルフェニル、ヘキサデシルフェニル、ヘプタデシルフェニルまたはオクタデシルフェニルのアリールであることを特徴とする電子デバイス。
【請求項4】
基板と、ゲート電極と、ゲート誘電体層と、ソース電極と、ドレイン電極と、前記ソース及び/又はドレイン電極およびゲート誘電体層と接触している式(I)の半導体層とを含むことを特徴とする薄膜トランジスタデバイス。
【化2】


(I)
(式中、Rは炭化水素またはヘテロ原子含有基であり、nは反復単位の数を表す。)
【請求項5】
請求項4に記載の薄膜トランジスタデバイスであって、
前記炭化水素が、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルまたはエイコサニルのアルキルであることを特徴とする薄膜トランジスタデバイス。
【請求項6】
請求項4に記載の薄膜トランジスタデバイスであって、
前記半導体が以下の式で表されることを特徴とする薄膜トランジスタデバイス。
【化3】


(1)
【化4】


(2)
【化5】


(3)
【化6】


(4)
【化7】


(5)
【化8】


(6)
【化9】


(7)
【化10】


(8)
(式中、R’はメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコサニル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル、ヒドロキシヘキシル、ヒドロキシヘプチル、ヒドロキシオクチル、ヒドロキシノニル、ヒドロキシデシル、ヒドロキシウンデシル、ヒドロキシドデシル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル、メトキシペンチル、メトキシオクチル、トリフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロペンチル、ペルフルオロヘキシル、ペルフルオロヘプチル、ペルフルオロオクチル、ペルフルオロノニル、ペルフルオロデシル、ペルフルオロウンデシルまたはペルフルオロドデシルであり、nは約2〜約5,000、約10〜約200または約20〜約100である。)
【請求項7】
請求項1に記載の電子デバイスであって、Rが約1〜約12個の炭素原子を有するアルキルであることを特徴とする電子デバイス。
【請求項8】
請求項4に記載の薄膜トランジスタデバイスであって、前記半導体が以下の式で表されることを特徴とする薄膜トランジスタデバイス。
【化11】


(1a)
【化12】



(2a)
【化13】


(2b)
(式中、nは約20〜約100である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−281475(P2007−281475A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98066(P2007−98066)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】