説明

ポンプ用電動機の回転子及びポンプ及び空気調和装置及び床暖房装置及び給湯装置及びポンプ用電動機の回転子の製造方法

【課題】冷温水の循環に伴う熱応力等によるポンプ用電動機の回転子のマグネットの割れを抑制し、ポンプ品質の向上を図ることを可能とするポンプ用電動機の回転子を提供する。
【解決手段】この発明に係るポンプ用電動機の回転子は、回転子部が、マグネットと、マグネットの内側に配置されるスリーブ軸受とを熱可塑性樹脂で一体成形し、同時に熱可塑性樹脂で羽根車取付部が形成されるものであって、マグネットは、磁極位置検出素子対向側の端面に、放射状に複数個形成され、断面形状が略長穴形状の凸部と、羽根車取付部側の端面に、放射状に複数個形成され、断面形状が略長穴形状の凹部とを備え、熱可塑性樹脂による一体成形時に、凸部と凹部とが熱可塑性樹脂で埋設されて、マグネットが熱可塑性樹脂で保持されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポンプ用電動機の回転子及びポンプ用電動機の回転子の製造方法に関する。また、そのポンプ用電動機の回転子を用いたポンプに関する。さらに、そのポンプを用いた空気調和装置及び床暖房装置及び給湯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネットとスリーブ軸受を熱可塑性樹脂で一体成形して製作されるポンプ用電動機の回転子において、マグネットの内径に備える半円状の溝の底面に、上型に設けられ回転子のつりあい穴を形成するためのピンを押し当てた状態でマグネットとスリーブ軸受とが熱可塑性樹脂により一体に成形されるポンプ用電動機の回転子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−197729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1におけるポンプ用電動機の回転子は、マグネットの両端面に凹凸部が存在せず、マグネットとスリーブとを熱可塑性樹脂で一体に成形し回転子を形成した際、マグネットの軸方向は熱可塑性樹脂により保持されるが径方向には保持されない。そのため、ポンプ内を循環する流体の温度差による熱衝撃等によりマグネットが割れる、さらに、割れたマグネットが拡散しポンプがロックするなどの恐れがあった。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、ポンプ用電動機の回転子のマグネットを強固に保持し、熱衝撃等によるマグネットの割れを抑制することで、ポンプの品質向上を図ることを可能とするポンプ用電動機の回転子及びポンプ及びポンプ用電動機の回転子の製造方法を提供する。
【0006】
さらに、そのポンプを搭載した空気調和装置及び床暖房装置及び給湯装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るポンプ用電動機の回転子は、水回路と、磁極位置検出素子が実装された基板を備えるモールド固定子と、を椀状隔壁部品で仕切るポンプに搭載され、椀状隔壁部品内に回転自在に収納され、一端が磁極位置検出素子に対向し、他端に羽根車を取付ける羽根車取付部を有する回転子部を備えるポンプ用電動機の回転子において、
回転子部は、
マグネットと、マグネットの内側に配置されるスリーブ軸受とを熱可塑性樹脂で一体成形し、同時に熱可塑性樹脂で羽根車取付部が形成されるものであって、
マグネットは、
磁極位置検出素子対向側の端面に、放射状に複数個形成され、断面形状が略長穴形状の凸部と、
羽根車取付部側の端面に、放射状に複数個形成され、断面形状が略長穴形状の凹部と、を備え、
熱可塑性樹脂による一体成形時に、凸部と凹部とが熱可塑性樹脂で埋設されて、マグネットが前記熱可塑性樹脂で保持されるものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係るポンプ用電動機の回転子は、スリーブ軸受とマグネットとが熱可塑性樹脂で一体成形される際に、マグネットの磁極位置検出素子対向側の端面に備える凸部と、羽根車取付部側の端面に備える凹部とが熱可塑性樹脂で埋設されるので、マグネットが軸方向及び、周方向に強固に保持され、ポンプ用電動機の回転子の品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態1を示す図で、ヒートポンプ式給湯装置300の構成図。
【図2】実施の形態1を示す図で、ポンプ10の分解斜視図。
【図3】実施の形態1を示す図で、モールド固定子50の斜視図。
【図4】実施の形態1を示す図で、モールド固定子50の断面図。
【図5】実施の形態1を示す図で、固定子組立49の分解斜視図。
【図6】実施の形態1を示す図で、下穴部品81を示す正面図(a)と平面図(b)。
【図7】実施の形態1を示す図で、ポンプ部40の分解斜視図。
【図8】実施の形態1を示す図で、椀状隔壁部品90の椀状隔壁部90a側から見た斜視図。
【図9】実施の形態1を示す図で、ポンプ10の断面図。
【図10】実施の形態1を示す図で、ケーシング41を軸支持部46側から見た斜視図。
【図11】実施の形態1を示す図で、回転子部60aの断面図(図13のA−A断面図)。
【図12】実施の形態1を示す図で、回転子部60aを羽根車取付部67a側から見た側面図。
【図13】実施の形態1を示す図で、回転子部60aを羽根車取付部67aの反対側から見た側面図。
【図14】実施の形態1を示す図で、スリーブ軸受66の拡大断面図。
【図15】実施の形態1を示す図で、樹脂マグネット68の断面図(図17のB−B断面図)。
【図16】実施の形態1を示す図で、樹脂マグネット68を突起68a側から見た側面図。
【図17】実施の形態1を示す図で、樹脂マグネット68を突起68aの反対側から見た側面図。
【図18】実施の形態1を示す図で、変形例の樹脂マグネット468を突起468aの反対側から見た側面図。
【図19】実施の形態1を示す図で、ポンプ10の製造工程を示す図。
【図20】実施の形態1を示す図で、冷媒−水熱交換器2を用いる装置の回路を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
本実施の形態のポンプ用電動機の回転子は、水回路と、磁極位置検出素子が実装された基板を備えるモールド固定子と、を椀状隔壁部品で仕切るポンプに搭載され、椀状隔壁部品内に回転自在に収納され、一端が磁極位置検出素子に対向し、他端に羽根車を取付ける羽根車取付部を有する回転子部を備えるポンプ用電動機の回転子において、
回転子部は、
マグネットと、マグネットの内側に配置されるスリーブ軸受とを熱可塑性樹脂で一体成形し、同時に熱可塑性樹脂で羽根車取付部が形成されるものであって、
マグネットは、
磁極位置検出素子対向側の端面に、放射状に複数個形成され、断面形状が略長穴形状の凸部と、
羽根車取付部側の端面に、放射状に複数個形成され、断面形状が略長穴形状の凹部と、を備え、
熱可塑性樹脂による一体成形時に、凸部と凹部とが熱可塑性樹脂で埋設されて、マグネットが前記熱可塑性樹脂で保持されることにより、マグネットを強固に保持することが可能となり、ポンプ用電動機の回転子の品質向上を図ることができるものである。
【0011】
本実施の形態は、ポンプ用電動機の回転子に特徴があるが、先ずポンプが用いられる装置の一例であるヒートポンプ式給湯装置について、その概要を簡単に説明する。
【0012】
図1は実施の形態1を示す図で、ヒートポンプ式給湯装置300の構成図である。図1に示すように、ヒートポンプ式給湯装置300は、ヒートポンプユニット100と、タンクユニット200と、ユーザが運転操作などを行う操作部11とを備える。
【0013】
図1において、ヒートポンプユニット100は、冷媒を圧縮する圧縮機1(例えば、ロータリ圧縮機、スクロール圧縮機等)、冷媒と水とが熱交換を行う冷媒−水熱交換器2、高圧の冷媒を減圧膨張させる減圧装置3、低圧の二相冷媒を蒸発させる蒸発器4を冷媒配管15によって環状に接続された冷媒回路と、圧縮機1の吐出圧力を検出する圧力検出装置5と、蒸発器4に送風するファン7と、ファン7を駆動するファンモータ6とを備えている。
【0014】
また、温度検出手段として、冷媒−水熱交換器2の沸上げ温度検出手段8と、冷媒−水熱交換器2の給水温度検出手段9と、外気温度検出手段17とを備えている。
【0015】
また、ヒートポンプユニット100は、ヒートポンプユニット制御部13を備える。ヒートポンプユニット制御部13は、圧力検出装置5、沸上げ温度検出手段8、給水温度検出手段9、及び外気温度検出手段17からの信号を受信し、圧縮機1の回転数制御、減圧装置3の開度制御、ファンモータ6の回転数制御を行う。
【0016】
タンクユニット200は、冷媒−水熱交換器2で高温・高圧の冷媒と熱交換することにより加熱された湯水を貯湯する温水タンク14と、風呂水の追い焚きを行う風呂水追い焚き熱交換器31と、風呂水循環装置32と、冷媒−水熱交換器2と温水タンク14の間に配置された温水循環装置であるポンプ10と、温水循環配管16と、冷媒−水熱交換器2と温水タンク14と風呂水追い焚き熱交換器31とに接続された混合弁33と、温水タンク14と混合弁33とを接続する風呂水追い焚き配管37とを備える。
【0017】
また、温度検出手段として、タンク内水温検出装置34、風呂水追い焚き熱交換器31を通過した後の水温を検出する追い焚き後水温検出装置35、混合弁33を通過した後の水温を検出する混合後水温検出装置36を備えている。
【0018】
また、タンクユニット200は、タンクユニット制御部12を備える。タンクユニット制御部12は、タンク内水温検出装置34、追い焚き後水温検出装置35、混合後水温検出装置36からの信号を受信するとともに、ポンプ10の回転数制御、混合弁33の開閉制御、及び操作部11との間で信号の送受信を行う。
【0019】
操作部11は、ユーザが湯水の温度設定や出湯指示などを行うためのスイッチなどを備えたリモコンや操作パネルなどである。
【0020】
図1において、上記のように構成したヒートポンプ式給湯装置における通常の沸上げ運転動作について説明する。操作部11またはタンクユニット200からの沸上げ運転指示がヒートポンプユニット制御部13に伝えられると、ヒートポンプユニット100は沸上げ運転を行う。
【0021】
ヒートポンプユニット100に備えられたヒートポンプユニット制御部13は、圧力検出装置5、沸上げ温度検出手段8、給水温度検出手段9の検出値などに基づいて、圧縮機1の回転数制御、減圧装置3の開度制御、ファンモータ6の回転数制御を行う。
【0022】
また、ヒートポンプユニット制御部13とタンクユニット制御部12との間で沸上げ温度検出手段8の検出値の送受信を行い、タンクユニット制御部12は、沸上げ温度検出手段8で検出した温度が目標沸上げ温度になるよう、ポンプ10の回転数を制御する。
【0023】
以上のように制御されるヒートポンプ式給湯装置300において、圧縮機1から吐出された高温高圧の冷媒は冷媒−水熱交換器2で給水回路側へ放熱しながら温度低下する。放熱して冷媒−水熱交換器2を通過した高圧低温の冷媒は、減圧装置3で減圧される。減圧装置3を通過した冷媒は蒸発器4に流入し、そこで外気空気から吸熱する。蒸発器4を出た低圧冷媒は圧縮機1に吸入されて循環し冷凍サイクルを形成する。
【0024】
一方、温水タンク14の下部の水は、温水循環装置であるポンプ10の駆動により冷媒−水熱交換器2へ導かれる。ここで、冷媒−水熱交換器2からの放熱によって水が加熱され、加熱された湯水は温水循環配管16を通って温水タンク14の上部に戻されて蓄熱される。
【0025】
以上のように、ヒートポンプ式給湯装置300において、温水タンク14と冷媒−水熱交換器2との間の温水循環配管16に、湯水を循環させる温水循環装置としてポンプ10が用いられる。
【0026】
図2は実施の形態1を示す図で、ポンプ10の分解斜視図である。
【0027】
図2に示すように、ポンプ10は、回転子(後述する)の回転により水を吸水して吐出するポンプ部40と、回転子を駆動するモールド固定子50と、ポンプ部40とモールド固定子50とを締結する締結ネジであるタッピングネジ160(図2の例は、5本)とを備える。但し、タッピングネジ160の数は5本に限定されるものではない。
【0028】
本実施の形態に係るポンプ10は、5本のタッピングネジ160をポンプ部40のボス部44に形成されたネジ穴44aを介し、モールド固定子50に埋め込まれた下穴部品81(後述する図5参照)の下穴84に締結することでポンプ10を組み立てる。
【0029】
先ず、モールド固定子50の構成について説明する。図3乃至図5は実施の形態1を示す図で、図3はモールド固定子50の斜視図、図4はモールド固定子50の断面図、図5は固定子組立49の分解斜視図である。
【0030】
図3、図4に示すように、モールド固定子50は、固定子組立49(後述する)をモールド樹脂53によりモールド成形することにより得られる。
【0031】
モールド固定子50の軸方向の一方の端面(ポンプ部40側)は、外周縁部に沿って平らなポンプ部設置面63になっている。
【0032】
ポンプ部設置面63には、五隅に略円柱状の樹脂成形品の下穴部品81の足部85(図4、図5参照)が軸方向に埋め込まれている。モールド樹脂53によるモールド成形時に、下穴部品81の足部85の一方の端面(ポンプ部40側)は、成形金型の金型押え部82(図4参照)になる。そのため、下穴部品81が、ポンプ部設置面63より所定の距離だけ内側に埋め込まれる形で表出している。表出しているのは、金型押え部82及びタッピングネジ160用の下穴84である。
【0033】
後述する固定子組立49から引き出されるリード線52が、モールド固定子50のポンプ部40の反対側の軸方向端面付近から外部に引き出されている(図4では、右隅)。
【0034】
モールド固定子50のモールド樹脂53(熱硬化性樹脂)によるモールド成形時の軸方向の位置決めは、基板押え部品95(図5参照)に形成されている複数個の突起95aの軸方向外側の端面が、上型の金型押え部になる。そのため、モールド固定子50の基板58側の軸方向端面に、複数個の突起95aの軸方向外側の端面(金型押え面)が表出している(図示せず)。
【0035】
また、反結線側(ポンプ部40側)の絶縁部56の軸方向端面が、下型の金型押え部になる。そのため、モールド固定子50の基板58の反対側の軸方向端面に、反結線側の絶縁部56の端面が表出している(図示せず)。
【0036】
モールド固定子50のモールド成形時の径方向の位置決めは、固定子鉄心54の内周面が金型に嵌合することでなされる。そのため、図3に示すモールド固定子50の内周部に、固定子組立49の固定子鉄心54のティースの先端部(内周部)が表出している。
【0037】
モールド固定子50の内部の構成、即ち、固定子組立49(図4に示す、リード線52、固定子鉄心54、絶縁部56、コイル57、基板58、端子59等)、下穴部品81については、後述する。
【0038】
次に、固定子組立49について説明する。図5に示すように、固定子組立49は、固定子47と、下穴部品81とを備える。
【0039】
固定子組立49は、以下に示す手順で製作される。
(1)厚さが0.1〜0.7mm程度の電磁鋼板が帯状に打ち抜かれ、かしめ、溶接、接着等で積層された帯状の固定子鉄心54を製作する。帯状の固定子鉄心54は、複数個のティースを備える。図3に示すモールド固定子50の内周部に、固定子鉄心54のティースの先端部が表出している。ここで示す固定子鉄心54は、薄肉連結部で連結されている12個のティースを有するので、図3においても、12箇所に固定子鉄心54のティースの先端部が表出している。但し、図3で見えているティースは12個のティースのうちの5個のティースである。
(2)固定子鉄心54のティースには、絶縁部56が施される。絶縁部56は、例えば、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の熱可塑性樹脂を用いて、固定子鉄心54と一体に又は別体で成形される。
(3)絶縁部56が施されたティースに、集中巻のコイル57(図4参照)が巻回される。12個の集中巻のコイル57を接続して、三相のシングルY結線の巻線を形成する。
(4)三相のシングルY結線であるので、絶縁部56の結線側には、各相(U相、V相、W相)のコイル57(図4参照)が接続される端子59(図4、図5参照、電源が供給される電源端子及び中性点端子)が組付けられる。電源端子は3個、中性点端子は1個である。
(5)基板58が結線側の絶縁部56(端子59が組付けられる側)に取り付けられる。基板58は、基板押え部品95により絶縁部56との間に挟持される。基板58には、電動機(ブラシレスDCモータ)を駆動するIC58a(駆動素子)、回転子60の位置を検出するホール素子58b(図4参照、位置検出素子)等が実装されている。IC58aは基板58の基板押え部品95側に実装されるので、図5で見えているが、ホール素子58bは、IC58aとは反対側に実装されるので、図5では見えていない。IC58aやホール素子58bを、電子部品と定義する。また、基板58には、その外周縁部付近の切り欠き部にリード線52を口出しするリード線口出し部品61が、取り付けられる。
(6)リード線口出し部品61が取り付けられた基板58が基板押え部品95により絶縁部56に固定され、端子59と基板58とが半田付けされた固定子47に下穴部品81を組みつけることで固定子組立49が完成する。
【0040】
図6は下穴部品81を示す正面図(a)と平面図(b)である。下穴部品81の構成を図6により説明する。下穴部品81は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の熱可塑性樹脂を成形して形成される。
【0041】
図6に示すように、タッピングネジ160の下穴84(図6(b)参照)を備えた略円柱部の複数の足部85が、薄肉の連結部87で連結されている。略円柱部の足部85は、下穴部品81を固定子47とともにモールド成形した後、下穴部品81の抜け防止のため、足部85の表出端面(金型押え部82、及び、突起83端部)を基準に中央部に向かって太くなるテーパ状である(図5の足部85の拡大図を参照)。
【0042】
また、下穴部品81は、下穴部品81の回転防止のための複数の突起85a(例えば、一つの足部85に4個)を足部85の外周部に備えている(図5、図6の足部85の拡大図を参照)。突起85aは、所定の周方向の幅で足部85の高さ方向に形成される。また、突起85aは、下穴部品81の回転を防止するために必要な所定の寸法分、足部85の外周部から突出している。下穴部品81は略円柱部の足部85を薄肉の連結部87で連結することで、モールド金型へ一度でセット可能なことにより、加工コストの低減が可能となる。
【0043】
また、下穴部品81の連結部87に、下穴部品81を固定子47に組み付けるための複数の爪(図示せず)を設け、固定子47の固定子鉄心54の外周部に形成された溝54aに、下穴部品81の爪を係り止めすることにより、固定子47と下穴部品81とをモールド金型へ一度でセット可能となり、加工コストの低減が可能となる。
【0044】
固定子47に下穴部品81を係り止めした固定子組立49のモールド樹脂53によるモールド成形時に、下穴部品81のタッピングネジ160用の下穴84の開口側の端面(金型押え部82(図6(a)))と、下穴部品81の他端面に備える突起83(図5、図6(a)参照)とを、モールド成形金型により狭持することで下穴部品81の軸方向の位置決めを行う。
【0045】
下穴部品81のタッピングネジ160用の下穴84の開口側の端面の金型押え部82の外径D2を、下穴部品81の開口側の端面の外径D1より小さくする(図4参照)。それにより、下穴部品81の端面は、金型押え部82を除く部分が、モールド樹脂53で覆われる。従って、下穴部品81の両端面がモールド樹脂53で覆われるので、下穴部品81の表出を抑制し、ポンプ10の品質向上を図ることが可能となる。
【0046】
モールド固定子50は、固定子47に組み付けられた下穴部品81がモールド樹脂53で一体に成形され、このとき下穴部品81の足部85のタッピングネジ160用の下穴84が表出する。ポンプ部40に形成されたネジ穴44aを介して、ポンプ部40とモールド固定子50とをタッピングネジ160で下穴84に締結して組み付けることにより、ポンプ部40とモールド固定子50とを強固に組み付けることが可能となる(図2参照)。
【0047】
次に、ポンプ部40の構成を説明する。図7乃至図10は実施の形態1を示す図で、図7はポンプ部40の分解斜視図、図8は椀状隔壁部品90の椀状隔壁部90a側から見た斜視図、図9はポンプ10の断面図、図10はケーシング41を軸支持部46側から見た斜視図である。図7に示すように、ポンプ部40は、以下に示す要素で構成される。
(1)流体の吸入口42と吐出口43とを有し、内部に回転子60の羽根車60bを収納するケーシング41:ケーシング41は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)などの熱可塑性樹脂を用いて成形される。ケーシング41には、流体の吸入口42側の端部に、ポンプ部40とモールド固定子50とを組み付ける際に用いられるネジ穴44aを有するボス部44が5箇所に設けられる。
(2)スラスト軸受71:スラスト軸受71の材質はアルミナ等のセラミックである。回転子60は、ポンプ10の運転中、回転子60の羽根車60bの表裏に作用する圧力差によりスラスト軸受71を介してケーシング41に押し付けられるため、スラスト軸受71にはセラミックにより製作されたものを使用し、耐摩耗性、摺動性を確保している。
(3)回転子60:回転子60は、回転子部60aと、羽根車60bとを備える。回転子部60aは、フェライト等の磁性粉末と樹脂を混練したペレットを成形したリング状(円筒状)の樹脂マグネット68(マグネットの一例)と、樹脂マグネット68の内側に設けられる円筒形のスリーブ軸受66(例えば、カーボン製)とが、例えばPPE(ポリフェニレンエーテル)等の樹脂部67で一体化される(後述する図11参照)。羽根車60bは、例えばPPE(ポリフェニレンエーテル)等の樹脂成形品である。回転子部60aと、羽根車60bとが超音波溶着等により接合される。本実施の形態は、回転子60の回転子部60aに特徴があるので、その詳細は後述する。
(4)軸70:軸70の材質は、アルミナ等のセラミック、SUSなどである。軸70は、回転子60に備えるスリーブ軸受66と摺動するため、セラミックやSUSなどの材質が選ばれ、耐磨耗性、摺動性を確保している。椀状隔壁部品90の軸支持部94に軸70の一端が挿入され、軸70の他端がケーシング41の軸支持部46に挿入される。椀状隔壁部品90の軸支持部94に挿入される軸70の一端は、軸支持部94に対して回転しないように挿入される。そのため、軸70の一端は所定の長さ(軸方向)円形の一部を切り欠いたD字形状で、椀状隔壁部品90の軸支持部94の孔も軸の形状に合わせた形状になっている。また、ケーシング41の軸支持部46に挿入される軸70の他端も、所定の長さ(軸方向)円形の一部を切り欠いたD字形状であり、軸70は長さ方向に対称形である。但し、軸70の他端は、ケーシング41の軸支持部46に回転可能に挿入される。軸70が長さ方向に対称形なのは、軸70を椀状隔壁部品90の軸支持部94に挿入する際に、上下の向きを意識することなく組立を可能とするためである(図9参照)。
(5)Oリング80:Oリング80の材質は、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)などである。Oリング80は、ポンプ部40のケーシング41と椀状隔壁部品90とのシールを行う。給湯機などに搭載されるポンプでは、水周りのシールに耐熱性、長寿命が求められるため、EPDMなどの材料を使用し、耐性を確保している。
(6)椀状隔壁部品90:椀状隔壁部品90は、PPE(ポリフェニレンエーテル)などの熱可塑性樹脂を用いて成形される。椀状隔壁部品90は、モールド固定子50との嵌合部である椀状隔壁部90aと、鍔部90bとを備える。椀状隔壁部90aは、円形の底部と円筒形の隔壁とで構成される。円形の底部の内面の略中央部に、軸70の一端が挿入される軸支持部94が立設している。鍔部90bには、鍔部90bを補強する補強リブ91(図8参照)が径方向に放射状に複数個(例えば、10個)形成されている。また、鍔部90bには、モールド固定子50のポンプ部40のポンプ部設置面63に納まる環状リブ93(図8参照)を備える。また、鍔部90bには、タッピングネジ160が通る孔90d(図7、図8参照)が5箇所に形成されている。さらに、鍔部90bのケーシング41側の面に、Oリング80を収納する環状のOリング収納溝90c(図7参照)が形成されている。
【0048】
ポンプ10は、椀状隔壁部品90にOリング80を設置した後、ケーシング41を椀状隔壁部品90に組付けポンプ部40を組立、モールド固定子50にポンプ部40を組付けタッピングネジ160等により固定して組立てられる。
【0049】
椀状隔壁部品90の底部に備えるリブ92(図8参照)と、モールド固定子50の溝(図示せず)とが、嵌合することでポンプ部40とモールド固定子50の周方向の位置決めがなされる。
【0050】
椀状隔壁部品90の椀状隔壁部90aの内周には、椀状隔壁部品90の軸支持部94に挿入される軸70に回転子60が嵌められて収納される。従って、モールド固定子50と回転子60との同軸を確保するために、モールド固定子50の内周と椀状隔壁部品90の椀状隔壁部90aの外周との隙間はできるだけ小さい方がよい。例えば、その隙間は、0.02〜0.06mm程度に選ばれる。
【0051】
モールド固定子50の内周と椀状隔壁部品90の椀状隔壁部90aの外周との隙間を小さくすると、モールド固定子50の内周に椀状隔壁部品90の椀状隔壁部90aを挿入する場合に、空気が逃げ道が狭くなり椀状隔壁部品90の挿入が困難になる。
【0052】
図11乃至図14は実施の形態1を示す図で、図11は回転子部60aの断面図(図13のA−A断面図)、図12は回転子部60aを羽根車取付部67a側から見た側面図、図13は回転子部60aを羽根車取付部67aの反対側から見た側面図、図14はスリーブ軸受66の拡大断面図である。
【0053】
図11乃至図14を参照しながら回転子部60aについて説明する。図11乃至図13に示すように、回転子部60aは、少なくとも以下の要素を備える。そして、例えば、PPE(ポリフェニレンエーテル)等の熱可塑性樹脂(樹脂部67)により、樹脂マグネット68と、スリーブ軸受66とが一体成形される。
(1)樹脂マグネット68;
(2)スリーブ軸受66;
(3)樹脂部67(熱可塑性樹脂で構成される部分、羽根車60bを取付ける羽根車取付部67aは、熱可塑性樹脂で構成される樹脂部67に形成される)。
【0054】
樹脂マグネット68は、略リング状(円筒状)で、フェライト等の磁性粉末と樹脂を混練したペレットで成形したものである。
【0055】
スリーブ軸受66(例えば、カーボン製)は、樹脂マグネット68の内側に設けられる。スリーブ軸受66は、形状が円筒状である。スリーブ軸受66は、ポンプ10の椀状隔壁部品90に組み付けられた軸70に嵌合して回転するため、軸受けの材料に好適な焼結カーボン、カーボン繊維を添加したPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の熱可塑性樹脂、セラミック等で製作される。スリーブ軸受66は、概略軸中心から両端に向かって外径が小さくなる抜きテーパを備え、外周側の概略軸中心に回り止めとなる半球状の突起66a(図14参照)を複数備える。
【0056】
羽根車取付部67a側の樹脂マグネット68の端面に形成される樹脂部67には、樹脂成形用金型の上型に設けられるマグネット押さえ部の箇所に第1の凹部67bが形成される。第1の凹部67bは、図11の例では、略中央部(径方向)に形成される。第1の凹部67bは、樹脂マグネット68の突起68aと対向する位置に形成される。
【0057】
また、羽根車取付部67aには、図12に示すように、羽根車60bを取り付けるための羽根車位置決め穴67cが、周方向に略等間隔に、例えば、3個形成されている。羽根車位置決め穴67cは、羽根車取付部67aを貫通している。羽根車位置決め穴67cは、樹脂マグネット68の3個の突起68a(図12に、3個の突起68aが示されている)のうちの2個の中間の径方向延長線上に形成されている。
【0058】
さらに、羽根車取付部67aには、図12に示すように、回転子部60aの熱可塑性樹脂(樹脂部67)による成形時のゲート67e(樹脂注入口)が、周方向に略等間隔に、例えば、3個形成されている。ゲート67eは、樹脂マグネット68の3個の突起68aの径方向の延長線上で、羽根車位置決め穴67cよりも内側に形成されている。
【0059】
そして、羽根車取付部67aと反対側の樹脂マグネット68の内周面に形成される樹脂部67には、樹脂成形用金型の下型に設けられる位置決め用突起(図示せず)に嵌め合わされる切欠き67dが形成される(図11、図13参照)。切欠き67dは、図13の例では、略90°間隔で4箇所に形成される。切欠き67dは、樹脂マグネット68の切欠き68b(後述、図17)の位置に形成される。
【0060】
図15乃至図17は実施の形態1を示す図で、図15は樹脂マグネット68の断面図(図17のB−B断面図)、図16は樹脂マグネット68を突起68a側から見た側面図、図17は樹脂マグネット68を突起68aの反対側から見た側面図である。
【0061】
次に、図15乃至図17を参照しながら樹脂マグネット68の構成を説明する。ここで示す樹脂マグネット68は、磁極数が8極のものである。樹脂マグネット68は、回転子60に成形された状態で、羽根車取付部67aと反対側の端面の内周側に、テーパ状の切欠き68bを周方向に略等間隔に複数個備える。図17の例では、切欠き68bは8個である。切欠き68bは、内側よりも端面側の径が大きくなるテーパ形状である。
【0062】
樹脂マグネット68は、テーパ状の切欠き68bが形成された端面と反対側の端面から所定の深さの内周側に、略角形状(円弧形状)の突起68aを周方向に略等間隔に複数個備える。図16の例では、突起68aは3個である。
【0063】
図16に示すように、突起68aは、側面から見て略角形状で、端面側に凸部68a−1を備える。回転子部60aを一体成形する際、突起68aの端部に備える凸部68a−1が回転子部60aを形成する熱可塑性樹脂(樹脂部67)で保持されることで、樹脂部67と樹脂マグネット68との間に樹脂のヒケによる微小な隙間が出来た際にも樹脂マグネット68の回転トルクを確実に伝達することができ、回転子部60aの品質向上が図れる。突起68aの形状は、略角形状に限定されるものではない。三角、台形、半円、多角形等の形状でもよい。
【0064】
樹脂マグネット68は、回転子60に成形された状態で、磁極位置検出素子(ホール素子58b(図4参照))対向側に、プラスチックマグネット(樹脂マグネット68の素材)が供給されるゲート68cを備え、ゲート68cの位置は極間である。磁極位置検出素子(ホール素子58b(図4参照))対向側の磁極間に樹脂マグネット68が供給されるゲート68cを備えることで、磁極のばらつきを抑え、磁極位置検出精度を向上し、ポンプ10の品質向上を図ることが可能となる。
【0065】
図15に示すように、樹脂マグネット68の中空部は、突起68aが形成される端面から概略軸方向の中心位置までストレート形状で、且つ、突起68aが形成される端面の反対側端面から概略軸方向の中心位置までは抜きテーパ形状である。そのため、樹脂マグネット68の生産性が向上し、製造コストの低減が可能となっている。即ち、樹脂マグネット68の中空部が抜きテーパとなっていることで、金型(上型)への取られを防止し、樹脂マグネット68の生産性向上が可能となる。樹脂マグネット68を成形する金型は、突起68aの抜きテーパ形状側の端面において上型と下型に分けられ、下型で形成される中空部の一部がストレート形状となっていることで、より上型への取られを防止し、樹脂マグネット68の生産性向上が可能となる。下型からはエジェクタピンで押し出して取り出す。
【0066】
図17に示すように、樹脂マグネット68は、磁極位置検出素子(ホール素子58b(図4参照))対向側の端面に、断面形状が略長穴形状の凸部68eが放射状に複数個(図17の例では、8個)形成されている。また、図16に示すように、羽根車取付部67a側の端面に、断面形状が略長穴形状の凹部68dが放射状に複数個(図16の例では、8個)形成されている。回転子部60aの熱可塑性樹脂(樹脂部67)による一体成形時に、凸部68eと凹部68dは熱可塑性樹脂(樹脂部67)で埋設され、樹脂マグネット68は樹脂部67で保持される。
【0067】
図17に示すように、磁極位置検出素子(ホール素子58b(図4参照))対向側に形成される凸部68eは、回転子60に形成される磁極の略中心に形成されている。即ち、樹脂マグネット68の素材が供給されるゲート68c間に放射状に形成されている。
【0068】
極中心に凸部68eを設けることで磁力を確保し、ホール素子58bによる磁極位置検出精度が向上することでポンプの品質向上を図ることができる。また、マグネットの磁力が向上することでポンプの性能向上を図ることができる。
【0069】
更に、樹脂マグネット68の羽根車取付部67a側に形成される凹部68dは、回転子60に形成される磁極間、即ち、樹脂マグネット68の素材が供給されるゲート68cの位置と、略同一放射線状に位置する。このように、樹脂マグネット68の極間に凹部68dを設けることで、磁力の低下を極力抑制し、ポンプ10の性能の低下を抑制することができる。
【0070】
樹脂マグネット68の磁極位置検出素子(ホール素子58b(図4参照))対向側に形成される凸部68e、または、羽根車取付部67a側に形成される凹部68dの少なくとも一方は、回転子60に形成される磁極と同数である。凸部68eや凹部68dを磁極と同数とすることにより、磁力のアンバランスを抑制できる。
【0071】
樹脂マグネット68は、磁極位置検出素子(ホール素子58b(図4参照))対向側の端面の外周部に、所定の幅で所定の高さで環状に軸方向に突き出した磁極位置検出部68fを備える(図15、図17参照)。樹脂マグネット68の磁極位置検出部68fと、基板58に実装されたホール素子58bとの軸方向距離を縮めることで、磁極位置検出精度の向上を図ることができる。
【0072】
磁極位置検出素子として、基板58に面実装されたホールICであるホール素子58bを用い、樹脂マグネット68の軸方向端面(磁極位置検出素子対向面)より樹脂マグネット68の漏れ磁束を検出することで、ホール素子58bを基板58にホール素子ホルダ(図示せず)で固定し、樹脂マグネット68の側面より樹脂マグネット68の主磁束を検出する場合に比べて、基板58の加工費などを低減することができ、ポンプ10の低コスト化が可能となる。
【0073】
図18は実施の形態1を示す図で、変形例の樹脂マグネット468を突起468aの反対側から見た側面図である。変形例の樹脂マグネット468は、樹脂マグネット68の素材が供給されるゲート468cの位置を極中心にしたものである。
【0074】
図18に示すように、変形例の樹脂マグネット468は、樹脂マグネット468の素材が供給されるゲート468cを極中心に配置するとともに、樹脂マグネット468の磁極位置検出素子対向側に形成される凸部468eが、樹脂マグネット468の素材が供給されるゲート468cと同じ位置に形成されている。即ち、凸部468eは極中心に形成されている。ゲート468cと凸部468eは、周方向に略等間隔に、極数分(8個)形成されている。図示はしないが、樹脂マグネット468の凸部468eが形成される軸方向端部と反対側の軸方向端部に形成される凹部は極間に形成されている。
【0075】
変形例の樹脂マグネット468の長所は、樹脂マグネット468の磁極中心をゲート468cの位置とし、且つ、磁極中心に形成される凸部468eを樹脂マグネット468の磁極数(8極)と同数とすることで樹脂マグネット468の磁力が向上し、ポンプ用電動機の性能向上を図ることができる。即ち、ゲート468cの位置は、樹脂マグネット468の配向がかかりやすいため、ゲート468cの位置を磁極中心とすることで樹脂マグネット468の配向精度を向上することが可能となる。
【0076】
次に、ポンプ用電動機の回転子60の熱可塑性樹脂による一体成形について説明する。樹脂マグネット68を例とする。
【0077】
樹脂マグネット68とスリーブ軸受66とを一体に成形する金型は、上型と下型で構成される(図示せず)。先ず、スリーブ軸受66が下型にセットされる。スリーブ軸受66は、横断面形状が対称であるため、周方向の向きを合わせることなく金型にセットすることができる。スリーブ軸受66は、外周部に突起66a(図14参照)を複数備えるが、突起66aの位置は特に限定するものではない。そのため、作業工程が簡素化されて生産性が向上し、製造コストの低減が可能となる。
【0078】
スリーブ軸受66は、下型にセットされた時、下型に備えるスリーブ軸受挿入部(図示せず)に、スリーブ軸受66の内径が保持されることにより、スリーブ軸受66と後工程でセットされる樹脂マグネット68との同軸度の精度が確保される。
【0079】
樹脂マグネット68は、スリーブ軸受66が下型にセットされた後に、樹脂マグネット68の一方の端面(ポンプ用電動機の回転子60の状態で、羽根車取付部67aと反対側の端面)の内径に備えるテーパ状の切欠き68bが下型に設けられる位置決め用突起(図示せず)に嵌め合わされてセットされる。図17の例では、切欠き68bは8個あるが、その中の略90°間隔の4個が下型の位置決め用突起(図示せず)に嵌め合わされる。切欠き68bを8個設けるのは、樹脂マグネット68を下型にセットする際の作業性を向上させるためである。
【0080】
さらに、上型が有するマグネット押さえ部(図示せず)を、樹脂マグネット68の他方の端面(ポンプ用電動機の回転子60の状態で、羽根車取付部67a側の端面)の内周部に形成された略角形状の突起68aに軸方向から押し当てる。それにより、スリーブ軸受66と樹脂マグネット68との位置関係および同軸が確保される。
【0081】
図16の例では、樹脂マグネット68の内周の略角形状(円弧形状)の突起68aは、全部で3個あり、突起68aの金型設置面(金型で押えられる部分)は一体成形後に表出する。突起68aが3個となっているのは、樹脂マグネット68の位置決め精度を確保すると同時に、一体成形に用いる熱可塑性樹脂の流入経路を確保することで、一体成形時の成形条件を緩和し、生産性を向上するためである。
【0082】
下型の樹脂マグネット68の挿入部(図示せず)と樹脂マグネット68の外径との間に隙間がある場合でも、上型が有する突起押さえ部(図示せず)が、内径押さえ部(位置決め用突起)との同軸度を確保することにより、スリーブ軸受66と樹脂マグネット68との位置関係及び同軸度の確保が可能となり、ポンプ10の品質向上を図ることが可能となる。
【0083】
また逆に、下型の樹脂マグネット68の挿入部(図示せず)と樹脂マグネット68の外径との間に隙間を作ることにより、樹脂マグネット68を金型にセットする作業性が向上し、製造コストが低減される。
【0084】
樹脂マグネット68とスリーブ軸受66とが金型にセットされた後、PPE(ポリフェニレンエーテル)等の熱可塑性樹脂が射出成形されて、回転子部60aが形成される。このとき、樹脂マグネット68の金型で押さえられない切欠き68b(図17)、即ち4箇所の切欠き68bと、樹脂マグネット68の磁極位置検出素子対向側の端面に設けられた凸部68eと、羽根車取付部67a側の端面に設けられた凹部68dとが、熱可塑性樹脂の樹脂部67に埋設され回転トルクの伝達部分となる。さらに、凸部68eと凹部68dとが、熱可塑性樹脂の樹脂部67に埋設されることにより、樹脂マグネット68が強固に保持される。
【0085】
樹脂マグネット68とスリーブ軸受66とが熱可塑性樹脂(樹脂部67)にて一体に成形された後、樹脂マグネット68に着磁を施す際、回転子部60aの羽根車取付部67aと反対側の樹脂マグネット68端面の内周面に形成される切欠き67d(図13では4箇所)を着磁時の位置決めに利用することで、精度の良い着磁が可能となる。
【0086】
以上のように、本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)回転子部60aにスリーブ軸受66と一体成形される樹脂マグネット68は、磁極位置検出素子(ホール素子58b)対向側の端面に、放射状に複数個形成され、断面形状が略長穴形状の凸部68eを備え、羽根車取付部67a側の端面に、放射上に複数個形成され、断面形状が略長穴形状の凹部68dを備え、熱可塑性樹脂(樹脂部67)による一体成形時に、凸部68eと凹部68dは熱可塑性樹脂(樹脂部67)で埋設され、樹脂マグネット68を保持することにより、樹脂マグネット68が強固に保持される。
(2)樹脂マグネット68の磁極位置検出素子(ホール素子58b)対向側に形成される凸部68eは、回転子60に形成される磁極の略中心に、略同一放射線状に形成されていることにより、磁極位置検出に用いる磁力を確保できる。
(3)樹脂マグネット68の羽根車取付部67a側に形成される凹部68dは、回転子60に形成される磁極間に、略同一放射線状に形成されていることにより、樹脂マグネット68に凹部68dを設けたことによる磁力低下を抑制することができる。
(4)樹脂マグネット68の磁極位置検出素子(ホール素子58b)対向側に形成される凸部68e、または、羽根車取付部67a側に形成される凹部68dの少なくとも一方は、回転子60に形成される磁極と同数とすることにより、樹脂マグネット68の磁力のアンバランスを抑制することができる。
(5)樹脂マグネット68は、磁極位置検出素子(ホール素子58b)対向側の端面に樹脂マグネット68の素材が供給されるゲート68cを備え、ゲート68cの位置は磁極間であることにより、磁極位置検出精度を向上することができる。
(6)樹脂マグネット68は、磁極位置検出素子(ホール素子58b)対向側の端面に樹脂マグネット68の素材が供給されるゲート68cを備え、ゲート68cの位置は磁極の略中心であることにより、樹脂マグネット68の配向精度を向上することができる。
(7)樹脂マグネット68は、磁極位置検出素子(ホール素子58b)対向側の端面の外周部に、所定の幅で所定の高さ軸方向に突き出した磁極位置検出部68fを備えることにより、磁極位置検出精度を向上することができる。
(8)樹脂マグネット68の中空部は、突起68aが形成される端面から概略軸方向の中心位置までストレート形状で、かつ、突起68aが形成される端面の反対側端面から概略軸方向の中心位置までは抜きテーパ形状となっていることにより、樹脂マグネット68の生産性を向上することができる。
【0087】
図19は実施の形態1を示す図で、ポンプ10の製造工程を示す図である。図19により、ポンプ10の製造工程を説明する。
(1)ステップ1:厚さが0.1〜0.7mm程度の電磁鋼板が帯状に打ち抜かれ、かしめ、溶接、接着等で積層された帯状の固定子鉄心54を製造する。併せて、スリーブ軸受66を製造する。さらに併せて、樹脂マグネット68を成形する。
(2)ステップ2:固定子鉄心54に巻線を行う。薄肉連結部で連結された帯状の固定子鉄心54のティースに、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の熱可塑性樹脂を用いる絶縁部56が施される。絶縁部56が施されたティースに集中巻のコイル57が巻回される。例えば、12個の集中巻のコイル57を接続して、三相のシングルY結線の巻線を形成する。三相のシングルY結線であるので、絶縁部56の結線側には、各相(U相、V相、W相)のコイル57が接続される端子59(電源が供給される電源端子及び中性点端子)が組付けられる。併せて、基板58を製造する。基板58は、基板押え部品95により絶縁部56との間に挟持される。基板58には、電動機(ブラシレスDCモータ)を駆動するIC、回転子60の位置を検出するホール素子等が実装されている。また、基板58には、その外周縁部付近の切り欠き部にリード線を口出しするリード線口出し部品61が、取り付けられる。併せて、回転子部60aを製造する。回転子部60aは、フェライト等の磁性粉末と樹脂を混練したペレットを成形したリング状(円筒状)の樹脂マグネット68と、樹脂マグネット68の内側に設けられる円筒形のスリーブ軸受66(例えば、カーボン製)とが、例えばPPE(ポリフェニレンエーテル)等の樹脂で一体化される。さらに、併せて、羽根車60bを成形する。羽根車60bは、PPE(ポリフェニレンエーテル)などの熱可塑性樹脂を用いて成形される。
(3)ステップ3:基板58を組付け固定子47を製造する。リード線口出し部品61が取り付けられた基板58が基板押え部品95により絶縁部56に固定される。併せて、回転子部60aに羽根車60bを超音波溶着等により組付ける。併せて、椀状隔壁部品90を成形する。併せて、軸70とスラスト軸受71を製造する。軸70は、SUSで製造される。スラスト軸受71はセラミックで製造される。
(4)ステップ4:基板58を半田付けする。端子59(電源が供給される電源端子及び中性点端子)と基板58とを半田付けする。併せて、下穴部品81を成形する。併せて、ケーシング41を成形する。ケーシング41は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)などの熱可塑性樹脂を用いて成形される。さらに、併せて、椀状隔壁部品90に回転子60等を組付ける。
(5)ステップ5:固定子組立49の製造。固定子47に、下穴部品81を組み付けることで固定子組立49が完成する。
(6)ステップ6:固定子組立49をモールド成形して、モールド固定子50を製造する。併せて、椀状隔壁部品90にケーシング41を固定してポンプ部40を組立てる。さらに、併せて、タッピングネジ160を製造する。
(7)ステップ7:ポンプ10の組立を行う。モールド固定子50にポンプ部40を組付けタッピングネジ160で固定する。
【0088】
図20は実施の形態1を示す図で、冷媒−水熱交換器2を用いる装置の回路を示す概念図である。冒頭で説明したヒートポンプ式給湯装置300は、冷媒−水熱交換器2を用いる装置の一例である。
【0089】
冷媒−水熱交換器2を用いる装置は、例えば、空気調和装置もしくは床暖房装置もしくは給湯装置等である。本実施の形態のポンプ10は、冷媒−水熱交換器2を用いる装置の水回路に搭載されて、冷媒−水熱交換器2で冷却もしくは加熱された水(湯)を水回路内で循環させる。
【0090】
図20に示す冷媒−水熱交換器2を用いる装置は、冷媒を圧縮する圧縮機1(例えば、スクロール圧縮機、ロータリ圧縮機等)、冷媒と水とが熱交換を行う冷媒−水熱交換器2、蒸発器4(熱交換器)等を有する冷媒回路を備える。また、ポンプ10、冷媒−水熱交換器2、負荷20等を有する水回路を備える。
【0091】
実施の形態1のポンプ用電動機の回転子60を搭載したポンプ10を、冷媒−水熱交換器2を用いる装置(空気調和装置もしくは床暖房装置もしくは給湯装置)に適用した場合、ポンプ10の性能及び品質向上、生産性の向上に伴い、冷媒−水熱交換器2を用いる装置(空気調和装置もしくは床暖房装置もしくは給湯装置)の性能向上及び品質向上、コスト低減が可能となる。
【符号の説明】
【0092】
1 圧縮機、2 冷媒−水熱交換器、3 減圧装置、4 蒸発器、5 圧力検出装置、6 ファンモータ、7 ファン、8 沸上げ温度検出手段、9 給水温度検出手段、10 ポンプ、11 操作部、12 タンクユニット制御部、13 ヒートポンプユニット制御部、14 温水タンク、15 冷媒配管、16 温水循環配管、17 外気温度検出手段、20 負荷、31 風呂水追い焚き熱交換器、32 風呂水循環装置、33 混合弁、34 タンク内水温検出装置、35 追い焚き後水温検出装置、36 混合後水温検出装置、37 風呂水追い焚き配管、40 ポンプ部、41 ケーシング、42 吸入口、43 吐出口、44 ボス部、44a ネジ穴、46 軸支持部、47 固定子、49 固定子組立、50 モールド固定子、52 リード線、53 モールド樹脂、54 固定子鉄心、56 絶縁部、57 コイル、58 基板、58a IC、58b ホール素子、59 端子、60 回転子、60a 回転子部、60b 羽根車、61 リード線口出し部品、63 ポンプ部設置面、66 スリーブ軸受、66a 突起、67 樹脂部、67a 羽根車取付部、67b 第1の凹部、67c 羽根車位置決め穴、67d 切欠き、67e ゲート、68 樹脂マグネット、68a 突起、68b 切欠き、68c ゲート、68d 凹部、68e 凸部、68f 磁極位置検出部、70 軸、71 スラスト軸受、80 Oリング、81 下穴部品、82 金型押え部、83 突起、84 下穴、85 足部、85a 突起、87 連結部、90 椀状隔壁部品、90a 椀状隔壁部、90b 鍔部、90c Oリング収納溝、90d 孔、91 補強リブ、92 リブ、93 環状リブ、94 軸支持部、95 基板押え部品、100 ヒートポンプユニット、160 タッピングネジ、200 タンクユニット、300 ヒートポンプ式給湯装置、468 樹脂マグネット、468a 突起、468c ゲート、468e 凸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水回路と、磁極位置検出素子が実装された基板を備えるモールド固定子と、を椀状隔壁部品で仕切るポンプに搭載され、前記椀状隔壁部品内に回転自在に収納され、一端が前記磁極位置検出素子に対向し、他端に羽根車を取付ける羽根車取付部を有する回転子部を備えるポンプ用電動機の回転子において、
前記回転子部は、
マグネットと、前記マグネットの内側に配置されるスリーブ軸受とを熱可塑性樹脂で一体成形し、同時に前記熱可塑性樹脂で前記羽根車取付部が形成されるものであって、
前記マグネットは、
前記磁極位置検出素子対向側の端面に、放射状に複数個形成され、断面形状が略長穴形状の凸部と、
前記羽根車取付部側の端面に、放射状に複数個形成され、断面形状が略長穴形状の凹部と、を備え、
前記熱可塑性樹脂による一体成形時に、前記凸部と前記凹部とが前記熱可塑性樹脂で埋設されて、前記マグネットが前記熱可塑性樹脂で保持されることを特徴とするポンプ用電動機の回転子。
【請求項2】
前記凸部は、当該回転子に形成される磁極の略中心に、略同一放射線状に形成されていることを特徴とする請求項1記載のポンプ用電動機の回転子。
【請求項3】
前記凹部は、当該回転子に形成される磁極間に、略同一放射線状に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポンプ用電動機の回転子。
【請求項4】
前記凸部または前記凹部の少なくとも一方は、当該回転子に形成される磁極と同数とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のポンプ用電動機の回転子。
【請求項5】
前記マグネットは樹脂マグネットで構成され、前記磁極位置検出素子対向側の端面に前記樹脂マグネットの素材が供給されるゲートを備え、前記ゲートの位置は磁極間であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のポンプ用電動機の回転子。
【請求項6】
前記マグネットは樹脂マグネットで構成され、前記磁極位置検出素子対向側の端面に前記樹脂マグネットの素材が供給されるゲートを備え、前記ゲート位置は磁極の略中心であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のポンプ用電動機の回転子。
【請求項7】
前記マグネットは、前記磁極位置検出素子対向側の端面の外周部に、所定の幅で所定の高さ軸方向に突き出した磁極位置検出部を備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のポンプ用電動機の回転子。
【請求項8】
前記マグネットの中空部は、周方向に略等間隔に複数個形成される略角形状の突起が軸方向に延在する端面から概略軸方向の中心位置までストレート形状で、かつ、前記突起が形成される端面の反対側端面から概略軸方向の中心位置までは抜きテーパ形状となっていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のポンプ用電動機の回転子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載のポンプ用電動機の回転子を搭載したことを特徴とするポンプ。
【請求項10】
請求項9のポンプを搭載したことを特徴とする空気調和装置。
【請求項11】
請求項9のポンプを搭載したことを特徴とする床暖房装置。
【請求項12】
請求項9のポンプを搭載したことを特徴とする給湯装置。
【請求項13】
固定子鉄心を製造し、併せてマグネットを成形し、さらに併せてスリーブ軸受を製造し、
前記固定子鉄心に巻線し、併せて基板を製造し、併せて羽根車を製造し、さらに併せて前記マグネットと前記スリーブ軸受を一体成形して回転子部を製造し、
前記巻線後の固定子鉄心に前記基板を組み付けて固定子を製造し、併せて前記羽根車と前記回転子部を組み付け、さらに併せて軸とスラスト軸受と椀状隔壁部品とを製造し、
前記固定子の端子と前記基板とを半田付けし、併せて下穴部品を成形し、併せてケーシングを成形し、さらに併せて前記椀状隔壁部品に回転子等を組付け、
前記固定子に、前記下穴部品を組み付けることで固定子組立を製造し、
前記固定子組立と前記下穴部品とをモールド一体成形してモールド固定子を製造し、併せてタッピングネジを製造し、さらに併せて前記椀状隔壁部品に前記ケーシングを固定してポンプ部を組立て、
前記モールド固定子に前記ポンプ部を組付け、前記タッピングネジで固定することを特徴とするポンプ用電動機の回転子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−95375(P2012−95375A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238074(P2010−238074)
【出願日】平成22年10月24日(2010.10.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】