説明

マイクロ波プラズマ処理装置

【課題】 処理対象物を所望の面内処理分布でプラズマ処理する。
【解決手段】 処理対象物の面内温度分布が処理結果に影響を与えるため、処理中の処理対象物に、予め定められた特定の面内温度分布を与える事ができる機構を提案する。処理対象物を載置する載置台に電磁波吸収発熱素材を組み込む。プラズマ生成用のマイクロ波発振器を使用し、第一の工程ではプラズマを発生させず、電磁波吸収発熱素材が組み込まれた載置台を加熱して予め定められた特定の面内温度分布を付与する。載置台に第二の工程では処理容器に処理対象物を入れ、処理対象物を予め定められた特定の面内温度分布まで加熱した後、通常のプラズマ処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体素子製造に用いられる半導体基板を処理容器に収納し、その処理容器内にプロセスガスを導入し、圧力制御可能な方法で減圧し、出力制御されたマイクロ波を導入し、プロセスガスを励起してプラズマを発生させ、プラズマより生成される活性種にてエッチング、アッシング等の加工を半導体基板に対して行うマイクロ波プラズマ処理装置の構成を対象とする。
【背景技術】
【0002】
半導体素子は、半導体表面に製膜した酸化膜などを選択的にエッチングし、局所的にリン、砒素、硼素などの物質をドーパントとしてイオン注入し半導体中に電子または正孔を発生して、半導体の伝導性を変化させる工程の繰り返しで目的とする回路素子を形成する。この選択的なエッチングや、局所的なイオン注入のため、マスク材として感光性を持たせた樹脂から構成されるフォトレジストが用いられる。このフォトレジストはエッチングやイオン注入の工程が終了後は不要となるため除去される。フォトレジストの除去には、ガスをマイクロ波により励起したプラズマより生成される活性種(ラジカル、イオン、オゾン)を使用し除去を行う、マイクロ波プラズマ処理装置が多く使用される。このマイクロ波プラズマ処理装置には通例、複数の処理容器が搭載され、この処理容器内に収納された半導体基板は予め定められたガス種、温度、圧力、マイクロ波出力制御のもと、半導体基板上の不要となったフォトレジストは、励起されたプラズマにより生成された活性種(ラジカル、イオン、オゾン)により、水蒸気、二酸化炭素又は一酸化炭素、その他生成物の低沸点のガス状の生成物となり、処理容器外へ排出され、半導体基板上のフォトレジストは除去される。この工程は通常、灰化工程、アッシング工程と呼ばれる。
【0003】
従来のマイクロ波プラズマアッシング装置では、例えば特許文献1における記載においても、マイクロ波によって生成したプラズマガスを載置台に保持された処理対象物に導いてプラズマ処理を行っている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−95704号公報(請求項1、請求項5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロ波にて生成されるプラズマを利用するマイクロ波プラズマ処理装置において、プラズマの分布は設定された圧力、導入ガス量、導入ガス種により変動し、その分布は処理対象物の処理結果に影響する。面内処理分布に着目した場合、圧力、導入ガス量、導入ガス種により支配されるため、意図的に面内処理分布を変化させ最適化することは構成が固定化された処置容器においては困難である。本発明では上記のような問題点を顧み、マイクロ波にて生成されるプラズマを利用するマイクロ波プラズマ処理装置において、載置台の面内温度分布を変更する事により処理対象物の面内処理分布を操作することが可能なマイクロ波プラズマ処理装置を提供する事を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の問題を解決するためのもので、請求項1に記載のマイクロ波プラズマ処理装置は、処理容器を有しており、処理対象物を載置する載置台を前記処理容器内に有しており、マイクロ波を発振するためのマイクロ波発振器を前記処理室外に有しており、前記マイクロ波発信器から前記処理室内にマイクロ波を導入するマイクロ波導入手段を有しており、マイクロ波を高効率で吸収して発熱し前記載置台を加熱する電磁波吸収発熱素材が前記載置台に設けられているマイクロ波プラズマ処理装置において、マイクロ波で加熱した際に前記載置台に予め定められた特定の面内温度分布を与える事ができる前記載置台の位置に少なくとも一つの前記電磁波吸収発熱素材が配置されており、前記マイクロ波発振器を共用してプラズマを生成する処理条件、及びプラズマを生成しない処理条件でマイクロ波を前記処理室内に導入できる事を特徴とする。
【0007】
「面内処理分布」とは、プラズマ処理によって処理対象である物質が処理される速度の、前記処理対象物の表面における分布の事を指す。
【0008】
「プラズマを生成しない処理条件」とは、プロセスのガス種、前記処理容器内圧力、マイクロ波出力、処理時間、などのパラメータがプラズマの生成に適しておらず、前記処理容器内にマイクロ波を導入してもプラズマが発生しない処理条件の事を指す。
【0009】
「プラズマを生成する処理条件」とは、プロセスのガス種、前記処理容器内圧力、マイクロ波出力、処理時間、などのパラメータがプラズマの生成に適しており、前記処理容器内にマイクロ波を導入するとプラズマが発生する処理条件の事を指す。
【0010】
また、請求項2に記載のマイクロ波プラズマ処理装置は、請求項1に記載のマイクロ波プラズマ処理装置が、前記処理対象物が前記処理容器内に収納されていない状態においてプラズマを生成しない処理条件で該処理室内へマイクロ波を導入し、更にマイクロ波により前記電磁波吸収発熱素材を発熱、及び昇温させる第一の処理条件を有しており、前記処理対象物が前記処理容器内に収納された状態においてプラズマを生成する処理条件で該処理室内へマイクロ波を導入し、生成されたプラズマに前記処理対象物をさらして処理する第二の処理条件を有しており、前記第一の処理条件を実行後にマイクロ波発振器を停止し、続けて前記第二の処理条件を実行する事を特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載のマイクロ波プラズマ処理装置は、請求項1、または請求項2のいずれかに記載の載置台が、表面が石英、Al2O3、ALN、SiC、Y23にて被覆されている事を特徴とする
また、請求項4に記載のマイクロ波プラズマ処理装置は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の載置台が、異なる前記電磁波吸収発熱素材の配置位置を有する前記載置台と交換する事ができる事を特徴とする。
【0012】
また、請求項5のマイクロ波プラズマ処理装置は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のマイクロ波プラズマ処理装置が、前記第一の処理条件の下で前記載置台の面内温度分布を計測する手段を有しており、マイクロ波による前記載置台の加熱中は計測結果をもとにマイクロ波の発振時間、もしくは発振出力の制御を行う事を特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上で述べたように、本発明によれば載置台に少なくとも一つの電磁波吸収発熱素材を配置する事により、マイクロ波加熱を照射する事によって載置台に予め定められた特定の面内温度分布を与える事ができる。また、マイクロ波照射後に処理対象物が載置台へと載置され、加熱される。処理対象物が加熱され、到達する面内温度分布は載置台の面内温度分布に依存して決まる事から、処理対象物にも予め定められた特定の面内温度分布を与える事が可能である。さらに、処理対象物の面内処理分布は同面内温度分布の影響を受けるため、処理対象物に予め定められた特定の面内処理分布を与える事ができる。加えて、電磁波吸収発熱素材の配置位置を変更する事で、処理対象物に所望の面内処理分布を与える事も可能となる。
【0014】
また、請求項2においては、処理対象物を処理室内に容れずにマイクロ波を導入して載置台を加熱する第一の処理条件、及び処理対象物を処理室内に容れてプラズマ処理する第二の処理条件を定義し、それらを続けて行えるようにした事で、自動制御によって処理対象物を連続して処理する事が可能である。
【0015】
また、請求項3においては、載置台を石英、Al2O3、ALN、SiC、Y23にて被覆することにより、載置台をマイクロ波照射によるダメージから保護する事が可能である。
【0016】
また、請求項4においては、載置台を予め定められた処理手順で交換できることにより、載置台の交換、及び定期メンテナンスを容易とし、歩留まりを低減させる事が可能である。
【0017】
また、請求項5においては、第一の処理条件中に載置台の面内温度分布を計測し、マイクロ波の発振時間、もしくは発振出力によってそれを制御する事により、載置台を予め定められた特定の面内温度分布へと制御して加熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の詳細を実施例の記述に従って説明する。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の具体例として示すマイクロ波プラズマ処理装置を、図面を用いて説明する。
【0020】
図1、及び図2は本発明の第一の実施形態であるマイクロ波プラズマ処理装置の断面図であり、図1は前処理である電磁波吸収発熱素材の加熱処理を、図2は処理対象物のプラズマ処理を示している。
【0021】
以下は第一の実施形態であるマイクロ波プラズマ処理装置の装置構造である。処理容器1には載置台2が設けられている。処理容器1の外部にはマイクロ波発振器3が設けられており、両者はマイクロ波導入管4で繋がれている。マイクロ波導入管4の処理容器1側に対する開口部は載置台2に対向して設けられており、載置台2、及びマイクロ波導管4は誘電体窓5によって遮断されている。載置台2には電磁波吸収発熱素材6が少なくとも一部を載置台2の表面に露出させて設けられおり、載置台2の上には処理対象物7が載置される。誘電体窓5によって遮断された処理容器1の載置台2側にはゲートバルブ8、ガスポート9、及び排気ポート10が設けられている。
【0022】
面内温度分布を計測できるように、載置台2には多数の熱電対11が埋め込まれている。熱電対11とコントローラ12、及びマイクロ波発振器3とは配線によって接続されている。載置台2の表面には石英、Al2O3、ALN、SiC、Y23のいずれかで被覆が成されている。また、載置台2は予め定められた手順によって取り外す事ができる構造となっている。以上で本発明の第一の実施形態は構成されている。
【0023】
以下、図1における電磁波吸収発熱素材の加熱処理について説明する。下記の処理は、処理室1内にマイクロ波を導入してもプラズマが発生しないように予め設定されたプロセスのガス種、処理容器1内圧力、マイクロ波出力、処理時間の下で行われる。マイクロ波発振器3からはマイクロ波が発振され、マイクロ波導入管4によって処理容器1内に導入されて載置台2へ照射される。電磁波吸収発熱素材6は導入されたマイクロ波を吸収して発熱し、載置台2を暖める。載置台2が予め定められた特定の面内温度分布になるように、加熱処理中コントローラ12は熱電対11から計測された載置台2の面内温度分布のデータを用いてマイクロ波発振器3の出力、及び発振時間を制御する。以上の手順で載置台2を加熱処理する事により、載置台2に予め定められた特定の面内温度分布を与える事ができる。
【0024】
以下、図2における処理対象物のプラズマ処理について説明する。下記の処理は、処理室1内にマイクロ波を導入するとプラズマが発生するように予め設定されたプロセスのガス種、処理容器1内圧力、マイクロ波出力、処理時間の下で行われる。また、下記の処理は電磁波吸収発熱素材6の加熱処理の次に行われ、マイクロ波発振器3が停止された後に継続して行われる。電磁波吸収発熱素材6の加熱処理後にゲートバルブ8が開閉し、そこから処理対象物7が処理容器1内に導入されて載置台2に載置される。処理対象物7は、載置台2によって予め定められた特定の面内温度分布まで加熱される。処理容器1は排気ポート10から排気される。処理中における処理容器1内の圧力は排気によって制御されており、指定の圧力まで減圧され、保たれる。ガスポート9からはプロセスガスが導入され、プロセスガスはマイクロ波導入管4から導入されたマイクロ波によって励起されてプラズマ13を発生させる。処理対象物7は生成されたプラズマ13にさらされ、処理される。
【0025】
図3、及び図4は本発明の第一の実施形態における、載置台2に予め定められた特定の面内温度分布を与えるためのシーケンスを示している説明図である。
【0026】
図3は載置台2に予め外周部の温度を高く定めた特定の温度分布を与える場合を例として示している。図3( a )は載置台2の上面図で、外周部を加熱するために載置台2の外周部へ電磁波吸収発熱素材6が配置されている。マイクロ波から電磁波吸収発熱素材6への受熱はマイクロ波の照射時間と出力とに依存して決まるため、両者を制御してマイクロ波を図3( a )の載置台2へ照射すると、載置台2は外周部の温度を高く定めた任意の目標面内温度分布まで加熱する事ができる。図3( b )は以上のシーケンスによる温度制御の概念を示すグラフである。
【0027】
図4は載置台2に予め中央部の温度を高く定めた特定の温度分布を与える場合を例として示している。図4( a )は載置台2の上面図で、中央部を加熱するために載置台2の中央部へ電磁波吸収発熱素材6が配置されている。マイクロ波の照射時間と出力とを制御してマイクロ波を図4( a )の載置台2へ照射すると、載置台2は中央部の温度を高く定めた任意の目標面内温度分布まで加熱する事ができる。図4( b )は以上のシーケンスによる温度制御の概念を示すグラフである。
【0028】
以上の図3、及び図4は、電磁波吸収発熱素材6の配置位置の選定、及びマイクロ波の照射時間と出力との制御を組み合わせる事で、載置台2を任意の面内温度分布までマイクロ波加熱するシーケンスを組むことができることを示している。
【0029】
これらの実施の形態では電磁波吸収発熱素材6の少なくとも一部の表面を露出させて載置台2へと設置したが、その上にセラミック製のカバーを被せてもよく、また載置台2をセラミック製として電磁波吸収発熱素材6を載置台2の内部へと埋め込んでもよい。
【0030】
また、これらの実施の形態では載置台2の面内表面温度の計測に熱電対11を使用したが、放射熱温度計やその他の温度計測器を使用してもかまわない。
【0031】
[産業上の利用可能性]
マイクロ波プラズマを使用するマイクロ波プラズマ処理装置において、プラズマ強度の面内分布の影響が大きいプロセスに有効と判断される。
【0032】
マイクロ波プラズマアッシング装置
マイクロ波プラズマエッチング装置
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第一の実施形態であるマイクロ波プラズマ処理装置における、電磁波吸収発熱素材の加熱処理の断面図
【図2】本発明の第一の実施形態であるマイクロ波プラズマ処理装置における、処理対象物のプラズマ処理の断面図
【図3】本発明の第一の実施形態であるマイクロ波プラズマ処理装置において、予め載置台2に外周部の温度を高く定めた特定の温度分布を与えるためのシーケンスを示す説明図
【図4】本発明の第一の実施形態であるマイクロ波プラズマ処理装置において、予め載置台2の中央部の温度を高く定めた特定の温度分布を与えるためのシーケンスを示す説明図
【符号の説明】
【0034】
1 処理容器
2 載置台
3 マイクロ波発振器
4 マイクロ波導入管
5 誘電体窓
6 電磁波吸収発熱素材
7 処理対象物
8 ゲートバルブ
9 ガスポート
10 排気ポート
11 熱電対
12 コントローラ
13 プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器を有しており、処理対象物を載置する載置台を前記処理室内に有しており、マイクロ波を発振するためのマイクロ波発振器を前記処理室外に有しており、前記マイクロ波発信器から前記処理室内にマイクロ波を導入するマイクロ波導入手段を有しており、マイクロ波を高効率で吸収して発熱し前記載置台を加熱する電磁波吸収発熱素材が前記載置台に設けられているマイクロ波プラズマ処理装置において、マイクロ波で加熱した際に前記載置台に予め定められた特定の面内温度分布を与える事ができる前記載置台の位置に少なくとも一つの前記電磁波吸収発熱素材が配置されており、前記マイクロ波発振器を共用してプラズマを生成する処理条件、及びプラズマを生成しない処理条件でマイクロ波を前記処理室内に導入できる事を特徴とするマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記処理対象物が前記処理容器内に収納されていない状態においてプラズマを生成しない処理条件で該処理室内へマイクロ波を導入し、マイクロ波により前記電磁波吸収発熱素材を発熱、及び昇温させる第一の処理条件を有しており、更に前記処理対象物が前記処理容器内に収納された状態においてプラズマを生成する処理条件で該処理室内へマイクロ波を導入し、生成されたプラズマに前記処理対象物をさらして処理する第二の処理条件を有しており、前記第一の処理条件を実行後にマイクロ波発振器を停止し、続けて前記第二の処理条件を実行する事を特徴とする請求項1に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記載置台は、表面が石英、Al2O3、ALN、SiC、Y23にて被覆されている事を特徴とする請求項1、または請求項2に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項4】
前記載置台を、異なる前記電磁波吸収発熱素材の配置位置を有する前記載置台と交換する事ができる事を特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項5】
前記第一の処理条件の下で前記載置台の面内温度分布を計測する手段を有しており、マイクロ波による前記載置台の加熱中は計測結果をもとにマイクロ波の発振時間、もしくは発振出力の制御を行う事を特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のマイクロ波プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−123738(P2010−123738A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295768(P2008−295768)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】