説明

ミラー電子式試料検査装置

【課題】電子ビームを放出中であっても高真空を維持可能な小型荷電粒子線装置を提供する。
【解決手段】荷電粒子線装置の電子光学系の差動排気の上流に非蒸発ゲッター
ポンプを配し,下流に必要最小限のイオンポンプ配して,両者を併用することにより達成
される。さらに,取り外し可能なコイルを電子銃部に実装することにより,別の課題を解
決する。
【効果】カラム内の真空度を10−8Pa台の高真空で維持できる小型荷電粒子線装置,例えば,小型の走査型電子顕微鏡,複数のカラムを有する荷電粒子ビーム装置を得ることができる。さらに,半導体の電気特性を直接計測するプローバ装置の探針の位置をモニタする小型SEMカラムを容易に内蔵できる。その他にも,半導体素子検査用のミラープロジェクション方式の電子線検査装置の電子線照射カラムの小型化が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡に係り、特に半導体素子検査用のミラープロジェクション方式の電子線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の走査型電子顕微鏡(SEM)は,電界放出型もしくは,熱電界放出型の電子源により構成される電子銃から放出される電子線を加速し,電子レンズで細い電子ビームとし,これを一次電子ビームとして走査偏向器を用いて試料上に走査し,得られる二次電子あるいは反射電子を検出して像を得るものである。電子源の材料としては,汎用SEMの場合は,タングステンを用いている。また,半導体観察用の電子源には,タングステンにジルコニアを含有させる場合がある。
【0003】
上記電子源から良好な電子ビームを長期間にわたって放出させるには,電子源周りを高真空(10-7〜10−8Pa)に保つ必要がある。このために,従来においては,図2に示すようにカラムを複数のイオンポンプ(IP−1,IP−2,IP−3)で強制差動排気する方法が取られていた。この内容は,特開2002−358920号公報に記載されている。イオンポンプは,可動部がなく通電のみにより10−8Pa以下の圧力に維持できる長所があるものの,数十cm角以上の大きさを有する上に,磁場を発生するために,カラム側に磁気シールドが必要になるなど,相当の容積と重量を必要とするポンプである。また,れを排除して,小型化する方法として,米国特許4,833,362号,特開平6−111745号公報に記載のように非蒸発ゲッターポンプを内蔵すること,あるいは,特開2000−149850号公報に記載されるようにゲッターイオンポンプを内蔵することによって,イオンポンプを不要とする電子銃がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−358920号公報
【特許文献2】米国特許4,833,362号
【特許文献3】特開平6−111745号公報
【特許文献4】特開2000−149850号公報
【特許文献5】特開平09−326425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように電界放出型の電子銃を用いる場合,10−7〜10−8Paという高い真空度が要求されるので,カラムの真空排気には複数の専用のイオンポンプが用いられて,高真空を得ることができる差動排気構造をとっている。従来の技術では,図2に示すようにイオンポンプが大きく,かつ,磁場のもれがあるためにカラムから一定の距離をおいて設置する必要があるため,小型化が困難であるという課題がある。この課題に派生して生じる別の課題として,イオンポンプが電子銃カラムに接続されるために,空間的な制約が大きく,例えば,磁界重畳して電流値を増加するためのコイルを実装しにくいなどの問題がある。
【0006】
さらに,電子光学系カラムの高い位置に重量のあるイオンポンプを配するために,重心位置が高くなり,振動しやすく画像が乱れるという課題がある。また,イオンポンプの筐体の構造をドーナッツ型としてカラムと同軸構造にするなどの方法を取ることもあるが,イオンポンプ筐体の直径は最低でも数十cm程度あるため,小型化には限界があるという課題がある。
【0007】
さらに,非蒸発ゲッターポンプを用いる方法では,ヘリウムやアルゴンといった希ガス,メタン等の電気化学的に安定なガスの排気が困難であり,密封構造で難排気ガスを除外した特殊な条件を整えるという配慮が必要となるために,試料交換のたびに大気開放するSEMのような装置では,実用化に至っていない。
ここで,非蒸発ゲッターポンプとは,ゲッターを蒸発させずに加熱するだけでガス吸着する合金を用いて構成された真空ポンプのことである。吸着にはガスが微小に電位を有しているか,ゲッター合金の分子と化学結合しやすい必要があるが,希ガスやフロロカーボン等の電気化学的に安定なガスの場合,完全に平衡であるので排気しにくくなるという課題がある。
【0008】
また,非蒸発ゲッターポンプを活性化するには,最低でも350℃以上の加熱が必要であるが,電子光学系を形成するコイルや配線の耐熱限度は,100℃程度であるため十分な活性化ができず,非蒸発ゲッターポンプの排気速度が十分に得られないため,所望の高真空に到達できないという課題がある。
更に,電子源を動作させると,放出された電子の一部が電子光学系の構成部品に当たって雑多なガスが放出され,このため真空度が劣化して,結果的に電子銃の寿命が短くなるという課題がある。特に電子銃や電子光学系を小型化して容積が小さくなると,上記希ガス等の難排気ガスの分圧が低くても全圧が上昇し,真空度が劣化する傾向が顕著になるので,問題になる。
【0009】
以上をまとめると,本発明が解決しようとする課題は,電子ビームを放出中であっても高真空を維持可能な小型荷電粒子線装置を提供することである。この荷電粒子線装置には,電子ビーム以外にもイオン粒子を用いるFIB装置も含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は,荷電粒子線装置の電子光学系を差動排気構造とし,その上流側の真空室に非蒸発ゲッターポンプを配し,下流側の真空室に必要最小限のイオンポンプ配して,両者を併用することにより達成される。このイオンポンプとしては希ガス排気効率の高いスパッタイオンポンプ,あるいは,ノーブルイオンポンプがより望ましい。顕著な効果として,高真空維持時間が大幅に延長可能となる効果がある。
【0011】
イオンポンプの代わりにターボ分子ポンプを用いてもよい。さらに,取り外し可能なコイルあるいは,永久磁石を電子銃部に実装することにより,別の課題を解決する。
【発明の効果】
【0012】
本発明を用いることにより,カラム内の真空度を10−8Pa台の高真空で維持できる小型荷電粒子線装置,例えば,小型の走査型電子顕微鏡,集束イオンビーム装置,複数のカラムを有する荷電粒子ビーム装置を得ることができる。また,磁界重畳型電子銃に適用することにより,小型化を容易にすることができると共に,高真空維持時間を大幅に延長可能となる。
【0013】
さらに,半導体の電気特性を直接計測するプローバ装置の探針の位置をモニタする小型SEMカラムを容易に内蔵できる。
その他にも,半導体素子検査用のミラープロジェクション方式の電子線検査装置の電子線照射カラムの小型化が可能となるといった効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の基本構成を説明する図。
【図2】従来の走査型電子顕微鏡装置の構成を説明する図。
【図3】本発明と従来例の装置サイズの差を説明する図。
【図4】メンテナンス時の電子銃部の高真空保持を説明する図。
【図5】本発明を磁界重畳型電子銃に適用した実施例を説明する図。
【図6】本発明をプローバ装置に適用した実施例を説明する図。
【図7】本発明をプローバ装置に適用した際の装置側面を説明する図。
【図8】本発明をプローバ装置に適用した際の探針と回路端子の観察像を説明する図。
【図9】本発明をプローバ装置に適用した際の粗位置合わせを説明する図。
【図10】本発明を集束イオンビーム装置に適用した実施例を説明する図。
【図11】本発明をマイクロサンプリング装置に適用した実施例を説明する図。
【図12】本発明をミラー電子顕微鏡方式の半導体検査装置に適用した実施例を説明する図。
【図13】ミラー電子顕微鏡方式の半導体検査装置に適用した本発明の構成を説明する図。
【図14】本発明のその他の構成を適用した実施例を説明する図。
【図15】非蒸発ゲッターポンプの排気速度特性を説明する図。
【図16】本発明を永久磁石を利用した小型磁界重畳電子銃に適用した実施例を説明する図。
【図17】本発明を永久磁石を利用した小型磁界重畳電子銃に適用した実施例を説明する図。
【図18】本発明をプローバ装置に適用したその他の実施例を説明する図。
【図19】従来のその他のプローバ装置を説明する図。
【図20】本発明をその他のプローバ装置に適用した実施例を説明する図。
【図21】その他のプローバ装置のプローブと試料交換手段との位置を説明する図。
【図22】その他のプローバ装置のプローブと小型SEMとの位置を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
図1に本発明の1実施例を示す。電子源としては,熱電界放出型の電子銃(TFE)を用いている。この電子源1は,直径152mmのフランジに取り付けられており,図示しない電極(サプレッサ,引出し,チップ)への導入端子と結合されている。この電子源1は,電子銃用カラム2に挿入,固定される。電子銃カラム2には第一の真空室85と開口を隔てた第二の真空室86からなっている。こうすることにより,非蒸発ゲッターポンプによる差動排気効果があり,第一の真空室85の到達真空度を高く(圧力を低く)することができる。また,設計次第では,第一の真空室85と第二の真空室86を同一の真空室として粗排気ポート14のバルブ16を含む配管の一部を省略することにより,さらに小型化してもよい。また、本実施例の荷電粒子線装置の粗排気ポート14は、図1中の二点鎖線部分、即ちバルブ15,16の外側で切り離しが可能である。このため、図1の二点鎖線部分には、フランジ等の真空シール用部材が備えられている。
【0016】
電子銃用カラム2には,内径に沿ってシート状の非蒸発ゲッターポンプ3を備えている。この非蒸発ゲッターポンプ3は,過熱することにより活性化して吸気する。このための加熱用ヒータ(図示せず)が電子銃用カラム2の外部に設けられる。本実施例では,シーズヒータを巻きつけて使用した。また,電極用ヒータ4の周囲にも非蒸発ゲッターポンプ5を巻きつけてある。さらに,非蒸発ゲッターポンプ3として,シート状のものを選ぶことにより,ブロック状のものに比べて,狭い真空容器2の内部に表面積を広く取ることができるため,排気速度の増加と寿命の長期化が図れるという効果がある。
【0017】
ここでは,シート状の非蒸発ゲッターポンプを用いたが,非蒸発ゲッター材を上記ヒータ表面に蒸着して用いてもよい。こうすることにより,実装密度を高くすると共に,脱落する危険性を低くすることができる。これは,非蒸発ゲッター材が合金であり導電性を有するため,万一脱落するとショートして,放電する危険性が高い。したがって,高電圧部品が混在する電子銃のようなものに適用する場合に特に有効といえる。
【0018】
電子銃用カラムの側面に熱電対があり,非蒸発ゲッターポンプ3の加熱温度をモニタする。なお,本実施例においては,電子銃用カラム2の内径に沿って配置したシート状の非蒸発ゲッターポンプ3は,400℃,10分で活性化するものを用いた。また,電極用ヒータ4の周囲に配置した非蒸発ゲッターポンプ5には,550〜600℃で活性化するものを用いている。この理由は,後述するように電極用ヒータを用いて8時間程度ベーキングする際にヒータ周りの非蒸発ゲッターポンプ5が活性化して,多くのガスを吸着することにより,寿命を損なうことがないようにするためである。
【0019】
電子源1が電子をエミッションすると,放出された電子の一部が構成部品に当たってハイドロカーボンを含んだガスを放出する。本実施例のように電子銃用カラム2の容積が小さく,イオンポンプによる強制排気のない条件では,このハイドロカーボンガスは非蒸発ゲッターポンプでは排気しにくいために,容易に真空度が劣化して電子源に悪影響をもたらす問題がある。さらに,電子銃用カラム2の下流側には電子光学系用カラム6があり,コイル38や電気配線が含まれるために,通常は100℃以上にはできない。したがって,真空側の壁面からは,ベーキング不足に伴う非蒸発ゲッターポンプに排気しにくいガスの発生が相当量見込める。さらに加えて,最も真空度の低い試料室7からのアルゴンガス等の希ガス流入があり,電子銃用カラム2内の真空度を低下させる要因となってしまう。アルゴンガスは大気中に1%程度含まれるため,特に注意が必要である。なお,試料室の真空はターボ分子ポンプ9で排気され,通常は,10−3Pa程度である。
【0020】
その問題を解決するために,従来の装置は,小径の開口を介して隔てられる各室を専用のイオンポンプ(IP−1,2,3)で排気する構成をとっていた。図3に示すように本実施例との大きさの差が顕著であることが確認できる。また,各イオンポンプ(IP−1,2,3)はポンプから発生する磁場の影響を避けるために,カラムからある程度離れた位置に固定されるので,これも装置サイズ拡大の要因となっている。
【0021】
次に,図1を用いて本実施例の詳細について述べる。上述のとおり,非蒸発ゲッターポンプ3のみの排気では高真空を維持できないので,本発明ではイオンポンプと併用を行う。本装置は,最上流の電子源1のある電子銃室(第一の真空室85),開口を介して中間室(第二の真空室86),さらに開口を介して電子光学系用カラム6(第三の真空室87)からなっている。さらに,第三の真空室87は,開口を隔てて試料室7とつながっており,差動排気構造となっている。
【0022】
上流側の電子銃室と中間室には,非蒸発ゲッターポンプ3,5を備え,下流側の電子光学系用カラム6には,イオンポンプ13を配して真空排気を行う。非蒸発ゲッターポンプが排気しにくいガスの分圧は極わずかであるため,イオンポンプは排気速度20リットル/秒以下の小型の1台のみでも十分に排気可能となることを実験により見出した。特に希ガス排気効率の高いスパッタイオンポンプあるいは,ノーブルイオンポンプを用いればさらに小さい排気速度でも使えるため,より有利となる。図3に示すように従来の3台(破線で表示)に比べ大幅な削減を可能とするため,装置を小型化する上で効果的である。さらに,装置上部の軽量化が図れ,しかも,重量のあるイオンポンプをなるべく下側に設けると重心が下がり振動特性が大幅に改善される効果もある。
【0023】
本実施例の構成をとる場合の真空立ち上げ方法について説明する。電子銃用カラム2の真空に面するすべての部品を洗浄,乾燥させた後に組み上げる。その後,組み上げられた電子銃用カラム2の真空を引きながら,100℃以下といった温度制限のないベーキングが可能な,本実施例の装置とは別の装置に取り付けて,電子銃用カラム2に巻きつけてあるシーズヒータ(図示せず)を用いて300℃,8時間程度ベーキングして内部の脱ガスを十分に行う。その後,大気開放して,電子銃用カラム2を取り外して,走査型電子顕微鏡本体の電子光学系用カラム6に組み付け,ターボ分子ポンプ9を用いた真空引きを開始する。このとき,粗引きポート14に取り付けられたバルブ15,16,17を開放して,電子銃カラム2内のガスも効率よく排気できるようにする。
【0024】
この状態で図示していない電子銃カラム2の外側に巻きつけられたヒータに通電してベーキングを行うが,このときに電子銃用カラム2と電子光学系用カラム6との接面の温度をモニタし,80℃程度まで達したら,ヒータへの通電を切る温度制御を行いながら10時間程度ベーキングする。その後,電極用ヒータ4に電圧を印加してベーキングすると同時に周囲にある非蒸発ゲッターポンプ5を活性化する。このときのヒータ部4の目標温度は550℃程度で,1時間程度維持する。その後,室温まで自然冷却してから,粗引きポート14に取り付けられたバルブ15,16,17を閉止してから,イオンポンプ13に通電して排気を行う。
【0025】
以上の手順により,電子銃用カラム2内の到達真空度は,10−8Pa台に達した。この状態でエアシリンダにより駆動されるガンバルブ8を駆動してバルブを開いて試料室と開口を隔てて開放しても,電子銃用カラム2内の真空度は,10−8Pa台を維持できることを確認した。また,イオンポンプ13の示す真空度は,5×10−6Pa程度であった。差動排気が有効に働き,上流に行くほど高い真空度が得られているといえる。
【0026】
次に本実施例の装置の制御手段501について説明する。本装置の各要素であるターボ分子ポンプ9,イオンポンプ13,電子源1,ガンバルブ8,電子光学系38,真空ゲージ90等は,制御手段501に接続されており,動作や検出信号を送受信でき,制御手段501に含まれるプロセッサによりシーケンスを制御できる構成をとっている。ユーザとのインターフェイスやSEM像の表示にはディスプレイ500を用いることができる。
【0027】
上記制御手段を用いて電子源に2kVを印加して電子を放出させ,電子銃から電子ビームをエミッションさせても真空度は大きく変動することなく,電子銃用カラム2内の真空度は,10−8Pa台を維持していた。
【0028】
また,非蒸発ゲッターポンプには,吸着量が増えるに従い排気速度が低下する特性があるが,(1)差動排気構造の採用,(2)スパッタイオンポンプとの併用,(3)シート状非蒸発ゲッターポンプによる排気速度の増加により,3〜4年程度の長期間にわたり真空度は低下することなく維持できている。
【0029】
その他の機能として,上述の真空度をモニタすることにより,非蒸発ゲッターポンプ3,5の交換時期をユーザに知らせる機能を付加することができる。非蒸発ゲッターポンプの排気速度と経過時間の関係は,図15に示すように緩やかなカーブを描くため,十分に余裕を持って非蒸発ゲッターポンプの交換時期を知らせることができる。構成としては,第二の真空室86に真空ゲージ90を備え,制御手段501にデータを送り,予め設定した真空度に達した時点でディスプレイ等のユーザインターフェイスに交換時期であることを表示するようにすればよい。
【0030】
さらに,本実施例における本発明のその他の効果を説明する。図4において,装置のメンテナンスを行う場合,最も高い真空度を維持している電子銃部2の大気圧へのリークは,極力避けて,ダウンタイムの短縮を図る必要がある。そのため,ガンバルブ8が備えられている。
【0031】
本実施例においては,このガンバルブ8を閉止していれば,何らエネルギーを供給することなく,電子銃部の真空度を維持可能で,かつ,下流部を大気に開放して,メンテナンスが可能となる。一方,従来の場合においては,図2に示すように3台ものイオンポンプを電子銃室10,中間室11,電子光学系室6に1台ずつ設置しているため重量は100Kg以上あり,危険作業となることや,高真空を維持するには各イオンポンプ(IP−1,2,3)に5kV程度の高電圧を供給し続けなければならず,手軽にできないといった課題を有していた。
【0032】
本実施例では,図4に示すように,粗引きポート14のバルブ15,16と,ガンバルブ8を閉止すれば,電子銃部を高真空状態に保ったまま取り外せる。しかも,図3の破線で示されるような、従来は存在していた電子銃部2のイオンポンプは排除されており,重量は15kg程度まで軽量化され,高電圧を供給する必要もないため,人力で手軽にメンテナンスできるという従来にない効果がある。
【0033】
なお,図2の従来例に示した装置では,ガンバルブは電子光学系室6と試料室7の間の開口部を開閉する位置につけられていた。これは,イオンポンプで排気する真空室を大気に曝したくないためであった。しかしながら,本発明においては,以下に説明するように,最も大気に曝したくない電子源1部を高真空のまま取り外すことを可能とするため,第二の真空室86と第三の真空室87である電子光学系室6の間にガンバルブ8を設けてある。
こうすることにより,電子源の寿命を長く保つと共に,非蒸発ゲッターポンプの長寿命化も図れ,メンテナンス性も向上するため,好都合である。
【0034】
本実施例では、非蒸発ゲッターポンプと併用するポンプとしてイオンポンプを用いたが、イオンポンプの代わりにターボ分子ポンプを用いてもよい。但し、ターボ分子ポンプの場合は、機構上,真空排気運転時に回転するブレードが運動に伴い振動するため,電子銃近くに配置すると,SEM画像が揺れるなどの問題がある。従って、併用するポンプとしてはイオンポンプないし機構的に振動の発生が少ない真空排気装置の方がより好ましい。 以上、本実施例は走査型電子顕微鏡を例にとって説明したが,透過型電子顕微鏡,電子線描画装置や各種荷電粒子措置にも応用可能であることはいうまでもない。
【実施例2】
【0035】
磁界重畳型電子銃は,電子源1周りに磁界を生成することにより,設計次第では,色収差,球面収差などを低減した上に,ビーム電流を増加可能なので,特に半導体の測長SEMや検査SEMなどに応用すると,測長精度,解像度,スループットの向上につながる有効な技術である。言い換えれば,磁界を重畳することにより,電子光学系のパラメータを増やし,設計自由度を拡大することができる。つまり,磁界重畳型電子銃を用いることにより,低収差で大電流を放射可能になることを意味している。ところが,イオンポンプ,磁気シールド,磁界発生用のコイル等が嵩張り,大型で大重量化してしまうという問題があった。
【0036】
本発明を磁界重畳型電子銃に適用した場合,電子銃のイオンポンプレス化と小型化が容易に可能となるため,磁界重畳型電子銃化も簡単にできるという効果が得られる。本実施例においては,磁界重畳型電子銃を本発明に適用した例を説明する。図5に本実施例の概略構成を示す。
【0037】
この図は,磁界重畳用カラム18の部分のみ断面図であり,その他の部分は外観を表している。本装置は,図1の電子銃用カラムを本実施例の磁界重畳用カラム18に変換したもので,この他の手段や機能は,図1のものと同等である。この磁界重畳用カラム18は,電子銃用カラムと同様に,非蒸発ゲッターポンプ3,5を内蔵しており,イオンポンプはない。この磁界重畳用カラム18の形状は円筒形であり,このカラム外径に対応した内径を有するリング型のコイル19を着脱できる。このコイル19の耐熱温度は,高々100℃程度であるが,コイル19を着脱できることにより,非蒸発ゲッターポンプ3,5を活性化するための加熱温度である500℃程度までが可能となり,都合がよい。
コイル19をおく位置には磁路83があり,コイルから発生する磁場を電子源1の近傍まで導く部品として用いられる。
【0038】
本実施例の立ち上げ方法は,実施例1とほぼ同じであるが,コイル19は,立ち上げ当初は,取り外しておき,真空が立ち上がった後に取り付けて,電子ビームを放射させ,コイルの調整を行えばよい。
【0039】
以上のような構成をとることにより,従来は,イオンポンプを避けるためにコイルを大型化せねばならず,メンテナンスの際の重量物の着脱が使い勝手を低下させていたが,簡便で手軽にメンテナンスが可能となるという効果が得られる。
本実施例は走査型電子顕微鏡を例にとって説明したが,電子線描画装置や各種荷電粒子措置にも応用可能であることはいうまでもない。
【実施例3】
【0040】
本実施例では、SEM式プローバへの適用例について説明する。SEM式プローバの原理構成に関しては、特開平09−326425号公報に記載があり、複数の探針を半導体回路端子に直接接触させて,電流,電圧特性を測定する構成を有する。回路パターンの寸法がナノメートルオーダであることから,探針の代表寸法は半径50nm程度で,回路端子と接触する先端はナノメートルオーダまで細く尖っている。従って、探針が回路端子に接触し過ぎてわずかでも過大な圧力が探針に加わると、探針,回路端子ともにダメージを受けるという課題がある。また,探針損傷のリスクを避けるために、探針を目標にゆっくりと近づけていると、探針が回路端子に接するまでの時間がかかりすぎる問題があった。
【0041】
そこで,従来のSEM式プローバ装置においては,予め光学顕微鏡を用いて探針と回路端子の粗位置合わせを行なう。その後に,探針をZ方向に駆動して回路端子に近接させるが,このときにトンネル電流等の信号を用いたり,SEMの観察像を見ながら調整したりして,探針と回路端子の衝突を避けていた。また,探針と回路端子の精密な相対位置合わせには,走査型電子顕微鏡の映像を見ながら位置を決めていたが,Z方向の情報がなく,位置合わせに時間がかかる問題があった。
【0042】
本実施例のSEM式プローバ装置は,小型の電子光学系カラムを用い,二つの走査型電子顕微鏡を備えることにより,Z方向の情報を含んだ画像取得が可能な構成を特徴とする。角度の異なる方向から同一視野を見ることにより,つまり,二つのカラムのなす角(視野角)を持たせることにより,試料面内の回路端子位置と探針の位置関係と回路端子から探針までの高さというZ方向の情報を含む画像取得が可能となる。
【0043】
図6は、本実施例のプローバ装置の構成を示す概念図である。ターボ分子ポンプ28で排気される真空容器内に、試料52を載置するステージ23が設けられている。このステージは,二方向(X,Y)の軌道24,25に沿って移動,位置決めができる。このステージ23の上には試料52が載置される他,試料表面にある回路端子22に当てる探針20,21と探針ステージ26,27が設置される。探針ステージ26,27は,X,Y,Z方向の三軸について探針の精密な位置決めが可能な構成を備える。本実施例においては,探針20,21は2本であるが,本数は特に制限されることはなく,例えば,4本でもよい。
【0044】
真空容器の上部には、1対のSEMカラム53が配置される。1対のSEMカラムは,試料52に対して角度を持って望む位置に配置されており、観察用試料表面の法線方向に対して斜めに配置されている。SEMカラム53の内部には電子光学系32,33が備えられており、試料に電子線を照射できる。電子光学系32,33内の電界放出型の電子銃30,31から電界放出された電子線36は,その下方に設けられた複数のレンズ電極から成る静電レンズのそれぞれの電極間に形成された電界によって集束作用を受け,細く集束されて試料上に照射される。それと同時に,電子線36は,試料上で二次元的に走査される。電子線36の照射により試料から発生した二次電子は、二次電子検出器に到達し検出される。二次電子検出器は、図示していないが、SEMカラム53の内部に配置されている。この検出信号から,試料表面の二次元二次電子像が得られる。本実施例では,半導体の表面観察などの用途に適するように,電子線36の照射による試料表面の帯電や損傷を少なくすることのできる低加速電圧での観察を対象としており,従って,電子線36の加速電圧Vaは3kV以下(主に1kV前後)に設定してある。本実施例では,小型化が容易という観点から、SEMカラム内に備える電子光学系32,33に静電光学系を採用した。静電レンズのみで電子光学系を構成しているため,電子光学鏡筒は外径34mm,高さ150mmと非常に小型になっている。同時に、加速電圧1kVで6nmという高い分解能も実現できた。なお、本実施例では、二次電子検出器をSEMカラム53の内部に配置されたものとしたが、SEMカラムの外部に備えてもよい。
【0045】
以上述べてきた各要素は,制御手段502信号線によりつながっており,動作制御信号の送受信を行なっている。本実施例で設置した二組のSEMモニタ53のSEM像の信号もこの信号線により制御手段502に送られ,ステレオグラムな立体画像に合成された後、ディスプレイ503に表示される。得られた画像信号は、制御手段502に含まれる記録手段に記憶することも可能である。
【0046】
さらに,ステージ23の上方には,探針と回路端子の粗位置合わせ用の光学顕微鏡51−1がある。この光学顕微鏡51−1は,試料の直上に位置し,探針と回路端子のX,Y平面内の粗位置合わせに用いる。
【0047】
図7には、図6に示したプローバ装置の側面図を示す。この側面図からわかるように,本実施例のプローバ装置は、X,Y面内方向の粗位置合わせ用光学顕微鏡51−1の他、Z方向の粗位置合わせ用の光学顕微鏡51−2も備えている。また、SEMカラム53は、試料52の法線方向ないし粗位置合わせ用光学顕微鏡51−1の光軸方向に対して所定の角度だけ傾くように真空容器に組み付けられる。
【0048】
次に、本実施例のプローバ装置の動作手順について、図8を用いて説明する。試料52を装置にロードして真空排気を行った後,光学顕微鏡51−1下にステージを移動して,粗位置合わせを行う。その後,図6に示すように電子線36の照射位置へステージを移動し,探針20,21と回路端子22の精密位置合わせを行う。つまり,二つの走査型電子顕微鏡の画像データを観察しながら,探針20,21と回路端子22の位置を決めるとともに,相互に接近させ,直前で停止させる。この探針と回路端子間の相対位置関係の観察を行なうには,マニュアル操作でもよいし,画像データをもとに自動制御してもよい。この後,トンネル電流やSEM像の測定,観察結果をもとに接触させればよい。その後,二組の走査型電子顕微鏡32,33の視野に探針20,21を入れるように試料ステージ23と探針ステージ26,27を駆動して位置決めする。
【0049】
図9には、本実施例のプローバ装置で取得できるSEM画像の模式図を示した。従来のプローバ装置では、試料の上面図相当のSEM画像しか得られることができなかったが、本実施例のプローバ装置では、図9に示されるように、奥行きのある立体位置画像情報を取得できる。これにより,探針20,21と回路端子22の位置合わせが格段に容易となり、接触過多による探針ないし試料の損傷確率が低減される。更には、探針の接触時間を短縮することができる。2つのSEMカラムから得られるデータを用いることにより,万一,一方が故障した場合においても探針や試料にダメージを与えずに検査が可能となる。なお、図9に示される画像から得られる情報だけでも、探針ないし試料の損傷確率を低減することが可能であるが、探針20,21から得られるトンネル電流値等を基にして、回路端子と探針との接触を確認できるようにすると、装置ユーザの利便性が更に向上する。
【0050】
以上述べた装置構成は、必ずしも差動排気構造を用いなくとも実現可能であるが、SEMカラム中の電子銃周りの真空度を維持するために、図2に示すように、複数台のイオンポンプを使用する必要がある。しかしながら、実施例1や2で説明した差動排気構造を適用すると、真空排気系の構成が簡略化されるため装置設計上利点が多い。
【0051】
以下では、図6を用いて、差動排気構造を適用したプローバ装置の真空排気系の構成について説明する。SEMカラム53内部には、開口板37が設けられ、真空度の異なる2つの真空室に分けられている。一方が電子銃30,31が格納される第1の真空室(電子銃室)であり、もう一方が、電子光学系32,33が格納される第2の真空室である。SEMカラム53下部に設けられた試料室はターボ分子ポンプ28で排気され,第2の真空室はイオンポンプ29で排気され、更に最上流の電子銃室は,非蒸発ゲッターポンプ34,35で排気される。これにより、図2に示される従来の構造に比べて、少ない台数のイオンポンプで電子銃室の高真空度を維持することが可能となる。
【0052】
更に、本実施例のプローバ装置においては、1台のイオンポンプを2つのSEMカラムで共用することにより、高効率化と省スペース化を図った。さらにイオンポンプをスパッタイオンポンプあるいは,ノーブルイオンポンプとすれば,非蒸発ゲッターポンプが排気しにくい希ガスの排気効率が上がるため,真空度維持の点で有利である。
【0053】
以上、従来の小型走査型電子顕微鏡ではイオンポンプが複数台必要であるため,モニタ用の走査型電子顕微鏡を二組も配することは実用的ではなかったが、本実施例のプローバ装置は、立体画像を取得可能な構成の装置を、従来よりも省スペースで実現可能である。なお、本実施例では、プローバ装置の検査対象物として回路端子を検査した例を説明したが、回路端子に限られず、回路の配線部分、電極、メモリセルなど、微細な電子回路一般を検査対象物にできることは言うまでもない。また、検査対象物を内包する試料としては、半導体ウェハ、回路パターンが形成されたチップないし試料基板、或いは試料基板を割断して一部を取りだした試料片などを使用することができる。
【実施例4】
【0054】
図10を用いて,本発明を集束イオンビーム(FIB)装置のカラムに応用した実施例を説明する。FIB装置は,電子より重いイオン粒子を試料49に当てて試料表面を加工したり,SEMと同様にイオンビームが照射された部位から発生する電子を検出して画像観察したりする装置である。
【0055】
FIB装置においても従来の装置では,図10に示すように破線部分のイオンポンプを含み,合計2台以上用いている。したがって,本発明を適用すれば,実施例1と同様に,容易にFIBカラム周りを小型化できる。
イオンビーム50を集束させる光学系には,複数の電極40,41,42,43,44からなる静電光学系を用いるので,SEMのようなコイルを用いた電磁レンズは用いない。このため,耐熱性はSEMに比べて高く取れるので,非蒸発ゲッターポンプ45,46を導入しやすい特徴がある。
【0056】
FIB装置のイオン源39は,最上流に配置され,10−8Pa程度の真空度を維持する必要がある。このため,実施例1で述べたSEMと同様に,差動排気構造をとっている。図10の場合は,二段階の差動排気を行っており,従来では2台のイオンポンプを用いていた。この上流側の破線で示したイオンポンプ1台を非蒸発ゲッターポンプ45に変更することにより,小型軽量化が図れる。さらにイオンポンプをスパッタイオンポンプとすれば,非蒸発ゲッターポンプが排気しにくい希ガスの排気効率が上がるため,さらに小型化できて望ましい。
【0057】
また,上述のようにイオンビームは,静電光学系により集束されるため,イオンポンプにて排気するカラム部にも非蒸発ゲッターポンプ46を配置することができる。このため,排気速度を増加することが可能となる効果がある。
【0058】
なお,試料49の置かれる試料室の真空は,ターボ分子ポンプ47により排気される。上述の各要素は,制御手段504に信号線を介してつながっており,制御信号や画像データの送受信ができ,装置全体のシーケンスを管理することができる。ユーザとのインターフェイスや画像の表示にはディスプレイ505を用いることができる。
【0059】
その他の構造は,従来のFIBと同様であるので,詳しい説明はここでは敢えて述べないが,電子ビーム以外の装置への導入も可能である。
【実施例5】
【0060】
本実施例においては,マイクロサンプリング装置に本発明を適用した例について図11を用いて説明する。
マイクロサンプリング装置とは,半導体デバイス等の検査分析用とにデバイスの一部分を切り取って,断面を観察,分析する装置で,サンプル切り出しを可能とするためのFIBカラム77と切り出し位置や切り出す断面を同時に観察するためのSEMカラム78の二種類のカラムが互いに角度を持って備えられた装置である。さらに,水平面と一致する試料60の表面に対する鉛直軸81に対しても所定の角度を持っている。このため,斜めに二つのカラムが近接して取り付けられることになる。このような構成をとるため,各カラムに従来取り付けられる複数台のイオンポンプが互いに干渉したり,イオンポンプの重量に起因して重心位置が高くなり,カラム全体が振動しやすくなったりするといった課題があった。
【0061】
本実施例のマイクロサンプリング装置は,本発明を適用しているので,FIB,SEMの両カラムともイオンポンプは一台ずつ用いているのみである。このため,従来の構成であるカラムあたり二〜三台に比べると飛躍的に軽量化できる。さらにイオンポンプをスパッタイオンポンプあるいは,ノーブルイオンポンプとすれば,非蒸発ゲッターポンプが排気しにくい希ガスの排気効率が上がるため,さらに小型化できて望ましい。本実施例においては,FIBカラムとSEMカラムに別々のイオンポンプを設けたが,1台のイオンポンプを併用してもよい。
【0062】
FIBカラム77の最上流真空室には,イオン源61があり,非蒸発ゲッターポンプ79が設置されている。さらに,静電光学系63の開口を隔てて下流側の真空室にも非蒸発ゲッターポンプ80があり,さらに開口64を隔てた真空室をイオンポンプ69で排気している。イオン源61から放射されたイオンビームは,試料表面上の所望の位置に絞られて,所定の除去加工を実施できる。
【0063】
FIBカラムと同様にSEMカラム78にも本発明が適用されている。最上流の真空室には,電子源62があり,非蒸発ゲッターポンプ81が設置されている。開口66を隔てた下流側の真空室にも非蒸発ゲッターポンプ82があり,さらに下流の真空室をイオンポンプ70で排気している。この真空室には,コイルを用いた電磁光学系があり,耐熱性が低いため,非蒸発ゲッターポンプは設置できない。本構成は実施例1で述べたSEMカラムと同じである。なお,電子源62から放射された電子ビームは試料60表面上に絞られ,二次電子を発生させ,その二次電子を二次電子検出器76で検出することによりSEM像をイオンビーム加工中あるいは,加工前後にかかわらずに得ることができる。
【0064】
FIBカラム77の中心軸84は,鉛直軸81に対してなす角度Θを30°とし,傾いて固定されている。また,SEMカラム78の中心軸80は,鉛直軸81に対して45°傾いている。さらに,FIBカラムとSEMカラムの相対的な角度は,90°になるように固定されている。
【0065】
上述した二つのカラムの下には試料室があり,ターボ分子ポンプ83により真空排気される。また,試料60を載置して移動と位置決めができるステージ71と,マイクロサンプリングするアーム72,73とそれらを駆動する駆動手段74,75がある。これらのマイクロサンプリング手段は,イオンビームにより加工された微細なチップをハンドリングするための手段である。
【0066】
上述の各要素は,制御手段506と信号線を介してつながっており,制御信号や画像データ等を送受信できる。ユーザとのインターフェイスや画像表示には,ディスプレイ507を用いることができる。
【実施例6】
【0067】
本実施例においては,ミラー電子顕微鏡(ミラープロジェクション方式)の試料検査装置に適用した例について説明する。観察試料としては、半導体ウェハ、回路パターンが形成されたチップないし試料基板、或いは試料基板を割断して一部を取りだした試料片などが挙げられる。ミラープロジェクションとは,電子線を試料表面上の電位分布により試料面に到達する前に反射する電子(ミラー電子)を結像させて画像を検出する方式のことであり,細く絞った電子ビームが照射された試料から発生する二次電子検出や,反射電子の強度を検出する通常のSEM方式とは異なるものである。
【0068】
ミラープロジェクション方式の特長は,電子ビームの一筆書きではなく,100〜400μm角程度の領域を電子により一括照明することにより,光学式顕微鏡のような画像が得られるため,画像取得時間が飛躍的に短時間化できるという点にある。
【0069】
しかし,このミラープロジェクション方式は,従来のSEMとは異なり,試料表面の電位分布に依存した画像が得られるため,試料表面の形状をそのまま画像化するものではない。そこで,ミラープロジェクションにて検出された領域の表面形状を、画像として検出できると、ミラープロジェクションの検出画像に対する参照画像として利用できるので、欠陥検出上便利である。そのためには、異状と思われる部位の拡大SEM画像を、別の電子光学系により観察可能とするようなアプリケーションが有効である。
【0070】
本実施例においては,図12に示すように小型のSEMカラム114をミラープロジェクションカラム120の横に設けてある。この両カラム間の距離は予め正確に測定されており,試料(ウェハ)105を載せた試料ステージ106は,破線で示した様に両カラム間を必要に応じて移動できるように構成されている。
【0071】
次に,本装置の構成と,ウェハ105表面を検査する際の手順について説明する。電子線照明光学系カラム101において,電子源100より放出された電子線は,磁界重畳コイル121により絞られ,大電流化されたビームを放出する。この大電流化は,検査のスループット向上に重要な影響を与える。なぜなら,一度の大面積照射から得られるミラー電子の信号のシグナルノイズ比(S/N比)は,照明する電子線の電流に比例して増減するためである。
【0072】
この磁界重畳型電子銃は,実施例2で述べたものと同等のものでよい。すなわち,開口を隔てた差動排気構造をしており,最上位流の真空室に電子源100があり,非蒸発ゲッターポンプ123により排気されている。下流側の真空室にはコンデンサレンズ102があり,イオンポンプ122により排気されている。この構造により,電子源100のある真空室は,10−8Pa台の極高真空に維持される。また,大気側には,磁界重畳用コイル121が電子線照明光学系カラム101から着脱可能な構造で取り付けられている。このような構造をとることにより,電子線照明光学系カラム101に設置するイオンポンプが1台まで削減できるため,軽量化を図ることもでき,装置全体の振動特性が向上する効果が生じる。さらにイオンポンプをスパッタイオンポンプとすれば,非蒸発ゲッターポンプが排気しにくい希ガスの排気効率が上がるため,さらに小型化できて望ましい。
【0073】
磁界重畳型電子銃から放出された電子ビームは,コンデンサレンズ102により集束され試料上をほぼ平行に照射される。電子源100には,Zr/O/W型のショットキー電子源を用いた。大電流ビーム(例えば,1.5μA)で,かつエネルギー幅が1.5eVの均一な面状電子線を安定に形成できる。
【0074】
セパレータとしてE×B偏向器103を結像電子線302の結像面304近傍に配置させる。この配置では,照射電子線301に対してE×B偏向器で収差が発生する。この収差を補正するために照射系コンデンサレンズ102とE×B偏向器103の間にもうひとつ収差補正用のE×B偏向器104を配置させる構成とする。
【0075】
電子線は,E×B偏向器103によりウェハ105に垂直な光軸に偏向される。E×B偏向器103は上方からの電子線に対してのみ偏向作用を持つ。E×B偏向器103より偏向された電子線は,対物レンズ107により試料(ウェハ)表面に垂直な方向に面状の電子線が形成される。E×B偏向器104よりセパレータE×B偏向器103の偏向収差が補正されるので,対物レンズ107の焦点面上には微細なクロスオーバが形成されるので,平行性の良い照射電子線301を試料に照射できる。
【0076】
真空試料室108内の試料ステージ106に搭載された試料(ウェハ)105には,電子線の加速電圧とほぼ等しいか,わずかに高い負の電位が図示していない試料印加電源によって印加されており,ウェハ105の表面には形成された半導体パターン形状や帯電の状態を反映した電界が形成されている。この電界によって面状電子線の大部分がウェハ105に衝突する直前で引き戻され,ウェハ105のパターン情報を反映した方向や強度を持って上がってくる。
【0077】
引き戻された電子線は,対物レンズ107により集束作用を受け,ビームセパレータとしての偏向器103は下方から進行した電子線に対しては偏向作用を持たないので,そのまま垂直に上昇し,対物レンズ107,中間レンズ109,投影レンズ110により投影拡大されて,シンチレータ111,光学レンズ112,CCD113よりなる画像検出部上にウェハ105表面の画像を結像させる。
【0078】
一方,上記ミラープロジェクションカラム120の横には,小型SEMカラム114があり,ウェハ105上のパターン形状を観察できる。電子源115には,ショットキー型電子源を用いている。放出された電子ビーム121は,静電光学系117によりウェハ面上をスキャンし,二次電子あるいは,反射電子を検出してSEM画像を得ることができる。
【0079】
SEMカラム114の真空は,静電光学系117部を排気速度10リットル/秒程度の小型イオンポンプ118で排気すると共に,上流側は非蒸発ゲッターポンプ116により差動排気している。この構成により,最上流の電子源115近傍の真空度は,10−8Pa台が得られた。なお,試料室108は,ターボ分子ポンプ119により排気され,10−3Paの真空度が得られている。
【0080】
図13に小型SEMカラム114の詳細構成を示した。試料室108と小型SEMカラム114は,ベローズ201を介して接続されており,SEMの光軸方向に沿って駆動手段202を用いることにより,位置決めができるようになっている。こうすることにより,SEM光学系117のフォーカス調整が可能となる他,SEM観察視野の拡大縮小,あるいは,分解能の選択が可能となる。すなわち,試料105表面の観察面からの距離(作動距離)を広く取れば,視野は広がるが分解能は低下し,作動距離を狭めれば視野は縮小するが,分解能は向上する。観察する対象により,自由に調整ができるので,非常に有効な機能となる。作動距離の測定は図示していない位置検出器を用いて行う。小型SEMの光学性能と作動距離の関係は,予めデータベース化されており,自動的に調整は行われる
。また,SEM像を見ながら微調整も可能である。
【0081】
上述の各要素は,信号線を介して制御手段508と接続される。制御手段508は、装置全体の動作を管理する制御ユニットであり、制御信号や画像データを送受信する信号インターフェイス、検出された画像信号を解析して欠陥を検出する画像処理部、ミラープロジェクションカラム120と小型SEMカラム114との距離の情報や前述のデータベース等を格納するデータ記憶部、データ記憶部に格納された情報を処理するデータ処理プロセッサ、装置全体の動作を制御する制御用コンピュータなどを備える。本実施例では、制御手段508内に、全ての制御手段を配置した構成を示したが、各々の構成要素を別々の制御ユニットとして配置しても良い。ディスプレイ509には検出画像が表示されるが、GUI(Graphical User Interface)を用いる場合のユーザインターフェイスとしても用いられる。
【0082】
以上述べた装置構成を用いることにより,ウェハ105表面の局部的な帯電電位の変化や凹凸等の構造の違いが画像として形成される。収差を補正することにより,平行性の良い照射電子線301を照射でき,高分解能なミラー像を形成することができるので,100nm以下の帯電電位の変化や凹凸等の構造の違いを検出することが可能となる。
【0083】
検出された画像データは,画像処理部により処理され,欠陥として判定された場合には,その座標データ記憶部に格納される。欠陥画像位置の表面形状を観察したい場合、装置オペレータは、ディスプレイ509に表示されるGUIを介して対応SEM画像を表示させる旨の指令を、制御手段508に伝達する。制御手段508中のデータ処理プロセッサは、GUIを介して入力された信号を基にデータ記憶部を参照し、SEM観察可能な位置の座標を取得する。その後、取得座標へ移動するための制御信号を位置を試料ステージ106へ送信する。所望の位置へ移動した後は、ミラー像から得られた欠陥位置のSEM画像を取得して,欠陥の有無,形状,寸法等の必要なデータをデータ記憶部に格納する。
【0084】
その後,試料ステージを駆動して,元のミラープロジェクション観察可能な座標位置に戻り,検査を継続し,ウェハ全面を検査するまで繰り返すことにより,検査が終了する。ここまでの手順は,ミラープロジェクションによる検査が先で,見つけた欠陥を後からSEM画像で確認する方法をとったが,逆にSEM観察から得られた欠陥座標を蓄え,後からミラー像を観察してもよい。或いは、ミラープロジェクションによる試料全面の検査が済んだ後に、SEM画像を取得しても良い。
【0085】
以上説明したように、本実施例のミラープロジェクション電子顕微鏡装置は、ミラー電子カラムと通常のSEMないし反射電子カラムの2種を備えており、ミラー電子画像とSEM画像または反射画像の2種を検出可能である。従って、SEM画像または反射電子画像を、ミラー電子画像に対する参照画像として利用でき、装置ユーザの利便性が顕著に向上する。この効果は、各電子光学系カラムに差動排気構造を適用せずとも実現可能である。
【0086】
更に、ミラー電子カラムと通常のSEMないし反射電子カラムのいずれかに対して差動排気構造を適用すると、装置サイズを小型化できる。従って,装置全体を大型化せずに、欠陥部位のSEM画像を容易に観察可能なミラープロジェクション方式の試料検査装置を実現できる。
【実施例7】
【0087】
本実施例においては,その他の本発明について,図14を用いて説明する。実施例1で説明した,本発明の走査型電子顕微鏡の構成における第一の真空室85の真空排気を非蒸発ゲッターポンプ3に加え,イオンポンプ88も備えて併用して真空排気するものである。
【0088】
従来,冷陰極型電子源(コールドFE)89を用いる場合,到達真空度が10−7Pa台まで低下すると電子源周りにコンタミが付着して電子放出特性が低下したり,寿命が短くなったりする課題があった。このため,数ヶ月から6ヶ月間に一度はフラッシングを行う必要がある。フラッシングとは,電子源先端に付着したコンタミ膜をフィラメント電流を流して加熱し,クリーニングする方法である。これにより,再び高い輝度の電子ビームが得られるが,電子源先端のビーム放出位置が変わってしまい,電子光学系の再調整が必要になるため,使い勝手を悪くする原因ともなっていた。これらの課題を解決するには,電子源89の設置される真空室85の到達真空度は高く維持する必要がある。
【0089】
実施例1で述べた方式では,電子源のある第一の真空室の真空度は,10−8Pa台であったが,本実施例の方式では,10−9Pa台の真空度が達成できる。この理由は,非蒸発ゲッターポンプ3の排気によりアルゴン等の難排気ガス以外のガスはほとんど除去された上に,イオンポンプ88によりわずかに残留する難排気ガスを除去できることに起因する。このため,イオンポンプ88としては,実施例1で述べたようにスパッタイオンポンプ,ノーブルイオンポンプ等が適しており,排気速度は20リットル/秒以下の小型のものでよい。
【0090】
上述の各要素は,信号線を介して制御手段510とつながっており,制御信号や画像データを送受信でき,装置全体の動作を管理することができる。また,ユーザとのインターフェイスや画像の表示にはディスプレイ511を用いることができる。
【0091】
本実施例の場合,非蒸発ゲッターポンプ3,5の寿命をモニタする真空ゲージは必要なく,イオンポンプ88にかける電圧をモニタして真空度を知ればよい。イオンポンプ88の真空度を示すデータを制御手段510へ送り,予め設定した真空度に達した時点でディスプレイ511のユーザインターフェイスに交換時期である旨を表示するようにすればよい。
【0092】
上述のようにイオンポンプ88を第一の真空室85に備えて,非蒸発ゲッターポンプ3と併用することにより,電子源89回りの真空度が飛躍的に高まるため,冷陰極型電子源を使う場合に必要であった,フラッシングを始めとするメンテナンスが不要となり,冷陰極電子源89の寿命である3〜4年間にわたり使用続けることが可能となるという,大きな効果を得ることができた。
【実施例8】
【0093】
本実施例では、本発明を小型磁界重畳型電子銃を適用した例について説明する。まず始めに,磁界重畳型電子銃について説明する。磁界重畳型電子銃とは、電子源が磁界に浸された磁界重畳電子源と,当該電子源から電子線を引き出すための電界を印加する手段と,電子源に対して磁束を印加するための手段とを兼用する上部磁極及び,下部磁極とを備え,当該上部磁極と下部磁極との間に電界を発生する電位差を与えることに動作する電子銃である。
【0094】
図16(a)には、本実施例の小型磁界重畳型電子銃の電子源周りの断面図を示す。図16において上部磁極401と下部磁極402に与える電位差Vにより,電子源413に対する電子の引き出し電界が発生する。また,上部・下部磁極と引出し電界の印加手段(引出し電極)とを兼用することにより小型磁界重畳電子銃415全体の収差を小さくできる。これは,磁界の発生を,電子源に最も近い部品,すなわち引き出し電極で行うことにより,狭い領域で強い磁界が得られ,この結果,電子銃近傍に,焦点距離の短い電子レンズが形成されるためである。これは,電子光学的に,焦点距離を短くすると収差は小さくなる傾向を利用したものである。
【0095】
本実施例では、磁界の発生源として電磁コイルを用いずに永久磁石を用い,電子源としてカーボンナノチューブを用いている。磁界の発生源としては,前記電子源と同一の真空容器内に配置された永久磁石411を用いるのが好ましい。磁束発生源としてはコイルを使用することも可能であるが,永久磁石を用いると,電子レンズとして実用的な0.8〜1.1T(テスラ)程度の磁束を発生するのに極めて小さな体積ですむという利点がある。電子源413に磁界を与えるためには,前記電子源と前記磁界の発生源とを直接あるいはソフト磁性体からなる磁極を介して接続する。前記永久磁石411の形状は,電子源先端から見た電子放出方向を中心軸として概ね軸対称形状に配置する。この結果,磁気の分極がこの中心軸方向もしくは半径方向の如き軸対称となり,低収差の電子レンズとして理想的な,軸対象の磁界が得られる。
【0096】
前記永久磁石ないし前記磁極に印加する電位は,電子源と同一もしくは引き出し電極と同一で用いる。このため,磁界を発生する磁極および磁石と,電子を引き出す電界を発生する電極とを同一の小さな空間で形成することが可能となるので,狭い領域で強い磁界が得られる。
【0097】
上述の電子銃415と組み合わせる電子源413は,仮想光源径のなるべく小さな光源が好ましく,特に,電子源の先端部の物理的な直径が100nm以下の電界放射型電子源と組み合わせて用いると,収差が小さいという本発明の特徴を十分に生かすことができ,従来よりも高性能な電子銃が実現可能となる。
【0098】
図16(a)に示される構成を更に具体的に説明する。電子源の光軸上には棒状の永久磁石411が配置され,長手方向に磁化された細い棒状の磁石の端面上に発生する磁界を使用して,電子銃の収差を低減することにより高輝度化を達成している。下部磁極402はガイシ407にボルト408で固定され,両者の間にベース磁極403と絶縁体405が挟み込まれて固定される。この下部磁極は,引き出し電極を兼ねている。永久磁石411は上部磁極401とともに磁石ホルダ410内に磁石おさえ404で固定される。この磁石おさえは,外周にねじが形成されており,ベース磁極403のめねじと噛み合う。また磁石ホルダ410は皿ねじ409によりベース磁極403に固定されている。この場合,下部磁極402の側壁には、従来使用されていたコイルや磁石が無いので,図16(b)のように開口部を設けることが可能である。開口部を設けた側壁の内壁側には、非蒸発ゲッター412を配置し、側壁外部にはヒータ414を巻く。ヒータの通電加熱により非蒸発ゲッターを活性化させて真空ポンプとして作用させる。402の側壁に開口部を設けることにより真空排気のコンダクタンスが高まり、電子源413の周りがガス分子の少ない良好な状態に長時間保たれるという利点がある。
【0099】
電子源としてカーボンナノチューブを用いた例を説明したが,電子放出源の光源径あるいは仮想光源径が3nm程度以下であれば、他の電子源を使用しても良い。たとえば,Wの針で先端径が100nm以下のもの,あるいはこの先端にナノチップを形成したものでも光源径が小さいので同様の効果がある。ナノチップとは,W―FEの針を加熱しながら正電圧を印加して電界蒸発条件にすることにより針先端に数原子程度の突起を形成したものである。なお,W以外でも,Pt,Moなどの高融点金属を用いても良い。
【0100】
電子源413の動作時の引出電圧Vは,実用的には,電子源がカーボンナノチューブの場合には,100Vから4kVの範囲,Wの針で先端径が100nmの場合は2kVから5kVの範囲で,電子源からの放出電流Iを観察しながら,Iが所望の値となるように決定される。このIは,実用的には,カーボンナノチューブの場合は10nAから500μAの範囲,Wの針の場合10nAから30μAの範囲から選ばれる。上部磁極401は電子源413と同電位であり,加速電圧Vが印加される。実用的にはVは,SEM(走査電子顕微鏡)用には-30kVから−30Vの範囲から,また,TEM(透過電子顕微鏡)用には,−30kVから−1000kVの範囲から選ばれる。
【0101】
以上説明してきたように,電子源先端が100nm以下のものを使用し,永久磁石を利用することにより,小型軽量で,電磁コイルを使用しないのでエネルギー消費量も軽減できる磁界重畳型電子銃が実現できる。
【0102】
次に,図17を用いて、本実施例の小型磁界重畳型電子銃の全体構成について説明する。最上流にある第一の真空室421には,上述した小型磁界重畳型電子銃415がある。この第一の真空室の内壁には,非蒸発ゲッターポンプ416が備えられており,図示しないヒータによって活性化できる。第一の真空室は,電子ビームが通過する開口を有するアノード電極406を介して第二の真空室422とつながっている。この第二の真空室の内壁にも非蒸発ゲッターポンプ417が備えられ,図示しないヒータにより過熱されて活性化する。
【0103】
第二の真空室の下流側には,開口があり第三の真空室423とつながっている。この開口は,ガンバルブ418により開閉が可能で,メンテナンス時にはガンバルブを閉止して第二の真空室と第三の真空室を,電子銃415のある領域を高真空に維持したまま,切り離すことができる。
【0104】
第三の真空室にはコイル420よりなる電子光学系があり,イオンポンプ419により真空排気されている。第三の真空室の下流側にも開口があり,さらに下流側に真空室とつながっている。
【0105】
以上述べてきた構成を採ることにより,大気側にコイルの存在しない,小型軽量で収差の小さい磁界重畳型電子銃を得ることができた。
【実施例9】
【0106】
本実施例においては,実施例4と同じく,プローバ装置に本発明を適用した別の例について,図18を用いて説明する。
【0107】
実施例4においては,モニタ用のSEMカラム53を試料に対して斜めに設置してステレオグラムな像を得ることを特徴とした装置であった。一方,本実施例においては,該モニタ用SEMカラム53のうち1本を試料52の直上に置き,他方のカラムを試料の表面内に光軸を置くように配置した。各カラムは,図示していない駆動手段により,視野の調整と焦点合わせが可能となっている。
【0108】
上記のような配置にすれば,図18には図示していない光学顕微鏡による探針と回路端子の粗位置合わせの後に,該SEMカラム53の観察位置に試料52を移動し,さらに解像度の高いSEM像を用いて,試料直上にあるSEM像から試料平面内のアライメントが行え,他方のSEM像から探針と回路端子の相対高さ距離が観察できることとなり,従来のトンネル電流検出による接触検知よりも早く,かつ,短針や回路端子にダメージを与えることなく,接触動作を行える効果がある。
【0109】
本発明によるSEMカラム53のイオンポンプ29による真空排気は,二本とも同一のイオンポンプ29で兼ねることができる。
【0110】
この他の装置の構成や手順は,実施例4に示したものと同様に行なえばよい。
【実施例10】
【0111】
本実施例では、プローバ装置の他の構成例について説明する。特開平09−326425号に記載された従来のSEM式プローバ装置においては、試料に探針を接触させる際に、探針のZ方向の情報をSEM画像から得ることができないため、探針の試料への接触完了まで時間がかかりすぎる、あるいは誤って探針を試料に近づきさせすぎて試料や探針を損傷しやすいという問題があった。
【0112】
本実施例のプローバ装置においては、小型SEMカラムがメインの電子光学系装置のカラムに対して真横ないし斜めに配置された構成を採る。本構成により、探針のZ方向の位置情報を取得可能なSEM式プローバ装置が実現され、前述の課題が解決できる。またこのため、メインの電子光学系装置を保持する真空試料室筐体には、小型SEMカラムを導入するための真空導入機構が設けられる。
【0113】
まず、プローバ901の基本構成と機能について説明する。図19は、本実施例のプローバ901の全体構成を示す。図19において、プローバ901は、試料室907内に試料を保持する試料ホルダ902とこれを保持する試料ホルダ受け917とを含むステージとプローブユニット933を含むプローブステージ906を備える。ここで試料は試料ホルダ902に固定されているが、薄片であるため、作図の都合上、図19では不図示とした。試料の検査のために試料ホルダ902に対向して走査電子顕微鏡(SEM)あるいは集束イオンビーム(FIB)装置などの、イオンポンプ944を備えた第1の電子光学系装置904(荷電粒子装置ということができる)が試料室907の筐体に設けてある。図19では図示されていないが、第1の電子光学系装置904の紙面反対側には、第2の電子光学系装置が配置されている。また、この第1の電子光学系装置904に近接してプローブ粗寄せ画像取得装置910が設けてある。第1の電子光学系装置904からは試料の表面やプローブ(探針)903の動きを観察するための荷電粒子ビーム(電子やイオンビーム)が試料ホルダ902の方向に照射される。
【0114】
試料室907の筐体の上面部に第1の電子光学系装置904に近接して並設されるプローブ粗寄せ画像取得装置910は、プローブ粗寄せ光学顕微鏡(光顕)と画像取得のためのCCDカメラとを備え、プローブ903の試料に対する粗寄せ状態を観察し、画像情報として取得することができる。また、プローブ粗寄せ画像取得装置910は、縦方向のもの910Aばかりでなく、十字状配置とされた横方向配置のもの910Bが使用される。この十字状配置によってプローブ903は上方および横方向より観察され得、粗寄せ状態を確実に把握される。このとき、横方向からの粗寄せ画像の倍率は、上方からの粗寄せ画像の倍率よりも大きくして構成される。
【0115】
これは、測定に際して、まず上方のプローブ粗寄せ画像取得装置910Aによってプローブ903同士を水平方向に近づける粗寄せを行うが、このとき複数のプローブ903を粗寄せ画像に捉える必要がある。横方向からの粗寄せは横方向の粗寄せ画像を見ながらプローブ903を降下させて試料に接近させる。この後に第1の電子光学系装置904を用い、プローブ903先端と試料の焦点の合方を調べながらプローブ903を試料に接触させる動作を行う。横方向からの粗寄せにおいてプローブ903と試料の間隔が小さいと、第1の電子光学系装置904を用いたプローブ903と試料の接近動作にかかる時間を短くすることができる。このため、横方向からの粗寄せ画像の倍率は、上方からの粗寄せ画像の倍率よりも大きくして構成される。
【0116】
ステージは、試料を保持する試料ホルダ902とこれを載置する試料ステージ950とこれを載置する大ステージ949および大ステージ949が移動するベース948を備える。このステージは面板971を介して試料室907の側面に取付けられる。面板971は、ガイド連結板971aと、コロを用いたガイド971bとを介して試料室907に取り付けられる。
【0117】
次に、本実施例のプローバ装置の正面図と側面図とを、図20の右図、左図に各々示す。図20に示すように、ステージのメンテナンスやプローブユニットの交換を行うときはガイド971bに沿ってステージを引出す。図19の試料室907の下部に取付けられたガイドブロック948aは第1の電子光学系装置904に対するステージの垂直方向の位置決めに用いられ、また、ステージを試料室907から引出すときの案内をも行う。ガイドブロック948aの上部にはベース948の底部との間ですべり易い高分子材料等の摺動材948bが接着されている。
【0118】
プローブステージ906は、プローブ903を保持するプローブホルダ931を備えたプローブユニット933、これを保持するプローブユニットベース934およびプローブユニットベース934を大ステージ949につなぐプローブユニット台935を備える。プローブユニット933はx、y、zテーブル(不図示)を備え、3次元方向へプローブ903を移動させることができる。
【0119】
ベース948は面板971に固定部材947により固定される。試料室907には試料交換室908と、プローブ交換室909とが設けてある。
面板971には、プローブユニット933のx、y、zテーブルの動作を制御する信号と、試料ステージ950のx、y、zテーブル961、962、963、963aの動作を制御する信号を試料室907の外部から送るために、フィールドスルーが設けられている。
【0120】
試料交換室908の内部と試料室907の内部とはゲートバルブ921を介して接続される。試料交換室908の内部はドライポンプ(DP)952に接続され、真空処理がなされる。これにより、料室907の真空を維持しながら搬送手段929によって試料を保持した試料ホルダ902の交換を行い得る。なお、図19では、作図上の都合で試料交換室908が試料室907の右側面に接続されているように図示してあるが、実際には、図20に示したように、第1の電子光学系装置904の下方のステージに載置しやすいように、図19の手前方向の試料室907の側面に設けられている。
【0121】
試料室907の筐体の上面部には第1の電子光学系装置904およびプローブ粗寄せ画像取得装置910Aとを並設し、かつプローブ粗寄せ画像取得装置910Aに近接してプローブ交換室909が設けてある。プローブ交換室909の内部は試料室907の内部とゲートバルブ923を介して接続される。プローブ交換室909はターボ分子ポンプ(TMP)951およびこれに連結されたDP952に接続され、真空処理がなされる。試料室907の高真空を維持しながら交換手段955によってプローブユニット931の交換がなされる。
【0122】
試料室907には、TMP911がゲートバルブ953を介して接続され、このTMP911は、さらにDP912に接続される。試料室907の筐体は、一点鎖線で示す架台925によって支持される。
プローブユニット制御部およびステージ制御部からなる制御装置913およびTMP911およびDP912による高真空処理を制御する他の制御装置913Aが設けてある。制御装置913AはTMP951、DP952をも制御する。
【0123】
さらに、プローバ901は、画像表示部915および画像表示制御部916を備えたディスプレイ装置914を備え、画像表示制御部916からのプローブ903およびステージ操作信号は、プーブユニット制御部およびステージ制御部に伝えられ、プローブユニット933およびステージ、大ステージ949の制御がなされる。
【0124】
さらに、プローバ901は、画像表示部982および画像表示制御部983を備えたコンピュータ援用設計(CAD)用ワークステーション(WS)981を備えている。このCAD用WS981はディスプレイ装置914に接続されており、必要に応じてCAD像データをディスプレイ装置914に伝送する。
プローブ交換するときは、プローブユニット933のyテーブル、xテーブルを所定の位置(例えば後端)に、そしてzテーブルを所定の位置(例えば上端まで)移動させた後に行う。
【0125】
第1の電子光学系装置904からの画像情報を表示する画像表示部915に測定したい試料の部位、すなわちプローブ903を接触させたい部位を、試料ステージ950を移動させて表示し、その部位にプローブ903と試料を見ながら、接触させたい試料の部位にプローブ903をプローブユニット933のx、y、zテーブルを動作させて接触させることを行う。
【0126】
本発明では、プローブ903およびステージの駆動装置は特に限定しないが、たとえばプローブの駆動機構にはピエゾ素子を利用したものや、DCモータ、超音波モータなどが利用される。またステージの駆動機構にはパルスモータ、DCモータ、超音波モータなどが利用される。
【0127】
以下、装置の主要要素の構成および動作について説明する。
1.装置の主要要素の構成および動作
(1)ステージ
ステージは大ステージ949と試料ステージ950を備える。
【0128】
(a)試料ステージ950
試料ステージ950は、yテーブル962、xテーブル961、およびzテーブル963、963aを備え、それぞれのテーブルは駆動機構によってy、xおよびz方向に移動させられる。ここで試料ステージ950が、z(垂直)方向への駆動手段を備えていることにより、xy方向への大ステージ949および試料ステージ950の移動の前に、z方向に試料ステージ950を下げておくことで、試料902aと電子銃904の先端部との機械的な干渉を避けられる効果がある。さらに、実際、本実施例を用いてSEM観察を行う場合に、z方向に試料ステージ950を上げることで、電子銃904の先端から試料902aまでのワーキングディスタンスを小さくすることができ、これによってSEMの空間分解能を向上させることができる効果がある。本実施例では、z方向の駆動手段を試料ステージ950に組み込んだが、大ステージ949に組み込んでもよいし、その両方に組み込んでもよく、これによっても同様の効果が得られる。
【0129】
y、xテーブル962、961の移動は試料室907内に置かれたDCモータでボールねじを駆動することにより行い、案内はクロスローラ(不図示)でなされる。zテーブル963の移動は、zテーブル963に取り付けられたDCモータを駆動することにより行う。図19に示すように、zテーブル963の上に取り付けられた試料ホルダ受け917に試料ホルダ902および試料が固定される。従って、試料は電子ビームに対してx、y、z方向に移動される。zテーブル963は、測定位置、試料交換位置、およびプローブ交換位置を持つ。測定位置はプローブ903を試料に接触させる位置であり、試料交換位置は測定位置から下がった位置、プローブ交換位置はさらに下がった位置である。この位置にすることによってプローブ903および試料交換時に試料とプローブ903との衝突が防止される。
【0130】
(b)大ステージ949
図19に示すように、大ステージ949はyテーブル965、およびxテーブル964からなり、駆動装置(不図示)によってy方向およびx方向に移動される。試料ステージ950は大ステージ949上に載置されて駆動される。
【0131】
図19に示すように、大ステージ949にはプローブステージ906を構成するプローブユニット933と、これを保持するプローブユニットベース934、プローブユニット台935が載置される。プローブユニット933は、y方向、x方向およびz方向に移動される。これによってプローブユニット933に保持されるプローブホルダ931が移動され、その先端に把持されるプローブ903がy方向、x方向およびz方向に移動される。
【0132】
大ステージ949は、ベース948上を移動され、試料ステージ950は大ステージ949上を移動される。電子光学装置904、プローブ粗寄せ画像取得装置910Aおよびプローブ交換室909は試料室907の筐体の上面部に並設してあるので、移動機構は試料とプローブ903とをプローブ粗寄せ画像取得位置と、SEM観測位置とプローブ交換位置とに移動させることができる。すなわち、移動機構は、ステージ(試料ステージ950とプローブステージ906)をプローブ粗寄せ画像取得装置910の垂直方向の位置と第1の電子光学系装置904の垂直方向の位置と、そしてプローブ交換室909の垂直方向の位置との間を移動させることができる。
従って、試料およびプローブ903は、プローブ粗寄せ画像取得装置910の垂直方向の位置と第1の電子光学系装置904の垂直方向の位置と、そしてプローブ交換室909の垂直方向の位置との間を移動させられる。
【0133】
本実施例では、高真空を維持しながらベース948上の移動を行うことができる。このような移動方法を採用することによって、試料に対するプローブ903の粗寄せ、および高精度位置決めを迅速に、かつ容易に行い得る。さらに、プローブ903の交換に当たっても高真空を維持しながら行うことができ、プローブ903の交換を迅速に、かつ容易に行い得る。
従って、移動機構は、試料およびプローブ903を、第1の電子光学系装置904に並列して設けられたプローブ粗寄せ画像取得装置910の直下位置から第1の電子光学系装置904の直下位置に移動させることを高真空を維持しながら行うことができる。
【0134】
(2)走査電子顕微鏡(SEM)
第1の電子光学系装置904の一例であり、プローブ903を試料の目的とする場所に接触させるための観察手段に用い、試料室907の上部に配置される。真空排気はイオンポンプ944でなされる。図20左図に示される990は、第2の電子光学系装置であり、小型SEMカラム991,小型SEMカラム駆動手段992、その間を繋ぐ接続部材などからなる。小型SEMカラム駆動手段992と接続部材とは、真空排気用の排気管を内部に備えており、更に、小型SEMカラム駆動手段992には、小型SEMカラム991内部の粗排気用のイオンポンプ993が備えられている。上記接続部材を排気管自体で構成すると、粗排気時のコンダクタンスが大きくなるので好ましい。小型SEM991の内部構造は,実施例1から実施例9までに述べたものと同様であるので簡略に説明するが、電子銃と当該電子銃を取り囲む筐体を含む電子銃室、電子銃から照射された電子ビームを試料上で走査するための走査コイルや走査コイルを経た電子ビームを試料上にフォーカスするための対物レンズなどからなる照射光学系、発生した二次電子を検出する二次電子検出器などからなる。また、本実施例の小型SEMカラム991は,図示していない非蒸発ゲッターポンプと小型SEMカラム992に設置されたイオンポンプ993を用いた差動排気構造を備えており,上流の各真空室に備えられた非蒸発ゲッターポンプとの併用により,排気系最上流の電子銃室を極高真空に維持している。なお、本実施例においては、イオンポンプ993が小型SEMカラム駆動手段922に備え付けられているが、小型SEMカラム911にイオンポンプを取り付けることも可能であり、いずれの構成においても差動排気構造を実現可能である。但し、イオンポンプは、試料室907の外側になるように(すなわち小型SEMカラム駆動手段922に)取り付けた方が、試料室907の筐体サイズが小さくて済む。
【0135】
第2の電子光学系装置990は,試料室907側面の試料交換室908の直上に設置される。このため、試料室907の隅にはベローズ等により構成される真空導入機構が設けられる。当該真空導入機構により、第2の電子光学系装置990は、試料902を斜めに望む方向に位置決めされる。第2の電子光学系装置990は,モータ等の駆動手段を備えた駆動案内994に設置されており、斜め方向の画像取得時には、試料902に対して所定の観察位置まで接近し、それ以外の場合は、退避位置まで移動される。なお、第2の電子光学系装置990を退避位置まで移動させた場合であっても、小型SEMカラム991は常に試料室907内の真空中にあるような構成になっている。以上のような構造をとることにより、試料交換工程と,探針の回路端子へのアプローチのためのSEM像観察を,迅速,かつ,安全(探針と回路端子のクラッシュのない)に実施することが可能となる。 また、図20左図では、第2の電子光学系装置を試料に対して斜め方向に配置、つまり、第1の電子光学系装置904に対して傾斜させて配置しているが、試料に対して水平方向に配置しても良い。ただし,この場合には,試料交換室908との機械的な干渉が生じない位置に近接して設ける必要がある。これに対して,試料に対して斜めに配置した場合、小型SEMカラム991と試料とのワーキングディスタンスを短くすることができるので、分解能の高いSEM画像を取得する上で有利である。一方、試料に対して水平方向に配置した場合、探針を真横から観察できるため、探針先端部の位置情報を取得する上で有利である。
【0136】
(3)試料室907
試料室907は上蓋と筐体である試料室ケースからなり、試料室ケースにはその側面に固定部材947を介して面板971にベース948が取り付けられ、試料室907内の大ステージ949の上にプローブユニット933が載せられ、他の側面に試料交換室908が取り付けられる。上蓋には第1の電子光学系装置904、プローブ粗寄せ画像取得装置910、プローブ交換室909が取り付けられる。試料室907は架台925に取り付けられた除振マウントの上に取り付けられた荷重板の上に固定される。試料室907はTMP911とDP912により真空排気される。
【0137】
(4)プローブ粗寄せ用光顕、CCDカメラ、プローブ粗寄せ画像取得装置
電気特性を測定する試料はたとえば半導体であり、通常ソース、ドレイン、ゲート、ウェルにつながるプラグにプローブ903を接触させる。プラグは小さいもので直径数10nmの大きさであり、これにプローブを接触させるためには分解能の高いSEMが必要である。しかし、半導体試料に電子ビームを照射すると電子ビームによりダメージを受ける恐れがあり、できるだけビームの照射時間を短くすることが望ましい。そのため、プローブ粗寄せ画像取得装置910の検出値に基づいてあらかじめ複数のプローブを水平方向に近づけ、垂直方向は試料表面に近づけておくことを行う。プローブ粗寄せ光顕とそれに取り付けられたCCDカメラから得られる像を画像表示部915のモニタ上に表示し、この画像を見ながらこの作業を行う。
【0138】
モニタ上の倍率はプローブ903同士をできるだけ近づけ、かつプローブ903と試料を一つの画面に捕らえるため数10倍となっている。プローブ粗寄せ光顕に隣接して光源が配置される。プローブ粗寄せ光顕とCCDカメラによる観察と、光源からの光の試料室への導入は図19に示したのぞき窓939を通して行う。
【0139】
(5)試料交換室908
試料交換室908は試料室907の真空を破らずに試料を交換するために設けられ、DP952で真空排気される。試料交換室908はゲートバルブ921で試料室907と仕切られる。試料を導入する場合は試料を接着した試料ホルダ902に設けられたメネジに試料および試料ホルダ902の搬送手段929である交換棒先端のオネジをねじ込み、ゲートバルブ921を開けて、試料ステージ950のzテーブル963の上端に取り付けられたホルダ受け917に挿入することによって行われる。試料を取り出すときはこの逆の作業を行う。これにより試料交換時間の短縮が図られる。
【0140】
(6)プローブ交換室909
プローブ交換室909は試料室907の真空を破らずにプローブ903を交換するために設けられ、プローブ交換時間を短縮するためのものである。プローブ交換室909はゲートバルブ923で試料室907と仕切られる。プローブ交換室909はTMP951とDP952で真空排気される。TMP951を用いたのはプローブ交換室909が大きいのでDP952だけで排気すると、プローブ交換室909の圧力が高い状態でゲートバルブ923を開けることになり、交換後の試料室907の圧力がもとの値に回復する時間が長くなるためである。
【0141】
2.制御系
第1の電子光学系装置904、第2の電子光学系装置990、プローブユニット933、ステージ各部の制御は制御装置913に内蔵するそれぞれの制御回路とコンピュータを使って制御する。また、SEM、プローブユニット933、ステージは各操作パネルおよびモニタ上のGUIどちらでも操作が可能である。
【0142】
制御装置913は、各ステージの位置を制御するためのステージ制御部、プローブユニット933をステージと独立に駆動するためのプローブ制御部を備える。画像制御部916は2次電子検出器制御部、電子ビーム照射光学系の制御部などを含んでいる。この他、計算処理部は、ディスプレイ装置914の制御部と一体となってプローブホルダ931や試料、および試料へのプローブ903の触針状況などを画像として表示する機能を有する。
【0143】
さらに、画像表示部の操作用画面を操作することにより、操作信号を画像表示制御部を通してプローブユニット制御部、ステージ制御部に与え、プローブユニット933とステージを移動および位置決めさせる。これとは別に、ジョイスティックを有する操作パネルを用いてプローブユニット933およびステージを移動し位置決めさせることもできる。
【0144】
(1)SEM
電子銃で発生した電子ビームは集束レンズ、対物レンズを通して試料に照射され、試料から発生した2次電子を2次電子検出器で検出し、その信号をディスプレイ内で種々の電気的処理を行い、ディスプレイ装置914の画像表示部915上のモニタに試料表面の画像を映し出す。
【0145】
(2)プローブユニット933
プローブユニット933のx、y、zテーブルの動作を制御する信号は、図19に示したように架台925内の制御回路913の信号をステージの面板971に取り付けられたフィールドスルーを介して試料室907内のプローブユニット933に与えられる。
【0146】
プローブホルダ931に取り付けられたプローブ903を通して試料に与えられる入力信号、また試料から得られる出力信号は試料室907に取り付けられた3層同軸ハーメチックコネクタを介してたとえば半導体パラメータアナライザに入出力される。
【0147】
(3)ステージ
ステージ上の試料ステージ950のx、y、zテーブル961、962、963、963aの動作を制御する信号は、架台925内の制御回路の信号を面板971に取り付けられたフィールドスルーを介して試料室907内の試料ステージ950に与えられる。
【0148】
3.ディスプレイ装置914
ディスプレイ装置914は、プローブ粗寄せ画像取得装置910で取得した粗寄せ画像、第1の電子光学系装置904或いは第2の電子光学系装置990で取得したプローブ903の試料への触針画像を表示する。すなわち、プローブ操作画面および操作手順内容を示す操作手順画面を表示する。
【0149】
ユーザは、操作手順画面に表示された操作手順に従って、粗寄せ画像および触針画像を見ながら試料およびプローブ903を高精度に位置決めすることを行う。
【0150】
4.CAD用ワークステーション981
プローバ901は、画像表示部982および画像表示制御部983を備えたCAD用WS981を備えている。このCAD用WS981はディスプレイ装置914に接続されており、必要に応じてCAD像データをディスプレイ装置914に伝送する。
【0151】
以上のような構成によれば、CAD情報を参照しながら、第1の電子光学系装置904からの画像情報を表示する画像表示部915に測定したい試料の部位、すなわちプローブ903を接触させたい部位を試料ステージ950を移動させて表示し、その部位にプローブ903と試料のSEM像およびCAD像を見ながら、接触させたい試料の部位にプローブユニット933、すなわちプローブ903をx、y、z方向に動作させて接触させることを行うことができる。
【0152】
さらに本実施例では、ディスプレイ装置914とCAD用ワークステーション981や他の制御部を別々のコンピュータとして構成したが、これらを統合し一台のコンピュータで構成してもよい。
このようにCADナビゲーション導入により、プローブを触針位置にプロービングする際のユーザ利便性が顕著に向上する効果がある。
【0153】
なお本実施例では、試料の一例として半導体を挙げたが、局所的な電気特性を測定する目的であれば半導体以外の試料の計測に本発明の装置を使ってもよい。たとえば磁気ヘッドの局所的な絶縁抵抗の測定の測定に用いても良い。それ以外にも、回路の配線部分、電極、メモリセルなど、微細な電子回路一般を検査対象物にできることは言うまでもない。また、検査対象物を内包する試料としては、半導体ウェハ、回路パターンが形成されたチップないし試料基板、或いは試料基板を割断して一部を取りだした試料片などを使用することができる。
【0154】
図21,図22は,ステージを上方から見た際のプローブ906と試料搬送手段929及び,本発明の小型SEMカラム991の位置関係を示している。6台のプローブステージ906がステージ965の上に試料ホルダ995を囲むように配置されている。一部扇状にスペースが空いており,試料搬送手段929の先端に固定された試料と本発明の小型SEMカラム991が交互に侵入できる構成を取る。前述の通り、小型SEMカラムは、第1の電子光学系装置904に対して斜めに導入しても垂直方向に導入しても良い。つまり、試料導入機構と小型SEM導入機構の双方を、試料ステージ上方から見て、同じ方向に配置することが重要である。これにより、ステージに配置されるプローブステージの数を減らすことなく、小型SEMカラム991と試料搬送手段929の両方をステージ上に導入できるという利点がある。
【0155】
次に,試料交換と探針と回路端子の接触までの工程を説明する。試料は,試料交換室908において試料交換手段929の先端に装着される。試料交換室908の真空引きを行なった後,ゲートバルブ921を開き,試料搬送手段929が試料室971内部に移動して,試料995をステージ965に設置された試料受け917に挿入して固定される。試料搬送手段929は,試料995を離した後に引き戻され,試料交換室908に収納される。
【0156】
その後,ステージを駆動して,粗寄せ画像取得装置910のある位置に移動し,前述のとおりの方法によってプローブと試料上の回路端子の粗位置合わせを粗寄せ画像取得装置910を用いて行う。そして,ステージを駆動してSEM904にて上方からのSEM像による高倍率観察が可能な位置に移動する。このSEM像により上方から見た,探針903と試料995にある回路端子の位置を精密に合わせた後に,探針903を下げて,回路端子に接触させる必要がある。
【0157】
このときに,本発明の小型SEMカラム991が,試料搬送手段929が試料995を導入した際に使用した領域に入れ替わりに導入され,SEM像観察を行うことができる。観察可能なSEM像は,斜め上方から探針と回路端子を見た画像であり,実施例4で述べた装置から得られる画像である図9と類似したものである。このSEM像から探針903と回路端子間の距離を視覚的に捉えられる情報が得られるので,探針と回路端子の接近,接触動作がクラッシュを引き起こすことなく,迅速に,かつ,安全に実施できるようになる。さらに,ステージ上に密集したプローブ906に機械的に干渉することなく,6個のプローブ906を使用した効率のよい配置が実現できると共に,同時に6点の回路端子を使用できるため,測定モードの選択肢を広く設定できるという効果もある。
【0158】
以上述べた装置構成は、必ずしも差動排気構造を用いなくとも実現可能である。但し、差動排気構造を適用することにより、第2の電子光学系装置990に備える必要のあるイオンポンプの台数を低減することができ、装置の防振性能を高める上で、非常に有利である。また、図19に示されるように第1の電子光学系装置904も複数のイオンポンプ944を備えているが、第1の電子光学系904に対しても差動排気構造を適用することで、イオンポンプの必要台数を1台に低減することが可能となる。
以上、各電子光学系装置の真空排気系に差動排気構造を適用することにより、装置の防振性能・耐振性能が、従来よりも格段に向上する。
【実施例11】
【0159】
本実施例においては、以下のプローバ装置が開示される。
二つ以上の真空室を開口を介して結合した差動排気構造をとり,上流側に非蒸発ゲッターポンプを備え,下流側のいずれかの真空室にイオンポンプを備えた走査型電子顕微鏡カラムを二組備えたことを特徴とするプローバ装置、または、上記プローバ装置において,該二組の走査型電子顕微鏡カラムに設置するイオンポンプ一台を二つの該走査型電子顕微鏡カラムに併用することを特徴とするプローバ装置、または、上記のプローバ装置において,前記二組の走査型電子顕微鏡カラムの視野に同一の領域が互いに異なる視野角を持つように配置したことを特徴とするプローバ装置。
【0160】
または、試料表面に設けられた回路端子と,該回路端子に接触する複数の探針と,該探針を位置決めする手段と,該試料をプローバ装置に導入する手段を備えたプローバ装置において,二つ以上の真空室を開口を介して結合した差動排気構造をとり,上流側に非蒸発ゲッターポンプを備え,下流側のいずれかの真空室にイオンポンプを備えた走査型電子顕微鏡カラムを有することを特徴とするプローバ装置。
【0161】
または、上記に記載のプローバ装置において,該走査型電子顕微鏡カラムは一軸方向に位置決め可能な移動手段を有することを特徴とするプローバ装置。
または、上記に記載のプローバ装置において,複数の該探針を該試料の周辺に配置し,一部を該複数の探針を配置せずに,該試料導入手段と該走査型電子顕微鏡カラムが共有する空間として空けることを特徴とするプローバ装置。
【実施例12】
【0162】
本実施例においては、以下の集束イオンビーム装置及び試料作製装置が開示される。二つ以上の真空室を開口を介して結合した差動排気構造をとり,上流側に非蒸発ゲッターポンプを備え,下流側のいずれかの真空室にイオンポンプを備え,最上流の真空室にイオン源を備えたことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【0163】
または、集束イオンビームカラムと,走査型電子顕微鏡カラムと,試料から微小サンプルを切り出すサンプリングアームとを備えた試料作製装置において,前記集束イオンビームカラムは、二つ以上の真空室を開口を介して結合した差動排気構造を有し,上流側に非蒸発ゲッターポンプを備え,下流側のいずれかの真空室にイオンポンプを備え,最上流の真空室にイオン源を備えたことを特徴とする試料作製装置。
【0164】
または、集束イオンビームカラムと,走査型電子顕微鏡カラムと,試料から微小サンプルを切り出すサンプリングアームとを備えた試料作製装置において,前記走査型電子顕微鏡カラムは二つ以上の真空室を開口を介して結合した差動排気構造を有し,上流側に非蒸発ゲッターポンプを備え,下流側のいずれかの真空室にイオンポンプを備え,最上流の真空室に電子源を備えたことを特徴とする試料作製装置。
【0165】
または、上記の試料作製装置において、前記走査型電子顕微鏡カラムが、該走査型電子顕微鏡カラムは二つ以上の真空室を開口を介して結合した差動排気構造を有し,上流側に非蒸発ゲッターポンプを備え,下流側のいずれかの真空室にイオンポンプを備え,最上流の真空室に電子源を備えたことを特徴とする試料作製装置。
【符号の説明】
【0166】
1:電子源,2:電子銃用カラム,3:非蒸発ゲッターポンプ,4:ヒータ,5:非蒸発ゲッターポンプ,6:電子光学系用カラム,7:試料室,8:ガンバルブ,9:ターボ分子ポンプ,10:電子銃用カラム,11:中間室,12:粗排気ポート,13:イオンポンプ,14:粗排気ポート,15:メタルバルブ,16:メタルバルブ,17:メタルバルブ,18:磁界重畳型電子銃,19:電磁コイル,20:探針,21:探針,22:回路端子,23:試料ステージ,24:ステージ駆動手段,25:ステージ駆動手段,26:探針駆動手段,27:探針駆動手段,28:ターボ分子ポンプ,29:イオンポンプ,30:電子源, 31:電子源, 32:静電光学系,33:静電光学系,34:非蒸発ゲッターポンプ,35:非蒸発ゲッターポンプ,36:電子ビーム,37:開口板,38:電磁コイル,39:イオン源,40:静電電極,41:静電電極,42:静電電極,43:静電電極,44:静電電極,45:非蒸発ゲッターポンプ,46:非蒸発ゲッターポンプ,47:ターボ分子ポンプ,48:イオンポンプ,49:試料,50:イオンビーム,51:光学顕微鏡,52:試料,53:モニタ用SEMカラム,60:試料,61:イオン源,62:電子源,63:静電光学系,64:静電光学系,65:静電光学系,66:電極,67:電磁光学系,69:イオンポンプ,70:イオンポンプ,71:ステージ,72:マイクロサンプリング用アーム,75:マイクロサンプリングアーム駆動手段,7
6:二次電子検出器,77:FIBカラム,78:SEMカラム,79:非蒸発ゲッターポンプ,80:非蒸発ゲッターポンプ,81:非蒸発ゲッターポンプ,82:非蒸発ゲッターポンプ,83:磁路,85:第一の真空室,86;第二の真空室,87:第三の真空室,88:イオンポンプ,89:冷陰極型電子源,90:真空ゲージ,100:電子源,101:電子線照明光学系カラム,102:電磁レンズ,103:E×B偏向器,104:E×B偏向器,105:試料(ウェハ),106:試料ステージ,107:対物電磁レンズ,108:試料室,109:中間電磁レンズ,110:結像電磁レンズ,111:シンチレータ,112:光学レンズ,113:CCD撮像素子,114:小型SEMカラム,115:電子源,116:非蒸発ゲッターポンプ,117:静電光学系,118:イオンポンプ,119:ターボ分子ポンプ,120:ミラープロジェクションカラム,121:電子ビーム,301:照射電子線,302:結像電子線,304:結像面,401:上部磁極,402:下部磁極,403:ベース磁極,404:磁石おさえ,405:絶縁体,406:アノード,407:ガイシ,408:ボルト,409:皿ねじ,410:磁石ホルダ,411:永久磁石,412:非蒸発ゲッターポンプ,413:電子源,414:ヒータ,415:小型磁界重畳電子銃,416:非蒸発ゲッターポンプ,417:非蒸発ゲッターポンプ,418:ガンバルブ,419:イオンポンプ,420:電磁コイル,421:第一の真空室,422:第二の真空室,423:第三の真空室,500:ディスプレイ,501:制御手段。901:プローバ装置,990:小型SEMカラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラー電子を検出する第1の電子光学系カラムと、二次電子ないし反射電子を検出する第2の電子光学系カラムと、被検査試料を載置する試料ステージと、当該試料ステージを内部に格納し、前記第1の電子光学系カラム及び第2の電子光学系カラムが固定された真空試料室と、前記第1の電子光学系カラムないし第2の電子光学系カラムで取得された検出信号を処理する信号処理手段とを備え、
前記第1の電子光学系カラムでの取得画像と前記第2の電子光学系カラムでの取得画像とを対比することが可能であることを特徴とするミラー電子式試料検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のミラー電子式試料検査装置において、
前記第2の電子光学系カラムが、二つ以上の真空室を開口を介して結合した差動排気構造をとり,上流側に非蒸発ゲッターポンプを備え,下流側のいずれかの真空室にイオンポンプを備えることを特徴とするミラー電子式試料検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載のミラー電子式試料検査装置において、
前記試料ステージは,前記第1の電子光学系カラムから取得された試料上の特定位置を、前記第2の電子光学系カラムにて画像を取得可能な位置に位置決め可能であることを特徴とするミラー電子式試料検査装置。
【請求項4】
請求項1に記載のミラー電子式試料検査装置において、
磁界重畳型電子銃を備え、当該磁界重畳型電子銃は、二つ以上の真空室を開口を介して結合した差動排気構造を採ることを特徴とするミラー電子式試料検査装置。
【請求項5】
請求項1に記載のミラー電子式試料検査装置において、
前記磁界重畳型電子銃は、真空排気系の最上流側に備えられた電子源と、
当該電子源廻りの真空排気を行なう非蒸発ゲッターポンプと、
前記非蒸発ゲッターポンプに対する下流側に備えられたイオンポンプと、
該電子源の近傍に配置された,着脱可能な電磁コイルとを備えたことを特徴とするミラー電子式試料検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−165669(P2011−165669A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66960(P2011−66960)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【分割の表示】特願2005−115233(P2005−115233)の分割
【原出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】