説明

モータ制御装置及び車両用操舵装置

【課題】異音や振動のない滑らかなモータ回転を得ることができるモータ制御装置及び該モータ制御装置を備えた車両用操舵装置を提供すること。
【解決手段】マイコン21は、指令値であるACT指令角θta*にフィードバック値であるACT角θtaが追従するようにフィードバック演算を実行して電流指令εを算出する位置制御演算部26と、同電流指令εに基づいてモータ制御信号を生成するモータ制御信号出力部30を備えた。回転角異常判定部41は、所定周期内でのモータ13の回転角変化量が変化範囲外である場合に、レゾルバ27により検出されたモータ回転角θmが異常値であると判定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及び車両用操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリング操作に基づく転舵輪の第1の舵角にモータの回転に基づく転舵輪の第2の舵角(ACT角)を上乗せすることにより、ステアリングの舵角(操舵角)と転舵輪の舵角(転舵角)との間の伝達比(ギヤ比)を可変させる伝達比可変装置を備えた車両用操舵装置がある。こうした車両用操舵装置に用いられるモータ制御装置では、伝達比可変装置を駆動するモータのモータ回転角をレゾルバからの出力信号に基づいて検出し、ACT角の目標値(ACT指令角)とモータ回転角から算出した実ACT角との偏差に基づくフィードック制御を行うことで、実ACT角がACT指令角に追従するようにしている。
【0003】
ところで、レゾルバが故障する等して正確なモータ回転角を検出できない場合には、適切なモータ制御を実行することができなくなるため、レゾルバの異常や検出されたモータ回転角が異常値であるか否かを検出するとともに、そのような異常が発生した際にはモータ制御を停止する等の措置を行う必要がある。そこで、例えば特許文献1に記載の異常検出装置では、レゾルバから出力される正弦波相出力信号(Sinθ)及び余弦波相出力信号(Cosθ)の各2乗値の和(Sinθ+Cosθ)が所定範囲内にない場合に、該レゾルバに異常が発生したと判定している。詳しくは、図8に示すように、レゾルバから出力される正弦波相出力信号及び余弦波相出力信号により特定される座標点は、理論的には実線で示す円状に変化する。そのため特許文献1では、レゾルバの構成部品の寸法ばらつき等に起因する出力ばらつきを考慮して、理論値から所定範囲(ハッチングにより示された範囲)内に上記座標点が位置する、即ち正弦波相出力信号及び余弦波相出力信号の各2乗値の和が所定範囲内である場合に、レゾルバが正常であると判定している。
【特許文献1】特開2006−177750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1では、正弦波相出力信号及び余弦波相出力信号の各2乗値の和が所定範囲内であれば、ノイズ等の影響で実際のモータ回転角とは異なる異常値が検出された場合であっても、レゾルバの異常とは判定しない。従って、モータ制御装置は、検出された異常値に基づいてモータ制御を実行するため、滑らかなモータ回転を得ることができず、異音や振動が発生するという問題があった。そして、このようなモータ制御装置により伝達比可変装置のモータを制御すると、モータを滑らかに回転させることができないためにステアリングホイールが振動し、操舵フィーリングが悪化するという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、異音や振動のない滑らかなモータ回転を得ることができるモータ制御装置及び該モータ制御装置を備えた車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、モータ制御信号を出力する制御手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動手段と、前記モータの回転を検出するレゾルバから出力される信号に基づいて所定周期毎にモータ回転角を検出する回転角検出手段とを備え、前記制御手段は、前記モータ回転角を制御するための指令値に、前記回転角検出手段により検出されたモータ回転角に基づいて算出したフィードバック値が追従するように前記モータ制御信号を生成するモータ制御装置であって、所定のモータ回転角での回転角速度に基づいて、前記モータが前記所定周期内で回転可能な変化範囲を算出する変化範囲演算手段と、前記所定周期内での前記モータの回転角変化量が前記変化範囲内でない場合に、前記回転角検出手段により検出されたモータ回転角が異常値であると判定する判定手段とを備えたことを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、所定周期内でのモータの回転角変化量がその変化範囲を超えている場合には異常値と判定される。従って、異常値が検出された場合には、例えばモータ制御を停止することで、異常なモータ回転角に基づいて算出されたフィードバック値と指令値との偏差に基づくフィードバック演算によりモータ制御信号を生成することが防止されるため、モータ制御装置によって異音や振動のない滑らかな回転が得られる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、所定のモータ回転角及び該モータ回転角での回転角速度に基づいて、前記所定周期内での前記モータの回転角変化量が前記変化範囲内である推定モータ回転角を推定する推定手段を備え、前記制御手段は、前記判定手段により前記回転角検出手段にて検出されたモータ回転角が異常値であると判定された場合には、前記推定モータ回転角に基づいて算出される値と前記指令値とに基づいて前記モータ制御信号を生成することを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、レゾルバにより検出されたモータ回転角が異常値であると判定された場合に、所定周期内でのモータの回転角変化量が変化範囲内である推定モータ回転角に基づいて算出された値と指令値とに基づいて前記モータ制御信号が生成されるため、モータの回転が円滑化されて、より確実に異音や振動のない滑らかな回転が得られる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のモータ制御装置において、前記制御手段は、前記判定手段により所定回数以上連続して前記モータ回転角が異常値であると判定された場合には、通電相を固定して前記駆動電力を供給する相固定通電を実行するように前記モータ制御信号を生成することを要旨とする。上記構成によれば、レゾルバに異常が発生した場合に速やかにフェールセーフを図り、車両の安全性が確保される。
【0011】
請求項4に記載の発明は、ステアリングと転舵輪との間の操舵伝達系の途中に設けられてステアリング操作に基づく転舵輪の第1の舵角にモータの回転に基づく前記転舵輪の第2の舵角を上乗せすることにより前記ステアリングの舵角と前記転舵輪の舵角との間の伝達比を可変させる伝達比可変装置と、モータ制御信号を出力する制御手段と、前記モータ制御信号に基づいて前記モータに三相の駆動電力を供給する駆動手段と、前記モータの回転を検出するレゾルバから出力される信号に基づいて所定周期毎にモータ回転角を検出する回転角検出手段とを備え、前記制御手段は、車両の状態に基づいて算出した前記第2の舵角の指令値に、前記回転角検出手段により検出されたモータ回転角に基づいて算出された前記第2の舵角のフィードバック値が追従するように前記モータ制御信号を生成するモータ制御装置とを備えた車両用操舵装置であって、所定のモータ回転角での回転角速度に基づいて、前記モータが前記所定周期内で回転可能な変化範囲を算出する変化範囲演算手段と、前記所定周期内での前記モータの回転角変化量が前記変化範囲内でない場合に、前記回転角検出手段により検出されたモータ回転角が異常値であると判定する判定手段とを備えたことを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、モータ制御装置によって異音や振動のない滑らかなモータ回転を得ることができるため、ステアリングの振動が防止されて操舵フィーリングの向上が図られる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の車両用操舵装置において、前記モータ制御装置は、所定のモータ回転角及び該モータ回転角での回転角速度に基づいて、前記所定周期内での前記モータの回転角変化量が前記変化範囲内である推定モータ回転角を推定する推定手段を備え、前記制御手段は、前記判定手段により前記回転角検出手段にて検出されたモータ回転角が異常値であると判定された場合には、前記推定モータ回転角に基づいて算出される値と前記指令値とに基づいて前記モータ制御信号を生成することを要旨とする。上記構成によれば、モータ制御装置によってモータの回転が円滑化されて、より確実に異音や振動のない滑らかなモータ回転を得ることができるため、ステアリングの振動が防止されて操舵フィーリングの向上が図られる。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の車両用操舵装置において、前記制御手段は、通電相を固定して前記駆動電力を供給する相固定通電を実行している際に、所定時間以上継続して前記モータ回転角が異常値であるか否かを判定し、前記制御手段により所定時間以上継続して前記モータ回転角が異常値であると判定された場合に、機械的に前記モータを固定することにより前記第2の舵角を変更不能とするロック装置を備えたことを要旨とする。上記構成によれば、機械的にモータをロックすることでより確実に車両の安全性が確保される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異音や振動のない滑らかなモータ回転を得ることが可能なモータ制御装置及び該モータ制御装置を備えた車両用操舵装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態の車両用操舵装置1の概略構成図、図2は、その制御ブロック図、そして、図3(a)(b)は、伝達比可変制御の作用説明図である。図1に示すように、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック5に連結されている。そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転がラックアンドピニオン機構4によりラック5の往復直線運動に変換されるとともに、このラック5の往復直線運動により転舵輪6の舵角、即ち転舵角が変更されて車両進行方向が変更されるようになっている。なお、本実施形態の車両用操舵装置1は、所謂ラックアシスト型の電動パワーステアリング装置(EPS)であり、ボール螺子機構(図示略)を介して駆動源であるモータ7の発生するアシストトルクをラック5に伝達することにより、操舵系にアシスト力を付与するようになっている。
【0017】
また、車両用操舵装置1は、ステアリング2と転舵輪6との間の操舵伝達系の途中に設けられてステアリング2の舵角(操舵角)と転舵輪6の舵角(転舵角)との間の伝達比(ギヤ比)を可変させる伝達比可変装置8と、該伝達比可変装置8の作動を制御するIFSECU9とを備えている。
【0018】
ステアリングシャフト3は、ステアリング2が連結された第1シャフト10とラックアンドピニオン機構4に連結される第2シャフト11とからなるとともに、伝達比可変装置8は、第1シャフト10及び第2シャフト11を連結する差動機構12と、該差動機構12を駆動する駆動源としてのモータ13とを備えている。そして、伝達比可変装置8は、ステアリング操作に伴う第1シャフト10の回転に、モータ13の回転を上乗せして第2シャフト11に伝達することにより、ラックアンドピニオン機構4に入力されるステアリングシャフト3の回転を増速(又は減速)する。
【0019】
つまり、図3(a),(b)に示すように、伝達比可変装置8は、ステアリング操作に基づく転舵輪6の舵角(ステア転舵角θts)にモータ駆動に基づく転舵輪の舵角(ACT角θta)を上乗せすることにより、操舵角θsに対する転舵輪6の転舵角θtの比率、即ち伝達比(ギヤ比)を可変させる。そして、IFSECU9は、モータ13に対する駆動電力の供給を通じて伝達比可変装置8の作動を制御し、これにより操舵角θsと転舵角θtとの間の伝達比(ギヤ比)を制御する。
【0020】
なお、この場合における「上乗せ」とは、加算する場合のみならず減算する場合をも含むものと定義し、以下同様とする。また、「操舵角θsに対する転舵角θtのギヤ比」をオーバーオールギヤ比(操舵角θs/転舵角θt)で表した場合、ステア転舵角θtsと同方向のACT角θtaを上乗せすることによりオーバーオールギヤ比は小さくなる(転舵角θt大、図3(a)参照)。そして、逆方向のACT角θtaを上乗せすることによりオーバーオールギヤ比は大きくなる(転舵角θt小、図3(b)参照)。本実施形態では、ステア転舵角θtsが第1の舵角を構成し、ACT角θtaが第2の舵角を構成する。
【0021】
また、伝達比可変装置8のモータ13には、ブラシレスモータが採用されている。モータ13は、IFSECU9から三相(U,V,W)の駆動電力が供給されることにより回転する。そして、モータ制御装置としてのIFSECU9は、この駆動電力の供給を通じてモータ13の回転を制御することにより、伝達比可変装置8の作動、即ちACT角θtaを制御する。
【0022】
次に、本実施形態の車両用操舵装置の電気的構成について説明する。
図1に示すように、IFSECU9には、操舵角センサ14により検出された操舵角θs(操舵速度ωs)、及び車速センサ15により検出された車速Vが入力されるようになっている。そして、IFSECU9は、これら操舵角θs(操舵速度ωs)及び車速Vに基づいてモータ13の回転を制御することにより伝達比可変装置8の作動を実行する。
【0023】
詳述すると、図2に示すように、IFSECU9は、モータ制御信号を出力する制御装置としてのマイコン21と、該モータ制御信号に基づいてモータ13に駆動電力を供給する駆動回路22とを備えている。
【0024】
マイコン21は、ギヤ比可変制御演算部23及び微分ステア制御演算部24を備えている。ギヤ比可変制御演算部23には、操舵角θs及び車速Vが入力されるとともに、微分ステア制御演算部24には、車速V及び操舵速度ωsが入力される。そして、ギヤ比可変制御演算部23は、車速Vに応じてギヤ比(伝達比)を可変させるための制御目標成分であるギヤ比可変指令角θgr*を算出し、微分ステア制御演算部24は、操舵速度ωsに応じて車両の応答性を向上させるための制御目標成分である微分ステア指令角θls*を算出する。ギヤ比可変制御演算部23及び微分ステア制御演算部24により算出されたギヤ比可変指令角θgr*及び微分ステア指令角θls*は、加算器25へと入力される。そして、加算器25は、これらギヤ比可変指令角θgr*及び微分ステア指令角θls*を重畳することによりACT角θtaの指令値であるACT指令角θta*を算出し、位置制御演算部26に出力する。
【0025】
また、IFSECU9には、モータ13の回転角を検出するレゾルバ27が接続されるとともに、所定周期(例えば、200μs)毎にレゾルバ27からの出力信号に基づいてモータ回転角θmを算出する回転角検出手段としてのモータ回転角演算部28と、同モータ回転角に基づいてACT角θtaを算出するACT角演算部29とが備えられている。本実施形態では、レゾルバ27は、2相出力型のレゾルバであり、モータの回転角に応じた出力信号として、振幅の変化が互いにπ/2だけ位相が異なる正弦波相出力信号Ss及び余弦波相出力信号Scをモータ回転角演算部28に出力する。具体的には、正弦波相出力信号Ss及び余弦波相出力信号Scは次の式(1)及び式(2)により表される。
【0026】
Ss=ASinθm (1)
Sc=ACosθm (2)
なお、式(1),(2)における「A」は、レゾルバ27及びその周辺回路の回路電圧によって決まる値である。
【0027】
位置制御演算部26には、加算器25において算出されたACT指令角θta*とともに、ACT角演算部29において算出されたACT角θtaが入力される。位置制御演算部26は、指令値であるACT指令角θta*にフィードバック値であるACT角θtaを追従させるべく、ACT指令角θta*とACT角θtaとの偏差に基づいてフィードバック演算を実行し、これにより得られる電流指令εをモータ制御信号出力部30に出力する。
【0028】
そして、モータ制御信号出力部30は、電流指令εに基づき生成されたモータ制御信号を駆動回路22に出力し、そのモータ制御信号に基づく駆動電力が駆動回路22からモータ13に供給されることにより、同モータ13、即ち伝達比可変装置8の作動が制御されるようになっている。
【0029】
また、本実施形態の伝達比可変装置8は、ACT角θtaを変更不能にロック可能なロック装置31を備えている。そして、IFSECU9は、伝達比可変装置8に何らかの異常が発生した場合などに、このロック装置31を作動させ、ACT角θtaを機械的にロックすることにより、フェールセーフを図るようになっている。
【0030】
詳述すると、IFSECU9は、上記モータ駆動用の駆動回路22に加え、ロック装置31の駆動源であるソレノイド32に駆動電力を供給するロック制御用の駆動回路33と、同駆動回路33の作動を制御するためのロック制御信号を生成するロック制御部34とを備えている。ロック制御部34は、レゾルバ27の異常が検知された旨を示す異常検知信号S_trが入力された場合には、駆動回路33に対し、ロック装置31をロック作動させるべき旨を示すロック制御信号を出力する。
【0031】
次に、レゾルバ27により検出されるモータ回転角θmの異常値判定及びレゾルバ27の異常検知について説明する。
マイコン21は、モータ回転角θmが異常値であるか否かを判定する変化範囲演算手段及び判定手段としての回転角異常判定部41と、推定モータ回転角θmeを算出する推定手段としての推定モータ回転角演算部42とを備えている。
【0032】
詳述すると、回転角異常判定部41には、モータ回転角演算部28により算出されたモータ回転角θm及び回転角速度ωmが入力される。回転角異常判定部41は、最新のモータ回転角θmから直前のモータ回転角θmを減算した差分、即ち所定周期内でのモータ13の回転角変化量を算出する。なお、本実施形態では、差分が正の値の場合には、モータ13が時計回りに回転し、差分が負の値の場合にはモータ13が反時計回りに回転したものとする。また、回転角異常判定部41は、所定のモータ回転角θm(本実施形態では、直前のモータ回転角θm)での回転角速度ωmに基づいて、モータ13が所定周期内に回転可能な変化範囲を算出し、上記差分が変化範囲内にあるか否かを判定する。そして、回転角異常判定部41は、差分が変化範囲である場合には、検出されたモータ回転角θmが異常値でないと判定し、モータ回転角θmが異常値でない旨の制御信号をACT角演算部29及び推定モータ回転角演算部42に出力する。一方、回転角異常判定部41は、差分が変化範囲内にない場合には、検出されたモータ回転角θmが異常値であると判定し、モータ回転角θmが異常値である旨の制御信号をACT角演算部29及び推定モータ回転角演算部42に出力する。
【0033】
本実施形態では、変化範囲は、所定周期内にモータ13が回転可能な最大の回転角変化量(例えば、機械角で±5.5°)と、モータ13の回転角速度ωmとに基づいて定められる。具体的には、モータ13は、その回転角速度ωmが大きい程、同じ回転方向に対して回転しやすく、逆の回転方向に対して回転し難くなる。従って、モータ13の変化範囲は、図4に示すように、モータ13の回転角速度ωmに応じて変化し、直線La,Lbにて囲まれたハッチングで示す範囲内になる。なお、図4に示された正負の符号は、モータ13の回転方向を示す。
【0034】
推定モータ回転角演算部42には、モータ回転角演算部28により算出されたモータ回転角θm及び回転角速度ωmとともに、回転角異常判定部41からの制御信号が入力される。推定モータ回転角演算部42は、回転角異常判定部41からモータ回転角θmが異常値である旨の制御信号が入力された場合には、回転角異常判定部41で算出された変化範囲を参照してモータ13の回転角変化量を推定し、その推定した回転角変化量と直前のモータ回転角θmとから推定モータ回転角θmeを演算する。具体的には、モータ13の回転角速度ωmに応じて、変化範囲の中間値(図4において直線Lcで示す値)分だけ、直前のモータ回転角θmからモータ13が回転したと推定する。そして、推定モータ回転角演算部42は、算出した推定モータ回転角θmeをACT角演算部29に出力する。なお、推定モータ回転角演算部42は、モータ回転角θmが異常値でない旨の制御信号が入力された場合には、推定モータ回転角θmeを算出しない。
【0035】
ACT角演算部29には、モータ回転角演算部28により算出されたモータ回転角θmとともに、推定モータ回転角演算部42により算出された推定モータ回転角θme及び回転角異常判定部41からの制御信号が入力される。そして、ACT角演算部29は、回転角異常判定部41からモータ回転角θmが異常値でない旨の制御信号が入力された場合には、モータ回転角θmに基づいてACT角θtaを算出し、位置制御演算部26に出力する。一方、回転角異常判定部41からモータ回転角θmが異常値である旨の制御信号が入力された場合には、推定モータ回転角θmeに基づいてACT角θtaを算出し、位置制御演算部26に出力する。
【0036】
また、マイコン21は、レゾルバ27の異常を検知するレゾルバ異常検知部43を備えている。レゾルバ異常検知部43には、回転角異常判定部41から出力された制御信号が入力される。レゾルバ異常検知部43は、モータ回転角θmが異常値となる回数を計測しており、連続して所定回数(例えば、3回)以上、モータ回転角θmが異常値となった場合には、レゾルバ27に異常が発生したと判断して、異常検知信号S_trをモータ制御信号出力部30に出力する。そして、モータ制御信号出力部30は、異常検知信号S_trが入力されると、通電相を固定して駆動電力を供給する相固定通電を行い、直前に算出された推定モータ回転角θmeにてモータ13を固定する。さらに、相固定通電を行っている状態で、所定時間継続して、モータ回転角θmが異常値であると判定された場合には、レゾルバ異常検知部43は、異常検知信号S_trをロック制御部34に出力する。ロック制御部34は、異常検知信号S_trが入力されると、ロック装置31を作動させてACT角θtaを機械的にロックする。
【0037】
次に、図5に示すフローチャートに従って、マイコン21におけるモータ制御の処理手順について説明する。先ず、マイコン21は、レゾルバ27から出力される正弦波相出力信号Ss及び余弦波相出力信号Scに基づいてモータ回転角θmを算出し(ステップ101)、レゾルバ27により検出されたモータ回転角θmが異常値であるか否かの判定を行う(ステップ102)。
【0038】
モータ回転角θmの判定について図6のフローチャートに従って説明する。先ず、回転角異常判定部41は、最新のモータ回転角θmから直前のモータ回転角θmを減算して所定周期内でのモータ13の回転角変化量を算出し(ステップ201)、直前の回転角速度ωmに基づいて変化範囲を算出する(ステップ202)。続いて、回転角異常判定部41は、所定周期内でのモータ13の回転角変化量が変化範囲内であるか否かを判定(ステップ203)し、変化範囲内である場合(ステップ203:YES)には、検出されたモータ回転角θmが正常値であると判定する(ステップ204)。一方、回転角異常判定部41は、変化範囲内でない場合(ステップ203:NO)には、検出されたモータ回転角θmが異常値であると判定する(ステップ205)。
【0039】
マイコン21は、上記のようにステップ102で行った判定の結果に基づいてモータ回転角θmが異常値であるか否かを判定し(ステップ103)、モータ回転角θmが異常値でない場合(ステップ103:NO)には、連続してモータ回転角θmが異常値である回数を示すカウンタnをリセットする(n=0、ステップ104)。そして、レゾルバ27により検出されたモータ回転角θmに基づいてACT角θtaを算出し、該ACT角θtaとACT指令角θta*との偏差に基づいてフィードバック演算を行う通常制御を実行する(ステップ105)。
【0040】
一方、マイコン21は、モータ回転角θmが異常値である場合(ステップ103:YES)には、直前のモータ回転角θm及び直前の回転角速度ωmから推定モータ回転角θmeを推定し(ステップ111)、カウンタnが所定回数nc以上であるか否かを判定する(ステップ112)。続いて、マイコン21は、カウンタnが所定回数ncよりも小さい場合(ステップ112:NO)には、カウンタnをインクリメントする(n=n+1、ステップ113)。そして、マイコン21は、推定モータ回転角演算部42により算出された推定モータ回転角θmeに基づいてACT角θtaを算出し、該ACT角θtaとACT指令角θta*との偏差に基づいてフィードバック演算を行う暫定制御を実行する(ステップ114)。
【0041】
また、マイコン21は、カウンタnが所定回数nc以上の場合(ステップ112:YES)には、相固定通電をすることでモータ13を電気的にロックして伝達比可変装置8を停止させる停止制御中であることを示す停止フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ121)。停止フラグがセットされていない場合(ステップ121:NO)には、マイコン21は、停止制御を実行する(ステップ122)とともに停止フラグをセットし(ステップ123)し、停止制御を実行してからの経過時間計測用のタイマをリセットする(t=0、ステップ124)。続いて、マイコン21は、タイマをインクリメントして(t=t+1、ステップ125)、経過時間tが所定時間tc以上であるが否かを判定し(ステップ126)、経過時間tが所定時間tcよりも小さい場合(ステップ126:NO)には、処理を終了する。また、マイコン21は、停止フラグがセットされている場合(ステップ121:YES)にも、ステップ125,126の処理を実行する。そして、マイコン21は、経過時間tが所定時間tc以上の場合(ステップ126:YES)には、停止フラグをクリアし(ステップ127)、ロック装置31を作動させてモータ13を機械的にロックする(ステップ128)とともにモータ制御を停止する(ステップ129)。
【0042】
上記従来の構成では、上記式(1)及び式(2)で表される正弦波相出力信号Ss及び余弦波相出力信号Scにより特定される座標点(モータ回転角)が、図8に示すように、理論値から所定範囲(ハッチングにより示された範囲)内に位置する場合には、レゾルバの異常はないとして、検出されたモータ回転角θmに基づいてモータ制御を続行する。つまり、上記座標点が図8に示す所定範囲内であれば、レゾルバの異常とは判定されず、検出されたモータ回転角θmに基づいて算出されたACT角θtaとACT指令角θta*との偏差に基づいてモータ制御が実行される。従って、例えば検出されたモータ回転角が変化範囲を超えている場合には、IFSECU9は、急激にモータ回転角を変更しようとして滑らかなモータ回転を得ることができず、異音や振動が発生するという問題が生じる。
【0043】
この点、本実施形態では、マイコン21は、所定周期内でのモータ13の回転角変化量が変化範囲を超えている場合には異常値と判定する。例えば、図7に示すように、モータ13が所定の回転角速度で反時計回りに回転している場合には、検出された最新のモータ回転角θmが変化範囲(回転角速度ωmに応じて反時計回りには大きく、時計回りには小さい範囲)内でないと、該最新のモータ回転角θmは異常値であると判定される。そのため、変化範囲外で検出されたモータ回転角に基づいてACT角θtaを算出し、該ACT角θtaとACT指令角θta*との偏差に基づくフィードバック演算によりモータ制御信号が生成されることが防止され、IFSECU9により異音や振動のない滑らかなモータ回転を得ることができる。
【0044】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用・効果を奏する。
(1)マイコン21は、指令値であるACT指令角θta*にフィードバック値であるACT角θtaが追従するようにフィードバック演算を実行して電流指令εを算出する位置制御演算部26と、同電流指令εに基づいてモータ制御信号を生成するモータ制御信号出力部30を備えた。回転角異常判定部41は、所定周期内でのモータ13の回転角変化量が変化範囲外である場合に、レゾルバ27により検出されたモータ回転角θmが異常値であると判定するようにした。そのため、IFSECU9は、異常なモータ回転角θmに基づいて算出されたACT角θtaとACT指令角θta*との偏差に基づくフィードバック演算によりモータ制御信号を生成することが防止されるため、異音や振動のない滑らかなモータ回転を得ることができる。
【0045】
(2)推定モータ回転角演算部42は、モータ回転角θmが異常値である場合には、直前の回転角速度ωmに基づいてモータ13の回転角変化量を推定し、その推定した回転角変化量と直前のモータ回転角θmとから推定モータ回転角θmeを算出するようにした。そして、ACT角演算部29は、推定モータ回転角θmeに基づいてACT角θtaを算出し、位置制御演算部26に出力するようにした。従って、所定周期内でのモータ13の回転角変化量が変化範囲内である推定モータ回転角θmeに基づいてフィードバック演算をするため、モータ13の回転が円滑化されて、より確実に異音や振動のない滑らかなモータ回転を得ることができる。
【0046】
(3)モータ13の回転が円滑化されて、より確実に異音や振動のない滑らかなモータ回転を得ることが可能なため、ステアリング2の振動を防止して操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0047】
(4)モータ回転角θmが連続して所定回数以上異常値となった場合には、通電相を固定して駆動電力を供給する相固定通電を行い、直前に算出されたモータ回転角θmにてモータ回転角を固定するようにした。そのため、レゾルバ27に異常が発生した場合に速やかにフェールセーフを図り、車両の安全性を確保することができる。
【0048】
(5)所定時間以上継続してモータ回転角θmが異常値である場合には、ロック装置31により機械的にモータ13をロックするため、より確実に車両の安全性を確保することができる。
【0049】
なお、本実施形態は、以下の態様で実施してもよい。
・本実施形態では、変化範囲を所定周期内にモータ13が回転可能な最大の回転角変化量と、モータ13の回転角速度ωmとに基づいて定めたが、これに限らず、所定周期内にモータ13が回転可能な最大の回転角変化量よりも小さい変化量と回転角速度ωmとに基づいて定めてもよい。
【0050】
・本実施形態では、モータ13の回転角速度ωmに応じて、変化範囲の中間値(図4において直線Lcで示す値)だけ、直前のモータ回転角θmからモータ13が回転したと推定するようにした。しかし、これに限らず、直前のモータ回転角θmからモータ13が回転したと推定する回転角変化量は、モータ13の回転角速度ωmに応じた変化範囲内であれば、どのような値であってもよい。
【0051】
・本実施形態では、直前のモータ回転角θmでの回転角速度ωmに基づいてモータ13が所定周期内に回転可能な変化範囲を算出したが、これに限らず、その他の時点のモータ回転角θmでの回転角速度ωmに基づいてモータ13が所定周期内に回転可能な変化範囲を算出してもよい。
【0052】
・本実施形態では、モータ回転角θmが連続して所定回数以上異常値となった場合に、相固定通電を行い、この状態で所定時間以上継続してモータ回転角θmが異常値である場合に、ロック装置31により機械的にモータ13をロックするようにした。しかし、これに限らず、モータ回転角θmが連続して所定回数以上異常値となった場合に、ロック装置31により機械的にモータ13をロックするようにしてもよい。
【0053】
・本実施形態では、モータ回転角θmが連続して所定回数以上異常値となった場合に、相固定通電を行ったが、これに限らず、駆動回路22に出力するモータ制御信号をモータ13の各相間を短絡させる信号に切り替えて、同モータ13を発電機として機能させる回生制御を行うようにしてもよい。回生制御を行うことで、回転により生ずる逆起電力に基づく回生ブレーキ作用があり、これによりフェールセーフを図ることができる。
【0054】
・本実施形態では、IFSECU9は、モータ回転角θmが異常値と判定された場合には、推定モータ回転角θmeに基づいてモータ制御を実行したが、これに限らず、IFSECU9は、推定モータ回転角θmeに基づいてモータ制御を実行することなく相固定通電によりモータ13を電気的にロックしてもよい。このようにしても、異常なモータ回転角θmに基づいてモータ制御信号を生成することが防止されるため、ステアリング2の振動を防止して操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0055】
・本実施形態では、本発明を車両用操舵装置1に設けられた伝達比可変装置8を制御するIFSECU9に具体化したが、これ以外の用途に用いられるモータ制御装置に具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】車両用操舵装置の概略構成図。
【図2】車両用操舵装置の制御ブロック図。
【図3】(a),(b)ギヤ比可変制御の説明図。
【図4】回転角速度とモータの回転角変化量との関係を示す説明図。
【図5】レゾルバの異常検知の処理手順を示すフローチャート。
【図6】回転角異常判定部の処理手順を示すフローチャート。
【図7】モータ回転角の異常を判定する原理を説明するための模式図。
【図8】従来のレゾルバの異常を検出する原理を説明するための模式図。
【符号の説明】
【0057】
1…車両用操舵装置、2…ステアリング、6…転舵輪、8…伝達比可変装置、13…モータ、22…駆動回路、27…レゾルバ、28…モータ回転角演算部、29…ACT角演算部、31…ロック装置、41…回転角異常判定部、42…推定モータ回転角演算部、43…レゾルバ異常検知部、θm…モータ回転角、θme…推定モータ回転角、ωm…回転角速度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ制御信号を出力する制御手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動手段と、前記モータの回転を検出するレゾルバから出力される信号に基づいて所定周期毎にモータ回転角を検出する回転角検出手段とを備え、前記制御手段は、前記モータ回転角を制御するための指令値に、前記回転角検出手段により検出されたモータ回転角に基づいて算出したフィードバック値が追従するように前記モータ制御信号を生成するモータ制御装置であって、
所定のモータ回転角での回転角速度に基づいて、前記モータが前記所定周期内で回転可能な変化範囲を算出する変化範囲演算手段と、
前記所定周期内での前記モータの回転角変化量が前記変化範囲内でない場合に、前記回転角検出手段により検出されたモータ回転角が異常値であると判定する判定手段と
を備えたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
所定のモータ回転角及び該モータ回転角での回転角速度に基づいて、前記所定周期内での前記モータの回転角変化量が前記変化範囲内である推定モータ回転角を推定する推定手段を備え、
前記制御手段は、前記判定手段により前記回転角検出手段にて検出されたモータ回転角が異常値であると判定された場合には、前記推定モータ回転角に基づいて算出される値と前記指令値とに基づいて前記モータ制御信号を生成することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記判定手段により所定回数以上連続して前記モータ回転角が異常値であると判定された場合には、通電相を固定して前記駆動電力を供給する相固定通電を実行するように前記モータ制御信号を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
ステアリングと転舵輪との間の操舵伝達系の途中に設けられてステアリング操作に基づく転舵輪の第1の舵角にモータの回転に基づく前記転舵輪の第2の舵角を上乗せすることにより前記ステアリングの舵角と前記転舵輪の舵角との間の伝達比を可変させる伝達比可変装置と、
モータ制御信号を出力する制御手段と、前記モータ制御信号に基づいて前記モータに三相の駆動電力を供給する駆動手段と、前記モータの回転を検出するレゾルバから出力される信号に基づいて所定周期毎にモータ回転角を検出する回転角検出手段とを備え、前記制御手段は、車両の状態に基づいて算出した前記第2の舵角の指令値に、前記回転角検出手段により検出されたモータ回転角に基づいて算出された前記第2の舵角のフィードバック値が追従するように前記モータ制御信号を生成するモータ制御装置とを備えた車両用操舵装置であって、
所定のモータ回転角での回転角速度に基づいて、前記モータが前記所定周期内で回転可能な変化範囲を算出する変化範囲演算手段と、
前記所定周期内での前記モータの回転角変化量が前記変化範囲内でない場合に、前記回転角検出手段により検出されたモータ回転角が異常値であると判定する判定手段と
を備えたことを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項5】
前記モータ制御装置は、所定のモータ回転角及び該モータ回転角での回転角速度に基づいて、前記所定周期内での前記モータの回転角変化量が前記変化範囲内である推定モータ回転角を推定する推定手段を備え、
前記制御手段は、前記判定手段により前記回転角検出手段にて検出されたモータ回転角が異常値であると判定された場合には、前記推定モータ回転角に基づいて算出される値と前記指令値とに基づいて前記モータ制御信号を生成することを特徴とする請求項4に記載の車両用操舵装置。
【請求項6】
前記制御手段は、通電相を固定して前記駆動電力を供給する相固定通電を実行している際に、所定時間以上継続して前記モータ回転角が異常値であるか否かを判定し、
前記制御手段により所定時間以上継続して前記モータ回転角が異常値であると判定された場合に、機械的に前記モータを固定することにより前記第2の舵角を変更不能とするロック装置を備えたことを特徴とする請求項4又は5に記載の車両用操舵装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−100534(P2009−100534A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269049(P2007−269049)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】