説明

モールド金型とこれを備えるモールド装置

【課題】流動性の高い成形用樹脂であっても、モールド金型を構成する金型部材間の隙間部分に進入した樹脂による不具合の発生を回避すること。
【解決手段】複数の金型部材を備えて構成され、金型パーティング面において熱硬化性樹脂230が供給される領域に接続する接続面を有する隙間S1〜S5が金型部材間に形成され、隙間S1〜S5を挟んで配置される金型部材の少なくとも一方に、熱硬化性樹脂230が供給される領域からの隙間S1〜S5の奥行き方向に対して交差する方向に沿って延在するように交差溝132,142,152,164,242,244,252が形成されていることを特徴とするモールド金型300。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモールド金型とこれを備えるモールド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の樹脂封止成形方式としては、ポット内の成形用樹脂をプランジャによりキャビティに圧送して電子部品を樹脂封止成形するトランスファ成形方式のモールド装置が広く知られている。このようなトランスファ成形方式のモールド装置としては、例えば、特許文献1に開示されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−7129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、モールド金型は複数の金型部材を組み立てることにより構成されているため、金型部材間にはわずかな隙間が存在している。従来の成形用樹脂においては、樹脂の粘性が十分高かったため、成形用樹脂が隙間に進入することによって不具合が起こることは稀であった。
しかしながら近年は、きわめて粘性が低い成形用樹脂を用いることがあり、金型部材間の隙間に成形用樹脂が進入して後述のような不具合が発生している。金型部材間の隙間に進入した樹脂がモールド金型の熱により熱硬化すると、キャビティ駒やキャビティインサートが硬化樹脂により押し出され、当初位置に対して位置ずれしてしまう。このような不具合は製品の歩留まりを低下させてしまう。
【0005】
このような課題に対して、特許文献1に記載されているような、エジェクタピンに装着されているOリングによるシール技術を転用しようとしても、キャビティ駒やキャビティインサートのような大型の金型部材には適用が困難である。また、仮にエジェクタピンに装着したOリングが適用可能であったとしても、金型部材とOリングの寸法合わせを極めて精密に行わなければならず、Oリングの装着が高コストになってしまう。
【0006】
そこで本願発明は、流動性の高い成形用樹脂であっても、モールド金型を構成する金型部材間の隙間部分に進入した樹脂による不具合の発生を回避し、製品の歩留まりを向上させることが可能であって、かつ、安価なシール構造を有するモールド金型と、これを備えるモールド装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
すなわち、複数の金型部材を備えて構成され、金型パーティング面において熱硬化性樹脂が供給される領域に接続する接続面を有する隙間が前記金型部材間に形成されるモールド金型において、前記隙間を挟んで配置される前記金型部材の少なくとも一方には、前記熱硬化性樹脂が供給される領域からの前記隙間の奥行き方向に対して交差する方向に沿って延在するように交差溝が形成されていることを特徴とするモールド金型である。
【0008】
また、前記交差溝は、前記金型部材であるエジェクタピンと該エジェクタピンが挿通された金型ブロックとの間の前記隙間に連繋するように該エジェクタピンの外周に形成されていることを特徴とする。
また、前記交差溝は、前記金型部材である一対の前記金型ブロック間の前記隙間に連繋するように形成されていることを特徴とする。
これらにより、モールド金型により試し打ち(ファーストショット)をすることにより、エジェクタピンの外周に沿って存在する隙間部分および金型ブロック間の隙間部分に樹脂が進入した後、エジェクタピンの外周面および金型ブロック間に設けられた交差溝部分に進入した熱硬化性樹脂が熱硬化し、硬化した樹脂によりエジェクタピンの外周面および金型ブロック間にシール構造が形成されることになる。これにより次回以降(セカンドショット以降)の樹脂成形を行う際には、エジェクタピンの外周面および金型ブロック間の隙間部分に熱硬化性樹脂が進入することはない。たとえこの隙間に樹脂が進入したとしても、エジェクタピンおよび金型ブロック間の交差溝部に形成されたシール部の位置を越えることがなく、熱硬化性樹脂樹脂の進入によるモールド金型の汚染が防止される。
【0009】
また、前記交差溝は、ランナと交差する部分の各々に対応する複数箇所に設けられていて、それぞれの交差溝は前記ランナの幅寸法よりも幅広に形成されていることを特徴とする。これにより、隙間部分への熱硬化性樹脂の進入量を可及的に少なくすることができる。
【0010】
また、前記交差溝は、前記ランナ内における樹脂の供給方向と交差する方向における両端位置に設けられた前記ランナの最外周縁位置よりもさらに外方側であって、かつ、前記センターインサート、前記キャビティインサート、前記クランパのいずれかにおける前記樹脂の供給方向と交差する方向の端部位置よりも内方側に端部を有する一本の溝に形成されていることがより好適である。このような交差溝の構成により、交差溝部の加工が一回で済むため低コストで交差溝を形成することができる。
【0011】
また、前記隙間を挟んで配置された金型部材は、クランパとキャビティ駒であることを特徴とする。これにより、モールド金型により試し打ちをすることにより、クランパとキャビティ駒との間の隙間部分に熱硬化性樹脂が進入した後、クランパまたはキャビティ駒の少なくとも一方に設けられた交差溝部分で進入した熱硬化性樹脂が熱硬化し、硬化した樹脂によりクランパまたはキャビティ駒の少なくとも一方の交差溝を含む隙間部分にシール構造が形成されることになる。これにより次回以降の樹脂成形を行う際には、クランパとキャビティ駒との間の隙間部分に熱硬化性樹脂が進入することはない。たとえこの隙間に熱硬化性樹脂が進入したとしても、先に形成されたシール部の位置を越えることがなく、熱硬化性樹脂の進入によるモールド金型の汚染が防止される。
【0012】
また、前記交差溝は、前記隙間の奥行き方向の複数箇所に形成されていることを特徴とする。これにより、より確実にシール部が形成されることになり、2回目以降における金型部材間の隙間への熱硬化性樹脂の進入を好適にストップさせることができる。
【0013】
また、前記交差溝は、前記一対の金型ブロックである上型センターインサートと下型センターインサートとのうちカルが形成されていない一方のセンターインサートにおいて、前記カル部の最外周縁位置に沿って前記上型センターインサートと前記下型センターインサートとの間に形成され前記隙間に連繋するように形成されていることを特徴とする。これにより、カル部外周縁部分において、金型ブロックと樹脂との接触面積が増大し、カル部外周縁部分での熱硬化性樹脂の熱硬化を促進させることができ、カル部の外周縁からのフラッシュばりの発生を防止することができる。
【0014】
また、前記交差溝は、該交差溝の延伸方向に対して直交方向における断面形状が半円形に形成されていることを特徴とする。これにより、隙間部分に間に進入してきた熱硬化性樹脂と金型部材との接触面積が増え、より短時間で熱硬化性樹脂を熱硬化させることが可能になる。
【0015】
また、上記のいずれかに記載されているモールド金型を具備したことを特徴とするモールド装置の発明とすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本願発明にかかるモールド金型およびこれを具備するモールド装置によれば、モールド金型を構成する金型部材どうしの隙間部分に、あらかじめ熱硬化性樹脂によりシール部を形成しておくことができ、シール部より先に熱硬化性樹脂が進入せず、樹脂成形時に金型部材間の隙間部分に進入してきた熱硬化性樹脂によるモールド金型の汚染を好適に防止することが可能である。また本発明によれば、モールド金型で成形用の樹脂またはシール部材用の樹脂によりいわゆる試し打ちをするだけでシール構造を形成することができ、きわめて簡単にしかも低コストでのシール構造の形成が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態におけるモールド金型の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示すモールド金型のカル部の真上位置から下金型側を臨んだ状態を示す一部透視平面図である。
【図3】図1に示すモールド金型において、上金型と下金型とがパーティングした状態を示す拡大図である。
【図4】ファーストショット時におけるカル部周辺の状態を示す拡大図である。
【図5】ファーストショット時における下型センターインサートとキャビティインサートとの隙間部分および上型センターインサートとクランパとの隙間部分の状態を示す拡大図である。
【図6】ファーストショット時におけるクランパとキャビティ駒との隙間部分の状態を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の好適な実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本実施形態における樹脂成形装置の概略構成を示す断面図である。図2は、図1に示すモールド金型のカル部の真上位置から下金型を臨んだ状態を示す一部透視平面図である。
本実施形態のモールド金型300は、電子部品であるLED素子420を搭載した基板410のLED素子420を熱硬化性樹脂(以下、単に樹脂ということがある)で樹脂封止し、レンズ付きのLED装置400を製造するものである。図1に示すようにモールド金型300は、カル部120およびキャビティ駒150等を有する上金型100と、ポット210およびプランジャ220等を有する下金型200とにより構成されている。また、モールド金型300は、エジェクタピンのような駆動部材と各金型ブロックなどの固定部材との間や固定部材同士の間のように金型部材間に形成される隙間S1〜S5に連繋するように断面半円形状の交差溝132,142,152,164,242,244,252が形成されており、隙間S1〜S5を介した樹脂230の漏出を防止可能となっている。
【0019】
最初に上金型100について説明する。
図1に示すように、上金型100は、ベース110と、カル部120が形成された上型センターインサート(カルインサート)130と、クランパ140と、可動部材であるキャビティ駒150と、を有している。上型センターインサート130およびクランパ140のパーティング面には、カル部120からクランパ140に形成されたゲート部144に連通するランナ170が刻設されている。
【0020】
カル部120は、天井面からパーティング面側にむけて徐々に拡径する台形断面に形成されていて、パーティング面における外周縁部が所要深さでさらに外方に拡径する浅溝部122を有している(図1および図2参照)。浅溝部122の深さは、0.1mm〜0.2mmである。図1〜図3においては、浅溝部122の幅寸法および深さ寸法を誇張して表現している。
【0021】
また、上型センターインサート130には、上型センターインサート130を厚さ方向に貫通し、カル部120に突出入可能に設けられたエジェクタピン160が設けられている。エジェクタピン160は、ベース部110および上型センターインサート130に形成された装着孔162内に挿通されている。装着孔162は、カル部120の内側頂面において開口し、カル部120側の端部の径寸法が所定幅でベース110側における径寸法よりも細径に形成されている。具体的には、挿通孔162の細径部162Aの径寸法は、エジェクタピン160の外形寸法よりも1μm程度大径となるように形成されている。細径部162Aは、ポット210からプランジャ220によって圧送された樹脂230が進入可能な高さ位置よりも上方位置となる範囲にわたって形成されている。
【0022】
エジェクタピン160と挿通孔162との間にはそれぞれの径寸法の差により隙間S1が形成される。モールド金型300により樹脂成形を行うと、プランジャ220によりポット210からカル部120へ圧送された樹脂230が隙間S1に進入(流入)して装置内で熱硬化し、硬化した樹脂によりエジェクタピン160やその他の可動部が動作不良をおこすといった不具合等の原因になることがある。しかしながら、取付けの作業性や加工コストの観点からエジェクタピン160と挿通孔162との間の隙間S1をなくすことはできないため、隙間S1に樹脂成形時の成形用樹脂の進入を防ぐための加工が必要になる。
【0023】
ここでは、エジェクタピン160のカル部120側の端部近傍位置にシール部を形成している。具体的には、モールド金型300のパーティング面において、樹脂230が供給される領域であるカル部120に接続する接続面(開口部)を有する隙間S1の奥行き方向に直交する方向に内底部を有する交差溝164を形成している。交差溝164はエジェクタピン160の外周面に沿って周設されている。交差溝164は旋盤加工等により形成することができる。なお、図1ではエジェクタピン160に1つの交差溝164が形成されているが、装着孔162の細径部162Aの範囲において1本のエジェクタピン160に複数の交差溝164を形成しても良い。ただし、すべての交差溝164は装着孔162の細径部162Aの範囲に配設される。また、後述する他の交差溝についても形成個数は1本であってもよいし複数であってもよい。
【0024】
上金型100を構成する上型センターインサート130とクランパ140との間にも、隙間S2が存在する。クランパ140は、キャビティ駒150の収容体である。図1と図3とは、クランパ140に1つのキャビティ駒150が収容されている形態を示しているが、複数個のキャビティ駒150を収容することももちろん可能である。上型センターインサート130とクランパ140との間の隙間S2においても、先に説明したエジェクタピン160周囲の隙間S1と同様に樹脂漏れに起因する不具合が発生する。そこで、モールド金型300のパーティング面において樹脂230が供給される領域であるランナ170に接する接面(ランナ170との連通部)を有する隙間S2に対し、隙間S2の奥行き方向に直交する方向に内底部を有する交差溝132,142を形成している。この交差溝132,142は、エジェクタピン160に周設された交差溝164と同様の機能を有している。
【0025】
また、上型センターインサート130またはクランパ140のいずれか一方のみに配設してもよい。さらに、交差溝132,142を対面させて配設する構成例について説明しているが、隙間S2のランナ170側からの奥行き方向に沿って上型センターインサート130側に配設した後、さらに奥行き方向におけるクランパ140側に配設するといったように、交差溝132,142をそれぞれ交互に配設する形態等において、任意の配設形態を採用することができる。交差溝132,142は、例えばフライス加工等により形成することができる。
【0026】
このような交差溝132,142は、上型センターインサート130およびクランパ140に刻設されたランナ170の延伸方向に直交に交差する方向においてランナ170と交差するように延伸している。また、交差溝132,142は、これらが交差溝132,142の延伸方向と同じ平面上で交差する方向における上型センターインサート130およびクランパ140の端縁部には連通せず、上型センターインサート130、クランパ140の両端縁部よりも内側位置までの範囲に形成されている。これにより交差溝132,142に進入させた樹脂230が交差溝132,142の形成面から他の外周面に漏れ出すことが防止される。
【0027】
クランパ140とキャビティ駒150との間には隙間S3が存在する。この隙間S3についても隙間S1,S2と同様に樹脂230の進入による不具合が発生する原因になる。したがって、クランパ140とキャビティ駒150との間の隙間S3にも、隙間S3の奥行き方向(隙間S2と同様の方向)と直交する方向に窪んで内底面を有する交差溝152が形成されている。先にも説明したように、キャビティ駒150は上端縁がばね180によりベースブロック110に吊り下げられた状態でクランパ140に形成された貫通孔の内部空間に収容されている。また、キャビティ駒150の外周縁平面位置は、キャビティ空間190の平面領域内に位置している。すなわち、キャビティ駒150の隙間S3については、キャビティ駒150のみに対して交差溝152が形成される。この交差溝152は、キャビティ駒150の外周面を周回する配置に形成されている。
【0028】
次に下金型200について説明する。
下金型200は、図3に示すように、ポット210およびプランジャ220を収容する下型センターインサート240と、キャビティインサート250と、チェイスブロック260とで構成される。下型センターインサート240とキャビティインサート250とは、チェイスブロック260に組みつけられている。ポット210およびプランジャ220は、下型センターインサート240とチェイスブロック260とを挿通するように組みつけられている。キャビティインサート250には、基板410が所定位置で保持される。
【0029】
図2に示すように、下型センターインサート240のパーティング面側には、上型センターインサート130のカル部120の浅溝部122の外周縁に対応する部位に交差溝242が形成されている。交差溝242は上型センターインサート130のカル部120の浅溝部122に対向するように、カル部120の外周縁に沿って刻設されている。交差溝242の幅寸法および深さ寸法は、各々、0.2mmおよび0.1〜0.2mm程度が好適である。交差溝242の最外周縁位置と、浅溝部122の最外周縁位置とは、図1〜図3に示すように、互いに一致した状態となるように形成されている。交差溝242は、モールド成形時においてカル部120に圧送された樹脂230が上型センターインサート130および下型センターインサート240の両クランプ面間の隙間S5を介して漏出することによって発生するフラッシュばりを防止するためのものである。交差溝242はカル部120の浅溝部122と共に、カル部120に圧送されてきた樹脂230の単位容積当りのモールド金型300との接触面積を増加させ、浅溝部122と交差溝242部分の樹脂230を素早く熱硬化させる熱硬化促進部として機能している。
【0030】
下型センターインサート240とキャビティインサート250との間には、上金型100の上型センターインサート130およびクランパ140の間と同様に、樹脂230の供給領域であるランナ170に接面を有する隙間S4が生じる。ポット210内に供給された樹脂230がプランジャ220によりランナ170へ圧送されると、樹脂230がランナ170の中途部に位置する隙間S4上を通過する際に隙間S4に進入してしまう。このため、ここでも、下型センターインサート240とキャビティインサート250との間の隙間S4には、隙間S4の奥行き方向に直交する方向に内底面を有する交差溝244,252が形成されている。下型センターインサート240および/またはキャビティインサート250に形成される交差溝244,252は、上金型100の交差溝132,142と同様にして形成することができる。
【0031】
次に、各隙間S1〜S5に対して設けられた交差溝132,142,152,164,242,244,252のシール構造がそれぞれ形成される際の状態について説明する。
本実施形態で説明したモールド金型300を具備するモールド装置(図示せず)を用い、ファーストショット(試し打ち)を行う。このとき用いる樹脂230には、被樹脂成形品であるLED素子420を搭載した基板410の封止樹脂を用いることができるが、各隙間S1〜S5に対して設けられた交差溝132,142,152,164,242,244,252のシール構造を形成するための専用樹脂(例えば、金型の磨耗防止のためにシリカ等のフィラーを含まないシリコーン樹脂等)を用いることもできる。いずれの樹脂を用いた場合であっても、成形条件は通常の製造条件(量産時における成形条件)を採用することができる。
【0032】
先に説明した上金型100と下金型200を有するモールド金型300内でポット210に供給された樹脂230が供給される順番に沿って各部におけるシール構造の形成工程を部位別に説明する。
まず、図1に示すような型開き状態においてポット210に樹脂230を投入する。上金型100と下金型200のうちの少なくとも一方を、図示しない駆動手段により駆動して、図3に示すように、上金型100と下金型200とのパーティング面どうしを当接させると共に、所定の力でクランプする。ポット210に投入された樹脂230は、モールド金型300内の加熱手段によりすでに溶融された状態になっている。続いてプランジャ駆動手段(図示せず)によりプランジャ220をパーティング面に向かって駆動して上動させ、溶融状態の樹脂230をポット210からカル部120に圧送することになる。
【0033】
カル部120に圧送された樹脂230は、その大半がランナ170に流れるが隙間S1,S5にも流れ込もうとする。この際に、この樹脂230は、図4(A)に示すように、隙間S1の中途に配設された交差溝164に充てんされると共に、浅溝部122の端部(隙間S5の手前)に配設された交差溝242に充てんされることになる。隙間S5においては、浅溝部122に充てんされた樹脂230が交差溝242に充てんされる。この場合、隙間S5に流れ込もうとする樹脂230は、隙間S5に直接流れ込むことができず、昇温状態の浅溝部122および交差溝242で加熱される。また、浅溝部122および交差溝242においては、隙間S5よりも十分に断面積が広いためこの樹脂230の流速を低く抑えることができると共にこの樹脂230が通過(接触)する金型壁面の距離を長くすることができ、金型壁面からの熱の伝達を促進して樹脂230を確実かつ効率的に加熱することができる。
【0034】
これにより、この樹脂230が隙間S5に流れ込む前にその粘度を上昇させて硬化樹脂234とすることができ、隙間S5への樹脂230の進入によりカル部120外周縁からのフラッシュバリの発生を防止することが可能となっている。また、仮にこの樹脂230が隙間S5に流れ込んだとしても、既に粘度が十分に高くなっているためすぐに熱硬化して微量のフラッシュバリが形成されるだけである。
【0035】
一方、装着孔162とエジェクタピン160との隙間S1から装着孔162内に進入した樹脂230は隙間S1における交差溝164の手前の範囲において金型面から伝えられる熱は多いものの細径部162Aの断面積が狭いため、他の部位に比較すると高い流速で通過してしまい、樹脂230の熱硬化は十分に進まない。しかしながら、この樹脂230は、交差溝164で流速が低下し、エジェクタピン160および上型センターインサート130によって効率的に加熱される。このように、隙間S5と同様にしてこの樹脂230の粘度を上昇させることで硬化させて硬化樹脂234とすることができ、細径部162Aの交差溝164よりも奥側への樹脂230の進入を防止することが可能となっている。
【0036】
また、仮にこの樹脂230が細径部162Aの奥側に流れ込んだとしても、既に粘度が十分に高くなっているためすぐに熱硬化して細径部162A内で硬化させることができる。また、硬化樹脂234は、エジェクタピン160の交差溝164部分で肉厚となり、アンカー効果が得られ、エジェクタピン160から脱落しにくくなっている。また、交差溝164の断面形状が半円形状となっているため、エジェクタピン160の側面に沿って細径部162A流入してきた樹脂230を交差溝164の内底面に案内することができ、より熱容量の多い上型センターインサート130側で樹脂230を加熱することができるため、樹脂230を確実に硬化させて樹脂漏れを防止することができる。
【0037】
続いて、樹脂230の熱硬化が完了してモールド金型300を型開きしたときに、エジェクタピン160を駆動して下動させることによりカル部120の硬化樹脂234を押し出す。この際に、図4(B)に示すように重力によってカル部120の硬化樹脂234とエジェクタピン160外周の硬化樹脂234とがカル部210の天井面から交差溝164の下側までの間で強度が低い部位(本例では天井面)で分離する。したがって、エジェクタピン160には、図4(C)に示すように交差溝164からカル部120の天井部分までの範囲に硬化樹脂234が残存することになる。残存した硬化樹脂234は、引き続き行われる樹脂成形時に隙間S1をシールする。このようなシール構造により隙間S1への樹脂230の進入を防止することができる。この場合、隙間S1に進入しようとする樹脂230に押圧されることによりシールする硬化樹脂234が装着孔162の奥行き方向に縮み径方向に広がるため、隙間S1を確実にシールして樹脂漏れを防止することができる。
【0038】
このように、エジェクタピン160の周囲の隙間S1においては、初回の樹脂封止時においては、交差溝164に樹脂230を充てんし硬化を促進することでランナ170からの樹脂230の流出を確実に防止することができる。また、2回目以降の樹脂封止工程においては初回の樹脂封止時に形成したシール構造(硬化樹脂234)によって樹脂230の流出をより確実に防止することができるため、樹脂漏れを効率的かつ確実に防止することができる。
なお、隙間S1においてエジェクタピン160の外周面に形成されたシール構造(硬化樹脂234)によりエジェクタピン160の摺動抵抗が僅かに増加するがエジェクタピン160の駆動力に対して十分に小さいため、エジェクタピン160の駆動を妨げるものではない。また、このような隙間S1のシール構造は、モールド金型300を分解しない限りその位置に残存するため、シール構造として再利用することができる。後述する隙間S2〜S4のシール構造についても同様に再利用可能である。
【0039】
一方、隙間S5に対して設けられた浅溝部122および交差溝242で熱硬化した硬化樹脂234は、型開き時にカル部120の硬化樹脂234に繋がったままでモールド金型300から取外される。したがって、浅溝部122および交差溝242で硬化して隙間S5をシールする硬化樹脂234は、隙間S1の硬化樹脂234とは異なり、樹脂成形を行う度に成形されることになる。このように、カル部120では、エジェクタピン160の隙間S1のシール構造として機能して樹脂漏れを防止する硬化樹脂234と、クランプ面間の隙間S5におけるフラッシュバリの発生を防止する硬化樹脂234とがそれぞれ設けられ、カル部120における樹脂漏れに起因する不具合の発生を効果的に回避している。
【0040】
図3に示すように型閉じしたモールド金型300において、カル部120から圧送された樹脂230は、まず、カル部120に連設されたランナ170を通過する。モールド金型300において、このランナ170と交差するように上金型100の隙間S2と下金型200の隙間S4が存在しているから、ランナ170内を圧送される樹脂230が各隙間S2,S4に進入しようとする。これに対し、本実施形態では、上金型100および下金型200の隙間S2,S4に対して交差溝132,142,244,252を形成して樹脂漏れを防止している。これらの交差溝132,142,244,252は、エジェクタピン160の周囲の隙間S1に対して設けられた交差溝164と同様の樹脂の硬化を促進する機能を有するため、相違点を主に説明する。
【0041】
図5(A)に示すように、ランナ170を通過する樹脂230は、その大半がキャビティ空間に流れる。また、パーティング面(ここでは水平面)およびランナ170の延伸方向と直交する方向(ここでは鉛直面方向)に延伸する隙間S2,S4にも進入する。これにより隙間S2に対して設けられた交差溝132,142および隙間S4に対して設けられた交差溝244,252のそれぞれに樹脂230が充てんされる。隙間S2,S4の交差溝132,142,244,252の手前の範囲においても、他の部位に比較して高い流速で樹脂230が通過してしまうことになる。したがって樹脂230の熱硬化は十分に進まないが、この樹脂230は、ランナ170側(1段目)の交差溝132,142,244,252で流速が低下し、隙間S2,S4を形成する金型部材によって効率的に加熱し樹脂230の粘度を上昇させることができる。
【0042】
また、図5(A)に示すようにこの樹脂230が隙間S2,S4の1段目の交差溝132,142,244,252を越えて隙間S2,S4のさらに奥に進入したとしても、図5(B)に示すように奥側(2段目)の交差溝132,142,244,252で確実に硬化させることができる。このように複数段の交差溝132,142,244,252を設けることにより溶融時の粘度の低い樹脂230を用いるときにおいて特に好都合である。
【0043】
続いて図5(C)に示すようにランナ170の樹脂230を熱硬化させて硬化樹脂234とした後、図5(D)に示すように、モールド金型300の型開きを行う。このとき、図5(D)に示すように、ランナ170の硬化樹脂234を下金型200から分離することで、隙間S4の硬化樹脂234とランナ170の硬化樹脂234との接面(連通部)でランナ170と隙間S4との硬化樹脂234が分離する。さらにエジェクタピン160を突出させて上金型100からカルを取り除き、隙間S2とランナ170との接面で硬化樹脂234が分離し、モールド金型300からランナ170の硬化樹脂234ごと樹脂封止品を取り出す。これにより、図5(E)に示すように隙間S2,S4に硬化樹脂234を残存させる。
【0044】
以上のように、交差溝132,142および交差溝244,252からランナ170との連通部までの範囲には、セカンドショット以降おいて、図5(F)に示すように硬化樹脂234によりシール構造が形成される。これにより、交差溝164の硬化樹脂234と同様に樹脂230の進入を防止することができる。この場合、隙間S1の場合と同様等の樹脂漏れ防止機能を融資、初回の樹脂封止時、および、それ以降の樹脂封止工程において樹脂230の流出をより確実に防止することができる。
【0045】
特に下型センターインサート240とキャビティインサート250との隙間S4が量産工程の前に予め硬化樹脂234によりシールされることで、隙間S4への樹脂230のそれ以上の進入を防止することができる。すなわち、量産工程時において例えば複数回の樹脂封止によって隙間S4への樹脂230の進入が繰り返されて、隙間S4が拡げられてキャビティインサート250が位置ずれを起こすような事態を防止することができる点において好都合である。
また、LED素子420を搭載した基板410のLED素子420を樹脂封止してレンズ付きのLED装置400を製造する本実施形態や、電子部品をマトリックス状のキャビティで封止するような形態では、被樹脂封止体とキャビティとの位置関係が重要になる電子部品の製造においてきわめて有効である。
【0046】
次に、図3に示すように型閉じしたモールド金型300において、ランナ170を通過した樹脂230はゲート144を介してキャビティ空間190に供給される。上金型100において、このキャビティ空間190を構成するキャビティ駒150の周囲(換言すれば、クランパ140とキャビティ駒150との間)に隙間S3が存在しているから、キャビティ空間190内に供給された樹脂230が隙間S3に進入しようとする。これに対し、本実施形態では、隙間S3に対して交差溝152を形成して樹脂漏れを防止している。交差溝152は、エジェクタピン160の周囲の隙間S1,S2,S4に対して設けられた交差溝132,142,164,244,252と同様の樹脂の硬化を促進する機能を有するため、相違点を主に説明する。
【0047】
クランパ140とキャビティ駒150との間には、図6(A)に示すようにパーティング面(水平面)と直交する方向(鉛直面方向)に延伸しキャビティ空間190に連繋する隙間S3が存在している。したがって、型閉じしたモールド金型300において、キャビティ空間190に充てんされるべき樹脂230の一部は、図6(A)に示すように隙間S3に進入することになる。隙間S3から進入した樹脂230は、隙間S2,4の樹脂230と同様に交差溝152以下の範囲で熱硬化し、図6(B)に示すように硬化樹脂234になる。この後、図6(C)に示すようにキャビティ空間190内に充てんされた樹脂230がすべて硬化し硬化樹脂234になると、モールド金型300の型開きが行われる。モールド金型300を型開きした後、エジェクタピン160を突出させ、図6(D)に示すように、隙間S3と樹脂供給領域であるキャビティ空間190との接面(連通部)で、LED装置400の硬化樹脂234と隙間S3との硬化樹脂234とがそれぞれ分離する。
【0048】
交差溝152は、キャビティ駒150の外周面を周回する配置に刻設されているので、同じくキャビティ駒150の外周面に存在する隙間S3から進入した樹脂230はキャビティ駒150の外周面を周回する範囲に図6(E)に示すように、隙間S3の部分には硬化樹脂234によるシール構造が形成される。このシール構造により、セカンドショット以降では隙間S3であった位置に新たな樹脂230が進入することがない。隙間S3に形成される硬化樹脂234によるシール構造も基本的には残留することになるが、ベース110からキャビティ駒150を吊下しているばね180の伸縮動作に影響を与えることはないのはもちろんである。
【0049】
以上に本願発明について実施形態に基づいて詳細に説明をしてきたが、本願発明は、本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においてはポット210およびプランジャ220が下金型200に収容されている実施形態について説明しているが、これらを上金型100に収容しても良いのはもちろんである。
また、本実施形態においては、ポット210およびプランジャ220の平面位置からキャビティ空間190の外方位置(キャビティ空間190において最もポット210およびプランジャ220から離反している部位)までの間に存在する隙間S1〜S5のすべてに対しての交差溝(132,142,152,・・・)を配設しているが、いずれか一箇所以上の交差溝132,142,152,・・・を選択的に配設してもよい。また、浅溝部122及び交差溝242をカル部120の外周縁に沿って設ける構成について説明したが、ランナ170の外周縁に沿って配設してもよく、キャビティ空間190の外周縁に沿って配設してもよい。
【0050】
また、隙間S1〜S5のそれぞれには、断面半円形状の交差溝(132,142,152,・・・)を形成した形態について説明しているが、断面半円形状の交差溝(132,142,152,・・・)の他、断面形状が矩形状やU字状やV字状をなす溝を配設してもよい。
そして樹脂230が隙間S1〜S5に進入して熱硬化することで得られるシール構造が残留する形態について説明したが、何らかの理由によりこれらシール構造が脱落してしまうことももちろんありうる。しかしながら、これらシール構造は、量産時の成形用樹脂であっても形成可能であるから、それぞれの隙間S1〜S5の奥行き方向に交差する方向に本実施形態にかかるような溝(以上の実施形態では交差溝(132,142,152,・・・))を形成しておけば、樹脂成形時において常にシール構造を補修または新調することができる。
【0051】
また、本実施形態においては、被樹脂成形品である電子部品としてLED素子420を搭載した基板410を例示しているが被樹脂成形品はこれに限定されるものではない。ウェハモールドのように電子部品が搭載されていない被形成品の一面を封止するような封止対象であってもよい。
また、エジェクタピン160は、カル部120に突出入可能に設けられた構成例について説明したが、キャビティ空間190に突出入可能に設けることもできる。
【符号の説明】
【0052】
100 上金型
120 カル部
122 浅溝部
130 上型センターインサート
140 クランパ
150 キャビティ駒
160 エジェクタピン
170 ランナ
200 下金型
234 硬化樹脂
240 下型センターインサート
250 キャビティインサート
300 モールド金型
400 LED装置
410 基板
420 LED素子
S1,S2,S3,S4,S5 隙間
132,142,152,164,242,244,252 交差溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金型部材を備えて構成され、金型パーティング面において熱硬化性樹脂が供給される領域に接続する接続面を有する隙間が前記金型部材間に形成されるモールド金型において、
前記隙間を挟んで配置される前記金型部材の少なくとも一方には、前記熱硬化性樹脂が供給される領域からの前記隙間の奥行き方向に対して交差する方向に沿って延在するように交差溝が形成されていることを特徴とするモールド金型。
【請求項2】
前記交差溝は、前記金型部材であるエジェクタピンと該エジェクタピンが挿通された金型ブロックとの間の前記隙間に連繋するように該エジェクタピンの外周に形成されていることを特徴とする請求項1記載のモールド金型。
【請求項3】
前記交差溝は、前記金型部材である一対の前記金型ブロック間の前記隙間に連繋するように形成されていることを特徴とする請求項1記載のモールド金型。
【請求項4】
前記交差溝は、ランナと交差する部分の各々に対応する複数箇所に設けられていて、それぞれの交差溝は前記ランナの幅寸法よりも幅広に形成されていることを特徴とする請求項3記載のモールド金型。
【請求項5】
前記交差溝は、前記ランナ内における樹脂の供給方向と交差する方向における両端位置に設けられた前記ランナの最外周縁位置よりもさらに外方側であって、かつ、前記センターインサート、前記キャビティインサート、前記クランパのいずれかにおける前記樹脂の供給方向と交差する方向の端部位置よりも内方側に端部を有する一本の溝に形成されていることを特徴とする請求項4記載のモールド金型。
【請求項6】
前記隙間を挟んで配置された金型部材は、クランパとキャビティ駒であることを特徴とする請求項1記載のモールド金型。
【請求項7】
前記交差溝は、前記隙間の奥行き方向の複数箇所に形成されていることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のモールド金型。
【請求項8】
前記交差溝は、前記一対の金型ブロックである上型センターインサートと下型センターインサートとのうちカルが形成されていない一方のセンターインサートにおいて、前記カル部の最外周縁位置に沿って前記上型センターインサートと前記下型センターインサートとの間に形成され前記隙間に連繋するように形成されていることを特徴とする請求項3記載のモールド金型。
【請求項9】
前記交差溝は、該交差溝の延伸方向に対して直交方向における断面形状が半円形に形成されていることを特徴とする請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載のモールド金型。
【請求項10】
請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載のモールド金型を具備することを特徴とするモールド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−280110(P2010−280110A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134624(P2009−134624)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000144821)アピックヤマダ株式会社 (194)
【Fターム(参考)】