説明

ラバースプリング装置

【課題】 ラバースプリング装置が多自由度の状態で変形させられたとしても、層間における内部応力を均等化させて局部的な亀裂の発生を防止し、耐久性の向上を図ることのできるラバースプリング装置を提供する。
【解決手段】 剛性端部材36側におけるラバー層33m等の厚さを、剛性端部材35側におけるラバー層33a等の厚さよりも厚く構成する。積層構造体31の中間部におけるラバー層は、剛性端部材36側から剛性端部材35側に向かって、剛性端部材36側における厚さから剛性端部材35側における厚さとなるように、段階的に漸次薄く形成する。これにより、ラバースプリング装置がアコーディオン状に変形したとしても、各層では低い応力状態での略均一な応力が発生することになり、ラバースプリング装置内での亀裂の発生を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮荷重と引っ張り荷重とを受けるラバースプリング装置に関し、特に、アーティキュレートダンプトラック等のオフロードトラック用のサスペンションとして用いることのできるラバースプリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からオフロードトラック用のサスペンションとして用いられているラバースプリング装置としては、特許文献1に記載の力伝達要素や、特許文献2に記載のエラストマー取付け具などが提案されている。特許文献1に記載された力伝達要素を本発明の従来例1として、図9には力伝達要素の縦断面図を示している。
【0003】
図9で示す力伝達要素50は、車輌フレームに枢着されたボギーピボット梁の一方の端部と車軸との間に取り付けられる構成となっている。力伝達要素50に負荷が作用していないときには、一対の端板51,52は平行状態となっている。また、一対の端板51,52間には硬化された固体の円筒状ゴム体53が配設されており、円筒状ゴム体53は、等間隔で平行状態に配された複数個の平坦な金属リング54によって補強されている。金属リング54は、円筒状ゴム体53内に埋め込まれている。
【0004】
端板51,52には、それぞれ一対のU字形の掛け金55が固定されており、一対の掛け金55間は環状のチェーンリンク56によって可撓的に連結している。一対の掛け金55と環状のチェーンリンク56とによって機械的な連結装置が構成されている。また、機械的な連結装置は、円筒状ゴム体53内に結合されている。
【0005】
特許文献2に記載されたエラストマー取付け具を本発明の従来例2として、図10にはエラストマー取付け具の部分縦断面図を示している。図10で示すエラストマー取付け具60は、車両のアスクル構造体と、車両フレーム内に回動自在に設けられたボギーピボットビームの一端部との間に取り付けられる構成となっている。
【0006】
エラストマー取付け具60は、それぞれが正方形の形をした2つの金属端板61,62及び同金属端板61,62が互いに近づく時に圧縮荷重を受ける中間のエラストマー本体63を有している。エラストマー本体63は、全体として管状に形成されており、環状の断面形状を有している。
【0007】
エラストマー本体63は、金属補強リング66〜74によって補強されており、金属補強リング66〜74は2つのグループに区分けされている。これら金属補強リング66〜74は、エラストマー本体63を構成するエラストマー材料である天然ゴムに埋め込まれた状態で、同天然ゴムと結合している。各補強リング66〜74は、平らな環状の鋼製ディスクで構成され、エラストマー取付け具60の長手方向軸線を横切る平面内に位置している。
【0008】
第1のグループは、6つの金属補強リング66〜71からなり、各金属補強リング66〜71は、軸方向において互いに間隔を置いた状態で設けられている。また、各金属補強リング66〜71は、エラストマー本体63の軸方向における局所的な半径方向への広がり形状に対応して、実質的に相似する形状となるように各半径方向の長さ寸法を有している。
【0009】
更に、各金属補強リング66〜71は同一の内径75を有し、管状のエラストマー本体63に形成された中央室76に露出している。各金属補強リング66〜71の外周縁77は、エラストマー本体63の外面78のすぐ下に位置している。そして、エラストマー本体63は、その領域のところが全体として滑らかな輪郭として構成され、埋め込まれた金属補強リング66〜71の存在が分からないよう構成されている。
【0010】
第2のグループの金属補強リング72〜74は、同一の外周径を有しており、外周径は、第1のグループにおける金属補強リング66〜71の外周径よりも小さく構成されている。また、金属補強リング72〜74は、軸方向に対して等間隔に配設されている。
【0011】
これに対して、第1のグループの金属補強リング66〜71は、軸方向に対して不等間隔に配設されている。第1のグループでは、外周径が最大の金属補強リング68〜70は、最も密な間隔で配置されており、金属補強リング71,72の間隔は、第2のグループにおける金属補強リング72〜74の間隔に等しく構成されている。
【0012】
また、エラストマー本体63は、端板62に対して結合されているが、他方の端板61に対しては端板61に形成した形状面での特徴を利用して取り付けられている。端板61と端板62とは、エラストマー本体63に形成された中央室76内に配設した3つのチェーンリンク79によって、その間隔が所定間隔以上に広がらないように規制されている。
【特許文献1】特開昭60−35616号公報
【特許文献2】特表2002−527702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載された力伝達要素50では、一対の掛け金55と環状のチェーンリンク56とからなる機械的な連結装置は、円筒状ゴム体53内に配置されている。このため、力伝達要素50に圧縮荷重や引っ張り荷重が作用すると、円筒状ゴム体53と一対の掛け金55及び環状のチェーンリンク56との間でせん断応力が発生する。
【0014】
せん断応力の発生により、円筒状ゴム体53は一対の掛け金55及び環状のチェーンリンク56に対して引き裂かれるようになり、一対の掛け金55及び環状のチェーンリンク56との当接面において円筒状ゴム体53に局部的な微小亀裂が発生する。円筒状ゴム体53に発生した微小亀裂によって、更には微小亀裂が成長して大きな亀裂に発展することによって、力伝達要素50の耐久性が低下してしまうことになる。
【0015】
また一般に、力伝達要素50等のラバースプリング装置に対しては、常に層方向に対しての圧縮力や引張り力が加わっている訳ではない。ラバースプリング装置には様々な方向から負荷が作用することになり、例えば、力伝達要素50はアコーディオン状に変形したりして、多自由度の状態で変形することになる。このため、力伝達要素50のように金属リング54が、円筒状ゴム体53内に埋め込まれた状態で等間隔に配設されていると、円筒状ゴム体53の各層における内部応力の大きさが偏在化してしまい、内部応力が大きく作用した層を起点として局部的な亀裂が発生する。
【0016】
円筒状ゴム体53に亀裂が発生すると、円筒状ゴム体53と金属リング54との結合が外れてしまうことにもなる。このような状態が発生することで、力伝達要素50の耐久性が大幅に低下し、力伝達要素50が破損してしまうことになる。
【0017】
また、特許文献2に記載されたエラストマー取付け具60では、金属補強リング68〜70の間隔は、最も密な間隔で配置されており、金属補強リング71,72の間隔は、金属補強リング72〜74の間隔に等しく構成されている。また図10から判断すると、金属補強リング72,73の内周縁と中央室76との間隔は、金属補強リング71,72の間隔よりも広く形成されている。
【0018】
更に、金属補強リング67,68の間隔は、金属補強リング66,67の間隔よりも広く形成されており、金属補強リング66〜74の間隔は不等間隔に構成されている。また、端板61と金属補強リング66との間及び端板62と金属補強リング71との間におけるエラストマー本体63の径方向寸法が、金属補強リング67,70間におけるエラストマー本体63の径方向寸法よりも小さくくびれた形状に形成されている。
【0019】
特許文献2に記載されたエラストマー取付け具60では、エラストマー取付け具60の軸線方向に圧縮力、引っ張り力が作用することを前提に構成されているために、上述したような構成となっているものと考えられる。しかし、エラストマー取付け具60がアコーディオン状のように多自由度の状態で変形した場合には、上述した構成によって、エラストマー本体63の各層における内部応力がランダムに偏在してしまい、例えば、厚さが薄い層に最大の内部応力が発生したりする。
【0020】
また、くびれて径方向寸法が小さなエラストマー本体63の部位において、内部応力が異常に高くなってしまうことがある。これらのことから、エラストマー本体63内の内部応力が大きくなる所を起点として局部的な亀裂が発生し、エラストマー取付け具60の耐久性を著しく低下させてしまうことになる。
【0021】
本発明では、ラバースプリング装置が多自由度の状態で変形させられたとしても、ラバースプリングの層間における内部応力を均等化させて局部的な亀裂の発生を防止し、耐久性の向上を図ることのできるラバースプリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の課題は請求項1〜3に記載された各発明により達成することができる。
即ち、本願第1発明では、ラバー層と剛性を有する硬質板とを交互に貼り合せた複数層からなる積層構造体と、前記積層構造体の両端に配した前記ラバー層にそれぞれ貼り合わせた一対の剛性端部材と、前記剛性端部材間における間隔の広がりを規制する連結手段と、を備えたラバースプリング装置において、前記ラバースプリング装置に負荷が加わらない静止状態において、前記各硬質板及び前記一対の剛性端部材が互いに平行状態となるように配設され、前記積層構造体が、積層方向に貫通した空洞部を前記積層構造体の中央部位に有し、前記積層方向に対して略同じ横断面形状を有する筒形に構成され、前記積層構造体の一端側におけるラバー層の厚さが、他端側におけるラバー層の厚さよりも厚く形成され、前記積層構造体の中間部における各ラバー層の厚さが、前記一端側における厚さから前記他端側における厚さとなるように、段階的に漸次薄く形成され、前記空洞部の内周面が、ラバー面として形成されてなり、前記連結手段が、前記空洞部内に配されてなることを最も主要な特徴となしている。
【0023】
また、本願第2発明では、積層構造体の構成を特定したことを主要な特徴となしている。
更に、本願第3発明では、ラバースプリング装置の用途を特定したことを主要な特徴となしている。
【発明の効果】
【0024】
本発明の発明者によって、ラバースプリング装置をアコーディオン状に変形させたときには、積層構造体の一端側において内部応力が高くなり、他端側では低くなる現象を見出した。本発明は、この内部応力の不均一の分布を抑えるためになした発明である。前記不均一の分布を抑えるため、積層構造体の一端側におけるラバー層の厚さを厚く構成するとともに、内部応力が低くなる積層構造体の他端側におけるラバー層の厚さを薄く構成している。しかも、積層構造体の中間部における各ラバー層の厚さを、前記一端側における厚さから前記他端側における厚さとなるように、段階的に漸次薄く形成している。
【0025】
この構成によって、ラバースプリング装置の各層における内部応力を均等化させることができ、局部的な亀裂の発生を防止できるようになった。即ち、発生する歪の大きさに合わせて、各層の厚みを変化させることができるようになる。また、積層構造体の空洞部における内周面をラバー面として形成することによって、一対の剛性端部材と積層構造体とを一体成型にて製造するとき、空洞部を形成する中子の取り出しを容易にすることができる。
【0026】
更に、積層構造体の空洞部内に連結手段を配設することによって、連結手段と積層構造体とが摺接するのを防止することができる。これにより、連結手段と積層構造体との摺接による局部的な亀裂の発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本発明のラバースプリング装置の構成としては、以下で説明する形状、配置構成以外にも本発明の課題を解決することができる形状、配置構成であれば、それらの形状、配置構成を採用することができるものである。このため、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、多様な変更が可能である。
【0028】
また、ラバースプリング装置をアーティキュレートダンプトラックのサスペンションとして用いた例について、以下で説明を行う。しかし、本発明のラバースプリング装置はアーティキュレートダンプトラックのサスペンションとして用いる以外にも、オフロードトラック用のサスペンション等として用いることができるものである。
【実施例】
【0029】
図1には、アーティキュレートダンプトラック(以下、ダンプトラック1と称する。)の側面図を示している。また、図2には、ベッセル17等を取り除いた状態におけるリアフレーム22の平面図を示している。図1で示すように、ダンプトラック1は、前側に位置する前部車体7と、後側に位置する後部車体8とを備えている。また、ダンプトラック1は、前輪10、中輪12及び後輪14を備えている。
【0030】
前輪10を備えた前部車体7は、フロントフレーム21に支持されており、フロントフレーム21には、運転室9が搭載されている。中輪12及び後輪14を備えた後部車体8は、フロントフレーム21に対して屈折及び揺動自在に連結されたリアフレーム22に支持されている。
【0031】
フロントフレーム21とリアフレーム22との間には、左右一対のステアリングシリンダ26,26が架け渡されている。各ステアリングシリンダ26,26をそれぞれ伸縮させることにより、リアフレーム22をフロントフレーム21に対して屈折させることができる。これにより、ダンプトラック1のステアリング操作を行うことができる。
【0032】
リアフレーム22の上方には、例えば、土砂等の積載物を積載するベッセル17が設けられている。ベッセル17の前部側の左右両側とリアフレーム22との間には、一対のリフトシリンダ20,20が設けられている。また、ベッセル17の後部側の下方に配したベッセルピン18を介して、ベッセル17はリアフレーム22に対して回動可能に取り付けられている。
【0033】
一対のリフトシリンダ20,20を伸縮させることにより、ベッセルピン18を中心としてベッセル17を上下方向に回動させることができる。ベッセル17を上昇させていくとダンプアップと呼ばれる動作を行い、ベッセル17を下げていくとダンプダウンと呼ばれる動作を行うことができる。図1では、ベッセル17が下がりきって、リアフレーム22上に着座している状態を示している。
【0034】
フロントフレーム21には、平面視でV字型のフロントアーム2が回動可能に支持されている。フロントフレーム21の下方部位において、フロントアーム2の前端部2A(平面視でV字の頂点側)は、上下方向への回動が自在となるように支持されている。
【0035】
フロントアーム2の後端部2B側における両端面には、左右一対の前輪10,10を支持するフロント車軸11が取り付けられている。フロント車軸11には、フロントサスペンションシリンダ4の一端部側が支持されており、フロントサスペンションシリンダ4の他端部側はフロントフレーム21に支持されている。
【0036】
図1、図2で示すように、リアフレーム22の両側面には、左右一対のイコライザバー23,23が回動可能に設けられている。各イコライザバー23,23の略中央部は、ピン24,24を介してリアフレーム22に対して回動自在に取り付けられている。リアフレーム22の下方には、センタアーム3及びリアアーム5がそれぞれリアフレーム22に対して回動可能に支持されている。センタアーム3及びリアアーム5は、フロントアーム2と同様に、それぞれ平面視でV字型に形成されている。
【0037】
センタアーム3の前端部3Aは、リアフレーム22の前方側の下方部位において、上下方向への回動が自在となるように支持されている。センタアーム3の後端部3Bにおける両端面には、左右一対の中輪12,12を支持するセンタ車軸13が取り付けられている。センタ車軸13には、ラバースプリング装置30の一端部が支持されており、ラバースプリング装置30,30の他端部はイコライザバー23,23の前端部側に支持されている。
【0038】
リアアーム5の前端部5Aは、リアフレーム22の後方側の下方部位において、上下方向に回動自在に支持されている。リアアーム5の後端部5Bにおける両端面には、左右一対の後輪14,14を支持するリア車軸15が取り付けられている。後端部5Bまたはリア車軸15には、リアサスペンションシリンダ6の一端側が支持されており、リアサスペンションシリンダ6の他端側はイコライザバー23の後端部側に支持されている。
【0039】
図3には、無負荷状態におけるラバースプリング装置30の外観図を示し、図4には、無負荷状態におけるラバースプリング装置30の縦断面図を示している。複数個の剛性を有する硬質板32とラバーよりなるラバー層33(33a〜33m)とを交互に貼り合せて、円柱状の積層構造体31を構成するとともに、積層構造体31の中心部には積層方向に貫通する円柱状の空洞部34を形成している。
【0040】
硬質板32は、中心に空洞部34よりもやや大きな寸法の孔部を持った円盤形状に形成されている。また、その材質、形状はそれぞれ等しく構成されているが、ラバースプリング装置30の最大応力等を加味し、その材質、厚みを決定することができる。
【0041】
尚、ラバースプリング装置30の横断面形状が円形状の形状について、以下で説明を行うが、ラバースプリング装置30の横断面形状は円形状に限定されるものではなく、横断面形状が楕円形状等の形状とすることもできる。
【0042】
積層構造体31の両端部におけるラバー層33a、33mには、それぞれ剛性端部材35、36を貼り合わされている。無負荷状態において、硬質板32と剛性端部材35、36とは互いに平行に配設されている。また、チェーンリンク40で連結したU字形の掛け金38、39からなる連結手段を一対の剛性端部材35、36間の空洞部34内に配設している。積層構造体31の両端部に貼り合わせた一対の剛性端部材35、36と、連結手段とによってラバースプリング装置30が構成されている。
【0043】
剛性端部材36は、積層構造体31の空洞部34にほぼ対応する内径で貫通している段付の孔を有している。そして、U字形の掛け金39のフランジ部39aは、剛性端部材36に形成した段部付きの孔に当接させることができる。また、掛け金38のボルト部38aを、剛性端部材35に形成した孔を貫通させて、剛性端部材35の外面側でナット41を螺合させる。これにより、U字形の掛け金38のフランジ部38bを、剛性端部材35に形成した孔の内面側に当接させることができ、一対の剛性端部材35、36間の間隔が所定の間隔以上とならないように、連結手段で規制することができる。
【0044】
図3、図4では、剛性端部材36側におけるラバー層33mの厚さを厚く構成し、剛性端部材35側におけるラバー層33aの厚さをラバー層33mの厚さよりも薄く構成している。
尚、剛性端部材36側におけるラバー層の厚さとしては、ラバー層33mだけを厚くした構成に限定されるものではなく、ラバー層33mの上部に積層したラバー層33l、33k等をラバー層33mと同じく厚く構成しておくこともできる。また、同様に、剛性端部材35側におけるラバー層の厚さとしては、ラバー層33aだけを薄くした構成に限定されるものではなく、ラバー層33aの下部に積層されるラバー層33b、33c等もラバー層33aと同じく薄く構成しておくこともできる。更に、ラバー層の層数は例示であって、本発明は、図示したラバー層の総数に限定されるものではない。
【0045】
積層構造体31の中間部におけるラバー層は、剛性端部材36側から剛性端部材35側に向かって積層されるに従って、剛性端部材36側における厚さから剛性端部材35側における厚さとなるように、段階的に漸次薄く形成されている。
【0046】
また、空洞部34に面した積層構造体31の内周面は、ラバーによって被覆されており、埋め込まれた硬質板32が空洞部34側に露呈しないように構成されている。このラバーによって被覆された構造は、次のようにして形成することができる。まず、一対の剛性端部材35,36及び複数の硬質板32を板固定型に固定する。そして、空洞部34を形成するために硬質板32の孔部よりも径の小さな中子を、剛性端部材36の段付の孔から他方の剛性端部材35に達するまで挿入する。
【0047】
このとき、中子が硬質板32から離間して配設されていれば、ラバー剤を充填成型したときに、上述したように、空洞部34に面した積層構造体31の内周面がラバーにより被覆された形状とすることができる。また、このような構成にすることにより、空洞部34を形成する中子を、前記構造物の成型後に抜き取り易くすることができる。
【0048】
尚、上述したように中子の挿入・引き抜き作業を考慮すると、剛性端部材36の段付の孔の大きさは、硬質板32の孔の寸法と略等しい形状としておくことが望ましい。
【0049】
従って、前記構造物の成型作業を容易に行うことができる。これに対して、上述した特許文献2に記載されたエラストマー取付け具では、第1グループの金属補強リングが中央室に露呈している構成のため、中子と中央室に露呈した金属補強リングの内周縁とが噛合ってしまい、成型後における中子の抜き取り作業を困難なものになっている。
【0050】
また、各ラバー層33a〜33mの外周縁は、硬質板32の外周縁よりも内側に配設されているので、ラバースプリング装置30が圧縮されて、各ラバー層33a〜33mが外周側に膨出する場合であっても、膨出したラバー層は硬質板32の外周縁よりも大きく外周側に飛び出ることが防止できる。
【0051】
これにより、ラバー層33a〜33mと一対の剛性端部材35、36及び硬質板32との貼り合せ状態が維持され、ラバー層33a〜33mと一対の剛性端部材35、36及び硬質板32と間における亀裂の発生を防止できる。これに対して、上述した特許文献2に記載されたエラストマー取付け具では、第1グループ部におけるエラストマー本体が金属補強リングの外周縁を覆った形で配設されている。
【0052】
このため、エラストマー取付け具に圧縮荷重が作用したときには、金属補強リングの積層方向への移動量と金属補強リングの外周縁から突出しているエラストマー本体の積層方向への移動量とが異なり、金属補強リングの外周縁によって同外周縁から突出しているエラストマー本体がせん断されてしまう事態が発生する。このように特許文献2に記載されたエラストマー取付け具では、エラストマー本体内部での亀裂が発生し易い構成となっている。
【0053】
図5、図6には、ラバースプリング装置30を中心としてセンタアーム3及びイコライザバー23を部分的に拡大した側面図を示している。図5では、センタ車軸13の両中輪12が落下してラバースプリング装置30に引っ張り荷重が加わった状態を示している。図6では、センタ車軸13の両中輪12(図1参照)が小山等に乗り上げて、ラバースプリング装置30に圧縮荷重が加わった状態を示している。
【0054】
図5、図6に示すように、リアフレーム22の両側面には、各イコライザバー23の前端部及び後端部にそれぞれ対応するようにして、ストッパ27がそれぞれ設けられている。ストッパ27によって、イコライザバー23の回動量が規制されている。尚、後端部におけるストッパの図示は、省略している。前端部及び後端部における各ストッパは、リアフレーム22の側面からイコライザバー23に向けて若干突出した形状に構成されている。
【0055】
図5は、例えば、図1で示したダンプトラック1が前輪10と後輪14とによって支えられた状態となり、中輪12が窪み等の上空部に浮いている状態を示している。この状態では、センタアーム3は、図示の時計回り方向に回動を行い、イコライザバー23の後端部が図示せぬストッパに当接して、イコライザバー23が図示の反時計回り方向へ一定量以上回動してしまうのが規制されることになる。このとき、連結手段によって一対の剛性端部材35、36の間隔が規制されているため、ラバースプリング装置30に対して矢印で示す方向に引っ張り荷重が作用することになる。
【0056】
剛性端部材35,36が装着された部材(イコライザバー23とセンタ車軸13)の回動中心(イコライザバー23ではピン24となり、センタ車軸13では前端部3Aとなる。)が異なるため、ラバースプリング装置30は、図5で示したアコーディオン状に変形することになる。また、連結手段による剛性端部材35,36の間隔が所定の間隔以下に規制されていることにより、ラバースプリング装置30におけるダンプトラック1の前方側の部位が圧縮変形し、ラバースプリング装置30のダンプトラック1の後方側の部位が引っ張り変形することになる。従って、ラバースプリング装置30の下端側において横方向に引いた線30aを折れ曲り部として、ラバースプリング装置30はアコーディオン状に変形することになる。
【0057】
また、図6に示すように、中輪12が小山等に乗り上げたときには、センタアーム3は、図示の反時計回り方向に回動を行い、イコライザバー23の前端部がストッパ27に当接して、イコライザバー23が図示の時計回り方向へ一定量以上回動してしまうのが規制されることになる。従って、ラバースプリング装置30に対して矢印で示す圧縮荷重が作用することになる。
【0058】
剛性端部材35,36が装着された部材(イコライザバー23とセンタ車軸13)の回動中心(イコライザバー23ではピン24となり、センタ車軸13では前端部3Aとなる。)が異なるため、図5で示した場合とは逆のアコーディオン状に変形する。このため、ラバースプリング装置30の各層は均等に圧縮されるのではなく、前方側よりも後方側の部位の方が大きく圧縮変形する。
【0059】
このように、ダンプトラック1の走行中におけるラバースプリング装置30の変形としては、アコーディオン状の変形が多く発生する。アコーディオン状にラバースプリング装置を変形させたときに、各ラバー層に発生する内部応力の大きさについて次に説明する。
【0060】
硬質板32を等間隔に配設したラバースプリング装置45における応力分布と、本発明のように積層構造体31の一端側におけるラバー層の厚さを厚くし、他端側に行くに従って段階的に薄くなるように構成したラバースプリング装置30における応力分布とについて、それぞれの解析結果を図7、図8に示している。
【0061】
図7は、硬質板32を等間隔に配設したラバースプリング装置45に関するものであり、図8は本発明のラバースプリング装置30に関するものである。図7、図8には、ラバースプリング装置45、30がアコーディオン状に変形したとき、引っ張り変形している側における応力分布を示している。黒色で表した部位が最も高い応力が発生している部位を示している。また、応力が最も高い状態から低くなるに従ってそのときの応力を、ドットの密度を徐々に荒くすることによって示している。
【0062】
図7で示すように、硬質板32を等間隔に配設したラバースプリング装置45では、黒色で表した最も高い応力が各層に亘って発生している。特に、ラバースプリング装置45の底面側が最も高い応力が発生している部位の面積が広く、底面側から上端部側に行くに従って最も高い応力が発生している部位の面積が狭くなっている。また、上端部側の層における応力分布状態を見ると、黒色で示す最も高い応力の次に高い応力が発生している部位の面積は各層に亘って略同じ面積となっている。
【0063】
これに対して、本発明のラバースプリング装置30では、図8で示すように黒色で表す最も高い応力状態はどの層においても発生していない。また、黒色で示す最も高い応力の次に高い応力が発生している部位の面積は、底面側の層から上端部側の層に行くに従って徐々に減少してはいるが、底面側の層と上端部側の層との間で大きく変わってはいない。このため、各層において発生する応力分布としては、略均等な圧力分布となる。
【0064】
このように、本発明のラバースプリング装置30では、ラバースプリング装置30がアコーディオン状に変形したとしても、黒色で表す最も高い応力状態はどの層においても発生することがない。しかも、各層における応力分布状態としては、低い応力が略等しい状態で分布することになるので、各層における亀裂の発生を確実に防止することができる。
【0065】
本発明のラバースプリング装置30のラバー層の厚さとしては、圧縮荷重に耐え得る厚さに形成するとともに、引っ張り荷重によって引っ張り応力が黒色で示すような高い応力状態が発生しない厚さとしておくことが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、本発明の技術思想を適用することができる装置等に対しては、本発明の技術思想を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】ダンプトラックの側面図である。(実施例)
【図2】リアフレームを拡大した平面図である。(実施例)
【図3】ラバースプリング装置の正面図である。(実施例)
【図4】ラバースプリング装置の縦断面図である。(実施例)
【図5】ラバースプリング装置を変形させたときのラバースプリング装置近傍の拡大した側面図である。(実施例)
【図6】ラバースプリング装置を別に変形させたときのラバースプリング装置近傍の拡大した側面図である。(実施例)
【図7】ラバースプリング装置の応力分布図である。(比較例)
【図8】ラバースプリング装置の応力分布図である。(実施例)
【図9】ラバースプリング装置の縦断面図である。(従来例1)
【図10】ラバースプリング装置の縦断面図である。(従来例2)
【符号の説明】
【0068】
1・・・ダンプトラック、2・・・フロントアーム、3・・・センタアーム、5・・・リアアーム、10・・・前輪、11・・・フロント車軸、12・・・中輪、13・・・センタ車軸、14・・・後輪、15・・・リア車軸、21・・・フロントフレーム、22・・・リアフレーム、23・・・イコライザバー、26・・・ステアリングシリンダ、30・・・ラバースプリング装置、31・・・積層構造体、32・・・硬質板、33・・・ラバー層、34・・・空洞部、35・・・剛性端部材、36・・・剛性端部材、38・・・U字形の掛け金、39・・・U字形の掛け金、40・・・チェーンリンク、45・・・ラバースプリング装置、50・・・力伝達要素、51、52・・・端板、53・・・円筒状ゴム体、54・・・金属リング、55・・・掛け金、56・・・チェーンリンク、60・・・エラストマー取付け具、61、62・・・金属端板、63・・・エラストマー本体、66〜74・・・金属補強リング、76・・・中央室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラバー層と剛性を有する硬質板とを交互に貼り合せた複数層からなる積層構造体と、前記積層構造体の両端に配した前記ラバー層にそれぞれ貼り合わせた一対の剛性端部材と、前記剛性端部材間における間隔の広がりを規制する連結手段と、を備えたラバースプリング装置において、
前記ラバースプリング装置に負荷が加わらない静止状態において、前記各硬質板及び前記一対の剛性端部材が互いに平行状態となるように配設され、
前記積層構造体が、積層方向に貫通した空洞部を前記積層構造体の中央部位に有し、かつ前記積層方向に対して略同じ横断面形状を有する筒形に構成され、
前記積層構造体の一端側におけるラバー層の厚さが、他端側におけるラバー層の厚さよりも厚く形成され、
前記積層構造体の中間部における各ラバー層の厚さが、前記一端側における厚さから前記他端側における厚さとなるように、段階的に漸次薄く形成され、
前記空洞部の内周面が、ラバー面として形成されてなり、
前記連結手段が、前記空洞部内に配されてなることを特徴とするラバースプリング装置。
【請求項2】
前記積層構造体が、略円筒形状に構成されてなることを特徴とする請求項1記載のラバースプリング装置。
【請求項3】
前記ラバースプリング装置が、アーティキュレートダンプトラック等のオフロードトラック用のサスペンションとして用いられてなることを特徴とする請求項1又は2記載のラバースプリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−333052(P2007−333052A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164576(P2006−164576)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】